説明

水晶発振器

【課題】水晶振動子として機能する水晶片と水晶片を用いる発振回路を少なくとも有するICチップとを容器に収容して一体化し、ICチップ内に複数の出力バッファを備える水晶発振器において、出力バッファのオン/オフ制御に伴う発振周波数の変動を抑制する。
【解決手段】ICチップ20において、発振回路22は一対の水晶接続端子X1,X2を介して水晶振動子10に接続し、また、発振回路22の出力は出力バッファ31,32に供給される。オン/オフ制御が可能な出力バッファ32の出力とは逆位相となる水晶接続端子X2から見て、その出力バッファ32の出力端子が、オン/オフ制御がされない出力バッファ31の出力端子よりも遠い位置に配置するようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水晶振動子とこの水晶振動子を用いる発振回路を集積したIC(集積回路)チップとを一体化させた水晶発振器に関し、特に、発振周波数の安定性を高めた水晶発振器に関する。
【背景技術】
【0002】
水晶振動子とこの水晶振動子を用いる発振回路を集積したICチップとを一体化して単一のパッケージ部品として構成した水晶発振器は、表面実装型のものとすることが容易であり、例えば携帯電話に代表されるような携帯型の電子機器において、周波数や時間の基準源として広く内蔵されている。
【0003】
水晶発振器においてICチップ内に集積される回路は発振回路に限られるものではない。例えば、水晶振動子の温度−周波数特性を補償して周囲温度によらずに一定の発振周波数が得られるようにする温度補償回路などの電子回路もICチップに集積することができる。温度補償回路を内蔵することにより、温度変化に対して高精度に発振周波数を維持できるようにした水晶発振器のことを温度補償水晶発振器(TCXO)と呼ぶ。
【0004】
図7は、温度補償水晶発振器の回路構成の一例を示すブロック図である。
【0005】
この温度補償水晶発振器は、水晶振動子10と、水晶振動子10を用いる発振回路などを集積したICチップ20とによって構成されている。水晶振動子10としては、例えば、ATカットの水晶片を用いたものを用いることができる。ICチップ20は、外部から電源電圧が供給されてICチップ20内の各回路に安定化された内部電源電圧を供給する定電圧回路21と、水晶振動子10が接続される発振回路22と、外部から自動周波数制御(AFC)信号が供給されて周波数制御信号を生成し発振回路22に供給する周波数制御部23と、温度を測定する温度センサ24と、温度センサ24での温度の測定結果に応じて水晶振動子10の温度−周波数特性を補償する温度補償信号を生成して発振回路22の供給する温度補償回路25と、温度補償信号の生成に用いるデータなどを格納する不揮発性メモリ26と、発振回路22からの発振出力を増幅してアナログ信号として外部回路に供給する出力バッファ27,28と、を備えている。出力バッファ27,28は並列に設けられており、このうちの出力バッファ28は、外部から与えられるイネーブル信号により、その出力をオン/オフできるようになっている。例えば、無線通信機能を有する電子機器に温度補償水晶発振器が搭載されるとして、出力バッファ27からの連続的な発振出力信号は、無線部のPLL(フェーズロックドループ)シンセサイザの基準信号として用いられるほか、システム制御用のDSP(デジタル信号プロセッサ)やCPU(中央処理装置)のクロックとして用いられるようにし、その一方で、出力バッファ28についてはPLL回路の間欠動作信号にリンクして出力のオン/オフ制御がなされるようにすることができる。出力バッファ28からの発振出力信号は、例えば、待ち受け時には動作させる必要がない回路に供給される。このように、出力バッファ28の出力のオン/オフ制御を行えるようにすることによって、待ち受け時における低消費電力化を図ることができる。
【0006】
ICチップ20内に上述のように回路が配置されることに伴って、ICチップ20には、電源電圧が供給される電源端子(VDD)、接地端子(GND)、水晶振動子10が電気的に接続する1対の水晶接続端子(X1,X2)、自動周波数制御信号が入力する入力端子(AFC)、イネーブル信号が入力するイネーブル端子(EN)、及び出力バッファ27,28からの発振出力信号がそれぞれ現れる2個の出力端子(OUT1,OUT2)が設けられている。
【0007】
ここで発振回路22としては、反転型の増幅器を備えるコルピッツ型の発振回路が広く用いられており、一方の水晶接続端子X1は増幅器の入力側、他方の水晶接続端子X2は増幅器の出力側から引き出されている。したがって、発振回路22の動作に伴って水晶接続端子X1,X2に現れる発振周波数の信号成分の位相は、図示されるように相互に逆位相となっている。出力バッファ27,28としては、反転型、非反転型のいずれのタイプの増幅器も使用することができるが、図示されるように出力バッファ27,28として非反転型の増幅器を入力した場合には、出力端子OUT1,OUT2での信号位相は、いずれも、水晶接続端子X2での信号位相と同相となる。
【0008】
水晶発振器に2個の出力バッファを設ける場合、一方を反転型の増幅器で構成し、他方を非反転型の増幅器で構成することも可能である。特許文献1には、反転型の増幅器と非反転型の増幅器とをそれぞれ出力バッファとして用い、これら2つの出力バッファの出力を同時にオン/オフ制御できるようにした水晶発振器が示されている。また、同一周波数であって相互に逆位相となる2つの発振出力信号を得る構成として、特許文献2には、いずれも反転型増幅器である第1の増幅器と第2の増幅器のゲート入力間に水晶振動子を挿入し、各増幅器ごとにそのゲート入力または出力と接地との間に負荷容量を挿入し、第1の増幅器の出力端子と第2の増幅器の入力端子とを第1の直流阻止用容量を介して接続し、第1の増幅器の入力端子と第2の増幅器の出力端子とを第2の直流阻止用容量を介して接続し、さらに、各増幅器ごとに帰還抵抗を設けることにより、第1及び第2の増幅器から相互に逆位相の発振出力信号を得るようにした水晶発振器が開示されている。
【0009】
ところで、水晶片を容器(パッケージ)内に密閉封入したものが水晶振動子である。したがって、水晶振動子の容器にICチップを固着させたり、水晶片とICチップとを同一容器内に密閉封入したり、あるいは、2か所の収納個所を有する容器を用いて一方の収納個所に水晶片を密閉封入し他方の収納個所にICチップを収納するようにしたりして、容器とICチップとを一体化させれば、パッケージ部品として水晶発振器が構成されることになる。この場合も、ICチップには、水晶片を用いる発振回路などの電子回路が集積されている。水晶片は、図7に示すような回路図表現では水晶振動子10として表される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005−026828号公報
【特許文献2】特開2006−197294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
水晶発振器では、現在、小型化が進行しており、容器(パッケージ)の外形寸法が例えば長さ2mm、幅1.6mm、高さ(厚さ)0.8mmのものも実用化されるようになってきている。小型化した水晶発振器では、出力バッファから出力される発振出力信号が発振回路側に回り込むことによる悪影響が懸念されている。特に、負荷の変動や出力バッファ自体の出力のオン/オフによって出力バッファの出力側において発振出力信号の振幅の変化がある場合には、発振回路側への信号成分の回り込み量も変化することとなり、その変化のために発振周波数の変動が引き起こされるおそれがある。回り込み量が定常的に一定であれば、その回り込みも考慮して回路設計を行うことによって安定かつ高精度の発振周波数を得ることができるが、出力バッファの出力側での信号振幅の変化によって発振周波数成分の発振回路側への回り込み量が変化する場合には、その変化を見込んだ設計を行うことが事実上困難であるので、発振周波数での変動を無視できなくなる。
【0012】
本発明の目的は、複数の出力バッファ回路を有して少なくとも1つの出力バッファ回路の出力のオン/オフ制御を可能にした水晶発振器であって、出力のオン/オフ制御を行った場合における発振周波数の変動が小さな水晶発振器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1の水晶発振器は、水晶振動子と、水晶振動子を用いる発振回路を少なくとも集積したICチップと、を有し、水晶振動子と発振回路とが容器に一体化された水晶発振器において、ICチップは、発振回路の出力を増幅して外部に出力する複数の出力バッファと、発振回路と水晶振動子との電気的接続に用いる一対の水晶接続端子と、出力バッファごとに設けられた出力端子とを備え、一対の水晶接続端子には発振周波数成分の信号が相互に逆位相で現れ、複数の出力バッファの各々は、独立に、反転型または非反転型の増幅器を備えており、複数の出力バッファのうちの少なくとも1つはイネーブル信号によってその出力のオン/オフ制御が可能な出力バッファであり、オン/オフ制御が可能な出力バッファごとに、その出力バッファの出力の位相とは逆位相となる水晶接続端子から見て、その出力バッファの出力端子は、他の出力バッファの出力端子よりも遠い距離に配置するように、ICチップが構成されていることを特徴とする。
【0014】
本発明の第2の水晶発振器は、水晶振動子と、水晶振動子を用いる発振回路を少なくとも集積したICチップと、を有し、水晶振動子と発振回路とが容器に一体化された水晶発振器において、ICチップは、発振回路の出力を増幅して外部に出力する複数の出力バッファと、発振回路と水晶振動子との電気的接続に用いる一対の水晶接続端子と、出力バッファごとに設けられた出力端子とを備え、一対の水晶接続端子には発振周波数成分の信号が相互に逆位相で現れ、複数の出力バッファの各々は、独立に、反転型または非反転型の増幅器を備えており、複数の出力バッファのうちの少なくとも1つはイネーブル信号によってその出力のオン/オフ制御が可能な出力バッファであり、オン/オフ制御が可能な出力バッファごとにその出力バッファの出力の位相とは逆位相となる水晶接続端子とその出力バッファの出力端子との間の容量が、出力端子と他の水晶接続端子との間の容量よりも小さく配線されるように、容器が構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の水晶発振器は、(1)オン/オフ制御が可能な出力バッファの出力端子が、その出力バッファの出力の位相とは逆位相となる水晶接続端子から見て、他の出力バッファの出力端子よりも遠い距離に配置するようにICチップを構成することにより、あるいは、(2)オン/オフ制御が可能な出力バッファの出力端子とその出力端子とは逆位相になる水晶接続端子との間の容量が、その出力端子ともう一つの水晶接続端子との間の容量よりも小さくなるように容器を構成することにより、発振回路側への発振周波数成分の回り込みが小さくなって、出力バッファのオン/オフ制御に伴う発振周波数の変動を抑えることができる、という効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の一形態の水晶発振器の回路構成を示すブロック図である。
【図2】発振周波数の変動を抑える原理を説明する回路図である。
【図3】水晶発振器の構造の一例を示す断面図である。
【図4】図3に示す水晶発振器におけるICチップを取り除いた状態での底面図である。
【図5】本発明の別の実施形態の水晶発振器の回路構成を示すブロック図である。
【図6】本発明のさらに別の実施形態の水晶発振器の回路構成を示すブロック図である。
【図7】従来の温度補償水晶発振器の回路構成の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、本発明の実施の一形態の水晶発振器の回路構成を示すブロック図である。なお、以下に説明する各図において、図7におけるものと同一部分には同じ参照番号を付与して、それらのものについての説明は簡略化又は省略する。
【0018】
図1に示す水晶発振器は、図7に示したものと同様に、温度補償水晶発振器として構成されたものであり、水晶振動子10とICチップ20とを一体化してパッケージ部品としたものである。水晶振動子10は、例えばATカットの水晶片を用いたものが用いられる。水晶振動子10とICチップ20との一体化の形態としては、水晶片を容器本体に封入して構成された水晶振動子に対し、ICチップを搭載しているパッケージを接合する形態や、積層セラミックなどからなる容器に設けられた一つの凹部内に水晶振動子として機能する水晶片とICチップとを同時に密閉封入する形態や、同じく積層セラミックなどからなる容器本体に2つの凹部を設けて一方の凹部に水晶片を密閉封入して水晶振動子として構成し他方の凹部にICチップを収容する形態などの各種のものを用いることができる。本実施形態における水晶振動子10とICチップ20との一体化の形態の一例の詳細については後述する。
【0019】
ICチップ20は、図7に示したものと同様に、定電圧回路21、発振回路22、周波数制御部23、温度センサ24、温度補償回路25及び不揮発性メモリ26を備えている。そしてICチップ20には、発振回路22からの発振出力を増幅してアナログ信号として外部回路に供給する出力バッファとして、反転型の増幅器を有する出力バッファ31,32が設けられている。出力バッファ31,32は発振回路22の出力に対して並列に設けられており、このうち、出力バッファ32は、外部からのイネーブル信号によってその出力のオン/オフ制御を行えるようになっている。ICチップ20内にこれらの回路が配置されていることに伴って、ICチップ20には、電源端子(VDD)、接地端子(GND)、水晶振動子10が電気的に接続する1対の水晶接続端子(X1,X2)、自動周波数制御信号が入力する入力端子(AFC)、イネーブル端子(EN)、及び出力バッファ31,32からの発振出力信号がそれぞれ現れる2個の出力端子(OUT1,OUT2)が設けられている。ICチップ20におけるこれらの水晶接続端子、電源端子、接地端子、入力端子、イネーブル端子及び出力端子を総称してIC端子と呼ぶ。
【0020】
本実施形態の水晶発振器では、複数個(ここでは2個)設けられる出力バッファの中に出力のオン/オフ制御が行われる出力バッファが含まれているとして、オン/オフ制御に伴う出力バッファの出力側での発振出力信号の振幅の変化による影響が発振回路側になるべく及ばないようにしている。発振出力信号における振幅の変化による発振回路側へ影響は、発振出力信号が発振回路側に回り込むことによって生じるものと考えられる。そこで、発振出力信号が発振回路側になるべく回り込まないようにするための本実施形態での構成について、図2に示す回路図を用いて説明する。図2に示す回路図は、本実施形態の水晶発振器における水晶振動子10、発振回路22及び出力バッファ31,32を含む部分(図示一点鎖線で囲む部分)を示している。この水晶発振器に接続されることとなる負荷回路やイネーブル信号発生のためのスイッチは示されていない。
【0021】
発振回路22は、反転型の増幅器51と、増幅器51の帰還抵抗R1と、負荷容量として機能する2つの可変容量ダイオードD1,D2と、可変容量ダイオードD1,D2に対して制御電圧Vcを印加するための2つの抵抗R2,R3と、直流阻止容量C3,C4とを備えている。帰還抵抗R1は、増幅器51の入力端子と出力端子との間に設けられている。水晶振動子10の両端は、水晶接続端子X1,X2を介して増幅器51の入力端子と出力端子にそれぞれ接続している。さらに増幅器51の入力端子は、直流阻止容量C3の一端に接続し、直流阻止抵抗C3の他端は抵抗R2の一端と可変容量ダイオードD1のカソードに接続し、増幅器51の出力端子は、直流阻止容量C4の一端に接続し、直流阻止抵抗C4の他端は抵抗R3の一端と可変容量ダイオードD2のカソードと出力バッファ31,32の入力端子に接続している。ここで制御電圧Vcは、図1に示した回路において周波数制御部23から発振回路22に与えられる周波数制御信号と温度補償回路25から発振回路22に与えられる温度補償信号とを総称したものであり、抵抗R2,R3の各々の他端に共通に与えられる。可変容量ダイオードD1,D2のアノードは接地している。
【0022】
図2において出力バッファ31,32は反転型増幅器の回路記号で示されている。出力バッファ31の出力は、外部の回路に接続している。出力バッファ32の出力も、ICチップ20の出力端子OUT2を介して外部回路に供給されている。スイッチSWは、ICチップ20のイネーブル端子ENと接地点との間に設けられており、イネーブル信号としてスイッチSWをオンあるいはオフとすることにより、出力バッファ32の出力のオン/オフを制御できるようになっている。
【0023】
発振回路側への発振出力信号の回り込みについて検討する。発振回路から水晶振動子10への接続のために、水晶発振器において、ICチップ20の水晶接続端子X1,X2からそれぞれ水晶振動子10に向う2本の配線路が延びている。同様に、出力バッファ31,32の出力は外部回路に供給されるので、外部回路との接続のための配線路が、出力端子OUT1,OUT2にそれぞれ接続することになる。水晶振動子とみなされる水晶片とICチップ20とを同一の容器に収容に一体化することによって水晶発振器を構成する場合であれば、これらの配線路は容器に形成されることになる。出力バッファごとに、水晶接続端子X1,X2にそれぞれ接続する2本の配線路とその出力バッファの出力側(すなわち、出力端子と出力端子に接続する配線路)との間には、図示点線で示されるように寄生容量C1,C2が発生する。ここで寄生容量C1は、水晶接続端子X1に接続する配線路と出力バッファの出力側との間に形成される寄生容量であり、寄生容量C2は、水晶接続端子X2に接続する配線路と出力バッファの出力側との間に形成される寄生容量である。出力バッファの出力側から発振回路への発振出力信号の回り込みは、これらの寄生容量C1,C2を介した発振出力信号のリークであると考えることができる。
【0024】
図2に示したように反転型の増幅器51を用いる発振回路では、水晶接続端子X1側の配線路と水晶接続端子X2側の配線路とは、発振周波数の信号成分に関して相互に逆位相になっている。また、出力バッファとして反転型の増幅器を用いることを仮定しているので、水晶接続端子X2側の配線路(すなわち出力バッファの入力側)と出力バッファの出力側との関係も、発振周波数の信号成分に関して相互に逆位相となっている。寄生容量を介した発振出力信号のリークは、容量の両端の電位差の時間変化の関係から、一般に、寄生容量の両端が同位相になっていれば小さく、逆位相になっていれば大きくなる。図2に示したものの場合、出力バッファとして反転型の増幅器を用いるものを仮定しているので、寄生容量C1を介する発振出力信号の回り込み量よりも寄生容量C2を介する発振出力信号の回り込み量の方が大きくなる。また、発振回路の増幅器51の入力端子と出力端子とに同じ量の信号が回り込んだとすれば、インピーダンスが高い入力端子の方が影響を受けやすいが、図1及び図2に示す回路の場合には、増幅器51に回り込む発振出力信号は増幅器51の入力端子での信号と同位相であるので、回り込みの影響を受けにくい。結局、出力バッファにおけるオン/オフ制御による発振出力信号の振幅の変化によって発振回路が影響を受けることを抑制するためには、オン/オフ制御の対象となる出力バッファ32についての上記の寄生容量C2の値が小さくなるようにすればよいことになる。
【0025】
そこで本実施形態の水晶発振器では、ICチップ20は容器に収容されあるいは容器に固着されているとして、ICチップ20の水晶接続端子とICチップ20の出力端子との間の容量を、その水晶接続端子やこの水晶接続端子に接続する配線路と、その出力端子やこの出力端子に接続する配線路との間の寄生容量とする。そして、2つある出力バッファ31,32のうちのオン/オフ制御の対象となる出力バッファ32に着目し、その出力バッファ32での出力とは逆位相となる水晶接続端子X2と出力バッファ32に接続する出力端子OUT2との間の容量(逆位相側の寄生容量)が、もう一方の水晶接続端子X1(同相側の水晶接続端子)と出力端子OUT2との間の容量(同相側の寄生容量)よりも小さくなるようにする。実際には、一例として、容器における配線路や接地電位部分の配置によって、同相側の寄生容量よりも逆位相側の寄生容量の方が小さくなるようにすることができる。
【0026】
厳密に言えばICチップ20内の回路からICチップ20の同一の主面に設けられた水晶接続端子X1,X2及び出力端子OUT1,OUT2までの配線による寄生容量も考慮する必要があるが、これらの配線の長さは、容器側に設けられて水晶接続端子X1,X2や出力端子OUT1,OUT2に接続する配線路に比べて極めて短いので、それらの配線による回り込みの影響は無視することができる。
【0027】
図3及び図4は、同相側の寄生容量よりも逆位相側の寄生容量の方が小さくなるように配線路が構成された水晶発振器の構造の一例を示している。この水晶発振器は、回路基板あるいは配線基板上への表面実装に適した表面実装型として構成されており、両方の主面にそれぞれ凹部1a,1bが形成された扁平な略直方体の容器本体1を備えている。一方の凹部1aには、図1及び図2についての説明における水晶振動子10に相当する水晶片2が収容されており、蓋部材5によって凹部1aを閉じることによって、水晶片2は凹部1aに密閉封入されている。水晶片2は、例えば、略矩形の形状を有するATカットの水晶片であり、その両方の主面に励振電極(不図示)をそれぞれ有し、水晶片2の一端部両側に向けて励振電極から引出電極が延出している。引出電極の延出した水晶片2の一端部両側は、容器本体1の一方の凹部1aの底面に設けられた水晶保持端子3に対して導電性接着剤4によって固着されている。
【0028】
容器本体1において他方の凹部1bを取り囲む端面には、水晶発振器を回路基板上などに表面実装する際に用いられる実装電極9が設けられている。この例では、図4に示すように、端面の4隅部に、電源(VDD)、接地(GND)、AFC信号入力用(AFC)及び第1の発振出力(OUT1)のための実装電極9が形成され、容器本体1の1対の長辺のそれぞれ中央部に、イネーブル信号用(EN)及び第2の発振出力(OUT2)のための実装電極9が形成されている。
【0029】
他方の凹部1bには、上述したICチップ20が収容されている。ICチップ20において、発振回路を含む電子回路は半導体基板の一方の主面に形成されているので、この主面のことを回路形成面と呼ぶ。回路形成面には、上述した各IC端子が設けられている。IC端子に対応して、凹部1bの底面には、凹部1bの底面には接続電極(パッド)6が設けられている。ICチップ20は、バンプ7を用いたフリップチップボンディングによって凹部1bの底面に固着される。このとき、バンプ7によって、対応するIC端子と接続電極6とが電気的かつ機械的に接続する。IC端子のうちの水晶接続端子X1,X2に対応する接続電極6は、凹部1aの底面の水晶保持端子3に対し、容器本体1に形成されたビアホール8を含む導電路によって電気的に接続する。これによって、水晶片2は、ICチップ20内の発振回路などに電気的に接続することになる。また、IC端子のうちの電源端子VDD、接地端子GND、出力端子OUT1,OUT2、入力端子AFC及びイネーブル端子ENに対応する接続電極9は、容器本体1に設けられた導電路を介して、対応する実装電極9に電気的に接続する。
【0030】
本実施形態では、寄生容量の大きさを考えているので、ICチップ20の出力端子に接続する配線路とは、この出力端子に電気的に接続するバンプ7、接続電極6及び実装電極9とこれらの間の導電路が含まれる。同様に、ICチップ20の水晶接続端子に接続する配線路とは、この水晶接続端子に電気的に接続するバンプ7、接続電極6、水晶接続端子3及び導電性接着剤4と、これらの間の導電路(ビアホール8)が含まれる。図4に示した例では、オン/オフ制御される出力バッファ32の出力と逆位相になるのは水晶接続端子X2であり、水晶接続端子X2に接続する配線路は、図において、X2と記された接続電極6やそれに接続するビアホール8などであり、オン/オフ制御される出力バッファ32の出力端子に接続する配線路は、OUT2と記された接続電極6と実装電極9とそれらを接続する導電路などである。もう一方の水晶接続端子X1に接続する配線路は、図において、X1と記された接続電極6やそれに接続するビアホール8などである。
【0031】
図4に示したものでは、X2と記された接続電極6とOUT2と記された接続電極6との間に、接地電位GNDとなる接続電極6が配置しているから、出力端子OUT2と水晶接続端子X2との間の容量が、出力端子OUT2と水晶接続端子X1との間の容量よりも小さくなっている。これにより、出力バッファ32の出力をオン/オフ制御したときの影響が発振回路22側に及びにくくなって、発振周波数の変動が防止される。
【0032】
図4に示したものでは、容器本体1において接地用の接続電極6を出力端子OUT2用の接続電極6と水晶接続端子X2用の接続電極6との間に配置させることによって、すなわち容器における配線路の構成によって、逆位相関係となる出力端子OUT2と水晶接続端子X2との間の容量を、同相関係となる出力端子OUT2と水晶接続端子X1との間の容量よりも小さくしている。しかしながら、出力バッファの出力側から発振回路への発振出力信号の回り込みは、ICチップのIC端子の配置によっても抑制することが可能である。ICチップ20内での出力端子の形状などは、出力バッファごとには大きくは異ならず、また、容器においても、各接続電極6の形状は同様のものである。2つの配線路間の容量を考えた場合、両方の配線路が近接している部分での寄与が大きくなる。そのため容量本体1において、出力端子と水晶接続端子との間の容量に一番寄与するのは、ICチップ20が容器に実装されている領域ということになる。ICチップが容器に実装されている領域が一番容量に寄与することは、図3及び図4に示した容器本体1を用いて容器本体1の一方の主面に設けられた凹部1a内に水晶片2を密閉封入し、他方の主面に設けられた凹部1b内にICチップ20を収容した水晶発振器の場合に限られず、水晶振動子とICチップとを容器に一体化した一般的な水晶発振器の場合に全て当てはまることである。
【0033】
そのため、水晶振動子10とICチップ20との一体化の形態がどのようなものであるかによらず、ICチップ20の水晶接続端子X1,X2によって、水晶接続端子X1,X2から水晶振動子10に接続する配線路をそれぞれ代表させ、ICチップ20の出力端子OUT1,OUT2によって、これら出力端子OUT1,OUT2にそれぞれ接続する配線路を代表させ、そのように代表させた配線路間の相互の距離から容量を考えることが可能である。以下、ICチップ20における水晶接続端子X1,X2や出力端子OUT1,OUT2の相互間の配置の設定により、出力バッファにおけるオン/オフ制御による発振出力信号の振幅の変化によって発振回路が影響を受けることを抑制するようにした例を説明する。
【0034】
図1に示す水晶発振器において、出力バッファ31,32のうち、イネーブル信号によるオン/オフ制御の対象となる出力バッファ32の出力端子が、出力バッファ31の出力端子よりも、水晶接続端子X2から見て遠くに配置されるようにする。その結果、水晶接続端子X2から見て、オン/オフ制御の対象となる出力バッファをオン/オフ制御の対象とならない出力バッファよりも近くに配置した場合と比べ、出力バッファの出力のオン/オフの影響が発振回路22側に及びにくくなり、発振周波数の変動が防止される。
【0035】
すなわちこの実施形態では、複数の反転型の出力バッファを備え、それらのうちのいくつかのものをオン/オフ制御可能な出力バッファとする場合に、水晶接続端子X2(出力バッファの出力端子とは逆位相となる水晶接続端子)から見て、オン/オフ制御可能な出力バッファの出力端子をオン/オフ制御を行わない出力バッファの出力端子よりも遠い距離の位置に配置している。出力バッファの出力と同位相であるとはいえ、水晶接続端子X1への回り込みの影響も小さくすることが好ましいから、この場合において、さらに、水晶接続端子X1から見ても、オン/オフ制御可能な出力バッファの出力端子がオン/オフ制御を行わない出力バッファの出力端子よりも遠い距離の位置に配置されているという条件も満たされるようにすることが好ましい。
【0036】
出力バッファとして複数の非反転型の出力バッファとし、そのうちのいくつかをオン/オフ制御可能な出力バッファとする場合には、水晶接続端子X1(出力バッファの出力端子とは逆位相となる水晶接続端子)から見て、オン/オフ制御可能な出力バッファの出力端子が、オン/オフ制御を行わない出力バッファの出力端子よりも遠い距離の位置に配置するようにすればよい。この場合においては、さらに、水晶接続端子X2から見ても、オン/オフ制御可能な出力バッファの出力端子がオン/オフ制御を行わない出力バッファの出力端子よりも遠い距離の位置に配置されているという条件も満たされるようにすることが好ましい。
【0037】
本発明の水晶発振器は、ICチップ20内に設けられる出力バッファとして、オン/オフ制御されない非反転型の増幅器とオン/オフ制御される反転型の増幅器とを用いる場合に限定されるものではない。以下、出力バッファにおけるオン/オフ制御の適用の有無と反転型/非反転型との組み合わせが図1とは異なっている水晶発振器について説明する。
【0038】
図1に示した構成において、オン/オフ制御がなされず反転型の増幅器からなる出力バッファ31の代わりに、図5に示すように、非反転型の増幅器からなる出力バッファ27を用いることもできる。図5に示す水晶発振器において、出力バッファ27は、オン/オフ制御がなされず、出力端子OUT1に発振出力信号を出力する。この構成では、オン/オフ制御がなされる出力バッファ32の出力とは逆位相となる水晶接続端子(図5に示す場合は水晶接続端子X2)から見て、オン/オフ制御がなされない出力バッファ27の出力端子OUT1よりもオン/オフ制御がなされる出力バッファ32の出力端子OUT2の方が遠い距離の位置に配置する。あるいは、出力端子OUT2と水晶接続端子X2との間の容量が出力端子OUT2と水晶接続端子X1との間の容量よりも小さくなるように、容器において配線路を構成する。このような構成によっても、出力バッファの出力のオン/オフ制御に伴う発振周波数の変動を抑えることができる。また、この構成によれば、非反転型の増幅器を有する出力バッファ27と反転型の増幅器を用いる出力バッファ32と備えているので、相互に逆位相となる発振出力信号を得ることができる。
【0039】
図6に示した水晶発振器は、図1に示した水晶発振器において、オン/オフ制御がなされない反転型の増幅器からなる出力バッファ31を、オン/オフ制御がなされる非反転型の増幅器を有する出力バッファ28に置き換えたものである。出力バッファ28から発振出力信号は出力端子OUT1に出力されており、また、出力バッファ28の出力のオン/オフを制御するイネーブル信号の入力のために、出力バッファ28のためのイネーブル端子ENがICチップ20に設けられている。出力バッファ28と出力バッファ32とは、独立して出力のオン/オフ制御を行うことが可能である。
【0040】
この水晶発振器では、水晶接続端子X1,X2のうち、出力バッファ28の出力に対して逆位相となるのは水晶接続端子X1であり、出力バッファ32の出力に対して逆位相になるのは水晶接続端子X2である。そこで、水晶接続端子X1から見て、出力バッファ28の出力端子は、他の出力バッファ(この例では出力バッファ32)の出力端子よりも遠い距離の位置に配置され、かつ、水晶接続端子X2から見て、出力バッファ32の出力端子は、他の出力バッファ(この例では出力バッファ28)の出力端子よりも遠い距離の位置に配置されるようにする。あるいは、出力バッファ28の出力端子OUT1と水晶接続端子X1との間の容量が出力端子OUT1と水晶接続端子X2との間の容量よりも小さくなり、かつ、出力バッファ32の出力端子OUT2と水晶接続端子X2との間の容量が出力端子OUT2と水晶接続端子X1との間の容量よりも小さくなるように、容器における配線路を構成する。これにより、各水晶接続端子に接続する配線路に対し、その配線路とは逆位相の出力を有する出力バッファの出力側からの回り込み量が減少し、それにより、出力バッファのオン/オフ制御に伴う発振周波数の変動を抑えることができる。
【0041】
以上説明した本発明の各実施形態の水晶発振器において、イネーブル信号により出力のオン/オフ制御を行うことができる出力バッファとしては、例えば、イネーブル信号によって制御されるアナログスイッチ回路を有してこのアナログスイッチ信号をオン/オフ制御することにより発振出力信号の出力がオンまたオフに制御されるものや、増幅器への電源供給をイネーブル信号によってオンまたはオフに制御することにより、発振出力信号の出力がオンまたはオフに制御されるものを使用することができる。
【符号の説明】
【0042】
1 容器本体;1a,1b 凹部;2 水晶片;3 水晶保持端子;4 導電性接着剤;5 蓋部材;6 接続電極;7 バンプ;8 ビアホール;9 実装電極;10 水晶振動子;20 ICチップ;21 定電圧回路;22 発振回路;23 周波数制御部;24 温度センサ;25 温度補償回路;26 不揮発性メモリ;27,28,31,32 出力バッファ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水晶振動子と、前記水晶振動子を用いる発振回路を少なくとも集積したICチップと、を有し、前記水晶振動子と前記発振回路とが容器に一体化された水晶発振器において、
前記ICチップは、前記発振回路の出力を増幅して外部に出力する複数の出力バッファと、前記発振回路と前記水晶振動子との電気的接続に用いる一対の水晶接続端子と、前記出力バッファごとに設けられた出力端子とを備え、
前記一対の水晶接続端子には発振周波数成分の信号が相互に逆位相で現れ、
前記複数の出力バッファの各々は、独立に、反転型または非反転型の増幅器を備えており、
前記複数の出力バッファのうちの少なくとも1つはイネーブル信号によってその出力のオン/オフ制御が可能な出力バッファであり、
前記オン/オフ制御が可能な出力バッファごとに、当該出力バッファの出力の位相とは逆位相となる前記水晶接続端子から見て、当該出力バッファの出力端子は、他の出力バッファの出力端子よりも遠い距離に配置するように、前記ICチップが構成されていることを特徴とする、水晶発振器。
【請求項2】
2個の前記出力バッファを備える、請求項1に記載の水晶発振器。
【請求項3】
前記発振回路は反転型の増幅器を備え、前記発振回路の増幅器の入力端子と出力端子とに前記一対の水晶接続端子がそれぞれ接続し、1個の出力バッファのみがオン/オフ制御が可能な出力バッファである、請求項2に記載の水晶発振器。
【請求項4】
前記発振回路は反転型の増幅器を備え、前記一対の水晶接続端子は前記発振回路の増幅器の入力端子に接続する第1の水晶接続端子と前記発振回路の前記増幅器の前記出力端子に接続する第2の水晶接続端子とからなり、
前記2個の出力バッファのうち、第1の出力バッファは非反転型の増幅器を備えてオン/オフ制御が可能な出力バッファであり、第2の出力バッファは反転型の増幅器を備えてオン/オフ制御が可能な出力バッファであり、
前記第1の水晶接続端子から見て、前記第1の出力バッファの出力端子は前記第2の出力バッファの出力端子よりも遠い距離に位置し、かつ、前記第2の水晶接続端子から見て、前記第2の出力バッファの出力端子は前記第1の出力バッファの出力端子よりも遠い距離に位置する、請求項2に記載の水晶発振器。
【請求項5】
水晶振動子と、前記水晶振動子を用いる発振回路を少なくとも集積したICチップと、を有し、前記水晶振動子と前記発振回路とが容器に一体化された水晶発振器において、
前記ICチップは、前記発振回路の出力を増幅して外部に出力する複数の出力バッファと、前記発振回路と前記水晶振動子との電気的接続に用いる一対の水晶接続端子と、前記出力バッファごとに設けられた出力端子とを備え、
前記一対の水晶接続端子には発振周波数成分の信号が相互に逆位相で現れ、
前記複数の出力バッファの各々は、独立に、反転型または非反転型の増幅器を備えており、
前記複数の出力バッファのうちの少なくとも1つはイネーブル信号によってその出力のオン/オフ制御が可能な出力バッファであり、
前記オン/オフ制御が可能な出力バッファごとに当該出力バッファの出力の位相とは逆位相となる前記水晶接続端子と当該出力バッファの出力端子との間の容量が、該出力端子と他の水晶接続端子との間の容量よりも小さく配線されるように、前記容器が構成されていることを特徴とする、水晶発振器。
【請求項6】
2個の前記出力バッファを備える、請求項5に記載の水晶発振器。
【請求項7】
前記発振回路は反転型の増幅器を備え、前記発振回路の増幅器の入力端子と出力端子とに前記一対の水晶接続端子がそれぞれ接続し、1個の出力バッファのみがオン/オフ制御が可能な出力バッファである、請求項6に記載の水晶発振器。
【請求項8】
前記オン/オフ制御が可能な出力バッファの電源を前記イネーブル信号によって制御することにより、前記オン/オフ制御がなされる、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の水晶発振器。
【請求項9】
前記オン/オフ制御が可能な出力バッファは、前記イネーブル信号によって制御されるアナログスイッチを備えて該アナログスイッチにより前記オン/オフ制御を実行する、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の水晶発振器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−156977(P2012−156977A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−113716(P2011−113716)
【出願日】平成23年5月20日(2011.5.20)
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)
【Fターム(参考)】