説明

永久磁石およびそれを用いたモータおよび発電機

【課題】 Sm−Co型磁石の鉄濃度の向上を図った上で焼結性および焼結体密度を改善し磁化を向上した永久磁石と、それを用いた可変磁束モータおよび可変磁束発電機を提供することを目的とする。
【解決手段】 本実施形態の永久磁石は、組成式:R(FepqCurCo1-p-q-rZ’ (式中、RはYを含む希土類元素から選ばれる少なくとも1種の元素、MはTi、ZrおよびHfから選ばれる少なくとも1種の元素を示し、p、q、rおよびzはそれぞれ原子比で0.25≦p≦0.6、0.005≦q≦0.1、0.01≦r≦0.1、6≦z≦9、0.003≦z’≦0.6を満足する数である)で表される焼結体を有し、この焼結体は前記Rを含む酸化物の凝集体がほぼ一様に分散していることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は永久磁石およびそれを用いた可変磁束モータ、可変磁束発電機に関する。
【背景技術】
【0002】
可変磁束モータや可変磁束発電機は、可変磁石と固定磁石の2種類の磁石が使用されており、可変磁石にはAl−Ni−Co系磁石やFe−Cr−Co系磁石が用いられている。可変磁束モータや可変磁束発電機の高性能化や高効率化のために、可変磁石には保磁力や磁束密度の向上が求められている。高性能な永久磁石としては、Sm−Co系磁石が知られている(特許文献1参照)。Sm−Co系磁石のうち、Sm2Co17型磁石は2−17型結晶相と1−5型結晶相との二相分離組織を有し、磁壁ピンニング型の保磁力発現機構により磁石特性を得ている。
【0003】
Sm2Co17型磁石は、保磁力や最大磁気エネルギー積に優れている反面、コバルトを多量に含むために高コストであり、また鉄を主とする磁石に比べて磁束密度が小さいという難点を有している。Sm2Co17型磁石の磁束密度の向上には鉄濃度を増加させることが有効であり、また鉄濃度を増加させることでSm2Co17型磁石を低コスト化することができる。しかしながら、鉄濃度を増加させると焼結性が悪化し、焼結体密度が低下してしまう傾向にあり、磁化を向上することが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平09−111383号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記問題に鑑み、Sm−Co型磁石の鉄濃度の向上を図った上で焼結性および焼結体密度を改善し、磁化を向上した永久磁石と、それを用いた可変磁束モータおよび可変磁束発電機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本実施形態の永久磁石は、組成式:R(FepqCurCo1-p-q-rZ’(式中、RはYを含む希土類元素から選ばれる少なくとも1種の元素、MはTi、ZrおよびHfから選ばれる少なくとも1種の元素を示し、p、q、rおよびzはそれぞれ原子比で0.25≦p≦0.6、0.005≦q≦0.1、0.01≦r≦0.1、6≦z≦9、0.003≦z’≦0.6を満足する数である)で表される焼結体を有する永久磁石であって、前記焼結体は、前記Rを含む酸化物の凝集体がほぼ一様に分散していることを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、Sm−Co型磁石の鉄濃度の向上を図った上で焼結性および焼結体密度を改善し、磁化を向上した永久磁石と、それを用いた可変磁束モータおよび可変磁束発電機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】焼結体のSEM二次電子像。
【図2】焼結時の酸化物の凝集過程の一例を示す模式図。
【図3】焼結時の酸化物の凝集過程の一例を示す模式図。
【図4】酸化物凝集体の平均径を求める手順を表した図。
【図5】酸化物凝集体の平均径の正規分布を示した例。
【図6】酸化物凝集体間の距離の正規分布を示した例。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本実施形態について説明する。以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための方法を例示するものであって、この発明の技術的思想は下記のものに限定するものではない。
【0010】
本実施形態の永久磁石は、
組成式:R(FepqCurCo1-p-q-rZ’ ・・・・・・・・・・・(1)
(式中、RはYを含む希土類元素から選ばれる少なくとも1種の元素、MはTi、ZrおよびHfから選ばれる少なくとも1種の元素を示し、p、q、rおよびzはそれぞれ原子比で0.25≦p≦0.6、0.005≦q≦0.1、0.01≦r≦0.1、6≦z≦9、0.003≦z’≦0.6を満足する数である)で表される焼結体を有し、この焼結体は、前記Rを含む酸化物の凝集体がほぼ一様に分散していることが好ましい。
【0011】
まず、組成式(1)中のR、Fe、M、Cu、Coについて説明する。
【0012】
<元素:R>
上記の組成式(1)において、Rとしてはイットリウム(Y)を含む希土類元素から選ばれる少なくとも1種の元素が使用される。Rはいずれも磁石材料に大きな磁気異方性をもたらし、高い保磁力を付与するものである。
【0013】
Rとしては、サマリウム(Sm)、ネオジム(Nd)、プラセオジム(Pr)から選ばれる1種を用いることが好ましく、特にSmを使用することが望ましい。Rの50原子%以上をSmとすることで、永久磁石の性能、とりわけ保磁力を再現性よく高めることができる。さらに、Rの70原子%以上がSmであることが望ましい。
【0014】
Rは、Rとそれ以外の元素(Fe、M、Cu、Co)との原子比が1:4〜1:9の範囲(z値として6〜9の範囲/Rの含有量として8〜20原子%の範囲)となるように配合することができる。Rの含有量が8原子%未満であると、多量のα−Fe相が析出して十分な保磁力が得られない。一方、Rの含有量が20原子%を超えると、飽和磁化の低下が著しくなる。なお、Rの含有量は10〜15原子%の範囲とすることがより好ましく、さらに好ましくは10.5〜12.5原子%の範囲である。
【0015】
<鉄(Fe)>
Feは主として永久磁石の磁化を担うものである。Feを多量に配合することによって、永久磁石の飽和磁化を高めることができる。ただし、Feの含有量が過剰になりすぎると、α−Fe相が析出したり、また2−17型結晶相と銅リッチ相(1−5型結晶相等)との二相組織が得られにくくなる。これらによって、永久磁石の保磁力が低下する。Feの配合量は元素R以外の元素(Fe、Co、Cu、M、O)の総量の5〜60原子%(0.05≦p≦0.6)の範囲とする。なお、Feの配合量は0.26≦p≦0.5とすることがより好ましく、0.28≦p≦0.48とすることがさらに好ましい。
【0016】
<元素:M>
Mとしては、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)およびハフニウム(Hf)から選ばれる少なくとも1種の元素が用いられる。Mを配合することによって、高い鉄濃度の組成で大きな保磁力を発現させることができる。
【0017】
Mの含有量はR以外の元素(Fe、M、Cu、Co)の総量の0.5〜10原子%(0.005≦q≦0.1)の範囲とする。q値が0.1を超えると磁化の低下が著しく、またq値が0.005未満であると鉄濃度を高める効果が小さい。元素Mの含有量は0.01≦q≦0.06であることがより好ましく、さらに好ましくは0.015≦q≦0.04である。
【0018】
MはTi、Zr、Hfのいずれであってもよいが、少なくともZrを含むことが好ましい。特に、Mの50原子%以上をZrとすることによって、永久磁石の保磁力を高める効果をさらに向上させることができる。一方、Mの中でHfはとりわけ高価であるため、Hfを使用する場合においても、その使用量は少なくすることが好ましい。Hfの含有量はMの20原子%未満とすることが好ましい。
【0019】
<銅(Cu)>
Cuは永久磁石に高い保磁力を発現させるため配合する。Cuの含有量はR以外の元素(Fe、M、Cu、Co)の総量の1〜15原子%(0.01≦r≦0.15)の範囲とする。r値が0.15を超えると磁化の低下が著しく、またr値が0.01未満であると高い保磁力を得ることが困難となる。なお、Cuの配合量は0.02≦r≦0.1とすることがより好ましく、0.03≦r≦0.08とすることがさらに好ましい。
【0020】
<コバルト(Co)>
Coは永久磁石の磁化を担うと共に、高い保磁力を発現させるために重要な元素である。Coを多く含有するとキュリー温度が高くなり、永久磁石の熱安定性も向上する。Coの配合量が少ないとこれらの効果が小さくなる。しかしながら、過剰にCoを含有させると相対的にFeの含有量が減るため、磁化の低下を招くおそれがある。Coの含有量はp、q、rで規定される範囲(1−p−q−r)とする。
【0021】
Coの一部はニッケル(Ni)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、ガリウム(Ga)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、およびタングステン(W)から選ばれる少なくとも1種の元素で置換してもよい。これらの置換元素は磁石特性、例えば保磁力の向上に寄与する。ただし、Coの過剰な置換は磁化の低下を招くおそれがあるため、置換量はCoの20原子%以下が好ましい。
【0022】
<焼結体とその製造方法>
焼結体とは、磁性体粉末を磁場中で加圧成形することで成形体を得て、その成形体を焼結することによって作製されるものである。この焼結体は、例えば以下のようにして作製される。
【0023】
(1)まず、所定量の元素を含む磁性体粉末を作製する。磁性体粉末は、例えばストリップキャスト法でフレーク状の合金を作製した後に粉砕して調製される。 ストリップキャスト法では、合金を溶湯したものを周速0.1〜20m/秒で回転する冷却ロールに傾注し、連続的に厚さ1mm以下に凝固させた薄帯を得ることが好ましい。冷却ロールの周速が0.1m/秒未満であると薄帯中に組成のばらつきが生じやすく、周速が20m/秒を超えると結晶粒が単磁区サイズ以下に微細化し、良好な磁気特性が得られない。冷却ロールの周速は0.3〜15m/秒の範囲であることがより好ましく、さらに好ましくは0.5〜12m/秒の範囲である。
【0024】
また、別の方法としては、アーク溶解や高周波溶解後に鋳造して、得られた合金のインゴットを粉砕して磁性体粉末を得ることもできる。
【0025】
さらにまた、別の方法としては、メカニカルアイロニング法やメカニカルグライディング法、ガスアトマイズ法、還元拡散法などを採用しても良い。
【0026】
いずれの方法においても、粉砕前の合金に対し、必要に応じて熱処理を施して合金組成の均一化をすることが可能である。なお、粉砕はジェットミルやボールミルなどを用いて行う。また、粉砕は磁性体粉末の酸化を防ぐために不活性ガス雰囲気もしくはエタノール中で行うことが望ましい。
【0027】
(2)次に、電磁石等の中に設置した金型内に磁性体粉末を充填し、磁場を印加しながら加圧成形することによって、結晶軸を配向させた成形体を作製する。この成形体を1100〜1300℃の温度で0.5〜15時間焼結して緻密な焼結体を得る。焼結温度が1100℃未満であると焼結体の密度が不十分となり、1300℃を超えると磁性体粉末中のSm等のRが蒸発して良好な磁気特性が得られない。なお、焼結温度は1150〜1250℃の範囲とすることがより好ましく、さらに好ましくは1180〜1230℃の範囲である。
また、焼結時間が0.5時間未満の場合には、焼結体の密度が不均一になるおそれがある。一方、焼結時間が15時間を超えると、Sm等のRが蒸発して良好な磁気特性が得られない。なお、焼結時間は1〜10時間の範囲とすることがより好ましく、さらに好ましくは1〜4時間の範囲である。また、成形体の焼結は酸化を防止するために、真空中やアルゴンガス等の不活性雰囲気中で行うことが好ましい。
【0028】
(3)次に、得られた焼結体に対して、溶体化処理を施して結晶組織を制御する。溶体化処理は相分離組織の前駆体である1−7型結晶相を得るために、1130〜1230℃の範囲の温度で0.5〜8時間熱処理することが好ましい。1130℃未満の温度および1230℃を超える温度では、溶体化処理後の試料中の1−7型結晶相の割合が小さく、良好な磁気特性が得られない。なお、溶体化処理温度は1150〜1210℃の範囲であることがより好ましく、さらに好ましくは1160℃〜1190℃の範囲である。
【0029】
溶体化処理の時間が0.5時間未満の場合には、構成相が不均一になりやすい。また、8時間を超えて溶体化処理を行うと、焼結体中のSm等のRが蒸発する等して、良好な磁気特性が得られないおそれがある。なお、溶体化処理の時間は1〜8時間の範囲とすることがより好ましく、さらに好ましくは1〜4時間の範囲である。また、溶体化処理は酸化防止のために、真空中やアルゴンガス等の不活性雰囲気中で行うことが好ましい。
【0030】
(4)次に、溶体化処理後の焼結体に時効処理を施す。時効処理は一段目の処理として700〜900℃で0.5〜8時間保持した後、0.2〜2℃/分の冷却速度で400〜650℃の冷却終了温度まで徐冷し、二段目の処理として一定時間保持した後、引き続き炉冷により室温まで冷却する。一段目の処理の温度が700℃未満および900℃を超える場合,均質な粒界相と2−17相の混合相が得られず,良好な磁気特性が得られない。より好ましい温度は750〜900℃であり、さらに好ましくは800〜880℃である。また、一段目の処理の保持時間が0.5時間未満の場合、1−7相から粒界相の析出が十分に完了しないおそれがある。一方、8時間を超える場合、粒界相の厚みが厚くなることで保磁力が巨大化してしまい、可変磁石として適した磁石特性が得られない。またさらに、結晶粒の粗大化などの理由により良好な磁気特性が得られない可能性もある。なお、より好ましい時効処理の時間は1〜6時間であり,さらに好ましい時効処理時間は2〜4時間である。
【0031】
また、徐冷の速度は0.2〜2℃/分であり、0.2℃/分未満の場合,粒界相の厚みが大きくなることで保磁力が巨大化してしまい,可変磁石として適した磁石特性が得られない。また、結晶粒の粗大化などの理由により良好な磁気特性が得られない。一方2℃/分を超えると均質な粒界相と2−17相の混合相が得られず、良好な磁気特性が得られない。なお、より好ましい徐冷の速度は0.4〜1.5℃/分であり、さらに好ましい速度は0.5〜1.3℃/分である。なお、上記では一段目の処理、二段目の処理としたが、多段の処理を施しても良い。
【0032】
時効処理は酸化防止のため通常、真空中またはアルゴンガス中で行う。時効処理のような結晶組織制御は磁石の保磁力を制御するために重要である。
【0033】
本実施形態の永久磁石はボンド磁石として利用することも可能である。例えば特開2008−29148または特開2008−43172に開示されているような可変磁束ドライブシステムにおける可変磁石に用いることによってシステムの高効率化、小型化、低コスト化が可能となる.
また,本実施形態の永久磁石はDyを使用せずSm−Co系をベースとしていることから耐熱性も良好である.
<酸化物の凝集体>
ところで、上述のように酸化した磁性体粉末は焼結体において保磁力、磁化といったいわゆる磁石特性を劣化させてしまう。この酸化物はおもにSm等のRの酸化物で形成される場合が多い。具体的には、SmO、SmO、Sm等である。
【0034】
図1に、RをSmとした組成の焼結体のSEM二次電子像を示す。図1(a)において空孔(白色、黒色の部位)が多数見受けられるが、この空孔の一つを拡大したものが図1(b)である。図1(b)には空孔の中に凝集体が確認される。そこで図1の(a)のA(焼結体の母相)および(b)のB(凝集体)の酸素濃度を測定したところ、B(凝集体)の酸素濃度がA(焼結体の母相)のそれに比べて、著しく大きいことがわかった。
【0035】
図2、図3に焼結時の酸化物の凝集過程の模式図を示す。図2は比較的大きな空孔の中に酸化物の凝集体が存在する場合の模式図、図3は磁性体粉末間の間隙に酸化物が過剰に含まれている場合の模式図である。図2、図3について、それぞれ(a)は成形体、(b)焼結中、(c)焼結体を表している。
【0036】
たとえば、Smの場合、融点がおよそ2350℃であり、上記焼結温度である1200℃近傍では、溶融せず安定に存在すると考えられる。成形体1に大きな空孔があると、図2のように焼結過程おいて、酸化物2は空孔に留まり、成形体1中の空孔の消滅を阻害し焼結体4の緻密化を妨げる。図1の凝集体は、空孔にとどまったSmの酸化物の凝集体であると考えられる。
【0037】
また、成形体1にたとえ大きな空孔が存在していないとしても、酸化物2を多く含む場合は焼結すると、図3のように、焼結過程においてSmの酸化物2どうしが凝集することで、磁性体粉末3間に間隙を生じ、結果として焼結体4の密度を低下させる恐れがある。
【0038】
以上のようにSm等のRの酸化物は焼結体中に存在しないことが好ましいと解釈されうる。しかしながら、その存在状態によっては磁石特性を向上させる因子となる。すなわち、上述のように焼結温度においても焼結体に安定して存在するため、結晶粒界の移動をピン止めし、焼結時の結晶の粗大化を抑制する効果があると考えられる。結晶の粗大化は、磁石の保磁力の低下を促し磁石特性を低下させる。したがって、Sm等のRの酸化物が過剰に凝集せずに焼結体にほぼ一様に分散した状態で存在することで、焼結体の密度、緻密性の向上および磁石特性の改善が期待される。
【0039】
以上を勘案すると、焼結体に含まれる酸素(O)は、式(1)のZ’において0.003≦z’≦0.6が好ましい。0.003に満たないと、ピン止めに作用するRの酸化物が相対的に少なくなり、結晶粒の粗大化を誘発し好ましくない。また、0.6を超えると、Sm等のRの酸化物の凝集が顕著となり、密度の向上が望めず好ましくない。なお、よりのぞましいZ’の範囲は0.005≦z’≦0.5であり、さらに好ましくは0.005≦z’≦0.4である。
【0040】
<酸化物凝集体の平均径と分布>
本実施形態の永久磁石は、式(1)で表される焼結体を有し、この焼結体は、Rを含む酸化物の凝集体がほぼ一様に分散していることが好ましい。また、凝集体は、平均径が10μm以下であってもよい。
【0041】
ここで、Rを含む酸化物の凝集体が「ほぼ一様に分散されている」とは以下のように示される。また併せて、図4を用いて酸化物凝集体の平均径の求め方について説明する。
【0042】
(1)まず、焼結体のSEM観察を行う。焼結体を1〜3mm角程度に粉砕し、観察面を研磨によって平滑にした後、倍率1K〜3Kで観察する。更にEDXによって各元素分布を確認する(図4(a))。得られた反射電子像に観察される酸化物凝集体の周長(以下、Lと記載する)を測定する。
【0043】
(2)Lを用いて、様々な形状をもつ酸化物凝集体を円に射影する(図4(b))。焼結中の酸化物凝集体には凹凸を多く持つ形状はほぼみられず、楕円形に近いものが多い。凹凸の多い形状であれば、その重心をとり円へ射影する方法が近似的に好ましいが、楕円形状を円へ射影するにはLから平均径(以下、rと記載する)を算出する方が近似的に好ましい。ここで、L=2πrより、r=L/2πを算出し、得られた値をrとした円へ射影する。
【0044】
(3)SEM像の視野に含まれる全ての酸化物凝集体を前記手法にて円へ射影後、各凝集体間の最近接距離(以下、dと記載する)を測定する(図4(c))。中心となる酸化物凝集体(C)5を定め、最近接距離(d)7を測定する。凝集体(C)5に最も近接している凝集体(E)6の各々の中心を結ぶ線分(D)から、2つの凝集体の半径r8とr9を差し引いたもの、すなわちd=D-(r+r)を最近接距離とする。
【0045】
(4)(2)より求められた凝集体の平均径、および(3)より求めた凝集体間距離を用いて、平均値(μ,μ)および標準偏差(σr,σ)を求め、正規分布をプロットし、半値幅(Γr, Γl)を求める(図4,図5)。
【0046】
(5)ΓrおよびΓlの値がそれぞれΓr<25、Γl<10、であり酸化凝集体の平均粒径が10μm以下を満たすものを、Rを含む酸化物の凝集体が「ほぼ一様に分散されている」とみなす。
【0047】
なお、Sm等のRの酸化物が10μm以下で、ほぼ一様に分散した焼結体を作製するには、真空中やアルゴンガス等の不活性雰囲気中で焼結することが好ましい。酸化物が局所的に析出せず、凝集体の凝集を抑制するためである。
【0048】
また、磁性体粉末は全体の60%以下が3μm以下の粒径であり、かつその残部の50%以上が、3〜10μmであると好ましい。これは、Sm等のRの酸化物による上述のピン止めの効果を発現させるためである。
【0049】
上記の条件で、焼結体は8g/cm以上の密度を得られ、焼結体の配向度を80%以上に制御することができる。焼結体の配向度とは以下の式(2)で定義する。
【0050】
配向度(%)= Mr / Ms × 100 ・・・・・・・・・・・(2)
式(2)においてMsとは、飽和磁化を示し、1200〜1600kA/mの磁界を印加した際に得られる最大の磁化である。Mrとは残留磁化を示し,1200〜1600kA/mの磁界を印加した後に磁界を取り除いた際に残留する磁化のことである.
本実施形態の永久磁石は、先に述べたように磁性体粉末を磁場中で圧縮成形することによりThZn17型結晶相(もしくはCaCu型結晶相、TbCu型結晶相)における磁化容易軸である結晶c軸が磁化印加方向と平行となるように各々の磁性体粉末が回転することで配向する。
【0051】
理想としては全ての磁性体粉末における結晶c軸が磁化容易軸に平行となっていることが望ましい。c軸に揃っていない結晶を含んでいる場合は理想的な配向組織を有する焼結体に比べ磁化が低くなる。
【0052】
磁性体粉末の粒径が極端に小さい場合には磁性体粉末の回転に必要なトルクが得られない。磁性体粉末一つ一つが磁石のような性質を帯び、磁性体粉末どうしが凝集して安定することで,外部磁界を印加しても磁性体粉末の回転が起きないことがある。このような磁性体粉末を用いると焼結体の配向度は低くなる。焼結体の高密度化にあたっては磁性体粉末の粒径は小さいことが望まれるが、過度に小さいと一つの磁性体粉末内に多数の結晶粒が含まれ、多結晶状態となる。このような粉末における各結晶粒の結晶c軸は必ずしも同じ方向を向いているとは限らず、磁化の低下が生じてしまう可能性がある。特に、粉末粒径が3μm以下の粉末の存在が配向度に大きく影響することを見出した。
【実施例】
【0053】
以下、本実施形態の実施例とその評価について説明する。
【0054】
(実施例1〜3)
各種原料をArガス雰囲気においてアーク溶解して得られた合金に1170℃,1時間の熱処理を施した。この合金を粗粉砕した後、ジェットミルを行い、粒径の比率が異なる3種の磁性体粉末を得た。
【0055】
これらの磁性体粉末を磁界中で加圧成形することで成形体を得た。アルゴンガス雰囲気中で1210℃、2時間焼結し、引き続き1170℃、1時間の溶体化処理により焼結体を得た。得られた焼結体を時効熱処理として850℃、4時間保持し、引き続き600℃まで1.2℃/minの冷却速度で徐冷を行い、永久磁石を作製した。実施例1〜3の永久磁石の組成は表1の通りである。なお焼結磁石の組成はICP法により確認した。
【0056】
表2に各磁性体粉末の粒子サイズの構成比率、および得られた永久磁石の酸素濃度、酸化物凝集体の平均径、密度、配向度、磁化、保磁力を示す。
【0057】
永久磁石の酸素濃度は、ガス分析により測定した。酸化物凝集体の平均径は、走査電顕による組織観察を行い,既述の測定方法で測定した。密度は、アルキメデス法で算出した。配向度は、既述の測定方法で測定した。永久磁石の磁化、保磁力の評価はBHトレーサ(東栄工業製)で評価した。
【0058】
(実施例4〜9)
各種原料をArガス雰囲気においてアーク溶解して得られた合金を石英製のノズルに装填し、高周波誘導加熱で溶融した後、溶湯を周速0.6mm/秒で回転する冷却ロールに傾注し、連続的に凝固させた薄帯を作製した。この薄帯を粗粉砕した後、ジェットミルにより粉砕して磁性体粉末を得た。
【0059】
これらの磁性体粉末を磁界中で加圧成形することで成形体を得た。アルゴンガス雰囲気中で1250℃、1時間焼結し、引き続き1190℃、4時間の溶体化処理により焼結体を得た。得られた焼結体を時効熱処理として850℃、3時間保持し、引き続き650℃まで1.3℃/minの冷却速度で徐冷を行い、永久磁石を作製した。実施例4〜9の永久磁石の組成は表1の通りである。なお焼結磁石の組成は実施例1〜3同様ICP法により確認した。
【0060】
表2に各磁性体粉末の粒子サイズの構成比率、および得られた永久磁石の酸素濃度、酸化物凝集体の平均径、密度、配向度、磁化、保磁力を示す。
【0061】
(比較例1)
実施例1の合金において、粒径の比率が異なる以外は実施例1〜3の条件にて永久磁石を得た。表2に磁性体粉末の粒子サイズの構成比率、および得られた永久磁石の酸素濃度、凝集体の平均径、密度、配向度、磁化、保磁力を示す。
【0062】
(比較例2)
実施例7の合金において、粒径の比率が異なる以外は実施例4−9の条件にて永久磁石を得た。表2に磁性体粉末の粒子サイズの構成比率、および得られた永久磁石の酸素濃度、凝集体の平均径、密度、配向度、磁化、保磁力を示す。表2の磁性体粉末の構成比率を見ると、3μm以下の粒径の割合が50%以下、3μm〜10μmの粒径の割合が残部の50%以上、であると、配向度が80%以上となる。そのときの酸素濃度は0.01〜1.3wt%であり、酸化物凝集体の平均径は10μm以下である知見を得た。
【0063】
一方、比較例1のように、3μm以下の粒径の割合が50%以下である場合は、密度や配向度が相対的に小さく、磁石特性が低下する傾向が見られた。
【0064】
また、比較例2のように、3μm以下の粒径の割合が50%以下であっても、残部の50%以上が10μm以上の粒径であると、密度や配向度が相対的に小さく、磁石特性が低下する傾向が見られた。
【表1】

【表2】

【符号の説明】
【0065】
1 成形体
2 磁性体粉末
3 Rの酸化物
4 焼結体
5 酸化物凝集体(C)
6 酸化物凝集体(E)
7 酸化物凝集体の最近接距離(d)
8 凝集体(C)の半径
9 凝集体(E)の半径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式:R(FepqCurCo1-p-q-rZ’
(式中、RはYを含む希土類元素から選ばれる少なくとも1種の元素、MはTi、ZrおよびHfから選ばれる少なくとも1種の元素を示し、p、q、rおよびzはそれぞれ原子比で0.25≦p≦0.6、0.005≦q≦0.1、0.01≦r≦0.1、6≦z≦9、0.003≦z’≦0.6を満足する数である)
で表される焼結体を有する永久磁石であって、
前記焼結体は、前記Rを含む酸化物の凝集体がほぼ一様に分散していること
を特徴とする永久磁石。
【請求項2】
前記凝集体は、平均径が10μm以下であること
を特徴とする請求項1に記載の永久磁石。
【請求項3】
前記焼結体は、密度が8g/cm以上、配向度が80%以上であること
を特徴とする請求項1または2に記載の永久磁石。
【請求項4】
前記焼結体は、磁性体粉末から製造され、
前記磁性体粉末の50%以上が、粒径3μm以下であり、
その残部の50%以上が、粒径3μm以上、10μm以下であること
を特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の永久磁石。
【請求項5】
前記組成式中のRは、50原子%以上がSmであること
を特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の永久磁石。
【請求項6】
前記組成式中のCoは、20原子%以下がNi、V、Cr、Mn、Al、Ga、Nb、Ta、Wのいずれかで置換されていること
を特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の永久磁石。
【請求項7】
前記組成式中のMは、50原子%以上がZrであること
を特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の永久磁石。
【請求項8】
請求項1〜5記載の永久磁石を具備することを特徴とする可変磁束モータ。
【請求項9】
請求項1〜6記載の永久磁石を具備することを特徴とする可変磁束発電機。

【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−216716(P2011−216716A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−84334(P2010−84334)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】