説明

水素を液化する方法及び装置

【課題】水素を液化する方法を提供すること。
【解決手段】加圧された液化天然ガス(「LNG」)との間接熱交換により水素フィードガスを予冷して、予冷された水素フィードガスと加圧された天然ガスを生成する工程と;該予冷された水素フィードガスの少なくとも一部を、少なくとも1つの冷媒との間接熱交換によりさらに冷却して、凝縮性水素ガスを生成する工程と;該凝縮性水素ガスの少なくとも一部を膨張させて少なくとも部分的に凝縮した水素を生成する工程とを含む方法によって水素が液化される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素ガスを液化する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
乗り物用の「クリーン」燃料として水素を使用することが提案されている。このような水素を動力とした乗り物は、水素燃料を燃料電池によってエネルギーに変換することができるか、又は内燃機関において水素燃料を使用することができる。
【0003】
水素燃料は、高圧ガス(典型的には20〜80MPaの最大使用圧力)の形態で乗り物に搭載して貯蔵することができる。しかしながら、高圧のガス状水素燃料の使用に関する1つの重大な問題は、高圧の水素貯蔵容器を破裂させる衝突の危険である。この破裂によって突然の爆発的な圧力波が生じ、すぐさま爆燃の炎が吹き上がる可能性がある。
【0004】
高圧ガスの形態で乗り物に搭載して水素を貯蔵することに代わる方法は、低温の貯蔵タンクに低圧で液体の形態において水素を貯蔵することである。液体水素のタンクが破裂すると水素が低圧で放出されるであろう。このような放出は、爆発の危険よりはむしろ引火の危険が生じることになる。液体水素の炎は、ガソリンの炎ほど厳しい結果とならないであろうということが研究によって示された。それゆえ、高圧ガスとしてよりはむしろ液体の形態で路上車両用の水素燃料を貯蔵することから明白な利点を得ることができる。
【0005】
水素を燃料のアウトレットへ配送する可能な方法が2つある。1つの方法は、水素をパイプラインにおいて又は路上若しくは路面車両によって輸送される高圧シリンダーにおいてガスとして配送することを伴う。第2の方法は、水素を断熱タンクローリーにおいて運ばれる液体として配送することを伴う。現在の技術と道路規則(ヨーロッパにおける44メートルトンの総重量制限)により、約600kgの水素ガス又は約4000kgの液体水素の有料荷重が可能である。これらの制限によって、道路での水素ガスの配送は、液体水素の配送に比べて非常に高価な方法となる。この点について、米国国立再生エネルギー当局による最近の報告(“Hydrogen Supply:Cost Estimate For Hydrogen Pathways−Scoping Analysis”;D.R.Simbeck and E.Chang,July 2002)では、液体水素の流通の総コスト(製造、配送及び分配を含む)をガス状水素の流通の場合の4.39ドル/kgと比べて3.66ドル/kgとして与えている。これらの数値は、11kWh/kgの冷却電力を用いることをベースとしている。したがって、ガス状水素の場合と比較すると、液体水素の製造及び配送には明らかなコストの利点がある。路上車両における水素の引渡価格は、必要とされる配送距離に強く依存しており、ガス状水素の引渡価格は、液体水素よりもはるかに速く増加する。
【0006】
燃料電池を動力とする自動車の見込まれる性能は、4000kgの液体水素の有料荷重が、燃料の配送に用いられる現在最も大きな石油タンクローリーに関する25メートルトンの石油有料荷重とほぼ同じ走行距離を提供することを示す。このような液体水素の量は、約30mpg(mile per gallon)(12.76km/リットル)の平均消費量を仮定すると、25メートルトンの石油について約200,000マイル(321,860km)の走行に相当する。様々な数値が、燃料電池を動力とする乗り物、例えば、自動車、SUV及びバンなどの可能性のある水素消費量について公表されており、それは50〜100mpgの等価エネルギー量から及ぶ。平均の75mpgを採用すると、水素燃料をアウトレットに提供するのに液体水素が使用された場合には、200,000マイル(321,860km)の走行を提供するのに約3.6メートルトンの液体水素を必要とし、燃料配送車両の数及びタイプは、現在の石油及びディーゼルをベースにした燃料系と比較して実質的には変わらないであろう。
【0007】
液体水素は、単段の往復型ポンプを用いて高圧、例えば、30〜80MPaにし、続いて加圧した液体を周囲温度に加熱することができる。本プロセスは、対応する水素ガスの圧縮系よりも低い資本及び運転コストを有する。それゆえ、加圧水素ガスによって走る乗り物のための燃料補給ステーションで超高圧水素ガス源として加圧液体水素を提供することがより経済的である。
【0008】
液化水素の大規模な製造は、ロケット燃料としての液体水素に関する需要の結果として1950年代に初めて実施された。しかしながら、液体水素は、水素を液化する際に必要とされる高電力消費により極端に高い製造コストをもたらすため、路上車両の燃料として経済的に使用できないことがすぐに明らかにされた。
【0009】
液体水素の製造技術は、より低い比電力消費及びより低い資本コストという目的に基づいて1950年代から絶え間なく開発されてきた。例えば、現在の液化装置は、往復型の膨張機関の代わりに遠心膨張器及びプレートフィン熱交換器を有し、巻きコイル型の多管式熱交換器を有する。加えて、より低い圧力の水素液化サイクルが、新しいオルソ−パラ転化触媒とともに開発された。熱交換器のフィード経路にオルソ−パラ転化触媒を置くこと、並びに機械的なデザインのレイアウト、制御、計装及び断熱システムを最適化することにより改善が見られた。
【0010】
初期の水素液化装置のサイクルは水素を作業流体として使用したが、より最近では、水素の代わりに、混合ガス、例えば、ネオンとヘリウムの混合ガスを用いて分子量を増加させ、水素が作業流体として使用される場合に必要とされるよりも少ない圧縮及び膨張段階の使用を可能としている。蒸発プロパン又は他の好適な冷媒を水素フィード冷却の最初の段階に使用すべきであることも提案されている。
【0011】
水素の液化プロセスは、典型的には2つの段階、即ち、最初の予冷段階とその後の液化段階を含む。水素は、再生液化サイクルで液化される前に、そのより高いジュール−トムソンの逆転温度、即ち、ガスが膨張して冷却される温度よりも低く冷却されなければならない。一般に、このことは、プロセスの液化段階に入る前に、水素を予冷工程において約−150℃未満に冷却しなければならないことを意味する。
【0012】
水素ガスは、約75%がオルソの形態、約25%がパラの形態で存在し、水素ガスがオルソの形態からパラの形態に転化しないで液化する場合には、結果として得られる液体水素は主としてパラの形態の液体水素よりも速く蒸発することが当技術分野で周知である。それゆえ、オルソ形態の水素ガスは、通常、液化の前にパラ形態に触媒的に転化される。
【0013】
幾つかの公知の水素液化プロセスにおいては、水素ガスは、気化液体窒素及び/又は低温窒素ガス流との間接熱交換により約−150℃未満に予冷される。このような公知プロセスの例は、水素ガスが溶解した液体窒素との間接熱交換により水素ガスが予冷される米国特許第3109725号明細書(Flynn)(特許文献1)に開示されている。更なる例は、水素ガスが液体窒素を用いて予冷され、次いで閉じたネオン冷却サイクルを用いてさらに冷却される米国特許第4765813号明細書(Gaumer,Jr.ら)(特許文献2)に開示されている。冷却サイクルにおける圧縮操作は、サイクルの高温端(warm end)で行われる。
【0014】
米国特許第2983585号明細書(Smith)(特許文献3)では、メタンを酸素で部分酸化して一酸化炭素と水素ガスを生成する部分酸化プロセスが開示されている。この部分酸化プロセスは、水素ガスが液体メタンとの間接熱交換により予冷され、続いて冷媒として液体窒素(「LIN」)を用いて閉じた外部冷却サイクルと接してさらに冷却される水素液化プロセスと統合されている。結果として得られるメタンは、液化プロセスの高温端で圧縮され、次いで部分酸化プロセスにフィードされる。結果として得られるガス状窒素は、閉じたサイクルの高温端で圧縮された後、液体メタンとの間接熱交換により凝縮されリサイクルされる。液体メタンの代わりに液化天然ガス(「LNG」)を使用できることが開示されている。
【0015】
米国特許第3347055号明細書(Blanchardら)(特許文献4)では、ガス状炭化水素の供給原料を反応させて水素ガスを生成し、次いで、統合された液化サイクルにおいてそれを液化するプロセスが開示されている。1つの実施態様においては、液化サイクルは、2つの閉じた冷却サイクル、即ち、冷媒に水素ガスを用いた第1サイクルと、窒素を用いた第2サイクルを含む。両方の冷却サイクルに関する圧縮は、サイクルの高温端で行われる。液化される水素はまた、液化炭化水素の供給原料ガスとの間接熱交換により冷却され、それにより水素製造プラントで使用するための1気圧(例えば、約0.1MPa)のガス状供給原料を生成する。炭化水素の供給原料は天然ガスでもよいことが開示されている。
【0016】
特開2002−243360号公報(特許文献5)では、水素フィードガスが加圧LNG流との間接熱交換により予冷される液化水素の製造方法が開示されている。予冷された水素ガスは液化装置にフィードされ、そこでLINと水素又はヘリウムより選択された冷媒の両方との間接熱交換によりさらに冷却される。次いで、さらに冷却された水素は膨張されて部分的に凝縮した水素が生成され、それを液体水素と水素蒸気に分離し、液体水素は取り出されて貯蔵され、水素蒸気は液化装置の周りでリサイクルされる。
【0017】
Quackは、本発明者らの知る限り、水素液化サイクルに関する最新の技術計画を最も正確に表している水素液化装置のサイクルを開示している(「Conceptual Design of a High Efficiency Large Capacity Hydrogen Liquefier」;Adv.Cryog.Eng.,Proc.CEC,Madison 2001,AIP,Vol.613,255−263)(非特許文献1)。Quackは、現在のところ達成可能ではないが将来現実的なものになると考えられる圧縮機及びタービンに関する効率的な数値を使用していることに留意すべきである。
【0018】
Quackによって提案された水素液化サイクルでは、二段階の予冷プロセスが用いられている。300K(約27℃)及び約8MPaの圧力の水素ガスが、冷媒としてのプロパンとの間接熱交換により220K(約−53℃)に冷却される。Quackは、他の冷媒、例えば、アンモニア、フルオロカーボン又は様々な冷媒の混合物もまたこの工程で使用できることを示唆している。次に、220K(約−53℃)の水素ガスは、冷媒としてのヘリウム/ネオン混合物との間接熱交換により約73K(約−200℃)にさらに冷却される。この蒸気圧縮冷却工程は、冷媒の混合物、又は冷媒として窒素、水素若しくはヘリウムを有するガスサイクルを使用できることが提案されている。次いで、73K(約−200℃)の水素ガスが、ヘリウムとネオンの混合物との間接熱交換により25K(約−248℃)にさらに冷却される。次いで、25K(約−248℃)のさらに冷却された水素ガスが膨張され、水素が部分的に液化される。このサイクルでは、プラントの低温端に任意選択で配置されたオルソ−パラ転化触媒が使用され、プラントの低温端の水素回路において熱交換器とタービンの通常の最適な配置がとられる。
【0019】
現在の水素液化プロセスでは、約2.5MPa(25bar)の典型的な圧力のガス状水素フィードに基づいて約11kWh/kg(液体水素)の割合で電力が消費される。Quackは、最良の将来の電力消費が、彼の提案した改良を利用した場合には5〜7kWh/kg(液体水素)になるであろうと提案している。
【0020】
Quackのサイクルの主な特徴の1つは、全ての主要な水素圧縮、プロパンのリサイクル圧縮、及びヘリウム/ネオンのリサイクル圧縮が、冷却水又は空冷などの圧縮熱を除去するための周囲温度冷却システムを用いて周囲温度付近の温度で作動するそれぞれの圧縮機ステージで行われるということである。しかしながら、熱交換器の低温端で作動する小さな低温フラッシュガス圧縮機がある。
【0021】
低温サイクルの高温端で作動する圧縮機は、通常、冷却剤として水又は空気を用いて冷却される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】米国特許第3109725号明細書
【特許文献2】米国特許第4765813号明細書
【特許文献3】米国特許第2983585号明細書
【特許文献4】米国特許第3347055号明細書
【特許文献5】特開2002−243360号公報
【非特許文献】
【0023】
【非特許文献1】「Conceptual Design of a High Efficiency Large Capacity Hydrogen Liquefier」;Adv.Cryog.Eng.,Proc.CEC,Madison 2001,AIP,Vol.613,255−263
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
本発明の好ましい実施態様の目的は、乗り物の燃料としての液体水素が、ガソリンに対して実現可能な経済的代替物となるだけでなく、路上車両又はパイプラインのいずれかによって乗り物の燃料補給ステーションに水素を配送する形態として加圧水素ガスよりも自然な選択となるよう、水素の液化プロセスにおける電力消費を低減することである。
【0025】
低分子量の水素は、遠心圧縮機が指定される場合には、非常に多くの圧縮段階を用いなければならず、所与の膨張効率に関して同様に、非常に多くの遠心膨張段階を連続して操作する必要があるということを意味する。現在のプラントでは、水素圧縮機は、往復型の装置であることがしばしばである。通常、多段の圧縮機と大きな再生熱交換器がプロセスの予冷工程に必要とされる。
【0026】
それゆえ、本発明の好ましい実施態様の目的はまた、水素の液化に関する資本コストを、特にはプロセスの予冷段階を対象とすることにより低減することである。
【0027】
LNGは、世界中の多くの場所で大量に生成されかつ貯蔵されている。このような貯蔵設備によってLNGを加圧及び加熱した後、得られた加圧天然ガスを産業界や家庭に分配するためパイプラインに供給する。本発明者らは、加圧LNGの内部エネルギーを用いて水素を液化するのに必要とされるエネルギーの一部を提供することにより、この巨大なエネルギー源を有効な電力に効率的に変換することが可能であり、それが水素液化プロセスにおける電力の低下として現れることを見出した。実際、加圧LNGは、水素の液化プラントから放出された低温の熱を吸収する。
【0028】
現在、LNGの貯蔵及び分配設備では、LNGを、通常、約3〜約10MPaの高圧にポンピングし、次いで、水浴中に浸漬された天然ガスバーナーを用いて加圧LNGを加熱する。バーナーは、燃料として周囲温度の天然ガスを少量、例えば、1〜2%使用して、残りの加圧LNGを周囲温度に加熱する。
【0029】
それゆえ、本発明の好ましい実施態様の更なる目的は、加圧LNGを加熱するのに必要とされる熱を提供するのに必要な加圧LNGの量を低減して、それによりパイプラインへ供給するための高圧天然ガスを生成することである。
【課題を解決するための手段】
【0030】
本発明の第1態様によれば、水素を液化する方法であって、
加圧された液化天然ガス(「LNG」)との間接熱交換により水素フィードガスを予冷して、予冷された水素フィードガスと加圧された天然ガスを生成する工程と;
該予冷された水素フィードガスの少なくとも一部を、少なくとも1つの冷媒との間接熱交換によりさらに冷却して、凝縮性水素フィードガスと少なくとも1つの温められた冷媒を生成する工程と;
該凝縮性水素フィードガスの少なくとも一部を膨張させて少なくとも部分的に凝縮した水素を生成する工程と
を含む、方法が提供される。
【0031】
「加圧LNG」という表現は、大気圧よりも高い(例えば、約0.1MPaよりも高い)圧力のLNGについて言うものである。加圧LNGは、好ましくは少なくとも2MPa、より好ましくは約3〜10MPaの圧力である。
【0032】
「凝縮性水素ガス」という表現は、その点でガスが膨張すると少なくとも部分的にガスが凝縮するような特定の温度及び圧力条件下の水素ガスについて言うものである。
【0033】
本発明者らは、水素フィードガスの温度を水素ガスに関するジュール−トムソンの逆転温度未満に低下させることが、加圧LNGとの間接熱交換により水素フィードガスを予冷することによって可能であることを見出した。本プロセスにおいては、この逆転温度は、通常、約−150℃である。幾つかの実施態様においては、予冷された水素フィードガスは、温度が−156℃、圧力が2.5MPaである。
【0034】
典型的には、本水素液化プロセスで用いられる加圧LNGの総量は、約10〜約60kg(LNG)/kg(液体水素)、例えば、約27〜約37kg(LNG)/kg(液体水素)である。
【0035】
好ましい実施態様においては、水素液化プロセスは、加圧LNGを生成するLNG設備と統合される。このような実施態様においては、本プロセスは、
LNG貯蔵設備からのLNGを加圧して加圧LNGを生成する工程と;
該加圧LNGを本プロセスで用いられる加圧LNGの少なくとも一部として使用する工程とをさらに含むことができる。
LNG貯蔵設備からのLNGは、約3〜約10MPaの圧力、通常は約6〜約8MPaの圧力にポンピングすることができる。LNGを約4MPa又は約8MPaの圧力にポンピングすることが公知である。
【0036】
加圧LNGは通常は約−158℃の温度である。加圧LNGが、水素フィードを予冷し、液化プロセスの圧縮熱を吸収するほど十分に低い温度でかつ十分な冷却容量を有するだけでなく、水素との間接熱交換による加圧LNGの加熱によって、加圧LNGを加熱するための燃焼に必要とされる天然ガスの量を低減し、パイプラインに供給するための高圧天然ガスを生成する。
【0037】
好ましい実施態様においては、本プロセスは、
当該又は少なくとも1つの温められた冷媒を低温圧縮して、少なくとも1つの圧縮冷媒を生成する工程と;
当該又は少なくとも1つの圧縮冷媒を冷却して、少なくとも1つの冷却された圧縮冷媒を生成する工程と;
当該又は少なくとも1つの冷却された圧縮冷媒をプロセス内でリサイクルする工程と
をさらに含む。
【0038】
「低温圧縮」という表現は、温められた冷媒が、周囲温度未満の温度、例えば、−50℃未満の低温で圧縮されるプロセス工程を含むものである。例えば、この表現は、圧縮機が予冷熱交換器の低温端の下流に位置されるプロセスを含むものである。この表現は、温められた冷媒が、サイクルの温度限界と、約−50℃未満の温度の冷却液、例えば、約−158℃の加圧LNGなどの低温冷却液によって取り除かれる圧縮熱との間の温度のような中間温度で圧縮されるプロセスを含むべきである。
【0039】
当該又は少なくとも1つの温められた冷媒の低温圧縮によって発生した熱は、加圧LNGを用いて取り除くことができる。低温圧縮の際の冷却は、加圧LNGとの間接熱交換によって提供されることが好ましい。好ましい実施態様においては、当該又は少なくとも1つの圧縮冷媒は、加圧LNGとの間接熱交換によって冷却される。プロセスの好ましい実施態様は、少なくとも1つの加圧LNGの中間冷却多段圧縮機を使用して低温圧縮を実施することを伴う。全ての圧縮熱は、加熱された加圧LNGにおいて取り除くことができる。
【0040】
加圧天然ガスは、通常、周囲温度でパイプラインに供給するようフィードされる。本プロセスによって生成する加熱された加圧LNGは、このようなパイプラインに直接フィードするには低温すぎる場合がある。それゆえ、水素の液化プロセスが天然ガス供給用パイプラインと統合される場合には、加熱された加圧LNGは、通常、パイプライン系にフィードされる前に周囲温度までさらに加熱される。
【0041】
本プロセスの好ましい実施態様の利点の1つは、予冷工程が、少なくとも原則として、当技術分野で公知の、予冷された水素フィードガスをさらに冷却する工程、及び凝縮性水素ガスを膨張させる工程というような任意の例と組み合わせて使用できることである。以下は、可能性な実施態様の一部のみの一般的な説明である。
【0042】
任意の好適な1つ又は複数の冷媒を用いて予冷された水素フィードガスをさらに冷却し、凝縮性水素ガスを生成することができる。好適な冷媒の例には、水素分子、ヘリウム、ネオン、窒素分子、及びそれらの混合ガスがある。当該又は少なくとも1つの冷媒は、水素分子を含むことが好ましい。好ましい実施態様においては、当該又は各冷媒は水素分子である。
【0043】
予冷された水素フィードガスをさらに冷却して凝縮性水素ガスを生成するのに必要とされる冷却操作を単一冷媒のみで提供することができる。あるいはまた、この冷却操作を提供するのに2以上の冷媒を使用することができる。このような代わりとなる実施態様においては、結果として生じる温められた冷媒の少なくとも1つを低温圧縮し、冷却して再利用できるが、温められた冷媒のそれぞれがこのように処理されることが好ましい。
【0044】
通常、凝縮性水素フィードガスの少なくとも一部を膨張させると、液体水素と水素蒸気の混合物が生成する。それゆえ、好ましい実施態様においては、本プロセスは、
前記混合物の少なくとも一部を液体水素と水素蒸気に分離する工程と;
予冷された水素フィードガスを該水素蒸気の少なくとも一部との間接熱交換によりさらに冷却して、それにより水素のフラッシュガスを生成する工程と
をさらに含む。
【0045】
水素蒸気によって提供される冷却操作は、予冷された水素フィードガスをさらに冷却して凝縮性水素ガスを形成するのに十分ではない場合がある。このような場合には、前記水素蒸気の少なくとも一部との間接熱交換によって、前記予冷された水素フィードガスから凝縮性水素ガスを生成するのに必要とされる冷却操作の一部しか提供されず、少なくとも1つの更なる冷媒が必要とされよう。
【0046】
好ましくは、水素フラッシュガスの少なくとも一部は低温圧縮され、圧縮された水素フラッシュガスが生成し、次いで、この圧縮水素フラッシュガスの少なくとも一部が加圧LNGとの間接熱交換により冷却され、冷却された圧縮水素フラッシュガスと加圧天然ガスが生成する。
【0047】
あるいはまた、本プロセスは、
予冷された水素フィードガスを前記当該又は少なくとも1つの冷媒との間接熱交換により冷却して、冷却された水素フィードガスを生成する工程と;
該冷却された水素フィードガスを第1部分と第2部分に分ける工程と;
該第1部分を膨張させて、膨張された水素ガスを生成する工程と;
予冷された水素フィードガスを該膨張された水素ガスの少なくとも一部との間接熱交換によりさらに冷却する工程と
をさらに含むことができる。
【0048】
このようなプロセスは、
前記冷却された水素フィードガスの第2部分を前記当該又は少なくとも1つの冷媒との間接熱交換により冷却して、さらに冷却された水素フィードガスを生成する工程と;
該さらに冷却された水素フィードガスを第1部分と第2部分に分ける工程と;
該第1部分を膨張させて、膨張された水素ガスを生成する工程と;
予冷された水素フィードガスを該膨張された水素ガスの少なくとも一部との間接熱交換によりさらに冷却する工程と
をさらに含むことができる。
【0049】
水素ガスを膨張させて冷却を提供するこれらのプロセスは、予冷された水素フィードガスをさらに冷却して凝縮性水素ガスを形成するのに十分な冷却操作を提供しない場合がある。このような場合には、前記膨張された水素ガスとの間接熱交換によって、前記予冷された水素フィードガスから凝縮性水素ガスを生成するのに必要とされる冷却操作の一部だけが提供される。
【0050】
これらのプロセスは、結果として生じる温められた膨張水素ガスの少なくとも一部を低温圧縮して圧縮水素ガスを生成する工程と;該圧縮水素ガスの少なくとも一部を加圧LNGとの間接熱交換により冷却して、冷却された圧縮水素ガスと加圧天然ガスを生成する工程とを含むことができる。
【0051】
水素フラッシュガスと膨張水素ガスのいずれも、個々に、予冷された水素フィードガスをさらに冷却して凝縮性水素ガスを形成するのに十分な冷却操作を提供しない実施態様においては、必要な冷却操作を提供するために、水素フラッシュガスと膨張水素ガスの両方を一緒に用いることができる。このような実施態様においては、本プロセスは、
前記冷却された圧縮水素フラッシュガスと前記膨張水素ガスを組み合わせて複合水素ガスを生成する工程と;
該複合水素ガスの少なくとも一部を低温圧縮して圧縮複合水素ガスを生成する工程と;
該圧縮複合水素ガスの少なくとも一部を加圧LNGとの間接熱交換により冷却して、冷却された圧縮複合水素ガスと加圧天然ガスを生成する工程と
をさらに含むことができる。
【0052】
本発明の好ましい実施態様の特徴は、水素液化装置の主熱交換器に入る予冷された水素フィードガスの温度が、水素フラッシュガスと主熱交換器を出る温められた膨張水素ガスの温度とほぼ同じ、例えば、約−156℃であるということである。
【0053】
好ましい実施態様においては、水素フィードガスは、液化プロセス内の下流からリサイクルされた水素ガスを含む。幾つかの実施態様においては、水素フィードガスは、リサイクル水素ガスと複合された少なくとも1つのフレッシュ水素ガス流を含む。それゆえ、リサイクル水素ガスは、フレッシュ水素ガスと同じ圧力である。他の実施態様においては、水素フィードガスは、少なくとも1つのフレッシュ水素ガス流から成る。これら他の実施態様においては、当該又は少なくとも1つのフレッシュ水素ガス流の圧力は、当該又は少なくとも1つの冷媒の圧力と同じであってもよいし異なってもよい。例えば、当該又は少なくとも1つの冷媒は、約1.5〜約3MPa、例えば、2.5MPaの圧力であることができ、水素フィードガスは、約1.5〜約3MPa、例えば、2.5MPaの圧力であることができるか、又は約8〜約12MPa、例えば、10MPaの圧力であることができる。
【0054】
水素フィードガスの温度は、通常、約15℃〜約40℃、例えば、約30℃であるか、又はだいたい周囲温度、例えば、約15℃〜約20℃である。水素フィードガスの圧力は、通常、約0.1〜約15MPaであり、好ましくは約1.5〜3MPa、例えば、約2.5MPaであるか、又は約8〜約12MPa、例えば、約10MPaである。
【0055】
パラ水素へのオルソ水素の転化に好適な触媒は、通常、最終的な水素の液化温度を含め、プロセスにおいて複数の温度レベルで提供される。液化プロセスは、液体水素の生成の実質的に全てがパラ型であるよう設計することができる。熱交換系は、それぞれのオルソ−パラ転化温度レベルにおいて、オルソ−パラの転化で放出される全ての熱が冷媒流を温めることにより吸収されるよう設計することができる。
【0056】
炭質燃料又は炭化水素含有燃料は、触媒又非触媒プロセスにおいて水蒸気及び/又は酸素分子を含む酸化剤ガスと反応し一酸化炭素と水素ガスを生成することができる。この水素ガスは、水素フィードガスの少なくとも一部を形成することが好ましい。炭化水素含有燃料は、水蒸気メタン改質炉において水蒸気と反応し、部分酸化反応器において空気(若しくは酸素ガス)と反応することができるか、又は自己熱交換式改質炉において水蒸気及び空気(若しくは酸素ガス)と反応することができる。このようなプロセスで生成された水素ガスは貯蔵することができ、必要に応じて後日に液化することができる。あるいはまた、水素ガスを生成するプロセスは本発明と統合することができ、その場合、水素ガスは、精製後、本プロセスに直接フィードされる。
【0057】
水蒸気メタン改質炉及び自己熱交換式改質炉は、約1.5〜約3MPa、例えば、約2.5MPaの圧力で水素を生成することができる。部分酸化促進伝熱改質炉(POX EHTR)は、約8〜約12MPa、例えば、約10MPaの圧力で水素ガスを生成することができる。このようなPOX EHTRは、2002年4月17日に公開された欧州特許出願公開第1197471号明細書において記載されており、その開示は参照により本明細書に含まれる。
【0058】
炭化水素含有燃料は、液化プロセスがLNG基地と統合されている場合には、通常、容易に入手可能な天然ガスである。このような実施態様においては、炭化水素含有燃料は、水素ガスフィードとの間接熱交換により生成される天然ガスの少なくとも一部であることができる。
【0059】
水素ガスは、通常、水素液化装置中で凝固する可能性のある不純物を除去するため、予冷前に精製される。予冷後、予冷された水素ガスは、必要に応じてさらに精製することができる。
【0060】
特に好ましい実施態様は、実質的には添付図に関して先に記載されるプロセスである。
【0061】
本発明の第2態様においては、加圧LNGを間接熱交換により加熱するための水素ガスの使用が提供される。
【0062】
本発明の第3態様においては、水素ガス圧縮機における冷却用流体としての加圧LNGの使用が提供される。
【0063】
本発明の第4態様においては、第1態様で規定されるプロセスに従って水素を液化するための装置であって、
水素フィードガスを加圧LNGとの間接熱交換により予冷して、予冷された水素フィードガスを生成するための熱交換手段と;
該予冷された水素フィードガスを少なくとも1つの冷媒との間接熱交換によりさらに冷却して、凝縮性水素フィードガスと少なくとも1つの温められた冷媒を生成するための熱交換手段と;
該凝縮性水素フィードガスを膨張させて、少なくとも部分的に凝縮された水素を生成するための膨張手段と
を含む、装置が提供される。
【0064】
本装置は、上記プロセスの如何なる実施態様の操作も可能とするよう適合及び/又は構成することができる。
【0065】
好ましい実施態様においては、本装置は、LNGの貯蔵及び分配設備において少なくとも1つの加圧LNG源、例えば、当該又は少なくとも1つのポンプをさらに含む。
【0066】
本装置の好ましい実施態様の利点の1つは、予冷工程のための熱交換手段が、少なくとも原則として、当技術分野で公知の、予冷された水素フィードガスをさらに冷却する装置、及び凝縮性水素ガスを膨張させる装置と組み合わせて使用できるということである。以下は、可能な実施態様の一部の一般的な説明である。
【0067】
本装置は、
当該又は少なくとも1つの温められた冷媒を低温圧縮して、少なくとも1つの圧縮冷媒を生成するための低温圧縮手段と;
当該又は少なくとも1つの圧縮冷媒を冷却して、少なくとも1つの冷却された圧縮冷媒を生成するための熱交換手段と;
当該又は少なくとも1つの冷却された圧縮冷媒をプロセス内でリサイクルするための手段と
をさらに含むことができる。
【0068】
当該又は少なくとも1つの冷媒が水素分子である場合には、本装置は、水素ガスの冷媒をリサイクルして前記水素フィードガスの一部を形成するための手段をさらに含むことが好ましい。
【0069】
膨張手段によって液体水素と水素蒸気の混合物が生成される実施態様においては、本装置は、
前記混合物の少なくとも一部を液体水素と水素蒸気に分離するための分離手段と;
予冷された水素フィードガスを水素蒸気の少なくとも一部との間接熱交換によりさらに冷却し、それにより水素フラッシュガスを生成するための熱交換手段と
をさらに含むことが好ましい。これらの実施態様においては、本装置は、
前記水素フラッシュガスの少なくとも一部を低温圧縮して、圧縮水素フラッシュガスを生成するための低温圧縮手段と;
該圧縮水素フラッシュガスの少なくとも一部を加圧LNGとの間接熱交換により冷却して、冷却された圧縮水素フラッシュガスと加圧天然ガスを生成するための熱交換手段と
をさらに含むことができる。
【0070】
熱交換手段の少なくとも1つは、マルチストリームのプレートフィン熱交換器が好ましい。予冷器は、高圧アルミニウムプレートフィン熱交換器が好ましい。
【0071】
本装置は、前記加圧天然ガスの少なくとも一部を、該天然ガスを供給用パイプラインにフィードする前におよそ周囲温度に加熱するための加熱手段をさらに含むことができる。温度調節手段が、天然ガスの放出温度を調節するために加熱手段に関して必要とされる場合がある。バルブなどの流量調節手段は、通常、LNG基地から水素液化装置への加圧LNG流を調節し、プロセスの任意の必要な圧力降下をLNG流に提供するためにLNG基地のヒータ下流で使用される。
【0072】
低温圧縮手段は、加圧LNGで中間冷却される少なくとも1つの多段圧縮機であることが好ましい。
【0073】
好ましい実施態様は、実質的には添付図に関して先に記載される装置である。
【0074】
以下は、本発明の現在好ましい実施態様の、例としてのみでかつ添付図に関する説明である。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の第1態様の実施態様に関する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0076】
水素フィードガス流10を、プレートフィン熱交換器12の入口に約2.5MPa及び30℃でフィードし、高圧LNG流14によって予冷する。この高圧LNG流14は、天然ガスを高圧でパイプライン系(図示せず)に供給するLNG基地(図示せず)内のLNGポンプ(図示せず)の吐出から得ることができる。高圧LNGは、温度が約−158℃で圧力が約40MPaである。
【0077】
水素フィードガス流10は、統合された水素ガス生成プロセス(図示せず)において生成することができるフレッシュ水素ガス流16と、圧縮されたリサイクル水素ガス流18とを組み合わせて形成される。フレッシュ水素ガスは、水素液化プロセスの際に凝固する可能性のある不純物を除去するため、精製系(図示せず)において精製されている。
【0078】
水素フィードガスを予冷して約2.5MPa及び約−156℃の予冷された水素フィードガス流20を生成し、加圧LNG流14を加熱して加圧天然ガス流22を生成する。
【0079】
予冷された水素フィードガス流20を熱交換器24で約−163℃にさらに冷却し、その時点で、第1の流れ26と第2の流れ28とに分割する。第1の流れ26を膨張器30で膨張させ、約0.25MPaの圧力と約−221℃の温度の膨張水素ガス流32を生成する。膨張器30の吐出流32を熱交換器24に送り返し、この吐出流32によって凝縮性水素ガスを形成するのに必要とされる冷却操作の一部を提供する。
【0080】
第2の流れ28を熱交換器24で約−208℃の温度にさらに冷却し、その時点で、第1の部分34と第2の部分36とに分割する。第1の部分34を膨張器38で膨張させ、約0.25MPaの圧力と約−244℃の温度の膨張水素ガス流40を生成する。膨張器38の吐出流40を冷却用流として熱交換器24に送り返し、この吐出流40を膨張器30の吐出流32と一緒にして、凝縮性水素ガスを形成するのに必要とされる冷却操作の一部を提供する。一緒にされた膨張水素ガス流42は熱交換器24を約−158℃の温度で出る。2.5MPaの水素ガスである第2部分36はさらに冷却され、流れ44として熱交換器24を出る。水素ガス流44をフラッシュガス冷却器46でさらに冷却し、約−240℃の温度及び約2.5MPaの圧力の凝縮性水素ガス流48を生成する。
【0081】
凝縮性水素ガス流48を膨張器50で膨張させ、約31%の水素フラッシュガスと約69%の液体水素を含有する約0.1MPaの圧力と約−253℃の温度の二相流52を生成する。
【0082】
水素ガスの物理的性質によって、膨張器30、38及び50は、直列に配置された、往復機関又はマルチホイールの遠心タービンから構成することができ、それぞれの場合において膨張で発生する力を吸収する手段、例えば、発電機を有する。
【0083】
周囲温度で存在するおよそ25%のオルソ水素/75%のパラ水素が、ほぼ100%のパラ水素に転化される。このパラ水素は、ほぼ大気圧の液体水素に対応する液体水素温度で平衡状態にある。この触媒転化プロセスで放出される熱は、液化装置に関する冷却負荷の一部として提供される。この実施態様の触媒は、異なる温度レベルで複数の容器(図示せず)として配置することができる。水素ガスは、熱交換器24、熱交換器46又は流れ52から取り出され、触媒容器(図示せず)に通され、そこで平衡に達して温度が上昇し(オルソからパラへの水素の転化は発熱性であるため)、次いでより高い温度レベルで熱交換器24又はフラッシュガス冷却器46に戻され、液体状態への冷却が再び開始される。
【0084】
あるいはまた、水素ガスの冷却と同様、転化と熱除去が連続プロセスとなるように、触媒は、例えば、堆積によって熱交換器24の水素フィード用流路の壁に設けることができるか、又は流路用インサートの上に支持することができる。
【0085】
二相流52はセパレータ54にフィードされ、そこで液体水素と水素フラッシュガスに分離される。液体水素流56が取り出され、貯蔵のために送られる(図示せず)。水素フラッシュガス流58は、フラッシュガス冷却器46に戻され、そこで冷却操作の一部を提供して凝縮性水素ガスを形成し、流れ60として熱交換器46を出る。次いで、流れ60は熱交換器24に戻され、そこで流れ20、28及び36の予冷された水素ガスをさらに冷却するのに必要とされる冷却操作の一部を提供する。
【0086】
次に、温められた水素フラッシュガス流62が圧縮機64にフィードされ、そこで約0.25MPaの圧力の圧縮水素ガス流66に低温圧縮され、LNG冷却器68にフィードされ、そこで加圧LNG流70との間接熱交換により冷却され、冷却された圧縮水素フラッシュガス流72と加熱された天然ガス流74が生成される。冷却流72は、液化装置の熱交換器24を出たリサイクル水素ガス流42と混合される。一緒にされたリサイクルガスとフラッシュガスの流れ75は圧縮機76にフィードされ、そこで圧縮されて約2.5MPaの圧力のリサイクル水素ガス流18が形成される。圧縮機76は、2ケーシング、12ホイール(6個/ケーシング)の遠心圧縮機である。第1ケーシングを出た水素ガスは約−105℃であり、次いで加圧LNGを用いて約−156℃に冷却され、その後、第ケーシングに入る。
【0087】
温められた天然ガスの流れ22と74が一緒にされ、一緒にされた流れ78がヒータ80で加熱され、およそ周囲温度の加圧天然ガス流82が生成される。
【0088】
上記プロセスの電力消費は、現在の窒素リサイクル冷却プロセスの約11kWh/kgと比べて、約0.1MPa圧力で約2.9kWh/kg(液体パラ水素)である。フィード水素流10が約10MPaの圧力であり、熱交換器24及び46をまっすぐ通過した後、膨張器50に入る場合には、さらに電力を下げることが可能である。次に、液化装置のリサイクル系統は、約2.5MPaの圧力で別のリサイクルシステム18として操作され、それは熱交換器24に入り、次いで膨張器30及び38を通過した後、流れ42とフラッシュガス流72から成る複合流74として0.25MPaの圧力でリサイクル圧縮機76に戻される。流れ40のフラッシュガス部分は熱交換器24の低温端を出て、セパレータ54からの0.1MPaのフラッシュガスによってさらに冷却され、第4膨張器(図示せず)において約0.105bar(即ち、約0.01MPa)の圧力に膨張されて、54で分離される第2の液体蒸気混合物を生成する。
【0089】
圧縮機64及び76は、任意選択で、加圧LNGの向流によって冷却される中間冷却器を有する多段中間冷却機であることができるか、又は単一LNG冷却の最終冷却器を有する本例で記載される断熱機であることができる。圧縮機64及び76は、マルチホイールの遠心機又は往復型機械として構成することができる。
【実施例】
【0090】
上記のように、水素ガスは、約1.5〜約3MPa、例えば、約2.5MPa、又は約8〜約12MPa、例えば、約10MPaの圧力で生成することができる。それゆえ、2つの異なる液化装置の圧力をコンピュータシミュレーションによって調査した。3つの異なるプロセス経路が利用可能である。即ち、
・先の圧縮なしで2.5MPaの圧力で生成された水素を液化すること;
・(2.5MPaの圧力で生成された)水素を10MPaに圧縮して、この圧縮水素を液化すること;及び
・先の圧縮なしで10MPaの圧力で生成された水素を液化すること
【0091】
異なる操作圧力にもかかわらず、2つの液化装置は本質的に同じように機能する。水素フィードガスは加圧LNGとの間接熱交換により予冷され、予冷された水素フィードガスが液化装置に入り、そこで2つの異なる温度レベルで作動する膨張器を介して予冷された水素フィードガスの一部を膨張することにより生成された冷媒との間接熱交換によってさらに冷却される。次いで、フラッシュガスとともに膨張水素ガスの冷媒により、予冷された水素フィードガスを約−240℃(33K)にさらに冷却し、凝縮性水素ガスを生成する。次いで、凝縮性水素ガスを超臨界膨張器によってほとんど大気圧にまで膨張させ、それにより水素の液体/蒸気混合物を生成する。次いで、液体水素を分離して貯蔵器に送り、蒸気を低温流として液化装置の熱交換器に戻し、そこでフラッシュガスにする。フラッシュガスは、液化装置の熱交換器に入ると圧縮され、冷却膨張器を通過した水素と混合される。次いで、ガス状の水素混合物がさらに圧縮され、プロセスにリサイクルされる。
【0092】
フラッシュガスの圧縮と水素のリサイクル圧縮機の両方が、冷却水よりはむしろ加圧LNGの冷却液を有する。
【0093】
周囲温度のガス状水素は、75%がオルソ、25%がパラとして存在するのに対し、液体水素はほぼ100%パラである。オルソ−パラ変換器は、液化装置の至る所に設置される。これらの変換器によって水素がその平衡位置にされる。オルソ水素がパラ水素に転化されない場合には、熱を放出して水素を平衡に移動させるように、液体水素をタンクからゆっくりと蒸発させる。オルソからパラ水素への転化の発熱は、水素プラントの冷却系によって除去される。
【0094】
表1は、3つの異なるプロセス経路から得られた結果を強調している。表は、予冷に必要とされる加圧LNGの量と、水素の液化に必要とされる電力を示している(リサイクル圧縮機の段間冷却にLNGを用いた結果も10MPaのケースに関して示している)。
【0095】
【表1】

【0096】
その結果は、LNGを予冷剤として使用することにより、現在の液化法よりも相当なエネルギーの節減が可能であることを明白に示している。現在、ほとんどのLNG基地は、水浴を有する加圧LNGヒータを用い、浸漬バーナーが燃料として天然ガスを利用して残りのLNGを気化させている。典型的には、LNGの1〜2%がこのプロセスで消費され、それゆえ、水素液化装置と統合されたプロセスにおけるLNGの気化は、LNG基地にとって相当に有利であろう。
【0097】
現在のヨーロッパのLNG基地の容量に基づけば、LNG冷却を用いて乗り物用燃料のために潜在的に生成することができる液体水素の量は、何百万もの乗り物に関して十分なものであろう。このことは、本発明が提供するコストの節減が、乗り物の燃料補給に関し、将来、好ましい水素供給の選択肢として液体水素の使用を促進するために適用できることを意味する。
【0098】
天然ガスの基地設備は、LNGから利用可能な冷却が水素ガスを予冷するだけでなく、水素液化装置への全てのフィード流がジュール−トムソンの逆転温度未満であることを確実にするため十分低い温度で水素液化装置の圧縮機が作動するように、これらの圧縮機における冷却用流体としても使用することができるような大容量を有する。さらに、水素液化装置の圧縮機とフラッシュガス圧縮機へのフィードガスを予冷することにより、電力消費と圧縮機サイズが大いに低減される。
【0099】
本発明者らは、本発明の範囲内の好ましい水素液化プロセスの操作によって、LNGの冷却能力のために、電力消費が約2〜約3.2kWh/kg(液体水素)に低減されることを示した。このような低減は、約71%〜約82%のエネルギーの節減に相当する。(先に記載した)米国国立再生エネルギー研究所による最近の報告で提供された液体水素の流通に関するコスト概算に基づいて、エネルギーにおけるこのような節減により、液体水素の流通コストを10%以上、約3.28ドル/kgまで低減することができる(10MPaのLNG中間冷却液化サイクルに関して計算された2.59kWh/kgの電力消費に基づいている。例を参照されたい)。この数値は、水蒸気メタン改質炉を用いた水素生成で消費される電力の総コストと、燃料補給ステーションで分配及び供給するための総コストを考慮している。部分酸化促進伝熱改質炉が使用される場合には、更なる低減が見られるであろう。
【0100】
明細書を通して、機能を実行するための手段という意味での「手段」という語は、その機能を実行するよう適合及び/又は構成された少なくとも1つのデバイスについて言うものである。
【0101】
本発明は好ましい実施態様に関して上記された詳細に限定されることなく、特許請求の範囲によって規定される本発明の趣旨又は範囲を逸脱することなく多数の改良及び変更を行うことができることが理解されるであろう。
【符号の説明】
【0102】
10 水素フィードガス流
14 加圧LNG流
18 リサイクル水素ガス流
12、24、46 熱交換器
38、50 膨張器
64、76 圧縮機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素を液化する方法であって、
加圧された液化天然ガス(「LNG」)との間接熱交換により水素フィードガスを予冷して、予冷された水素フィードガスと加圧された天然ガスを生成する工程と;
該予冷された水素フィードガスの少なくとも一部を、少なくとも1つの冷媒との間接熱交換によりさらに冷却して、凝縮性水素フィードガスと少なくとも1つの温められた冷媒を生成する工程と;
該凝縮性水素フィードガスの少なくとも一部を膨張させて少なくとも部分的に凝縮した水素を生成する工程と
を含む、水素を液化する方法。
【請求項2】
加圧LNGとの間接熱交換により前記水素フィードガスを予冷して、該水素フィードガスの温度を水素ガスに関するジュール−トムソンの逆転温度未満に低下させる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記方法で用いられる加圧LNGの総量が、約10〜約60kg(LNG)/kg(液体水素)である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記方法で用いられる加圧LNGの総量が、約27〜約37kg(LNG)/kg(液体水素)である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
外部LNG貯蔵設備からのLNGを加圧して加圧LNGを生成する工程と;
該加圧LNGを前記方法で用いられる加圧LNGの少なくとも一部として使用する工程と
をさらに含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記加圧天然ガスの少なくとも一部をおよそ周囲温度に加熱することをさらに含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記加熱された加圧天然ガスが、天然ガス供給用パイプラインにフィードされる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
当該又は少なくとも1つの温められた冷媒を低温圧縮して、少なくとも1つの圧縮冷媒を生成する工程と;
当該又は少なくとも1つの圧縮冷媒を加圧LNGとの間接熱交換により冷却して、少なくとも1つの冷却された圧縮冷媒を生成する工程と;
当該又は少なくとも1つの冷却された圧縮冷媒をプロセス内でリサイクルする工程と
をさらに含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
当該又は少なくとも1つの冷媒が、水素分子、ヘリウム、ネオン、窒素分子、及びそれらの混合ガスから成る群より選択される、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
当該又は少なくとも1つの冷媒が水素分子である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
当該又は各冷媒が水素分子である、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
当該又は少なくとも1つの水素ガスの冷媒が、前記水素フィードガスの一部を形成するためにリサイクルされる、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
前記凝縮性水素フィードガスの少なくとも一部を膨張させて、液体水素と水素蒸気の混合物を生成する、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法であって、
前記混合物の少なくとも一部を液体水素と水素蒸気に分離する工程と;
予冷された水素フィードガスを該水素蒸気の少なくとも一部との間接熱交換によりさらに冷却して、それにより水素のフラッシュガスを生成する工程と
をさらに含む、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記水素フラッシュガスの少なくとも一部を低温圧縮して、圧縮された水素フラッシュガスを生成する工程と;
該圧縮水素フラッシュガスの少なくとも一部を加圧LNGとの間接熱交換により冷却して、冷却された圧縮水素フラッシュガスと加圧天然ガスを生成する工程と
を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
予冷された水素フィードガスを前記当該又は少なくとも1つの冷媒との間接熱交換により冷却して、冷却された水素フィードガスを生成する工程と;
該冷却された水素フィードガスを第1部分と第2部分に分ける工程と;
該第1部分を膨張させて、膨張された水素ガスを生成する工程と;
予冷された水素フィードガスを該膨張された水素ガスの少なくとも一部との間接熱交換によりさらに冷却する工程と
をさらに含む、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記冷却された水素フィードガスの第2部分を前記当該又は少なくとも1つの冷媒との間接熱交換により冷却して、さらに冷却された水素フィードガスを生成する工程と;
該さらに冷却された水素フィードガスを第1部分と第2部分に分ける工程と;
該第1部分を膨張させて、膨張された水素ガスを生成する工程と;
予冷された水素フィードガスを該膨張された水素ガスの少なくとも一部との間接熱交換によりさらに冷却する工程と
をさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記膨張された水素ガスとの間接熱交換によって、前記予冷された水素フィードガスから凝縮性水素ガスを生成するのに必要とされる冷却操作の一部だけが提供される、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項18】
結果として生じる温められた膨張水素ガスの少なくとも一部を低温圧縮して圧縮水素ガスを生成する工程と;
該圧縮水素ガスの少なくとも一部を加圧LNGとの間接熱交換により冷却して、冷却された圧縮水素ガスと加圧天然ガスを生成する工程と
を含む、請求項15〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記冷却された圧縮水素フラッシュガスと前記膨張水素ガスを組み合わせて複合水素ガスを生成する工程と;
該複合水素ガスの少なくとも一部を低温圧縮して圧縮複合水素ガスを生成する工程と;
該圧縮複合水素ガスの少なくとも一部を加圧LNGとの間接熱交換により冷却して、冷却された圧縮複合水素ガスと加圧天然ガスを生成する工程と
をさらに含む、請求項13〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記予冷された水素フィードガスの温度が、前記水素フラッシュガスと前記温められた膨張水素の温度とほぼ同じである、請求項13〜19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記温度が約−158℃〜約−140℃である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記温度が約−156℃である、請求項20又は21に記載の方法。
【請求項23】
前記水素フィードガスが、約8〜約12MPaの圧力である、請求項1〜22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
当該又は少なくとも1つの冷媒が水素分子であり、前記冷却された圧縮水素冷媒が、前記水素フィードガスから独立してリサイクルされ、約1.5〜約3MPaの圧力である、請求項8に従属する限りにおいて請求項23に記載の方法。
【請求項25】
低温圧縮の際の冷却が、加圧LNGとの間接熱交換によって提供される、請求項1〜24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
低温圧縮の際に発生する熱の実質的に全てが、加圧LNGとの間接熱交換によって取り除かれる、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
液化プロセスへの正味の水素フィードが、加圧LNGとの間接熱交換により周囲温度から液化装置のフィード温度まで冷却される、請求項1〜26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
請求項1で規定される方法に従って水素を液化するための装置であって、
水素フィードガスを加圧LNGとの間接熱交換により予冷して、予冷された水素フィードガスを生成するための熱交換手段と;
該予冷された水素フィードガスを少なくとも1つの冷媒との間接熱交換によりさらに冷却して、凝縮性水素フィードガスと少なくとも1つの温められた冷媒を生成するための熱交換手段と;
該凝縮性水素フィードガスを膨張させて、少なくとも部分的に凝縮された水素を生成するための膨張手段と
を含む、請求項1で規定される方法に従って水素を液化するための装置。
【請求項29】
当該又は少なくとも1つの温められた冷媒を低温圧縮して、少なくとも1つの圧縮冷媒を生成するための低温圧縮手段と;
当該又は少なくとも1つの圧縮冷媒を加圧LNGとの間接熱交換により冷却して、少なくとも1つの冷却された圧縮冷媒を生成するための熱交換手段と;
当該又は少なくとも1つの冷却された圧縮冷媒をプロセス内でリサイクルするための手段と
をさらに含む、請求項28に記載の装置。
【請求項30】
当該又は少なくとも1つの冷媒が水素分子であり、この水素ガスの冷媒をリサイクルして前記水素フィードガスの一部を形成するための手段をさらに含む、請求項28又は29に記載の装置。
【請求項31】
前記膨張手段によって液体水素と水素蒸気の混合物が生成され、前記装置が、
該混合物の少なくとも一部を液体水素と水素蒸気に分離するための分離手段と;
予冷された水素フィードガスを水素蒸気の少なくとも一部との間接熱交換によりさらに冷却し、それにより水素フラッシュガスを生成するための熱交換手段と
をさらに含む、請求項28〜30のいずれか1項に記載の装置。
【請求項32】
前記水素フラッシュガスの少なくとも一部を低温圧縮して、圧縮水素フラッシュガスを生成するための低温圧縮手段と;
該圧縮水素フラッシュガスの少なくとも一部を加圧LNGとの間接熱交換により冷却して、冷却された圧縮水素フラッシュガスと加圧天然ガスを生成するための熱交換手段と
をさらに含む、請求項31に記載の装置。
【請求項33】
前記熱交換手段の少なくとも1つが、マルチストリームのプレートフィン熱交換器である、請求項28〜32のいずれか1項に記載の装置。
【請求項34】
前記低温圧縮手段が、加圧LNGで中間冷却される少なくとも1つの多段圧縮機である、請求項29又は32に記載の装置。
【請求項35】
前記加圧天然ガスの少なくとも一部をおよそ周囲温度に加熱するための加熱手段をさらに含む、請求項28〜34のいずれか1項に記載の装置。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2012−237554(P2012−237554A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−182944(P2012−182944)
【出願日】平成24年8月22日(2012.8.22)
【分割の表示】特願2005−82323(P2005−82323)の分割
【原出願日】平成17年3月22日(2005.3.22)
【出願人】(591035368)エア プロダクツ アンド ケミカルズ インコーポレイテッド (452)
【氏名又は名称原語表記】AIR PRODUCTS AND CHEMICALS INCORPORATED
【住所又は居所原語表記】7201 Hamilton Boulevard, Allentown, Pennsylvania 18195−1501, USA
【Fターム(参考)】