説明

治療用組成物

【課題】 本発明は、ケトン体および/またはその代謝前駆体から成る組成物を提供する。
【解決手段】 ケトン体および/またはその代謝前駆体から成る組成物は、人間及び動物への投与に適しており、とりわけ、(i)心臓の効率、特にグルコース使用効率の増加、(ii)特に糖尿病及びインスリン耐性状態におけるエネルギー源の供給、(iii)脳細胞の損傷によって引き起こされる疾患の治療、特にアルツハイマー病及び類似の状態で見られるような記憶関連の脳部位における脳の損傷を遅延若しくは予防、という特性を持つ。これらの組成物は例えば運動選手が栄養補助剤として、或いは医学的な状態、特に低心臓効率、インスリン耐性、及び神経の損傷に関連した状態の治療のために摂取されても良い。本発明はさらに治療方法及び本発明の組成物に含むための新規エステル及びポリマーを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、とりわけ、(i)心臓の効率、特にグルコース使用効率の増加、(ii)特に糖尿病及びインスリン耐性状態における、エネルギー源の供給、及び(iii)脳細胞の損傷によって引き起こされる疾患の治療、特に例えばアルツハイマー病及び類似の病気に見られるように、記憶関連脳領域の脳の損傷の遅延若しくは予防、といった特徴を持つ、人間や動物への投与に適した組成物に関する。これらの組成物は、例えば運動選手が栄養補助剤として、あるいは医学的病気、特に低い心臓効率、インスリン耐性、及び記憶力低下に関する病気、の治療のために摂取されても良い。本発明はさらに治療方法と、新規エステル及びポリマーを、発明の組成物に包含して提供する。
【背景技術】
【0002】
血糖値の異常な上昇は、インスリン欠乏症及び非インスリン依存型糖尿病だけでなく、様々な他の病気でも起こる。糖尿病の高血糖症はグルコースの代謝不能と過剰生産の結果である。どちらの型の糖尿病も食事療法で治療される;I型糖尿病はたいてい常に追加のインスリンを必要とし、非インスリン依存型糖尿病、例えば老年開始糖尿病は、インスリンを高血糖症を制御するためにますます用いられているが、食事療法と体重減少で治療することが可能である。
【0003】
肝臓におけるグリコーゲン分解の増加に加えて、交感神経の刺激の増加若しくはグルカゴンレベルの上昇は、脂肪細胞からの遊離脂肪酸の放出も刺激する。急性心筋梗塞の後、若しくは心臓麻痺の間、交感神経の神経活性の増加若しくは交感神経作用剤の投与がグリコーゲン分解を加速し、膵臓のP細胞からのインスリンの放出を減少し、相対的なインスリン耐性を引き起こす。食事療法の重要性、若しくは基質有効性、が糖尿病の治療に既知の事実として用いられているが、インスリン耐性状態における基質選択性の決定的な効果は、まだ広く評価されているわけではなく、臨床実施に応用されてもいない。その代わりに、現代の興味は、インスリンがレセプターに結合した後の複雑なシグナルカスケードに集中している。タンパク質チロシンキナーゼとタンパク質ホスファターゼ、イノシトール、及び他のリン脂質を含む、メッセージの次第に複雑になるカスケードは、非インスリン依存型糖尿病の究極的な理解を約束する一方で、まだ糖尿病若しくはインスリン耐性の両方に、重要な新しい治療法を提供していない。
【0004】
成長に対するインスリンの長期効果を別にして、インスリンの急性代謝効果は、グルコースからCOへの変換における3つの主要酵素段階における作用により説明できると考えられてきた。第1に、インスリンはグルコース輸送体、Glut4の、小胞体から原形質膜への移動を促進し、細胞外から細胞内層へのグルコースの移動を増加する(参考文献1及び2参照)。第2にインスリンはグリコーゲンの蓄積を増加する。その結果、タンパク質ホスファターゼ1によってグリコーゲン合成酵素の脱リン酸化(3)がおこった。第3に、インスリンは、Ca2+感受性(6)ミトコンドリア内タンパク質ホスファターゼによる脱リン酸化を通して、ミトコンドリアのピルビン酸デヒドロゲナーゼ多酵素複合体(4及び5)の活性を刺激する。
【0005】
重要であるがほとんど理解されていないインスリンの効果は、心臓病における使用であり、ここにおいては、グルコース、塩化カリウム、及びGIKと一緒になって、心筋梗塞に関連する心電図の異常を改善し(7及び8)、また心臓停止(post pump stunning)の後の心臓動作を改善する(9)。この治療は最近多くの他の重要な心臓病に対して提唱(advocate)されてきた。(10及び11)。GIK注入の有益な効果は遊離脂肪酸の放出の減少させ、膜安定性を改善する能力に帰因してきた(12)。しかし、他のさらに最近の研究は、より基本的な∵を示唆している。無酸素状態である心臓細胞では、グルコースだけが生存力を維持するのに必要なATPを供給することができるエネルギー源である(13)。
【0006】
グルコースとインスリンを投与することが、O非存在下でATPを生産する源を供給するという、細胞内のグルコースの有効性を増加するであろう。これはある種の有益な効果を説明するかもしれないが、EKG異常の矯正やGIKで治療された心臓における心指数の改善を説明することはできない。なぜなら、電気的な活性や心臓の仕事は活発に呼吸している心臓細胞を必要としており、完全に無酸素状態でそれゆえ電気的活性若しくは機械的な仕事を示す能力のない細胞を必要とはしていないからである。
【0007】
インスリンの作用の酵素的な面を理解することは、細胞の代謝や生理学的機能に対するインスリン欠乏の効果を単独で定義することではない。このより大きなレベルでいかにインスリンが作用するかは、自然がインスリン欠乏を取り扱う方法を見ることによって最も善く理解できる。絶食の間のインスリンの減少を自然が埋め合わせる方法は、遊離脂肪酸のケトン体への肝臓での変換を加速し、血中D−β―ヒドロキシ酪酸塩及びアセト酢酸塩を約6mMにあげることである。これらのレベルでは、グルコースよりもケトン類が、脳さえも含む殆どの器官における基質となる(14)。軽いケトン症が、インスリン減少に対する正常の反応だが、糖尿病ケトアシドーシスではケトン体の大量な過剰生産が命を脅かしうるので、医師はケトン体を恐れている。
【0008】
先行技術文献
【0009】
【表1−1】

【0010】
【表1−2】

【0011】
【表1−3】

【0012】
【表1−4】

【0013】
【表1−5】

【0014】
【表1−6】

【0015】
【表1−7】

【0016】
【表1−8】

【0017】
【表1−9】

【0018】
【表1−10】

【0019】
【表1−11】

【発明の概要】
【0020】
本発明者は以前、ケトン体の生理学的レベルの効果をインスリンの代謝及び生理学的効果と比較し、とくにグルコースのみを灌流しているインスリン欠乏状態で働いているラットの心臓と、心臓に4mMD−β−ヒドロキシ酪酸塩/1mMアセト酢酸塩、飽和投与量のインスリン若しくはその組み合わせのいずれかを加えたものを比較し、解糖とTCAサイクルの両方の中間体の濃度を変化させ、それによってこの非常に特殊化された組織におけるグルコースの流れを制御する場合に、単純な基質の供給がいかにインスリンの効果を模倣することができるかを示した。さらに、最初の、そして以前には認識されていなかったインスリンの効果、若しくはケトンの割合は、△GATP加水分解と、それに伴って様々な細胞層と心臓の生理学的振る舞いの間の無機イオンの勾配を増加するように、ミトコンドリアの酸化還元状態を変化させることであることを決定した。
【0021】
本発明は、そのようなケトン体が、正常なインスリンシグナル伝達経路画商外を起こし、心臓の圧力の機能の効率が代謝上の理由で減少している状態である、インスリン耐性の治療への治療学的アプローチを供給することもまた、可能であることを教えている。発明者は、以下に記載のことより明らかになるであろうが、決して、そうしないと必要になる炭水化物摂取制限を除けるという最小限の理由から、ケトン体の使用はインスリン自体の使用よりもはるかに利点があることを明らかにした。
【0022】
本発明はさらに神経変性病、とくにニューロンがタンパク質プラークのような病原性薬品の神経毒効果にさらされる様な病気の問題も扱っており、さらにこれら及び前述の疾患の治療に使用する組成物を提供する。
【0023】
アルツハイマー病は進行性の致死的な神経病の遺伝的に異成分からなるグループで、病理学的には脳にアミロイドプラークが蓄積し、臨床上は記銘力(recentmemory)が欠損し、痴呆及び死に至る特徴を有する。遺伝的原因に関係しているアルツハイマー病のケースに加えて、その病気の明らかな家族歴がない、散発性のケースもまたある。例えば、アルツハイマー病に特徴的な病理学的変化が、頭の外傷(73)若しくはサイトカインインターロイキン−1の生成を刺激する炎症性の病気(97)の後に起こる。
【0024】
この病気の初期症状は、記銘力の早い損失の原因である海馬の細胞の損傷及び死に関連する、記銘力の損失である。磁気共鳴イメージング(MRI)を用いた海馬の体積の測定は、海馬の萎縮が記憶損失の臨床学的開始に先立って起こり、1年に約8%の体積損失が2年間進行して初めて、症状が現れる(70)。
【0025】
アルツハイマー病の診断は、側頭葉の海馬部分の障害と関連して、この記銘力の喪失により臨床的に下される。神経病理学的には、診断は細胞中に神経原繊維錯綜、細胞外空間にアミロイド若しくは老年性プラーク、及びニューロン数の減少の発見に依存する(61)。神経原繊維錯綜は一組の過剰リン酸化されたタウタンパク質から成っており、細胞中でのその通常の役割は、リン酸化されていない場合、細胞内の微小官の形成においてチューブリンに結合し安定化する事である。タウの過剰リン酸化は、他のキナーゼの中でグリコーゲン合成酵素キナーゼ3βによって触媒され、タンパク質ホスファターゼ2A−1、2B、若しくは1によって脱リン酸化された(108)。
【0026】
しかし、アルツハイマー病の早期に起こる病理学的な脳の変化及び記憶障害と、“正常な”老齢世代に見られる脳の解剖学的構造と記憶機能の病理学的変化の間に明確にはっきりと線を引くことは必ずしもできない。むしろその差は程度に依存した量的なものである(94)。正常の老化における記憶機能のそのような変化は、グルコース代謝が不可能なことを意味する、グルコース耐性の減少とも関連している。そのような状況では、アルツハイマー病の病態生理学的な変化の過程を直すことを目的とした治療は、正常の老化に関する代謝効果の矯正にも応用できることが期待されるであろう。
【0027】
家族性若しくは散発性の型のアルツハイマー病は、老齢世代に見られる主な痴呆であるが、他のタイプの痴呆もまた見られる。これらには、ピック病に伴う前頭葉−側頭の変性、血管性痴呆(vascular dimentia)、Lewy体型老人性痴呆、前頭萎縮を伴うパーキンソン病の痴呆、進行性核上性麻痺、皮質基底変性及びダウン症関連アルツハイマー病、等を含むが、これらに限られるわけではない。プラーク形成は、CJD、スクレイピー、及びBSEのような海綿状脳症にもまた見られる。本発明はこのような、特に神経毒タンパク質プラーク、すなわちアミロイドプラークを含むような神経変性病の治療を目的としている。
【0028】
前述の明らかに無関係な状態の多くは、アルツハイマー病に見られる過剰リン酸化されたタウタンパク質を含み(69)、タウをリン酸化したのと同じキナーゼがPDH複合体もリン酸化し、脳の他の領域を含む以外は、アルツハイマー病に見られたのと同様な、ミトコンドリアのエネルギー生成とアセチルコリン合成の欠乏を引き起こす可能性を開いた。本発明者は、この点から、アルツハイマー病に適用できる治療はこれらの病気にも同様に適用できるであろうと結論づけた。さらに本発明者は、そのような治療は、例えば重症筋無力症及び筋ジストロフィーのような末梢神経消耗病にも適用できると結論した。
【0029】
現在、アルツハイマー病の効果的な治療法は存在しない。研究上の努力はその遺伝的な原因を決定することに集中しているが、今のところ遺伝子治療は成功していない。遺伝的研究はアルツハイマー病を蒙古症と関連づけ、その早い発病形態を、8アイソフォームで存在する経膜的糖タンパク質であるアミロイド前駆体タンパク質(APP)(73)の蓄積を引き起こす第21番染色体の座に関連づけた。このタンパク質の非常に多くのフラグメントがタンパク質分解により得られ、アルツハイマー病に特徴的なプラークはβアミロイドタンパク質(Aβ1−42)のオリゴマーの集積を含んでいることが示された。アルツハイマー病の早期発病常染色体性優性型は、また、第14番染色体のプレセニリン1座と関連している。
【0030】
アルツハイマー病の後期発現型は、第19番染色体のアポリポタンパク質E(69,98)の4型アリルと関連しているが、他の研究者はこの明らかな相関はそれよりも、α1アンチキモトリプシン座の代わりに関連しているかもしれないと示唆している(100)。月齢18ヶ月にわたって、増量しているアミロイド前駆体タンパク質を発現しているすべてのトランスジェニックマウスは、アルツハイマー病の病理学的特徴の多くを伴う海馬の変性を示した(90)。
【0031】
アルツハイマー病における欠陥遺伝子と遺伝子生成物に関する知識の現状が最近まとめられた(参考文献96の表1)。
【0032】
【表2】

【0033】
上の表から明らかなように、アルツハイマー病の遺伝子型に関連した共通の表現型はアミロイドペプチドAβ1−42の蓄積である(96)。このAβ1−42がPDHを不活性化し、その結果通常必須のグルコース消費組織においてミトコンドリアエネルギーとクエン酸生産を害し(95)、同時に重要な神経伝達物質であるアセチルコリンの合成を害する(67,68)。Aβ1−42の神経細胞への適用は抗−アポトーシスタンパク質であるbcl−1の負の調節(downregulation)に関連しており、細胞死と関連することが知られているタンパク質、baxのレベルが上昇する(92)。Aβ1−42を含むアミロイドプラーク、過剰リン酸化されたタウタンパク質を含む神経原繊維錯綜、及び脳のアセチルコリンレベルの減少に加えて、細胞死がアルツハイマー病の4つ目の病理学的特徴である。これらの病理学的な特徴は少なくとも部分的には過剰のAβ1−42とそのPDH阻害に関連づけることが可能である。
【0034】
症状を適切な臨床的改善は、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤で治療することにより可能である(57)が、おそらく中隔の核に生じたコリン作用性の遠心性神経を増加し、大脳辺縁系の前方部分にある海馬へブローカ対角バンドを通って働きかけるのであろう。しかし、アルツハイマー病の分子生物学の進歩により4つの主要分野に集中する新しい治療方法の探索がなされた(96):(i)βAPP(βアミロイド前駆体タンパク質)からAβ(βアミロイドフラグメント)を切り取り、酵素(β及びγセクレターゼ)の活性を部分的に減少するプロテアーゼ阻害剤;(ii)細胞外Aβに結合してその細胞毒効果を防ぐ化合物;(iii)小膠細胞(脳マクロファージ)活性化、サイトカイン放出、及び冒された脳領域に起こる急性相反応を阻害する脳特異的な抗炎症性薬;(iv)Aβが引き起こす神経毒性のメカニズムを妨げる抗酸化剤、神経カルシウムチャンネル阻害剤、若しくは抗アポトーシス剤のような化合物である。
【0035】
本発明者が提案する治療法は、ケトン体若しくはその前駆体を投与することで、結果としてAβ1−42によるPDHの阻害を生じる、代謝エネルギー生成におけるブロックを迂回する点で、上記4方法とは異なる。神経細胞は、脳の正常なエネルギー基質であるグルコースが不足している状態でもそのような化合物を代謝することができる(63)。ケトンはATP加水分解の△Gを増加することができるので、細胞内Na及びCa2+両方の勾配が増加し、細胞内Ca2+の増加に伴う細胞死を防ぐ。さらに、クレブス回路よるクエン酸生産の増加は、細胞内に移ったときアルツハイマー病の脳に特徴的なアセチルコリンの不足を治療するのに必要な細胞質アセチルCoAの原料を供給しうる。
これらの代謝における欠陥を直すのに必要な血中ケトンの上昇は、非経口、腸溶性手段、若しくは食事療法的手段により達成されうるが潜在的に毒性のある薬理学的剤の投与を必要としない。
【0036】
てんかんの治療をしている子供たちのケトン食療法の長い経験がある。しかしそのような食事療法は循環系に有害な効果があるので成人での使用には適さない。本発明ではケトン体の適用は、それ自体子供に対して毒性が見つかっておらず、使用していない成人に毒性を引き起こす副作用も持たないような食事療法の、治療における効果すべてを提供すべきである。さらに発明者は、上記の代謝における欠陥を訂正することにより、神経細胞のエネルギー状態の上昇とアセチルコリン合成の増加を生ずる、栄養性刺激の増加によって、変性細胞におけるサイトカイン反応、及びアポトーシス性ペプチドの増加が減少するであろうと決定した。
【0037】
本発明の優先日後、アセト酢酸、β−ヒドロキシ酪酸塩、これらの一価、二価、若しくは三価アルコールエステル、あるいはβ−ヒドロキシ酪酸塩のオリゴマーの、大脳浮腫の抑制、大脳機能の保護、大脳エネルギー代謝の停止、及び大脳梗塞の範囲の縮小に対する使用に関するEP0780123A1が出願された。しかし、1979年以来ヒドロキシ酪酸ナトリウムが最大40%大脳循環と局所的な血管運動反射を増加することが知られていたことに注意すべきである(Biull.Eksp.Biol.Med.Vol.88 11,pp555−557)。本発明者がここで提供する治療法は、循環におけるそのような効果を越えて、例えばペプチド及びタンパク質のような神経毒剤、及び遺伝的異常によって引き起こされる神経変性のために、機能できない細胞の治療を提供する。治療はケトン体の細胞自体への作用を含むが、血流の細胞への作用ではない。
【0038】
この発明を臨床に移すにあたり、発明者はさらに、血中全ケトン体濃度を上昇レベルにまで引き上げるのに十分な量で直接投与あるいは代謝前駆体を投与すると、ケトン体を、単に細胞生存率を維持するだけでなく、実際に細胞の機能と成長を通常以上に改善し、例えば血流や栄養とは無関係にそのレベルを制御するという結果を得た。この点に関して、本発明はさらに、神経刺激因子、例えば神経成長因子として及び、例えば代謝速度の増加や軸索や樹状突起などの機能的な特徴の程度を増加するような高められた神経機能を刺激することができる因子、としてケトン体を使用することを提供する。本発明のこの点は、単なる変性の阻止と同様に神経機能の改善のメカニズムを与える。
【0039】
Hoshi及び共同研究者の最近の研究(77,78)では、その蓄積がアルツハイマー病の証明となっているアミロイドタンパク質の一部であるAβ1−42が、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ多酵素複合体をリン酸化、及び不活性化している、ミトコンドリアヒスチジンプロテインキナーゼとして働いていることが強く示唆されている。PDH複合体は、細胞質の解糖で作られたピルビン酸からのアセチルCoAとNADHの生成を担うミトコンドリアの酵素である。形成されたミトコンドリアアセチルCoAはオキザロ酢酸と縮合してクレブスTCA回路を開始し、ピルビン酸をCOに完全に消費すると同時に、ミトコンドリアのATP合成に必要なエネルギーが作られる電子伝達系の基質となる還元力をミトコンドリアに与える。PDHはこのように、細胞の2つの主要なエネルギー生成経路、解糖とクレブス回路、の交差点に位置し、明らかに生きている細胞の重要な機能に貢献している。
【0040】
PDHの阻害には2つの重要な影響がある。一つは、正常の代謝条件ではエネルギー生成においてグルコースに完全に依存している神経組織において、PDH阻害によりエネルギー生成の効率低下、ATP加水分解のエネルギー低下、アセチルCoA及びTCA回路の初めの1/3からの代謝産物の減少、及びミトコンドリアNADHの減少、が起きる(95)。ATP加水分解のエネルギー減少は細胞内Na及びCa2+の増加と細胞のKの損失、及び結果的に細胞死を引き起こす(86)。海馬の細胞は記銘力の固定化に重要であるが、特にたくさんの形態の傷に感受性であり、これらの細胞死が、臨床的にも病理学的にもアルツハイマー病の証明である。
PDHの二つ目の主な影響は、ミトコンドリアクエン酸の欠乏である(95)。
【0041】
クエン酸、あるいはその代謝産物の一つは、ミトコンドリアから細胞質に送られ、ATPクエン酸リアーゼ(EC4.1.3.8)により、サイトゾルアセチルCoAに次の反応で変換される:
クエン酸3−+ATP4−+CoASH>
アセチルCoA+オキザロ酢酸2−+ADP3−+HPO2−
アセチルCoAは次にコリンと結合し、コリンアセチルトランスフェラーゼ(EC2.3.1.6)の作用により、次の反応でアセチルコリンを形成する:
コリン+アセチルCoA―>CoASH+アセチルコリン
1μmAβ1−42に24時間さらされた中隔細胞の神経培養は、コリンアセチルトランスフェラーゼの活性の減少なしに、アセチルコリンの生成が5倍以上減少した(78)。この生成の減少についての推測される原因は、TPKI/GSK−3βタンパク質キナーゼの活性化とそれに続くPDHのリン酸化によって引き起こされるPDH複合体の阻害による、アセチルCoAの減少によるものである(77)。
【0042】
上で説明したように、インスリンなしで10mMグルコースのみで灌流している、単離された動いている心臓は、能率が悪くミトコンドリアエネルギー生成が損傷している。細胞エネルギー生成におけるこの欠陥は、4mMD−βヒドロキシ酪酸塩と1mMアセチル酢酸塩からなる生理学的割合のケトン体を供給することにより完全に回復できる(95)。脳は代謝エネルギー源としてグルコースのみを使用することができ、インスリンの作用には反応しないと考えられていた。しかし、1967年に行われた注目すべき臨床研究により、George Cahill及び共同研究者(47)は長期の絶食に耐えている肥満患者では、脳が必要とする代謝エネルギーの最大60%までをケトン体で置き換えられることを示した。さらに注目すべきことに、Cahillは、これらの患者に対して血糖を4から2mM以下に落とすのに十分な投与量のインスリンを投与しても、血中D−βヒドロキシ酪酸塩が5.5mM、アセト酢酸塩が2mMのこれらの患者において精神機能の損傷とは関係しないことを示した(参考文献63の図3参照)。明らかに、ケトン体が血中に5mM以上の濃度で存在するときには、それらが脳の通常の糖の必要性に置き換わり、血中グルコースレベルが1.5mMで予想される低血糖症状を阻止することができる。
【0043】
脳におけるケトン体の利用は輸送によって制限され、血中レベル1mM以下の際に脳幹神経節において利用の減少が起こる(76)。しかし、長引く絶食によって通常の人間で達成される7.5mMのレベルでは、脳へのケトン体の取り込み速度は大脳のエネルギー必要量の大部分と置き換わり、通常痙攣や昏睡を引き起こす血中糖レベルにおいてさえ、低血糖症状を防ぐのに十分である(63)。
【0044】
グルコースからの通常のエネルギー生成を妨げるPDHのブロックがあるようなアルツハイマー病においては、上昇した、例えば通常の断食におけるケトンレベルを提供することができる場合には、これらの患者に存在するPDH阻害を迂回することができ、それによってエネルギーの枯渇やコリン作用性刺激の欠如による細胞死を妨げ、その結果記憶損失や痴呆の進行を遅らせることができる、というのが発明者の仮説である。
さらに、ケトン体、特にD−β−ヒドロキシ酪酸塩若しくはこのアセト酢酸塩との生理的割合、の神経成長/刺激効果を利用すると、まだ生存可能な細胞が変性された状態を越えて改善されることも可能であり、その結果患者にいくらかの機能の回復が見られるであろう。
【0045】
給餌された動物と人間とにおいて、アセト酢酸塩の肝臓における含有量、本質的には血液における含有量であるが、は大変低く0.09mMであり及びD−βヒドロキシ酪酸塩は0.123mMであるが、48時間の絶食後は0.65mMアセト酢酸塩及び1.8mMD−βヒドロキシ酪酸塩に増加する(84)。飢餓においては、インスリンの減少が、脂肪組織における脂肪酸のトリグリセリドへの再エステル化を減少させ、血流中への遊離脂肪酸の放出を引き起こすので、ケトン体が上昇する。放出された遊離脂肪酸は筋肉、心臓、腎臓、及び肝臓でβ酸化の過程において、エネルギー源として取り込み使用することができる。肝臓は、しかし、絶食中グルコースの代わりに脳を含む肝臓以外の器官で使用するために、遊離脂肪酸を代謝燃料、ケトンに変換する能力がある。肝臓におけるケトン体の合成は、以下の一連の反応に従って、肝臓で脂肪酸のβ酸化の間に作られたミトコンドリアアセチルCoAから起こる。
【0046】
【化1】

【0047】
いったん肝臓中で作られると、以下の反応に従って、モノカルボン酸塩―H’共輸送体(co−transporter)により、ケトン体は肝臓から血流中へ輸送される(20):
【0048】
【化2】

【0049】
ケトン体は同じ担体により肝外組織に入るが、そこにおいてはほかのモノカルボン酸塩が競争阻害剤として作用しうる。D−乳酸塩若しくはL−β−ヒドロキシ酪酸塩のように非生理学的異性体もまた、ケトン体輸送の競争阻害剤として作用することが可能である。血液脳関門を通してのケトン体の輸送が脳におけるケトン体利用の制限因子なので(76)、ケトン療法の間中、これらの非生理学的異性体の血中濃度が低く保つようにあらゆる努力を払うべきである。血中ケトン体濃度が飢餓に見られるのと同レベルまで上昇するとき、心臓、筋肉、腎臓及び脳はケトン体を好ましいエネルギー基質として利用する:
【0050】
【化3】

【0051】
本発明者は、このように、代謝エネルギーの供給をグルコース代謝に依存している組織において、PDH多酵素複合体の阻害の間に起こるアセチルCoAの不足を、ケトン体からのミトコンドリアアセチルCoAによってこのように置き換えることができることを決定した。供給されるミトコンドリアクエン酸はトリカルボン酸若しくはジカルボン酸輸送体によって細胞質に輸送されることも可能であり、そこにおいてアセチルコリンの合成に必要な細胞質アセチルCoAに変換されることが可能である。これらの概念をさらに説明するのを助けるために、スキーム1にクレブス回路の反応を示した。
【0052】
アセトアセチルCoAの形成に必要な3オキソ酸CoAトランスフェラーゼが欠けているので肝臓はケトン体を利用することができない。ケトン体は、遊離脂肪酸と異なり肝臓でアセチルCoAを作ることができない。アセチルCoAはマロニルCoAを介する脂肪酸合成の、サイトゾルHMGCoAを介するコレステロール合成の重要な前駆体なので、体の半分以上では通常この2つの潜在的病原性物質の合成を説明するのだが、肝臓においてはケトン体は脂肪酸増加若しくはコレステロール合成のどちらにも帰結することができない。肝臓はβ−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼ(EC1.1.1.30)によって確立された近似平衡のため、それに提示されるアセト酢酸塩/D−β−ヒドロキシ酪酸塩の割合に敏感で、ミトコンドリアの遊離[NAD]/[NADH]を変化させうる(55)。
【0053】
【化4】

【0054】
血中ケトンを増加させる最も簡単な方法は飢餓である。長引く絶食の間に、血中ケトンは7.5mMのレベルに到達する(62,63)。しかし、60日の絶食後は必ず死ぬので、この選択肢は長期にわたって選ぶことはできない。
【0055】
主に脂質を含むケトン食療法は、子供のてんかん、特に筋間代及び無動発作(109)の治療のために1921年から用いられており、通常の薬理学的方法では不応性の場合に効果的であることが証明された(71)。脂肪組織における再エステル化を防ぐためには炭水化物とインスリンが低い場合には、遊離脂肪酸若しくはトリグリセリドの、経口若しくは非経口投与のいずれかにより、血中ケトンを増加する事が可能である。70%コーン油、20%カゼイン加水分解物、5%セルロース、5%McCollums塩混合物を含む餌を与えられたラットは約2mMの血中ケトンを形成した。コーン油をラードに置き換えると血中ケトンがほぼ5mMまで上昇した(Veech、未発表)。
【0056】
Marriott Corp.Health Care Services,Pediatic Diet Manual,Revised August 1987により奨励されている、4−6歳のてんかんの子供に適した、伝統的な1日あたり1500カロリーのケトン食療法の例は、炭水化物とタンパク質を合わせたもの1g毎に対し、3:1ないし4:1gの脂肪を含んでいた。3回の食事のそれぞれにおいて患者は48から50gの脂肪、たった6gのタンパク質及び10ないし6.5gの炭水化物を食べなければならない。実際にはこれはそれぞれの食事で子供は1日あたり32gのマーガリン(約1/4本)を食べ、主に中間の鎖長のトリグリセリドを含む、濃いクリームを92g(約100ml)を飲まなければいけないということである。
【0057】
炭水化物とタンパク質の組合せに対して3:1の割合で脂肪を摂取するための食事の例が下の表1に示されている。
【0058】
【表3】

【0059】
一般にこのような食事で達成されるケトン体のレベルは、約2mMD−ヒドロキシ酪酸塩及び1mMアセト酢酸塩であるが、遊離脂肪酸のレベルは約1mMである。中間鎖長のトリグリセリドを含む、他の様々な組成が検討された。一般にそのまずさのためにこのような制限食が守られることは稀である(56)。糖尿病のある患者とない患者(74,112)における運動耐性を改善するための(83)減量食としてと同様に、高脂質、低炭水化物食は、癌患者においてもまた腫瘍へのグルコース供給を減らすための治療剤として(88)、検討されてきた。
【0060】
血中ケトンを神経学的に効果的なレベルにまで上げるのを脂質に頼る食事療法の限界は多くある。まず、脂質を基礎とする食事療法に対するケトン体のレベルは3mMより低くなる傾向があり、通常の肥満の人間が長期にわたって絶食する場合に達成される7.5mMよりかなり低い。2つ目に、炭水化物の認められていない摂食はインスリン分泌を増加させ、遊離脂肪酸からケトンへの肝臓における変換がすぐに減少し、その結果血中ケトンが減少し、脂肪組織において脂質がトリグリセリドへエステル化されることにより迂回される。数多くの不確かな報告が‘食事療法を誕生ケーキで中断した’子供の再発に関する。3つ目に、伝統的に精製糖、パン、パスタ、米、及びジャガイモの高い摂取が行われる社会では、特に、味のまずさとケトン体レベルを高く維持するためには炭水化物をさける必要があるために、外部の患者環境で成人がそのような高脂質食事療法を使用するのを難しくしている。現実には、すべての食べ物が長期間家庭で厳しい管理下で用意される予供を除いて、伝統的高ケトン食事療法を患者に強制することはできない。4つ目に、成人集団がそのように大量の脂質を摂食すると、血管の病気や散発的な肝臓や膵臓の病気の増加といった病理学的な余病を伴う、重大な高トリグリセリド血症を引き起こし、したがって医学的見地から処方できない。高脂質低炭水化物食は高カロリー摂取にも関わらず、炭水化物摂取を低くするという条件で、1970年代に減量については一般的であった。しかし、血中脂質の増加とアテローム性動脈硬化症の関係が次第に明らかになるにつれ、この食事療法の割合は急速に減少した。
【0061】
カロリー量の47%がグルコース若しくは1,3−ブタンジオールラセミ体である液状食を追加すると、血中ケトン濃度は10倍の0.98mMD−βヒドロキシ酪酸塩及び0.33mMアセト酢酸塩に上昇する(107)。これらの値は48時間の絶食で通常得られる値よりわずかに低く、絶食している人で得られる7.5mMのレベルよりはるかに低い。1,3ブタンジオールラセミ体は肝臓で、アセト酢酸と、自然に存在しないL−β及び自然に存在するD−βヒドロキシ酪酸(それぞれ(S)3−ヒドロキシブタノン酸塩及び(R)3−ヒドロキシブタノン酸塩)の両方に変換される。1,3ブタンジオールラセミ体は動物の餌における安価なカロリー源として徹底的に研究され、試験的に人間の食事療法でさえ使用されてきたが(81,101)、自然界に存在しないL−異性体の生成が、自然界に存在しないD−乳酸塩の人間における使用で見られたように(64)、長期使用においては重大な毒性を示す可能性がある。自然界に存在しないL異性体を投与する場合の不利な点の一つは、輸送において自然に存在するD−βヒドロキシ酪酸塩と競争する点である。このように(R)1,3ブタンジオールをケトン体の前駆体として供給することは、自然界に存在しない異性体の不必要な投与若しくは生成を避ける、一つの可能性である。
【0062】
1,3ブタンジオールラセミ体のモノエステル及びジエステルはカロリー源として提案され、ブタで試験されてきた(67)。カロリーの30%をそのエステルとして含む一塊の餌を経口投与すると、血中ケトンが5mMに短期間上昇した。しかし、上に述べた理由から、異常(S)3−ヒドロキシブタノン酸塩の生成を伴う1,3ブタンジオールラセミ体の使用は薦められない。
【0063】
そのような組成における1,3ブタンジオールラセミ体の使用は推奨できないが、(R)1,3ブタンジオールのエステルは単独で若しくはアセト酢酸エステルとして使用することができる。(R)1,3ブタンジオールは例えばLiAlHを用いてD−β−ヒドロキシ酪酸塩モノマーを還元することにより容易に合成することが可能である。(R)1,3ブタンジオールは肝臓の酸化還元状態を著しくゆがめることなしに、肝臓で酸化されてD−β−ヒドロキシ酪酸塩を形成しやすい。ラットにおける研究により、1,3ブタンジオールラセミ体を食べさせると、肝臓のサイトゾル[NAD−]/[NADH]が1500から約1000に減少することが明らかになった(87)。比較して、エタノールの投与は肝臓の[NAD−]/[NADH]を約200に減少する(106)。
【0064】
アセト酢酸塩は、新しく製造されると、最高の効果を与えるような生理学的に通常の濃度で、点滴溶液中で使用することが可能である(95)。現在、貯蔵期間が長く加熱滅菌された液体であることが必要とされる製造面からの要求のため、アセト酢酸塩はしばしばエステルの形で与えられる。これは貯蔵期間を長くし、滅菌中の熱に対する安定性を増加するためになされてきた。血流中では、エステラーゼの活性は約0.1mmmol/min/ml、肝臓中では約15mmmol/min/gと見積もられてきた(68)。1,3ブタンジオールとアセト酢酸塩を組み合わせたエステルに加えて、非経口(59)及び腸溶栄養(82)ではアセト酢酸のグリセロールエステルもまた、徹底的に研究されてきた。そのような製剤は、消化管細胞によるアセト酢酸の高い吸収によってを消化管の萎縮を減少し、やけどの治療に有効であると報告されている(85)。
【0065】
しかしアセト酢酸塩を形成する1,3ブタンジオールも、グルコースの前駆体であるグリセロールも、通常の酸化還元対、D−β−ヒドロキシ酪酸塩/アセト酢酸塩の一部ではない。本発明では、最適条件下で生理学的割合のケトンが与えられるべきである。もしそうでない場合には、丸ごとの動物で、肝臓が自らのミトコンドリア遊離[NAD]/[NADH]に従ってケトンの割合を調節するであろう。もし異常な割合のケトンが与えられるならば病理学的な結果は明瞭に見込まれる。生理学的割合のケトン体によって心臓効率が上昇した(95)、グルコース、アセト酢酸塩、及びD−β−ヒドロキシ酪酸塩の混合物を灌流されたラットの心臓と比較して、動いている心臓では、アセト酢酸を唯一の基質として灌流するとすぐに心臓発作を引き起こす(99)。
【0066】
大量の脂質の注入も、生理学的に矛盾する異性体L−βヒドロキシ酪酸を生成する物質の使用も必要としない最良の外来性ケトン体源は、ケトン体そのものである。しかしながら本発明は治療における投与ために代替品も提供する。
【0067】
最初の代替品はD−βヒドロキシ酪酸塩のポリエステルである。D−βヒドロキシ酪酸塩の天然のポリエステルは、Alcaligenes entrophus由来の530,000MWのポリマー(Sigma Chemical Co.St Louis)として若しくは砂糖大根の250,000MWのポリマー(Fluka,Switzerland)として商業製品として売られている。
【0068】
バクテリアはそのポリマーを貯蔵栄養源として生成する。バクテリアによるこれらのポリマーの発酵は、止血栓カバー及び他の使用をのための潜在的生物分解性プラスチックとして、UKのICI及びベルギーのSolvay et Cieにより1970年代に開発された。ポリD−β−ヒドロキシ酪酸塩の合成の確実な系がいまやクローン化され、例示されたバクテリアに与えられる基質によって、このポリマーの組成物の変種が生成されている。しかし、これらのポリマーは、石油ベースのプラスチックと競争することができなかった。それにも関わらず、ポリアルカノエイトの合成を担う遺伝子はクローン化され、おおくの微生物で発現され(93,102,113)、この物質を様々な生物で非常に様々な条件下で生産することができるようになった。
【0069】
ポリD−β−ヒドロキシ酪酸塩はいろいろな生物源由来の多くの形態で、殆ど無味且つ無臭の不溶性白色粉末として得られ、経口若しくは他の投与手段のために組成物中に組み込むのに適している。この物質のエステル結合を切ることができるエステラーゼは、血漿と殆どの細胞に広く存在する。これらのポリマーはまた簡単にin vitroでアルカリ加水分解により切れ、通常のモノカルボン酸輸送体によって消化管から門脈へ輸送されるMW104のモノマーを最終的に生成する、一連のポリマーを作る。あるいは酸加水分解が、Flukaの宣伝用資料において参照された発行された方法を用いて行われることも可能である。
【0070】
D−β−ヒドロキシ酪酸ポリマーの好ましい形態は、人間若しくは動物によって容易に消化可能でありおよび/または代謝されるように設計された、ケトン体のオリゴマーである。これらは好ましくは2ないし100の繰返しの長さであり、典型的には2ないし20であり、もっとも便利なのは3ないし10の繰返し長さである。ある範囲の摂取特性を得ることができるという利点を伴って、そのようなオリゴマーの混合物が用いられる可能性がある、ということが認識されるであろう。
【0071】
いったんモノマーが血流中にはいると、肝臓はケトン体を代謝することができず、D−β−ヒドロキシ酪酸塩/アセト酢酸塩の割合を変えることだけができるので、ケトン体はそれらを利用することができる肝外組織に輸送される。達成されるケトンの血中レベルは、現在のケトン食療法の場合にあることだが、炭水化物の摂食を守らないことにより引き起こされる変化の影響は受けない。むしろ、治療される状態によって、持続的な血中レベルを生成するのに十分な量、典型的には0.3ないし20mM、より好ましくは2ないし7.5mM、で24時間にわたって、通常の食事療法へ単に加えらるであろう。抵抗力のある小児期てんかんの場合、2mMの血中レベルで十分であると現在は考えられている。アルツハイマー病の場合、過剰量のAβ1−42アミロイドペプチドのためPDH容量が減少しているアルツハイマー病患者の脳組織に、代替エネルギー及びアセチルCoA補給を供給する努力の中で、絶食している人の研究で得られた7.5mMのレベルを維持する試みを行うことができた(77,78)。
【0072】
D−β−ヒドロキシ酪酸塩及びそのアセト酢酸塩との混合物が神経刺激物質、すなわち神経成長刺激剤および/または軸索及び樹状突起成長の刺激剤として作用することが、本発明者により決定され、これによりケトン体レベルを上げ、神経変性の治療のために栄養学的に要求されるよりも低い程度にするという選択肢を開いた。
【0073】
本発明の組成物は好ましくは滅菌及び発熱源フリーであり、特にエンドトキシンフリーである。第2に、それらは患者が栄養補助食品を摂取する際の適応性を改善するために、通常の食事に添加剤として加える際に味がよいことが可能なように処方されることが好ましい。オリゴマーとポリマーは一般に無味無臭である。D−β−ヒドロキシ酪酸塩及びそのアセト酢酸塩との混合物がマスキング剤で覆われても良いし、或いは腸溶性コーティングにより腸を標的にするか若しくはそうでなければ薬理学の技術でよく理解されているようにそれらをカプセルに入れても良い。
【0074】
ケトン体は約6カロリー/gを含んでいるので、肥満を防ぐためには他の栄養量を代償的に減少させることが望ましい。
【0075】
ケトン体或いはポリ若しくはオリゴ−D−β−ヒドロキシ酪酸塩若しくはアセト酢酸エステルを使用する特筆すべき利点は
1) それらをその効果を損なわずに、炭水化物の通常食の量とともに食べても良い点、
2) 現在のクリームやマーガリンを含む食事のように血中VLDLを上げないので血管の病気、脂肪肝、及び膵炎を加速する危険性を避けることができる点、
3) II型糖尿病については低血糖発作と昏睡を防ぐため、アルツハイマー病及び他の神経変性状態については神経細胞、すなわち海馬細胞死を防ぐため、及び大脳のグルコース運搬体の減少、解糖の欠陥、若しくは先天的PDH欠損を伴ういわゆるLeigh症候群のいずれかに帰因する難治のてんかん、を含むさらに様々の患者で、広い範囲で使用することができる点である。
【0076】
特筆すべき代替品の2番目のグループはD−β−ヒドロキシ酪酸のアセト酢酸エステルである。D−β−ヒドロキシ酪酸に対するアセト酢酸の生理的な割合を提供するエステルは好ましく例えば1:1ないし1:20であり、より好ましくは1:1ないし1:10である。末端にアセト酢酸残基を持つD−β−ヒドロキシ酪酸の4量体は特に望ましい。このような物質は生理的割合のD−β−ヒドロキシ酪酸塩/アセト酢酸塩部分を持つという追加の長所を持ち、したがって過度のアルコール消費でおこるような肝臓の[NAD]/[NADH]の異常還元を引き起こさずに、投与された栄養の酸化還元状態を調整しなくていはいけないという肝臓の役割を免除する。エステル重合体は、その長さに依存して水溶解性が減少するが熱には安定になる。そのようなポリマーは例えば乳濁液として経口及び非経口使用することができ、一方アセト酢酸塩はエステル化されていない状態では、室温で半減期約30日でアセトンへ自発的に脱炭酸されやすいのでそれほど好ましくない。
【0077】
ケトン体前駆体として使用可能なポリD−β−ヒドロキシ酪酸若しくは末端が酸化されたポリD−β−ヒドロキシ酪酸エステルの例を下に示す。
【0078】
【化5】

【0079】
【化6】

【0080】
それぞれのケースで、ポリマー若しくはオリゴマーが、人間若しくは動物の体に投与される場合に容易に代謝され、血中ケトン体レベルがあがるように、nは選択されている。nの好ましい値は0ないし1000の整数であり、より好ましくは0ないし200であり、さらにまだ好ましくは1ないし50であり、最も好ましくは1ないし20、特に便利なのは3ないし5である。
【0081】
D−β−ヒドロキシ酪酸ポリエステル自体を含む、この物質の多くの変形体もまた、適した製造特性を持つため試みることが可能である。物質は無味の白色粉末である。部分的アルカリ加水分解の後、さまざまな鎖長のポリマーの混合物が提供され、消化管吸収を円滑にし、24時間にわたりケトンを高い持続的レベルに維持する傾向がある。
【0082】
治療は、血中ケトンが24時間にわたって上昇した範囲、たとえば0.5ないし20mM、好ましくは2−7.5mMに維持するように、放出を遅らせるために処方されたD−β−ヒドロキシ酪酸ポリエステルにより、患者のカロリー摂取の重要な部分を供給することを含む場合がある。血液中へのケトン体の放出は、マイクロカプセル化、吸着など多くの薬剤の経口投与で現在実施されている様々な技術を応用することによって制限される可能性がある。胃以降への送達を標的とする腸溶性コーティングされた形態が特に用いられ、その場合物質は、酸性環境下での加水分解を必要としない。そのようないくらかの加水分解が望ましいときには、コートされていない形態を用いても良い。いくつかの形態は、Doi.Microbial Polyesters中で言及されているもののように、エステルを分解してケトン体を放出することができる酵素を含んでいても良い。
【0083】
D−β−ヒドロキシ酪酸のナトリウム塩の静脈注射が通常の人間の患者及び多くの状態の患者、例えば集中治療室内の重い敗血症の治療を行っている患者に施した。それは、毒性がなく、グルコース遊離脂肪酸及びグリセロール濃度を減少することができるが、ロイシンの酸化を減少することには効果がないことが明らかとなった。
【0084】
D−β−ヒドロキシ酪酸塩のモノマーは白く無臭の結晶で、酢やレモンジュースと比較すると強度的にはそれほど強くないが、わずかに酸っぱいもしくは酸味がある。それはほとんどの食べ物、例えば飲み物、プディング、つぶした野菜、もしくは不活性な増量剤に処方することができる。D−β−ヒドロキシ酪酸の酸の形態はpKaが4.4なので経口使用に適している。これは3.1のpKa1、及び4.8のpKa2、のクエン酸より酸性度が低く、pKa4.7の酢酸よりわずかに酸性である。
【0085】
自然界に存在するD−もしくは(R)異性体のみがこの組成体の中で使用されるのが望ましい。実際には完全に純粋な異性体を得ることは不可能なので、現在Sigma,St.Loius MOもしくはFluka Ronkonkoma、NYで売られている商業製品が、この目的のためには最も適している。商業的に手に入るD−β−ヒドロキシ酪酸の旋光度はNaの波長で−25°±1であり、融点は43−46℃である。D−β−ヒドロキシ酪酸のNa塩の旋光度は−14.5°であり、その融点は149−153℃である。両方ともD−β−ヒドロキシ酪酸脱水素酵素(EC1.1.1.30)を用いて標準的な酵素分析により評価することが可能である(5)。アセト酢酸は同じ酵素を用いて決定することができる(56)。非生理的な(S)異性体は酵素分析で測定することはできないが、GCマススペクトロメトリーを用いて測定する事が可能である(13)。
【0086】
1500カロリー食事療法の場合、人間の成人患者は1日あたり198gのケトンを消費しても良い。同じ割合の2000カロリー食事療法の場合、1日あたり264gのケトンを消費しても良い。ケトン脂質食事療法の場合血中ケトンは約2mMまで上昇する。ケトン食事療法では、ケトンが脂質のカロリー等量で、すなわち1.5gケトン/1g脂肪で置き換えられているので、ケトンレベルはもっと高いはずである。その結果血中ケトンはおよそ3mMであるが、まだ絶食している人で達成されるレベル7.5mMには届かない。
【0087】
ケトン体そのものを使う利点はいくつかある。第1に、ケトン体そのものの供給は炭水化物の制限を必要としないので、特に高い炭水化物食が普通の文化で、規定食の処方の嗜好性が増加する。第2にケトン体は筋肉、心臓、及び脳組織で代謝することが可能であるが、肝臓ではできない。それ故、ケトン食療法の厄介な副作用となるかもしれない脂肪肝を避けられる。第3に、炭水化物を規定食処方の中に含むことが可能であることから適応性が向上し、インスリンが高く、既知のケトン食療法を用いることができない、II型糖尿病への実質的な治療アプローチの可能性をひらく。
【0088】
本発明者は、ケトン体の上昇はいかなる場合も望ましいが、特にアルツハイマーの様な病気で脳細胞死を阻止する目的の場合は、投与されるべきケトン体の好ましい量は、血中レベルを0.5ないし20mMレベルまで、好ましくは2mMないし7.5mMレベル及びそれ以上まで上昇するのに十分な量である事を決定した。死んだ細胞を元に戻すことはできないが、更なる悪化を防いだり、少なくとも機能のいくらかの回復を期待することができる。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】図1は、(R)−3−ヒドロキシ酪酸塩、実施例1で合成されたこのオリゴマー及び実施例2で合成されたそのアセトアセチルモノマーの胃管栄養後に経時的に生成された血中(R)−3−ヒドロキシ酪酸塩レベルを示すグラフである。
【発明を実施するための態様】
【0090】
このように本発明の第一の態様では、(i)心臓効率、特にグルコースの使用における効率を増加するため、(ii)特に糖尿病及びインスリン耐性状態の治療したり、または体のインスリンに対する反応を増加することによって、エネルギー源を供給するため、(iii)神経細胞の損傷若しくは死に関連した疾患、特に、例えばアルツハイマー病、発作、そしてCJD及びBSEのような脳障害のように関連した状態、のような記憶関連疾患などの神経変性疾患を後退させ、遅らせ、若しくは防ぐために、薬若しくは栄養摂取補助の製造のいずれかにおけるアセト酢酸塩、D−β−ヒドロキシ酪酸塩、もしくはその代謝前駆体の使用を提供する。
【0091】
ここにおいてその代謝前駆体という語は特に、アセトアセチル−1,3−ブタンジオール、アセトアセチル−D−β−ヒドロキシ酪酸、及びアセトアセチルグリセロールのような1,3−ブタンジオール、アセトアセチル、若しくはD−β−ヒドロキシ酪酸部分を含む化合物に関する。そのような化合物のいずれの一価、二価、若しくは三価アルコールとのエステルもまた構想されている。
【0092】
この態様は、特に神経生成が深刻な臨床の結果をもたらすような病気において、神経細胞の例えば海馬若しくは黒質における軸索および/または樹状突起の成長を刺激することができるような神経刺激物質としての使用を含む。
【0093】
糖尿病の患者では、これらの化合物のこの使用により低血糖合併症の恐れなく低い血中糖レベルを維持できる。正常な非−糖尿病患者では絶食血中糖は食後に80ないし90mg%(4.4−5mM)から130mg%(7.2mM)に上がる。糖尿病では、糖尿病の‘厳しいコントロール’が血管の合併症を防ぐための方法として推奨されてきたが、実際には、食後に血中糖を150mg%(8.3mM)以下に厳しく制限して保つことは、低血糖症の発現のために困難であることを医師は見いだしてきた。血中糖が2mMまで下がった普通の患者では低血糖症昏睡が一様に起こる。先に議論されたように(62、63)、5mM血中ケトン存在下では、血中糖が1mM以下に下がったときも、神経学的症状は起こらない。
【0094】
本発明者は、II型糖尿病患者にケトン体を追加すると、血中糖をよりよく制御することができ、現在は糖尿病にかかって20年後におこり、糖尿病の病的状態と死亡率の主な原因である、目及び腎臓の血管の変化を防いている。
【0095】
例えば難治のてんかんがケトン食療法で治療されるように、治療が疾患に関連した発作を目標として行われる場合、ケトン体、そのポリマー若しくはエステル若しくはブタンジオール化合物のような前駆体の使用することにより、高脂質及び炭水化物含有量の減少若しくは削除のために、改良される。そのような患者は、脳のグルコース輸送システム、解糖、若しくはLeigh症候群のようにPDH自体に遺伝的欠陥がある者を含む。
【0096】
これらの薬で治療する事ができる特定の疾患は、頭部外傷の後に起こるすべての状態を含むPDHブロック、若しくは例えばインスリン昏睡及び低血糖症、脳のグルコース輸送体若しくは解糖酵素ステップ、若しくはピルビン酸輸送における疾患のようなミトコンドリアに対するアセチルCoAの供給の減少若しくは削除を含む、あらゆる状態に応用できる。
【0097】
好ましくはヒドロキシ酪酸塩は非−ラセミ体のD−β−ヒドロキシ酪酸塩の形であり、アセト酢酸もまた供給するような形で投与されるのがより好ましい。好ましくは代謝前駆体は人間若しくは動物の体に投与された時に例えば肝臓により代謝され、D−β−ヒドロキシ酪酸塩及びアセト酢酸塩の一つ若しくは両方を、より好ましくは生理学的割合で生成する。特に好ましいのはポリ−D−β−ヒドロキシ酪酸若しくはアセトアセチル−β−ヒドロキシ酪酸オリゴマー若しくはこれらの一方若しくは両方のエステルである。C1−4アルキルエステルのような低級アルキルエステルが用いられても良いが、それぞれの1,3−ブタンジオールエステルのようにより生理学的に受け入れられるエステルがより好ましく、特に(R)−1,3−ブタンジオールを使用する。最も好ましいのは、アセトアセチル−トリ−、テトラ−、及びペンタ−D−β−ヒドロキシ酪酸エステルである。エステル前駆体は1,3−ブタンジオールのエステル、好ましくは(R)体、及び特にアセトアセチルグリセロールのようなアセト酢酸エステルを含む。
【0098】
好ましいポリ−D−β−ヒドロキシ酪酸エステルは、好ましくは2−100繰返し、例えば2−20繰返し、最も好ましくは2−10繰返しのオリゴマーのエステルである。
【0099】
本発明の薬若しくは栄養製品が長期貯蔵を必要としない使用を目的とするならば、水酸基置換カルボン酸および/またはケトン、好ましくは両方を含む液体若しくは固体組成物の形態で使用し、ここにおいてこれらがD−β−ヒドロキシ酪酸塩及びアセト酢酸塩が一緒になって、好ましくは3:1ないし5:1の割合、より好ましくは約4:1の割合であると、便利である。
【0100】
薬若しくは補助剤がアセト酢酸塩を含む場合、好ましくは長期にわたって保存されず、若しくは40度を超える温度にさらされない方がよい。アセト酢酸塩は加熱に不安定で、100℃でアセトンとCOに激しく分解する。そのような状況では、体の代謝過程と接することにより組成物によりアセト酢酸塩が生成するのが望ましい。好ましくは組成物はアセト酢酸のエステル前駆体を含む。例えば、アセト酢酸のエチルエステルは比較的安定で180.8℃の沸点を持つ。
【0101】
さらにより好ましくは、記述されているように、薬若しくは補助剤はD−β−ヒドロキシ酪酸のアセト酢酸エステル若しくはD−β−ヒドロキシ酪酸のオリゴマーのそのようなエステルを含む。これは、二つの成分をおよそ好ましい割合にするために、D−β−ヒドロキシ酪酸もしくはD−β−ヒドロキシ酪酸のポリマーのひとつ、例えばオリゴ−D−β−ヒドロキシ酪酸を添加しても良い。このような組成物は、エステル及びポリマーがそれらを消費した人間若しくは動物の胃若しくは血漿で代謝されると2つの好ましい成分を供給するであろう。さらに、代謝されるか若しくはそうでなければ脱エステル化されるまでは、より脂溶性で、その成分のすべてが望ましいケトン体に変換されるので、アセトアセチル−D−β−ヒドロキシ酪酸の(R)1,3−ブタンジオールエステルが、最も好ましい可能性がある。
【0102】
本発明の2番目の態様は、治療若しくは栄養補助剤としての使用のために、アセト酢酸の新規エステルを提供する。そのようなエステルはC1−4アルキルエステルを含んでもよいが、最も好ましくは、上に記載したD−β−ヒドロキシブチリル−アセト酢酸である。
【0103】
本発明の3番目の態様は、治療における使用を目的としたポリ−D−β−ヒドロキシ酪酸塩を、特に胃の酸性条件下若しくはin vivoのエステラーゼにより分解する事ができるような形態で、提供する。
【0104】
本発明の4番目の態様は、アセト酢酸ハロゲン化物、例えばアセトアセチルクロライドとD−β−ヒドロキシ酪酸塩の反応を含む、D−β−ヒドロキシブチリル−アセト酢酸エステルの合成法を提供する。好ましくはこれはアセト酢酸をチオニルクロライドのような活性化剤と反応させて、酸クロライドを生成することにより、達成される。
【0105】
本発明の5番目の態様は、D−β−ヒドロキシ酪酸塩若しくはそのオリゴマーをアセト酢酸、その活性化状態、若しくはジケテンと反応させることを含む、D−β−ヒドロキシブチリル−アセト酢酸エステルの合成法を提供する。
【0106】
本発明の6番目の態様は、D−β−ヒドロキシブチリルアセト酢酸エステルそれ自体、それらの生理学的に許容される塩、或いは短鎖若しくは中鎖の一価、二価、若しくは三価アルコール若しくはその1−3−ブタンジオールエステルを提供する。
【0107】
本発明の7番目の態様は、ポリ−D−β−ヒドロキシ酪酸塩を、薬理学的若しくは生理学的に許容される担体とともに提供する。
【0108】
本発明の8番目の態様は、1:1ないし20:1、より好ましくは2:1なし10:1、最も好ましくは3:1ないし5:1の割合のD−β−ヒドロキシ酪酸塩及びアセト酢酸を含む組成物を、薬理学的若しくは生理学的に許容される担体とともに提供する。好ましくはこれらの成分の割合は約4:1である。このような組成物は、薬若しくは食料として既に使用された血漿、血清、或いは動物若しくは植物の組織を含まないので、好ましくは滅菌若しくは発熱物質フリーであることが好ましい。特にケトン体は重量にして少なくとも組成物の5%を含み、より好ましくは20%以上、及び最も好ましくは50%ないし100%を含む。組成物は経口、非経口、若しくは他のいかなる慣用の投与形態によって投与されても良い。
【0109】
本発明の9番目の態様は、本発明の第1ないし第8の態様で使用するための物質のうちの少なくとも一つを投与する事を含む、人間若しくは動物の心臓効率を上げるための、その治療方法を含む。
【0110】
本発明の10番目の態様は、本発明の第1ないし第8の態様で使用するための物質のうちの少なくとも一つを投与する事を含む、人間若しくは動物のインスリンへの応答を増加するための、その治療方法を含む。
【0111】
本発明の11番目の態様は、本発明の第1ないし第8の態様で使用するための物質のうちの少なくとも一つを投与する事を含む、人間若しくは動物のインスリン耐性を治療するための、その治療方法を含む。
【0112】
ここにおけるインスリン耐性状態は、糖尿病の形態、特にインスリンに完全には反応しないものを含む。
【0113】
本発明の12番目の態様は、本発明の第1ないし第8の態様で使用するための物質のうちの少なくとも一つを投与する事を含む、第1の態様で言及されている疾患、特に例えばアミロイドタンパク質の存在のような神経毒状態に関連した神経変性疾患、例えばアルツハイマー病のように記憶に関する疾患、若しくはてんかんの発病、に関連する、神経細胞、例えば、脳細胞の死若しくはダメージを治療するための、人間若しくは動物の治療方法を含む。
【0114】
本発明の9番目ないし12番目の好ましい方法は、本発明の好ましいケトン及びポリ酸及び酸エステルを使用する。
【0115】
ポリD−β−ヒドロキシ酪酸の製造方法は既に既知なので特に請求しない(例えばShang et al,(1994)Appli.Environ.Microbiol.60:1198−1205)。このポリマーはFluka Chemical Co.P1082,cat#81329,1993−94,980.second St.Ronkonkoma NY 11779−7238,800 358 5287から商業的に入手可能である。
【0116】
本発明の生物的に入手可能なポリマーを使用することの特筆すべき利点には、それらと一緒に投与しなければならない、ナトリウムのようなカウンターイオンの量を減らす事が含まれる。このナトリウム負荷の減少は特に病気の人に利点がある。生物的に入手可能という語により、体によって使用され、これらの物質が上に記載されているように、D−β−ヒドロキシ酪酸塩、アセト酢酸塩、及びこれらの生理学的割合の混合物のいずれか一つを生成する事を意味する。
【0117】
アルツハイマー病及びパーキンソン病のような神経変性病の治療に用いられるケトン体の量は、好ましくは上に記載されているように血中レベルを0.5ないし20mMに、例えば2mMなし7.5mMにあげる。本発明者は患者1日あたり、ケトン体200ないし300g(0.5ポンド)がこれを達成するのに必要だろうと見積もる。治療が神経毒の効果に対する細胞の維持による場合、これはより高いレベル、すなわち血中2ないし7.5mMも可能である。そのように生成されたD−β−ヒドロキシ酪酸の神経刺激因子効果に依存している場合、ここにおいて投与量がより低く、例えば0.2ないし4mMを提供するものであるが、しかし、もちろん、これ若しくは他の病気のためにはより多いことも可能である。
【0118】
アルツハイマー病のような神経変性病の治療は、患者が病気を発生する素因を有することを同定した直後に最も効果的に与えることができることが認識されるであろう。このようにアルツハイマー病の治療の後、最も効果的には以下の、(i)第21番染色体上のアミロイド前駆体タンパク質の突然変異、(ii)第14番染色体上のプレセニリン遺伝子の突然変異、(iii)アポリポタンパク質Eのアイソフォームの存在、から成る群から選択された一つ以上の状態についての陽性の試験結果が生じる。アルツハイマー病の指標となる他の試験ももちろん適用することができる。
【0119】
そのような陽性の試験結果に基づいて、患者の血中もしくは血漿中のケトン体D−β−ヒドロキシ酪酸塩及びアセト酢酸塩の濃度の総量を例えば、1.5ないし10mM、より好ましくは2ないし8mMに、いくつかの方法の一つにより上昇することによって、記憶損失および/または他の神経学的機能不全の発生を、防ぐのはふさわしいであろう。好ましくは、十分な量のD−β−ヒドロキシ酪酸、その代謝可能なポリマー、そのアセト酢酸エステル、若しくはそれらの前駆体(R)−1,3−ブタンジオール及びそのアセト酢酸エステル、例えばアセトアセチルグリセロールを含んでいる食事を患者に与えるか、或いは静脈内若しくは動脈内にD−β−ヒドロキシ酪酸塩及びアセト酢酸のケトン体を投与した。上に記載の有機物質はすべて、場合によっては塩若しくはエステルの形でも良い。典型的な生理学的に許容される塩の例は、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、L−リジン及びL−アルギニン若しくは、例えばメチルグルカミン塩のようにより複雑な塩から選択される。エステルは本発明の他の態様で以前に記述されたようなものであろう。
【0120】
本発明のさらなる態様は、食事療法の適切な制御により本発明のケトン体を提供する。このように本態様は、人間若しくは動物の、(i)個体の全絶食、及び(ii)個体に、重量にして例えば60ないし80%の脂質と炭水化物含有量20%以下のケトン食療法を食べさせることの、いずれか1つを含む、本発明の9番目ないし12番目の態様の1つ以上の疾患について人間若しくは動物を治療する方法を提供する。
【0121】
発作の治療を目的とする場合、例えばてんかんにおいては、食事療法は、経口若しくは腸溶性経路による炭水化物の、或いは上に特定した化合物の自由な摂食を含んでも良い。
【0122】
ケトン食療法以外のこれらの治療法すべてにおいて、過剰の炭水化物の摂取に関する血中ケトンの低下を抑える方法、及び肝臓による脂肪酸とコレステロールの合成を加速するか、さもなければ血管の疾患に寄与する過剰の脂質の給餌を避ける方法という改良点が存在する。
【0123】
低血糖症の脳機能不全もまた、本発明の治療及び組成物及び化合物を用いて治療可能なことが明らかになるであろう。本治療に関連するさらなる特性は、筋肉の能力における一般的な改良であろう。
【0124】
(R)−3−ヒドロキシ酪酸を誘導することが可能な多くの比較的安価な、若しくは潜在的に安価な、出発物質が容易に入手可能なことにより、本発明のケトン体を基盤とした食物及び薬の供給は、促進されている(Microbial Polyesters Yoshiharu Doi.ISBN 0−89573−746−9 Chaptersl.1、3.2、及び8参照)。食物を作る生物に挿入することが可能な遺伝子の入手可能性はは、ポリ−(R)−3−ヒドロキシ酪酸塩、若しくはそのようなポリマーを切る事ができる酵素による切断の後にモノマーの基質自体のいずれかを豊富に含む、ヨーグルト及びチーズのような製品を作成する手段を提供する(Doi.Chapter8参照)。
【実施例】
【0125】
本発明はここで以下の図及び実施例を参照することによってのみ例証される方法でさらに記述される。本発明の範囲に含まれるさらなる態様はこれらに照らして当業者が気づくであろう。
【0126】
実施例1
(R)−3−ヒドロキシ酪酸(D−β−ヒドロキシ酪酸)のオリゴマーの調製
(R)−3−ヒドロキシ酪酸(Fluka−5.0g:0.048モル)、p−トルエンスルホン酸(0.025g)及びベンゼン(100ml)をDean−Starkトラップ装置内で24時間環流下、撹拌した。反応混合物を冷却し、ベンゼンを真空下で(0.5mmHg)蒸発した。4.4gの無色のオイルが得られ、そのうち20mgのサンプルを、NMRを用いてモノマー繰返しの数を分析するためにメチルエステルに変換した。これらの研究から、生成物は平均繰返し回数3.75、主として三量体、四量体、及び五量体の混合物であり、単一で最も豊富な物質は四量体である、D−β−ヒドロキシ酪酸オリゴマーの混合物であることが示された。生成混合物は1等量の水酸化ナトリウムに可溶であった。
【0127】
実施例2
(R)−3−ヒドロキシ酪酸のオリゴマーのアセトアセチルエステルの調製
実施例1の無色オイル化合物の残りのバッチ(4.5g)をジケテン(3.8g)及び酢酸ナトリウム(0.045g)とともに窒素下で1時間60℃で加熱した。ジケテン(3.8g)をさらに加え反応をさらに1時間加熱し、冷却、エーテルで希釈し、水で洗い、その後飽和重炭酸ナトリウム(5x100ml)で抽出した。合わせた抽出液をエーテルで洗い、濃塩酸(滴加)で酸性にした。酢酸エチル抽出(3x50ml)の後、硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧溜去した。黄色い個体/オイルの混合物(7.6g)が得られ、ジクロロメタン/メタノール(98:2)を用いてシリカカラムでクロマトグラフすると淡琥珀色オイル生成物が得られた。先に流出する不純物が単離され(1.6g)、四塩化炭素/メタノール(99:1)で再カラムすると0.8gのオイルが回収され、NMRとマススペクトリメトリーで、D−β−ヒドロキシ酪酸のアセトアセチル化されたオリゴマーの目的とする混合物であることが示された。生成混合物はジクロロメタン/メタノール(90:1)でRf値0.44であり、1等量の水酸化ナトリウムに可溶であった。実施例1および実施例2の生成物はともに、予備的HPLCにより個々の成分を分離する事が可能である。
【0128】
実施例3
D−β−ヒドロキシ酪酸オリゴマー及びアセト酢酸D−β−ヒドロキシ酪酸オリゴマーのラットへの経口投与
血中ケトン体レベルを上昇するために経口投与されたD−β−ヒドロキシ酪酸および実施例1及び2のオリゴマーの能力は以下のように調べられた。ラットは一晩飢えさせ、メチルグルカミンを用いてpH7.74にした4MD−β−ヒドロキシ酪酸塩を体重100gにつき100μl用いて胃管栄養を施した。D−β−ヒドロキシ酪酸の血中レベルはAnal.Biochem.131.p478−482(1983)のNAD/EDTA分析を用いて測定された。2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール(100mM、pH9.9、0.094g/10ml)、NAD(30mM、0.199g、10ml)及びEDTA(4mM、0.015g/10ml)から作られた1.0ml溶液をたくさんのキュベットのそれぞれ及び4μlサンプルに加え、若しくはD−β−ヒドロキシ酪酸をコントロールとした。
【0129】
ラットが絶食しているとき、D−β−ヒドロキシ酪酸の初期レベルは0.1mMの給餌状態から上昇させた。しかし、それぞれのケースで1から3.2mMの増加の範囲で、D−β−ヒドロキシ酪酸の確実な血清の増加が提供された。
【0130】
この手順はD−β−ヒドロキシ酪酸オリゴマー及び実施例1及び2に記載されたそれらのアセト酢酸エステルの混合物の2M溶液で繰り返された。D−β−ヒドロキシ酪酸オリゴマー(図1において19/1)およびアセト酢酸エステル(図1において20/4)はメチルグルカミンによってともにpH7.6に調整され、血中D−β−ヒドロキシ酪酸塩レベルは先に述べた分析手法を用いて観測された。血清D−β−ヒドロキシ酪酸塩の増加は胃管栄養の後、60及び120分で0.5から1.2mMであることが示された。これらの結果は、経口投与された本発明のD−β−ヒドロキシ酪酸及びその代謝前駆体が、摂取後数時間の内に血中レベルを有意に上昇させる効力を示した。
【0131】
19/1及び20/4のオリゴマーエステルはモノマー自体ほどは血中ケトン体レベルを上げないが、はるかに長期間、結果として上昇させ、それ故モノマーほど頻繁に投与しないのに適していることが注目された。
【0132】
実施例4
【0133】
【表4−1】

【0134】
【表4−2】

【0135】
実施例5
全脳GABAレベルにおける血中D−β−ヒドロキシ酪酸塩レベルの増加の効果
全脳GABAレベルにおけるD−β−ヒドロキシ酪酸塩の効果を調べ、血中ケトン体レベルの増加をねらったケトン体若しくは前駆体治療の抗てんかん性効果の指標を提供するために、実施例3で記載されたようにD−β−ヒドロキシ酪酸塩の投与後決められた時間にラットの脳全体を凍らせた。GABAは標準的なHPLC技術で分析し、標準タンパク質分析を用いてタンパク質含有量に関連づけた。t=0の時GABAレベルは191pモル/μgタンパク質だったが、120分後には466pモル/μgタンパク質に上昇し、抗てんかん性潜在能力を示した。
【0136】
実施例6
方法
培養液及び化学薬品
0から4日目までに用いた血清フリー培地は50倍に希釈したB27添加物を加えたNeurobasal培地を含み(Life Technology,Gaithersburg,MD)、そこに0.5mM L−グルタミン、25μM L−グルタミン酸ナトリウム、100U/mlペニシリン及び100μg/mlストレプトマイシンを加えた。4日後に、5μMインスリン、30nMl−チロキシン、20nMプロゲステロン、30nM亜セレン酸ナトリウム、100U/mlペニシリン及び100μg/mlストレプトマイシンを含むDMEM/F12を用いた。
【0137】
海馬微少細胞群(microisland)培養
初代海馬培養は日齢18日のWister胚から回収し、ピペット内で穏やかに揺り動かして分散した。懸濁液を1500xgで10分間遠心分離し、上澄み液を捨てた。新しい媒質を0.4−0.5x10細胞/mlに作成した。この懸濁液の10μlを、ポリD−リジンでコートした培養ウェルにピペットでいれ、プレートを38℃4時間インキュベーションし、その後新しいNeurobasal培地を400μl加えた。2日間インキュベーションした後、培地の半分を新しい培地に変え、さらに2日間インキュベーションを続けた。4日後に培地を、5μMのインスリン、30nMl−チロキン、20nMプロゲステロン、30nM亜セレン酸ナトリウム、100U/mlペニシリン及び100μg/mlストレプトマイシンを含むDMEM/F12培地に変えた。ウェルを4つのグループに分け、ウェルの半分にはD−βヒドロキシ酪酸ナトリウムが最終濃度8mMになるように加え、ウェルの半分には5nMアミロイドβ1−42(Sigma)
を加えた。これらの培地は2日後に交換し(8日目)細胞を10日目に固定化し、抗MAP2(Boehringer Manheim、Indianapolis IN)でニューロンとビメンチンを視覚化し、GFAP(Boehringer)で膠細胞を視覚化するよう染色した。
【0138】
結果
細胞カウント
D−β−ヒドロキシ酪酸塩を培養に加えると微少細胞群あたりの神経細胞の数が微少細胞群あたり平均30から平均70細胞へ増加した。5nMアミロイドβ1−42を培地に加えると、微少細胞群あたり70から30細胞に減少し、Hoshiらによる、アミロイドβ1−42が海馬ニューロンに対して毒性があるという以前の所見を確認した。アミロイドβ1−42を含む培地にD−β−ヒドロキシ酪酸塩を加えると、細胞数が微少細胞群あたり平均30から70細胞へ増加した。これらのデータから、基質レベルの量のD−β−ヒドロキシ酪酸塩を、主な栄養分がグルコース、ピルビン酸、及びL−グルタミンである培地に加えると、培地における細胞死亡速度が遅くなると結論づけた。さらに、培地におけるアミロイドβ1−42の添加によって引き起こされる海馬の細胞死の増加速度を、D−β−ヒドロキシ酪酸塩により遅らせることが可能であることを結論づけた。
【0139】
樹状突起の成長の数と軸索の長さはともに、β1−42の存在の有無に関わらず、D−β−ヒドロキシ酪酸塩の存在下で増加することが観測された。これらは神経成長因子様作用を暗示するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アセト酢酸塩、D−β−ヒドロキシ酪酸、および/またはそれらの代謝前駆体若しくは生理学的に許容される塩から選択された化合物の(i) 心臓の効率を増加するため(ii) 糖尿病及びインスリン耐性状態の治療のため、および/または(iii)神経変性疾患及びてんかんの効果を転換、遅延、若しくは予防するための医薬若しくは栄養製品の製造のいずれかにおける使用。
【請求項2】
神経変性疾患が神経毒タンパク質プラークに関連するものである、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
代謝前駆体が(R)−1,3−ブタンジオール、アセトアセチル、若しくはD−β−ヒドロキシブチリル部分を含む、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
代謝前駆体がエステルである、請求項3に記載の使用。
【請求項5】
エステルが一価、二価、若しくは三価アルコールエステルである、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
エステルがアセト酢酸エステルである、請求項1に記載の使用。
【請求項7】
エステルがD−β−ヒドロキシ酪酸エステル若しくはD−β−ヒドロキシ酪酸のオリゴマー若しくはポリマーのエステルである、請求項1に記載の使用。
【請求項8】
化合物が式:
【化1】

若しくは
【化2】

〔式中、それぞれの場合において、nは、ポリマー若しくはオリゴマーが、人間若しくは動物の体内に投与されると容易に代謝され、血中ケトン体レベルを上昇させるように選択される〕
で表される化合物、或いはそれらの生理学的に許容される塩若しくはエステルである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
nが0ないし1000の整数である、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
nが0ないし200の整数である、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
nが3ないし5の整数である、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
医薬がD−β−ヒドロキシ酪酸塩及びアセト酢酸塩を1:1ないし20:1の割合で提供する、請求項1に記載の使用。
【請求項13】
式:
【化3】

若しくは
【化4】

〔式中、それぞれの場合において、nは、ポリマー若しくはオリゴマーが、人間若しくは動物の体内に投与されると容易に代謝され、血中ケトン体レベルを上昇させるように選択される〕
で表される化合物、或いはそれらの生理学的に許容される塩若しくはエステル。
【請求項14】
エステルが一価、二価、若しくは三価アルコールエステルである、請求項13に記載の化合物。
【請求項15】
(R)−1,3−ブタンジオールとのエステルである、請求項14に記載の化合物。
【請求項16】
治療で使用するためのポリ−D−β−ヒドロキシ酪酸。
【請求項17】
アセト酢酸ハライドをD−β−ヒドロキシ酪酸塩或いはポリ−若しくはオリゴ−D−β−ヒドロキシ酪酸と反応させることを含む、D−β−ヒドロキシブチリル−アセト酢酸或いはポリ若しくはオリゴ−D−β−ヒドロキシブチリル−アセト酢酸エステルの合成方法。
【請求項18】
アセト酢酸を活性化剤と反応させ、酸ハライドを生成することを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
D−β−ヒドロキシ酪酸塩をアセト酢酸と反応させることを含む、D−β−ヒドロキシブチリル−アセト酢酸エステルの合成方法。
【請求項20】
D−β−ヒドロキシ酪酸をジケテンと反応させることを含む、D−β−ヒドロキシブチリル−アセト酢酸若しくはオリゴ−D−β−ヒドロキシブチリル−アセト酢酸の合成方法。
【請求項21】
反応が酢酸ナトリウムの存在下で行われる、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
反応が窒素下で行われる、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
場合により薬理学的若しくは生理学的に許容される担体を伴ってもよい、D−β−ヒドロキシ酪酸塩とアセト酢酸塩を1:1ないし20:1の割合で含むか、若しくは生体内での代謝においてそのような割合を供給する相当するそれらの代謝前駆体を含む組成物。
【請求項24】
割合が3:1ないし5:1である、請求項23に記載の組成物。
【請求項25】
心臓の効率を増加するための人間若しくは動物の治療方法であって、D−β−ヒドロキシ酪酸の血中レベルを上げるように、場合によりアセト酢酸を伴っていてもよいD−β−ヒドロキシ酪酸、又はいずれかの代謝前駆体、あるいはそれらいずれかの生理学的に許容される塩を、人間若しくは動物に投与することを含む、前記方法。
【請求項26】
インスリン耐性を増加させるための人間若しくは動物の治療方法であって、D−β−ヒドロキシ酪酸および/またはアセト酢酸塩の血中レベルを上げるように、D−β−ヒドロキシ酪酸、アセト酢酸、又はいずれかの代謝前駆体の少なくとも一つ、あるいはそれらいずれかの生理学的に許容される塩を、人間若しくは動物に投与することを含む、前記方法。
【請求項27】
インスリン耐性状態を治療するための人間若しくは動物の治療方法であって、D−β−ヒドロキシ酪酸および/またはアセト酢酸塩の血中レベルを上げるように、D−β−ヒドロキシ酪酸、アセト酢酸、又はいずれかの代謝前駆体の少なくとも一つ、あるいはそれらいずれかの生理学的に許容される塩を、人間若しくは動物に投与することを含む、前記方法。
【請求項28】
神経変性疾患を治療するための人間若しくは動物の治療方法であって、D−β−ヒドロキシ酪酸および/またはアセト酢酸塩の血中レベルを上げるように、D−β−ヒドロキシ酪酸、アセト酢酸、又はいずれかの代謝前駆体の少なくとも一つ、あるいはそれらいずれかの生理学的に許容される塩を、人間若しくは動物に投与することを含む、前記方法。
【請求項29】
請求項1ないし16に記載の化合物のいずれか1つを投与することを含む、請求項19ないし21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
ケトン体が、これらの化合物の代謝による上昇を引き起こす食事をコントロールすることにより供給される、請求項19ないし21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
望ましい繰返し数のオリゴマーが合成されるまで、溶媒中でD−β−ヒドロキシ酪酸の溶液を加熱することを含む、D−β−ヒドロキシ酪酸オリゴマーの合成方法。
【請求項32】
望ましい繰返し数が2ないし10である、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
溶媒が非プロトン性である、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
溶媒が芳香族性である、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
反応が有機酸存在下で行われる、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
神経変性、代謝不全、若しくはGABA予防発作、若しくはグルコース代謝不全の1つ以上を治療する必要がある、人間若しくは動物のCNS細胞、末梢神経細胞、心臓細胞、若しくはそうでなければインスリン非反応性細胞を治療する方法であって、それらの細胞にD−β−ヒドロキシ酪酸、アセト酢酸塩、又はいずれかの代謝前駆体のいずれか一つ、或いははそれらいずれかの生理的に許容される塩を投与することを含む前記方法。



【図1】
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【公開番号】特開2009−173677(P2009−173677A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−109987(P2009−109987)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【分割の表示】特願平10−540656の分割
【原出願日】平成10年3月17日(1998.3.17)
【出願人】(501260901)ビーティージー・インターナショナル・リミテッド (2)
【Fターム(参考)】