説明

水素貯蔵材料、水素貯蔵材料の製造方法、水素供給システム、燃料電池、内燃機関及び車両

【課題】
単位重量当たりの高い水素発生量を確保しながら、比較的低い周囲圧力で水素の発生を中断及び再開することができる水素貯蔵材料、水素貯蔵材料の製造方法、水素供給システム、燃料電池、内燃機関及び車両を提供する
【解決手段】
水素貯蔵材料は、水素を貯蔵する第1貯蔵材本体(1)と、水素を貯蔵し、かつ、前記第1貯蔵材本体(1)の表面を被覆する第2貯蔵材本体(2)と、を備え、前記第1貯蔵材本体(1)の水素発生温度における、前記第2貯蔵材本体(2)の水素平衡圧(HP)が、前記第1貯蔵材本体(1)の水素平衡圧(HP)より低い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素貯蔵材料及びその周辺技術に関する。具体的には、本発明は、移動体に水素を供給するのに好適な水素貯蔵材料、水素貯蔵材料の製造方法、水素供給システム、燃料電池、内燃機関及び車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より移動体へ水素を供給する場合、高圧水素ガスタンク、液化水素タンク、水素吸蔵合金タンク等の水素貯蔵手段から水素を供給する方法が知られている。なかでも水素吸蔵合金タンクは、液化水素タンクのような超低温を必要とせず、また高圧水素ガスタンクのような高い強度を必要としないので、有望視されている。
【0003】
水素吸蔵合金は、冷却又は加圧により水素を吸蔵し、加熱又は減圧により水素を放出する。通常、水素吸蔵合金において、水素を吸蔵するときは発熱反応であり、水素を放出するときは吸熱反応である。この水素吸蔵合金を利用した水素貯蔵方法としては、例えば、特許文献1に記載の水素貯蔵タンクの使用方法及び水素貯蔵タンクが知られている。
【特許文献1】特開2006−90523号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
また、従来、水素発生材料として、単位重量当たりの水素発生量が多い金属水素化物が知られている。しかしながら、水素発生材料として金属水素化物を使用する場合、特許文献1の使用方法を適用したとしても、金属水素化物の水素平衡圧が高いため、水素の供給を止めたい場合に水素の発生を抑制することができないという問題があった。
【0005】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものである。そして、その目的とするところは、単位重量当たりの高い水素発生量を確保しながら、比較的低い周囲圧力で水素の発生を中断及び再開することができる水素貯蔵材料、水素貯蔵材料の製造方法、水素供給システム、燃料電池、内燃機関及び車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の水素吸蔵材料は、水素を貯蔵する第1貯蔵材本体と、水素を貯蔵し、かつ、前記第1貯蔵材本体の表面を被覆する第2貯蔵材本体と、を備え、前記第1貯蔵材本体の水素発生温度における、前記第2貯蔵材本体の水素平衡圧が、前記第1貯蔵材本体の水素平衡圧より低いことを要旨とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る水素貯蔵材料は、水素を貯蔵する第1貯蔵材本体と、水素を貯蔵し、かつ、前記第1貯蔵材本体の表面を被覆する第2貯蔵材本体と、を備え、前記第1貯蔵材本体の水素発生温度における、前記第2貯蔵材本体の水素平衡圧が、前記第1貯蔵材本体の水素平衡圧より低いこととした。そのため、材料全体としてみれば、第1貯蔵材本体の水素発生温度における水素平衡圧は、低い方の第2貯蔵材本体の水素平衡圧となる。従って、第1貯蔵材本体に水素平衡圧が高い材料を用いても、第2貯蔵材本体の水素平衡圧を基準にして水素貯蔵材料の容器の耐圧を設定することができる。さらに、この比較的低い、第2貯蔵材本体の水素平衡圧によって水素貯蔵材料からの水素放出を制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
次に図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0009】
[水素貯蔵材料]
本発明の水素貯蔵材料は、水素を貯蔵する第1貯蔵材本体と第2貯蔵材本体とを備える。そして、第2貯蔵材本体は、第1貯蔵材本体の表面を被覆している。さらに、第1貯蔵材本体の水素発生温度における水素平衡圧が、第1貯蔵材本体より第2貯蔵材本体の方が低い。
【0010】
上記水素貯蔵材料の構成及び作用効果について、図面を用いて詳細に説明する。図1は、本発明の水素貯蔵材料の粒子の断面図である。図1中の(a)は比較例、(b)は実施例1、(c)は実施例2をそれぞれ示す。
【0011】
図1中の(a)に示す比較例の水素貯蔵材料は、水素化アルミニウム(AlH)を用いた第1貯蔵材本体1からなり、その平均粒子径Dは約100μmである。
【0012】
図1中の(b)に示す実施例1の水素貯蔵材料は、平均粒子径Dが約100μmの第1貯蔵材本体1の表面全体を、厚さt1が約1μmの第2貯蔵材本体2の層で完全に覆ったものである。そして、第1貯蔵材本体1としては水素化アルミニウム(AlH)を用いており、第2貯蔵材本体2としては水素化ナトリウムアルミニウム(NaAlH)を用いている。
【0013】
図1中の(c)に示す実施例2の水素貯蔵材料は、平均粒子径Dが約100μmの第1貯蔵材本体1の表面全体を、厚さt2が約5μmの第2貯蔵材本体2の層で完全に覆ったものである。そして、第1貯蔵材本体1としては水素化アルミニウム(AlH)を用いており、第2貯蔵材本体2としては、水素化ナトリウムアルミニウム(NaAlH)を用いている。
【0014】
第1貯蔵材本体1である水素化アルミニウムは、以下の化学式1のように、水素化アルミニウム1分子から放出される水素原子数が多い。そのため、水素化アルミニウムは、単位重量当たりの水素貯蔵量が約10wt%と多く、移動体用の水素貯蔵材料に好都合である。
[化1]
AlH → Al + (3/2)H
しかしながら、水素発生温度(約200℃)における水素化アルミニウムの水素平衡圧は、約10GPaと著しく高い。そのため、一旦水素化アルミニウムの温度を分解温度まで上昇させた場合、水素化アルミニウムの容器から水素利用装置へ水素を供給する弁を閉じて容器内圧を上げたとしても、水素発生を中断させることが困難となる。また、水素化アルミニウムを水素貯蔵材料とした容器の耐圧を、水素化アルミニウムの水素平衡圧以上に製造することは困難であり、且つ、非合理的である。
【0015】
これに対して、第2貯蔵材本体2である水素化ナトリウムアルミニウムは、以下の化学式2の分解反応により水素を放出する。この水素化ナトリウムアルミニウムは、水素化アルミニウムよりも単位重量当たりの水素発生量が少ない。しかしながら、水素化ナトリウムアルミニウムの水素平衡圧は、水素化アルミニウムの水素平衡圧に比べて十分低い。つまり、水素化ナトリウムアルミニウムの水素平衡圧は、50℃では0.1MPa、100℃では1.0MPa、150℃では0.5MPaである。
[化2]
NaAlH→ (1/3)NaAlH + (2/3)Al + H
本発明は、このように単位重量当たりの水素発生量が多く、且つ、水素平衡圧が高い第1貯蔵材本体1の表面を、第1貯蔵材本体1より水素平衡圧が低い第2貯蔵材本体2で被覆する。これにより水素貯蔵材料全体としてみれば、単位重量当たりの水素発生量が多く、且つ、水素平衡圧が低い材料とすることができる。このため、水素の放出を中断する場合には、水素貯蔵材料を収容した容器から水素利用装置へ水素を供給する弁を閉じることにより、容器内圧を上げて、第2貯蔵材本体の水素平衡圧以上とする。これにより水素貯蔵材料からの水素の放出を容易に中断させることができる。水素放出を再開させる場合には、水素を供給する弁を開いて容器内圧を低下させることにより、水素貯蔵材料から水素を放出させることができる。
【0016】
なお、本明細書において、水素平衡圧とは、図2に示すように、第1貯蔵材本体1及び第2貯蔵材本体2に係る、所定温度時の圧力−組成等温線図(PCT曲線)におけるプラトー領域の水素圧HPである。圧力−組成等温線図とは、水素貯蔵材料の平衡水素吸蔵特性を評価する場合、一定温度における水素圧力と水素濃度との関係を示す図である。そして、図2に示すように、縦軸は水素圧をとり、横軸は水素濃度(H/M)をとる。H/Mは、水素貯蔵材料中における金属原子1個に対する水素原子の数を示す。
【0017】
図2に示すように、水素貯蔵材料が水素を貯蔵した場合は、図中右側の水素化物領域の状態になる。この状態から水素貯蔵材料が水素を放出した場合、図中の曲線に沿って、水素貯蔵材料は、水素が脱離した固溶体相と水素化物相が共存したプラトー領域の状態になる。さらに水素貯蔵材料が水素を放出した場合、水素貯蔵材料は図中左側の固溶体領域の状態になる。水素貯蔵材料が水素化ナトリウムアルミニウムの場合、水素化物領域では水素化ナトリウムアルミニウムの状態であり、プラトー領域では水素化ナトリウムアルミニウムと、ナトリウム及びアルミニウムの固溶体とが共存した状態になり、固溶体領域ではナトリウム及びアルミニウムの固溶体の状態になる。
【0018】
そして、本願では、水素平衡圧とは、図2に示すように、水素放出時におけるプラトー領域の水素圧HPのことをいう。また、水素平衡圧は、水素貯蔵材料の水素発生反応を途中で停止させるのに必要な、水素貯蔵材料を内部に保持した水素タンク内の水素圧力ともいうことができる。
【0019】
第1貯蔵材本体1は、第2貯蔵材本体2より、第1貯蔵材本体1の水素発生温度において水素平衡圧が高いものならば何でもよいが、単位重量当たりの水素発生量が多いものが好ましい。第1貯蔵材本体1は、例えば、金属水素化物、炭素系材料、ゼオライト、有機金属錯体の何れかを使用することができる。
【0020】
第1貯蔵材本体1となる金属水素化物(以下、第1金属水素化物ともいう)としては、水素化アルミニウム(AlH)や、マグネシウム(Mg)を含有する水素吸蔵合金、チタン(Ti)を含有する水素吸蔵合金が挙げられる。
【0021】
マグネシウム(Mg)を含有する水素吸蔵合金としては、マグネシウム−亜鉛合金(MgZn)、マグネシウム−ニッケル合金(MgNi)、マグネシウム−銅合金(MgCu)等が挙げられる。チタン(Ti)を含有する水素吸蔵合金としては、チタン−鉄合金(TiFe)、チタン−コバルト合金(TiCo)、チタン−クロム−バナジウム合金(Ti−Cr−V)等が挙げられる。また、MgとTiの合金は、MgとTiとの双方を含む水素吸蔵合金である。
【0022】
第1貯蔵材本体1となる炭素系材料としては、カーボンナノホーン、カーボンナノチューブ、グラファイトナノファイバ、芳香族炭化水素等が挙げられる。
【0023】
第2貯蔵材本体2は、例えば、金属水素化物、炭素系材料、ゼオライト、有機金属錯体の何れかを使用することができる。ただ、第2貯蔵材本体2は、第1貯蔵材本体1の水素発生温度における水素平衡圧が、第1貯蔵材本体より低い材料である必要がある。
【0024】
第2貯蔵材本体2となる金属水素化物(以下、第2金属水素化物ともいう)としては、第1金属水素化物とは種類の異なる第2金属水素化物を使用することができる。第2金属水素化物としては、第1貯蔵材本体1の水素発生温度において、水素平衡圧が第1貯蔵材本体より低いものであれば何でもよい。例えば、アルミニウムとアルカリ金属との水素化物、アルミニウムとアルカリ土類金属との水素化物、ホウ素とアルカリ金属との水素化物、或いはホウ素とアルカリ土類金属との水素化物が好ましい。アルミニウムとアルカリ金属との水素化物としては、水素化リチウムアルミニウム(LiAlH)、水素化カリウムアルミニウム(KAlH)、水素化ナトリウムアルミニウム(NaAlH)等が挙げられる。アルミニウムとアルカリ土類金属との水素化物としては、水素化マグネシウムアルミニウム(Mg(AlH)、水素化カルシウムアルミニウム(Ca(AlH)等が挙げられる。ホウ素とアルカリ金属との水素化物としては、水素化ホウ素リチウム(LiBH)、水素化ホウ素カリウム(KBH)、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)等が挙げられる。ホウ素とアルカリ土類金属との水素化物としては、水素化ホウ素マグネシウム(Mg(BH)、水素化ホウ素カルシウム(Ca(BH)等が挙げられる。
【0025】
第2貯蔵材本体の水素放出中の水素平衡圧は、本発明に係る水素貯蔵材料全体としての水素平衡圧となる。そのため、第2貯蔵材本体の水素平衡圧は、後述する水素利用装置への水素供給圧付近の圧力、例えば、0.2MPa以上、15MPa以下であることが好ましい。
【0026】
また、第2貯蔵材本体として上記第2金属水素化物を使用する場合、第1貯蔵材本体の表面に第2金属水素化物の層を形成するために、非極性有機溶媒に溶解するものが好ましい。
【0027】
なお、第1貯蔵材本体1への第2貯蔵材本体2の被覆は、第1貯蔵材本体1の1次粒子毎に被覆しても良い。また、第1貯蔵材本体1の1次粒子が凝集した2次粒子毎に第2貯蔵材本体2を被覆させても良い。
【0028】
第1貯蔵材本体1の表面を被覆する第2貯蔵材本体2の厚さは、上記実施例1,2に限らず、最低、数nmの厚さとする。第2貯蔵材本体2の厚さが厚すぎると、内側の第1貯蔵材本体1から放出された水素が第2貯蔵材本体2の皮膜を通過して水素貯蔵材料の表面に至るまでの時間が長引き、水素放出の応答性が低下するので好ましくない。逆に、第2貯蔵材本体2の厚さが薄すぎると、第2貯蔵材本体2の皮膜が破損しやすくなる。第2貯蔵材本体2の皮膜が破損した場合、第1貯蔵材本体1から高圧の水素が放出される。そのため、当該水素貯蔵材料粒子の第1貯蔵材本体1からの水素放出が終了するまで、水素貯蔵材料からの水素放出が停止しない虞がある。具体的には、第2貯蔵材本体2の厚さt1,t2は5nm〜20μmであることが好ましい。また、第1貯蔵材本体1の粒子径Dは、第2貯蔵材本体2の厚さt1,t2より大きく、10μm〜300μmであることが好ましい。
【0029】
第2貯蔵材本体2の破損により第1貯蔵材本体1から放出された水素は、水素貯蔵材料の容器内に滞留して容器内の圧力を上昇させる。しかし、上述のように、本発明の水素貯蔵材料の粒子径は小さいため、通常、被膜が破れた粒子から放出される総水素量が容器内圧の上昇に影響する分は、殆ど無視することができる。
【0030】
ここで、図1の(b)及び(c)において、第1貯蔵材本体1と第2貯蔵材本体2とは二層構造となっている。しかしながら、本発明の水素貯蔵材料では、第1貯蔵材本体の粒子と第2貯蔵材本体の層との間に、第1貯蔵材本体の成分と第2貯蔵材本体の成分が混合した組成を有する領域を備えていても、本発明の作用を有する。
【0031】
次に、本発明の水素貯蔵材料の製造方法を説明する。製造方法の概略は、第1貯蔵材本体の微粒子に、第2貯蔵材本体を溶解した溶液を含浸担持させる方法である。この含浸担持法により、第1貯蔵材本体の粒子の表面全体に、第2貯蔵材本体の被膜を一定の厚さで容易に形成することができる。
【0032】
本発明の水素貯蔵材料の製造方法は、第2貯蔵材本体を非極性有機溶媒に溶解した溶液を調製する溶液調製工程と、上記溶液に第1貯蔵材本体の微粒子を浸漬して、第1貯蔵材本体の粒子の表面に、第2貯蔵材本体を含浸担持する含浸担持工程と、溶液を含浸担持した前記微粒子から溶媒を蒸発させて乾燥させる乾燥工程と、を備える。
【0033】
溶液調製工程で用いる非極性有機溶媒は、エーテル類、特にテトラヒドロフラン(THF)が挙げられる。この非極性有機溶媒は、第1貯蔵材本体の溶解度が低く、第2貯蔵材本体の溶解度が大きいものが好ましい。例えば、第2貯蔵材本体として水素化リチウムアルミニウム(LiAlH)を用いる場合、非極性有機溶媒としては、ジエチルエーテルが適している。
【0034】
含浸担持工程は、第2貯蔵材本体を溶解した溶液に、第1貯蔵材本体の微粒子を混合し、攪拌した後、濾過を行う。また、溶媒を除去する乾燥工程において、溶媒の燃焼を防止すると共に、水素貯蔵材料からの水素放出を起こさせないために、高温で加熱することは好ましくなく、80℃以下で乾燥させることが望ましい。なお、上記各工程は、第1貯蔵材本体及び第2貯蔵材本体の酸化を防止するため、窒素やアルゴン等の不活性雰囲気下で行うことが好ましい。
【0035】
なお、第2貯蔵材本体を溶解した溶液に第1貯蔵材本体を浸漬させる前に、第1貯蔵材本体を微粒子化する粉砕工程を追加してもよい。粉砕工程は、例えば、ボールミルや乳鉢を用いて第1貯蔵材本体を粉砕して微粒子化する。微粒子の粒子径は、上述のように、10μm〜300μmであることが好ましい。予め微粒子化した第1貯蔵材本体を入手できる場合には、当然ながら粉砕工程を省略することができる。また粉砕工程の後に、さらに篩等で粒子の大きさを揃える工程を追加してもよい。
【0036】
以上説明したように、上記製造方法によれば、第1貯蔵材本体の表面に、比較的簡単な工程で第2貯蔵材本体を均一に被覆することができる。なお、上記水素貯蔵材料の製造方法では、第2貯蔵材本体を溶解した溶液に、第1貯蔵材本体を含浸させて、第1貯蔵材本体の粒子表面全体に第2貯蔵材本体を被覆させていた。しかし、第1貯蔵材本体の表面に第2貯蔵材本体を被覆させることが出来るのであれば、第2貯蔵材本体を溶解した溶液を噴霧するなどして、第1貯蔵材本体の表面に塗布してもよい。
【0037】
以下、上記実施例1及び2を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0038】
(実施例1)
まず、液相合成法により、平均粒子径が約100μmの水素化アルミニウムを調製した。なお、この水素化アルミニウムは、米国特許第6,228,338号明細書に記載の方法に基づき調製した。
【0039】
さらに、ジエチルエーテルに水素化ナトリウムアルミニウムを溶解させ、水素化ナトリウムアルミニウムの濃度が0.30Mのジエチルエーテル溶液を200mL調製した。
【0040】
次に、調製した水素化アルミニウムの粉末1gを前記ジエチルエーテル溶液に投入し、1時間攪拌することにより、水素化アルミニウムの表面に水素化ナトリウムアルミニウムを含浸担持させた。その後、含浸担持された水素化アルミニウムを吸引濾過し、アルゴン気流中、80℃で1時間乾燥させた。このようにして、実施例1の水素貯蔵材料を調製した。なお、上記実施例1の水素貯蔵材料の調製は、全てアルゴン雰囲気下で行った。
【0041】
(実施例2)
実施例1と同様に、まず、平均粒子径が約100μmの水素化アルミニウムを調製した。さらに、ジエチルエーテルに水素化ナトリウムアルミニウムを溶解させ、水素化ナトリウムアルミニウムの濃度が0.75Mのジエチルエーテル溶液を200mL調製した。
【0042】
次に、調製した水素化アルミニウムの粉末1gを前記ジエチルエーテル溶液に投入し、3時間攪拌することにより、水素化アルミニウムの表面に水素化ナトリウムアルミニウムを含浸担持させた。その後、含浸担持された水素化アルミニウムを吸引濾過し、アルゴン気流中、80℃で1時間乾燥させた。このようにして、実施例2の水素貯蔵材料を調製した。なお、上記実施例2の水素貯蔵材料の調製は、全てアルゴン雰囲気下で行った。
【0043】
(比較例)
実施例1と同様に、平均粒子径が約100μmの水素化アルミニウムを調製し、これを比較例1の水素貯蔵材料とした。
【0044】
(水素貯蔵材料の評価)
得られた実施例1、2及び比較例の水素貯蔵材料の水素放出量及び水素放出速度について、以下の評価を行った。
【0045】
図3は、上記実施例1、実施例2及び比較例の水素放出量(wt%)を比較した図である。具体的には、実施例及び比較例に係る水素貯蔵材料の周囲の水素圧力(以下、周囲圧力ともいう)が2MPaの場合、つまり、水素貯蔵材料が容器に収容されている場合の容器内部の水素圧力が2MPaの場合における、実施例及び比較例の水素放出量を示している。図に示すように、水素貯蔵材料の周囲の水素圧力が2MPaの場合、実施例1の水素放出量は2.94wt%、実施例2は、2.64wt%であったが、比較例は、8.00wt%であった。次に、容器内部を真空引きし、周囲の水素圧力を0MPaとした場合、実施例1の水素放出量は7.86wt%、実施例2は、7.49wt%であった。実施例1、2ともに、比較例に対して周囲圧力により水素放出量が制御されていることが明らかとなった。
【0046】
図4は、実施例1と比較例の水素放出量の時間変化を示す図であり、(a)は実施例1の水素放出量の時間経過を示し、(b)は比較例の水素放出量の時間経過を示す。実施例1と比較例のいずれも放出開始後30分間程度までは、時間経過と水素放出量がほぼ比例しており、水素放出速度が一定な状態である。しかし、30分経過後から水素放出速度が低下し、60分後には極めて水素放出速度が低下し、約90分後には水素放出はほぼ停止し、以後水素放出量は増加しないことがわかる。
【0047】
図4の(a)の実施例1において、周囲圧力P(H2)の相違が水素放出速度に大きく影響し、水素貯蔵材料の周囲の水素圧力が高まるほど水素放出速度が低下している。言い換えれば、実施例1では、水素貯蔵材料の周囲の水素圧力を制御することにより、水素放出速度及び水素放出量を低下させることができる。ちなみに、実施例1の水素放出開始後120分における各水素放出量は、周囲圧力P(H2)が2MPaの場合3.2wt%、周囲圧力P(H2)が1MPaの場合6.0wt%、周囲圧力P(H2)が0MPaの場合8.0wt%であった。図4の(b)の比較例では、周囲圧力P(H2)が1MPa、0MPa共にほぼ同様な水素放出量を示し、120分後の水素放出量は、いずれの周囲圧力の場合も8.0wt%であった。
【0048】
図5は、実施例1の水素貯蔵材料を用いて、まず0MPa、1MPa及び2MPaの各周囲圧力P(H2)で水素放出させた後、水素放出開始から120分後に周囲圧力P(H2)を0MPaとした場合の水素放出量を計測した結果である。周囲圧力を低下させることにより、水素放出量は8wt%まで増加することが確認された。
【0049】
[水素供給システム]
次に、本発明に係る水素貯蔵材料を使用した水素供給システムを説明する。図6は、水素供給システムの第1実施形態を説明するシステム構成図である。同図において、水素供給システム101は、容器11と、容器11に収容された本発明の水素貯蔵材料12と、容器11内に設けられた熱交換器13と、熱媒体を加熱及び冷却する加熱冷却装置14と、加熱冷却装置14から熱交換器13へ熱媒体を供給する熱媒体供給管15と、熱交換器13から加熱冷却装置14へ熱媒体を排出する熱媒体排出管16と、を備えている。さらに、水素供給システム101は、容器11内部で発生した水素をリザーブタンク18及び供給弁19へ供給する連結管17と、供給弁19から水素利用装置102へ水素を供給する供給管20と、水素利用装置102からの水素要求に基づいて加熱冷却装置14の動作及び供給弁19の開度を制御する制御ユニット21とを備えている。また、水素貯蔵材料の水素放出速度が十分に速い場合は、水素貯蔵材料を充填した容器中の空隙部分をリザーブタンクとして、高圧水素を貯蔵することもできる。
【0050】
容器11は、水素貯蔵材料12を構成する第1貯蔵材本体の水素放出温度に耐える耐熱性と、水素貯蔵材料12を構成する第2貯蔵材本体の水素平衡圧に耐える耐圧性とを備えた容器である。例えば、第1貯蔵材本体に水素化アルミニウム、第2貯蔵材本体に水素化ナトリウムアルミニウムを用いた場合、容器11の耐熱温度は250℃以上、耐圧は2MPa以上あればよい。
【0051】
容器11の材料としては、水素脆性が起きにくいオーステナイト系のステンレススチールが使用できる。オーステナイト系のステンレススチールとしては、面心立方構造のSUS304,316等が挙げられる。また、その他、容器11の材料としては、カーボン繊維等を樹脂で固めたコンポジット材又はアルミニウムが使用できる。熱交換器13は、伝熱のための複数のフィン13aを備え、熱媒体と、容器11及び水素貯蔵材料12との間で熱交換させるものである。
【0052】
加熱冷却装置14は、制御ユニット21の制御により、熱媒体を加熱又は冷却して、加熱冷却装置14と熱交換器13との間に熱媒体を循環させる。これにより、容器11及びその内部の水素貯蔵材料12を加熱又は冷却する。ここで用いる熱媒体は、水素貯蔵材料12の水素放出温度での安定性を備える熱媒体である。
【0053】
連結管17は、容器11とリザーブタンク18及び供給弁19との間を連結し、容器11内で発生した水素をリザーブタンク18及び供給弁19に供給する管路である。リザーブタンク18は、容器11と同じ耐圧性を有し、発生した水素を一時的に貯留するタンクである。供給弁19は、制御ユニット21から開閉及び開度が制御されることで水素の流量を調節する弁である。供給弁19を通過した水素は、供給管20を介して水素利用装置102へ供給される。
【0054】
制御ユニット21は、水素利用装置102から水素供給の要求及び水素要求量(流量)を受けて、加熱冷却装置14及び供給弁19を制御して、水素利用装置102への水素供給を制御する。制御ユニット21は、特に限定されないが、CPUとプログラムROMと作業用RAMと入出力インタフェースとを備えたマイクロプロセッサで構成することができる。
【0055】
水素利用装置102は、本発明に係る水素供給システムから水素供給を受けて、水素を利用する装置である。水素利用装置102としては、水素を燃料とする内燃機関や燃料電池スタック等が挙げられる。そして、上記水素供給システム及び内燃機関は、水素燃料自動車に搭載され得る。また、水素供給システム及び燃料電池スタックは、燃料電池自動車に搭載され得る。また水素利用装置102として、ノート型パーソナルコンピュータ、携帯電話等の携帯型電子機器に電力を供給するための水素を燃料とする携帯用燃料電池が好適である。
【0056】
次に、図7の制御フローチャートを参照して、前記水素供給システムにおける制御ユニット21の水素供給制御について説明する。この水素供給制御の特徴は、水素供給システム101から水素利用装置102へ供給する水素供給量を、供給弁19の開度を制御することにより行う点である。水素利用装置102が制御ユニット21に対して水素供給の要求を行うことにより、本フローチャートの実行が開始される。
【0057】
まず、ステップS10において、制御ユニット21は、供給弁19へ開信号を出力して供給弁19を開く。次いでステップS12で、制御ユニット21は、加熱冷却装置14へ加熱指示信号を出力する。加熱指示信号を受けた加熱冷却装置14は、熱媒体を加熱するとともに熱媒体を循環させて、容器11の内部に設置された熱交換器13を加熱する。熱交換器13は、容器11及び容器内の水素貯蔵材料12を加熱し、その結果、水素貯蔵材料12の温度が上昇する。
【0058】
次いで、ステップS14において、制御ユニット21は、図6では図示されない温度センサにより容器11又は水素貯蔵材料12の温度を検出し、検出した温度が予め設定された目標温度以上となったか否かを判定する。この目標温度は、水素貯蔵材料12を構成する第1貯蔵材本体の水素放出温度に応じて設定されるものとする。例えば、第1貯蔵材本体が水素化アルミニウムの場合、目標温度は約200℃である。
【0059】
ステップS14の判定で、温度が目標温度以上でなければ、ステップS12へ戻って加熱を続ける。ステップS14の判定で、温度が目標温度以上であれば、ステップS16へ進む。ステップS16では、制御ユニット21は、水素供給量が水素要求量にほぼ等しいか、ほぼ等しくなければいずれが大きいかを判定する。この判定のため、例えば、水素要求量−α、水素供給量、及び水素要求量+αの3者を比較する。ここでαは、水素要求量に対する水素供給量の許容誤差である。αの値の設定には、水素利用装置102の特性や水素供給量の測定誤差、制御ユニット21の制御誤差等を考慮して、水素供給量制御にハンチング等の不都合が生じない値を設定するものとする。尚、図6では図示しない水素供給量センサは、水素供給システム101に備えてもよいし、水素利用装置102側に備えてもよい。水素利用装置102側に水素供給量センサを備える場合、制御ユニット21へ水素要求量とともに水素供給量の検出値が送られるものとする。
【0060】
ステップS16の判定において、水素要求量−αが水素供給量より多い場合には、水素供給量が不足しているとして、ステップS18へ進み、制御ユニット21は、供給弁19の開度を増加させて、ステップS24へ移る。ステップS16の判定において、水素供給量から水素要求量を引算した値の絶対値がα以下の場合には、水素供給量がほぼ水素要求量に等しい(許容誤差以内)と判定して、ステップS20へ進み、供給弁19の開度を維持して、ステップS24へ移る。ステップS16の判定において、水素要求量+αが水素供給量より少ない場合には、水素供給量が過多として、ステップS22へ進み、制御ユニット21は、供給弁19の開度を減少させて、ステップS24へ移る。
【0061】
ステップS24では、制御ユニット21は、水素利用装置102から水素供給の要求が継続しているか否かを判定する。水素供給の要求が継続していれば、ステップS16へ戻って水素供給の継続を行う。水素供給の要求が継続していなければ、ステップS26へ進み、制御ユニット21は、供給弁19を閉じて、水素供給を停止する。次いでステップS28で、制御ユニット21は、加熱冷却装置14に対して、冷却指示信号を送り、冷却指示信号を受けた加熱冷却装置14は、冷却動作を行って、容器11及び水素貯蔵材料12を冷却する。この冷却動作は、温度センサにより検出された温度が所定温度まで低下したときに停止され、水素供給システムの動作が停止する。
【0062】
上記第1実施形態の水素供給システムによれば、第1貯蔵材本体の水素平衡圧より低い第2貯蔵材本体の水素平衡圧を基準として、水素貯蔵材料を収容する容器の耐圧を決定できる。そのため、水素供給システムを構成する構成要素の耐圧をむやみに高くすることなく、単位重量当たりの水素発生量が多い水素化アルミニウム等の金属水素化物から水素を供給する水素供給システムを、容易に構築することができる。
【0063】
また、上記水素供給システムによれば、一旦容器の温度を目標温度まで昇温すれば、後は水素利用装置へ水素を供給する供給弁の開度を制御するだけで、容易に水素供給量を水素要求量に追随させることができる。
【0064】
次に、第2実施形態の水素供給システムを説明する。第2実施形態の水素供給システムのハードウェア構成は、図6に示したものと同様であるが、本システムは図8の制御フローチャートのように制御される。図7と図8の水素供給制御の相違は、制御ユニット21による加熱冷却装置の制御の有無である。図7の水素供給制御では、供給弁19の開度により水素供給量を制御していた。しかし、図8の水素供給制御では、加熱冷却装置14による容器11の加熱及び冷却の制御と、供給弁19の開度制御により水素供給量を制御する点に特徴がある。
【0065】
次に、図8の制御フローチャートを参照して、水素供給システム101における制御ユニット21の水素供給制御について説明する。水素利用装置102が制御ユニット21に対して水素供給の要求を行うことにより、本フローチャートの実行が開始される。まず、ステップS10において、制御ユニット21は、供給弁19へ開信号を出力して供給弁19を開く。次いでステップS12で、制御ユニット21は、加熱冷却装置14へ加熱指示信号を出力する。加熱指示信号を受けた加熱冷却装置14は、熱媒体を加熱するとともに熱媒体を循環させて、容器11の内部に設置された熱交換器13を加熱する。熱交換器13は、容器11及び容器内の水素貯蔵材料12を加熱し、水素貯蔵材料12の温度が上昇する。
【0066】
次いでステップS14で、制御ユニット21は、図6では図示されない温度センサにより容器11又は水素貯蔵材料12の温度を検出し、検出した温度が予め設定された目標温度以上となったか否かを判定する。この目標温度は、水素貯蔵材料12を構成する第1貯蔵材本体の水素放出温度に応じて設定されるものとする。
【0067】
ステップS14の判定で、温度が目標温度以上でなければ、ステップS12へ戻って加熱を続ける。ステップS14の判定で、温度が目標温度以上であれば、ステップS16へ進む。ステップS16では、制御ユニット21は、水素供給量が水素要求量にほぼ等しいか、ほぼ等しくなければいずれが大きいかを判定する。この判定のため、例えば、水素要求量−α、水素供給量、及び水素要求量+αの3者を比較する。ここでαは、水素要求量に対する水素供給量の許容誤差である。αの値の設定方法は、図7の場合と同様である。
【0068】
ステップS16の判定において、水素要求量−αが水素供給量より多い場合には、水素供給量が不足しているとして、ステップS30へ進む。ステップS30では、制御ユニット21は、加熱冷却装置14へ加熱指示信号を出力する。加熱指示信号を受けた加熱冷却装置14は、熱媒体を加熱するとともに熱媒体を循環させて、容器11の内部に設置された熱交換器13を加熱する。熱交換器13は容器11内の水素貯蔵材料12を加熱し、その結果、水素貯蔵材料12の温度が上昇する。次いでステップS32で、制御ユニット21は、供給弁19の開度を増加させて、ステップS42へ移る。
【0069】
ステップS16の判定において、水素供給量から水素要求量を引算した値の絶対値がα以下の場合には、水素供給量がほぼ水素要求量に等しい(許容誤差以内)と判定して、ステップS34へ進む。ステップS34では、加熱冷却装置14の状態が加熱状態であれば加熱状態を維持し、冷却状態であれば冷却状態を維持してステップS36へ進む。ステップS36では、供給弁19の開度を維持して、ステップS42へ移る。
【0070】
ステップS16の判定において、水素要求量+αが水素供給量より少ない場合には、水素供給量が過多として、ステップS38へ進む。ステップS38では、制御ユニット21は、加熱冷却装置14へ冷却指示信号を出力する。冷却指示信号を受けた加熱冷却装置14は、熱媒体を冷却するとともに熱媒体を循環させて、容器11の内部に設置された熱交換器13を冷却する。熱交換器13は容器11内の水素貯蔵材料12を冷却し、水素貯蔵材料12の温度が低下する。次いでステップS40で、制御ユニット21は、供給弁19の開度を減少させて、ステップS42へ移る。
【0071】
ステップS42では、制御ユニット21は、水素利用装置102から水素供給の要求が継続しているか否かを判定する。水素供給の要求が継続していれば、ステップS16へ戻って水素供給の継続を行う。水素供給の要求が継続していなければ、ステップS44へ進み、制御ユニット21は、供給弁19を閉じて、水素供給を停止する。次いでステップS46で、制御ユニット21は、加熱冷却装置14に対して、冷却指示信号を送り、冷却指示信号を受けた加熱冷却装置14は、冷却動作を行って、容器11及び水素貯蔵材料12を冷却する。この冷却動作は、温度センサにより検出された温度が所定温度まで低下したときに停止され、水素供給システムの動作が停止する。
【0072】
上記第2実施形態の水素供給システムによれば、第1貯蔵材本体の水素平衡圧より低い第2貯蔵材本体の水素平衡圧を基準として、水素貯蔵材料を収容する容器の耐圧を決定できる。そのため、水素供給システムを構成する構成要素の耐圧をむやみに高くすることなく、単位重量当たりの水素発生量が多い水素化アルミニウム等の金属水素化物から水素を供給する水素供給システムを、容易に構築することができる。
【0073】
また、図8の水素供給制御によれば、供給弁の開度制御と、加熱冷却装置による容器の加熱冷却制御とにより、高精度な水素供給量の制御を行うことができる。
【0074】
次に、水素供給システムの第3実施形態を説明する。図9は、第3実施形態の水素供給システムの構成を説明するシステム構成図である。第3実施形態の水素供給システムは、図6に示した第1実施形態の構成に対して、容器11と連結管17との間で、容器11の近傍に設けられ、前記容器11の出口を開閉し、さらに開度調整可能な容器弁22と、連結管17とリザーブタンク18との間に設けられ、前記リザーブタンク18の出入口を開閉し、さらに開度調整可能なリザーブタンク弁23とをそれぞれ追加した構成となっている。容器弁22及びリザーブタンク弁23は、制御ユニット21から開閉及び開度が制御される。その他の構成は、第1実施形態と同様であるので、同じ構成要素には同じ符号を付与して、重複する説明を省略する。
【0075】
次に、図10の制御フローチャートを参照して、第3実施形態の水素供給システムにおける制御ユニット21の水素供給制御について説明する。水素利用装置102が制御ユニット21に対して水素供給の要求を行うことにより、本フローチャートの実行が開始される。
【0076】
まず、ステップS50において、制御ユニット21は、リザーブタンク弁23及び供給弁19へ開信号を出力して、リザーブタンク弁23と供給弁19を開く。次いでステップS52で、制御ユニット21は、加熱冷却装置14へ加熱指示信号を出力する。加熱指示信号を受けた加熱冷却装置14は、熱媒体を加熱するとともに熱媒体を循環させて、容器11の内部に設置された熱交換器13を加熱する。熱交換器13は容器11及び容器内の水素貯蔵材料12を加熱し、その結果、水素貯蔵材料12の温度が上昇する。
【0077】
次いでステップS54で、制御ユニット21は、図6では図示されない温度センサにより容器11又は水素貯蔵材料12の温度を検出し、検出した温度が予め設定された目標温度以上となったか否かを判定する。この目標温度は、水素貯蔵材料12を構成する第1貯蔵材本体の水素放出温度に応じて設定されるものとする。
【0078】
ステップS54の判定で、温度が目標温度以上でなければ、ステップS52へ戻って加熱を続ける。ステップS54の判定で、温度が目標温度以上であれば、ステップS56へ進む。ステップS56では、制御ユニット21は、容器弁22へ開信号を出力して、容器弁22を開き、ステップS58へ進む。
【0079】
ステップS58では、制御ユニット21は、水素供給量が水素要求量にほぼ等しいか、ほぼ等しくなければいずれが大きいかを判定する。この判定のため、例えば、水素要求量−α、水素供給量、及び水素要求量+αの3者を比較する。ここでαは、水素要求量に対する水素供給量の許容誤差である。αの値の設定方法は、第1実施形態と同様である。
【0080】
ステップS58の判定において、水素要求量−αが水素供給量より多い場合には、水素供給量が不足しているとして、ステップS60へ進む。ステップS60では、制御ユニット21は、加熱冷却装置14へ加熱指示信号を出力する。加熱指示信号を受けた加熱冷却装置14は、熱媒体を加熱するとともに熱媒体を循環させて、容器11の内部に設置された熱交換器13を加熱する。熱交換器13は容器11内の水素貯蔵材料12を加熱し、その結果、水素貯蔵材料12の温度が上昇する。次いでステップS62で、制御ユニット21は、供給弁19の開度を増加させるとともに、リザーブタンク弁23の開度を減少させて、ステップS72へ移る。
【0081】
ステップS58の判定において、水素供給量から水素要求量を引算した値の絶対値がα以下の場合には、水素供給量がほぼ水素要求量に等しい(許容誤差以内)と判定して、ステップS64へ進む。ステップS64では、加熱冷却装置14の状態が加熱状態であれば加熱状態を維持し、冷却状態であれば冷却状態を維持してステップS66へ進む。ステップS66では、供給弁19、容器弁22及びリザーブタンク弁23のそれぞれの開度を維持して、ステップS72へ移る。
【0082】
ステップS58の判定において、水素要求量+αが水素供給量より少ない場合には、水素供給量が過多として、ステップS68へ進む。ステップS68では、制御ユニット21は、加熱冷却装置14へ冷却指示信号を出力する。冷却指示信号を受けた加熱冷却装置14は、熱媒体を冷却するとともに熱媒体を循環させて、容器11の内部に設置された熱交換器13を冷却する。熱交換器13は容器11内の水素貯蔵材料12を冷却し、その結果、水素貯蔵材料12の温度が低下する。次いでステップS70で、制御ユニット21は、供給弁19の開度を減少させるとともに、容器弁22の開度を減少させて、ステップS72へ移る。
【0083】
ステップS72では、制御ユニット21は、水素利用装置102から水素供給の要求が継続しているか否かを判定する。水素供給の要求が継続していれば、ステップS58へ戻って水素供給の継続を行う。水素供給の要求が継続していなければ、ステップS74へ進み、制御ユニット21は、供給弁19を閉じて、水素供給を停止する。次いでステップS76で、制御ユニット21は、加熱冷却装置14に対して、冷却指示信号を送り、冷却指示信号を受けた加熱冷却装置14は、冷却動作を行って、容器11及び水素貯蔵材料12を冷却する。この冷却動作は、温度センサにより検出された温度が所定温度まで低下したときに停止される。次いでステップS78で、制御ユニット21は、容器弁22及びリザーブタンク弁23を閉じて、水素供給システムの動作が停止する。
【0084】
上記第3実施形態の水素供給システムによれば、第1貯蔵材本体の水素平衡圧より低い第2貯蔵材本体の水素平衡圧を基準として、水素貯蔵材料を収容する容器の耐圧を決定できる。そのため、水素供給システムを構成する構成要素の耐圧をむやみに高くすることなく、重量当たりの水素発生量が多い水素化アルミニウム等の金属水素化物から水素を供給する水素供給システムを容易に構築することができる。
【0085】
また上記第3実施形態の水素供給システムによれば、水素利用装置へ水素を供給する供給弁に加えて、容器弁とリザーブタンク弁を備え、水素要求量と水素供給量との誤差に応じてこれらの弁の開度を調節している。そのため、高精度かつ応答性の高い水素供給を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】図1中の(a)は比較例の水素貯蔵材料の模式断面図であり、(b)は実施例1の水素貯蔵材料の模式断面図であり、(c)は実施例2の水素貯蔵材料の模式断面図である。
【図2】図2は、水素平衡圧を説明するための図である。
【図3】図3は、比較例、実施例1及び実施例2の水素貯蔵材料に関し、周囲圧力が2MPa及び0MPaのときの水素放出量を示すグラフである。
【図4】図4中の(a)は実施例1の水素放出量の時間変化を示す図であり、(b)は比較例の水素放出量の時間変化を示す図である。
【図5】図5は、周囲圧力が0MPa、1MPa及び2MPaで120分間水素放出した後に、周囲圧力を0MPaまで低下させた場合の水素放出量の時間変化を示すグラフである。
【図6】図6は、第1実施形態の水素供給システムの構成を説明するシステム構成図である。
【図7】図7は、第1実施形態の水素供給システムにおける水素供給制御を説明するフローチャートである。
【図8】図8は、第2実施形態の水素供給システムにおける水素供給制御を説明するフローチャートである。
【図9】図9は、第3実施形態の水素供給システムの構成を説明するシステム構成図である。
【図10】図10は、第3実施形態の水素供給システムにおける水素供給制御を説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0087】
1 第1貯蔵材本体
2 第2貯蔵材本体
11 容器
12 水素貯蔵材料
14 加熱冷却装置
15 熱媒体供給管
18 リザーブタンク
19 供給弁
20 供給管
21 制御ユニット
22 容器弁
23 リザーブタンク弁
101 水素供給システム
102 水素利用装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素を貯蔵する第1貯蔵材本体と、
水素を貯蔵し、かつ、前記第1貯蔵材本体の表面を被覆する第2貯蔵材本体と、
を備え、
前記第1貯蔵材本体の水素発生温度における、前記第2貯蔵材本体の水素平衡圧が、前記第1貯蔵材本体の水素平衡圧より低いことを特徴とする水素貯蔵材料。
【請求項2】
前記第1貯蔵材本体は、第1金属水素化物、炭素系材料、ゼオライト及び有機金属錯体からなる群から選ばれる少なくとも一つを含有することを特徴とする請求項1に記載の水素貯蔵材料。
【請求項3】
前記第2貯蔵材本体は、第2金属水素化物、炭素系材料、ゼオライト及び有機金属錯体からなる群から選ばれる少なくとも一つを含有することを特徴とする請求項1に記載の水素貯蔵材料。
【請求項4】
前記第2貯蔵材本体は第2金属水素化物であり、前記第1貯蔵材本体の表面は前記第2金属水素化物により完全に被覆されていることを特徴とする請求項2又は3に記載の水素貯蔵材料。
【請求項5】
前記第1貯蔵材本体は第1金属水素化物であり、前記第2貯蔵材本体は第2金属水素化物であり、
前記第1金属水素化物と第2金属水素化物との間に、前記第1貯蔵材本体の成分と第2貯蔵材本体の成分が混合した組成を有する領域が存在していることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の水素貯蔵材料。
【請求項6】
前記第1金属水素化物は、水素化アルミニウム、マグネシウムを含有する水素吸蔵合金及びチタンを含有する水素吸蔵合金からなる群から選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする請求項2、4又は5に記載の水素貯蔵材料。
【請求項7】
前記第2金属水素化物は、非極性有機溶媒に溶解するものであることを特徴とする請求項3乃至5のいずれか一項に記載の水素貯蔵材料。
【請求項8】
前記第2金属水素化物は、アルミニウムとアルカリ金属との水素化物、アルミニウムとアルカリ土類金属との水素化物、ホウ素とアルカリ金属との水素化物及びホウ素とアルカリ土類金属との水素化物からなる群から選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする請求項3、4、5又は7に記載の水素貯蔵材料。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の水素貯蔵材料の製造方法において、
前記第2金属水素化物を非極性有機溶媒に溶解させた溶液を作成する工程と、
前記第1金属水素化物の表面に前記溶液を塗布又は含浸させる工程と、
前記第1金属水素化物から前記溶媒を蒸発させる工程と、
を有することを特徴とする水素貯蔵材料の製造方法。
【請求項10】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の水素貯蔵材料から外部へ水素を供給する水素供給システムにおいて、
前記水素貯蔵材料を収容する容器と、
前記容器内の水素貯蔵材料を加熱及び冷却する加熱冷却装置と、
前記容器に接続され、前記容器内で発生した水素を外部へ供給する供給管と、
前記供給管上に設けられ、前記供給管内を流通する水素の流量を調節する供給弁と、
前記容器と前記供給弁との間に接続され、前記水素を一時的に貯留するリザーブタンクと、
を備えることを特徴とする水素供給システム。
【請求項11】
前記容器の近傍に設けられ、前記容器の出口を開閉する容器弁と、
前記リザーブタンクと供給管との間に設けられ、前記リザーブタンクの出入口を開閉するリザーブタンク弁と、
をさらに備えることを特徴とする請求項10に記載の水素供給システム。
【請求項12】
水素要求量と水素供給量に基づいて、前記供給弁、容器弁若しくはリザーブタンク弁の開度、又は前記加熱冷却装置による加熱及び冷却を制御する制御装置をさらに備えることを特徴とする請求項11に記載の水素供給システム。
【請求項13】
請求項10乃至12のいずれか一項に記載の水素供給システムから供給される水素を燃料とする燃料電池。
【請求項14】
請求項10乃至12のいずれか一項に記載の水素供給システムから供給される水素を燃料とする内燃機関。
【請求項15】
請求項13に記載の燃料電池又は請求項14に記載の内燃機関を備えた車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−161424(P2009−161424A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−265453(P2008−265453)
【出願日】平成20年10月14日(2008.10.14)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】