永久磁石を備える、磁束収束タイプの同期回転電気機械
【課題】 永久磁石の減磁の危険性が制御されている、さらには取り除かれている、磁束収束タイプのロータを有する同期回転電気機械を提供する。
【解決手段】 このロータ(11)は、複数の永久磁石(PM)によって形成されている、互い違いの複数のN磁極とS磁極とを備えている。永久磁石は、ロータの磁性体に設けられているスロット(E1)に受容されている。ロータは、各永久磁石に対して、磁束弱め制御された磁束を通過させる磁気回路を有している。この磁気回路は、等価的に磁気抵抗(Rf)から成る磁束弱め回路を有し、永久磁石の減磁の危険性の回避を確実にするために、磁束弱め回路の磁気抵抗と、永久磁石の内部磁気抵抗(Ra)との比(Rf/Ra)が、あらかじめ定められた範囲内の値になるように、磁束弱め回路の磁気抵抗は定められている。このあらかじめ定められた範囲内の値は、永久磁石のタイプに応じて、約0.3〜3の範囲である。
【解決手段】 このロータ(11)は、複数の永久磁石(PM)によって形成されている、互い違いの複数のN磁極とS磁極とを備えている。永久磁石は、ロータの磁性体に設けられているスロット(E1)に受容されている。ロータは、各永久磁石に対して、磁束弱め制御された磁束を通過させる磁気回路を有している。この磁気回路は、等価的に磁気抵抗(Rf)から成る磁束弱め回路を有し、永久磁石の減磁の危険性の回避を確実にするために、磁束弱め回路の磁気抵抗と、永久磁石の内部磁気抵抗(Ra)との比(Rf/Ra)が、あらかじめ定められた範囲内の値になるように、磁束弱め回路の磁気抵抗は定められている。このあらかじめ定められた範囲内の値は、永久磁石のタイプに応じて、約0.3〜3の範囲である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、永久磁石を備える、磁束収束タイプの同期回転電気機械に関する。より詳細には、本発明は、電気自動車またはハイブリッド自動車の発電機または電気駆動エンジンなどに使用するための、前記のタイプの同期回転電気機械に関する。
【背景技術】
【0002】
出力、出力/重量比、および出力/体積比に関する性能の改善によって、永久磁石を備える同期エンジンは、今日、自動車の駆動分野において広く用いられている。また、希土類永久磁石を、大規模に、かつ採算の採れる状態で利用可能であるために、次世代の自動車において、このような電気エンジンを選択することが可能である。
【0003】
このような電気エンジンは、広範囲の出力および速度を有するものとすることができ、すべての全電気自動車、および「マイルドハイブリッド」および「フルハイブリッド」として知られているタイプの低二酸化炭素ガス排出自動車に応用可能である。
【0004】
「マイルドハイブリッド」への応用には、一般に、およそ8〜10kWの出力の電気エンジン、例えば熱エンジンの前方に搭載されて、駆動ベルトにより熱エンジンに結合されている電気エンジンが該当する。このような電気エンジンにおいては、特に加速時に、トルクの発生を電気的に補助するように補助動力を供給することによって、必要な熱容量を低減させる(エンジンを小型化する)ことが可能である。さらに、この電気エンジンにより、例えば都市環境において、低速駆動を行うこともできる。「フルハイブリッド」タイプへの応用には、車両の駆動系に、1つ以上の電気エンジンを、より高度に統合させた、シリーズ方式および/またはパラレル方式の構造において、通常、30〜50kWの出力の電気エンジンが該当する。
【0005】
永久磁石を備える公知の種々の同期エンジンのなかで、磁束収束タイプの同期エンジンが、その優れた性能のゆえに、特に関心を持たれている。この磁束収束タイプの同期エンジンにおいては、複数の永久磁石が、ロータの磁性体内に埋め込まれており、概ね放射状の構造を呈するように構成されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
自動車において、車両の移動動作の全てにおける駆動に用いられる電気エンジンは、多様な速度状態および充電状態に曝される。高速域を得るための磁束弱め(または弱め磁束)ストラテジー(「界磁弱めストラテジー」とも呼ばれる)によって補完された最大トルク制御ストラテジーが、このような多様な速度状態および充電状態に対する電気エンジンの制御への良好な解決方法であるように思われる。しかしながら、永久磁石を備えるエンジンにおける磁束弱めには、永久磁石の減磁の生じる危険性が伴い、永久磁石の温度が高い場合には、その危険性がさらに増す。磁束収束タイプのエンジンは、ロータ内に永久磁石が配置されているために、特に、この減磁の危険性にさらされる。
【0007】
したがって、永久磁石の減磁の危険性が制御されているか、さらには完全に取り除かれている、永久磁石を備える、磁束収束タイプの同期回転電気機械の提供が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ステータ巻線を有するステータとロータとを備えている回転電気機械に関する。ロータは、磁束収束タイプとして知られている概ね放射状に配置された、複数の永久磁石によって形成されている、互い違いの複数のN磁極とS磁極とを備えており、各永久磁石は、ロータの磁性体に設けられている、対応する第1のスロットに受容されている。
【0009】
本発明によれば、ロータは、各永久磁石に対して、磁束弱め制御された磁束を通過させる少なくとも1つの磁束弱め磁気回路を有しており、この磁束弱め磁気回路は、等価的に磁気抵抗から成る磁束弱め回路を含み、永久磁石によって発生させる磁束を打ち消すように、回転電気機械の短絡電流の強度に等しい強度の電流が、ステータ巻線に注入されたときに、永久磁石が減磁する危険性を回避することを確実にするために、磁束弱め回路の磁気抵抗と、永久磁石の内部磁気抵抗との比が、約0.3〜約3のあらかじめ定められた範囲内の値になるように、磁束弱め回路の磁気抵抗は、永久磁石の内部磁気抵抗の関数として定められている。
【0010】
永久磁石は、概ね矩形状であることが好ましい。
【0011】
本発明の特定の一実施形態によれば、永久磁石は、ネオジム・鉄・ボロン(NdFeB)系の永久磁石であり、あらかじめ定められた範囲内の値は、約0.7〜約1.5の範囲である。
【0012】
本発明の一特性によれば、磁束弱め磁気回路の各々は、対応する磁極の磁性体に設けられた第2のスロットを有し、この第2のスロットは、対応する磁極の下部中央部分に位置しており、かつ対応する磁極を画定している2つの連続する半径方向に延びる永久磁石の下端間の概ね等距離の位置に中心を有し、磁束弱め回路の磁気抵抗に寄与する第1の磁気抵抗を与えるようになっている。
【0013】
本発明のさらなる一特性によれば、磁束弱め磁気回路の各々は、対応する磁極の磁性体に設けられた狭窄部を有し、この狭窄部は、対応する永久磁石の下端と第2のスロットとの間の、対応する磁極の下部部分に位置しており、かつ磁束弱め回路の磁気抵抗に寄与する第2の磁気抵抗を与えるようになっている。
【0014】
本発明のさらなる一特性によれば、磁束弱め磁気回路の各々は、ロータの磁性体の外縁面と、対応する永久磁石の受け部を形成している第1のスロットの内部とに通じているリセスを有し、このリセスは、概ねロータの半径方向に、またロータの軸に平行に延びており、磁束弱め回路の磁気抵抗に寄与する第3の磁気抵抗を与えるようになっている。
【0015】
本発明のさらなる一特性によれば、永久磁石の受け部を形成している各第1のスロットは、その底部に、対応する永久磁石によって占められておらず、この永久磁石の底部における永久磁石の局所的減磁を阻止する第1の磁気抵抗空間を形成している、少なくとも1つの第1の空き空間を有している。
【0016】
本発明のさらなる一特性によれば、永久磁石の受け部を形成している第1のスロットの各々は、その上端部に、対応する永久磁石によって占められておらず、この永久磁石の上端部における永久磁石の局所的減磁を阻止する第2の磁気抵抗空間を形成している、少なくとも1つの第2の空き空間を有している。
【0017】
本発明のさらなる一特性によれば、ロータは、各磁極において、この磁極を画定している2つの連続する永久磁石間で、磁極の磁性体内に半径方向に延びている第3のスロットを有しており、この第3のスロットは、ロータの中心部分を通る磁束の磁束弱め制御に関与する下方部分と、ロータの機械的慣性の低減に関与する上方部分とを有している。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】永久磁石を備える、磁束収束タイプの磁束弱め可能な回転電気機械の、本発明による一実施形態の構造を示す概要図である。
【図2】図1の回転電気機械のロータの磁性体に形成されている各スロットを示す図である。
【図3】細片を上端に組み込んだ永久磁石の取り付け構造を示す図である。
【図4】図1の回転電気機械のロータの永久磁石に対する磁束弱め磁気回路の磁気抵抗網を示す図である。
【図5】回転電気機械の動作点を説明するための、永久磁石の磁化曲線の図である。
【図6a】ロータの、スロットE3の両側の磁性体間の連絡部を形成している部分の第1の実施例を示す図である。
【図6b】ロータの、スロットE3の両側の磁性体間の連絡部を形成している部分の第2の実施例を示す図である。
【図7】図6aおよび図6bの、連絡部を形成している部分の高さHの関数としての、回転電気機械のトルク曲線の図である。
【図8】図6aおよび図6bの、連絡部を形成している部分の高さHの関数としての、ロータの慣性曲線の図である。
【図9】図6aおよび図6bの、連絡部を形成している部分の長さLの関数としての、回転電気機械のトルク曲線の図である。
【図10】図6aおよび図6bの、連絡部を形成している部分の長さLの関数としての、ロータの慣性曲線の図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
添付図面を参照して、いくつかの実施形態に関する以下の説明を読むことにより、本発明の他の特性および利点が明らかになると思う。
【0020】
図1は、本発明による磁束弱め可能な回転電気機械の特定の一実施形態の構造を示している。この回転電気機械は、永久磁石が埋め込まれた、磁束収束タイプの回転電気機械であり、ステータ10およびロータ11を備えている。
【0021】
本発明による回転電気機械の一具体例は、例えば「マイルドハイブリッド」として知られているタイプの自動車に応用される、8〜10kWの出力の駆動エンジンである。この特定の一実施形態によれば、駆動エンジンは、60個のリセス101を有するステータ10と、総計10個の交互に配置されたN極とS極とを有するロータ11とを備えている。ロータ11は、約100mmの直径、および約50mmの軸方向の長さを有している。ロータ11は、長さ(L25)×高さ(ha)×幅(la)=50mm×25mm×5mmの寸法を有する、概ね矩形状の10個の永久磁石PMを備えている。
【0022】
ステータ10およびロータ11は、従来どおりに、磁性体を形成している金属シートパケットを備えている。
【0023】
ステータ10のリセス101は、ステータ巻線(図示せず)を受容するために設けられており、隣接し合う2つのリセス101間には、ステータの歯が形成されている。リセス101は、実施形態に応じて、大きな歯上に巻かれる集中巻線、または分布巻線を受容するように形成されている。
【0024】
ロータ11は、多重に細裂したシリンダ状の全体形状を呈しており、各細裂部は、ロータの1つの磁極に相当している。
【0025】
磁束収束タイプのロータ構造が得られるように、永久磁石PMは放射状に配置されている。いくつかの実施形態においては、永久磁石PMは、ロータ11の半径方向に関して、わずかにアンバランスに配置されている。永久磁石PMは、ネオジム・鉄・ボロン(NdFeB)系、サマリウム・鉄(SmFe)系、またはサマリウム・コバルト(SmCo)系などの希土類永久磁石、または焼結フェライトまたは接合フェライトから得られる永久磁石であることが好ましい。
【0026】
ロータ11の面端が開口し、駆動シャフトAを受けるようになっている中心孔を有している。本発明においては、駆動シャフトAは、想定される応用に応じて、磁性体で作っても、非磁性体で作ってもよいことに留意されたい。
【0027】
ロータ11は、磁極毎に反復して形成されており、概ねロータの全長にわたって軸方向に延びているスロットE1、E2、E3を有している。
【0028】
ロータ11の組み立てに寄与するように、スロットE1、E2、E3が形成されていない最後の金属シートを、ロータ11の両面端に設けてもよい。ロータ11の組み立てのために、さらに、金属シートパケットの端部にはんだ付け点(図示せず)が、また中心孔に平行に貫通連接棒(図示せず)が設けられている。貫通連接棒は、適用例に応じて、磁性体で作られている場合もあるし、非磁性体で作られている場合もある。ロータ11の金属シートパケットを貫通する貫通連接棒の通路として、スロットE3を用いると有利である。
【0029】
この特定の実施形態においては、スロットE1、E2、E3は、各々10個である。この数は、ロータ11の磁極の数N=10と一致している。
【0030】
次に、図2および図3を参照して、スロットE1、E2、E3について、詳細に説明する。
【0031】
スロットE1は、永久磁石PMのための、概ね長方形の受け部を形成している。スロットE1は、永久磁石PMによって完全には占められておらず、ロータ11の磁性体、および永久磁石PM内の磁束の通路を制御するために、磁気抵抗および磁気障壁の機能を果たす、残された部分を有している。
【0032】
スロットE1は、リセスE10を介して、ロータ11の外縁で開口している。リセスE10は、ロータ11の全長にわたって軸方向に延びており、したがって、隣接し合う2つの磁極を空間的に隔てている。したがって、隣接し合う2つの磁極に、それぞれ第1および第2の先端部B1、B2が形成されている。第1の先端部B1と第2の先端部B2とは、対向し合っており、永久磁石PMに及ぼされる遠心力の作用に対抗して、永久磁石PMを、その受け部に保持するようになっている。
【0033】
さらに、磁気抵抗空間E11が、永久磁石PMの上面と先端部B1、B2の下面との間に設けられている。この磁気抵抗空間E11は、スロットE1のうちの、永久磁石PMによって占められていない空き空間である。
【0034】
図3は、先端部B1およびB2の内部への、永久磁石PMの実装状態の詳細を示している。図3におけるこの実装状態は、細片LMが設けられている、特定の一実施形態に対応している。
【0035】
細片LMは、永久磁石PMの上面と、先端部B1、B2の下面との間に配置されている。細片LMは、例えばガラス繊維樹脂中にエポキシ樹脂が充填されているタイプの充填プラスチック、複合材料、または変形可能な非磁性金属材料で作られている。この細片LMは、永久磁石PMの上面および先端部B1、B2に及ぼされる機械的作用を分散させ、また永久磁石PMのいかなる変位も、変形によって吸収する機能を有している。本発明の発明者によってなされた試験において、永久磁石PMに加えられる遠心力は、相当に大きくなることが分かった。回転電気機械が超高回転速度に達すると、遠心力の効果によって、永久磁石PMは、ロータ11の回転軸(駆動シャフト)から遠ざかろうとし、先端部B1、B2は、ロータ11の外部に向かって変形する危険性が生じる。細片LMは、機械的応力の、先端部B1、B2間へのより良好な分散に寄与し、また永久磁石PMのいかなる変位も、変形によって吸収し、それによって、永久磁石PMの破損、および/または先端部B1、B2の変形の危険性を減少させる。上述の試験により、このような機能を十分に果たすためには、細片LMは、少なくとも0.1mmの厚さを有することが望ましいことが分かった。
【0036】
さらに、本発明によれば、先端部B1、B2の下面が、永久磁石PMの上面に対して、傾斜角αで傾斜している。応用例に応じて、例えばα=0.1〜15°の範囲の角度を有する面取りを行うことによって、この傾斜を得ることができる。
【0037】
図3に示すように、傾斜角αを有するこの面取りに関連して、半径Rの丸み付けによって、機械的な補強を行うことが好ましい。この丸み付けは、先端部B1、B2の面取りされた下面と、永久磁石PMの受け部の内壁を形成している、概ね半径方向に延びている対応する面との間で行われている。半径Rは、先端部B1、B2の深さLBの0.2〜0.9倍の範囲の値を有することが好ましい。例えば半径Rは、約0.5〜約1.5mmの範囲の値を有している。図3に示すように、この実施形態においては、永久磁石PMの端部と、半径Rの丸み付け部とが接触しないように、永久磁石PMの上部に、面取り部CF、またはその均等物(丸み付け部)が形成されている。用語「面取り」は、丸み付けなどの均等物も包含するもので、以下の説明および請求項においては、面取り部CFという言い方のみを用いる。
【0038】
本発明の発明者によってなされた試験によると、本発明が適用される種類の回転電気機械においては、0〜20000rpmの回転速度範囲において生じる遠心力に対して、上述の範囲の傾斜角αおよび半径Rで、最適な耐性が得られ、満足な結果が生じることが示された。
【0039】
細片LMは、機械的な力を、2つの先端部B1、B2に分散させ、またその厚さが十分に厚ければ、永久磁石PMの端部の面取りが不要になる場合もある。
【0040】
リセスE10および磁気抵抗空間E11によって生み出される磁気抵抗によって、また後述する、永久磁石PMに生じる分極へのそれらの関与によって、端部における永久磁石PMの局所的減磁(消磁を含む)が防止されることに留意されたい。
【0041】
図2に、より詳細に示されているように、スロットE1は、ロータ11の駆動シャフトの近傍の底部に、磁気抵抗空間E12を有している。磁気抵抗空間E12は、この実施形態においては、永久磁石PMによって占められずに、空いていて、空気で満たされており、磁気抵抗を生み出すことによって、永久磁石PMの局所的減磁を阻止している。
【0042】
スロットE2は、本質的に、ロータの中心部分を通る磁束、言い換えると、永久磁石PMの底部と、ロータの駆動シャフトAとの間の磁性体内の磁束の磁束弱め制御を行うための磁気抵抗、および磁気障壁の機能を有している。これらのスロットE2は、この特定の実施形態においては、空気で満たされていることに留意されたい。応用例によっては、磁性材料、または低比透磁率を有する非磁性材料で、スロットE2を満すことがある。
【0043】
スロットE3は、いくつかの機能を果たす。概括的に言うと、その機能は、本質的に、スロットE2と同様の、ロータの中心部分を通る磁束の磁束弱め制御、およびロータ11の慣性の低減に寄与することである。この実施形態において、リセスE10、磁気抵抗空間E11、E12、およびスロットE2と同様に、これらのスロットE3は、空気で満たされている。応用例に応じて、低密度ではあるが、非磁性材料または磁性材料で、これらのスロットE3を満たすことがある。
【0044】
この例においては、スロットE3は、連続する2つの永久磁石PMの間の中央に、かつ対称的な形状を呈し、ロータ11内に放射状に配置されているように示されているが、本発明の別の実施形態においては、スロットE3は、特にその上部において、永久磁石PMの間の中央に配置されていなくてもよく、また対称的な形状を呈していなくてもよいことに留意されたい。
【0045】
図2に詳細に示すように、符号E4が付されている別のスロットが、各磁極において、スロットE3の両側部に配置されている。スロットE4は、ロータ11の慣性の低減に寄与し、かつ永久磁石PMの磁束の通過を可能な限り妨害しないように、スロットE4間の磁力線に並ぶように配置されている。この実施形態においては、スロットE4は、スロットE3の各側方に2個ずつ存在する。より一般的には、スロットE4の数は、応用および利用可能領域に応じて変更することができる。スロットE4の数は、例えば1〜8個の範囲で変更することができるが、本発明において、2個または3個が妥当である。
【0046】
さらに、金属シートを切るための実務的基準として、金属シートの厚さの、場合に応じて1〜2倍の幅が必要であることに注意されたい。このことは、言い換えると、例えばロータの隣接し合う2個のスロット間、またはスロットとロータの外縁との間に、単一の金属シートの厚さの少なくとも1〜2倍の幅がなければならないということを意味する。したがって、例えば厚さ0.35mmの金属シートの場合には、残されるべき最小材料幅は、0.35〜0.7mmの範囲にある。
【0047】
この実施形態においては、スロットE3は、上部台形部分E30および下部部分E31を有している。概括的に言うと、上部台形部分E30は、ロータ11の慣性を低減させることができる。しかしながら、上部台形部分E30は、アーマチュアの磁気反応に影響を与える。したがって、上部台形部分E30を、アーマチュアの制御に関与するような大きさにすることもできる。下部部分E31は、スロットE3のうちの、ロータ11の中心部分を通る磁束の磁束弱め制御に関与する部分である。下部部分E31は、磁気抵抗空間E12およびスロットE2と共同で、ロータ11の中心部分における磁力線の通過を制御することができる。
【0048】
本発明によれば、各磁極における磁力線の分散に関する研究から、下部部分E31およびスロットE2を定めることによって、最適の規模を有する磁束弱め磁気回路を得ることができる。この磁束弱め磁気回路は、ステータ巻線に短絡状態が出現した際に、永久磁石PMを囲むように磁束を通過させるような規模、すなわち、高速時に、永久磁石による磁束を打ち消すように、短絡電流に等しい最大電流がステータ巻線に注入されるような規模でなければならない。
【0049】
しかしながら、この磁束弱め磁気回路において、永久磁石PMの不可逆的な減磁を生じるおそれのある、あまりにも大きな減磁場、が永久磁石PMに出現することを防止しなければならない。したがって、永久磁石PMの適切な分極が得られるように、磁束弱め磁気回路を計算しなければならない。
【0050】
ステータ巻線が短絡状態にあるときの、永久磁石PMの周囲の等価磁気回路が、図4に示されている。
【0051】
ステータ巻線が短絡状態にある場合には、永久磁石PMの磁力線LC(図2に示されている)は、回転電気機械のステータを通過しない。したがって、これらの磁力線LCは、永久磁石PMの周囲に形成されている磁気回路の高い磁気抵抗Rh、および低い磁気抵抗Rb1およびRb2によって閉じ込められる。
【0052】
高い磁気抵抗Rhは、先端部B1、B2、およびリセスE10を通る磁力線LCの通路の磁気抵抗である。低い磁気抵抗Rb1は、隣接し合う2つの磁極にわたって、永久磁石PMの底部の両側のスロットE2を通る磁力線LCの通路の磁気抵抗である。低い磁気抵抗Rb2は、隣接し合う2つの磁極にわたって、スロットE2とスロットE1の対向端との間の鉄の狭窄部Sを通る磁力線LCの通路の磁気抵抗である。
【0053】
先端部B1、B2によって形成されている狭窄部、および狭窄部Sは、いずれも飽和モードで機能する。
【0054】
図4に示すように、この等価磁気回路は、内部磁気抵抗Raおよび磁気抵抗Rfに直列に接続された起磁力源F.M.Mを有している。磁気抵抗Rfは、並列に接続された3つの磁気抵抗Rh、Rb1、Rb2から成る回路に概ね等価な総合磁束弱め回路の磁気抵抗である。
【0055】
次に、図5を参照しながら、ステータ巻線が短絡状態にあるときの永久磁石PMの機能について説明する。
【0056】
例えばNdFeB系の近年の永久磁石においては、磁化曲線は、図5に示すように、概ね直線形状を呈している。この直線は、次の式によって表わされる。
Ba=μa・Ha+Br (1)
この式において、Baは、永久磁石PMの磁気誘導(磁束密度)、Haは、永久磁石PMに印加される磁界、Brは、永久磁石PMの残留磁気誘導、μaは、永久磁石PMの透磁率である。
【0057】
本発明の発明者によってなされた試験により、永久磁石PMの不可逆的な減磁を避けるためには、動作点Pを、次の式を満たすように定めることが望ましいことが分かった。
Ba=Br/λ (2)
この式において、λは、最小値λminと最大値λmaxとの間の値を有する定数である。最小値λminおよび最大値λmaxは、NdFeB系の永久磁石PMの場合には、次のように定められる。
λmin=1.7
λmax=2.5
【0058】
より一般的には、λは、永久磁石のタイプに応じて、1.3〜4の範囲の値を有する。
【0059】
λ=2に近い値が、ステータ巻線が短絡状態にあるときの永久磁石PMに対して、最も妥当であるように思われる。
【0060】
説明を簡単にするために、永久磁石PMの透磁率μaは、真空の絶対透磁率μ0=4π・10-7H/mとほぼ等しいと仮定する。
【0061】
永久磁石PMのような矩形形状の磁石の内部磁気抵抗は、近似的に次の式によって与えられる。
Ra=la/(μ0・ha・L25) (3)
この式において、図2に示すように、la、ha、L25は、それぞれ永久磁石PMの幅、高さ、長さである。
【0062】
永久磁石PMの究極の消磁を発生させる(磁気誘導を0にする)保磁力Hcは、第一近似として、次の式により与えられる。
Hc=Br/μa (4)
【0063】
永久磁石PMによって生じる磁束φaは、磁気誘導と断面積との積によって、すなわち次の式によって与えられる。
φa=Ba・L25・ha (5)
【0064】
磁束φaは、次の比からも与えられる。
φa=FMM/(Ra+Rf) (6)
【0065】
永久磁石PMの起磁力FMMは、第1近似として、次のように与えられる。
FMM=Br・la/μa (7)
【0066】
式(5)、(6)、(7)から、次の式が得られる。
Ba・L25・ha=(Br・la/μa)/(Ra+Rf) (8)
【0067】
式(8)から、次の式が得られる。
Ra+Rf=〔la/(μa・L25・ha)〕(Br/Ba) (9)
【0068】
式(2)および式(3)を式(9)に代入することによって次の式が得られる。
Ra+Rf=Ra・λ (10)
【0069】
この式から、次の比が得られる。
Rf/Ra=λ−1 (11)
【0070】
λは、最小値λminと最大値λmaxとの間になければならないから、次の不等式が得られる。
λmin−1≦Rf/Ra≦λmax−1 (12)
【0071】
λmin=1.7およびλmax=2.5であるNdFeB系の永久磁石PMの場合には、次の不等式が得られる。
0.7≦Rf/Ra≦1.5 (13)
【0072】
より一般的には、永久磁石のタイプに応じて、次の不等式が得られる。
0.3≦Rf/Ra≦3 (14)
【0073】
λ=2に対応するRf/Ra=1を選択することが好ましい。
【0074】
本発明によれば、永久磁石の各タイプに対して、最小値λminおよび最大値λmaxを決定することができる。したがって、回転電気機械のために選択された永久磁石PMの内部磁気抵抗Raがわかれば、不等式(12)から、総合磁束弱め回路の磁気抵抗Rfを決定することができる。総合磁束弱め回路の磁気抵抗Rfの値が決定されると、所望の性能を得るように、総合磁束弱め回路の磁気抵抗Rfの、磁気抵抗Rh、Rb1、Rb2間への分配を最適化することができる。
【0075】
次に、図6a、図6b、図7〜10を参照して、ロータ11の、スロットE3の両側の磁性体の連絡部を形成している部分BR(以下、単に連絡部分BRと呼ぶ)の最適化について説明する。
【0076】
本発明の発明者によってなされた試験により、この連絡部分BRにおける、ロータの金属シートパケットの寸法が、一方では、ロータ11の慣性モーメントを低減させるために、他方では、回転電気機械に求められる最大トルクを得ることを確実にするために重要であることが示された。
【0077】
相異なる2つの実施形態を表わしている図6aおよび図6bに示すように、連絡部分BRの寸法は、その高さHおよび長さLによって定められる。
【0078】
このような連絡部分BRは、ロータ11の機械抵抗のために必要である。図6aおよび図6bの実施形態においては、スロットE3が、ロータ11の外縁面のいずれの点においても開口しないように、連絡部分BRは、ロータ11の軸方向の全長にわたって連続である。図6bの実施形態においては、連絡部分BRは、ロータの外縁面から奥まっており、連絡部分BRの領域で、ステータ10とロータ11との間に、より広いギャップが得られている。本発明の、図示されていない実施形態において、例えば2つに1つの金属シートにおいて、スロットE3を、ロータ11の外縁面で外部に開口させることによって、連絡部分BRを不連続にすることができる。
【0079】
連絡部分BRが奥まっている図6bの実施形態、および不連続な連絡部分BRを有する上述の実施形態は、起磁力の高調波成分を減少させることによって鉄損を低減させるために、いくつかの応用例において、関心を引くものになり得ることに注意されたい。上述の実施形態において、図1、図6a、図6bに示されている、ロータ11とステータ10との間の各ギャップも、起磁力の高調波成分の低減、したがって鉄損の低減に寄与する。
【0080】
連絡部分BRの高さHの関数としての、トルクCおよび慣性Iの曲線を表わしている図7および図8に示すように、本発明の発明者によってなされた試験によって、永久磁石PMの幅laのほぼ1倍(1×la)未満にとどまらなければならない、連絡部分BRの高さHにおいて、最大トルク(Cmax)と最小慣性(Imin)との良好な兼ね合いが得られることが判明した。
【0081】
図7に示すように、最大トルク(Cmax)は、(1×la)の高さHにおいて得られている。さらに、図8も参照すると、高さHを、(1×la)を超えて増やしていくと、トルクの上昇を伴うことなく、慣性Iが増加するだけであることが明らかである。
【0082】
実務的な面において、上述の説明における、金属シートを切るための基準を考慮すると、連絡部分BRの高さHは、単一の金属シートの厚さのおよそ1倍と、永久磁石の幅laのおよそ1倍との間にある。したがって、例えば金属シートの厚さが0.35mmであり、永久磁石の幅が5mmである場合には、本発明による連絡部分BRの高さは、約0.35〜約5mmの範囲にある。
【0083】
図9および図10は、連絡部分BRの長さLの関数としての、トルクCおよび慣性Iの曲線を示している。本発明の発明者によってなされた試験によって、最大トルクと最小慣性との間の性能の最良の兼ね合いが、永久磁石PMの幅laの約1.5倍(1.5×la)未満の、連絡部分BRの長さLにおいて得られることが示された。実務的な面において、連絡部分BRがとり得る最小の長さLは、金属シートの厚さの約1.5倍、すなわち、金属シートの厚さが0.35mmの場合には、約0.520mmになる。
【0084】
本明細書においては、特定の実施形態に関連付けて、本発明を説明した。しかし本発明は、電気自動車およびハイブリッド自動車のための、車両用の電気駆動エンジンに応用することができる。しかしながら、本発明は、自動車分野以外の分野にも適用しうることは明白である。
【符号の説明】
【0085】
10 ステータ
11 ロータ
101、E10 リセス
A 駆動シャフト
B1、B2 先端部
BR 連絡部を形成している部分
CF 面取り部
E1、E2、E3、E4 スロット
E11、E12 磁気抵抗空間
E30 上部台形部分
E31 下部部分
F.M.M 起磁力源
ha、H 高さ
la 幅
L 長さ
LB 深さ
LC 磁力線
P 動作点
PM 永久磁石
R 半径
Ra 内部磁気抵抗
Rb1、Rb2、Rf、Rh 磁気抵抗
S 狭窄部
α 傾斜角
【技術分野】
【0001】
本発明は、永久磁石を備える、磁束収束タイプの同期回転電気機械に関する。より詳細には、本発明は、電気自動車またはハイブリッド自動車の発電機または電気駆動エンジンなどに使用するための、前記のタイプの同期回転電気機械に関する。
【背景技術】
【0002】
出力、出力/重量比、および出力/体積比に関する性能の改善によって、永久磁石を備える同期エンジンは、今日、自動車の駆動分野において広く用いられている。また、希土類永久磁石を、大規模に、かつ採算の採れる状態で利用可能であるために、次世代の自動車において、このような電気エンジンを選択することが可能である。
【0003】
このような電気エンジンは、広範囲の出力および速度を有するものとすることができ、すべての全電気自動車、および「マイルドハイブリッド」および「フルハイブリッド」として知られているタイプの低二酸化炭素ガス排出自動車に応用可能である。
【0004】
「マイルドハイブリッド」への応用には、一般に、およそ8〜10kWの出力の電気エンジン、例えば熱エンジンの前方に搭載されて、駆動ベルトにより熱エンジンに結合されている電気エンジンが該当する。このような電気エンジンにおいては、特に加速時に、トルクの発生を電気的に補助するように補助動力を供給することによって、必要な熱容量を低減させる(エンジンを小型化する)ことが可能である。さらに、この電気エンジンにより、例えば都市環境において、低速駆動を行うこともできる。「フルハイブリッド」タイプへの応用には、車両の駆動系に、1つ以上の電気エンジンを、より高度に統合させた、シリーズ方式および/またはパラレル方式の構造において、通常、30〜50kWの出力の電気エンジンが該当する。
【0005】
永久磁石を備える公知の種々の同期エンジンのなかで、磁束収束タイプの同期エンジンが、その優れた性能のゆえに、特に関心を持たれている。この磁束収束タイプの同期エンジンにおいては、複数の永久磁石が、ロータの磁性体内に埋め込まれており、概ね放射状の構造を呈するように構成されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
自動車において、車両の移動動作の全てにおける駆動に用いられる電気エンジンは、多様な速度状態および充電状態に曝される。高速域を得るための磁束弱め(または弱め磁束)ストラテジー(「界磁弱めストラテジー」とも呼ばれる)によって補完された最大トルク制御ストラテジーが、このような多様な速度状態および充電状態に対する電気エンジンの制御への良好な解決方法であるように思われる。しかしながら、永久磁石を備えるエンジンにおける磁束弱めには、永久磁石の減磁の生じる危険性が伴い、永久磁石の温度が高い場合には、その危険性がさらに増す。磁束収束タイプのエンジンは、ロータ内に永久磁石が配置されているために、特に、この減磁の危険性にさらされる。
【0007】
したがって、永久磁石の減磁の危険性が制御されているか、さらには完全に取り除かれている、永久磁石を備える、磁束収束タイプの同期回転電気機械の提供が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ステータ巻線を有するステータとロータとを備えている回転電気機械に関する。ロータは、磁束収束タイプとして知られている概ね放射状に配置された、複数の永久磁石によって形成されている、互い違いの複数のN磁極とS磁極とを備えており、各永久磁石は、ロータの磁性体に設けられている、対応する第1のスロットに受容されている。
【0009】
本発明によれば、ロータは、各永久磁石に対して、磁束弱め制御された磁束を通過させる少なくとも1つの磁束弱め磁気回路を有しており、この磁束弱め磁気回路は、等価的に磁気抵抗から成る磁束弱め回路を含み、永久磁石によって発生させる磁束を打ち消すように、回転電気機械の短絡電流の強度に等しい強度の電流が、ステータ巻線に注入されたときに、永久磁石が減磁する危険性を回避することを確実にするために、磁束弱め回路の磁気抵抗と、永久磁石の内部磁気抵抗との比が、約0.3〜約3のあらかじめ定められた範囲内の値になるように、磁束弱め回路の磁気抵抗は、永久磁石の内部磁気抵抗の関数として定められている。
【0010】
永久磁石は、概ね矩形状であることが好ましい。
【0011】
本発明の特定の一実施形態によれば、永久磁石は、ネオジム・鉄・ボロン(NdFeB)系の永久磁石であり、あらかじめ定められた範囲内の値は、約0.7〜約1.5の範囲である。
【0012】
本発明の一特性によれば、磁束弱め磁気回路の各々は、対応する磁極の磁性体に設けられた第2のスロットを有し、この第2のスロットは、対応する磁極の下部中央部分に位置しており、かつ対応する磁極を画定している2つの連続する半径方向に延びる永久磁石の下端間の概ね等距離の位置に中心を有し、磁束弱め回路の磁気抵抗に寄与する第1の磁気抵抗を与えるようになっている。
【0013】
本発明のさらなる一特性によれば、磁束弱め磁気回路の各々は、対応する磁極の磁性体に設けられた狭窄部を有し、この狭窄部は、対応する永久磁石の下端と第2のスロットとの間の、対応する磁極の下部部分に位置しており、かつ磁束弱め回路の磁気抵抗に寄与する第2の磁気抵抗を与えるようになっている。
【0014】
本発明のさらなる一特性によれば、磁束弱め磁気回路の各々は、ロータの磁性体の外縁面と、対応する永久磁石の受け部を形成している第1のスロットの内部とに通じているリセスを有し、このリセスは、概ねロータの半径方向に、またロータの軸に平行に延びており、磁束弱め回路の磁気抵抗に寄与する第3の磁気抵抗を与えるようになっている。
【0015】
本発明のさらなる一特性によれば、永久磁石の受け部を形成している各第1のスロットは、その底部に、対応する永久磁石によって占められておらず、この永久磁石の底部における永久磁石の局所的減磁を阻止する第1の磁気抵抗空間を形成している、少なくとも1つの第1の空き空間を有している。
【0016】
本発明のさらなる一特性によれば、永久磁石の受け部を形成している第1のスロットの各々は、その上端部に、対応する永久磁石によって占められておらず、この永久磁石の上端部における永久磁石の局所的減磁を阻止する第2の磁気抵抗空間を形成している、少なくとも1つの第2の空き空間を有している。
【0017】
本発明のさらなる一特性によれば、ロータは、各磁極において、この磁極を画定している2つの連続する永久磁石間で、磁極の磁性体内に半径方向に延びている第3のスロットを有しており、この第3のスロットは、ロータの中心部分を通る磁束の磁束弱め制御に関与する下方部分と、ロータの機械的慣性の低減に関与する上方部分とを有している。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】永久磁石を備える、磁束収束タイプの磁束弱め可能な回転電気機械の、本発明による一実施形態の構造を示す概要図である。
【図2】図1の回転電気機械のロータの磁性体に形成されている各スロットを示す図である。
【図3】細片を上端に組み込んだ永久磁石の取り付け構造を示す図である。
【図4】図1の回転電気機械のロータの永久磁石に対する磁束弱め磁気回路の磁気抵抗網を示す図である。
【図5】回転電気機械の動作点を説明するための、永久磁石の磁化曲線の図である。
【図6a】ロータの、スロットE3の両側の磁性体間の連絡部を形成している部分の第1の実施例を示す図である。
【図6b】ロータの、スロットE3の両側の磁性体間の連絡部を形成している部分の第2の実施例を示す図である。
【図7】図6aおよび図6bの、連絡部を形成している部分の高さHの関数としての、回転電気機械のトルク曲線の図である。
【図8】図6aおよび図6bの、連絡部を形成している部分の高さHの関数としての、ロータの慣性曲線の図である。
【図9】図6aおよび図6bの、連絡部を形成している部分の長さLの関数としての、回転電気機械のトルク曲線の図である。
【図10】図6aおよび図6bの、連絡部を形成している部分の長さLの関数としての、ロータの慣性曲線の図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
添付図面を参照して、いくつかの実施形態に関する以下の説明を読むことにより、本発明の他の特性および利点が明らかになると思う。
【0020】
図1は、本発明による磁束弱め可能な回転電気機械の特定の一実施形態の構造を示している。この回転電気機械は、永久磁石が埋め込まれた、磁束収束タイプの回転電気機械であり、ステータ10およびロータ11を備えている。
【0021】
本発明による回転電気機械の一具体例は、例えば「マイルドハイブリッド」として知られているタイプの自動車に応用される、8〜10kWの出力の駆動エンジンである。この特定の一実施形態によれば、駆動エンジンは、60個のリセス101を有するステータ10と、総計10個の交互に配置されたN極とS極とを有するロータ11とを備えている。ロータ11は、約100mmの直径、および約50mmの軸方向の長さを有している。ロータ11は、長さ(L25)×高さ(ha)×幅(la)=50mm×25mm×5mmの寸法を有する、概ね矩形状の10個の永久磁石PMを備えている。
【0022】
ステータ10およびロータ11は、従来どおりに、磁性体を形成している金属シートパケットを備えている。
【0023】
ステータ10のリセス101は、ステータ巻線(図示せず)を受容するために設けられており、隣接し合う2つのリセス101間には、ステータの歯が形成されている。リセス101は、実施形態に応じて、大きな歯上に巻かれる集中巻線、または分布巻線を受容するように形成されている。
【0024】
ロータ11は、多重に細裂したシリンダ状の全体形状を呈しており、各細裂部は、ロータの1つの磁極に相当している。
【0025】
磁束収束タイプのロータ構造が得られるように、永久磁石PMは放射状に配置されている。いくつかの実施形態においては、永久磁石PMは、ロータ11の半径方向に関して、わずかにアンバランスに配置されている。永久磁石PMは、ネオジム・鉄・ボロン(NdFeB)系、サマリウム・鉄(SmFe)系、またはサマリウム・コバルト(SmCo)系などの希土類永久磁石、または焼結フェライトまたは接合フェライトから得られる永久磁石であることが好ましい。
【0026】
ロータ11の面端が開口し、駆動シャフトAを受けるようになっている中心孔を有している。本発明においては、駆動シャフトAは、想定される応用に応じて、磁性体で作っても、非磁性体で作ってもよいことに留意されたい。
【0027】
ロータ11は、磁極毎に反復して形成されており、概ねロータの全長にわたって軸方向に延びているスロットE1、E2、E3を有している。
【0028】
ロータ11の組み立てに寄与するように、スロットE1、E2、E3が形成されていない最後の金属シートを、ロータ11の両面端に設けてもよい。ロータ11の組み立てのために、さらに、金属シートパケットの端部にはんだ付け点(図示せず)が、また中心孔に平行に貫通連接棒(図示せず)が設けられている。貫通連接棒は、適用例に応じて、磁性体で作られている場合もあるし、非磁性体で作られている場合もある。ロータ11の金属シートパケットを貫通する貫通連接棒の通路として、スロットE3を用いると有利である。
【0029】
この特定の実施形態においては、スロットE1、E2、E3は、各々10個である。この数は、ロータ11の磁極の数N=10と一致している。
【0030】
次に、図2および図3を参照して、スロットE1、E2、E3について、詳細に説明する。
【0031】
スロットE1は、永久磁石PMのための、概ね長方形の受け部を形成している。スロットE1は、永久磁石PMによって完全には占められておらず、ロータ11の磁性体、および永久磁石PM内の磁束の通路を制御するために、磁気抵抗および磁気障壁の機能を果たす、残された部分を有している。
【0032】
スロットE1は、リセスE10を介して、ロータ11の外縁で開口している。リセスE10は、ロータ11の全長にわたって軸方向に延びており、したがって、隣接し合う2つの磁極を空間的に隔てている。したがって、隣接し合う2つの磁極に、それぞれ第1および第2の先端部B1、B2が形成されている。第1の先端部B1と第2の先端部B2とは、対向し合っており、永久磁石PMに及ぼされる遠心力の作用に対抗して、永久磁石PMを、その受け部に保持するようになっている。
【0033】
さらに、磁気抵抗空間E11が、永久磁石PMの上面と先端部B1、B2の下面との間に設けられている。この磁気抵抗空間E11は、スロットE1のうちの、永久磁石PMによって占められていない空き空間である。
【0034】
図3は、先端部B1およびB2の内部への、永久磁石PMの実装状態の詳細を示している。図3におけるこの実装状態は、細片LMが設けられている、特定の一実施形態に対応している。
【0035】
細片LMは、永久磁石PMの上面と、先端部B1、B2の下面との間に配置されている。細片LMは、例えばガラス繊維樹脂中にエポキシ樹脂が充填されているタイプの充填プラスチック、複合材料、または変形可能な非磁性金属材料で作られている。この細片LMは、永久磁石PMの上面および先端部B1、B2に及ぼされる機械的作用を分散させ、また永久磁石PMのいかなる変位も、変形によって吸収する機能を有している。本発明の発明者によってなされた試験において、永久磁石PMに加えられる遠心力は、相当に大きくなることが分かった。回転電気機械が超高回転速度に達すると、遠心力の効果によって、永久磁石PMは、ロータ11の回転軸(駆動シャフト)から遠ざかろうとし、先端部B1、B2は、ロータ11の外部に向かって変形する危険性が生じる。細片LMは、機械的応力の、先端部B1、B2間へのより良好な分散に寄与し、また永久磁石PMのいかなる変位も、変形によって吸収し、それによって、永久磁石PMの破損、および/または先端部B1、B2の変形の危険性を減少させる。上述の試験により、このような機能を十分に果たすためには、細片LMは、少なくとも0.1mmの厚さを有することが望ましいことが分かった。
【0036】
さらに、本発明によれば、先端部B1、B2の下面が、永久磁石PMの上面に対して、傾斜角αで傾斜している。応用例に応じて、例えばα=0.1〜15°の範囲の角度を有する面取りを行うことによって、この傾斜を得ることができる。
【0037】
図3に示すように、傾斜角αを有するこの面取りに関連して、半径Rの丸み付けによって、機械的な補強を行うことが好ましい。この丸み付けは、先端部B1、B2の面取りされた下面と、永久磁石PMの受け部の内壁を形成している、概ね半径方向に延びている対応する面との間で行われている。半径Rは、先端部B1、B2の深さLBの0.2〜0.9倍の範囲の値を有することが好ましい。例えば半径Rは、約0.5〜約1.5mmの範囲の値を有している。図3に示すように、この実施形態においては、永久磁石PMの端部と、半径Rの丸み付け部とが接触しないように、永久磁石PMの上部に、面取り部CF、またはその均等物(丸み付け部)が形成されている。用語「面取り」は、丸み付けなどの均等物も包含するもので、以下の説明および請求項においては、面取り部CFという言い方のみを用いる。
【0038】
本発明の発明者によってなされた試験によると、本発明が適用される種類の回転電気機械においては、0〜20000rpmの回転速度範囲において生じる遠心力に対して、上述の範囲の傾斜角αおよび半径Rで、最適な耐性が得られ、満足な結果が生じることが示された。
【0039】
細片LMは、機械的な力を、2つの先端部B1、B2に分散させ、またその厚さが十分に厚ければ、永久磁石PMの端部の面取りが不要になる場合もある。
【0040】
リセスE10および磁気抵抗空間E11によって生み出される磁気抵抗によって、また後述する、永久磁石PMに生じる分極へのそれらの関与によって、端部における永久磁石PMの局所的減磁(消磁を含む)が防止されることに留意されたい。
【0041】
図2に、より詳細に示されているように、スロットE1は、ロータ11の駆動シャフトの近傍の底部に、磁気抵抗空間E12を有している。磁気抵抗空間E12は、この実施形態においては、永久磁石PMによって占められずに、空いていて、空気で満たされており、磁気抵抗を生み出すことによって、永久磁石PMの局所的減磁を阻止している。
【0042】
スロットE2は、本質的に、ロータの中心部分を通る磁束、言い換えると、永久磁石PMの底部と、ロータの駆動シャフトAとの間の磁性体内の磁束の磁束弱め制御を行うための磁気抵抗、および磁気障壁の機能を有している。これらのスロットE2は、この特定の実施形態においては、空気で満たされていることに留意されたい。応用例によっては、磁性材料、または低比透磁率を有する非磁性材料で、スロットE2を満すことがある。
【0043】
スロットE3は、いくつかの機能を果たす。概括的に言うと、その機能は、本質的に、スロットE2と同様の、ロータの中心部分を通る磁束の磁束弱め制御、およびロータ11の慣性の低減に寄与することである。この実施形態において、リセスE10、磁気抵抗空間E11、E12、およびスロットE2と同様に、これらのスロットE3は、空気で満たされている。応用例に応じて、低密度ではあるが、非磁性材料または磁性材料で、これらのスロットE3を満たすことがある。
【0044】
この例においては、スロットE3は、連続する2つの永久磁石PMの間の中央に、かつ対称的な形状を呈し、ロータ11内に放射状に配置されているように示されているが、本発明の別の実施形態においては、スロットE3は、特にその上部において、永久磁石PMの間の中央に配置されていなくてもよく、また対称的な形状を呈していなくてもよいことに留意されたい。
【0045】
図2に詳細に示すように、符号E4が付されている別のスロットが、各磁極において、スロットE3の両側部に配置されている。スロットE4は、ロータ11の慣性の低減に寄与し、かつ永久磁石PMの磁束の通過を可能な限り妨害しないように、スロットE4間の磁力線に並ぶように配置されている。この実施形態においては、スロットE4は、スロットE3の各側方に2個ずつ存在する。より一般的には、スロットE4の数は、応用および利用可能領域に応じて変更することができる。スロットE4の数は、例えば1〜8個の範囲で変更することができるが、本発明において、2個または3個が妥当である。
【0046】
さらに、金属シートを切るための実務的基準として、金属シートの厚さの、場合に応じて1〜2倍の幅が必要であることに注意されたい。このことは、言い換えると、例えばロータの隣接し合う2個のスロット間、またはスロットとロータの外縁との間に、単一の金属シートの厚さの少なくとも1〜2倍の幅がなければならないということを意味する。したがって、例えば厚さ0.35mmの金属シートの場合には、残されるべき最小材料幅は、0.35〜0.7mmの範囲にある。
【0047】
この実施形態においては、スロットE3は、上部台形部分E30および下部部分E31を有している。概括的に言うと、上部台形部分E30は、ロータ11の慣性を低減させることができる。しかしながら、上部台形部分E30は、アーマチュアの磁気反応に影響を与える。したがって、上部台形部分E30を、アーマチュアの制御に関与するような大きさにすることもできる。下部部分E31は、スロットE3のうちの、ロータ11の中心部分を通る磁束の磁束弱め制御に関与する部分である。下部部分E31は、磁気抵抗空間E12およびスロットE2と共同で、ロータ11の中心部分における磁力線の通過を制御することができる。
【0048】
本発明によれば、各磁極における磁力線の分散に関する研究から、下部部分E31およびスロットE2を定めることによって、最適の規模を有する磁束弱め磁気回路を得ることができる。この磁束弱め磁気回路は、ステータ巻線に短絡状態が出現した際に、永久磁石PMを囲むように磁束を通過させるような規模、すなわち、高速時に、永久磁石による磁束を打ち消すように、短絡電流に等しい最大電流がステータ巻線に注入されるような規模でなければならない。
【0049】
しかしながら、この磁束弱め磁気回路において、永久磁石PMの不可逆的な減磁を生じるおそれのある、あまりにも大きな減磁場、が永久磁石PMに出現することを防止しなければならない。したがって、永久磁石PMの適切な分極が得られるように、磁束弱め磁気回路を計算しなければならない。
【0050】
ステータ巻線が短絡状態にあるときの、永久磁石PMの周囲の等価磁気回路が、図4に示されている。
【0051】
ステータ巻線が短絡状態にある場合には、永久磁石PMの磁力線LC(図2に示されている)は、回転電気機械のステータを通過しない。したがって、これらの磁力線LCは、永久磁石PMの周囲に形成されている磁気回路の高い磁気抵抗Rh、および低い磁気抵抗Rb1およびRb2によって閉じ込められる。
【0052】
高い磁気抵抗Rhは、先端部B1、B2、およびリセスE10を通る磁力線LCの通路の磁気抵抗である。低い磁気抵抗Rb1は、隣接し合う2つの磁極にわたって、永久磁石PMの底部の両側のスロットE2を通る磁力線LCの通路の磁気抵抗である。低い磁気抵抗Rb2は、隣接し合う2つの磁極にわたって、スロットE2とスロットE1の対向端との間の鉄の狭窄部Sを通る磁力線LCの通路の磁気抵抗である。
【0053】
先端部B1、B2によって形成されている狭窄部、および狭窄部Sは、いずれも飽和モードで機能する。
【0054】
図4に示すように、この等価磁気回路は、内部磁気抵抗Raおよび磁気抵抗Rfに直列に接続された起磁力源F.M.Mを有している。磁気抵抗Rfは、並列に接続された3つの磁気抵抗Rh、Rb1、Rb2から成る回路に概ね等価な総合磁束弱め回路の磁気抵抗である。
【0055】
次に、図5を参照しながら、ステータ巻線が短絡状態にあるときの永久磁石PMの機能について説明する。
【0056】
例えばNdFeB系の近年の永久磁石においては、磁化曲線は、図5に示すように、概ね直線形状を呈している。この直線は、次の式によって表わされる。
Ba=μa・Ha+Br (1)
この式において、Baは、永久磁石PMの磁気誘導(磁束密度)、Haは、永久磁石PMに印加される磁界、Brは、永久磁石PMの残留磁気誘導、μaは、永久磁石PMの透磁率である。
【0057】
本発明の発明者によってなされた試験により、永久磁石PMの不可逆的な減磁を避けるためには、動作点Pを、次の式を満たすように定めることが望ましいことが分かった。
Ba=Br/λ (2)
この式において、λは、最小値λminと最大値λmaxとの間の値を有する定数である。最小値λminおよび最大値λmaxは、NdFeB系の永久磁石PMの場合には、次のように定められる。
λmin=1.7
λmax=2.5
【0058】
より一般的には、λは、永久磁石のタイプに応じて、1.3〜4の範囲の値を有する。
【0059】
λ=2に近い値が、ステータ巻線が短絡状態にあるときの永久磁石PMに対して、最も妥当であるように思われる。
【0060】
説明を簡単にするために、永久磁石PMの透磁率μaは、真空の絶対透磁率μ0=4π・10-7H/mとほぼ等しいと仮定する。
【0061】
永久磁石PMのような矩形形状の磁石の内部磁気抵抗は、近似的に次の式によって与えられる。
Ra=la/(μ0・ha・L25) (3)
この式において、図2に示すように、la、ha、L25は、それぞれ永久磁石PMの幅、高さ、長さである。
【0062】
永久磁石PMの究極の消磁を発生させる(磁気誘導を0にする)保磁力Hcは、第一近似として、次の式により与えられる。
Hc=Br/μa (4)
【0063】
永久磁石PMによって生じる磁束φaは、磁気誘導と断面積との積によって、すなわち次の式によって与えられる。
φa=Ba・L25・ha (5)
【0064】
磁束φaは、次の比からも与えられる。
φa=FMM/(Ra+Rf) (6)
【0065】
永久磁石PMの起磁力FMMは、第1近似として、次のように与えられる。
FMM=Br・la/μa (7)
【0066】
式(5)、(6)、(7)から、次の式が得られる。
Ba・L25・ha=(Br・la/μa)/(Ra+Rf) (8)
【0067】
式(8)から、次の式が得られる。
Ra+Rf=〔la/(μa・L25・ha)〕(Br/Ba) (9)
【0068】
式(2)および式(3)を式(9)に代入することによって次の式が得られる。
Ra+Rf=Ra・λ (10)
【0069】
この式から、次の比が得られる。
Rf/Ra=λ−1 (11)
【0070】
λは、最小値λminと最大値λmaxとの間になければならないから、次の不等式が得られる。
λmin−1≦Rf/Ra≦λmax−1 (12)
【0071】
λmin=1.7およびλmax=2.5であるNdFeB系の永久磁石PMの場合には、次の不等式が得られる。
0.7≦Rf/Ra≦1.5 (13)
【0072】
より一般的には、永久磁石のタイプに応じて、次の不等式が得られる。
0.3≦Rf/Ra≦3 (14)
【0073】
λ=2に対応するRf/Ra=1を選択することが好ましい。
【0074】
本発明によれば、永久磁石の各タイプに対して、最小値λminおよび最大値λmaxを決定することができる。したがって、回転電気機械のために選択された永久磁石PMの内部磁気抵抗Raがわかれば、不等式(12)から、総合磁束弱め回路の磁気抵抗Rfを決定することができる。総合磁束弱め回路の磁気抵抗Rfの値が決定されると、所望の性能を得るように、総合磁束弱め回路の磁気抵抗Rfの、磁気抵抗Rh、Rb1、Rb2間への分配を最適化することができる。
【0075】
次に、図6a、図6b、図7〜10を参照して、ロータ11の、スロットE3の両側の磁性体の連絡部を形成している部分BR(以下、単に連絡部分BRと呼ぶ)の最適化について説明する。
【0076】
本発明の発明者によってなされた試験により、この連絡部分BRにおける、ロータの金属シートパケットの寸法が、一方では、ロータ11の慣性モーメントを低減させるために、他方では、回転電気機械に求められる最大トルクを得ることを確実にするために重要であることが示された。
【0077】
相異なる2つの実施形態を表わしている図6aおよび図6bに示すように、連絡部分BRの寸法は、その高さHおよび長さLによって定められる。
【0078】
このような連絡部分BRは、ロータ11の機械抵抗のために必要である。図6aおよび図6bの実施形態においては、スロットE3が、ロータ11の外縁面のいずれの点においても開口しないように、連絡部分BRは、ロータ11の軸方向の全長にわたって連続である。図6bの実施形態においては、連絡部分BRは、ロータの外縁面から奥まっており、連絡部分BRの領域で、ステータ10とロータ11との間に、より広いギャップが得られている。本発明の、図示されていない実施形態において、例えば2つに1つの金属シートにおいて、スロットE3を、ロータ11の外縁面で外部に開口させることによって、連絡部分BRを不連続にすることができる。
【0079】
連絡部分BRが奥まっている図6bの実施形態、および不連続な連絡部分BRを有する上述の実施形態は、起磁力の高調波成分を減少させることによって鉄損を低減させるために、いくつかの応用例において、関心を引くものになり得ることに注意されたい。上述の実施形態において、図1、図6a、図6bに示されている、ロータ11とステータ10との間の各ギャップも、起磁力の高調波成分の低減、したがって鉄損の低減に寄与する。
【0080】
連絡部分BRの高さHの関数としての、トルクCおよび慣性Iの曲線を表わしている図7および図8に示すように、本発明の発明者によってなされた試験によって、永久磁石PMの幅laのほぼ1倍(1×la)未満にとどまらなければならない、連絡部分BRの高さHにおいて、最大トルク(Cmax)と最小慣性(Imin)との良好な兼ね合いが得られることが判明した。
【0081】
図7に示すように、最大トルク(Cmax)は、(1×la)の高さHにおいて得られている。さらに、図8も参照すると、高さHを、(1×la)を超えて増やしていくと、トルクの上昇を伴うことなく、慣性Iが増加するだけであることが明らかである。
【0082】
実務的な面において、上述の説明における、金属シートを切るための基準を考慮すると、連絡部分BRの高さHは、単一の金属シートの厚さのおよそ1倍と、永久磁石の幅laのおよそ1倍との間にある。したがって、例えば金属シートの厚さが0.35mmであり、永久磁石の幅が5mmである場合には、本発明による連絡部分BRの高さは、約0.35〜約5mmの範囲にある。
【0083】
図9および図10は、連絡部分BRの長さLの関数としての、トルクCおよび慣性Iの曲線を示している。本発明の発明者によってなされた試験によって、最大トルクと最小慣性との間の性能の最良の兼ね合いが、永久磁石PMの幅laの約1.5倍(1.5×la)未満の、連絡部分BRの長さLにおいて得られることが示された。実務的な面において、連絡部分BRがとり得る最小の長さLは、金属シートの厚さの約1.5倍、すなわち、金属シートの厚さが0.35mmの場合には、約0.520mmになる。
【0084】
本明細書においては、特定の実施形態に関連付けて、本発明を説明した。しかし本発明は、電気自動車およびハイブリッド自動車のための、車両用の電気駆動エンジンに応用することができる。しかしながら、本発明は、自動車分野以外の分野にも適用しうることは明白である。
【符号の説明】
【0085】
10 ステータ
11 ロータ
101、E10 リセス
A 駆動シャフト
B1、B2 先端部
BR 連絡部を形成している部分
CF 面取り部
E1、E2、E3、E4 スロット
E11、E12 磁気抵抗空間
E30 上部台形部分
E31 下部部分
F.M.M 起磁力源
ha、H 高さ
la 幅
L 長さ
LB 深さ
LC 磁力線
P 動作点
PM 永久磁石
R 半径
Ra 内部磁気抵抗
Rb1、Rb2、Rf、Rh 磁気抵抗
S 狭窄部
α 傾斜角
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータ巻線を有するステータ(10)とロータ(11)とを備えている回転電気機械であって、前記ロータは、磁束収束タイプとして知られている概ね放射状の構造に配置された、複数の永久磁石(PM)によって形成されている、互い違いの複数のN磁極とS磁極とを備えており、各永久磁石(PM)は、前記ロータ(11)の磁性体に設けられている、対応する第1のスロット(E1)に受容されている回転電気機械において、前記ロータは、各永久磁石(PM)に対して、磁束弱め制御された磁束を通過させる少なくとも1つの磁束弱め磁気回路を有しており、この磁束弱め磁気回路は、等価的に磁気抵抗(Rf)から成る磁束弱め回路を含んでおり、前記永久磁石(PM)によって発生する磁束を打ち消すように、前記回転電気機械の短絡電流の強度に等しい強度の電流が、前記ステータ巻線に注入されたときに、前記永久磁石(PM)が減磁する危険性の回避を確実にするために、前記磁束弱め回路の磁気抵抗(Rf)と、前記永久磁石(PM)の内部磁気抵抗(Ra)との比(Rf/Ra)が、約0.3〜約3のあらかじめ定められた範囲内の値になるように、前記磁束弱め回路の磁気抵抗(Rf)は、前記永久磁石(PM)の内部磁気抵抗(Ra)の関数として定められていることを特徴とする回転電気機械。
【請求項2】
前記永久磁石(PM)は、概ね矩形状を呈していることを特徴とする、請求項1に記載の回転電気機械。
【請求項3】
前記永久磁石(PM)は、ネオジム・鉄・ボロン(NdFeB)系の永久磁石であり、前記あらかじめ定められた範囲内の値は、約0.7〜約1.5の範囲の値であることを特徴とする、請求項1または2に記載の回転電気機械。
【請求項4】
前記磁束弱め磁気回路の各々は、対応する磁極の磁性体に設けられた第2のスロット(E2)を有しており、この第2のスロット(E2)は、対応する磁極の下部中央部分に位置し、かつ対応する磁極を画定している2つの連続する、半径方向に延びた永久磁石(PM)の下端間の概ね等距離の位置に中心を有しており、前記磁束弱め回路の磁気抵抗(Rf)に寄与する第1の磁気抵抗(Rb1)を与えるようになっていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の回転電気機械。
【請求項5】
前記磁束弱め磁気回路の各々は、対応する磁極の磁性体に設けられた狭窄部(S)を有しており、この狭窄部(S)は、対応する永久磁石(PM)の下端と、前記第2のスロット(E2)との間の、対応する磁極の下部部分に位置しており、かつ前記磁束弱め回路の磁気抵抗(Rf)に寄与する第2の磁気抵抗(Rb2)を与えるようになっていることを特徴とする、請求項4に記載の回転電気機械。
【請求項6】
前記磁束弱め磁気回路の各々は、前記ロータ(11)の磁性体の外縁面と、対応する永久磁石(PM)の受け部を形成している第1のスロット(E1)の内部とに通じているリセス(E10)を有し、このリセス(E10)は、概ね前記ロータ(11)の半径方向に、また前記ロータ(11)の軸に平行に延びており、前記磁束弱め回路の磁気抵抗(Rf)に寄与する第3の磁気抵抗(Rh)を与えるようになっていることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の回転電気機械。
【請求項7】
永久磁石(PM)の受け部を形成している前記第1のスロット(E1)の各々は、その底部に、対応する永久磁石(PM)によって占められておらず、この永久磁石(PM)の底部における永久磁石(PM)の局所的減磁を阻止する第1の磁気抵抗空間(E12)を形成している、少なくとも1つの第1の空き空間(E12)を有していることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の回転電気機械。
【請求項8】
永久磁石(PM)の受け部を形成している前記第1のスロット(E1)の各々は、その頂部に、対応する永久磁石(PM)によって占められておらず、この永久磁石(PM)の頂部における該永久磁石(PM)の局所的減磁を阻止する第2の磁気抵抗空間(E11)を形成している、少なくとも1つの第2の空き空間(E11)を有していることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の回転電気機械。
【請求項9】
前記ロータ(11)は、前記磁極の各々において、該磁極を画定している2つの連続する永久磁石(PM)の間で、該磁極の磁性体内に半径方向に延びている第3のスロット(E3)を有しており、この第3のスロット(E3)は、前記ロータ(11)の中心部分を通る磁束の磁束弱め制御に関与する下部部分(E31)と、前記ロータ(11)の機械的慣性の低減に関与する上部部分(E30)とを有していることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の回転電気機械。
【請求項1】
ステータ巻線を有するステータ(10)とロータ(11)とを備えている回転電気機械であって、前記ロータは、磁束収束タイプとして知られている概ね放射状の構造に配置された、複数の永久磁石(PM)によって形成されている、互い違いの複数のN磁極とS磁極とを備えており、各永久磁石(PM)は、前記ロータ(11)の磁性体に設けられている、対応する第1のスロット(E1)に受容されている回転電気機械において、前記ロータは、各永久磁石(PM)に対して、磁束弱め制御された磁束を通過させる少なくとも1つの磁束弱め磁気回路を有しており、この磁束弱め磁気回路は、等価的に磁気抵抗(Rf)から成る磁束弱め回路を含んでおり、前記永久磁石(PM)によって発生する磁束を打ち消すように、前記回転電気機械の短絡電流の強度に等しい強度の電流が、前記ステータ巻線に注入されたときに、前記永久磁石(PM)が減磁する危険性の回避を確実にするために、前記磁束弱め回路の磁気抵抗(Rf)と、前記永久磁石(PM)の内部磁気抵抗(Ra)との比(Rf/Ra)が、約0.3〜約3のあらかじめ定められた範囲内の値になるように、前記磁束弱め回路の磁気抵抗(Rf)は、前記永久磁石(PM)の内部磁気抵抗(Ra)の関数として定められていることを特徴とする回転電気機械。
【請求項2】
前記永久磁石(PM)は、概ね矩形状を呈していることを特徴とする、請求項1に記載の回転電気機械。
【請求項3】
前記永久磁石(PM)は、ネオジム・鉄・ボロン(NdFeB)系の永久磁石であり、前記あらかじめ定められた範囲内の値は、約0.7〜約1.5の範囲の値であることを特徴とする、請求項1または2に記載の回転電気機械。
【請求項4】
前記磁束弱め磁気回路の各々は、対応する磁極の磁性体に設けられた第2のスロット(E2)を有しており、この第2のスロット(E2)は、対応する磁極の下部中央部分に位置し、かつ対応する磁極を画定している2つの連続する、半径方向に延びた永久磁石(PM)の下端間の概ね等距離の位置に中心を有しており、前記磁束弱め回路の磁気抵抗(Rf)に寄与する第1の磁気抵抗(Rb1)を与えるようになっていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の回転電気機械。
【請求項5】
前記磁束弱め磁気回路の各々は、対応する磁極の磁性体に設けられた狭窄部(S)を有しており、この狭窄部(S)は、対応する永久磁石(PM)の下端と、前記第2のスロット(E2)との間の、対応する磁極の下部部分に位置しており、かつ前記磁束弱め回路の磁気抵抗(Rf)に寄与する第2の磁気抵抗(Rb2)を与えるようになっていることを特徴とする、請求項4に記載の回転電気機械。
【請求項6】
前記磁束弱め磁気回路の各々は、前記ロータ(11)の磁性体の外縁面と、対応する永久磁石(PM)の受け部を形成している第1のスロット(E1)の内部とに通じているリセス(E10)を有し、このリセス(E10)は、概ね前記ロータ(11)の半径方向に、また前記ロータ(11)の軸に平行に延びており、前記磁束弱め回路の磁気抵抗(Rf)に寄与する第3の磁気抵抗(Rh)を与えるようになっていることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の回転電気機械。
【請求項7】
永久磁石(PM)の受け部を形成している前記第1のスロット(E1)の各々は、その底部に、対応する永久磁石(PM)によって占められておらず、この永久磁石(PM)の底部における永久磁石(PM)の局所的減磁を阻止する第1の磁気抵抗空間(E12)を形成している、少なくとも1つの第1の空き空間(E12)を有していることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の回転電気機械。
【請求項8】
永久磁石(PM)の受け部を形成している前記第1のスロット(E1)の各々は、その頂部に、対応する永久磁石(PM)によって占められておらず、この永久磁石(PM)の頂部における該永久磁石(PM)の局所的減磁を阻止する第2の磁気抵抗空間(E11)を形成している、少なくとも1つの第2の空き空間(E11)を有していることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の回転電気機械。
【請求項9】
前記ロータ(11)は、前記磁極の各々において、該磁極を画定している2つの連続する永久磁石(PM)の間で、該磁極の磁性体内に半径方向に延びている第3のスロット(E3)を有しており、この第3のスロット(E3)は、前記ロータ(11)の中心部分を通る磁束の磁束弱め制御に関与する下部部分(E31)と、前記ロータ(11)の機械的慣性の低減に関与する上部部分(E30)とを有していることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の回転電気機械。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6a】
【図6b】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6a】
【図6b】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2011−217601(P2011−217601A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−73920(P2011−73920)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(508075579)ヴァレオ エキプマン エレクトリク モトゥール (49)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−73920(P2011−73920)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(508075579)ヴァレオ エキプマン エレクトリク モトゥール (49)
【Fターム(参考)】
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