説明

水難溶性第4級アンモニウム塩の水性製剤

【課題】温度5℃程度の低温領域であっても、有効成分である水難溶性第4級アンモニウム塩が晶出しない、安定な水難溶性第4級アンモニウム塩の水性製剤を提供することを課題とする。
【解決手段】温度5℃の水100gに対する溶解度が5g未満である水難溶性第4級アンモニウム塩、その晶出防止成分としてアルキルジメチルベンジルアンモニウム塩および水を含むことを特徴とする水難溶性第4級アンモニウム塩の水性製剤により、上記の課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度5℃の水100gに対する溶解度が5g未満である水難溶性第4級アンモニウム塩の水性製剤に関する。本発明の水性製剤は、温度5℃程度の低温領域であっても、有効成分である水難溶性第4級アンモニウム塩の結晶が析出(晶出)せず、その効果が維持されるので、帯電防止剤、表面処理剤、染色助剤、乳化剤、分散剤、殺菌剤、殺菌洗浄剤基材、海水付着生物の付着防止剤などとして好適に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
一般に第4級アンモニウム塩の多くは水溶性であり、水溶液の製剤形態で、衣類のような繊維の柔軟仕上げ剤、樹脂などの帯電防止剤、表面処理剤、染色助剤、化粧品などの乳化剤や分散剤、殺菌剤、殺菌洗浄剤基材などとして用いられている。
一方、第4級アンモニウム塩の中でも、水難溶性のものもある。例えば、温度5℃の水100gに対するヘキサデシルトリメチルアンモニウム・メチルサルフェートおよびヘキサデシルトリメチルアンモニウム・パラトルエンスルホネートの溶解度は、それぞれ0.1gおよび1.5g程度であり、これらの水難溶性第4級アンモニウム塩を水100gに5g程度溶解させるためには25℃以上の水温が必要となる。
【0003】
したがって、これらの水難溶性第4級アンモニウム塩は、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール系有機溶剤、プロピレングリコールなどのグリコール系有機溶剤に溶解した親水性製剤として用いられている。
しかし、このような親水性製剤でも、季節的または地域的要因により、使用時、保管時または輸送時に温度5℃程度の低温領域に曝された場合は、結晶が析出するという課題があり、さらには、有機溶剤を用いること自体が、CODなどの環境負荷の増大、引火リスクの上昇、コスト負担増大などの問題となる。
【0004】
また、このような水難溶性第4級アンモニウム塩の溶液に、粘度低下剤としてノニオン界面活性剤を添加する技術も提案されている(例えば、特公昭61−22067号公報:特許文献1)。
しかしながら、このような溶液でも、上記のような低温領域では、溶液からの水難溶性第4級アンモニウム塩の晶出を防止できないという課題がある。
【0005】
他方、一般に化学物質を取り扱う場合には、環境問題や安全性の観点から多量の有機溶剤や添加剤の使用を避けることが望まれており、水難溶性第4級アンモニウム塩では、上記のような有機溶剤やノニオン界面活性剤を用いないか、または低減することが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭61−22067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、親水性有機溶剤やノニオン界面活性剤を用いずとも、温度5℃程度の低温領域であっても、有効成分である水難溶性第4級アンモニウム塩が晶出しない、安定な水難溶性第4級アンモニウム塩の水性製剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩が温度5℃程度の低温領域において水難溶性第4級アンモニウム塩の高濃度水性製剤からの晶出を防止する機能を有することを見出し、本発明を完成するに到った。
この知見は、親水性有機溶剤やノニオン界面活性剤を配合しても晶出の防止効果が十分ではなかったことからみると意外な事実である。
【0009】
かくして、本発明によれば、温度5℃の水100gに対する溶解度が5g未満である水難溶性第4級アンモニウム塩、その晶出防止成分としてアルキルジメチルベンジルアンモニウム塩および水を含むことを特徴とする水難溶性第4級アンモニウム塩の水性製剤が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、親水性有機溶剤やノニオン界面活性剤を用いずとも、温度5℃程度の低温領域であっても、有効成分である水難溶性第4級アンモニウム塩が晶出しない、安定な水難溶性第4級アンモニウム塩の水性製剤を提供することができる。
【0011】
また、水難溶性第4級アンモニウム塩が、炭素数14〜20のアルキル基を有するアルキルトリメチルアンモニウム・メチルサルフェート、アルキルジメチルエチルアンモニウム・エチルサルフェートまたはアルキルトリメチルアンモニウム・パラトルエンスルホネートである場合に、特にヘキサデシルトリメチルアンモニウム・パラトルエンスルホネート、ヘキサデシルトリメチルアンモニウム・メチルサルフェートまたはオクタデシルトリメチルアンモニウム・メチルサルフェートである場合に、上記の効果が特に発揮される。
【0012】
さらに、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩が、炭素数8〜18のアルキル基を有するアルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライドである場合に、特にドデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、テトラデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライドまたはベンザルコニウムクロライドである場合に、上記の効果が特に発揮される。
【0013】
また、水難溶性第4級アンモニウム塩が、2〜15重量%の割合で含まれる場合、およびアルキルジメチルベンジルアンモニウム塩が、水難溶性第4級アンモニウム塩1重量部に対して0.1〜4重量部の割合で含まれる場合に、上記の効果が特に発揮される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の水難溶性第4級アンモニウム塩の水性製剤は、温度5℃の水100gに対する溶解度が5g未満である水難溶性第4級アンモニウム塩、その晶出防止成分としてアルキルジメチルベンジルアンモニウム塩および水を含むことを特徴とする。
また、本発明における「晶出防止成分」は、水性製剤からの水難溶性第4級アンモニウム塩の結晶の析出(晶出)を防止する意味で用いているが、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩は、水難溶性第4級アンモニウム塩の「溶解補助剤」もしくは「溶解促進剤」としての機能も有している。
【0015】
本発明の水難溶性第4級アンモニウム塩は、温度5℃の水100gに対する溶解度が5g未満である第4級アンモニウム塩であれば特に限定されないが、例えば、炭素数14〜20のアルキル基を有するアルキルトリメチルアンモニウム・メチルサルフェート、アルキルジメチルエチルアンモニウム・エチルサルフェートおよびアルキルトリメチルアンモニウム・パラトルエンスルホネートが挙げられる。
【0016】
上記の「アルキル」としては、ヘキサデシル、オクタデシルなどのアルキル基;ヤシアルキル、牛脂アルキル、硬化牛脂アルキル、大豆アルキル、ココナツアルキル、オレオアルキルなどの天然由来の混合アルキル基が挙げられる。
また、本発明の水難溶性第4級アンモニウム塩としては、上記の「アルキル」に代わりに、例えば、オクテニル、オレイル(オクタデセニル)、リノレイルなどのアルケニル基を有する化合物であってもよい。
【0017】
水難溶性第4級アンモニウム塩の具体例としては、実施例に記載のヘキサデシルトリメチルアンモニウム・パラトルエンスルホネート、ヘキサデシルトリメチルアンモニウム・メチルサルフェートおよびオクタデシルトリメチルアンモニウム・メチルサルフェートなどが挙げられる。
これらは、カチオン界面活性剤または試薬として上市されており、また対応する第3級アミンをジメチル硫酸、ジエチル硫酸などのアルキル化剤と反応させることにより容易に入手できる。本発明ではこれらを用いることができる。
【0018】
本発明の晶出防止成分としての炭素数8〜18のアルキル基、好ましくは炭素数12〜16のアルキル基を有するアルキルジメチルベンジルアンモニウム塩としては、例えば、アルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライドが挙げられる。
より具体的には、ドデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ドデシルジメチルベンジルアンモニウムブロマイド、テトラデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、テトラデシルジメチルベンジルアンモニウムブロマイド、ヘキサデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルジメチルベンジルアンモニウムブロマイド、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライドおよびオクタデシルジメチルベンジルアンモニウムブロマイドなどが挙げられる。
これらのアルキルジメチルベンジルアンモニウム塩は、例えば、炭素数12〜16のアルキル基を有するアルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライドの混合物(ベンザルコニウムクロライド)のように、アルキル部分の炭素数が異なった2種以上の混合物であってもよい。
【0019】
これらの中でも、水難溶性第4級アンモニウム塩の水への晶出防止効果の点で、ドデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、テトラデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライドおよびベンザルコニウムクロライドが特に好ましい。
【0020】
水難溶性第4級アンモニウム塩は、その溶解性、安定性、晶出防止効果の観点から、本発明の水性製剤中に2〜15重量%含まれるのが好ましく、3〜10重量%含まれるのが特に好ましい。
水難溶性第4級アンモニウム塩の濃度は、水性製剤の用途や使用条件により適宜設定すればよい。
【0021】
また、晶出防止成分としてのアルキルジメチルベンジルアンモニウム塩は、水難溶性第4級アンモニウム塩の溶解性、安定性、晶出防止効果、経済性の観点から、水難溶性第4級アンモニウム塩1重量部に対して0.1〜4重量部含まれるのが好ましく、0.3〜2重量部含まれるのがより好ましい。
アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩の含有量が対0.1重量部未満である場合には、水難溶性第4級アンモニウム塩の晶出防止効果が発揮されないことがある。一方、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩の含有量が対4重量部を超える場合には、水難溶性第4級アンモニウム塩の溶解性、安定性、晶出防止性の更なる向上が期待できず、経済的な観点からも好ましくない。
【0022】
本発明の水性製剤は、例えば、温度30〜90℃の温水に、水難溶性第4級アンモニウム塩の結晶を溶解させ、さらに晶出防止成分としてのアルキルジメチルベンジルアンモニウム塩を添加・混合した後、残部の水を添加・混合することにより調製することができる。
【0023】
本発明の水性製剤において、通常、水難溶性第4級アンモニウム塩の溶解度を向上させるために有機溶剤を用いることはないが、水性製剤を寒冷地域で用いる場合の凍結防止や水難溶性第4級アンモニウム塩を高濃度に配合する場合の製剤安定性などのために、本発明の効果を阻害しない範囲で、親水性有機溶剤をさらに含有していてもよい。
【0024】
親水性有機溶剤としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール(略称:DEG)、ポリエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(略称:MDG)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(略称:BDG)、プロピレングリコール(略称:PG)、ブチルグリコール、メチルプロピレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、イソブタノール、sec−ブタノール、2−エチル−1−ブタノール、イソペンタノール、1−ヘプタノール、1−オクタノール、ネオペンチルアルコールなどが挙げられ、これらを単独でまたはこれらの2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、製剤の長期安定性の点からDEG、BDGが特に好ましい。
その配合割合は、水性製剤中に5〜30重量%とするのが好ましく、7〜25重量%とするのが特に好ましい。
【0025】
また、一般に第4級アンモニウム塩は発泡性を有することから、本発明の水性製剤は、本発明の効果を阻害しない範囲で、公知の消泡剤をさらに含有していてもよい。
公知の消泡剤としては、例えばシリコーン系、アルキルエステル系、脂肪族アミンのアルキレングリコール付加物、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール系の消泡剤が挙げられ、その配合割合は水性製剤中に0.005〜10重量%とするのが好ましく、0.01〜5重量部とするのが特に好ましい。
【0026】
本発明の水性製剤は、温度5℃程度の低温領域でもその結晶が析出せず、有効成分である水難溶性第4級アンモニウム塩の効果が維持されるので、衣類のような繊維の柔軟仕上げ剤、樹脂などの帯電防止剤、表面処理剤、染色助剤、化粧品などの乳化剤や分散剤、殺菌剤、殺菌洗浄剤基材、海水付着生物の付着防止剤などとして好適に用いることができる。
【実施例】
【0027】
本発明を製剤例、比較製剤例および試験例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの製剤例および試験例により限定されるものではない。
【0028】
製剤例、比較製剤例において次の化合物を用いた。
[水難溶性第4級アンモニウム塩]
(A−1)ヘキサデシルトリメチルアンモニウム・パラトルエンスルホネート
(融点238℃)
(A−2)ヘキサデシルトリメチルアンモニウム・メチルサルフェート
(融点183℃)
(A−3)オクタデシルトリメチルアンモニウム・メチルサルフェート
(融点175℃)
【0029】
[アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩]
(B−1)ドデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド
(B−2)テトラデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド
(B−3)ヘキサデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド
【0030】
[その他添加剤]
親水性有機溶剤
DEG:ジエチレングリコール
MDG:ジエチレングリコールモノメチルエーテル
BDG:ジエチレングリコールモノブチルエーテル
PG :プロピレングリコール
消泡剤
シリコーン系消泡剤(信越化学工業株式会社製、製品名:KM−73A:SAF)
【0031】
ノニオン界面活性剤
ポリエチレングリコールラウリルエーテル(エチレンオキサイド10モル付加)
(NS1)
ポリエチレングリコールノニルフェニルエーテル(エチレンオキサイド10モル付加)(NS2)
【0032】
(製剤例1〜9)
表1に示される成分および含有量(重量%)の製剤例1〜9を調製した。
すなわち、温度50℃の温水に水難溶性第4級アンモニウム塩の結晶を添加・混合し、さらにアルキルジメチルベンジルアンモニウム塩を添加・混合して、製剤例1〜9の透明で均一な水溶液をそれぞれ100gずつ調製した。
【0033】
(比較製剤例1〜8)
製剤例1〜9と同様にして、表1に示される成分および含有量(重量%)の比較製剤例1〜8の透明で均一な水溶液を調製した。
【0034】
(試験例)
容量100mLのガラス製サンプル瓶に、製剤例1〜9および比較製剤例1〜8をそれぞれ加え、製剤直後から30日間、設定温度5℃の恒温槽に静置した。
30日後、目視により製剤の性状および晶出の有無を観察した。
その結果、性状が透明で均一な水溶液または溶液であったものを「○」、晶出、固化またはゲル化したものを「×」として評価した。
得られた結果を各成分および含有量(重量%)と共に表1に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
表1の結果から、本発明の晶出防止成分を含む水性製剤(製剤例1〜9)は、温度5℃で30日間静置されても、性状が透明で均一な水溶液または溶液であることがわかる。
一方、本発明の晶出防止成分を含まない水性製剤(比較製剤1〜8)は、静置中に晶出することがわかる。特に、水と同量程度の親水性有機溶剤が配合された場合(比較製剤例1〜3)でも、またノニオン界面活性剤が配合された場合(比較製剤例4および5)でも静置中に晶出することがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度5℃の水100gに対する溶解度が5g未満である水難溶性第4級アンモニウム塩、その晶出防止成分としてアルキルジメチルベンジルアンモニウム塩および水を含むことを特徴とする水難溶性第4級アンモニウム塩の水性製剤。
【請求項2】
前記水難溶性第4級アンモニウム塩が、炭素数14〜20のアルキル基を有するアルキルトリメチルアンモニウム・メチルサルフェート、アルキルジメチルエチルアンモニウム・エチルサルフェートまたはアルキルトリメチルアンモニウム・パラトルエンスルホネートである請求項1に記載の水性製剤。
【請求項3】
前記水難溶性第4級アンモニウム塩が、ヘキサデシルトリメチルアンモニウム・パラトルエンスルホネート、ヘキサデシルトリメチルアンモニウム・メチルサルフェートまたはオクタデシルトリメチルアンモニウム・メチルサルフェートである請求項1または2に記載の水性製剤。
【請求項4】
前記アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩が、炭素数8〜18のアルキル基を有するアルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライドである請求項1〜3のいずれか1つに記載の水性製剤。
【請求項5】
前記アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩が、ドデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、テトラデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライドまたはベンザルコニウムクロライドである請求項1〜4のいずれか1つに記載の水性製剤。
【請求項6】
前記水難溶性第4級アンモニウム塩が、2〜15重量%の割合で含まれる請求項1〜5のいずれか1つに記載の水性製剤。
【請求項7】
前記アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩が、前記水難溶性第4級アンモニウム塩1重量部に対して0.1〜4重量部の割合で含まれる請求項1〜6のいずれか1つに記載の水性製剤。

【公開番号】特開2011−74020(P2011−74020A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−227515(P2009−227515)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000154727)株式会社片山化学工業研究所 (82)
【Fターム(参考)】