説明

水素又は酸素の電気化学的ポンピング触媒膜リアクタ及びその利用

本発明は新型化学リアクタに関し、水素又は酸素の電気化学的ポンプ触媒膜リアクタに関する。新型リアクタは特に、水素化反応、脱水素化反応、脱酸反応及び酸化反応、すなわち炭化水素の直接アミノ化反応における転化率及び選択率の増加に適している。リアクタは、炭化水素の直接アミノ化反応等、特にベンゼンからのアニリンの合成のための、いくつかの化合物の製造のために利用され得る。このような利用において、生成された水素の電気化学的ポンピングによって、又は酸素のポンピングによって水素が除去され、水素が生成されると水素は酸化される。新型リアクタは、40%以上のベンゼンからアニリンへの転化率を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水素又は酸素の電気化学的ポンピング触媒膜リアクタに関する。本発明の目的は、液相及び気相中における水素化反応、脱水素化反応、脱酸反応及び酸化反応の転化率及び/又は選択率を増加させることである。
【0002】
本発明はさらに、炭化水素の直接アミノ化のための、特にベンゼンとアンモニアを反応させることによるアニリンへのベンゼンの転化のための、水素又は酸素の電気化学的ポンピング触媒膜の利用に関する。
【背景技術】
【0003】
水素又は酸素の電気化学的ポンピングの利用は、燃料電池等のエネルギー生産と関連するシステムについての開示文献に説明されている。水素の場合、電気化学的ポンピングがいわゆる高分子膜電解質燃料電池(polymeric membrane electrolyte fuel cells)又はPEMFCで見られ、カソードでの酸化反応はプロトン形態(protonic form)で、アノードからカソードへの水素浸透をもたらす。一方、いわゆる固体酸化物燃料電池又はSOFCでは、電気化学反応によりイオン性酸素が、カソードからアノードに向かう。
【0004】
引用文献はまた、水素又は酸素の電気化学的ポンピングを有するリアクタ、いわゆる電気化学的膜リアクタで有利に行われる化学反応を説明する(非特許文献1)。しかしながら、炭化水素の直接アミノ化反応、特にベンゼンのアニリンへの直接アミノ化反応のためのリアクタの利用について、非特許文献1はまったく考慮しなかった。
【0005】
ベンゼンの直接アミノ化反応は、2008年にDialerらによって述べられているように、1917年にWibautによって初めて提案された(特許文献1)。その後、多くの改良が開発され、熱力学的平衡によって制限される反応転化率を向上させた。
【0006】
特許文献2は、達成した数多くの利点の網羅的な説明を開示する。最も成功を収めたアプローチの一つは、Dupont社によって達成された。その説明は、Ni/NiO触媒の利用を公開する特許文献3〜6で見ることができ、構造酸素(structural oxygen)が利用され、生成された水素を酸化する。しかしながら、触媒と前記プロセスは、300℃、300bar(300×10Pa)で機能するとき、達成し得る最大転化率が13%未満であるように、触媒再生が関係する限り困難性がある。
【0007】
最近になって、特許文献2及び特許文献7は、リアクタへの酸化気体の添加と、水素から水への内部酸化に適した触媒とを開示している。同じ特許文献ではまた、パラジウム又はパラジウム合金の膜を有する触媒膜リアクタを利用し、ベンゼンの直接アミノ化反応を実施することを説明する。水素が濃縮サイド(反応媒質)と通過サイドとの間で分圧差のために反応媒質から除去され、スイープガス流れが利用される、プロセスが説明されている。このシステムは、ベンゼンのアニリンへの転化率を、転化率20%まで向上することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許出願公開第2008/0146846号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2009/0023956号明細書
【特許文献3】米国特許第3919155号明細書
【特許文献4】米国特許第3929889号明細書
【特許文献5】米国特許第4001260号明細書
【特許文献6】米国特許第4031106号明細書
【特許文献7】米国特許第出願公開第2009/0203941号明細書
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Marcano, S. and Tsotsis, T., "Catalytic Membranes and Membrane Reactors", Wiley-VCH, Chapter 2, 2002
【発明の概要】
【0010】
本発明は、酸素及び/又は水素電気化学的ポンピングによって炭化水素の直接アミノ化反応の収率を増加させる新規な電気化学触媒膜リアクタを提供する。
【0011】
本発明の目的の一つは、酸素及び/又は水素電気化学的ポンピングのための手段を用いる電気化学触媒膜リアクタを開示することである。
【0012】
本発明の好ましい実施形態は、水素の電気化学的ポンピングを実行するための手段と、少なくとも複合膜とを備える、電気化学触媒膜リアクタである。複合膜は、
・電解質(2)を挟み込む2つの電極であるアノード(3)及びカソード(1);
・アノード(3)もカソード(1)も導電性を有し;
・電解質(2)は電気を通さず、プロトンを選択する層を形成し;
・好ましくはナノ粒子として、アノード(3)を覆う又はアノード(3)に含浸させた適切な化学触媒(4)
を備える。
【0013】
複合膜はまた、結果として生じるプロトンが電解質を通過することができるような水素を酸化するのに適する電気化学触媒と、プロトンを受け取り、プロトンを減らすのに適する、又は、酸素との反応にプロトンをもたらすのに適する第2の電気化学触媒とを備える。電気化学触媒は、アノード(3)/電解質(2)及びカソード(1)/電解質(2)の界面に存在するのが好ましい。
【0014】
アノードサイドの電気化学触媒は好ましくは、化学触媒をデコレートするナノ粒子として付着(deposit)され、すなわち化学触媒(4)表面に付着されるべきである。
【0015】
より好ましい実施形態では、通過サイドに(すなわち、カソード(1)サイドに)少なくとも1つのガスインジェクタ(又はガスフィーダ)を加えることにより、複合膜を通過した水素がカソード(1)電極で水に酸化され得る。フィードされたガスは酸素を含有しなければならない。カソード上に、好ましくは電解質との界面に付着した、例えばプラチナのナノ粒子等の酸化触媒又は電気化学触媒による触媒作用を受けるこの酸化は、電流生成を可能にし、次いで水素の電気化学的ポンピングを促進し、あるいは水素の電気化学的ポンピングに十分である。従って、水素の電気化学的ポンピングに不可欠である電位差を設けることの必要性が、全体的又は部分的に回避される。
【0016】
他の好ましい実施形態では、水素の電気化学的ポンピングを有する触媒膜リアクタはさらに、両電極間の電位差を発生させるために、少なくとも1つの電力供給装置(power supply)を含む。この電位差は好ましくは0.5Vである。
【0017】
他の好ましい実施形態では、電極は反応媒質と接触し、アノード(3)は、多孔質又は緻密な膜(film)を形成し得るパラジウム又はパラジウムと銀との合金で、水素を通過することができてもよい。緻密な膜の場合、化学触媒はアノードに用いられ、電気化学触媒はアノード(3)/電解質(4)の界面に用いられるべきである。
【0018】
他のさらに好ましい実施形態では、カソード電極(1)は、緻密なパラジウム層、多孔質パラジウム、又は導電性で水素を通過できる他の材料からなるものであってもよい。
【0019】
他のさらにより好ましい実施形態では、MEA(membrane electrode assembly)として公知の複合膜がセラミック膜又は金属膜上に支持されてもよい。
【0020】
他のさらにより好ましい実施形態では、水素又は酸素の電気化学的ポンピングを有する、膜を備える触媒リアクタの使用温度(operating temperature)は、600℃まで、好ましくは、電解質(2)がイットリウムを添加したリン酸ジルコニウムから形成される場合200℃〜500℃の範囲であってもよい。
【0021】
他のさらにより好ましい実施形態では、電解質(2)がリン酸を添加したポリベンゾイミダゾール(polybenzimidazole)膜(PBI)であってもよい。使用温度は120℃〜200℃の範囲である。
【0022】
本発明の他の目的は、酸素の電気化学的ポンピングのための手段と、少なくとも複合膜とを備える触媒膜リアクタを開示することである。複合膜は、
・電解質(2)を挟み込む2つの電極であるアノード(3)及びカソード(1);
・アノード(3)もカソード(1)も導電性を有し;
・電解質(2)は電気を通さず、アニオン性酸素を通過する、すなわち電解質(2)はアニオン性酸素を選択する層を形成し;
・好ましくはナノ粒子として、化学反応に適切で、アノード(3)に含浸させた化学触媒(4);
・酸素を含むガスがフィードされる、カソード(1)サイドの少なくとも1つのガスインジェクタ(又はガスフィーダ)
を備える。
【0023】
複合膜はまた、電解質から現れる酸素イオンを酸化するのに適する電気化学触媒と、電解質に浸透する前に酸素をアニオン性酸素の状態にするのに適する電気化学触媒とを備える。電気化学触媒は、アノード(3)/電解質(2)、及び/又はカソード(1)/電解質(2)の界面に存在する、又はアノード(3)及びカソード(1)に添加されるのが好ましい。
【0024】
アノードサイドで、この触媒は化学反応で用いられるのと同じ触媒であることが好ましい。従って、アミノ化反応の結果として水素が生成されるとすぐに、水素は電気浸透(electro-permeation)により供給される酸素と反応する。
【0025】
従って、浸透した酸素が化学反応から生じた水素と反応するとすぐに、リアクタの内部で電位差が発生し、電位差は電気化学的酸素ポンピングに十分であり、外部の電位差を利用する必要がない。
【0026】
他の好ましい実施形態では、酸素の電気化学的ポンピングを有する、膜を備える触媒リアクタはまた、リアクタへの酸素のフィードを制御するように、両電極間の電位差、好ましくは0.25V〜1.5Vの範囲の電位差、さらにより好ましくは0.5Vを印加する電力供給装置を含む。
【0027】
より好ましい実施形態では、電解質(2)がイットリウムを添加した酸化ジルコニウム(YSZ)からなるものでもよい。
【0028】
さらにより好ましい実施形態では、複合膜は3つの層からなる。
・多孔質アノード(3)は、酸化イットリウムで安定化された、ニッケル−ジルコニウム酸化物サーメット(nickel and zirconium oxide cermet)であってもよく;
・電解質(2)はYSZであってもよく;
・そして、カソード(1)は、ランタン−ストロンチウム−マンガナイト(lanthanum strontium manganite)であってもよい。
【0029】
他のさらに好ましい実施形態では、複合膜は典型的な固体酸化物燃料電池(SOFC:solid oxide fuel cell)膜であってもよい。
【0030】
他のさらに好ましい実施形態では、酸素の電気化学的ポンピングを有する、上述の触媒膜リアクタの使用温度は、500℃〜1000℃、好ましくは600℃〜1000℃の範囲である。
【0031】
他の好ましい実施形態では、酸素の電気化学的ポンピングを有する触媒膜リアクタにフィードされるガスは空気(air)である。
【0032】
上述のリアクタは、例えば、アニリン製造のためのベンゼンのアミノ化反応等の、炭化水素の直接アミノ化反応のために用いられる。
【0033】
さらにより好ましい実施形態では、水素又は酸素の電気化学的ポンピングを有する、上述の電気化学的ポンピング触媒膜リアクタは、チューブ状の複合膜のアセンブリを含んでもよい。これらの膜は、ナノ粒子としてアミノ化反応触媒を、複合膜の内面又はアノードに含浸させて含んでもよい。
【0034】
上述したように、膜は、反応媒質から結果として生じる水素の電気化学的ポンピングを可能にするのに適した構造を有し、浸透サイド又はカソード電極触媒のいずれかへの浸透により、浸透する水素が酸素と反応し、カソードに向かって水素をポンピングするための電位差と水とを生成する。
【0035】
さらに本発明の他の目的は、膜を有する上記の触媒リアクタの一つの中での、アンモニアとの反応による、炭化水素、好ましくはアニリン製造のためのベンゼンの直接アミノ化反応のための方法を提供することである。本方法は以下の工程を備える。
・使用温度及び圧力で機能する、膜を有する触媒リアクタの使用;
・触媒存在下で、炭化水素とアンモニアのフローの導入;
・生成された水素の電気化学的ポンピング、又は触媒表面に酸素の電気化学的ポンピングを膜が可能にするような、水素又は酸素をポンピングすることによる前記反応で生成される水素の除去。
【0036】
好ましい実施形態では、炭化水素及びアンモニアのフローは、化学量論量で導入される。
【0037】
他の好ましい実施形態では、アンモニアのフローは、化学量論量を超える量を含む。
【0038】
水素又は酸素の電気化学的ポンピングはそれぞれ、化学触媒表面の水素、酸素の除去又は輸送を可能にする。化学触媒表面からの水素除去により、直接アミノ化反応の結果として水素が生成されるとすぐに、反応平衡を生産物にシフトすることができる。ベンゼンの直接アミノ化反応の場合、このポンピングによりベンゼン転化率が40%を超える。
【0039】
脱水素化反応は、この新規な技術によって利益を受けることができる非常に重要な化学反応群である。触媒表面への酸素の直接フィードは、反応転化率を改善するだけでなく、酸素が生成された水素と反応するので、反応の選択性も改善する。
【0040】
明細書に記載された水素又は酸素の電気化学的ポンピングを有する触媒リアクタが利用されると、次の電気化学的ポンピングを利用することによって、ベンゼンのアニリンへの高い転化率が達成される。
・水素の電気化学的ポンピング−化学触媒表面から水素を除去する;
・酸素の電気化学的ポンピング−触媒表面に酸素をフィードし、酸素を直接生成した水素と反応させ、そして、ベンゼン転化率を改善することにより、酸素が反応媒質に直接添加される場合のような反応媒質の酸化及び副産物の発生を回避する。
【0041】
現在、アニリンは一般的に、(ベンゼンと硝酸を反応させてニトロベンゼンを製造し、ニトロベンゼンと水素を反応させてアニリンを製造する)2つの工程を有する反応方法でベンゼンから合成される。アニリンはまた、フェノール又はクロロベンゼンから合成され得る。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】水素の電気化学的ポンピングを有する触媒リアクタのための複合膜の概略図。
【図2】酸素の電気化学的ポンピングと、ニッケル触媒の再酸化とを有する触媒リアクタのための複合膜の概略図。
【発明を実施するための形態】
【0043】
本発明の理解を容易にするために、2つの図面が添付され、本発明の範囲を制限することを意図するものではない本発明の好ましい実施形態を表す。
【0044】
本発明は、触媒膜リアクタで起きる化学反応の転化率及び/又は炭化水素の直接アミノ化反応の選択率を向上することを目的とする、触媒膜リアクタにおける水素又は酸素の電気化学的ポンピングの利用を提供する。
【0045】
本発明の原理は、触媒表面への水素又は酸素の電気化学的ポンピングであり、化学反応が起き、アミノ化反応の転化率及び選択率を改善することを目的とする。転化率と選択率の改善は、化学反応が起きる触媒表面から水素を直接除去することにより達成される。この水素除去は、酸素が水素と反応して水を生成する触媒表面から水素の電気化学的ポンピングによって、又は、当該触媒表面への酸素の電気化学的ポンピングによって、達成され得る。本反応のため、化学触媒は、例えば、化学触媒を電気化学的触媒でデコレートすることによって改質(modify)する必要があるかもしれない。水素の電気化学的ポンピングが利用されるとき、電極触媒はプラチナから構成され、酸素の電気化学的ポンピングが利用されるとき、電極触媒はニッケルから構成され得る。そして、電極触媒は化学触媒として同時に作用する。
【0046】
水素又は酸素の電気化学的ポンピングを有する触媒膜リアクタは、内層が適当な電解質(2)であり、外層両方が電極である本質的に3つの層を有する複合膜を利用する。化学及び/又は電気化学触媒は、電極上に、又は電極と電解質との間の界面に付着させる。正確な電極触媒の配置は、電極が電極触媒表面と電解質との間にイオン輸送を存在させるか否かにより決定される。
【0047】
水素の場合、外層又は電極は、電極触媒で生成された電子を収集又は放出するために導電性である必要があり、パラジウム又はパラジウムと銀の合金から構成され得る。カソード、すなわち外層は、多孔質金属層から構成され得る。電解質は、プロトンを伝導し、リアクタの使用温度に応じて本質的に選択される必要があり、そして、(90℃までの温度に対して)ポリマー、例えば、ナフィオン(Nafion)等のペルフルオロポリマー(perfluorated polymer)、又は(120℃〜200℃の温度に対して)ポリベンゾイミダゾール(polybenzymidazol)を添加したリン酸であってもよく、又は、(200℃〜600℃の温度に対して)リン酸ジルコニウムセラミックス(zirconium phosphate ceramics)を添加したイットリウムであってもよい。リアクタ膜はさらに、例えば焼結ステンレス鋼(sintered stainless steel)膜の上に支持され得る。導電層間に電位差を印加することにより、水素はリアクタの内部から外部に浸透する。酸素又は酸素含有ガス混合物がカソードサイドに存在する場合、酸化還元反応を促進するのに利用され、次いで水素浸透が発生するのに必要な電位差をもたらす。例えば、ベンゼンの直接アミノ化反応の場合、電気化学的ポンピングによる水素浸透は、カソードサイドで水素酸化を介して達成され得る。電解質(2)とカソード(1)の間の界面に付着したプラチナナノ粒子によって触媒作用を受け得る酸化還元反応は、1Vまでの電位差をもたらす。この電位差は、PEMFCの内部で起きるプロセスと類似のプロセスに従って、水素浸透をもたらす。
【0048】
電気化学的ポンピングによりもたらされる化学リアクタへの酸素浸透はまた、リアクタの内部に生成される水素との酸化還元反応により達成され得る。そのような場合、外部電位差(external electric potential bias)の印加が最小化され、まったく必要とされないかもしれない。
【0049】
電気化学触媒は、電解質の表面で付着される必要があり、従って結果として生じるイオン、すなわちプロトンと酸素イオンが電解質の内部に又は内部から移動することができる。これらはまた、電解質から又は電解質への、プロトン又は酸素アニオンを有するイオン架橋(ionic bridge)があれば、電極に含浸させられ得る。一方、電極触媒は、結果として生じる水素が除去され、又は浸透酸素が添加され得るように、化学触媒の近くに付着される必要がある。好ましい構成では、ナノ粒子形の電気化学触媒は、化学触媒をデコレートするように付着される必要がある。電流の伝導は、電極によって提供される。これにより、酸素及び水素が、アノード及びカソードで、化学触媒にフリーアクセスすることができる。
【0050】
電極触媒がアノードと電解質との間の界面に付着され、化学触媒がアノードに付着される場合、水素輸送をより効率的にするために、化学反応触媒がパラジウムでデコレートされ得る。この金属により、触媒表面から膜表面への水素輸送がより容易となる。
【0051】
酸素の電気化学的ポンピングは、500℃〜1000℃の範囲内の温度で起きる。酸素の電気化学的ポンピングの場合でも、膜リアクタは、例えば導電性のイットリウム安定化ニッケル−ジルコニアサーメット(electrically conductive yttrium stabilized nickel and zirconia cermet)(YSZ)層から構成される多孔質アノード(3)と;酸素を選択する、非導電性の緻密な層(通常YSZ層)を形成する電解質(2)と;例えば導電性のランタン−ストロンチウム−マンガナイト(LSM)層から構成されるカソードとの3層から構成される。電極間に電位差を印加することによって、反応媒質に添加される酸素の量を制御することができる。イオン形態(O2−)の酸素は、電解質(2)を通過する。酸素が反応媒質に添加されると水素が生成され、例えば、ベンゼンの直接アミノ化反応の場合、酸素が水素と反応し、燃料電池と類似の電位差を生成する。この場合、外部電位差の必要性が最小化され、まったく必要とされないかもしれない。
【0052】
フィードされる酸素は制御され、電気化学的ポンピング触媒膜リアクタに適した電位差を印加する。酸素は直接、化学触媒に輸送される。膜は、固体酸化物燃料電池(SOFC)に利用される膜と類似する。膜は、3層から構成される。
例えば導電性のイットリウム安定化ニッケル−ジルコニアサーメット(YSZ)層から構成される多孔質アノード(3)と;酸素イオンを選択する、非導電性の緻密な層(通常YSZ層)を形成する電解質(2)と;例えば導電性のランタン−ストロンチウム−マンガナイト(LSM)からなるカソードとの3層から構成される。
【0053】
ベンゼンの直接アミノ化反応のための触媒は、概要的に公知文献に記載されている。しかしながら、ニッケル系触媒は最も活性のある触媒であるようにみえる。ニッケルの利用は、ニッケルがアミノ化反応のための触媒として、そして層に必要なエレメントとしてアノード(3)に利用されるという2つの利点を有する。パラジウム及び/又はプラチナでデコレートされたニッケル触媒はまた、アミノ化及びさらに浸透酸素との触媒酸化の間に生成される水素の吸着を可能にするために、利用され得る。
【0054】
従って、酸素の電気化学的ポンピングは、生成された水素を除去するために、そして、アミノ化反応の転化率及び選択率を改善するために不可欠である。一方、酸素の電気化学的ポンピングは、触媒への酸素の直接供給を介して、ニッケル触媒から構造酸素の連続的な再生を可能にする。このプロセスは、リアクタフィードフローに直接添加される酸素とともに生成される副産物の製造を最小化する。
【0055】
リアクタは、電解質(2)が酸素イオンに対して伝導性を有する温度範囲である500℃〜1000℃の間の温度で動作する。
【0056】
本発明のより理解を深めるために、本発明の好ましい実施形態の2つの実施例を以下に説明する。2つの実施例は本発明の範囲を制限するものではない。
【0057】
(実施例1)
膜を有する触媒リアクタは酸素の電気化学的ポンピングするための手段を備え、当該手段は複合触媒膜から構成される手段である。ベンゼンの直接アミノ化反応のための触媒は、ニッケル/酸化ニッケルとプラチナナノ粒子を有する二元金属触媒(bimetallic catalyst)である。浸透サイドの電極触媒はプラチナナノ粒子を有する触媒である。多孔質アノード(3)は、例えばイットリウム酸化物で安定化されたニッケル−ジルコニウム酸化物サーメット(YSZ)から構成される。カソード(1)は、例えばランタン−ストロンチウム−マンガナイト(LSM)から構成される。電解質(2)はイットリウムを添加したリン酸ジルコニウムから構成される。
【0058】
(実施例2)
水素の電気化学的ポンピングによって化学触媒表面から水素が除去される電気化学的ポンピング触媒膜リアクタは、プラチナナノ粒子でデコレートされ、ベンゼンからアニリンへの直接アミノ化反応を提供するニッケル/ニッケル酸化物の化学触媒を備え、そして、水素の電気酸化を提供する。複合触媒は、アノード(3)と電解質(2)との間の界面に付着される。アノード(3)は厚さ約1μmの多孔質パラジウム膜から構成される。電解質(2)はイットリウムを添加したリン酸ジルコニウムから構成される。カソード(1)は厚さ0.5μmの多孔質パラジウム膜から構成される。電解質(2)/カソードの界面に、ナノ粒子のプラチナ電極触媒が付着される。これは、水素還元、あるいは、水素の酸素との反応のいずれかを提供すること目的としている。
【0059】
(実施例3)
酸素が化学触媒表面に電気化学的にポンピングされる電気化学的ポンピング触媒膜リアクタは、ニッケル/ニッケル酸化物の化学触媒を備え、ベンゼンの直接アミノ化反応と酸素の電気酸化とを提供する。この複合膜は、ニッケル/ニッケル酸化物の触媒を含浸させた多孔質YSZアノード(3)と;不浸透性のYSZ電解質(2)層と;ランタン−ストロンチウム−マンガナイト(LSM)カソード(1)層から形成される。
【符号の説明】
【0060】
1…カソード、2…電解質、3…反応媒質と接触する電極−アノード、4…触媒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素の電気化学的ポンピングを実行する手段を備える触媒膜リアクタであって、
前記膜は、
電解質(2)を挟み込むアノード(3)及びカソード(1)からなる2つの電極であって、前記アノード(3)及び前記カソード(1)が導電性を有し、前記電解質(2)が非導電性を有し、かつプロトンを選択する(例えば、反応物質も生成物質も輸送しない)層を形成する2つの電極と;
前記アノード(3)上で、又は前記アノード(3)と前記電解質(2)の間の界面に付着した適切な化学触媒(4)と;
前記アノード(3)に浸透し、又は前記アノード(3)と前記電解質(2)の間の界面に付着した、水素酸化のための電極触媒を含む前記アノード(3)と;
前記カソード(1)に含浸し、又は前記電解質(2)と前記カソード(1)の間の界面に付着した、水素還元のための電極触媒を含む前記カソード(1)と
を備える触媒膜リアクタ。
【請求項2】
請求項1記載の触媒膜リアクタであって、
さらに、両電極間に電位差を印加する電力供給装置を備えることを特徴とする触媒膜リアクタ。
【請求項3】
請求項1記載の触媒膜リアクタであって、
さらに、前記カソードに酸素含有ガスフローをフィードするためのシステムを備えることを特徴とする触媒膜リアクタ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の触媒膜リアクタであって、
前記化学触媒(4)はナノ粒子形態で存在することを特徴とする触媒膜リアクタ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の触媒膜リアクタであって、
前記化学触媒(4)はナノ粒子形態のプラチナ又はパラジウムの電極触媒でデコレートされることを特徴とする触媒膜リアクタ。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の触媒膜リアクタであって、
前記化学触媒(4)は、ナノ粒子形態であり、前記アノード上に付着していることを特徴とする触媒膜リアクタ。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の触媒膜リアクタであって、
前記触媒は前記アノード(3)と前記電解質(2)の間に付着し、前記アノードは多孔質であることを特徴とする触媒膜リアクタ。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の触媒膜リアクタであって、
前記アノード(3)は、パラジウム、又はパラジウムと銀の合金から構成されることを特徴とする触媒膜リアクタ。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の触媒膜リアクタであって、
前記カソード(1)はパラジウム又は多孔質パラジウム層から構成されることを特徴とする触媒膜リアクタ。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の触媒膜リアクタであって、
前記膜はセラミックス又は多孔質金属膜上に支持されることを特徴とする触媒膜リアクタ。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の触媒膜リアクタであって、
前記電解質(2)はリン酸を添加したポリベンゾイミダゾール膜から構成され、使用温度範囲は120℃〜200℃であることを特徴とする触媒膜リアクタ。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の触媒膜リアクタであって、
使用温度範囲は600℃以下であることを特徴とする触媒膜リアクタ。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか一項に記載の触媒膜リアクタであって、
前記電解質(2)はイットリウムを添加したリン酸ジルコニウム(YSZ)から構成され、使用温度範囲は120℃〜600℃であることを特徴とする触媒膜リアクタ。
【請求項14】
酸素の電気化学的ポンピングを実行する、複合膜を備える手段を含む触媒膜リアクタであって、
前記複合膜は、
電解質(2)を挟み込むアノード(3)及びカソード(1)からなる2つの電極であって、前記アノード(3)及び前記カソード(1)が導電性を有し、前記電解質(2)が非導電性を有し、かつアニオン性酸素を選択する2つの電極と;
ナノ粒子形態で存在し、前記アノード(3)に含浸した適切な化学触媒(4)と;
酸素含有ガス混合物をフィードする、前記カソード(2)サイドの少なくとも1つのガスフィーダと;
含浸され、又は、前記アノード(3)/前記電解質(2)の界面に付着した、酸素酸化のための電極触媒を含む前記アノード(3)と;
含浸され、又は、前記電解質(2)/前記カソード(1)の界面に付着した電極触媒を含む前記カソード(1)と
を備える触媒膜リアクタ。
【請求項15】
請求項14記載の触媒膜リアクタであって、
さらに、両電極間に電位差を印加する電力供給装置を備えることを特徴とする触媒膜リアクタ。
【請求項16】
請求項14又は15記載の触媒膜リアクタであって、
前記複合膜は典型的な固体酸化物燃料電池(SOFC)膜であることを特徴とする触媒膜リアクタ。
【請求項17】
請求項14〜16のいずれか一項に記載の触媒膜リアクタであって、
使用温度範囲は500℃〜1000℃であることを特徴とする触媒膜リアクタ。
【請求項18】
請求項14〜16のいずれか一項に記載の触媒膜リアクタであって、
フィードされる前記ガスは空気であることを特徴とする触媒膜リアクタ。
【請求項19】
請求項14〜18のいずれか一項に記載の触媒膜リアクタであって、
チューブ状の複合膜のバンドルを備えることを特徴とする触媒膜リアクタ。
【請求項20】
炭化水素の直接アミノ化反応のための方法であって、
使用温度及び圧力で、請求項1〜19記載のいずれか一項に記載の触媒膜リアクタを利用する工程と;
適切な触媒の存在下で、炭化水素又はアンモニアのフローをフィードする工程と;
前記膜が、反応媒質中で生成した水素の電気化学的ポンピング、又は前記生成した水素を酸化するための化学触媒表面に酸素の電気化学的ポンピングを可能にするように、水素又は酸素をポンピングすることによって、前記反応において生成した水素を除去する工程とから構成されることを特徴とする方法。
【請求項21】
請求項20記載の直接アミノ化反応のための方法であって、
前記炭化水素及びアンモニアフィードフローは、化学量論的割合でフィードされることを特徴とする方法。
【請求項22】
請求項20又は21記載の直接アミノ化反応のための方法であって、
前記アンモニアは炭化水素フィードに比して化学量論的割合を超えてフィードされることを特徴とする方法。
【請求項23】
請求項20〜22のいずれか一項に記載の直接アミノ化反応のための方法であって、
前記炭化水素はベンゼンであり、反応生成物はアニリンであることを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2013−514873(P2013−514873A)
【公表日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−537478(P2012−537478)
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【国際出願番号】PCT/IB2010/055045
【国際公開番号】WO2011/055343
【国際公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(512117410)セーウーエフィ−キミコス インダストリアス ソシエダッド アノニマ (1)
【氏名又は名称原語表記】CUF−QUIMICOS INDUSTRIAIS S.A.
【Fターム(参考)】