説明

水素化方法及び石油化学プロセス

【課題】分解ケロシンを水素化反応により熱分解収率の高い分解原料へと変換できる水素化方法を提供する。
【解決手段】少なくともナフサを主原料として熱分解反応を行い、少なくともエチレン、プロピレン、ブテン、ベンゼン、トルエンの何れかを製造する石油化学プロセスにおいて、熱分解炉から生産される分解ケロシンを、Pd、Pt触媒を用い、下記(I),(II)の2段階の方法で水素化処理し、これら水素化処理された炭化水素の一部又は全てを熱分解炉へ再供給する。
(I) 50〜180℃の範囲で水素化反応を行う。
(II) 230〜350℃の範囲で水素化反応を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナフサ等を主原料として熱分解反応を行い、エチレン、プロピレン、ブテン、ベンゼン、トルエン等を製造する石油化学プロセス(一般にはエチレン製造プラントと呼ばれることが多い)において、熱分解炉から1気圧での沸点が90〜230℃の範囲にある留分(以下、「分解ケロシン」と言い、場合によって「CKR」と略すことがある。)として生産される芳香環及び/又はエチレン性炭素−炭素二重結合を有する炭化水素化合物の混合物の芳香族性炭素−炭素二重結合及びエチレン性炭素−炭素二重結合に水素原子を付加させて、飽和炭化水素とする(水素化する)水素化方法、並びに当該方法により水素化された炭化水素を再度熱分解炉の分解原料として使用するための石油化学プロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
エチレンプラントでは、ナフサ等を熱分解して、エチレン、プロピレン、ブテン、ブタジエン等のC4留分、分解ガソリン(ベンゼン、トルエン、キシレン等)、分解ケロシン(C9以上留分)、分解重油(エチレンボトム)、水素ガス等を製造している。また、これらナフサの熱分解により製造される各製品は、蒸留工程において分離される。
【0003】
以下、一般的なエチレンプラントにおけるナフサの熱分解プロセス、すなわち、ナフサを熱分解によりエチレン(25−30%)、プロピレン(15%)等のオレフィンを含む低分子に転換するプロセスについて説明する。
【0004】
本プロセスにおいて、原料のナフサは、希釈のための水蒸気(原料1に対して0.4〜0.8の重量割合)と共に、バーナーで750〜850℃に加熱された熱分解炉内の多数の管内を通過する。なお、反応管は直径5cm、長さ20m程度で触媒は使用しない。この高温管内をナフサが通過する0.3〜0.6秒の間に分解反応等が起こる。また、熱分解炉を出たガスは、それ以上の分解を防ぐため、直ちに400〜600℃に急冷され、更にリサイクル油を噴霧して冷却される。冷却された分解ガスは、ガソリン精留塔で重質成分を分離する。そして、次のクエンチタワーでは、塔の上部から水を噴霧して、水分とガソリン成分(C5〜C9成分)を凝縮分離する。次に、ソーダ洗浄塔で酸性ガス(硫黄分、炭酸ガス等)を除去する(なお、炭素数が5の炭化水素を総称してC5成分と記載する。C9等についても同様。)。水素は、途中の深冷分離器(−160℃、37気圧)で分離される。メタン、エチレン、エタン、プロピレン、プロパンは、各々蒸留塔を通過することで、順次純成分に分離される。これらの分離には、20気圧程度で各々30〜100段もの高い蒸留塔が必要である。以下の表1に一般的なナフサと熱分解後の熱分解生成物との成分比較を示す。
【0005】
【表1】

【0006】
熱分解生成物のうち、主に炭素数が9以上の不飽和炭化水素化合物の混合物からなり、1気圧での沸点が90〜230℃の範囲にある留分は、「分解ケロシン」と呼ばれている。この分解ケロシンは、スチレン、ビニルトルエン、ジシクロペンタジエン、インダン、インデン、フェニルブタジエン、メチルインデン、ナフタレン、メチルナフタレン、ビフェニル、フルオレン、フェナンスレンなどの芳香族炭化水素化合物、脂肪族不飽和炭化水素化合物、芳香族性炭素−炭素二重結合、エチレン性炭素−炭素二重結合を併せ持つ炭化水素化合物の混合物である。
【0007】
ところで、分解ケロシンは、主に燃料、石油樹脂原料、カーボンブラック原料、ニードルコークス原料などの付加価値の低い製品としてしか使用されていなかった。このため、エチレンプラントでは、これら低付加価値製品の比率を下げ、エチレン、プロピレン等の高付加価値製品の比率を高める努力がなされている。
【0008】
熱分解炉から生産される低付加価値留分のうち、エタン等の飽和脂肪族炭化水素化合物は、再度熱分解炉へ供給され、分解原料として使用されることで、エチレン等への転換が可能である。一方、分解ケロシンは、そのまま再度熱分解炉へ供給し、分解原料として使用しても、その成分の多くが芳香環を含み、化学的に安定であるため、熱分解によって付加価値の高いエチレン等へ転換することが困難である。
【0009】
また、これらの成分中には、スチレンのようにエチレン性炭素−炭素二重結合(ビニル基など)を有する易重合性物質が多量に含まれている。したがって、これらをそのまま高温の熱分解炉へ供給した場合に、当該物質の熱重合反応が起こり、重合物(コーク)による熱分解炉のファウリングを容易に引き起こすという問題もある。さらに、これらは数十種類の化合物の混合品であるため、各成分を単離することは経済性の面で現実的ではない。
【0010】
なお、ナフサの熱分解プロセスの概要については、例えば下記非特許文献1等に記載がある。また、下記非特許文献2には、ナフサの熱分解プロセスフロー等の詳細な記載がある。
【0011】
本発明は、分解ケロシンを2段階で水素化する反応に関するものである。オレフィンや芳香族化合物の水素化反応及び当該反応に使用する触媒については、下記特許文献1や下記特許文献2に記載がある。具体的に、下記特許文献1には、Co/Mo、Co/Ni、Co/Ni/Mo等を多孔性のアルミナ又はシリカアルミナ等の担体に担持せしめたものを用いて水素化精製・活性白土処理することにより、ヘキサン製造用原料油のオレフィン含有量を低減する方法が例示されている。一方、下記特許文献2には、Y型ゼオライトにパラジウムと白金を担持した触媒を用いて、オレフィンと芳香族物質を飽和させると共に、芳香族物質を少なくとも部分的に非環式物質まで変換させ、セタン価の向上したディーゼル燃料を生成する方法が記載されている。さらに、下記特許文献3には、本発明で使用するのに好適な水素化触媒が記載されている。
【特許文献1】特開平05−170671号公報
【特許文献2】特開平05−237391号公報
【特許文献3】特許第3463089号公報
【非特許文献1】有機工業化学((株)化学同人)第11刷、P.58、「3.2 ナフサの分解(クラッキング)による合成基礎原料の製造」
【非特許文献2】石油化学プロセス(石油学会/編)第1刷、P.21、「2 オレフィン」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、かかる状況に鑑みてなされたものであり、分解ケロシンを水素化反応により熱分解収率の高い分解原料へと変換できる水素化方法、並びにそのような水素化方法を用いることによって、熱分解炉のファウリングを容易には起こさず、しかもエチレン、プロピレン、分解ガソリンなどの有用成分が高収率で得られる石油化学プロセスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、分解ケロシン中の芳香環及び/又はエチレン性炭素−炭素二重結合を、下記(I),(II)の2段階で水素化し、熱分解炉へ再供給することによって、該分解ケロシンを水素化反応により熱分解収率の高い分解原料へと変換できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、以下の手段を提供する。
[1] 芳香環及び/又はエチレン性炭素−炭素二重結合を有する炭化水素化合物の混合物を、下記(I),(II)の2段階で水素化することを特徴とする水素化方法。
(I) 50〜180℃の範囲で水素化反応を行う。
(II) 230〜350℃の範囲で水素化反応を行う。
[2] 芳香環及び/又はエチレン性炭素−炭素二重結合を有する炭化水素化合物の混合物が、ナフサを主な原料とする熱分解炉から生産される炭化水素であって、沸点が90〜230℃の範囲にある留分(「分解ケロシン」という。)であることを特徴とする前項[1]に記載の水素化方法。
[3] 水素化反応に触媒を使用し、当該触媒が、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)の中から選ばれる少なくとも1種又は2種以上の元素を含むことを特徴とする前項[1]又は[2]に記載の水素化方法。
[4] 水素化反応に供する触媒が、更に、セリウム(Ce)、ランタン(La)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、イッテルビウム(Yb)、ガドリウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、イットリウム(Y)の中から選ばれる少なくとも1種又は2種以上の元素を含むことを特徴とする前項[3]に記載の水素化方法。
[5] 水素化反応に供する触媒が、ゼオライトに担持された触媒であることを特徴とする前項[3]又は[4]に記載の水素化方法。
[6] ゼオライトが、USYゼオライトであることを特徴とする前項[5]に記載の水素化方法。
[7] 少なくともナフサを主原料として熱分解反応を行い、少なくともエチレン、プロピレン、ブテン、ベンゼン、トルエンの何れかを製造する石油化学プロセスにおいて、熱分解炉から生産される分解ケロシンを、前項[1]〜[6]の何れか一項に記載の方法で水素化処理し、これら水素化処理された炭化水素の一部又は全てを熱分解炉へ再供給することを特徴とする石油化学プロセス。
[8] 熱分解炉へ再供給する水素化処理された炭化水素中の不飽和炭素原子の割合が、水素化処理された炭化水素中の全炭素原子数に対して、20モル%以下であることを特徴とする前項[7]に記載の石油化学プロセス。
[9] 1段目の水素化反応に供する水素と分解ケロシンとの比が、水素ガス/分解ケロシン=140〜10000Nm/mであることを特徴とする前項[7]又は[8]に記載の石油化学プロセス。
[10] 2段目の水素化処理された炭化水素の一部を、分解ケロシンと混合し、当該混合液を水素化反応に供することを特徴とする請求項[7]〜[9]の何れか一項に記載の石油化学プロセス。
[11] 2段目の水素化に供する水素が、熱分解炉から生産される水素であることを特徴とする前項[7]〜[10]の何れか一項に記載の石油化学プロセス。
[12] 水素化反応における未反応の水素の少なくとも一部又は全てを再度水素化反応へ供することを特徴とする前項[7]〜[11]の何れか一項に記載の石油化学プロセス。
[13] 未反応水素中に含まれる硫化水素の少なくとも一部又は全てを除去して再度水素化反応へ供することを特徴とする前項[12]に記載の石油化学プロセス。
[14] 水素化反応に供給する分解ケロシン中の全硫黄濃度を重量割合で1000ppm以下とすることを特徴とする前項[7]〜[13]の何れか一項に記載の石油化学プロセス。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明によれば、コーキングによる熱分解炉のファウリングを容易には起こさず、しかもエチレン、プロピレンなどの有用成分を高収率で得ることができる。さらに、水素化反応触媒でのコーキングが抑制されるため、触媒の長寿命化が達成される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
<芳香環及び/又はエチレン性炭素−炭素二重結合を有する炭化水素化合物の混合物>
本発明の「芳香環及び/又はエチレン性炭素−炭素二重結合を有する炭化水素化合物の混合物」は、芳香環を有する炭化水素化合物、エチレン性炭素−炭素二重結合を有する炭化水素化合物、芳香環及びエチレン性炭素−炭素二重結合を有する炭化水素化合物のうち、少なくとも1種又は2種以上の化合物を含む混合物を意味する。また、これらの炭化水素化合物の混合物は、エチレンプラントでのナフサの熱分解で生産される比較的高沸点留分、特に分解ケロシンと呼ばれる留分や分解重油(IBP187℃、50%留出274℃)が例示される。
【0017】
具体的に、芳香環を有する炭化水素化合物は、ベンゼン、ナフタレンなどの化合物である。また、芳香族複素環を有する化合物を含むものであってもよい。エチレン性炭素−炭素二重結合としては、ビニル基、アリル基、エテニル基などがあり、当該基を有する炭化水素化合物としては、エチレン、ブテンなどのオレフィンを代表的化合物として挙げることができる。芳香環及びエチレン性炭素−炭素二重結合を有する炭化水素化合物としては、スチレン、ビニルトルエンなどを挙げることができる。
【0018】
なお、本発明は、分解ケロシンのみでなく、芳香環及び/又はエチレン性炭素−炭素二重結合を有する炭化水素化合物の混合物の全般に適用可能である。しかしながら、本明細書では、標記が冗長となるため、水素化原料として分解ケロシンを例に挙げて説明する。したがって、本明細書中において「分解ケロシン」とあるのは、特に断りがない限り、上述した「芳香環及び/又はエチレン性炭素−炭素二重結合を有する炭化水素化合物の混合物」の全般を含むものとする。
【0019】
<分解ケロシン>
本発明の分解ケロシンは、ナフサの熱分解で製造される、主に炭素数が9以上の不飽和炭化水素化合物の混合物であり、1気圧での沸点が90〜230℃の範囲にある留分を意味する。但し、本発明の分解ケロシンは、各炭化水素化合物の混合物であることから、炭素数や沸点は多少変動しても構わない。
【0020】
分解ケロシンの主な成分としては、例えば、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、スチレン、プロピルベンゼン、メチルエチルベンゼン、トリメチルベンゼン、メチルスチレン、ビニルトルエン、ジシクロペンタジエン、インダン、インデン、ジエチルベンゼン、メチルプロピルベンゼン、メチルプロペニルベンゼン、エテニルエチルベンゼン、メチルフェニルシクロプロパン、ブチルベンゼン、フェニルブタジエン、メチルインデン、ナフタレン、メチルナフタレン、ビフェニル、エチルナフタレン、ジメチルナフタレン、メチルビフェニル、フルオレン、フェナンスレンを挙げることができる。
【0021】
<水素化反応>
本発明の水素化方法では、分解ケロシンなどの芳香環及び/又はエチレン性炭素−炭素二重結合を有する炭化水素化合物の混合物中にある芳香族性炭素−炭素二重結合とエチレン性炭素−炭素二重結合とを2段階で水素化する。
【0022】
具体的に、1段目の水素化反応は、比較的低温で行い、主にビニル基などのエチレン性炭素−炭素二重結合を水素化して飽和炭化水素とし、2段目の水素化反応は、高温で行い、化学的に安定なため、低温では水素化されにくい芳香族性炭素−炭素二重結合を水素化する。
【0023】
一方、最初から反応温度を高くすると(2段目の反応を先に行う場合に相当。)、エチレン性炭素−炭素二重結合の水素化反応と同時に、エチレン性炭素−炭素二重結合による重合反応も進行してしまう。重合物は水素化反応触媒の表面に堆積し、触媒活性を低下させるうえ、触媒の寿命も短くしてしまう。さらに、反応管内壁に付着、堆積するファウリングの問題を生じる。
【0024】
これに対して、本発明による1段目の水素化反応条件では、重合反応は起こりにくいため、エチレン性炭素−炭素二重結合は当該水素化反応で消費される。したがって、2段目の水素化反応で温度を上げても、重合するエチレン性炭素−炭素二重結合はほとんど無くなっているので、上述した触媒の被毒問題等は発生しない。
【0025】
なお、本プロセスは、上記2段の反応に限定されるものではなく、少なくとも上記2段の反応を含むプロセスであればよい。すなわち、上記2段の反応前後又は中間において、他の目的を達成するための反応や処理工程を含むものであってもよい。
【0026】
以下、各段階の水素化反応条件を具体的に示す。
<(I)1段目の水素化反応>
温度:50〜180℃
圧力:1〜8MPa
時間:0.01〜2時間
原料比率:水素ガス/分解ケロシン=140〜10000Nm/m
触媒:Pt,Pdなど
【0027】
1段目の水素化反応は、水素化触媒の存在下で水素ガスと分解ケロシンを接触させて主にエチレン性炭素−炭素二重結合の水素化を行う。
【0028】
1段目の反応温度は、50〜180℃が好ましい。反応温度が50℃未満であると、水素化反応の転化率が低くなる。一方、反応温度が180℃を超えると、エチレン性炭素−炭素二重結合が熱重合を起こしてしまうおそれがある。したがって、1段目の反応温度は、50〜180℃が好ましい。より好ましくは80〜150℃であり、更に好ましくは90〜120℃である。
【0029】
1段目の反応時の圧力は、1〜8MPaが好ましい。反応時の圧力が1MPa未満になると、水素化反応の転化率が低くなる。一方、反応時の圧力が8MPaを超えると、設備費が高くなるという欠点がある。したがって、1段目の反応時の圧力は、1〜8MPaが好ましく、より好ましくは3〜7MPaであり、更に好ましくは4〜6MPaである。
【0030】
1段目の反応時間は、0.01〜2時間が好ましい。反応時間が0.01時間未満になると、水素化の転化率が低くなる。一方、反応時間が2時間を越えると、処理すべき分解ケロシンに対する水素化触媒量が多大となり、また大型の反応器を必要とするため、経済的に不利となる。したがって、1段目の反応時間は、0.01〜2時間が好ましく、より好ましくは0.1〜1時間であり、更に好ましくは0.15〜0.5時間である。
【0031】
水素ガス/分解ケロシンの比率は、140〜10000Nm/mが好ましい。水素ガス/分解ケロシンの比率が140Nm/m未満になると、水素化の転化率が低くなる。一方、水素ガス/分解ケロシンの比率が10000Nm/mを超えると、未転化の水素ガスが多量となり、経済的に不利となる。したがって、水素ガス/分解ケロシンの比率は、140〜10000Nm/m、が好ましく、より好ましくは1000〜8000Nm/mであり、更に好ましくは2000〜6000Nm/mである。
【0032】
1段目の水素化反応に供する触媒は、オレフィンの水素化能力を有するものであれば特に限定されるものではない。また、芳香環の水素化能力を有するものでなくともよい。一般的にはPt、Pd、Ni、Ru等の金属成分を含むものを用いることができる。また、これらの触媒は担体に担持されていてもよい。担体としては、例えば、アルミナ、活性炭、ゼオライト、シリカ、チタニア、ジルコニアを挙げることができる。具体的には、上記特許文献3に記載された水素化触媒を使用することができる。
【0033】
1段目の水素化反応の度合いは、水素化されずに残ったエチレン性炭素−炭素二重結合での指標である臭素価(JIS K 2605)で評価することができる。当該反応生成物の臭素価は、20g/100g以下であることが好ましい。臭素価が20g/100gを超える場合は、エチレン性炭素−炭素二重結合が多く残っていることを意味し、2段目の高温水素化反応において、これらエチレン性炭素−炭素二重結合が触媒表面で重合し、触媒劣化速度が大きくなることがある。したがって、1段目の臭素価は、20g/100g以下であることが好ましく、より好ましくは10g/100g以下、更に好ましくは5g/100g以下である。
【0034】
<(II)2段目の水素化反応>
温度:230〜350℃
圧力:1〜8MPa
時間:0.01〜2時間
原料比率:水素ガス/1段目の反応生成物=140〜10000Nm/m
触媒:Pt、Pd、Ru、Ni、Rhなど
【0035】
2段目の水素化反応は、水素化触媒の存在下で水素ガスと1段目の反応精製物を接触させて主に芳香族性炭素−炭素二重結合の水素化を行う。これにより、1段目で未反応であったエチレン性炭素−炭素二重結合の水素化も進行する。
【0036】
2段目の反応温度は、230〜350℃が好ましい。反応温度が230℃未満であると、芳香族性炭素−炭素二重結合が十分水素化されないことがある。一方、反応温度が350℃を超えると、触媒への炭素析出、反応熱によるホットスポットの生成、更には反応の平衡が水素化から脱水素へとシフトするため、水素化反応、触媒寿命にとって不利となる。したがって、2段目の反応温度は、230〜350℃が好ましく、より好ましくは240〜330℃であり、更に好ましくは260〜300℃である。
【0037】
2段目の反応時の圧力は1〜8MPa、好ましくは3〜7MPa、さらに好ましくは4〜6MPaである。圧力が1MPa未満であると芳香族性炭素−炭素二重結合が十分水素化されないことがあり好ましくない。特に、分解ケロシンのように硫黄化合物を含有する原料の水素化においては、高い水素分圧により触媒貴金属の被毒を抑制する事が必要である。8MPaを超えると、装置費用、運転コスト等が上昇するため好ましくない。
【0038】
2段目の反応時間は、0.01〜2時間が好ましい。反応時間が0.01時間未満であると、芳香族性炭素−炭素二重結合が十分水素化されないことがある。一方、反応時間が2時間を越えると、処理すべき分解ケロシンに対する水素化触媒量が多大となり、また大型の反応器を必要とするため、経済的に不利となる。したがって、2段目の反応時間は、0.01〜2時間が好ましく、より好ましくは0.1〜1時間であり、更に好ましくは0.15〜0.5時間である。
【0039】
2段目の水素化反応に供する水素ガスは、1段目のものと同様のものを使用できる。また、新たに水素ガスを供給することなく、1段目の反応生成物と未反応水素ガスをそのまま2段目の反応器へ供給して水素化反応を行ってもよい。
【0040】
水素ガス/1段目の反応生成物の比率は、140〜10000Nm/mが好ましい。水素ガス/1段目の反応生成物の比率が140Nm/m未満になると、水素化の転化率が低くなる。また、水素ガス/1段目の反応生成物の比率が10000Nm/mを超えると、未転化の水素ガスが多量となり、経済的に不利となる。したがって、水素ガス/1段目の反応生成物の比率は、140〜10000Nm/mが好ましく、より好ましくは1000〜8000Nm/mであり、更に好ましくは2000〜6000Nm/mである。
【0041】
2段目の水素化反応に供する触媒は、芳香環の水素化能力を有するものであれば特に限定されるものではなく、一般的にはPt、Pd、Ni、Ru、Rh等の金属成分を含むものを用いることができる。また、これらの触媒は、担体に担持されていてもよい。担体としては、例えば、アルミナ、活性炭、ゼオライト、シリカ、チタニア、ジルコニアを挙げることができる。これらの例としては、Ru/炭素、Ru/アルミナ、Ni/珪藻土、ラネ−ニッケル、担持型Rh、Ru/Co/アルミナ、Pd/Ru/炭素などを挙げることができる。具体的には、上記特許文献3に記載された水素化触媒を使用することができる。
【0042】
2段目の芳香族性炭素−炭素二重結合を水素化する触媒は、エチレン性炭素−炭素二重結合の水素化にも使用可能であるため、当該触媒を1段目の水素化反応に用いることも可能であり、1段目と2段目との両方に同じ触媒を用いてもよい。
【0043】
通常、分解ケロシン中には、数十〜数千ppmの硫黄化合物が含まれることが知られている。これらの硫黄化合物は、チオール、スルフィド、チオフェン、ベンゾチオフェン、ジベンゾチオフェンなどを含有している。上述した金属系触媒は、比較的マイルドな条件でも高い核水素化活性を示し、1段目及び2段目の反応に用いるのに適しているが、硫黄化合物で被毒され、触媒寿命が短くなる場合がある。したがって、水素化反応に供給する分解ケロシン原料中の硫黄化合物を少なくしておくことが好ましい。水素化反応へ供給する原料中の全硫黄濃度は、その重量割合で1000ppm以下が好ましく、より好ましくは500ppm以下であり、更に好ましくは200ppm以下である。そして、分解ケロシン中の全硫黄濃度が多い場合には、水素化反応工程の前に脱硫装置を組み込みことが好ましい。
【0044】
また、上述した硫黄化合物の問題は、固体酸性を有する超安定化Y型ゼオライト担体に白金やパラジウムを担持することにより改善できることも知られている。本発明の水素化反応でもこれらの触媒を用いることが好ましい。「特開平11−57482公報」には、セリウム(Ce)、ランタン(La)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)を修飾したゼオライト担体にPd−Pt貴金属種を担持した触媒を用いて、硫黄含有の芳香族炭化水素油を水素化処理する場合に、耐硫黄被毒性が更に向上することが開示されている。更に、「特許第3463089号公報」には、固体酸性を有する超安定化Y型ゼオライト(USYゼオライト)担体に白金やパラジウム、更に第3成分としてイッテルビウム(Yb)、ガドリウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)を担持することにより、硫黄分や窒素分を含有するテトラリンのn−ヘキサデカン溶液や、軽油の脱芳香族率が大幅に改善できることが開示されている。
【0045】
1段目及び2段目の水素化反応に供する水素ガスは、純水素でもよく、ナフサを主な原料とする熱分解炉から生産される水素のようにメタン等の低活性物質を含有してもよい。また、一酸化炭素のような貴金属触媒被毒物質を含有する場合には、PSA(圧力スウィング吸着分離法)や膜分離などを用いて分離精製を行っておくことが望ましい。また、反応で消費されなかった水素については、反応器出口において、凝縮成分と気液分離した後、再度昇圧して反応器へ再供給することが経済的にも効果的である。
【0046】
当該反応においては、原料液(分解ケロシン)中の硫黄化合物が脱硫反応により硫化水素となる場合がある。この場合には、反応器へ再供給する水素中に脱硫反応にて発生した硫化水素の一部又は全てが含まれる可能性がある。このような硫化水素は、反応に供する触媒の劣化促進物質となる可能性があるため、反応器へ供給する前に除去しておくことが望ましい。硫化水素の除去方法としては、一般的な方法として苛性ソーダによる反応除去(薬品法)や鉄などによる吸着除去(鉄粉法)を挙げることができる。このような硫化水素の除去については、凝縮成分と気液分離した後でもよく、また反応器へ再供給する水素ガスの昇圧後でもよい。
【0047】
1段目及び2段目の水素化反応は、同様の反応形態をとることが可能なため、反応に使用する反応器の形態としては、固定床断熱型反応器や固定床多管式反応器の何れを用いてもよい。水素化反応は、多大な反応熱を発するため、この反応熱を除去することが可能なプロセスが好ましい。例えば、固定床断熱型反応器を用いた場合には、除熱用の液・ガスを多量に供給することで、反応熱の除熱、或いはホットスポットの回避が可能である。また、固定床多管式反応器を用いた場合には、そのような除熱用の液・ガスを多量に供給することなく除熱可能であるため、運転コストを低減できる効果がある。触媒層における温度の上昇が50℃を超えると、水素化分解などの副反応、カーボン質の析出、暴走反応など望ましくない現象が現れることがあるため、上記のような反応熱の除去が必要である。
【0048】
反応器内における反応形態は、アップフローでもダウンフローでもよい。反応が気固液反応でダウンフローの場合には、液の偏流を防止するために、反応器内部に液分散板などを設置する方法が用いられる。
【0049】
触媒の形状は、特に限定されるものではなく、例えば、粉末状、円柱状、球状、葉状、ハニカム状を挙げることができ、使用条件に応じて適宜選択することが可能である。このうち、上記固定床反応装置では、円柱状、球状、葉状、ハニカム状といった定形の触媒を用いることが好ましい。
【0050】
通常、水素化反応は、大きな反応熱を伴うため、触媒充填層のホットスポットの発生を避けることが必要となる。一般的には、不活性溶媒による供給液希釈、触媒の不活性担体による希釈、水素ガスによるクエンチング等が必要である。不活性溶媒による供給液希釈の場合には、生成物の分離精製コストを考慮し、当該プロセスの反応生成物の一部を再度リサイクルさせ、分解ケロシンと混合させることが望ましい。また、ホットスポットを回避することによりビニル基の重合を抑制し、コーキングによる触媒劣化速度を著しく低減することができる。
【0051】
2段目の水素化反応の度合いは、水素化されずに残った芳香環及び/又はエチレン性炭素−炭素二重結合を13C−NMRで測定することで評価することができる。2段目の反応生成物の不飽和炭素割合は、20%以下が好ましい。反応生成物中の不飽和炭素割合が20%を超える場合には、芳香環を含有する物質の分解炉での分解収率は極めて低いため、熱分解工程へ供給しても十分な量の高付加価値製品が得られず、工業的に有意義なプロセスとなり得ない。したがって、2段目の反応生成物の不飽和炭素割合は、20%以下が好ましく、より好ましくは10%以下であり、更に好ましくは5%以下である。
ここで、不飽和炭素割合は、以下の様に定義する。
(不飽和炭素割合)=(不飽和炭素原子のモル量)/(2段目の水素化後の生成物が含有する全炭素原子のモル量)×100[%]
なお、不飽和炭素原子とは、共役、非共役に拘わらず、不飽和結合している炭素原子のことを言う。例えば、プロピレンであれば、不飽和炭素の数は2(全炭素数は3)、トルエンであれば、不飽和炭素の数は6(全炭素数は7)となる。
【0052】
<プロセス>
以下、本発明の石油化学プロセス(以下、単に「プロセス」ということがある。)について、図1〜図5を参照しながら説明する。
図1には、分解ケロシンの2段水素化反応による分解原料化プロセスを示す。
この図1に示すプロセスでは、ナフサ等の石油化学原料を高温の熱分解炉にてクラッキングし、更にその分解生成物を精製分離し、水素、エチレン、プロピレン、分解ケロシンなどを生産する。また、熱分解、精製分離を経て得られる分解ケロシンは、通常、燃料や石油樹脂などの原料として使用されている。そして、このプロセスは、分解ケロシンの一部又は全てを上記2段の水素化反応によって、分解ケロシン中に含有する芳香環及び/又はエチレン性炭素−炭素二重結合を水素化処理し、これら水素化処理された炭化水素を再度分解原料として熱分解炉へと再循環させる。
【0053】
図2には、図1に示す分解ケロシンの分解原料化プロセスにおいて、更に水素化反応後の液の一部を2段水素化反応へと再供給する分解原料化プロセスを示す。
この図2に示すプロセスでは、図1に示すプロセスにおいて得られた芳香環及び/又はエチレン性炭素−炭素二重結合が水素化処理された反応液の一部を、再度2段水素化反応器へ循環させることにより、水素化反応熱による触媒層温度、又は触媒表面温度の上昇を抑制する。これにより、触媒表面上のコーク付着を低減し、触媒寿命を大幅に向上させることができる。
【0054】
図3には、図2に示す分解ケロシンの分解原料化プロセスにおいて、更にエチレンプラントから生成される水素を2段水素化反応へと供給する分解原料化プロセスを示す。
この図3に示すプロセスでは、エチレンプラントから生成される水素を2段水素化反応に供給する。すなわち、水素化反応に供給される水素の発生源について制約はなく、当該熱分解炉から生産される水素であればよい。また、その純度についても制約はなく、必要に応じて不純物であるメタンや一酸化炭素をPSAなどの方法により除去することができる。
【0055】
図4には、図3に示す分解ケロシンの分解原料化プロセスにおいて、更に未反応の水素ガスを再度2段水素化反応へと供給する分解原料化プロセスを示す。
この図4に示すプロセスでは、2段水素化反応に供給した水素のうち、未反応水素を再度2段水素化反応へと供給する。通常、2段水素化反応に供給される水素は、分解ケロシン中の芳香環及び/又はエチレン性炭素−炭素二重結合を水素化処理するために、その必要な理論量に対して過剰の供給を行う。このため、反応器出口には未反応水素が存在することになり、これらの水素を再度水素化反応に利用することで、経済性の面から更なる効率化を図ることができる。
【0056】
図5には、図4に示す分解ケロシンの分解原料化プロセスにおいて、更に未反応の水素ガス中の硫化水素を脱硫して再度2段水素化反応へ供する分解原料化プロセスを示す。
この図5に示すプロセスでは、上記未反応水素中に含まれる硫化水素を除去した後に、再度水素化反応へと供給する。また、このプロセスでは、水素の循環系での硫化水素の濃縮を回避するため、未反応水素中の硫化水素を除去する。分解ケロシンは、通常硫黄化合物を含有しており、2段水素化反応によってこれら硫黄化合物の一部又は全てが反応して硫化水素となる。硫化水素は、その沸点が低く、未反応水素を再循環させる際に、その中に含まれることになる。また、この硫化水素は、水素化反応触媒の触媒毒となる場合がある。したがって、このプロセスでは、硫化水素を除去することによって、このような問題を回避することができる。
【0057】
以上、本発明のプロセスについて概略説明したが、更に詳しいプロセスの一実施形態について図6を参照しながら説明する。
本プロセスでは、図6に示すように、ナフサ等の石油化学原料をエチレン製造プラント11にて熱分解・精製し、エチレン、プロピレン等の各種製品を生産する。そして、これらの製品群の中から、分解ケロシンの一部又は全てをポンプ12により昇圧し、1段目の水素化反応器13へと供給する。一方、エチレン製造プラント11より得られる水素、メタン、一酸化炭素の混合ガスは、PSAユニット(PSA unit)14にて水素純度を上げた後、この水素リッチガスを圧縮機15により昇圧し、循環水素ガスと混合した後、更に圧縮機16により昇圧し、1段目の水素化反応器13へと供給する。1段目の水素化反応器13では、水素化触媒の存在下で水素ガスと分解ケロシンを接触させて主にエチレン性炭素−炭素二重結合の水素化を行う。そして、1段目の水素化反応器13を出たガス等を2段目の水素化反応器17へと供給する。2段目の水素化反応器17では、水素化触媒の存在下で水素ガスと1段目の反応生成物を接触させて主に芳香族性炭素−炭素二重結合の水素化を行う。これにより、1段目で未反応であったエチレン性炭素−炭素二重結合の水素化も進行する。そして、2段目の水素化反応器17を出たガス等、すなわち、上記2段の水素化反応により芳香環及び/又はエチレン性炭素−炭素二重結合が水素化処理された反応液と硫化水素を含む未反応水素ガスは、この水素化反応器17の出口に設けられた分離装置18にて気液分離される。このうち、凝縮液は、一部をポンプ19により昇圧し、再度1段目の水素化反応器13へと循環される。また、凝縮液の一部は、分解原料としてエチレン製造プラント11の熱分解炉へと再供給される。一方、硫化水素を含む未反応水素ガスを主な成分とする非凝縮性ガスは、硫化水素除去塔20にて苛性ソーダ水溶液による洗浄処理が行われた後、圧縮機15からのフレッシュな水素ガスと混合され、圧縮機16により昇圧された後、1段目の水素化反応器13へと供給される。なお、本プロセスでは、これら未反応水素ガスの一部又は全てを系外へパージしてもよい。
【0058】
<分解反応シミュレーション>
以上のようなプロセスにより得られた芳香環及び/又はエチレン性炭素−炭素二重結合の低減された水素化生成物を、再度熱分解炉の分解原料として使用する場合は、分解ケロシンをそのまま分解原料として使用する場合と比較して、エチレンやプロピレンなどの熱分解収率が極めて高い。
【0059】
ここで、下記サンプル(1)〜(4)の成分について分解反応シミュレーションを行い、生成物の組成を推定した結果を表2に示す。
(1)分解ケロシン
(2)分解ケロシンの芳香環炭素−炭素二重結合を含む全ての不飽和炭素を水素化し、不飽和炭素割合が全炭素中0%としたと仮定したもの
(3)分解ケロシンの芳香環炭素−炭素二重結合以外の不飽和炭素を水素化したと仮定したもの
(4)ナフサ
【0060】
なお、分解収率計算は、以下のプロセスシミュレータを用いて行った。
計算ソフト:Technip社製エチレン分解管分解収率計算ソフト SPYRO
分解温度:818℃
スチーム/原料炭化水素比=0.4/1.0(重量/重量)
【0061】
また、サンプル(1)〜(4)の供給組成は、以下のとおりである。
(1)分解ケロシン
シクロペンタジエン(0.5質量%)、メチルシクロペンタジエン(2.0質量%)、ベンゼン(0.5質量%)、トルエン(1.0質量%)、エチルベンゼン(7.0質量%)、スチレン(9.0質量%)、ジシクロペンタジエン(5.0質量%)、ビニルトルエン(25質量%)、インデン(22質量%)、ナフタレン(4.0質量%)、1,3,5−トリメチルベンゼン(4.0質量%)、1,2,4−トリメチルベンゼン(6.0質量%)、1,2,3−トリメチルベンゼン(4.0質量%)、α−メチルスチレン(3.0質量%)、β−メチルスチレン(4.0質量%)、メチルインデン(3.0質量%)
(初留点 101.5℃、終点 208.5℃、密度 0.92g/L、臭素価 100g/100g)
【0062】
(2)すべての不飽和炭素を水素化したもの
シクロペンタン(0.5質量%)、メチルシクロペンタン(2.0質量%)、シクロヘキサン(0.5質量%)、メチルシクロヘキサン(1.0質量%)、エチルシクロヘキサン(16質量%)、ジシクロペンタン(5.0質量%)、1−メチル−4−エチルシクロヘキサン(25質量%)、ヒドリンダン(22質量%)、デカリン(4.0質量%)、トリメチルシクロヘキサン(14質量%)、イソプロピルシクロヘキサン(3.0質量%)、n−プロピルシクロヘキサン(4.0質量%)、メチルヒドリンダン(3.0質量%)
【0063】
(3)芳香環炭素−炭素二重結合以外の不飽和炭素を水素化したもの
シクロペンタジエン(0.5質量%)、メチルシクロペンタジエン(2.0質量%)、ベンゼン(0.5質量%)、トルエン(1.0質量%)、エチルベンゼン(16質量%)、ジシクロペンタジエン(5.0質量%)、メチルエチルベンゼン(25質量%)、インダン(22質量%)、ナフタレン(4.0質量%)、1,3,5−トリメチルベンゼン(4.0質量%)、1,2,4−トリメチルベンゼン(6.0質量%)、1,2,3−トリメチルベンゼン(4.0質量%)、n−プロピルベンゼン(3.0質量%)、クメン(4.0質量%)、メチルインダン(3.0質量%)
【0064】
(4)ナフサ
ノルマルパラフィン成分 C3(0.03質量%)、C4(2.2質量%)、C5(9.8質量%)、C6(4.5質量%)、C7(7.6質量%)、C8(5.5質量%)、C9(3.4質量%)、C10(0.74質量%)、C11(0.02質量%)イソパラフィン成分 C4(0.33質量%)、C5(6.7質量%)、C6(8.2質量%)、C7(6.6質量%)、C8(8.5質量%)、C9(3.8質量%)、C10(2.1質量%)、C11(0.09質量%)オレフィン成分 C9(0.16質量%)、C10(0.01質量%)ナフテン成分 C5(1.2質量%)、メチル−C5(2.5質量%)、C6(1.2質量%)、C7(4.3質量%)、C8(4.2質量%)、C9(2.8質量%)、C10(0.47質量%)芳香族成分 ベンゼン(0.52質量%)、トルエン(1.8質量%)、キシレン(2.9質量%)、エチルベンゼン(0.86質量%)、C9(2.0質量%)、C10(0.02質量%)
【0065】
【表2】

【0066】
表2の測定結果からは、芳香環及び/又はエチレン性炭素−炭素二重結合を水素化し、炭化水素の不飽和炭素割合を全炭素中0%とすることにより、石油化学産業にとって有用なエチレン、プロピレンなどの高付加価値成分の熱分解収率が大きく改善されることがわかる。例えば、分解ケロシン(1)を熱分解した場合のエチレン収率が2.5%であるのに対し、(2)分解ケロシンの芳香環を含む不飽和炭素を水素化し、不飽和炭素割合が全炭素中0%としたと仮定したものは、エチレン収率が17.9%であった。同じくプロピレン収率については、(1)が0.4%であるのに対し、(2)では10.8%であった。
【実施例】
【0067】
以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0068】
<実験装置>
本実施例では、図7に示すような構成の高圧固定床流通式反応装置を用い、反応管内部に触媒を充填し、アップフローモードで水素化反応を行った。なお、後述する実施例1及び実施例2における水素化の1段目/2段目反応は、それぞれ単独に行い、1段目の反応凝縮液の全量を2段目の反応の供給原料液とした。
反応器は、内径19.4mm、触媒有効充填長520mmの縦型管状反応器を用い、触媒層には熱電対挿入用の鞘(外径6mm、SUS316製)を中心に設置し、その中に挿入した熱電対により触媒層の温度を実測した。但し、反応管下部200mmには1/8BのSUS316製ステンレスボールを充填し、予熱層とした。反応器は、電気炉により温度調整を行い、反応生成物は、水を冷媒とする熱交換器により冷却した後、圧力調整弁でほぼ大気圧まで減圧し、気液分離器で凝縮成分と非凝縮成分の分離を行い、それぞれについて分析を行った。水素流量は、流量制御弁にてコントロールした。原料液の供給にはエアポンプを用い、供給速度は原料容器を載せた電子天秤の重量減少速度とした。
【0069】
<凝縮成分(反応後の液体成分)の分析>
「臭素価」は、以下の装置及び条件により求めた。
装置:カールフィッシャー臭素価測定装置(京都電子工業MKC−210)
対極液:0.5mol/L塩化カリウム水溶液、5mL
電解液:1mol/L臭化カリウム水溶液;14mL+特級氷酢酸;60mL+メタノール;26mL
試料:10μLをマイクロシリンジにて注入
C=(TS−TB)×F/(D×V×10)×100
C:臭素価[g/100g]、TS:滴定量[μg]、TB:ブランク[μg]、F:換算係数(8.878)[−]、D:密度[g/mL]、V:サンプル量[mL]
【0070】
「芳香環及び/又はエチレン性炭素−炭素二重結合の割合」は、以下の装置及び条件により求めた。
装置:13C−NMR、400MHz(日本電子社製 EX−400)
測定方法:重水素化クロロホルムに溶解し、内部標準物質にテトラメチルシランを使用。
【0071】
「全硫黄濃度」は、以下の装置及び条件により求めた。
装置:塩素硫黄分析装置(三菱化成工業製、モデルTSX−10型)
電解液:アジ化ナトリウム25mg水溶液;50mL+氷酢酸;0.3mL+ヨウ化カリウム;0.24g
脱水液:リン酸;7.5mL+純水;1.5mL
対極液:特級硝酸カリウム10質量%水溶液
酸素導入圧力:0.4MPaG
アルゴン導入圧力:0.4MPaG
試料導入部温度:850〜950℃
試料:30μLをマイクロシリンジにて注入。
【0072】
<非凝縮成分(反応後のガス成分)の分析>
「硫化水素」の分析は、絶対検量線法を用い、流出ガスを50ml採取し、ガスクロマトグラフィー装置に付属した1mlのガスサンプラーに全量流し、以下の条件で分析を行った。
装置:島津ガスクロマトグラフ用ガスサンプラー(MGS−4:計量管1ml)付ガスクロマトグラフィー(島津製作所製、GC−2014)
カラム:キャピラリーカラムTC−1(長さ60m、内径0.25μm、膜厚0.25μm)
キャリアーガス:ヘリウム(流量33.5ml/min、スプリット比20)
温度条件:検出器300℃、気化室300℃、カラム80℃一定。
検出器:FPD(H圧105kPaG、空気圧35kPaG)
【0073】
「水素化触媒」は、「特許第3463089号公報」の実施例2に従って調製した。但し、貴金属の担持量はYb:5.0質量%、Pd:0.82質量%、Pt:0.38質量%とした。すなわち、超安定化Y型ゼオライト(東ソー(株)製、HSZ−360HUA、SiO/Alモル比=13.9、H型ゼオライト)に、酢酸イッテルビウム(Yb(CHCOO)・4HO)を含浸法により担持させ、110℃で一晩乾燥した。次に、これらのYb含浸担持ゼオライトに、Pdの前駆体Pd[NH]Clと、Ptの前駆体Pt[NH]Clを含浸法によりそれぞれ担持した。その後、真空中において温度110℃で6時間乾燥した後、一旦ディスク状に成形し、更に粉砕した後、22/48メッシュの粒度に揃えた。得られた触媒は、酸素気流中、常温から0.5℃min−1の昇温速度で300℃まで加熱し、その後、300℃で3時間焼成した。最終処理である触媒の水素還元は、活性評価の前処理としてin−situで行った。
【0074】
[実施例1]
「水素化反応」
エチレンプラントにて採取された下記成分の分解ケロシンを水素化反応に供給した。供給液の主な性状を以下に示す。
初留点:101.5℃、終点:208.5℃(常圧)
密度:0.92g/L
臭素価:100g/100g
硫黄分:120質量ppm
主な成分の組成:ビニルトルエン19.4質量%、インデン16.0質量%、ジシクロペンタジエン7.0質量%、トリメチルベンゼン5.5質量%、スチレン5.2質量%、α−メチルスチレン3.1質量%、β−メチルスチレン5.1質量%、メチルインデン1.0質量%、ナフタレン2.7質量%
反応条件は、
「(I)1段目水素化反応」
水素圧;5.0MPa、反応温度;90〜110℃、原料供給速度;30gh−1、水素流量;72NLh−1、触媒量;20g、空間速度(WHSV);1.5h−1
「(II)2段目水素化反応」
水素圧;5.0MPa、反応温度;280〜300℃、原料供給速度;30gh−1、水素流量;72NLh−1、触媒量;20g、空間速度(WHSV);1.5h−1
とした。
【0075】
(I)の反応では、焼成後の触媒試料を反応管に充填し、水素気流中(常圧、50NLh−1)300℃で3時間(昇温速度;1.0Kmin−1)還元処理を行った。その後、触媒層の温度を100℃まで下げ、所定の水素圧まで加圧した後、原料を予備加熱部分へと導入した。また、(II)の反応では、同様の還元処理の後、触媒層の温度を280℃まで下げ、所定の水素圧まで加圧した後、(I)の反応の反応生成液(凝縮成分)をそのまま予備加熱部分へと導入した。
【0076】
以下、実施例1による(I)の反応後の結果を表3に示し、(II)の反応の結果を表4に示す。なお、表3,4中に示す反応液とは、反応後の凝縮成分を意味し、反応ガスとは、反応後のガス成分を意味する。
【0077】
【表3】

【0078】
【表4】

【0079】
表3,4に示すように、2段目の反応液中の芳香族を含む不飽和炭素割合は、500hの反応で10%まで上昇した。この触媒劣化の原因は、触媒へのコーキングであることが推察される。
【0080】
[実施例2]
「水素化反応」
実施例2では、実施例1と同様の反応を行った。但し、(I)の反応原料には、分解ケロシンと(II)の反応の反応生成液を1:4の割合(重量)で混合したものを使用した。(II)の反応原料には、(I)の反応の反応生成液(凝縮成分)をそのまま使用した。すなわち、(I)の反応及び(II)の反応は共に、原料供給速度;150gh−1(内、希釈成分として実施例1の(II)の反応の反応生成液:120gh−1)、空間速度;7.5h−1とした他は、実施例1と同じとした。なお、運転初期(運転時間0〜24h)の希釈液には、実施例1で得られた2段目の反応液を使用した。その後は、本実施例2で生成した反応液を使用した。
以下、実施例2による(I)の反応後の結果を表5に示し、(II)の反応の結果を表6に示す。
【0081】
【表5】

【0082】
【表6】

【0083】
表5,6に示すように、1000hの反応でも、2段目の反応液中の芳香族を含む不飽和炭素割合は0%を維持している結果となった。
【0084】
[比較例1]
「水素化反応」
比較例1では、実施例1に記載の水素化反応を1段で行った。反応条件は、水素圧;5.0MPa、反応温度;280℃、原料供給速度;30gh−1、水素流量;72NLh−1、触媒量;20g、空間速度(WHSV);1.5h−1とした。焼成後の触媒試料を反応管に充填し、水素気流中(常圧、50NLh−1)、1.0℃min−1の昇温速度で常温から300℃まで加熱した後、300℃で3時間還元処理を行った。その後、触媒層の温度を280℃まで下げ、所定の水素圧まで加圧した後、原料を予備加熱部分へ導入した。
以下、比較例1による反応後の結果を表7に示す。
【0085】
【表7】

【0086】
表7に示すように、反応開始後1hで既に反応液中の芳香族を含む不飽和炭素割合は1%検出され、その後70hでは32%まで上昇した。これは、触媒へのコーキングが原因と考えられる。また、本発明の水素化方法と比較し、触媒劣化までの時間が極端に短くなっている。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】図1は、分解ケロシンの2段水素化反応による分解原料化プロセスを示す模式図である。
【図2】図2は、図1に示す分解ケロシンの分解原料化プロセスにおいて、更に水素化反応液の一部を2段水素化反応へと再供給する分解原料化プロセスを示す模式図である。
【図3】図3は、図2に示す分解ケロシンの分解原料化プロセスにおいて、更にエチレンプラントから生成される水素を2段水素化反応へと供給する分解原料化プロセスを示す模式図である。
【図4】図4は、図3に示す分解ケロシンの分解原料化プロセスにおいて、更に未反応の水素ガスを再度2段水素化反応へと供給する分解原料化プロセスを示す模式図である。
【図5】図5は、図4に示す分解ケロシンの分解原料化プロセスにおいて、更に未反応の水素ガス中の硫化水素を脱硫して再度2段水素化反応へ供する分解原料化プロセスを示す模式図である。
【図6】図6は、分解ケロシンの分解原料化プロセスの一実施形態を示すブロック図である。
【図7】図7は、ラボ実験装置の概略を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0088】
11…エチレン製造プラント 12…ポンプ 13…1段目の水素化反応器 14…PSAユニット 15…圧縮機 16…圧縮機 17…2段目の水素化反応器 18…分離装置 19…ポンプ 20…硫化水素除去塔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香環及び/又はエチレン性炭素−炭素二重結合を有する炭化水素化合物の混合物を、下記(I),(II)の2段階で水素化することを特徴とする水素化方法。
(I) 50〜180℃の範囲で水素化反応を行う。
(II) 230〜350℃の範囲で水素化反応を行う。
【請求項2】
芳香環及び/又はエチレン性炭素−炭素二重結合を有する炭化水素化合物の混合物が、ナフサを主な原料とする熱分解炉から生産される炭化水素であって、沸点が90〜230℃の範囲にある留分(「分解ケロシン」という。)であることを特徴とする請求項1に記載の水素化方法。
【請求項3】
水素化反応に触媒を使用し、当該触媒が、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)の中から選ばれる少なくとも1種又は2種以上の元素を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の水素化方法。
【請求項4】
水素化反応に供する触媒が、更に、セリウム(Ce)、ランタン(La)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、イッテルビウム(Yb)、ガドリウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、イットリウム(Y)の中から選ばれる少なくとも1種又は2種以上の元素を含むことを特徴とする請求項3に記載の水素化方法。
【請求項5】
水素化反応に供する触媒が、ゼオライトに担持された触媒であることを特徴とする請求項3又は4に記載の水素化方法。
【請求項6】
ゼオライトが、USYゼオライトであることを特徴とする請求項5に記載の水素化方法。
【請求項7】
少なくともナフサを主原料として熱分解反応を行い、少なくともエチレン、プロピレン、ブテン、ベンゼン、トルエンの何れかを製造する石油化学プロセスにおいて、熱分解炉から生産される分解ケロシンを、請求項1〜6の何れか一項に記載の方法で水素化処理し、これら水素化処理された炭化水素の一部又は全てを熱分解炉へ再供給することを特徴とする石油化学プロセス。
【請求項8】
熱分解炉へ再供給する水素化処理された炭化水素中の不飽和炭素原子の割合が、水素化処理された炭化水素中の全炭素原子数に対して、20モル%以下であることを特徴とする請求項7に記載の石油化学プロセス。
【請求項9】
1段目の水素化反応に供する水素と分解ケロシンとの比が、
水素ガス/分解ケロシン=140〜10000Nm/m
であることを特徴とする請求項7又は8に記載の石油化学プロセス。
【請求項10】
2段目の水素化処理された炭化水素の一部を、分解ケロシンと混合し、当該混合液を水素化反応に供することを特徴とする請求項7〜9の何れか一項に記載の石油化学プロセス。
【請求項11】
水素化に供する水素が、熱分解炉から生産される水素であることを特徴とする請求項7〜10の何れか一項に記載の石油化学プロセス。
【請求項12】
水素化反応における未反応の水素の少なくとも一部又は全てを再度水素化反応へ供することを特徴とする請求項7〜11の何れか一項に記載の石油化学プロセス。
【請求項13】
未反応水素中に含まれる硫化水素の少なくとも一部又は全てを除去して再度水素化反応へ供することを特徴とする請求項12に記載の石油化学プロセス。
【請求項14】
水素化反応に供給する分解ケロシン中の全硫黄濃度を重量割合で1000ppm以下とすることを特徴とする請求項7〜13の何れか一項に記載の石油化学プロセス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−266438(P2008−266438A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−110353(P2007−110353)
【出願日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】