説明

油性固形化粧料

【課題】生産性を低下させることなく、滑らかな使用感でありながら、高い温度における安定性を向上させた油性固形化粧料を提供する。
【解決手段】5〜50質量%の固形油と、20〜65質量%の液状油と、3〜40質量%のペースト油と、ゲル化剤としてN−ラウロイル−L−グルタミン酸ジブチルアミド(A)とN−2−エチルヘキサノイルグルタミン酸ジブチルアミド(B)を含む組成物であって、前記(A)と(B)の合計量が当該組成物中に0.3〜4.0質量%、前記(A)と前記(B)の配合比((A)の配合量/(B)の配合量)が0.5以上4.0以下である組成物から固形油性化粧料を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は油性固形化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
油性固形化粧料は、化粧品市場で中心的な役割を持つ製品であり、種々の製品が開発されている。油性固形化粧料は常温で固形状の皮膚に塗布されることを目的とする化粧料であって、その代表的なものとしてスティック状に成型された口紅や金属製やプラスチック製の皿(ジャー容器)などに充填されたチークカラーがある。油性固形化粧料の多くは、常温で固形状である固形状油と常温で液状である液状油と常温でペースト状であるペースト状油を主体とする基剤に有機色素や無機色素、顔料などの色素成分が分散された組成物からなり、加熱により液状化された組成物を、金属製の口紅型、樹脂製の成型用カプセル、ジャー容器などに流し込んで製造される。
【0003】
油性固形化粧料には、塗布時には滑らかな感触で均一に塗布できることが求められる一方、スティック状の化粧料においては塗布中に折れないことなど十分な強度が求められる。また、製造時には機械充填に対応できる機械適性がよく、良好な充填性や成型性が求められる。
【0004】
従来、油性基剤となる固形油や液状油、ペースト油などの配合割合を調整したり、用いる各成分を選択したりすることにより、上記の要求性能を満たしてきた。この際、使用感を滑らかにして均一に塗布するために、固形油の配合量を出来る限り少なくして仕上がり時の硬さを柔らかくしていた。しかしながら、固形油の配合量が少ない場合には、耐熱性が低下し、気温が高い夏場では製品の流動性が高まり、容器から流れ落ちる、スティック状の化粧料では曲がりが発生する、製品表面への油浮きである発汗が発生するといった欠点が見られやすい。
【0005】
こうした欠点のうち、発汗は次のような原因によって生じると考えられている。一つは油性基剤の融解による熱膨張、一つは結晶構造の変化による液状油の保持性能の低下、さらには空気中の水分と化粧料中の油分との置換である。
【0006】
このような状況下において、結晶構造を強化し、液状油の保持性能の低下を防ぐためにゲル化剤を使用した油性固形化粧料が提案されている。例えば、特開2006−52155号公報(特許文献1)には、0.1〜10%の固形状油分と分岐脂肪酸とグリセリン及び/又はジグリセリンのエステルと、ゲル化剤であるイヌリン脂肪酸エステルによって、滑らかなのびや発汗等のない良好な安定性を示す油性固形化粧料が開示されている。
【0007】
特開2005−163029号公報(特許文献2)には、オクチルドデカノールや12−ヒドロキシステアリン酸、シクロメチコンなどの液状油と、ゲル化剤としてN−ブチル−2−(N´−ラウロイルアミノ)グルタルイミド、N−ラウロイル−L−グルタミン酸ジブチルアミド、N−2−エチルヘキサノイル−L−グルタミン酸ジブチルアミドなどが用いられたスティック状化粧料が開示されている。特開2005−298388号公報(特許文献3)には、オクチルドデカノールやジイソステアリルアルコール、ジメチルポリシロキサンなどの液状油にゲル化剤としてN−2−エチルヘキサノイルグルタミン酸ジブチルが用いられた油性ファンデーションや油性口紅が開示されている。特開2002−316971号公報(特許文献4)には、N−2−エチルヘキサノイル−L−グルタミン酸ジブチルアミド、N−オクタノイル−L―グルタミン酸ジブチルアミド、N−デカノイル−L−グルタミン酸ジブチルアミド並びにこれらとN−ラウロイル−L−グルタミン酸ジブチルアミドを含有する油性基剤のゲル化剤が開示され、ワックスなどの固形油とラノリンなどのペースト油、パルミチン酸イソプロピルなどの液状油とゲル化剤としてN−2−エチルヘキサノイルグルタミン酸ジブチルアミドが用いられた口紅、液状油とゲル化剤であるN−2−エチルヘキサノイルグルタミン酸ジブチルアミドとN−ラウロイル−L−グルタミン酸ジブチルアミドが用いられた発汗抑制ゲルスティックが開示されている。特開2005−298635号公報(特許文献5)には、誘導パラフィンなどのペースト油とオクチルドデカノールなどの液状油とゲル化剤としてN−2−エチルヘキサノイルグルタミン酸ジブチルアミドが用いられたリップグロスが開示されている。また、国際公開WO2004/105707号公報(特許文献6)には、油性基剤とグリセリンを含まない多価アルコールとゲル化剤としてN−アシル−L−グルタミン酸ジアルキルアミドが用いられた油ゲル状組成物が開示されている。さらに、特開2009−67947号公報(特許文献7)には、液状油と固形油と界面活性剤とゲル化剤としてN−ラウロイル−L−グルタミン酸ジブチルアミド及びN−2−エチルヘキサノイル−L−グルタミン酸ジブチルアミドが用いられたスティック状のヘアトリートメント化粧料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−52155号公報
【特許文献2】特開2005−163029号公報
【特許文献3】特開2005−298388号公報
【特許文献4】特開2002−316971号公報
【特許文献5】特開2005−298635号公報
【特許文献6】国際公開WO2004/105707号公報
【特許文献7】特開2009−67947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に開示された口紅では、イヌリン脂肪酸エスエルと特定の油状成分を用いているため、汎用性が欠ける。この点、特許文献2〜6に記載された油性固形化粧料では、N−2−エチルヘキサノイル−L−グルタミン酸ジブチルアミドやN−ラウロイル−L−グルタミン酸ジブチルアミドがゲル化剤として用いられているので、使用できる油性成分が制約されることが少なく、汎用性が高い。
【0010】
ところが、特許文献2〜6に記載された油性固形化粧料では、ワックスが全く使用されていなかったり、ワックスが使用された特許文献4記載の口紅でもその使用量が15%程度であって、液状若しくはペースト油の使用量が多い。このために、従来から温度安定性評価の基準とされていた温度である40℃程度の温度で発汗がなく安定であったとしても、保管温度が高くなると安定性が著しく低下するおそれが強い。そうなると、夏場における保存状態、例えば自動車の車内に放置することなどにより、発汗を避けることができなくなる。また、海水浴場や東南アジアなど外気温が高い地域においても、同じように発汗を避けることができなくなるという可能性があった。このような可能性をなくすためにも、発汗抑制できる温度を少しでも引き上げる必要がある。また、特許文献7に記載されたヘアトリートメント化粧料もワックスが使用されていないだけでなく、頭髪の手入れをするために口唇への使用とは異なる使用感が求められており、口紅にはそれとは異なる処方設計が求められる。
【0011】
一方、固形油の配合量を多くして発汗抑制できる温度を高めることも考えられるが、固形油の配合量が多くなると、使用感の低下つまり延びがおもくなったり、均一な塗布が得られにくかったり、塗布時のツヤが低下したりする。この点、特許文献4に開示された口紅においては固形油の配合量が少ないが、40℃の保存においても発汗が認められていない。しかしながら、特許文献4に記載の口紅では、N−2−エチルヘキサノイルグルタミン酸ジブチルアミドのみが用いられている。このN−2−エチルヘキサノイルグルタミン酸ジブチルアミドの溶解温度は150〜180℃であり、充填時の温度を高めないと成型性が低下し、生産効率が悪くなるおそれがあった。
【0012】
本発明は上記の背景技術に鑑みてなされたものであって、生産性を低下させることなく、滑らかな使用感でありながら、高温度における安定性を向上させた油性固形化粧料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の油性固形化粧料は、5質量%以上50質量%以下の固形油と、20質量%以上65質量%以下の液状油と、3質量%以上40質量%以下のペースト油と、ゲル化剤としてN−ラウロイル−L−グルタミン酸ジブチルアミド(A)とN−2−エチルヘキサノイルグルタミン酸ジブチルアミド(B)を含む組成物からなる固形油性化粧料であって、前記(A)と(B)の合計量が前記組成物中に0.3質量%以上4.0質量%以下、前記(A)と前記(B)の配合比((A)の配合量/(B)の配合量)が0.5以上4.0以下である固形油性化粧料である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、充填容器への充填性が良好で、しかも滑らかな使用感を確保しながら、従来の油性固形化粧料に比べて保存温度が高いところでも発汗が抑えられた油性固形化粧料が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1はA成分とB成分の混合比率を変えた場合における上昇融点の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の油性固形化粧料は、固形油と液状油とペースト油とを含み、特定のゲル化剤を用いてゲル化させて、肌に塗布するのに適度な滑らかさを確保しながら、発汗のしにくさを追求した、すなわち高い温度においても発汗が起こりにくい油性固形化粧料である。
【0017】
本発明における油性固形化粧料は、油性成分を主成分として調整された室温で固形である化粧料である。当該化粧料として、口唇に適用される口紅、リップグロス、リップバームなどの口唇用化粧料、チークカラー、油性ファンデーションなどのメーキャップ化粧料、頬などの肌に塗布され肌の保護を目的として使用される油性プロテクション化粧料が例示される。また油性固形化粧料の形態として、スティック状のものや金皿(ジャー容器)などの容器に充填された形態のものがあるが、いずれの形態であってもよい。
【0018】
本発明において用いられる固形油は、室温(25℃)において固形である油性成分である。当該成分はいわゆるロウやワックスと称される成分であって、例えばパラフィンワックス、セレシンワックス、マイクロクリスタリンワックス、モンタンワックス、ポリエチレンワックス、カルナウバロウ、モクロウ、キャンデリラワックス、ミツロウ、鯨ロウなどが例示され、1種又は2種以上の固形油が用いられる。
【0019】
これらの固形油の配合量は、組成物中に5%以上50%以下、好ましくは10%以上45%以下、望ましくは15%以上40%以下である。固形油の配合量が50%を超えると、固形油の配合量が多くなり、十分な滑らかさを得ることができないだけでなく、製品に仕上げる際の充填加工性が低下する。また、5%未満であれば、組成物中における液状油やペースト油の配合量が大きくなり、高温における安定性が得られず、本発明の目的を達成できない。なお、本発明において、特段の記載がある場合を除いて「%」は「質量%」を意味する。
【0020】
また、本発明の固形油として、炭化水素系のワックスが好ましく用いられる。炭化水素系のワックスとしては、パラフィンワックスやセレシンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックスなど、高級脂肪酸と高級アルコールからなるエステル由来のいわゆる狭義のロウとは異なる固形油であって、その主成分が炭化水素からなる狭義の固形油を意味する。本発明で使用するゲル化剤であるN−ラウロイル−L−グルタミン酸ジブチルアミド(A)とN−2−エチルヘキサノイルグルタミン酸ジブチルアミド(B)から形成されるゲル構造の発達と炭化水素ワックスの結晶構造の発達が競合しないので、ゲル構造の発達の影響を受けることなく炭化水素ワックスの結晶が充分に発達する。その結果、高い強度向上効果が得られる。しかも塗布時に融解しやすく、滑らかな使用感が付与されやすい。このような観点から、その配合量は全固形油に対して質量比で50%以上にするのが好ましい。50%未満であれば十分な固化性能が得られず、成型ができなくなるおそれがある。また、ロウのような他の固形油の配合量が炭化水素系ワックスに比べて多くなるため、滑らかな塗布性が得られなくなるおそれもある。
【0021】
液状油は室温(25℃)において液体である油性成分である。当該成分として、例えば流動パラフィン、スクワラン、ポリブテン、重質流動イソパラフィンなどの炭化水素油やエチルヘキサン酸セチル、イソノナン酸イソトリデシル、リンゴ酸ジイソステアリルなどのエステル油、トリエチルヘキサノイン、オリーブ油、ヒマシ油などのトリグリセリド、オクチルドデカノールのような高級アルコール、イソステアリン酸などの高級脂肪酸、メチルポリシロキサン、高重合メチルポリシロキサン、メチルシクロポリシロキサンなどのシリコーン油が例示され、1種または2種以上の液状油が用いられる。
【0022】
液状油の配合量は、組成物中に20%以上65%以下、好ましくは30%以上50%以下である。20%未満では液状油の配合量が少ないのでゲル化剤によるゲル構造を十分に形成できず、発汗を十分に抑えることができない。また、固形油の成分が多くなるので滑らかさが得られないことになる。また、65質量%を超えると液状油の量が多くなるために所望する高温、45℃程度における安定性が劣ることにつながる。
【0023】
液状油として、本発明においては高粘度炭化水素油を用いるのが好ましい。高粘度炭化水素油は強固なゲル構造が構築されやすい。つまり、高粘度炭化水素油はゲル化剤と相溶性が低いためゲル構造が形成されやすく充分なゲル強度が得られる。そのため、高温における安定性が得やすくなる。本願における高粘度炭化水素油は、上記炭化水素油のうち、20℃における粘度が20Pa.s(実施例記載の方法による)以上のものである。この高粘度炭化水素油として、ポリブテンや水添ポリイソブテンが例示される。また、水添ポリイソブテンとして、揮発性イソパラフィン、軽質イソパラフィン、軽質流動イソパラフィン、重質イソパラフィン、流動イソパラフィンが例示され、「パールリーム18」、「パールリーム24」、「パールリーム46」(それぞれ日油株式会社の商標名)、ポリブテン100R、ポリブテン300R、ポリブテン2000H(それぞれ出光石油化学社製)、日石ポリブテン グレードHV1900(新日本石油株式会社製)などの市販品が用いられる。
【0024】
上記観点から、本発明においては液状油の全てを高粘度炭化水素油とするのが好ましいが、その配合量は全液状油に対して質量比で少なくとも2%以上、組成物全体では0.04%以上65%以下とするのが好ましい。液状油に対して配合割合が少なくなるとゲル強度が弱くなる傾向にあり、液状油に対して2%未満では、高粘度炭化水素油を配合する効果が得られない。
【0025】
ペースト油は、室温(25℃)で半固形状態の油性成分である。半固形状態の油性成分とは、あらゆる油性成分のうち、上記固体油でも上記液体油でもない状態にある油性成分である。当該ペースト油としては、ワセリン、ジペンタエリトリット脂肪酸エステル、ラウロイルグルタミン酸ジ(コレステリル/ベヘニル/オクチルドデシル)、ステアリン酸水添ヒマシ油などが例示される。
【0026】
ペースト油の配合量は3%以上40%以下である。ペースト油は油性固形化粧料の柔らかさを調整するものである。3%未満であればペースト油による効果が十分に発揮されず、40%よりも多いと強度の低下につながる。
【0027】
本発明においてはゲル化剤が用いられる。本発明ではゲル化剤によってゲル構造が形成されることにより、固形化粧料に含まれる固形油が強固に保持されるものと考えられる。本発明においては、ゲル化剤としてN−ラウロイル−L−グルタミン酸ジブチルアミド(A成分)とN−2−エチルヘキサノイルグルタミン酸ジブチルアミド(B成分)の両者が用いられる。
【0028】
ゲル化剤の配合量(A成分とB成分の合計量)は組成物中0.3%以上4.0%以下である。ゲル化剤の量が0.3%未満であれば十分なゲル形成ができず、4.0%を超えると油性固形化粧料の充填温度での流動性が低下して成型性が低下したり、組成物が堅くなりすぎると共に所望する滑らかさが得られない。
【0029】
また、両者の混合比は質量比でA成分:B成分が4:1から1:2の範囲、すなわち(A成分の配合量)/(B成分の配合量)が0.5以上4.0以下であり、好ましくは(A成分の配合量)/(B成分の配合量)が1.0以上4.0以下である。両成分はそれぞれ油状成分のゲル化剤として知られており、単独成分でも安定性の向上が図られるが、両者を併用することにより単独の成分を用いた場合に比べて安定性の向上がよく、45℃において発汗の抑制を図ることができる。また、B成分であるN−2−エチルヘキサノイルグルタミン酸ジブチルアミドの溶解温度は150〜180℃であることが知られている(特許文献3参照)が、A成分を併用することにより上昇融点が下がり、流動性が高まる。これによって低い温度での溶融が可能となる。図1はA成分とB成分の混合比率を変えた場合における上昇融点の変化を示す図である(実施例1参照)。これによるとA成分とB成分を混合することにより上昇融点が下がる。このために、前記B成分を用いた場合でも低い温度で融解し、金皿であるジャー容器やスティック用の充填容器(いわゆる成型用型)への充填が容易になる。このとき、両者の組成比が上記範囲から外れた場合には発汗安定性の向上が見込まれないだけでなく、十分な上昇融点の降下が得られず、容器への充填性が悪くなり、製造効率も低下する。
【0030】
充填容器への充填は通常80℃程度で行われる。この充填性を考慮すると80℃における組成物の粘度が0.2Pa.s以下となるようにゲル化剤の配合量やA成分とB成分の配合比を決めるのが好ましい。0.2Pa.sよりも粘度が高くなると成型用型への充填性が悪くなり、成型不良などの発生率が高まる。なお、本発明における粘度は、本願実施例に記載された方法により測定されたものを意味する。
【0031】
これらの観点から、より大きな融点降下が望まれるように、A成分の配合量がB成分の配合量と等量、もしくはA成分の配合量が多くなる、すなわち、(A成分の配合量)/(B成分の配合量)が1.0以上、好ましくは1.0より大きく4.0以下となるように両者を配合するのがより望ましい。
【0032】
本発明の油性固形化粧料には顔料が配合される場合がある。顔料は無機顔料、有機顔料のいずれでもよく、無機顔料として酸化チタン、酸化鉄、酸化クロム、コンジョウ、グンジョウなどが例示され、有機顔料として青色1号アルミニウムレーキ、黄色5号アルミニウムレーキ、雲母に酸化チタンをコーティングすることなどにより高い表面反射性を付与したいわゆるパール系顔料が例示される。組成物には1種又は2種以上の顔料が配合されるが、顔料が配合される場合、その配合量は0.0001%以上60%以下、好ましくは50%以下である。また、赤色202号などの有機色素が配合される場合もある。
【0033】
本発明の油性固形化粧料には本発明の効果を損なわない限りにおいて、顔料や前記油性成分、ゲル化剤以外に、界面活性剤、水溶性高分子、アルコール類、保湿剤、紫外線吸収剤、pH調整剤、防腐剤、抗菌剤、酸化防止剤、金属封鎖剤など油性固形化粧料として用いられる添加成分が適宜、必要に応じて配合されることがある。また、本発明の油性固形化粧料は油性成分を主成分とし通常は水を含まない化粧料であるが、前記の添加成分の溶解などのために用いられる水分や原材料中の水分など、化粧料に用いられる原料成分の性質によっては少量、具体的には0.5%以下、多くても1.0%以下の水分が含まれることがある。
【0034】
本発明について下記実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、下記の実施例はあくまでも例示であり、本発明は下記実施例に限定されないのは言うまでもない。
【実施例1】
【0035】
まず、ゲル化剤であるA成分及びB成分の混合比が上昇融点に与える影響を調べた。上昇融点は、表1に示す配合量で両ゲル化剤をオクチルドデカノールに混合し、上昇融点を測定した。その結果を表1及び図1に示す。その結果、A成分とB成分を混合することにより上昇融点が下がり、A成分とB成分の混合比が質量比で2:3の場合に、上昇融点が82℃となり、両者の混合比が1:1の場合に75℃、それよりもA成分を多くすることにより、A成分単独の上昇融点(68℃)よりも上昇融点が低下することが理解された。
【0036】
(上昇融点の測定法)
表1に示したとおりに各成分を量り取り、110℃まで撹拌しながら昇温させた後、ヘマトクリット管に1cmの長さにサンプリングした。その後、20℃のインキュベーターで4時間放置し、化粧品原料基準の融点測定法第2法により上昇融点を測定した。
【表1】

【実施例2】
【0037】
表2に示す処方例に基づき、表3に示す割合にてA成分及びB成分を用いて実施品及び比較品である口紅を作製し、上昇融点及び高温安定性(45℃の発汗のみ)について下記方法に基づき評価を行った。また、85℃付近における成型用型への流し込みを確保するため80℃における粘度も測定した。その結果を表3に示した。なお、下記の処方において、ゲル化剤にはA成分として味の素株式会社製、製品名「GP−1」を、B成分として同社製、製品名「EB−21」を使用した。また、重質流動イソパラフィン(商品名「パールリーム46」)の粘度は900Pa.s、ポリブテン(商品名「日石ポリブテン グレードHV1900」の粘度:1000Pa.sである。
【0038】
A.流し込みの評価
表2に示す成分を85℃以上の温度で加熱溶解し、表2に示す温度でスティック成型用の型に流し込み成型する。その後、−20℃のフリーザーで固化させ、型から取り出した後、表面に亀裂がないか、型の先端部分まで充填されているか確認した。流し込み性が悪いと、型に触れた時点で固化し、その後充填された組成物と混ざらずに亀裂が生じる。流し込み性が良好な場合には○で、わずかな不良が見られたが製造上問題がないと判断された場合には△で、不良であった場合には×で示した。
【0039】
B.粘度測定
測定用のステンレスビーカーに各成分を量り取り、撹拌しながら80℃まで昇温させ、あらかじめ80℃にしてあった測定ローター(粘度測定装置:RION VISCOTESTER VT−04)を用いて粘度(Pa.s)を測定した。
【0040】
C.上昇融点
表2に示す成分を量り取り、110℃まで撹拌しながら昇温させた後、ヘマトクリット管に1cmの長さにサンプリングした後、20℃のインキュベーターで4時間放置し、化粧品原料基準の融点測定法第2法により上昇融点を測定した。
【0041】
D.高温安定性
(1)40℃又は45℃における安定性
成型後、室温で1週間放置した後、40℃又は45℃の恒温槽内で横置きに放置し、目視による外観観察によって発汗の有無及び曲がりの有無を確認した。変化が全く観察されなかった場合には◎で、軽微な変化が観察された場合には○で、やや変化が観察された場合には△で、かなり変化が観察された場合には×で示した。
【0042】
【表2】

【0043】
【表3】

【0044】
表3の結果によると、固形油、液状油、ペースト油の処方系において2種類のゲル化剤のみを用いることによって、45℃においても良好な安定性が得られることが確認された。また、この結果と実施例1の結果を勘案すると、上昇融点が64℃程度になるA成分にその2倍から1/4程度のB成分を混合することにより45℃における発汗安定性と80℃における流し込みやすさが確保されることが理解された。
【実施例3】
【0045】
次に、表3で得られた結果を参考にして口紅を作製した。表4に示す処方において、表5に示す配合量でゲル化剤を使用し、85℃における成型用型への流し込み、上昇融点、高温安定性、折れ強度並びに使用感について実施例2及び下記記載の方法に基づき評価を行った。その結果を表5に示す。
【0046】
E.折れ強度
得られた各口紅をそれぞれ20℃及び37℃の恒温槽に1日以上放置した後、不動工業株式会社製レオメーターNRM−2002Jにて根元から1.5cmの所に荷重をかけ破断時の力(N)を測定し、この力を折れ強度(N)とした。
【0047】
F.使用感
化粧歴10年以上の女性数名をパネルとし、各口紅について、塗布時の滑らかさを評価してもらった。
【表4】

【表5】

【0048】
以上の結果、A成分とB成分の混合比によって口紅の上昇融点が変化し、それに併せて流し込みやすさ、45℃における発汗安定性、80℃における粘度が変化することが理解された。この結果によると、A成分とB成分の両者を用いることにより、口紅組成物の上昇融点が低くなり、それとともに温度安定性も良好な口紅が得られた。特に、A成分とB成分の配合比(Aの配合量/Bの配合量)が1以上の場合には、85℃での流し込み性や80℃における粘度が小さくなり、より良好な充填性が得られた。
【0049】
また、比較例5はワックスを含まないゲル状のものであって、スティック状に成型しづらく、塗布が困難で折れ強度が測定できないような剤型のものしか得られなかった。この点、ゲル剤としてB成分であるN−2−エチルヘキサノイルグルタミン酸ジブチルアミドのみを用いた比較例6の口紅は、45℃における発汗もなく、なめらかな使用感であった。しかしながら、B成分のみを用いているために、85℃まで組成物を加温するだけでは、流動性のある均一な溶融物が得られず、固形として凝集している部分が多く存在した。このために、105℃程度まで加熱して十分に溶融させなければ容器に流し込むことができず、余分な熱エネルギーが必要となるだけでなく、成型上、収縮による変形等が起こりえるなど、生産効率が悪いものであった。
【実施例4】
【0050】
次に各種の油性固形化粧料を作製した。
(スティック状チークカラー)
成分名 配合量(質量%)
(1)セレシン 15.00
(2)マイクロクリスタリンワックス 5.00
(3)キャンデリラワックス 15.00
(4)デカメチルシクロペンタシロキサン(D−5) 30.00
(5)流動パラフィン 11.95
(6)ポリブテン 3.00
(7)トコフェロール 1.00
(8)酸化チタン 1.50
(9)酸化鉄 0.20
(10)赤色226号 0.05
(11)N−ラウロイル−L−グルタミン酸ジブチルアミド 0.10
(12)N−2−エチルヘキサノイルグルタミン酸ジブチルアミド 0.20
(13)オクチルドデカノール 2.00
(14)架橋型真球状ポリアクリル酸アルキル共重合体 15.00
計 100.00
なお、架橋型真球状ポリアクリル酸アルキル共重合体は積水化成品工業株式会社製商品名「テクポリマー ACX-1502C」である(以下の処方において同じ)。
【0051】
(製造方法)
A:(1)〜(4)を90℃で加熱溶解する。
B:(5)〜(10)を混合し、3本ローラーで均一に処理する。
C:(11)〜(13)を150℃で加熱溶解する。
D:A、B、C、を90℃で均一に混合する。
E:Dに(14)を加えて混合した後、冷却しバルクとする。
F:バルクを90℃で溶解した後、スティック成型用金型を用いて充填成型し製品とする。
上記チークカラーは、塗布時に鮮やかに発色し、定着性が良く、なめらかで均一に伸びる。また充填成型性、高温安定性の全ての点において優れたものであった。
【0052】
(リップトリートメント(ジャー容器入り))
成分名 配合量(質量%)
(1)セレシン 15.00
(2)グリチルレチン酸ステアリル 0.30
(3)ジペンタエリトリット脂肪酸エステル 10.00
(4)エチルヘキサン酸セチル 6.00
(5)ポリブテン 20.00
(6)重質流動イソパラフィン 30.00
(7)流動パラフィン 13.65
(8)ビタミンEアセテート 1.00
(9)トコフェロール 0.05
(10)N−ラウロイル−L−グルタミン酸ジブチルアミド 3.20
(11)N−2−エチルヘキサノイルグルタミン酸ジブチルアミド 0.80
(12)オクチルドデカノール 10.00
計 100.00
【0053】
(製造方法)
A:(1)〜(9)を90℃で加熱溶解する。
B:(10)〜(12)を150℃で加熱溶解する。
C:AとBを均一に混合した後、冷却しバルクとする。
D:バルクを90℃で溶解した後、プラスチック製ジャー容器に充填し製品とする。
【0054】
本発明のリップトリートメントは、使用時の滑らかな感触を演出し、唇の荒れを改善する。また充填成型性、高温安定性の全ての点において優れたものであった。
【0055】
スティック状チークカラー
成分名 配合量(質量%)
(1)セレシン 10.00
(2)マイクロクリスタリンワックス 5.00
(3)キャンデリラワックス 15.00
(4)デカメチルシクロペンタシロキサン(D−5) 35.00
(5)流動パラフィン 11.95
(6)ポリブテン 3.00
(7)トコフェロール 1.00
(8)酸化チタン 1.50
(9)酸化鉄 0.20
(10)赤色226号 0.05
(11)N−ラウロイル−L−グルタミン酸ジブチルアミド 0.10
(12)N−2−エチルヘキサノイルグルタミン酸ジブチルアミド 0.20
(13)オクチルドデカノール 2.00
(14)架橋型真球状ポリアクリル酸アルキル共重合体 15.00
【0056】
(製造方法)
A:(1)〜(3)を90℃で加熱溶解する。
B:(5)〜(10)を混合し、3本ローラーで均一に処理する。
C:(11)〜(13)を150℃で加熱溶解する。
D:A、B、C、を90℃で均一に混合する。
E:Dに(14)を加えて混合した後、冷却しバルクとする。
F:バルクを90℃で溶解した後、スティック成型用金型を用いて充填成型し製品とする。
本発明のチークカラーは塗布時に鮮やかに発色し、定着性が良く、なめらかで均一に伸びる。また充填成型性、高温安定性の全ての点において優れたものであった。
【0057】
(リップトリートメント(ジャー容器入り))
成分名 配合量(質量%)
(1)セレシン 5.00
(2)グリチルレチン酸ステアリル 0.30
(3)ジペンタエリトリット脂肪酸エステル 10.00
(4)エチルヘキサン酸セチル 6.00
(5)ポリブテン 20.00
(6)重質流動イソパラフィン 30.00
(7)流動パラフィン 13.65
(8)ビタミンEアセテート 1.00
(9)トコフェロール 0.05
(10)N−ラウロイル−L−グルタミン酸ジブチルアミド 3.20
(11)N−2−エチルヘキサノイルグルタミン酸ジブチルアミド 0.80
(12)オクチルドデカノール 10.00
【0058】
(製造方法)
A:(1)〜(9)を90℃で加熱溶解する。
B:(10)〜(12)を150℃で加熱溶解する。
C:AとBを均一に混合した後、冷却しバルクとする。
D:バルクを90℃で溶解した後、プラスチック製ジャー容器に充填し製品とする。
このリップトリートメントは、使用時の滑らかな感触を演出し、唇の荒れを改善する。また充填成型性、経時安定性の全ての点において優れたものであった。また、いわゆる細身タイプのリップスティク形状にも充填・成型可能であり、この場合にも、上記処方と同様な滑らかな感触、良好な充填成型性、高温安定性が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明によれば、より高温においても発汗の起きにくく、滑らかな油性固形化粧料が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
5質量%以上50質量%以下の固形油と、
20質量%以上65質量%以下の液状油と、
3質量%以上40質量%以下のペースト油と、
ゲル化剤としてN−ラウロイル−L−グルタミン酸ジブチルアミド(A)とN−2−エチルヘキサノイルグルタミン酸ジブチルアミド(B)を含む組成物からなる固形油性化粧料であって、
前記(A)と(B)の合計量が前記組成物中に0.3質量%以上4.0質量%以下、前記(A)と前記(B)の配合比((A)の配合量/(B)の配合量)が0.5以上4.0以下である固形油性化粧料。
【請求項2】
前記(A)と前記(B)の配合比が1.0以上4.0以下である請求項1に記載の固形油性化粧料。
【請求項3】
80℃における粘度が0.2Pa.s以下である組成物からなる請求項1又は2に記載の固形油性化粧料。
【請求項4】
前記液状油として高粘度炭化水素油を含む請求項1〜3の何れか1項に記載の固形油性化粧料。
【請求項5】
前記高粘度炭化水素油を液状油に対して2%以上で含む請求項4に記載の固形油性化粧料。
【請求項6】
前記固形油として炭化水素系ワックスを含む請求項1〜5の何れか1項に記載の固形油性化粧料。
【請求項7】
前記炭化水素系ワックスを固形油に対して50質量%以上で含む請求項1〜6の何れか1項に記載の固形油性化粧料。

【図1】
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【公開番号】特開2011−213677(P2011−213677A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−84538(P2010−84538)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(591230619)株式会社ナリス化粧品 (200)
【Fターム(参考)】