説明

水素製造装置および燃料電池システムの起動停止方法

【課題】 ゼオライト系脱硫剤を用いて脱硫を行う水素製造装置および燃料電池システムにおいて、ゼオライト系脱硫剤の利便性を損なわずに安定運転を可能とする停止もしくは起動停止方法を提供する。
【解決手段】 気体状水素製造用原料に含まれる硫黄分の濃度を低減するための、脱硫剤を含む脱硫部と、脱硫された水素製造用原料を改質して水素含有ガスを製造するための改質部を有する水素製造装置の起動停止方法において、あるいはこの水素製造装置と燃料電池を有する燃料電池システムの起動停止方法において、脱硫剤の少なくとも一部がゼオライト系脱硫剤であり、停止の際に、脱硫剤の温度が想定される最高雰囲気温度以上の状態において脱硫部の入口ラインおよび出口ラインを閉じる。さらには、起動する際に、脱硫部の圧力が±10kPa−Gの範囲である状態で、脱硫部の出口ラインを開ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素系燃料などの水素製造用原料から水素含有ガスを製造する水素製造装置に関し、またこのような水素製造装置を備え、水素製造装置で製造した水素含有ガスを燃料電池の燃料として用いる燃料電池システムに関する。特には水素製造装置および燃料電池システムの停止方法および起動停止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池システム、とりわけ近年発展著しい固体高分子形燃料電池(PEFC)においては、水素製造用原料から水素を得る過程で、まず水素製造用原料に含まれる硫黄分をきわめて低レベルまで除去することが、後段の改質、水性ガスシフト、CO選択酸化などの触媒反応工程が正常にかつ長期的に動作する上で望まれる。このために多くの燃料電池システムが有する水素製造装置は、水素製造用原料に含まれる硫黄分を吸着や水素化分解により除去するための脱硫部を具備している。
【0003】
脱硫部に使用される脱硫剤や触媒の種類としては、水添脱硫触媒や硫黄吸着剤が用いられるが、中でも常圧、かつ室温に近い比較的低温の温和な条件で硫黄分を極めて低いレベルまで除去できるゼオライト系の脱硫剤は工業的にも民生用にも有用であり、液化天然ガス(LNG)や液化石油ガス(LPG)などの低沸点の炭化水素を水素製造用原料として用いる家庭用のPEFCシステムなどに広く用いられつつある。このような燃料電池システムは、例えば特許文献1に開示されている。
【0004】
ところがこれらの低沸点炭化水素を、ゼオライト系脱硫剤を充填した容器に通じて脱硫を行う場合、停止時に一度吸着した炭化水素が、脱硫剤の温度上昇により部分的に脱着し、脱硫容器内が加圧状態になるという現象が起きることがある。このような現象が発生すると、常温・常圧で簡便に脱硫が出来るというゼオライト系脱硫剤の利便性が損なわれ、またゼオライト系脱硫剤を用いる水素製造装置もしくは燃料電池システムの動作安定性が損なわれることがあり、このような現象を回避できる水素製造装置もしくは燃料電池システムの運転方法が望まれていた。
【特許文献1】特開平10−237473号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、ゼオライト系脱硫剤を用いて脱硫を行う水素製造装置およびこのような水素製造装置を備える燃料電池システムにおいて、停止後に脱硫剤の温度上昇により脱硫部内が加圧状態になることを抑制し、もってゼオライト系脱硫剤の利便性を損なわずに安定運転を可能とする起動停止方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、脱硫剤の種類、複数の脱硫剤の組み合わせ、脱硫剤の制御温度、温度制御のシーケンスなど様々な検討を行った末、装置停止時に一定の温度以上に脱硫部温度を制御することにより、その後停止した装置が冷却されるとともに脱硫部も冷却されて圧力が殆ど増加することなく減少することを見出し、本発明に至った。
【0007】
また、起動時に、ゼオライトの細孔内に炭化水素が吸着・凝縮し、水素製造用原料をフィードしても吸着が飽和状態になるまで脱硫容器から水素製造用原料が出てこない現象が起きることがあり、その結果、水素製造用原料の不足や流量不安定化が観察される場合がある。特に、上述のように装置を停止した場合、再起動時に改質部内部が負圧になっていることもある。本発明者等は、起動時に予め水素製造用原料を供給して補圧する方法が、このような現象を抑制するために効果的であることも見出した。
【0008】
本発明により、気体状水素製造用原料に含まれる硫黄分の濃度を低減するための、脱硫剤を含む脱硫部と、脱硫された水素製造用原料を改質して水素含有ガスを製造するための改質部を有する水素製造装置の停止方法において、
該脱硫剤の少なくとも一部がゼオライト系脱硫剤であり、
停止の際に、脱硫剤の温度が想定される最高雰囲気温度以上の状態において脱硫部の入口ラインおよび出口ラインを閉じる
ことを特徴とする水素製造装置の停止方法が提供される。
【0009】
本発明により、気体状水素製造用原料に含まれる硫黄分の濃度を低減するための、脱硫剤を含む脱硫部と、脱硫された水素製造用原料を改質して水素含有ガスを製造するための改質部を有する水素製造装置の起動停止方法において、
該脱硫剤の少なくとも一部がゼオライト系脱硫剤であり、
停止の際に、脱硫剤の温度が想定される最高雰囲気温度以上の状態において脱硫部の入口ラインおよび出口ラインを閉じ、
起動する際に、脱硫部の圧力が±10kPa−Gの範囲である状態で、脱硫部の出口ラインを開ける
ことを特徴とする水素製造装置の起動停止方法が提供される。
【0010】
本発明により、気体状水素製造用原料に含まれる硫黄分の濃度を低減するための、脱硫剤を含む脱硫部と、脱硫された水素製造用原料を改質して水素含有ガスを製造するための改質部を有する水素製造装置の起動停止方法において、
該脱硫剤の少なくとも一部がゼオライト系脱硫剤であり、
停止の際に、脱硫剤の温度が40℃以上の状態において脱硫部の入口ラインおよび出口ラインを閉じ、
起動する際に、脱硫部の圧力が±10kPa−Gの範囲である状態で、脱硫部の出口ラインを開ける
ことを特徴とする水素製造装置の起動停止方法が提供される。
【0011】
上記方法において、起動する際に、脱硫部の出口ラインを閉じた状態で脱硫部の入口ラインを開けて水素製造用原料を脱硫部に導入することにより脱硫部の圧力を±10kPa−Gの範囲にすることが好ましい。
【0012】
該脱硫部が、ゼオライト系脱硫剤を含む層と、少なくとも銅、コバルトおよびニッケルのうちのいずれかの金属種を含む金属系脱硫剤を含む層とを有することが好ましい。
【0013】
前記ゼオライト系脱硫剤を含む層と金属系脱硫剤を含む層とが、一つの容器の内部に、水素製造用原料の流れ方向に対してこの順に配置されることが好ましい。
【0014】
停止の際に、前記ゼオライト系脱硫剤を含む層と金属系脱硫剤を含む層とを実質的に同一の温度にすることが好ましい。
【0015】
前記ゼオライト系脱硫剤が、疎水性ゼオライトまたは疎水性ゼオライトに金属をイオン交換担持した金属置換ゼオライトであることが好ましい。
【0016】
前記水素製造用原料が、天然ガスまたは液化石油ガスであることが好ましい。
【0017】
本発明により、気体状水素製造用原料に含まれる硫黄分の濃度を低減するための、脱硫剤を含む脱硫部と、脱硫された水素製造用原料を改質して水素含有ガスを製造するための改質部を有する水素製造装置;および、水素製造装置で得られた水素含有ガスを燃料とする燃料電池
を有する燃料電池システムの停止方法において、
該脱硫剤の少なくとも一部がゼオライト系脱硫剤であり、
停止の際に、脱硫剤の温度が想定される最高雰囲気温度以上の状態において脱硫部の入口ラインおよび出口ラインを閉じる
ことを特徴とする燃料電池システムの停止方法が提供される。
【0018】
本発明により、気体状水素製造用原料に含まれる硫黄分の濃度を低減するための、脱硫剤を含む脱硫部と、脱硫された水素製造用原料を改質して水素含有ガスを製造するための改質部を有する水素製造装置;および、水素製造装置で得られた水素含有ガスを燃料とする燃料電池
を有する燃料電池システムの起動停止方法において、
該脱硫剤の少なくとも一部がゼオライト系脱硫剤であり、
停止の際に、脱硫剤の温度が想定される最高雰囲気温度以上の状態において脱硫部の入口ラインおよび出口ラインを閉じ、
起動する際に、脱硫部の圧力が±10kPa−Gの範囲である状態で、脱硫部の出口ラインを開ける
ことを特徴とする燃料電池システムの起動停止方法が提供される。
【0019】
本発明により、気体状水素製造用原料に含まれる硫黄分の濃度を低減するための、脱硫剤を含む脱硫部と、脱硫された水素製造用原料を改質して水素含有ガスを製造するための改質部を有する水素製造装置;および、水素製造装置で得られた水素含有ガスを燃料とする燃料電池
を有する燃料電池システムの起動停止方法において、
該脱硫剤の少なくとも一部がゼオライト系脱硫剤であり、
停止の際に、脱硫剤の温度が40℃以上の状態において脱硫部の入口ラインおよび出口ラインを閉じ、
起動する際に、脱硫部の圧力が±10kPa−Gの範囲である状態で、脱硫部の出口ラインを開ける
ことを特徴とする燃料電池システムの起動停止方法が提供される。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、装置停止後の温度変化によって脱硫部内が可燃性ガスの加圧状態になることを実質的に回避できる水素製造装置および燃料電池システムの停止方法もしくは起動停止方法が提供される。さらには、再立ち上げ時に水素製造用原料不足や水素製造用原料の流量不安定などの動作不良を抑制することができる水素製造装置および燃料電池システムの停止方法もしくは起動停止方法が提供される。その結果、気温や周囲環境の変動が大きい実環境下においても水素製造装置や燃料電池システムを安定して動作させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
〔水素製造用原料〕
水素製造用原料としては、改質反応により水素含有ガスを得ることのできる公知の物質を用いることができる。例えば、天然ガスもしくは都市ガス、LPG、ナフサ、灯油等の炭化水素系燃料を用いることができる。なかでも天然ガスおよびLPGが、水蒸気改質反応により比較的容易に高純度な水素リッチガスに変換できる点で好ましい。水素製造用原料の硫黄濃度(硫黄を含む流体の単位質量あたりの硫黄原子の質量。硫黄濃度について以下同じ。)が0.1質量ppm以下の場合には、脱硫せずに改質反応に供することもできる。従って、本発明において、硫黄濃度が0.1質量ppm以下の水素製造用原料を用いることもできるが、硫黄濃度が0.1質量ppmを超える水素製造用原料を用いる場合に本発明は特に効果的である。
【0022】
本発明では、脱硫部に導入される際の水素製造用原料として天然ガス、LPG、液化ブタンガスなどの常温・常圧において気体である気体燃料を用いる場合、気体燃料をそのまま脱硫部に導入することができ、ナフサ、灯油などの液体燃料は、適宜気化したうえで脱硫部に導入することができる。
【0023】
〔水素製造装置および燃料電池システム〕
水素製造装置は、水素製造用原料に含まれる硫黄分を除去するための脱硫部を有し、硫黄分が除去された水素製造用原料から改質反応により水素含有ガス(改質ガス)を得る改質器を備える改質部を有する。改質器のタイプは特に限定されず、水蒸気改質、部分酸化改質、自己熱改質など、公知の改質を行うことのできる改質器を適宜採用することができる。改質に必要な水蒸気や、空気などの供給手段は改質部に適宜設けられる。水素製造装置は、さらに、改質器で得られた改質ガス中のCO濃度を低減するために水性ガスシフト反応器やCO選択酸化反応器を備えてもよい。またこれらを作動させるための周辺補機が適宜設けられる。
【0024】
燃料電池システムは、水素製造装置を有し、また、水素製造装置で得られた水素含有ガスを燃料とする、PEFC等の燃料電池を有する。またこれらを作動させるための周辺補機が適宜設けられる。
【0025】
〔脱硫剤および脱硫部〕
脱硫部は、密閉可能な容器に脱硫剤を充填した脱硫器を少なくとも一つ有する。
【0026】
本発明では脱硫剤として少なくともゼオライト系脱硫剤を用いる。ゼオライト系脱硫剤としては、ナトリウム置換型、アンモニア置換型、水素置換型などの単一あるいは複数種のゼオライトをそのまま脱硫剤として用いても良いが、ゼオライト細孔表面に存在するイオン交換サイトを用いて金属をイオン交換担持した後に脱硫剤として用いても良い。
【0027】
ゼオライトにはX型、Y型、ZSM−5、モルデナイト等様々な種類があり、本発明ではとくにゼオライトの種類には限定されないが、炭化水素中の硫黄分を吸着する観点から、疎水性のゼオライトであることが好ましい。ここで言う疎水性とは、珪礬比が4以上であることを意味する。ゼオライトの珪礬比は、ゼオライト中の珪素分を二酸化珪素で表しアルミニウムを酸化アルミニウムとして表した場合、二酸化珪素のモル数を酸化アルミニウムのモル数で除した値で表さる。
【0028】
またゼオライトは化学的性質として細孔内に酸点を有しており、この酸点がナトリウム等のアルカリ金属で置換されたアルカリ置換型、アンモニウム塩で置換されたアンモニウム置換型、あるいはこれらの基で置換されない水素型などに分類されるが、本発明においては特にその置換種によって限定されない。ただし、それらの酸点をイオン交換サイトとして用い、銅、銀、ニッケルなどの金属をイオン交換により担持した銅置換、銀置換、あるいはニッケル置換のゼオライトが、脱硫性能の観点から好ましい。特には、疎水性ゼオライトに金属をイオン交換担持した金属置換ゼオライトが好ましい。
【0029】
ゼオライト系脱硫剤の使用量については、1)燃料電池システムの定格発電電力や水素製造装置の水素製造量に依存する水素製造用原料のフィード流量、2)水素製造用原料の種類やそこに含まれる硫黄分の種類・濃度、3)ゼオライト自体の脱硫能力(ゼオライト体積当たりに吸着できる硫黄分の量)を勘案して適宜決めることができる。例えば、燃料電池システムの場合、ゼオライト系脱硫剤の使用量は、脱硫剤に一定時間に通過するフィードの流量(空間速度)が速くなって脱硫効果が低下することを防止する観点から、AC(交流)送電端での定格発電電力で1kWあたり好ましくは50mL以上、より好ましくは100mL以上、さらに好ましくは200mLである。一方、ゼオライト系脱硫剤の使用量は、装置の大型化を防止し、また脱硫器自体が大容量のバッファーとなって周囲温度変化によりフィード流量安定性が低下することを防止する観点から、AC送電端での定格発電電力で1kWあたり好ましくは10L以下、より好ましくは6L以下、さらに好ましくは4L以下である。
【0030】
ここで、水素製造用原料として用いることのできる各種炭化水素系燃料に含まれる硫黄化合物の種類と濃度について説明する。天然ガスには、その精製段階ではほとんど硫黄分が含まれていないが、ガス漏れ検知のための付臭剤としてメチルメルカプタン、エチルメルカプタン、イソプロピルメルカプタン、t−ブチルメルカプタンなどの低級メルカプタン類、ジメチルスルフィドなどの低級スルフィド類などが添加される場合が多く、これらの化合物が硫黄濃度で通常1質量ppm〜10質量ppm含まれる。LPGの場合には天然ガスに添加される成分に加え、もともとLPGの精製過程で含まれる硫化カルボニルなどの成分や、またメルカプタン類が酸化的にカップリングしたジスルフィド類なども含まれる。また硫黄濃度としては通常1質量ppm〜10質量ppm程度であるが、LPGボンベからのガス採取の場合などでは、ボンベ残量によりガス中の硫黄濃度は変動することが知られており、多い場合には短期間では100質量ppmを超える場合もある。さらに平均分子量の大きいナフサや灯油では、常温で液体のために付臭剤の添加は必要ないが、水素製造用原料に含まれる硫黄濃度は高く、また含まれる硫黄化合物の種類もより高分子量で多種類に及ぶ。硫黄化合物としてはメルカプタン、スルフィドの他にチオフェン・置換チオフェン類、ベンゾチオフェンなども含まれ、硫黄濃度では数質量ppm〜数十質量ppmに及ぶ。
【0031】
ところで、ゼオライト系脱硫剤は上記全ての硫黄化合物を好適に吸着・除去できるわけではなく、分子量の小さい硫化カルボニルや、逆に非常に大きいベンゾチオフェンなどの化合物は除去することが容易ではない。このため、例えば水素製造用原料としてLPGを用いる場合には1段目にゼオライト系脱硫剤を充填した脱硫剤層を配し、2段目に硫化カルボニルを効率的に除去できる金属系脱硫剤を充填した第二の脱硫剤層を配することが好ましい。一段目の脱硫剤層で硫化カルボニル以外の硫黄化合物を除去した後、二段目の脱硫剤層で硫化カルボニルを除去することができる。
【0032】
金属系脱硫剤としてはニッケル、コバルト、銅などを含む脱硫剤を用いることができる。例えば、シリカあるいはアルミナ担持銅触媒、シリカあるいはアルミナ担持ニッケル触媒、銅・亜鉛共沈触媒、ニッケル・亜鉛共沈触媒などの金属系触媒が好ましく用いられる。シリカあるいはアルミナ担持ニッケル触媒としては、シリカ、アルミナ等の担体上に活性金属種を含む水溶液を噴霧または浸漬したのち、乾燥、焼成を行い、使用する前に水素気流中で還元処理を行って金属を活性化させることが望ましい。銅・亜鉛またはニッケル・亜鉛などの共沈触媒を用いる際にも同様で、使用に際して還元処理を行うことが好ましい場合が多い。
【0033】
これらの金属系脱硫剤はいずれも、押し出し成型の手法により断面が円、三つ葉型、四つ葉型などの押し出し形状か、あるいは打錠成型により円筒形ペレット状に成型されて好ましく用いられる。
【0034】
二段目の脱硫剤層に用いる脱硫剤の量は、1段目で容易に除去できない硫黄分の種類や量によっても異なるが、燃料電池システムの場合、脱硫剤に一定時間に通過するフィードの流量(空間速度)が速くなって脱硫効果が低下することを防止する観点から、AC送電端での定格発電電力で1kWあたり、好ましくは20mL以上、より好ましくは50mL以上、さらに好ましくは100mL以上である。一方、装置の大型化を防止し、また脱硫器自体が大容量のバッファーとなって周囲温度変化によりフィード流量安定性が低下することを防止する観点から、好ましくは5L以下、より好ましくは3L以下、さらに好ましくは1L以下である。
【0035】
脱硫剤としてゼオライト系脱硫剤と金属系脱硫剤とを用いる場合には、ゼオライト系脱硫剤と金属系脱硫剤をそれぞれ別々の容器に充填して、2つ以上のリアクターとして用いても良いが、後に述べる温度管理の観点から、1つの容器内にゼオライト系脱硫剤層と金属系脱硫剤層とを設けることが好ましい。このために、一つの密閉可能な容器内を多孔板などによって流通可能に仕切り、上流側にゼオライト系脱硫剤を充填し、下流側に金属系脱硫剤を充填することができる。また、ゼオライト系脱硫剤と金属系脱硫剤をそれぞれ別々の容器に充填する場合であっても、短い配管を介して接続される2つの容器を用いるなど、ゼオライト系脱硫剤と金属系脱硫剤を実質的に同一の温度で用いることができる容器構造であることが好ましい。ゼオライト系脱硫剤層と金属系脱硫剤層の温度を実質的に同じにすることにより、両者の炭化水素吸着能の温度依存性が異なっていても、どちらか一方の温度のみを管理するだけで本発明の効果である装置停止後の容器内圧力上昇の抑制を容易に行えるため好ましい。2つの容器内の脱硫剤をそれぞれ独立の手段により温度管理することも可能であるが、この方法ではその目的のための制御系が相対的に煩雑になる。従って、コストやシステム汎用性の観点から、2つの容器内の脱硫剤を1つの指標により管理できるよう、2つの容器内の脱硫剤温度の差が実用上無視しうる、実質的に同一温度で用いることが好ましい。
【0036】
脱硫後の水素製造用原料の硫黄濃度は、脱硫部の下流に設けられる改質触媒等の触媒への影響により制限され、それらの触媒種や触媒量、使用条件により適宜決定される。脱硫後の水蒸気改質や部分酸化改質などの改質工程において用いられるニッケルやルテニウム、白金、ロジウムなどの活性金属が硫黄により被毒、凝集(シンターリング)、あるいは硫黄分をきっかけとするコーク生成(コーキング)し、触媒活性が低下したりリアクターが閉塞したりすることを防止する観点から、脱硫後の水素製造用原料の硫黄濃度は、好ましくは1質量ppm以下、より好ましくは0.5質量ppm以下、さらに好ましくは0.1質量ppm以下である。
【0037】
〔起動停止手順〕
脱硫部に実際に天然ガスやLPGを通じると、ゼオライトが炭化水素成分まで吸着してしまい、ゼオライトの吸着能力に余裕があるときには、吸着サイトが概ね炭化水素で満たされるまで脱硫部から天然ガスやLPGが出てこない、あるいはフィード量に対して脱硫器出口流量が不足する現象が見られる場合がある。
【0038】
また、脱硫剤の吸着容量は温度が上がると低下する。従って、脱硫剤温度が上がると、一度脱硫剤に吸着した炭化水素が気相中に放出されることがあり、これによって圧力が増し、脱硫器内が加圧状態になることがある。例えば涼しい条件下で装置を運転してゼオライトが炭化水素を最大限まで吸着した状態で装置を停止し、その後気温の上昇などで装置内の温度、それに伴って脱硫剤の温度が上昇した場合に、脱硫器内がゼオライトから脱離した炭化水素により加圧状態になり、場合によっては配管や電磁弁などからリークが生じたり、部材が破損する可能性がある。
【0039】
このような現象を回避するため、本発明においては以下のような手順で装置の停止、もしくは起動・停止を行う。
【0040】
まず、水素製造装置もしくは燃料電池システムを運転している状態から停止する際、脱硫剤の温度が所定の温度以上である状態において脱硫部の入口ラインおよび出口ラインを閉じる。つまり、装置停止後に周囲の気温上昇や日射の影響などで装置全体の温度が上昇しても、脱硫剤の温度がそれ以上大きく上がることのない温度に予め脱硫剤を昇温しておく。脱硫部の下流、即ち改質工程以降の水素製造装置部分については、その圧力挙動に関しては特に限定されず、用いる触媒系により停止後に大気開放する場合や、あるいは停止後に該装置部分を別途弁などを用いて閉止してもよい。
【0041】
脱硫部は一つの脱硫器を有する場合があり、直列および/または並列に接続された複数の脱硫器を有する場合もある。脱硫部の入口ラインおよび出口ラインを閉じる操作について説明する。脱硫部が脱硫器を一つだけ有する場合、図1(a)に示すように脱硫器1の入口ラインに設けられた止め弁11および出口ラインに設けられた止め弁12を閉めればよい。この図に示したのは、一つの脱硫器内にゼオライト系脱硫剤層3と、金属系脱硫剤層4とが設けられた脱硫器である。脱硫部の下流には改質器が設けられるが、改質器の上流に水素製造用原料を予熱するための熱交換器など、他の機器が設けられることもある。いずれにせよ、脱硫部の出口ラインを閉じるために、脱硫部下流に設けられるこれら機器のうちの最も上流側の機器より上流側、かつ脱硫部の下流においてラインを止め弁などによって遮断することができる。図1(b)に示すように、脱硫部が複数の脱硫器1aおよび1bを並列に有する場合、これらに水素製造用原料を分岐して供給する分岐点より上流側の止め弁11と、脱硫器から排出される水素製造用原料を合流させる合流点より下流の止め弁12を閉じることができる。図1(c)には、脱硫部が、ゼオライト系脱硫剤層3を備える脱硫器1と金属系脱硫剤層4を備える脱硫器2とを有する場合である。このように複数の脱硫器が直列に接続される場合、最も上流側の脱硫器より上流に位置する止め弁11と、最も下流側に位置する脱硫器より下流に位置する止め弁12を閉じることができる。
【0042】
上記所定の温度については、装置の大きさ、装置が設置される条件(平均気温や日較差、直射日光が当たるか否かなどの条件)、装置内部の構成や機器の設置密度、装置内部での熱の発生と熱回収の機構、装置内部での脱硫容器の配置や近傍の状況などを勘案して決めることができる。例えば、上記所定の温度として想定される最高雰囲気温度を採用することができる。想定される最高雰囲気温度は、脱硫器が曝される雰囲気の想定される最高温度である。例えばパッケージ化された燃料電池システムもしくは水素製造装置を考える場合、その想定される最高機内温度を上記最高雰囲気温度として採用することができる。想定される最高機内温度とは、パッケージ化された燃料電池システムもしくは水素製造装置が運転を停止した状態で、外気温や直射日光等の外的要因のみに起因して、パッケージ内雰囲気が到達する最高温度と定義され、例えば夏場に設置場所の外気温が最高を記録した日の、西日が当たるパネル面近傍の装置内部雰囲気温度が最高機内温度となる場合が多い。該最高機内温度の正確な測定には、パッケージ内のいたるところの雰囲気温度を経時的に測定して、位置的、時間的に最高温度に到達する条件を特定しなければならないが、実際にはパッケージ機内の温度偏差はそれほど問題にならない場合が多く、金属体などに接触しない雰囲気を測定できる熱電対やサーミスタ、サーモダイオード等の素子を設置したパッケージ機のフィールド試験(複数の設置場所での運転データ採取)から経験則的に特定される場合が多い。
【0043】
このように燃料電池システムもしくは水素製造装置に含まれる脱硫器が曝される温度としては、最高機内温度をひとつの目安と考えることができるが、これを加味して、上記所定の温度として具体的な範囲は、通常40℃以上、好ましくは45℃以上、より好ましくは50℃以上の範囲とすることができる。これは、上記フィールド試験の統計的結果から、早朝の冷涼な時間帯に装置を停止した後、午後に気温が上昇してパッケージ内雰囲気が最高機内温度まで到達した場合を想定しても、なお脱硫剤の温度がこの最高機内温度を超えることを抑制でき、脱硫器内の圧力が上昇することを抑えることができる限界値と考えることができる。また仮に、装置停止後、装置内の残熱により脱硫剤の温度が40℃を超えることがあったとしても、これは一時的であり、またその超過幅を小さくすることができ、圧力上昇を許容される範囲に抑えることができる。この超過幅を小さくもしくはなくすために、断熱材を適宜配置したり、機器の配置を適宜設計したりすることもできる。
【0044】
なお、脱硫剤層に温度分布がつく場合があり、一つの脱硫器に複数の脱硫剤層が備わる場合や、脱硫部に複数の脱硫器が備わる場合もあるが、いずれの場合においても全ての脱硫剤のうちの最も低温の部分の温度を脱硫剤温度として採用し、停止時にこの脱硫剤温度を40℃以上とすることが、脱硫剤全体を40℃以上とすることができるため、好ましい。このため、使用する脱硫剤の停止時に最も低温となる部分を理論的にもしくは実験的に決めておき、その部分の温度を熱電対などで計測することが好ましい。
【0045】
脱硫剤を所定温度以上にするために、脱硫剤を加熱することができる。このために、例えば、改質器など、水素製造装置内の他の機器で発生する熱によって脱硫器を加熱することができる。例えば、改質器等の他の機器を脱硫器に隣接させ、他の機器から脱硫器への伝熱によって脱硫器を加熱することができる。また、改質器が水蒸気改質に必要な熱を得るためのバーナーを備える場合には、バーナーの燃焼排ガスを熱媒体として脱硫器を加熱する方法が考えられる。具体的には、例えば、脱硫剤層の周りに排ガスを流通させる配管を巻きつけ、脱硫剤層を加熱することができる。
【0046】
また、燃料電池システムの場合は燃料電池の排熱を利用して脱硫剤を加熱することもできる。例えばPEFCの場合にはセルの動作温度が70〜80℃程度であるため、セルの冷却水、あるいはセルの冷却を含むシステム全体の熱回収水ラインにより、脱硫器を加熱することが好ましい。
【0047】
さらに、電気ヒーターによって脱硫剤を加熱することもできる。例えば、電気ヒーターを脱硫器に巻きつけて脱硫器を加熱することができる。この方法は加熱のためにヒーター用の電力を消費するデメリットがあるが、例えば上述の熱媒体による加熱方法と組み合わせるなどして、実質的に消費電力を軽減できる可能性もある。
【0048】
いずれの方法においても、2段以上の脱硫剤の組み合わせを用いる場合には、それらを単一の管理指標により、実質的に同じ温度に管理できることが好ましい。
【0049】
さてこのような方法により、所定温度以上の脱硫剤温度で装置を停止した状態から次の起動までの間に、脱硫剤の温度がそれ以上上昇することは防止されるが、逆に低下する可能性は高い。この場合、温度が低下したゼオライト系脱硫剤は炭化水素の吸着能力が増大し、脱硫器内の気相中に存在している炭化水素を吸着して脱硫器内が大気圧に対して負圧になることが想定される。この場合、このまま装置を起動すると、ゼオライトの吸着サイトが、その温度での飽和吸着量まで満たされるまで、供給した水素製造用原料が脱硫容器から出てこないことになり、装置起動運転が安定しない可能性がある。このため、まず脱硫部内の圧力を検知し、脱硫部内の圧力が所定の圧力範囲を下回った(負圧)場合、脱硫部の下流側(改質器側)のラインを閉じた状態で上流側(供給側)の弁を開き、水素製造用原料を脱硫部に導入することにより脱硫部内を所定の圧力範囲(大気圧付近)にし、脱硫剤に炭化水素を飽和量近傍まで吸着させてから通常の起動操作に移行することが好ましい。脱硫部の圧力を監視するために圧力計を設けることができる。なお、起動操作に入る前の脱硫部の圧力が所定の範囲内である場合、脱硫部の入口ラインおよび出口ラインは同時に開けてもよい。
【0050】
前述の所定の圧力範囲は、水素製造用原料供給系に用いるポンプ、流量計あるいは弁などの機器の特性を勘案して決めることができる。具体的には、ポンプなどの機器が正しく動作して所定の流量の水素製造用原料が流れ、所定の水素含有ガスが製造され、また所定の発電出力が得られるようにする観点から、脱硫部内の圧力を±10kPa−Gの範囲、すなわち−10kPa−G以上10kPa−G以下、好ましくは±5kPa−Gの範囲、すなわち−5kPa−G以上5kPa−G以下にすることができる。なお、圧力単位におけるGはゲージ圧であることを意味する。停止時に脱硫部下流は大気開放されているので、起動時に、脱硫部内の圧力を上記範囲にしたうえで脱硫部の出口ラインを開ければ、脱硫部と脱硫部下流とが、圧力バランスがほぼとれた状態で流通し、安定して装置を起動することができる。
【0051】
以上のような、ゼオライト系脱硫剤を用いた水素製造装置の停止方法、さらには起動停止方法を用いることにより、装置停止後の温度変化により脱硫容器内が可燃性ガスの加圧状態になることを回避でき、さらには再立ち上げ時に水素製造用原料が供給不足になったり水素製造用原料の流量が不安定になったりすることを防止でき、気温や周囲環境の変動が大きい実環境下においても安定して水素製造装置を動作させることが可能となる。また、水素製造装置を有する燃料電池システムにおいても上記起動停止方法を採用することにより、同様に安定して燃料電池システムを動作させることが可能となる。
【実施例】
【0052】
以下に実施例を挙げ本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0053】
[実施例1] 装置パッケージ内の雰囲気温度による脱硫器昇温
図2は、ここで用いた燃料電池システムの概略を示す模式図である。AC送電端での定格負荷1.2kWの積層型PEFCセルスタック23、水素製造装置、これらから発生する熱を水循環により回収して温水タンク25に温水を蓄積するための熱回収システムを含む燃料電池発電システムを作成した。なお、図2中、各機器を結ぶ実線は可燃性ガスのラインを示し、破線は熱回収ラインを示す。
【0054】
水素製造装置は次の1)〜4)を有する。
1)ステンレス(SUS−304)容器中に、ゼオライト系脱硫剤(エンゲルハルド社製、商品名:Selectra SurfX−CNG−1)800mL、Ni系脱硫剤(日揮化学社製、商品名:N112)200mLを充填し、ただし両脱硫剤の間をパンチングメタル板(孔径1mm)により仕切り、水素製造用原料の流れ方向に対してゼオライト系脱硫剤層3、Ni系脱硫剤層4の順に容器内に脱硫剤層が積層された積層脱硫器1。
2)ルテニウム1.5質量%、酸化ランタン7質量%をアルミナ担体に担持した水蒸気改質触媒を450mL充填した改質反応管と、改質反応管を加熱するための、プロパンガス500NmL/minから2NL/minを燃焼可能な拡散火炎型バーナー21aとを備える改質器21。なおNml/minにおける「N」は、0℃、0.101MPaに換算した値であることを意味する。
3)銅亜鉛系シフト触媒2.5Lとルテニウム0.03質量%担持アルミナ系CO選択酸化触媒を積層したCO除去リアクター22。
【0055】
この燃料電池発電システムは、上記セルスタックと水素製造装置に加え、制御機器、補機類などを備える。例えば止め弁12の下流かつ改質器の上流に、改質触媒層にプロパンガスをフィードするためのダイアフラム型ガスポンプ(不図示)を備える。またこの燃料電池発電システムは、高さ850mm、幅1250mm、奥行き475mmのパッケージに収め、積層脱硫器は、PEFCセルスタック23、およびスタック加湿用タンク24に隣接するよう配置した。
【0056】
止め弁(電磁弁)13および11を開として、水素製造装置の水素製造用原料供給部位、すなわち積層脱硫器のゼオライト側の入口に、定格発電に要する水素発生のための水素製造用原料として、2.6NL/minのガス状LPG(出光ホームガス社製、20kgボンベ2本から自動切換え弁と圧力調整器を介して280mmAq(2.7kPa−G)でLPGを供給)を導入した。このときにLPGの組成はエタン0.3モル%、n−ブタン0.4モル%、i−ブタン0.9モル%で、残りがプロパンであった。また含有する硫黄成分としては、メチルメルカプタン0.2質量ppm、エチルメルカプタン0.8質量ppm、プロピルメルカプタン(n−およびi−)1.2質量ppm、ブチルメルカプタン(n−、i−、およびt−)1.7質量ppm、ジメチルスルフィド0.3質量ppm、硫化カルボニル2.1質量ppm、その他の硫黄化合物が合わせて0.7質量ppm含まれていた。
【0057】
止め弁(電磁弁)12を開けて装置を起動し、定格発電を開始してから4h運転した時点での脱硫器温度は、パッケージ内温度が脱硫器近傍で55℃だったのに対し、脱硫器内部(脱硫剤)では42℃であった。その後装置を停止し、該脱硫器の入り口、出口をそれぞれ電磁弁11および12で閉止した(この際、電磁弁13も閉じた)。電磁弁12より下流は停止後閉止され、一時的に圧力が24.7kPa−Gまで上昇した後に負圧に転じた。1h後に装置内の残熱により脱硫剤温度は47℃まで一時上昇したが、その後冷却され、8h後には室温にほぼ等しい26℃まで下降した。またその際の脱硫器内圧力は、温度が上昇した停止後1hの段階では+15.7kPa−Gであったが、8h後には負圧に転じており−43.5kPa−Gであった。一時的に脱硫器内の温度および圧力が上昇したが、わずかであり、許容される範囲である。
【0058】
その後装置を再び起動する際、まず脱硫器内を±10kPa−Gの範囲にする圧力調整を行った。すなわち、脱硫器出口の電磁弁12は閉じたまま、先にLPG供給側電磁弁13と脱硫器入口電磁弁11を開け、脱硫器内の圧力が陽圧になるまでその状態で待機した。大気時間は約2分であった。その後、電磁弁12を開け通常の起動方法に従い水素製造および発電を開始したが、水素製造装置、セル、補機いずれにも異常は見られず、定格発電に至った。
【0059】
上記起動・停止方法に則り、平日一日のうちで午前中に装置を起動し、約8hの運転を行ったのちに停止するDSS(Daily Start/Stop)モードでの運転を継続したところ、2000hごとの脱硫器交換を5回実施した10560h経過後も、水素製造装置ならびに周辺補機に異常は見られず、順調な運転を継続した。
【0060】
[実施例2] 改質器からの伝熱による脱硫器昇温
実施例1において、脱硫器をセルスタック近傍に設置する代わりに改質器に添うように配置し、脱硫器と改質器を断熱材により包むように保温した。
【0061】
装置停止時の脱硫器温度は68℃であり、その後温度は単調に降下し、8h後の温度は32℃であった。またそのときの圧力は−53kPa−Gであった。
【0062】
起動時に供給側と脱硫器入口の電磁弁13および11を開いてから約3.5分後に脱硫器内部圧力は陽圧となった。
【0063】
実施例1と同様にDSSモードでの起動・停止サイクル試験を実施したところ、脱硫器3回交換後の7700h経過後も順調運転を継続できた。
【0064】
[実施例3] 電気ヒーターによる脱硫器昇温
実施例1において、脱硫器をセルスタック近傍に設置する代わりに、脱硫器周りに200Wのシースヒーター(2m)を巻きつけ、容器表面温度を65℃に保つようにPID制御した。この時の脱硫剤の最低温度部位は57℃であった。
【0065】
装置起動に際して、まず電磁弁13、11、12を閉じたまま、ヒーターを作動させた。ヒーターによる脱硫器加熱開始から約4分後に脱硫器表面温度が一定になり、この時点で供給側と脱硫器入口の電磁弁13および11を開いた。電磁弁13および11を開いてから30秒以内に脱硫器内圧力は陽圧になっていた。
【0066】
実施例1と同様にDSSモードでの起動・停止サイクル試験を実施したところ、脱硫器3回交換後の6200h経過後も順調運転を継続できた。
【0067】
[実施例4] 排熱回収水循環による脱硫器昇温
実施例1において、脱硫器をセルスタック近傍に設置した上で、燃料電池本体パッケージ23から熱を回収して貯湯タンク25へ向かう温水ラインを、脱硫器周りに高さ25cmにわたり巻きつけた上で断熱材により保温した。装置停止時の脱硫器温度は58℃であり、その後温度は単調に降下し、8h後の温度は33℃であった。またそのときの圧力は−42kPa−Gであった。
【0068】
起動時に供給側と脱硫器入口の電磁弁13および11を開けてから約3分後に脱硫器内部圧力は陽圧となった。
【0069】
実施例1と同様にDSSモードでの起動・停止サイクル試験を実施したところ、脱硫器1回交換後の3800h経過後も順調運転を継続できた。
【0070】
[比較例1] 脱硫器昇温を行わない場合
実施例1において、脱硫器を装置パッケージ内の比較的冷涼な下部配管取り合い近傍に設置した以外は実施例1と同様の操作を行った。定格発電開始直後の脱硫器温度はその時点での室温に近い23℃であり、その後も運転中の温度は上昇することがなかった。装置停止に際して電磁弁13、11および12を閉止した。その8h後にパッケージ内の残熱により脱硫器温度は37℃まで上昇しており、これに伴って脱硫器内の圧力は+135kPa−Gまで上昇していた。その後再び装置を起動する際に、LPG供給側および脱硫器入口の電磁弁13および11を開けたが脱硫器内の加圧状態は解消されず、脱硫器内圧力は依然として100kPa−G以上であり、脱硫器内を±10kPa−Gの範囲に圧力調整することができなかった。この状態から装置を起動したところ、脱硫器出口側の弁12を開けたとたんに高い圧力がプロパンガス供給用のダイアフラム型ガスポンプにかかったため流量制御しきれず、一度に多量のLPGが改質器に導入され、脱硫器内の圧力は急激に開放された。
【0071】
実施例1と同様のDSS耐久試験を実施したところ、352hの運転後に脱硫器以降の水素製造装置内の圧力が上昇し、それ以上LPGを導入することが困難になり、運転が継続できなくなった。水素製造装置を解体して改質触媒層を抜き出して分析したところ、ルテニウム触媒上に14質量%程度の著しいカーボン析出が見られ、また改質容器や周囲のガス流路にもコーキングが見られた。一時的に多量のLPGが改質器に供給されたため、カーボン析出およびコーキングが起きたと考えられる。
【0072】
[比較例2] ゼオライト系脱硫剤を用いない場合
ゼオライト系脱硫剤を用いない以外は実施例1と同様の操作を行ったところ、脱硫器を出たあとのサンプリングガスの硫黄分析により、硫化カルボニルは分析機器の検出下限である0.05質量ppm未満であったが、エチルメルカプタン、プロピルメルカプタン(n−およびi−)、ブチルメルカプタン(n−、i−、およびt−)、ジメチルスルフィドのうち、ジメチルスルフィドの硫黄分の量が0.9質量ppm検出された。この状態で実施例1と同様のDSS運転を継続したところ、580h後に改質器の内圧が20kPa−Gを越えてガスフィードが出来なくなり、またCO選択酸化出口のCO濃度が100質量ppmを越える高濃度になり、セルの電圧低下が相次ぎ、運転の継続が不可能になった。改質器を解体して各触媒を抜き出して分析したところ、改質触媒は比較例1と同様に激しくコーキングしており、5.3質量%の炭素析出が観測された。また炭素ばかりでなく、0.1質量%の硫黄分も検出された。さらに、銅亜鉛系シフト触媒の上段からの抜き出し部位からも硫黄分が検出され、装置が運転できなくなる直前にはシフト触媒の上段部分はほとんど発熱しておらず、シフト触媒として機能していなかったことがわかった。
【0073】
[比較例3] ゼオライト系脱硫剤+Ni系脱硫剤のうちゼオライト系脱硫剤のみ加熱
実施例3において、ゼオライト系脱硫剤とNi系脱硫剤を同一容器内に積層して用いる代わりに、別々な2つの容器にそれぞれを充填し、ゼオライト系脱硫剤の脱硫器だけを実施例3の手法でシースヒーターにより温度制御し、Ni系脱硫剤の脱硫器については比較例1と同様に温度管理を行わなかった。これ以外は実施例3と同様の操作をした。
【0074】
停止時のNi系脱硫剤の脱硫器はほぼ23℃であった。停止後の脱硫器内圧力は、温度管理を行わなかったNi系脱硫剤からの脱離LPG分圧により最大値で72kPa−Gまで上昇し、その後の再起動時にも60kPa−G以上の圧力が残っていた。この状態で実施例1と同様のDSS耐久試験を実施したところ、1122hの運転後に改質器内の圧力が上昇し、それ以上LPGを導入することが困難になり、運転が継続できなくなった。改質器を解体して改質触媒層を抜き出して分析したところ、比較例1と同様にルテニウム触媒上に6.5質量%程度のカーボン析出が見られ、また改質容器や周囲のガス流路にもコーキングが見られた。
【0075】
[比較例4] ゼオライト系脱硫剤+Ni系脱硫剤のうち、Ni系脱硫剤のみ加熱
実施例3において、ゼオライト系脱硫剤とNi系脱硫剤を同一容器内に積層して用いる代わりに、比較例3と同様に別々な2つの容器にそれぞれを充填し、Ni系脱硫剤の脱硫容器だけを実施例3の手法でシースヒーターにより温度制御を行い、ゼオライト系脱硫剤の脱硫容器については比較例1と同様に温度管理を行わなかった。これ以外は実施例3と同様の操作をした。
【0076】
停止時のゼオライト系脱硫剤の脱硫器はほぼ23℃であった。停止後の脱硫器内圧力は最大値で105kPa−Gまで上昇し、その後の再起動時にも80kPa−G以上の圧力が残っていた。この状態で実施例1と同様のDSS耐久試験を実施したところ、392hの運転後に改質器内の圧力が上昇し、それ以上LPGを導入することが困難になり、運転が継続できなくなった。改質器を解体して改質触媒層を抜き出して分析したところ、比較例1と同様にルテニウム触媒上に11.5質量%程度の著しいカーボン析出が見られ、また改質容器や周囲のガス流路にもコーキングが見られた。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の水素製造装置は、燃料電池システムに用いて燃料電池に供給する水素含有ガスを製造するために用いることができ、また水素ステーションにおいて貯蔵もしくは製造する水素含有ガスを製造するために用いることができる。
【0078】
本発明の燃料電池システムは、自動車などの移動体用、産業用または民生用の発電システムもしくはコージェネレーションシステムに利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明における脱硫部の構成を説明するための模式図である。
【図2】実施例1で用いた燃料電池システムの概略図である。
【符号の説明】
【0080】
1 脱硫器
2 脱硫器
3 ゼオライト系脱硫剤層
4 金属系脱硫剤層
11 脱硫部入口止め弁
12 脱硫部出口止め弁
12 LPG供給系止め弁
21 改質器
21a バーナ
22 CO除去リアクター
23 PEFC
24 スタック加湿用タンク
25 貯湯タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体状水素製造用原料に含まれる硫黄分の濃度を低減するための、脱硫剤を含む脱硫部と、脱硫された水素製造用原料を改質して水素含有ガスを製造するための改質部を有する水素製造装置の停止方法において、
該脱硫剤の少なくとも一部がゼオライト系脱硫剤であり、
停止の際に、脱硫剤の温度が想定される最高雰囲気温度以上の状態において脱硫部の入口ラインおよび出口ラインを閉じる
ことを特徴とする水素製造装置の停止方法。
【請求項2】
気体状水素製造用原料に含まれる硫黄分の濃度を低減するための、脱硫剤を含む脱硫部と、脱硫された水素製造用原料を改質して水素含有ガスを製造するための改質部を有する水素製造装置の起動停止方法において、
該脱硫剤の少なくとも一部がゼオライト系脱硫剤であり、
停止の際に、脱硫剤の温度が想定される最高雰囲気温度以上の状態において脱硫部の入口ラインおよび出口ラインを閉じ、
起動する際に、脱硫部の圧力が±10kPa−Gの範囲である状態で、脱硫部の出口ラインを開ける
ことを特徴とする水素製造装置の起動停止方法。
【請求項3】
気体状水素製造用原料に含まれる硫黄分の濃度を低減するための、脱硫剤を含む脱硫部と、脱硫された水素製造用原料を改質して水素含有ガスを製造するための改質部を有する水素製造装置の起動停止方法において、
該脱硫剤の少なくとも一部がゼオライト系脱硫剤であり、
停止の際に、脱硫剤の温度が40℃以上の状態において脱硫部の入口ラインおよび出口ラインを閉じ、
起動する際に、脱硫部の圧力が±10kPa−Gの範囲である状態で、脱硫部の出口ラインを開ける
ことを特徴とする水素製造装置の起動停止方法。
【請求項4】
起動する際に、脱硫部の出口ラインを閉じた状態で脱硫部の入口ラインを開けて水素製造用原料を脱硫部に導入することにより脱硫部の圧力を±10kPa−Gの範囲にする請求項2または3記載の方法。
【請求項5】
該脱硫部が、ゼオライト系脱硫剤を含む層と、少なくとも銅、コバルトおよびニッケルのうちのいずれかの金属種を含む金属系脱硫剤を含む層とを有する請求項1〜4の何れか一項記載の方法。
【請求項6】
前記ゼオライト系脱硫剤を含む層と金属系脱硫剤を含む層とが、一つの容器の内部に、水素製造用原料の流れ方向に対してこの順に配置された請求項5記載の方法。
【請求項7】
停止の際に、前記ゼオライト系脱硫剤を含む層と金属系脱硫剤を含む層とを実質的に同一の温度にする請求項5または6記載の方法。
【請求項8】
前記ゼオライト系脱硫剤が、疎水性ゼオライトまたは疎水性ゼオライトに金属をイオン交換担持した金属置換ゼオライトである請求項1〜7の何れか一項記載の方法。
【請求項9】
前記水素製造用原料が、天然ガスまたは液化石油ガスである請求項1〜8の何れか一項記載の方法。
【請求項10】
気体状水素製造用原料に含まれる硫黄分の濃度を低減するための、脱硫剤を含む脱硫部と、脱硫された水素製造用原料を改質して水素含有ガスを製造するための改質部を有する水素製造装置;および、水素製造装置で得られた水素含有ガスを燃料とする燃料電池
を有する燃料電池システムの停止方法において、
該脱硫剤の少なくとも一部がゼオライト系脱硫剤であり、
停止の際に、脱硫剤の温度が想定される最高雰囲気温度以上の状態において脱硫部の入口ラインおよび出口ラインを閉じる
ことを特徴とする燃料電池システムの停止方法。
【請求項11】
気体状水素製造用原料に含まれる硫黄分の濃度を低減するための、脱硫剤を含む脱硫部と、脱硫された水素製造用原料を改質して水素含有ガスを製造するための改質部を有する水素製造装置;および、水素製造装置で得られた水素含有ガスを燃料とする燃料電池
を有する燃料電池システムの起動停止方法において、
該脱硫剤の少なくとも一部がゼオライト系脱硫剤であり、
停止の際に、脱硫剤の温度が想定される最高雰囲気温度以上の状態において脱硫部の入口ラインおよび出口ラインを閉じ、
起動する際に、脱硫部の圧力が±10kPa−Gの範囲である状態で、脱硫部の出口ラインを開ける
ことを特徴とする燃料電池システムの起動停止方法。
【請求項12】
気体状水素製造用原料に含まれる硫黄分の濃度を低減するための、脱硫剤を含む脱硫部と、脱硫された水素製造用原料を改質して水素含有ガスを製造するための改質部を有する水素製造装置;および、水素製造装置で得られた水素含有ガスを燃料とする燃料電池
を有する燃料電池システムの起動停止方法において、
該脱硫剤の少なくとも一部がゼオライト系脱硫剤であり、
停止の際に、脱硫剤の温度が40℃以上の状態において脱硫部の入口ラインおよび出口ラインを閉じ、
起動する際に、脱硫部の圧力が±10kPa−Gの範囲である状態で、脱硫部の出口ラインを開ける
ことを特徴とする燃料電池システムの起動停止方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−137649(P2006−137649A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−330622(P2004−330622)
【出願日】平成16年11月15日(2004.11.15)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】