説明

河川の浄化方法及び装置

【課題】 比較例簡単な手法で、滞留しがちで汚染が進みやすい河川の水の浄化を行う。
【解決手段】 合流する複数の河川1、2、2’のうち滞留水を有する河川2を浄化する際に、滞留水を有さない河川1の河川水を、前記河川2の滞留ポイント又はその上流に移送して水流を形成する。これにより滞留している河川水が曝気されて河川水中の菌の繁殖が阻害され、栄養塩類が分解されて河川水の浄化が行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、河川の浄化方法及び装置に関し、より詳細には流れが遅く、水流が滞留しやすい河川の浄化方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生活あるいは産業系から排出される排水が河川に放流されると、河川の水質汚濁や悪臭の問題が発生し、これらの問題が極めて深刻化している。又排水に由来する有機汚濁物質や窒素、リンなどが湖沼や内湾等の閉鎖性水域や河川に流入して富栄養化が進行している。
平野部の河川や湖沼に流れ込む河川は元来水流が緩やかで汚濁物質が水域内に蓄積しやすく、前記問題が顕著に現れる。又天候に依っては水流が殆ど無くなり、河川水が滞留してしまうことがあり、水質汚濁に一層拍車が掛かることになる。下水道の普及などにより、河川への汚濁物質の流入量の低減が図られているが、実際には流入量低減には限界があり、有効な対策とはなっていない。
更に河川水が滞留すると、感染症を媒介する蚊などが繁殖しやすくなり、河川水の悪化に留まらない問題点が生じている。
【0003】
従来からこのような現象を防止するために河川の浄化に関する種々の方法が提案され、具体的には濾過による汚濁物質の除去やオゾン等の薬剤による浄化などが行われている。しかしながら河川の水量は莫大であり、濾過の手間とコストだけでも膨大であり、薬剤使用の場合には更に負担が増大する。
【特許文献1】特開平10−43795号公報([0007]、[0008]、図1)
【特許文献2】特開平11−207377号公報([0036]〜[0039]、図8)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、流れの遅い河川に沿って設けられた水路に3個の浄化装置を設置し、下流側の水をこの水路を通して浄化して上流側に導いて放流する河川の浄化システムが開示されている。しかしながらこの方法は、河川に沿って水路があることが必要で、しかもその水路に浄化装置を設置して、この浄化装置により河川水の浄化を行うことを意図している。この浄化技術は前述した従来技術と同様に浄化装置を使用して河川水の浄化を行うもので、既述の通り莫大な河川水を浄化処理しなければならないという問題点がある。
【0005】
特許文献2には、河川の下流側から取水した河川水を河川に沿って設置した計6個の浄水装置に通して連続的に浄化した後、上流側に放流して河川の浄化を行う方法が記載されている。しかしながらこの方法も浄水装置により河川水の浄化を行うことを意図しており、河川の莫大な水量を浄化処理することは、浄水装置の設置及びメンテナンスの面でコスト的及び人的な困難性があり、実用的とは言い難い。
従って本発明は、滞留している河川水に水流を形成することで前述した河川水の滞留による問題点を解消できる河川の浄化方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、単一河川の河川水を上流側に戻して水流を形成する態様(以下第1発明ともいう)と、合流する複数の河川のうち水量の多い河川の河川水を水量の少ない河川へ供給して水量の少ない河川に水流を形成する態様(以下第2発明ともいう)を含む。
第1発明には、河川水の滞留地点又はその下流側に設置した揚水器により河川水を汲み上げ、汲み上げた河川水を上流側に移送し、水流を形成することを特徴とする河川の浄化方法と、河川の滞留地点又はその下流側に設置した河川水を汲み上げるための揚水器、汲み上げた河川水を滞留地点より上流へ移送するための移送管、当該移送管からの河川水を貯留し、当該貯留水をサイフォンの原理を利用して河川に放流するための貯留タンク、及び前記汲み上げ及び/又は移送に使用するエネルギーを供給するソーラーパネル及び/又は風力発電機を含んで成ることを特徴とする河川の浄化装置が含まれる。
第2発明には、合流する複数の河川の少なくとも1本が滞留水を有する河川の浄化方法において、前記滞留水を有する河川以外の河川の河川水を、前記滞留水を有する河川の滞留ポイント又はその上流に移送して水流を形成することを特徴とする河川の浄化方法と、合流する複数の河川の少なくとも1本が滞留水を有する河川の浄化装置であって、ソーラーパネル及び/又は風力発電機を装着したエネルギー発生装置、当該エネルギー発生装置より上流側に設置された貯留タンク、一端が滞留水を有さない河川に浸漬され他端が前記エネルギー発生装置に接続された取水管、一端が前記エネルギー発生装置に接続され他端が前記貯留タンクに接続された移送管、及び前記貯留タンク内の水を前記滞留水を有する河川に放流するための放流管を含んで成ることを特徴とする河川の浄化装置が含まれる。
【0007】
以下本発明を詳細に説明する。
本発明は、流れの少なくとも一部が滞留している河川水を対象とする。本発明で使用する「滞留」は、流れが淀んでいて河川水が水溜り状の閉鎖水域を構成している場合と、流れが極端に遅く(通常0.5トン/時以下)河川水の曝気が十分に行われない場合を含む。対象河川の河川水は常に滞留している必要はなく、滞留が生じて浄化が必要になる時期があれば良い。
本発明における河川とは、水が集まって流れを形成しているものを総称し、通常の川以外にも、下水路などが含まれる。
基本的に本発明では従来技術のような薬剤や浄化装置を使用する浄化は行わないが、コスト的に負担が生じない程度の薬剤添加や濾過等を併せて行うことは差し支えない。
【0008】
第1発明では、河川水の一部を取水して同じ河川の上流側に戻すようにするが、取水ポイントは滞留地点又はそれより下流側とし、この取水ポイントは、一地点に固定しておくことが望ましい。河川水を戻す上流側地点は傾斜が比較的大きく河川水の滞留が起こりにくい地点であることが好ましい。これにより上流側に戻された河川水が水流を作って川床を流れて、前記滞留水の滞留地点に戻る。
上流側に戻した河川水による水流形成の際には、定量の河川水を継続的に放流するよりも、放流ポイント近くに設けた貯留タンクに河川水を貯留し、大量の水を一度に放流することにより、滞留地点を一度に消滅させて確実に河川の定常的な流れを復元できる。
第1発明ではこの河川水循環を強制的に形成することにより、河川水の停滞による微生物の繁殖等を抑制して河川水の浄化を行う。
【0009】
河川水を上流側に戻す際には、河川水中に直接揚水器の揚水管の一端を入れ揚水器に導き、揚水器に接続された移送管を通して上流側に導くことが望ましいが、一旦河川水を汲み上げて取水ポイントで貯留し、この貯留水を上流側に戻しても良い。
取水ポイントと上流側地点の高低差にもよるが、河川水を汲み上げた取水ポイントの方が上流側地点より高くなることが多く、位置エネルギーの分だけ移送のためのエネルギーを低減できる。
汲み上げ対象の河川水は通常深さの浅い川床に滞留していて、そのまま汲み上げることが困難な場合が多い。従って河川水の汲み上げの際には、河川水が滞留している川床に縦孔や斜孔等の揚水孔を形成してこの孔に河川水を導き、この孔に汲み上げ管(揚水管)を挿入して河川水を汲み上げると確実に取水ができる。
【0010】
河川水の汲み上げや上流への移送は、電気的な動力により行っても良いが、太陽エネルギーや風力エネルギーを利用することがより望ましい。太陽エネルギーや風力エネルギーの利用は天候に左右されやすいが、天候の影響は最小限に抑えられる。
つまり第1発明は河川水が滞留しているような河川水の水量が少なくなっている場合に有効に活用できるが、この場合には太陽光が降り注ぎ河川水が蒸発して、河川水が滞留しやすい状況になっている。そして降り注ぐ大量の太陽光が、利用できる太陽エネルギーが十分に存在し、大量の河川水の上流側への放流を可能にしている。
一方雨天の場合には太陽光が照射されず、太陽エネルギーは殆ど発生しないが、河川に雨が降り、更に河川の周囲から雨水が流れ込むため、河川水の滞留が生じることが少なく、河川水の汲み上げのための太陽エネルギーは不要になる。
更に風力エネルギーは天候自体には左右されず、風量の大小によりエネルギーが発生するため、発生エネルギーで蓄電池を充電しておくと、天候にかかわらず、河川水の揚水エネルギーが得られる。なお風力エネルギーは電気エネルギーに変換して使用しても良いが、前記太陽エネルギーと異なり、直接汲み上げ用又は移送用モータのエネルギー源とすることも可能である。
このように太陽エネルギーや風力エネルギーはそれぞれエネルギー源としての長所を有し、これらを併用することにより更に望ましいエネルギー利用を達成できる。
【0011】
従って河川水の滞留が生じやすい箇所又はその下流側に、ソーラーパネルや風力発電機を有する第1発明の装置のうちの揚水器を設置すると、好天であり滞留している河川における河川水の汲み上げが必要な場合には、照射する太陽エネルギーをソーラーパネルで電気エネルギーに変換し、このエネルギーを利用して河川水の汲み上げを行う。他方雨天であり、河川に十分な河川水が存在する場合には、河川水の汲み上げは不要であり、ソーラーパネルからのエネルギーの供給が無く、河川水の汲み上げは行われない。
つまりソーラーパネルを有する装置を河川水の滞留が起きやすい河川の滞留地点又はその下流側に設置しておくと、河川水が滞留し、河川水を上流側に戻すことが必要な好天時にのみ、河川水の汲み上げに必要なエネルギーが供給され、他方河川水を上流側に戻すことが不要な雨天時にはエネルギーが供給されず、特別の制御を行うことなく、継続して河川の浄化を行える。
更に前記風力発電機は天候にかかわらずエネルギー発生が可能であるため、雨天でも河川浄化が必要になる場合等の緊急時にも対応でき、ソーラーパネルを使用せず、風力発電機のみを使用しても良く、更に前述のようにソーラーパネルと風力発電機を併用しても良い。
なお本発明装置の揚水器や貯留タンクは河川内に設置しても河川敷に設置しても良い。河川敷の場合には、河川水の汲み上げに支障が生じないように揚水管の先端が河川水内に位置するように設置する。
【0012】
太陽エネルギーや風力エネルギーから得られる電気エネルギーによる河川水の汲み上げは、前記汲み上げ管内の河川水をポンプにより揚水しても良いが、前記揚水孔は径が小さいことが多く、ポンプでは汲み上げにくくなる。従って第1発明では、前記揚水孔に空気を吹き込み、この空気泡を汲み上げ管の下端に導き、更に空気泡を汲み上げ管内を上昇させて河川水とともに汲み上げるようにすることが望ましい。これによりポンプで直接汲み上げる場合より必要なエネルギー量が減少し、更に汲み上げられた河川水が空気リッチになり、溶存酸素量が増加した水を河川に放流して河川浄化を促進できる。
この汲み上げは1段階で行っても良いが、汲み上げ距離が長いと円滑に河川水が汲み上げられないことがある。従って複数段、通常は2段階で汲み上げることが好ましい。
汲み上げられた河川水を上流に放流する場合、前述した通り、時間当たりの放流量を一定にして徐々に放流しても良いが、大量の汲み上げ水(揚水)を短時間に放流すると滞留地点を含めた地点に急激な流れが生じて浄化効果が増大する。
【0013】
そのためには放流地点に貯留タンクを設置して、タンクに所定量の揚水が貯留されるごとに、バルブ操作により大量の揚水を一度に放流することができる。
この手法は確実に所定量の揚水を放流可能にするが、自動的なバルブ操作を行うための器具の製造コストが嵩み、そのメンテナンスも手間が掛かる。
これを防止するためには、前記貯留タンクへの揚水の供給及び放流を複数段、通常は2段階で行い、更に前記放流にサイフォンの原理を応用することが望ましい。
【0014】
河川には、排水に由来する窒素やリンが流入し、河川水の富栄養化という異常事態が進行している。
一方水性植物の育成には、光、水及び前記窒素やリン等の栄養塩類が必須であり、水流が滞留しがちな河川水は水性植物に育成には好適な環境を提供できることになる。従って第1発明及び第2発明では、揚水を水耕栽培池に貯留して水性植物の水耕栽培を行うと、前記窒素やリン等の栄養塩類が水性植物の育成に有効利用されるとともに、河川水から前記栄養塩類が除去されて河川水の浄化が進行する。
【0015】
前述の通り第2発明は、合流する複数の河川の少なくとも1本が滞留水を有する際に、滞留水を有さない水量の豊富な河川(主河川)の河川水を前記滞留水を有する河川(例えば下水路、主河川の支流)に供給して水流を形成することにより前記河川の浄化を行う。
従って主河川からの水の汲み上げと汲み上げた河川水を別の河川へ移送するという点で第1発明とは異なるものの、汲み上げ及び移送自体は第1発明と同様に行うことができる。前記汲み上げは、電気エネルギーを使用しても良いが、太陽エネルギーや風力エネルギーを使用する方が経済的であり、更にポンプでの汲み上げ時に空気を吹き込んで良いことも同様である。
【発明の効果】
【0016】
第1発明により、河川水を汲み上げ、汲み上げた河川水を上流側に移送し、水流を形成すると(請求項1)、形成される水が滞留している河川水を曝気し河川水中の菌の繁殖が阻害され、栄養塩類が分解されて河川水の浄化が行われる。
第1発明の装置のように、貯留タンクに貯留された水をサイフォンの原理を利用して一度に河川に放流すると(請求項2)、滞留地点を含めた地点に急激な流れが生じて浄化効果が増大する。
【0017】
第2発明により、合流する複数の河川の少なくとも1本が滞留水を有する河川の浄化の際に、前記滞留水を有する河川以外の河川の河川水を前記滞留水の滞留ポイント又はその上流に供給して水流を形成すると(請求項3)、第1発明の場合と同様に滞留している河川水が曝気されて河川水中の菌の繁殖が阻害され、栄養塩類が分解されて河川水の浄化が行われ、この場合には水量の豊富な主河川の水を利用できるため、川床への孔の形成が不要になる。第2発明の場合にも、貯留タンクを設け、貯留タンク内の貯留水をサイフォンの原理を利用して河川に放流するようにしても良く(請求項4)、河川水の揚水や移送に太陽エネルギー及び/又は風力エネルギーを利用することもでき(請求項5)、天候にかかわらず必要なエネルギーが供給される。
【0018】
第2発明の装置(請求項6)でも、効果的に河川水の浄化を行うことができる。
貯留タンクをメインタンクとサブタンクから構成し、それぞれのタンクにサイフォン効果を具現できる貯留水の供給(放流)管を設置しておくと(請求項7)、滞留水を有する河川に一度に大量の貯留水を放流できるため、河川の浄化を効率的に実行できる。
更に本発明装置に水耕栽培池を付属させ(請求項8)水性植物を植えておくと、浄化対象河川水中の窒素やリン等の栄養塩類が水性植物の育成に有効利用され、これにより河川水から前記栄養塩類が除去されて河川水の浄化が促進される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に本発明に係る河川の浄化方法に関する実施形態例を添付図面に基づいて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0020】
図1は、第2発明の河川浄化方法を適用した河川を例示する断面図、図2は図1のA−A線断面図で、図2Aは揚水前、図2Bは揚水時を、図2Cは揚水及び放流時の状態を示す。図3は図1のB−B線断面図、図4は図1のC−C線断面図、図5は河川及び揚水器の拡大断面図、図6は揚水器の変形例を示す拡大断面図である。
図1に示す主河川1は豊富な水量を有し、図の最も下流側の地点で、第1下水路2及び第2下水路2’の水が両側から流れ込んでいる。左側の第2下水路2’内には豊富な水が存在し、主河川1に流れ込んでいる。これに対し、右側の第1下水路2内の水は枯渇状態で水溜まり3が形成され、水流は生じていない。この第1下水路2の前記水溜まり3より上流側には、4本の脚4上に固定され上面が開口する箱状に成形された貯留タンク5が設置されている。
【0021】
この貯留タンク5内は、水平方向の仕切板6により、下部のメインタンク7と、上部のサブタンク8及び水耕栽培池9に区画され、サブタンク8及び水耕栽培池9は縦方向の区画板10により仕切られている。図示の通り、サブタンク8の容量はメインタンク7の容量の約30分の1になっている。
このメインタンク7の中央底面には、該底面に穿孔された開孔を貫通する円筒状の放流管11が設置され、開閉弁12を介して下端が下水路2に方向に開放されている。メインタンク7内の放流管11の周囲には、当該放流管11の上端及び側面とそれぞれ間隙が生じるように、上端が閉塞され下端が開口する円筒状のメインタンクサイフォン管13が配置されている。
【0022】
前記サブタンク8の仕切板6底面には、該底面に穿孔された開孔を貫通する円筒状の移水管14が設置され、その下端がメインタンク7内に開放されている。サブタンク8内の移水管14の周囲には、当該移水管14の上端及び側面とそれぞれ間隙が生じるように、上端が閉塞され下端が開口する円筒状のサブタンクサイフォン管15が配置されている。
【0023】
図5に示すように、第1下水路2の水が主河川1に流れ込む地点には、風力発電機16とソーラーパネル17を有するエネルギー発生装置を兼ねる揚水器18が設置され、この揚水器18には、取水管19が接続され、この取水管19の他端は主河川1内に位置している。河川水は、揚水器18内の揚水ポンプ20により汲み上げられ、揚水器18内の貯水槽21に蓄えられる。貯水槽21内には、区画壁22、22’及び22”が設けられ、貯水槽21内の区画壁22、22’及び22”より主河川1側に貯水された河川水は区画壁22、22’及び22”上端からオーバーフローして主河川1より遠い側の貯水槽21内に達する。このオーバーフロー水は貯水槽21底面から揚水器18側面を貫通し、更に第1下水路2に沿って前記貯留タンク5に達する移送管23内を通って前記貯留タンク5のサブタンク19に供給される。なお前記区画壁22、22’及び22”の高さは前記貯留タンク5のサブタンク19の水面より高くなるよう選択され、汲み上げられた水の位置エネルギーにより貯留タンク5内の水がサブタンク19まで移送されるようにする。
なお前記揚水器18の貯水槽21内の水には、揚水器18下部の給気ポンプ24から空気を吹き込んで溶存酸素量を増加させることが望ましい。
【0024】
この主河川1からの揚水は、図5に示す揚水器18のように揚水ポンプにより直接行う態様の他に、図6及び図7に示すように、特定形状の取水管に給気ポンプにより空気を供給することにより行うこともできる。
図6の場合は、主河川1の川床に縦坑25を穿ち、この縦坑25の底面近傍に取水管26の下端を位置させる。前記取水管26の川床よりやや下方に相当する箇所の側面に主空気供給管27の先端を接続し、他端を揚水器28内の給気ポンプ29に接続する(主空気供給管27の給気ポンプ29側半分を点線で描いてある)。この揚水器28の槽底板30より上に、第1貯水槽31が形成され、前記取水管26の他端は第1貯水槽31内の上部に達している。第1貯水槽31内部には前記取水管26の他端側の管と平行して上昇管32が上下方向に延び、その下端は前記槽底板30近傍に、その上端は第1貯水槽31及びその上に形成される第2貯水槽33を貫通して更に上部に達している。
前記取水管26の他端側のやや上方に相当する前記上昇管32の個所には、主空気供給管27から分岐する副空気供給管34が接続されている。更に前記第2貯水槽33の底板には移送管35が接続され、他端は貯留タンク(図示略)に接続されている。
【0025】
図7の態様は図6の態様の変形例であり、図6と同じ部材には同一符合を付して説明を省略する。
図7の例では、川床には縦坑は形成されず、その代わりに取水管26’の下端が主河川1の上流側に向けて折り曲げられて横管37を構成している。図6及び7の例では、取水管26、26’に供給される空気により溶存酸素濃度が向上する。
【0026】
次にこれまで説明した装置による河川水浄化に関し添付図面により説明する。
図2は図5の揚水器を使用する河川水浄化を示すもので、揚水開始前は図2Aに示すように、第1下水路2内の水は枯渇状態で水溜まり3が形成され、水流は生じていない。
この状態では、太陽エネルギー及び風力エネルギーが風力発電機16とソーラーパネル17により蓄積され揚水器18に電気エネルギーとして保存される。
目視により又はモニターによる監視により、第1下水路2内の水は枯渇状態を解消すべきであると判定された場合には、前記電気エネルギーにより揚水ポンプ20を作動させて主河川1の河川水を取水管19を通して貯水槽21に汲み上げる。汲み上げられた水は区画壁22、22’及び22”上端からオーバーフローして移送管23内を通って前記貯留タンク5のサブタンク8に供給される。
【0027】
前述の通り貯留タンク5はその容積比が1:30のサブタンク8とメインタンク7から構成されている。前記第1下水路2の水溜まり3を消滅させて水流を形成するには一度にメインタンク7の水全てを放流することが望ましい。
このメインタンク7では、メインタンク7内の放流管11とそれを囲うように位置するサイフォン管13の間隙に存在する水が、両管との抵抗により平衡状態にあり、メインタンクの液面38が放流管11の上端より上方に位置してもメインタンク7内の水は放流管11内に流れ込まない。この平衡を解消するためには、一度に大量の水を供給したり、あるいは脈流状に水を供給する等の刺激を与える必要がある。しかし大容量のメインタンク7内の水平衡を崩すには多量の刺激が必要で、河川水を調節メインタンク7に供給しても目的は達成できない。
【0028】
従って本例では、メインタンク7の約30分の1の容量のサブタンク8に前記河川水を移送する。このサブタンク2でも、メインタンク7と同様に、サブタンク8内の移水管14とそれを囲うように位置するサイフォン管15の間隙に存在する水が、両管との抵抗により平衡状態にある。
しかしサブタンク8内の水量は僅かであり、少量の刺激で平衡が崩れる。つまりサブタンク8の液面39が前記移水管14の上端より上方に達した後に、僅かな刺激、例えば取水管19からの河川水の供給を継続すると、サブタンク8内の移水管14とそれを囲うように位置するサイフォン管15の間隙に存在する水の水の平衡が崩れ、サブタンク8内の水がサイフォンの原理により前記移水管14を通して一挙にメインタンク7内に流入する(図2B参照)。
【0029】
この流入水は、メインタンク7の放流管11とそれを囲うように位置するサイフォン管13の間隙に存在する水の水の平衡を崩すために十分な刺激であり、メインタンク8内の水がサイフォンの原理により、開放された開閉弁12を有する前記放流管11を通して一挙に第1下水路2に放流される。
この放流水は、第1下水路2の水溜まりを呑み込みながら勢い良く流れ、第1下水路2内に水流を復活させる。
これにより滞留水により生じる問題点、例えば微生物の繁殖や汚染物質の蓄積、及びこれらに起因する悪臭の発生が抑制できる。
このように貯留タンク5内を2段階のサイフォン構造とすることにより前記タンク5内の水を一度に放流して目的とする水路(河川)の浄化が可能になる。
【0030】
次に図6及び7の揚水器を使用する河川水の揚水について説明する。
図6の場合、縦坑25内にも河川水が進入し、取水管26と主空気供給管27の接続部には上向きに大きな力が掛かり、取水管26内壁との摩擦により取水管26内の水が保持されている。この箇所に給気ポンプ29から主空気供給管27を通して空気を供給すると、前記摩擦による均衡が崩れ、取水管26内の水に上向きの推力が加えられて、取水管26内の水がその他端をオーバーフローして第1貯水槽31に供給され、続いて主河川1の河川水が同様にして取水管26を通して第1貯水槽31に供給される。
【0031】
第1貯水槽31内の水は毛管現象により前記上昇管32を上昇する。前記上昇管32に給気ポンプ29から副空気供給管34を通して空気を供給すると、前記上昇管32内の水に上向きの推力が加えられて、上昇管32内の水がその上端をオーバーフローして第2貯水槽33に供給され、続いて移送管35を通して貯留タンクに供給される。
図7の場合は、縦坑25を形成する代わりに、取水管26’の先端を上流側に向けて折り曲げて横管37が構成され、この横管37に下流に向けて流れる河川水が進入して、取水管26’と主空気供給管27の接続部に摩擦を生じさせ、主空気供給管27から供給される空気により、この摩擦による均衡を崩して河川水を揚水器36内に供給できる。
【0032】
図4に示した装置は、滞留している湖沼水の攪拌を安価かつ確実に行い、滞留湖沼水で生じやすい微生物繁殖や有害物の蓄積を防止するものである。なお湖沼には池が含まれる。
図1及び図4に示すように、この主河川1の上流には、湖沼41が存在し、この湖沼の湖畔には、太陽エネルギー及び風力エネルギーを保存するための風力発電機42とソーラーパネル43をその回転軸44に有するエネルギー発生装置45が設置されている。前記回転軸44には、1又は2以上の広告シート46が貼り付けられた平板状の広告ボード47が固定され、回転軸44とともに回転可能にされている。
【0033】
前記エネルギー発生装置45には、浮遊状態で湖沼の底面近くに達する長寸の揚水管48と、湖沼の水面近くに浮遊する短寸の吐水管49が接続されている。前記揚水管48と吐水管49の先端はそれぞれ湖畔の杭50に非常に長い縄で結び付けられ、風向きに応じて前記揚水管48と吐水管49は広範囲に移動可能となっている。
前記装置45内には、揚水ポンプ(図示略)が設置され、この揚水ポンプを前記風力発電機42とソーラーパネル43で作動させると、揚水管48先端から湖沼水が前記装置45内に導入され、更にこの導入水を前記吐水管49の先端から吐水させる。図示の例ではエネルギー発生装置45を湖畔に設置したが、筏に載せて湖沼面を浮遊させても良い。
【0034】
湖沼水は通常深さ方向に温度差があり、湖底の湖沼水を湖面近くに吐水すると、前記温度差により攪拌が促進されて対流が生じ、微生物繁殖や有害物の蓄積が防止できる。本態様では湖沼内に対流を生じさせることが可能であれば図示に例に限定されず、例えば前記揚水管48と吐水管49の長さを同じにしたり、前記揚水管48の長さを短くしたり、前記揚水管48と吐水管49の機能を定期的又は不定期に逆にしても良い。エネルギー発生装置45も図示の例に限定されず、湖沼水の揚水及び吐出が可能な任意の装置が使用可能である。更に湖沼水の吐水の際に、当該湖沼水に粒径がナノサイズの気泡を含ませると、より効果的な浄化を行える。
なお前記広告ボード47が回転軸44とともに風向きに応じて回転するため、各広告シート46が四方八方から認識でき、多大な広告効果が期待できる。
【0035】
[実施例]
次に本発明に係る河川水浄化に関する実施例を記載するが、本実施例は本発明を限定するものではない。
【0036】
[実施例1]
図8に示す試験装置を使用し、晴天の日中に試験を行った。
コクヨメーベル株式会社の敷地内の防火用水槽(縦5m、横5m、深さ3.6m、貯水量約70t)内の貯留雨水を主河川水に見立て、この防火用水槽から約50m離れた場所に、図3に示した貯留タンク(サブタンク容量:50リットル、メインタンク容量:1000リットル、サブタンク内の移水管外径:40mm、サブタンク内のサイフォン管内径:60mm、メインタンクの放水管外径:120mm、メインタンク内のサイフォン管内径:180mmとし、メインタンク内のサイフォン管の上端は地表から2.01mとした)を設置した。
この貯留タンクの真下から前記防火用水槽に向けて幅350mmで深さ500mm(長さ約50m)の溝を形成し、主河川の支流に見立てた。
【0037】
前記防火用水槽の縁部に、風力発電機として山陽電子工業株式会社製の商品名:風リキ君500を、太陽光発電装置として山陽電子工業株式会社製の商品名:ヒカリ君500wを、設置し、更にブロワー(空気ポンプ)としてトーマス社のロッキング式コンプレッサーを使用した。
前記防火用水槽内に、内径25mmの2本の揚水管を下端が底面近傍に達するように設置した。地表から3.6mの高さに揚水ポンプを設置し、この揚水ポンプにより防火用水槽内の水を揚水管を通して汲み上げるように構成した。
揚水ポンプの他端側には内径40mmで長さ約550mの移送管が接続され、この移送管は、防火用水槽と貯留タンク間で10回(図示の例では2回)折り返され、その先端を貯留タンクのサブタンク内に位置させた(実際の使用時に折り返しは不要であるが、本実施例では、より遠方への水移動の可能性の確認のために折り返した)。
空気ポンプは前記揚水管内に空気を供給して溶存酸素量を増やすために使用した。
【0038】
風力発電機と太陽光発電装置により得られたエネルギー量が所定値に達した際に、このエネルギーを使用して前記揚水ポンプを駆動して、防火用水槽内の雨水を汲み上げ、この雨水を移送管を通して貯留タンクのサブタンクに連続供給し、貯留した。
サブタンクでは、貯留雨水の量が約40リットルになるごとにサイフォンの原理で、サブタンク内の貯留水がメインタンクへ一度に移動した。
このサブタンク内の貯留水のメインタンクへの21回目の移動の際(合計貯留水量:約840リットル)に、メインタンク内の貯留水に適切な衝撃が与えられて、メインタンク内の貯留水が放流管を通して一度に放流され、前記溝を流れて防火用水槽へ流入した(供給開始後200分後)。この溝を流れた放流水の流量は100リットル/分であった。
防火用水槽内の雨水供給を継続したところ、第1回放流から170分後に第2回放流が生じた。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】第2発明の河川浄化方法を適用した河川を例示する断面図。
【図2】図1のA−A線断面図で、図2Aは揚水前、図2Bは揚水時を、図2Cは揚水及び放流時の状態を示す。
【図3】図1のB−B線断面図。
【図4】図1のC−C線断面図。
【図5】河川及び揚水器の拡大断面図。
【図6】揚水器の変形例を示す拡大断面図。
【図7】揚水器の他の変形例を示す拡大断面図。
【図8】実施例で使用した試験装置の模式図。
【符号の説明】
【0040】
1 主河川
2、2’ 下水路
3 水溜まり
5 貯留タンク
7 メインタンク
8 サブタンク
9 水耕栽培池
11 放流管
13 メインタンクサイフォン管
14 移水管
15 サブタンクサイフォン管
16 風力発電機
17 ソーラーパネル
18 揚水器
19 取水管
20 揚水ポンプ
21 貯水槽
22、22’、22” 区画壁
23 移送管
24 給気ポンプ
26 取水管
27 主空気供給管
28 揚水器
29 給気ポンプ
31、33 貯水槽
32 上昇管
34 副空気供給管
37 横管
41 湖沼
42 風力発電機
43 ソーラーパネル
45 エネルギー発生装置
47 広告ボード
48 揚水管
49 吐水管
50 杭

【特許請求の範囲】
【請求項1】
河川水の滞留地点又はその下流側に設置した揚水器により河川水を汲み上げ、汲み上げた河川水を上流側に移送し、水流を形成することを特徴とする河川の浄化方法。
【請求項2】
河川の滞留地点又はその下流側に設置した河川水を汲み上げるための揚水器、汲み上げた河川水を滞留地点より上流へ移送するための移送管、当該移送管からの河川水を貯留し、当該貯留水をサイフォンの原理を利用して河川に放流するための貯留タンク、及び前記汲み上げ及び/又は移送に使用するエネルギーを供給するソーラーパネル及び/又は風力発電機を含んで成ることを特徴とする河川の浄化装置。
【請求項3】
合流する複数の河川の少なくとも1本が滞留水を有する河川の浄化方法において、前記滞留水を有する河川以外の河川の河川水を、前記滞留水を有する河川の滞留ポイント又はその上流に移送して水流を形成することを特徴とする河川の浄化方法。
【請求項4】
上流側に移送した河川水を貯留タンクに貯留し、該貯留タンク内の貯留水をサイフォンの原理を利用して河川に放流するようにした請求項3に記載の河川の浄化方法。
【請求項5】
河川水の移送に太陽エネルギー及び/又は風力エネルギーを利用する請求項3又は4に記載の河川の浄化方法。
【請求項6】
合流する複数の河川の少なくとも1本が滞留水を有する河川の浄化装置であって、ソーラーパネル及び/又は風力発電機を装着したエネルギー発生装置、当該エネルギー発生装置より上流側に設置された貯留タンク、一端が滞留水を有さない河川に浸漬され他端が前記エネルギー発生装置に接続された取水管、一端が前記エネルギー発生装置に接続され他端が前記貯留タンクに接続された移送管、及び前記貯留タンク内の水を前記滞留水を有する河川に放流するための放流管を含んで成ることを特徴とする河川の浄化装置。
【請求項7】
貯留タンクがメインタンクとサブタンクを含んで成り、メインタンクにはサイフォン効果を具現する放流管と放流補助管が、サブタンクにはサイフォン効果を具現する揚水供給管と揚水供給補助管がそれぞれ設置され、サブタンク内の貯留水をサイフォン効果により前記揚水供給管と揚水供給補助管を通して前記メインタンク内に供給し、当該供給水の与える衝撃によりメインタンク内の前記放流管と放流補助管にサイフォン効果を生じさせてメインタンク内の貯留水を前記放流管から滞留水を有する河川へ放流して浄化するようにした請求項6に記載の河川の浄化装置。
【請求項8】
貯留タンクが水耕栽培用植物を有し、貯留タンク内の貯留水で前記植物を育成するようにした請求項6又は7記載の河川の浄化装置。
【請求項9】
湖沼内に浮遊状態に維持された揚水管から湖沼水を揚水し、この湖沼水を前記湖沼内に浮遊状態に維持された吐水管から吐水して、前記湖沼内に対流を生じさせることを特徴とする湖沼の浄化方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2006−314949(P2006−314949A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−141443(P2005−141443)
【出願日】平成17年5月13日(2005.5.13)
【出願人】(393015139)株式会社テクノ21 (5)
【出願人】(300001484)
【Fターム(参考)】