説明

水素貯蔵装置及び水素供給方法

【課題】 十分な水素貯蔵量が得られるとともに、水素の輸送及び供給にも適した水素貯蔵装置を提供することを目的とする。
【解決手段】 多孔質系水素吸蔵材料12が充填された水素貯蔵容器10と、前記水素貯蔵容器10の周囲に真空断熱層22が形成されるように前記水素貯蔵容器10を囲む真空断熱容器20と、前記水素貯蔵容器10の内部を通って設けられており、前記多孔質系水素吸蔵材料12に水素を吸蔵させる際に120K以下の温度の冷媒32を流通させる冷却管30と、を備えることを特徴とする水素貯蔵装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素貯蔵装置及び水素供給方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素は石油精製、化学産業などをはじめとしてあらゆる産業分野において広く用いられている。特に、水素は燃焼後に発生する物質が水のみであるため、環境を汚染しないクリーンな燃料として注目されてきており、水素を燃料とする燃料電池等の研究が盛んに行われている。
【0003】
しかし、水素ガスは熱量あたりの体積が大きく、また液化に必要なエネルギーも大きいため、そのまま貯蔵、輸送することは難しいという問題がある(非特許文献1参照)。従って、燃料電池自動車のような移動体や、分散電源に燃料電池を用いる場合等において、水素を効率的に輸送し貯蔵する技術が求められている。現在、水素を輸送、貯蔵する技術としては、高圧ガスや液体水素の状態で輸送、貯蔵する方法、水素貯蔵合金や水素吸蔵材料を用いて輸送、貯蔵する方法などが提案されている。
【0004】
水素を貯蔵する方法及び装置として、例えば、下記特許文献1には、水素を吸着及び脱離する炭素系吸着材を用いた水素貯蔵容器が記載されている。また、下記特許文献2には、水素ガスを冷却して液化水素ガスを生じさせる水素ガスの貯蔵方法が記載されている。また、下記特許文献3には、水素ガス等のガスを液化させ、毛細管現象によってカーボンナノチューブ等に吸蔵させるガス吸蔵方法が記載されている。更に、下記特許文献4には、水素を液化水素として貯蔵し、ボイルオフ水素ガスを水素吸蔵合金に吸収させる水素貯蔵装置が記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開2003−65497号公報
【特許文献2】特開2001−12693号公報
【特許文献3】特開2002−128501号公報
【特許文献4】特開09−264498号公報
【非特許文献1】小林、「季報エネルギー総合工学」、第25巻、第4号、2003年、p.73〜87
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献2〜4に記載された方法及び装置では、水素を液化水素として貯蔵するため、水素の貯蔵量には優れるものの、水素の気化熱が小さいことに起因する気化(ボイルオフ)の問題や、超低温に耐える容器を要する問題等がある。また、水素の液化温度が−253℃という極低温であるため取り扱いにくく、液化に必要なエネルギーが膨大であり、トータルとしてエネルギー効率が低いという問題がある。
【0007】
また、水素吸蔵合金を用いて水素を化学的に吸蔵する方法も有力な方法として知られている。しかし、水素吸蔵合金の水素吸蔵量は通常3%程度であり、移動体などに用いるためには水素貯蔵量が未だ不十分であるとともに、重量が増大し過ぎるという問題がある。更に、水素吸蔵合金からの水素放出時には多くの熱が必要であるため、エネルギー効率が低くなる、システムが複雑になるといった欠点を有している。
【0008】
これに対し、上記特許文献1に記載されているような、水素吸蔵材料を用いて水素を物理的に吸蔵する方法は、取り扱いが容易でありエネルギー効率が高いといった特徴から注目が高まりつつある。しかし、上記特許文献1に記載された水素貯蔵容器は、一定の場所で貯蔵する際には適しているものの、容器の輸送及び水素の供給には必ずしも適していないという問題がある。
【0009】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、水素を液化することなく、十分な水素貯蔵量が得られるとともに、水素の輸送及び供給にも適した水素貯蔵装置及びそれを用いた水素供給方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は、多孔質系水素吸蔵材料が充填された水素貯蔵容器と、上記水素貯蔵容器の周囲に真空断熱層が形成されるように上記水素貯蔵容器を囲む真空断熱容器と、上記水素貯蔵容器の内部を通って設けられており、上記多孔質系水素吸蔵材料に水素を吸蔵させる際に120K以下の温度の冷媒を流通させる冷却管と、を備えることを特徴とする水素貯蔵装置を提供する。
【0011】
多孔質系水素吸蔵材料は、水素を物理的に吸着するものであり、水素の貯蔵・放出条件によって、水素を化学的に吸着する水素貯蔵合金よりも高い水素吸蔵能を示すことができる。また、多孔質系水素吸蔵材料は、低温であるほど水素吸蔵量が増加する性質を有しており、水素貯蔵容器内を通る上記冷却管内に120K以下の温度の冷媒を流通させながら水素を吸蔵させることにより、十分な水素吸蔵量を得ることができる。
【0012】
また、本発明の水素貯蔵装置においては、真空断熱容器により水素貯蔵容器を囲んでいるため、水素貯蔵容器の周囲の真空断熱層により、水素貯蔵容器内の温度は一定に保たれることとなる。更に、冷却管が水素貯蔵容器内を通して設けられていることにより、冷却効果が高まり良好な水素貯蔵量を得ることが可能となる。こうした冷却管の構造及び真空断熱構造により、水素貯蔵装置の輸送も容易となり、一定の温度で大量の水素を効率的に輸送することが可能となる。
【0013】
更に、本発明の水素貯蔵装置においては、上記冷却管を備えることにより、そこに通す流体を容易に変えることができる。そのため、水素を燃料電池車等の供給先に供給する際、冷却管内に、水素を吸蔵させる際に用いた冷媒よりも高い温度の熱媒を流通させることで、水素供給を容易に行うことが可能となる。また、多孔質系水素吸蔵材料を用いて水素を吸蔵し、そこから供給先に水素を高圧で充填する場合、水素の圧縮に伴い発熱することとなる。そのため、例えば常温で水素を供給先に供給する場合には、水素の冷却(プレクール)が必要であり、また冷却のために時間を要するため、短時間での水素の供給が困難であるといった欠点を有していた。これに対し、本発明の水素貯蔵装置によれば、水素供給時に冷却管に通す熱媒の温度を十分に低い温度に調節することにより、コンプレッサー等の充填装置に低温の水素を供給でき、プレクールを行うことなく、短時間で効率的に水素の供給を行うことが可能となる。
【0014】
また、本発明の水素貯蔵装置において、上記多孔質系水素吸蔵材料は、繊維状炭素材料に、該繊維状炭素材料1g当たり0.02〜0.3モルのKOH、LiOH及びNaOHからなる群より選択される少なくとも1種の塩基を加え、不活性ガス雰囲気下、400〜1100℃で賦活処理してなるものであることが好ましい。かかる多孔質系水素吸蔵材料を用いることにより、水素貯蔵量を大幅に向上させることができ、より大量の水素を効率的に輸送することが可能となる。
【0015】
更に、本発明の水素貯蔵装置において、上記冷媒は、液化天然ガス又は液体窒素であることが好ましい。ここで、液化天然ガスの温度は約110Kであり、液体窒素の温度はは約77Kである。これらの冷媒は容易に入手可能であるとともに、水素吸蔵材料の十分な冷却効果が得られ、十分な水素貯蔵量を得ることができる。
【0016】
本発明はまた、上記本発明の水素貯蔵装置を用い、上記冷却管内に120K以下の上記冷媒を流通させて上記多孔質系水素吸蔵材料に水素を吸蔵させる吸蔵ステップと、上記冷却管内に173〜373Kの温度の熱媒を流通させて上記多孔質系水素吸蔵材料から水素を放出させ、該水素を供給先に供給する供給ステップと、を有することを特徴とする水素供給方法を提供する。
【0017】
かかる水素供給方法によれば、上記本発明の水素貯蔵装置を用い、上記冷却管内に上記温度の熱媒を流通させて水素の供給を行うことで、水素のプレクールを行うことなく燃料電池車等の供給先に水素を短時間で効率的に供給することが可能となる。
【0018】
また、本発明の水素供給方法は、上記吸蔵ステップの後に、上記冷却管内から上記冷媒を抜いた状態で上記水素貯蔵装置を輸送する輸送ステップを更に有することが好ましい。このように、冷却管内から冷媒を抜いた状態で水素貯蔵装置の輸送を行うことで、冷却管内に流し続ける冷媒が不要となり、より軽量な状態で大量の水素を効率的に需要地に輸送し、供給先へ供給することが可能となる。また、冷却管内に冷媒を流通させない状態であっても、真空断熱層により水素貯蔵容器内の温度上昇は十分に抑制されることとなる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、水素を液化することなく、十分な水素貯蔵量が得られるとともに、水素の輸送及び供給にも適した水素貯蔵装置及びそれを用いた水素供給方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明では、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。また、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0021】
図1は、本発明の水素貯蔵装置の好適な一実施形態を示す模式断面図である。図1に示すように、水素貯蔵装置1は、多孔質系水素吸蔵材料12が充填された、水素を貯蔵するための水素貯蔵容器10と、水素貯蔵容器10の周囲に真空断熱層22が形成されるように水素貯蔵容器10を囲む真空断熱容器20と、水素貯蔵容器10の内部を通って設けられており、多孔質系水素吸蔵材料12に水素を吸蔵させる際に120K以下の温度の冷媒32を流通させる冷却管30と、を備えている。また、水素貯蔵装置1には、水素貯蔵容器10に対する水素の出入口となる水素流路14が設けられている。なお、水素流路14には水素の流通を制御するための開閉弁が、冷却管30には冷媒の流通を制御するための開閉弁が、それぞれ設けられている。
【0022】
水素貯蔵装置1に貯蔵される水素としては、特に限定されないが、例えば、天然ガスや液化石油ガス(LPG)等の炭化水素気体燃料、灯油やナフサ等の炭化水素液体燃料、石炭等のガス化燃料などを原料として用い、水蒸気改質や部分酸化反応のみあるいはそれに続くCOシフト反応等を行うことで得られる水素含有ガスを用いることができる。また、水の電気分解、バイオマスや太陽光等の再生エネルギーを利用した方法などにより得られる水素ガスを用いることもできる。なお、貯蔵する水素としては、好ましくは99.9%以上、より好ましくは99.99%以上、更に好ましくは99.999%以上、特に好ましくは99.9999%以上の純度の精製水素が望ましい。
【0023】
得られた水素は、水素貯蔵容器10内に導入する前に、予め冷却しておくことが好ましい。その場合、得られた水素は、液化天然ガス(LNG)や液体窒素等を用いて、好ましくは150K以下、より好ましくは110K以下まで冷却する。また、このとき、鉄やクロム等の触媒を用いて段階的にオルソ型水素から低温で安定なパラ型水素に変換することが望ましい。
【0024】
多孔質系水素吸蔵材料12としては、水素を物理的に吸着することが可能なものであれば特に限定されないが、例えば、活性炭、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、炭素繊維、竹炭、及びそれらを賦活したもの等が挙げられる。これらの炭素系材料は、Pt、Pd、Ni、Al、Mg、Ti、Ta、Ag、Au、Ru、Rh等の金属を担持したものであってもよい。また、炭素系以外の多孔質系水素吸蔵材料12としては、例えば、ゼオライト、モレキュラーシーブ、多孔質金属錯体などが挙げられる。これらの多孔質系水素吸蔵材料12の中でも、炭素系材料からなる多孔質系水素吸蔵材料が好ましい。
【0025】
また、多孔質系水素吸蔵材料12としては特に、繊維状炭素材料に、該繊維状炭素材料1g当たり0.02〜0.3モルのKOH、LiOH及びNaOHからなる群より選択される少なくとも1種の塩基を加え、不活性ガス雰囲気下、400〜1100℃で賦活処理してなるものが好ましい。
【0026】
ここで、賦活処理に用いる塩基としては、KOHが好ましい。また、不活性ガスとしては特に限定されないが、例えば、窒素、アルゴン等を用いることができる。
【0027】
賦活処理前の繊維状炭素材料1gに対し、加える塩基の量は0.02〜0.3モルであることが必要であり、好ましくは0.03〜0.2モルである。なお、二種以上の塩基を用いる場合においても、賦活処理前の繊維状炭素材料1gに対し、塩基の合計量が0.02〜0.3モルであることが必要である。この塩基の量が0.02モル未満であると賦活が十分に進まず、水素吸蔵量が低下する傾向がある。一方、塩基の量が0.3モルを超えると賦活収率が低下する傾向があり、実用的ではない。
【0028】
賦活処理の温度は400〜1100℃であることが好ましい。この温度が400℃未満であると反応が十分に進行せず、水素吸蔵量が低下する傾向がある。一方、温度が1100℃を超えると賦活後の得られる繊維状炭素材料の収率が著しく低下する傾向があり、実用的ではない。なお、賦活処理の温度は、500〜1000℃であることが好ましく、650〜900℃であることがより好ましい。
【0029】
上述したような多孔質系水素吸蔵材料12は、BET法による比表面積が500〜4000m/gであることが好ましく、1000〜3800m/gであることがより好ましい。比表面積が500m/g未満であると有効な水素吸蔵量を十分に確保しにくくなる傾向がある。また、比表面積が4000m/gを超えると、賦活処理等を経て得られる多孔質系水素吸蔵材料12の収率が著しく低下する傾向があり、実用的ではない。
【0030】
また、多孔質系水素吸蔵材料12は、水素を吸蔵させる前に、真空又はアルゴン等の不活性ガス雰囲気中で、150℃以上、且つ炭素化温度よりも低い温度で加熱処理することが望ましい。加熱処理を行わない場合や、加熱処理の温度が150℃未満の場合には、多孔質系水素吸蔵材料12に吸着している水などの分子が水素の吸蔵を阻害する傾向があるため好ましくない。一方、加熱処理の温度が炭素化時の温度以上となると、炭素の結晶構造が変化してしまい、水素吸蔵能が低下してしまうおそれがある。より望ましい熱処理温度は、150〜1500℃である。
【0031】
水素貯蔵容器10及び真空断熱容器20は、耐圧性の容器により構成されている。これらの容器の材質としては、例えば、鋼鉄、アルミニウム、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)等が挙げられ、中でもCFRPが好ましい。また、CFRP容器のライナーの材質としては、例えば、アルミニウム、鋼鉄等が挙げられる。
【0032】
真空断熱層22は、水素貯蔵容器10と真空断熱容器20との間に画成される空間を真空状態とすることにより形成される。なお、この真空断熱層22は、断熱効果の高い真空断熱シートを挟み込んだ構造であることがより好ましい。
【0033】
冷媒32は、少なくとも多孔質系水素吸蔵材料12に水素を吸蔵させる際に、冷却管30内を流通させる流体である。かかる冷媒32としては、120K以下の温度の流体であれば特に制限されないが、例えば、液化天然ガス(LNG)、液体窒素等が挙げられる。これらの中でも、気化するときに排熱として捨てられている冷熱を有効利用できるという観点から、液化天然ガス(LNG)が好ましい。また、冷媒32の温度は、120K以下であることが必要であるが、70〜120Kであることがより好ましい。
【0034】
冷媒32は、例えば、冷媒32を貯蔵した冷媒貯蔵容器から水素貯蔵装置1に供給することができる。
【0035】
冷却管30は、水素貯蔵容器10の内部を通って設けられており、少なくとも多孔質系水素吸蔵材料12に水素を吸蔵させる際に、管内に上記冷媒32を流通させて多孔質系水素吸蔵材料12を冷却するためのものである。また、多孔質系水素吸蔵材料12に貯蔵した水素を放出する際には、冷媒32に代えて該冷媒32よりも温度の高い所望の熱媒を冷却管30内に流通させる。
【0036】
冷却管30の材質としては特に制限されないが、鋼鉄、アルミニウム合金等が挙げられる。また、冷却管30の形状は特に制限されず、多孔質系水素吸蔵材料12と十分に熱交換を行える形状であればよい。冷却管30の形状としては、例えば、断面が円筒状の配管を螺旋状に張り巡らせた形状等が挙げられる。また、熱交換の効率を高めるために、配管の周囲にフィンを付けたものであってもよい。
【0037】
水素流路14は、水素貯蔵容器10に水素を導入する場合、及び水素貯蔵容器10から水素を放出する場合の水素の流路である。水素流路14の材質としては特に制限されないが、鋼鉄、アルミニウム合金等が挙げられる。
【0038】
水素貯蔵装置1において、水素貯蔵容器10は、冷却管30及び水素流路14を介して真空断熱容器20に固定される。なお、水素貯蔵容器10をより安定に固定するために、断熱性を有する固定部材を用いて水素貯蔵容器10を真空断熱容器20に固定してもよい。
【0039】
上記本発明の水素貯蔵装置1への水素の貯蔵は、上記冷却管30内に120K以下の上記冷媒32を流通させながら、水素を水素流路14より水素貯蔵容器10内に導入して多孔質系水素吸蔵材料12に吸蔵させることにより行うことができる。
【0040】
ここで、水素貯蔵容器内の水素貯蔵時の水素圧は、0.3〜5.0MPaであることが好ましく、0.5〜3.0MPaであることがより好ましく、0.7〜1.0MPaであることが特に好ましい。この水素圧が0.3MPa未満であると、水素吸蔵量が低下する傾向があり、5.0MPaを超えると、耐圧性に問題を生じる傾向がある。水素吸蔵容器の耐久性の面から考えると、上記水素圧は1.0MPa以下であることが望ましい。
【0041】
次に、本発明の水素供給方法について説明する。本発明の水素供給方法は、上記本発明の水素貯蔵装置1を用い、上記冷却管30内に120K以下の上記冷媒32を流通させて上記多孔質系水素吸蔵材料12に水素を吸蔵させる吸蔵ステップと、上記冷却管30内に173〜373Kの温度の熱媒を流通させて上記多孔質系水素吸蔵材料12から水素を放出させ、該水素を供給先に供給する供給ステップと、を有することを特徴とする方法である。また、上記吸蔵ステップの後に、水素貯蔵装置1を所望の需要地に輸送する輸送ステップを更に有していてもよい。
【0042】
上記吸蔵ステップにおいては、上述した本発明の水素貯蔵装置1を用い、先に説明したようにして多孔質系水素吸蔵材料12に水素を吸蔵させる。これにより、水素は水素貯蔵容器10内に貯蔵される。
【0043】
上記輸送ステップにおいては、水素貯蔵装置1をキャリアーにより水素ステーション等の需要地に輸送する。
【0044】
キャリアーとしては特に限定されないが、トレーラーや鉄道、船などを用いることができる。その際、例えば、水素貯蔵装置1の数本(4〜16本程度)を束にして1セット(ボンベユニット)とし、トレーラーの場合には数セット(1〜4セット程度)を一台で運ぶ。そして、需要地においては、トレーラーごと又はボンベユニットのみを需要地に置き、水素を貯蔵する。なお、需要地にある貯蔵タンクに水素貯蔵装置1から水素を供給してもよい。
【0045】
また、上記輸送ステップにおいては、軽量化のために上記冷却管30内から上記冷媒32を抜いた状態で水素貯蔵装置1を輸送することが好ましい。冷媒32を冷却管30内から抜く際には、例えば、冷却管30の一端側の開閉弁を閉めた状態で他端側の開閉弁を開けて冷媒32を除去する。冷媒32を除去することで、冷却管30内は減圧状態又は真空状態となることが好ましい。冷媒32を除去した後の冷却管30内には、外気等の熱媒が入り込まないようにすることが好ましいが、こうした熱媒が入り込んだとしても、熱媒は直ぐに冷やされるため、水素貯蔵容器10内の温度上昇は十分に抑制されることとなる。なお、上記輸送ステップにおいては、冷却管30内に冷媒32を充填した状態で水素貯蔵装置1を輸送してもよい。この場合でも、冷却管30内に流し続ける冷媒32は不要となるため、輸送時の軽量化を図ることができる。
【0046】
水素を供給する際には、水素貯蔵装置1における水素流路の開閉弁を開けることで脱圧により水素が放出されるが、上記供給ステップにおいては更に、上記熱媒を冷却管30内に流通させることで水素を効率良く放出させる。
【0047】
上記供給ステップにおいて使用される熱媒としては、173〜373Kの温度の流体であれば特に制限されないが、例えば、乾燥空気、窒素や二酸化炭素等のドライガスなどが挙げられる。また、熱媒の温度は、173〜373Kであることが必要であるが、200〜323Kであることがより好ましい。上記温度範囲の熱媒を用いることで、水素は十分に低い温度のままで放出され、水素供給時のプレクールを省略することが可能となる。なお、より安定して低温の水素を供給する観点からは、熱媒の温度の上限値は283Kであることが好ましい。また、導入した熱媒を循環利用し、熱媒の温度を調節して利用してもよい。
【0048】
水素を燃料電池車等の供給先に供給する場合、例えばコンプレッサーで昇圧して高圧で水素を供給する場合に断熱圧縮による温度上昇が起こる。これを抑制するためには、従来、コンプレッサーの冷却、水素の予備冷却を行うプレクールシステムが有効とされている。これに対し、本発明の水素供給方法によれば、上述したような低温の熱媒を用いて水素の放出を行っており、冷却された水素をそのまま圧縮機に供給し、供給先に供給することができるため、プレクールを省略することができる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0050】
(実施例1)
図1に示すものと同様の構造を有する水素貯蔵装置の水素貯蔵容器(内容積:100L、SUS316L製)内に、水素吸蔵材料として、繊維状炭素材料(東邦テナックス社製、PYROMEX)に、該繊維状炭素材料1g当たり0.07モルのKOHを加え、アルゴンガス雰囲気下、500℃で3時間賦活処理してなる多孔質炭素材料(比表面積2892m/g)を40kg充填した。次に、冷却管内に冷媒として液体窒素(温度:77K)を流通させながら、水素ガスを水素流路から水素貯蔵容器内に、該水素貯蔵容器内の水素圧が1.0MPaになるまで導入した。これにより水素を水素吸蔵材料に吸蔵させ、水素貯蔵装置に水素を貯蔵した。このとき、水素貯蔵量は2.42kgであった。
【0051】
(実施例2)
冷媒として液体窒素(温度:77K)に代えて液化天然ガス(温度:110K)を用いたこと以外は実施例1と同様にして水素貯蔵装置に水素を貯蔵した。このとき、水素貯蔵量は2.06kgであった。
【0052】
(実施例3)
水素ガスを水素貯蔵容器内に、該水素貯蔵容器内の水素圧が3.0MPaになるまで導入したこと以外は実施例1と同様にして水素貯蔵装置に水素を貯蔵した。このとき、水素貯蔵量は3.41kgであった。
【0053】
(実施例4)
水素ガスを水素貯蔵容器内に、該水素貯蔵容器内の水素圧が3.0MPaになるまで導入したこと以外は実施例2と同様にして水素貯蔵装置に水素を貯蔵した。このとき、水素貯蔵量は2.65kgであった。
【0054】
(実施例5)
水素吸蔵材料を活性炭(関西熱化学社製、マックスソーブ(MAXSORB)、比表面積2800m/g)とし、これを水素貯蔵容器内に35kg充填したこと以外は実施例1と同様にして水素貯蔵装置に水素を貯蔵した。このとき、水素貯蔵量は1.85kgであった。
【0055】
(実施例6)
冷媒として液体窒素(温度:77K)に代えて液化天然ガス(温度:110K)を用いたこと以外は実施例5と同様にして水素貯蔵装置に水素を貯蔵した。このとき、水素貯蔵量は1.41kgであった。
【0056】
(比較例1)
水素貯蔵容器内に水素吸蔵材料を充填しなかった以外は実施例1と同様にして水素貯蔵装置に水素を貯蔵した。このとき、水素貯蔵量は0.32kgであった。
【0057】
(比較例2)
冷却管を有しない以外は図1に示すものと同様の構造を有する水素貯蔵装置の水素貯蔵容器(内容積:100L)内に、水素吸蔵材料として実施例1で用いた水素吸蔵材料を45kg充填した。次に、室温(温度:300K)にて、水素ガスを水素流路から水素貯蔵容器内に、該水素貯蔵容器内の水素圧が1.0MPaになるまで導入した。これにより水素を水素吸蔵材料に吸蔵させ、水素貯蔵装置に水素を貯蔵した。このときの水素貯蔵量は、0.12kgであった。
【0058】
(比較例3)
水素ガスを水素貯蔵容器内に、該水素貯蔵容器内の水素圧が3.0MPaになるまで導入したこと以外は比較例1と同様にして水素貯蔵装置に水素を貯蔵した。このとき、水素貯蔵量は0.99kgであった。
【0059】
(比較例4)
水素ガスを水素貯蔵容器内に、該水素貯蔵容器内の水素圧が3.0MPaになるまで導入したこと以外は比較例2と同様にして水素貯蔵装置に水素を貯蔵した。このとき、水素貯蔵量は0.38kgであった。
【0060】
(比較例5)
冷却管を有しない以外は図1に示すものと同様の構造を有する水素貯蔵装置を用意した。次に、室温(温度:300K)にて、水素ガスを水素流路から水素貯蔵容器(内容積:100L)内に、該水素貯蔵容器内の水素圧が30.0MPaになるまで導入した。これにより水素を水素吸蔵材料に吸蔵させ、水素貯蔵装置に水素を貯蔵した。このときの水素貯蔵量は、2.37kgであった。
【0061】
【表1】



【0062】
上述したように、実施例1〜6の水素貯蔵装置によれば、比較例1〜5の水素貯蔵装置と比較して、より低圧で十分な水素貯蔵量が得られることが確認された。また、実施例1〜6の水素貯蔵装置は、輸送時に冷却管内から冷媒を抜いた状態で効率的に輸送することができ、更に、燃料電池車等の供給先に水素を供給する際に、冷却管内に173〜373Kの熱媒を流通させることで、プレクールを行うことなく効率的に水素を供給することが可能であるため、水素の輸送及び供給に非常に適している。一方、比較例1〜2の水素貯蔵装置においては、水素吸蔵材料を用いていないため、十分な水素貯蔵量が得られなかった。また、比較例3〜4の水素貯蔵装置においては、室温にて水素を貯蔵しているため、燃料電池車等の供給先に水素を供給する際にプレクールが必要となる。更に、比較例5の水素貯蔵装置においては、水素圧が30.0MPaと高圧であるため、水素貯蔵時の昇圧に多くのエネルギーを要した。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の水素貯蔵装置の好適な一実施形態を示す模式断面図である。
【符号の説明】
【0064】
1…水素貯蔵装置、10…水素貯蔵容器、12…多孔質系水素吸蔵材料、20…真空断熱容器、22…真空断熱層、30…冷却管、32…冷媒。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質系水素吸蔵材料が充填された水素貯蔵容器と、
前記水素貯蔵容器の周囲に真空断熱層が形成されるように前記水素貯蔵容器を囲む真空断熱容器と、
前記水素貯蔵容器の内部を通って設けられており、前記多孔質系水素吸蔵材料に水素を吸蔵させる際に120K以下の温度の冷媒を流通させる冷却管と、
を備えることを特徴とする水素貯蔵装置。
【請求項2】
前記多孔質系水素吸蔵材料が、繊維状炭素材料に、該繊維状炭素材料1g当たり0.02〜0.3モルのKOH、LiOH及びNaOHからなる群より選択される少なくとも1種の塩基を加え、不活性ガス雰囲気下、400〜1100℃で賦活処理してなるものであることを特徴とする請求項1記載の水素貯蔵装置。
【請求項3】
前記冷媒が、液化天然ガス又は液体窒素であることを特徴とする請求項1又は2記載の水素貯蔵装置。
【請求項4】
請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の水素貯蔵装置を用い、前記冷却管内に120K以下の前記冷媒を流通させて前記多孔質系水素吸蔵材料に水素を吸蔵させる吸蔵ステップと、
前記冷却管内に173〜373Kの温度の熱媒を流通させて前記多孔質系水素吸蔵材料から水素を放出させ、該水素を供給先に供給する供給ステップと、
を有することを特徴とする水素供給方法。
【請求項5】
前記吸蔵ステップの後に、前記冷却管内から前記冷媒を抜いた状態で前記水素貯蔵装置を輸送する輸送ステップを更に有することを特徴とする請求項4記載の水素供給方法。


【図1】
image rotate


【公開番号】特開2008−75697(P2008−75697A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−253198(P2006−253198)
【出願日】平成18年9月19日(2006.9.19)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】