説明

水田作業車

【課題】走行速度が変わっても苗植付部4の苗植付装置42の圃場に対する昇降制御を適切に行える水田作業車を提供すること。
【解決手段】水田作業者の走行速度が速いと硬軟センサ47が圃場の土壌が硬いと判断する傾向にあり、逆に走行速度が遅いと硬軟センサ47が圃場の土壌が軟らかいと判断する傾向にあるため、走行速度が急激に変化すると硬軟センサ47の検出値が不適正に変化して不安定になり、苗植付部4の昇降制御における制御感度が不適正になるおそれがある。これに対処するため、本実施例では、所定時間内に油圧式無段変速装置22の変速比又はエンジン回転数が所定以上変化して水田作業者の走行速度が急激に大きく変化すると硬軟センサ47の検出結果を無視するように制御装置48を機能させ、苗植付部4の昇降シリンダ33の作動制御を停止する。こうして、硬軟センサ47の誤検出の影響を苗植付装置42が受けない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業機を備えた水田作業車の構成に関するものである。
【背景技術】
【0002】
乗用型田植機などの水田作業車は特開平5−41914号公報に記載の苗の植付深さを圃場の硬軟センサの検出値に基づいて制御する構成を備えている。
【特許文献1】特開平5−41914号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特開平5−41914号公報に記載の水田作業車は、苗の植付深さを圃場の硬軟センサの検出値に基づいて制御する構成を備えているが、水田作業車の走行速度に依存して硬軟センサの感度を変化させることについては全く考慮されていない。
【0004】
そのため、水田作業車の走行速度によっては苗植付部の昇降制御が適切でなくなることが考えられる。
そこで、本発明の課題は、走行速度が変わっても苗植付部の苗植付装置の圃場に対する昇降制御を適切に行える水田作業車を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1記載の発明は、車体に昇降自在に設けた農作業装置(4)と、該農作業装置(4)の圃場との接触部に圃場の硬さを検出する硬軟センサ(47)と、該硬軟センサ(47)の検出値に基づき農作業装置(4)の昇降制御の感度を補正して昇降制御をする制御装置(48)を設け、前記農作業装置(4)の昇降制御をする制御装置(48)は、走行速度が変化するときは、硬軟センサ(47)の検出値の変化を無視して苗作業装置(4)の昇降制御感度を設定することを特徴とする水田作業機である。
【発明の効果】
【0006】
水田作業機の走行速度が変化するとき、硬軟センサ(47)の検出値の変化を無視して苗植付部4の走行制御感度を設定することで、苗植付部4のが硬軟センサ(47)の誤検出の影響を受けないようにすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、図面と共に本発明の実施例について説明する。
農作業機の典型例である乗用施肥水田作業車の側面図を図1に示し、平面図を図2に示す。
走行車体2の後側に昇降リンク装置3を介して苗植付部4が昇降可能に装着され、さらに走行車体2の後部に施肥装置5の肥料タンク50等が設けられている。走行車体2の前部左右両側には、複数段づつの予備苗枠6、…が設けられている。
【0008】
走行車体2は、駆動輪である各左右一対の前輪10、10及び後輪11、11を備えた四輪駆動車両で、機体の前部にミッションケース12、その後方にエンジン13が設けられている。エンジン13の回転動力は、油圧式無段変速装置(HST)22を介してミッションケース12へ伝達される。そして、ミッションケース12内の主変速装置で変速された後、前輪10、10及び後輪11、11と、苗植付部4及び施肥装置5の各駆動部とに伝達される。
【0009】
エンジン13の上側には操縦席15が設置され、その前方に操向車輪である前輪10、10の操向ハンドル16が設けられている。図2に示すように左右の後輪11、11を個別に制動することのできる後輪ブレーキペダル17L、17Rがフロントカバー7の右脇に設けられている。また操縦席15の左脇には操作ボックス18が設けられ、自動操向で機体を直進させるときにONにする自動直進スイッチ、自動操向時における走行方位を設定する方位設定器等が操作ボックス18に配置されている。また、緊急時にエンジン13を停止させる緊急停止スイッチ19も設けられている。
なお本明細書では水田作業車の前進方向に向かって左右をそれぞれ左側と右側といい、前進方向を前側、後進方向を後側という。
【0010】
昇降リンク装置3は、前端側で回動自在に支持された互いに平行な1本の上リンク30と左右一対の下リンク31、31の後端部とに連結枠32が連結されており、該連結枠32に苗植付部4がローリングシリンダ34を介して自在に装着されている。昇降シリンダ33を作動させることにより、各リンク30、31が上下に回動し、苗植付部4がほぼ一定姿勢のまま昇降する。
【0011】
苗植付部4は6条植の構成で、フレームを兼ねる伝動ケース40、苗を載せて左右往復動し苗を一株づつ各条の苗取出口41a、…に供給する苗載台41、苗取出口41a、…に供給された苗を圃場に植付ける苗植付装置42、…等を備えている。苗植付部4の下部には中央にセンターフロート45、その左右両側にサイドフロート46、46がそれぞれ設けられており、植付作業時には、各フロートが泥面を整地しつつ滑走し、その整地跡に苗植付装置42、…により苗が植付けられる。
【0012】
前記サイドフロート46、46には圃場に先端部が突入する硬軟センサ47,47をそれぞれ設けている。該硬軟センサ47,47による圃場の硬さの検出値に応じてセンターフロート45の迎角センサ43の制御目標を変更して昇降制御感度を変え、昇降シリンダ33を作動させて苗植付装置42、…の苗植付高さを制御する構成である。
【0013】
施肥装置5は、肥料タンク50内の肥料を肥料繰出部51、…によって一定量づつ下方に繰り出し、その繰り出された肥料を施肥ホース52、…を通して施肥ガイド53、…まで移送し、該施肥ガイド53の前側に設けた作溝体54、…によって苗植付条の側部近傍に形成される施肥溝内に落とし込むようになっている。
【0014】
一般に、水田作業車の走行速度が速いと硬軟センサ47が圃場の土壌が硬いと判断する傾向にあり、逆に走行速度が遅いと硬軟センサ47が圃場の土壌が軟らかいと判断する傾向にあるため、走行速度が急激に変化すると硬軟センサ47の検出値が不適正に変化して不安定になり、苗植付部4の昇降制御における制御感度が不適正になるおそれがある。これに対処するため、本実施例では、所定時間内に油圧式無段変速装置22の変速比又はエンジン回転数が所定以上変化して水田作業車の走行速度が急激に大きく変化すると硬軟センサ47の検出結果を無視するように制御装置48を機能させ、苗植付部4の昇降シリンダ33の作動制御を停止する。
【0015】
こうして、水田作業車の走行速度が大きく変化すると、硬軟センサ値の変化を無視して苗植付装置42の昇降制御感度を直前の感度に設定するので、硬軟センサ47の誤検出の影響を苗植付装置42が受けない。
【0016】
本実施例の水田作業車は、操向ハンドル16を切ると苗植付部4をリフト位置に上げる制御機構を備えている。水田作業車が旋回後、苗植付部4を上げた状態から下降させたときは、その下降時の勢いで圃場の表土より苗植付装置42が沈み気味になり、硬軟センサ47が圃場の土壌が硬いと誤検出して苗植付部4が余計に沈み込むことになる。そのような不具合を防ぐために、水田作業車が旋回後、苗植付部4のリフト位置から下降し始めから一定時間の間は硬軟センサ47は圃場の硬さをセンシングしないようにする。
これは、上記苗植付部4のリフト位置から下降するときに、硬軟センサ47が作動していると、次のような不具合があるためである。
【0017】
すなわち、圃場の表土より苗植付装置42が沈み気味になると、硬軟センサ47は苗植付装置42を上向きに動かすような検出値を出力する。すなわち硬軟センサ47は圃場が硬いと判断するので、昇降制御の感度が鈍感になる。その結果、苗植付装置42を上昇させるための指令が遅れ気味となり、苗植付装置42をさらに下降させる制御して苗植付装置42が圃場に沈みがちになり易い。
【0018】
そこで、上記したように水田作業車が旋回後、苗植付部4のリフトから下降し始めから一定時間、硬軟センサ47はセンシングしないようにする。
また、本実施例では硬軟センサ47により左右のサイドフロート46,46の後ろ側が圃場の泥を深く沈み込んでいることが検出されると、苗植付装置42を浮き気味になるような制御をする。
【0019】
さらに、左右の硬軟センサ47,47により左右のサイドフロート46,46の沈み方に差異があると、サイドフロート46,46が圃場から浮いていて、ふらついていると判断して、苗植付装置42を下方に押さえるような制御をする。これは、苗植付装置42が圃場面から浮き過ぎていると苗が植付けられなくなる(浮き苗が発生する)おそれがあるので、苗植付装置42を下げる必要があるためである。
本実施例では上記した左右のサイドフロート46,46の沈み方に差異があると、苗植付装置42を下げるために、図3に示すように昇降制御の感度を鈍にして、苗植付装置42を下げる制御を行う。
【0020】
なお、操向ハンドル16を切ると苗植付部4の作動を停止させて上昇させる制御機構を備えている水田作業車においては、エンジン始動するためにキーをオンする時、操向ハンドル16が既に切られていて作業車が旋回モードにあると、苗植付部4が上昇しようとする。このようにエンジン始動時に、不用意にこの様な状態では操向ハンドル16を左右に切っていても、一度操向ハンドル16を直進状態に戻さない限り苗植付部4をリフトさせない制御機構を組み込んでいる。
【0021】
また、本実施例の水田作業車では、図4のように、畦クラッチ(図示せず)の「切」に連動して、液状肥料(ペースト)を肥料タンク50から圃場に送給するための施肥ポンプ55(図6)の回転数を低下させる。これは、畦クラッチの入・切に関係なく施肥ポンプ55の回転数は定速であるので、畦クラッチ「切」となっている苗植付条分の施肥を止めるとペースト(液状)肥料の吐出量が1条当りで多くなるおそれがあるためである。
【0022】
そのために、図5の水田作業車の平面図に示す畦クラッチレバー57の作動を検出する畦クラッチレバーセンサ60(図9)で畦クラッチの「切」を検出すると、施肥ポンプ55の回転数を図6に示すように、畦クラッチ「切」の数に比例して低下させる構成を採用する。こうして、各苗植付条の肥料吐出量を畦クラッチの入・切に関係なく、適正にすることができる。
【0023】
また、図6に示すペースト用の施肥ポンプ55は、ペースト施肥停止時にはポンプ55を所定時間の間、逆転させて施肥用のホース52とその先端のノズル56に残ったペーストが圃場に排出されないようにする。図7には施肥ポンプ55の正逆回転のタイムチャートであり、ポンプ停止直前に施肥ポンプ55を所定時間逆転させることを示す。
【0024】
また、施肥ポンプ55の正転により点播施肥を断続的に行う場合には図8に示すように2つのポンプ正転時の間では施肥ポンプ55を逆転させて、肥料を吐出さない間は施肥ポンプ55を逆転させて、施肥の中止を確実にすることで、点播精度(間欠肥料吐出)が安定的に行える。
【0025】
また、施肥ポンプ55の正転(肥料吐出)による点播施肥を断続的に行う場合に、ポンプ正転の間隔を変更する株間変更レバー58(図9)に連動して、肥料を吐出しない間(ポンプ55の正転と正転の間)にポンプ55を逆転させる回転速度を変更する制御を制御装置48(図9)で行う構成にしても良い。これは、株間により次のような不具合が生じるのを防ぐためである。
【0026】
すなわち、株間が大きな場合に施肥ポンプ55の逆転期間が長くなると、ノズル56付近に残っているペースト肥料がポンプ55側に戻り過ぎてポンプ55内にエアが入り込むおそれがある。また、株間が小さな場合には速やかにノズル56側に残っているペースト肥料をポンプ55側に戻しておかないと、次回の施肥時に速やかに施肥ができなくなる。
【0027】
そこで、株間が大のときはポンプ逆転時の回転数を比較的ゆっくりすることで、急激なポンプ回転数の変化を抑えて施肥量の安定化を図り、株間が小のときはポンプ逆転時の回転数を比較的速くして肥料吐出停止時の肥料漏れを防止して点播精度を向上させる。
【0028】
また、施肥ポンプ55の正転時及び逆転時ともに、作動開始終了付近ではポンプ55の回転速度が速くなるようにし、ポンプ作動中間部付近ではポンプ55の回転速度が遅くなるようにポンプ作動中の回転速度を設定することで点播精度の向上を図れる。
【0029】
図10には、ポンプを周期的に正逆転させて間欠的に施肥する構成において、正転または逆転の同側回転工程で、該工程の開始時および終了時の回転数を同側回転工程の中間時の回転数より高くなるように制御するポンプ回転数のタイムチャートを示す。
【0030】
図10に示すように、ポンプ正転と逆転との切替時に施肥ポンプ55の回転数差が大きくなるので、施肥停止時の施肥漏れ及び施肥吐出タイミングの遅れ等を防止でき、点播精度を向上させることができる。
上記施肥ポンプ55の正転及び逆転のタイミングは株間変更レバー58のレバー位置の検出値及び後輪回転数センサ61で回転数の検出値を基を用いて図9に示す制御ブロック図に示す制御機構に基づいて制御を行う。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、農作業機の苗植付作業などに利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施例の水田作業車の側面図である。
【図2】図1の水田作業車の平面図である。
【図3】図1の水田作業車の苗植付部の感度変更値と硬軟センサの検出値の関係を示す図である。
【図4】図1の水田作業車のポンプモータ駆動回転数と畦クラッチ「切」の関係を説明する図である。
【図5】図1の水田作業車の平面図(図2とは異なる例)である。
【図6】図1の水田作業車の施肥部の概略図である。
【図7】図1の水田作業車の施肥ポンプの正転と逆転のタイミングを説明する図である。
【図8】図1の水田作業車の施肥ポンプの正転と逆転のタイミングを説明する図である。
【図9】図1の水田作業車の制御ブロック図である。
【図10】図1の水田作業車のポンプ正転時と逆転時のポンプ回転数のタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0033】
2 走行車体 3 昇降リンク装置
4 農作業装置(苗植付部) 5 施肥装置
6 予備苗枠 7 フロントカバー
10 前輪 11 後輪
12 ミッションケース 13 エンジン
15 操縦席 16 操向ハンドル
17L、17R 後輪ブレーキペダル 18 操作ボックス
19 緊急停止スイッチ 22 油圧式無段変速装置
30 上リンク 31 下リンク
32 連結枠 33 昇降シリンダ
34 ローリングシリンダ 35 圧力制御バルブ
36 オイルフィルタ 37 下降規制レバー
38 下降規制バルブ 38a 一方向性弁
40 伝動ケース 41 苗載台
41a 苗取出口 42 苗植付装置
43 迎角センサ 45 センターフロート
46 サイドフロート 47 硬軟センサ
48 制御装置 50 肥料タンク
51 肥料繰出部 52 施肥ホース
53 施肥ガイド 54 作溝体
55 施肥ポンプ 56 ノズル
57 畦クラッチレバー 58 株間変更レバー
60 畦クラッチレバーセンサ 61 後輪回転数センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体に昇降自在に設けた農作業装置(4)と、該農作業装置(4)の圃場との接触部に圃場の硬さを検出する硬軟センサ(47)と、該硬軟センサ(47)の検出値に基づき農作業装置(4)の昇降制御の感度を補正して昇降制御する制御装置(48)を設け、
前記農作業装置(4)の昇降制御をする制御装置(48)は、走行速度が変化すときは、硬軟センサ(47)の検出値の変化を無視して苗作業装置(4)の昇降制御感度を設定することを特徴とする水田作業機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−345795(P2006−345795A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−177453(P2005−177453)
【出願日】平成17年6月17日(2005.6.17)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】