説明

水溶性薬物を含有する経口投与用ナノ粒子組成物及びその製造方法

本発明は、粒径500nm以下のナノ粒子を含む経口投与用組成物であって、荷電水溶性薬物が対イオン物質に結合した水溶性薬物と対イオン物質との複合体を0.1〜30重量%、脂質を0.5〜80重量%、ポリマーを0.5〜80重量%、及び乳化剤を1〜80重量%含有し、前記脂質と前記ポリマーとの重量比が1:0.05〜3の範囲内である経口投与用組成物、およびその製造方法に関するものである。本発明の組成物は、経口投与時の消化管吸収率が高く、ナノ粒子内の薬物封入率が高く、リパーゼに対して安定である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消化管吸収率が高められた水溶性薬物を含有する経口投与用ナノ粒子組成物及びその製造方法に関するものである。より詳しくは、本発明は、脂質及びポリマーで構成されたナノ粒子内の水溶性薬物の封入率が高められ、リパーゼに対して安定な経口投与用ナノ粒子組成物であって、当該ナノ粒子は、水溶性薬物を対イオン物質と結合させた後、脂質、ポリマー、及び乳化剤を加えて製造される組成物、及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生理活性物質のタンパク製剤を含有する水溶性薬物は、消化管内の安定性が低く、腸管壁に対する透過性が低いため、当該薬物については、通常、静脈注射が用いられてきた。しかしながら、静脈注射は、多くの患者の日常生活に不都合を招くため、水溶性薬物を経口投与可能な剤形に製剤化するための多くの努力がなされてきた。
【0003】
水溶性薬物を経口投与する場合、当該薬物は、pH及び消化酵素の作用によって化学的に分解され、消化管内での安定性が低下する。そのため、投与された薬物の大部分または一部分しかその作用を発揮することができず、経口投与時の薬理効果を充分発現させることができない。特に、pHの変化によって薬物の溶解性が低下したり、薬物が分解すると、消化管内酵素の作用によって当該薬物の有効性が低下し、生体利用効率は著しく減少する。このような問題を解決するため、当該薬物が外部の化学環境、例えば、pHや消化酵素に曝されないように、生体膜への親和性が高い脂質やポリマーに水溶性薬物を封入する製剤化研究が行われてきた。
【0004】
当該分野では、例えば、w/oエマルジョン、w/o/wエマルジョン、リポソームを用いた水溶性薬物用経口投与製剤が知られている。しかしながら、これらは、薬物封入率が不充分で、安定性も低いという欠点を抱えている。
【0005】
米国特許第6,004,534号には、例えば、ワクチンやアレルゲンなどの水溶性薬物を、そのための標的リポソームを用いることによって特定の組織に向かわせる(targeting)技術が開示されている。しかしながら、上記リポソーム内の薬物封入率は、約35%と低いという問題点がある。
【0006】
米国特許第6,191,105号には、インスリンポリマーをw/oマイクロエマルジョン製剤に製造する方法が開示されている。しかしながら、w/oエマルジョン構造は、一般に、体内への投与時の相転移によって破壊され得るため、水相に溶解した薬物は、油相によって保護されずに生体に直接曝され得る。
【0007】
米国特許第6,277,413号には、水溶性薬物が内側の水相に導入されたw/o/wエマルジョンの製造方法が開示されている。しかしながら、この特許では、製造されたエマルジョンの粒径は、10〜20マイクロメーターと非常に大きく、その製造過程で、内側の水相に封入された薬物が外側の水相に放出され易いため、上記エマルジョンの薬物封入率は低い。
【0008】
韓国特許公開公報第2002−66776号には、500nm以下のモノグリセリド脂質キャリアを用いた経口投与用インスリン製剤が開示されている。しかしながら、このキャリアは、脂質のみから構成されているため、体内リパーゼによって分解され得る。
【0009】
Journal of Controlled Release 69, p283-295(2000)には、薬物封入率が50%未満であって、粒径5μm以上のインスリン含有PLGAマイクロスフェアが開示されている。マイクロメータサイズの粒子は、消化管内に吸収されず、一般に、腸の上皮細胞表面で見出されるのに対し、100ナノメータサイズの粒子は、マイクロメータサイズの粒子に比べ、消化管内に15〜250倍以上吸収されると報告されている(Pharm. Res. 13(12) p1838-1845(1996))。従って、5μmサイズのPLGAマイクロスフェアは、インスリン封入率が低いだけでなく、ナノメータサイズの粒子に比べ、インスリンを効率的に供給することができない。
【0010】
更に、米国特許第5,962,024号には、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート又はメタアクリル酸メチルメタクリレート共重合体のような腸溶性ポリマーを用いて顆粒を製造するか、上記顆粒をコーティングすることによって、pH6.5以上で薬物を溶出する方法が開示されている。しかしながら、腸溶性ポリマーのみから形成されるマイクロスフェアは、上記ポリマーが消化管内で溶解すると、マイクロスフェア内に封入された薬物が消化管内に曝されるため、消化管内で不安定な薬物を安定化させることができないという短所を抱えている。
【0011】
一方、水溶性薬物は、脂溶性物質またはポリマーで構成されたキャリアに対する親和性が低いため、そのうちの極く少量のみしか、当該キャリア内に封入されない。従って、当該キャリアへの薬物封入率を高めるために、これらの電荷を除去し、水に対する溶解度を低くするべきである。
【0012】
国際公開第94/08599号には、インスリンをラウリル硫酸ナトリウムにイオン結合させた複合体を製造する方法が開示されている。この製造方法では、インスリン−ラウリル硫酸ナトリウムの複合体を有機溶媒に溶解した後、上記溶液を肺製剤または坐剤として用いている。しかしながら、経口投与の際、上記薬物は、直接、消化管に曝されるため、安定に維持することができない。
【0013】
更に、米国特許第5,858,410号には、水難溶性薬物を粉砕および微小流動化剤の使用によってナノ粒子にする方法が開示されている。しかし、この方法は、タンパク製剤などのように生体内で不安定な水溶性薬物に対しては、薬物が直接、生体内環境に曝されるため、適切でないという欠点を抱えている。
【0014】
前述したように、タンパク製剤を含有する生体内で不安定な水溶性薬物を経口投与するためには、消化管内リパーゼに対して安定なナノ粒子を設計することと、水溶性薬物は、薬物キャリア内に高収率で封入させることが必要である。これらの目的を達成するための技術要件は、以下のとおりである。
【0015】
第1に、ナノ粒子内に封入された薬物が消化管内で分解されることなく安定に維持されるためには、脂質ナノ粒子に含まれるポリマーを適切な量にし、in vivoでの安定性を高めるべきである。
【0016】
第2に、水溶性薬物を改変することによって脂溶性キャリアとの親和性を有するように、水溶性薬物を対イオン物質との複合体に製造した後、これと類似の親和性を有する脂質/ポリマーシステムを選択することにより、脂溶性キャリア内への水溶性薬物の封入率を高めるべきである。
【0017】
第3に、水溶性薬物と対イオン物質との複合体を含有する脂質/ポリマーのナノ粒子の粒径を最小化すべきである。また、ナノ粒子は、当該ナノ粒子内に薬物が封入され、外部環境に曝されることなく最大限の活性が維持されて体内で吸収されるように、製造されるべきである。
【発明の開示】
【0018】
本発明者らは、上記の問題点を解決し、前述した技術的課題を満足し得る薬物キャリアを開発するため、広範囲の研究を繰り返してきた。その結果、本発明者らは、水溶性薬物−対イオン物質の複合体、並びに所定比率の脂質及びポリマーなどから、粒径500nm以下の経口投与用ナノ粒子組成物を調製することによって、薬物封入率および生体内分解酵素に対する抵抗性が高められることを見出し、本発明を完成した。
【0019】
本発明の目的は、水溶性薬物と対イオン物質との複合体を含有することによって薬物封入率およびリパーゼに対する抵抗性が高められ、その結果、in vivoでの経口吸収率も高められた経口投与用ナノ粒子組成物、およびその製造方法を提供することにある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明は、粒径500nm以下のナノ粒子を含む経口投与用組成物であって、荷電水溶性薬物が対イオン物質に結合した水溶性薬物と対イオン物質との複合体を0.1〜30重量%、脂質を0.5〜80重量%、ポリマーを0.5〜80重量%、及び乳化剤を1〜80重量%含有し、前記脂質と前記ポリマーとの重量比が1:0.05〜3の範囲内である経口投与用組成物を提供する。上記脂質と上記ポリマーとの重量比は、好ましくは1:0.2〜1の範囲内である。
【0021】
更に、本発明は、本発明による経口投与用ナノ粒子組成物の製造方法を提供し、この方法は、下記工程を包含する:(a)荷電水溶性薬物を対イオン物質とイオン結合させ、水溶性薬物と対イオン物質との複合体を形成する工程;(b)得られた複合体に、脂質、ポリマー及び可溶化剤を加え、全混合液を溶解した後、得られた溶液を乳化剤含有水溶液に加えて均質な液相を得る工程;(c)工程(b)で得られた混合物から可溶化剤を除去する工程;及び(d)必要に応じて、微小流動化剤を用いて粒径を最小化する工程。
【0022】
本発明によれば、水溶性薬物は、ナノ粒子組成物内に70%以上の比率で封入され、パンクレアチン酵素液の存在下に80%以上の比率で残留され得る。
【0023】
また、本発明は、(a)荷電水溶性薬物を対イオン物質とイオン結合させ、水溶性薬物と対イオン物質との複合体を形成する工程;(b)得られた複合体に脂質及び可溶化剤を加え、全混合液を溶解した後、得られた溶液を、乳化剤およびポリマー含有水溶液に加えて均質な液相を得る工程;(c)工程(b)で得られた混合物から可溶化剤を除去する工程;及び(d)必要に応じて、微小流動化剤を用いて粒径を最小化する工程を包含する、本発明に係る経口投与用ナノ粒子組成物の製造方法を提供する。
【0024】
以下、本発明をより詳しく説明する。
【0025】
本発明の経口投与用ナノ粒子組成物は、荷電水溶性薬物が対イオン物質にイオン結合した水溶性薬物と対イオン物質との複合体を0.1〜30重量%、脂質を0.5〜80重量%、ポリマーを0.5〜80重量%、及び乳化剤を1〜80重量%含有し、前記脂質と前記ポリマーとの重量比が1:0.05〜3の範囲内であり、粒径500nm以下のナノ粒子を含有する。上記脂質と上記ポリマーとの重量比は、1:0.2〜1の範囲内であることが好ましい。
【0026】
上記水溶性薬物と対イオン物質との複合体は、荷電薬物を対イオン物質と反応させることによって得られる。有効成分として用いられる水溶性薬物は、水溶液中で帯電するものが良く、好ましくは、インスリン、エリスロポエチン、カルシトニン、成長ホルモン、インターフェロン、ソマトスタチンなどのペプチド/タンパク製剤、へパリン、セファ系抗生物質、アレンドロン酸ナトリウム、エチドロン酸ナトリウム、パミドロン酸ナトリウムなどからなる群から選択されるものである。
【0027】
正に荷電した薬物にイオン結合し得る陰性荷電物質は、オレイン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、カプロン酸ナトリウム、ラウリン酸ナトリウムなどのC8〜18の脂肪酸ナトリウム塩、胆汁酸のナトリウム塩、アルギン酸ナトリウム、及びカルボキシメチルセルロースナトリウムよりなる群から選択されることが好ましい。陰性荷電薬物にイオン結合し得る陽性荷電物質は、カルニチン塩、塩化ベンザルコニウム、セトリミドなどの第4級アンモニウム化合物から選択されることが好ましい。
【0028】
水溶性薬物と対イオン物質との複合体の含有量は、ナノ粒子組成物の全重量の0.1〜30重量%であることが好ましい。
【0029】
水溶性薬物が対イオン物質と複合体を形成すると、水溶性薬物自体の電荷が除去されるか弱められるため、脂溶性キャリアとの親和性が高められる。その結果、水溶性薬物は、脂溶性キャリア内に、より多く封入され得るようになる。下記実験1の表4に示すように、本発明の組成物は、高い薬物封入率を有している。
【0030】
水溶性薬物と対イオン物質との複合体中の、水溶性薬物と対イオン物質とのモル比は、水溶性薬物のイオン数を考慮して調整されるが、1:0.1〜20であることが好ましく、1:3〜10であることがより好ましい。
【0031】
上記脂質は、好ましくは、モノグリセリド、ジグリセリド、プロピレングリコール脂肪酸エステル(カプリオールなど)、グリセロール脂肪酸エステル(GELucierなど)、セトステアリルアルコール、セチルアルコールなどの脂肪族アルコールから選択される少なくとも一種以上であることが好ましく、ナノ粒子組成物の全重量の0.5〜80重量%で含有することが好ましく、0.5〜30重量%で含有することがより好ましい。
【0032】
上記ポリマーは、好ましくは、メタアクリル酸共重合体、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、セルロースアセテートフタレートなどの腸溶性ポリマー、セルラック、キトサン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びその誘導体、エチルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、アルギン酸ナトリウム、及びカルボマーから選択される一種またはそれ以上であることが好ましく、ナノ粒子組成物の全重量に対して0.5〜80重量%で含まれることが好ましく、0.5〜30重量%で含まれることがより好ましい。特に、腸溶性ポリマーを用いると、タンパク質のような胃酸に弱い薬物は破壊されることなく、腸溶性ポリマーの組成に応じて選択的に、小腸や大腸に容易に吸収され得る。
【0033】
上記ポリマーは、水に不溶性であるか、水に溶解されると粘性になるため、脂質ナノ粒子に添加すると、徐々に分解される。その結果、ナノ粒子内に封入された水溶性薬物の溶解をコントロールすることができる。また、上記ポリマーは、脂質ナノ粒子の表面を囲み、脂質分子の間に挿入されるため、ナノ粒子に対する酵素抵抗性が付与される。すなわち、ポリマーの添加は、リパーゼの作用による、ナノ粒子の構成成分である脂質の分解を防止できるため、ナノ粒子の構造が維持され得る。その結果、ナノ粒子内に封入されている水溶性薬物の化学的安定性は、顕著に改善され得る。
【0034】
ポリマーを脂質ナノ粒子組成物に添加する際、脂質ナノ粒子のサイズは、ポリマーの含有量に応じて変化させることができる。500nm以下のナノ粒子を得るためには、脂質とポリマーとの比率を適宜に調節しなければならない。
【0035】
上記乳化剤は、好ましくは、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体(商品名:PoloxamerTM)、ポリエチレングリコールアルキルエーテル(商品名:BrijTM)、ポリオキシエチレンヒマシ油(商品名:TweenTM)、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(商品名:SpanTM)、天然植物油トリグリセリドとポリアルキレンポリオールとのエステル交換生成物(商品名:LabrafilTM、LabrasolTM)、グリセロール脂肪酸エステル(商品名:PlurolTM oleique)、ビタミンEポリエチレングリコールサクシネート(ビタミンEポリエチレングリコールサクシネート)、レシチン、ラウリル硫酸ナトリウム、並びに胆汁酸及びその誘導体から選択される一種またはそれ以上であることが好ましく、ナノ粒子組成物の全重量に対して1〜80重量%で含まれることが好ましい。上記乳化剤は、30〜80重量%で含まれていることがより好ましい。製造された脂質/ポリマーのナノ粒子が水溶液中に分散されているとき、上記乳化剤は、この分散状態を安定化させる。
【0036】
上記可溶化剤は、C1〜8アルコール、ジメチルスルホキシド、ジクロロメタン、トルエン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、及び12−ヒドロキシステアレート(商品名:SolutolTM)から選択される一種またはそれ以上であることが好ましい。この可溶化剤は、ナノ粒子の製造中に除去され、結果的に、最終ナノ粒子組成物中に50重量%以下で存在することが好ましい。更に、上記の可溶化剤単独により、水溶性薬物と対イオン物質との複合体、ポリマー及び脂質などを溶解または分散させることができない場合は、上述した乳化剤を添加すれば、均質な溶液が得られる。
【0037】
更に、上記組成物は、通常用いられる経口吸収改善剤を0〜20重量%含有してもよい。上記経口吸収改善剤は、p−糖タンパク質抑制剤、カルニチン塩、キレート化剤などから選択されることが好ましい。
【0038】
また、本発明の組成物は、0.1〜30重量%の凍結保護剤で凍結乾燥することが好ましく、粉末に製造した後、カプセルまたは錠剤などの通常の経口用剤型にすることができる。上記凍結保護剤は、グルコース、マンニトール、ソルビトール、トレハロースなどの単糖類、アルギニンなどのアミノ酸、アルブミンなどのタンパク質であることが好ましい。
【0039】
本発明の経口投与用ナノ粒子組成物は、下記工程を包含するする製造方法によって製造される:(a)荷電水溶性薬物を対イオン物質とイオン結合させ、水溶性薬物と対イオン物質との複合体を形成する工程;(b)これに、脂質、ポリマー及び可溶化剤を加え、全混合液を溶解した後、得られた溶液を乳化剤含有水溶液に加えて均質な液相を得る工程;(c)工程b)で得られた混合物から可溶化剤を除去する工程;及び(d)必要に応じて、微小流動化剤を用いて粒径を最小化する工程。
【0040】
上記工程(a)において、水溶性薬物と対イオン物質との複合体は、上記薬物を水または適切な緩衝液に溶解し、薬物含有水溶液を得た後、上記薬物水溶液に対イオン物質を反応させることによって製造される。
【0041】
上記水溶性薬物と対イオン物質との最適比率は、薬物のイオン数を考慮しつつ、1:0.1〜20のモル比の範囲内で調節し、上記反応における未反応薬物を分析することによって決定される。このようにして得られた水溶性薬物と対イオン物質との複合体は、水で3回以上洗浄して未反応薬物を除去することが好ましい。
【0042】
特に、タンパク製剤と対イオン物質との複合体を製造する際には、タンパク製剤に電荷を付与するためにpH調整剤を用いてもよい。pH調整剤は、塩酸、リン酸、炭酸、クエン酸などの酸性化剤、水酸化ナトリウム、リン酸一水素ナトリウム/カリウム、リン酸二水素ナトリウム/カリウム、リン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウムなどのアルカリ化剤、またはこれらの混合液からなる緩衝液から選択されることが好ましく、薬物の0.1〜10倍量が用いられ得る。
【0043】
上記工程(b)〜(c)において、水溶性薬物と対イオン物質との複合体、および脂質を可溶化剤に溶解した後、この溶液をポリマー含有水溶液に入れて上記混合物を撹拌した後、可溶化剤を除去する。この工程において、ポリマーの溶解度を高めるために、酸、アルカリ及び乳化補助剤を0.5〜50重量%添加してもよく、この混合液を、好ましくは30〜70℃に加温してもよい。
【0044】
上記工程(c)において、上記可溶化剤の揮発性が高いときは、窒素ガスを注入するか、真空蒸発器を用いて除去してもよい。そうでないときは、透析によって除去してもよい。
【0045】
上記工程(d)において、上記溶液は、微小流動化剤を用い、100MPaで3〜10回環化することが好ましい。必要であれば、ナノ粒子の粒径は、加温することによって更に小さくすることができる。加温温度は、30〜70℃が好ましい。
【0046】
本発明の経口投与用組成物を製造する他の方法は、(a)荷電水溶性薬物を対イオン物質とイオン結合させ、水溶性薬物と対イオン物質との複合体を形成する工程;(b)これに、脂質、ポリマー及び可溶化剤を加え、全混合液を溶解した後、得られた溶液をポリマーおよび乳化剤含有水溶液に加えて均質な液相を得る工程;(c)工程(b)で得られた混合物から可溶化剤を除去する工程;及び(d)必要に応じて、微小流動化剤を用いて粒径を最小化する工程を包含している。
【0047】
このようにして得られたナノ粒子組成物は液状であるが、必要であれば、凍結保護剤を加えて凍結乾燥させ、粉末として得ることもできる。上記の凍結保護剤は、凍結乾燥の間、上記組成物に含まれる成分の変性を防止するために用いられる。凍結保護剤は、ナノ粒子組成物の全重量に対して0.1〜30重量%で用いることが好ましい。上記凍結保護剤は、ラクトース、マンニトール、トレハロースなどの単糖類、アルギニンなどのアミノ酸、アルブミンなどのタンパク質類が好ましい。
【0048】
上記の方法で得られた液体及び粉末の組成物は、手で振るなどの単純な物理的混合によって、容易に水に分散させることができる。分散系を形成する粒径は、乳化剤や薬物の性質に応じて500nm以下であり、従来の経口製剤に比べ、より小さいものである。本発明の経口投与用ナノ粒子組成物の粒径は、20〜300nmであることが好ましい。
【0049】
本発明のナノ粒子粉末組成物は、室温以下で密閉することによって長期間安定に保存することができ、使用前に水を加えて、分散液に製造することができる。
【0050】
更に、本発明のナノ粒子組成物は、他の吸収改善剤を添加して液剤、懸濁剤、カプセル剤、錠剤などに製剤化することもできる。固体製剤の場合、その経口生体利用効率は、腸用コーティングなどの通常用いられる製剤化技術によって、更に高められる。
【0051】
以下、本発明を下記実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明の範囲は、これらによって何ら限定されるべきではない。
【実施例】
【0052】
実施例1:インスリン含有経口投与用ナノ粒子組成物の製造
(1)インスリンと対イオン物質との複合体の製造
インスリン(Sigma)50mgをpH3のクエン酸緩衝液20mLに溶解し、pH3のクエン酸緩衝液80mLに溶解したドキュセートナトリウム(Aldrich)をインスリン1モルに対して、1:3、1:6、1:9のモル比で加えて反応させ、インスリンと対イオン物質との複合体を得た。反応完了後、上清中のインスリンを米国薬局方に記載のインスリン分析法によって分析し、下記表1の結果を得た。
【0053】
【表1】

【0054】
上記の表1に示すように、インスリンとドキュセートナトリウムのモル比が1:6以上になると、インスリンの大部分は、上記対イオン物質との複合体を形成した。従って、インスリンと対イオン物質が1:6のモル比で製造された複合体をpH3のクエン酸緩衝液及び水で、それぞれ、3回洗浄した後、次の工程に用いた。
【0055】
(2)インスリン含有経口投与用ナノ粒子組成物の製造
インスリン−ドキュセートナトリウムの複合体15mg、モノオレイン(TCI)60mgをエタノール10mLに溶解した。この溶液を、キトサン(Korean Chitosan)20mgとPoloxamer 407TM(BASF)200mgを含有する水溶液20mL中に加え、全混合液を撹拌して均質溶液を得た後、窒素ガスを注入してエタノールを除去した。キトサンの溶解度を高めるため、添加剤として1%のクエン酸を加えた。この脂質/ポリマーナノ粒子を、微小流動化剤であるEmulsiFlex−C5TM(Avestin)を用いて室温で100MPaのもと、10回環化させ、インスリン含有経口投与用ナノ粒子組成物を得た。
【0056】
(3)粒径と分布の測定
上記組成物の粒径および分散度は、得られた液体組成物200μLを蒸留水1mLに分散させた後、光子分光分析(ELS−8000TM、Otsuka electronics)で測定した。その結果、実施例1の液体組成物の平均粒径は83.0nm、分散度は0.300であった。
【0057】
比較例1
インスリン−対イオン物質の複合体の代わりにインスリンを用い、ポリマーも微小流動化剤も使用しないこと以外は実施例1と同様にして、液体組成物を製造した。実施例1の方法により、その粒径と分散度を測定した結果、平均粒径は117.4nm、分散度は0.251であった。
【0058】
比較例2
インスリン−対イオン物質の複合体の代わりにインスリンを用い、微小流動化剤を使用しないこと以外は実施例1と同様にして。液体組成物を製造した。実施例1の方法により、その粒径と分散度を測定した結果、平均粒径は241.8nm、分散度は0.090であった。
【0059】
比較例3
実施例1の方法で得られたインスリン−対イオン物質の複合体15mgとモノオレイン60mgを50℃で1時間、超音波分解した後、キトサン20mgとPoloxamer 407TMを200mg含有する1%クエン酸水溶液20mLに加え、再度、30分間超音波分解した。次に、微小流動化剤を用いて室温で100MPaのもと、10回環化させ、インスリン複合体含有液体組成物を得た。実施例1の方法により、その粒径と分散度を測定した結果、平均粒径は211.6nm、分散度は0.213であった。
【0060】
実施例1a
微小流動化剤を使用しないこと以外は実施例1と同様にして、液体組成物を製造した。実施例1の方法により、その粒径と分散度を測定した結果、平均粒径は234.3nm、分散度は0.291であった。
【0061】
実施例2:インスリン含有経口投与用ナノ粒子粉末製剤の製造
実施例1で得られた経口投与用ナノ粒子液体製剤を固形化するに当たり、ナノ粒子のサイズの上昇を最小化するため、経口投与用ナノ粒子液体製剤に5%のマンニトールを加えた。次に、この液体製剤を異なる凍結乾燥条件で固形化した後、水に分散させ、その粒径を測定した。この結果を下記表2に示す。
【0062】
【表2】

【0063】
上記の表2に示すように、粒径の変化を最小化するためには、<0℃の条件下で凍結乾燥を行なうことが好ましい。
【0064】
経口投与用ナノ粒子の液体製剤にマンニトールを0.5%、1%、2%、4%、及び5%の比率で加えた後、−25℃で6時間、引き続き、20℃で6時間、固形化させた。このようにして得られた固体を水に分散させた後、実施例1の方法により、その粒径を測定した。この結果を下記表3に示す。
【0065】
【表3】

上記の測定結果より、凍結保護剤の濃度が約5%のとき、粒径の変化を最も小さくすることができた。
【0066】
実施例3:インスリン含有経口投与用ナノ粒子製剤の製造2
実施例1において、ドキュセートナトリウムの代わりにラウリル硫酸ナトリウム(Sigma)を1:7の比率で用い、インスリンと対イオン物質との複合体を得た。このインスリンと対イオン物質との複合体、モノ−オレイン、ポリエチレングリコール2000を、それぞれ、15mg、45mg、90mg秤量し、10mLのエタノールに溶解した。同様の操作により、インスリン含有経口投与用ナノ粒子組成物を製造した。
【0067】
実施例1の方法により、その粒径を測定した結果、平均粒径は121nm、分散度は0.314であった。
【0068】
実施例4:インスリン含有経口投与用ナノ粒子組成物の製造3
モノオレインの代わりにLabrafacTM(Gattefosse)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、インスリン含有経口投与用ナノ粒子組成物を製造した。実施例1の方法により、その粒径を測定した結果、平均粒径は129.4nm、分散度は0.227であった。
【0069】
実施例5:インスリン含有経口投与用ナノ粒子組成物の製造4
キトサンの代わりにEudragitTM(Rohm)とEudragit STM(Rohm)の1:1の混合物60mgを用いたこと以外は実施例1と同様にして、インスリン含有経口用ナノ粒子組成物を製造した。実施例1の方法により、その粒径を測定した結果、平均粒径は194.2nm、分散度は0.128であった。
【0070】
比較例4
モノオレインも微小流動化剤も用いないこと以外は実施例5と同様にして、液体製剤を製造した。実施例1の方法により、その粒径を測定した結果、平均粒径は350.9nm、分散度は0.009であった。
【0071】
実施例6:セフトリアキソン含有経口投与用ナノ粒子の製造
(1)セフトリアキソンと対イオン物質との複合体の製造
セフトリアキソン(Hawon fine chemical)100mgを蒸留水20mLに溶解し、セフトリアキソンに対し、塩化ベンザルコニウム(Sigma)を1:2のモル比で秤量し、蒸留水に溶解した後、4℃で反応を行った。その上清を採取し、セフトリアキソンを米国薬局方に記載のセフトリアキソン分析法によって分析した。その結果、99.9%のセフトリアキソンが対イオン物質との複合体を形成していることが分かった。
【0072】
(2)セフトリアキソン含有経口用液体製剤の製造
セフトリアキソンと対イオン物質との複合体120mg、モノ−オレイン60mg、およびEudragit LTMとEudragit STMとの1:1の混合物30mgを15mLのエタノールに溶解した。この溶液をLabrasolTM(Gattefosse)375mg、Poloxamer 407TM 300mgを含有する水溶液30mLに入れ、全混合液を撹拌し、均質溶液を得た。実施例1の操作と同様にして、セフトリアキソン含有経口投与用ナノ粒子製剤を製造した。実施例1の方法により、その粒径を測定した結果、平均粒径は199.0nm、分散度は0.135であった。
【0073】
比較例5
セフトリアキソンと対イオン物質との複合体の代わりにセフトリアキソンを使用し、ポリマーも微小流動化剤も使用しないこと以外は実施例6と同様にして、液体製剤を製造した。実施例1の方法により、その粒径と分散度を測定した結果、平均粒径は149.4nm、分散度は0.124であった。
【0074】
実施例7:セフトリアキソン含有経口投与用ナノ粒子製剤の製造
セフトリアキソン−対イオン物質の複合体240mg、CapryolTM(Gattefosse)1200mgをエタノール15mLに溶解した。この溶液を、LabrasolTM 240mg、キトサン30mg、Poloxamer 407TM 300mgを含有する水溶液30mLに加え、全混合液を撹拌した。次に、実施例1と同様にして、セフトリアキソン含有経口投与用ナノ粒子製剤を製造した。キトサンの溶解度を高めるため、添加剤として、クエン酸を300mg加えた。実施例1の方法により、その粒径を測定した結果、平均粒径は290.1nm、分散度は0.197であった。
【0075】
実験1:薬物封入率の測定
上記の実施例1及び1a〜7、並びに比較例1〜5で製造した液体製剤500μLを蒸留水500μLに分散させた。次に、この分散液をCentricon YM−30TM(分画分子量:30,000、Milipore)に入れ、1500gの相対遠心力で60分間遠心分離した。上記のようにして分離した濾液中の薬物を分析し、ナノ粒子中の薬物封入効率を算出した。その結果を下記表4に示す。
【0076】
【表4】

【0077】
実験2:酵素分解性の評価−プロテアーゼ/リパーゼであるパンクレアチンによる分解
生体内にはリパーゼが存在するため、脂質からなるナノ粒子がリパーゼに対して安定であれば、脂質ナノ粒子内に封入されたインスリンは外部に曝されることもなく、プロテアーゼによって分解されることもない。上記の実施例および比較例の製剤について、タンパク質および脂質の分解酵素であるパンクレアチンに対するin vivoでの安定性を調べた。
【0078】
上記の実施例1、1a及び3〜5、並びに比較例1〜4で製造した液体製剤5mLを0.0067%パンクレアチン含有緩衝液pH7.4(USP等級)15mLに加え、37℃で0、1、3及び5時間反応させた。次に、インスリンの残量を測定し、下記表5に示した。
【0079】
【表5】

【0080】
上記の表4および表5に示すように、インスリン−対イオン物質との複合体、及び脂質/ポリマーを含有する実施例1〜5の製剤は、薬物封入率も酵素安定性も高かった。これに対し、脂質のみを含有する比較例1の製剤、およびポリマーのみを含有する比較例4の製剤は、酵素安定性が極めて低く、5時間後のパンクレアチンに対するインスリンの安定性は20%未満であった。
【0081】
特に、インスリン−対イオン物質の複合体からではなく、インスリンから製造された比較例1及び2のナノ粒子製剤は、薬物封入率が低かった。ポリマーを含有する比較例2の製剤は、表5に示すように、ポリマーを含有しない比較例1の製剤に比べ、酵素安定性が高かった。
【0082】
ナノ粒子製剤の製造において、微小流動化剤のみを用いて製造した比較例3の製剤は、まず、エタノールのような可溶化剤を用い、次に、微小流動化剤を用いて製造した実施例1の製剤に比べ、インスリン−対イオン物質の複合体の封入率も低く、酵素安定性も低かった。微小流動化剤を用いずに可溶化剤を用いて製造した実施例1aのナノ粒子製剤は、実施例1の製剤のように、薬物封入率も酵素安定性も高かった。
【0083】
上記に示すように、インスリン−対イオンの複合体からではなくインスリンから製造したナノ粒子製剤は、薬物封入率が低かったのに対し、脂質とポリマーとからなるナノ粒子製剤は、酵素安定性が高かった。更に、薬物封入率及び酵素安定性がより高いナノ粒子製剤を得るためには、微小流動化剤の使用だけでは不充分であり、可溶化剤を用いたナノ粒子製剤を前もって製造することが必要である。
【0084】
結論として、薬物−対イオン物質の複合体を形成した後、脂質とポリマーからなるキャリア内に上記複合体を封入して製造される本発明のナノ粒子製剤は、薬物封入率に優れているだけでなく、リパーゼおよびプロテアーゼに対する安定性にも非常に優れていることが確認された。
【0085】
実験3:動物への有効性の評価1
実施例1で製造した経口投与用ナノ粒子液体製剤を用い、動物実験を行なった。
【0086】
(1)糖尿病の誘発
体重が約180〜220gのSparaque Dawley系雄性正常ラットに、ストレプトゾシン(Sigma)45mg/kgを二日間隔で2回腹腔内注射し、1型糖尿病のラットを得た。一週間後、このラットを12時間絶食させた後、血液を採血して血糖値を測定した。その結果、血糖値が300mg/dL以上のラットを1型糖尿病ラットとみなして、次の実験に供した。血糖値は、Glucotrand2TM(Roche)を用いて測定した。
【0087】
(2)経口投与用ナノ粒子液体製剤に含まれるインスリン生理活性の測定
実施例1で製造したナノ粒子液体製剤2mLを生理食塩水2mLに分散し、3IU/kgのインスリン濃度で1型糖尿病ラットに筋肉内注射した。
【0088】
比較群として、pH7.4の緩衝液に希釈したインスリンを、3IU/kgのインスリン濃度で1型糖尿病ラットに筋肉内注射した。一定時間の間隔で、血液を尾静脈から集めた。
【0089】
本発明の経口投与用ナノ粒子液体製剤とインスリン溶液の生理活性を比較すると、図2に示すように、本発明のナノ粒子液体製剤では、インスリンの生理活性がそのまま保持されていることが確認された。従って、本発明の液体製剤を用い、以下の動物実験を行なった。
【0090】
(3)経口投与用ナノ粒子液体製剤の消化管内吸収試験
1)血糖値の測定
1型糖尿病ラットをエーテルで麻酔し、開腹した。その小腸を取出し、盲腸上部の5cm上方に、インスリン含有液体製剤を20IU/kgの濃度で投与した。次に、切開部分を縫合し、糖尿病ラットを動かし、自由に水を飲ませた。
【0091】
試験群として、実施例1、比較例1及び実施例1aの製剤を用いた。比較例1の製剤は、インスリン−対イオン物質の複合体もポリマーも含有しないナノ粒子製剤であるため、実施例1の製剤と比較すると、薬物封入率も酵素安定性も低かった。実施例1aの製剤は、薬物封入率と酵素安定性は高いが、微小流動化剤を用いていないため、実施例1の製剤に比べ、ナノ粒子製剤のサイズがより大きかった。比較群1として、インスリン含有リン酸緩衝液pH7.4を20IU/kgの容量で実施例1と同様のルートで投与した。比較群2として、インスリン注射液を0.2IU/kgの容量で皮下注射した。
【0092】
薬物投与後、0、0.5、1、1.5、2、3、5及び7時間目に、尾静脈から血液を採取し、血糖値を測定した。投与前の初期値を100%として血統値を測定した。
【0093】
図3に示すように、実施例1の製剤を投与すると、血糖値は約73%減少したのに対し、比較例1の製剤を投与すると、血糖値の低下は殆ど見られなかった。更に、微小流動化剤の使用を省略して製造した実施例1aの製剤の血糖値減少面積は、実施例1の約70%であった。
【0094】
上記に示すように、インスリン−対イオンの複合体でなく脂質キャリアにのみインスリンを封入したナノ粒子製剤では、in vivoで血糖値減少作用は殆ど見られなかった。また、血糖値減少作用は、脂質ナノ粒子製剤の製造時に微小流動化剤を用いて粒径を減少させることによって約40%上昇した。
【0095】
図4に示すように、実施例1の製剤を投与すると、インスリン0.2IU/kgを皮下注射した場合と極めて類似する血糖値減少作用が見られた。
【0096】
2)血中インスリン濃度の測定
血糖値は、上記の方法により測定した。実験群として、実施例1、比較例1及び実施例1aを使用し、対照群として、インスリンを含有しない経口投与用ナノ粒子液体製剤を実施例1と同様のルートで投与した。比較群には、インスリン注射液を0.2IU/kgの容量で皮下注射した。
【0097】
薬物投与後、0、0.5、1、1.5、2、3及び5時間目に尾静脈から血液を採取し、インスリン分析キット(Coat−a−countTM、Diagnostic Products Coropration)を用いて血中インスリン濃度を測定した。
【0098】
図5に示すように、インスリンを含有しない対照群では、血中インスリン濃度は20μIU/mL以下であるのに対し、実施例1の製剤では、血中最大濃度は約170μIU/mLであり、インスリン吸収率は非常に高かった。インスリン−対イオンの複合体でなく脂質キャリアのみにインスリンが封入された比較例1の製剤では、最大血中濃度時に、約15μIU/mLのインスリンのみが吸収された。微小流動化剤を用いない実施例1aの製剤では、最大血中濃度時に、約70μIU/mLのインスリンのみが吸収された。更に、初期インスリン濃度に関連した時間によるインスリン増加面積(AUC)を比較すると、実施例1の製剤は、実施例1aの製剤に比べて約140%増加した。これは、時間による血液濃度減少面積と比較した結果と類似している。
【0099】
ポリマー含有脂質キャリアに封入されたインスリン−対イオンの複合体、および更には、高圧モホジナイザーを用いた粒径の減少は、1型糖尿病ラットのインスリン吸収率を高めるために非常に効果的であることが分かった。
【0100】
図6に示すように、実施例1の製剤の投与は、初期の糖尿病患者に適用されるインスリン容量である0.2IU/kgを皮下注射したものと類似の血中インスリン濃度プロファイルを示した。
【0101】
実験4:動物に対する有効性の評価2
実施例6及び実施例7、並びに比較例5で製造したセフトリアキソン含有経口投与用ナノ粒子液体製剤を用い、動物実験を行った。
【0102】
(1)経口投与用ナノ粒子液体製剤の消化管内吸収実験
1)血糖値の測定
正常ラット(Sprague Dawley、雄、体重約200g)をエーテルで麻酔し、開腹した。その十二指腸を取出し、セフトリアキソン含有ナノ粒子液体製剤をセフトリアキソンとして40mg/kgの容量で投与した。
【0103】
試験群として、実施例6および実施例7、並びに比較例5の製剤を用いた。比較例5の製剤は、セフトリアキソン−対イオンの複合体もポリマーも含有しないため、実施例6に比べ、薬物封入率も低く、薬物の溶出を制御することができなかった。
【0104】
薬物投与後、0、0.5、1、1.5、2、3及び4時間目に尾静脈から血液を採取し、米国薬局方に記載のセフトリアキソン分析法によって分析した。血液は、3000rpmで10分間遠心分離した後、同量のアセトニトリルを入れて前処理した。
【0105】
比較群1として、水に溶解したセフトリアキソンを40mg/kgの容量で、実施例6と同じルートで投与した。
【0106】
比較群2として、生理食塩水に溶解したセフトリアキソンを20mg/kgの容量で静脈注射した。
【0107】
図7および図8に示すように、実施例6および7の製剤を投与したときの生体利用効率を静脈注射と比較すると、それぞれ、22.8%、35.1%であった。これに対し、セフトリアキソン水溶液を投与した比較群1では、セフトリアキソンは、in vivoで殆ど吸収されなかった。セフトリアキソンを脂質にのみ封入させて投与した比較例5の製剤は、本実施例の製剤が投与された群に比べ、最大血中濃度も低く、生体利用効率も約12.4%に過ぎなかった。実施例6および7の製剤では、比較例5の製剤を投与したときよりも、セフトリアキソンの血中濃度が、より緩やかに減少した。特に、セフトリアキソンを静脈注射した比較群2に比べ、初期の薬物濃度は低かったが、1.5時間後における薬物の血中濃度は、より高く維持されていた。この結果から、本発明の組成物は、注射剤に比べ、初期の高い血中濃度からの副作用を軽減し、且つ、薬効をより長時間持続できると考えられる。
【0108】
上記に示すように、本発明の組成物は、ナノ粒子内の水溶性薬物の封入率が高く、生体内のリパーゼ/プロテアーゼから薬物が保護されるため、消化管内吸収率も非常に高く、高い血中薬物濃度を示している。
【産業上の利用可能性】
【0109】
上述したように、本発明の経口投与用ナノ粒子組成物は、ナノ粒子における水溶性薬物の封入率が高く、消化管内酵素から不安定な薬物が保護されるため、消化管膜への吸収率も高い。その結果、水溶性薬物の帯電によってその経口吸収が制限されている当該水溶性薬物の生体利用効率を高めることが可能な薬物デリバリーシステムとして、非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】図1は、実験2において、有効成分としてインスリンを含有する本発明の経口投与用ナノ粒子組成物のパンクレアチン(プロテアーゼ/リパーゼ)に対する安定性を示すグラフである。
【図2】図2は、実験3(2)において、有効成分としてインスリンを含有する本発明の経口投与用ナノ粒子組成物を1型糖尿病ラットに腸内投与した後の相対的血糖値を示すグラフである。
【図3】図3は、実験3(3)1)において、有効成分としてインスリンを含有する本発明の経口投与用ナノ粒子組成物を1型糖尿病ラットに腸内投与した後の相対的血糖値を示すグラフである。
【図4】図4は、実験3(3)1)において、有効成分としてインスリンを含有する本発明の経口投与用ナノ粒子組成物を1型糖尿病ラットに腸内投与した後の相対的血糖値を示すグラフである。
【図5】図5は、実験3(3)2)において、有効成分としてインスリンを含有する本発明の経口投与用ナノ粒子組成物を1型糖尿病ラットに腸内投与した後のインスリン濃度を示すグラフである。
【図6】図6は、実験3(3)2)において、有効成分としてインスリンを含有する本発明の経口投与用ナノ粒子組成物を1型糖尿病ラットに腸内投与した後のインスリン濃度を示すグラフである。
【図7】図7は、実験4(1)1)において、有効成分としてセフトリアキソンを含有する本発明の経口投与用ナノ粒子組成物を正常ラットの十二指腸に投与した後のセフトリアキソン濃度を示すグラフである。
【図8】図8は、実験4(1)1)において、有効成分としてセフトリアキソンを含有する本発明の経口投与用ナノ粒子組成物を正常ラットの十二指腸に投与した後のセフトリアキソン濃度を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒径500nm以下のナノ粒子を含む経口投与用組成物であって、荷電水溶性薬物が対イオン物質に結合した水溶性薬物と対イオン物質との複合体を0.1〜30重量%、脂質を0.5〜80重量%、ポリマーを0.5〜80重量%、及び乳化剤を1〜80重量%含有し、前記脂質と前記ポリマーとの重量比が1:0.05〜3の範囲内である経口投与用組成物。
【請求項2】
前記水溶性薬物の70%以上が前記ナノ粒子に封入されている請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記水溶性薬物の80%以上が、パンクレアチンの存在下に保持されている請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記水溶性薬物が、インスリン、エリスロポエチン、カルシトニン、成長ホルモン、インターフェロン、及びソマトスタチンよりなる群から選択されるタンパク/ペプチド製剤である請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記水溶性薬物が、ヘパリン、セファ系抗生物質、アレンドロン酸ナトリウム、エチドロン酸ナトリウム、及びパミドロン酸ナトリウムよりなる群から選択される水中荷電薬物である請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記対イオン物質が、C8〜18の脂肪酸ナトリウム塩、胆汁酸のナトリウム塩、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、及びこれらの混合物よりなる群から選択されるアニオン化合物である請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記脂肪酸ナトリウム塩が、オレイン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、カプロン酸ナトリウム、及びラウリン酸ナトリウムよりなる群から選択される請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記対イオン物質が、カルニチン塩、塩化ベンザルコニウム、セトリミド、及びこれらの混合物よりなる群から選択されるカチオン化合物である請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記水溶性薬物と前記対イオン物質とのモル比が1:0.1〜20の範囲内である請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記水溶性薬物と前記対イオン物質とのモル比が1:3〜10の範囲内である請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記脂質と前記ポリマーとの重量比が1:0.2〜1の範囲内である請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
前記脂質は、モノグリセリド、ジグリセリド、プロピレングリコール脂肪酸エステル、グリセロール脂肪酸エステル、セトステアリルアルコール、セチルアルコール、及びこれらの混合物よりなる群から選択される脂肪族アルコールである請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
前記ポリマーは、メタアクリル酸共重合体、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、セルロースアセテートフタレート、セルラック、キトサン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びその誘導体、エチルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、アルギン酸ナトリウム、カルボマー、並びにこれらの混合物よりなる群から選択される請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
前記乳化剤は、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体、ポリエチレングリコールアルキルエーテル、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、天然植物油トリグリセリドとポリアルキレンポリオールとのエステル交換生成物、グリセロール脂肪酸エステル、ビタミンEポリエチレングリコールサクシネート、レシチン、ラウリル硫酸ナトリウム、胆汁酸及びその誘導体、並びにこれらの混合物よりなる群から選択される請求項1に記載の組成物。
【請求項15】
更に、50重量%以下の可溶化剤を含有する請求項1に記載の組成物。
【請求項16】
前記可溶化剤は、C1〜8アルコール、ジメチルスルホキシド、ジクロロメタン、トルエン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、及び12−ヒドロキシステアレートよりなる群から選択される請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
更に、0.1〜30重量%の凍結保護剤を含有する請求項1に記載の組成物。
【請求項18】
前記凍結保護剤は、グルコース、マンニトール、ソルビトール、トレハロース、アミノ酸、アルブミン、及びこれらの混合物よりなる群から選択される請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
前記ナノ粒子の粒径は20〜300nmの範囲内である請求項1に記載の組成物。
【請求項20】
下記工程を包含する請求項1に記載の経口投与用ナノ粒子組成物の製造方法:
(a)荷電水溶性薬物を対イオン物質とイオン結合させ、水溶性薬物と対イオン物質との複合体を形成する工程;
(b1)工程(a)から得られた複合体に脂質、ポリマー及び可溶化剤を加え、これらを溶解した後、得られた溶液を乳化剤含有水溶液に加えて均質な液相を得るか、又は
(b2)得られた複合体に、脂質及び可溶化剤を加えて溶解した後、得られた溶液をポリマー及び乳化剤含有水溶液に加えて均質な液相を得る工程;及び
(c)工程(b1)または(b2)で得られた混合物から可溶化剤を除去する工程。
【請求項21】
更に、(d)微小流動化剤を用いて粒径を最小化する工程を含む請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記工程(a)において、前記荷電水溶性薬物は、前記水溶性薬物をpH調整剤で処理し、電荷を付与して得られるものである請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記pH調整剤が、塩酸、リン酸、炭酸、クエン酸、水酸化ナトリウム、リン酸一水素ナトリウム/カリウム、リン酸二水素ナトリウム/カリウム、リン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、及びこれらの混合物よりなる群から選択される請求項22に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2007−517023(P2007−517023A)
【公表日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−546830(P2006−546830)
【出願日】平成16年12月24日(2004.12.24)
【国際出願番号】PCT/KR2004/003448
【国際公開番号】WO2005/061004
【国際公開日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【出願人】(500578515)サムヤン コーポレイション (20)
【Fターム(参考)】