説明

水熱ガス化反応器

【課題】金属を活性成分とする粒状触媒を充填してなる触媒充填塔を水熱ガス化反応器として用いる場合に、粒状触媒間の隙間が閉塞しにくい水熱ガス化反応器を提供する。
【解決手段】金属を活性成分とする粒状触媒aを充填してなる触媒充填塔4を備え、触媒充填塔4に粒状触媒aを充填率70%以上95%以下に充填するとともに、被処理物を含有する流体を触媒充填塔4下部から触媒充填塔4に流通させて、粒状触媒aが流動可能となるように流体を供給する流体供給部410a,420aを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水熱ガス化反応器に関し、具体的には、金属を活性成分とする粒状触媒を充填してなる触媒充填塔を備えた水熱ガス化反応器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水熱ガス化反応器は、触媒を固定化した触媒充填塔に有機物含有水を流通自在に構成したものが知られている(たとえば特許文献1参照)。このような触媒充填塔は、触媒充填塔の容積に対する、粒状触媒使用量を高めるために、通常触媒充填率を高く設定されている。つまり、触媒充填塔に粒状触媒を密に充填することにより流通される有機物が、より多くの触媒反応部位に接触し所望の反応を生起するよう設計される。
【0003】
しかし、密に充填された触媒充填塔に被処理物を含有する流体として、有機物含有水等を流通させると、前記有機物含有水に含まれる異物や、触媒反応等によって生じた副生成物が、前記粒状触媒層中に捕捉され、前記触媒間の隙間を閉塞してしまうことがある。また、触媒として粒状の担体に触媒成分を担持させてなる粒状触媒を用いる場合には、触媒自体の粉化等によって生じる微細粒子によっても前記粒状触媒間の隙間が閉塞されてしまう場合がある。
【0004】
尚、前記触媒としては、高活性の水熱ガス化反応を行える触媒として、ニッケル等の金属を活性成分とする粒状触媒が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−272644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
触媒充填塔における粒状触媒間の隙間が閉塞されると、前記触媒充填塔に供給される有機物含有水の供給圧が上昇してしまい、大きな供給動力が必要になり、エネルギー的に無駄が多くなるとともに、供給圧の上昇とともに触媒充填塔の内圧が上昇するため、触媒充填塔として耐圧性能の高いものを必要としたりする問題があった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、上記実情に鑑み、粒状触媒を充填してなる触媒充填塔を水熱ガス化反応器として用いる場合に、粒状触媒間の隙間の閉塞しにくい水熱ガス化反応器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
〔構成1〕
上記課題を解決するための本発明の特徴構成は、粒状触媒を充填してなる触媒充填塔を備えた水熱ガス化反応器であって、
前記触媒充填塔に前記粒状触媒を充填率70%以上95%以下に充填するとともに、被処理物を含有する流体を、前記触媒充填塔の下部から前記触媒充填塔に前記粒状触媒が流動可能となるように流体を供給する流体供給部を備えた点にある。
【0009】
〔作用効果1〕
上記構成の水熱ガス化反応器によると、金属を活性成分とする粒状触媒を充填してなる触媒充填塔を備えるから、活性の高い水熱ガス化反応を行うことができる。
【0010】
また、前記触媒充填塔に前記粒状触媒を充填率70%以上95%以下に充填すると、前記触媒充填塔内部には粒状触媒の流動可能な空間が存在する状態で、その触媒充填塔内部に、被処理物を含有する流体を供給することができる。すると、前記流体供給部からの前記流体の供給圧により、前記粒状触媒が前記空間に移動させられる。ここで、前記流体を、前記触媒充填塔下部から前記触媒充填塔に流通させると、前記流体が、前記粒状触媒を巻きあげつつ上昇して移動するので、前記粒状触媒を触媒充填塔内部で局所的に循環移動可能な環境とすることができる。この状態で、前記流体と前記粒状触媒との充分な接触を図ることができるようになり、水熱ガス化反応の効率を高めることとができるとともに、前記触媒粒子間の隙間に異物が存在したとしても、その異物を流体とともに流動移動させることができるようになる。その結果、その異物は、触媒粒子間の隙間を閉塞してしまうことなく、前記触媒反応塔外部に前記流体とともに排出されることとなり、前記触媒反応塔内の目詰まりは生じにくくなる。
【0011】
また、前記流体排出部は、前記粒状触媒を通過させずに前記流体および生成ガスを前記触媒充填塔上部から排出可能にするから、ガス化された被処理物は、容易に触媒充填塔外部に移流させて回収することができる。
【0012】
従って、触媒充填塔における粒状触媒間の隙間が閉塞されることによる、前記触媒充填塔に供給される有機物含有水の供給圧の上昇や、大きな供給動力が必要になったりする問題が起きにくくなる。また、円滑な水熱ガス化反応を行うことができるようになり、エネルギー的に効率良く、触媒充填塔に高度な耐久性が必要になったりすることのない水熱ガス化反応器とすることができるようになった。
【0013】
〔構成2〕
また、上記構成において、前記粒状触媒が、担体にニッケルを担持してなる見掛密度0.5〜10g/cm3の触媒であってもよい。
【0014】
〔作用効果2〕
前記粒状触媒として、担体に金属を担持してなる見掛密度0.5〜10g/cm3の触媒を用いると、粒状触媒の流動に伴う流動触媒同士の摩擦等に対する機械強度を高くすることができる。また、前記粒状触媒は、見掛密度を0.5〜10g/cm3としておくことにより、水を主成分とする流体に容易に流動させられる。前記粒状触媒の見掛密度の範囲は、0.5〜2g/cm3 であることがより好ましく、0.9〜1.2g/cm3であることがさらに好ましい。
【0015】
〔構成3〕
また、上記構成において、前記触媒充填塔が、内部を250℃〜300℃に加熱する加熱部を備えていてもよい。
〔作用効果3〕
上記構成によると、前記触媒は、たとえば、メタノール等に代表される被処理物(TOC)をより効率的に水熱ガス化することができ、被処理物を含有する流体を効率良く清浄化することができる。
【0016】
〔構成4〕
また、前記触媒充填塔に供給される流体を昇圧する昇圧部と、昇圧された流体を加熱する中空の加熱塔とを前記触媒充填塔の上流側に備えることができる。
【0017】
〔作用効果4〕
上記構成によると、昇圧部により、流体の供給圧を得ることができるとともに、前記中空の加熱塔により、触媒充填塔に供給される流体を、あらかじめ加熱することができる。ここで、あらかじめ加熱される流体は、熱により被処理物が変性するなどして副生成物を生じ、流体内に異物を生じる場合がある。しかし、このような異物は前記加熱塔が中空であることにより、加熱による副反応が生起したとしても、中空の流動性の高い部分での反応であるため、均一化して異物が生じにくく、また、異物が生じたとしても、容易に流体の流れの中から除外でき、前記触媒反応塔の内部に異物が侵入するのを抑制するのに寄与する。
【0018】
また、触媒充填塔に供給される流体が均一に余熱された状態で前記粒状触媒と接触するので、前記触媒充填塔内部での触媒反応がムラなく均一に行われる。その結果、安定して効率の良い触媒反応を行うことができる。
【発明の効果】
【0019】
従って、有機物を含有する排水の処理等に有用に用いられる水熱ガス化反応器を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の水熱ガス化反応器を示す図
【図2】本発明の水熱ガス化反応器の圧損の経時変化を示す図
【図3】種々の触媒充填塔を採用した水熱ガス化反応器の圧損の経時変化を示す図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の水熱ガス化反応器を説明する。尚、以下に好適な実施例を記すが、これら実施例はそれぞれ、本発明をより具体的に例示するために記載されたものであって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々変更が可能であり、本発明は、以下の記載に限定されるものではない。
【0022】
〔水熱ガス化反応器〕
本発明の水熱ガス化反応器は、原水タンク1に貯留された有機物含有水を昇圧して供給する昇圧ポンプ2を備え、前記昇圧ポンプ2から供給される有機物含有水を加熱する中空の加熱塔3と、内部に触媒を充填してなる触媒充填塔4を順に前記有機物含有水が流通されるように設けてある。前記触媒充填塔4は、第一触媒充填塔41および第二触媒充填塔42を直列に接続してなり、前記第一触媒充填塔41に供給された有機物含有水は、水熱ガス化作用を受けながら第二触媒充填塔42に流入し、前記第二触媒充填塔42から排出され、冷却器5により冷却され、保圧弁6を経由して大気開放されたのち、気液分離器4において生成したガスを分離回収されるとともに、処理済水(処理水)として外部に放出される。
【0023】
〔加熱塔〕
前記加熱塔3は、例えば、内径21mm、長さ2000mm(有効容積690mL)の容器30からなり、容器30の内部を加熱する加熱部31を備える。前記容器30は、前記昇圧ポンプ2から昇圧供給される有機物含有水を受け入れる流体供給部30aを下部に備えるとともに、加熱された有機物含有水を排出する流体排出部30bを上部に備える。
【0024】
また、前記加熱塔3には、流体供給部30aおよび流体排出部30bの近傍に前記容器30の温度を検知するセンサ(図示せず)を設けてあり、流量3L(リットル)/h、圧力8.83MPa(ゲージ圧)で供給された有機物含有水は、約295℃に昇温される。
【0025】
〔触媒充填塔〕
前記触媒充填塔4は、例えば、第一触媒充填塔41および第二触媒充填塔42を直列に接続して構成される。前記第一触媒充填塔41および第二触媒充填塔42は、それぞれ、内径21mm、長さ2000mm(触媒充填可能な有効容積625mL)の反応容器410、420からなり、内部に粒状触媒aを疎に(上部に空間をあけて)充填してあるとともに、反応容器410、420内部を加熱する加熱部411,421を備える。前記反応容器410、420は、有機物含有水を受け入れる流体供給部410a、420aを下部に備えるとともに、処理された有機物含有水および生成ガスを排出する流体排出部410b、420bを上部に備える。尚、前記流体排出部410b、420bにおいては、前記粒状触媒を通過させずに前記流体および生成ガスを前記触媒充填塔上部から排出可能にするスクリーン(図示せず)を設けてある。また、流体供給部410a、420aおよび流体排出部410b、420bの近傍に前記反応容器温度を検知するセンサ(図示せず)を設けてあり、前記加熱塔3から圧力8.83MPa(ゲージ圧)で供給された有機物含有水は、反応温度285℃に保持され、有機物含有水の水熱ガス化処理が行われる。
尚、前記触媒充填塔4としては、二塔設ける例を示したが、これに限らず、一塔としても良く、さらに多数塔設けてもよい。
【0026】
前記粒状触媒aとしては金属を活性成分とする触媒を用い、前記反応容器410、420の触媒充填有効容積の約70%〜95%を充填してある。
【0027】
〔粒状触媒〕
ここで用いられる触媒としては、金属を活性成分とする粒状触媒であれば任意のものを採用することができるが、好適には、炭素質担体あるいは金属酸化物担体を支持体として、貴金属および卑金属を含む遷移金属のような金属を担持した触媒が用いられる。さらに好適には、イオン交換樹脂にニッケル化合物の水溶液を作用させ、イオン交換により結合、担持させたニッケル担持高分子有機物を、450℃〜500℃にて焼成し、前記イオン交換樹脂を炭化させたものが用いられる。
【0028】
ここで用いられる担体としては、前記ニッケル担持高分子有機物は、炭化処理可能な高分子有機物にニッケルを担持させてなるものであれば、任意のものを採用することができるが、好適には、イオン交換樹脂にニッケル化合物の水溶液を作用させ、イオン交換により結合、担持させたものが好適に用いられる。イオン交換樹脂としては、強酸性イオン交換樹脂、弱酸性イオン交換樹脂のいずれも使用することができる。ニッケル化合物としては、水溶性のものであればいずれも用いることができる。ニッケル化合物は、前記高分子有機物の炭化処理後、前記炭化処理生成物に対して50%程度のニッケルが含有される量が適用される。
【0029】
〔後工程〕
前記触媒充填塔4から排出される水熱ガス化処理済水は冷却塔5で常温程度まで冷却されたのち、保圧弁7を経由して大気開放されたのち、気液分離器6において生成したガスを分離回収されるとともに、処理済水として外部に放出される。
【0030】
〔運転例〕
上記水熱ガス化反応器を用いて、下記処理条件にて有機物含有水を水熱ガス化処理したところ、触媒充填塔4における圧損は、図2のように推移した。尚、圧損は、昇圧ポンプ2による有機物含有水供給圧と、前記触媒充填塔4の出口側に達する有機物含有水の圧力の差として求めた。
【0031】
(処理条件)
有機物含有水:TOC15000mg/L(炭素換算)
(フェノール12090mg/L、イソプロピルアルコール5570mg/L、メチルエチルケトン3890mg/L、NaOH20830mg/L)
反応温度:285℃
反応容器出口圧:8.83MPa(ゲージ圧)
流量:3L/h
触媒充填塔の触媒充填率:第一触媒充填塔41の触媒充填率を81%、第二触媒充填塔42の触媒充填率を87%
【0032】
図2に示すように、上記水熱ガス化反応器によると400〜600時間の長期にわたる使用においても圧損の上昇がほとんど見られず、安定した水熱ガス化処理が行えることがわかる。また、触媒充填塔4の内部の粒状触媒を一旦取り出し、洗浄後再充填したところ(図2中600時間経過前後の実線部分で有機物含有水の供給停止、供給再開、破線部分で粒状触媒の洗浄を行っている。)、良好な処理状態が継続される事もわかった。
【0033】
〔比較運転例〕
(A)上記水熱ガス化反応器において、加熱塔3を用いずに、触媒充填塔4における粒状触媒aの充填率を100%とした以外は同様の運転条件として、有機物含有水を水熱ガス化処理したところ、触媒充填塔4における圧損は、図3(A)のように推移した。
【0034】
図3(A)に示すように、このような構成の水熱ガス化反応器においては、経時的に圧損が上昇していることがわかる。また、後述の加熱塔3を採用した場合に比べて、加熱塔3を採用しない場合では、圧損のバラツキが大きいこともわかった。
【0035】
(B)上記(A)における圧損上昇後の第一触媒充填塔41の目詰まりした触媒を洗浄して再充填し、同様の運転条件にて、有機物含有水を水熱ガス化処理したところ、触媒充填塔4における圧損は、図3(B)のように推移した。
【0036】
図3(B)に示すように、このような構成の水熱ガス化反応器においても、運転継続にともない、大きく圧損が上昇することがわかる。しかし、後述の加熱塔3を採用した場合、加熱塔3を採用しない系に比べて、圧損のバラツキが少なく、加熱塔3の導入により、触媒充填塔4入口付近における流体温度の安定化が寄与しているものと考えられる。尚、図3中破線部分は、粒状触媒の洗浄あるいは再充填を行い、環境の異なる条件下で触媒充填塔を再始動していることを示している。
【0037】
(C)上記(B)における圧損再上昇後の第一、第二触媒充填塔41,42の目詰まりした触媒を洗浄して再充填した。この際、第一触媒充填塔41の粒状触媒aを一部除去して、第一触媒充填塔41の触媒充填率を85%、第二触媒充填塔42の触媒充填率を90%とした状態で、同様の運転条件にて、有機物含有水を水熱ガス化処理したところ、触媒充填塔4における圧損は、図3(C)のように推移した。
【0038】
図3(C)に示すように、このような構成の水熱ガス化反応器においても、運転継続にともない、圧損が上昇しているが、触媒充填率100%の場合に比べて圧損の上昇速度が大きく抑制されていることがわかる。即ち、触媒充填塔4の粒状触媒充填率を下げておくことにより、粒状触媒aの目詰まりが生じにくくなっていることがわかった。
【0039】
さらに、実施形態における運転例のように、第一、第二触媒充填塔41,42をともに触媒充填率の低いものとしてあれば、さらに圧損が安定することから、やはり、粒状触媒aの目詰まりは、有機物含有水の流入側のみならず触媒充填塔4の広い範囲で同時進行していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の水熱ガス化反応器は、長期にわたって安定した水熱ガス化反応を行えるので、排水処理設備等へ適用して用いることができる。
【符号の説明】
【0041】
1 :原水タンク
2 :昇圧ポンプ
3 :加熱塔
30 :容器
30a :流体供給部
30b :流体排出部
31 :加熱部
4 :触媒充填塔
41 :第一触媒充填塔
410 :反応容器
410a :流体供給部
410b :流体排出部
411 :加熱部
42 :第二触媒充填塔
420 :反応容器
420a :流体供給部
420b :流体排出部
421 :加熱部
5 :冷却塔
6 :気液分離器
7 :保圧弁
a :粒状触媒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属を活性成分とする粒状触媒を充填してなる触媒充填塔を備えた水熱ガス化反応器であって、
前記触媒充填塔に前記粒状触媒を充填率70%以上95%以下に充填するとともに、被処理物を含有する流体を前記触媒充填塔の下部から前記触媒充填塔に流通させて、前記粒状触媒が流動可能となるように流体を供給する流体供給部を備えた水熱ガス化反応器。
【請求項2】
前記粒状触媒が、担体に金属を担持してなる見掛密度0.5〜10g/cm3の触媒である請求項1に記載の水熱ガス化反応器。
【請求項3】
前記触媒充填塔が、内部を250℃〜300℃に加熱する加熱部を備える請求項1または2に記載の水熱ガス化反応器。
【請求項4】
前記触媒充填塔に供給される流体を昇圧する昇圧部と、昇圧された流体を加熱する中空の加熱塔とを前記触媒充填塔の上流側に備えた請求項1〜3のいずれか一項に記載の水熱ガス化反応器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−214634(P2012−214634A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−80987(P2011−80987)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】