説明

汚泥界面検知装置

【課題】 汚泥界面の検知及び汚泥相と水相が混合してなる混合相の検知を行うことができる汚泥界面検知装置を提案する。
【解決手段】 水平方向に対向する少なくとも1対の超音波送信部1A及び超音波受信部1Bを用いて深さ方向に異なる複数の位置で測定を行うことによって、沈降槽20内に形成される汚泥相と水相との界面を検知する汚泥界面検知装置10は、これら超音波送信部1Aと超音波受信部1Bの間隔を変更する機構を備えている。この機構は、超音波送信部1A及び超音波受信部1Bを配置するレール2や、超音波送信部1A又は超音波受信部1Bのいずれか一方を往復動させる駆動装置3を有していることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水中の汚泥を沈降分離する沈降槽内に形成される汚泥相と水相との界面を検知すると共に、汚泥相と水相が混合した混合相を検知する汚泥界面検知装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般産業界における工場排水の処理や下水処理では、規制物質や有害物質を沈降処理により除去したのち、上澄み水を河川又は海洋に放流することが広く行われている。この沈降処理では、直方体形状若しくは胴体部が円筒形状で下部がコーン形状となっている沈降槽が広く用いられており、ここに送られてきた工場排水や下水処理液は、前工程で加えられた薬剤等によって規制物質や有害成分を取り込んだ汚泥が形成されているため、適度な滞留時間を与えて沈降槽内で汚泥を沈降させることで、汚泥相と水相の分離を行なうことができる。
【0003】
上記沈降分離によって沈降槽内に形成される汚泥相とそれ以外の相との界面(以降、汚泥界面と称する)の位置を検知することは、汚泥相のみを沈降槽から確実に抜き出す上で重要であり、また、水相のみを上澄みとして確実に放流する上でも重要である。従来から、この汚泥界面等の界面を検知する手段として、超音波を利用した方法が広く用いられてきた。
【0004】
例えば、特許文献1には、超音波の送受信部を沈降槽内の水相中に設置し、この送受信部から下方に向けて超音波を送信して汚泥界面で反射して戻ってきた反射波を送受信部で受信するまでの時間から汚泥界面の位置を直接検知する方法が示されている。
【0005】
また、特許文献2には、原子力産業における核燃料再処理施設において、使用済燃料からウランとプルトニウムを回収する際に用いる重液相と軽液相の界面の検知に超音波を利用する方法が示されている。
【0006】
具体的には、超音波送信部と超音波受信部を水平方向に対向して配置し、超音波送信部から送信された超音波が超音波受信部で受信されるまでの時間と受信された超音波の強度によって、これら超音波送信部と超音波受信部からなる超音波送受信部が軽液相に位置しているか、あるいは重液相に位置しているか、あるいは軽液相と重液相との間に発生する第三相と呼ばれる相に位置しているかを判断している。このような測定を、深さ方向に配列された複数対の超音波送受信部で行うか、あるいは1対の超音波送受信部を深さ方向に移動しながら行うことによって、界面位置を検知することができる。
【0007】
【特許文献1】特開2004−177190号公報
【特許文献2】特開平11−94629号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、工場排水の処理や下水処理において、沈降槽における汚泥界面が安定している場合には上記の方法を用いて汚泥界面の位置を正常に検知することが可能であるが、処理する液組成が刻々変動する上流工程の立上げ時や停止時には汚泥界面が不安定となり、沈降槽内で一部の汚泥が沈降せずに水相中に浮遊したままとなって汚泥と水の混合相を形成する場合がある。
【0009】
従来の界面検知方法では、このような混合相は汚泥相か水相のどちらかに判断していた。その結果、例えば混合相を汚泥相と判断した場合には、混合相が沈降槽の底から抜き出されるため、過剰の水を含んだ汚泥がフィルタープレス等の脱水装置に送られることになり、脱水操作が非効率になっていた。
【0010】
一方、混合相を水相と判断した場合には、沈降槽からオーバーフローする水相に汚泥が混入するため、次工程での処理や河川等への放流ができなくなり、この汚泥が浮遊している水相をもう一度沈降槽に戻して汚泥を沈降させるリサイクル操作が必要となり、非効率になっていた。
【0011】
本発明は、上記した問題点を解決し、汚泥界面の位置を検知すると共に汚泥相と水相とが混合してなる混合相の位置や性状をも検知することができる汚泥界面検知装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明が提供する汚泥界面検知装置は、水平方向に対向する少なくとも1対の超音波送信部及び超音波受信部を用いて深さ方向に異なる複数の位置で測定を行うことによって、沈降槽内に形成される汚泥相と水相との界面を検知する汚泥界面検知装置であって、前記少なくとも1対の超音波送信部と超音波受信部の間隔を変更する機構を備えていることを特徴とする。
【0013】
上記本発明の汚泥界面検知装置は、前記機構が前記超音波送信部及び前記超音波受信部を配置するレールや、前記超音波送信部又は前記超音波受信部のいずれか一方を往復動させる駆動装置を有していることが好ましい。これらレール及び駆動装置は、それらの位置関係を維持する固定具に取り付けられていることが更に好ましい。
【0014】
また、上記本発明の汚泥界面検知装置においては、固定具が前記深さ方向に異なる複数の位置のそれぞれに対応して配置されており、それらの固定具は支持具に支持されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、汚泥界面の位置を検知することができる上、混合相の位置やその性状も検知することができる。これにより、沈降槽の底からの混合相の抜き出しを確実に防ぐことができるので、過剰に水を含んだ汚泥がフィルタープレス等の脱水装置に送られることがなくなり、効率的に脱水操作を行うことができる。
【0016】
また、混合相が沈降槽からオーバーフローして次工程に送られることも確実に防ぐことができるので、次工程での処理を行うことが出来なかったり、あるいは放流することが出来なかったりすることがなくなり、リサイクル操作の頻度を著しく低減させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら本発明の汚泥界面検知装置を説明する。図1は、本発明の一具体例の汚泥界面検知装置が沈降槽に設置されている様子を示す概略図であり、図2は図1の汚泥界面検知装置の一部分を具体的に示す部分概要図である。これらの図に示すように、汚泥界面検知装置10は、1対の超音波送信部1A及び超音波受信部1B(以降、これらを併せて超音波送受信部1とも称する)を有している。これら1対の超音波送信部1A及び超音波受信部1Bは、互いに水平方向に対向するように、直線状のレール2上に配置されている。
【0018】
超音波受信部1Bは、図2の矢印に示すように、このレール2に沿って往復動自在となっている。これにより、超音波送信部1Aと超音波受信部1Bとの対向関係を常に維持しながら超音波送信部1Aと超音波受信部1Bの間隔を変更することができる。尚、レール2の本数や構造は特に限定するものではなく、複数のレールを超音波送受信部1の上下に敷設しても良いし、左右に敷設しても良い。
【0019】
超音波受信部1Bの後方には駆動装置3が設けられている。この駆動装置3は、電動制御によって水平方向に出退するシャフト4を有しており、このシャフト4の先端部は超音波受信部1Bの背面に接続している。これにより、駆動装置3の作動により超音波受信部1Bを往復動させることが可能となる。尚、超音波受信部1Bの代わりに超音波送信部1Aに駆動装置3を接続して超音波送信部1Aを往復動させても良い。
【0020】
1対の超音波送信部1A及び超音波受信部1Bには、それぞれ電源・信号ケーブル5が接続している。また、駆動装置3にも電源・信号ケーブル5が接続している。これら電源・信号ケーブル5を介して後述する電源・信号処理部・表示部21との間で電力供給や制御信号のやり取りが行われる。電源・信号ケーブル5は電源・信号ケーブル保護管6内に収納されており、これにより電源・信号ケーブル5の劣化を抑えることができる。
【0021】
上記1対の超音波送受信部1が配置されているレール2及び駆動装置3は、固定具7に取り付けられている。以上の構成により超音波送受信ユニット8が構成される。尚、固定具7の構造は、1対の超音波送信部1Aと超音波受信部1Bとの間の水相、汚泥相等の流体の流通に支障をきたすものでなく、後述する支持具9によって支持されることが可能であれば特に限定されない。例えば、図2に示すような枠構造であっても良いし、複数の開口部を有する筐体構造であっても良い。
【0022】
本発明においては、沈降槽20内に形成した汚泥界面の検知に際して深さ方向に異なる複数の位置で測定を行う。これは、複数個の超音波送受信ユニット8を深さ方向に一列に配置するか、あるいは複数個の超音波送受信ユニット8を使用する代わりに、1個の超音波送受信ユニット8を深さ方向に移動させることによって行うことができる。図1には前者の例が示されており、6個の超音波送受信ユニット8の固定具7が深さ方向に異なる複数の位置に対応してそれぞれ配置されており、これらは支持具9によって支持されている。この支持具9は、図1に示すように、沈降槽20の上部に設けられたブリッジ部9Aから吊り下げるようにして固定しても良いし、沈降槽20の側面に固定しても良い。
【0023】
上記にて説明した汚泥界面検知装置10を使用することにより、沈降槽20内に形成される汚泥界面の位置を検知することができる上、水相と汚泥相とが混合してなる混合相の位置やその性状を検知することができる。その結果、汚泥相のみを汚泥移送ポンプ22を使用して抜き出すことができ、後段の脱水処理を効率的に行うことができる。
【実施例】
【0024】
次に、上記した汚泥界面検知装置10を用いて汚泥界面や混合相の位置等を検知する方法について、実施例を用いて具体的に説明する。
【0025】
図1に示すように、沈降槽20内の深さ方向に異なる位置に6個の超音波送受信ユニット8を設置した。以降の説明においては、これら6個の超音波送受信ユニット8の符号を、上から8−1、8−2、8−3、8−4、8−5及び8−6とする。この沈降槽20に、前工程で薬剤を添加して予め汚泥が形成されている排水を連続的に受入れて汚泥の沈降分離を行った。排水の受け入れ開始からある程度時間が経過した時点で沈降槽20内の状態を目視にて確認したところ、図1に示すように、上部が水相W、下部が汚泥相Sとなり、上から3個目の超音波送受信ユニット8−3と4個目の超音波送受信ユニット8−4の間に安定的な汚泥界面Iが形成されていた。
【0026】
そこで、水相W内に位置している上から3個目の超音波送受信ユニット8−3において測定を行い、超音波の受信波形の状況を調べた。その結果、この超音波送受信ユニット8−3では、図3(A)に示すように時間t1に受信波形の鋭いピークが現われた。これは、超音波送信部1Aから送信された超音波が時間t1経過後に超音波受信部1Bに到達したことを示している。
【0027】
次に、汚泥相S内に位置している上から4個目の超音波送受信ユニット8−4において測定を行い、その超音波の受信波形の状況を調べた。その結果、この超音波送受信ユニット8−4では、図3(B)に示すように受信波形のピークが現われなかった。これは、超音波送信部1Aから送信された超音波が超音波受信部1Bに到達する前にほとんど減衰してしまうためである。
【0028】
これらの測定データを基に、時間t1における強度で第1のしきい値を超えた場合に水相と判断し、第2のしきい値を超えない場合に汚泥相と判断するように電源・信号処理部・表示部21の設定を行った。
【0029】
次に、沈降槽20に供給している排水の供給条件を変えて沈降槽20内に混合相を生成させた。このとき、上から3個目の超音波送受信ユニット8−3が混合相内に位置していることが目視にて確認できたので、この超音波送受信ユニット8−3において測定を行ったところ、図3(C)に示すように時間t1において第1のしきい値と第2のしきい値との間にブロードなピークが現われた。
【0030】
次に、上記上から3個目の超音波送受信ユニット8−3において駆動装置3を作動させて超音波受信部1Bを移動させて、超音波送信部1Aと超音波受信部1Bの間の距離を移動前の半分にした。
【0031】
この状態で超音波送受信ユニット8−3において測定を行ったところ、その受信波形は図3(D)に示すように時間t1の半分の時間となる時間t2において第1のしきい値を超えたピークを示した。このことから、超音波送受信ユニット8−3の位置に存在する混合相は、比較的多くの水を含んでいると推定される。
【0032】
これらの測定データを基に、図3(C)に示すように時間t1で第1のしきい値と第2のしきい値との間にブロードなピークが現われた場合に混合相と判定するように電源・信号処理部・表示部21での設定を行った。
【0033】
更に、この判定がなされた後に、駆動装置3を起動して超音波受信部1Bを移動させ超音波送信部1Aと超音波受信部1Bの間の距離を移動前の半分にする操作命令を出し、この半分の距離で超音波の受信波形を測定するように電源・信号処理部・表示部21での設定を行った。
【0034】
上記各設定を行った後、上流工程の操業立ち上げを開始し、この時排出される排水を沈降槽20に受入れて測定を行った。その測定結果を下記表1に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
上から3個目までの超音波送受信ユニット8−1〜8−3は、図3(C)に示すように、第1のしきい値と第2のしきい値との間に収まるブロードなピークを時間t1に示した。このことから沈降槽20の上部に位置する3個の超音波送受信ユニット8−1〜8−3は、表1に示すように混合相に位置していると表示された。一方、残りの3個の超音波送受信ユニット8−4〜8−6は、図3(B)に示すように、受信波形のピークが現われなかった。このことから沈降槽20の下部に位置する3個の超音波送受信ユニット8−4〜8−6は、表1に示すように汚泥相に位置していると表示された。
【0037】
沈降槽20の上部に位置する3個の超音波送受信ユニット8−1〜8−3においては、駆動装置3が作動し、超音波受信部1Bが超音波送信部1Aに向かって移動した。そして、超音波送信部1Aと超音波受信部1B間の距離が移動前の半分になったところで再度測定が行われた。
【0038】
その結果、上から2個目までの超音波送受信ユニット8−1〜8−2においては、図3(D)に示すように、第1のしきい値を超えたピークが時間t1の半分の時間である時間t2において現われた。一方、上から3個目の超音波送受信ユニット8−3については、図3(E)に示すように、第1のしきい値と第2のしきい値の間に収まるピークが時間t1の半分の時間である時間t2において現われた。
【0039】
以上の結果から、汚泥界面は超音波送受信ユニット8−3と8−4の間に存在しており、この汚泥界面より下側には汚泥相が存在していると判定できた。また、超音波送受信ユニット8−1〜8−2は比較的水分の多い混合相内に位置しており、超音波送受信ユニット8−3は比較的水分の少ない混合相内に位置していると判定できた。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の一具体例の汚泥界面検知装置が沈降槽に設置されている様子を示す概略図である。
【図2】図1の汚泥界面検知装置の一部分を示す部分概要図である。
【図3】本発明に係る汚泥界面検知装置において測定される超音波受信波形の具体例を示しており、(A)は水相の超音波受信波形、(B)は汚泥相の超音波受信波形、(C)は混合相の超音波受信波形、(D)は超音波送受信部の距離を半分にして測定した時の比較的水分の多い混合相の超音波受信波形、及び(E)は超音波送受信部の距離を半分にして測定した時の比較的水分の少ない混合相の超音波受信波形を示している。
【符号の説明】
【0041】
1 超音波送受信部
1A 超音波送信部
1B 超音波受信部
2 レール
3 駆動装置
4 シャフト
5 電源・信号ケーブル
6 電源・信号ケーブル保護管
7 固定具
8 超音波送受信ユニット
9 支持具
9A ブリッジ部
10 汚泥界面検知装置
20 沈降槽
21 電源・信号処理部・表示部
22 汚泥移送ポンプ
W 水相
S 汚泥相
I 汚泥界面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平方向に対向する少なくとも1対の超音波送信部及び超音波受信部を用いて深さ方向に異なる複数の位置で測定を行うことによって、沈降槽内に形成される汚泥相と水相との界面を検知する汚泥界面検知装置であって、前記少なくとも1対の超音波送信部と超音波受信部の間隔を変更する機構を備えていることを特徴とする汚泥界面検知装置。
【請求項2】
前記機構は、前記超音波送信部及び前記超音波受信部を配置するレールを有していることを特徴とする、請求項1に記載の汚泥界面検知装置。
【請求項3】
前記機構は、前記超音波送信部又は前記超音波受信部のいずれか一方を往復動させる駆動装置を有していることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の汚泥界面検知装置。
【請求項4】
前記レール及び前記駆動装置は、それらの位置関係を維持する固定具に取り付けられていることを特徴とする、請求項3に記載の汚泥界面検知装置。
【請求項5】
前記固定具は前記深さ方向に異なる複数の位置のそれぞれに対応して配置されており、それらの固定具は支持具に支持されていることを特徴とする、請求項4に記載の汚泥界面検知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−107272(P2010−107272A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−277695(P2008−277695)
【出願日】平成20年10月29日(2008.10.29)
【出願人】(596032177)住友金属鉱山エンジニアリング株式会社 (23)
【Fターム(参考)】