説明

治療的介入の標的としてmiR−143によって調節される遺伝子および経路

本発明は、miR-143によって調節される遺伝子または遺伝子経路を同定するため、miR-143を使用して遺伝子もしくは遺伝子経路を調節するため、このプロファイルを使用して患者の状態を評価するため、および/または患者を適切なmiRNAによって治療するための、方法および組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、全体が参照により本明細書に組み入れられる、2007年5月22日に出願された米国特許仮出願第60/939,573号、および2006年9月19日に出願された米国特許仮出願第60/826,173号の優先権に対する恩典を主張する。
【0002】
I.技術分野
本発明は、分子生物学および医学の分野に関する。具体的には本発明は、miR-143マイクロRNA、マイクロRNA発現、ならびにこれらによって直接的および間接的に調節される遺伝子および細胞経路による影響を受ける疾患もしくは状態の処置のための方法および組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
II.背景
2001年に複数のグループがクローニング法を使用して、線虫(C. elegans)、ショウジョウバエ(Drosophila)、およびヒトから多数の「マイクロRNA」(miRNA)を単離および同定した(Lagos-Quintana et al., 2001;Lau et al., 2001;Lee and Ambros, 2001)。内在性のsiRNAを有しないと考えられる数百種類のmiRNAが、植物および動物(ヒトを含む)で同定されている。したがって、siRNAに似ているものの、miRNAは異なる。
【0004】
これまで同定されたmiRNAは、長さが約21〜22ヌクレオチドであり、非タンパク質コード遺伝子から転写されるより長い前駆体から生じる。これについては、Carrington et al.(2003)の総説を参照されたい。前駆体は、自己相補的な領域内で自然に折りたたまれる構造を形成し;次に、ヌクレアーゼであるダイサー(動物の場合)またはDCL1(植物の場合)によるプロセシングを受けて短い2本鎖のmiRNAを生じる。miRNA鎖の1本は、RNA誘導サイレンシング複合体(RISC)と呼ばれる、タンパク質とmiRNAとの複合体中に統合される。miRNAはRISC複合体を標的mRNAへと導き、後に標的mRNAは、標的mRNAに対するmiRNAの配列相補性の程度に依存して切断されるか、または翻訳段階でサイレンシングされる。現在、最も一般的には植物で観察されるように、完全か、またはほぼ完全な相補性がmRNAの分解を招くと考えられている。これとは対照的に、不完全な塩基対合は、主に動物で見られるように翻訳段階のサイレンシングを導く。しかしながら最近のデータは、さらなる複雑性を示唆しており(Bagga et al., 2005;Lim et al., 2005)、miRNAによる遺伝子サイレンシングの機序に関する研究が活発に行われている。
【0005】
最近の研究では、数多くのmiRNAの発現レベルが、さまざまな癌と関連することが報告されている(Esquela-Kerscher and Slack, 2006;Calin and Croce, 2006の総説)。miRNAは、細胞の成長、ならびに癌の発生と関連する細胞過程である細胞および組織の分化の調節とも関連づけられている。
【0006】
本発明者らは過去に、has-miR-143が、癌の治療の、ならびに他の疾患および障害の治療の介入点(intervention point)となる数多くの細胞活動の調節に関与することを明らかにした(2005年5月31日に出願された米国特許出願第11/141,707号(特許出願1)、および2005年11月14日に出願された第11/273,640号(特許出願2))。24種類の異なるヒト組織を評価したところ、hsa-miR-143が、ヒトの前立腺および結腸の組織試料に優先的に発現されることが判明した。発明者らは、肺、結腸、乳房、膀胱、および甲状腺の腫瘍を含む多くのヒト癌の腫瘍試料では、同じ患者に由来する正常細胞より、hsa-miR-143の発現が低いことを観察した。ヒト白血病細胞(ジャーカット)におけるhsa-miR-143の過剰発現は、これらの細胞の増殖を高めた。発明者らは、hsa-miR-143がアルツハイマー病患者の脳組織ではアップレギュレートされることも見出した。他の研究者も、miR-143が結腸直腸腫瘍では、一致した正常試料と比較してダウンレギュレートされること(Michael et al 2003;Akao et al., 2006)、およびmiR-143がヒトの脂肪細胞(脂肪貯蔵細胞)の分化に関与している可能性があることを観察している(Esau et al., 2004)。
【0007】
バイオインフォマティクス解析によって、任意のmiRNAが最大数百種類の異なる遺伝子に結合して、それらの発現を改変可能であることが示唆されている。また1つの遺伝子が複数のmiRNAによって調節される場合がある。したがって、個々のmiRNAは、遺伝子間の、遺伝子経路間の、および遺伝子ネットワーク間の複雑な相互作用を調節することが可能である。miRNAを含む、これらの調節経路および調節ネットワークの誤調節または変化は、癌などの障害および疾患の発生に寄与する可能性が高い。バイオインフォマティクスのツールは、miRNAの結合標的の推定に有用であるが、どのツールにも限界がある。標的結合部位との相補性は不完全なので、miRNAのmRNA標的を、バイオインフォマティクスのツールのみで正確に推定することは困難である。また、miRNAと標的遺伝子間の相互作用的な調節ネットワークは複雑であることから、どの遺伝子が任意のmiRNAに反応して実際に誤調節されるかを正確に推定することは困難である。
【0008】
miRNAの発現を操作することで、またはmiRNAの誤調節を修復することで遺伝子の発現エラーを修正することは、遺伝性疾患を修復する、および癌のような疾患を治癒する有望な方法となる。現時点における、このアプローチの限界は、上述したように、miR-143を含む任意の所与のmiRNAの影響を受ける調節経路およびネットワークの詳細が、ほとんど不明なままである点である。これは、miR-143が重要な役割を果たす可能性のある癌の治療の大きな制限となっている。has-miR-143発現による調節を受けるかまたはhas-miR-143発現を調節する可能性のある、遺伝子、遺伝子経路、および遺伝子ネットワークを同定することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許出願第11/141,707号
【特許文献2】米国特許出願第11/273,640号
【発明の概要】
【0010】
本発明は、miR-143調節の直接的な標的である遺伝子、またはmiR-143を介して別の遺伝子発現を修飾することによる調節の間接的または下流の標的である遺伝子を同定することによる、さらなる組成物および方法を提供する。さらに本発明は、miR-143およびそのファミリーのメンバーによる影響を受ける遺伝子、疾患、ならびに/または生理学的経路およびネットワークについて記述する。特定の局面では、本発明の組成物は、代謝性の疾患もしくは状態、免疫性の疾患もしくは状態、感染性の疾患もしくは状態、心血管の疾患もしくは状態、消化性の疾患もしくは状態、内分泌腺の疾患もしくは状態、眼の疾患もしくは状態、尿生殖器の疾患もしくは状態、血液の疾患もしくは状態、筋骨格の疾患もしくは状態、神経系の疾患もしくは状態、先天性の疾患もしくは状態、呼吸器の疾患もしくは状態、皮膚の疾患もしくは状態、または癌性の疾患もしくは状態を有するか、これらの疾患もしくは状態を有することが疑われるか、またはこれらの疾患もしくは状態を発生するリスクを有する対象に投与される。
【0011】
特定の局面では、対象もしくは患者は、1種類もしくは複数のmiRNAもしくはmRNAの発現および/または異常な発現に基づいて、治療のために選択され得る。別の局面では、対象もしくは患者は、経路と関連する1種類もしくは複数の遺伝子の異常な発現、または経路と関連する1種類もしくは複数の遺伝子にコードされる1種類もしくは複数のタンパク質の異常な発現を含む、1種類もしくは複数の生物学的経路もしくは生理学的経路における異常に基づいて、治療のために選択され得る。さらに別の局面では、対象もしくは患者は、miRNAの発現の異常、または生物学的経路および/もしくは生理学的経路の異常に基づいて選択され得る。対象は、miRNAもしくはmRNAの発現もしくはその発現の欠如の評価および/または解析に基づく治療もしくは治療レジメンに対する感受性、耐性、および/または有効性に関して評価され得る。対象の評価は、対象もしくは患者に対する1つもしくは複数の治療の実施前、実施中、または実施後に、特定の治療に対する感受性に関して行われる。典型的には、推定または評価は、miRNAおよび/またはmRNAの解析によって、ならびに組織学的検査、免疫組織化学的検査、血液検査などを含むが、これらに限定されない他の評価法の組み合わせによって実施され得る。
【0012】
いくつかの態様では、感染性の疾患または状態は、細菌、ウイルス、寄生虫、または真菌の感染を含む。これらの遺伝子および経路の多くは、さまざまな癌および他の疾患と関連づけられている。癌性の状態は、1種または複数種の遺伝子の調節が治療反応に十分な、星細胞腫、急性骨髄性白血病、乳癌、膀胱癌、子宮頚癌、結腸直腸癌、子宮内膜癌、食道扁平上皮癌、神経膠腫、膠芽腫、胃癌、肝細胞癌、ホジキンリンパ腫、白血病、脂肪腫、黒色腫、マントル細胞リンパ腫、粘液線維肉腫、多発性骨髄腫、神経芽腫、非ホジキンリンパ腫、肺癌、非小細胞肺癌、卵巣癌、食道癌、骨肉腫、膵臓癌、前立腺癌、頭頸部扁平上皮癌、甲状腺癌、尿路上皮癌を含むが、これらに限定されない。典型的には、癌性の状態は、無制限の成長またはアポトーシスを含む細胞死の発生不全と関連する、異常な過剰増殖性状態である。
【0013】
本発明は、miR-143による調節の直接的な標的となる遺伝子、または上流遺伝子の発現のmiR-143が関与する修飾による調節の下流の標的となる遺伝子を同定するための方法および組成物を提供する。さらに本発明は、生物学的試料中でmiR-143の発現の影響を受ける遺伝子の経路およびネットワークについて記載する。これらの遺伝子および経路の多くは、さまざまな癌および他の疾患と関連する。細胞中のmiR-143の発現または機能の変化は、これら重要な遺伝子の発現の変化を招く場合があり、および疾患の発生に寄与する場合がある。miR-143(miRNAがダウンレギュレートされる疾患の場合)、またはmiR-143阻害因子(miRNAがアップレギュレートされる疾患の場合)を、疾患細胞または疾患組織に導入することで治療反応につながる可能性がある。miR-143によって直接的または間接的に調節される重要な遺伝子の内容、およびこれらが関連する疾患について本明細書で説明する。ある局面では、細胞は、上皮、間質、または粘膜の細胞であってよい。細胞は、脳、ニューロン、血液、食道、肺、心血管、肝臓、乳房、骨、甲状腺、腺、副腎、膵臓、胃、腸管、腎臓、膀胱、前立腺、子宮、卵巣、精巣、脾臓、皮膚、平滑筋、心筋、または横紋筋の細胞の可能性があるが、これらに限定されない。ある局面では、細胞、組織、または標的は、miRNAの発現は欠損していない場合があるものの、miRNAの発現または過剰発現に対して治療的に反応する場合がある。miR-143は、これらの任意の疾患の治療標的として使用可能な場合がある。ある態様では、miR-143は、対象、器官、組織、または細胞におけるmiR-143の活性の調節に使用することができる。
【0014】
細胞、組織、または対象は、癌細胞、癌組織であってよく、癌組織を有してもよく、または疾患もしくは状態であると診断されたか、もしくは疾患もしくは状態を発生するリスクのある対象もしくは患者であってよい。ある局面では、癌細胞は、ニューロン、グリア、肺、肝臓、脳、乳房、膀胱、血液、白血病、結腸、子宮内膜、胃、皮膚、卵巣、脂肪、骨、子宮頚部、食道、膵臓、前立腺、腎臓、または甲状腺の細胞である。さらに別の局面では、癌は、星細胞腫、急性骨髄性白血病、乳癌、膀胱癌、子宮頚癌、結腸直腸癌、子宮内膜癌、食道扁平上皮癌、神経膠腫、膠芽腫、胃癌、肝細胞癌、ホジキンリンパ腫、白血病、脂肪腫、黒色腫、マントル細胞リンパ腫、粘液線維肉腫、多発性骨髄腫、神経芽腫、非ホジキンリンパ腫、肺癌、非小細胞肺癌、卵巣癌、食道癌、骨肉腫、膵臓癌、前立腺癌、頭頸部扁平上皮癌、甲状腺癌、尿路上皮癌を含むが、これらに限定されない。
【0015】
本発明の態様は、miR-143の核酸、模倣体、または阻害因子を含む単離された核酸またはこの模倣体を、miR-143のmiRNAによって正または負に調節される遺伝子の発現を調節するのに十分な量で、細胞、組織、または対象に投与する段階を含む、細胞、組織、もしくは対象における遺伝子の発現、または生物学的経路もしくは生理学的経路を調節する方法を含む。「miR-143の核酸配列」または「miR-143阻害因子」は、miR-143またはこの相補物の完全長の前駆体、ならびに5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29ヌクレオチド、またはこれ以上(全ての範囲およびこれらの間の整数を含む)の前駆体miRNAまたはそのプロセシングを受けた配列、またはこれらの相補物を含む。ある態様では、miR-143の核酸配列またはmiR-143阻害因子は、完全長のプロセシングを受けたmiRNA配列またはこの相補物を含み、「miR-143の完全長のプロセシングを受けた核酸配列」または「miR-143の完全長のプロセシングを受けた阻害因子配列」と呼ばれる。さらに別の局面では、miR-143の核酸は、SEQ ID NO:1〜SEQ ID NO:13と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、98%、99%、または100%が同一な、miR-143の少なくとも5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、50ヌクレオチド(全ての範囲およびこれらの間の整数を含む)のセグメントまたは相補的セグメントを含む。miR-143という一般的な語句は、成熟miR-143の配列の少なくとも一部(UGAGAUGAAGCACUGUAGCUCA(SEQ ID NO:1))またはこの相補物を共有する、miR-143ファミリーの全ての成員を含む。
【0016】
「miR-143核酸配列」は、miR-143の完全長の前駆体、および


を含む、他のファミリーの成員を含む。ある局面では、本発明の核酸または模倣体は、前駆体miRNAまたはそのプロセシングを受けた配列の、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29ヌクレオチド、またはこれ以上(全ての範囲およびこれらの間の整数を含む)を含む。ある態様では、miR-143の核酸配列は、完全長のプロセシングを受けたmiRNA配列を含み、「miR-143の完全長のプロセシングを受けた核酸配列」と呼ばれる。さらに別の局面では、miR-143は、本明細書に提供するSEQ ID NOと少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、98%、99%、または100%が同一な、miR-143の少なくとも5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、50ヌクレオチド(全ての範囲およびこれらの間の整数を含む)のセグメントを含む。
【0017】
特定の態様では、miR-143またはmiR-143阻害因子を含む核酸は、hsa-miR-143もしくはhsa-miR-143阻害因子、またはこれらの変形形態である。別の局面では、miR-143の核酸またはmiR-143阻害因子は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10種、またはこれ以上のmiRNAまたはmiRNA阻害因子とともに投与することができる。miRNAまたはその相補物は、同時に、順に、または順序立てて投与することができる。ある局面では、miR-143またはmiR-143阻害因子は、let-7、miR-15a、miR-16、miR-20、miR-21、miR-26a、miR-31、miR-34a、miR-126、miR-145、miR-147、miR-188、miR-200b、miR-200c、miR-215、miR-216、miR-292-3p、および/またはmiR-331の1つまたは複数と組み合わせて投与することができる。miRNAまたはこの阻害因子の全てまたは組み合わせは、1つの製剤として投与することができる。投与は、第2の治療の実施前、実施中、または実施後に実施することができる。
【0018】
miR-143の核酸またはこの相補物は、さまざまな異種核酸配列、すなわちプロモーターやエンハンサーなど、典型的には天然でmiR-143と使用可能に結合した状態では存在しない配列を含んでもよい。miR-143の核酸は組換え核酸であり、かつリボ核酸またはデオキシリボ核酸の場合がある。組換え核酸は、miR-143またはmiR-143阻害因子の発現カセット、すなわち核酸合成の成分を含む環境に導入した場合に核酸を発現する核酸セグメントを含んでもよい。別の局面では、発現カセットは、ウイルスもしくはプラスミドDNAのベクター、または他の治療用核酸ベクター、またはリポソームなどを含む送達媒体中に含まれる。ある局面では、ウイルスベクターは、1×102、1×103、1×104、1×105、1×106、1×107、1×108、1×109、1×1010、1×1011、1×1012、1×1013、1×1014 pfuまたはウイルス粒子(vp)で投与可能である。
【0019】
特定の局面では、miR-143核酸またはmiR-143阻害因子は、合成核酸である。さらに本発明の核酸は、完全に合成か、または部分的に合成である場合がある。さらに別の局面では、本発明の核酸、またはそれらをコードするDNAは、0.001 μgもしくは0.001 mg、0.01 μgもしくは0.01 mg、0.1 μgもしくは0.1 mg、1 μgもしくは1 mg、10 μgもしくは10 mg、20 μgもしくは20 mg、30 μgもしくは30 mg、40 μgもしくは40 mg、50 μgもしくは50 mg、100 μgもしくは100 mg、200 μgもしくは200 mg、400 μgもしくは400 mg、600 μgもしくは600 mg、800 μgもしくは800 mg、1000 μgもしくは1000 mg、2000 μgもしくは2000 mg〜4000 μgもしくは4000 mg(これらの間の全ての値および範囲を含む)で投与可能である。さらに別の局面では、合成核酸を含む本発明の核酸は、体重1 kgあたり0.001 μgまたはmg、0.01 μgまたはmg、0.1 μgまたはmg、1 μgまたはmg、10 μgまたはmg、20 μgまたはmg、30 μgまたはmg、40 μgまたはmg、50 μgまたはmg、100 μgまたはmg〜200 μgまたはmgで投与可能である。本明細書に記載する個々の量は、0.5分、1分、2分、3分、4分、5分、6分、7分、8分、9分、10分、0.5時間、1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、7時間、8時間、9時間、10時間、0.5日、1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日、8日、9日、10日、0.5週、1週、2週、3週、4週、5週、6週、7週、8週、9週、10週、0.5か月、1か月、2か月、3か月、4か月、5か月、6か月、7か月、8か月、9か月、10か月、または0.5年、1年、2年、3年、4年、5年、6年、7年、8年、9年、10年を含む期間で投与可能である(これらの間の全ての値および範囲を含む)。
【0020】
ある態様では、組成物の投与は、経腸または非経口とすることができる。ある局面では、経腸投与は経口投与である。別の局面では、非経口投与は、病巣内、血管内、頭蓋内、胸膜内、腫瘍内、腹腔内、筋肉内、リンパ節内、腺内、皮下、局所、気管支内、気管内、鼻腔内、吸入、または滴下である。本発明の組成物は、局部的または局所的に投与可能であり、必ずしも病変内に直接的に投与する必要はない。
【0021】
ある局面では、調節される遺伝子または遺伝子群は、表1、3、4、および/または5に記載する、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20、25、30、35、40、45、50、100、150、200種類、もしくはそれ以上の遺伝子、または遺伝子の組み合わせを含む。さらに別の局面では、調節される遺伝子または遺伝子群は、表1、3、4、および/または5に記載する、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20、25、30、35、40、45、50、100、150、175種類、もしくはそれ以上の遺伝子、または遺伝子の組み合わせを除外する場合がある。調節は、細胞内、組織内、または器官内における転写、mRNAのレベル、mRNAの翻訳、および/またはタンパク質のレベルの調節を含む。ある局面では、遺伝子の発現、またはmRNAやコードタンパク質などの遺伝子産物のレベルは、下方制御されるか、または上方制御される。特定の局面では、調節される遺伝子は、表1、3、4、および/または5に記載する遺伝子の1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28種類、もしくは全て、またはこれらの任意の組み合わせを含むか、またはこれらから選択される(および除外する場合もある)。ある態様では、調節される遺伝子または調節されるように選択される遺伝子は、表1に由来する。別の態様では、調節される遺伝子または調節されるように選択される遺伝子は、表3に由来する。さらに別の態様では、調節される遺伝子または調節されるように選択される遺伝子は、表4に由来する。なおさらなる態様では、調節される遺伝子または調節されるように選択される遺伝子は、表5に由来する。本発明の態様は、治療様式、例えばmiR-143核酸、miR-143の阻害因子、またはこれらの模倣体の投与の様式を選択する段階の前に、標的細胞の遺伝子発現プロファイルまたはmiRNAプロファイルを得る段階または評価する段階を含む場合もある。アクセッション番号またはデータベースへの登録によって指定される全ての核酸および遺伝子に関連するデータベースの内容は、本出願の出願日の時点において、参照により本明細書に組み入れられる。本発明のある局面では、1種類もしくは複数のmiRNAもしくはmiRNA阻害因子は、1種類の遺伝子を調節することができる。別の局面では、1つもしくは複数の遺伝子経路、細胞経路、または生理学的経路中の1種類もしくは複数の遺伝子は、他のmiRNAと組み合わせた、miR-143核酸およびmiR-143阻害因子を含む1種類もしくは複数のmiRNAまたはその相補物によって調節可能である。
【0022】
miR-143の核酸は、さまざまな異種核酸配列、すなわちプロモーターやエンハンサーなど、典型的には天然ではmiR-143と使用可能に結合した状態では存在しない配列を含んでもよい。miR-143の核酸は組換え核酸であり、かつリボ核酸またはデオキシリボ核酸の可能性がある。組換え核酸は、miR-143の発現カセットを含んでもよい。別の局面では、発現カセットは、ウイルスもしくはプラスミドDNAのベクターまたは他の治療用核酸ベクター、またはリポソームなどを含む輸送用媒体中に含まれる。特定の局面では、miR-143の核酸は合成核酸である。さらに本発明の核酸は、全合成または部分合成であってよい。
【0023】
(表1)pre-miR hsa-miR-143によるヒト癌細胞のトランスフェクションによって発現が上昇する遺伝子(正の値)、または低下する遺伝子(負の値)



【0024】
本発明の別の局面は、miR-143の核酸配列またはmiR-143阻害因子を含む単離された核酸のある量を細胞に投与する段階を含む、細胞経路を調節する方法に関する。細胞、組織、もしくは対象は、癌細胞、癌組織である場合があるか、または癌組織を有する場合があるか、または癌患者である場合がある。アクセッション番号またはデータベースへの登録によって指定される全ての核酸および遺伝子に関連するデータベースの内容は、本出願の出願の時点において、参照により本明細書に組み入れられる。
【0025】
本発明の別の態様は、細胞経路、特に表2に記載する経路、または表1、3、4、および/または5に由来する1種類もしくは複数の遺伝子を含むことが既知の経路の、発現、機能、状況、または状態を調節するのに十分な量でmiR-143核酸配列を含む、ある量の単離核酸を、細胞に投与する段階を含む、細胞経路を調節する方法に関する。細胞経路の調節は、1種類もしくは複数の遺伝子の発現を調節する段階を含むが、これに限定されない。遺伝子の調節は、内在性のmiRNAの機能の阻害、または細胞、組織、もしくは対象への機能性のmiRNAの提供を含む場合がある。調節とは、遺伝子、またはその関連遺伝子産物(例えばmRNA)またはタンパク質の発現のレベルもしくは活性、例えばmRNAレベルが調節され得るか、またはmRNAの翻訳が調節され得ることを意味する。調節は、遺伝子もしくは遺伝子産物を増加させる、すなわち上方制御してもよく、または遺伝子もしくは遺伝子産物(例えばタンパク質のレベルもしくは活性)を減少させる、すなわち下方制御してもよい。
【0026】
さらに別の態様は、以下の1つもしくは複数の段階を含む、miRNAもしくはその模倣体を投与する方法、および/または病理学的状態を有する、病理学的状態を有することが疑われる、もしくは病理学的状態を発生するリスクを有する対象もしくは患者を治療する方法を含む:(a)細胞経路の発現を調節するのに十分な量でmiR-143核酸配列またはmiR-143阻害因子を含む、ある量の単離核酸を患者もしくは対象に投与する段階;ならびに(b)第2の治療を実施する段階であって、細胞経路の調節によって、患者もしくは対象を第2の治療に感作させるか、または第2の治療の有効性を高める、段階。有効性の上昇は、毒性の低減、第2の治療の用量の低減もしくは期間の短縮、または相加的もしくは相乗的な効果を含む場合がある。細胞経路は、以下の表2に記載する1つもしくは複数の経路、または表1、3、4、および/または5の1種類もしくは複数の遺伝子を含むことが既知である経路を含むが、これらに限定されない場合がある。第2の治療は、単離核酸またはmiRNAもしくは阻害因子の投与前、投与中、および/または投与後に実施することができる。
【0027】
第2の治療には、siRNAやアンチセンスオリゴヌクレオチドなどの第2のmiRNAまたは治療的核酸の投与を含めることが可能であるか、または医薬、化学療法、放射線療法、薬剤治療、免疫療法などのさまざまな標準的な治療を含めてもよい。本発明の態様は、適切な治療法の選択を目的とした、遺伝子発現もしくは遺伝子発現プロファイルの決定または評価を含む場合もある。特定の局面では、第2の治療は化学療法である。化学療法は、パクリタキセル、シスプラチン、カルボプラチン、ドキソルビシン、オキサリプラチン、ラロタキセル(larotaxel)、タキソール、ラパチニブ、ドセタキセル、メトトレキセート、カペシタビン、ビノレルビン、シクロホスファミド、ゲムシタビン、アムルビシン、シタラビン、エトポシド、カンプトセシン、デキサメタゾン、ダサチニブ、ティピファニブ、ベバシズマブ、シロリムス、テムシロリムス、エベロリムス、ロナファルニブ(lonafarnib)、セツキシマブ、エルロチニブ、ゲフィチニブ、メシル酸イマチニブ、リツキシマブ、トラスツズマブ、ノコダゾール、ソラフェニブ、スニチニブ、ボルテゾミブ、アレムツズマブ、ゲムツズマブ、トシツモマブ、またはイブリツモマブを含むが、これらに限定されない場合がある。
【0028】
本発明の態様は、以下の1つもしくは複数の段階を含む、疾患または状態を有する対象を治療する方法を含む:(a)表1、3、4、および/または5から選択される1種類もしくは複数の遺伝子の発現プロファイルを決定する段階;(b)発現プロファイルに基づいて治療に対する対象の感受性を評価する段階;(c)評価された感受性に基づいて治療を選択する段階;ならびに(d)選択された治療で対象を治療する段階。典型的には、疾患または状態は、成分として指標を有するか、または表1、3、4、および/または5の1種類もしくは複数の遺伝子の誤調節を生じる。
【0029】
ある局面では、2、3、4、5、6、7、8、9、10種類、もしくはそれ以上のmiRNAを、順にまたは組み合わせて、使用してもよい。例えば、miR-143またはmiR-143阻害因子と別のmiRNAの任意の組み合わせである。別の態様は、表1、3、4、および/または5に由来する1種類もしくは複数の遺伝子、または任意のこれらの組み合わせの発現の評価を含む、細胞中または組織中のmiR-143状態を示す発現プロファイルの同定および評価を含む。
【0030】
「miRNA」という語句は、その一般的かつ単純な意味で使用され、かつRNAによる遺伝子調節に関与する、真核生物に存在するマイクロRNA分子を意味する。これについては例えば、参照により本明細書に組み入れられるCarrington et al., 2003を参照されたい。この語句は、前駆体からプロセシングを受けた1本鎖RNA分子、または場合によってはその前駆体を意味するように使用することができる。
【0031】
いくつかの態様では、細胞が特定のmiRNAを内在的に発現するか否かを、またはこのような発現が特定の条件で影響を受けるか否かを、または特定の疾患状態のどの時期にあるかを知ることが有用な場合がある。したがって、本発明のいくつかの態様では、方法は、細胞または細胞を含む試料を、対象遺伝子の発現レベルの指標となる1種類もしくは複数のマーカー遺伝子もしくはmRNAまたは他の分析対象物の存在に関して分析する段階を含む。したがって、いくつかの態様では、方法は、試料のRNAプロファイルを作成する段階を含む。「RNAプロファイル」または「遺伝子発現プロファイル」という語句は、試料中の1種類もしくは複数の遺伝子または遺伝子マーカーの発現パターンに関する一連のデータを意味し(例えば表1、3、4、および/または5に由来する1種類もしくは複数のマーカーを同定する複数の核酸プローブ);RNAのセットを使用して、例えば当業者に周知の核酸増幅法またはハイブリダイゼーション法を用いて核酸プロファイルが得られることが企図される。患者由来の試料の発現プロファイルと、正常試料または非病原性試料に由来する発現プロファイルなどの標準発現プロファイルとの差は、病原性の疾患または癌性状態の指標となる。2種類の任意のmiRNAが、特定の疾患または状態で変化する、表1、表2、表4、および/または表5に記載する一群の標的遺伝子または経路を共有しているという観察を元に、阻害因子を含む核酸またはプローブセットを選択することができる。これら2種類のmiRNAは、治療の改善(すなわち毒性の軽減、効率の上昇、寛解の延長、または対象の状態における他の改善)につながる可能性があり、追加的もしくは改善された治療反応をもたらす効率の上昇、追加的な効率、または相乗的な効率につながる可能性がある。任意の特定の理論に拘泥することなく、2種類のmiRNAの相乗作用は、同じ遺伝子または(共通の経路もしくは生物学的な最終結果によって関連づけられる)関連する遺伝子が、(例えば同じ標的上または関連標的上の異なる結合部位のために)より効率的に調節された結果である、および/または異なる遺伝子であるがそのいずれもが疾患もしくは状態に関連づけられている遺伝子が調節された結果である可能性がある。
【0032】
ある態様では、miR-143またはmiR-143阻害因子およびlet-7を、急性骨髄性白血病、乳癌、膀胱癌、子宮頚癌、結腸直腸癌、子宮内膜癌、神経膠腫、膠芽腫、胃癌、肝細胞癌、ホジキンリンパ腫、白血病、黒色腫、粘膜線維肉腫、多発性骨髄腫、神経芽腫、非ホジキンリンパ腫、非小細胞肺癌、卵巣癌、食道癌、膵臓癌、前立腺癌、頭頸部扁平上皮癌、甲状腺癌、または尿路上皮癌を有する患者に投与することができる。
【0033】
さらなる局面には、miR-143またはmiR-143阻害因子およびmiR-15を、星細胞腫、急性骨髄性白血病、乳癌、膀胱癌、子宮頚癌、結腸直腸癌、子宮内膜癌、神経膠腫、膠芽腫、胃癌、肝細胞癌、胃癌、肝細胞癌、ホジキンリンパ腫、黒色腫、マントル細胞リンパ腫、粘液線維肉腫、多発性骨髄腫、神経芽腫、非ホジキンリンパ腫、非小細胞肺癌、卵巣癌、食道癌、骨肉腫、膵臓癌、前立腺癌、頭頸部扁平上皮癌、または甲状腺癌を有する患者に投与する段階が含まれる。
【0034】
さらに別の局面では、miR-143またはmiR-143阻害因子およびmiR-16を、星細胞腫、乳癌、膀胱癌、結腸直腸癌、子宮内膜癌、膠芽腫、胃癌、肝細胞癌、ホジキンリンパ腫、黒色腫、マントル細胞リンパ腫、粘液線維肉腫、多発性骨髄腫、非小細胞肺癌、卵巣癌、食道癌、膵臓癌、前立腺癌、頭頸部扁平上皮癌、または甲状腺癌を有する患者に投与する。
【0035】
本発明の局面には、miR-143またはmiR-143阻害因子およびmiR-20を、星細胞腫、急性骨髄性白血病、乳癌、膀胱癌、結腸直腸癌、子宮内膜癌、神経膠腫、膠芽腫、胃癌、肝細胞癌、黒色腫、マントル細胞リンパ腫、神経芽腫、非小細胞肺癌、卵巣癌、食道癌、膵臓癌、前立腺癌、または頭頸部扁平上皮癌を有する患者に投与する方法が含まれる。
【0036】
さらに別の局面では、miR-143またはmiR-143阻害因子およびmiR-21を、星細胞腫、急性骨髄性白血病、乳癌、膀胱癌、子宮頚癌、結腸直腸癌、子宮内膜癌、神経膠腫、膠芽腫、胃癌、肝細胞癌、ホジキンリンパ腫、白血病、黒色腫、マントル細胞リンパ腫、多発性骨髄腫、非ホジキンリンパ腫、非小細胞肺癌、卵巣癌、食道癌、骨肉腫、膵臓癌、前立腺癌、頭頸部扁平上皮癌、または甲状腺癌を有する患者に投与する。
【0037】
さらに別の局面では、miR-143またはmiR-143阻害因子およびmiR-26aを、急性骨髄性白血病、乳癌、膀胱癌、子宮頚癌、結腸直腸癌、神経膠腫、膠芽腫、胃癌、肝細胞癌、白血病、黒色腫、多発性骨髄腫、神経芽腫、非ホジキンリンパ腫、非小細胞肺癌、卵巣癌、食道癌、骨肉腫、膵臓癌、または前立腺癌を有する患者に投与する。
【0038】
さらに別の局面では、miR-143またはmiR-143阻害因子およびmiR-34aを、星細胞腫、急性骨髄性白血病、乳癌、膀胱癌、子宮頚癌、結腸直腸癌、子宮内膜癌、神経膠腫、膠芽腫、胃癌、肝細胞癌、ホジキンリンパ腫、白血病、黒色腫、マントル細胞リンパ腫、多発性骨髄腫、非ホジキンリンパ腫、非小細胞肺癌、卵巣癌、食道癌、骨肉腫、膵臓癌、前立腺癌、頭頸部扁平上皮癌、甲状腺癌、または尿路上皮癌を有する患者に投与する。
【0039】
ある局面では、miR-143またはmiR-143阻害因子およびmiR-126を、星細胞腫、急性骨髄性白血病、乳癌、膀胱癌、子宮頚癌、結腸直腸癌、子宮内膜癌、神経膠腫、膠芽腫、胃癌、肝細胞癌、ホジキンリンパ腫、白血病、黒色腫、マントル細胞リンパ腫、非ホジキンリンパ腫、非小細胞肺癌、卵巣癌、食道癌、骨肉腫、膵臓癌、前立腺癌、頭頸部扁平上皮癌、または甲状腺癌を有する患者に投与する。
【0040】
さらに別の局面では、miR-143またはmiR-143阻害因子およびmiR-147を、星細胞腫、乳癌、膀胱癌、子宮頚癌、結腸直腸癌、子宮内膜癌、食道扁平上皮癌、神経膠腫、膠芽腫、胃癌、肝細胞癌、ホジキンリンパ腫、白血病、脂肪腫、黒色腫、マントル細胞リンパ腫、粘膜線維肉腫、多発性骨髄腫、非ホジキンリンパ腫、非小細胞肺癌、卵巣癌、食道癌、骨肉腫、膵臓癌、前立腺癌、頭頸部扁平上皮癌、または甲状腺癌を有する患者に投与する。
【0041】
さらに別の局面では、miR-143またはmiR-143阻害因子およびmiR-188を、星細胞腫、急性骨髄性白血病、乳癌、膀胱癌、子宮頚癌、結腸直腸癌、子宮内膜癌、食道扁平上皮癌、神経膠腫、膠芽腫、胃癌、肝細胞癌、白血病、黒色腫、多発性骨髄腫、非ホジキンリンパ腫、非小細胞肺癌、卵巣癌、食道癌、膵臓癌、前立腺癌、頭頸部扁平上皮癌、または甲状腺癌を有する患者に投与する。
【0042】
他の局面では、miR-143またはmiR-143阻害因子およびmiR-215を、星細胞腫、急性骨髄性白血病、乳癌、膀胱癌、子宮頚癌、結腸直腸癌、子宮内膜癌、食道扁平上皮癌、神経膠腫、膠芽腫、胃癌、肝細胞癌、ホジキンリンパ腫、白血病、脂肪腫、黒色腫、マントル細胞リンパ腫、粘膜線維肉腫、多発性骨髄腫、神経芽腫、非ホジキンリンパ腫、非小細胞肺癌、卵巣癌、食道癌、骨肉腫、膵臓癌、前立腺癌、頭頸部扁平上皮癌、甲状腺癌、または尿路上皮癌を有する患者に投与する。
【0043】
ある局面では、miR-143またはmiR-143阻害因子およびmiR-216を、星細胞腫、乳癌、子宮頚癌、結腸直腸癌、子宮内膜癌、神経膠腫、膠芽腫、胃癌、肝細胞癌、ホジキンリンパ腫、白血病、非ホジキンリンパ腫、非小細胞肺癌、卵巣癌、食道癌、骨肉腫、前立腺癌、または頭頸部扁平上皮癌を有する患者に投与する。
【0044】
別の局面では、miR-143またはmiR-143阻害因子およびmiR-292-3pを、星細胞腫、急性骨髄性白血病、乳癌、膀胱癌、子宮頚癌、結腸直腸癌、子宮内膜癌、神経膠腫、膠芽腫、胃癌、肝細胞癌、白血病、脂肪腫、黒色腫、粘膜線維肉腫、多発性骨髄腫、神経芽腫、非ホジキンリンパ腫、非小細胞肺癌、卵巣癌、食道癌、骨肉腫、膵臓癌、前立腺癌、頭頸部扁平上皮癌、甲状腺癌、または尿路上皮癌を有する患者に投与する。
【0045】
さらに別の局面では、miR-143またはmiR-143阻害因子およびmiR-331を、星細胞腫、急性骨髄性白血病、乳癌、膀胱癌、子宮頚癌、結腸直腸癌、子宮内膜癌、神経膠腫、膠芽腫、胃癌、肝細胞癌、白血病、黒色腫、粘膜線維肉腫、多発性骨髄腫、神経芽腫、非ホジキンリンパ腫、卵巣癌、食道癌、骨肉腫、膵臓癌、前立腺癌、頭頸部扁平上皮癌、または甲状腺癌を有する患者に投与する。
【0046】
さらに別の局面では、miR-143またはmiR-143阻害因子およびmiR-200b/cを、乳癌、子宮頚癌、結腸直腸癌、神経膠腫、膠芽腫、胃癌、肝細胞癌、白血病、脂肪腫、多発性骨髄腫、非小細胞肺癌、卵巣癌、食道癌、骨肉腫、膵臓癌、前立腺癌、頭頸部扁平上皮癌、または甲状腺癌を有する患者に投与する。
【0047】
miR-143またはmiR-143阻害因子が、1種類もしくは複数の他のmiRNA分子と組み合わせて投与される場合、2種の異なるmiRNAもしくは阻害因子は、同時にまたは連続的に投与され得ることが企図される。いくつかの態様では、治療は、1種類のmiRNAもしくは阻害因子によって開始され、かつこの治療に続いて、他のmiRNAもしくは阻害因子による治療が、1分、2分、3分、4分、5分、6分、7分、8分、9分、10分、15分、20分、25分、30分、35分、40分、45分、50分、55分、1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、7時間、8時間、9時間、10時間、11時間、12時間、13時間、14時間、15時間、16時間、17時間、18時間、19時間、20時間、21時間、22時間、23時間、24時間、1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、または1か月間、2か月間、3か月間、4か月間、5か月間、6か月間、7か月間、8か月間、9か月間、10か月間、11か月間、もしくは12か月間、または任意のこのような組み合わせの期間を経た後に実施される。
【0048】
別の態様は、表1、3、4、および/または5に由来する1種類もしくは複数の遺伝子、または任意のこれらの組み合わせの発現の評価を含む、細胞もしくは組織中のmiR-143状態を示す発現プロファイルの同定および評価を含む。
【0049】
「miRNA」という語句は、その一般的な意味および単純な意味で使用され、かつRNAによる遺伝子調節に関与し真核生物に存在するマイクロRNA分子を意味する。これについては例えば、参照により本明細書に組み入れられる、Carrington et al., 2003を参照されたい。この語句は、前駆体からプロセシングを受けた1本鎖RNA分子、または場合によっては前駆体そのものもしくはその模倣体を意味するように使用することができる。
【0050】
いくつかの態様では、細胞が特定のmiRNAを内在的に発現するか否かを、またはそのような発現が特定の条件下で影響を受けるか否かを、または特定の疾患状態のどの時期にあるかを知ることが有用な場合がある。したがって、本発明のいくつかの態様では、方法は、細胞または細胞を含む試料を、対象遺伝子の発現レベルの指標となる1種類もしくは複数のmiRNAマーカー遺伝子もしくはmRNAまたは他の分析対象物の存在に関して分析する段階を含む。したがって、いくつかの態様では、方法は、試料のRNAプロファイルを作成する段階を含む。「RNAプロファイル」または「遺伝子発現プロファイル」という語句は、試料中の1種類もしくは複数の遺伝子または遺伝子マーカーの発現パターンに関する一連のデータを意味し(例えば表1、3、4、および/または5に由来する1種類もしくは複数のマーカーまたは遺伝子を同定する複数の核酸プローブ);核酸のプロファイルが一連のRNAを使用して、例えば当業者に周知の核酸増幅法またはハイブリダイゼーション法で得られることが企図される。患者由来の試料の発現プロファイルと、正常試料または非病原性試料に由来する発現プロファイル、またはデジタル化された基準などの基準発現プロファイルとの差は、病的な疾患または癌性の状態を示す。ある局面では、発現プロファイルは、そのような状態の発生の傾向または確率の指標(すなわち疾患もしくは状態のリスク因子)となる。このようなリスクまたは傾向は、治療、モニタリングの強化、予防的対策などを意味する場合がある。核酸またはプローブセットは、対応するmRNAのセグメントを含むか、またはそれらを同定する場合があり、かつ表1、3、4、および/または5に列挙されているか、または本明細書に記載する方法で同定される、遺伝子もしくは遺伝子マーカー、または核酸、mRNA、またはこれらを代表するプローブの、これらの間から導き出せる任意の整数もしくは範囲を含む、

もしくはそれ以上のセグメントの全体もしくは一部を含む場合がある。
【0051】
本発明のある態様は、患者に由来する試料中の1種類もしくは複数のmiRNAまたはマーカーの発現プロファイルを測定するか、または決定する段階を含む、患者の病理学的状態を評価するための、予後を判定するための、または治療するための組成物および方法に関し、ここで患者に由来する試料の発現プロファイルと、正常試料の発現プロファイルまたは基準発現プロファイルとの差は、病理学的状態、特に癌を意味する。本発明のある局面では、miRNA、細胞経路、遺伝子、または遺伝子マーカーは、任意の組み合わせを含む、表1、3、4、および/または5に記載した1つもしくは複数の経路またはマーカーであるか、またはこれらの典型である。
【0052】
本発明の局面は、病的な状態の診断、評価、もしくは治療、または病的な状態の出現の予防を含む。例えば方法は、病理学的状態のスクリーニングに;病理学的状態の予後の評価に;病理学的状態の病期決定に;治療に対する病理学的状態の反応の評価に;または第1の治療としての遺伝子、遺伝子群、もしくは関連経路の発現の調節のために、または対象を第2の治療に感受性にするか、もしくは第2の治療に大きく反応させるために使用することができる。特定の局面では、患者の病理学的状態の評価は、患者の予後の評価である場合がある。予後は、生存期間すなわち推定生存期間の推定、治療に対する反応の評価などを含むが、これらに限定されない場合がある。ある局面では、1種類もしくは複数の遺伝子またはマーカーの発現の変化によって、病的な状態を有する患者の予後を予測できる(マーカーは、任意の組み合わせを含む、表1、3、4、および/または5の1種類もしくは複数である)。
【0053】
(表2)ヒト癌細胞におけるhsa-miR-143の過剰発現によって有意に影響を受ける機能的細胞経路

【0054】
(表3)Ref Seq ID 標準(Pruitt et al., 2005)に対するhsa-miR-143の推定標的遺伝子


























































【0055】
(表4)Ref Seq ID 標準(Pruitt et al., 2005)に関して、pre-miR hsa-miR-143によるトランスフェクション後にヒト癌細胞においてmRNAの発現レベルの変化を示したhsa-miR-143の標的

【0056】
mRNAの発現レベルがhsa-miR-143による影響を受けるhsa-miR-143の推定遺伝子標的は、その発現レベルの操作による癌の治療および他の疾患の治療の、特に有用な候補となる。
【0057】
本発明のある態様は、1種類もしくは複数のマーカー、遺伝子、または1種類もしくは複数の遺伝子を代表する核酸セグメントの発現を、増幅アッセイ、ハイブリダイゼーションアッセイ、またはタンパク質アッセイなどの、当業者に周知のアッセイで判定する段階を含む。ある局面では、増幅アッセイは、定量的RT-PCRなどの定量的増幅アッセイである場合がある。さらに別の局面では、ハイブリダイゼーションアッセイは、アレイハイブリダイゼーションアッセイまたは溶液ハイブリダイゼーションアッセイを含む場合がある。試料に由来する核酸は、試料から標識することが可能であり、かつ/または標識された核酸を1種類もしくは複数の核酸プローブにハイブリダイズさせることができる。核酸、mRNA、および/または核酸プローブは、支持体に結合させることができる。このような支持体は当業者に周知であり、ガラス、プラスチック、金属、またはラテックスを含むが、これらに限定されない。本発明の特定の局面では、支持体は平面状か、またはビーズもしくは他の幾何学的形状、または当技術分野で既知の配置を取り得る。タンパク質は典型的には、イムノブロット、クロマトグラフィー、もしくは質量分析、または当業者に既知の他の方法で分析される。
【0058】
本発明は、本発明の組成物または本発明の方法を実施するための組成物を含むキットにも関する。いくつかの態様では、キットを使用して、1種類もしくは複数のマーカー分子を評価することができ、かつ/または1種類もしくは複数のmiRNAまたはmiRNA阻害因子を発現させることができる。ある態様では、キットは、評価対象のマーカー、または発現対象もしくは調節対象のmiRNAもしくはmiRNA阻害因子と関連する、少なくともまたは最大で

もしくはそれ以上のプローブ、組換え核酸、または合成核酸分子を含み、かつこれらの間から導き出せる任意の範囲または組み合わせを含む場合がある。キットは、チューブ、ボトル、バイアル、シリンジ、または他の適切な容器手段などの、個別に包装可能か、または容器内に配置可能な成分を含む場合がある。個々の成分は、濃縮された量でキット内に提供することも可能であり;いくつかの態様では、成分は、他の成分を含む溶液中にある場合と同じ濃度で個別に提供される。成分の濃度は、1×、2×、5×、10×、もしくは20×、またはそれ以上として提供され得る。治療、予後判定、または診断的応用のための本発明のプローブ、合成核酸、組換え核酸、または非合成核酸を使用するキットは、本発明の一部として含まれる。特に企図されるのは、本明細書に記載する生物学的活性、または1種類もしくは複数のマーカー遺伝子の発現または遺伝子経路に影響することが報告されている任意のmiRNAに対応する任意のそのような分子である。ある局面では、陰性対照および/または陽性対照が、キットのいくつかの態様に含まれる。対照分子を使用して、トランスフェクション効率および/またはトランスフェクションによって誘導される細胞の変化の制御を検証することができる。
【0059】
ある態様は、適切な容器手段中に、2種類もしくはそれ以上の核酸ハイブリダイゼーション用試薬または増幅用試薬を含む、試料の核酸プロファイリングによって、患者における病理学的状態、または病理学的状態を発生するリスクを評価するためのキットに関する。キットは、試料中の核酸を標識するための試薬、および/または核酸ハイブリダイゼーション用試薬を含む場合がある。ハイブリダイゼーション用試薬は典型的には、ハイブリダイゼーション用プローブを含む。増幅用試薬は、増幅用プライマー、試薬、および酵素を含むが、これらに限定されない。
【0060】
本発明のいくつかの態様では、発現プロファイルは、以下を含む段階によって作成される:(a)試料中の核酸を標識する段階;(b)核酸をいくつかのプローブにハイブリダイズさせるか、またはいくつかの核酸を増幅する段階;ならびに(c)プローブに対する核酸ハイブリダイゼーションを決定および/または定量するか、または増幅産物を検出および定量して発現プロファイルを作成する段階。これについては、いずれも参照により本明細書に組み入れられる米国特許仮出願第60/575,743号および米国特許仮出願第60/649,584号、ならびに米国特許出願第11/141,707号および米国特許出願第11/273,640号を参照されたい。
【0061】
本発明の方法は、miRNAおよび/またはマーカー核酸の発現プロファイルに基づいて患者の予後を診断する段階および/または評価する段階を含む。ある態様では、細胞中の特定の遺伝子もしくは遺伝子経路、または一群の核酸の発現のレベルの上昇または低下は、正常または非病原性の細胞試料もしくは組織試料におけるこれらの発現レベルと比較して、疾患状態または病理学的状態と相関する。この相関によって、評価対象の生物学的試料中の1種類もしくは複数の核酸の発現レベルが測定され、続いて正常または非病原性の細胞試料もしくは組織試料の発現レベルと比較される際に、診断および/または予後判定の方法の実施が可能となる。患者、特に癌などの特定の疾患もしくは状態を有することが疑われるか、またはその傾向を有する患者の発現プロファイルが、本出願で説明された任意の、または一群のmiRNAおよび/または核酸を評価することで作成可能であることが特に企図される。患者から作成される発現プロファイルは、特定の疾患または状態に関する情報を提供するプロファイルとなる。多くの態様でプロファイルは、核酸のハイブリダイゼーションまたは増幅(例えばアレイハイブリダイゼーションもしくはRT-PCR)を用いて作成される。ある局面では、発現プロファイルを、組織学的検査、血清のタンパク質プロファイル、および/または細胞遺伝学的評価などの他の診断検査および/または予後判定検査とともに使用することができる。
【0062】
(表5)さまざまな悪性腫瘍の治療に対する予後予測的価値および治療的価値を有するhsa-miR-143によって変化する腫瘍関連mRNA

省略形:AC、星細胞腫;ALCL、未分化大細胞リンパ腫;ALL、急性リンパ芽球性白血病;AML、急性骨髄性白血病;BC、乳癌;BCL、B細胞リンパ腫;BldC、膀胱癌;CeC、子宮頚癌;CLL、慢性リンパ芽球性白血病;CRC、結腸直腸癌;EC、子宮内膜癌;G、神経膠腫;GB、膠芽腫;GC、胃癌;HCC、肝細胞癌;HL、ホジキンリンパ腫;L、白血病;LC、肺癌;M、黒色腫;MB、髄芽腫;MCL、マントル細胞リンパ腫;MM、多発性骨髄腫;My、骨髄腫;NHL、非ホジキンリンパ腫;NSCLC、非小細胞肺癌;OC、卵巣癌;ODG、乏突起細胞腫;OepC、食道癌;OS、骨肉腫;PaC、膵臓癌;PC、前立腺癌;RCC、腎細胞癌;SCCHN、頭頸部扁平上皮癌;SCLC、小細胞肺癌;TC、甲状腺癌;TT、精巣腫瘍。
【0063】
本方法は、以下を含む1つもしくは複数の段階をさらに含むことができる:(a)患者から試料を得る段階、(b)試料から核酸を単離する段階、(c)試料から単離核酸を標識する段階、および(d)標識された核酸を1種類もしくは複数のプローブとハイブリダイズさせる段階。本発明の核酸は、表1、3、4、および/または5の1種類もしくは複数の遺伝子またはマーカーを代表する核酸の配列または相補的配列を有する少なくとも1つのセグメントを含む1種類もしくは複数の核酸を含む。
【0064】
本明細書に記載する任意の方法または組成物は、本明細書に記載する他の任意の方法または組成物に関して実行可能であること、および異なる態様を組み合わせることが可能であることが企図される。遺伝子を代表するmiRNA分子、miRNA、遺伝子、および核酸に関して本明細書で説明された任意の方法および組成物は、合成核酸に関して実施可能であることが特に企図される。いくつかの態様では、合成核酸は、生理学的な環境におけるmiRNAなどといった、プロセシングを受けた核酸、すなわち成熟した核酸となることを可能とする適切な条件に曝露される。当初出願された請求項は、出願された任意の請求項または出願された請求項のさまざまな組み合わせに複数従属する請求項を包含することが企図されている。
【0065】
また、特定の遺伝子(その代表的な断片を含む)、mRNA、または指定のmiRNAを含む本発明の任意の態様も、配列が、指定のmiRNAの成熟配列と少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%同一なmiRNAを含む態様を包含することが企図される。
【0066】
遺伝子もしくはそのマーカーまたはmiRNAに関する一般的な記述が、特に明記した部分を除いて、その遺伝子ファミリーのメンバー(番号によって識別される)またはそれらの代表的な断片の任意のものを意味するように、簡便な表記法が使用されることがさらに理解されるであろう。当業者であれば、「遺伝子ファミリー」が、同じコード配列またはmiRNAのコード配列を有する一群の遺伝子を意味することを理解する。典型的には、遺伝子ファミリーのmiRNAのメンバーは、いくつかの以下のイニシャルによる記述法によって同定される。例えば、miR-16-1およびmiR-16-2は、miR-16遺伝子ファミリーのメンバーであり、かつ「mir-7」は、miR-7-1、miR-7-2、およびmiR-7-3を意味する。さらに、特に明記した部分を除いて、簡便な表記法は、関連するmiRNA(文字で区別される)を意味する。このような簡便な表記法以外の表記法が使用される場合もある。
【0067】
本発明の他の態様は、本出願を通じて説明される。本発明の1つの局面に関して説明される任意の態様は、本発明の他の局面に提供される(逆も可)。「実施例」および「詳細な説明」のセクションにおける態様は、本発明の全ての局面に適用可能な本発明の態様であると理解される。
【0068】
「阻害する」、「低下させる」、もしくは「予防」、またはこれらの語句に類する任意の語句は、特許請求の範囲および/または明細書において使用される場合に、所望の結果を達成するための任意の測定可能な低下もしくは完全な阻害を含む。
【0069】
特許請求の範囲および/または明細書において、「〜を含む(comprising)」という語句とともに使用される場合における、「1つの(a、an)」という語句の使用は、「1つ(one)」を意味する場合があるが、「1つまたは複数の(one or more)」、「少なくとも1つの(at least one)」、および「1つまたは複数の(one or more than one)」という意味とも一致する。
【0070】
本出願を通じて、「約」という語句は、値が、その値の決定に使用される装置または方法における標準偏差を含むことを意味するように使用される。
【0071】
特許請求の範囲における「または」という語句の使用は、特に二者択一のみを意味するか、または二者択一が相互排他的であると明示的に記載する場合を除いて、「および/または」を意味するように使用されるが、本開示は、二者択一のみ、および「および/または」を意味する定義を支持する。
【0072】
本明細書および特許請求の範囲で使用するように、「〜を含む(comprising)」(および「〜を含む(comprise)」や「〜を含む(comprises)」など「含む」の任意の語形)、「〜を有する(having)」(および「〜を有する(have)」や「〜を有する(has)」など「有する」の任意の語形)、「〜を包含する(including)」(および「〜を包含する(includes)」や「〜を包含する(include)」など「包含する」の任意の語形)、または「〜を含有する(containing)」(および「〜を含有する(contains)」や「〜を含有する(contain)」など「含有する」の任意の語形)という語句は、包含的であるかまたは制限がなく、かつ他の記載されていない要素または方法の段階を除外しない。
【0073】
本発明の他の目的、特性、および利点は、以下の詳細な説明から明らかになるであろう。しかしながら、詳細な説明および特定の実施例は、本発明の特定の態様を意味する一方で、説明を目的としてのみ示されると理解されるべきである。というのは、本発明の趣旨および範囲内における、さまざまな変更および改変は、その詳細な説明から当業者に明らかになるからである。
【発明を実施するための形態】
【0074】
発明の詳細な説明
本発明は、同定された遺伝子の発現によって示される、遺伝子およびこれらの遺伝子に関連する生物学的経路の同定および解析に関する組成物および方法、ならびにこれらに関連するmiRNAの、治療、予後判定、および診断的応用のための使用、特に、miR-143の発現またはこれらの異常な発現に関連する病理学的状態の、直接的または間接的な評価および/または同定に関連する方法および組成物に関する。
【0075】
ある局面において本発明は、miR-143ファミリーの成員(lla-mir-143 MI0002552;xtr-mir-143 MI0004937;dre-mir-143-2 MI0002008;rno-mir-143 MI0000916;ptr-mir-143 MI0002549;ppy-mir-143 MI0002551;ggo-mir-143 MI0002550;dre-mir-143-1 MI0002007;hsa-mir-143 MI0000459;ppa-mir-143 MI0002553;mdo-mir-143 MI0005302;およびmmu-mir-143 MI0000257を含むが、これらに限定されない)の任意の1つもしくは組み合わせの発現の上昇もしくは低下の結果として、ある遺伝子の発現が(正常に対して)低下もしくは上昇する、および/または遺伝子の発現が、それらの発現の低下の結果として(正常に対して)上昇する細胞または対象の、評価、解析、および/または治療の方法に関する。発現プロファイルおよび/またはmiR-143の発現または発現の不在に対する反応は、病理学的状態(例えば癌)を有する個体の指標となる可能性がある。
【0076】
列記したmiRNAまたは列記したマーカー(それらの代表的な核酸を含む)の任意の1つまたは組み合わせを特徴とする予後判定アッセイを用いて、患者を評価して、どの治療レジメン(もしあれば)が正当化されるかを判定することができる。上記の診断アッセイに関しては、低い発現を定義する絶対値は、miRNAの測定に使用されるプラットフォームに依存する。診断アッセイに関して記載した同じ方法を、予後判定アッセイに使用することができる。
【0077】
I.治療法
本発明の態様は、細胞への導入時に内在性のmiRNAの活性を発現するか、または内在性のmiRNAを阻害する核酸に関する。ある局面では、核酸は合成または非合成のmiRNAである。配列特異的なmiRNA阻害因子を使用することで、細胞内における1つもしくは複数の内在性のmiRNAの活性、ならびに内在性のmiRNAによる調節を受けるこれらの遺伝子および関連する経路を、連続的に、または組み合わせて阻害することができる。
【0078】
本発明は、いくつかの態様では、細胞内においてmiRNAとして、またはmiRNA阻害因子として機能する短い核酸分子に関する。「短い」という語句は、1本のポリヌクレオチドの長さが、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、50、100、もしくは150ヌクレオチド、またはこれ未満(これらの間から導き出せる全ての整数または範囲を含む)であることを意味する。核酸分子は典型的には合成である。「合成」という語句は、天然では細胞内で作られない核酸分子を意味する。ある局面では、その化学構造は、内在性の前駆体miRNAもしくはmiRNA分子、またはこれらの相補物などの天然の核酸分子とは異なる。いくつかの態様では、本発明の核酸は、天然の核酸の配列と同一か、または相補的な全体の配列を有しないが、そのような分子は、天然の配列またはその相補物の全体もしくは一部を含む場合がある。しかしながら、細胞に投与された合成核酸はその後、その構造または配列が、成熟miRNA配列などの非合成もしくは天然の核酸と同じとなるように、細胞内で修飾または改変され得ることが企図される。例えば合成核酸は、前駆体miRNA配列とは異なる配列を有する場合があるが、その配列は細胞内に入ると、内在性の、プロセシングを受けるmiRNA、またはその阻害因子と同じとなるように変化する場合がある。「単離された」という語句は、本発明の核酸分子が最初に、(配列もしくは構造に関して)異なる、および望ましくない核酸分子から、単離核酸の集団が少なくとも約90%相同であり、かつ他のポリヌクレオチド分子に対して少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%、または100%相同である場合があるように分離されることを意味する。本発明の多くの態様では、核酸はインビトロで合成されて、細胞内の内在性の核酸から単離される。しかしながら、単離核酸はその後、混合可能であるか、またはまとめてプール可能であることが理解されよう。ある局面では、本発明の合成miRNAはRNAまたはRNA類似体である。miRNA阻害因子は、DNAもしくはRNA、またはこれらの類似体である場合がある。本発明のmiRNAおよびmiRNA阻害因子は、集合的に「合成核酸」と呼ばれる。
【0079】
いくつかの態様では、17〜130残基の長さを有するmiRNAまたは合成miRNAが存在する。本発明は、これらの間の任意の整数または任意の範囲を含む、少なくとも、もしくは最大で

もしくはそれ以上の長さの残基のmiRNA分子もしくは合成miRNA分子に関する。
【0080】
ある態様では、合成miRNAは、(a)配列または結合領域が5'→3'の方向で成熟miRNA配列の全体もしくは一部と同一か、または相補的である「miRNA領域」、および(b)配列が5'→3'の方向で(a)のmiRNA配列に対して60%〜100%相補的な「相補的領域」を有する。ある態様では、これらの合成miRNAも、上記の手順で単離される。「miRNA領域」という語句は、天然の成熟miRNA配列、またはこれらの相補物の配列全体と、少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、または100%(これらの間の全ての整数を含む)同一な、合成miRNA上の領域を意味する。ある態様では、miRNA領域は、天然のmiRNAの配列、またはこれらの相補物と

同一であるか、または少なくとも同一である。
【0081】
「相補的領域」または「相補物」という語句は、天然の成熟miRNA配列に対して60%相補的か、または少なくとも60%相補的な、核酸または模倣体の領域を意味する。相補的領域は、

(またはこれらから導き出される任意の範囲)が相補的であるか、または少なくとも相補的である。1つのポリヌクレオチド配列には、miRNA領域と相補的領域との化学的結合の結果としてヘアピンループ構造が存在する場合がある。他の態様では、相補的領域はmiRNA領域ではなく、異なる核酸分子上に存在する。この場合、相補的領域は相補鎖上に存在し、miRNA領域は活性鎖上に存在する。
【0082】
本発明の他の態様では、miRNA阻害因子である合成核酸が存在する。miRNA阻害因子は約17〜25ヌクレオチドの長さであり、かつ成熟miRNAの5'→3'配列に対して少なくとも90%相補的な5'→3'配列を含む。ある態様では、miRNA阻害因子分子は、17ヌクレオチド、18ヌクレオチド、19ヌクレオチド、20ヌクレオチド、21ヌクレオチド、22ヌクレオチド、23ヌクレオチド、24ヌクレオチド、もしくは25ヌクレオチドか、またはこれらの間の任意の範囲の長さである。さらにmiRNA阻害因子は、成熟miRNA、特に天然の成熟miRNAの5'→3'配列に対して、

(またはこれらの間の任意の範囲)相補的であるか、または少なくとも相補的である配列(5'→3')を有する場合がある。当業者であれば、miRNA阻害因子の配列として、成熟miRNAの配列に相補的なmiRNA配列の一部を使用することができる。さらに、核酸配列の一部を、成熟miRNAの配列に対して適切なパーセンテージの相補性を保持するように改変することができる。
【0083】
本発明のいくつかの態様では、合成miRNAまたは阻害因子は、1つもしくは複数の設計要素(design element)を含む。設計要素は、以下を含むが、これらに限定されない:(i)相補的領域の5'末端におけるヌクレオチドのリン酸またはヒドロキシルの置換基;(ii)相補的領域の先頭または最後の1〜6残基内の1か所もしくは複数の糖修飾;または(iii)相補的領域の3'末端の1〜5残基内の1つもしくは複数のヌクレオチドと、miRNA領域の対応するヌクレオチドとの間の非相補性。さまざまな設計の改変が当技術分野で既知である(以下参照)。
【0084】
ある態様では、合成miRNAは、その相補的領域の5'末端に、リン酸基および/またはヒドロキシル基が別の化学基と置換されたヌクレオチドを有する(「置換設計(replacement design)」と呼ばれる)。場合によっては、リン酸基が置換され、一方その他ではヒドロキシル基が置換される。特定の態様では、置換基は、ビオチン、アミン基、低級アルキルアミン基、アセチル基、2'O-Me(2'酸素-メチル)、DMTO(酸素が付加した4,4'-ジメトキシトリチル)、フルオレセイン、チオール、またはアクリジンであるが、他の置換基が当業者に周知であり、同様に使用することができる。この設計要素は、miRNA阻害因子とともに使用することもできる。
【0085】
他の態様は、相補的領域の先頭または最後の1〜6残基中に1か所もしくは複数の糖修飾を有する合成miRNAに関する(「糖置換設計(sugar replacement design)」と呼ばれる)。場合によっては、1か所もしくは複数の糖修飾が、相補的領域の先頭の1残基、2残基、3残基、4残基、5残基、6残基、もしくはそれ以上の残基、またはこれらの間の任意の範囲中に存在する。場合によっては、1か所もしくは複数の糖修飾は、相補的領域の最後の1残基、2残基、3残基、4残基、5残基、6残基、もしくはそれ以上の残基、またはこれらの間の任意の範囲が糖修飾を有する。「先頭」および「最後」という語句は、領域の5'末端から3'末端への残基の順序に関すると理解されるであろう。特定の態様では、糖修飾は2'O-Me修飾である。別の態様では、1か所もしくは複数の糖修飾が、相補的領域の先頭もしくは最後の2〜4残基中、または相補的領域の先頭または最後の4〜6残基中に存在する。この設計要素は、miRNA阻害因子とともに使用することもできる。したがって、miRNA阻害因子は、上述したように、この設計要素、および/または置換基を、5'末端のヌクレオチド上に有する場合がある。
【0086】
本発明の他の態様では、相補的領域の3'末端の1〜5残基中の1つもしくは複数のヌクレオチドが、miRNA領域の対応するヌクレオチドに対して相補的ではない(「非相補的」)合成miRNAまたは阻害因子が存在する(「非相補的設計(noncomplementarity design)」と呼ばれる)。非相補性は、相補的なmiRNAの最後の1残基、2残基、3残基、4残基、および/または5残基中に存在する場合がある。ある態様では、相補的領域中の少なくとも2ヌクレオチドとの間に非相補性が存在する。
【0087】
本発明の合成miRNAは、置換設計、糖修飾設計、または非相補的設計の1つもしくは複数を有することが企図される。場合によっては、合成RNA分子はこれらの2つを有し、別の場合は、これらの分子は3つ全ての設計を適所に有する。
【0088】
miRNA領域および相補的領域は、同じポリヌクレオチド上か、または別のポリヌクレオチド上に存在する場合がある。これらが同じポリヌクレオチド上に、または同じポリヌクレオチド中に含まれる場合は、miRNA分子は1つのポリヌクレオチドであると見なされることになる。異なる領域が別のポリヌクレオチド上に存在する態様では、合成miRNAは2つのポリヌクレオチドを含むと見なされることになる。
【0089】
RNA分子が1本のポリヌクレオチドである場合は、miRNA領域と相補的領域の間にリンカー領域が存在し得る。いくつかの態様では、1本のポリヌクレオチドは、miRNA領域と相補的領域の結合の結果としてヘアピンループ構造を形成可能である。リンカーはヘアピンループを含む。いくつかの態様では、リンカー領域は、

残基の長さ、またはこれらの間の任意の範囲であるか、少なくともこの長さであるか、または最大でこの長さであることが企図される。ある態様では、リンカーは3〜30残基の長さである(3塩基および30塩基を含む)。
【0090】
miRNAまたは阻害因子の領域および相補的領域を有することに加えて、領域の5'末端または3'末端のいずれかに隣接する配列も存在する場合がある。いくつかの態様では、1ヌクレオチド、2ヌクレオチド、3ヌクレオチド、4ヌクレオチド、5ヌクレオチド、6ヌクレオチド、7ヌクレオチド、8ヌクレオチド、9ヌクレオチド、10ヌクレオチド、もしくはそれ以上の、または少なくともこれらのヌクレオチド、もしくはこれらの間の任意の範囲が、これらの領域の片側または両側に隣接する。
【0091】
本発明の方法は、miRNA阻害因子を細胞に導入する段階を含む、細胞内における1種類もしくは複数のmiRNAの活性を低下させるか、または除去する段階(本明細書では一般にmiRNAと記載され、miRNAへの言及は、適切であればmiRNA阻害因子も意味する);または細胞内における1種類もしくは複数のmiRNAの活性を供給もしくは促進する段階を含む。本発明は、特異的な合成miRNA分子や合成miRNA阻害因子分子などの特定の核酸を細胞に提供することによって、特定の細胞の特徴を誘導することにも関する。しかしながら、本発明の方法では、miRNA分子またはmiRNA阻害因子は合成である必要はない。これらは、天然のmiRNAと同一の配列を有してもよく、または任意の設計改変を有さなくてもよい。ある態様では、miRNA分子および/またはmiRNA阻害因子は、上述したように合成である。
【0092】
細胞に提供される特定の核酸分子は、細胞内の特定のmiRNAに対応すると理解され、したがって細胞内のmiRNAは、「対応するmiRNA」と呼ばれる。指定のmiRNA分子を細胞中に導入する状況では、対応するmiRNAは、miRNAが誘導されたか、もしくは阻害されたか、またはmiRNAの機能が誘導されたか、もしくは阻害されたと理解されることになる。しかしながら、細胞中に導入されたmiRNA分子は、成熟miRNAではなく、適切な生理学的な条件で成熟miRNAとなるか、または成熟miRNAとして機能することが可能であることが企図される。特定の対応するmiRNAがmiRNA阻害因子によって阻害される場合は、特定のmiRNAは「標的化miRNA」と呼ばれることになる。多数の対応するmiRNAが関与する場合があることが企図される。特定の態様では、複数のmiRNA分子が細胞中に導入される。さらに他の態様では、複数のmiRNA阻害因子が細胞中に導入される。さらに、miRNA分子とmiRNA阻害因子の組み合わせが細胞中に投与される場合がある。本発明者らは、miRNAの組み合わせが、異常な表現型を有する細胞の細胞経路の1つもしくは複数の点において作用する可能性があること、およびこのような組み合わせが、正常細胞に悪影響を及ぼすことなく、標的細胞に対する有効性を高める可能性があることを企図している。したがって、miRNAの組み合わせは、状態の改善、細胞の成長阻害、標的細胞の細胞死、細胞の表現型または生理の変化、細胞の成長速度の低下、第2の治療に対する感作、特定の治療に対する感作などの十分な治療効果を提供しながら、対象もしくは患者に対して最小限の有害作用しか有さない場合がある。
【0093】
方法は、そのような細胞の特徴の誘導を必要とする細胞または患者を同定する段階を含む。また、細胞または生物体に提供される合成核酸の量が、特定の細胞の特徴の誘導などの望ましい目的を達成するのに必要な量(または十分な量)を意味する「有効量」であることが理解されるであろう。方法のある態様は、望ましい生理学的な結果を達成するのに有効な量で、細胞中の成熟miRNAに対応する核酸分子を細胞に提供する段階または導入する段階を含む。
【0094】
さらに方法は、合成または非合成のmiRNA分子を提供する段階を含む場合がある。これらの態様では、方法は、1種類のみもしくは複数の合成miRNA分子、または1種類のみもしくは複数の非合成miRNA分子の提供に制限される場合もあれば制限されない場合もあることが企図される。したがって、ある態様では、方法は、合成と非合成のmiRNA分子の両方を提供する段階を含む場合がある。この状況では、細胞または細胞群は、特定のmiRNA分子に対応する合成miRNA分子、および異なるmiRNA分子に対応する非合成miRNA分子を提供する可能性が極めて高い。さらに、マーカッシュ群の表現を使用するmiRNAのリストを使用して表現される任意の方法は、マーカッシュ群の表現、およびこれに代えて離接的な品詞(すなわち、「または」)を用いずに表現され得る。
【0095】
典型的には、内在性の遺伝子、miRNA、またはmRNAは細胞内で調節される。特定の態様では、核酸配列は、1種類もしくは複数のmiRNAもしくは遺伝子配列と核酸配列中の少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、または100%同一な、少なくとも1つのセグメントを含む。内在性の遺伝子、miRNA、またはmRNAの発現またはプロセシングの調節は、mRNAのプロセシングの調節によって可能である(このようなプロセシングは、細胞内における転写、輸送、および/または翻訳を含む)。調節は、細胞、組織、または器官内におけるmiRNA活性の阻害または増強によって可能となる場合もある。このようなプロセシングは、コードされた産物の発現、またはmRNAの安定性に影響を及ぼす可能性がある。さらに他の態様では、核酸配列は、修飾された核酸配列を含む場合がある。ある局面では、1種類もしくは複数のmiRNA配列は、修飾された核酸塩基または核酸配列を含むか、または包含する場合がある。
【0096】
本発明の方法では、細胞、または生物体(患者を含む)などの他の生物学的物質が、細胞内に存在すると対応するmiRNAとして機能する核酸分子を細胞もしくは生物体に投与することによって、miRNA分子、または特定のmiRNAに対応するmiRNA分子を提供し得ることが理解されよう。細胞に提供される分子の形状は、細胞内に入るとmiRNAとして作用する形状ではない場合がある。したがって、いくつかの態様では、合成miRNAまたは非合成miRNAは、細胞のmiRNAプロセシング機序にアクセスすると、プロセシングされて成熟および活性なmiRNAとなるように提供されることが企図される。ある態様では、提供されるmiRNA分子は成熟miRNA分子ではなく、miRNAプロセシング機序にアクセスすると、プロセシングされて成熟miRNAになる核酸分子であることが特に企図される。miRNAに関して「非合成」という語句は、miRNAが本明細書で定義されるような「合成」ではないことを意味する。さらに、合成miRNAの使用に関する本発明の態様では、対応する非合成miRNAの使用も本発明の局面であると見なされることが企図される(逆も可)。「提供する」という語句は、薬剤が、患者に薬剤を「投与する」段階を含むように使用されることが理解されるであろう。
【0097】
ある態様では、方法は、miRNAを標的化して細胞内または生物体内で調節する段階も含む。「miRNAを標的化して調節する」という語句は、本発明の核酸が、選択されるmiRNAが調節されるように使用されることを意味する。いくつかの態様では、調節は、標的化されるmiRNAを細胞または生物体に効率的に提供する、標的化されるmiRNAに対応する合成または非合成のmiRNAによって達成される(正の調節)。他の態様では、調節は、細胞または生物体において標的化されるmiRNAを有効に阻害するmiRNA阻害因子によって達成される(負の調節)。
【0098】
いくつかの態様では、調節されるように標的化されるmiRNAは、疾患、状態、または経路に影響を及ぼすmiRNAである。ある態様ではmiRNAは、標的化されるmiRNAの負の調節によって治療を提供可能にするために、標的化される。他の態様ではmiRNAは、標的化されるmiRNA、またはその標的の正の調節によって治療を提供可能にするために、標的化される。
【0099】
本発明のある方法では、選択されたmiRNAモジュレーターを、標的化されるmiRNAの調節に関連する処理を必要とするか、または本明細書で説明された生理学的もしくは生物学的な結果(特定の細胞経路に関する結果や、細胞の生存能の低下のような結果など)を必要とする細胞、組織、器官、または生物体(集合的に「生物学的物質」)に投与する他の段階が存在する。したがって、本発明のいくつかの方法では、miRNAモジュレーターによって提供され得る治療を必要とする患者を同定する段階が存在する。有効量のmiRNAモジュレーターがいくつかの態様で投与可能であることが企図される。特定の態様では、生物学的物質に与えられる治療的利益が存在する。ここで「治療的利益」とは、疾患もしくは状態と関連する1つもしくは複数の状態または症状の改善、または疾患に関する予後、期間、もしくは状態の改善を意味する。治療的利益は、痛みの緩和、罹患率の低下、症状の緩和を含むが、これらに限定されないことが企図される。例えば癌に関しては、治療利益は、腫瘍の成長の阻害、転移の予防、転移数の減少、癌細胞の増殖の阻害、癌細胞の細胞死の誘導、癌細胞近傍の血管形成の阻害、癌細胞のアポトーシスの誘導、痛みの軽減、再発リスクの低下、癌細胞の化学療法もしくは放射線療法に対する感受性の誘導、寿命の延長、および/または癌に直接的もしくは間接的に関連する死の遅延である場合があることが企図される。
【0100】
さらにmiRNA組成物は、治療の一環として、従来の治療用または予防用薬剤とともに患者に提供され得ることが企図される。さらに、治療に関して説明された任意の方法は、特に潜在的に治療の必要があるか、または治療が必要な状態もしくは疾患のリスクがあると同定された患者に対して、予防的に実施され得ることが企図される。
【0101】
加えて本発明の方法は、miRNAに対応する1種類もしくは複数の核酸、および治療薬の使用に関する。核酸は、薬剤の作用もしくは有効性を高めること、任意の副作用もしくは毒性を軽減すること、その生物学的利用能を修飾すること、および/または必要な用量もしくは頻度を低減させることが可能である。ある態様では、治療薬は癌の治療薬である。したがって、いくつかの態様では、癌の治療薬を、癌の治療薬の有効性を改善するか、または非癌細胞を保護する少なくとも1種類の有効量のmiRNA分子を患者に投与する段階を含む、患者の癌を治療する方法が存在する。癌の治療は、化学療法と放射線による治療の両方を使用する、さまざまな併用治療も含む。併用化学療法は例えば、5-フルオロウラシル、アレムツズマブ、アムルビシン、ベバシズマブ、ブレオマイシン、ボルテゾミブ、ブスルファン、カンプトセシン、カペシタビン、カルボプラチン、セツキシマブ、クロランブシル、シスプラチン(CDDP)、COX-2阻害剤(例えばセレコクシブ)、シクロホスファミド、シタラビン、ダクチノマイシン、ダサチニブ、ダウノルビシン、デキサメタゾン、ドセタキセル、ドキソルビシン(アドリアマイシン)、EGFR阻害剤(ゲフィチニブおよびセツキシマブ)、エルロチニブ、エストロゲン受容体結合剤、エトポシド(VP16)、エベロリムス、ファルネシル-タンパク質トランスフェラーゼ阻害剤、ゲフィチニブ、ゲムシタビン、ゲムツズマブ、イブリツモマブ、イホスファミド、メシル酸イマチニブ、ラロタキセル(larotaxel)、ラパチニブ、ロナファルニブ(lonafarnib)、メクロレタミン、メルファラン、メトトレキセート、マイトマイシン、ナベルビン、ニトロソ尿素、ノコダゾール、オキサリプラチン、パクリタキセル、プリカマイシン、プロカルバジン、ラロキシフェン、リツキシマブ、シロリムス、ソラフェニブ、スニチニブ、タモキシフェン、タキソール、タキソテール、テムシロリムス、ティピファニブ、トシツモマブ、トランスプラチナ(transplatinum)、トラスツズマブ、ビンブラスチン、ビンクリスチン、もしくはビノレルビン、または上記の任意の類似体もしくは誘導体の変形を含むが、これらに限定されない。
【0102】
一般にmiRNAの阻害因子は、内在性のmiRNAの活性を低下させるために与えることが可能である。例えば、細胞増殖を高めるmiRNA分子の阻害因子は、細胞増殖を低下させるために細胞に提供され得る。本発明は、本明細書に開示されたさまざまなmiRNA分子およびmiRNA阻害因子によって観察されるさまざまな生理学的な作用に関して、これらの態様を企図している。これらは、以下の生理学的作用を含むが、これらに限定されない:細胞増殖の上昇および低下、アポトーシスの増加または減少、形質転換率の上昇、細胞生存能の上昇または低下、キナーゼ(例えばErk)の活性化または阻害、hTertの活性化/誘導または阻害、成長促進経路(例えばStat3シグナル伝達)の刺激の阻害、生細胞数の減少または増加、ならびに細胞周期の特定の相における細胞数の減少または増加。本発明の方法は一般に、1種類もしくは複数の異なるmiRNA分子に対応する1種類もしくは複数の異なる核酸分子を提供する段階または導入する段階を含むことが企図されている。以下の数の、少なくとも以下の数の、もしくは多くて以下の数の、またはこれらの間の任意の範囲の、異なる核酸もしくはmiRNA分子を提供または導入することができることが企図される:

これは、細胞中に提供または導入され得る異なるmiRNA分子の数にも当てはまる。
【0103】
II.薬剤の製剤化および送達
本発明の方法は、有効量のmiRNAまたは同miRNAをコードする発現コンストラクトの送達を含む。薬学的組成物の「有効量」は一般に、記載された所望の結果を達成するために、例えば疾患もしくはその症状の程度を寛解させるために、軽減するために、最小限に抑えるために、または制限するために、検出可能かつ反復可能に十分な量であると定義される。疾患の除去、根絶、または治癒を含む、他のより厳密な定義を使用することができる。
【0104】
A.投与
ある態様では、細胞を死滅させること、細胞の成長を阻害すること、転移を阻害すること、腫瘍もしくは組織のサイズを縮小させること、および/または細胞の悪性もしくは疾患の表現型を逆転もしくは低減させることが望ましい。投与経路は、標的となる病変または部位の位置および性質によって必然的に変動することになり、かつ例えば、皮内投与、皮下投与、局所投与、非経口投与、静脈内投与、筋肉内投与、鼻腔内投与、全身投与、ならびに経口投与および製剤化を含む。分離した、固体状で、到達可能な腫瘍、または他の到達可能な標的領域である場合には、直接注射、腫瘍内への注射、または腫瘍血管系中への注射が特に企図される。局所投与、限局的投与、または全身投与が適切な場合もある。4 cmを上回る腫瘍の場合は、投与対象の容量は約4〜10 ml(好ましくは10 ml)となり、4 cm未満の腫瘍の場合は、約1〜3 mlの容量(好ましくは3 ml)が使用される。
【0105】
単回投与として実施される複数注入は、約0.1〜約0.5 mlの用量を含む。本発明の組成物は、複数の注射によって腫瘍または標的部位に投与することができる。ある局面では、注射は約1 cmの間隔を設けて実施できる。
【0106】
外科的介入の場合は、本発明は、手術不能の腫瘍対象を切除可能とするために術前に使用することができる。あるいは本発明を、残存疾患もしくは転移性疾患を治療するために、手術の時点で、および/または手術後に使用することができる。例えば、切除済みの腫瘍床を、miRNAもしくはmiRNAの組み合わせを含む製剤とともに注入または潅流することができる。投与は例えば、手術部位に埋め込まれたカテーテルを留置することで、切除後に継続することができる。周期的な術後処置も想定される。発現コンストラクトまたはウイルスコンストラクトの連続潅流も企図される。
【0107】
例えば腫瘍または他の望ましくない影響を受けた領域が切除され、かつ腫瘍床または標的部位が残存する微視的病巣を除去するように処理される場合には、必要に応じて連続的な投与を実施することもできる。シリンジを介した送達、またはカテーテルの留置が企図される。このような持続的な潅流は、治療の開始から約1〜2時間、約2〜6時間、約6〜12時間、約12〜24時間、約1〜2日日間、約1〜2週間、またはそれ以上の期間を要する場合がある。一般に、持続的な潅流を介した治療的組成物の用量は、潅流時間が調整された単回または複数回の注射による場合と同等となる。
【0108】
治療レジメンもまた多様であり、腫瘍のタイプ、腫瘍の位置、免疫条件、標的部位、疾患の進行、ならびに患者の健康および年齢にしばしば依存する。ある腫瘍タイプは、より積極的な治療を必要とする。医師は、そうした決定を、治療的製剤の既知の有効性および毒性(もしあれば)に基づいて適切に行う。
【0109】
ある態様では、治療対象となる腫瘍または患部は、少なくとも当初は切除できない場合がある。本発明の組成物による治療は、周縁部における収縮のために、または特定の浸潤性部分の除去によって、腫瘍の切除可能性を高める場合がある。治療後に、切除が可能な場合がある。切除後の追加的な治療によって、腫瘍または標的部位における微視的な残存疾患を除去可能な場合がある。
【0110】
治療は、さまざまな「単位用量」を含む場合がある。単位用量は、所定量の治療的組成物を含むと定義される。投与量、ならびに特定の経路および剤形は、臨床分野の当業者の技能の範囲内にある。単位用量は単回注射で投与される必要はなく、一定の時間をかけた持続的な注入を含む場合がある。本発明のウイルス成分に関しては、単位用量は、利便性を考慮して、μg単位またはmg単位のmiRNAもしくはmiRNA模倣体として表すことができる。あるいは指定の量は、平均して毎日、平均して毎週、または平均して毎月、投与される量である場合がある。
【0111】
miRNAは患者に、以下の用量または少なくとも以下の用量で、投与することができる:約

μgもしくはmgまたはそれ以上、またはこれらの間の任意の範囲の用量。あるいは指定の量は、平均して毎日、平均して毎週、または平均して毎月、投与される量であってもよく、またはmg/kg単位で表されてもよい(kgは患者の体重を意味し、mgは上記で指定される)。他の態様では、指定の量は、上記の任意の数字であるが、(腫瘍サイズまたは患者の表面積に関して)mg/m2で表される。
【0112】
B.注射可能な組成物および製剤
いくつかの態様では、miRNA、もしくはそれをコードする発現コンストラクト、またはこれらの組み合わせを送達する方法は全身投与による。しかしながら、本明細書に開示された薬学的組成物は、米国特許第5,543,158号、第5,641,515号、および第5,399,363号(いずれもその全体が参照により本明細書に具体的に組み入れられる)に記載されているように、非経口で、皮下に、直接的に、気管内に、静脈内に、皮内に、筋肉内に、またはさらには腹腔内に投与することができる。
【0113】
核酸の注射は、シリンジによって、または核酸および任意の関連成分が注射に必要な特定のゲージのニードルを通過可能な限りにおいて、溶液の注射に使用される他の任意の方法によって、実施可能である。シリンジシステムは、所定量の溶液の複数回の注射を任意の深度で正確に可能とする、遺伝子治療における使用に関しても記述されている(米国特許第5,846,225号)。
【0114】
遊離塩基または薬理学的に許容される塩としての活性化合物の溶液は、ヒドロキシプロピルセルロースなどの界面活性剤と適切に混合された水中で調製することができる。分散液を、グリセロール、液体ポリエチレングリコール、これらの混合物中に、および油中で調製することもできる。保存および使用の通常の条件では、これらの調製物は、微生物の成長を防ぐための保存剤を含む。注射可能な使用に適した薬学的剤形は、無菌の水溶液または分散液、および無菌の注射可能な溶液または分散液の即時調製用の無菌粉末を含む(全体が参照により本明細書に具体的に組み入れられる米国特許第5,466,468号)。いずれの場合も剤形は無菌でなければならず、かつシリンジへの充填が容易な溶液でなければならない。これは製造および保存の条件で安定でなければならず、かつ細菌および真菌などの微生物による汚染作用を受けないように保存されなければならない。担体は、例えば水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、これらの適切な混合物、および/または植物油を含む溶媒もしくは分散媒である場合がある。適切な流動性は例えば、レシチンなどのコーティング剤を使用することで、分散液の場合は必要な粒子径を維持することで、および界面活性剤を使用することで維持することができる。微生物の作用の防止は、さまざまな抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどによって実現できる。多くの場合、等張剤、例えば糖または塩化ナトリウムを含めることが好ましいと考えられる。注射可能な組成物の長期吸収は、薬剤吸収を遅らせる組成物、例えばモノステアリン酸アルミニウムやゼラチンを使用することで実現できる。
【0115】
ある製剤では水性の製剤が使用され、一方別の製剤では脂質ベースとすることができる。本発明の特定の態様では、腫瘍抑制タンパク質、または同タンパク質をコードする核酸を含む組成物は水性の製剤である。他の態様では、製剤は脂質ベースである。
【0116】
例えば、水溶液の非経口投与の場合は、必要であれば、溶液を適切に緩衝するべきであり、かつ液体希釈物を最初に、十分な生理食塩水またはグルコースによって等張性とすべきである。このような特定の水溶液は、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、腫瘍内投与、病巣内投与、および腹腔内投与に特に適している。これと関連して、使用可能な無菌の水性溶媒は、本開示に鑑みて当業者には既知であろう。例えば、1回分の投与量を1 mlの等張性NaCl溶液に溶解し、1000 mlの皮下注射溶液に添加するか、または注射しようとする部位に注射することができる(例えば「Remington's Pharmaceutical Sciences」第15版の1035〜1038ページおよび1570〜1580ページを参照)。投与量については、治療対象の状態に依存して、いくつかのバリエーションが設けられる。いずれにせよ、投与を施行する者が、個々の対象に適した用量を決定することになる。さらに、ヒトへの投与の場合は、調製物は、FDA Office of Biologiesの基準が求める、無菌、発熱性、一般的な安全性および純度の基準に適合しているべきである。
【0117】
本明細書で用いる「担体」は、任意の、およびあらゆる溶媒、分散媒、ビヒクル、コーティング剤、希釈剤、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤、緩衝液、担体溶液、懸濁液、コロイドなどを含む。薬学的活性物質に対する、このような溶媒および薬剤の使用は、当技術分野で周知である。任意の従来の溶媒または薬剤が活性成分に適合しない場合を除いて、治療的組成物におけるその使用が企図される。補助的な活性成分を組成物中に配合することもできる。
【0118】
「薬学的に許容される」という語句は、ヒトへの投与時にアレルギー反応や類似の望ましくない反応を生じない分子体および組成物を意味する。
【0119】
核酸は、投与剤形に適合した様式で、および治療的に有効となる量で投与される。投与される量は、例えば疾患または癌の悪性度、任意の腫瘍または病変のサイズ、治療歴または他の一連の治療を含む、治療される対象に依存する。投与に必要とされる活性成分の正確な量は、施行者の判断に拠る。初回投与および続く投与の適切なレジメンも多様であるが、典型的には、初回投与の後に他の投与を行う。このような投与は全身投与とすることが可能であり、単回投与として、10分、20分、30分、40分、50分、60分、および/または1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、7時間、8時間、9時間、10時間、11時間、12時間、13時間、14時間、15時間、16時間、17時間、18時間、19時間、20時間、21時間、22時間、23時間、24時間、もしくはそれ以上の期間、および/または1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日、もしくはそれ以上の期間にわたって継続することができる。さらに投与は、製剤化および/または投与様式によって実行可能な、徐放すなわち持続的な放出機序とすることが可能である。
【0120】
C.併用治療
ある態様では、本発明の組成物および方法は、miRNA、またはmiRNAをコードする発現コンストラクトを含む。このようなmiRNA組成物は、miRNA治療の効果を高めるために、または使用される別の治療の治療効果を高めるために、第2の治療と組み合わせて使用することができる。これらの組成物は、癌細胞の死滅、および/または細胞の過剰増殖の阻害などの所望の効果を達成するのに有効な組み合わされた量で提供される場合がある。この過程には、細胞にmiRNAを、または第2の治療を同時もしくは異なる時間に接触させる段階を含めることができる。これは、1種類または複数の薬剤を含む1種類もしくは複数の組成物もしくは薬理学的製剤を細胞に接触させることによって、または2種類もしくはそれ以上の異なる組成物もしくは製剤を細胞に接触させることによって達成できる(1種類の組成物は(1)miRNA;および/または(2)第2の治療を提供する)。第2の組成物、または化学療法、放射線療法、外科的治療、免疫療法、もしくは遺伝子治療を含む方法を投与することができる。
【0121】
患者にmiRNA治療および第2の治療を、相互に約12〜24時間以内に、およびより好ましくは相互に約6〜12時間以内に提供可能であることが企図される。しかしながら、状況によっては、治療の期間を有意に延長することが望ましい場合があり、個々の投与間に数日(2日、3日、4日、5日、6日、または7日)〜数週間(1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、7週間、または8週間)が設けられる。
【0122】
ある態様では、一連の治療は、

日またはそれ以上にわたって続けられる。1種類の薬剤が、

日目またはこれらの任意の組み合わせで投与され、かつ別の薬剤が、

日目またはこれらの任意の組み合わせで投与されることが企図される。患者には1日(24時間)以内に、1回または複数回の薬剤投与が実施される場合がある。さらに、一連の治療の後に、治療が行われない期間が設けられることが企図される。この期間は、予後、体力、健康などの患者の条件に依存して、1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日、および/または1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、および/または1か月間、2か月間、3か月間、4か月間、5か月間、6か月間、7か月間、8か月間、9か月間、10か月間、11か月間、12か月間、もしくはそれ以上にわたって続けられる。
【0123】
例えばmiRNA治療を「A」とし、また第2の治療を「B」として、さまざまな組み合わせを使用することが可能である。

【0124】
患者に対する本発明の任意の化合物または治療の投与は、ベクターもしくは任意のタンパク質、または他の薬剤の毒性(もしあれば)を考慮して、そのような化合物の投与に関する一般的なプロトコルに従う。したがって、いくつかの態様では、併用治療に帰せられる毒性をモニタリングする段階が設けられる。治療のサイクルは、必要であれば繰り返されることが予想される。さまざまな標準的な治療、ならびに外科的介入が、記載の治療と組み合わせて実施され得ることも企図される。
【0125】
特定の局面では、化学療法、放射線療法、免疫療法、外科的治療、または他の遺伝子治療などの第2の治療は、本明細書に記載されているように、miRNA治療と組み合わせて用いられることが企図される。
【0126】
1.化学療法
本発明では、極めて多様な化学療法剤を使用することができる。「化学療法」という語句は、癌を治療するための薬剤の使用を意味する。「化学療法剤」は、癌の治療で投与される化合物または組成物を意味するように用いられる。そのような薬剤または薬物は、細胞内におけるそれらの活性様式、例えば、細胞周期に影響を与えるか否か、およびどの段階で影響を与えるかによって分類される。あるいは薬剤は、DNAを直接的に架橋する能力、DNA中にインターカレートする能力、または核酸合成に影響を及ぼすことで染色体および有糸分裂異常を引き起こす能力に基づいて特徴づけられ得る。大半の化学療法剤は、以下のカテゴリーに分類される:アルキル化剤、代謝拮抗剤、抗腫瘍性抗生物質、有糸分裂阻害剤、およびニトロソ尿素。
【0127】
a.アルキル化剤
アルキル化剤は、ゲノムDNAと直接的に相互作用して癌細胞の増殖を妨げる薬剤である。このカテゴリーの化学療法剤は、細胞周期の全ての相に影響を及ぼす、すなわち相に特異的でない薬剤である。アルキル化剤は、慢性白血病、非ホジキンリンパ腫、ホジキン病、多発性骨髄腫、ならびに乳房、肺、および卵巣の特定の癌の治療に使用することができる。アルキル化剤は、以下を含む:ブスルファン、クロランブシル、シスプラチン、シクロホスファミド(シトキサン)、ダカルバジン、イホスファミド、メクロレタミン(Mustargen)、およびメルファラン。トログリタゾンは、任意の1種類もしくは複数の上記のアルキル化剤と組み合わせて癌の治療に使用することができる。
【0128】
b.代謝拮抗剤
代謝拮抗剤は、DNAおよびRNAの合成を破壊する。アルキル化剤とは異なり、代謝拮抗剤は、細胞周期のS期に特異的に影響を及ぼす。代謝拮抗剤は、乳房、卵巣、および消化管の腫瘍に加えて、慢性白血病の治療に使用されている。代謝拮抗剤は、5-フルオロウラシル(5-FU)、シタラビン(Ara-C)、フルダラビン、ゲムシタビン、およびメトトレキセートを含む。
【0129】
5-フルオロウラシル(5-FU)は、5-フルオロ-2,4(1H,3H)-ピリミジンジオンという化学名を有する。その作用機序は、デオキシウリジル酸からチミジル酸へのメチル化反応のブロックによると考えられている。したがって5-FUは、デオキシリボ核酸(DNA)の合成に干渉し、かつ、程度は低いものの、リボ核酸(RNA)の形成を阻害する。DNAおよびRNAは、細胞の分裂および増殖に不可欠なので、5-FUの作用は、細胞死を引き起こすチミジン不足を生じることであると考えられている。したがって5-FUの作用は、転移性癌の特徴である速やかに分裂する細胞に見出される。
【0130】
c.抗腫瘍性抗生物質
抗腫瘍性抗生物質は、抗菌活性と細胞障害性活性の両方を有する。この薬剤も、酵素および有糸分裂を化学的に阻害したり、細胞膜を変化させたりすることでDNAに干渉する。抗腫瘍性抗生物質は相に特異的ではなく、細胞周期の全ての相で作用する。したがって抗腫瘍性抗生物質は、さまざまな癌に対して広く使用されている。抗腫瘍性抗生物質の例は、一部については以下に詳述する、ブレオマイシン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン(アドリアマイシン)、およびイダルビシンを含む。新生物の治療に臨床で広く使用されているこれらの化合物は、アドリアマイシンの場合は25〜75 mg/m2用量で21日の間隔を設けてボーラス注入で静脈内に投与され、エトポシドの場合は静脈内にまたは経口で35〜100 mg/m2の用量で投与される。
【0131】
d.有糸分裂阻害剤
有糸分裂阻害剤は、植物アルカロイド、および細胞分裂または有糸分裂のいずれかに必要なタンパク質合成を阻害可能な他の天然薬剤を含む。有糸分裂阻害剤は、細胞周期の特定の相で作用する。有糸分裂阻害剤は、ドセタキセル、エトポシド(VP16)、パクリタキセル、タキソール、タキソテール、ビンブラスチン、ビンクリスチン、およびビノレルビンを含む。
【0132】
e.ニトロソ尿素
ニトロソ尿素は、アルキル化剤と同様に、DNA修復タンパク質を阻害する。ニトロソ尿素は、脳腫瘍に加えて、非ホジキンリンパ腫、多発性骨髄腫、悪性黒色腫の治療に使用されている。例には、カルムスチンやロムスチンなどがある。
【0133】
2.放射線療法
放射線治療(radiation therapy)とも呼ばれる放射線療法(radiotherapy)は、電離放射線による癌および他の疾患の治療である。電離放射線は、細胞の遺伝物質を損なうことで、細胞が成長を続けることを不可能にすることによって、治療対象領域中の細胞を損なうか、または破壊するエネルギーを蓄積する。放射線は癌細胞と正常細胞の両方を損なうが、後者は自らを修復して適切に機能することが可能である。放射線療法は、皮膚、舌、喉頭、脳、乳房、または子宮頚部の癌などの局所的な固形腫瘍の治療に使用することができる。放射線療法は、白血病やリンパ腫(それぞれ造血細胞およびリンパ系の癌)の治療に使用することもできる。
【0134】
本発明で使用される放射線療法は、γ線、X線の使用、および/または放射性同位元素の腫瘍細胞への直接送達を含む場合があるが、これらに限定されない。マイクロ波、陽子ビーム照射(米国特許第5,760,395号および第4,870,287号)、ならびにUV照射などの他の形状のDNA損傷因子も企図される。これらの因子は全て、DNA上に、DNA前駆体上の広範囲の損傷に、DNAの複製および修復に、ならびに染色体の集合および維持に影響する可能性が極めて高い。X線の線量範囲は、長期間(3〜4週間)に及ぶ50〜200レントゲンの1日線量から、2000〜6000レントゲンの単回照射まで幅がある。放射性同位元素の線量範囲は幅が極めて広く、同位体の半減期、放出される放射線の強度およびタイプ、ならびに腫瘍細胞による取り込みに依存する。放射線療法は、放射線の線量を癌部位に直接送達するために、放射標識抗体の使用を含む場合がある(放射免疫療法)。体内に注射された抗体は癌細胞を活発に捜し出し、癌細胞は、放射線の細胞死滅(細胞障害性)作用によって破壊される。この方法は、健康な細胞に対する放射線による損傷のリスクを最小限に抑えることができる。
【0135】
脳腫瘍および他の腫瘍に対する定位的放射線手術(ガンマナイフ)は、メスを使用しないが、極めて正確にガンマ放射線療法のビームを数百の異なる角度からあてる。放射線療法の1回のセッションには4〜5時間を要する。この治療法では、特注の金属の枠が頭部に装着される。次に、処置が必要とされる正確な領域を見つけるために、複数のスキャンおよびX線が実施される。脳腫瘍の放射線療法では、患者は、放射線療法のビームが通過する数百個の穴の開いた大きなヘルメットを頭部に装着する。関連する方法によって、身体の他の部位における腫瘍の治療のための位置づけが可能となる。
【0136】
3.免疫療法
癌の治療に関しては、免疫療法剤は一般に、癌細胞を標的として破壊する免疫エフェクター細胞およびエフェクター分子の使用に拠る。その一例がトラスツズマブ(Herceptin(商標))である。免疫エフェクターは例えば、腫瘍細胞の表面上の複数のマーカーに特異的な抗体である場合がある。抗体は単独で治療のエフェクターとして機能する場合があり、または他の細胞を動員して細胞を死滅に導く場合もある。抗体を薬剤またはトキシン(化学療法剤、放射線核種、リシンA鎖、コレラ毒素、百日咳毒素など)に結合させることで、単純に標的用薬剤とすることもできる。あるいはエフェクターは、腫瘍細胞標的と直接的または間接的に相互作用する表面分子を有するリンパ球である場合がある。さまざまなエフェクター細胞は、細胞傷害性T細胞やNK細胞を含む。治療様式、すなわち直接的な細胞障害活性とErbB2の阻害または低下との組み合わせは、ErbB2を過剰発現する癌の治療に治療的利益をもたらす可能性がある。
【0137】
免疫療法の1つの局面では、腫瘍細胞または疾患細胞は、標的化を可能とする、すなわち他の大半の細胞には存在しない、いくつかのマーカーを有していなければならない。多くの腫瘍マーカーが存在し、かつその任意のマーカーが、本発明における標的化に適している可能性がある。一般的な腫瘍マーカーは、癌胎児性抗原、前立腺特異的抗原、泌尿器腫瘍関連抗原、胎児抗原、チロシナーゼ(p97)、gp68、TAG-72、HMFG、シアリルルイス(Sialyl Lewis)抗原、MucA、MucB、PLAP、エストロゲン受容体、ラミニン受容体、erbB、およびp155を含む。免疫療法の別の局面は、抗癌作用を免疫刺激作用と組み合わせることである。以下を含む免疫刺激分子も存在する:IL-2、IL-4、IL-12、GM-CSF、γ-IFNなどのサイトカイン、MIP-1、MCP-1、IL-8などのケモカイン、およびFLT3リガンドなどの成長因子。免疫刺激分子をタンパク質の状態で使用するか、またはMDA-7などの腫瘍抑制因子を併用した遺伝子送達を使用することで抗腫瘍作用が高まることがわかっている(Ju et al., 2000)。さらに、これらの任意の化合物に対する抗体を、本明細書に記載する抗癌剤の標的化に使用することができる。
【0138】
現在研究中か、または使用されている免疫療法剤の例は、免疫アジュバント、例えばウシ型結核菌(Mycobacterium bovis)、熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)、ジニトロクロロベンゼン、および芳香族化合物(米国特許第5,801,005号および第5,739,169号;Hui and Hashimoto, 1998;Christodoulides et al., 1998)、サイトカイン治療薬、例えばインターフェロンα、インターフェロンβ、およびインターフェロンγ;IL-1、GM-CSF、およびTNF(Bukowski et al., 1998;Davidson et al., 1998;Hellstrand et al., 1998)による遺伝子治療、例えばTNF、IL-1、IL-2、p53(Qin et al., 1998;Austin-Ward and Villaseca, 1998;米国特許第5,830,880号および第5,846,945号)、ならびにモノクローナル抗体、例えば抗ガングリオシドGM2、抗HER-2、抗p185(Pietras et al., 1998;Hanibuchi et al., 1998;米国特許第5,824,311号)である。ハーセプチン(Herceptin)(トラスツズマブ)は、HER2-neu受容体をブロックするキメラ(マウス-ヒト)のモノクローナル抗体である。ハーセプチンは抗腫瘍活性を有し、悪性腫瘍の治療における使用に認可されている(Dillman, 1999)。表6は、複数の既知の抗癌性免疫療法剤とその標的の非制限的なリストである。これらの1つもしくは複数の治療において、本明細書に記載するmiRNA治療が使用可能であることが企図される。
【0139】
癌の受動免疫療法には多種多様な方法があり、以下のように広く分類可能である:抗体のみの注射;トキシンまたは化学療法剤に結合させた抗体の注射;放射性同位体に結合させた抗体の注射;抗イディオタイプ抗体の注射;および骨髄中の腫瘍細胞の一掃。
【0140】
(表6)

【0141】
4.遺伝子治療
さらに別の態様では、併用療法は、1種類もしくは複数の治療的miRNAの投与前に、投与後に、または投与と同時に治療的ポリヌクレオチドが投与される遺伝子治療を含む。miRNAとの治療的ポリペプチドまたはコード核酸の送達は、標的組織に対する複合的な治療効果を有する場合がある。さまざまなタンパク質が本発明に含まれ、その一部について以下に説明する。本発明との組み合わせにおけるいくつかの形状の遺伝子治療用に標的化可能なさまざまな遺伝子は、細胞増殖の誘導因子、細胞増殖の阻害因子、プログラム細胞死の調節因子、サイトカインおよび他の治療的核酸、または治療的タンパク質をコードする核酸を含むが、これらに限定されない。
【0142】
腫瘍抑制性の癌遺伝子は、過剰な細胞増殖を阻害するように機能する。このような遺伝子の不活性化は、その阻害活性の破壊によって無制限の増殖につながる。腫瘍抑制因子(例えば治療的ポリペプチド)であるp53、FHIT、p16、およびC-CAMを使用することができる。
【0143】
p53に加えて、細胞増殖の別の阻害因子がp16である。真核生物の細胞周期の主要な移行は、サイクリン依存性キナーゼすなわちCDKによって引き起こされる。CDKの1つであるサイクリン依存性キナーゼ4(CDK4)は、G1への進行を調節する。同酵素の活性はRbをG1後期でリン酸化する場合がある。CDK4の活性は、活性化サブユニットであるD型サイクリンによって制御されており、かつ阻害性サブユニットによって、p16INK4は、CDK4に特異的に結合して阻害し、それによりRbのリン酸化を調節する可能性のあるタンパク質として、生化学的に特徴づけられている(Serrano et al., 1993;Serrano et al., 1995)。p16INK4タンパク質はCDK4阻害因子なので(Serrano, 1993)、この遺伝子の欠失は、CDK4の活性を高めてRbタンパク質の高リン酸化を導く可能性がある。p16はまた、CDK6の機能を調節することも知られている。
【0144】
p16INK4は、p16B、p19、p21WAF1、およびp27KIP1も含むCDK阻害性タンパク質の新たに明らかにされたクラスに属する。p16INK4遺伝子は、いくつかの腫瘍タイプで高頻度で欠失している染色体領域9p21にマップされる。p16INK4遺伝子のホモ接合性の欠失および変異は、ヒトの腫瘍細胞系で高頻度で認められる。この証拠は、p16INK4遺伝子が腫瘍抑制遺伝子であることを示唆する。しかしながら、この解釈は、p16INK4遺伝子の変化の頻度が、初代の非培養腫瘍では培養細胞系よりかなり低いという観察によって疑問視されている(Caldas et al., 1994;Cheng et al., 1994;Hussussian et al., 1994;Kamb et al., 1994;Mori et al., 1994;Okamoto et al., 1994;Nobori et al., 1995;Orlow et al., 1994;Arap et al., 1995)。プラスミド発現ベクターのトランスフェクションによる野生型p16INK4の機能の回復は、いくつかのヒト癌細胞系によるコロニー形成を減少させる(Okamoto, 1994;Arap, 1995)。
【0145】
本発明で使用可能な他の遺伝子は、Rb、APC、DCC、NF-1、NF-2、WT-1、MEN-I、MEN-II、zac1、p73、VHL、MMAC1/PTEN、DBCCR-1、FCC、rsk-3、p27、p27/p16融合体、p21/p27融合体、抗血栓遺伝子(例えばCOX-1、TFP1)、PGS、Dp、E2F、ras、myc、neu、raf、erb、fms、trk、ret、gsp、hst、abl、E1A、p300、血管形成に関与する遺伝子(例えばVEGF、FGF、トロンボスポンジン、BAI-1、GDAIF、またはこれらの受容体)、およびMCCを含む。
【0146】
5.手術
癌患者の約60%が、予防的、診断的、または病期分類的、治癒的、および対症的な手術を含む、何らかの手術を受けることになる。治癒手術は、本発明の治療、化学療法、放射線療法、ホルモン療法、遺伝子治療、免疫療法および/または代替療法などの他の治療とともに使用可能な癌治療である。
【0147】
治癒手術は、癌性組織の全体もしくは一部が物理的に除去される、切除される、および/または破壊される切除を含む。腫瘍の切除は、腫瘍の少なくとも一部の物理的な除去を意味する。腫瘍の切除に加えて、手術による治療は、レーザー手術、冷凍外科療法、電気手術、および顕微鏡下手術(モース手術)を含む。さらに本発明は、表在癌、前癌、または偶発的な量の正常組織の除去とともに使用可能であることも企図される。
【0148】
癌の細胞、組織、または腫瘍の一部もしくは全体が切除されると、体内に空隙が形成される場合がある。治療は、追加的な抗癌治療剤による患部への潅流、直接注射、または局所投与によって達成することができる。このような治療は例えば、1日毎、2日毎、3日毎、4日毎、5日毎、6日毎、もしくは7日毎に、または1週毎、2週毎、3週毎、4週毎、もしくは5週毎に、または1か月毎、2か月毎、3か月毎、4か月毎、5か月毎、6か月毎、7か月毎、8か月毎、9か月毎、10か月毎、11か月毎、もしくは12か月毎に繰り返すことができる。これらの治療では、投与量も異なる場合がある。
【0149】
6.他の薬剤
治療の治療効果を改善するために、他の薬剤を本発明と組み合わせて使用可能であることが企図される。このような追加的な薬剤は、免疫調節剤、細胞表面受容体およびギャップ結合の上方制御に影響する薬剤、細胞増殖抑制剤および分化誘導剤、細胞接着の阻害剤、アポトーシス誘導因子に対する過剰増殖性細胞の感受性を高める薬剤、または他の生物学的薬剤を含む。免疫調節剤は、腫瘍壊死因子;インターフェロンα、インターフェロンβ、およびインターフェロンγ;IL-2および他のサイトカイン;F42Kおよび他のサイトカイン類似体;またはMIP-1、MIP-1beta、MCP-1、RANTES、および他のケモカインを含む。さらに、細胞表面受容体、またはFas/Fasリガンド、DR4もしくはDR5/TRAIL(Apo-2リガンド)などのそのリガンドの上方制御は、過剰増殖性細胞に対する自己分泌作用または傍分泌作用の確立によって本発明のアポトーシス誘導能を強化する可能性があることが企図される。ギャップ結合数の増加による細胞間シグナル伝達の亢進は、近傍の過剰増殖性細胞集団に対する抗過剰増殖性作用を高める可能性がある。他の態様では、治療の抗過剰増殖性の有効性を改善するために、細胞増殖抑制剤または分化誘導剤を本発明と組み合わせて使用することができる。細胞接着の阻害剤は、本発明の有効性を改善することが企図される。細胞接着阻害剤の例は、焦点接着キナーゼ(FAK)阻害剤およびロバスタチンである。さらに、治療の有効性を改善するために、抗体c225などの、アポトーシスに対する過剰増殖性細胞の感受性を高める他の薬剤が本発明と組み合わせて使用可能であることが企図される。
【0150】
Apo2リガンド(Apo2L、TRAILとも呼ばれる)は、腫瘍壊死因子(TNF)サイトカインファミリーのメンバーである。TRAILは、多種多様な癌細胞の速やかなアポトーシスを活性化するが、正常細胞には毒性を示さない。TRAILのmRNAは、さまざまな組織に存在する。大半の正常細胞は、TRAILの細胞障害作用に耐性を示すようであることから、TRAILによるアポトーシスの誘導を防ぐことが可能な機序が存在することが示唆される。デス受容体4(DR4)と呼ばれる、TRAILに関して最初に報告された受容体は、細胞質の「デスドメイン」を含み;DR4は、TRAILが運ぶアポトーシスシグナルを伝達する。TRAILに結合する他の受容体が同定されている。DR5と呼ばれる1つの受容体は、細胞質のデスドメインを含み、かつDR4と同じようにアポトーシスのシグナルを伝達する。DR4およびDR5のmRNAは、多くの正常組織および腫瘍細胞系で発現されている。最近、TRAILによるDR4やDR5を介したアポトーシスの誘導を妨げるDcR1やDcR2などのデコイ受容体が同定されている。したがって、これらのデコイ受容体は、細胞の表面におけるアポトーシス誘導性サイトカインに直接的に対する感受性を調節する新たな機序となる。正常組織におけるこれらの阻害性受容体の優先的な発現は、TRAILが正常細胞を損なわずに癌細胞のアポトーシスを誘導する抗癌剤として有用である可能性があることを示唆している(Marsters et al., 1999)。
【0151】
細胞障害性の化学療法剤の導入による癌の治療の進展は著しい。しかしながら、化学療法の帰結の1つには、薬剤耐性の表現型の発生/獲得、および多剤耐性の発生がある。薬剤耐性の発生は、このような腫瘍の治療において依然として大きな問題であり、このため遺伝子治療などの代替的な方法が明らかに必要とされている。
【0152】
化学療法、放射線療法、または生物学的療法とともに使用される別の形式の治療は、患者の組織を高温(最高106゜F)に曝す手順である温熱療法を含む。局所的な温熱療法、局部的な温熱療法、または全身の温熱療法の適用には、外部または内部から加温する装置を含めることができる。局所的な温熱療法では、腫瘍などの小さな領域に熱を加える。熱は、体外の装置から発せられる、腫瘍を標的とする高周波によって、体外で発生させることができる。内部の熱は、温水で満たされた加熱された細いワイヤーもしくは中空チューブ、埋め込み型のマイクロ波アンテナ、または高周波電極を含む滅菌済み探索子を含む場合がある。
【0153】
局部的な治療では、患者の臓器または四肢が加熱され、これは磁石などの、高エネルギーを発生する装置を使用して達成される。あるいは、患者の血液の一部を除去して加熱後に、内部加熱される領域中に潅流することができる。癌が全身に拡がっている場合は、全身加熱を実施することもできる。この目的で、温水ブランケット、ホットワックス(hot wax)、誘導コイル、および温熱チャンバ(thermal chamber)を使用することができる。
【0154】
本発明とともに、または前述した他の任意の癌治療と組み合わせて、ホルモン療法を使用することもできる。テストステロンやエストロゲンなどの特定のホルモンの作用のレベルを低下させるか、またはブロックするために、乳房、前立腺、卵巣、または子宮頚部の癌などの特定の癌の治療にホルモンを使用することができる。この治療はしばしば、治療オプションとして、または転移のリスクを低減させるために、少なくとも1種類の他の癌治療と組み合わせて使用される。
【0155】
本出願は、全体が参照により本明細書に組み入れられる、2005年2月8日に出願された米国仮出願第60/650,807号に対する優先権を主張する、2006年2月8日に出願された米国特許出願第11/349,727号を組み入れる。
【0156】
III.miRNA分子
マイクロRNA分子(「miRNA」)は一般に、21〜22ヌクレオチドの長さであるが、19ヌクレオチド、および最長23ヌクレオチドの長さのものが報告されている。miRNAはそれぞれ、より長い前駆体RNA分子(「前駆体miRNA」)からプロセシングを受ける。前駆体miRNAは、非タンパク質コード遺伝子から転写される。前駆体miRNAは、動物ではダイサーと呼ばれるリボヌクレアーゼIII様ヌクレアーゼ酵素によって切断されるステム-ループ様または折りたたみ様の構造の形成を可能とする2つの相補的領域を有する。プロセシングを受けたmiRNAは典型的にはステムの一部である。
【0157】
プロセシングを受けたmiRNA(「成熟miRNA」とも呼ばれる)は、特定の標的遺伝子またはその遺伝子産物を下方制御する大きな複合体の一部となる。動物のmiRNAの例は、標的と不完全に塩基対合して翻訳を停止させるmiRNAを含む(Olsen et al., 1999;Seggerson et al., 2002)。siRNA分子もダイサーによってプロセシングを受けるが、長い2本鎖RNA分子を形成する。siRNAは天然では動物細胞中に認められないが、RNA誘導サイレンシング複合体(RISC)を介して、mRNA標的の配列特異的な切断を誘導可能である(Denli et al., 2003)。
【0158】
A.アレイの作製
本発明のある態様は、複数の核酸、mRNAもしくはmiRNA分子、前駆体miRNA分子、またはmiR-143のmiRNAによって調節されるさまざまな遺伝子および遺伝子経路に由来する核酸に対して、(プローブ全体に対して)完全に、またはほぼ相補的であるか、または(プローブ全体に対して)同一な核酸分子(プローブ)のマクロアレイもしくはマイクロアレイであり、かつ支持体上もしくは支持体材料上に空間的に分離した配置で位置する、mRNAアレイもしくは核酸アレイ、miRNAアレイもしくは核酸アレイ、および/またはmiRNAアレイもしくは核酸プローブアレイの作製および使用に関する。マクロアレイは典型的には、表面にプローブがスポットされたニトロセルロースまたはナイロンのシートである。マイクロアレイは、核酸プローブを、最大10,000個の核酸分子が、典型的には1〜4 cm2の領域中に収まるように、より密に配置させる。マイクロアレイは、核酸分子、例えば遺伝子、オリゴヌクレオチドなどを基質上にスポットするか、または基質上にオリゴヌクレオチド配列をインサイチューで作ることで作製することができる。スポットされたか、または作られた核酸分子は、1 cm2あたり最大約30個か、もしくはそれ以上の非同一な核酸分子、例えば1 cm2あたり最大約100個もしくはさらには1000個の高密度マトリックスパターンで適用することができる。マイクロアレイは典型的には、フィルターアレイの場合のニトロセルロースベースの材料とは対照的に、固体支持体としてコーティングされたガラスを使用する。マーカーRNAおよび/またはmiRNAに相補的な核酸試料を整然と並んだアレイとすることで、各試料の位置を追跡したり、当初の試料に関連づけたりすることができる。
【0159】
複数の異なる核酸プローブが固体支持体の表面に安定的に結合される多種多様なアレイ装置が当業者に既知である。アレイに有用な基質は、ナイロン、ガラス、金属、プラスチック、ラテックス、およびシリコンを含む。このようなアレイは、平均プローブ長、プローブの配列またはタイプ、プローブとアレイ表面間の結合の性質(例えば共有結合か非共有結合か)などのいくつかの点が異なる。本発明の標識法およびスクリーニング法、ならびにアレイは、プローブがmiRNAもしくは遺伝子、または遺伝子を代表する核酸であることを除いて、任意のパラメーターに関して、その有用性は限定されないので;方法および組成物は、多種多様なタイプの核酸アレイとともに使用することができる。
【0160】
マイクロアレイを作製する代表的な方法および装置は例えば、全体が参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,143,854号;第5,202,231号;第5,242,974号;第5,288,644号;第5,324,633号;第5,384,261号;第5,405,783号;第5,412,087号;第5,424,186号;第5,429,807号;第5,432,049号;第5,436,327号;第5,445,934号;第5,468,613号;第5,470,710号;第5,472,672号;第5,492,806号;第5,525,464号;第5,503,980号;第5,510,270号;第5,525,464号;第5,527,681号;第5,529,756号;第5,532,128号;第5,545,531号;第5,547,839号;第5,554,501号;第5,556,752号;第5,561,071号;第5,571,639号;第5,580,726号;第5,580,732号;第5,593,839号;第5,599,695号;第5,599,672号;第5,610,287号;第5,624,711号;第5,631,134号;第5,639,603号;第5,654,413号;第5,658,734号;第5,661,028号;第5,665,547号;第5,667,972号;第5,695,940号;第5,700,637号;第5,744,305号;第5,800,992号;第5,807,522号;第5,830,645号;第5,837,196号;第5,871,928号;第5,847,219号;第5,876,932号;第5,919,626号;第6,004,755号;第6,087,102号;第6,368,799号;第6,383,749号;第6,617,112号;第6,638,717号;第6,720,138号、ならびに

に記載されている。
【0161】
アレイは、2、20、25、50、80、100種類、またはそれ以上の異なるプローブを含むような高密度のアレイとすることが企図される。アレイは、1000、16,000、65,000、250,000、または1,000,000種類、もしくはそれ以上の異なるプローブを含む場合があることが企図される。プローブは、1種類もしくは複数の異なる生物体または細胞タイプにおいて、mRNA標的および/またはmiRNA標的に対する場合がある。オリゴヌクレオチドプローブの長さは、いくつかの態様では5〜50、5〜45、10〜40、9〜34、または15〜40ヌクレオチドである。ある態様では、オリゴヌクレオチドプローブの長さは、それらの間にある全ての整数および範囲を含む、5、10、15、20〜20、25、30、35、40ヌクレオチドである。
【0162】
アレイ中の個々の異なるプローブ配列の位置および配列は、一般に既知である。さらに、多数の異なるプローブが比較的小さな面積を占め、一般に1 cm2あたり約60、100、600、1000、5,000、10,000、40,000、100,000、または400,000個の異なるオリゴヌクレオチドプローブより大きいプローブ密度を有する高密度アレイを提供する場合がある。アレイの表面積は、約1 cm2、約1.6 cm2、約2 cm2、約3 cm2、約4 cm2、約5 cm2、約6 cm2、約7 cm2、約8 cm2、約9 cm2、もしくは約10 cm2またはそれ未満である場合がある。
【0163】
さらに当業者であれば、アレイを使用して得られたデータを容易に解析できるであろう。このようなプロトコルは前述しており、かつ、いずれも参照により具体的に組み入れられるWO 9743450;WO 03023058;WO 03022421;WO 03029485;WO 03067217;WO 03066906;WO 03076928;WO 03093810;WO 03100448A1に記載されている情報を含む。
【0164】
B.試料の調製
さまざまな試料のRNAおよび/またはmiRNAは、本発明のアレイ、プローブのインデックス、またはアレイ技術を使用して解析可能であることが企図される。内在性のmiRNAは、本発明の組成物および方法による使用が企図されているが、組換えmiRNA(内在性のmiRNAもしくは前駆体miRNAに相補的かまたは同一な核酸を含む)も、本明細書に記載する手順で扱うことが可能であり、かつ解析することができる。試料は生物学的試料である場合があり、この場合、生検材料、細針吸引物(fine needle aspirate)、剥離物、血液、組織、器官、精液、唾液、涙液、他の体液、毛包、皮膚、または生物学的細胞、特に癌細胞もしくは過剰増殖性細胞を含むか、またはこれらからなる任意の試料に由来する場合がある。ある態様では、試料は、生検材料または他の体液もしくは組織からある程度精製されたかもしくは濃縮された細胞である場合があるが、これらに限定されない。あるいは、試料は生物学的試料ではなく、無細胞反応混合物(1種類もしくは複数の生物学的酵素を含む場合がある)などの化学的混合物である場合がある。
【0165】
C.ハイブリダイゼーション
アレイまたは一連のプローブが準備され、かつ/または試料中の核酸もしくはプローブが標識されたら、標的核酸の集団をアレイまたはプローブに、ハイブリダイゼーション条件で接触させる。このような条件は、必要に応じて、実施される特定のアッセイを考慮して、特異性の最適なレベルを提供するように調節可能である。適切なハイブリダイゼーション条件は当業者に周知であり、Sambrook et al.(2001)およびWO 95/21944にまとめられている。多くの態様では、ハイブリダイゼーション中のストリンジェントな条件の使用に特に関心がもたれる。ストリンジェントな条件は、当業者に既知である。
【0166】
1つのアレイまたは一群のプローブが複数の試料に接触され得ることが特に企図される。試料は、試料を区別するために、さまざまな標識によって標識可能である。例えば、1つのアレイに、Cy3で標識された腫瘍組織試料と、Cy5で標識された正常組織試料を接触させることができる。アレイ上における、プローブに対応する特定のmiRNAの試料間の差は、容易に確認および定量することができる。
【0167】
アレイは表面積が小さいので、温度調節および塩含量などの均一なハイブリダイゼーション条件が可能となる。さらに、小さな面積が高密度のアレイで占められるので、ハイブリダイゼーションは、極めて少量の液量(例えば約5 μl、10 μl、25 μl、50 μl、60 μl、70 μl、80 μl、90 μl、100 μl、または約5 μl未満、10 μl未満、25 μl未満、50 μl未満、60 μl未満、70 μl未満、80 μl未満、90 μl未満、100 μl未満、またはこれらの間の任意の範囲の容量を含む、約250 μlまたはこれ未満)で実施することができる。小さな容量では、ハイブリダイゼーションは極めて速やかに進行する可能性がある。
【0168】
D.差次的発現の解析
本発明のアレイを使用して、2つの試料間の差を検出することができる。特に企図される応用は、正常な試料に由来するmiRNAまたは遺伝子の発現と、正常ではない試料に由来するmiRNAまたは遺伝子の発現との差、疾患もしくは状態と、そのような疾患もしくは状態を発現しない細胞との差、または2つの異なって処理された試料間の差を同定すること、および/または定量することを含む。また、miRNAまたは遺伝子の発現を、特定の疾患もしくは状態に対して感受性があると考えられる試料と、疾患もしくは状態に対して感受性がないか、または耐性を有すると考えられる試料との間で比較することができる。正常ではない試料とは、疾患もしくは状態の表現型もしくは遺伝子型の形質を示す試料か、またはそのような疾患もしくは状態に関して正常ではないと考えられる試料である。これは、疾患または状態に関して正常な細胞と比較することができる。表現型形質は、成分が遺伝的であるか、遺伝的である可能性があるか、遺伝的でない可能性があるか、または過剰増殖性細胞もしくは新生細胞もしくは細胞群に起因する疾患もしくは状態の症状、または疾患もしくは状態に対する感受性を含む。
【0169】
アレイは、核酸プローブが結合した固体支持体を含む。アレイは典型的には、基質の表面の異なる既知の位置に結合した複数の異なる核酸プローブを含む。「マイクロアレイ」または集合的に「チップ」とも表現される、このようなアレイは当技術分野で、例えば、それぞれがあらゆる目的で全体が参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,143,854号、第5,445,934号、第5,744,305号、第5,677,195号、第6,040,193号、第5,424,186号、およびFodor et al., (1991)に概説されている。機械的な合成法を使用するこのようなアレイの合成法は例えば、あらゆる目的で参照により全体が本明細書に組み入れられる米国特許第5,384,261号に記載されている。ある局面では平面的なアレイ表面が使用されるが、アレイは表面上に、実質的に任意の形状に、またはさらには複数の層の表面を作り込むことができる。アレイは、ビーズ、ゲル、高分子の表面、光ファイバーなどのファイバー、ガラス、または他の任意の適切な基質上の核酸である場合がある。これについては、あらゆる目的で参照により全体が本明細書に組み入れられる米国特許第5,770,358号、第5,789,162号、第5,708,153号、第6,040,193号、および第5,800,992号を参照されたい。アレイは、診断または全ての包括的な装置の他の操作を可能とするように組み立てることが可能である。これについては例えば、あらゆる目的で参照により全体が本明細書に組み入れられる米国特許第5,856,174号および第5,922,591号を参照されたい。また、アレイ、その製造、およびその特徴に関する追加情報に関しては、あらゆる目的で参照により全体が本明細書に組み入れられる、2000年4月7日に出願された米国特許出願第09/545,207号も参照されたい。
【0170】
特に、アレイを使用して、試料を癌や関連する状態などの病理学的状態に関して評価することができる。本発明を使用して、良性、癌性、および転移性の組織間もしくは腫瘍間の差などの、疾患の病期間または下位分類間の差を評価可能であることが特に企図される。
【0171】
評価対象となる表現型形質は、寿命、罹患率、推定生存率、特定の薬剤または治療に対する感受性もしくは受容性(薬剤有効性)、および薬剤毒性のリスクなどの特徴を含む。これらの表現型形質が異なる試料も、記載された組成物および方法を使用して評価される場合がある。
【0172】
ある態様では、miRNAおよび/または発現プロファイルが作成されて、これらのプロファイルを評価し、かつ薬物動態または治療と相関させることができる。例えば、このようなプロファイルを作成して、発現が患者の治療転帰と相関するmiRNAもしくは遺伝子が存在するか否かを判定するために、患者が治療を受ける前か、または治療中に、患者の腫瘍および血液試料を評価することができる。差次的なmiRNAまたは遺伝子の同定は、どの薬剤レジメンを患者に提供すべきかを判定するために、腫瘍試料および/または血液試料を評価する診断アッセイにつながる可能性がある。加えて、これを使用して、特定の臨床試験に適した患者を同定または選択することができる。仮に発現プロファイルが、薬剤の有効性または薬剤の毒性と相関すると判定されれば、そのようなプロファイルは、患者が、薬剤の投与を受けるのに適しているか否か、薬剤の併用を受けるのに適しているか否か、または特定の投与量の薬剤の投与に適しているか否かの判断に関連する。
【0173】
上記の予後判定アッセイに加えて、さまざまな疾患を有する患者に由来する試料を評価して、異なる疾患が、miRNAおよび/または関連遺伝子の発現レベルに基づいて同定可能か否かを判定することができる。診断アッセイは、医師が、疾患を有する個人か、または疾患を発症するリスクを有する個人の同定に使用可能なプロファイルに基づいて設計することができる。あるいは治療を、miRNAのプロファイリングに基づいて設計することができる。このような方法および組成物の例は、参照により全体が本明細書に組み入れられる、2005年5月23日に出願された「Methods and Compositions Involving miRNA and miRNA Inhibitor Molecules」と題する米国特許仮出願に記載されている。
【0174】
E.その他のアッセイ
アレイおよびマイクロアレイの使用に加えて、いくつかの異なるアッセイで、miRNAまたは関連遺伝子、それらの活性、およびそれらの作用を解析可能であることが企図される。このようなアッセイは、核酸増幅、ポリメラーゼ連鎖反応、定量的PCR、RT-PCR、インサイチューハイブリダイゼーション、ノーザンハイブリダイゼーション、ハイブリダイゼーション保護アッセイ(HPA)(GenProbe)、分岐DNA(bDNA)アッセイ(Chiron)、ローリングサークル増幅(RCA)、単分子ハイブリダイゼーション検出(US Genomics)、インベーダー(Invader)アッセイ(ThirdWave Technologies)、および/またはBridge Litigationアッセイ(Genaco)を含むが、これらに限定されない。
【0175】
IV.核酸
本発明は、標識可能な、アレイ解析に使用可能な、または特に癌などの病理学的状態に関連する診断、治療、もしくは予後判定の応用に使用可能な核酸、修飾または模倣核酸、miRNA、mRNA、遺伝子、およびこれらの代表的な断片に関する。このような分子は、細胞内で内因的に産生させることが可能である、または化学的もしくは組換え的に合成または作製することができる。このような分子は、単離および/または精製することができる。本明細書に記載する個々のmiRNAは、これらのmiRNA配列に対応するSEQ ID NOおよびアクセッション番号を含む。miRNAの名称はしばしば省略され、「hsa-」という接頭辞をつけずに呼ばれ、かつ文脈に応じて理解される。特に明記した部分を除いて、本出願中で言及されるmiRNAは、miR-Xまたはlet-Xと記載されるヒト配列である(Xは数字および/または文字)。
【0176】
ある局面では、「5P」または「3P」の接尾辞によって指定されるmiRNAプローブを使用することができる。「5P」は、成熟miRNAが前駆体の5'末端に由来することを意味し、および対応する「3P」は、前駆体の3'末端に由来することを意味する(www.sanger.ac.ukに記載)。さらに、いくつかの態様では、既知のヒトmiRNAに対応しないmiRNAプローブが使用される。このような非ヒトmiRNAプローブは本発明の態様で使用可能であること、または非ヒトmiRNAに相同なヒトmiRNAが存在する可能性があることが企図される。他の態様では、任意の哺乳類細胞、生物学的試料、またはこれらの調製物を使用することができる。
【0177】
本発明のいくつかの態様では、miRNAを含む方法および組成物は、miRNA、マーカー(mRNA)、および/または他の核酸に関する場合がある。核酸は、以下の、少なくとも以下の、もしくは最大で以下の長さ、またはこれらの間の任意の範囲の長さであってよい:

ヌクレオチド。このような長さは、プロセシングを受けたmiRNA、miRNAプローブ、前駆体miRNA、miRNAを含むベクター、mRNA、mRNAプローブ、対照核酸、ならびに他のプローブおよびプライマーの長さを包含する。
【0178】
多くの態様では、プロセシングを受けたmiRNA、および追加された任意の隣接領域の長さに依存して、miRNAの長さは19〜24ヌクレオチドであり、miRNAプローブの長さは19〜35ヌクレオチドである。miRNA前駆体は一般に、ヒトでは62〜110ヌクレオチドである。
【0179】
本発明の核酸は、別の核酸と同一または相補的な領域を有する場合がある。相補性または同一性を有する領域は、少なくとも5個の連続した残基である場合があることが企図されるが、領域は、以下の、少なくとも以下の、もしくは最大で以下の長さであることが特に企図される:

の連続ヌクレオチド。さらに、前駆体miRNAもしくは他の核酸内における相補性の長さ、またはmiRNAプローブとmiRNAもしくはmiRNA遺伝子との間における相補性の長さが、このような長さであることも理解されたい。さらに相補性は、パーセンテージで表現される場合がある。つまり、プローブとその標的間の相補性は、プローブの全長に対して90%または90%以上である。いくつかの態様では、相補性は90%、95%、もしくは100%であるか、または少なくとも90%、95%、もしくは100%である。特に、このような長さは、SEQ ID NO:1〜13のいずれか、アクセッション番号、または本明細書に記載する他の任意の配列中に同定される核酸配列を含む任意の核酸に適用することができる。典型的には、miRNAおよびプロセシングを受けたmiRNA配列の一般に使用される名称が与えられる(その同定の源は接頭辞で表される。例えばヒト配列の場合は「hsa」)。特に明記した部分を除いて、接頭辞のないmiRNAは、ヒトmiRNAを意味すると理解される。さらに、miRNAの名称中の小文字は、小文字である場合もあれば小文字でない場合もあり;例えばhsa-mir-130bはmiR-130Bとも表記可能である。「miRNAプローブ」という語句は、特定のmiRNAまたは構造的に関連するmiRNAを同定可能な核酸プローブを意味する。
【0180】
一部の核酸はゲノム配列または遺伝子に由来すると理解されたい。この点に関して、「遺伝子」という語句は、任意のmiRNAまたは遺伝子に関する前駆体核酸またはmiRNAをコードするゲノム配列を意味するために簡潔さを考慮して用いられる。しかしながら、本発明の態様は、発現に関与するmiRNAのゲノム配列(プロモーターや他の調節配列など)を含む場合がある。
【0181】
「組換え体」という語句が使用される場合があり、これは一般に、インビトロで操作された分子か、またはこのような分子の複製産物もしくは発現産物の分子を意味する。
【0182】
「核酸」という語句は当技術分野で周知である。本明細書で用いる「核酸」は一般に、核酸塩基を含む(1本もしくは複数の鎖の)DNA、RNA、またはこれらの誘導体もしくは類似体の分子を意味する。核酸塩基は例えば、DNA中に存在する天然のプリン塩基もしくはピリミジン塩基(例えばアデニン「A」、グアニン「G」、チミン「T」、もしくはシトシン「C」)か、またはRNA(例えばA、G、ウラシル「U」、もしくはC)を含む。「核酸」という語句は、いずれも「核酸」という表記の亜属である「オリゴヌクレオチド」および「ポリヌクレオチド」という語句を含む。
【0183】
「miRNA」という語句は一般に1本鎖分子を意味するが、特定の態様では、本発明で実行される分子は、同じ1本鎖分子の別の領域に対して、または他の核酸に対して、部分的に(鎖の全長に対して10〜50%の相補性)、実質的に(鎖の全長に対して50%以上100%未満の相補性)、または完全に相補的な領域または追加的な鎖も含む。したがって、miRNAは、1本もしくは複数の相補的な鎖または自己相補的な鎖、すなわち特定の配列の「相補物」を含む分子を包含してもよい。例えば前駆体miRNAは、最大で100%の相補性を有する自己相補的な領域を有する場合がある。本発明のmiRNAプローブまたは核酸は、標的に対して少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、もしくは100%相補的な配列を含む場合があるか、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、もしくは100%相補的な配列であるか、または少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、もしくは100%相補的な配列である。
【0184】
本発明の「合成核酸」は、核酸が、天然の核酸の化学的な構造または配列の全体もしくは一部を有さないことを意味すると理解されたい。したがって、「合成miRNA」という語句は、細胞内で、または天然のmiRNAと同様の生理学的状態で機能する「合成核酸」を意味すると理解されよう。
【0185】
本発明の態様は、合成miRNAまたは合成核酸を含む場合があるが、本発明のいくつかの態様では、核酸分子は「合成」である必要はない。ある態様では、本発明の方法および組成物で使用される非合成の核酸またはmiRNAは、天然のmRNAもしくはmiRNA前駆体、または成熟mRNAもしくはmiRNAの全体の配列および構造を有する場合がある。例えば、本発明の方法および組成物で使用される非合成miRNAは、1種類もしくは複数の修飾型のヌクレオチドまたはヌクレオチド類似体を有さない場合がある。これらの態様では、非合成miRNAは、組換え的に作製される場合もあれば組換え的に作製されない場合もある。特定の態様では、本発明の方法および/または組成物における核酸は、特に合成miRNAであり、非合成miRNA(すなわち「合成」であると認定されないmiRNA)ではないが;他の態様では、本発明は特異的に非合成miRNAを含み、合成miRNAを含まない。合成miRNAの使用に関して説明された任意の態様は、非合成miRNAにあてはまる(逆も可)。
【0186】
「天然の」という語句は、人による任意の介入なく生物体に見出されるものを意味し;天然の野生型または変異型の分子を意味する場合があると理解される。いくつかの態様では、合成miRNA分子は、天然のmiRNA分子の配列を有さない。他の態様では、合成miRNA分子は、天然のmiRNA分子の配列を有する場合があるが、合成miRNA分子の化学的構造(非配列化学的構造)は、特に、正確な配列と特異的に関係しない部分において、そのような配列を有する天然のmiRNA分子の化学的構造とは異なる。場合によっては、合成miRNAは、天然のmiRNA中には見出されない配列および非配列の化学的構造の両方を有する。さらに合成分子の配列は、どのmiRNAが有効に提供されるか、または阻害されるかを明らかにし;内在性のmiRNAは、「対応するmiRNA」と呼ばれる。本発明で使用可能な、対応するmiRNA配列は、本明細書に記載したSEQ ID、ならびに他の任意のmiRNA配列、miRNA前駆体配列、またはこれらに相補的な任意の配列中の配列の全体もしくは一部を含むが、これらに限定されない。いくつかの態様では、この配列は、この配列とともに使用可能な特定のmiRNA(もしくは複数のmiRNAのセット)を標的とする本明細書に記載する配列の、全体もしくは一部であるか、または全体もしくは一部に由来するか、または全体もしくは一部を含む。
【0187】
本明細書で用いる「ハイブリダイゼーション」、「ハイブリダイズする」、または「ハイブリダイズ可能な」という語句は、2本鎖もしくは3本鎖の分子、または部分的に2本鎖もしくは3本鎖の性質を有する分子の形成を意味すると理解されたい。本明細書で用いる「アニールする」という語句は、「ハイブリダイズする」と同義である。「ハイブリダイゼーション」、「ハイブリダイズする」、または「ハイブリダイズ可能な」という語句は、「ストリンジェントな条件」または「高ストリンジェンシー」という語句、および「低ストリンジェンシー」または「低ストリンジェンシー条件」という語句を含む。
【0188】
本明細書で用いる「ストリンジェントな条件」または「高ストリンジェンシー」は、相補的配列を含む1つもしくは複数の核酸鎖間のハイブリダイゼーション、または同核酸鎖内のハイブリダイゼーションは可能とするが、ランダムな配列ハイブリダイゼーションは除外する条件である。ストリンジェントな条件は、核酸鎖と標的鎖との間のわずかなミスマッチ(もしあれば)を許容する。このような条件は当業者で周知であり、高い選択性を必要とする応用に好ましい。非制限的な応用は、遺伝子もしくはその核酸セグメントなどの核酸の単離、または少なくとも1つの特異的なmRNA転写物もしくはその核酸セグメントなどの検出を含む。
【0189】
ストリンジェントな条件は、約42℃〜約70℃の温度における約0.02 M〜約0.5 MのNaClによって提供されるような、低塩および/または高温の条件を含む場合がある。望ましいストリンジェンシーの温度およびイオン強度は、部分的には、特定の核酸の長さ、標的配列の長さおよび核酸塩基の含量、核酸の電荷組成、ならびにハイブリダイゼーション混合物中のホルムアミド、テトラメチルアンモニウムクロライド、または他の溶媒の存在もしくは濃度によって決定されると理解されたい。
【0190】
ハイブリダイゼーションに関する、これらの範囲、組成、および条件が非制限的な例のみによって言及されること、および特定のハイブリダイゼーション反応の所望のストリンジェンシーがしばしば、1つもしくは複数の陽性または陰性の対照との比較によって実験的に決定されることも理解されたい。企図される応用に依存して、標的配列に対する核酸のさまざまな程度の選択性を達成するためには、ハイブリダイゼーションのさまざまな条件を使用することが好ましい。非制限的な例では、ストリンジェントな条件で核酸にハイブリダイズしない関連標的核酸の同定は、低温および/または高イオン強度におけるハイブリダイゼーションによって達成される場合がある。このような条件は、「低ストリンジェンシー」または「低ストリンジェンシー条件」と呼ばれ、かつ低ストリンジェンシーの非制限的な例は、約20℃〜約50℃の温度範囲で約0.15 M〜約0.9 MのNaClで実施されるハイブリダイゼーションを含む。言うまでもなく、特定の応用に適したものとするために、低ストリンジェンシー条件または高ストリンジェンシー条件をさらに改変することは、当業者の能力の範囲内にある。
【0191】
A.核酸塩基、ヌクレオシド、ヌクレオチド、および修飾ヌクレオチド
本明細書で用いる「核酸塩基」は、例えば少なくとも1つの天然の核酸(すなわちDNAおよびRNA)中に見出される天然の核酸塩基(すなわちA、T、G、C、もしくはU)、ならびにこのような核酸塩基の天然または非天然の誘導体および類似体などの複素環塩基を意味する。核酸塩基は一般に、天然の核酸塩基対合と置換可能な様式で、少なくとも1種類の天然の核酸塩基と1つもしくは複数の水素結合(例えばAとT間、GとC間、およびAとU間の水素結合)を形成する(「アニールする」または「ハイブリダイズする」)ことが可能である。
【0192】
「プリン」核酸塩基および/または「ピリミジン」核酸塩基は、天然のプリン核酸塩基および/またはピリミジン核酸塩基を含み、かつ1つもしくは複数のアルキル部分、カルボキシアルキル部分、アミノ部分、ヒドロキシル部分、ハロゲン部分(すなわちフルオロ、クロロ、ブロモ、もしくはヨード)、チオール部分、またはアルキルチオール部分と置換されたプリンもしくはピリミジンを含むが、これらに限定されない、これらの誘導体および類似体も含む。好ましいアルキル(例えばアルキル、カルボキシアルキルなどの)部分は、約1個、約2個、約3個、約4個、約5個〜約6個の炭素原子を含む。プリンもしくはピリミジンの他の非制限的な例は、デアザプリン、2,6-ジアミノプリン、5-フルオロウラシル、キサンチン、ヒポキサンチン、8-ブロモグアニン、8-クロログアニン、ブロモチミン、8-アミノグアニン、8-ヒドロキシグアニン、8-メチルグアニン、8-チオグアニン、アザグアニン、2-アミノプリン、5-エチルシトシン、5-メチルシトシン、5-ブロモウラシル、5-エチルウラシル、5-ヨードウラシル、5-クロロウラシル、5-プロピルウラシル、チオウラシル、2-メチルアデニン、メチルチオアデニン、N,N-ジメチルアデニン、アザアデニン、8-ブロモアデニン、8-ヒドロキシアデニン、6-ヒドロキシアミノプリン、6-チオプリン、4-(6-アミノヘキシル/シトシン)などを含む。他の例は当業者に周知である。
【0193】
本明細書で用いる「ヌクレオシド」は、核酸塩基のリンカー部分に共有結合によって結合された核酸塩基を含む個々の化学的単位を意味する。「核酸塩基のリンカー部分」の非制限的な例は、デオキシリボース、リボース、アラビノース、または5-炭素糖の誘導体もしくは類似体を含むが、これらに限定されない5-炭素原子を含む糖(すなわち「5-炭素糖」)である。5-炭素糖の誘導体もしくは類似体の非制限的な例は、2'-フルオロ-2'-デオキシリボース、または炭素が糖環中の酸素原子と置換された炭素環糖(carbocyclic sugar)を含む。核酸塩基のリンカー部分に対する核酸塩基のさまざまなタイプの共有結合による結合は、当技術分野で既知である(Kornberg and Baker, 1992)。
【0194】
本明細書で用いる「ヌクレオチド」は、「バックボーン部分」をさらに含むヌクレオシドを意味する。バックボーン部分は一般に、ヌクレオチドを、ヌクレオチドを含む別の分子に、または別のヌクレオチドに共有結合によって結合させて核酸を形成する。天然のヌクレオチド中の「バックボーン部分」は典型的には、5-炭素糖に共有結合によって結合されるリン部分を含む。バックボーン部分の結合は典型的には、5-炭素糖の3'-位または5'-位のいずれかにおいて生じる。しかしながら、他のタイプの結合は、特にヌクレオチドが天然の5-炭素糖またはリン部分の誘導体もしくは類似体を含む場合には、当技術分野で既知である。
【0195】
核酸は、核酸塩基の誘導体もしくは類似体の全体、天然の核酸中に存在し得る核酸塩基のリンカー部分および/またはバックボーン部分を含むか、またはこれらから構成される。核酸類似体を有するRNAも本発明の方法で標識され得る。本明細書で用いる「誘導体」は、化学的に修飾されたか、または改変型の天然の分子を意味し、一方で「模倣体」または「類似体」は、天然の分子もしくは部分に構造的に似ている場合もあれば似ていない場合もあるが類似の機能を有する分子を意味する。本明細書で用いる「部分」は一般に、より大きな化学的構造または分子構造の、より小さな化学的成分または分子的成分を意味する。核酸塩基、ヌクレオシド、およびヌクレオチドの類似体または誘導体は当技術分野で周知であり、かつ文献に記載されている(例えば参照により本明細書に組み入れられるScheit, 1980を参照)。
【0196】
ヌクレオシド、ヌクレオチド、または核酸の他の非制限的な例は、以下に記載されている例を含む:それぞれの全体が参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,681,947号、第5,652,099号および第5,763,167号、第5,614,617号、第5,670,663号、第5,872,232号、第5,859,221号、第5,446,137号、第5,886,165号、第5,714,606号、第5,672,697号、第5,466,786号、第5,792,847号、第5,223,618号、第5,470,967号、第5,378,825号、第5,777,092号、第5,623,070号、第5,610,289号、第5,602,240号、第5,858,988号、第5,214,136号、第5,700,922号、第5,708,154号、第5,728,525号、第5,637,683号、第6,251,666号、第5,480,980号、ならびに第5,728,525号。
【0197】
本発明の標識法およびキットは特に、標識の結合用に修飾され、かつmiRNA分子中に組み入れ可能なヌクレオチドの使用を企図している。このようなヌクレオチドは、蛍光色素を含む色素によって、またはビオチンなどの分子によって標識され得るヌクレオチドを含む。標識されたヌクレオチドは容易に入手可能であり;市販品を入手可能である、または当業者に既知の反応によって合成可能である。
【0198】
本発明で使用される修飾ヌクレオチドは天然のヌクレオチドではなく、分子上に官能基を有する調製されたヌクレオチドを意味する。対象となる特定の官能基は以下を含む:アミノ基、スルフヒドリル基、スルホキシル基、アミノスルフヒドリル基、アジド基、エポキシド基、イソチオシアネート基、イソシアネート基、無水物基、モノクロロトリアジン基、ジクロロトリアジン基、モノハロゲン置換ピリジン基もしくはジハロゲン置換ピリジン基、モノ置換ジアジン基もしくはジ置換ジアジン基、マレイミド基、エポキシド基、アジリジン基、ハロゲン化スルホニル基、酸ハロゲン基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アリール基、アルキルスルホニル基、N-ヒドロキシスクシニミドエステル基、イミドエステル基、ヒドラジン基、アジドニトロフェニル基、アジド基、3-(2-ピリジルジチオ)-プロピオンアミド基、グリオキサール基、アルデヒド基、ヨードアセチル基、シアノメチルエステル基、p-ニトロフェニルエステル基、o-ニトロフェニルエステル基、ヒドロキシピリジンエステル基、カルボニルイミダゾール基、および他の類似の官能基。いくつかの態様では、官能基はヌクレオチドに直接結合可能である、または結合基を介してヌクレオチドに結合可能である。官能基部分および任意のリンカーは、ヌクレオチドがmiRNAに付加され得るか、または標識され得る能力を実質的に損なわない。代表的な結合基は、典型的には約2〜18個、通常は約2〜8個の炭素原子の炭素含有結合基を含む。この場合、炭素含有結合基は、1個もしくは複数のヘテロ原子、例えばS、O、Nなどを含む場合もあれば含まない場合もあり、かつ1か所もしくは複数の不飽和部位を含む場合もあれば含まない場合もある。多くの態様で特に関心が寄せられるのは、アルキル結合基、典型的には1〜16個、通常は1〜4個の炭素原子の低級アルキル結合基である(結合基は1か所もしくは複数の不飽和部位を含む場合がある)。官能基が付与された標的の作製に関する上記の方法に使用される、官能基が付与されたヌクレオチド(またはプライマー)は既知のプロトコルを用いて作製可能である、または業者から、例えばSigma、Roche、Ambion、Biosearch Technologies、およびNENから購入することができる。官能基は、いずれも参照により組み入れられる米国特許第4,404,289号;第4,405,711号;第4,337,063号、および第5,268,486号、ならびに英国特許第1,529,202号に記載された代表的な情報を含む、当業者に既知の方法で調製することができる。
【0199】
アミン修飾ヌクレオチドが本発明の複数の態様に使用される。アミン修飾ヌクレオチドは、標識の結合用の反応性アミン基を有するヌクレオチドである。任意のリボヌクレオチド(G、A、U、もしくはC)、またはデオキシリボヌクレオチド(G、A、T、もしくはC)が標識目的で修飾され得ることが企図される。例としては、以下の修飾型のリボヌクレオチドおよびデオキシリボヌクレオチドを含むが、これらに限定されない:5-(3-アミノアリル)-UTP;8-[(4-アミノ)ブチル]-アミノ-ATPおよび8-[(6-アミノ)ブチル]-アミノ-ATP;N6-(4-アミノ)ブチル-ATP、N6-(6-アミノ)ブチル-ATP、N4-[2,2-オキシ-ビス-(エチルアミン)]-CTP;N6-(6-アミノ)ヘキシル-ATP;8-[(6-アミノ)ヘキシル]-アミノ-ATP;5-プロパルギルアミノ-CTP、5-プロパルギルアミノ-UTP;5-(3-アミノアリル)-dUTP;8-[(4-アミノ)ブチル]-アミノ-dATPおよび8-[(6-アミノ)ブチル]-アミノ-dATP;N6-(4-アミノ)ブチル-dATP、N6-(6-アミノ)ブチル-dATP、N4-[2,2-オキシ-ビス-(エチルアミン)]-dCTP;N6-(6-アミノ)ヘキシル-dATP;8-[(6-アミノ)ヘキシル]-アミノ-dATP;5-プロパルギルアミノ-dCTP、および5-プロパルギルアミノ-dUTP。このようなヌクレオチドは、当業者に既知の方法で調製することができる。さらに、当業者であれば、5-(3-アミノアリル)-UTPに代えて、5-(3-アミノアリル)-CTP、GTP、ATP、dCTP、dGTP、dTTP、またはdUTPなどの同じアミン修飾を有する他のヌクレオチド体を調製することができる。
【0200】
B.核酸の調製
核酸は、例えば化学合成、酵素的産生、または生物学的産生などの、当業者に既知の任意の手法で作製することができる。本発明のmiRNAプローブは化学的に合成されることが特に企図される。
【0201】
本発明のいくつかの態様では、miRNAは生物学的試料から回収または単離される。miRNAは組換え型であってもよく、または細胞に対して天然もしくは内在性であってもよい(細胞のゲノムから作られる)。生物学的試料は、miRNAなどの小型RNA分子の回収率を高めるような方法で処理可能であることが企図される。米国特許出願第10/667,126号は、このような方法について記載しており、同出願は、参照により特異的に本明細書に組み入れられる。一般にこの方法は、細胞をグアニジニウムや界面活性剤を含む溶液で溶解する段階を含む。
【0202】
あるいは核酸合成は、標準的な方法で実施される。これについては例えば、それぞれが参照により本明細書に組み入れられるItakura and Riggs(1980)、ならびに米国特許第4,704,362号、第5,221,619号、および第5,583,013号を参照されたい。合成核酸(例えば合成オリゴヌクレオチド)の非制限的な例は、参照により本明細書に組み入れられるEP 266,032に記載されているような、ホスホトリエステル、亜リン酸エステルを使用するインビトロ化学合成、またはホスホラミダイト化学および固相法で、または、それぞれが参照により本明細書に組み入れられるFroehler et al., 1986および米国特許第5,705,629号に記載されたデオキシヌクレオシドH-ホスホネート中間体によって作製される核酸を含む。オリゴヌクレオチド合成の多種多様な機序は例えば、それぞれが参照により本明細書に組み入れられる米国特許第4,659,774号、第4,816,571号、第5,141,813号、第5,264,566号、第4,959,463号、第5,428,148号、第5,554,744号、第5,574,146号、第5,602,244号に開示されている。
【0203】
酵素的に産生される核酸の非制限的な例は、PCR(商標)(例えばそれぞれが参照により本明細書に組み入れられる米国特許第4,683,202号および第4,682,195号を参照)などの増幅反応で酵素的に産生された、または参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,645,897号に記載されたオリゴヌクレオチドの合成によって作製された核酸を含む。参照により本明細書に組み入れられるSambrook et al., 2001も参照されたい。
【0204】
オリゴヌクレオチドの合成は当業者に周知である。オリゴヌクレオチド合成の多種多様な機序は例えば、それぞれが参照により本明細書に組み入れられる米国特許第4,659,774号、第4,816,571号、第5,141,813号、第5,264,566号、第4,959,463号、第5,428,148号、第5,554,744号、第5,574,146号、第5,602,244号に開示されている。
【0205】
細胞内で核酸を産生させる組換え法は、当業者に周知である。このような方法は、核酸を標的細胞(例えば癌細胞)または単に宿主細胞(所望のRNA分子を大量に作製するため)などの細胞に送達するベクター(ウイルスベクターまたは非ウイルスベクター)、プラスミド、コスミド、および他の媒介物を含む。あるいは、このような媒介物は、RNA分子の作製用の試薬が存在する限りにおいて、無細胞系で使用することができる。このような方法は、参照により組み入れられるSambrook, 2003、Sambrook, 2001、およびSambrook, 1989に記載されている方法を含む。
【0206】
C.核酸の単離
核酸は、当業者に周知の手法で単離することができるが、特定の態様では、小型の核酸分子を単離する方法、および/またはRNA分子を単離する方法が使用され得る。クロマトグラフィーは、タンパク質からの、または他の核酸からの核酸の分離もしくは単離にしばしば使用される過程である。このような方法は、ゲルマトリックスを使用する電気泳動、フィルターカラム、アルコール沈殿法、および/または他のクロマトグラフィーを含む場合がある。仮に、細胞に由来するmiRNAが使用または評価される場合は、方法は一般に、細胞をカオトロピック試薬(例えばグアニジニウムイソチオシアネート)、および/または界面活性剤(例えばN-ラウロイルサルコシン)で溶解した後に、RNAの特定の集団を単離する過程を実施する段階を含む。
【0207】
他の核酸からmiRNAを分離する特定の方法では、ポリアクリルアミドを使用してゲルマトリックスが調製されるが、アガロースを使用することもできる。ゲルは濃度に勾配を設けることが可能である、または均一とすることができる。電気泳動用にゲルマトリックスを固定するために、プレートまたはチューブ類を使用することができる。核酸の分離には通常、1次元の電気泳動が使用される。プレートはスラブゲルの調製に使用され、チューブ類(典型的にはガラスまたはゴム)はチューブゲルの調製に使用され得る。「チューブ電気泳動」という語句は、ゲルの形成時にプレートの代わりにチューブまたはチューブ類を使用することを意味する。当業者であれば、チューブ電気泳動を実施するための材料を容易に調製できるか、またはC.B.S. Scientific Co., IncやScie-Plasなどから購入することができる。
【0208】
方法には、核酸、特に本発明の方法および組成物で使用されるmiRNAを単離するために、有機溶媒および/またはアルコールの使用を含めてもよい。いくつかの態様は、参照により本明細書に組み入れられる米国特許出願第10/667,126号に記載されている。一般に本開示は、以下の段階を含む、細胞から小型RNA分子を効率的に単離する方法を提供する:細胞溶解物にアルコール溶液を添加する段階、およびアルコール/溶解物混合物を固体支持体に適用した後に固体支持体からRNA分子を溶出する段階。いくつかの態様では、細胞溶解物に添加されるアルコールの量は、約55%〜60%のアルコール濃度を達成する。異なるアルコールを使用することが可能であるが、エタノールが良好に機能する。固体支持体は任意の構造を取ることが可能であり、かつ負に帯電した官能基を有する金属支持体または高分子支持体を含めることが可能な、ビーズ、フィルター、およびカラムを含む。このような単離手順では、ガラス繊維のフィルターまたはカラムが特に良好に機能する。
【0209】
特定の態様では、miRNAの単離過程は以下の段階を含む:(a)試料中の細胞を、グアニジニウムを含む溶解液で溶解する段階(少なくとも約1 Mの濃度のグアニジニウム溶解物が得られる);(b)フェノールを含む抽出用溶液によって、溶解物からmiRNA分子を抽出する段階;(c)溶解物にアルコール溶液を添加して、溶解物/アルコール混合物を生成させる段階(混合物中のアルコールの濃度は約35%〜約70%);(d)溶解物/アルコール混合物を固体支持体に適用する段階;(e)イオン性溶液によって、固体支持体からmiRNA分子を溶出する段階;および(f)miRNA分子を捕捉する段階。典型的には、試料は乾燥されて液体中に再懸濁されることで、容積が後の操作に適したものとされる。
【0210】
V.標識および標識技術
いくつかの態様では本発明は、標識されるmiRNAに関する。miRNAが、標識される前に最初に単離される、および/または精製されることが企図される。これによって、標識前にmiRNAが単離または精製されていない試料中の他のRNAに対して、miRNAをより効率的に標識する反応が達成され得る。本発明の多くの態様では、標識は非放射性である。一般に核酸は、標識済みのヌクレオチドを添加することで(1段階工程)、または添加済みのヌクレオチドを標識することで(2段階工程)、標識され得る。
【0211】
A.標識技術
いくつかの態様では、核酸は、標識済みのヌクレオチドまたはヌクレオチド群が核酸に触媒的に添加されることで標識される。1種類もしくは複数の標識済みヌクレオチドをmiRNA分子に添加することができる。これについては、参照により本明細書に組み入れられる米国特許第6,723,509号を参照されたい。
【0212】
他の態様では、標識されていないヌクレオチドまたはヌクレオチド群がmiRNAに触媒的に添加され、標識されていないヌクレオチドは、後にそれを標識可能とする官能基部分によって修飾される。本発明の態様では、官能基部分は、ヌクレオチドがアミン修飾ヌクレオチドとなるような反応性アミンである。アミン修飾ヌクレオチドの例は当業者に周知であり、その多くが、Ambion、Sigma、Jena Bioscience、およびTriLinkなどから販売されている。
【0213】
合成過程でのcDNAの標識とは対照的に、miRNAの標識に関する問題は、既存の分子をいかに標識するかという点にある。本発明は、二リン酸または三リン酸のリボヌクレオチドまたはデオキシリボヌクレオチドを、miRNAへの添加用の基質として使用可能な酵素の使用に関する。さらに特定の態様では、本発明は、miRNAの3'末端に付加される、修飾された二リン酸または三リン酸のリボヌクレオチドの使用を含む。このようなヌクレオチドの付加が可能な酵素は、ポリ(A)ポリメラーゼ、末端トランスフェラーゼ、およびポリヌクレオチドホスホリラーゼを含むが、これらに限定されない。本発明の特定の態様では、リガーゼは、標識の付加に使用される酵素ではなく、非リガーゼ酵素が使用されることが企図される。末端トランスフェラーゼは、核酸の3'末端へのヌクレオチドの付加を触媒する。ポリヌクレオチドホスホリラーゼは、プライマーを必要とすることなくヌクレオチド二リン酸を重合可能である。
【0214】
B.標識
miRNAまたはmiRNAプローブ上の標識は、比色標識(蛍光を含む可視スペクトルおよびUVスペクトルを含む)、発光標識、酵素標識、または陽電子放出標識(放射性物質を含む)とすることができる。標識は、直接的または間接的に検出することができる。放射性標識は、125I、32P、33P、および35Sを含む。酵素標識の例は、アルカリホスファターゼ、ルシフェラーゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、およびβ-ガラクトシダーゼを含む。標識は、発光特性を有するタンパク質、例えば緑色蛍光タンパク質やフィコエリトリンとすることもできる。
【0215】
コンジュゲートとしての使用が企図される比色標識および蛍光標識は、Alexa Fluor色素、BODIPY FLなどのBODIPY色素;Cascade Blue;Cascade Yellow;クマリン、ならびに7-アミノ-4-メチルクマリン、アミノクマリン、およびヒドロキシクマリンなどのクマリン誘導体;Cy3やCy5などのシアニン色素;エオシンおよびエリトロシン;フルオレセイン、およびフルオレセインイソチオシアナートなどのフルオレセイン誘導体;Quantum Dye(商標)などのランタニドイオンの大環状キレート;Marina Blue;Oregon Green;ローダミンレッド、テトラメチルローダミン、およびローダミン6Gなどのローダミン色素;テキサスレッド;チアゾールオレンジ-エチジウムヘテロダイマーなどの蛍光エネルギー転移色素;およびTOTABを含むが、これらに限定されない。
【0216】
色素の特定の例は上記および下記の色素を含むが、これらに限定されない:Alexa Fluor 350、Alexa Fluor 405、Alexa Fluor 430、Alexa Fluor 488、Alexa Fluor 500、Alexa Fluor 514、Alexa Fluor 532、Alexa Fluor 546、Alexa Fluor 555、Alexa Fluor 568、Alexa Fluor 594、Alexa Fluor 610、Alexa Fluor 633、Alexa Fluor 647、Alexa Fluor 660、Alexa Fluor 680、Alexa Fluor 700、およびAlexa Fluor 750;BODIPY 493/503、BODIPY 530/550、BODIPY 558/568、BODIPY 564/570、BODIPY 576/589、BODIPY 581/591、BODIPY 630/650、BODIPY 650/655、BODIPY FL、BODIPY R6G、BODIPY TMR、およびBODIPY-TRなどのアミン反応性のBODIPY色素;Cy3、Cy5、6-FAM、フルオレセインイソチオシアネート、HEX、6-JOE、Oregon Green 488、Oregon Green 500、Oregon Green 514、Pacific Blue、REG、ローダミングリーン、ローダミンレッド、Renographin、ROX、SYPRO、TAMRA、2',4',5',7'-テトラブロモスルホンフルオレセイン、ならびにTET。
【0217】
蛍光標識されたリボヌクレオチドの特定の例は、Molecular Probesから入手可能であり、Alexa Fluor 488-5-UTP、フルオレセイン-12-UTP、BODIPY FL-14-UTP、BODIPY TMR-14-UTP、テトラメチルローダミン-6-UTP、Alexa Fluor 546-14-UTP、Texas Red-5-UTP、およびBODIPY TR-14-UTPを含む。Cy3-UTPやCy5-UTPなどの他の蛍光リボヌクレオチドは、Amersham Biosciencesから入手できる。
【0218】
蛍光標識されたデオキシリボヌクレオチドの例は、ジニトロフェニル(DNP)-11-dUTP、Cascade Blue-7-dUTP、Alexa Fluor 488-5-dUTP、フルオレセイン-12-dUTP、Oregon Green 488-5-dUTP、BODIPY FL-14-dUTP、ローダミングリーン-5-dUTP、Alexa Fluor 532-5-dUTP、BODIPY TMR-14-dUTP、テトラメチルローダミン-6-dUTP、Alexa Fluor 546-14-dUTP、Alexa Fluor 568-5-dUTP、Texas Red-12-dUTP、Texas Red-5-dUTP、BODIPY TR-14-dUTP、Alexa Fluor 594-5-dUTP、BODIPY 630/650-14-dUTP、BODIPY 650/665-14-dUTP;Alexa Fluor 488-7-OBEA-dCTP、Alexa Fluor 546-16-OBEA-dCTP、Alexa Fluor 594-7-OBEA-dCTP、Alexa Fluor 647-12-OBEA-dCTPを含む。
【0219】
核酸は、2種類の異なる標識によって標識され得ることが企図される。さらに本発明の方法には、蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)を利用することができる(例えばそれぞれ参照により組み入れられるKlostermeier et al., 2002;Emptage, 2001;Didenko, 2001)。
【0220】
あるいは標識は、それだけでは検出されないが、間接的に検出可能か、または標的核酸の単離もしくは分離が可能な場合がある。例えば標識は、ビオチン、ジゴキシゲニン、多価陽イオン、キレーター群(chelator group)、および対抗体リガンドを含む他のリガンドである場合がある。
【0221】
C.可視化技術
標識核酸を可視化または検出するいくつかの手法は、容易に利用できる。このような手法は、顕微鏡、アレイ、蛍光定量法、Light Cyclerもしくは他のリアルタイムPCR装置、FACS解析、シンチレーションカウンター、ホスホイメージャー、ガイガーカウンター、MRI、CAT、抗体ベースの検出法(ウェスタン、免疫蛍光、免疫組織化学)、組織化学的手法、HPLC(Griffey et al., 1997)、分光法、キャピラリゲル電気泳動(Cummins et al., 1996)、分光法;質量分光法;放射線法;および物質収支技術(mass balance technique)を含む。
【0222】
2種類もしくはそれ以上の異なって着色される標識が使用される場合は、蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)法で、1種類もしくは複数の核酸の結合を解析することができる。また当業者であれば、標識核酸の可視化法、同定法、および解析法を十分に承知しているので、このようなプロトコルを本発明の一部として使用することができる。使用可能なツールの例は、蛍光顕微鏡、BioAnalyzer、プレートリーダー、Storm(Molecular Dynamics)、Array Scanner、FACS(蛍光活性化セルソーター)、または蛍光分子を励起および検出する能力を有する任意の装置も含む。
【0223】
VI.キット
本明細書に記載する任意の組成物は、キット中に含めることができる。非制限的な例では、アレイ、核酸増幅、および/またはハイブリダイゼーションを使用する、miRNAの単離用、miRNAの標識用、および/またはmiRNA集団の評価用の試薬を、血液試料からの試料の調製用の試薬とともにキットに含めることができる。キットにはさらに、miRNAプローブの作製用または合成用の試薬を含めることができる。したがってキットは、適切な容器手段中に、標識されたヌクレオチドまたは後に標識される非標識ヌクレオチドを組み入れることでmiRNAを標識するための酵素を含む。ある局面では、キットは増幅用試薬を含む場合がある。他の局面では、キットは、ガラス、ナイロン、ポリマービーズなどの、さまざまな支持体、および/または任意のプローブおよび/または標的核酸のカップリング用の試薬を含む場合がある。キットは、反応用緩衝液、標識用緩衝液、洗浄用緩衝液、またはハイブリダイゼーション用緩衝液などの1種類もしくは複数の緩衝液、miRNAプローブ調製用の化合物、およびmiRNA単離用の成分を含む場合もある。本発明の他のキットは、miRNAを含む核酸アレイの作製用の成分を含む場合があるので、例えば固体支持体を含む場合がある。
【0224】
本明細書に記載する本発明の方法を実施するためのキットが特に企図される。いくつかの態様では、多重標識用のmiRNAを調製するためのキット、ならびにmiRNAプローブおよび/またはmiRNAアレイを調製するためのキットが存在する。これらの態様では、キットは、適切な容器手段中に、以下の1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12個、もしくはそれ以上を含む:(1)ポリ(A)ポリメラーゼ;(2)非修飾ヌクレオチド(G、A、T、C、および/またはU);(3)修飾ヌクレオチド(標識済み、もしくは非標識);(4)ポリ(A)ポリメラーゼ緩衝液;ならびに(5)少なくとも1種類のマイクロフィルター;(6)ヌクレオチドに結合可能な標識;(7)少なくとも1種類のmiRNAプローブ;(8)反応緩衝液;(9)miRNAアレイ、またはこのようなアレイの作製用の成分;(10)酢酸;(11)アルコール;(12)miRNAまたはmiRNAのプローブもしくはアレイの作製、単離、濃縮、および精製用の溶液。他の試薬は、ホルムアミド、ローディング用色素、リボヌクレアーゼ阻害剤、およびDNaseなどの、RNAの操作に一般に使用される試薬を含む。
【0225】
特定の態様では、本発明のキットは、本出願に記載されているように、miRNAプローブを含むアレイを含む。アレイは、特定の状態にある生物体または特定の組織もしくは器官の全て既知のmiRNAに対応するか、またはこのようなプローブのサブセットに対応するプローブを有する場合がある。本発明のアレイ上のプローブのサブセットは、特定の診断、治療、または予後判定の応用に重要であることがわかっているサブセットであるか、またはこのようなサブセットを含む場合がある。例えばアレイは、(1)疾患もしくは状態(急性骨髄性白血病)、(2)特定の薬剤もしくは治療に対する感受性もしくは耐性;(3)薬剤もしくは物質に由来する毒性に対する感受性;(4)疾患もしくは状態の発生段階もしくは重症度(予後);ならびに(5)疾患もしくは状態に対する遺伝的素因を意味するかまたは示唆する、1種類もしくは複数のプローブを含む場合がある。
【0226】
アレイを含む任意のキットの態様に関しては、本明細書に記載する任意のSEQ IDの全体もしくは一部に同一または相補的である配列を含むか、またはその変形である配列の増幅に使用可能な核酸分子が存在し得る。ある態様では、本発明のキットまたはアレイは、本明細書に記載するSEQ IDによって同定されるmiRNAに対する1種類もしくは複数のプローブを含む場合がある。上記の任意の核酸をキットの一部として組み込むことができる。
【0227】
キットの成分は、水性溶媒中か、または凍結乾燥状態のいずれかの状態で収容することができる。キットの容器手段は一般に、内部に成分を配置することが可能な、かつ好ましくは適切に分割され得る、少なくとも1本のバイアル、試験管、フラスコ、ボトル、シリンジ、または他の容器手段を含む。キット中に複数の成分が存在する場合(標識用試薬および標識は、まとめて収容される場合がある)は、キットは一般に、内部に追加成分を個別に配置することが可能な、第2の、第3の、または他の追加の容器も含む。しかしながら、成分のさまざまな組み合わせを1本のバイアル中に含めることが可能である。本発明のキットは典型的には、核酸を入れる手段、および販売目的で厳密に密封された他の任意の試薬容器も含む。このような容器は、内部に所望のバイアルが収められる、射出成形または吹き込み成形されたプラスチック製容器を含む場合がある。
【0228】
キットの成分が1つおよび/または複数の溶液の状態で提供される場合は、溶液は水溶液であり、特に無菌の水溶液が好ましい。
【0229】
しかしながら、キットの成分は、乾燥粉末として提供される場合がある。試薬および/または成分が乾燥粉末として提供される場合、粉末は、適切な溶媒の添加によって再構成可能である。溶媒は、別の容器手段中に提供される場合もあることが企図される。いくつかの態様では、標識用色素は乾燥粉末として提供される。10 μg、20 μg、30 μg、40 μg、50 μg、60 μg、70 μg、80 μg、90 μg、100 μg、120 μg、120 μg、130 μg、140 μg、150 μg、160 μg、170 μg、180 μg、190 μg、200 μg、300 μg、400 μg、500 μg、600 μg、700 μg、800 μg、900 μg、1000 μgの乾燥色素、または少なくともこれらの重量の乾燥色素、もしくは最大でこれらの重量の乾燥色素が、本発明のキット中に提供されることが企図される。色素は後に、DMSOなどの任意の適切な溶媒で再懸濁され得る。
【0230】
このようなキットは、標識されたmiRNAの単離を容易にする成分を含む場合もある。キットは、miRNAを保存もしくは維持する成分、またはその分解を防ぐ成分を含む場合もある。このような成分はRNAseを含まないか、またはRNAseの作用を防ぐ場合がある。このようなキットは一般に、適切な手段内に、個々の試薬または溶液用の個別の容器を含む。
【0231】
キットは、キット成分の使用、ならびに同キットに含まれない他の任意の試薬の使用に関する指示書も含む。指示書は、実行可能な変形形態を含む場合がある。
【0232】
本発明のキットは、以下の1つまたは複数を含む場合もある:対照RNA;ヌクレアーゼを含まない水;1.5 mlチューブなどのRNaseを含まない容器;RNaseを含まない溶出用チューブ;PEGまたはデキストラン;エタノール;酢酸;酢酸ナトリウム;酢酸アンモニウム;グアニジニウム;界面活性剤;核酸サイズマーカー;RNaseを含まないチューブチップ;およびRNaseまたはDNaseの阻害剤。
【0233】
このような試薬は本発明のキットの態様であることが企図される。しかしながら、このようなキットは上記の特定の品目に制限されず、miRNAの操作または解析に使用される任意の試薬を含む場合がある。
【0234】
VII.実施例
以下の実施例は、本発明の好ましい態様を説明するために含まれる。当業者であれば、以下の実施例に開示された手法が、本発明者らによって、本発明の実施において良好に機能することが明らかにされた手法であること、したがって本発明の実施に関する好ましい様式を構成すると見なされ得ると理解すべきである。しかしながら当業者は、本開示に鑑みて、開示されている特定の態様に多くの変更が成され得ること、またそれでも本発明の趣旨および範囲から解離することなく同様または類似の結果が得られることを理解すべきである。
【0235】
実施例1:
hsa-miR-143によるトランスフェクション後の遺伝子発現解析
miRNAは、標的mRNAの転写物に結合し、(1)転写物の分解を開始すること、または(2)転写物からのタンパク質の翻訳を変化させることによって、遺伝子発現を調節すると考えられている。タンパク質の発現を変化を上下させるに至る翻訳段階における調節は、下流の遺伝子の産物、および後にこのようなタンパク質によって調節される遺伝子の活性および発現の変化を生じる場合がある。これらの数多くの調節的作用は、大規模mRNA発現プロファイルの変化として明らかになる場合がある。マイクロアレイによる遺伝子発現解析を実施して、hsa-miR-143の発現によって誤調節される遺伝子を同定した。
【0236】
合成pre-miR-143(Ambion)、または2種類の負の対照であるmiRNA(pre-miR-NC1、Ambionカタログ番号AM17110、およびpre-miR-NC2、Ambionカタログ番号AM17111)を、それぞれ3つの時点におけるA549細胞の4通りの試料を対象にリバーストランスフェクトした。細胞のトランスフェクションは、siPORT NeoFX(Ambion)を使用して製造業者の推奨に従って、以下のパラメータを用いて行った:6ウェルプレートに1ウェルあたり200,000個の細胞、5.0 μlのNeoFX、最終濃度30 nMのmiRNA(容量2.5 ml)。トランスフェクションの4時間後、24時間後、および72時間後に細胞を回収した。全RNAの抽出は、RNAqueous-4PCR(Ambion)を使用して、製造業者の推奨プロトコルに従って行った。
【0237】
mRNAアレイ解析は、Asuragen Services(Austin, TX)によって、同社の標準操作手順に従って実施された。Message Amp(商標) II-96 aRNA増幅キット(Ambion, cat #1819)が使用され、2 μgの全RNAが標的の調製およびビオチンによる標識に使用された。cRNAの収量は、Agilent Bioanalyzer 2100キャピラリ電気泳動プロトコルを使用して定量された。標識された標的を、Affymetrix mRNAアレイ(Human HG-U133A 2.0アレイ)に、製造業者の推奨および以下のパラメータを使用してハイブリダイズさせた。ハイブリダイゼーションは、Affymetrix Model 640ハイブリダイゼーションオーブン内で、45℃で16時間かけて実施された。Affymetrix FS450 Fluidicsステーション上で、洗浄スクリプト(wash script)Midi_euk2v3_450が実行されてアレイが洗浄されて染色された。アレイは、Affymetrix GeneChip Scanner 3000でスキャンされた。画像シグナルデータ、群平均値、有意性フラッグが付記されたp値、対数比、およびアレイ上の各遺伝子の遺伝子注釈の要約が、Affymetrix Statistical Algorithm MAS 5.0(GCOS v1.3)を使用して作成された。データは、Affymetrixデータおよび結果ファイルを含むファイル(キャビネット)で、ならびにアレイの一次画像および処理済みの細胞強度を含むファイル(.cel)で報告された。データは、2つの負の対照マイクロRNA配列の平均によって観察される作用に関して標準化された後に、表示目的でまとめて平均化された。発現レベルが、負の対照の平均から少なくとも0.7 log2変動する遺伝子のリストが統合された。マイクロアレイによる遺伝子発現解析の結果を上記表1に示す。
【0238】
表1に列挙した遺伝子の発現レベルの操作は、hsa-miR-143の発現の上昇または低下が疾患に役割を果たす癌および他の疾患の潜在的に有用な治療となる。
【0239】
実施例2:
hsa-miR-143によって影響を受ける細胞経路
hsa-miR-143による遺伝子発現の誤調節(表1)は、癌ならびに他の疾患および障害の制御の潜在的な治療標的となる多くの細胞経路に影響する。本発明者らは、hsa-miR-143の発現によって誘導される調節カスケードの影響を受ける細胞の遺伝子経路の内容および性質を決定した。細胞経路解析は、Ingenuity Pathways Analysis(バージョン4.0, Ingenuity(登録商標) Systems, Redwood City, CA)を使用して実施した。任意の経路の変化は、Fisherの正確確率検定(Fisher, 1922)によって判定した。A549細胞において、hsa-miR-143の過剰発現による影響を最も有意に受けた経路を表2に示す。
【0240】
これらのデータから、hsa-miR-143は、複数の細胞の増殖関連遺伝子、発生関連遺伝子、および細胞の成長関連遺伝子の発現に、直接的または間接的に影響を及ぼし、したがって細胞の成長、細胞の発生、および細胞増殖に関連する機能経路に主に影響を及ぼすことがわかる。これらの細胞過程は、さまざまな癌の発生および進行に統合的な役割を果たす。表2に示された細胞経路における遺伝子の発現レベルの操作は、hsa-miR-143の発現の上昇または低下が疾患に役割を果たす癌および他の疾患の潜在的に有用な治療となる。
【0241】
実施例3:
hsa-miR-143の推定標的遺伝子
Krek et al.(2005)によって提案された方法の実行である特許取得アルゴリズムmiRNATarget(商標)(Asuragen)によって、hsa-miR-143の結合およびhsa-miR-143による調節の遺伝子標的を推定した。推定標的遺伝子を表3に示す。
【0242】
pre-miR hsa-miR-143によるトランスフェクション後のヒト癌細胞におけるmRNA発現レベルの変化を示した推定遺伝子標的を表4に示す。
【0243】
mRNAの発現レベルがhsa-miR-143による影響を受けるhsa-miR-143の推定遺伝子標的は、その発現レベルの操作による癌の治療および他の疾患の治療の、特に有用な候補となる。
【0244】
実施例4:
hsa-miR-143によって変化する癌関連遺伝子の発現
細胞の増殖、生存、および成長の経路は一般に腫瘍では変化する(Hanahan and Weinberg, 2000)。発明者らは、これらの経路の調節に重要なタンパク質の転写物を、hsa-miR-143が直接的または間接的に調節することを明らかにした。これらの標的の多くは、固有の発癌活性または腫瘍抑制活性を有する。さまざまな悪性腫瘍の治療に対して予後予測的価値および/または治療的価値を有するhsa-miR-143の標的を表5に示す。
【0245】
hsa-miR-143が標的とする癌遺伝子は、細胞周期、転写、細胞内シグナル伝達、アポトーシス、およびチオレドキシン酸化還元経路の調節因子である。hsa-miR-143は、Wee1、網膜細胞芽腫様1タンパク質(RBL1)、ならびにサイクリンD1およびG1の発現を変化させることで、細胞周期の進行を調節する。p107としても知られるRBL1は、ポケットタンパク質であるp107、p130、およびpRbを含む網膜芽細胞腫抑制タンパク質ファミリーの成員である。pRbのプロトタイプと同様に、RBL1は、E2Fファミリーの転写因子と相互作用して細胞周期の進行およびDNAの複製をブロックする(Sherr and McCormick, 2002)。一群の癌では、RBL1の発現は制御されない(Takimoto et al., 1998;Claudio et al., 2002;Wu et al., 2002;Ito et al., 2003)。hsa-miR-143による一過性のトランスフェクションは、RBL1のmRNAレベルの低下に至り、これはhsa-miR-143の増殖性機能を示唆する。対照的に、サイクリンD1の負の調節およびサイクリンG1正の調節は、hsa-miR-143の成長阻害的な役割の指標となる。サイクリンは、サイクリン依存性キナーゼ(CDK)の補助因子であり、細胞周期の進行に機能する。サイクリンD1は、G1期からS期への移行に必要であり、かつ数多くのタイプの癌で過剰に発現される(Donnellan and Chetty, 1998)(Donnellan and Chetty, 1998)。hsa-miR-143は、サイクリンD1の発現を負に調節するので、高レベルのサイクリンD1に依存する異常な細胞成長に干渉する可能性がある。これと一致して、サイクリンG1は成長阻害活性を有し、かつhsa-miR-143によってアップレギュレートされる(Zhao et al., 2003)。Wee1は、CDK1(cdc2)/サイクリンB1複合体をリン酸化することで分裂抑制因子として機能するチロシンキナーゼである(Parker and Piwnica-Worms, 1992, McGowan and Russell, 1993)。肺癌におけるWee1発現の欠損は、より高い増殖指標、より高い再発率、および予後不良と相関する(Yoshida et al., 2004)。別のhsa-miR-143の標的が、転写を調節する亜鉛フィンガータンパク質であるLMO-4(LIM domain only 4)である。LMO-4は本来発癌性であり、BRCA-1腫瘍抑制タンパク質(breast cancer 1)を不活性化する(Sum et al., 2002;Sum et al., 2005)。LMO-4は、多数のタイプの癌で高頻度で過剰発現されており、かつ乳癌の不良な予後を予測する(Visvader et al., 2001;Mizunuma et al., 2003;Sum et al., 2005;Taniwaki et al., 2006)。したがって、LMO-4に対するRNAiは、乳癌細胞の成長および遊走を低下させる(Sum et al., 2005)。発明者らのデータは、hsa-miR-143がLMO-4転写物を減じることで、LMO-4の発癌特性を阻止する可能性があることを意味する。
【0246】
hsa-miR-143は、いずれも機能的にアポトーシス経路と関連するPDCD4、BCL2L1、およびMCL1の発現も支配する。Pdcd-4(programmed cell death 4)は、正常細胞においてアポトーシスに反応して誘導される腫瘍抑制因子である。Pdcd-4の成長阻害特性は、Pdcd-4によるc-Junプロト癌タンパク質の阻害、キャップ依存性のmRNA翻訳の阻害、およびp21Waf1/Cip1 CDKインヒビターの活性化に起因する(Yang et al., 2003;Bitomsky et al., 2004;Goke et al., 2004)。Pdcd-4は、神経膠腫、肝細胞癌、肺癌、および腎細胞癌などさまざまなヒト悪性腫瘍において発現の低下または消失を高い頻度で示す(Jansen et al., 2004;Zhang et al., 2006;Gao et al., 2007)。Pdcd-4の発現は、マウスモデルの皮膚癌に干渉し、かつヒト結腸癌細胞の成長を抑制する(Jansen et al., 2005;Yang et al., 2006)。Pdcd-4の喪失は、肺腫瘍の進行とも相関する(Chen et al., 2003)。hsa-miR-143はPdcd-4の発現を正に調節するので、hsa-miR-143による治療はPdcd-4の機能を回復させる可能性がある。BCL2L1およびMCL1は、逆の機能を有する2種類の選択的にスプライシングされる遺伝子産物を生じる抗アポトーシス性のBCL-2(B cell lymphoma 2)遺伝子ファミリーの成員である(Boise et al., 1993;Bae et al., 2000)。BCL2L1にコードされる優先的に発現されるタンパク質が、Bcl-XLである。Bcl-XLは、BCL-2に次いで主要なプログラム細胞死の阻害因子である。Bcl-XLの過剰発現は、数多くのタイプの癌で検出されており、腫瘍の進行および低い生存率と相関する(Manion and Hockenbery, 2003)。高レベルのBcl-XLは、化学療法および放射線療法に対する耐性とも関連する(Fesik, 2005)。hsa-miR-143の一過性のトランスフェクションは、Bcl-XL転写物の減少をもたらし、したがってBcl-XLの発現が上昇した癌細胞に対する治療上の有益性を提供する可能性がある。Mcl-1(myeloid leukemia 1)は、肝細胞癌、前立腺癌、精巣腫瘍、多発性骨髄腫、およびさまざまな白血病で過剰に発現されている[表5の参考文献を参照]。Bcl-XLと同様に、高レベルのMcl-1は卵巣癌患者の不良な予後と相関し、かつ白血病再発の指標となる(Kaufmann et al., 1998;Shigemasa et al., 2002)。Mcl-1に対するRNA干渉は、胃癌細胞および肝細胞癌細胞に治療反応を誘導する(Schulze-Bergkamen et al., 2006;Zangemeister-Wittke and Huwiler, 2006)。
【0247】
細胞内シグナル伝達において機能する、hsa-miR-143によって調節される分子には、炎症性インターロイキン8(IL-8)、トランスフォーミング成長因子ベータ(TGF-β)受容体2(TGFBR2)、およびA-キナーゼアンカータンパク質12(AKAP12)が含まれる。IL-8は、さまざまな癌で高頻度でアップレギュレートされており、かつ腫瘍の脈管形成、転移、および不良な予後と相関する(Rosenkilde and Schwartz, 2004;Sparmann and Bar-Sagi, 2004)。TGFBR-2はTGFBR-1と機能的複合体を形成し、かつTGF-βの主要な受容体である(Massague et al., 2000)。TGF-βの中心的な役割は、上皮細胞、内皮細胞、造血細胞、神経細胞、および間葉細胞など数多くの細胞タイプの細胞成長の阻害である。マイクロサテライト不安定性を示す多くの乳癌および結腸直腸癌は、TGFBR-2に不活性化変異を有し、したがってTGF-βの成長阻害性の機能を逃れる(Markowitz et al., 1995;Lucke et al., 2001)。gravinまたはSSeCKS(Src suppressed C kinase substrate)とも呼ばれるAKAP12は、酵素-基質の相互作用をつなぎ止めるキナーゼ足場タンパク質として機能する(Nauert et al., 1997)。AKAP12の発現は、インビトロにおいてSrc癌タンパク質またはJun癌タンパク質によって誘導される癌細胞の形質転換に干渉し、かつ白血病、ならびに直腸、肺、および胃の癌など数多くの癌では、失われるかまたは低減する(Lin and Gelman, 1997;Cohen et al., 2001;Xia et al., 2001;Wikman et al., 2002;Boultwood et al., 2004;Choi et al., 2004;Mori et al., 2006)。前立腺癌および胃癌ではAKAP12に見かけ上の抗発癌活性が認められることから、このタンパク質は推定腫瘍抑制因子であると見なされている(Xia et al., 2001;Choi et al., 2004)。
【0248】
このような標的の大半の機能、およびhsa-miR-143によって調節される機序に基づき、hsa-miR-143は腫瘍抑制能を有すると考えられる。この見解は、大半の癌ではmiR-143の発現が低いという発明者らの観察によって支持される。しかしながら、hsa-miR-143は、疾患の発生または進行におけるhsa-miR-143の果たす役割を示唆する様式でも、遺伝子発現を調節する。例えばhsa-miR-143は、さまざまなタンパク質および多数の経路を標的とする12 kDaのチオール還元酵素であるチオレドキシン(TXN)の発現を促進する。チオレドキシンは、転写因子の活性を調節し、血管新生性のHif-1α(低酸素誘導因子1α)およびVEGF(血管内皮成長因子)の発現を誘導し、かつ増殖性および抗アポトーシス性の物質として作用可能である(Marks, 2006)。この事実と一致して、肺、膵臓、子宮頚部、肝臓の癌は、高レベルのチオレドキシンを示す。チオレドキシンの発現は、悪性度の高い腫瘍の成長、不良な予後、および化学療法耐性とも相関する(Marks, 2006)。したがって、hsa-miR-143のアンタゴニストは、チオレドキシンの発現の変化を示す癌に対する治療可能性を有する可能性がある。
【0249】
本発明を任意の特定の理論によって制限する意図はないものの、要約すると、hsa-miR-143は、細胞の増殖および生存の重要な調節因子であるタンパク質の活性を支配する。これらの標的は、ヒトの癌では高頻度で調節が解除されている。miR-143によって調節される遺伝子および関連経路の概説に基づいて、さまざまなタイプの癌細胞へのhsa-miR-143または抗hsa-miR-143の導入は、治療反応をもたらす可能性が高いと考えられる。
【0250】
参考文献
以下の参考文献は、本明細書に記載する事項に補足的な例示的な手順または他の詳細を提供する限りにおいて、特に参照により本明細書に組み入れられる。










【特許請求の範囲】
【請求項1】
表1、3、4、または5で同定された1種または複数種の遺伝子の発現を調節するのに十分な量でmiR-143を含むある量の単離された核酸を、細胞に投与する段階を含む、細胞における遺伝子発現を調節する方法。
【請求項2】
細胞が、代謝性、免疫性、感染性、心血管、消化器、内分泌系、眼、尿生殖器、血液、筋骨格、神経系、先天性、呼吸器、皮膚、もしくは癌性の疾患もしくは状態を有するか、これらの疾患もしくは状態を有することが疑われるか、またはこれらの疾患もしくは状態を発生するリスクのある対象に存在する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
感染性の疾患または状態が、寄生虫、細菌、ウイルス、または真菌の感染である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
癌性の状態が、星細胞腫、未分化大細胞リンパ腫、急性リンパ芽球性白血病、急性骨髄性白血病、乳癌、B細胞リンパ腫、膀胱癌、子宮頚癌、慢性リンパ芽球性白血病、結腸直腸癌、子宮内膜癌、神経膠腫、膠芽腫、胃癌、肝細胞癌、ホジキンリンパ腫、白血病、肺癌、黒色腫、髄芽腫、マントル細胞リンパ腫、多発性骨髄腫、骨髄腫、非ホジキンリンパ腫、非小細胞肺癌、卵巣癌、乏突起細胞腫、食道癌、骨肉腫、膵臓癌、前立腺癌、腎細胞癌、頭頸部の扁平上皮癌、小細胞肺癌、甲状腺癌、精巣腫瘍であり、1種または複数種の遺伝子の調節が治療反応に十分である、請求項2記載の方法。
【請求項5】
遺伝子の発現がアップレギュレートされる、請求項1記載の方法。
【請求項6】
細胞が、上皮、間質、または粘膜の細胞である、請求項1記載の方法。
【請求項7】
細胞が、脳、ニューロン、血液、食道、肺、心血管、肝臓、乳房、骨、甲状腺、腺、副腎、膵臓、胃、腸管、腎臓、膀胱、前立腺、子宮頚部、子宮、卵巣、精巣、脾臓、皮膚、平滑筋、心筋、横紋筋の細胞である、請求項1記載の方法。
【請求項8】
細胞が癌細胞である、請求項1記載の方法。
【請求項9】
癌細胞が、ニューロン、グリア、肺、肝臓、脳、乳房、膀胱、血液、白血病、結腸、子宮内膜、胃、皮膚、卵巣、脂肪、骨、子宮頚部、食道、膵臓、前立腺、腎臓、または甲状腺の細胞である、請求項8記載の方法。
【請求項10】
単離されたmiR-143が組換え核酸である、請求項1記載の方法。
【請求項11】
組換え核酸がRNAである、請求項10記載の方法。
【請求項12】
組換え核酸がDNAである、請求項10記載の方法。
【請求項13】
組換え核酸が、miR-143阻害因子の発現カセットを含む、請求項12記載の方法。
【請求項14】
発現カセットがウイルスベクターまたはプラスミドDNAベクター中に含まれる、請求項13記載の方法。
【請求項15】
ウイルスベクターが1用量あたり1×105〜1×1014ウイルス粒子の用量で投与されるか、またはプラスミドDNAベクターが患者1人あたり100 mg〜患者1人あたり4000 mgの用量で投与される、請求項14記載の方法。
【請求項16】
miR-143の核酸が合成核酸である、請求項1記載の方法。
【請求項17】
前記核酸が、体重1 kgあたり0.01 mg〜体重1 kgあたり10 mgの用量で投与される、請求項16記載の方法。
【請求項18】
miR-143がhsa-miR-143である、請求項1記載の方法。
【請求項19】
前記核酸が経腸的または非経口的に投与される、請求項1記載の方法。
【請求項20】
経腸的投与が経口投与である、請求項19記載の方法。
【請求項21】
非経口投与が、血管内投与、頭蓋内投与、胸膜内投与、腫瘍内投与、腹腔内投与、筋肉内投与、リンパ内投与、腺内投与、皮下投与、局所投与、気管支内投与、気管内投与、鼻腔内投与、吸入投与、または滴下投与である、請求項19記載の方法。
【請求項22】
前記核酸が薬学的製剤中に含まれる、請求項1記載の方法。
【請求項23】
薬学的製剤が脂質組成物である、請求項22記載の方法。
【請求項24】
表1、3、4、もしくは5で同定された1種もしくは複数種の遺伝子または表1、3、4、もしくは5で同定された1種もしくは複数種の遺伝子に関連する遺伝子産物を含むmiR-143阻害因子を、細胞経路または生理学的経路を調節するのに十分な量で含む、ある量の単離された核酸を、細胞に投与する段階を含む、細胞経路または生理学的経路を調節する方法。
【請求項25】
2、3、4、5、6種類、またはこれ以上のmiRNAを投与する段階をさらに含む、請求項24記載の方法。
【請求項26】
前記miRNAが単一の組成物中に含まれる、請求項25記載の方法。
【請求項27】
少なくとも2つの細胞経路または生理学的経路が調節される、請求項23記載の方法。
【請求項28】
少なくとも1種類の遺伝子が複数のmiRNAによって調節される、請求項25記載の方法。
【請求項29】
遺伝子または遺伝子産物の発現がダウンレギュレートされる、請求項24記載の方法。
【請求項30】
遺伝子または遺伝子産物の発現がアップレギュレートされる、請求項24記載の方法。
【請求項31】
細胞が癌細胞である、請求項24記載の方法。
【請求項32】
細胞の生存能が低下するか、細胞の増殖が低下するか、細胞の転移が減少するか、または治療に対する細胞の感受性が増大する、請求項31記載の方法。
【請求項33】
癌細胞が、ニューロン、グリア、肺、肝臓、脳、乳房、膀胱、血液、白血病、結腸、子宮内膜、胃、腸管、皮膚、卵巣、脂肪、骨、子宮頚部、食道、膵臓、前立腺、腎臓、精巣、または甲状腺の細胞である、請求項31記載の方法。
【請求項34】
miR-143が組換え核酸である、請求項24記載の方法。
【請求項35】
組換え核酸がDNAである、請求項34記載の方法。
【請求項36】
組換え核酸がウイルスベクターまたはプラスミドDNAベクターである、請求項35記載の方法。
【請求項37】
以下の段階を含む、miRNAによって調節される遺伝子に関連する病理学的状態もしくは疾患を有すると診断されるか、または有することが疑われるか、または発症していることが疑われる患者を治療する方法:
(a)細胞経路または生理学的経路を調節するのに十分な量でmiR-143を含むある量の単離された核酸を、患者に投与する段階;および
(b)細胞経路または生理学的経路の調節が患者を第2の治療に対して感作する、第2の治療を実施する段階。
【請求項38】
1つまたは複数の細胞経路または生理学的経路が、表1、3、4、もしくは5で同定された1種または複数種の遺伝子を含む、請求項37記載の方法。
【請求項39】
以下の段階を含む、病理学的状態もしくは疾患を有するか、有することが疑われるか、または発症する傾向を有する対象に投与すべきmiRNAを選択する方法:
(a)表1、3、4、または5から選択される1種または複数種の遺伝子の発現プロファイルを決定する段階;
(b)発現プロファイルに基づきmiRNA治療に対する対象の感受性を評価する段階;および
(c)評価された感受性に基づき1種または複数種のmiRNAを選択する段階。
【請求項40】
1、2、4、5、6、7、8、9、10種類、またはこれ以上のmiRNAによって対象を治療する段階をさらに含む、請求項39記載の方法。
【請求項41】
各miRNAが個別に投与されるか、または1種もしくは複数種の組み合わせで投与される、請求項40記載の方法。
【請求項42】
前記miRNAが単一の組成物中に含まれる、請求項41記載の方法。
【請求項43】
少なくとも1つの試料における表1、3、4、もしくは5からの1種または複数種の遺伝子の発現の評価と組み合わせて、miR-143の発現を評価する段階を含む、細胞、組織、または対象を評価する方法。
【請求項44】
以下の段階を含む、試料中のmiR-143の状態を評価する方法:
(a)試料における表1、3、4、もしくは5からの1種または複数種の遺伝子の発現を評価する段階;および
(b)試料におけるmiR-143発現のレベルに基づいてmiR-143の状態を決定する段階。

【公表番号】特表2010−504349(P2010−504349A)
【公表日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−529357(P2009−529357)
【出願日】平成19年9月19日(2007.9.19)
【国際出願番号】PCT/US2007/078859
【国際公開番号】WO2008/036718
【国際公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(509078609)アシュラジェン インコーポレイテッド (6)
【Fターム(参考)】