説明

水素製造用光触媒

【課題】光(特に可視光)照射下で有機物を原料として水素を効率よく且つ安定に製造することができる光触媒、及びこれを用いた水素の製造方法を提供すること。
【解決手段】粘土鉱物に金属酸化物を担持させた複合体で構成され、光照射下で水素源となる有機物を分解して水素を発生させるために使用する水素製造用光触媒である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素製造用光触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
18世紀の産業革命以来、化石燃料が主なエネルギー源として用いられてきた。この化石燃料の大量消費により大気中の二酸化炭素が増加したため、地球温暖化現象が誘引されたと考えられている。昨今の地球規模的な環境問題と地球の持続的発展を支える将来のエネルギー問題を解決するという観点から、水、バイオマス等の再利用可能資源から化学燃料を得る技術の開発が求められている。
【0003】
そこで、近年、バイオマス資源からも生産可能な有機物(例えば、アルコール、有機酸等)を原料として水素を製造することが注目されている。しかし、有機物を原料とする場合、通常、水蒸気改質(高温)過程を経なければ水素を得ることができないため、結果として水素の製造に化石燃料(外部エネルギー)が用いられていることになる。よって、この外部エネルギーを太陽光エネルギーに置換することが望まれている。
【0004】
太陽光エネルギーを化学エネルギーに変換するために、光触媒が使用される。そして現在までに、酸化チタン等の光触媒に紫外光を照射して有機物から水素を製造する方法が提案されている(非特許文献1参照)。しかし、紫外光は自然光のうちエネルギー密度の3%程度にすぎず、自然光エネルギー密度の約半分を占める可視光を有効に活用できていないことから、可視光を有効活用できる光触媒が望まれる。
【0005】
可視光に応答する光触媒として、硫化カドミウムが知られており、これを有機酸からの水素製造プロセスに適用した例も存在する(非特許文献2参照)。しかし、硫化カドミウムは毒性があることに加え、可視光照射下で自己溶解するため、そもそも水素製造用の光触媒とみなされていなかった。また、酸化鉄の超微粒子、白金の超微粒子、及びSiO等の絶縁性の母材からなる光触媒も提案されている。しかし、この光触媒は、適用可能な水相中のpH範囲がアルカリ性に限られるという制約がある。また、平坦な基板表面上に二次元的に酸化鉄が担持されているために比表面積が低く、その水素生成量は満足できるものではないことから、光(特に可視光)照射下で水素を効率よく且つ安定に製造することができる光触媒が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−262473号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Didler Robert, Catalyst Today 122 (2007) 20-26
【非特許文献2】Alexia Patsoura et al., Catalyst Today 124 (2007) 94-102
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、光(特に可視光)照射下で有機物を原料として水素を効率よく且つ安定に製造することができる光触媒、及び該光触媒を用いた水素の製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、粘土鉱物に亜酸化銅を担持させた複合体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決するため鋭意研究を行った結果、粘土の層間に特定の金属酸化物を担持させた複合体に、可視光(波長:400〜600nm)を照射したところ、有機物から効率よく水素を製造することができることを見出した。本発明者らは、かかる知見に基づき、更に発展させて本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の水素製造用光触媒、及び該光触媒を用いた水素製造方法等を提供する。
【0011】
項1.粘土鉱物に金属酸化物を担持させた複合体で構成され、光照射下で水素源となる有機物を分解して水素を発生させるために使用する水素製造用光触媒。
【0012】
項2.前記粘土鉱物が、スメクタイト族粘土鉱物である、上記項1に記載の光触媒。
【0013】
項3.前記スメクタイト族粘土鉱物が、ベントナイト又はモンモリロナイトである、上記項1又は2に記載の光触媒。
【0014】
項4.前記金属酸化物の粒子径が、5〜150nmである、上記項1〜3のいずれかに記載の光触媒。
【0015】
項5.前記金属酸化物が、亜酸化銅又は酸化鉄(III)である、上記項1〜4のいずれかに記載の光触媒。
【0016】
項6.前記有機物が、アルコール又は有機酸である、上記項1〜5のいずれかに記載の光触媒。
【0017】
項7.前記アルコールが、炭素数1〜4のアルコールであり、前記有機酸が酢酸又はギ酸である、上記項6に記載の光触媒。
【0018】
項8.前記金属酸化物が亜酸化銅であり、前記有機物が炭素数1〜4のアルコール、酢酸又はギ酸である、上記項7に記載の光触媒。
【0019】
項9.前記金属酸化物が酸化鉄(III)であり、前記有機物がギ酸であり、且つ前記光が可視光である、上記項7に記載の光触媒。
【0020】
項10.前記金属酸化物の表面に遷移金属触媒が担持されている、上記項1〜9のいずれかに記載の光触媒。
【0021】
項11.粘土鉱物に亜酸化銅を担持させた複合体。
【0022】
項12.上記項11に記載の複合体の製造方法であって、
前記粘土鉱物の交換性陽イオンを銅(II)イオンに置換した後、該銅(II)イオンを、還元剤としてチオ硫酸ナトリウムを用いて銅(I)イオンに還元することを含む、製造方法。
【0023】
項13.上記項11に記載の複合体からなる光触媒。
【0024】
項14.上記項1〜10及び項13のいずれかに記載の光触媒を用いて水素を製造する方法であって、光照射下で、水相中において該光触媒を有機物と接触させることにより水素を発生させる方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明の水素製造用光触媒は、粘土鉱物の層間に金属酸化物が担持されているので、通常の金属酸化物よりも金属酸化物の粒子径が小さく、これにより金属酸化物の比表面積が格段に増大するので、光(特に可視光)を照射することにより有機物から効率よく且つ安定に水素を発生させることができる。
【0026】
本発明の水素製造用光触媒は、可視域(波長600nm以下)の光エネルギーを利用することができる光触媒であり、特に太陽光(自然光)エネルギーを利用し、バイオマス資源から生産可能な有機物を水素源として用いて効率よく水素を製造することができる。
【0027】
さらに、この水素製造用光触媒を用いれば、太陽光エネルギーとバイオマス資源の利用とを組み合わせた新しい水素製造技術を確立することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】(a)は、実施例1で得られた光触媒の透過型電子顕微鏡の画像と電子線回折パターン(右上)であり、(b)は比較例1で得られた光触媒の透過型電子顕微鏡の画像と電子線回折パターン(右上)である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0030】
本発明の水素製造用光触媒(以下、「光触媒」という場合もある)は、粘土鉱物に金属酸化物を担持させた複合体で構成され、光照射下で水素源となる有機物を分解して水素を発生させるために使用するものである。
【0031】
粘土鉱物としては、層状構造を有し、その層間に交換性陽イオンを有する粘土鉱物であれば、いずれの粘土鉱物を使用してもよい。粘土鉱物の具体例として、モンモリロナイト、ベントナイト、バイデライト、ヘクトライト、サポナイト等のスメクタイト族;バーミキュライト族;イライト、白雲母、金雲母、黒雲母等の雲母族;マーガライト、クリントナイト等の脆雲母族;スドーアイト等の緑泥石族;カオリナイト、ハロイサイト等のカオリン族;アンチゴライト等の蛇紋石等が挙げられる。粘土鉱物は、天然物でも合成物であってもよく、これらを単独で又は2種以上を併用して用いることも適宜可能である。
【0032】
これらの粘土鉱物は、結晶構造の四面体層内のSiをAlやFe(III)と、八面体層内のAlをSiやFe(III)と、また八面体層内のMgをLiと、それぞれ同型置換しており、その結果生じる負の層電荷を、結晶層間のNa、K、Ca2+、Mg2+、Al3+等の交換性陽イオンで補っている。そして、粘土鉱物の単位結晶層同士の結合が比較的弱いため、層間が広がりやすく、水等に分散させた場合に、コロイド状を呈するまで単位結晶層間が膨潤して、水中にゾルを形成し、陽イオン交換能を示すようになる。その中でもスメクタイト族粘土鉱物が、他の粘土鉱物と比較して層電荷が比較的小さく、容易にゾルを形成でき、陽イオン交換能が高いために好ましい。スメクタイト族粘土鉱物の中でも、ベントナイト、又はその主成分であるモンモリロナイトがさらに好ましい。
【0033】
本発明における粘土鉱物の粒子の形状及びサイズ、陽イオン交換容量(CEC)等に特に制限はないが、効率的な反応のために、粒子の形状が球状、針状又は板状、平均粒子径が2μm以下、陽イオン交換容量が10〜200meq/100g程度のものが好ましく適用される。これらの粘土鉱物は1種類単独で用いてもよいし、2種類以上を併用することもできる。
【0034】
上記粘土鉱物の層内における金属酸化物の形成に際しては、前駆体である陽イオンを上記粘土鉱物に陽イオン交換反応により挿入する必要がある。このような方法で合成される金属酸化物として、例えば、亜酸化銅、酸化鉄(III)、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化タングステン、酸化ジルコニウム等が挙げられる。その中で、亜酸化銅又は酸化鉄(III)が好ましい。
【0035】
ここで、亜酸化銅(CuO)は、今まで水の完全分解が可能な可視光応答性触媒であると考えられてきたが、本発明者らは、亜酸化銅(CuO)は自己酸化により酸化銅(CuO)を形成しながら水素をもたらす材料であって、純水中では安定な光触媒として機能しないことを明らかにした。そして、有機物を含む水相中で亜酸化銅(CuO)を光触媒として適用したところ、有機物を水素源として分子状水素を安定に生じることを見出したものである。
【0036】
そこで、本発明は、上述した粘土鉱物に亜酸化銅を担持させた複合体、及びこの複合体からなる光触媒を提供する。この複合体は、前記粘土鉱物の交換性陽イオンを銅(II)イオンに置換した後、該銅(II)イオンを、還元剤としてチオ硫酸ナトリウムを用いて銅(I)イオンに還元することを含む方法によって製造される。さらに、この複合体は光触媒として使用することができる。なお、前記複合体の製造方法は、光触媒の製造方法のところで詳述する。
【0037】
ここで、複合体に含まれる金属酸化物の含有量は、0.05〜30重量%程度、好ましくは1〜15重量%程度である。また、粘土鉱物に担持された金属酸化物の粒子径は、通常5〜150nm程度、好ましくは10〜100nm程度であり、比表面積は、通常100〜300m/g程度、好ましくは150〜280m/g程度である。
【0038】
上記のように、金属酸化物を粘土鉱物に担持させることで、担持されていない通常の金属酸化物の粒子径(300nm以上)よりも格段に小さいナノ粒子にすることができる。このように金属酸化物をナノ粒子化することにより比表面積が格段に増大するので、有機物から効率よく且つ安定に水素を発生させることができる。
【0039】
また、本発明の光触媒は、上記の粘土鉱物に金属酸化物を担持させた複合体に加えて、さらに金属酸化物の表面に遷移金属触媒(例えば、Ni、Pd、Pt、Ir、Ru、Au、Ag触媒等、好ましくはPt、Ru又はIr触媒)を担持したものであってもよい。金属酸化物の表面に担持される遷移金属触媒は、金属酸化物を完全に被覆する必要はなく分散担持されていればよい。例えば、遷移金属触媒は、その平均粒径が0.5〜10nm程度(好ましくは1〜3nm程度)の微粒子状態で金属酸化物の表面に担持される。遷移金属触媒は水素生成反応の助触媒として働くことから、遷移金属触媒を担持させることでさらに水素生成活性を高めることができる。
【0040】
以下に、本発明の光触媒の具体的な製造方法を記載するが、本発明の光触媒の製造方法は、下記の方法に限定されるものではない。
【0041】
本発明の光触媒は、粘土鉱物の層間に存在する交換性陽イオンを、金属イオンに交換した後、該金属イオンを金属酸化物に変換することにより製造することができる。より詳細な製造工程は以下のとおりである。
【0042】
第一工程として、粘土鉱物を溶媒に分散する。溶媒として、通常、水を使用するが、場合によりアルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の低級アルコール等)及び/又は多価アルコール(エチレングリコール、グリセリン等)を混合してもよい。粘土鉱物の分散濃度は通常1〜10重量%程度であるが、粘土鉱物が十分分散可能な濃度の範囲ならば自由に設定することができる。
【0043】
第二工程として、粘土鉱物の分散液に、金属塩の水溶液を添加し、攪拌しながら陽イオン交換反応を行うことで、金属イオンを粘土鉱物の層間に挿入する。添加順序として、あらかじめ用意した金属塩溶液に粘土鉱物の分散液を添加してもよい。
【0044】
粘土鉱物に対する金属イオンの添加量は自由に設定することができるが、粘土鉱物のイオン交換容量の0.1〜3倍量程度が好ましい。0.1倍量より少ない量でも製造は可能であるが、均一な生成物が得られ難く、遠心分離等の後処理が著しく困難となる。また、3倍量よりも多い量を添加しても差し支えないが、陽イオン交換反応に寄与しない金属イオンが多くなり、コスト的に好ましくない。
【0045】
交換反応速度は、混合した分散液を加熱することで、速めることができる。反応は、分散液温度が5℃程度からでも進行するが、5〜90℃程度までの加熱を行い、交換反応を円滑に進行させることが望ましい。反応時間は、設定した温度条件によって変化するが、0.5〜72時間程度が適当である。
【0046】
金属イオンは、通常、粘土鉱物に担持される金属酸化物の価数と同じものが使用されるが、金属酸化物の価数と同じ価数の金属イオンが不安定な場合には、最終的な金属酸化物とは異なる価数のものを使用してもよい。
【0047】
金属イオンの価数が金属酸化物の価数と同じ場合(例えば、酸化鉄(III)(Fe)等)、陽イオン交換反応終了後に、例えば、焼成等することによって、粘土鉱物に金属酸化物を担持させた複合体を得ることができる。
【0048】
金属イオンの価数が金属酸化物の価数と異なる場合であって、金属イオンの価数が金属酸化物の価数より大きい場合(例えば、亜酸化銅(CuO)等)には、陽イオン交換反応終了後に、還元剤を用いて金属イオンを還元することにより、所望の価数を有する金属酸化物とすればよい。還元剤としては、通常使用される還元剤、例えば、水素、二酸化硫黄(SO)、硫化水素(HS)、ヒドラジン(N)、ホルムアルデヒド(CHO)、アセトアルデヒド(CHCHO)等を使用することができる。
【0049】
こうして得られた光触媒は、固液を分離洗浄し、乾燥、好ましくは不活性ガス下で乾燥する工程を経て使用してもよい。
【0050】
金属酸化物が亜酸化銅(CuO)である光触媒の場合には、粘土鉱物の交換性陽イオンを銅(II)イオン(Cu2+)又は水酸化銅コロイドに交換した後、還元剤としてチオ硫酸ナトリウムを用いて還元することによっても光触媒を製造することができる。例えば、粘土鉱物の水分散液に、粘土鉱物のイオン交換容量に対して0.1〜2倍量程度の銅(II)イオン(Cu2+)を添加し、攪拌して陽イオン交換を行う。得られたイオン交換粘土鉱物をアルカリ性にした後、チオ硫酸ナトリウムを添加して攪拌することにより、銅(II)イオン(Cu2+)が銅(I)イオン(Cu)に還元され、粘土鉱物に亜酸化銅(CuO)を担持させた複合体で構成される光触媒が得られる。また、これと同様の方法により、粘土鉱物に亜酸化銅(CuO)を担持させた複合体を製造することができる。
【0051】
この方法は、還元剤としてチオ硫酸ナトリウムを用いるので、他の還元剤を用いた場合と比較して、発火性がなく人体に対する有害性も低いことから取り扱いが容易であり、安価で簡便に本発明の光触媒を製造することができる。
【0052】
金属酸化物が酸化鉄(III)(Fe)の場合には、例えば、粘土鉱物の水分散液に、粘土鉱物のイオン交換容量に対して0.1〜2倍量程度の鉄(III)イオン(Fe3+)を添加し、攪拌してイオン交換を行い、得られたイオン交換粘土鉱物を焼成することにより、粘土鉱物に酸化鉄(III)(Fe)を担持させた複合体を得ることができる。
【0053】
粘土鉱物に金属酸化物を担持させたものに、さらに遷移金属触媒を担持させる場合には、上記のようにして粘土鉱物に金属酸化物を担持させた後、公知の方法、例えば、光電着法、真空蒸着法、スパッタリング法等を用いて遷移金属触媒を担持させることができる。
【0054】
本発明の光触媒は、光照射下で有機物を原料として水素を発生させることができる。よって、本発明は、光触媒を用いて水素を製造する方法であって、光照射下で、水相中において該光触媒を有機物と接触させることにより水素を発生させる製造方法を提供する。
【0055】
本発明の光触媒で使用する光は、広範な波長を有する光(波長220〜1200nm程度)を用いることができる。その光源としては、例えば、自然光(太陽光)、蛍光灯、ハロゲンランプ、高圧水銀灯、低圧水銀灯、ブラックライト、エキシマレーザ、重水素ランプ、キセノンランプ、Hg−Zn−Pbランプ等から選ばれる1種類の光源又は波長域の異なる2種類の光源を用いることができる。とりわけ、本発明の光触媒は、自然光(波長3000〜800nm程度)、特に可視光(波長が400nm以上、特に400〜600nm程度)を利用できる点で極めて実用的である。
【0056】
水素源となる有機物は、炭素及び水素原子を構成要素として含む化合物であって、粘土鉱物の層内に侵入できるものであれば特に制限なく使用することができる。有機物として、例えば、アルコール、有機酸等を挙げることができる。
【0057】
アルコールとして、具体的には、炭素数1〜4の低級アルコールを挙げることができる。その中でも、粘土鉱物の層内への入りやすさから、メタノール又はエタノールが好ましい。
【0058】
有機酸として、具体的には、ギ酸、酢酸等のカルボン酸を挙げることができる。粘土鉱物の層内への入りやすさから、ギ酸が好ましい。
【0059】
本発明の光触媒として、金属酸化物が亜酸化銅であり、前記有機物が炭素数1〜4のアルコール、酢酸又はギ酸であるものが好ましい。
【0060】
また、本発明の光触媒として、金属酸化物が酸化鉄(III)であり、有機物がギ酸であり、且つ前記光が可視光である場合が好ましい。
【0061】
有機物を含む水溶液に本発明の光触媒を添加して、光を照射する。有機物を含む水溶液のpHは、含まれる有機物によって変動するが、通常酸性から中性であって、そのpHは1〜7程度である。本発明の光触媒に光が照射されると、金属酸化物上に光(特に可視光)で励起された電子及び正孔が生成し、金属酸化物と水溶液との界面で、プロトンが電子を受けて還元されることにより水素が発生する。同時に有機物が正孔によって酸化される。この有機物からの水素生成反応において、金属酸化物表面における水素生成過程が律速段階であることから、金属酸化物がナノ粒子化されることにより比表面積が格段に増大した本発明の光触媒を用いることにより、有機物から効率よく且つ安定に水素を発生させることができる。
【実施例】
【0062】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によって限定されるものではない。
【0063】
<実施例1>
ベントナイト(日本砿研製、津軽2号)10gを1000mlの蒸留水に分散し、この分散液を遠心分離することにより、ベントナイトに含有されるモンモリロナイトを精製分離した。
【0064】
このモンモリロナイト1gを100mlの蒸留水に分散し、これにモンモリロナイトのイオン交換容量(119meq/100g)に対して2倍量の硫酸銅水溶液を添加し、20℃で3時間攪拌することでイオン交換を行った。その後、遠心分離によって過剰量の硫酸銅を除去し、イオン交換されたモンモリロナイトを分離した。
【0065】
分離したモンモリロナイトを500mlの1mol/l水酸化ナトリウム溶液に分散させ、チオ硫酸ナトリウム粉末10gを添加した。その後、分散液を攪拌しながら80℃に1時間保温した。保温後に遠心分離によって過剰量の水酸化ナトリウム及びチオ硫酸ナトリウムを除き、得られた固体を不活性ガス(純度99.999%以上のアルゴン)中で乾燥させることにより、モンモリロナイトに亜酸化銅が担持された光触媒(CuO/MT)を得た。
【0066】
<実施例2>
実施例1で得られたCuO/MTを、20mlの5vol%エタノール水溶液に分散させ、塩化白金酸を白金(Pt)担持量が亜酸化銅に対して0.5wt%になるように加えた。その後、容器内をアルゴンガスで置換し、密閉した後にハロゲンランプ(280mW/cm)を24時間照射することでPtを担持した。その後、遠心分離によってエタノールを除去し、不活性ガス中で乾燥させて、Ptが担持されたCuO/MT(Pt−CuO/MT)を得た。
【0067】
<比較例1>
100mmol/lの硫酸銅(II)水溶液100mlに、チオ硫酸ナトリウム粉末20gを溶解させ、これに10mol/lの水酸化ナトリウム水溶液を10ml加えた。この溶液を攪拌しながら90℃に30分間保温した。得られた沈殿物を遠心分離によって分離し、不活性ガス中で乾燥させて、非担持の亜酸化銅粉末(CuO)を得た。
【0068】
亜酸化銅の担持前後におけるモンモリロナイトの乾燥重量を比較することによって、実施例1(CuO/MT)及び実施例2(Pt−CuO/MT)の光触媒における亜酸化銅含有量が、それぞれ11.5wt%及び11.2wt%であることがわかった。また、実施例1(CuO/MT)、実施例2(Pt−CuO/MT)及び比較例1(CuO)の光触媒の比表面積をB.E.T法(Shimadzu−Micromeritics,FlowSorb II 2300)により測定したところ、それぞれ253m/g、261m/g及び21m/gであった。
【0069】
さらに、実施例1の光触媒(CuO/MT)及び比較例1の光触媒(CuO)について、透過型電子顕微鏡((株)日立ハイテクノロジーズ製のHitachi H−8000(加速電圧:200kV))で観察するとともに電子線回折パターンを得た。実施例1の結果を図1(a)に、比較例1の結果を図1(b)に示す。図1(a)及び(b)の電子顕微鏡画像から、実施例1の光触媒(CuO/MT)の亜酸化銅の粒子径は30〜100nmであり、比較例1の光触媒(CuO)の粒子径は300〜500nmであることがわかった。また、図1(a)及び(b)の右上差込図に示す電子線回折パターンより、実施例1の光触媒(CuO/MT)及び比較例1の光触媒(CuO)はいずれも亜酸化銅を含むことが確認された。
【0070】
これらの結果より、亜酸化銅を粘土鉱物に担持して調製することで、亜酸化銅の粒子径を小さくし、比表面積を増大させることが可能であるといえる。
【0071】
<実施例3>
実施例1と同様にして、モンモリロナイトを精製分離した。
【0072】
このモンモリロナイト1gを100mlの蒸留水に分散し、これにモンモリロナイトのイオン交換容量(119meq/100g)に対して0.1倍量の三核酢酸鉄([FeO(OCOCH])水溶液を添加し、20℃で3時間攪拌することでイオン交換を行った。その後、遠心分離によって粘土に未吸着の三核酢酸鉄イオンを除去し、イオン交換されたモンモリロナイトを分離した。
【0073】
分離したモンモリロナイトを乾燥し、これを大気条件において焼成し(400℃、10時間)、モンモリロナイトに酸化鉄(III)が担持された光触媒(Fe/MT)を得た。
【0074】
<実施例4>
実施例3で得られたFe/MTを、20mlの5vol%エタノール水溶液に分散させ、塩化白金酸をPt担持量が酸化鉄(III)に対して0.5wt%になるように加えた後、容器内をアルゴンガスで置換した後に密閉し、ハロゲンランプ(280mW/cm)を24時間照射することでPtを担持した。その後、遠心分離によってエタノールを除去し、不活性ガス中で乾燥させて、Ptが担持されたFe/MT(Pt−Fe/MT)を得た。
【0075】
<比較例2>
三核酢酸鉄硝酸塩を600℃で10時間焼成し、非担持の酸化鉄(III)(Fe)を得た。
【0076】
酸化鉄(III)の担持前後におけるモンモリロナイトの乾燥重量を比較することによって、実施例3(Fe/MT)及び実施例4(Pt−Fe/MT)の光触媒における酸化鉄(III)含有量が、いずれも3wt%であることがわかった。また、実施例3(Fe/MT)、実施例4(Pt−Fe/MT)及び比較例2(Fe)の光触媒の比表面積をB.E.T法(Shimadzu−Micromeritics,FlowSorb II 2300)により測定したところ、それぞれ156m/g、162m/g及び17m/gであった。
【0077】
次に、上記実施例1〜4及び比較例1〜2で得られた光触媒を用いて水素生成活性を比較した。
(1)水素源としてアルコールを用いた場合
光触媒反応容器として、パイレックス(登録商標)ガラス製の容器(容積21ml)を用いた。これに10vol%のアルコール水溶液を入れ、CuOを2.4mg含む量の光触媒試料(実施例1〜2で製造した試料の場合は22.4mg、比較例1で製造した試料の場合は2.4mg)を添加した後、ガラス容器内をアルゴンガス(純度99.999%)で置換した。その後、容器を密閉し、ハロゲンランプ(280mW/cm)で光を照射し、24時間後に容器内のガスを採取し、ガスクロマトグラフ((株)島津製作所製、GC−14B)を用いて水素生成量を測定した。なお、アルコールとして、メタノール、エタノール、n−プロパノール、及びn−ブタノールを使用し、反応溶液のpHはそれぞれ、6.7(メタノール水溶液)、6.8(エタノール水溶液)、6.9(プロパノール水溶液)、及び6.5(ブタノール水溶液)であった。その結果を表1に示す。
【0078】
【表1】

【0079】
表1の結果から、実施例1(CuO/MT)は、比較例1(非担持CuO)と比べて、同程度又はそれより高い水素生成活性、特にメタノール及びエタノール存在下において高い水素生成活性を有することがわかった。これは、有機物からの水素生成反応において、金属酸化物表面における水素生成過程が律速段階であることから、金属酸化物のナノ粒子化による比表面積の増加によって、高い光触媒活性が発現したと考えられる。さらに、実施例1の光触媒に白金を担持させることで(実施例2)、光触媒活性(水素生成活性)が大幅に向上することがわかった。また、比較例1の亜酸化銅粒子では、アルコールの炭素数に関わらず水素生成量がほぼ一定であるのに対し、実施例1及び2の光触媒は、アルコールの炭素数が小さくなるにつれて、水素の生成量が多くなることがわかった。これは、アルコールの炭素数が増える(分子が大きくなる)とモンモリロナイトの層内に入りにくくなり、その結果、光触媒とアルコールとが接触しにくくなることが原因であると考えられる。
【0080】
表1の結果より、モンモリロナイトに亜酸化銅が担持された光触媒は、特にメタノール又はエタノールからの水素生成に有効な光触媒であるといえる。
【0081】
(2)水素源として有機酸を用いた場合
10vol%のギ酸及び酢酸水溶液と、実施例1〜3及び比較例1〜2で製造した光触媒試料を用いた以外は、上記(1)と同様にして水素生成量を測定した。その結果を表2に示す。なお、光触媒の添加量は、実施例1〜2で製造した試料は、22.4mg、比較例1で製造した試料は、2.4mg、実施例3〜4で製造した試料は、20.6mg、比較例2で製造した試料は、0.6mgであった。また、反応溶液のpHは、2.5(酢酸水溶液)、及び2.1(ギ酸水溶液)であった。
【0082】
【表2】

【0083】
表2の結果から、有機酸を用いた場合も、アルコールの場合と同様に、実施例1及び3(モンモリロナイトに金属酸化物が担持された光触媒)は、比較例1及び2(担持されていない金属酸化物粒子)と比べて高い水素生成活性を有することがわかった。さらに、実施例1及び3の光触媒に白金を担持させることで(実施例2及び4)、水素生成活性が大幅に向上することがわかった。モンモリロナイトに亜酸化銅を担持させた光触媒は、酢酸又はギ酸からの水素生成に有効な光触媒であるといえる。
【0084】
また、表2の結果より、モンモリロナイトに亜酸化銅が担持された光触媒は、酢酸及びギ酸、特にギ酸からの水素生成に有効な光触媒であるといえる。特に、モンモリロナイトに酸化鉄(III)が担持された光触媒は、ギ酸からの水素生成に有効な光触媒であるといえる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘土鉱物に金属酸化物を担持させた複合体で構成され、光照射下で水素源となる有機物を分解して水素を発生させるために使用する水素製造用光触媒。
【請求項2】
前記粘土鉱物が、スメクタイト族粘土鉱物である、請求項1に記載の光触媒。
【請求項3】
前記スメクタイト族粘土鉱物が、ベントナイト又はモンモリロナイトである、請求項1又は2に記載の光触媒。
【請求項4】
前記金属酸化物の粒子径が、5〜150nmである、請求項1〜3のいずれかに記載の光触媒。
【請求項5】
前記金属酸化物が、亜酸化銅又は酸化鉄(III)である、請求項1〜4のいずれかに記載の光触媒。
【請求項6】
前記有機物が、アルコール又は有機酸である、請求項1〜5のいずれかに記載の光触媒。
【請求項7】
前記アルコールが、炭素数1〜4のアルコールであり、前記有機酸が酢酸又はギ酸である、請求項6に記載の光触媒。
【請求項8】
前記金属酸化物が亜酸化銅であり、前記有機物が炭素数1〜4のアルコール、酢酸又はギ酸である、請求項7に記載の光触媒。
【請求項9】
前記金属酸化物が酸化鉄(III)であり、前記有機物がギ酸であり、且つ前記光が可視光である、請求項7に記載の光触媒。
【請求項10】
前記金属酸化物の表面に遷移金属触媒が担持されている、請求項1〜9のいずれかに記載の光触媒。
【請求項11】
粘土鉱物に亜酸化銅を担持させた複合体。
【請求項12】
請求項11に記載の複合体の製造方法であって、
前記粘土鉱物の交換性陽イオンを銅(II)イオンに置換した後、該銅(II)イオンを、還元剤としてチオ硫酸ナトリウムを用いて銅(I)イオンに還元することを含む、製造方法。
【請求項13】
上記項11に記載の複合体からなる光触媒。
【請求項14】
請求項1〜10及び請求項13のいずれかに記載の光触媒を用いて水素を製造する方法であって、光照射下で、水相中において該光触媒を有機物と接触させることにより水素を発生させる方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−207769(P2010−207769A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−59370(P2009−59370)
【出願日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り ▲1▼ 掲載年月日 2008年12月23日 掲載アドレス http://www.ecsdl.org/ESL/ http://www.ecsdl.org/dbt/dbt.jsp?KEY=ESLEF6&Volume=12&Issue=3 http://www.ecsdl.org/getabs/servlet/GetabsServlet?prog=normal&id=ESLEF60000120000030000P1000001&idtype=cvips&gifs=Yes ▲2▼ 研究集会名 国立大学法人弘前大学大学院理工学研究科博士後期課程 機能創成科学専攻博士論文公聴会 主催者名 国立大学法人弘前大学大学院理工学研究科 機能創成科学專攻 開催日 平成21(2009)年2月10日
【出願人】(309015019)地方独立行政法人青森県産業技術センター (52)
【出願人】(504229284)国立大学法人弘前大学 (162)
【上記1名の代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
【Fターム(参考)】