説明

水系塗料、それより得られる塗膜および塗装品

【課題】硬質および軟質のポリオレフィン樹脂や、ABS樹脂、PC樹脂に対して付着性、耐油脂性に優れ、かつ、耐スクラッチ性、ソフトフィール性が良好な塗膜を形成可能な水系塗料と、それより得られる塗膜および塗装品の提供。
【解決手段】バインダー樹脂、無機充填剤、湿潤剤を含有する水系塗料であって、前記バインダー樹脂は、ウレタン系樹脂40〜80質量%と、塩素化ポリオレフィン樹脂20〜50質量%と、アクリル系樹脂0〜40質量とからなり、前記無機充填剤が前記バインダー樹脂100質量部に対して、10〜120質量部であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系塗料、それより得られる塗膜および塗装品に関するものであり、例えば、ポリプロピレン、発泡ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー樹脂等のポリオレフィン系樹脂からなる基材への塗装に好適な水系塗料、それより得られる塗膜および塗装品に関する。
【背景技術】
【0002】
インストルメンツパネル、エアバックカバー、ダッシュボード等の自動車の内装品には、硬質のポリプロピレン(PP)樹脂、軟質のポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)樹脂、軟質の発泡ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(発泡TPO)樹脂等が用いられている。
これら内装品においては、通常その表面に塗装が施されるため、塗膜には、硬質のポリオレフィン樹脂と軟質のポリオレフィン樹脂の両方に対して優れた付着性が求められる。また、塗膜には、良好な耐油脂性、耐スクラッチ性(時計や指輪等の硬いものが接触しても損傷しにくい)、ソフトフィール性(触感が柔らかく、弾力性がある)も求められる。
【0003】
そこで、硬質および軟質のポリオレフィン樹脂の両方に対して付着性に優れた塗膜を形成できる塗料として、特許文献1には、アクリル変性塩素化ポリプロピレンとウレタン樹脂と相溶化剤とを含むバインダー樹脂と、ウレタン樹脂粒子を含有する艶消し塗料組成物が開示されている。
また、特許文献2には、塩素化ポリオレフィンの存在下でポリウレタン成分を合成し、該ポリウレタン成分と塩素化ポリオレフィンの存在下で(メタ)アクリレートモノマーとモノマー混合物を共重合させてなる樹脂組成物と、硬化剤とを少なくとも含む塗料が開示されている。
さらに、特許文献3には、塩素化ポリオレフィン変性樹脂と、軟質樹脂及び軟質ビーズを必須成分として含有する塗料組成物が開示されている。
また、特許文献4には、塩素化ポリオレフィン樹脂粒子を分散含有する水性分散液中の該塩素化ポリオレフィン樹脂粒子を、重合性単量体で膨潤せしめた後、該重合性単量体を重合して得られる変性樹脂粒子を含有する水性樹脂組成物を用いた水性塗料が開示されている。
【特許文献1】特開2005−290314号公報
【特許文献2】特開2001−302907号公報
【特許文献3】特許第3436903号公報
【特許文献4】特許第3346207号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1〜3に記載の塗料は溶剤系であるため環境適合性が低くかった。また、これらの塗料から得られる塗膜は、耐スクラッチ性やソフトフィール性が必ずしも十分ではなかった。
特許文献4に記載の塗料は、硬質のポリプロピレンに対しては良好な付着性を示すが、軟質の発泡ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーに対しては付着性が必ずしも十分ではなかった。また、該塗料から得られる塗膜は、耐スクラッチ性やソフトフィール性も十分ではなかった。
また、塗料には、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS樹脂)や、ポリカーボネート樹脂(PC樹脂)に対しても、付着性に優れることが求められる。
【0005】
本発明は上記事情を鑑みてなされたもので、硬質および軟質のポリオレフィン樹脂や、ABS樹脂、PC樹脂に対して付着性、耐油脂性に優れ、かつ、耐スクラッチ性、ソフトフィール性が良好な塗膜を形成可能な水系塗料と、それより得られる塗膜および塗装品の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の水系塗料は、バインダー樹脂、無機充填剤、湿潤剤を含有する水系塗料であって、前記バインダー樹脂は、ウレタン系樹脂40〜80質量%と、塩素化ポリオレフィン樹脂20〜50質量%と、アクリル系樹脂0〜40質量とからなり、前記無機充填剤が前記バインダー樹脂100質量部に対して、10〜120質量部であることを特徴とする。
ここで、前記塩素化ポリオレフィン樹脂は、塩素化度が25%以下であり、かつ分子量が30000以上であることが好ましい。
また、前記ウレタン系樹脂が、ポリカーボネート系ウレタン樹脂であることが好ましい。
さらに、前記湿潤剤が、当該水系塗料100質量%中、0.1〜3.0質量%であることが好ましい。
また、基材に塗布、乾燥して形成された塗膜の23℃における伸び率が30〜300%、破断強度が200N/cm以上であることが好ましい。
【0007】
また、本発明の塗膜は、前記水系塗料から形成されたことを特徴とする。
さらに、本発明の塗装品は、前記塗膜がポリオレフィン系樹脂からなる基材上に形成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、硬質および軟質のポリオレフィン樹脂や、ABS樹脂、PC樹脂に対して付着性、耐油脂性に優れ、かつ、耐スクラッチ性、ソフトフィール性が良好な塗膜を形成可能な水系塗料と、それより得られる塗膜および塗装品を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の水系塗料は、バインダー樹脂、無機充填剤、湿潤剤を含有する。
【0010】
<バインダー樹脂>
本発明に用いるバインダー樹脂は、ウレタン系樹脂40〜80質量%と、塩素化ポリオレフィン樹脂20〜50質量%と、アクリル系樹脂0〜40質量%とからなる。
ウレタン系樹脂としては、例えばポリカーボネート系ウレタン樹脂、ポリエステル系ウレタン樹脂、ポリエーテル系ウレタン樹脂、アクリル系ウレタン樹脂等が付着性や塗膜強靭性の点で好ましく、中でもポリカーボネート系ウレタン樹脂が好ましい。また、これらのエマルジョンを用いることが環境の点でさらに好ましい。
また、ウレタン系樹脂の伸び率と破断強度は、樹脂の種類により異なるが、伸び率が300〜800%が好ましく、破断強度は2000N/cm以上が好ましい。伸び率と破断強度が上記範囲内であると、水系塗料とした際に形成される塗膜はソフトフィール性がより良好となり、高級感も備える。また、耐スクラッチ性にも優れるため、例えば自動車のインストルメンツパネル等の塗装においては、意匠性にも適したものとなる。
【0011】
ウレタン系樹脂の含有量は、バインダー樹脂100質量%中、40〜80質量%であり、50〜70質量%が好ましい。含有量の下限値が上記値より小さいと耐スクラッチ性、ソフトフィール性が低くなる。一方、含有量の上限値が上記値より大きいとポリオレフィン系樹脂に対する付着性が低くなる。
【0012】
塩素化ポリオレフィン樹脂は、ポリプロピレン(PP)樹脂や発泡ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(発泡TPO)樹脂等のポリオレフィン系樹脂に対する付着性が高い。そのため、塩素化ポリオレフィン樹脂をバインダー樹脂として用いることにより、付着性の高い1液型の水系塗料とすることが可能である。また、塗装に際して、プライマー処理などの前処理等が不要であるため、1コート仕上げも可能となり、1液1コート型の水系塗料とすることができる。
【0013】
塩素化ポリオレフィン樹脂は、塩素化度が25%以下のものが好ましく、より好ましくは、10〜23%である。塩素化度の上限値が上記値より大きくなると、ポリオレフィン系樹脂に対する付着性が低くなる。また、分子量が30000以上のものが好ましく、より好ましくは50000〜200000である。分子量の下限値が上記値より小さくなると、耐スクラッチ性、耐油脂性が低くなる。
このような塩素化ポリオレフィン樹脂としては、例えば塩素化ポリプロピレン樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、塩素化ポリプロピレン−エチレン共重合樹脂、塩素化ポリエチレン−アクリル共重合樹脂等が挙げられる。中でも塩素化ポリプロピレン樹脂が好ましい。また、これらのエマルジョンを用いることが環境の点でさらに好ましい。
【0014】
塩素化ポリオレフィン樹脂の含有量は、バインダー樹脂100質量%中、20〜50質量%であり、25〜40質量%が好ましい。含有量の下限値が上記値より小さいとポリオレフィン系樹脂に対する付着性が低くなる。一方、含有量の上限値が上記値より大きいと耐スクラッチ性、ソフトフィール性が低くなる。
【0015】
アクリル系樹脂は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを共重合したものが例示でき、(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸等が挙げられる。また、これらのアクリルモノマーと共重合可能なモノマーを共重合させてもよい。共重合可能なモノマーとしては、マレイン酸、フタル酸、イタコン酸、酢酸ビニル、スチレン等が挙げられる。また、これらのエマルジョンを用いることが環境の点でさらに好ましい。
バインダー樹脂がアクリル系樹脂を含むことにより、耐スクラッチ性がより向上する。
【0016】
アクリル系樹脂の含有量は、バインダー樹脂100質量%中、0〜40質量%であり、好ましくは10〜30質量%である。含有量の上限値が上記値より大きいとポリオレフィン系樹脂に対する付着性、ソフトフィール性が低くなる。
【0017】
<無機充填剤>
無機充填剤を用いることにより、付着性の高い1液型の水系塗料とすることが可能である。
無機充填剤としては、体質顔料、着色顔料、光輝性顔料、シリカ等が挙げられる。中でも体質顔料が好ましい。
体質顔料としては、塗料に一般に使用されるものであれば特に制限はなく、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、タルククレー、硫酸バリウム、酸化ケイ素、ベンナイト炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、ケイソウ土等が挙げられる。中でもコスト面に優れることから、炭酸カルシウムが好ましい。
【0018】
無機充填剤の含有量は、バインダー樹脂中の樹脂固形分100質量部に対して、10〜120質量部であり、20〜100質量部が好ましい。含有量の下限値が上記値より小さいとPP樹脂に対する付着性が低くなる。一方、含有量の上限値が上記値より大きいと耐スクラッチ性が低くなる。
【0019】
<湿潤剤>
湿潤剤を含有することにより、水系塗料の濡れ性が向上するので、オレフィン系樹脂、ABS樹脂、PC樹脂等の基材と水系塗料との接触角を小さくすることが可能となる。接触角が小さくなるほど、基材に対する水系塗料の付着性が高まると共に、均一な塗膜が得られやすくなり、塗膜の耐スクラッチ性やソフトフィール性も向上するので好ましい。また、水系塗料の付着性が高まると耐油脂性も向上する。
湿潤剤としては、塗料に一般に使用されるものであれば特に制限はなく、具体的には、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、シリコン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤等が挙げられる。
湿潤剤の含有量は、水系塗料100質量%中、0.1〜3.0質量%が好ましく、0.2〜1.5質量%がより好ましい。含有量の下限値が上記値より小さいと濡れ性が悪くなるので、基材に対する付着性が低くなったり、塗膜の平滑性が悪くなったりするので、結果、塗膜の耐スクラッチ性やソフトフィール性が低下する。一方、含有量の上限値が上記値より大きいとポリオレフィン系樹脂に対する付着性が低下する。
【0020】
<その他>
本発明の水系塗料には、樹脂粒子、造膜助剤、着色のための着色剤や、各種添加剤が必要に応じて適宜含まれてもよい。
樹脂粒子としては、アクリル樹脂ビーズ、ウレタン樹脂ビーズ等の樹脂ビーズを使用することができる。具体的には、アクリル樹脂ビーズとしては、MR−7G(綜研化学(株)製)、ウレタン樹脂ビーズとしては、アートパールC−800(根上工業(株)製)等を例示することができ、これらの各種樹脂ビーズを1種単独で、又は2種以上併用してもよい。
樹脂粒子を水系塗料に用いることにより、塗膜のソフトフィール性がより向上する。
樹脂粒子の含有量は、バインダー樹脂中の樹脂固形分100質量部に対して、0〜100質量部が好ましく、10〜70質量部がより好ましい。含有量の上限値が上記値より大きいとポリオレフィン系樹脂に対する付着性が低くなる。
【0021】
造膜助剤としては、具体的には、メチルセルソルブ、カルビトール、トリエチレングリコール、テキサノール等を例示することができ、これらの各種造膜助剤を1種単独で、又は2種以上併用してもよい。
造膜助剤の含有量は、水系塗料100質量%中、0.1〜10質量%が好ましく、1〜5質量%がより好ましい。含有量の下限値が上記値より小さいと均一な塗膜が形成しにくくなり、基材に対する水系塗料の付着性が低下し、塗膜の耐スクラッチ性やソフトフィール性が低下する。一方、含有量の上限値が上記値より大きいと、特にエマルジョンの樹脂を用いた場合、エマルジョン粒子が不安定になり、貯蔵安定性が低下し、樹脂がゲル化する場合がある。
【0022】
着色剤としては、有機顔料や無機顔料等、通常の塗料に用いられる着色剤が適宜使用できる。
添加剤としては、艶消し剤、凍結安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、防藻剤、防カビ剤、防腐剤、増粘剤、消泡剤等、通常の塗料に用いられる添加剤が適宜使用できる。
【0023】
<水系塗料>
本発明の水系塗料は、上記バインダー樹脂に上述した無機充填剤、湿潤剤を加え撹拌混合したものに、任意成分と水を加えてさらに撹拌混合して得られる。
水の含有量は、水系塗料100質量%中、30〜80質量%が好ましく、40〜70質量%がより好ましい。
【0024】
このような水系塗料を基材に塗布、乾燥することによって、基材に対して付着性や耐油脂性に優れ、耐スクラッチ性、ソフトフィール性が良好な塗膜を形成することができる。
水系塗料と基材との接触角は40°以下であることが好ましく、より好ましくは30〜38°である。接触角とは、液体を固体表面に滴下した際に形成される液滴と、固体とのなす角度のことである。接触角が小さくなるほど液体は固体表面に濡れ広がりやすくなり付着性が向上する。一方、接触角が大きくなるほど液体は固体表面上で液滴状になりやすく(すなわち弾かれやすく)なり付着性が低下する。水系塗料と基材との接触角が上記値より大きくなると、基材に塗布した水系塗料が液滴状になりやすくなり、基材に対する付着性が低下し、均一な塗膜が形成しにくくなる。
【0025】
本発明の水系塗料により形成される塗膜は、23℃における伸び率が30〜300%であることが好ましく、より好ましくは50〜250%である。伸び率が上記範囲内であると、ソフトフィール性が向上する。
ところで、塗膜はソフトフィール性が向上する(すなわち、柔らかくて弾力性がある)だけでは耐スクラッチ性が不十分となる。そこで、23℃における塗膜の破断強度は200N/cm以上であることが好ましく、より好ましくは300〜1500N/cmである。破断強度が上記範囲内であると、耐スクラッチ性が向上する。
このように、塗膜の伸び率と破断強度を規定することにより、耐スクラッチ性とソフトフィール性を兼ね備えた塗膜が得られる。
【0026】
基材上に形成される塗膜の厚みには特に制限はなく適宜設定すればよいが、通常15〜40μmである。厚みが上記範囲より薄いと塗膜の強度が低下し、塗膜と基材との付着性や塗膜の耐油脂性が低下する傾向となる。一方、厚みが上記範囲より厚いとコストが嵩み、基材を立てて塗装した場合、塗膜がダレる可能性がでてくる。
【0027】
このような塗膜が形成される基材の材質としては、PP樹脂、発泡TPO樹脂、TPO樹脂等のポリオレフィン系樹脂が適しているが、その他の樹脂(ABS樹脂、PS樹脂等)、金属、木材等でもよい。
また、本発明の水系塗料を塗布する対象物としては、自動車のインストルメンツパネル、エアバックカバー、ダッシュボード等の各種樹脂成形品が適しているが、種々の金属製品、木製品等でもよい。このような対象物に水系塗料を塗布して得られる塗装品は、耐油脂性、耐スクラッチ性、ソフトフィール性を有する塗膜を備える。なお、水系塗料の塗布方法については特に限定はなく、刷毛塗り、スプレー、浸漬等公知の方法が採用できる。
【0028】
以上説明したように本発明の水系塗料は、バインダー樹脂として、ウレタン系樹脂を含有するので、得られる塗膜の耐スクラッチ性やソフトフィール性が向上する。また、バインダー樹脂として、塩素化ポリオレフィン樹脂を含有するので、特に硬質のPP樹脂と軟質の発泡TPO樹脂の両方に対してきわめて高い付着性を発揮できる。また、塗装に際して、プライマーや基材の前処理等が不要であり、1コート仕上げが可能であると共に、塗膜の硬化の硬化剤が不要であるため、1液1コート型の水系塗料とすることができる。
また、このような水系塗料は、無機充填剤を含有するので、特にPP樹脂に対する付着性を向上できる。さらに、湿潤剤を含有することにより、基材と水系塗料との接触角が小さくなるので、基材に対する付着性が向上し、基材に塗布した際に均一な塗膜を形成しやすくなる。また、樹脂粒子を含む場合は、ソフトフィール性がより向上した塗膜が得られる。
このような水系塗料は、汚れや傷が発生しやすく、しかもこれら汚れや傷が目立ちやすい自動車の内装品への使用に適しており、特に材質の異なる樹脂からなる基材が一体化した内装品(例えば、インストルメンツパネルとエアバックカバー等)への使用に好適である。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。なお、例中「部」とは「質量部」を、「%」とは「質量%」を示す。
ここで、実施例に用いた成分を以下に示す。
【0030】
ウレタン系樹脂:ポリカーボネート系ウレタン樹脂「タケラックW511」、三井化学ポリウレタン(株)製、伸び率450%、破断強度5700N/cm
塩素化ポリオレフィン(PO)樹脂:塩素化ポリプロピレン樹脂「スーパークロンE−503」、日本製紙ケミカル(株)製、塩素化度20%、分子量60000。
アクリル系樹脂:「ネオクリルA−2091」、DSM Neo Resins社製。
無機充填剤:体質顔料「タルクLMR−100」、富士タルク工業(株)製。
湿潤剤:「ポリフローKL245」、共栄社化学(株)製。
樹脂粒子:アクリル樹脂ビーズ「MR−7G」綜研化学(株)製。
造膜助剤:「テキサノール」イーストマンケミカルジャパン(株)製。
【0031】
[実施例1]
<水系塗料の調製>
ウレタン系樹脂70%と塩素化PO樹脂30%からなるバインダー樹脂100部に対して、無機充填剤20部と、当該水系塗料100質量%中の配合量が表1に示す量の湿潤剤と造膜助剤と水とを配合して、水系塗料を調製した。
【0032】
<伸び率および破断強度の測定>
得られた水系塗料を離型紙上に塗布し、厚さ100〜150μmの塗膜を作成した。これを48時間放置した後、10cm×1cmの大きさの測定片を切り出し、23℃にてさらに5時間放置後、テンシロン万能試験機(「RTC−1210」、(株)オリエンテック製)を使用して、伸び率および破断強度を測定した。結果を表1に示す。
【0033】
<評価>
塗膜は下記に示す方法で評価した。結果を表1に示す。
(付着性)
水系塗料をPP樹脂(三井化学(株)製)、発泡TPO樹脂((株)カネカ製)、ABS樹脂(日本エイアンドエル(株)製)、PC樹脂(住友ダウ(株)製)からなる各基材に塗布し、厚さ20〜30μmの塗膜を作成した。これを48時間放置した後、得られた塗膜面に1mm間隔で各基材に達する100個の碁盤目状の切り込みを作り、その上にセロファンテープを充分に密着させてから180度方向に引き剥がした。同一箇所で密着試験を3回繰り返し、塗膜の残存する程度で判断した。
○:良好(碁盤目に全く剥離部位がない)。
△:やや良好(碁盤目に角部剥離部位や点剥離部位がある)。
×:不良(碁盤目に1個以上の剥離部位がある)。
【0034】
(耐油脂性)
水系塗料をPP樹脂、発泡TPO樹脂、ABS樹脂、PC樹脂からなる各基材に塗布し、厚さ20〜30μmの塗膜を作成した。これを48時間放置した後、塗膜面に単位塗装面積に対して2g/100cmの牛脂(ナカライテスク(株)製:化学用牛脂)を塗布し、80℃雰囲気で7日間放置した後に牛脂を取り除いて、塗膜面に1mm間隔で基材に達する100個の碁盤目状の切り込みを作り、その上にセロファンテープを充分に密着させてから180度方向に引き剥がし、塗膜の残存する程度で判断した。
○:良好(碁盤目に全く剥離部位がない)。
△:やや良好(碁盤目に角部剥離部位や点剥離部位がある)。
×:不良(碁盤目に1個以上の剥離部位がある)。
【0035】
(耐スクラッチ性)
水系塗料をPP樹脂からなる基材に塗布し、厚さ20〜30μmの塗膜を作成した。得られた塗膜を、スクラッチテスター(テスター産業(株)製)で測定し、塗膜が破れ、素地が露出するかどうかを観察し、2段階で評価した。なお、スクラッチテスターの刃はタングステンを用いた。
○:素地が露出しない。
×:素地が露出する。
【0036】
(ソフトフィール性)
水系塗料をPP樹脂からなる基材に塗布し、厚さ20〜30μmの塗膜を作成した。得られた塗膜を手で触割った感触により2段階で評価した。
○:塗膜に弾性を感じ、かつ、指が滑らかに滑る。
×:塗膜に弾性を感じない、または、弾性を感じでも指が滑らかに滑らない。
【0037】
<実施例2〜5>
表1に示すように、使用する成分の配合量を変化させた以外は、実施例1と同様にして水系塗料を調製し、各種測定と評価を実施した。結果を表1に示す。
【0038】
<比較例1〜5>
表1に示すように、使用する成分の配合量を変化させた以外は、実施例1と同様にして水系塗料を調製し、各種測定と評価を実施した。結果を表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
表1より明らかなように、実施例で得られた水系塗料は、いずれもPP樹脂、発泡TPO樹脂、ABS樹脂、PC樹脂からなる各基材に対する付着性や耐油脂性が良好で、かつ、耐スクラッチ性やソフトフィール性に優れた塗膜を形成できた。また、各基材に対する塗膜の付着性や耐油脂性が良好なことから、塗料の状態であっても各基材に対して付着性が良好である。
一方、比較例1の水系塗料は、無機充填剤を含有していないため、PP樹脂からなる基材上に形成された塗膜は付着性や耐油脂性が実施例に比べて劣っていた。
比較例2の水系塗料は、バインダー樹脂中の塩素化PO樹脂の配合量が少ないため、PP樹脂、発泡TPO樹脂からなる各基材上に形成された塗膜は付着性や耐油脂性が実施例に比べて劣っていた。
比較例3の水系塗料は、湿潤剤を含まないため、PP樹脂、発泡TPO樹脂、PC樹脂からなる各基材上に形成された塗膜は均一かつ平滑ではなく、付着性や耐油脂性が実施例に比べて劣っていた。また、塗膜の破断強度が小さく、耐スクラッチ性やソフトフィール性が不十分であった。
比較例4の水系塗料は、バインダー樹脂中のウレタン系樹脂の配合量が少なく、アクリル系樹脂の配合量が多いため、発泡TPO樹脂からなる基材上に形成された塗膜は付着性や耐油脂性が実施例に比べて劣っていた。また、塗膜の伸び率が小さく、ソフトフィール性が不十分であった。
比較例5の水系塗料は、無機充填剤の配合量が多いため、塗膜のソフトフィール性は優れていたが、破断強度が小さく、耐スクラッチ性が不十分であった。
比較例6の水系塗料は、バインダー樹脂中の塩素化PO樹脂の配合量が多いため、PP樹脂、発泡TPO樹脂からなる各基材上に形成された塗膜は、耐油脂性が実施例に比べて劣っていた。また、破断強度が小さく、耐スクラッチ性やソフトフィール性が不十分であった。
このように、本発明の水系塗料は硬質のポリオレフィン樹脂(PP樹脂)と軟質のポリオレフィン樹脂(発泡TPO樹脂)の両方に対して優れた付着性を示す。また、PP樹脂および発泡TPO樹脂に対して優れた付着性と耐油脂性を示し、かつ、耐スクラッチ性、ソフトフィール性が良好な塗膜を形成できる。さらに、本発明の水系塗料は、ABS樹脂、PC樹脂に対しても同様の付着性を示し、付着性や耐油脂性に優れ、かつ、耐スクラッチ性、ソフトフィール性が良好な塗膜を形成できる。





【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダー樹脂、無機充填剤、湿潤剤を含有する水系塗料であって、
前記バインダー樹脂は、ウレタン系樹脂40〜80質量%と、塩素化ポリオレフィン樹脂20〜50質量%と、アクリル系樹脂0〜40質量とからなり、
前記無機充填剤が前記バインダー樹脂100質量部に対して、10〜120質量部であることを特徴とする水系塗料。
【請求項2】
前記塩素化ポリオレフィン樹脂は、塩素化度が25%以下であり、かつ分子量が30000以上であることを特徴とする請求項1に記載の水系塗料。
【請求項3】
前記ウレタン系樹脂が、ポリカーボネート系ウレタン樹脂であることを特徴とする請求項1又は2に記載の水系塗料。
【請求項4】
前記湿潤剤が、当該水系塗料100質量%中、0.1〜3.0質量%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の水系塗料。
【請求項5】
基材に塗布、乾燥して形成された塗膜の23℃における伸び率が30〜300%、破断強度が200N/cm以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の水系塗料。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の水系塗料から形成されたことを特徴とする塗膜。
【請求項7】
請求項6に記載の塗膜がポリオレフィン系樹脂からなる基材上に形成されたことを特徴とする塗装品。



【公開番号】特開2008−195857(P2008−195857A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−33526(P2007−33526)
【出願日】平成19年2月14日(2007.2.14)
【出願人】(000224123)藤倉化成株式会社 (124)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】