説明

治療デバイス

【課題】バルーンの外表面に塗布された薬剤等が病変部に接触する前に剥離することを防止することができるとともに、病変部への到達性に優れる治療デバイスを提供する。
【解決手段】治療デバイス10は、バルーン16と、バルーン16の外表面に塗布された生理活性物質部18と、生理活性物質部18を覆う保護カバー20とを備える。保護カバー20は、膜状体からなり、折り返し可能な柔軟性を有する筒状に形成されている。保護カバー20は、その先端側で折り返されて内側部分20aと外側部分20bを有し、内側部分20aの基端側がシャフト12若しくはバルーン16に固定或いは密着され、外側部分20bがシャフト12側まで延在する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体管腔内の病変部に先端部を到達させ、所定の治療を行うための治療デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、心筋梗塞や狭心症の治療では、冠動脈の病変部(狭窄部)をバルーンカテーテルにより押し広げる方法が行われており、他の血管、胆管、気管、食道、尿道、鼻腔、その他の臓器等の生体器官内に形成された狭窄部の改善についても同様に行われることがある。バルーンカテーテルは、一般的に、長尺なシャフトと、このシャフトの先端側に設けられて径方向に拡張するバルーンとを備えて構成され、先行するガイドワイヤが挿通されることで体内の狭窄部へと送られる。
【0003】
このような治療法において、狭窄部を治療した後に再び狭窄を起こす再狭窄を予防するため、近年、バルーンの外表面に再狭窄を予防する効果のある薬剤を塗布することが提案されている。一方、バルーンを狭窄部に送達する途中でバルーンに塗布した薬剤と血管内壁とがこすれることにより薬剤が剥離することを防止するため、例えば特許文献1にて提案されたような、バルーンを覆う保護カバーとしてシースを設けることが考えられる。また、特許文献2にてステントを覆う保護カバーとして提案されたような、外シースを基端方向に引っ張ることによって折り返し膜が捲れて後退する構成を採用することが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2001−514936号公報
【特許文献2】特表2008−541786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
バルーンに塗布された薬剤を覆う保護カバーとして、特許文献1に記載された構成のシースを採用した場合、シースが後退する際に、シースの内周面と薬剤とがこすれ合うことで、薬剤がバルーンの外表面から剥離するという問題がある。
【0006】
バルーンに塗布された薬剤を覆う保護カバーとして、特許文献2に記載された折り返し膜を採用した場合、外シースがバルーンや折り返し膜と比較して硬い材質で構成されているため、カテーテル先端部の柔軟性に欠け、病変部への到達性に劣るという問題がある。
【0007】
本発明はこのような課題を考慮してなされたものであり、バルーンの外表面に塗布された薬剤等が病変部に接触する前に剥離することを防止することができるとともに、病変部への到達性に優れる治療デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明に係る治療デバイスは、シャフトと、前記シャフトの先端側に設けられた拡張可能なバルーンと、前記バルーンの外表面に塗布され、少なくとも1種以上の生物学的生理活性物質を含む生理活性物質部と、前記生理活性物質部を覆い、膜状体からなり、折り返し可能な柔軟性を有する筒状の保護カバーであって、前記保護カバーはその先端側で折り返されて内側部分と外側部分を有し、前記内側部分の基端側が前記シャフト若しくは前記バルーンに固定或いは密着され、前記外側部分がシャフト側まで延在する保護カバーと、前記保護カバーの前記外側部分を基端方向に牽引する牽引機構と、を備えることを特徴とする。
【0009】
上記のように構成された本発明によれば、バルーンの外表面に塗布された生理活性物質部が、保護カバーによって覆われているので、バルーンを病変部に送達する途中で生体管腔内壁と生理活性物質部が接触せず、生理活性物質部の剥離が防止される。また、牽引機構により保護カバーを基端方向に引っ張ると、保護カバーが基端方向に折り返されていくので、保護カバーによって生理活性物質部がこすり取られて剥離することを防止できる。さらに、保護カバーは、十分な柔軟性を有するため、治療デバイスの先端部の柔軟性を確保でき、曲がりくねった血管内や凹凸形状のある病変部へと治療デバイスを円滑に進ませることができる。
【0010】
上記の治療デバイスにおいて、前記牽引機構は、前記シャフトに沿って延在し且つ前記シャフトの軸線方向に変位可能な牽引チューブを有し、前記外側部分の基端が、前記牽引チューブに連結されていてもよい。
【0011】
上記の構成によれば、牽引チューブにより保護カバーを安定して牽引できるので、操作性に優れ、保護カバーを確実に基端方向に折り返すことができる。
【0012】
上記の治療デバイスにおいて、前記牽引機構は、前記外側部分の基端に連結されたリング部材と、前記リング部材に固定され前記シャフトに沿って配設された牽引ワイヤとを有してもよい。
【0013】
上記の構成によれば、リング部材とシャフトとの接触面積が少ないので、リング部材をシャフトに沿って基端方向に移動させる際の抵抗を小さくでき、牽引操作の際の操作力を低減できる。
【0014】
上記の治療デバイスにおいて、前記外側部分の基端と、前記牽引機構の先端とは、周方向の全体にわたって結合しているとよい。
【0015】
上記の構成によれば、保護カバーを均等に基端方向に引っ張り、確実に保護カバーを折り返すことができる。
【0016】
上記の治療デバイスにおいて、前記保護カバーの折り返し部を覆う捲れ防止カバーをさらに備えるとよい。
【0017】
上記の構成によれば、捲れ防止カバーによって保護カバーの折り返し部が覆われているので、血管内を進行する途中で保護カバーが捲れることがなく、バルーンを病変部に到達させるまで確実に生理活性物質部の剥離を防止することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の治療デバイスによれば、バルーン外表面に塗布された薬剤等が病変部に接触する前に剥離することを防止することができるとともに、病変部への到達性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係る治療デバイスの先端部を示す一部省略拡大断面図である。
【図2】図1に示した治療デバイスの基端側の構成を示す一部断面側面図である。
【図3】図3Aは、図1に示した治療デバイスの作用を説明する第1の状態の図であり、図3Bは、図1に示した治療デバイスの作用を説明する第2の状態の図である。
【図4】図4Aは、図1に示した治療デバイスの作用を説明する第3の状態の図であり、図4Bは、図1に示した治療デバイスの作用を説明する第4の状態の図である。
【図5】変形例に係る牽引機構と、巻取機構とを備えた治療デバイスの基端側をの構成を示す一部断面側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る治療デバイスについて好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照しながら説明する。
【0021】
図1は、一実施形態に係る治療デバイス10の先端部を示す一部省略拡大断面図であり、図2は、治療デバイス10の基端側の構成を示す一部断面側面図である。治療デバイス10は、生体管腔(血管等)内の病変部に先端部を到達させ、当該病変部に対して所定の処置を施すために使用されるものであり、本実施形態では、先端部に設けられたバルーン16を病変部である狭窄部で拡張させることで当該狭窄部を内側から押し広げて治療する、いわゆるPTCA(Percutaneous Transluminal Coronary Angioplasty:経皮的冠動脈形成術)バルーンカテーテルとして構成されている。本発明は、このようなPTCAバルーンカテーテル以外のもの、例えば、他の血管、胆管、気管、食道、尿道、鼻腔、その他の臓器等の生体器官内に形成された病変部の改善のためのカテーテルにも適用可能である。
【0022】
図1及び図2に示すように、治療デバイス10は、細径で長尺なシャフト12と、シャフト12の基端側に設けられたハブ15と、シャフト12の最先端に固着された先端チップ14と、先端チップ14の基端側でシャフト12の先端部近傍に設けられたバルーン16と、バルーン16の外表面に塗布された生理活性物質部18と、バルーン16及び生理活性物質部18を覆うように構成された保護カバー20と、保護カバー20を牽引する牽引機構22とを備える。
【0023】
シャフト12は、図示しないガイドワイヤが挿通されるワイヤ用ルーメン23を内部に形成した内管24と、当該内管24を囲繞して配置された外管26とを有する同心二重管であって、治療デバイス10の本体(カテーテルチューブ)を構成する部分である。
【0024】
内管24は、バルーン16、外管26及びハブ15の内側を軸方向に延在する可撓性を有する管状部材であり、その先端が先端チップ14の略中央に位置し、その基端がハブ15の基端にて開口している。従って、この治療デバイス10では、先端チップ14の先端開口部14aを入口として挿入されたガイドワイヤが、内管24のワイヤ用ルーメン23を先端側から基端側へと挿通され、ハブ15の基端から導出される「オーバーザワイヤタイプ」のカテーテルとして構成されている。
【0025】
なお、治療デバイス10は、シャフト12の長手方向の途中部分にガイドワイヤが導出される開口部を設けた、いわゆる「ラピッドエクスチェンジタイプ」のカテーテルとして構成されてもよい。この場合、後述する牽引チューブ42には、ガイドワイヤを導出するための長孔(スリット)が牽引チューブ42の軸線に沿って設けられる。
【0026】
外管26は、バルーン16の後端とハブ15の先端とを連結するように軸方向に延在する可撓性を有する管状部材である。当該外管26の先端からは、内管24が突出している。内管24と外管26との間には、バルーン16の拡張用流体を供給するための拡張用ルーメン28が軸方向に延在して形成されている。当該拡張用ルーメン28は、バルーン16の内部と連通している。
【0027】
ハブ15には、ハブ本体15aから分岐したバルーン拡張ポート15bが設けられ、当該バルーン拡張ポート15b内に設けられた内腔とバルーン16の内部とは、拡張用ルーメン28を介して連通している。ハブ15の構成材料は、特に限定されないが、比較的硬質の樹脂材料、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、環状ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリ−(4−メチルペンテン−1)、ポリカーボネート、アクリル樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ブタジエン−スチレン共重合体、ポリアミド(例えば、ナイロン6、ナイロン6・6、ナイロン6・10、ナイロン12)が挙げられる。
【0028】
バルーン拡張ポート15bは、図示しないインデフレータ等の拡張用流体供給手段を接続可能である。バルーン拡張ポート15bに当該拡張用流体供給手段を接続し、拡張用流体供給手段を作動させることで、当該拡張用流体供給手段から拡張用流体(例えば、造影剤)をハブ15及び拡張用ルーメン28を介してバルーン16まで送液可能となっている。
【0029】
内管24は、例えば、外径が0.1〜1.0mm程度、好ましくは0.3〜0.7mm程度であり、肉厚が10〜150μm程度、好ましくは20〜100μm程度であり、長さが100〜2000mm程度、好ましくは150〜1500mm程度のチューブであり、先端側と基端側とで外径や内径が異なるものでもよい。
【0030】
外管26は、例えば、外径が0.3〜3.0mm程度、好ましくは0.5〜1.5mm程度であり、肉厚が約10〜150μm程度、好ましくは20〜100μm程度、長さが300〜2000mm程度、好ましくは700〜1600mm程度のチューブであり、先端側と基端側とで外径や内径が異なるものでもよい。
【0031】
これら内管24及び外管26は、操作者が基端側を把持及び操作しながら、長尺なシャフト12を血管等の生体管腔内へと円滑に挿通させることができるために、適度な可撓性と適度な剛性を有する構造であることが好ましい。そこで、内管24及び外管26は、例えば、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アイオノマー、或いはこれら二種以上の混合物等)、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリアミドエラストマー、ポリウレタン、ポリウレタンエラストマー、ポリイミド、フッ素樹脂等の高分子材料或いはこれらの混合物、或いは上記2種以上の高分子材料の多層チューブ等で形成するとよい。
【0032】
バルーン16は、内圧の変化により折り畳み(収縮)及び拡張が可能に構成されており、図1では、収縮状態のバルーン16を実線で示し、拡張状態のバルーン16を仮想線(二点差線)で示している。バルーン16は、拡張用ルーメン28を介して内部に注入される拡張用流体により筒状(円筒状)に拡張する筒部(ストレート部)30と、筒部30の先端側で漸次縮径する先端テーパ部32と、筒部30の基端側で漸次縮径する基端テーパ部34とを有する。
【0033】
バルーン16は、先端テーパ部32の先端側に設けられた円筒状の先端側非拡張部36が内管24の外周面に液密に接合され、基端テーパ部34の基端側に設けられた円筒状の基端側非拡張部38が外管26の先端部に液密に接合されることで、シャフト12に固着されている。先端側非拡張部36の内径は、内管24の外径に略一致しており、基端側非拡張部38の外径は、外管26の外径に略一致している。バルーン16と内管24及び外管26とは、液密に固着されればよく、例えば接着や熱融着によって接合される。
【0034】
内管24のうち、バルーン16内に位置する部分には、X線不透過マーカ40が設けられている。X線不透過マーカ40は、X線(放射線)不透過性を有する材質(例えば、金、白金、タングステン等)によって構成され、生体内でバルーン16の位置をX線造影下で視認するためのものである。なお、X線不透過マーカ40は、1つに限らず、複数設けられてもよく、シャフト12のうちバルーン16が設けられた箇所よりも基端側に配置されてもよい。
【0035】
バルーン16の拡張時の大きさは、例えば、筒部30の外径が1〜10mm程度、好ましくは1〜7mm程度であり、長さが5〜350mm程度、好ましくは5〜300mm程度である。また、先端側非拡張部36の外径は、0.5〜1.5mm程度、好ましくは0.6〜1.3mm程度であり、先端チップ14の外径と略同一とされ、長さは1〜5mm程度、好ましくは1〜2mm程度である。基端側非拡張部38の外径は0.5〜1.6mm程度、好ましくは0.7〜1.5mm程度であり、長さは1〜5mm程度、好ましくは2〜4mm程度である。さらに先端テーパ部32及び基端テーパ部34の長さは1〜10mm程度、好ましくは3〜7mm程度である。
【0036】
このようなバルーン16は、内管24及び外管26と同様に適度な可撓性が必要とされるとともに、狭窄部を確実に押し広げることできる程度の強度が必要であり、その材質は、例えば、上記にて例示した内管24及び外管26の構成材料と同一でよく、或いは他の材質であってもよい。
【0037】
先端チップ14は、その外径がバルーン16の先端側非拡張部36と略同一とされ、その内径が内管24の外径と略同一とされた短尺なチューブであり、例えば、軸線方向の長さが0.5〜10mm程度である。先端チップ14は、内管24の先端部に外嵌及び液密に接合されてワイヤ用ルーメン23の先端開口部よりも先端側に突出するとともに、その基端面がバルーン16の先端側非拡張部36の先端面に接合されている。先端チップ14の先端開口部14aは、内管24のワイヤ用ルーメン23に連通し、ガイドワイヤの入口となっている。
【0038】
先端チップ14は、その材質や形状を適宜設定することにより、少なくとも内管24又は外管26よりも柔軟に構成され、例えば、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アイオノマー、或いはこれら二種以上の混合物等)、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリアミドエラストマー、ポリウレタン、ポリウレタンエラストマー、ポリイミド、フッ素樹脂等の高分子材料或いはこれらの混合物、或いは上記2種以上の高分子材料の多層チューブ等で形成するとよい。
【0039】
このような先端チップ14は、治療デバイス10の最先端として生体管腔内での湾曲部や凹凸部等を柔軟に進むとともに、狭窄部(病変部)を貫通し、当該治療デバイス10の円滑な挿通を先導するための部位である。なお、先端チップ14は省略してもよく、その場合には、内管24の最先端位置とバルーン16の先端側非拡張部36の最先端位置とを一致させた構成や、当該先端側非拡張部36の最先端位置よりも内管24の最先端位置を多少突出させた構成とするとよい。
【0040】
バルーン16の外表面に塗布された生理活性物質部18は、少なくとも1種以上の生物学的生理活性物質を含むものである。具体的には、生理活性物質部18は、好ましくは、病変部(狭窄部)への付着(留置)を確実にするために、バルーン16の外周面の全周(360度の範囲)に塗布され、筒部30の全長にわたって塗布される。生理活性物質部18の厚さ(塗布厚さ)は、好ましくは、3〜100μmであり、より好ましくは、5〜50μmである。なお、生理活性物質部18は、バルーン16の外表面の全体に形成されていてもよく、又は、バルーン16の外表面の一部分に形成されていてもよい。
【0041】
生理活性物質部18に含まれる生物学的生理活性物質は、生体管腔内の狭窄部を治療した部位に付着させることで再狭窄を抑制する効果を有するものであれば特に限定されず、具体的には、例えば抗癌剤、免疫抑制剤、抗生物質、抗リウマチ剤、抗血栓薬、抗高脂血症薬、ACE阻害剤、カルシウム拮抗剤、インテグリン阻害薬、抗アレルギー剤、抗酸化剤、GPIIbIIIa拮抗薬、レチノイド、フラボノイド、カロチノイド、脂質改善薬、DNA合成阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤、抗血小板薬、血管平滑筋増殖抑制薬、抗炎症剤、生体由来材料、インターフェロン、NO産生促進物質等が挙げられる。
【0042】
抗癌剤としては、より具体的には、例えば硫酸ビンクリスチン、硫酸ビンブラスチン、硫酸ビンデシン、塩酸イリノテカン、パクリタキセル、ドセタキセル水和物、メトトレキサート、シクロフォスファミド等が好ましい。免疫抑制剤としては、より具体的には、例えば、シロリムス、タクロリムス水和物、アザチオプリン、シクロスポリン、ミコフェノール酸モフェチル、塩酸グスペリムス、ミゾリビン等が好ましい。
【0043】
抗生物質としては、より具体的には、例えば、マイトマイシンC、塩酸ドキソルビシン、アクチノマイシンD、塩酸ダウノルビシン、塩酸イダルビシン、塩酸ピラルビシン、塩酸アクラルビシン、塩酸エピルビシン、硫酸ペプロマイシン、ジノスタチンスチマラマー等が好ましい。抗リウマチ剤としては、より具体的には、例えば、金チオリンゴ酸ナトリウム、ペニシラミン、ロベンザリット二ナトリウム等が好ましい。抗血栓薬としては、より具体的には、例えば、へパリン、塩酸チクロピジン、ヒルジン等が好ましい。
【0044】
抗高脂血症薬としては、より具体的にはHMG−CoA還元酵素阻害剤やプロブユールが好ましい。そして、HMG−CoA還元酵素阻害剤としては、より具体的には、例えば、セリバスタチンナトリウム、アトルバスタチン、ニスバスタチン、ピタバスタチン、フルバスタチンナトリウム、シンバスタチン、ロバスタチン、プラバスタチンナトリウム等が好ましい。
【0045】
ACE阻害剤としては、より具体的には、例えば、塩酸キナプリル、ペリンドプリルエルブミン、トランドラプリル、シラザプリル、塩酸テモカプリル、塩酸デラプリル、マレイン酸エナラプリル、リシノプリル、カプトプリル等が好ましい。カルシウム拮抗剤としては、より具体的には、例えば、ニフェジピン、ニルバジピン、塩酸ジルチアゼム、塩酸ベニジピン、ニソルジピン等が好ましい。抗アレルギー剤としては、より具体的には、例えば、トラニラストが好ましい。
【0046】
レチノイドとしては、より具体的には、例えば、オールトランスレチノイン酸が好ましい。抗酸化剤としては、より具体的には、例えば、カテキン類、アントシアニン、プロアントシアニジン、リコピン、β- カロチン等が好ましい。カテキン類の中では、エピガロカテキンガレートが特に好ましい。チロシンキナーゼ阻害剤としては、より具体的には、例えば、ゲニステイン、チルフォスチン、アーブスタチン等が好ましい。抗炎症剤としては、より具体的には、例えば、デキサメタゾン、プレドニゾロン等のステロイドやアスピリンが好ましい。
【0047】
生体由来材料としては、より具体的には、例えば、EGF(epidermal growth factor)、VEGF(vascular endothelial growth factor)、HGF(hepatocyte growth factor)、PDGF(platelet derived growth factor)、BFGF(basic fibroblast growth factor)等が好ましい。
【0048】
生理活性物質部18は、上記例示した生物学的生理活性物質のうち、一種類のみを含んでもよく、又は二種類以上の異なる生物学的生理活性物質を含んでもよい。二種類以上の生物学的生理活性物質を含む場合、その組み合わせは上記例示した生物学的生理活性物質から必要に応じて適宜選択すればよい。
【0049】
生理活性物質部18を覆うように構成された保護カバー20は、薄い膜状体からなり、折り返し可能な柔軟性を有する筒状に形成されている。例えば、保護カバー20は、バルーン16の一部分又は全体に形成された生理活性物質部18に対して、少なくとも生理活性物質部18の全体を覆うように構成されている。具体的には、保護カバー20は、その先端側で外側に折り返されて内側部分20aと外側部分20bを有している。内側部分20aと外側部分20bは、ともに円筒状であり、折り返し部20cがそれらの先端部を構成している。内側部分20aの基端側は、シャフト12若しくはバルーン16に固定或いは密着されている。例えば、内側部分20aの基端側は、バルーン16上の基端テーパ部34に固定或いは密着されている。内側部分20aとシャフト12若しくはバルーン16との固定或いは密着は、例えば、接着や熱融着によることができ、或いは、物理的な係合であってもよい。保護カバー20の外側部分20bは、バルーン16上で内側部分20aに折り重なり、シャフト12側まで延在している。初期状態において、保護カバー20は、その内側部分20aと外側部分20bの両方がバルーン16上の生理活性物質部18を完全に覆っている。
【0050】
バルーンカテーテルとしての治療デバイス10は、病変部への優れた到達性を得るために、先端部が柔軟であることが望ましい。したがって、保護カバー20は、バルーンカテーテルとしての治療デバイス10の先端部の柔軟性を十分に確保できるように、十分に柔軟に形成されることが好ましい。このため、保護カバー20は、生理活性物質部18を覆って保護するのに必要な強度を確保できる範囲で、可能な限り柔軟に構成されるように、厚さ及び材質(材料)が設定されるとよい。
【0051】
このような観点から、保護カバー20は、バルーン16よりも柔軟性を有することが好ましく、例えば、上述した先端チップ14の構成材料として例示した1つ以上のものから構成することができる。保護カバー20の硬さは、デュロメータ値で、好ましくは、ショアA硬度が10〜100であり、より好ましくは、ショアA硬度が10〜50である。保護カバー20の厚さ(膜厚)は、好ましくは、5〜100μmであり、より好ましくは、5〜20μmである。
【0052】
図1に示すように、保護カバー20の外側部分20bの基端には、牽引機構22(図2も参照)が結合されている。外側部分20bと牽引機構22との結合(固定)は、例えば、接着や熱融着によることができ、或いは、物理的な係合であってもよい。本実施形態において、牽引機構22は、先端部において保護カバー20の基端と結合された牽引チューブ42と、当該牽引チューブ42の基端に設けられたハブ44とを有する。なお、初期状態において、牽引チューブ42の先端は、バルーン16の基端テーパ部34よりも基端側に位置していることが好ましい。
【0053】
牽引チューブ42は、シャフト12の軸方向の一部を囲繞する可撓性を有する長尺で細径の管状部材(円管状部材)であり、シャフト12に対して軸方向にスライド可能に配置されている。牽引チューブ42の先端部と、保護カバー20の外側部分20bの基端とは、周方向の全体にわたって結合している。牽引チューブ42の構成材料は、特に限定されないが、例えば、上述した内管24及び外管26の構成材料として例示したものから選択した少なくとも一種以上の材料を採用し得る。
【0054】
牽引チューブ42の基端に設けられたハブ44は、シャフト12が挿通された中空状(中空円筒状)であり、操作者が手指で把持して基端方向に引く操作をしやすいように、適度の長さと、牽引チューブ42の外径よりも大きい適度の外径とを有する。
【0055】
後述する牽引操作によって生理活性物質部18を完全に露出させることができるように、治療デバイス10の初期状態(使用前)におけるハブ15とハブ44との離間距離は、バルーン16の長さの少なくとも2倍に設定されるのがよい。すなわち、牽引機構22(牽引チューブ42及びハブ44)は、初期状態の位置から、バルーン16の長さの2倍以上、基端方向にスライド可能であるのがよい。
【0056】
図1に示すように、治療デバイス10には、さらに、保護カバー20の折り返し部20cを覆う捲れ防止カバー48が保護カバー20の先端側に設けられている。図示例の捲れ防止カバー48は、バルーン16の先端側非拡張部36に固定されており、先端に向かって外径が縮小するテーパ部48aを有する円形リング状の部材である。捲れ防止カバー48とバルーン16との間には、基端方向に開放したリング状の隙間50が形成されており、当該隙間50に保護カバー20の折り返し部20cが収納(挿入)されている。捲れ防止カバー48の構成材料は、特に限定されないが、上述した内管24、外管26又は先端チップ14の構成材料として例示した少なくとも一種以上の材料を採用し得る。
【0057】
本実施形態に係る治療デバイス10は、基本的には以上のように構成されるものであり、以下、その作用及び効果について説明する。
【0058】
治療デバイス10を用いて冠動脈内等に発生した狭窄部の治療を行う場合、まず、病変部である狭窄部の形態を、血管内造影法や血管内超音波診断法により特定する。次に、例えばセルジンガー法によって大腿部等から経皮的に血管内にガイドワイヤを先行して導入するとともに、前記ガイドワイヤを先端チップ14の先端開口部14aから内管24のワイヤ用ルーメン23を挿通させ、治療デバイス10を血管内へと挿入する。
【0059】
そして、X線造影下で、ガイドワイヤを目的とする病変部(狭窄部)へ進め、その病変部を通過させて留置するとともに、治療デバイス10をガイドワイヤに沿って血管内(例えば、冠動脈内)に進行させる。本実施形態に治療デバイス10の場合、バルーン16の外表面に塗布された生理活性物質部18が、保護カバー20によって覆われているので、バルーン16を病変部に送達する途中で血管内壁と生理活性物質部18とが接触することがない。よって、生理活性物質部18の剥離を有効に防止することができる。
【0060】
また、本実施形態に係る治療デバイス10の場合、捲れ防止カバー48によって保護カバー20の折り返し部20cが覆われているので、血管内を進行する途中で保護カバー20が捲れることがなく、バルーン16を病変部に到達させるまで確実に生理活性物質部18を保護することができる。よって、生理活性物質部18の剥離を一層効果的に防止することができる。
【0061】
保護カバー20は、十分な柔軟性を有するため、治療デバイス10の先端部の柔軟性を確保でき、曲がりくねった血管内や凹凸形状のある病変部へと治療デバイス10を円滑に進ませることができる。
【0062】
図3Aに示すように、治療デバイス10を血管51内で走行させていくと、やがて治療デバイス10の先端にある先端チップ14が病変部(狭窄部)52を通過(貫通)するとともに、保護カバー20で覆われた状態のバルーン16が病変部52に配置される。この場合、捲れ防止カバー48によって保護カバー20の折り返し部20cが覆われているので、保護カバー20がバルーン16とともに先端方向に進む際に病変部52との接触によって捲れることがない。
【0063】
このようにバルーン16を病変部52に配置したら、牽引機構22を基端方向にスライド操作して保護カバー20を基端方向に捲り上げる「牽引操作」を行う。具体的には、ハブ15を把持して基端方向に引っ張ると、牽引チューブ42を介してこれに結合された保護カバー20の外側部分20bを基端方向に引っ張る。すると、図3Bに示すように、保護カバー20が基端方向に折り返されていく。すなわち、内側部分20aが短くなるともに、その分、外側部分20bが長くなることで、折り返し部20cが基端方向に変位し、保護カバー20の内側で覆われていた生理活性物質部18が露出していく。この場合、牽引チューブ42により保護カバー20を安定して牽引できるので、保護カバー20を確実に基端方向に折り返すことができる。
【0064】
このように牽引機構22を基端方向にスライド操作して、図4Aに示すように、バルーン16から保護カバー20を捲り取り、生理活性物質部18を血管内で完全に露出させる。
【0065】
ところで、上述した本実施形態の構成と異なり、もし、バルーン16に塗布された生理活性物質部18を軸方向に移動可能なシースで覆う構成の場合、バルーン16が病変部52に到達するまでは生理活性物質部18の剥離を防止できるが、その後、生理活性物質部18を露出させるために当該シースを基端方向にずらすと、当該シースによって生理活性物質部18がこすり取られ、剥離する。
【0066】
これに対し、本実施形態に係る治療デバイス10では、生理活性物質部18を露出させるために保護カバー20が折り返されていく際、保護カバー20は生理活性物質部18の面に対して垂直方向に離れるので、保護カバー20と生理活性物質部18との間でこすれが発生することがない。このため、保護カバー20によって生理活性物質部18がこすり取られて剥離することを防止できる。
【0067】
こうして生理活性物質部18を血管51内に露出させたら、図示しない拡張用流体供給手段の作用下にバルーン16を拡張させて病変部52を内側から押し広げ、病変部52が生じた部分を正常な血管径に近づける(図4B参照)。このとき、バルーン16の外表面に塗布された生理活性物質部18が拡張された病変部52に押し付けられ、病変部52へと付着する。上述したように、生理活性物質部18には、再狭窄を抑制する効果を有する生物学的生理活性物質が含まれている。したがって、治療した部位が再狭窄することを抑制することができる。
【0068】
上述した構成の変形例として、治療デバイス10の先端部の構成を簡略化するため、捲れ防止カバー48は省略してもよい。また、この場合、初期状態における保護カバー20(図1参照)の折り返し部20cの径を、それより基端側の部位よりも多少小さくすることで、折り返し部20cそれ自体が捲れ防止機能を持つように構成してもよい。
【0069】
図2に示したチューブ状の牽引機構22に代えて、図5に示す牽引機構60を採用してもよい。この牽引機構60は、保護カバー20の外側部分20bの基端に結合されたリング部材62と、当該リング部材62に固定されシャフト12に沿って配設された牽引ワイヤ64とを有する。リング部材62の中空部には、シャフト12が挿通されている。リング部材62の内径は、シャフト12の外径よりも僅かに大きく、シャフト12に沿ってリング部材62が軸方向に変位(スライド)可能となっている。保護カバー20の外側部分20bの基端と、リング部材62の先端とは、周方向の全体にわたって結合されている。
【0070】
図5に示す構成の場合、シャフト12には、シャフト12の軸方向に沿うワイヤ用ルーメン66を有する膨出部68が設けられ、当該ワイヤ用ルーメン66内に牽引ワイヤ64が挿通されている。牽引ワイヤ64は、その先端が、ワイヤ用ルーメン66よりも先端側でリング部材62に固定(結合)され、ワイヤ用ルーメン66内を基端方向に延在し、シャフト12の基端側でワイヤ用ルーメン66の基端から引き出されている。これにより、牽引ワイヤ64が途中でたるむことなく、シャフト12に沿って適切に配設されている。
【0071】
牽引操作によって生理活性物質部18(図1参照)を完全に露出させることができるように、治療デバイス10の初期状態(使用前)におけるリング部材62と膨出部68の先端(ワイヤ用ルーメン66の先端開口)との離間距離は、バルーン16(図1参照)の長さの少なくとも2倍に設定されるのがよい。すなわち、リング部材62は、初期状態の位置(図5に示す位置)から、バルーン16の長さの2倍以上、基端方向にスライド可能であるのがよい。
【0072】
このような構成の牽引機構60によっても、図2に示した牽引機構22と同様に、保護カバー20の外側部分20bを基端方向に引っ張り、バルーン16の外表面に塗布された生理活性物質部18を血管内で露出させることができる(図3A〜図4A参照)。
【0073】
図5に示す構成において、ハブ15には、牽引ワイヤ64を巻き取る巻取機構70が設けられている。この巻取機構70は、回転可能に設けられた回転操作部(操作用ローラ)72と、回転操作部72に同軸状に設けられた巻取軸74とを有する。回転操作部72は、操作者が手指を当てて操作する部分である。牽引ワイヤ64の基端部(リング部材62に固定された端部とは反対側の端部)は、巻取軸74に固定されている。
【0074】
操作者が回転操作部72を操作して回転させると、牽引ワイヤ64が巻取軸74に巻き取られ、牽引ワイヤ64を介してリング部材62が基端方向に引っ張られて移動する。この場合、リング部材62は、図2に示した牽引チューブ42と比較して、シャフト12との接触面積が少ないので、シャフト12に沿って基端方向に移動する際の抵抗が小さく、牽引操作の際の操作力を低減できる。
【0075】
図5に示す構成の場合、巻取機構70により牽引ワイヤ64を巻き取ることができるため、牽引操作の際の操作力を一層低減できるとともに、手元で回転操作部72を回転させるだけの簡単な操作で牽引ワイヤ64を確実に基端方向に引き寄せることができ、操作性に優れる。
【0076】
図5に示す構成の変形例として、一旦巻き取られた牽引ワイヤ64が巻き戻されることを防止するため、回転操作部72の逆回転を防止する逆回転防止機構をハブ15に設けてもよい。このような逆回転防止機構は、例えば、ラチェット機構や、ワンウェイクラッチ機構等により実現できる。
【0077】
図5に示す構成の他の変形例として、ハブ15の構成を簡略化するため、巻取機構70は省略してもよい。この場合、操作者が把持可能な把持部(ハブ)を牽引ワイヤ64の基端側に設け、牽引ワイヤ64を容易に引っ張ることができるようにすると、巻取機構70を省略しても操作性を損なうことがない。
【0078】
上記において、本発明について好適な実施の形態を挙げて説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改変が可能なことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0079】
10…治療デバイス 12…シャフト
16…バルーン 20…保護カバー
20a…内側部分 20b…外側部分
20c…折り返し部 22、60…牽引機構
42…牽引チューブ 62…リング部材
64…牽引ワイヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフトと、
前記シャフトの先端側に設けられた拡張可能なバルーンと、
前記バルーンの外表面に塗布され、少なくとも1種以上の生物学的生理活性物質を含む生理活性物質部と、
前記生理活性物質部を覆い、膜状体からなり、折り返し可能な柔軟性を有する筒状の保護カバーであって、前記保護カバーはその先端側で折り返されて内側部分と外側部分を有し、前記内側部分の基端側が前記シャフト若しくはバルーンに固定或いは密着され、前記外側部分がシャフト側まで延在する保護カバーと、
前記保護カバーの前記外側部分を基端方向に牽引する牽引機構と、を備える、
ことを特徴とする治療デバイス。
【請求項2】
請求項1記載の治療デバイスにおいて、
前記牽引機構は、前記シャフトに沿って延在し且つ前記シャフトの軸線方向に変位可能な牽引チューブを有し、
前記外側部分の基端が、前記牽引チューブに連結されている、
ことを特徴とする治療デバイス。
【請求項3】
請求項1記載の治療デバイスにおいて、
前記牽引機構は、前記外側部分の基端に連結されたリング部材と、前記リング部材に固定され前記シャフトに沿って配設された牽引ワイヤとを有する、
ことを特徴とする治療デバイス。
【請求項4】
請求項2又は3記載の治療デバイスにおいて、
前記外側部分の基端と、前記牽引機構の先端とは、周方向の全体にわたって結合している、
ことを特徴とする治療デバイス。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の治療デバイスにおいて、
前記保護カバーの折り返し部を覆う捲れ防止カバーをさらに備える、
ことを特徴とする治療デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−22272(P2013−22272A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−160388(P2011−160388)
【出願日】平成23年7月22日(2011.7.22)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】