説明

水質浄化型護岸装置

【課題】 簡単な構成のもとに、軽量濾材の活発な揺動を可能にして水の攪拌曝気を増進し、水質浄化機能の向上並びに水中生物の生育を促進する水路または湖沼用の護岸装置を提供こと。
【解決手段】 頂部および底部が開口状態で前壁1に通水孔2がある枠状本体7と、本体7を支承する底盤8と、頂部開口に冠設する蓋体9とからなるコンクリート製函体3を設け、函体3内の空間には通水孔2を通過しない程度の大粒でかつ比重が1.0以下の多孔質濾材4を散状態に収容して構成した。これにより魚巣を形成するほか、水流および水位の変化により濾材4を個々に揺動させ、水質の浄化,微生物の活性化,水中生物の生育環境改善を実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水質浄化機能並びに水中生物の生育機能を有する河川,湖沼,農業用水路,排水路等の護岸装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水質の浄化並びに水中生物の生育環境の保全を目的として、護岸構造に水質浄化機能および水中生物の生育機能を付加することが重要視されている。従来の技術としては、上下面および4側面に開口部がある枠状ブロックを積層し、水中に位置する最下位の枠状ブロック内に玉石および貝殻等の充填材を収容して、充填材相互の間隙を水中生物の生育に利用する構成の技術がある。(例えば、特許文献1参照。)また、縦に貫通する濾材配設空間とこれに横に貫通する流水通路とを形成した護床ブロックの濾材配設空間に、軽量の濾過材を網袋に収容したまま繋留状態に配設し、網袋入り濾過材を水流により水中において僅かに昇降させ、これにより水質浄化および河川生物の生育を図る技術がある。(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】 特開2001−226938
【特許文献2】 特許2849333
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1に記載の従来技術においては、充填材として玉石および貝殻を使用し、しかも充填材が移動あるいは揺動することがないから、水質浄化機能は乏しく、かつ充填材の交換が著しく不便である。
【0004】
特許文献2に記載の従来技術においては、軽量の濾過材を使用しているが、個々の粒体が網袋に拘束状態に収容されているため、水位の変動で濾過材は昇降するが、網袋に拘束された状態のまま、連結ワイヤにより繋留されており、昇降程度は限定されるから、個々の濾過材と水流との動的接触が少ない。更に構造が著しく複雑かつ高コストである。
【0005】
そこで本発明の目的は、簡単な構成のもとに、軽量濾材の活発な揺動を可能にして水の攪拌を促進し、水質浄化機能の向上並びに水中生物の生育を促進する水路,湖沼用の護岸装置を提供ことにあり、また転落事故および水難事故の防止等、安全性を付加した護岸装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1の発明は、頂部および底部が開口状態でかつ前壁に通水孔が形成された枠状本体と、本体を支承する底盤と、頂部開口に冠設する蓋体とからなるコンクリート製函体を設けると共に、この函体内の空間には前記通水孔を通過しない程度の大粒でかつ比重が1.0以下望ましくは1.0未満の多孔質濾材を散状態に収容したことを特徴とする水質浄化型護岸装置である。この構成により、魚巣を形成するほか、水流により濾材を個々に揺動させるばかりでなく、水位の変化により揺動を伴ない昇降させるから、函体内の水は攪拌曝気されて酸素の供給増進により水質が浄化すると共に、濾材に棲息する微生物の活性化により水質浄化が促進され、更に水中生物の生育環境が改善される。また蓋体の脱着により濾材の点検並びに交換等のメンテナンスが容易である。
【0007】
請求項2の発明は、頂部および底部が開口状態でかつ前壁に通水孔が形成された枠状本体と、本体を支承する底盤と、頂部開口に冠設する蓋体とからなるコンクリート製函体を設けると共に、前記通水孔を通過する程度の小粒でかつ比重が1.0以下望ましくは1.0未満の多孔質濾材をかご型容器または網袋に収容して構成した濾材集合体を用意し、この濾材集合体の多数個を前記函体内の空間に散状態に収容したことを特徴とする水質浄化型護岸装置である。この構成により、魚巣を形成するほか、水流により小粒濾材の各集合体は個々に揺動するばかりでなく、水位の変化により揺動しつつ昇降するから、函体内の水は攪拌曝気され酸素の供給増進により水質が浄化されるほか、濾材に棲息する微生物の活性化により水質浄化が促進され、更に水中生物の生育環境が改善される。また蓋体の脱着により濾材集合体の点検並びに交換等のメンテナンスが容易である。
【0008】
請求項3の発明は、側壁に通水孔が形成された函体を採択し、この函体を側壁が相互に当接する状態に並設した請求項1または請求項2に記載の水質浄化型護岸装置であり、側壁が互いに当接する状態に函体を連設することにより、隣接函体相互に連通する通水路が形成されて、濾材と水流との動的接触が促進され、酸素の供給増進による水質の浄化,濾材に棲息する微生物の活性化,水中生物の生育環境の改善等の作用が増進される。
【0009】
請求項4の発明は、函体の前壁に手摺を設けた請求項1ないし請求項3のいずれか1に記載の水質浄化型護岸装置であり、手摺の特設により、転落の防止,保守作業時の安全性および能率化に役立ち、更に転落事故の救助に当たっての手掛けまたはロープの結び付け等に役立つ。
【0010】
請求項5の発明は、函体の背壁をほぼ垂直に形成し、かつ前壁を階段状に形成した請求項1ないし請求項4のいずれか1に記載の水質浄化型護岸装置であり、背壁は土留めよう壁として作用し、階段状前壁は滑落の防止,保守作業時の安全性および能率化に役立つ。
【0011】
請求項6の発明は、函体の上端縁または蓋体の少なくとも一方に柵設置用穴を設けた請求項1ないし請求項5のいずれか1に記載の水質浄化型護岸装置であり、柵を付設するに当たり、予め設置用穴が形成されているため、必要に応じて転落防止用の柵を容易に設けることができ、水路,湖沼への転落防止に役立つ。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明によれば、簡単な構成のもとに、濾材の個々の不規則な揺動並びに昇降により水は攪拌曝気されて水に酸素の供給が増進され、これにより水質浄化,濾材に棲息する微生物の活性化,水中生物の生育環境の改善が効果的に行われる。また、枠状本体と本体を支承する底盤と蓋体との組立型コンクリート製函体を構成したことにより、函体の成形,保管,取り扱い,施工が容易であり、かつ蓋体を着脱自在に設けたことにより、増水に伴なう溢水時においても、濾材の流出は防止され、更に蓋体の脱着により濾材の点検および交換等の保全が著しく容易である。
【0013】
請求項2の発明によれば、請求項1の発明の効果に加え、小粒の濾材を使用することができ、しかも濾材集合体は取り扱いが便利であるから、濾材の収容作業および交換作業が著しく容易となる。
【0014】
請求項3の発明によれば、隣接函体相互に連通する通水路を形成する構成であるため、水流が隣接函体内に通過しやすい関係上、濾材と水との動的接触が向上し、酸素の供給増進による水質の浄化,濾材に棲息する微生物の活性化,水中生物の生育環境の改善等の作用が一層増大する。請求項4の発明によれば、手摺の特設により、滑落の防止,保守作業時の安全性および能率化に役立ち、更に転落事故時において流されないように掴まることができ、救助に当たっては、手掛けとなるほかロープの結び付けに至便である。
【0015】
請求項5の発明によれば、函体の背壁は土留めよう壁として効果があり、かつ階段状前壁は法面に比較して滑落を防止できる効果があり、従って柵が設置されていない場合に発生し易い滑落事故を防止するほか、保守作業時の作業者の安全性および能率化の点で好都合である。また請求項6の発明によれば、柵を付設するに当たり、予め設置用穴が形成されているため、必要に応じて転落防止用の柵を容易に設けることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を図示の実施形態について詳細に説明するが、例えば図1,図2あるいは図3,図4のように、前壁1に通水孔2が形成されたコンクリート製の函体3内の空間に濾材4を収容した水質浄化型護岸装置を適用対象とする。
【0017】
前記護岸装置に対する本発明の特殊構成として、例えば図1および図2のように、函体3としては、階段状の前壁1とほぼ垂直の背壁5とほぼ垂直の左右両側壁6とから形成され、かつ頂底両部が開口状態の異形角筒状の本体7と、本体7の載置に適応するほか下部開口部を閉塞する平板状の底盤8と、上部開口部に着脱自在に冠設する平板状の蓋体9との組み立て型に構成する。本体7における前壁1のほぼ垂直壁部に縦長スリット状の通水孔2を多数穿設し、かつ蓋体9の適宜位置に上方開放状態の柵設置用穴10を設ける。なお通水孔2は、横長スリット状,斜めスリット状,円形,角形でもよく、その他本体7と底盤8とは取付ボルト等の結合具(図示せず)により一体的に固定するのが望ましい。
【0018】
図3および図4の実施形態は、本体7における前壁1が階段状ではなく、傾斜状であって、縦長スリット状の通水孔2を多数穿設し、他は前記形態と性質的に異なるところはない。また前記両形態とは別に本体7における前壁1がほぼ垂直に形成された形態であってもよい。なお通水孔2は、前記形態と同様に種々の形状を採択できること当然である。
【0019】
函体3内の空間に収容する濾材4としては、通水孔2を通過しない程度の大粒でかつ比重が1.0以下望ましくは1.0未満の多孔質材料を採択する。例えば、発泡コンクリート,発泡ガラス,軽石,火山れき,人工軽量骨材等、また麦飯石,トルマリン石等のマイナスイオンを発生する材料、更にバクテリアの栄養分を有する木片等であり、これら濾材4の一種類または複数種類を函体3の容積に充分ゆとりが保てる程度の分量例えば容積の10〜90%望ましくは30〜70%に相当する分量を散状態に収容する。これにより濾材4は函体3内において浮遊傾向のもとに水位Wの変化に伴ない昇降する。
【0020】
濾材4が小粒である場合には、小粒の濾材4をかご型容器あるいは網袋に詰め込んで濾材集合体11を形成し、この濾材集合体11の多数個を函体3に散状態に収容する。小粒の濾材4をかご型容器あるいは網袋に詰め込むにあたっては、容器あるいは網袋に100%ではなく、適度にゆとりのある遊動可能な状態に収容するのが望ましく、濾材4個々の浮遊が期待できる。また、適用濾材4については、例えば径が機能的には数mm〜百数十mmでよいが、取り扱い上は十数mm〜百mm程度の大きさが望ましく、濾材集合体11の大きさについては、数十mm〜二百数十mm程度の大きさが取り扱い上便利である。
【0021】
函体3はこれをその前壁1が水路または湖沼の水際に対向したまま、隣接側壁6同士を当接させた状態のもとに多数を並設することが多いから、側壁6には前壁1におけると同様に、縦長スリット状または他の適宜形状の通水孔12を多数穿設して隣接函体3相互に連通する通水路を形成し、隣接函体3間においても水流を生じさせるようにする。通水孔12としては、図4に例示するように、大きな通水孔12を設けてこの通水孔12にプラスチック製または金属製の格子状枠13を嵌設してもよい。なお、通水孔12を設けていない函体3は、これを単体で設置することに適しており、多数を並設する場合には、通水孔12を設けたものを使用するが、並設端部の函体3の外側の側壁6は通水孔12を設けていないものを使用し、あるいは施工時に側壁6の外側面に遮水シートまたは透水シートを添付して通水孔12から土砂が流入しないようにする。
【0022】
水路,湖沼に設置する函体3の流動あるいは傾動を防止するため、底盤8に適宜形状の受孔を設け、この受孔にコンクリート,鋼管,松等の杭を打ち込んで函体3を固定するのが望ましい。
【0023】
柵設置用穴10については、図5または図6のように、本体7の前壁1または背壁5を全長にわたりあるいは一部について上方に延長し、その上端縁に上方開放状態に設けてもよいのである。
【0024】
本体7の前壁1には、横型または縦型のプラスチック製または金属製の手摺14を適宜位置に固設し、滑落の防止,保守作業時の安全性および能率化に役立てるほか、転落事故時には流されないように掴まることができるようにし、更に、救助に当たり手掛けとし、あるいはロープの結び付けに使用することができるようにする。
【0025】
函体3はこれを図7のように、2段重ね状態に設置し、あるいは2段以上の複数段重ね状態に設置してもよい。また、図8のような大型の多段型のものを採択してもよく、この場合は都合により虚線で示すように、階段部の中段付近に上向きの開口を設けてこの開口に蓋体9を開閉自在に設け、内部のメンテナンス時に利用するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】 本発明水質浄化型護岸装置の一実施形態を示す縦断側面図
【図2】 図1の装置の斜面図
【図3】 他の実施形態を示す縦断側面図
【図4】 図3の装置の斜面図
【図5】 他の実施形態を示す要部の縦断側面図
【図6】 他の実施形態を示す要部の縦断側面図
【図7】 段重ね状態の実施形態を示す側面図
【図8】 更に他の実施形態を示す側面図
【符号の説明】
【0027】
1 前壁
2 通水孔
3 函体
4 濾材
5 背壁
6 側壁
7 本体
8 底盤
9 蓋体
10 柵設置用穴
11 濾材集合体
12 通水孔
13 格子状枠
14 手摺
W 水位

【特許請求の範囲】
【請求項1】
頂部および底部が開口状態でかつ前壁(1)に通水孔(2)が形成された枠状本体(7)と、本体(7)を支承する底盤(8)と、頂部開口に冠設する蓋体(9)とからなるコンクリート製函体(3)を設けると共に、この函体(3)内の空間には前記通水孔(2)を通過しない程度の大粒でかつ比重が1.0以下の多孔質濾材(4)を散状態に収容したことを特徴とする水質浄化型護岸装置。
【請求項2】
頂部および底部が開口状態でかつ前壁(1)に通水孔(2)が形成された枠状本体(7)と、本体(7)を支承する底盤(8)と、頂部開口に冠設する蓋体(9)とからなるコンクリート製函体(3)を設けると共に、前記通水孔(2)を通過する程度の小粒でかつ比重が1.0以下の多孔質濾材(4)をかご型容器または網袋に収容して構成した濾材集合体(11)を用意し、この濾材集合体(11)の多数個を前記函体(3)内の空間に散状態に収容したことを特徴とする水質浄化型護岸装置。
【請求項3】
側壁(6)に通水孔(2)が形成された函体(3)を採択し、この函体(3)を側壁(6)が相互に当接する状態に並設した請求項1または請求項2に記載の水質浄化型護岸装置。
【請求項4】
函体(3)の前壁(1)に手摺(14)を設けた請求項1ないし請求項3のいずれか1に記載の水質浄化型護岸装置。
【請求項5】
函体(3)の背壁(5)をほぼ垂直に形成すると共に、前壁(1)を階段状に形成した請求項1ないし請求項4のいずれか1に記載の水質浄化型護岸装置。
【請求項6】
函体(3)の上端縁または蓋体(9)の少なくとも一方に柵設置用穴(10)を設けた請求項1ないし請求項5のいずれか1に記載の水質浄化型護岸装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−88785(P2008−88785A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−293255(P2006−293255)
【出願日】平成18年10月2日(2006.10.2)
【出願人】(300044160)
【出願人】(300044148)
【Fターム(参考)】