水素貯蔵材料及びその製造方法並びに水素貯蔵タンク
【課題】水素放出温度が低く、且つ、繰り返しの水素放出・吸蔵に対する劣化耐性に優れている水素貯蔵材料及び水素貯蔵タンクを提供する。
【解決手段】水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素カリウム及び水素化ホウ素マグネシウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属水素化ホウ素化物を30〜85mol%と、塩化マグネシウム、塩化アルミニウム、塩化ニッケル、塩化亜鉛、塩化鉄、塩化コバルト、塩化すず及び塩化パラジウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属塩化物を10〜50mol%と、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム及び水酸化アルミニウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属水酸化物を1〜50mol%とを、混合し反応させて得られる水素貯蔵材料。
【解決手段】水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素カリウム及び水素化ホウ素マグネシウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属水素化ホウ素化物を30〜85mol%と、塩化マグネシウム、塩化アルミニウム、塩化ニッケル、塩化亜鉛、塩化鉄、塩化コバルト、塩化すず及び塩化パラジウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属塩化物を10〜50mol%と、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム及び水酸化アルミニウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属水酸化物を1〜50mol%とを、混合し反応させて得られる水素貯蔵材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池等のエネルギー源として使用される水素のための水素貯蔵材料及びその製造方法並びに水素貯蔵タンクに関する。
【背景技術】
【0002】
水素は燃料電池自動車向けのエネルギー源等として期待されている。水素をエネルギー源として使用するために、水素を効率的で安全に貯蔵・輸送することが求められている。このような水素を貯蔵する材料(水素貯蔵材料)として、水素化ホウ素リチウムや、水素化ホウ素ナトリウム等の金属水素化ホウ素化物が注目されている。
【0003】
しかしながら、金属水素化ホウ素化物は、水素を放出するために加熱が必要であり、この水素放出温度が高いことが問題である。
【0004】
また、水素貯蔵材料を繰り返し使用するために、水素の放出及び吸蔵(充填)を繰り返してもこの水素放出量や、水素吸蔵量の減少が抑制されること、すなわち、繰り返しの水素放出・吸蔵に対する劣化耐性に優れていることも求められる。
【0005】
ここで、金属水素化ホウ素化物の特性を向上するために、FeCl2,CoCl2,NiCl2等の金属塩化物を含有させる技術や(特許文献1及び非特許文献1参照)、金属水酸化物や、触媒としての遷移金属塩等を含有させる等様々な研究がなされているが(特許文献2及び特許文献3参照)、水素放出温度の低温化と繰り返しの水素放出・吸蔵に対する劣化耐性の向上とを両立することはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−117989号公報
【特許文献2】特表2007−525401号公報
【特許文献3】特開2010−138062号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】K. G. MYAKISHEV and V. V. VOLKOV, Chemistry for Sustainable Development 14 (2006) 375-378.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、上述の従来技術の問題点を解決することにあり、水素放出温度が低く、且つ、繰り返しの水素放出・吸蔵に対する劣化耐性に優れている水素貯蔵材料及び水素貯蔵タンクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明の水素貯蔵材料は、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素カリウム及び水素化ホウ素マグネシウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属水素化ホウ素化物を30〜85mol%と、塩化マグネシウム、塩化アルミニウム、塩化ニッケル、塩化亜鉛、塩化鉄、塩化コバルト、塩化すず及び塩化パラジウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属塩化物を10〜50mol%と、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム及び水酸化アルミニウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属水酸化物を1〜50mol%とを、混合し反応させて得られることを特徴とする。
【0010】
本発明の水素貯蔵材料の製造方法は、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素カリウム及び水素化ホウ素マグネシウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属水素化ホウ素化物を30〜85mol%と、塩化マグネシウム、塩化アルミニウム、塩化ニッケル、塩化亜鉛、塩化鉄、塩化コバルト、塩化すず及び塩化パラジウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属塩化物を10〜50mol%と、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム及び水酸化アルミニウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属水酸化物を1〜50mol%とを、混合し反応させる工程を有することを特徴とする。
【0011】
また、本発明の水素貯蔵タンクは、上記水素貯蔵材料が充填されていることを特徴とする。
【0012】
上記水素貯蔵タンクは、水素貯蔵材料が水素充填時または水素放出時に外部に漏えいすることを防ぐために、直径0.001〜100μmの細孔を有するセパレータと水素透過シートを有することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、水素放出温度が低く、且つ、繰り返しの水素放出・吸蔵に対する劣化耐性に優れている水素貯蔵材料を提供することができる。そして、この水素貯蔵材料を充填した水素貯蔵タンクによって供給される水素をエネルギー源として燃料電池に用いれば、高温に加熱することなく低温で水素を発生することができ、また、繰り返しの水素放出・吸蔵に対する劣化耐性に優れているため、長期間繰り返して使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】水素貯蔵タンクの一例を示す概略断面図である。
【図2】実施例1のTG測定結果を示す図である。
【図3】実施例1のQMS測定結果を示す図である。
【図4】実施例1のX線回折パターンを示す図である。
【図5】実施例1の水素吸蔵量と水素圧力の関係を示す図である。
【図6】実施例2のTG測定結果を示す図である。
【図7】実施例2のQMS測定結果を示す図である。
【図8】実施例3のTG測定結果を示す図である。
【図9】実施例3のQMS測定結果を示す図である。
【図10】実施例3のX線回折パターンを示す図である。
【図11】実施例4のTG測定結果を示す図である。
【図12】実施例4のQMS測定結果を示す図である。
【図13】実施例4のX線回折パターンを示す図である。
【図14】実施例5のTG測定結果を示す図である。
【図15】実施例5のQMS測定結果を示す図である。
【図16】実施例5のX線回折パターンを示す図である。
【図17】実施例6のTG測定結果を示す図である。
【図18】実施例6のQMS測定結果を示す図である。
【図19】比較例1のTG測定結果を示す図である。
【図20】比較例1のQMS測定結果を示す図である。
【図21】比較例1のX線回折パターンを示す図である。
【図22】比較例1の水素吸蔵量と水素圧力の関係を示す図である。
【図23】比較例2のTG測定結果を示す図である。
【図24】比較例2のQMS測定結果を示す図である。
【図25】比較例3のTG測定結果を示す図である。
【図26】比較例3のQMS測定結果を示す図である。
【図27】比較例4のTG測定結果を示す図である。
【図28】比較例4のQMS測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の水素貯蔵材料は、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素カリウム及び水素化ホウ素マグネシウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属水素化ホウ素化物を30〜85mol%、好ましくは40〜70mol%と、塩化マグネシウム、塩化アルミニウム、塩化ニッケル、塩化亜鉛、塩化鉄、塩化コバルト、塩化すず及び塩化パラジウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属塩化物を10〜50mol%、好ましくは20〜35mol%と、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム及び水酸化アルミニウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属水酸化物を1〜50mol%、好ましくは12〜40mol%とを原料とする。そして、これらの原料を混合し反応させ、必要に応じて金属ホウ素化水素化物の陽イオンの塩化物等の副生成物を除去して得られたものが、本発明の水素貯蔵材料である。
【0016】
これらの原料を混合し反応させる方法は特に限定されないが、例えば、上記原料を混合し機械的エネルギーを与えて化学反応を生じさせるメカノケミカル処理や、上記原料をそれぞれ溶媒に溶解させた溶液を混合して反応させる溶液プロセスが挙げられる。メカノケミカル処理を行うための装置としては、メカノケミカル反応が進行するのに十分な機械的エネルギーを加えることができる装置であれば特に制限されるものではないが、例えば、遊星型ボールミル、ボールミル、ジェットミル、アトライターミル、ロッドミル、ロールミル、クラッシャーミル等が挙げられる。例えば、80mlのジルコニア製ボールミル容器及びジルコニア製φ10mmのボール30個を使用し、容器内を不活性ガス雰囲気下にして、遊星ボールミル装置等で4時間以上混合すればよい。
【0017】
また、上記原料を混合し反応させて得られたものであればよく、例えば、上記金属水素化ホウ素化物と上記金属塩化物と上記金属水酸化物とを同時に混合して反応させて得られたものでもよく、また、上記金属水素化ホウ素化物と上記金属塩化物とを混合して反応させた後に上記金属水酸化物を混合して得られたものでもよい。
【0018】
金属ホウ素化水素化物の陽イオンの塩化物等の副生成物、具体的には、LiCl、NaCl、KCl又はMgCl2等を除去する方法は特に限定されず、例えば、上記原料を混合し反応させたものを、ジエチルエーテルやテトラヒドロフラン等の有機溶媒に溶かす方法により、副生成物を除去することができる。
【0019】
このような本発明の水素貯蔵材料は、後述する実施例に示すように、低い温度、例えば、300℃以下、さらには、200℃以下の温度で水素を放出することができる。したがって、低温で燃料電池等の水素発生源として使用することができるため、利便性の高い材料となる。
【0020】
また、本発明の水素貯蔵材料は、水素を放出した後に、加圧あるいは高温下、加圧した水素にさらすことにより、水素を多量に吸蔵させることができるため、水素の放出及び吸蔵(充填)を繰り返してもこの水素放出量や、水素吸蔵量の減少が抑制できる、すなわち、繰り返しの水素放出・吸蔵に対する劣化耐性に優れている。水素化ホウ素ナトリウムと、塩化ニッケルと、水酸化ナトリウムを原料とした系を例に、下記に説明する。
【0021】
まず、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)と、塩化ニッケル(NiCl2)と、水酸化ナトリウム(NaOH)を混合しメカノケミカル処理等することにより、水素化ホウ素ナトリウムと塩化ニッケルを反応させる。これらの原料が反応したことは、塩化ナトリウムが生成することで確認することができる。なお、このように混合しメカノケミカル処理等して反応させることにより、本発明の水素貯蔵材料は、少なくとも、水素化ホウ素マグネシウム、水素化ホウ素アルミニウム、水素化ホウ素ニッケル、水素化ホウ素亜鉛、水素化ホウ素鉄、水素化ホウ素コバルト、水素化ホウ素すず及び水素化ホウ素パラジウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属水素化ホウ素物と、塩化ナトリウム、塩化リチウム、塩化カリウム及び塩化マグネシウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属塩化物とを含有していると推測される。
【0022】
そして、この水素貯蔵材料を加熱すると、ホウ化ニッケル(NiB4)等が生成すると共に水素が発生する。この加熱時にホウ化水素ガス(BxHy、xは1〜15の整数、yは1以上の整数)も発生すると、このホウ化水素ガスは水素貯蔵材料系外へ放出されてしまうため、後段で水素貯蔵材料を加圧した水素にさらして水素を吸蔵させる操作を行っても、加熱前よりも水素貯蔵材料の量が減少してしまう。したがって、ホウ化水素ガスが発生した分、水素吸蔵量が減少してしまい、そして、その後の加熱による水素放出量も減少してしまう。しかしながら、水素化ホウ素ナトリウムと、塩化ニッケル及び水酸化ナトリウム等の、所定量の金属水素化ホウ素化物、金属塩化物及び金属水酸化物を原料とし、混合しメカノケミカル処理等した本発明の水素貯蔵材料とすると、加熱時に発生したホウ化水素ガスと金属水酸化物とが反応して酸化ホウ素や水酸化ホウ素等のホウ素化物になるためか、ホウ化水素ガスとしての系外への放出を抑制することができる。また、水素化ホウ素ナトリウム等の金属水素化ホウ素化物と塩化ニッケル等の金属塩化物との反応生成物は、室温や反応温度でも不安定でホウ化水素ガスを放出して分解しやすいが、水酸化ナトリウム等の金属水酸化物の添加によって自己分解温度を高めて安定化されるためか、ホウ化水素ガスとしての系外への放出を抑制することができる。このようにホウ化水素ガスとしての系外への放出を抑制することができるため、繰り返しの水素放出・吸蔵に対する劣化耐性に優れ、長期間繰り返して使用することができる。また、特殊な設備や追加の材料を必要とせずに低温で水素に暴露することにより直接再生可能なので、コストや環境への負荷を低減することができる。
【0023】
ここで、水素放出温度が低く且つ繰り返しの水素放出・吸蔵に対する劣化耐性に優れるという効果を発揮するためには、上記金属水素化ホウ素化物と上記金属塩化物と上記金属水酸化物という3成分を原料とする必要がある。例えば、金属水素化ホウ素化物と金属水酸化物のみを原料とするものや、金属水素化ホウ素化物と金属塩化物のみを原料とするものでは、水素放出温度が低く且つ繰り返しの水素放出・貯蔵に対する劣化耐性に優れているという効果は得られない。
【0024】
そして、本発明の水素貯蔵材料において、水素放出温度が低く且つ繰り返しの水素放出・吸蔵に対する劣化耐性に優れるという効果を発揮するためには、金属水素化ホウ素化物と金属塩化物と金属水酸化物を混合しメカノケミカル処理等により反応させて、金属水酸化ホウ素化物の金属を、金属塩化物の金属に交換する必要があるため、金属塩化物は特許文献2や特許文献3のように触媒として添加するのではなく、当然触媒量よりも多量に添加する必要がある。具体的には、金属塩化物は10〜50mol%添加する必要がある。
【0025】
また、本発明の水素貯蔵材料においては、金属水素化ホウ素化物は30〜85mol%添加する必要がある。85mol%を超えると水素放出温度が低くならず、30mol%未満では反応後の水素貯蔵材料の量が少なくなり、収率が悪くなるためである。
【0026】
なお、金属水素化ホウ素化物と金属塩化物とを完全に反応させるためには、金属塩化物の価数を考慮して、金属水素化ホウ素化物と金属塩化物との混合比を調整すればよい。つまり、金属水素化ホウ素化物の陽イオンの価数がn価(n=1または2)で金属塩化物の陽イオンの価数がm価(m=2、3、4のいずれか)の場合、金属水素化ホウ素化物1モルに対して金属塩化物n/mモルが反応すると、目的とする水素貯蔵材料と原料である金属塩化物よりも安定な塩(塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウムのうちの少なくとも一種)が形成される。ちなみに、金属水素化ホウ素化物1モルに対してn/mモル以上の金属塩化物が混合されていても、過剰量の金属塩化物はこの反応には寄与しない。また、金属水素化ホウ素化物1モルに対して金属塩化物がn/mモル未満の場合は、金属塩化物はすべて反応してより安定な塩(塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウムのうちの少なくとも一種)を形成するが、過剰量の金属水素化ホウ素化物の陽イオンと金属塩化物の陽イオンが混合した状態でBH4−イオンと結合する複塩(2種類の陽イオンを含む)が得られ、水素放出温度をより低下させることができる。
【0027】
そして、金属水酸化物は、1〜50mol%添加する必要がある。50mol%を超えると水素吸蔵量が少なくなる傾向があるためである。
【0028】
すなわち、水素放出温度が低く且つ繰り返しの水素放出・吸蔵に対する劣化耐性に優れるという本発明の効果を発揮するためには、30〜85mol%の金属水素化ホウ素化物と、10〜50mol%の金属塩化物と、1〜50mol%の金属水酸化物を添加する必要がある。
【0029】
また、本発明の水素貯蔵材料は、上記水素放出温度が低く且つ繰り返しの水素放出・吸蔵に対する劣化耐性に優れるという効果に加えて、加熱により放出される水素量(水素放出量)や、加圧あるいは高温下、加圧した水素にさらすことにより吸蔵される水素量(水素吸蔵量)を多量にすることができるという効果もある。具体的には、水素化ホウ素ナトリウムと塩化ニッケルと水酸化ナトリウムを原料とし、混合してメカノケミカル処理等して反応させた水素貯蔵材料は、後述する実施例に示すように、加熱により放出される水素量が多量であり、また、加圧あるいは高温下、加圧した水素にさらすことにより吸蔵される水素量が多量である。そして、この水素化ホウ素ナトリウムと、塩化ニッケルと、水酸化ナトリウムを原料とし、混合してメカノケミカル処理等して反応させた水素貯蔵材料は、例えば10MPa程度の比較的低い圧力の水素にさらしても、水素を多量に吸蔵することができる。
【0030】
本発明の水素貯蔵材料の原料である金属水素化ホウ素化物と、金属塩化物と、金属水酸化物の組み合わせは特に限定されないが、例えば、水素化ホウ素ナトリウムと塩化ニッケルと水酸化ナトリウムの組み合わせ、水素化ホウ素ナトリウムと塩化マグネシウムと水酸化ナトリウムの組み合わせ、水素化ホウ素ナトリウムと塩化アルミニウムと水酸化ナトリウムの組み合わせ、水素化ホウ素ナトリウムと塩化ニッケルと水酸化マグネシウムの組み合わせ、水素化ホウ素ナトリウムと塩化ニッケルと水酸化アルミニウムの組み合わせ等が挙げられる。勿論、金属水素化ホウ素化物、金属塩化物や、金属水酸化物として、複数種用いても構わない。但し、水素化ホウ素マグネシウムと塩化マグネシウムとの組み合わせでは、反応させても金属種が変わらないため、この組み合わせにすることはできない。
【0031】
なお、金属水素化ホウ素化物として、上記した以外にも、第1族元素(アルカリ金属)、第2族元素(アルカリ土類金属)や、第3族元素の水素化ホウ素化物等も用いることが可能であるが、例えば、RbBH4やCsBH4は非常に高価であるにも関わらず生成されるRbClやCsClは不純物として除去する必要があるという問題があるため、安価に入手できるLi、Na、K及びMgのいずれか1つ以上の水素化ホウ素化物が好ましく用いられる。また、Alの水素化ホウ素化物は室温で液体であり不安定であるため好ましくない。
【0032】
また、金属水酸化物として、上記したもの以外にも、安定なホウ素化物を形成できる金属元素からなる水酸化物であって、ホウ化水素ガス(BxHy、xは1〜15の整数、yは1以上の整数)を捕捉できるものであれば、用いることができる。但し、金属水酸化物の原子量が大きくなると水素貯蔵量が小さくなるので、原子量の小さな金属元素であることが好ましい。
【0033】
本発明の水素貯蔵タンクは、上記本発明の水素貯蔵材料を容器に充填したものである。本発明の水素貯蔵タンクの一例を示す概略断面図である図1に示すように、水素貯蔵タンク1は、容器2に水素貯蔵材料3が充填されている。そして、容器2内には、直径0.001〜100μmの細孔を有するセパレータと水素透過シートの積層体からなる部材4が、水素貯蔵材料3と、水素貯蔵材料3から放出された水素を容器2外へ放出または水素貯蔵材料3に吸蔵させる水素を容器2外から充填する放出・充填口5との間に設けられており、これにより、水素貯蔵材料3が水素充填時または水素放出時に容器2の外に漏えいすることを防ぐことができ、且つ、水素は透過できる構造となっている。
【0034】
容器2の材質に限定はなく、軽量で機械的に強いものでよいが、例えば、アルミ合金やチタン合金等が挙げられる。
【0035】
また、セパレータは直径0.001〜100μmの細孔を有し水素貯蔵材料3の容器2から漏えいを防ぎ、水素劣化しにくいものであればその材質等に限定はないが、例えば、アルミ合金やチタン合金等が挙げられる。水素透過シートは、発生または充填する水素を透過することができるものであればその材質等に限定はないが、例えば、ニオブ系やパラジウム系の合金等が挙げられる。なお、図1においては、セパレータと水素透過シートの積層体を用いたが、この構造に限定されず、例えば、セパレータのみを用いてもよい。また、水素貯蔵材料3が容器2から漏えいしなければ、このセパレータや水素透過シートは用いなくてもよい。
【0036】
このような水素貯蔵タンク1では、所定温度に加熱することにより水素貯蔵材料3から水素が発生して放出・充填口5から水素が排出され、放出・充填口5に接続された燃料電池等へ水素が供給される。また、水素貯蔵材料3を再生する時は、排出・充填口5から容器2内に所定圧力の水素を導入し、水素貯蔵材料3に水素を吸蔵させる。
【実施例】
【0037】
以下に、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0038】
(実施例1)
[水素貯蔵材料の作製]
室温(15℃)にて、0.040モルの水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)と0.020モルの塩化ニッケル(II)(NiCl2)に0.040モルの水酸化ナトリウム(NaOH)を混合し、遊星回転ボールミル装置(伊藤製作所社製、LP−1)を用いて、ジルコニア製ボールミル容器80ml、ジルコニア製φ10mmのボールを30個使用し、容器内をAr雰囲気下にして回転数350rpmで5時間メカノケミカル処理し、水素貯蔵材料を得た。
【0039】
[TG/QMS測定]
作製した水素貯蔵材料をアルミセルに充填し、四重極型質量分析計(QMS)(ULVAC社製、Qulee)を連結させた熱重量測定(TG)測定装置(ULVAC理工社製、TGD−9000)の試料室にセットした。そして、昇温速度0.5℃/minで20℃から600℃まで加熱して、重量減少と全圧及び各質量数(マスナンバー)の分圧を同時測定した。なお、試料室は1.0×10−3Paに真空排気して測定した。TG測定結果を図2に、QMS測定結果を図3に示す。M/z=2はH2、M/z=24はB2H2、M/z=26はB2H4である。
【0040】
この結果、図2のTG測定結果と図3のQMS測定結果に示すように、190℃、370℃及び450℃で水素を放出しており、水素放出温度(水素を放出した一番低いピーク温度)は200℃以下と低かった。また、比較例1において観察される100℃〜250℃付近のB2H2やB2H4等の水素化ホウ素に由来するピークが観察されなかった。したがって、繰り返しの水素放出・吸蔵に対する劣化耐性が高いと言える。
【0041】
[XRD測定]
作製した水素貯蔵材料について、Bruker axs社製X線回折装置で、X線源にCu線を使用し25℃で粉末X線回折パターンを求めた。結果を図4に示す。
【0042】
この結果、図4に示すように、NaClに由来するピークが観察され、メカノケミカル反応が進行したと考えられる。
【0043】
[水素貯蔵量の測定]
作製した水素貯蔵材料を水素にさらして、水素圧力を0.1MPa、1MPa、3MPa、5MPa、7MPa、5MPa、3MPa、1MPa、0.1MPaに順に変化させた時の、水素貯蔵材料の質量を測定した。この測定を、100℃、150℃、200℃及び250℃の各温度で行った。測定された質量から水素にさらす前の水素貯蔵材料の質量を引いた値を、原料とした水素化ホウ素ナトリウムの質量及び水酸化ナトリウムの質量の合計で割った値を水素吸蔵量(wt%)として、図5に示す。各水素圧力において、水素吸蔵量が多い方が水素圧力を上昇させた時の結果であり、水素吸蔵量が少ないものが水素圧力を下降させた時の結果である。なお、塩化ナトリウムは、水素を吸蔵・放出しないとして計算しているため、水素化ホウ素ナトリウムと水酸化ナトリウムの質量のみで割っている。
【0044】
この結果、図5の水素圧力−水素吸蔵量のグラフに示すように、水素圧力が高くなるほど水素吸蔵量は多くなり、例えば7MPa下、100℃では2.6質量%以上であり、水素吸蔵量が多かった。
【0045】
ここで、一般的に、水素圧力を高くしていくと、水素が水素貯蔵材料の表面に吸着するためか水素吸蔵量が上昇していき、その後水素化するため水素吸蔵量がほぼ一定値になった後、再び水素吸蔵量が増加するという挙動を示す。図5を見ると、7MPaまで上昇し続けているため、水素圧力を7MPaよりも上げると水素吸蔵量がさらに上昇することが強く示唆されており、本発明の水素貯蔵材料の水素吸蔵量は非常に多いといえる。
【0046】
また、通常水素貯蔵材料に水素を吸蔵させる際の水素圧力は例えば35MPa以上の高圧で行なうが、本発明の水素貯蔵材料においては、7MPaでも例えば2.6質量%の水素吸蔵量とすることができるため、通常よりも低い水素圧力で、水素を吸蔵させることができる。
【0047】
(実施例2)
塩化ニッケルのかわりに塩化マグネシウム(MgCl2)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。TG測定結果を図6に、QMS測定結果を図7に示す。
【0048】
この結果、図6のTG測定結果と図7のQMS測定結果に示すように、300℃、320℃及び500℃で水素を放出しており、水素放出温度は300℃以下となった。また、比較例2において観察される60℃〜340℃付近のB2H2やB2H4等の水素化ホウ素に由来するピークが観察されなかった。したがって、繰り返しの水素放出・吸蔵に対する劣化耐性が高いと言える。
【0049】
また、X線回折パターンにおいて、NaClに由来するピークが観察され、メカノケミカル反応が進行したと考えられる。
【0050】
(実施例3)
水酸化ナトリウムのかわりに水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。TG測定結果を図8に、QMS測定結果を図9に、XRD測定結果(粉末X線回折パターン)を図10に示す。
【0051】
この結果、図8のTG測定結果と図9のQMS測定結果に示すように、120℃及び240℃で水素を放出しており、水素放出温度は120℃以下と低かった。また、比較例1において観察される100℃〜250℃付近のB2H2やB2H4等の水素化ホウ素に由来するピークは、観察されたが小さかった。したがって、繰り返しの水素放出・吸蔵に対する劣化耐性が高いと言える。
【0052】
また、図10のX線回折パターンに示すように、NaClに由来するピークが観察され、メカノケミカル反応が進行したと考えられる。
【0053】
(実施例4)
水酸化ナトリウムのかわりに水酸化アルミニウム(Al(OH)3)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。TG測定結果を図11に、QMS測定結果を図12に、XRD測定結果(粉末X線回折パターン)を図13に示す。
【0054】
この結果、図11のTG測定結果と図12のQMS測定結果に示すように、180℃で水素を放出しており、水素放出温度(水素を放出した一番低いピーク温度)は200℃以下と低かった。また、比較例1において観察される100℃〜250℃付近のB2H2やB2H4等の水素化ホウ素に由来するピークは、観察されたが小さかった。したがって、繰り返しの水素放出・吸蔵に対する劣化耐性が高いと言える。
【0055】
また、図13のX線回折パターンに示すように、NaClに由来するピークが観察され、メカノケミカル反応が進行したと考えられる。
【0056】
(実施例5)
塩化ニッケルを0.020モル添加するかわりに、塩化マグネシウム0.013モル及び塩化ニッケル0.007モルを添加した以外は、実施例1と同様の操作を行った。TG測定結果を図14に、QMS測定結果を図15に、XRD測定結果(粉末X線回折パターン)を図16に示す。
【0057】
この結果、図14のTG測定結果と図15のQMS測定結果に示すように、145℃及び400℃で水素を放出しており、水素放出温度は150℃以下と低かった。また、比較例1及び2において観察される100℃〜250℃付近及び60℃〜340℃付近のB2H2やB2H4等の水素化ホウ素に由来するピークは、観察されたが小さかった。したがって、繰り返しの水素放出・吸蔵に対する劣化耐性が高いと言える。
【0058】
また、図16のX線回折パターンに示すように、NaClに由来するピークが観察され、メカノケミカル反応が進行したと考えられる。
【0059】
(実施例6)
水酸化ナトリウムを0.040モル添加するかわりに、水酸化ナトリウムを0.0006モル添加した以外は、実施例1と同様の操作を行った。TG測定結果を図17に、QMS測定結果を図18に示す。
【0060】
この結果、図17のTG測定結果と図18のQMS測定結果に示すように、140℃及び200℃で水素を放出しており、水素放出温度は200℃以下と低かった。また、比較例1において観察される100℃〜250℃付近のB2H2やB2H4等の水素化ホウ素に由来するピークは、観察されたが小さかった。したがって、繰り返しの水素放出・吸蔵に対する劣化耐性が高いと言える。
【0061】
また、X線回折パターンにおいて、NaClに由来するピークが観察され、メカノケミカル反応が進行したと考えられる。
【0062】
(比較例1)
水酸化ナトリウムを添加しなかった以外は、実施例1と同様の操作を行った。TG測定結果を図19に、QMS測定結果を図20に、XRD測定結果(粉末X線回折パターン)を図21に、また、水素貯蔵量の測定結果を図22に示す。水素貯蔵量の測定は水素圧力を実施例1と同様な変化をさせた時の、水素貯蔵材料の質量を測定したが、温度は100℃、120℃及び140℃で行った。
【0063】
この結果、図19のTG測定結果と図20のQMS測定結果に示すように、110℃で水素を放出しており、水素放出温度は低かった。しかし、100℃〜250℃付近にB2H2やB2H4等の水素化ホウ素に由来するピークが観察された。したがって、水素化ホウ素に由来するピークが観察されなかった実施例1と比較して、繰り返しの水素放出・吸蔵に対する劣化耐性が低いといえる。
【0064】
また、図21のX線回折パターンに示すように、NaClに由来するピークが観察され、メカノケミカル反応が進行したと考えられる。
【0065】
そして、図22の水素圧力−水素吸蔵量のグラフに示すように、水素圧力が高くなるほど水素吸蔵量は多くなったが、例えば温度100℃、水素圧力7MPaで水素吸蔵量0.7質量%程度であり、実施例1と比較して、水素吸蔵量が非常に低かった。
【0066】
(比較例2)
塩化ニッケルの代わりに塩化マグネシウムを添加し、水酸化ナトリウムを添加しなかった以外は、実施例1と同様の操作を行った。TG測定結果を図23に、QMS測定結果を図24に示す。
【0067】
この結果、図24のQMS測定結果に示すように、220℃及び340℃で水素を放出しており、水素放出温度は220℃であった。しかし、60℃〜340℃付近にB2H2やB2H4等の水素化ホウ素に由来するピークが観察された。したがって、水素化ホウ素に由来するピークが観察されなかった実施例2と比較して、比較例2は、繰り返しの水素放出・吸蔵に対する劣化耐性が低いと言える。
【0068】
(比較例3)
塩化ニッケルを添加しなかった以外は、実施例1と同様の操作を行った。TG測定結果を図25に、QMS測定結果を図26に示す。
【0069】
この結果、図25のTG測定結果と図26のQMS測定結果に示すように、310℃で水素を放出しており、水素放出温度は高かった。また、比較例1の図20で観察された100℃〜250℃付近のピークよりも低かったが、240℃〜340℃付近にB2H2やB2H4等の水素化ホウ素に由来するピークが観察された。
【0070】
(比較例4)
塩化ニッケル及び水酸化ナトリウムを添加しなかった以外は、実施例1と同様の操作を行った。TG測定結果を図27に、QMS測定結果を図28に示す。
【0071】
この結果、図27のTG測定結果と図28のQMS測定結果に示すように、500℃で水素を放出しており、水素放出温度は非常に高かった。また、200℃〜500℃付近にB2H2やB2H4等の水素化ホウ素に由来するピークが観察された。したがって、水素化ホウ素に由来するピークが観察されなかった実施例1と比較して、比較例4は、繰り返しの水素放出・吸蔵に対する劣化耐性が低いと言える。
【符号の説明】
【0072】
1 水素貯蔵タンク 2 容器
3 水素貯蔵材料 4 部材
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池等のエネルギー源として使用される水素のための水素貯蔵材料及びその製造方法並びに水素貯蔵タンクに関する。
【背景技術】
【0002】
水素は燃料電池自動車向けのエネルギー源等として期待されている。水素をエネルギー源として使用するために、水素を効率的で安全に貯蔵・輸送することが求められている。このような水素を貯蔵する材料(水素貯蔵材料)として、水素化ホウ素リチウムや、水素化ホウ素ナトリウム等の金属水素化ホウ素化物が注目されている。
【0003】
しかしながら、金属水素化ホウ素化物は、水素を放出するために加熱が必要であり、この水素放出温度が高いことが問題である。
【0004】
また、水素貯蔵材料を繰り返し使用するために、水素の放出及び吸蔵(充填)を繰り返してもこの水素放出量や、水素吸蔵量の減少が抑制されること、すなわち、繰り返しの水素放出・吸蔵に対する劣化耐性に優れていることも求められる。
【0005】
ここで、金属水素化ホウ素化物の特性を向上するために、FeCl2,CoCl2,NiCl2等の金属塩化物を含有させる技術や(特許文献1及び非特許文献1参照)、金属水酸化物や、触媒としての遷移金属塩等を含有させる等様々な研究がなされているが(特許文献2及び特許文献3参照)、水素放出温度の低温化と繰り返しの水素放出・吸蔵に対する劣化耐性の向上とを両立することはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−117989号公報
【特許文献2】特表2007−525401号公報
【特許文献3】特開2010−138062号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】K. G. MYAKISHEV and V. V. VOLKOV, Chemistry for Sustainable Development 14 (2006) 375-378.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、上述の従来技術の問題点を解決することにあり、水素放出温度が低く、且つ、繰り返しの水素放出・吸蔵に対する劣化耐性に優れている水素貯蔵材料及び水素貯蔵タンクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明の水素貯蔵材料は、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素カリウム及び水素化ホウ素マグネシウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属水素化ホウ素化物を30〜85mol%と、塩化マグネシウム、塩化アルミニウム、塩化ニッケル、塩化亜鉛、塩化鉄、塩化コバルト、塩化すず及び塩化パラジウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属塩化物を10〜50mol%と、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム及び水酸化アルミニウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属水酸化物を1〜50mol%とを、混合し反応させて得られることを特徴とする。
【0010】
本発明の水素貯蔵材料の製造方法は、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素カリウム及び水素化ホウ素マグネシウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属水素化ホウ素化物を30〜85mol%と、塩化マグネシウム、塩化アルミニウム、塩化ニッケル、塩化亜鉛、塩化鉄、塩化コバルト、塩化すず及び塩化パラジウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属塩化物を10〜50mol%と、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム及び水酸化アルミニウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属水酸化物を1〜50mol%とを、混合し反応させる工程を有することを特徴とする。
【0011】
また、本発明の水素貯蔵タンクは、上記水素貯蔵材料が充填されていることを特徴とする。
【0012】
上記水素貯蔵タンクは、水素貯蔵材料が水素充填時または水素放出時に外部に漏えいすることを防ぐために、直径0.001〜100μmの細孔を有するセパレータと水素透過シートを有することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、水素放出温度が低く、且つ、繰り返しの水素放出・吸蔵に対する劣化耐性に優れている水素貯蔵材料を提供することができる。そして、この水素貯蔵材料を充填した水素貯蔵タンクによって供給される水素をエネルギー源として燃料電池に用いれば、高温に加熱することなく低温で水素を発生することができ、また、繰り返しの水素放出・吸蔵に対する劣化耐性に優れているため、長期間繰り返して使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】水素貯蔵タンクの一例を示す概略断面図である。
【図2】実施例1のTG測定結果を示す図である。
【図3】実施例1のQMS測定結果を示す図である。
【図4】実施例1のX線回折パターンを示す図である。
【図5】実施例1の水素吸蔵量と水素圧力の関係を示す図である。
【図6】実施例2のTG測定結果を示す図である。
【図7】実施例2のQMS測定結果を示す図である。
【図8】実施例3のTG測定結果を示す図である。
【図9】実施例3のQMS測定結果を示す図である。
【図10】実施例3のX線回折パターンを示す図である。
【図11】実施例4のTG測定結果を示す図である。
【図12】実施例4のQMS測定結果を示す図である。
【図13】実施例4のX線回折パターンを示す図である。
【図14】実施例5のTG測定結果を示す図である。
【図15】実施例5のQMS測定結果を示す図である。
【図16】実施例5のX線回折パターンを示す図である。
【図17】実施例6のTG測定結果を示す図である。
【図18】実施例6のQMS測定結果を示す図である。
【図19】比較例1のTG測定結果を示す図である。
【図20】比較例1のQMS測定結果を示す図である。
【図21】比較例1のX線回折パターンを示す図である。
【図22】比較例1の水素吸蔵量と水素圧力の関係を示す図である。
【図23】比較例2のTG測定結果を示す図である。
【図24】比較例2のQMS測定結果を示す図である。
【図25】比較例3のTG測定結果を示す図である。
【図26】比較例3のQMS測定結果を示す図である。
【図27】比較例4のTG測定結果を示す図である。
【図28】比較例4のQMS測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の水素貯蔵材料は、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素カリウム及び水素化ホウ素マグネシウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属水素化ホウ素化物を30〜85mol%、好ましくは40〜70mol%と、塩化マグネシウム、塩化アルミニウム、塩化ニッケル、塩化亜鉛、塩化鉄、塩化コバルト、塩化すず及び塩化パラジウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属塩化物を10〜50mol%、好ましくは20〜35mol%と、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム及び水酸化アルミニウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属水酸化物を1〜50mol%、好ましくは12〜40mol%とを原料とする。そして、これらの原料を混合し反応させ、必要に応じて金属ホウ素化水素化物の陽イオンの塩化物等の副生成物を除去して得られたものが、本発明の水素貯蔵材料である。
【0016】
これらの原料を混合し反応させる方法は特に限定されないが、例えば、上記原料を混合し機械的エネルギーを与えて化学反応を生じさせるメカノケミカル処理や、上記原料をそれぞれ溶媒に溶解させた溶液を混合して反応させる溶液プロセスが挙げられる。メカノケミカル処理を行うための装置としては、メカノケミカル反応が進行するのに十分な機械的エネルギーを加えることができる装置であれば特に制限されるものではないが、例えば、遊星型ボールミル、ボールミル、ジェットミル、アトライターミル、ロッドミル、ロールミル、クラッシャーミル等が挙げられる。例えば、80mlのジルコニア製ボールミル容器及びジルコニア製φ10mmのボール30個を使用し、容器内を不活性ガス雰囲気下にして、遊星ボールミル装置等で4時間以上混合すればよい。
【0017】
また、上記原料を混合し反応させて得られたものであればよく、例えば、上記金属水素化ホウ素化物と上記金属塩化物と上記金属水酸化物とを同時に混合して反応させて得られたものでもよく、また、上記金属水素化ホウ素化物と上記金属塩化物とを混合して反応させた後に上記金属水酸化物を混合して得られたものでもよい。
【0018】
金属ホウ素化水素化物の陽イオンの塩化物等の副生成物、具体的には、LiCl、NaCl、KCl又はMgCl2等を除去する方法は特に限定されず、例えば、上記原料を混合し反応させたものを、ジエチルエーテルやテトラヒドロフラン等の有機溶媒に溶かす方法により、副生成物を除去することができる。
【0019】
このような本発明の水素貯蔵材料は、後述する実施例に示すように、低い温度、例えば、300℃以下、さらには、200℃以下の温度で水素を放出することができる。したがって、低温で燃料電池等の水素発生源として使用することができるため、利便性の高い材料となる。
【0020】
また、本発明の水素貯蔵材料は、水素を放出した後に、加圧あるいは高温下、加圧した水素にさらすことにより、水素を多量に吸蔵させることができるため、水素の放出及び吸蔵(充填)を繰り返してもこの水素放出量や、水素吸蔵量の減少が抑制できる、すなわち、繰り返しの水素放出・吸蔵に対する劣化耐性に優れている。水素化ホウ素ナトリウムと、塩化ニッケルと、水酸化ナトリウムを原料とした系を例に、下記に説明する。
【0021】
まず、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)と、塩化ニッケル(NiCl2)と、水酸化ナトリウム(NaOH)を混合しメカノケミカル処理等することにより、水素化ホウ素ナトリウムと塩化ニッケルを反応させる。これらの原料が反応したことは、塩化ナトリウムが生成することで確認することができる。なお、このように混合しメカノケミカル処理等して反応させることにより、本発明の水素貯蔵材料は、少なくとも、水素化ホウ素マグネシウム、水素化ホウ素アルミニウム、水素化ホウ素ニッケル、水素化ホウ素亜鉛、水素化ホウ素鉄、水素化ホウ素コバルト、水素化ホウ素すず及び水素化ホウ素パラジウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属水素化ホウ素物と、塩化ナトリウム、塩化リチウム、塩化カリウム及び塩化マグネシウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属塩化物とを含有していると推測される。
【0022】
そして、この水素貯蔵材料を加熱すると、ホウ化ニッケル(NiB4)等が生成すると共に水素が発生する。この加熱時にホウ化水素ガス(BxHy、xは1〜15の整数、yは1以上の整数)も発生すると、このホウ化水素ガスは水素貯蔵材料系外へ放出されてしまうため、後段で水素貯蔵材料を加圧した水素にさらして水素を吸蔵させる操作を行っても、加熱前よりも水素貯蔵材料の量が減少してしまう。したがって、ホウ化水素ガスが発生した分、水素吸蔵量が減少してしまい、そして、その後の加熱による水素放出量も減少してしまう。しかしながら、水素化ホウ素ナトリウムと、塩化ニッケル及び水酸化ナトリウム等の、所定量の金属水素化ホウ素化物、金属塩化物及び金属水酸化物を原料とし、混合しメカノケミカル処理等した本発明の水素貯蔵材料とすると、加熱時に発生したホウ化水素ガスと金属水酸化物とが反応して酸化ホウ素や水酸化ホウ素等のホウ素化物になるためか、ホウ化水素ガスとしての系外への放出を抑制することができる。また、水素化ホウ素ナトリウム等の金属水素化ホウ素化物と塩化ニッケル等の金属塩化物との反応生成物は、室温や反応温度でも不安定でホウ化水素ガスを放出して分解しやすいが、水酸化ナトリウム等の金属水酸化物の添加によって自己分解温度を高めて安定化されるためか、ホウ化水素ガスとしての系外への放出を抑制することができる。このようにホウ化水素ガスとしての系外への放出を抑制することができるため、繰り返しの水素放出・吸蔵に対する劣化耐性に優れ、長期間繰り返して使用することができる。また、特殊な設備や追加の材料を必要とせずに低温で水素に暴露することにより直接再生可能なので、コストや環境への負荷を低減することができる。
【0023】
ここで、水素放出温度が低く且つ繰り返しの水素放出・吸蔵に対する劣化耐性に優れるという効果を発揮するためには、上記金属水素化ホウ素化物と上記金属塩化物と上記金属水酸化物という3成分を原料とする必要がある。例えば、金属水素化ホウ素化物と金属水酸化物のみを原料とするものや、金属水素化ホウ素化物と金属塩化物のみを原料とするものでは、水素放出温度が低く且つ繰り返しの水素放出・貯蔵に対する劣化耐性に優れているという効果は得られない。
【0024】
そして、本発明の水素貯蔵材料において、水素放出温度が低く且つ繰り返しの水素放出・吸蔵に対する劣化耐性に優れるという効果を発揮するためには、金属水素化ホウ素化物と金属塩化物と金属水酸化物を混合しメカノケミカル処理等により反応させて、金属水酸化ホウ素化物の金属を、金属塩化物の金属に交換する必要があるため、金属塩化物は特許文献2や特許文献3のように触媒として添加するのではなく、当然触媒量よりも多量に添加する必要がある。具体的には、金属塩化物は10〜50mol%添加する必要がある。
【0025】
また、本発明の水素貯蔵材料においては、金属水素化ホウ素化物は30〜85mol%添加する必要がある。85mol%を超えると水素放出温度が低くならず、30mol%未満では反応後の水素貯蔵材料の量が少なくなり、収率が悪くなるためである。
【0026】
なお、金属水素化ホウ素化物と金属塩化物とを完全に反応させるためには、金属塩化物の価数を考慮して、金属水素化ホウ素化物と金属塩化物との混合比を調整すればよい。つまり、金属水素化ホウ素化物の陽イオンの価数がn価(n=1または2)で金属塩化物の陽イオンの価数がm価(m=2、3、4のいずれか)の場合、金属水素化ホウ素化物1モルに対して金属塩化物n/mモルが反応すると、目的とする水素貯蔵材料と原料である金属塩化物よりも安定な塩(塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウムのうちの少なくとも一種)が形成される。ちなみに、金属水素化ホウ素化物1モルに対してn/mモル以上の金属塩化物が混合されていても、過剰量の金属塩化物はこの反応には寄与しない。また、金属水素化ホウ素化物1モルに対して金属塩化物がn/mモル未満の場合は、金属塩化物はすべて反応してより安定な塩(塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウムのうちの少なくとも一種)を形成するが、過剰量の金属水素化ホウ素化物の陽イオンと金属塩化物の陽イオンが混合した状態でBH4−イオンと結合する複塩(2種類の陽イオンを含む)が得られ、水素放出温度をより低下させることができる。
【0027】
そして、金属水酸化物は、1〜50mol%添加する必要がある。50mol%を超えると水素吸蔵量が少なくなる傾向があるためである。
【0028】
すなわち、水素放出温度が低く且つ繰り返しの水素放出・吸蔵に対する劣化耐性に優れるという本発明の効果を発揮するためには、30〜85mol%の金属水素化ホウ素化物と、10〜50mol%の金属塩化物と、1〜50mol%の金属水酸化物を添加する必要がある。
【0029】
また、本発明の水素貯蔵材料は、上記水素放出温度が低く且つ繰り返しの水素放出・吸蔵に対する劣化耐性に優れるという効果に加えて、加熱により放出される水素量(水素放出量)や、加圧あるいは高温下、加圧した水素にさらすことにより吸蔵される水素量(水素吸蔵量)を多量にすることができるという効果もある。具体的には、水素化ホウ素ナトリウムと塩化ニッケルと水酸化ナトリウムを原料とし、混合してメカノケミカル処理等して反応させた水素貯蔵材料は、後述する実施例に示すように、加熱により放出される水素量が多量であり、また、加圧あるいは高温下、加圧した水素にさらすことにより吸蔵される水素量が多量である。そして、この水素化ホウ素ナトリウムと、塩化ニッケルと、水酸化ナトリウムを原料とし、混合してメカノケミカル処理等して反応させた水素貯蔵材料は、例えば10MPa程度の比較的低い圧力の水素にさらしても、水素を多量に吸蔵することができる。
【0030】
本発明の水素貯蔵材料の原料である金属水素化ホウ素化物と、金属塩化物と、金属水酸化物の組み合わせは特に限定されないが、例えば、水素化ホウ素ナトリウムと塩化ニッケルと水酸化ナトリウムの組み合わせ、水素化ホウ素ナトリウムと塩化マグネシウムと水酸化ナトリウムの組み合わせ、水素化ホウ素ナトリウムと塩化アルミニウムと水酸化ナトリウムの組み合わせ、水素化ホウ素ナトリウムと塩化ニッケルと水酸化マグネシウムの組み合わせ、水素化ホウ素ナトリウムと塩化ニッケルと水酸化アルミニウムの組み合わせ等が挙げられる。勿論、金属水素化ホウ素化物、金属塩化物や、金属水酸化物として、複数種用いても構わない。但し、水素化ホウ素マグネシウムと塩化マグネシウムとの組み合わせでは、反応させても金属種が変わらないため、この組み合わせにすることはできない。
【0031】
なお、金属水素化ホウ素化物として、上記した以外にも、第1族元素(アルカリ金属)、第2族元素(アルカリ土類金属)や、第3族元素の水素化ホウ素化物等も用いることが可能であるが、例えば、RbBH4やCsBH4は非常に高価であるにも関わらず生成されるRbClやCsClは不純物として除去する必要があるという問題があるため、安価に入手できるLi、Na、K及びMgのいずれか1つ以上の水素化ホウ素化物が好ましく用いられる。また、Alの水素化ホウ素化物は室温で液体であり不安定であるため好ましくない。
【0032】
また、金属水酸化物として、上記したもの以外にも、安定なホウ素化物を形成できる金属元素からなる水酸化物であって、ホウ化水素ガス(BxHy、xは1〜15の整数、yは1以上の整数)を捕捉できるものであれば、用いることができる。但し、金属水酸化物の原子量が大きくなると水素貯蔵量が小さくなるので、原子量の小さな金属元素であることが好ましい。
【0033】
本発明の水素貯蔵タンクは、上記本発明の水素貯蔵材料を容器に充填したものである。本発明の水素貯蔵タンクの一例を示す概略断面図である図1に示すように、水素貯蔵タンク1は、容器2に水素貯蔵材料3が充填されている。そして、容器2内には、直径0.001〜100μmの細孔を有するセパレータと水素透過シートの積層体からなる部材4が、水素貯蔵材料3と、水素貯蔵材料3から放出された水素を容器2外へ放出または水素貯蔵材料3に吸蔵させる水素を容器2外から充填する放出・充填口5との間に設けられており、これにより、水素貯蔵材料3が水素充填時または水素放出時に容器2の外に漏えいすることを防ぐことができ、且つ、水素は透過できる構造となっている。
【0034】
容器2の材質に限定はなく、軽量で機械的に強いものでよいが、例えば、アルミ合金やチタン合金等が挙げられる。
【0035】
また、セパレータは直径0.001〜100μmの細孔を有し水素貯蔵材料3の容器2から漏えいを防ぎ、水素劣化しにくいものであればその材質等に限定はないが、例えば、アルミ合金やチタン合金等が挙げられる。水素透過シートは、発生または充填する水素を透過することができるものであればその材質等に限定はないが、例えば、ニオブ系やパラジウム系の合金等が挙げられる。なお、図1においては、セパレータと水素透過シートの積層体を用いたが、この構造に限定されず、例えば、セパレータのみを用いてもよい。また、水素貯蔵材料3が容器2から漏えいしなければ、このセパレータや水素透過シートは用いなくてもよい。
【0036】
このような水素貯蔵タンク1では、所定温度に加熱することにより水素貯蔵材料3から水素が発生して放出・充填口5から水素が排出され、放出・充填口5に接続された燃料電池等へ水素が供給される。また、水素貯蔵材料3を再生する時は、排出・充填口5から容器2内に所定圧力の水素を導入し、水素貯蔵材料3に水素を吸蔵させる。
【実施例】
【0037】
以下に、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0038】
(実施例1)
[水素貯蔵材料の作製]
室温(15℃)にて、0.040モルの水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)と0.020モルの塩化ニッケル(II)(NiCl2)に0.040モルの水酸化ナトリウム(NaOH)を混合し、遊星回転ボールミル装置(伊藤製作所社製、LP−1)を用いて、ジルコニア製ボールミル容器80ml、ジルコニア製φ10mmのボールを30個使用し、容器内をAr雰囲気下にして回転数350rpmで5時間メカノケミカル処理し、水素貯蔵材料を得た。
【0039】
[TG/QMS測定]
作製した水素貯蔵材料をアルミセルに充填し、四重極型質量分析計(QMS)(ULVAC社製、Qulee)を連結させた熱重量測定(TG)測定装置(ULVAC理工社製、TGD−9000)の試料室にセットした。そして、昇温速度0.5℃/minで20℃から600℃まで加熱して、重量減少と全圧及び各質量数(マスナンバー)の分圧を同時測定した。なお、試料室は1.0×10−3Paに真空排気して測定した。TG測定結果を図2に、QMS測定結果を図3に示す。M/z=2はH2、M/z=24はB2H2、M/z=26はB2H4である。
【0040】
この結果、図2のTG測定結果と図3のQMS測定結果に示すように、190℃、370℃及び450℃で水素を放出しており、水素放出温度(水素を放出した一番低いピーク温度)は200℃以下と低かった。また、比較例1において観察される100℃〜250℃付近のB2H2やB2H4等の水素化ホウ素に由来するピークが観察されなかった。したがって、繰り返しの水素放出・吸蔵に対する劣化耐性が高いと言える。
【0041】
[XRD測定]
作製した水素貯蔵材料について、Bruker axs社製X線回折装置で、X線源にCu線を使用し25℃で粉末X線回折パターンを求めた。結果を図4に示す。
【0042】
この結果、図4に示すように、NaClに由来するピークが観察され、メカノケミカル反応が進行したと考えられる。
【0043】
[水素貯蔵量の測定]
作製した水素貯蔵材料を水素にさらして、水素圧力を0.1MPa、1MPa、3MPa、5MPa、7MPa、5MPa、3MPa、1MPa、0.1MPaに順に変化させた時の、水素貯蔵材料の質量を測定した。この測定を、100℃、150℃、200℃及び250℃の各温度で行った。測定された質量から水素にさらす前の水素貯蔵材料の質量を引いた値を、原料とした水素化ホウ素ナトリウムの質量及び水酸化ナトリウムの質量の合計で割った値を水素吸蔵量(wt%)として、図5に示す。各水素圧力において、水素吸蔵量が多い方が水素圧力を上昇させた時の結果であり、水素吸蔵量が少ないものが水素圧力を下降させた時の結果である。なお、塩化ナトリウムは、水素を吸蔵・放出しないとして計算しているため、水素化ホウ素ナトリウムと水酸化ナトリウムの質量のみで割っている。
【0044】
この結果、図5の水素圧力−水素吸蔵量のグラフに示すように、水素圧力が高くなるほど水素吸蔵量は多くなり、例えば7MPa下、100℃では2.6質量%以上であり、水素吸蔵量が多かった。
【0045】
ここで、一般的に、水素圧力を高くしていくと、水素が水素貯蔵材料の表面に吸着するためか水素吸蔵量が上昇していき、その後水素化するため水素吸蔵量がほぼ一定値になった後、再び水素吸蔵量が増加するという挙動を示す。図5を見ると、7MPaまで上昇し続けているため、水素圧力を7MPaよりも上げると水素吸蔵量がさらに上昇することが強く示唆されており、本発明の水素貯蔵材料の水素吸蔵量は非常に多いといえる。
【0046】
また、通常水素貯蔵材料に水素を吸蔵させる際の水素圧力は例えば35MPa以上の高圧で行なうが、本発明の水素貯蔵材料においては、7MPaでも例えば2.6質量%の水素吸蔵量とすることができるため、通常よりも低い水素圧力で、水素を吸蔵させることができる。
【0047】
(実施例2)
塩化ニッケルのかわりに塩化マグネシウム(MgCl2)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。TG測定結果を図6に、QMS測定結果を図7に示す。
【0048】
この結果、図6のTG測定結果と図7のQMS測定結果に示すように、300℃、320℃及び500℃で水素を放出しており、水素放出温度は300℃以下となった。また、比較例2において観察される60℃〜340℃付近のB2H2やB2H4等の水素化ホウ素に由来するピークが観察されなかった。したがって、繰り返しの水素放出・吸蔵に対する劣化耐性が高いと言える。
【0049】
また、X線回折パターンにおいて、NaClに由来するピークが観察され、メカノケミカル反応が進行したと考えられる。
【0050】
(実施例3)
水酸化ナトリウムのかわりに水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。TG測定結果を図8に、QMS測定結果を図9に、XRD測定結果(粉末X線回折パターン)を図10に示す。
【0051】
この結果、図8のTG測定結果と図9のQMS測定結果に示すように、120℃及び240℃で水素を放出しており、水素放出温度は120℃以下と低かった。また、比較例1において観察される100℃〜250℃付近のB2H2やB2H4等の水素化ホウ素に由来するピークは、観察されたが小さかった。したがって、繰り返しの水素放出・吸蔵に対する劣化耐性が高いと言える。
【0052】
また、図10のX線回折パターンに示すように、NaClに由来するピークが観察され、メカノケミカル反応が進行したと考えられる。
【0053】
(実施例4)
水酸化ナトリウムのかわりに水酸化アルミニウム(Al(OH)3)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。TG測定結果を図11に、QMS測定結果を図12に、XRD測定結果(粉末X線回折パターン)を図13に示す。
【0054】
この結果、図11のTG測定結果と図12のQMS測定結果に示すように、180℃で水素を放出しており、水素放出温度(水素を放出した一番低いピーク温度)は200℃以下と低かった。また、比較例1において観察される100℃〜250℃付近のB2H2やB2H4等の水素化ホウ素に由来するピークは、観察されたが小さかった。したがって、繰り返しの水素放出・吸蔵に対する劣化耐性が高いと言える。
【0055】
また、図13のX線回折パターンに示すように、NaClに由来するピークが観察され、メカノケミカル反応が進行したと考えられる。
【0056】
(実施例5)
塩化ニッケルを0.020モル添加するかわりに、塩化マグネシウム0.013モル及び塩化ニッケル0.007モルを添加した以外は、実施例1と同様の操作を行った。TG測定結果を図14に、QMS測定結果を図15に、XRD測定結果(粉末X線回折パターン)を図16に示す。
【0057】
この結果、図14のTG測定結果と図15のQMS測定結果に示すように、145℃及び400℃で水素を放出しており、水素放出温度は150℃以下と低かった。また、比較例1及び2において観察される100℃〜250℃付近及び60℃〜340℃付近のB2H2やB2H4等の水素化ホウ素に由来するピークは、観察されたが小さかった。したがって、繰り返しの水素放出・吸蔵に対する劣化耐性が高いと言える。
【0058】
また、図16のX線回折パターンに示すように、NaClに由来するピークが観察され、メカノケミカル反応が進行したと考えられる。
【0059】
(実施例6)
水酸化ナトリウムを0.040モル添加するかわりに、水酸化ナトリウムを0.0006モル添加した以外は、実施例1と同様の操作を行った。TG測定結果を図17に、QMS測定結果を図18に示す。
【0060】
この結果、図17のTG測定結果と図18のQMS測定結果に示すように、140℃及び200℃で水素を放出しており、水素放出温度は200℃以下と低かった。また、比較例1において観察される100℃〜250℃付近のB2H2やB2H4等の水素化ホウ素に由来するピークは、観察されたが小さかった。したがって、繰り返しの水素放出・吸蔵に対する劣化耐性が高いと言える。
【0061】
また、X線回折パターンにおいて、NaClに由来するピークが観察され、メカノケミカル反応が進行したと考えられる。
【0062】
(比較例1)
水酸化ナトリウムを添加しなかった以外は、実施例1と同様の操作を行った。TG測定結果を図19に、QMS測定結果を図20に、XRD測定結果(粉末X線回折パターン)を図21に、また、水素貯蔵量の測定結果を図22に示す。水素貯蔵量の測定は水素圧力を実施例1と同様な変化をさせた時の、水素貯蔵材料の質量を測定したが、温度は100℃、120℃及び140℃で行った。
【0063】
この結果、図19のTG測定結果と図20のQMS測定結果に示すように、110℃で水素を放出しており、水素放出温度は低かった。しかし、100℃〜250℃付近にB2H2やB2H4等の水素化ホウ素に由来するピークが観察された。したがって、水素化ホウ素に由来するピークが観察されなかった実施例1と比較して、繰り返しの水素放出・吸蔵に対する劣化耐性が低いといえる。
【0064】
また、図21のX線回折パターンに示すように、NaClに由来するピークが観察され、メカノケミカル反応が進行したと考えられる。
【0065】
そして、図22の水素圧力−水素吸蔵量のグラフに示すように、水素圧力が高くなるほど水素吸蔵量は多くなったが、例えば温度100℃、水素圧力7MPaで水素吸蔵量0.7質量%程度であり、実施例1と比較して、水素吸蔵量が非常に低かった。
【0066】
(比較例2)
塩化ニッケルの代わりに塩化マグネシウムを添加し、水酸化ナトリウムを添加しなかった以外は、実施例1と同様の操作を行った。TG測定結果を図23に、QMS測定結果を図24に示す。
【0067】
この結果、図24のQMS測定結果に示すように、220℃及び340℃で水素を放出しており、水素放出温度は220℃であった。しかし、60℃〜340℃付近にB2H2やB2H4等の水素化ホウ素に由来するピークが観察された。したがって、水素化ホウ素に由来するピークが観察されなかった実施例2と比較して、比較例2は、繰り返しの水素放出・吸蔵に対する劣化耐性が低いと言える。
【0068】
(比較例3)
塩化ニッケルを添加しなかった以外は、実施例1と同様の操作を行った。TG測定結果を図25に、QMS測定結果を図26に示す。
【0069】
この結果、図25のTG測定結果と図26のQMS測定結果に示すように、310℃で水素を放出しており、水素放出温度は高かった。また、比較例1の図20で観察された100℃〜250℃付近のピークよりも低かったが、240℃〜340℃付近にB2H2やB2H4等の水素化ホウ素に由来するピークが観察された。
【0070】
(比較例4)
塩化ニッケル及び水酸化ナトリウムを添加しなかった以外は、実施例1と同様の操作を行った。TG測定結果を図27に、QMS測定結果を図28に示す。
【0071】
この結果、図27のTG測定結果と図28のQMS測定結果に示すように、500℃で水素を放出しており、水素放出温度は非常に高かった。また、200℃〜500℃付近にB2H2やB2H4等の水素化ホウ素に由来するピークが観察された。したがって、水素化ホウ素に由来するピークが観察されなかった実施例1と比較して、比較例4は、繰り返しの水素放出・吸蔵に対する劣化耐性が低いと言える。
【符号の説明】
【0072】
1 水素貯蔵タンク 2 容器
3 水素貯蔵材料 4 部材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素カリウム及び水素化ホウ素マグネシウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属水素化ホウ素化物を30〜85mol%と、塩化マグネシウム、塩化アルミニウム、塩化ニッケル、塩化亜鉛、塩化鉄、塩化コバルト、塩化すず及び塩化パラジウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属塩化物を10〜50mol%と、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム及び水酸化アルミニウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属水酸化物を1〜50mol%とを、混合し反応させて得られることを特徴とする水素貯蔵材料。
【請求項2】
水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素カリウム及び水素化ホウ素マグネシウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属水素化ホウ素化物を30〜85mol%と、塩化マグネシウム、塩化アルミニウム、塩化ニッケル、塩化亜鉛、塩化鉄、塩化コバルト、塩化すず及び塩化パラジウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属塩化物を10〜50mol%と、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム及び水酸化アルミニウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属水酸化物を1〜50mol%とを、混合し反応させる工程を有することを特徴とする水素貯蔵材料の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載する水素貯蔵材料が充填されていることを特徴とする水素貯蔵タンク。
【請求項4】
水素貯蔵材料が水素充填時または水素放出時に外部に漏えいすることを防ぐために、直径0.001〜100μmの細孔を有するセパレータと水素透過シートを有することを特徴とする請求項3に記載する水素貯蔵タンク。
【請求項1】
水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素カリウム及び水素化ホウ素マグネシウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属水素化ホウ素化物を30〜85mol%と、塩化マグネシウム、塩化アルミニウム、塩化ニッケル、塩化亜鉛、塩化鉄、塩化コバルト、塩化すず及び塩化パラジウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属塩化物を10〜50mol%と、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム及び水酸化アルミニウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属水酸化物を1〜50mol%とを、混合し反応させて得られることを特徴とする水素貯蔵材料。
【請求項2】
水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素カリウム及び水素化ホウ素マグネシウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属水素化ホウ素化物を30〜85mol%と、塩化マグネシウム、塩化アルミニウム、塩化ニッケル、塩化亜鉛、塩化鉄、塩化コバルト、塩化すず及び塩化パラジウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属塩化物を10〜50mol%と、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム及び水酸化アルミニウムからなる群から選択される少なくとも一種の金属水酸化物を1〜50mol%とを、混合し反応させる工程を有することを特徴とする水素貯蔵材料の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載する水素貯蔵材料が充填されていることを特徴とする水素貯蔵タンク。
【請求項4】
水素貯蔵材料が水素充填時または水素放出時に外部に漏えいすることを防ぐために、直径0.001〜100μmの細孔を有するセパレータと水素透過シートを有することを特徴とする請求項3に記載する水素貯蔵タンク。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図5】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図5】
【公開番号】特開2012−187451(P2012−187451A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−50858(P2011−50858)
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】
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