説明

水晶発振回路における負荷容量の決定方法、水晶発振回路における負性抵抗RLの決定方法、発振回路、及び電子機器

【課題】本発明の目的は、低い負荷容量有する水晶発振回路において、負荷容量、及び負性抵抗RLを決定する決定方法を提供するものである。
【解決手段】(CLn+1/CLn2=α(nは1以上の整数、α=2-1/2)が成立するように、負荷容量CL1に対して負荷容量CLn(n≧2)を決定する。さらに、CMOSインバータの入力側と出力側の間に最小帰還抵抗Rfminと並列に配置されたリーク抵抗Rzを仮想して、最小合成帰還抵抗RFminを式RFmin=(Rfmin×Rz)/(Rz+Rfmin)を用いて決定し、最大負性抵抗RLmaxの値を、式(RLmax/RFmin)1/2 <α(αは安全係数で2-1/2)を用いて決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低消費電力の水晶発振回路を実現するための方法に関するもので、特に水晶発振回路における負荷容量の決定方法と、水晶発振回路における負性抵抗RLの決定方法に関する。また、これらの方法を用いて設計された発振回路、及び電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
時計や携帯電話等の携帯機器において、当該機器の無充電による長時間動作や搭載される電池の充電頻度低減化の要求から、当該機器に用いられる水晶振動子等の圧電素子を組み込んだ発振回路の駆動電力の低減や発振回路の待機時(発振回路が発振した状態でかつ無負荷状態の時)における超低消費電力化がますます要求されている。
【0003】
図3は、水晶振動子を用いた典型的な発振回路であり、反転増幅器となるCMOSインバータIV01、CMOSインバータIV01の入力端子XCINと出力端子XCOUTとの間に接続された水晶振動子X2、CMOSインバータIV01の入力端子XCINと接地電位の電源端子Vssとの間に接続された負荷容量Cgを構成する容量素子、およびCMOSインバータIV01の出力端子XCOUTと接地電位の電源端子Vssとの間に接続された負荷容量Cdを構成する容量素子を有している。
【0004】
また、CMOSインバータIV01は、電源電圧Vddが共有される第1の電源端子と、接地電位が供給される第2の電源端子との間に直列接続されたPMOSトランジスタPM11とNMOSトランジスタNM11とからなるCMOSインバータおよび帰還抵抗Rfから構成されている。
CMOSインバータIV01のPMOSトランジスタPM11のソースと第1の電源端子との間、およびCMOSインバータIV02のNMOSトランジスタNM11と第2の電源端子との間には、水晶振動子X2を励振する駆動電流を制限する駆動電流調整用抵抗素子r1およびr2が接続されている。
【0005】
携帯機器等に搭載する発振回路は近年低消費電力化が要求されているが、そのためには発振回路における水晶振動子の駆動電流を低下させる必要がある。そのためには、発振回路におけるCMOSインバータの相互コンダクタンスGmを小さくすることが考えられる。しかし、相互コンダクタンスGmを小さくすると発振回路の発振余裕度を低下させる場合がある。
【0006】
発振回路の発振余裕度Mは次式(1)で与えられる。
M=|−Gm|/{(ω2Cg・Cd)×(1/R1(max))}=|RL|/R1(max)・・・(1)
ωは発振周波数の角周波数、RLは負性抵抗、R1(max)は水晶振動子の実効抵抗R1の最大値であり、発振余裕度Mは5以上の値が要求される。
【0007】
水晶振動子の実効抵抗R1は水晶振動子の小型化の要請から決定される値であるから、余り小さくすることはできない。従って、相互コンダクタンスGmを小さくしても発振回路の発振余裕度Mを維持するには、CMOSインバータに外付けされる負荷容量を構成するコンデンサの負荷容量Cgおよび/または負荷容量Cdを下げれば良いことが分かる。 従ってそれを実現するためには、発振回路の水晶振動子は、組み込まれるマイコン等のICに対して要求される低消費電力化の仕様に見合った負荷容量CLを有することが要求される。すなわち、既に出願人は従来から使用されている水晶振動子の負荷容量CLである12.5pFに対して、負荷容量CLの低減すなわち低CL化(3pF〜5pF)を提案してきた。(特許文献1)
【0008】
しかしながら、負荷容量CLを小さくすると、負荷容量CLの容量許容差と発振周波数の周波数偏差Δfの問題が顕著になる。たとえば、負荷容量CLが通常の容量許容差の範囲であるΔC(±5%)変化した場合の発振周波数の安定性Δf(ppm)は、負荷容量CLが12.5pFのときΔCが1.25pFで発振周波数の安定性Δfは7.3ppmとなり、負荷容量CLが6pFのときΔCが0.6pFで発振周波数の安定性Δfは13.2ppmとなり、負荷容量CLが3pFのときΔCが0.3pFで発振周波数の安定性Δfは20.5ppmとなる。
すなわち、負荷容量CL(3pF)では、従来の12.5pFの場合よりも2.8倍も周波数偏差が大きくなるので、負荷容量CLの低容量化(低CL化)を実現するためには、負荷容量CLの容量許容差に対する発振周波数の安定性を向上させる必要がある。
【0009】
図3における入出力端子間XCINおよびXOUT間の水晶振動子側の等価回路は図4となる。水晶振動子X2には直列に負荷容量CLが接続されていて、水晶振動子は圧電効果により生ずる機械的共振を等価的に表したインダクタンスL1、容量C1、抵抗R1の直列共振回路に電極間容量C0が並列接続した回路として表される。また入出力端子間XCINおよびXCOUT間にはCMOS半導体基板や信号配線等により種々の浮遊容量が存在しているが、これらの(合成)浮遊容量をCsとすると、図5に示すように、負荷容量CLは浮遊容量Csと直列接続された外部(外付け)容量CgおよびCdとの並列接続となっている。
従って、
CL=Cs+Cg×Cd/(Cg+Cd)・・・(2)
となる。
(2)の関係を満足するような負荷容量CL(2pF〜6pF)になるように、発振周波数にマッチングするような外付け容量素子CgおよびCdを選択すれば、発振周波数の安定性を向上できる。すなわち、負荷容量CLは浮遊容量Csと外部容量素子(コンデンサ)Cext{=Cg×Cd/(Cg+Cd)}の和であるため、負荷容量CLと浮遊容量Csとの差にするように、外部容量素子Cextの値を選定すれば、(2)式が満足され、水晶振動子の負荷容量CLと、水晶振動子から見た発振回路側の負荷容量がマッチング(整合)することを意味している。
【0010】
図6は水晶発振回路(水晶振動子の周波数32.768kHz)における駆動電流と負荷容量CLとの関係を示す図である。負性抵抗RLを1000kΩと一定にし、負荷容量CL(pF)を可変して駆動電流Ios(nA)を測定したものである。負荷容量CLが小さくなると駆動電流は顕著に小さくなることが分かる。たとえば、従来用いられている負荷容量12.5pFの駆動電流は約1.5μAであるが、負荷容量2.2pFの駆動電流は約0.055μAとなり、駆動電流が約4%に低減している。このように、負荷容量CLを低減することは水晶発振回路の低消費電力化、しいてはその水晶発振回路を用いている電子機器の低電力化に大きく寄与できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2008−205658号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
負荷容量CLを低減すると水晶発振回路の駆動電流を小さくすることができるので、幾つかの所望の駆動電流Iosを得るために、1つの負性抵抗RLに対して種々の負荷容量CLを用意することになる。また、異なる負性抵抗の場合には、異なる値の負荷容量CLを用意して、所定の駆動電流Iosを実現することになる。このような方法では、たくさんの負荷容量CLを用意することになり、部品数が多くなる。
また、負性抵抗RLに対しては、上述の(1)式を用いて発振余裕度Mを5以上の適当な値に設定して負性抵抗RLの下限を決めることはできるが、負性抵抗RLの上限は不明なので、負性抵抗RLを過大に設定する虞がある。負性抵抗RLを大きく取りすぎると帰還抵抗Rfの影響が無視できなくなり発振異常(不定)を引き起こす原因となる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の目的は、約10pF以下、好適には8pF以下、更に好適には約6pF以下の低い負荷容量を有する(低CL)水晶発振回路において、幾つかの負荷容量値CLを用意して、種々の負性抵抗に対応しながら所定の駆動電流を得るための手法を提供し、さらに水晶発振回路の設計およびこれを用いたIC設計を容易にするために負性抵抗の範囲を決定する手法を提供することである。
具体的には、本発明は以下の(1)〜(6)に記載するものである。
(1)本発明は、負性抵抗RL1における水晶発振回路の駆動電流がIos1、負荷容量値がCL1であるとき、負性抵抗RL1における水晶発振回路の駆動電流をIos2(<Ios1とする)にするときの負荷容量は、CL2=CL1×(Ios2/Ios1)1/2で与えられる負荷容量値CL2の10%以内の値に設定することを特徴とする負荷容量の決定方法である。
(2)本発明は、駆動電流値Ios1における水晶発振回路の負性抵抗がRL1、負荷容量値がCL1であるとき、駆動電流値Ios1における水晶発振回路の負性抵抗をRL2にするときの負荷容量は、CL2=CL1×(RL1/RL2)1/2で与えられる負荷容量値CL2の10%以内の値に設定することを特徴とする負荷容量の決定方法である。
(3)本発明は、(CL n+1/CL n)2=α(nは1以上の整数、αは安全係数でα=2-1/2)が成立するように、負荷容量CL1に対して負荷容量CLn(n≧2)を決定することを特徴とする負荷容量の決定方法である。
(4)本発明は、具体的な負荷容量値として、CL1=4,4 pF、CL2=3.7pF、CL3=3.1pF、CL4=2.6pF、CL5=2.2pFを設定することを特徴とする負荷容量の決定方法である。
(5)本発明は、CMOSインバータの入力側と出力側の間に最小帰還抵抗Rfminと並列に配置されたリーク抵抗Rzを仮想して、最小合成帰還抵抗RFminを式RFmin=(Rfmin×Rz)/(Rz+Rfmin)を用いて決定し、さらに最大負性抵抗RLmaxの値を、式(RLmax/RFmin)1/2<α(αは安全係数で2-1/2である)を用いて、決定することを特徴とする、負性抵抗RLの決定方法である。さらに、本発明は、リーク抵抗Rzを4〜6MΩの間の値、好適には5MΩとすることを特徴とする負性抵抗RLの決定方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、水晶発振回路における負荷容量値CL2を水晶発振回路の駆動電流比Ios2/Ios1をもとにして、式CL2=CL1×(Ios2/Ios1)1/2を用いて決定するので水晶発振回路の設計およびその水晶発振回路を用いたICの設計が単純になる。あるいは、水晶発振回路における負荷容量値CL2を水晶発振回路の負性抵抗比RL1/RL2をもとにして、CL2=CL1×(RL1/RL2)1/2を用いて決定するので水晶発振回路の設計およびその水晶発振回路を用いたICの設計が単純になる。
さらに、負荷容量値は既に決められた値から選定すれば良いので、設計者が独自に設定する必要がなく、設計が容易となる。
負性抵抗RLについても上限および下限が定められるので、水晶発振回路が充分に動作するかどうか設計者は悩む必要がなくなり、負性抵抗の設定が容易となる。たとえば、最小帰還抵抗Rfmin=5MΩに対しては、負性抵抗RLは、300kΩ<|RL|<1.25MΩの範囲で設定すれば良い。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、水晶発振回路の負荷容量CLと駆動電流Iosのグラフである。
【図2】図2は、水晶発振回路における合成帰還抵抗を説明する図である。
【図3】図3は、水晶振動子を用いた発振回路を示す図である。
【図4】図4は、図3における入出力端子間XCINおよびXOUT間の水晶振動子側の等価回路を示す図である。
【図5】図5は、負荷容量CLを構成する容量を示す図である。
【図6】図6は、水晶発振回路における駆動電流と負荷容量CLとの関係を示す図である。
【図7】図7は、負荷容量と負性抵抗の関係を示したグラフである。
【図8】図8は、種々のRfminに対する最小帰還抵抗値RFminおよび最大負性抵抗値Rlmaxを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、負性抵抗RL=1MΩにおける種々の負荷容量と水晶発振回路の駆動電流Iosの測定値を示すグラフである(水晶振動子は、32.768kHz使用、図3に示す回路を使用。尚、図1は図6においてCLが6pF以下のグラフと同じである)。
このように、低CL化すると駆動電流Iosも低下するので、水晶発振回路の消費電流を低下することができる。
種々の負性抵抗に関して、幾つかの負荷容量を設定しておき、駆動電流を制御できると水晶発振回路を使用する電子機器(たとえば、マイコン)の設計者は回路を設計しやすい。そこで、我々は、以下のような半値カレントオプションを提案する。
【0017】
ICの駆動電流Iosは、Ios=Gm×(V−Vth)で示され、(1)式でCg=Cd=2CLとすると
|RL|=|Gm|/(2ωCL)2 ・・・(3)
であることから、ICの駆動電流Iosはに比例すると予想される。(ただし、幾つかの仮定(上記以外にも、帰還抵抗Rf=∞の理想的な状態を仮定)をおいている)実際図1のグラフに近似式を当てはめるとIos=11.96×(CL)1.94(相関係数0.999)となり、測定誤差も考慮すればこの予想はほぼ正しい。すなわち、
Ios=a× ・・・(4)
(aは定数、RLの設定値により変化する)
【0018】
そこで、負性抵抗RL1における水晶発振回路の駆動電流をIos1、負荷容量値をCL1とすれば、Ios1=a×であるから、水晶発振回路の駆動電流をIos2にするとき(負性抵抗RL1)の負荷容量CL2は、
CL2=CL1×(Ios2/Ios1)1/2 ・・・(5)
と推定できる。実際には、測定誤差も存在するので、(5)式で計算される値の約10%以内の値に負荷容量を設定しておけば目標の水晶発振回路の駆動電流を実現できる。たとえば、図1のグラフを用いると、CL=4.4pFのときIos1=200nAであるから、Ios2=100nAと半分のIosにするには、(Ios2/Ios1)1/2=(1/2)1/2=0.707であるから、CL2=3.1pFとなる。実際の測定値ではIos2=110nAとなっているので、かなり良い推定方法である。
【0019】
式(5)ではたくさんの負荷容量をその都度用意しなければならないので、次に最適の負荷容量設定法を述べる。最初に狙いとする駆動電流値Ios1を実現したときの負荷容量をCL1としたとき、次の駆動電流値の目標Ios2(駆動電流値を下げることが目標なので、Ios2<Ios1を Ios1×(1/2)1/2 とする。その次の駆動電流値の目標Ios3は Ios2×(1/2)1/2となり、最初の駆動電流値Ios1の半分となる。これから、(1/2)1/2で関係づけられるので非常にきれいな関係となる。たとえば、最初の狙いの駆動電流値Ios1=200nAはCL1=4.4pFで実現されるから、次の狙い値Ios2(=Ios1×(1/2)1/2=142nA)はCL2=CL1×{(1/2)1/21/2=4.4pF×0.841=3.7pFで実現する。実測値はIos2=150nAであるから、ほぼ良い近似である。次は、Ios3であるが上述した様に、CL3=3.1pFでIos2=100nA(実測値は110nA)である。その次の狙い値Ios4はIos3×(1/2)1/2=71nAで、CL4=CL3×{(1/2)1/21/2=3.1pF×0.841=2.6 pFで実現する。実測値はIos4=80nAであるから、ほぼ良い近似である。その次の狙い値Ios5はIos4×(1/2)1/2=50nAで、CL5=CL4×{(1/2)1/21/2=2.6pF×0.841=2.2 pFで実現する。実測値はIos4=55nAであるから、ほぼ良い近似である。この駆動電流値Ios5は最初の駆動電流値Ios1の1/4になっており、負荷容量値CL5はCL1の半分(1/2)となる。次の負荷容量値CL6は、CL6=CL5×{(1/2)1/21/2=2.2pF×0.841=1.9 pF、次の負荷容量値CL7は、CL7=CL6×{(1/2)1/21/2=1.9pF×0.841=1.6 pFとなる。CLは式(2)よりCL=Cs+{Cg×Cd/( Cg+Cd)}で示されるから、CL値の限界は浮遊容量Cs以下にはできない。従って、CL値の限界値は1.0pF〜1.5pFと考えられるから、上式を用いてその程度までのCL値を設定しておけば良い。
【0020】
以上のように半値(1/2)あるいは(1/2)1/2という値を用いて、負荷容量値を幾つか設定しておくことにより、ほぼ狙いとする駆動電流Iosを実現できる。一般化すれば、最初の駆動電流値Ios1を実現するCL1を設定した後、さらに駆動電流を下げる手法として、n個のCL値(CL1〜CLn)を用意する。その方法は、(CLm/CLm-1)2=α(mは2以上nまでの整数、α=2-1/2、αをこの値に設定しておけば負性抵抗RLはほぼ一定に維持でき、水晶発振回路は安定に発振するので、安全係数と呼んでも良い。)が成立するように、CL1に対して負荷容量CLm(m≧2)を決定する。これによって、Iosm/Iosm-1=α(mは2以上nまでの整数、αは安全係数でα=2-1/2)が成立する駆動電流Iosmを実現することができる。
【0021】
この関係は、1つの負性抵抗RL(図1に示したグラフはRL=1MΩ)に対して成り立つ関係であるが、他の値の負性抵抗RLに対しても成立する。発振余裕度Mが充分でない場合には異なる負性抵抗にすれば良い。このときに新たなCL値の関係群を上述の式により求めても良いが、上記の1連の負荷容量値CL群(4.4pF、3.7pF、3.1pF、2.6pF、2.2pF、1.9pF、・・・)を用いても良い。最初の駆動電流値Ios1だけ分かれば、後は上記した方法により駆動電流値を知ることができる。逆に駆動電流値から使用すべき負荷容量値を上の1連の負荷容量値CL群(4.4pF、3.7pF、3.1pF、2.6pF、2.2pF、1.9pF、・・・)から選択することもできる。(ただし、この場合には、異なる負性抵抗RLにおいて任意の駆動電流値を選択できないが、それに近い駆動電流値で決定する。)すなわち、種々の負性抵抗RLにおいて、最初の駆動電流値Ios1(CL1=4.4pF)に対して、Iosm/Iosm-1=α(mはm≧2整数、α=2-1/2)を実現する負荷容量は、3.7pF、3.1pF、2.6pF、2.2pF、1.9pF、・・・ということである。以上のように幾つかの負荷容量の設定値だけ用意しておけば、種々の負性抵抗RLに対して駆動電流Iosを所望程度の値へ低減できる。
【0022】
式(3)から、一定の駆動電流値Iosに対して負性抵抗RLは(CL)2に逆比例している。従って、上述したことは負性抵抗RLに関しても同じことが言える。すなわち、
|RL|=b×(CL)-2 ・・・(6)
(bは定数、駆動電流Iosの設定値により変化する)
駆動電流値Ios1における、水晶発振回路の負荷容量CL1に対して負性抵抗をRL1であるとき、負荷容量CL2に対して負性抵抗をRL2とすれば、
CL2=CL1×(RL1/RL2)1/2 ・・・(7)
と推定できる。実際には、測定誤差も存在するので、(7)式で計算される値の10%以内の値に負荷容量CLを設定しておけば目標の水晶発振回路の負性抵抗RLを実現できる。
【0023】
図7は、駆動電流値Iosを75nAと一定にして、負荷容量値CLと負性抵抗RLの関係を示したグラフである。負荷容量値CLは、上述の設定値(4.4pF、3.7pF、3.1 pF、2.6 pF、2.2pF、1.9pF)のときの負性抵抗値RLを測定した。得られたグラフの近似式は、RL=6480×(CL) -2で相関係数もR=1で上記の式(6)および式(7)の予想が合っていることを示す。
【0024】
負性抵抗についても駆動電流値と同様に、半値(1/2)あるいは(1/2) 1/2という値を用いて、負荷容量値を幾つか設定しておくことにより、ほぼ狙いとする負性抵抗値RLを実現できる。一般化すれば、最初の負性抵抗値RL1を実現するCL1を設定した後、さらに負性抵抗を上げる手法(発振余裕度Mを高める方向)として、n個のCL値(CL1〜CLn)を用意する。その方法は、(CLm/CLm-12=α(mは2以上nまでの整数、α=2-1/2、αをこの値に設定しておけば駆動電流Iosをほぼ一定に維持できる。)が成立するように、CL1に対して負荷容量CLm(m≧2)を決定する。これによって、RLm/Iosm-1=1/α(mは2以上nまでの整数、αは安全係数でα=2-1/2)が成立する負荷容量値RLmを実現することができる。
【0025】
この関係についても、駆動電流の場合と同様に、種々の値の駆動電流値Iosに対しても成立する。従って、駆動電流の場合と同様に、一連の負荷容量値CL群(4.4pF、3.7pF、3.1pF、2.6pF、2.2pF、1.9pF、・・・)を用意しておけば、最初の負性抵抗値RL1が分かっていれば、後は上記した方法により適当なCL値を選択して負性抵抗値RLを設定することができる。逆に負性抵抗値RLから使用すべき負荷容量値CLを上の1連の負荷容量値CL群(4.4pF、3.7pF、3.1pF、2.6pF、2.2pF、1.9pF、・・・)から選択することもできる(ただし、この場合には、異なる駆動電流値Iosにおいて任意の負性抵抗値RLを選択できないが、それに近い負性抵抗値で決定する)。すなわち、種々の駆動電流値Iosにおいて、最初の負性抵抗値RL1(CL1=4.4pF)に対して、RLm/RLm-1=1/α(mはm≧2の整数、α=2-1/2)を実現する負荷容量は、3.7pF、3.1pF、2.6pF、2.2pF、1.9pF、・・・ということである。以上のように幾つかの負荷容量の設定値だけ用意しておけば、種々の駆動電流値Iosに対して負性抵抗RLを所望程度の値へ増大できる。
【0026】
次に負性抵抗RLの範囲を決定する方法について説明する。負性抵抗の範囲が分かっていれば発振回路の設計が容易となる。式(1)よりM=|RL|/R1max、M≧5であるから、|RL|の最小値(|RL|minだが、便宜上|RLmin|と記載)は|RLmin|=5×R1max、R1maxは水晶振動子の等価直列抵抗の最大値で、水晶振動子の種類により異なるが、約60kΩとすると、|RLmin|=300kΩである。すなわち、|RL|>300kΩである。Cg=Cd=2CLとすれば、式(1)は
発振余裕度M={|Gm|/(2ωCL)2}×(1/R1max)=|RL|/R1max・・・(8)
負性抵抗RLまたはインピーダンス{1/(2ωCL)(Ω)}が大きくなるとRf(帰還抵抗)の影響が無視できなくなる。そこで、Rf(帰還抵抗)の影響を最小に押さえ、関係式(8)が成り立つための負性抵抗RLの最大値RLmaxを求める。
【0027】
発振子の角振動数ω0および時定数τ0と発振システムの角振動数ωおよび時定数τとの関係は、
ω=1/τ={Gm/(RF×Cg×Cd)}1/2=ω0×(RL/RF) 1/2
である。(RFは帰還抵抗であるが、後に示す合成帰還抵抗である。)従って、ω/ω0=τ0/τ=(RL/RF)1/2 <1となるが、さらに安定した発振を保証するために、安全係数α{=(1/2)1/2}を導入する。すなわち、
ω/ω0=τ0/τ=(RL/RF) 1/2 <α=(1/2)1/2 = 0.707 < 1・・・(9)
最大負性抵抗(RL)maxおよび最小帰還抵抗RFminの関係においても、{(RL)max/RFmin}<αである。従って、
RL≦(RL)max<α2×RFmin=0.5×RFmin・・・(10)
【0028】
式(9)や式(10)に示す帰還抵抗RFは、実際にシステムに組み込んだ帰還抵抗Rfとは必ずしも一致しない。すなわち、帰還抵抗RFは、水晶発振回路システムに実際に現われる帰還抵抗の合成値であり、合成帰還抵抗と呼んでも良い。RFminは、合成帰還抵抗の最小値であるから最小合成帰還抵抗と呼んでも良い。
【0029】
合成帰還抵抗RFは、たとえば以下のように求めることができる。
図2は、水晶発振回路における合成帰還抵抗を説明する図である。51は回路として組み込んだ帰還抵抗(抵抗Rf)であるが、実際の動作においては51以外にも電流が流れる(たとえば、リーク電流)ため測定値(抵抗RF)とRfとは一致しない。すなわち、帰還抵抗以外の電流経路の抵抗52を考慮する必要がある。この抵抗52をリーク抵抗(抵抗Rz)と呼ぶ。このリーク抵抗Rzは帰還抵抗と並列な抵抗と考えることができる。このリーク抵抗Rzがどの部分に生じているか明確ではないので、仮想的抵抗と考えても良い。これらの両方を合成した抵抗が合成帰還抵抗(抵抗RF)である。従って、
RF=(Rf×Rz)/(Rf+Rz)・・・(11)
このリーク抵抗Rzは汚れや回路上の不具合などからも生じる抵抗なので必ずしも一定ではないが、Rzを4〜6MΩ、好適にはRzを5MΩ程度に見積もると殆どの水晶発振回路で適用できる。最小合成帰還抵抗RFminおよび最小帰還抵抗Rfminに対しても
RFmin=(Rfmin×Rz)/(Rfmin+Rz)・・・(12)
RFmin<Rfminとなるので、最小帰還抵抗Rfminを用いる場合よりも実際的であることが分かる。
【0030】
図8は種々のRfminに対して式(10)および式(12)を用いて計算した最小帰還抵抗値RFminおよび最大負性抵抗値RLmaxである。これらの値から以下のように負性抵抗RLの範囲を決定することができる。
300kΩ<|RL|<1.25MΩ (Rfmin=5MΩ)
300kΩ<|RL|<1.67MΩ (Rfmin=10MΩ)
300kΩ<|RL|<1.88MΩ (Rfmin=15MΩ)
300kΩ<|RL|<2.00MΩ (Rfmin=20MΩ)
【0031】
相互コンダクタンスGmを有する発振回路の負性抵抗RLおよび負荷容量CLの関係式は、
Gm=a×(CL)2×(RL) ・・・(13)
で示されるが、種々の負性抵抗値RLpおよび負荷容量値CLpの組み合わせで式(7)が成立するので、
Gm=a×(CLp)2×(RLp) ・・・(14)
(p=1、2、3、4、・・・・)
と記載する。すなわち、同じ値のGmを実現する負性抵抗値RLpおよび負荷容量値CLpの組み合わせが複数存在する。
式(14)から、
Gm=a×(CL p)2×(RL p)=a×(CL p-1)2×(RL p-1)が成立するから、
(RL p)=(RL p-1)×{(CL p-1)2/(CL p)2}・・・(15)
この式(15)を用いて、負性抵抗の最小値を決定することができる。
たとえば、最小負性抵抗RLminのときの負荷容量CL値が(CL)max、最大負性抵抗RLmaxのときのCL値が(CL)minとすれば、
RLmin=RLmax×{(CLmin)2/(CLmax)2}・・・(16)
が成立する。従って、式(16)より最小負性抵抗を求めることができる。
【0032】
以上説明した様に、本発明を用いて、(CLn+1/CLn2=α(nは1以上の整数、αは安全係数でα=2-1/2)が成立するように、負荷容量CL1に対して幾つかの負荷容量CLn(n≧2)を設定しておき、さらにリーク抵抗Rzを想定して負性抵抗の範囲を決定しておくことにより、決定された負性抵抗の範囲内で設定した負荷容量を選定する。これにより所定の駆動電流を設計することができるので、設計者は水晶発振回路の設計を容易に行なうことが可能となる。上記において主に水晶振動子を用いた発振回路について説明してきたが、水晶振動子の代わりに他の圧電振動子(たとえばセラミック振動子)などを用いる場合にも本発明の水晶発振回路の負荷容量および負性抵抗決定方法を適用できる。上述した本発明の方法は、水晶振動子や他の圧電振動子を使用した発振器や電子機器に用いられる発振回路を設計するときにも適用できる。たとえば、時計、携帯電話、携帯端末、ノートパソコン等の電池駆動の電子機器にも使用できる。さらには省エネや省電力化を要求されている車載用電子機器、テレビ・冷蔵庫・エアコン等の家電製品など広範な電子機器にも適用できる。
【符号の説明】
【0033】
11・・・水晶振動子、12・・・CMOSインバータ、13・・・低電流源、
51・・・帰還抵抗、52・・・リーク抵抗、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
6pF以下の負荷容量を有する水晶発振回路における負荷容量の決定方法であって、
負性抵抗RL1における水晶発振回路の駆動電流がIos1、負荷容量値がCL1であるとき、負性抵抗RL1における水晶発振回路の駆動電流をIos2(<Ios1)にするときの負荷容量を、
CL2=CL1×(Ios2/Ios1)1/2
で与えられる負荷容量値CL2の10%以内の値に設定することを特徴とする水晶発振回路における負荷容量の決定方法。
【請求項2】
6pF以下の負荷容量を有する水晶発振回路における負荷容量の決定方法であって、
駆動電流値Ios1における水晶発振回路の負性抵抗がRL1、負荷容量値がCL1であるとき、駆動電流値Ios1における水晶発振回路の負性抵抗をRL2にするときの負荷容量を、
CL2=CL1×(RL1/RL2)1/2
で与えられる負荷容量値CL2の10%以内の値に設定することを特徴とする水晶発振回路における負荷容量の決定方法。
【請求項3】
6pF以下の負荷容量を有する水晶発振回路における負荷容量の決定方法であって、
(CLn+1/CLn)2=α(nは1以上の整数、αは安全係数でα=2-1/2)が成立するように、負荷容量CL1に対して負荷容量CLn(n≧2)を決定することを特徴とする水晶発振回路における負荷容量の決定方法。
【請求項4】
CLm=4,4 pF、CLm+1=3.7pF、CLm+2=3.1pF、CLm+3=2.6pF、CLm+4=2.2pFである(mは正の整数)ことを特徴とする請求項3に記載の水晶発振回路における負荷容量の決定方法。
【請求項5】
6pF以下の負荷容量値を有する水晶発振回路における負性抵抗RLの決定方法であって、
CMOSインバータの入力側と出力側の間に最小帰還抵抗Rfminと並列に配置されたリーク抵抗Rzを仮想して、最小合成帰還抵抗RFminを
RFmin=(Rfmin×Rz)/(Rz+Rfmin)の関係を用いて決定し、
さらに最大負性抵抗RLmaxの値を、
(RLmax/RFmin)1/2 <α(αは安全係数で2-1/2である)の関係を用いて決定することを特徴とする水晶発振回路における負性抵抗RLの決定方法。
【請求項6】
前記リーク抵抗Rzを4〜6MΩの間の値とすることを特徴とする請求項5に記載の水晶発振回路における負性抵抗RLの決定方法。
【請求項7】
最小帰還抵抗Rfmin=5MΩに対しては、前記負性抵抗RLの範囲は、
|RL|<1.25MΩ であり、
最小帰還抵抗Rfmin=10MΩに対しては、前記負性抵抗RLの範囲は、
|RL|<1.67MΩ であり、
最小帰還抵抗Rfmin=15MΩに対しては、前記負性抵抗RLの範囲は、
|RL|<1.88MΩ であり、
最小帰還抵抗Rfmin=20MΩに対しては、前記負性抵抗RLの範囲は、
|RL|<2.00MΩ である、
ことを特徴とする請求項6に記載の水晶発振回路における負性抵抗RLの決定方法。
【請求項8】
前記負性抵抗RLの最小値RLminは、発振余裕度M=|RL|/R1maxの式を用いて、M=5、R1max=60kΩとすることにより300kΩとすることを特徴とする請求項5〜7のいずれかの項に記載の水晶発振回路における負性抵抗RLの決定方法。
【請求項9】
請求項1〜4のいずれかの項に記載の水晶発振回路における負荷容量の決定方法、及び請求項5〜8のいずれかの項に記載の水晶発振回路における負性抵抗RLの決定方法を用いて水晶発振回路における負荷容量、及び水晶発振回路における負性抵抗RLをそれぞれ設計したことを特徴とする発振回路。
【請求項10】
請求項9に記載の発振回路を搭載したことを特徴とする電子機器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−191365(P2012−191365A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−52137(P2011−52137)
【出願日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】