説明

水晶発振回路の負荷容量の決定方法およびそれを用いた電子機器

【課題】本発明の目的は、水晶振動子を用いた発振回路の発振起動時間と負荷容量CL値の関係を明確にし、所望の発振起動時間から負荷容量CL値を決定することである。
【解決手段】本発明は、水晶振動子を用いた発振回路において、発振起動時間Tsと発振余裕度Mの関係式又は関係グラフを用いて発振余裕度Mから発振起動時間Ts(Ts0)を求める手段(A)と、発振起動時間Tsと負荷容量CLの関係式、及び駆動電流値Iosから、任意の駆動電流値Iosにおける発振起動時間Tsと負荷容量CLの関係式を求める手段(B)と、前記手段(B)において求められた発振起動時間Tsおよび負荷容量CLの関係式を用いて、前記手段(A)で求められた発振起動時間Ts0に対応する負荷容量CLを決定する手段(C)と、を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低消費電力の水晶発振回路を実現するための方法に関するもので、特に水晶発振回路を構成する負荷容量の決定方法およびそれを用いた電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
時計や携帯電話等の携帯機器において、当該機器の無充電による長時間動作や搭載される電池の充電頻度低減化の要求から、当該機器に用いられる水晶振動子等の圧電素子を組み込んだ発振回路の駆動電力の低減や発振回路の待機時(発振回路が発振した状態でかつ無負荷状態の時)における超低消費電力化がますます要求されている。
【0003】
図3は、水晶振動子を用いた典型的な発振回路であり、反転増幅器となるCMOSインバータIV01、CMOSインバータIV01の入力端子XCINと出力端子XCOUTとの間に接続された水晶振動子X2、CMOSインバータIV01の入力端子XCINと接地電位Vssの電源端子との間に接続された負荷容量Cgを構成する容量素子、およびCMOSインバータIV01の出力端子XCOUTと接地電位Vssの電源端子との間に接続された負荷容量Cdを構成する容量素子を有している。
【0004】
また、CMOSインバータIV01は、電源電圧Vddが共有される第1の電源端子と、接地電位が供給される第2の電源端子との間に直列接続されたPMOSトランジスタPM11とNMOSトランジスタNM11とからなるCMOSインバータおよび帰還抵抗Rfから構成されている。
CMOSインバータIV01のPMOSトランジスタPM11のソースと第1の電源端子との間、およびCMOSインバータIV02のNMOSトランジスタNM11と第2の電源端子との間には、水晶振動子X2を励振する駆動電流を制限する駆動電流調整用抵抗素子r1およびr2が接続されている。
【0005】
携帯機器等に搭載する発振回路は近年低消費電力化が要求されているが、そのためには発振回路における水晶振動子の駆動電流を低下させる必要がある。そのためには、発振回路におけるCMOSインバータの相互コンダクタンスGmを小さくすることが考えられる。しかし、相互コンダクタンスGmを小さくすると発振回路の発振余裕度Mが低下する場合がある。
【0006】
発振回路の発振余裕度Mは次式(1)で与えられる。
M=|−Gm|/{(ω2Cg・Cd)*(1/R1(max))}=+RL/R1(max)・・・(1)
ωは発振周波数の角周波数、RLは負性抵抗、R1(max)は水晶振動子の実効抵抗R1の最大値であり、通常は発振余裕度Mは5以上の値が要求される。
【0007】
上式において水晶振動子の実効抵抗R1は水晶振動子の小型化の要請から決定される値であるから、余り小さくすることはできない。従って、相互コンダクタンスGmを小さくしても発振回路の発振余裕度Mを維持するためには、CMOSインバータに外付けされる負荷容量を構成するコンデンサの負荷容量Cgおよび/または負荷容量Cdの値を小さくすれば良いことが分かる。それを実現するためには、発振回路の水晶振動子は、組み込まれるマイコン等のICに対して要求される低消費電力化の仕様に見合った負荷容量CLを有することが要求される。すなわち、既に出願人は従来から使用されている水晶振動子の負荷容量CLである12.5pFに対して、負荷容量CLの低減すなわち低CL化(3pF〜5pF)を提案してきた。(特許文献1)
【0008】
しかしながら、負荷容量CLを小さくすると、負荷容量CLの容量許容差と発振周波数の周波数偏差Δfの問題が顕著になる。たとえば、負荷容量CLが通常の容量許容差の範囲であるΔC(±5%)変化した場合の発振周波数の安定性Δf(ppm)は、負荷容量CLが12.5pFのときΔCが1.25pFで発振周波数の安定性Δfは7.3ppmとなり、負荷容量CLが6pFのときΔCが0.6pFで発振周波数の安定性Δfは13.2ppmとなり、負荷容量CLが3pFのときΔCが0.3pFで発振周波数の安定性Δfは20.5ppmとなる。
すなわち、負荷容量CL(3pF)では、従来の12.5pFの場合よりも2.8倍も周波数偏差が大きくなるので、負荷容量CLの低容量化(低CL化)を実現するためには、負荷容量CLの容量許容差に対する発振周波数の安定性を向上させる必要がある。
【0009】
図3における入出力端子間XCINおよびXOUT間の水晶振動子側の等価回路を図4に示す。水晶振動子X2には直列に負荷容量CLが接続されていて、水晶振動子は圧電効果により生ずる機械的共振を等価的に表したインダクタンスL1、容量C1、抵抗R1の直列共振回路に電極間容量C0が並列接続した回路として表される。また入出力端子間XCINおよびXCOUT間にはCMOS半導体基板や信号配線等により種々の浮遊容量が存在しているが、これらの(合成)浮遊容量をCsとすると、図5に示すように、負荷容量CLは浮遊容量Csと直列接続された外部(外付け)容量CgおよびCdとの並列接続となっている。
従って、
CL=Cs+Cg*Cd/(Cg+Cd)・・・(2)
となる。
(2)の関係を満足するようなCL値(2pF〜6pF)になるように、発振周波数にマッチングするような外付け容量素子CgおよびCdを選択すれば、発振周波数の安定性を向上できる。すなわち、負荷容量CLは浮遊容量Csと外部容量素子(コンデンサ)Cext{=Cg*Cd/(Cg+Cd)}の和であるため、負荷容量CLと浮遊容量Csとの差にするように、外部容量素子Cextの値を選定すれば、(2)式が満足され、水晶振動子の負荷容量CLと、水晶振動子から見た発振回路側の負荷容量がマッチング(整合)することを意味している。
【0010】
図6は水晶発振回路における駆動電流と負荷容量CLとの関係を示す図である。負荷容量が小さくなると駆動電流は顕著に小さくなることが分かる。たとえば、従来用いられている負荷容量12.5pFの駆動電流は約1.5μAであるが、負荷容量2.2pFの駆動電流は0.073μAとなり、駆動電流が約5%に低減している。このように、負荷容量CLを低減することは水晶発振回路の低消費電力化、しいてはその水晶発振回路を用いている電子機器の低電力化に大きく寄与できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2008−205658号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
図6から分かるように、負荷容量CLを小さくすると水晶発振回路の低消費電力化を実現できることが分かる。しかし、低CL化しても発振起動時間Tsとの関係が不明なため、実際に使用したときにどのくらいの時間で起動できるかが問題となる。発振するのか、あるいは、所望のTsを得るためにはどの程度の負荷容量にすれば良いかが分かると設計しやすい。また実際に発振回路にある値の低CL値を有する水晶振動子を組み込んで使用するときにも安心して使うことができる。従って、発振起動時間Tsと負荷容量CLとの関係を知ることが切望されている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の目的は、水晶振動子を用いた発振回路の発振起動時間Tsと負荷容量CLの関係を明確にし、所望の発振起動時間Tsにするためにはどの程度の負荷容量CLを用いれば良いかその方法を提供することである。具体的には以下の方法により行なう。
(1)本発明は、水晶振動子を用いた発振回路の負荷容量CLの決定方法であって、
発振起動時間Tsと発振余裕度Mの関係式又は関係グラフを用いて発振余裕度Mから発振起動時間Ts(Ts0)を求める手段(A)と、
発振起動時間Tsと負荷容量CLの関係式、及び駆動電流値Iosから、任意の駆動電流値Iosにおける発振起動時間Tsと負荷容量CLの関係式を求める手段(B)と、
前記手段(B)において求められた発振起動時間Tsおよび負荷容量CLの関係式を用いて、前記手段(A)で求められた発振起動時間Ts0に対応する負荷容量CLを決定する手段(C)と、
を含むことを特徴とする負荷容量CLの決定方法である。
(2)また、本発明において、前記手段(A)における発振起動時間Tsと発振余裕度Mの関係式は、M=a/(Ts)b (a、bは定数)
で示されることを特徴とする。
(3)また、本発明において、前記手段(A)における発振起動時間Tsと発振余裕度Mの関係式は、M=3.74(Ts)-0.70であることを特徴とする。
(4)また、本発明において、前記手段(B)における発振起動時間Tsと負荷容量CLの関係式は、Ts=c*(CL)2+d*(CL) +e (c、d、eは定数)
で示されることを特徴とする。
(5)また、本発明の前記手段(B)において、
事前に得られた少なくとも2つの駆動電流値Ios(Ios1、Ios2)における発振起動時間Tsおよび負荷容量CLの関係式は、
Ts=c1*(CL)2+d1*(CL)+e1 (Ios=Ios1)・・・式(1)
Ts=c2*(CL)2+d2*(CL)+e2 (Ios=Ios2)・・・式(2)であり、
式(1)および式(2)を用いて
任意の駆動電流値Iosのときの発振起動時間Tsと負荷容量CLの関係式
Ts=c0*(CL)2+d0*(CL)+e0 (駆動電流値Iosが任意の値(Ios0)の場合)・・・式(3)を決定し、
前記手段(C)において、式(3)および前記手段(A)で求めた発振起動時間Ts0から負荷容量CLを決定することを特徴とする。
(6)また、本発明の手段(B)において、発振起動時間Tsおよび負荷容量CLの関係式は、駆動電流値Iosをパラメータとして、
Ts=0.0191(CL)2+0.0487(CL)+0.0623 (Ios=160nAのとき)・・・式(4)
Ts=0.0424(CL)2−0.0030(CL)+0.1240 (Ios=95nAのとき)・・・式(5)
Ts=0.0558(CL)2+0.0316(CL)+0.1141 (Ios=70nAのとき)・・・式(6)であり、
使用する発振回路の駆動電流値Iosが、Ios≧95nAのときは式(4)と式(5)を用い、Ios≦95nAのときは式(5)と式(6)を用いて、任意の駆動電流値Iosにおける発振起動時間Tsおよび負荷容量CLの関係式Ts=α(CL)2+β(CL)+γ (駆動電流値Iosが任意の値(Ios0)の場合)・・・式(7)を求め(すなわち、式(4)式のα、βおよびγを決定し)、前記手段(C)において、
前記手段(B)において求められた式(7)を用いて負荷容量CLを決定することを特徴とする。
(7)また、本発明は、さらに上記の(1)〜(6)に記載した負荷容量CLの決定方法を用いて決定した負荷容量を有する水晶発振回路を搭載した電子機器である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、発振回路の駆動電流値Iosをパラメータとして、発振起動時間Tsと負荷容量CLとの間には2次式の関係があることが初めて明らかになった。すなわち、Ts=α*(CL)2+β(CL)+γ の関係式(α、β、γは定数)が成立されることを初めて発見した。発振余裕度Mと発振起動時間Tsとの関係式あるいは関係グラフより、要求値である発振余裕度M0から必要な発振起動時間Ts0が求められ、さらにこのTs0から本発明者が発見したTs=α*(CL)2+β(CL)+γ の関係式を用いて発振回路の負荷容量CLを決定できる。従って、最初に発振回路の負荷容量CLを決める必要はなく、発振回路の駆動電流Iosおよび発振余裕度Mという設計値を決めるだけで自動的に発振回路のCL値を決めることができ、設計が非常に容易となる。また、Ts値は1.0秒以下となるので、水晶発振回路の低CL化を実現でき、水晶発振回路の低消費電力化、並びにその結果として当該水晶発振回路を組み込んだ電子機器の低消費電力化も実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、種々のCL値を有する発振回路における発振開始時間Ts値との関係を発振回路の駆動電流Iosをパラメータとして示した図である。
【図2】図2は、水晶振動子を有する発振回路における発振余裕度Mと発振起動時間Tsとの関係を示したグラフである。
【図3】図3は、水晶振動子を用いた発振回路を示す図である。
【図4】図4は、図3における入出力端子間XCINおよびXOUT間の水晶振動子側の等価回路を示す図である。
【図5】図5は、負荷容量CLを構成する容量を示す図である。
【図6】図6は、水晶発振回路における駆動電流と負荷容量CLとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の目的は、水晶振動子を用いた発振回路の発振起動時間と負荷容量CL値の関係を明確にし、所望の発振開始時間にするためにはどの程度の負荷容量CL値を用いれば良いかその方法を提供することである。
【0017】
発振起動時間とは、水晶振動子を有する発振回路を機器に取り付けて電源を投入してから発振の波形が安定(飽和)するまでの時間を言うが、測定上の観点から正常な波形の振幅の90%に達するまでの時間と定義する。図2は、種々の水晶振動子を有するいろいろな発振回路における前述の発振余裕度Mと発振起動時間Tsとの関係を示した図である。図2から発振起動時間が長くなると発振余裕度Mが小さくなることが分かる。この図からもMを5以上に取らないと発振起動時間が1秒以上と長くなるとともにばらつきが大きくなり、実使用上問題が生じるおそれがある。
【0018】
図2から、Ts=3.74M-0.70の関係式が得られ、相関係数Rも0.985と非常に良い相関がある。今回のデータから上記の関係式が得られたが、一般には、
Ts=a*M-bの関係がある。(a、bは正の定数)発振余裕度Mは発振器の安全性から設計者などが決める値である。aおよびbは種々の水晶発振器を有する発振回路から求めることができる。
【0019】
負荷容量CLを小さくした低CL発振回路は、発振余裕度を大きく取れるので発振起動時間Tsを小さくできると考えられるが、発振起動時間Tsと負荷容量CLとの関係についてはこれまで余り明確でなかった。そこで本出願人が種々の低CL値を有する発振回路について発振起動時間Tsを測定したところ、発振起動時間Tsと負荷容量CLとの間には非常に密接な相関関係が存在することを見出した。
【0020】
図1は、種々の負荷容量CLの値(ただし、7pF以下の低い負荷容量値)を有する発振回路における発振起動時間Tsの測定値を発振回路の駆動電流値Iosをパラメータとしてプロットしたものである。この図から分かるように、駆動電流値Iosの大小にかかわらず、発振起動時間Tsが短くなると負荷容量CLが減少する。逆に、低い負荷容量CLを用いると発振起動時間Tsを短くできる。図2における発振余裕度Mとの関係で言えば、低い負荷容量CLを用いると発振余裕度Mは大きくなる。このことは、負性抵抗RL=−Gm/(2ωCL)2の関係から、低CLになると負性抵抗RLが大きくなり、上述の発振余裕度Mの定義(1)式に従いM=RL/R1maxが増えることからも説明できる。従来の高い負荷容量(CL>10pF、たとえば、12.5pF)を用いた場合には、駆動電流Iosを増やして発振余裕度Mを増加させる手法を取っていたため、消費電力の低減が困難であった。しかし、本出願人が追及している低CL化の手法を用いれば、負荷容量CLの値を小さくして発振余裕度Mを増加させることが可能となり、しかも発振起動時間Tsを簡単に1秒以下(図1から0.5秒以下も可能)にすることができ、高速起動も実現できる。すなわち、低CL発振子は高速で省電力な発振回路を容易に実現できる。
【0021】
図1から、これらの曲線に多項式を近似させるとIos=160nAのときTs(sec)=0.0191CL2+0.0487CL+0.0623(相関係数R=0.9999)、Ios=95nAのときTs(sec)=0.0424CL2−0.0030CL+0.1240(相関係数R=0.9999)、Ios=70nAのときTs(sec)=0.0558CL2+0.0316CL+0.1141(相関係数R=0.9999)となり、相関関係が非常に強い2次式で示される。すなわち、Iosによって関係式の係数は異なるが、Ts=α*CL2+β*CL+γの関係があることが分かった。これは新規の発見であり、この関係式を用いて所望の発振起動時間Tsを得るための負荷容量CLの値を決定することができる。図1のグラフからそれぞれの駆動電流において、Ts<0.5secの仕様を満たす非常に高速起動の水晶発振器を実現できる。ただし、発振起動時間Tsは発振子の時定数τ0(水晶発振子の場合は0.3sec)を超えないようにしなければならない。
【0022】
以下、本願発明の具体的方法についてより詳しく説明する。まず、発振回路の駆動電流値Ios0と発振余裕度M0を決定する。これらの値は接続する電子機器(たとえば、携帯電話や電子ブック等の携帯端末機器)によって設計者が適切な値を選定できる。次に図2等のような関係式(又はグラフ)を用いて事前に得られている関係式Ts=a*M-bより発振起動時間Ts(Ts0)を求める。すなわち、Ts0=a*M0-bとなる。自分で得た関係式がなければもちろん、Ts=3.74M-0.70を用いることもできる。(このときは、Ts0=3.74M0-0.70となる。)あるいは、自分の作製した図1のようなTsとMとの関係グラフからおおよそのTs0を求めても良い。自分の作製した関係グラフがなければもちろん、図1を使用しても良い。
【0023】
次に、事前に図1のようなデータを得ておく。最低2つの駆動電流Iosをパラメータとした発振起動時間Tsと負荷容量CLの関係を得る。非常に強い相関関係があるのでそれぞれの駆動電流Iosに対して最低3〜4個のデータでも良い。
これらから求めた最低2つの2次式
Ts=c1*(CL)2+d1*(CL)+e1 (Ios=Ios1)
Ts=c2*(CL)2+d2*(CL)+e2 (Ios=Ios2)
(Ios1>Ios2)を得る。
【0024】
そして3つの負荷容量CL値(x1、x2、x3)に対して、単純比例させて駆動電流Ios0における曲線Ts=c0*(CL)2+d0*(CL)+e0 (Ios=Ios0)を得る。たとえば、Ts(x1)atIos1=c1*(x1)2+d1*(x1)+e1、Ts(x1) atIos2=c2*(x2)2+d2*(x2)+e2から、Ts(x1) atIos0={(Ios0−Ios1)/(Ios1−Ios2)}*(Ts(x1)atIos1−Ts(x1) atIos2)+Ts(x1)atIos1を求める。すなわち、発振起動時間Tsは駆動電流Ios0の値に比例すると考えて計算する。同様にしてTs(x2) atIos0およびTs(x3) atIos0を得る。これら、3組の値、(x1、Ts(x1) atIos0)、(x2、Ts(x2) atIos0)および(x3、Ts(x3) atIos0)から駆動電流Ios0に関する発振起動時間Tsの式、すなわち発振起動時間Ts=c0*(CL)2+d0*(CL)+e0 (Ios=Ios0)を得る。(c0、d0およびe0が決定される。)これを基にして、発振起動時間Tsと発振余裕度Mの関係式又は関係グラフから得られた発振起動時間Ts0を代入した2次方程式Ts0=c0*(CL) 2+d0*(CL)+e0から、負荷容量CL値を求めることができる。
【0025】
この方法は、Ios0≧Ios1やIos0≦Ios2のとき、すなわち任意の駆動電流Ios0が駆動電流Ios1や駆動電流Ios2の外側に存在するときは、精度が悪くなるが、Ios1≧Ios0≧Ios2のとき、すなわち駆動電流Ios0が駆動電流Ios1や駆動電流Ios2の間にあるときはかなり精度が良い(単純比例を用いているからである)。特に駆動電流Ios1と駆動電流Ios2が近いときは発振起動時間Ts0に対して正確な負荷容量CL値を求めることができる。図1におけるように、3組の駆動電流Ios値に対する関係式を得られるときには、これらの間(すなわち、駆動電流Iosが160nA〜75nAの間)にある場合にはかなり正確な負荷容量CL値を得ることができる。
【0026】
すなわち、本願発明における手段(B)において、発振開始時かTsおよび負荷容量CLの関係式は、駆動電流値Iosをパラメータとして、
Ts=0.0191(CL)2+0.0487(CL)+0.0623 (Ios=160nAのとき)
Ts=0.0424(CL)2−0.0030(CL)+0.1240 (Ios=95nAのとき)
Ts=0.0558(CL)2+0.0316(CL)+0.1141 (Ios=70nAのとき)
であるから、使用する発振回路の駆動電流値をIos0としたとき、Ios≧95nAのときは上式の1番目、2番目の式を用い、Ios≦95nAのときは2番目、3番目の)式を用いて、単純比例で駆動電流値Ios=Ios0における関係式
Ts=α(CL)2+β(CL)+γ (Ios=Ios0のとき)を求め(すなわち、α、β、γを決定し)、本願発明の手段(C)において負荷容量CLを決定する。
【0027】
以上のように、本発明は、発振余裕度Mと発振起動時間Tsの関係曲線(式)又は関係グラフから発振余裕度M0に対応する発振起動時間Ts0を求める。そして、発振起動時間Tsおよび負荷容量CLの関係曲線(式)として得られた2次曲線Ts=α(CL)2+β(CL)+γ にTs0を代入して負荷容量値CLを決定することができる。
上述した本発明の負荷容量値CL決定方法により決定した水晶発振回路は、水晶発振器や電子機器に搭載して適用できる。たとえば、時計、携帯電話、携帯端末、ノートパソコン等の電池駆動の電子機器である。さらには省エネや省電力化を要求されている車載用電子機器、テレビ・冷蔵庫・エアコン等の家電製品など広範な電子機器にも適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、水晶振動子を用いた発振回路に用いることができる。特に低消費電力用の発振回路を設計する場合に有用である。また、水晶振動子を用いた発振回路を搭載した水晶発振器や電子機器等に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水晶振動子を用いた発振回路における負荷容量CLの決定方法であって、
発振起動時間Tsと発振余裕度Mの関係式又は関係グラフを用いて発振余裕度Mから発振起動時間Ts(Ts0)を求める手段(A)と、
発振起動時間Tsと負荷容量CLの関係式、及び駆動電流値Iosから、任意の駆動電流値Iosにおける発振起動時間Tsと負荷容量CLの関係式を求める手段(B)と、
前記手段(B)において求められた発振起動時間Tsおよび負荷容量CLの関係式を用いて、前記手段(A)で求められた発振起動時間Ts0に対応する負荷容量CLを決定する手段(C)と、
を含むことを特徴とする負荷容量CLの決定方法。
【請求項2】
前記手段(A)における発振起動時間Tsと発振余裕度Mの関係式は、
M=a/(Ts)b (a、bは定数)
で示されることを特徴とする請求項1に記載の負荷容量CLの決定方法。
【請求項3】
前記手段(A)における発振起動時間Tsと発振余裕度Mの関係式は、
M=3.74(Ts)-0.70であることを特徴とする請求項2に記載の負荷容量CLの決定方法。
【請求項4】
前記手段(B)における発振起動時間Tsと負荷容量CLの関係式は、
Ts=c*(CL)2+d*(CL) +e (c、d、eは定数)
で示されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかの項に記載の負荷容量CLの決定方法。
【請求項5】
前記手段(B)において、
事前に得られた少なくとも2つの駆動電流値Ios(Ios1、Ios2)における発振起動時間Tsおよび負荷容量CLの関係式は、
Ts=c1*(CL)2+d1*(CL)+e1 (Ios=Ios1)・・・式(1)
Ts=c2*(CL)2+d2*(CL)+e2 (Ios=Ios2)・・・式(2)であり、
式(1)および式(2)を用いて
任意の駆動電流値Iosのときの発振起動時間Tsと負荷容量CLの関係式
Ts=c0*(CL)2+d0*(CL)+e0 (駆動電流値Iosが任意の値(Ios0)の場合)・・・式(3)を決定し、
前記手段(C)において、式(3)および前記手段(A)で求めた発振起動時間Ts0から負荷容量CLを決定することを特徴とする請求項1〜4のいずれかの項に記載の負荷容量CLの決定方法。
【請求項6】
前記手段(B)において、
発振起動時間Tsおよび負荷容量CLの関係式は、駆動電流値Iosをパラメータとして、
Ts=0.0191(CL)2+0.0487(CL)+0.0623 (Ios=160nAのとき)・・・式(4)
Ts=0.0424(CL)2−0.0030(CL)+0.1240 (Ios=95nAのとき)・・・式(5)
Ts=0.0558(CL)2+0.0316(CL)+0.1141 (Ios=70nAのとき)・・・式(6)であり、
使用する発振回路の駆動電流値Iosが、Ios≧95nAのときは式(4)と式(5)を用い、Ios≦95nAのときは式(5)と式(6)を用いて、任意の駆動電流値Iosにおける発振起動時間Tsおよび負荷容量CLの関係式
Ts=α(CL)2+β(CL)+γ (駆動電流値Iosが任意の値(Ios0)の場合)・・・式(7)
を求め(すなわち、式(4)のα、βおよびγを決定し)、
前記手段(C)において、
前記手段(B)において求められた式(7)を用いて負荷容量CLを決定することを特徴とする請求項1〜5のいずれかの項に記載の負荷容量CLの決定方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかの項に記載の負荷容量CLの決定方法を用いて決定した負荷容量を有する水晶発振回路を搭載した電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−156875(P2012−156875A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−15446(P2011−15446)
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】