説明

永久磁石式回転電機

【目的】モータ特性を低下させることなく、永久磁石の減磁を抑制し、製造が容易な永久磁石式回転電機を提供する。
【構成】回転子1は、軸方向に2分割された回転子鉄心2a,2bを備える。この回転子鉄心における各磁極の位置には、永久磁石30を装着する。各磁極の永久磁石30は、分割された2つの回転子鉄心2a,2bを実方向に貫通する1本の板状の部材によって構成する。各回転子鉄心2a,2bの各磁極の外周には、それぞれ凸部31a,31bを回転子の軸方向に沿って設ける。この凸部31a,31bは、分割された2つの回転子鉄心2a,2bごとにずれた位置に設ける。回転子外周の凸部31a,31bにおいて回転子磁束密度が高くなり、その部分が磁極の磁極中心となる。2つの回転子鉄心2a,2bにおいて、外周凸部31a,31bの位置がずれているため、永久磁石30の位置は同じでもスキュー機能が発揮される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転子内部に永久磁石を内蔵した永久磁石式回転電機に関するものであって、特に、永久磁石を鉄心の軸方向に貫通するように配置し、しかもスキュー機能を得ることを可能とした永久磁石式回転電機に係る。
【背景技術】
【0002】
近年、永久磁石の目覚しい研究開発により、高磁気エネルギー積の永久磁石が開発され、回転電機の小型・高出力化が進められている。特にハイブリット自動車向けのような車両用を用途とする回転電機では、排出ガスの抑制、燃費向上のため、高効率化を強く求められている。また、搭載スペースが小さく、限られた空間の中で高トルク、高出力化を要求されており、これまでになく高エネルギー密度の回転電機となっていることから、これに伴い回転電機の電磁加振力も増加し、振動、騒音の増加が問題となっている。特に、ハイブリット自動車向けでは、車室内の静粛性、並びに車外への騒音低減が厳しく求められている。
【0003】
そこで、回転子積層鉄心をブロック状にし、それらを円周方向にずらし、結束することにより、スキューと類似する効果を得ることで、トルクリップル、振動、騒音を減少させることができるリラクタンス型回転電機の回転子が提案されている。(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
すなわち、このリラクタンス型回転電機は、回転子の外周に磁束が通り易い磁気的凸部(d軸)と磁束が通り難い磁気的凹部(q軸)とが極数と同数形成されている。この回転電機は磁気的凸部では電機子との間の空隙磁束密度が高く、磁気抵抗の大きい磁気的凹部では空隙磁束密度が低く、このような磁束密度の変化によってリラクタンストルクが発生する。特に、回転子に永久磁石を埋め込み磁気的突極性を持たせた永久磁石型リラクタンス回転電機では、リラクタンストルクに加え永久磁石と電機子磁極との間の磁気吸引力及び磁気反発力によるトルクが発生し、総じて大きなトルクが得られ、回転電機の体積当たりの出力密度を高くすることができる。
【0005】
この種の回転子内に永久磁石を内蔵した永久磁石式回転電機では、永久磁石の鎖交磁束が常に一定の強さで発生しているので、永久磁石による誘導電圧は回転速度に比例して高くなる。そのため、低速から高速まで可変速運転する場合、高速回転では永久磁石による誘導電圧(逆起電圧)が極めて高くなる。永久磁石による誘導電圧がインバータの電子部品に印加されてその耐電圧以上になると、電子部品が絶縁破壊する。そのため、永久磁石の磁束量が耐電圧以下になるように削減された設計を行うことが考えられるが、その場合には永久磁石式回転電機の低速域での出力及び効率が低下する。
【0006】
そこで、回転子内に、固定子巻線のd軸電流で作る磁界により不可逆的に磁束密度が変化する程度の低保磁力の永久磁石(以下、可変磁力磁石という)と、可変磁力磁石の2倍以上の保磁力を有する高保磁力の永久磁石(以下、固定磁力磁石という)を配置し、電源電圧の最大電圧以上となる高速回転域では、可変磁力磁石と固定磁力磁石による全鎖交磁束が減じるように、全鎖交磁束量を調整する技術が提案されている。(特許文献2、特許文献3参照)
【0007】
永久磁石の磁束量は、保磁力と磁化方向厚の積によって決定されるため、実際に回転子鉄心内に可変磁力磁石と固定磁力磁石とを組み込む場合には、可変磁力磁石としては保磁力と磁化方向厚の積が小の永久磁石を、固定磁力磁石としては保磁力と磁化方向厚の積が大の永久磁石を使用する。一般に、可変磁力磁石としては、アルニコ磁石やサマリウムコバルト磁石(サマコバ磁石)、フェライト磁石を使用し、固定磁力磁石としてはネオジム磁石(NdFeB磁石)を使用する。
【0008】
この種の永久磁石式回転電機において、高速回転域でいったん減磁した可変磁力磁石を増磁する場合に、可変磁力磁石に近接配置した固定磁力磁石の磁界が、d軸電流が作る増磁用の磁界の妨げとなり、その分増磁のためのd軸電流(磁化電流)が増大する現象がある。このような現象に対応するため、本発明者等は、固定磁力磁石の近傍に短絡コイルを配置し、この短絡コイルを貫通するd軸電流による磁界によって短絡コイルに誘導電流を発生させ、その誘導電流により前記固定磁力磁石により発生する磁界を打ち消すことにより、増磁時のd軸電流の増加を押さえた永久磁石式回転電機を提案した(特願2008−162203)。
【0009】
【特許文献1】特開2005−51897
【特許文献2】特開2006−280195号公報
【特許文献3】特開2008−48514号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、小型、高出力が求められる永久磁石式回転電機では、高トルク、高出力を得るため、大電流、起磁力が必要となり、それに伴い電機子反作用磁界が永久磁石に加わるため、永久磁石の減磁が生じる問題が発生している。加えて、前記従来のリラクタンス型回転電機においては、図19及び図20に示すように、ブロック状の回転子積層鉄心2a,2b及びそれに内蔵した永久磁石30a,30bを周方向にずらし、結束する段スキューにより、トルクリップル、振動、騒音を減少させている。しかし、分割スキュー面Sにおいて回転子鉄心2a,2bと永久磁石30a,30bの端面が接触しており、回転子鉄心2a,2bからの電機子反作用による反磁界が、永久磁石30a,30bの端面、角部に加わり、且つ耐減磁性が弱いことから、永久磁石の減磁が発生する原因となっている。
【0011】
また、従来の可変磁力磁石式回転電機では、同様にトルクリップル、振動、騒音を軽減させるため、図21のように回転子鉄心を分割して段スキューを行なっている。この回転電機において、電機子巻線が作る磁界により回転子の磁極を構成する可変磁力の永久磁石を磁化させる場合、分割した鉄心部間で可変磁力磁石の位置が異なることから、可変磁力磁石の磁化方向が軸方向で異なるため(図22参照)、可変磁力磁石を磁化することが困難となるため、十分な磁化ができず、磁化電流が増加する。
【0012】
加えて、可変磁力磁石式回転電機において、図23に示すように、可変磁力磁石3の磁化を行なう際に磁化時に発生する磁束によって短絡電流が流れる導電性の短絡コイル8を回転子内に設けているため、分割スキュー面で短絡コイル8を折り曲げる必要があって、短絡コイル8の挿入組立が難しく、回転子の製造性が非常に悪い。特に、可変磁力磁石式回転電機の中には、可変磁力磁石3a,3bの両側に固定磁力磁石4a,4bを配置するものがあるが、この短絡コイル8は、分割された各鉄心中の可変磁力磁石3a,3bとそれに隣接する固定磁力磁石4a,4bを取り囲むように配置されるため、分割スキュー面で短絡コイル8が屈曲していると、鉄心内に短絡コイル8を組み込むためには困難な作業が伴う。
【0013】
本発明は上述した課題を解決するためになされたものであり、モータ特性を低下させることなく、永久磁石の減磁を抑制し、製造が容易となり、且つ少ない磁化電流で効果的に磁束量を不可逆的に変化させて可変磁力磁石を増磁することができる永久磁石式回転電機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記の目的を達成するために、本発明の永久磁石式回転電機は、回転子鉄心内における永久磁石の装着位置は同一としながらも、鉄心各部における磁気特性を異ならせる構成を採用することで、スキュー機能を発揮させることを特徴とする。
【0015】
この場合、各鉄心における磁気特性を異ならせる構成とは、例えば、
(1) 回転子鉄心の回転子外周を凸形状とし、当該永久磁石埋め込み穴の周方向中心と回転子外周凸部中心とを任意にずらし配置する。
(2) 永久磁石外周側、且つ永久磁石埋め込み穴の周方向中心に対し、非対称となるよう非磁性材からなる磁気障壁を配置する。
(3) 回転子鉄心半径断面内に複数の磁力の異なる磁石を配置し、且つその磁石配列を各鉄心で異ならせる。
(4) 永久磁石外周側、且つ磁力の異なる磁石の境界位置にスリットを配置する。
(5) 回転子の各磁極に設けた外周凸部のみ、磁極ごとに周方向に不等配に配置することより、半径断面内において磁極の位置をずらす。
(6) 外周凸部を周方向に不等配とすると共に、各磁極における永久磁石の周方向位置も外周凸部と逆方向に不等配にずらす。
などの手段を単独あるいは組み合わせて使用する。
【0016】
また、可変磁力磁石と短絡コイルを組み合わせた永久磁石式回転電機に前記(1) から(6) の構成を組み合わせること、電機子巻線が作る可変磁力磁石を磁化する磁界の中心と回転子の可変磁力磁石の磁極中心が一致した時に、磁化を行なうことも本発明の一態様である。
【発明の効果】
【0017】
前記のような構成を有する本発明の永久磁石式回転電機では、回転子の段スキュー効果(トルクリップル、振動、騒音の低減)を得ることができる。しかも、永久磁石及びその装着孔は鉄心の軸方向に沿って同一位置、形状であることから、電機子反作用による反磁界が磁石に加わることがないため、減磁を抑制することができ、且つ永久磁石を分割する必要がないことから、部品点数が減り、製造性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
(1)第1実施形態
本発明の第1実施形態を図1により説明する。
本実施形態の永久磁石式回転電機は、軸方向に2分割された回転子鉄心2a,2bを備えている。この回転子鉄心における各磁極の位置には、永久磁石30が装着されている。各磁極の永久磁石30は、図2に示すように、分割された2つの回転子鉄心2a,2bを実方向に貫通する1本の板状の部材によって構成される。すなわち、分割された回転子鉄心2a,2bの各磁極において、永久磁石30は同一位置に配置される。そのため、一つの永久磁石30が各回転子鉄心2a,2bの磁極に配置される鉄心部30a,30bを構成する。
【0019】
各回転子鉄心2a,2bの各磁極の外周には、それぞれ凸部31a,31bが回転子の軸方向に沿って設けられている。この凸部31a,31bは、分割された2つの回転子鉄心2a,2bごとにずれた位置に設けられている。すなわち、図3の断面図に示すように、凸部31a,31bは、磁極の中心線を境としていずれかの方向に同角度ずれた位置に設けられる。
【0020】
このような構成の回転子鉄心2a,2bを作製するには、図3(A)に示すように、磁極内に永久磁石30をその中心線に対して対称形に配置するような積層珪素鋼板により一方の回転子鉄心2aを作製する。この場合、まだ、永久磁石30は、その装着孔にはめ込まないで置く。同様な形状の積層珪素鋼板を使用して、図3(A)のような鉄心ブロックを作製し、それを表裏反転させることで、図3(B)に示す他方の回転子鉄心2bを作製する。その後、2つの回転子鉄心2a,2bを重ね合わせ、その装着穴内に一本の永久磁石30を挿入することで、磁極中心線に対して凸部31a,31bが同じ角度だけずれ、かつ永久磁石30は磁極の同位置に設けられた本実施形態の回転子鉄心2a,2bを得る。
【0021】
このような構成を有する第1実施形態では、回転子外周の凸部31a,31bにおいて回転子磁束密度が高くなり、その部分が磁極の磁極中心となることから、この凸部31a,31bを軸方向で周方向にずらして、積み重ねて回転子鉄心2a,2bを構成することにより、回転子の段スキュー効果(トルクリップル、振動、騒音の低減)を得ることができる。しかも、永久磁石30及びその埋め込み穴は軸方向に沿って同一位置、形状であることから、電機子反作用による反磁界が磁石に加わることがないため、減磁を抑制することができる。且つ永久磁石を分割する必要がないことから、部品点数が減り、製造性が向上する。また、回転子鉄心を裏返して積み重ねることでスキュー効果を得ることができ、断面一つの形状で良いため、鉄心金型を複数製作する必要がなく、製造コストが抑制できる。また、回転子鉄心外周部で磁極位置が一目で確認できることから、回転子鉄心組立時のミスを防止することができる。
【0022】
(2)第2実施形態
図4は、本発明の第2実施形態を示す断面図である。この第2実施形態では、回転子鉄心2a,2b内に設ける永久磁石30を、その周方向中央に対し、非磁性部32である空隙を磁極の中心線に対して片側にずらし配置している。この場合、分割された各回転子鉄心2a,2bについて、非磁性部32が磁極中心に対してずれる方向は反対方向の同角度である。また、非磁性部32の形状、永久磁石30の形状は同一形状である。
【0023】
この回転子鉄心2a,2bは、前記第1実施形態と同様な手法で作製するものであり、同一形状の回転子鉄心2a,2bを作製して、その一方を裏返し、非磁性部32がずれるように軸方向に積み重ねて回転子1を構成する。
【0024】
このような構成を有する第2実施形態では、前記非磁性部32の存在により、永久磁石30より発する磁束が偏り、磁極の中心が片方にずれる。そのため、第1実施形態と同様に、永久磁石の減磁を抑制でき、磁石を分割する必要がないことから、部品点数が少なく、製造性が向上する。また、第2実施形態では、回転子の外周に凸部31a,31bが存在しないことから、回転子1と固定子10との平均的な間隙(エアギャップ)の最小ギャップを維持したまま、同等のスキュー効果を得ることが可能なる。
【0025】
(3)第3実施形態
図5は、本発明の第3実施形態を示す断面図である。この第3実施形態では、磁力の強い永久磁石33と弱い永久磁石34とを並べ配置していることから、磁力の強い永久磁石33側の磁束密度が高くなり、当該磁極の磁極中心が磁力の強い永久磁石33側にずれる。そして、このような構成の永久磁石を回転子鉄心2a,2bに挿入するが、この場合、図6に示すように、一方の回転子鉄心2a用と、他方の回転子鉄心2b用とで、強弱2つの永久磁石33,34の位置を異ならせた2種類の磁石を用意し、これらを更に一体化して、装着用の1本の永久磁石を作製する。その後、この1本の永久磁石を積層した回転子鉄心2a,2b内に挿入して回転子1を構成する。
【0026】
この場合、永久磁石を1本に接合する必要はなく、個々の永久磁石を順番に回転子鉄心2a,2b内に装着することもできる。また、回転子鉄心2a,2bも一つのブロックとして積層珪素鋼板その他の材料から製作することも可能である。更に、前記各実施形態のように、永久磁石33,34の配置も含めて同一形状の回転子鉄心2a,2bを作製しておき、その一方を裏返してから両者を重ね合わせることも可能である。
【0027】
この第3実施形態によれば、回転子鉄心2a,2bを軸方向に永久磁石33,34の配列を組み替えて積み重ねて回転子1を構成している。そのため、第1実施形態と同様に、永久磁石の減磁を抑制でき、且つ磁石埋め込み穴が軸方向ストレートであるため、磁石を予め一体成型(接着)し、組み込みことが可能であることから、部品点数が少なく、製造性が向上する。また、回転子鉄心2a,2bに凸形状や空隙が不要であるため、断面形状が単純であり、鉄心金型を安価で製作することが可能で、加えて回転遠心力による回転子鉄心応力も低く抑えられることから、堅牢な回転子を得ることが可能である。
【0028】
(4)第4実施形態
図7は、本発明の第4実施形態を示すものである。この第4実施形態は、前記第3実施形態の変形例であって、1本の磁力の強い永久磁石33と、2本の磁力の弱さが異なる永久磁石34−1,34−2を回転子鉄心2a,2b内に組み込んだものである。この第3実施形態では、磁極内で3段階(複数段階)の磁力を有する永久磁石33,34−1,34−2を配置した構成であるからことから、軸方向に滑らかな(細かな)スキューを行なうことが可能となる。
【0029】
また、前記第3実施形態では、一つの穴に異なる磁力の磁石を挿入するため、予め接着剤等で一体化していないと、反発して磁石埋め込み穴に挿入することが困難である。一方、この第4実施形態は磁石埋め込み穴が分割されているため、磁石の挿入組立を容易に行なうことができる。また、分割数を複数にして永久磁石の装着孔を分割していることから、永久磁石の回転遠心力を分散されるため、回転子鉄心応力も低く抑えられ、堅牢な回転子を得ることが可能である。
【0030】
(5)第5実施形態
図8は、本発明の第5実施形態の断面図である。この第5実施形態では、前記第3実施形態の回転子鉄心2a,2bに対して、さらにその外周部にスリット35を設けている。この場合、スリットは、分割された回転子鉄心2a,2bでは、磁極の中心線を挟んで対象の位置に設ける。すなわち、前記第1あるいは第2実施形態と同様に、同一形状の回転子鉄心2a,2bを作製し、それを裏返して積層したものである。
【0031】
この第5実施形態では、第3実施形態と同様に、永久磁石の減磁を抑制でき、且つ磁石埋め込み穴が軸方向ストレートであるため、磁石を予め一体成型(接着)し、組み込みことが可能であることから、部品点数が少なく、製造性が向上する。しかも、磁力の強い永久磁石33と磁力の弱い永久磁石34の外周側磁路が仕切られそこが磁気障壁となって磁路を効果的に分断するので、磁力の強い永久磁石33側に磁極中心をよりずらすことが可能となり、スキュー効果を高めることができる。また、永久磁石の減磁も抑制できる。
【0032】
特に、異なる磁力の永久磁石33,34の境界付近にスリット35が配置されているため、永久磁石外周部鉄心部の磁路を分断されているため、異なる磁力磁石の磁束が混ざり合いにくいことから、磁極中心をよりずらすことが可能となり、高いスキュー効果を得ることができる。また、回転子鉄心外周部で磁極位置が一目で確認できることから、回転子鉄心組立時のミスを防止することができる。
【0033】
(6)第6実施形態
図9は、本発明の第6実施形態の断面図である。この第6実施形態は、回転子1の各磁極に設けた外周凸部31のみ、磁極ごとに周方向に不等配に配置することより、半径断面内において磁極の位置をずらして、スキュー効果を得るものである。すなわち、図中τで示す磁極中心(各磁極の可変磁力磁石3の中心)の角度がすべての磁極において等しくなるように永久磁石を配置すると共に、外周凸部31は隣接する磁極ごとにその角度がαまたはβというように異なって設けられる。
【0034】
この場合、前記第1実施形態とは異なり、回転子鉄心2は、その軸方向に分割する必要はない。また、第6実施形態では、各磁極にそれぞれ3つの永久磁石、一例として中央に可変磁力磁石3、両側に固定磁力磁石4,4を配置しているが、単一の永久磁石を配置したものや、前記の第2実施形態〜第5実施形態に記載のような形状の非磁性部32、永久磁石33,34、スリット35などを配置しても良い。
【0035】
この第6実施形態では、永久磁石とその装着孔は軸方向に沿って同一位置、形状であることから、電機子反作用による反磁界が磁石に加わりにくいため、減磁を抑制することができ、且つ永久磁石を分割する必要がないことから、部品点数が減り、製造性が向上する。また、回転子鉄心2は、外周凸部のみ周方向に不等配に配置するだけの構成であるから、軸方向に反転して積み重ねて組み立てる必要がないため、製造性が向上する。特に、断面一形状でスキュー効果を得ることが可能であることから、鉄心金型を複数製作する必要がなく、製造コストが抑制できる。その結果、前記各実施形態と同様に、スキュー効果を得つつ、永久磁石の減磁を抑制することが可能である。
【0036】
(7)第7実施形態
図10は、本発明の第7実施形態の断面図である。この第7実施形態は、前記第6実施形態と同様に、外周凸部31を周方向に不等配とすると共に、各磁極における永久磁石3,4,4の周方向位置も外周凸部31と逆方向に不等配にずらすことで、よりスキュー角度(ずれ角度)を大きく取ることを可能としたものである。すなわち、この第7実施形態では、すなわち、図中τで示す磁極中心の角度に対して、永久磁石3の周方向の中心と回転子外周凸部31の中心の角度を、各磁極間の角度がα,βと異なるように任意にずらし配置する。また、外周凸部31も、隣接する磁極ごとにその角度がαまたはβというように異なって設ける。また、回転子全体として見た場合に、永久磁石3と回転子外周凸部31とを、回転軸対称となるよう配置する。
【0037】
この第7実施形態では、外周凸部31及び各永久磁石3,4,4を回転子1の周方向に不等配に配置するだけで、回転子鉄心は軸方向に分割する必要はない。そのため、回転子鉄心2を軸方向に反転して積み重ねて組み立てる必要がないため、製造性が向上する。しかも、前記実施形態と同様に、スキュー効果を得つつ、永久磁石の減磁を抑制することが可能である。また、断面一形状でスキュー効果を得ることが可能であることから、鉄心金型を複数製作する必要がなく、製造コストが抑制できる。
【0038】
また、凸部形状のみ、または永久磁石位置のみの不等配配置では、特に回転子極数に対し、固定子スロット数が少ない場合、大きな磁極のズレ量(スキュー量)が必要となるが、限られた回転子鉄心面積の中で磁石位置を変更することが難しく、加えて回転子鉄心の強度的な問題(不等配となると回転遠心力による変形量が均等とならないため、発生する応力が増大する)で磁極のズレ量を大きく取ることができない。従って、凸部形状、磁石位置の双方を組み合わせることにより、ズレ量を大きく取ることが可能となり、スキュー効果を十分得ることが可能となる。
【0039】
(8)第8実施形態
図11は、本発明の第8実施形態を示す斜視図である。この第8実施形態は、前記第6実施形態として示した回転子1の各磁極に設けた外周凸部31のみ磁極ごとに周方向に不等配に配置した2つの回転子鉄心2a,2aの間に、その回転子鉄心2a,2aを裏返しにした回転子鉄心2bを積層したものである。この場合、中央に配置する回転子鉄心2bは、両側の回転子鉄心2aの2倍の厚さとする。
することより、
【0040】
この第8実施形態では、外周凸部31のみ周方向に不等配に配置し、且つ回転子鉄心2bを反転させ、軸方向に積み重ねて回転子2を構成することにより、前記第6実施形態の構成よりもさらにスキュー効果を得ることができる。特に、外周凸部31のオフセットだけでは、スキュー効果を十分に得ることができない可能性があり、外周凸部31をオフセットしたのに加え、反転して鉄心を積むことで、スキュー量(ズレ角度)を大きく取ることができ、スキュー効果を増大できる。
【0041】
なお、回転子鉄心2bを反転させて積み重ねても、永久磁石3,4及びその装着孔は軸方向に沿って同一位置、形状であることから、電機子反作用による反磁界が永久磁石に加わりにくいため、減磁を抑制することができ、且つ永久磁石を分割する必要がないことから、部品点数が減り、製造性が向上する。
【0042】
なお、この第8実施形態の変形例として、回転子鉄心2a,2bの外周凸部31をオフセットしてスキュー効果を得る代わりに、第2実施形態から第5実施形態のような空隙や強弱の永久磁石の配置によってスキュー効果を得ることも可能である。この場合には、積層する回転子鉄心2a,2bの構成は全く変えずに、前記第8実施形態と同様な効果を得ることができる。
(9)第9実施形態
図12から図18は、本発明の第9実施形態を示すものである。この第9実施形態は、1つの磁極内に可変磁力磁石3これを挟んで一対の固定磁力磁石4,4を設けたものである。以下、この実施形態の構成並びに作用を詳細に説明する。
(9−1)基本的な構成
第1の実施形態の回転子1は、図12及び図13に示すように回転子鉄心2、可変磁力磁石3、固定磁力磁石4から構成される。回転子鉄心2は珪素鋼板を積層して構成し、前記の永久磁石は回転子鉄心2内に埋め込む。本実施形態では、可変磁力磁石3はフェライト磁石またはアルニコ磁石とし、この実施形態ではフェライト磁石を使用した。固定磁力磁石4は、NdFeB磁石を使用した。この可変磁力磁石の保磁力は280kA/mとし、固定磁力磁石の保磁力は1000kA/mとする。可変磁力磁石3は磁極中央のd軸に沿って回転子鉄心2内に配置し、その磁化方向はほぼ周方向である。固定磁力磁石4は磁化方向がd軸方向に対して所定の角度を持つように、前記可変磁力磁石3の両側の回転子鉄心2内に配置する。
【0043】
前記回転子鉄心2内に埋め込まれた固定磁力磁石4を取り囲むように、短絡コイル8を設ける。この短絡コイル8は、リング状の導電性部材から構成し、可変磁力磁石3を除いた固定磁力磁石4の磁路部分に設ける。その場合、固定磁力磁石4の磁化方向を中心軸として、固定磁力磁石4周囲に短絡コイル8を設ける。
【0044】
本実施形態では、この短絡コイル8は、固定磁力磁石4の上下にそれぞれ設けられているが、上下いずれか一方でも良い。また、短絡コイル8を固定磁力磁石の上下の面(磁化方向と直行する方向)と平行に設けたが、短絡コイルの対角線方向に1本あるいはX字状に2本設けることもできる。さらに、固定磁力磁石の表面に密着して設ける以外に、図示のように固定磁力磁石、及び固定磁力磁石と可変磁力磁石との間のブリッジ部分6を取り囲むように設けることもできる。また、短絡コイルの代わりに、導電性の部材、例えば、導電板を固定磁力磁石4の上下の表面、外周部に設けることもできる。
【0045】
短絡コイル8は、可変磁力磁石3の磁化が変化する程度の短絡電流が1秒以内に流れ、その後1秒以内にその短絡電流を50%以上減衰させるものであることが好ましい。また、短絡コイル8のインダクタンス値と抵抗値を、可変磁力磁石3の磁化が変化する程度の短絡電流が流れるような値とすると、効率が良い。
【0046】
図14に示すように、前記回転子2の外周には、エアギャップ9を介して固定子10を設ける。この固定子10は、電機子鉄心11と電機子巻線12とを有する。この電機子巻線12に流れる磁化電流により、短絡コイル8には誘導電流が誘起され、その誘導電流によって短絡コイル8を貫通する磁束が形成される。この電機子巻線12に流れる磁化電流により、可変磁力磁石3の磁化方向が可逆的に変化する。すなわち、可変磁力磁石と固定磁力磁石に対しては、永久磁石式回転電機の運転時において、d軸電流による磁界で永久磁石3を磁化させて可変磁力磁石3の磁束量を不可逆的に変化させる。その場合、可変磁力磁石3を磁化するd軸電流を流すと同時にq軸電流により回転電機のトルクを制御する。
【0047】
また、d軸電流で生じる磁束により、電流(q軸電流とd軸電流とを合成した全電流)と可変磁力磁石と固定磁力磁石とで生じる電機子巻線の鎖交磁束量(回転電機の全電流によって電機子巻線に生じる磁束と、回転子側の可変磁力磁石と固定磁力磁石とによって生じる磁束とから構成される電機子巻線全体の鎖交磁束量)をほぼ可逆的に変化させる。特に、本実施形態では、瞬時の大きなd軸電流による磁界で可変磁力磁石3を不可逆変化させる。この状態で不可逆減磁がほとんど生じないか、僅かの不可逆減磁が生じる範囲のd軸電流を連続的に流して運転する。このときのd軸電流は電流位相を進めて端子電圧を調整するように作用する。
【0048】
(9−2)分割鉄心について
本実施形態では、回転子は、図15に示すように、各回転子鉄心2a,2bには、外周凸部31a,31bが周方向にずれて配置されているが、永久磁石3,4と短絡コイル8は、図16に示すように1本の角棒状の部材で、2つの回転子鉄心2a,2bを貫通している。このような回転子を作製する手法としては、前記第1実施形態と同様、図17(A)から(C)に示すように、同一形状の回転子鉄心2a,2bを裏返しに重ね合わせて構成する。
【0049】
なお、この実施形態では、分割した回転子鉄心2a,2b間にスキュー効果を発揮させるためにオフセットされた外周凸部31a,31bを使用したが、前記第2から第5実施形態のような非磁性部32やスリット35によってスキュー効果を得ることも可能である。その場合でも、永久磁石3,4及び短絡コイル8については、1本の棒状の部材を使用し、それらが分割された2つの回転子鉄心2a,2bを貫通する。
【0050】
(9−3)減磁及び増磁作用
次に、前記のような構成を有する本実施形態の永久磁石式回転電機における増磁時と減磁時の作用について説明する。なお、各図中に、電機子巻線12や短絡コイル8によって発生した磁力の方向を矢印により示す。
【0051】
本実施形態では、固定子10の電機子巻線12に通電時間が0.1ms〜100ms程度の極短時間となるパルス的な電流を流して磁界を形成し、可変磁力磁石3に磁界Aを作用させる(図12参照)。永久磁石を磁化するための磁界Aを形成するパルス電流は、固定子10の電機子巻線12のd軸電流成分とする。
【0052】
2種類の永久磁石の厚みはほぼ同等するとd軸電流による作用磁界による永久磁石の磁化状態変化は保磁力の大きさにより変る。永久磁石の磁化方向とは逆方向の磁界を発生する負のd軸電流を電機子巻線12にパルス的に通電する。負のd軸電流によって変化した磁石内の磁界Aが−280kA/mになったとすると、可変磁力磁石3の保磁力が280kA/mなので可変磁力磁石3の磁力は不可逆的に大幅に低下する。
【0053】
一方、固定磁力磁石4の保磁力が1000kA/mなので磁力は不可逆的に低下しない。その結果、パルス的なd軸電流が0になると可変磁力磁石3のみが減磁した状態となり、全体の磁石による鎖交磁束量を減少することができる。さらに−280kA/mよりも大きな逆磁界をかけると可変磁力磁石3は逆方向に磁化して極性は反転する。この場合、可変磁力磁石3の磁束と固定磁力磁石4の磁束は打ち消しあうので永久磁石の全鎖交磁束は最小になる。
【0054】
この場合、固定磁力磁石4の磁力の方向は、図12のBに示すように、固定磁力磁石4から可変磁力磁石3の方向となるので、前記電機子巻線12による磁界の磁力の方向と一致するため、可変磁力磁石3の減磁させる方向に強い磁力が作用する。同時に、短絡コイル8には、電機子巻線12の磁界Aを打ち消すような誘導電流が発生し、その誘導電流によって図12矢印Cで示すような磁力の方向を有する磁界が発生する。この短絡コイル8による磁力Cも、可変磁力磁石3の磁化方向を逆方向に向けるように作用する。これらより、可変磁力磁石3の減磁及び極性の反転が効率的に行われる。
【0055】
つぎに、永久磁石の全鎖交磁束を増加させて最大に復元させる過程(増磁過程)を説明する。減磁完了の状態では、図13に示すように、可変磁力磁石3の極性は反転しており、反転した磁化とは逆方向(図12に示す初期の磁化方向)の磁界を発生する正のd軸電流を電機子巻線12に通電する。反転した逆極性の可変磁力磁石3の磁力は前記磁界が増すに連れて減少し、0になる。さらに正のd軸電流による磁界を増加させると極性は反転して初期の極性の方向に磁化される。ほぼ完全な着磁に必要な磁界である350kA/mをかけると、可変磁力磁石3は着磁されてほぼ最大に磁力を発生する。
【0056】
この場合、減磁時と同様に、d軸電流は連続通電で増加させる必要はなく、目標の磁力にする電流を瞬間的なパルス電流を流せばよい。一方、固定磁力磁石4の保磁力が1000kA/mなので、d軸電流による磁界が作用しても固定磁力磁石4の磁力は不可逆的に変化しない。その結果、パルス的な正のd軸電流が0になると可変磁力磁石3のみが増磁した状態となり、全体の磁石による鎖交磁束量を増加することができる。これにより元の最大の鎖交磁束量に戻すことが可能となる。
【0057】
以上のようにd軸電流による瞬時的な磁界を可変磁力磁石3と固定磁力磁石4に作用させることにより、可変磁力磁石3の磁力を不可逆的に変化させて、永久磁石の全鎖交磁束量を任意に変化させることが可能となる。
【0058】
(9−4)短絡コイル8の作用
つぎに、短絡コイル8の作用について述べる。可変磁力磁石3と固定磁力磁石4は回転子鉄心2内に埋め込まれて磁気回路を構成しているので、前記d軸電流による磁界は可変磁力磁石3のみでなく、固定磁力磁石4にも作用する。本来、前記d軸電流による磁界は可変磁力磁石3の磁化を変化させるために行う。そこで、前記d軸電流による磁界が固定磁力磁石4に作用しないようにし、可変磁力磁石3に集中するようにすればよい。
【0059】
本実施形態では、固定磁力磁石4とその周囲のブリッジ部6に短絡コイル8を配置している。この場合、短絡コイル8は、固定磁力磁石4の磁化方向を中心軸として配置する。図13に示す、可変磁力磁石3の増磁方向の磁化を行う場合、前記d軸電流による磁界A1が固定磁力磁石4に作用すると、前記磁界Aを打ち消すような誘導電流が短絡コイル8に流れる。したがって、固定磁力磁石4中には、前記d軸電流による磁界A1と短絡電流による磁界Cが作用し両者が打ち消し合うために、磁界の増減はほとんど生じない。つまり磁界A1≒0にできるので少ない磁化電流により、可変磁力磁石3を効果的に増磁することができる。
【0060】
このとき、固定磁力磁石4は短絡コイル8により前記d軸電流の影響を受けなく、磁束の増加はほとんど生じないので、d軸電流による電機子鉄心11の磁気飽和も緩和できる。すなわち、電機子鉄心11は、d軸電流によって発生する磁界Aが電機子巻線12間に形成された磁路を通過することにより、その部分の磁気飽和が生じる可能性がある。しかし、本実施形態では、短絡コイル8の磁界Cのうち、電機子鉄心11の磁路を通過する部分が、d軸電流による磁界Aと逆方向に作用し、A1≒0とできるので、電機子鉄心11の磁路が磁気飽和することが緩和される。
【0061】
また、本実施形態では、短絡コイル8がブリッジ部6を取り囲むように設けたので、ブリッジ部6に作用する磁界A2によっても短絡コイル8に短絡電流が流れることになる。この場合、可変磁力磁石3の近傍に短絡コイル8を配置することになるため、可変磁力磁石以外に作用する磁界を効率よく打ち消すことが可能である。
【0062】
さらに、固定磁力磁石4は短絡コイル8により前記d軸電流の影響を受けなく、磁束の増加はほとんど生じないので、d軸電流による電機子鉄心11の磁気飽和も緩和できる。すなわち、電機子鉄心11は、d軸電流によって発生する磁界Aが電機子巻線12間に形成された磁路を通過することにより、その部分の磁気飽和が生じる可能性がある。しかし、本実施形態では、短絡コイル8の磁界Cは磁界A1+磁界A2を打ち消し、磁界A1+磁界A2≒0とできるので、電機子鉄心11の磁路を通過する磁束の内、磁界A1及び磁界A2による成分が減少するので、電機子鉄心11の磁路が磁気飽和することが緩和される。
【0063】
(9−5)第9実施形態の効果
この第9実施形態では、可変磁力磁石3は保磁力が小さいため、電機子反作用による減磁が発生しやすいため、通常のロータ段スキューを行なう際は、スキュー面での減磁が発生し、モータ特性を大きく低下させてしまう。本実施形態では、段スキューする必要がないことから、スキュー効果を得つつ、可変磁磁力磁石3並びに固定磁力磁石4,4の減磁を抑制することができる。また、短絡コイル8をスキュー面で折り曲げる必要がないことから、短絡コイル8の組立、並びに回転子の組立を容易に行なうことが可能となり、製造コストの低減が可能となる。
【0064】
特に、第9実施形態において、図18(A)(B)に示すように、電機子巻線が作る可変磁力磁石3を磁化する磁界の中心と、回転子2の可変磁力磁石3の磁極中心が一致した時、即ち回転子の外周凸部31が固定子ティース13と一致した時に、磁化を行なうことで、軸方向で磁極中心が異なる可変磁力磁石3においても、十分な磁化を行なうことが可能となり、磁化電流を低減することができる。
【0065】
(10)他の実施形態
本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、次のような他の実施形態も包含する。
(a) 第6実施形態から第8実施形態において、外周凸部31をずらすことによりスキー機能を発揮させたが、この外周凸部に代えて、前記第2実施形態から第5実施形態に示した、永久磁石配置、非磁性部、スリット位置などでスキュー機能を発揮させる手段を採用することができる。
(b) 可変磁力磁石式回転電機において、回転子鉄心2a,2bの外周凸部31をオフセットしてスキュー効果を得る代わりに、第2実施形態から第5実施形態のような空隙や強弱の永久磁石の配置によってスキュー効果を得ることも可能である。この場合には、積層する回転子鉄心2a,2bの構成は全く変えずに、前記第9実施形態と同様な効果を得ることができる。
(c) 可変磁力磁石式回転電機において、図9または図10に示したような鉄心を分割しない構成とすることもできる。すなわち、回転子1の各磁極に設けた外周凸部31のみ、磁極ごとに周方向に不等配に配置したり、外周凸部31を周方向に不等配とすると共に、各磁極における永久磁石3,4,4の周方向位置も外周凸部31と逆方向に不等配にずらすことで、よりスキュー角度(ずれ角度)を大きく取ることもできる。
(d) 可変磁力磁石式回転電機において、回転子1の各磁極に設けた外周凸部31のみ磁極ごとに周方向に不等配に配置した2つの回転子鉄心2a,2aの間に、その回転子鉄心2a,2aを裏返しにした回転子鉄心2bを積層することもできる。また、その場合に、中央に配置する回転子鉄心2bは、両側の回転子鉄心2aの2倍の厚さとすることも可能である。
(e) 第9実施形態では、請求項14、及び請求項15の永久磁石式回転電機において、電機子巻線が作る可変磁力磁石を磁化する磁界の中心と回転子の可変磁力磁石の磁極中心が一致した時、即ち回転子の外周凸形状が当該固定子ティースと一致した時に、磁化を行なうことで、軸方向で磁極中心が異なる可変磁力磁石においても、十分な磁化を行なうことが可能となり、磁化電流を低減することができる。
(f) 前記各実施形態では8極の回転電機を示したが、12極等の多極の回転電機にも本発明を適用できるのは当然である。極数に応じて永久磁石の配置位置、形状が幾分変ることはもちろんであり、作用と効果は同様に得られる。特に、前記各実施形態は、中央に可変磁力磁石を、その両側に固定磁力磁石を配置したものであるが、可変磁力磁石と固定磁力磁石との他の配置にも適用できる。
【0066】
(g) 前記回転子鉄心2において、固定磁力磁石の外周側に磁気障壁を構成するために設ける空洞の形状や位置、また、固定磁力磁石の内周側にその磁路断面積を決定するために設ける空洞の位置などは、使用する永久磁石の保磁力や磁化電流によって生じる磁界の強さなどに応じて、適宜変更できる。この場合、第1実施形態のように回転子鉄心2a,2bを反転して重ね合わせる場合には、外周凸部31a,31b、非磁性部32、永久磁石の装着孔に加えて、他の空洞などを磁極中心に対して、対称形に設ける必要がある。
【0067】
(h) 回転子鉄心2a,2bを同一形状ものを反転して重ね合わせない場合には、外周凸部31a,31bの位置が異なる別々の形状の回転子鉄心2a,2bを用意することもできる。また、非磁性部32などについても、異なる形状の回転子鉄心2a,2bを用意して、重ね合わせても良い。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の第1の実施形態における回転子の拡大斜視図
【図2】本発明の第1の実施形態における永久磁石の斜視図
【図3】本発明の第1の実施形態における回転子の半径断面拡大図
【図4】本発明の第2の実施形態における回転子の半径断面拡大図
【図5】本発明の第3の実施形態における回転子の半径断面拡大図
【図6】本発明の第3の実施形態における永久磁石の斜視図
【図7】本発明の第4の実施形態における回転子の半径断面拡大図
【図8】本発明の第5の実施形態における回転子の半径断面拡大図
【図9】本発明の第6の実施形態における回転子の断面図
【図10】本発明の第7の実施形態における回転子の断面図
【図11】本発明の第8の実施形態における回転子の斜視図
【図12】本発明の第9の実施形態における回転子の半径断面拡大図で、可変磁力磁石3をd軸電流により減磁する状態を示す
【図13】本発明の第9の実施形態における回転子の半径断面拡大図で、可変磁力磁石3をd軸電流により増磁する状態を示す
【図14】本発明の第9の実施形態における回転子及び固定子の斜視図
【図15】本発明の第9の実施形態における回転子の拡大斜視図
【図16】本発明の第9の実施形態における永久磁石と短絡コイルの拡大斜視図
【図17】本発明の第9の実施形態における回転子の半径断面拡大図
【図18】本発明の第9の実施形態における永久磁石回転電機の半径断面拡大図で、第2の鉄心部の突起30a,30bを磁化電流による磁束が通過する状態を示す
【図19】従来の分割鉄心型回転子の軸断面拡大図
【図20】従来の分割鉄心型可変磁力永久磁石式回転電機における永久磁石の斜視図
【図21】従来の分割鉄心型可変磁力永久磁石式回転電機における回転子の斜視図
【図22】従来の分割鉄心型可変磁力永久磁石式回転電機の半径断面拡大図
【図23】従来の分割鉄心型可変磁力永久磁石式回転電機における永久磁石と短絡コイルの拡大斜視図
【符号の説明】
【0069】
1…回転子
2,2a,2b…回転子鉄心
3,3a,3b…可変磁力磁石
4,4a.4b…固定磁力磁石
8…短絡コイル
9…エアギャップ
10…固定子
11…電機子鉄心
12…電機子巻線
13…固定子ティース
30,30a,30b…永久磁石
31,31a,31b…回転子外周凸部
32…非磁性部
33,34…永久磁石
35…スリット
S…分割スキュー面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定子鉄心に電機子巻線を有する固定子と、回転子鉄心内に永久磁石を埋設してなる回転子を備えた永久磁石式回転電機において、
前記回転子鉄心を軸方向において2つ以上に分割し、この分割した回転子鉄心間において永久磁石の装着位置を同一とすると共に、分割された各回転子鉄心における磁気特性を異ならせる手段を設け、この手段により回転子鉄心にスキュー機能を発揮させることを特徴とする永久磁石式回転電機。
【請求項2】
前記磁気特性を異ならせる手段が、分割された各回転子鉄心の回転子外周にそれぞれ凸部を形成し、この凸部と当該永久磁石の周方向中心と回転子外周凸部中心とをずらして配置したものであることを特徴とする請求項1に記載の永久磁石式回転電機。
【請求項3】
前記磁気特性を異ならせる手段が、分割された各回転子鉄心における永久磁石外周側で、永久磁石装着孔の周方向中心に対して非対称となるよう非磁性材若しくは空隙部からなる磁気障壁を配置したものであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の永久磁石式回転電機。
【請求項4】
前記磁気特性を異ならせる手段が、前記分割された回転子鉄心内に複数の磁力の異なる磁石を配置し、且つその磁石配列を分割された各回転子鉄心ごとに異ならせたことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の永久磁石式回転電機。
【請求項5】
前記磁気特性を異ならせる手段が、各鉄心における永久磁石外周側にスリットを配置し、このスリットの位置を分割された各鉄心ごとに永久磁石の周方向中心部に対してずらしたことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の永久磁石式回転電機。
【請求項6】
固定子鉄心に電機子巻線を有する固定子と、回転子鉄心内に永久磁石を埋設してなる回回転子を備えた永久磁石式回転電機において、
前記回転子鉄心における各磁極部分には、回転子鉄心をその軸方向に貫通する1つまたは複数の永久磁石を、回転子の周方向等配に配置し、
前記回転子鉄心の各磁極部には各磁極部ごとに磁気特性を異ならせる手段を設け、この磁気特性を異ならせる手段を周方向に不等配となるように配置して、回転子鉄心にスキュー機能を発揮させることを特徴とする永久磁石式回転電機。
【請求項7】
固定子鉄心に電機子巻線を有する固定子と、回転子鉄心内に永久磁石を埋設してなる回回転子を備えた永久磁石式回転電機において、
前記回転子鉄心における各磁極部分には、回転子鉄心をその軸方向に貫通する1つまたは複数の永久磁石を、極ピッチで決まる角度から任意の角度ずらして配置し、
前記回転子鉄心の各磁極部には各磁極部ごとに磁気特性を異ならせる手段を設け、この磁気特性を異ならせる手段を周方向に不等配となるように配置して、回転子鉄心にスキュー機能を発揮させることを特徴とする永久磁石式回転電機。
【請求項8】
固定子鉄心に電機子巻線を有する固定子と、回転子鉄心内に永久磁石を埋設してなる回回転子を備えた永久磁石式回転電機において、
前記回転子鉄心を軸方向において2つ以上に分割し、この分割した各回転子鉄心の各磁極部には各磁極部ごとに磁気特性を異ならせる手段を設け、この磁気特性を異ならせる手段を周方向に不等配となるように配置すると共に、
分割された各鉄心間において、前記磁気特性を異ならせる手段を周方向にずらして配置して、回転子鉄心にスキュー機能を発揮させることを特徴とする永久磁石式回転電機。
【請求項9】
前記磁気特性を異ならせる手段が、回転子鉄心の各磁極部には回転子外周にその軸方向に伸びる凸部を形成し、この凸部を前記回転子の周方向に不等配となるように配置したものであることを特徴とする請求項6から請求項8のいずれか1項に記載の永久磁石式回転電機。
【請求項10】
前記磁気特性を異ならせる手段が、回転子鉄心における永久磁石外周側で、永久磁石装着孔の周方向中心に対して非対称となるよう非磁性材若しくは空隙部からなる磁気障壁を配置したものであることを特徴とする請求項6から請求項9のいずれか1項に記載の永久磁石式回転電機。
【請求項11】
前記磁気特性を異ならせる手段が、回転子鉄心の各磁極に複数の磁力の異なる磁石を配置し、且つその磁石配列を分割された各回転子鉄心ごとに異ならせたことを特徴とする請求項6から請求項10のいずれか1項に記載の永久磁石式回転電機。
【請求項12】
前記磁気特性を異ならせる手段が、回転子鉄心における永久磁石外周側にスリットを配置し、このスリットの位置を永久磁石の周方向中心部に対してずらしたことを特徴とする請求項6から請求項11のいずれか1項に記載の永久磁石式回転電機。
【請求項13】
前記永久磁石が、保持力と磁化方向厚さの積が互いに異なる2種類以上の永久磁石であって、前記電機子巻線が作る磁界により前記回転子の磁極を構成する永久磁石の少なくとも1個である可変磁力磁石を磁化させることを特徴とする請求項6から請求項12のいずれか1項に記載の永久磁石式回転電機。
【請求項14】
前記回転子が、可変磁力磁石の磁化を行なう際に磁化時に発生する磁束によって短絡電流が流れるような導電性の部材を回転子内に設けたことを特徴とする請求項13に記載の永久磁石式回転電機。
【請求項15】
電機子巻線が作る可変磁力磁石を磁化する磁界の中心と回転子の可変磁力磁石の磁極中心が一致した時に、磁化を行なうことを特徴とする請求項13または請求項14に記載の永久磁石式回転電機。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図12】
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【図13】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図22】
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【図1】
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【図11】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図21】
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【図23】
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【公開番号】特開2010−148235(P2010−148235A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−322612(P2008−322612)
【出願日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】