説明

油圧駆動制御装置

油圧ロス低減効果をユーザが最も実感し易い燃費低減効果に転化することのできる油圧駆動制御装置を提供する。 エンジン16により駆動される油圧ポンプ17から吐出される圧油を油圧アクチュエータ11に対し制御弁22,25を介して給排することによりその油圧アクチュエータ11を駆動する駆動油圧回路と、油圧アクチュエータ11の駆動に伴いその油圧アクチュエータ11から排出される作動油の一部をタンク38へ直接に還流させるクイックリターン回路42とを備えてなり、エンジン16の出力を制御するエンジン制御手段21を設け、このエンジン制御手段21は、クイックリターン回路42が開作動されているときに、エンジン16の出力を抑制する制御を行う構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば油圧ショベルの油圧駆動系を制御する油圧駆動制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に油圧ショベルは、エンジンにより駆動される可変容量型の油圧ポンプを備え、この油圧ポンプから吐出される圧油を各種油圧アクチュエータに対し制御弁を介して給排することにより、作業機、旋回装置および走行装置をそれぞれ駆動制御するようにされている。この油圧ショベルにおいては、エンジンの出力トルク特性と油圧ポンプの吸収トルク特性とを例えばエンジンの燃費効率の高い所でマッチングさせるために、油圧ポンプの吸収馬力〔=P(吐出圧)×Q(吐出流量)〕を一定に制御する等馬力制御が行われる。
【0003】
従来、この種の油圧ショベルにおいて、アームを前方に向けて回動作動させるアームダンプ動作時にアームシリンダから押し出される作動油を制御弁を介してタンクに還流させる主還流路に加えて、同作動油の一部をタンクへ直接に還流させる副還流路を設けることにより、アームダンプ動作時の戻り回路における圧力損失を抑制して作動圧を下げ、油圧ロスの低減を図るようにされた技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
【特許文献1】特開2002−339904号公報
【0005】
また、前記油圧ポンプを2つ連設し、一方の油圧ポンプの吐出油をアームシリンダに、他方の油圧ポンプの吐出油をバケットシリンダにそれぞれ供給する分流状態と、両油圧ポンプの吐出油を合流させてアームシリンダおよびバケットシリンダのいずれかに優先的に供給する合流状態とを切換可能に構成することにより、分流状態として油圧ロスの低減を、合流状態としてアームおよびバケットのいずれかの掘削動作の高速化をそれぞれ図るようにされた技術も知られている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記各従来技術では、油圧ポンプの出力が一定に制御されていることから、油圧ロスが低減されると油圧ポンプの吐出油量が増加して作業量が増えることになる。このように作業量が増えることで作業量当りの燃費が低減されるという好ましい効果が得られるももの、一方においてユーザはその効果を実感し難いという問題点がある。
【0007】
本発明は、このような問題点を解消するためになされたもので、油圧ロス低減効果をユーザが最も実感し易い燃費低減効果に転化することのできる油圧駆動制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、第1発明による油圧駆動制御装置は、
エンジンにより駆動される油圧ポンプから吐出される圧油を油圧アクチュエータに対し制御弁を介して給排することによりその油圧アクチュエータを駆動する駆動油圧回路と、前記油圧アクチュエータの駆動に伴いその油圧アクチュエータから排出される作動油の一部をタンクへ直接に還流させるクイックリターン回路とを備える油圧駆動制御装置において、
前記エンジンの出力を制御するエンジン制御手段を設け、このエンジン制御手段は、前記クイックリターン回路が開作動されているときに、前記エンジンの出力を抑制する制御を行うことを特徴とするものである。
【0009】
第1発明において、前記クイックリターン回路の背圧を検出する背圧検出手段が設けられ、前記エンジン制御手段は、前記背圧検出手段により検出される背圧値に基づいて前記エンジンの出力抑制量を調整するのが好ましい(第2発明)。
【0010】
第1発明または第2発明において、前記油圧アクチュエータは油圧ショベルのアームシリンダであり、前記クイックリターン回路は、アームダンプ動作時に作動されるのが好ましい(第3発明)。
【0011】
次に、第4発明による油圧駆動制御装置は、
エンジンを駆動源とする油圧ポンプから吐出される圧油により油圧アクチュエータを駆動する複数の油圧回路部を備え、この複数の油圧回路部における一の油圧回路部と他の油圧回路部とを接続して駆動する合流状態と、前記一の油圧回路部と他の油圧回路部とを分離して駆動する分流状態とを切換可能に構成される油圧駆動制御装置において、
前記エンジンの出力を制御するエンジン制御手段を設け、このエンジン制御手段は、前記合流状態から前記分流状態への切り換えに伴い、前記エンジンの出力を抑制する制御を行うことを特徴とするものである。
【0012】
第4発明において、前記油圧ポンプの吐出圧に基づいて前記合流状態と前記分流状態との切り換えが行われるのが好ましい(第5発明)。
【0013】
第4発明または第5発明において、前記一の油圧回路部における油圧アクチュエータは油圧ショベルのアームシリンダであり、前記他の油圧回路部における油圧アクチュエータは油圧ショベルのバケットシリンダであり、前記アームシリンダおよびバケットシリンダの同時作動により行われる掘削動作時で、かつ前記一の油圧回路部における油圧ポンプまたは前記他の油圧回路部における油圧ポンプの吐出圧が所定値に到達した際に、前記合流状態から前記分流状態への切り換えが行われるのが好ましい(第6発明)。
【発明の効果】
【0014】
第1発明においては、クイックリターン回路の開作動によって油圧ロスが低減されることにより、油圧アクチュエータを駆動する上で必要とされる作動圧が低減され、これによってエンジンに対する要求負荷が軽減される。また、クイックリターン回路の開作動時には、エンジン制御手段により、エンジンの出力が抑制される。本発明によれば、クイックリターン回路の開作動によってエンジン負荷が軽減され、これに合わせてエンジン出力が抑制されるように構成されているので、エンジン出力が落ちてもオペレータが操作する上で違和感がなく燃料消費量を低減することができる。したがって、油圧ロス低減効果をユーザが最も実感し易い燃費低減効果に転化することができる。
【0015】
また、第2発明の構成を採用することにより、油圧ロス低減効果に見合う燃費低減効果を確実に得ることができる。
【0016】
また、第3発明の構成を採用することにより、油圧ショベルにおいて実施される全作業内容の中でも動作占有率が比較的高いアームダンプ動作時の油圧ロスが低減され、かかる油圧ロス低減効果が燃費低減効果に転化されるので、ユーザが燃費低減効果をより実感し得る油圧ショベルを提供することができる。
【0017】
次に、第4発明によれば、一の油圧回路部と他の油圧回路部とを接続して駆動する合流状態から、一の油圧回路部と他の油圧回路部とを分離して駆動する分流状態への切り換えによる油圧ロス低減によってエンジン負荷が軽減されるに伴い、エンジン出力が抑制されるように構成されているので、前記第1発明と同様に、油圧ロス低減効果をユーザが最も実感し易い燃費低減効果に転化することができる。
【0018】
また、第5発明の構成を採用することにより、合流状態から分流状態への切り換えをより適正に行わせることができるので、燃費低減効果の最適化を図ることができる。
【0019】
また、第6発明の構成を採用することにより、合流状態として、アームまたはバケットによる掘削作業の高速化を図ることができ、一方、分流状態として、油圧ロス低減効果を実効性のある燃費低減効果へと転化することが可能な油圧ショベルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は本発明の一実施形態に係る油圧ショベルの側面図である。
【図2】図2は第1の実施形態に係る油圧駆動制御装置の油圧回路図である。
【図3】図3はエンジン出力の抑制制御に関わる制御マップである。
【図4】図4は第2の実施形態に係る油圧駆動制御装置の油圧回路図である。
【図5】図5は第2の実施形態の油圧駆動制御装置の動作状態を表わす図で、(a)は合流状態の簡略図、(b)は合流状態から分流状態に切り換った状態の簡略図、(c)は分流状態の簡略図である。
【図6】図6は合分流切換制御の処理内容を表わすフローチャートである。
【符号の説明】
【0021】
1 油圧ショベル
8 アーム
9 バケット
11 アームシリンダ
12 バケットシリンダ
15,60 油圧駆動制御装置
16 エンジン
17 油圧ポンプ
17A 第1の油圧ポンプ
17B 第2の油圧ポンプ
19 燃料噴射装置
19a 電子ガバナ
20 コントローラ
21 エンジン制御装置
22 第1方向制御弁
25 第2方向制御弁
38 タンク
40 第1戻り回路
41 第2戻り回路
42 クイックリターン回路
43 クイックリターン弁
57,68,75 圧力センサ
61 第1油圧回路部
62 第2油圧回路部
77 合分流弁
78 合流・分流用通路
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
次に、本発明による油圧駆動制御装置の具体的な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、以下に述べる各実施形態は、油圧ショベルの油圧駆動系に本発明が適用された例である。
【0023】
(第1の実施形態)
図1には、本発明の一実施形態に係る油圧ショベルの側面図が示されている。また、図2には、第1の実施形態の油圧駆動制御装置に係る油圧回路図が示されている。
【0024】
本実施形態に係る油圧ショベル1は、図1に示されるように、下部走行体2と、この下部走行体2上に旋回装置3を介して配される上部旋回体4と、この上部旋回体4の前部左方位置に設けられる運転室5と、その上部旋回体4の前部中央位置に取着される作業機6を備えて構成されている。前記作業機6は、上部旋回体4側から順にブーム7、アーム8およびバケット9がそれぞれ回動可能に連結されてなり、これらブーム7、アーム8およびバケット9のそれぞれに対応するように油圧シリンダ(ブームシリンダ10、アームシリンダ11およびバケットシリンダ12)が配置されている。
【0025】
この油圧ショベル1に具備される油圧駆動制御装置15は、図2に示されるように、ディーゼル式のエンジン16と、このエンジン16により駆動される可変容量型の油圧ポンプ17と、前記運転室5内に設置される操作手段18を備えている。
【0026】
前記エンジン16には、電子ガバナ19aを具備する燃料噴射装置19が付設されている。かかる電子ガバナ19aに対しては、目標とするエンジン出力特性に対応させて設定される燃料噴射特性マップに基づく燃料噴射信号がコントローラ20から入力されるようになっている。こうして、自由なエンジン出力特性が得られるようにされている。ここで、コントローラ20の記憶領域には、後述するクイックリターン回路42の働きによって得られる油圧ロス低減量と正の相関関係にあるそのクイックリターン回路42の開作動量を、当該クイックリターン回路42の圧力値に置き換え、この圧力値に応じたエンジン出力抑制率を設定することで得られる制御マップ(図3参照)が予め記憶されている。なお、燃料噴射装置19およびコントローラ20を含んでなるエンジン制御装置21が本発明における「エンジン制御手段」に相当する。
【0027】
前記油圧ポンプ17は、3位置方向切換弁で構成される第1方向制御弁22におけるポンプポート23および一次側リターンポート24に接続されるとともに、3位置方向切換弁で構成される第2方向制御弁25におけるポンプポート26に接続されている。
【0028】
前記第1方向制御弁22におけるシリンダポート27およびシリンダポート28は、それぞれアームシリンダ11におけるボトム側Aポート29およびヘッド側ポート30に接続されている。一方、前記第2方向制御弁25におけるシリンダポート31,32は、アームシリンダ11におけるボトム側Bポート33に接続されている。また、第1方向制御弁22における2次側リターンポート34およびタンクポート35、並びに第2方向制御弁25におけるタンクポート36は、それぞれオイルクーラ37を介してタンク38に接続されている。
【0029】
この油圧駆動制御装置15において、アームシリンダ11におけるボトム側の戻り回路は、第1戻り回路40と第2戻り回路41とに二分されている。ここで、第1戻り回路40は、ボトム側油室11aから排出される作動油をボトム側Aポート29から第1方向制御弁22のシリンダポート27、タンクポート35およびオイルクーラ37を通してタンク38へと導く流路で構成されている。一方、第2戻り回路41は、ボトム側油室11aから排出される作動油をボトム側Bポート33から第2方向制御弁25のシリンダポート31、タンクポート36およびオイルクーラ37を通してタンク38へと導く流路で構成されている。そして、前記第2戻り回路41には、当該回路41に流通する作動油をタンク38へ直接に還流させるクイックリターン回路42に切り換えるクイックリターン弁43が設けられている。
【0030】
前記クイックリターン弁43は、アームシリンダ11のボトム側Bポート33に接続されるシリンダポート44、第2方向制御弁25のシリンダポート31,32に接続されるバルブポート45、タンク38に接続されるタンクポート46、パイロット圧油入力ポート47およびドレンポート48をそれぞれ有してなるクイックリターン弁本体と、シリンダポート44とタンクポート46との間の流路を開閉する主弁49と、この主弁49の開閉作動を制御する制御弁50を備え、制御弁50が後述するパイロット弁53からのパイロット圧油を受けてシリンダポート44とドレンポート48とを連通するように切換操作されると、主弁49が開作動されてシリンダポート44とタンクポート46とが連通されるように構成されている。
【0031】
前記操作手段18は、操作レバー51と、この操作レバー51の傾倒操作にて切り換え操作されるパイロット弁52,53を備え、各パイロット弁52,53における入力ポートは、パイロット圧油を発生するパイロットポンプ54に接続されている。前記パイロット弁52の出力ポートは、第1方向制御弁22の一方の操作部22a、および第2方向制御弁25の一方の操作部25aにそれぞれ接続されている。一方、パイロット弁53の出力ポートは、第1方向制御弁22の他方の操作部22b、第2方向制御弁25の他方の操作部25bおよびクイックリターン弁43における制御弁50の操作部50aにそれぞれ接続されている。
【0032】
前記パイロット弁53の出力ポートと制御弁50の操作部50aとを接続するパイロット圧管路55には、圧力スイッチ56が設けられている。また、前記クイックリターン回路42には、当該回路42の背圧を検出する圧力センサ(背圧検出手段)57が設けられている。そして、圧力スイッチ56からのON信号、および圧力センサ57からの背圧検出信号は、それぞれ前記コントローラ20に入力されるようになっている。
【0033】
以上に述べたように構成される本実施形態の油圧駆動制御装置15の作動について図2を用いて以下に説明する。
【0034】
操作レバー51を図2中矢印C方向に傾動操作すると、パイロット弁52の出力ポートからパイロット圧油が送出され、このパイロット圧油が第1方向制御弁22における一方の操作部22aおよび第2方向制御弁25における一方の操作部25aにそれぞれ作用して、第1方向制御弁22および第2方向制御弁25がそれぞれA位置に切り換えられる。これにより、油圧ポンプ17から吐出される圧油は、第1方向制御弁22を介してアームシリンダ11のボトム側Aポート29に、第2方向制御弁25を介してアームシリンダ11のボトム側Bポート33にそれぞれ導かれてアームシリンダ11のボトム側油室11aに供給される。これと同時に、アームシリンダ11のヘッド側油室11bの作動油は、ヘッド側ポート30から第1方向制御弁22およびオイルクーラ37を介してタンク38に回収される。こうして、アーム8を手前に回動作動させるアーム掘削動作が行われる。
【0035】
一方、操作レバー51を図2中矢印D方向に傾動操作すると、パイロット弁53の出力ポートからパイロット圧油が送出され、このパイロット圧油が第1方向制御弁22における他方の操作部22bおよび第2方向制御弁25における他方の操作部25bにそれぞれ作用して、第1方向制御弁22および第2方向制御弁25がそれぞれB位置に切り換えられる。これにより、油圧ポンプ17から吐出される圧油は、第1方向制御弁22を介してアームシリンダ11のヘッド側ポート30に導かれてアームシリンダ11のヘッド側油室11bに供給される。これと同時に、アームシリンダ11のボトム側油室11aの作動油は、ボトム側Aポート29から第1方向制御弁22およびオイルクーラ37を介してタンク38に回収されるとともに、ボトム側Bポート33から第2方向制御弁25およびオイルクーラ37を介してタンク38に回収される。こうして、アーム8を前方に向けて回動作動させるアームダンプ動作が行われる。このアームダンプ動作時においては、パイロット弁53からのパイロット圧油がクイックリターン弁43における制御弁50の操作部50aに作用してその制御弁50が開位置に切り換えられるため、クイックリターン弁43における主弁49が開いてクイックリターン回路42が開作動される。このクイックリターン回路42の開作動に伴い、第2戻り回路41を流通する戻り油の大部分がタンク38へ直接に還流され、油圧ロスが著しく削減される。
【0036】
また、このようにクイックリターン回路42が開作動されているときには、圧力スイッチ56からのON信号がコントローラ20に入力されるため、かかるコントローラ20はその入力信号によってクイックリターン回路42が開作動状態にあることを認識する。そして、コントローラ20は、圧力センサ57により検出されるクイックリターン回路42の圧力値に基づいて図3に示される制御マップを参照することによりエンジン出力抑制率を求め、この求められたエンジン出力抑制率とクイックリターン回路42が開作動される直前のエンジン出力値とから目標とするエンジン出力値を算出し、この目標エンジン出力値にエンジン出力値がなるように電子ガバナ19aを制御する。今、例えば、圧力センサ57により検出される圧力値が50kgf/cmで、クイックリターン回路42が開作動される直前のエンジン出力値が280PSであったとすると、エンジン出力抑制率は図3の制御マップから5%であり、目標エンジン出力値は280×0.95=266PSとなる。したがって、コントローラ20はエンジン出力値が266PSになるように電子ガバナ19aを制御する。
【0037】
本実施形態の油圧駆動制御装置15によれば、クイックリターン回路42の開作動によって油圧ロスが低減されることにより、アームシリンダ11を収縮作動させる上で必要とされる作動圧が低減され、これによってエンジン16に対する要求負荷が軽減される。また、クイックリターン回路42の開作動時には、エンジン制御装置21により、エンジン16の出力が抑制される。このように、クイックリターン回路42の開作動によってエンジン負荷が軽減され、これに合わせてエンジン出力が抑制されるように構成されているので、エンジン出力が落ちてもオペレータが操作する上で違和感がなく燃料消費量を低減することができる。したがって、油圧ロス低減効果をユーザが最も実感し易い燃費低減効果に転化することができる。
【0038】
(第2の実施形態)
次に、本発明による油圧駆動制御装置の第2の実施形態について図4の油圧回路図を参照しつつ以下に説明する。なお、本実施形態において、前記第1の実施形態と同一または同様のものについては、図に同一符号を付してその詳細な説明を省略することとする。また、図4において示される油圧回路図は、後述する第1油圧回路部と第2油圧回路部とを接続(合流)し、アームシリンダ11およびバケットシリンダ12を伸長作動させてアーム掘削およびバケット掘削を実施する際の回路状態を表わしている。
【0039】
本実施形態の油圧駆動制御装置60は、エンジン16を駆動源とする可変容量型の第1油圧ポンプ17Aから吐出される圧油により主にアームシリンダ11を駆動する第1油圧回路部61と、同エンジン16を駆動源とする可変容量型の第2油圧ポンプ17Bから吐出される圧油により主にバケットシリンダ12を駆動する第2油圧回路部62を備えている。
【0040】
前記第1油圧回路部61は、第1油圧ポンプ17Aからアームシリンダ11への圧油の供給流量および給排方向を制御するアーム用流量方向制御弁63を備えている。このアーム用流量方向制御弁63において、ポンプポートは第1吐出流路64を介して第1油圧ポンプ17Aの出力ポートに、シリンダAポートは給排流路65を介してアームシリンダ11のボトム側油室に、シリンダBポートは給排流路66を介してアームシリンダ11のヘッド側油室に、タンクポートはドレン流路67を介してタンク38に、それぞれ接続されている。ここで、前記第1吐出流路64には圧力センサ68が設けられ、この圧力センサ68からの圧力検出信号がコントローラ20に入力されるようになっている。また、前記給排流路65には、上流から下流への流れを許容し、下流から上流への流れを規制する外部パイロット圧操作形の第1チェック機能付圧力補償弁69が介設されている。
【0041】
前記第2油圧回路部62は、第2油圧ポンプ17Bからバケットシリンダ12への圧油の供給流量および給排方向を制御するバケット用流量方向制御弁70を備えている。このバケット用流量方向制御弁70において、ポンプポートは第2吐出流路71を介して第2油圧ポンプ17Bの出力ポートに、シリンダAポートは給排流路72を介してバケットシリンダ12のボトム側油室に、シリンダBポートは給排流路73を介してバケットシリンダ12のヘッド側油室に、タンクポートはドレン流路74を介してタンク38に、それぞれ接続されている。ここで、前記第2吐出流路71には圧力センサ75が設けられ、この圧力センサ75からの圧力検出信号がコントローラ20に入力されるようになっている。また、前記給排流路72には、上流から下流への流れを許容し、下流から上流への流れを規制する外部パイロット圧操作形の第2チェック機能付圧力補償弁76が介設されている。
【0042】
前記第1吐出流路64と第2吐出流路71とは、合分流弁77が介設されてなる合流・分流用通路78により接続されている。ここで、合分流弁77は、減圧弁(二次圧一定形減圧弁)79によって減圧された第1油圧ポンプ17Aからの圧油の供給を受ける電磁切換弁80がコントローラ20からの指令信号に基づいて切り換えられることで、切り換え操作されるようになっている。こうして、電磁切換弁80の切換タイミングを変更することで、合分流弁77の開閉に係る圧力設定を各種状況に応じて変更することができるようにされている。なお、この合分流弁77と電磁切換弁80との間には、比例弁(電磁比例弁)または絞り81が介設されており、合分流弁77を少しずつ作動させることでその合分流弁77の切り換えに伴うショックを軽減することができるようにされている。
【0043】
前記第1油圧回路部61と第2油圧回路部62との間には、両油圧回路部61,62をバイパスするバイパス通路82が設けられている。すなわち、このバイパス通路82は、第2吐出流路71に流通される圧油の一部を、前記第1チェック機能付圧力補償弁69よりも下流側の流路へと導くように両油圧回路部61,62を接続する。このバイパス通路82には、前記アーム用流量方向制御弁63と同様の流量方向制御弁であるアーム高速用流量制御弁83、およびアームシリンダ11への圧油の流入を許容し逆方向流れを規制する外部パイロット圧操作形のチェック機能付圧力補償弁84が、それぞれ上流側から順に介設されている。ここで、前記アーム用流量方向制御弁63と前記アーム高速用流量制御弁83とは、以下に述べるように連携して作動されるようになっている。すなわち、アームシリンダ11が大流量を要求する場合には、アーム用流量方向制御弁63が開状態となった後に、アーム高速用流量制御弁83が開状態となって、アーム用流量方向制御弁63およびアーム高速用流量制御弁83が共に開状態となり、かかる大流量の要求が無くなった場合には、アーム高速用流量制御弁83が閉状態となって、アーム用流量方向制御弁63のみが開状態となるようにされている。
【0044】
前記コントローラ20には、選択作業モードを設定するためのモニタパネル85と、エンジン目標回転数を設定するためのスロットルダイヤル86等が接続されている。ここで、選択される作業とは、アーム8の揺動(掘削)作業、バケット9の揺動(掘削)作業等であり、図示省略される操作レバーに設置された圧力スイッチ87,88,89,90からの出力信号にて各種の作業の指令が行われる。
【0045】
以上に述べたように構成される本実施形態の油圧駆動制御装置60の基本動作について、図5の簡略図を参照しつつ説明する。この図5において、(a)には合流状態が、(b)には合流状態から分流状態に切り換ったときの状態が、(c)には分流状態がそれぞれ示されている。
【0046】
図5(a)に示されるように、合分流弁77を開状態として第1油圧回路部61と第2油圧回路部62とを合流させることにより、第2油圧ポンプ17Bからの圧油を合流・分流用通路78およびバイパス通路82を介して第1油圧回路部61に補給する。より具体的な例で説明すると、各油圧ポンプ17A,17Bのポンプ最大容量を1.0Pとした場合に、アームシリンダ11を駆動させるのに1.5P必要であれば、第1油圧ポンプ17Aからの1.0Pに、第2油圧ポンプ17Bからの0.5Pを加えることによって、1.5Pでもってアームシリンダ11を駆動する。なお、この場合、各油圧ポンプ17A,17Bの圧力は、例えば100kgf/cmである。
【0047】
また、バケットシリンダ12の負荷圧の上昇により、この図5(a)の状態から同図(b)に示されるように、合分流弁77を閉位置として分流状態に切り換えたときには、第2油圧ポンプ17Bからの圧油がバイパス通路82を介してアームシリンダ11に供給される。このため、合分流弁77の切り換えによる流量の変化は少なく、流量変化に伴うショックが軽減される。なお、この場合、両油圧ポンプ17A,17Bの圧力は、例えば250kgf/cmである。
【0048】
そして、この図5(b)の状態からアームシリンダ11側の作動圧がバケットシリンダ12側の作動圧よりも大きくなれば、チェック機能付圧力補償弁84によってアームシリンダ11への圧油の流入が停止されることになる。すなわち、アームシリンダ11の負荷圧の上昇により、第2油圧ポンプ17Bからアームシリンダ11に補給される流量が減少し滑らかに同図(c)に示される分流状態となる。この場合、例えば、第1油圧ポンプ17Aの圧力が300kgf/cm、第2油圧ポンプ17Bの圧力が250kgf/cmとなっている。
【0049】
次に、第1油圧回路部61と第2油圧回路部62との合分流動作が行われる際のコントローラ20による処理内容を図6のフローチャートを用いて以下に詳述する。なお、かかる合分流動作においては、油圧ショベル1の他の作業(走行、上部旋回体4の旋回等)は停止状態とする。また、以下において単に「掘削」と称した場合、この「掘削」は、アーム8による掘削動作とバケット9による掘削動作の両方を含むものとする。
【0050】
まず、ステップS1では、各種圧力スイッチ87,88,89,90からのON信号に基づいて、作業モードが掘削か否かを判断する。作業モードが掘削である場合にはステップS2へ進み、作業モードが掘削でない場合にはステップS3へ進む。このステップS3において、合分流弁77が閉位置にあるときには開位置としてステップS1に戻り、合分流弁77が開位置にあるときにはそのまま開位置としてステップS1に戻る。
【0051】
ステップS2では、アーム8およびバケット9による同時掘削動作が行われるか否かを判断する。アーム8およびバケット9による同時掘削動作が行われない場合にはステップS3へ進み、アーム8およびバケット9による同時掘削動作が行われる場合にはステップS4へ進む。このステップS4では、合分流弁77が開位置か否かを判断する。合分流弁77が開位置であればステップS5へ進み、合分流弁77が閉位置であればステップS6へ進む。
【0052】
ステップS5では、P1orP2≧250kgf/cm(24.5MPa)が成立するか否かを判断する。ここで、P1は圧力センサ68による検出圧力であり、P2は圧力センサ75による検出圧力である。そして、P1またはP2が250kgf/cm以上であれば、合分流弁77を閉位置として分流状態にする(S7)。一方、P1orP2≧250kgf/cmが成立しない場合には、ステップS1に戻る。
【0053】
ステップS6では、P1andP2<220kgf/cm(21.6MPa)が成立するか否かを判断する。そして、P1およびP2がいずれも220kgf/cm未満であれば、合分流弁77を開位置として合流状態にする(S8)。一方、P1andP2<220kgf/cmが成立しない場合には、ステップS1に戻る。
【0054】
そして、本実施形態においては、前記ステップS7にて合流状態から分流状態へと切り換えられるに伴い、エンジン制御装置21がエンジン16の出力を抑制(例えばΔ3%)するようにされている。
【0055】
本実施形態の油圧駆動制御装置60によれば、合流状態においてP1またはP2が250kgf/cm以上となれば分流状態に切り換えられて油圧ロスが低減され、これに合わせてエンジン出力が抑制されるように構成されているので、違和感なくエンジン出力を落として燃料消費量を低減することができる。したがって、油圧ロス低減効果をユーザが最も実感し易い燃費低減効果に転化することができる。また、分流状態においてP1およびP2のいずれもが220kgf/cm未満となれば、合流状態としてアームもしくはバケットを高速駆動することができる。
【0056】
さらに、本実施形態の油圧駆動制御装置60によれば、油圧ポンプ17A,17Bの吐出圧に基づいて合流状態と分流状態との切り換えが行われるので、合流状態から分流状態への切り換えをより適正に行わせることができ、燃費低減効果の最適化を図ることができる。しかも、両油圧回路部61,62を合流させるときの基準圧力と、両油圧回路部61,62を分流させるときの基準圧力とを相違させているので、合流状態と分流状態との切換時においてハンチングを回避することができ、切換動作の信頼性が向上するという利点がある。
【0057】
なお、前記各実施形態においては、油圧ショベル1が前記各油圧駆動制御装置15,69をそれぞれ独立に搭載する例を示したが、油圧ショベル1がそれら油圧駆動制御装置15,60を兼備するような態様であっても良く、これによって更なる低燃費化を図ることができるのは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明に係る油圧駆動制御装置は、油圧ショベルは勿論のこと、その他、ホイールローダ等の建設機械、農業機械、産業車両などの油圧駆動制御装置として利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンにより駆動される油圧ポンプから吐出される圧油を油圧アクチュエータに対し制御弁を介して給排することによりその油圧アクチュエータを駆動する駆動油圧回路と、前記油圧アクチュエータの駆動に伴いその油圧アクチュエータから排出される作動油の一部をタンクへ直接に還流させるクイックリターン回路とを備える油圧駆動制御装置において、
前記エンジンの出力を制御するエンジン制御手段を設け、このエンジン制御手段は、前記クイックリターン回路が開作動されているときに、前記エンジンの出力を抑制する制御を行うことを特徴とする油圧駆動制御装置。
【請求項2】
前記クイックリターン回路の背圧を検出する背圧検出手段が設けられ、前記エンジン制御手段は、前記背圧検出手段により検出される背圧値に基づいて前記エンジンの出力抑制量を調整する請求項1に記載の油圧駆動制御装置。
【請求項3】
前記油圧アクチュエータは油圧ショベルのアームシリンダであり、前記クイックリターン回路は、アームダンプ動作時に作動される請求項1または2に記載の油圧駆動制御装置。
【請求項4】
エンジンを駆動源とする油圧ポンプから吐出される圧油により油圧アクチュエータを駆動する複数の油圧回路部を備え、この複数の油圧回路部における一の油圧回路部と他の油圧回路部とを接続して駆動する合流状態と、前記一の油圧回路部と他の油圧回路部とを分離して駆動する分流状態とを切換可能に構成される油圧駆動制御装置において、
前記エンジンの出力を制御するエンジン制御手段を設け、このエンジン制御手段は、前記合流状態から前記分流状態への切り換えに伴い、前記エンジンの出力を抑制する制御を行うことを特徴とする油圧駆動制御装置。
【請求項5】
前記油圧ポンプの吐出圧に基づいて前記合流状態と前記分流状態との切り換えが行われる請求項4に記載の油圧駆動制御装置。
【請求項6】
前記一の油圧回路部における油圧アクチュエータは油圧ショベルのアームシリンダであり、前記他の油圧回路部における油圧アクチュエータは油圧ショベルのバケットシリンダであり、前記アームシリンダおよびバケットシリンダの同時作動により行われる掘削動作時で、かつ前記一の油圧回路部における油圧ポンプまたは前記他の油圧回路部における油圧ポンプの吐出圧が所定値に到達した際に、前記合流状態から前記分流状態への切り換えが行われる請求項4または5に記載の油圧駆動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【国際公開番号】WO2005/019656
【国際公開日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【発行日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−513268(P2005−513268)
【国際出願番号】PCT/JP2004/011438
【国際出願日】平成16年8月9日(2004.8.9)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】