説明

波長変換素子、レーザ光源装置、画像表示装置及び波長変換素子の製造方法

【課題】コングルエント組成のマグネシウム添加タンタル酸リチウム単結晶を用いて分極反転構造の形成過程を制御することができ、高い変換効率を有する波長変換素子を安定して生産することができる波長変換素子、レーザ光源装置、画像表示装置及び波長変換素子の製造方法を提供すること。
【解決手段】波長変換素子の製造方法は、MgLN基板101の+z面に周期電極103を、−z面に対向電極104を形成する工程と、周期電極103及び対向電極104を形成した後に熱処理を行う熱処理工程と、MgLN基板101を100℃以上に保持した状態で、周期電極103と対向電極104間にパルス状の電界を印加する電界印加工程と、を有する。また、波長変換素子100は、熱処理後のMgLN基板101に対して、電界印加により形成された分極反転構造を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光源が発するレーザ光を非線形光学効果により波長変換する波長変換素子、レーザ光源装置、画像表示装置及び波長変換素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非線形光学効果を用いた波長変換により、Nd:YAGレーザやNd:YVO等レーザ媒質から発せられる光(基本波)を可視光である緑色光(高調波)に変換したり、緑色光をさらに紫外光へ変換する波長変換レーザ光源が開発・実用化されている。これらの可視レーザ光や紫外レーザ光は、物質のレーザ加工やレーザディスプレイ等の光源などの用途に用いられている。
【0003】
非線形光学効果を得るには、複屈折率を有する非線形光学結晶を使用する必要があり、LiNbO(ニオブ酸リチウム:PPLN)などの強誘電体非線形結晶を周期的に分極反転させ作成されている。
【0004】
図1は、波長変換レーザ光源の概略構成を示す模式図である。図1は、励起光をレーザ媒質端面から入力する、端面励起型(エンドポンプ型)レーザ光源の構成例を示す。
【0005】
図1に示すように、波長変換レーザ光源10は、励起光源11、コリメートレンズ13、集光レンズ14、固体レーザ媒質15、波長変換素子16、凹面鏡22、及び光学反射膜23を備える。
【0006】
上記固体レーザ媒質15、波長変換素子16、及び凹面鏡22は、レーザ共振器24を構成する。
【0007】
波長変換素子16は、SHG(Second Harmonics Generation)素子であり、固体レーザ媒質15から出力される波長1064nmの基本波長レーザ光(赤外レーザ光)の波長を変換して波長532nmの半波長レーザ光(緑色レーザ光)を生成する。
【0008】
波長変換レーザ光源10は、励起光源11で固体レーザ媒質15を励起し、発生した近赤外光を波長変換素子16で緑色光に変換することで緑色レーザ光を得る。
【0009】
固体レーザ媒質15は、単結晶材料であるYVO結晶を用いる。励起光12は、励起光源11より発せられており、コリメートレンズ13で平行光にされた後、集光レンズ14によって、レーザ共振器24を構成する固体レーザ媒質15へ集光される。
【0010】
固体レーザ媒質15の端面のうち、励起光が入射する側の固体レーザ媒質端面(光学反射膜)18には、1060nm帯の光を反射する高反射光学膜21が形成されており、この高反射光学膜21が共振器として働く。また、凹面鏡22の端面にも1060nm帯の光を反射する高反射光学膜23が形成され、共振器を構成する。
【0011】
固体レーザ媒質15と波長変換素子16のそれぞれの対向面である、固体レーザ媒質15の端面19及び波長変換素子16の端面20には、無反射光学膜が形成されている。すなわち、固体レーザ媒質15のうち、波長変換素子16と対向する面、及び波長変換素子16のうち、固体レーザ媒質15と対向する面に無反射光学膜が形成されている。固体レーザ媒質15及び凹面鏡22の端面に形成された高反射光学膜23と固体レーザ媒質端面(光学反射膜)18との間で光が共振することで、レーザ共振器24は光共振器として動作し、1060nm帯のレーザ光が発振する。
【0012】
このとき、発振した1060nm帯の光が波長変換素子16を通過することで、1060nm帯の光が波長変換され半分の波長である約530nm(緑色光)へ変換される。そして、変換された530nmの高調波光(緑色光)17は、波長変換素子16の端面21から出力される。
【0013】
波長変換素子16としては誘電体単結晶材料が使用されており、三ホウ酸リチウム(LiB:LBO)やリン酸チタニルカリウム(KTiOPO:KTP)、周期分極反転構造を形成したマグネシウム添加ニオブ酸リチウム(Mg:LiNbO)、周期分極反転構造を形成したマグネシウム添加タンタル酸リチウム(Mg:LiTaO)などが用いられている。
【0014】
中でも、分極反転構造を形成したマグネシウム添加ニオブ酸リチウムは、非線形光学定数が大きな材料である上、分極反転構造を形成することで大きな非線形光学定数を最大限利用することができるという特徴を有する。さらに、マグネシウムイオンが添加されていることで、光による屈折率変化(光損傷)を抑制できるという効果を有する。
【0015】
そのため、分極反転構造を形成したマグネシウム添加ニオブ酸リチウムを波長変換素子に用いることで高出力・高効率な緑色レーザ光源を実現することができる。
【0016】
高効率な波長変換素子を得るには、分極反転構造の反転部と非反転部の割合が1:1となっていることが理想である。
【0017】
特許文献1,2には、特殊な結晶成長装置を用いて特殊な結晶組成(LiO/(Nb+LiO)のモル分率が0.49〜0.52:ストイキオメトリック組成)を実現したマグネシウム添加ニオブ酸リチウムやマグネシウム添加タンタル酸リチウム単結晶と光機能素子が記載されている。そして、このマグネシウム添加ニオブ酸リチウムやマグネシウム添加タンタル酸リチウム単結晶を使って、分極反転構造形成時の印加電圧を下げ、分極反転構造の反転部と非反転部の割合を理想的な構造にする試みが記載されている。
【0018】
一方、特許文献3には、位相整合温度の変化を低減し、波長変換素子を長時間使用した場合においても安定して高調波を出力する波長変換素子の製造方法が記載されている。特許文献3記載の波長変換素子の製造方法は、分極反転層を形成し、電極を除去した後に熱処理を行う。また、熱処理の条件は、85℃以下とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開2000−103697号公報
【特許文献2】特開2001−59983号公報
【特許文献3】特開2011−48206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
しかしながら、特許文献1,2記載のニオブ酸リチウム単結晶及び光機能素子は、記載されているようなモル分率が0.49〜0.52(ストイキオメトリック組成)となるマグネシウム添加ニオブ酸リチウムやマグネシウム添加タンタル酸リチウム単結晶の育成には、結晶成長中に原料を追加できるような特殊な結晶成長装置を必要とし、生産が難しいという課題がある。
【0021】
そこで、従来から生産されているモル分率0.485〜0.49(コングルエント組成)のマグネシウム添加ニオブ酸リチウムやマグネシウム添加タンタル酸リチウムを使用した場合においても、高効率な波長変換素子を安定して得ることが課題となっている。
【0022】
また、特許文献3記載の波長変換素子の製造方法は、位相整合温度の経時変化による出力の不安定さとそれに伴う変換効率低下を防ぐものであって、製造時での歩留まり向上を図るものではない。
【0023】
本発明の目的は、コングルエント組成のマグネシウム添加タンタル酸リチウム単結晶を用いて分極反転構造の形成過程を制御することができ、高い変換効率を有する波長変換素子を安定して生産することができる波長変換素子、レーザ光源装置、画像表示装置及び波長変換素子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明の波長変換素子の製造方法は、コングルエント組成のマグネシウム添加ニオブ酸リチウム単結晶基板に分極反転構造を形成する波長変換素子の製造方法であって、前記基板の+z面に周期電極を、−z面に対向電極を形成する工程と、前記電極を形成した後に熱処理を行う熱処理工程と、前記熱処理後、前記周期電極と前記対向電極間にパルス状の電界を印加する電界印加工程と、を有する。
【0025】
本発明の波長変換素子は、コングルエント組成のマグネシウム添加ニオブ酸リチウム単結晶基板に分極反転構造が形成された波長変換素子であって、前記基板の+z面と−z面間の体積抵抗率が、前記基板温度100℃以上のとき、9〜5MΩ・cmの範囲である構成を採る。
【0026】
本発明のレーザ光源装置は、上記波長変換素子を備える構成を採る。
【0027】
本発明の画像表示装置は、上記レーザ光源装置を備える構成を採る。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、コングルエント組成のマグネシウム添加タンタル酸リチウム単結晶を用いて、分極反転構造の形成過程を制御することできる。その結果、高い変換効率を有する波長変換素子を安定して生産することができ、製造時での歩留まり向上を図ることができる。また、高効率な波長変換素子を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】波長変換レーザ光源の概略構成を示す模式図
【図2】本発明の実施の形態1に係る波長変換素子の製造方法に用いる電界印加装置の概略構成を示す模式図
【図3】上記実施の形態1に係る波長変換素子の製造方法の工程図
【図4】上記実施の形態1に係る波長変換素子の製造方法の電界印加前の熱処理の温度プロファイルを示す図
【図5】上記実施の形態1に係る波長変換素子の製造方法の波長変換素子特性評価方法の評価光学系の概略構成を示す模式図
【図6】図5の波長変換素子の要部拡大図
【図7】従来の波長変換素子作製方法を用いて作製したSHG素子を、波長変換効率評価光学系を用いて評価した結果をプロットした図
【図8】上記実施の形態1に係る波長変換素子の製造方法の印加パルス数に対する印加電圧の差異をプロットした図
【図9】上記実施の形態1に係る波長変換素子の製造方法で作製したSHG素子の特性図
【図10】上記実施の形態1に係る波長変換素子の製造方法で作製した時の印加パルス数に対する印加電圧の関係から分極反転構造の形成過程を説明する図
【図11】上記実施の形態1の波長変換素子の製造方法の電界印加前熱処理の有無をパラメータにした、電界印加時の初期印加電圧と波長変換効率との関係を示す図
【図12】上記実施の形態1に係る波長変換素子の製造方法の電界印加前熱処理の処理温度と初期印加電圧との関係を示す図
【図13】上記実施の形態1に係る波長変換素子の製造方法の電界印加前熱処理の有無と波長変換効率の特性ばらつきとの関連性を示す度数分布図
【図14】本発明の実施の形態2に係る波長変換素子をレーザ光源装置に備える画像表示装置の斜視図
【図15】上記実施の形態2に係る画像表示装置の光学エンジンユニットの概略構成図
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0031】
(実施の形態1)
図2は、本発明の実施の形態1に係る波長変換素子の製造方法に用いる電界印加装置の概略構成を示す模式図である。
【0032】
図2に示すように、波長変換素子100は、モル分率0.485〜0.49(コングルエント組成)のマグネシウム添加ニオブ酸リチウム単結晶基板(以下、MgLN基板という。)101に分極反転構造が形成され、かつ、MgLN基板101における、基板表面(以下、+z面という。)と基板裏面(以下、−z面という。)間の体積抵抗率が、基板温度100度以上の時、9〜5MΩ・cmの範囲である。
【0033】
波長変換素子100は、MgLN基板101の+z面に周期電極、−z面に対向電極が形成され、電極形成後に熱処理が行われている。本実施の形態では、波長変換素子100は、熱処理後のMgLN基板101に対して、電界印加により形成された分極反転構造を有することを特徴とする。なお、対向電極は、一様電極と呼称されることがある。
【0034】
波長変換素子100は、略直方体状をなし、周期電極103と対向電極104が形成されている。分極反転形成装置200は、MgLN基板101の周期電極103と対向電極104との間にパルス電界を印加する。これにより、MgLN基板101には、周期的な分極反転部(分極反転層)102が形成される。
【0035】
波長変換素子100には、分極反転周期方向(分極反転部102の配列方向)に基本波長レーザ光が入射される。これにより、擬似位相整合による入射光の第2次高調波発生で2倍の周波数、すなわち1/2の波長のレーザ光を得ることができる。
【0036】
周期的な分極反転構造を形成するには、周期電極103と対向電極104を用いて、単分極した強誘電体結晶に分極方向と逆方向の電界を印加する。これにより周期電極103に対応する部分の分極方向が反転し、分極反転部102が周期電極103から対向電極104に向けて楔形状に形成される。
【0037】
分極反転形成装置200は、直流電流源201、印加電圧モニタ202、波形生成器203、及びアンプ204を備える。
【0038】
分極反転形成装置200は、MgLN基板101に高電圧を印加し、分極反転構造が生成される際に流れる電流値が一定となるように制御する。
【0039】
印加電圧モニタ202は、MgLN基板101に印加されている電圧値をモニタする。印加電圧モニタ202により、MgLN基板101で進行している分極反転構造の形成状態をモニタすることができる。モニタ方法の詳細については図10等により後述する。
【0040】
波形生成器203は、パルス波形を生成し、アンプ204は、生成されたパルス波形を増幅してMgLN基板101へ印加する。MgLN基板101に印加される電圧は、パルス状の電界である。
【0041】
図3は、本実施の形態に係る波長変換素子の製造方法の工程図であり、波長変換素子の分極反転形成プロセスを示す。
【0042】
本実施の形態は、材料基板としてモル分率0.485〜0.49(コングルエント組成)のMgLN基板101を用いている。このため、MgLN基板を用いた場合のプロセス条件となっている。
【0043】
ステップS1:基板洗浄工程
材料基板であるコングルエント組成のMgLN基板101を洗浄する。
【0044】
ステップS2:金属成膜工程
洗浄したMgLN基板101の表裏面に、スパッタ装置により電極用金属材料を成膜する。金属膜は、アルミニウム膜、クロム膜、タンタル膜、チタン膜などMgLN基板との密着性が確保できれば、いずれでも構わない。
【0045】
ステップS3:パターンニング工程
コーター・デベロッパ装置により金属膜を成膜したMgLN基板101にフォトレジストを塗布し、マスクパターンに従って感光させフォトリソグラフィーによるレジストパターニングを行う。このレジストパターニングにより、分極反転パターンに従った周期電極を形成するためのレジストパターンが形成される。
【0046】
ステップS4:電極形成工程
パターニングしたレジストをマスクにして金属膜をエッチングし、電界印加用の電極パターンを形成する。
【0047】
ステップS5:熱処理工程
電極を形成した後、電界印加前に、MgLN基板101を、図4に示す温度プロファイルで熱処理する。
【0048】
図4は、電界印加前の熱処理の温度プロファイルを示す図である。図4の処理温度tmaxは熱処理時の最高温度、処理時間Tは最高温度tmaxでの保持時間を示す。
【0049】
ここで、波長変換素子100の分極反転形成プロセスにおいて、電極形成後、熱処理を行うことを第1の特徴とする。電極形成後の熱処理は、図4の温度プロファイルを基に実施される。本実施の形態では、処理温度tmaxは200℃、保持時間Tは1時間とした。処理温度の範囲は、160℃から250℃の範囲が適している。160℃以下では、熱処理の効果が見られず、250℃以上では電極が酸化して、良好な波長変換特性が得られないため、この範囲であることが望ましい。保持時間については、前述の処理温度の範囲内であれば、30分以上とすると効果に差違は見られない。処理温度までの昇温速度は、5〜10℃/分とした。ニオブ酸リチウム基板は圧電結晶のため、これ以上の速度で昇温した場合、基板が破損する可能性が高くなるためこの昇温速度としている。
【0050】
ステップS6:電界印加工程
表裏面に形成した金属電極を分極反転形成装置200(図2参照)に接続し、パルス電界印加を行う。パルス電界の印加により、周期電極103のパターン形成領域の結晶方位が結晶内部の原子の移動により変位され、分極方位が反転することにより、周期電極103のパターン形成領域に分極反転部102が形成される。
【0051】
また、波長変換素子100の分極反転形成プロセスにおいて、分極反転構造形成時のMgLN基板保持温度に第2の特徴がある。すなわち、MgLN基板101の温度を100℃〜150℃の範囲とすることで、MgLN単結晶を構成する格子を振動させMgLNを構成するリチウムイオンの変位を促す作用がある。その結果、分極反転電圧を小さくする効果が生じる。本実施の形態では、上述したように分極反転構造が生成される際に流れる電流値が一定となるように制御している。また、MgLN基板101に印加されている電圧値を、印加電圧モニタ202(図2参照)でモニタしている。印加電圧モニタ202により分極反転構造の形成状態をモニタし、分極反転構造の形成が完了した場合に電界の印加を停止する。
【0052】
ステップS7:切断・研磨工程
分極反転構造が形成されたMgLN基板101は、切断・光学研磨される。
【0053】
ステップS8:完成
波長変換素子100が完成する。完成した波長変換素子100は、MgLN基板101の+z面に周期電極、−z面に一様電極が形成され、電極形成後に熱処理が行われている。波長変換素子100は、MgLN基板101に分極反転構造が形成され、かつ、MgLN基板101における、+z面と−z面間の体積抵抗率が、基板温度100度以上の時、9〜5MΩ・cmの範囲である。
【0054】
次に、完成した波長変換素子100の波長変換特性の評価について説明する。
【0055】
図5は、波長変換素子特性評価方法の評価光学系の概略構成を示す模式図、図6は、図5の波長変換素子の要部拡大図である。
【0056】
図5及び図6において、波長変換素子100Aは、測定対象の本波長変換素子100である。
【0057】
波長変換効率評価光学系300は、基本波光源301、基本波モニタ用のパワーメータ303、ビームスプリッタ304、集光レンズ305、及び緑色光モニタ用パワーメータ307を備える。
【0058】
基本波光源301から発せられた基本波光302(波長:1064nm)は、ビームスプリッタ304により基本波光302aと302bとに分離される。基本波光302bは、基本波光302aの光強度モニタとして使用される。基本波光302aは、集光レンズ305により集光され、測定対象の波長変換素子100Aへ入射される。
【0059】
基本波302aを波長変換素子100Aに入力することでその一部が高調波306(緑色光:532nm)に変換される。緑色光モニタ用パワーメータ307は、変換された高調波306の強度を測定する。緑色光モニタ用パワーメータ307により測定された高調波(緑色光:532nm)強度と基本波光302aの入力値とを比較することで、波長変換効率を得ることができる。
【0060】
上記波長変換効率評価の際、波長変換素子100Aに基本波光302aが入射する位置を変位させ、分極反転構造の面内均一性も併せて評価している。その様子を模式的に示した図が図6である。図6に示すように、基本波光302aの位置を基板面内に変位させ、変換効率の分布を測定し、面内均一性を評価している。
【0061】
次に、電界印加前に熱処理工程を導入するに至った経緯について説明する。
【0062】
図7は、従来の波長変換素子作製方法を用いて作製したSHG(Second Harmonics Generation)素子を、波長変換効率評価光学系300を用いて評価した結果をプロットした図である。図7(a)は、従来プロセスで作製した素子の変換効率が高い素子の特性例、図7(b)は、その変換効率が低い素子の特性例を示す。図7(a),(b)の横軸は、基本波光302aの入射位置を示し、縦軸は波長変換効率を示している。
【0063】
また、波長変換効率は任意単位で示しており、1は波長変換効率の目標値である。分極反転構造が理想的な状態で形成されたと仮定したときの変換効率は、図7の縦軸で示されるように1.8程度である。
【0064】
従来の作製方法の場合、同じ手順で分極反転を形成した場合でも、図7(a)のように変換効率目標を達成する場合と図7(b)のように波長変換効率目標を達成しない場合が発生した。
【0065】
そこで、本発明者は、図7(a)の場合と図7(b)の場合で、電界印加プロセス開始時から終了時まで分極反転形成時の印加電圧を確認した。その場合のプロット図が図8(a),(b)である。
【0066】
図8は、印加パルス数に対する印加電圧の差異をプロットした図である。図8(a)は、変換効率が高い素子が得られた時の印加パルス数に対する印加電圧の関係を示し、図8(b)は、変換効率が低い素子が得られた時の印加パルス数に対する印加電圧の関係を示す。図8(a),(b)の横軸は、分極反転形成初期から計数した、印加パルス数を示し、縦軸はMgLN基板に掛かっている電圧値を示している。
【0067】
図8(a)は、変換効率目標を達成した波長変換素子の印加電圧であり、図7(a)に対応している。また、図8(b)は、変換効率目標を達成しなかった波長変換素子の印加電圧であり、図7(b)に対応している。
【0068】
波長変換素子100(図2参照)は、MgLN基板101の周期電極103と対向電極104との間にパルス電界が印加されることにより、MgLN基板101に周期的な分極反転部102が形成される。MgLN基板101は、誘電体基板であり、周期電極103と対向電極104間に電界を印加すると、分極反転形成プロセスにおいてわずかに電流が流れる。MgLN基板101に流れる電流が一定になるように、パルス電界を印加すれば、電流は一定であるため、MgLN基板101への印加電圧が変化する。この印加電圧の変化(印加パルス数)を見ることで、分極反転構造形成の良否を判定することができる。分極反転形成装置200(図2参照)は、MgLN基板101に高電圧を印加し、分極反転構造が生成される際に流れる電流値が一定となるように制御する。印加電圧モニタ202は、MgLN基板101に印加されている電圧値をモニタする。印加電圧モニタ202により、MgLN基板101で進行している分極反転構造の形成状態をモニタすることができる。
【0069】
図8(a)と図8(b)を対比すると、変換効率目標を達成した図8(a)では分極反転形成初期の電圧が2kVを超えているのに対し、変換効率目標を達成しなかった図8(b)では分極反転形成初期の電圧が、1.8kV程度と低くなっていることが分かった。
【0070】
前記図2に示すように、分極反転形成装置200は、基板中を流れる電流が一定となるよう制御している。このため、変換効率目標を達成しなかった図8(b)は、変換効率目標を達成した図8(a)の場合と比較して基板の抵抗が小さくなっていることが分かった。さらに調査すると、基板保管状態やプロセス履歴によって、分極反転形成初期の電圧(基板抵抗)がまちまちになっており、波長変換素子形成後の波長変換特性もばらつきが大きくなっていることが分かった。
【0071】
基板の抵抗が変化する要因として、MgLN基板101の電子的な欠陥が原因になっていると考え、熱処理による欠陥除去を試みた。
【0072】
図9は、本実施の形態の波長変換素子の製造方法で作製したSHG素子の特性図である。図9(a)は、印加パルス数に対する印加電圧の関係を示し、図9(b)は、基本波入射位置に対する波長変換効率の関係を示す。
【0073】
図9(a)は、処理温度tmax:200℃、処理時間T:1時間で熱処理を行った場合における、分極反転形成時の印加パルス数に対する基板に掛かっている印加電圧のプロットであり、図9(b)は、その波長変換効率評価結果である。
【0074】
図9(a)に示すように、本波長変換素子の製造方法の電界印加前の熱処理により、分極反転初期の電圧が2kV程度となっており、波長変換特性とその面内分布も、目標変換効率を大きく上回り、理想変換効率に近い1.6程度と良好な結果が得られることが分かった。
【0075】
図10は、本実施の形態の波長変換素子の製造方法で作製した時の印加パルス数に対する印加電圧の関係から分極反転構造の形成過程を説明する図である。
【0076】
図10は、熱処理有無による変換効率ばらつき状況をプロットしている。図10の○印に示すように、熱処理無しの場合、初期印加電圧は1.7kV〜1.95kVまでばらついており、波長変換素子の変換効率も0.5〜1.1でばらついていることが分かる。
【0077】
図10の●印は、本波長変換素子の製造方法の電界印加前の熱処理を導入した場合の初期印加電圧と変換効率を示している。本波長変換素子の製造方法の電界印加前の熱処理を導入することで、初期の印加電圧は、1.98〜2.06kVとばらつき量が小さくなる上、変換効率も1.5から1.8と電界印加前熱処理が無い場合と比較して大きな変換効率が得られている。
【0078】
また、図10によると、変換効率目標値(図10破線参照)を上回るためには、初期の印加電圧が1.9kV以上である必要がある。
【0079】
このことから、分極反転形成の初期印加電圧を制御するようにすれば、波長変換素子の変換効率を高くすることができる。
【0080】
上記分極反転形成の初期印加電圧制御は、分極反転形成装置200(図2参照)の印加電圧モニタ202を使用する。印加電圧モニタ202は、MgLN基板101で進行している分極反転構造の形成状態をモニタする。印加電圧モニタ202を使用することで、分極反転形成中に基板内部で進行する分極反転部分の成長状況を推測することができる。
【0081】
次に、印加電圧から分極反転部分の成長状況を推測する方法について説明する。
【0082】
図11は、本実施の形態の波長変換素子の製造方法の電界印加前熱処理の有無をパラメータにした、電界印加時の初期印加電圧と波長変換効率との関係を示す図である。
【0083】
図11に示すように、本発明者は、分極反転形成が、分極反転形成初期、分極反転成長期、分極反転形成終盤期の3つの期間に分けられることを見出した。
【0084】
分極反転形成初期は、印加開始から印加電圧が一旦低下後、徐々に上昇し、あるところで印加電圧が一定となる期間である。
【0085】
分極反転成長期は、分極反転形成初期後に印加電圧が一定となる期間である。分極反転成長期は、MgLN基板101の深さ方向に分極反転が進んでいく過程と考えられる。
【0086】
分極反転形成終盤期は、分極反転形成後に再び印加電圧が上昇する期間である。分極反転形成終盤期になったとき、電界印加を停止する。これにより、分極反転構造が過剰に形成され、波長変換効率が損なわれることを防止する。
【0087】
図10に示す初期印加電圧と変換効率との結果から、高い変換効率を得るためには、分極反転形成初期の印加電圧で1.9kV以上である必要があり、分極反転形成終盤期の電圧で、2.5〜3.5kVであることが望ましい。
【0088】
この印加電圧をMgLN基板101の体積抵抗率(+z面と−z面間、測定温度100℃以上)で見た場合、分極反転形成初期の体積抵抗率で、6.5MΩ・cm以上である必要があり、分極反転形成後の体積抵抗率で9〜15MΩ・cmの範囲となっていることが望ましい。
【0089】
図12は、電界印加前熱処理の処理温度と初期印加電圧との関係を示す図である。
【0090】
図12を参照して、分極反転形成初期の印加電圧を1.9kV以上とするための熱処理条件(保持温度tmax)について説明する。
【0091】
図12に示すように、熱処理温度が150℃では、初期印加電圧は1.9kVに達せず、熱処理温度が160〜250℃で所望の印加電圧が得られる。このため、熱処理温度は、160℃〜250℃の範囲であることが望ましい。また、熱処理温度が250℃より高い温度では電極が変質し電界印加することが不可能となる。したがって、熱処理温度が250℃より高い温度での熱処理は無意味である。
【0092】
図13は、電界印加前熱処理の有無と波長変換効率の特性ばらつきとの関連性を示す度数分布図である。図13(a)は、分極反転前の熱処理を導入しなかった場合の波長変換素子の変換効率分布、図13(b)は、分極反転前の熱処理を導入した本実施の形態の場合の波長変換素子の変換効率分布を示す。
【0093】
図13(a)に示すように、分極反転前の熱処理を導入しない場合、最も個体数が多いピーク位置となる変換効率値が低く(1.2a.u.程度)、かつ、変換効率ばらつきも大きい(度数分布の幅が大きい)。このため、図13(a)網掛けに示すように、目標変換効率(1.0a.u.)を下回る個体が発生する。
【0094】
図13(b)に示すように、分極反転前の熱処理を導入した本実施の形態の場合では、ピーク位置の変換効率値を大きくすることが可能で、かつ、変換効率ばらつきを小さくすることができる。このため、変換効率目標値を上回る個体数である歩留まりを高める効果を有する。
【0095】
以上詳細に説明したように、本実施の形態の波長変換素子の製造方法は、MgLN基板101の+z面に周期電極103を、−z面に対向電極104を形成する工程と、周期電極103及び対向電極104を形成した後に熱処理を行う熱処理工程と、MgLN基板101を100℃以上に保持した状態で、周期電極103と対向電極104間にパルス状の電界を印加する電界印加工程と、を有する。すなわち、本実施の形態の波長変換素子の製造方法は、周期電極103及び対向電極104を除去することなく熱処理を行い、熱処理後に、周期電極103及び対向電極104を用いて電界を印加して、分極反転構造を形成する。
【0096】
本実施の形態の波長変換素子100は、熱処理後のMgLN基板101に対して、電界印加により形成された分極反転構造を有する。上記分極反転構造を有する波長変換素子100は、MgLN基板101の+z面と−z面間の体積抵抗率が、基板温度100℃以上のとき、9〜5MΩ・cmの範囲である。
【0097】
本実施の形態によれば、特殊なストイキオメトリック組成ではなく、従来から生産されているモル分率0.485〜0.49(コングルエント組成)のMgLN基板101を使用して、高効率な波長変換素子を安定して得ることができる。
【0098】
具体的には、本実施の形態の波長変換素子の製造方法は、コングルエント組成のMgLN基板101を使用し、熱処理後に、周期電極103及び対向電極104を用いて電界を印加して、分極反転構造の形成過程を制御する。この順序で熱処理を行うことにより、分極反転を形成する前に生じた光による結晶欠陥を低減することができる。
【0099】
本実施の形態の波長変換素子の製造方法により、前記電界を印加する際に、MgLN基板101の抵抗値を安定させる作用が確認できた。その結果、高い変換効率を有する波長変換素子を安定して作製することができ、高効率な波長変換素子を実現することができる。
【0100】
ここで、特許文献3記載の波長変換素子の製造方法は、先に分極反転層を形成し、電極を除去した後に熱処理を行う。これに対して、本実施の形態の波長変換素子の製造方法は、電極を除去せずに熱処理を行い、次にその電極を利用して印加し分極反転層を形成した後に電極を除去する点で、熱処理工程の対象及び順序が異なる。また、特許文献3記載の波長変換素子の製造方法の熱処理温度が、85℃以下であるのに対し、本実施の形態の波長変換素子の製造方法の熱処理温度が、100℃以上(特に、160℃〜250℃の範囲)であり、熱処理の条件も異なる。
【0101】
元々、特許文献3記載の波長変換素子の製造方法は、位相整合温度の経時変化による出力の不安定さとそれに伴う変換効率低下を課題としているのに対し、本発明は、製造時での歩留まり向上を課題としている。熱処理温度を100℃以上にすると光照射による屈折率変化(光損傷)が低減することは、特許文献3に記載されている。しかしながら、本実施の形態の波長変換素子の製造方法は、電極形成後に熱処理を行い、熱処理後の基板に対して分極反転構造を形成させる。本発明者は、分極反転を形成する前に生じた光による結晶欠陥を低減するため、電極形成後、すなわち分極反転の形成前に熱処理を行うことを考え出した。本発明によりはじめて、図13に示すような歩留まりを向上させることが可能になった。
【0102】
(実施の形態2)
図14は、本発明の実施の形態2に係る波長変換素子をレーザ光源装置に備える画像表示装置の斜視図である。本実施の形態は、本発明に係る画像表示装置を携帯型情報処理装置に適用した例である。
【0103】
図14に示すように、画像表示装置400は、携帯型情報処理装置451に内蔵されている。携帯型情報処理装置451の本体452には、光ディスク装置などの周辺機器が取り替え可能に収容される収容スペース、いわゆるドライブベイが、キーボード453の裏面側に形成されており、このドライブベイに画像表示装置400が出没自在に取り付けられている。
【0104】
画像表示装置400は、収容体454と、収容体454に対して出し入れ可能に設けられた可動体455と、を備える。可動体455は、レーザ光をスクリーンSに投射するための光学部品が収容された光学エンジンユニット456と、光学エンジンユニット456内の光学部品を制御するための基板などが収容された制御ユニット457とから構成され、光学エンジンユニット456が上下方向に回動可能に制御ユニット457に支持されている。
【0105】
画像表示装置400は、不使用時に可動体455が収容体454内に格納される。画像表示装置400は、使用際して、可動体455が収容体454から引き出され、光学エンジンユニット456を回動させて、光学エンジンユニット456からのレーザ光の投射角度を調整する。この調整により、レーザ光をスクリーンS上に適切に投射させることができる。
【0106】
図15は、画像表示装置400の光学エンジンユニット456の概略構成図である。
【0107】
図15に示すように、光学エンジンユニット456は、所要の画像をスクリーンに投影表示する。
【0108】
光学エンジンユニット456は、緑色レーザ光を出力する緑色レーザ光源装置402と、赤色レーザ光を出力する赤色レーザ光源装置403と、青色レーザ光を出力する青色レーザ光源装置404と、映像信号に応じて各レーザ光源装置402〜404からのレーザ光の変調を行う液晶反射型の空間光変調器405と、を備える。また、光学エンジンユニット456は、各レーザ光源装置402〜404からのレーザ光を反射させて空間光変調器405に照射させるとともに空間光変調器405から出射された変調レーザ光を透過させる偏光ビームスプリッタ406と、各レーザ光源装置402〜404から出射されるレーザ光を偏光ビームスプリッタ406に導くリレー光学系407と、偏光ビームスプリッタ406を透過した変調レーザ光をスクリーンに投射する投射光学系408と、を備える。
【0109】
光学エンジンユニット456は、いわゆるフィールドシーケンシャル方式でカラー画像を表示する。各レーザ光源装置402〜404から各色のレーザ光が時分割で順次出力され、各色のレーザ光による画像が視覚の残像効果によってカラー画像として認識される。
【0110】
リレー光学系407は、各レーザ光源装置402〜404から出射される各色のレーザ光を平行ビームに変換するコリメータレンズ411〜413と、コリメータレンズ411〜413を通過した各色のレーザ光を所要の方向に導く第1及び第2のダイクロイックミラー414,415と、ダイクロイックミラー414,415により導かれたレーザ光を拡散させる拡散板416と、拡散板416を通過したレーザ光を収束レーザに変換するフィールドレンズ417と、を備える。
【0111】
投射光学系408からスクリーンSに向けてレーザ光が出射される側を前側とすると、青色レーザ光源装置4から青色レーザ光が後方に向けて出射され、青色レーザ光の光軸に対して緑色レーザ光の光軸及び赤色レーザ光の光軸が互いに直交するように、緑色レーザ光源装置402及び赤色レーザ光源装置403から緑色レーザ光及び赤色レーザ光が出射される。そして、青色レーザ光、赤色レーザ光、及び緑色レーザ光が、2つのダイクロイックミラー414,415で同一の光路に導かれる。すなわち、青色レーザ光と緑色レーザ光が第1のダイクロイックミラー414で同一の光路に導かれ、青色レーザ光及び緑色レーザ光と赤色レーザ光が第2のダイクロイックミラー415で同一の光路に導かれる。
【0112】
第1及び第2のダイクロイックミラー414,415には、表面に所定の波長のレーザ光を透過及び反射させるための膜が形成されている。第1のダイクロイックミラー414は、青色レーザ光を透過するとともに緑色レーザ光を反射させる。第2のダイクロイックミラー415は、赤色レーザ光を透過するとともに青色レーザ光及び緑色レーザ光を反射させる。
【0113】
これらの各光学部材は、筐体421に支持されている。筐体421は、各レーザ光源装置402〜404で発生した熱を放熱する放熱体として機能し、アルミニウムや銅などの熱伝導性の高い材料で形成されている。
【0114】
緑色レーザ光源装置402は、側方に向けて突出した状態で筐体421に形成された取付部422に取り付けられている。取付部422は、リレー光学系407の収容スペースの前方と側方にそれぞれ位置する前壁部423と側壁部424とが交わる角部から側壁部424に直交する向きに突出した状態で設けられている。赤色レーザ光源装置403は、ホルダ425に保持された状態で側壁部424の外面側に取り付けられている。青色レーザ光源装置404は、ホルダ426に保持された状態で前壁部423の外面側に取り付けられている。
【0115】
赤色レーザ光源装置403及び青色レーザ光源装置404は、いわゆるCANパッケージで構成される。CANパッケージは、レーザ光を出力するレーザチップが、ステムに支持された状態で缶状の外装部の中心軸上に光軸が位置するように配置され、外装部の開口に設けられたガラス窓からレーザ光が出射される。
【0116】
赤色レーザ光源装置403及び青色レーザ光源装置404は、ホルダ425,426に開設された取付孔427,428に圧入するなどしてホルダ425,426に対して固定される。青色レーザ光源装置4及び赤色レーザ光源装置403のレーザチップの発熱は、ホルダ425,426を介して筐体421に伝達されて放熱される。各ホルダ425,426は、アルミニウムや銅などの熱伝導率の高い材料で形成されている。
【0117】
緑色レーザ光源装置402は、励起用レーザ光を出力する半導体レーザ431と、半導体レーザ431から出力された励起用レーザ光を集光する集光レンズであるFAC(Fast-Axis Collimator)レンズ432及びロッドレンズ433と、励起用レーザ光により励起されて基本レーザ光(赤外レーザ光)を出力する固体レーザ素子434と、を備える。また、緑色レーザ光源装置402は、基本レーザ光の波長を変換して半波長レーザ光(緑色レーザ光)を出力する波長変換素子(光学素子)100(図2参照)と、固体レーザ素子434とともに共振器を構成する凹面ミラー436と、励起用レーザ光及び基本波長レーザ光の漏洩を阻止するガラスカバー437と、各部を支持する基台438と、各部を覆うカバー体439と、を備える。
【0118】
緑色レーザ光源装置402は、基台438を筐体421の取付部422に取り付けて固定され、緑色レーザ光源装置402と筐体421の側壁部424との間に所要の幅(例えば0.5mm以下)の間隙が形成される。これにより、緑色レーザ光源装置402の熱が赤色レーザ光源装置403に伝わりにくくなり、赤色レーザ光源装置403の昇温を抑制して、温度特性の悪い赤色レーザ光源装置403を安定的に動作させることができる。また、赤色レーザ光源装置403の所要の光軸調整代(例えば0.3mm程度)を確保するため、緑色レーザ光源装置402と赤色レーザ光源装置403との間に所要の幅(例えば0.3mm以上)の間隙が設けられている。
【0119】
このように、本実施の形態によれば、緑色レーザ光源装置402は、実施の形態1に係る波長変換素子100(図2参照)を備える。また、緑色レーザ光源装置402は、赤色レーザ光源装置403及び青色レーザ光源装置404と共に画像表示装置400のレーザ光源として搭載される。光源として特に半導体レーザを用いたレーザ光源装置を備えた時分割表示方式の画像表示装置などとして有用である。また、画像表示装置400は、投射型画像表示装置、液晶テレビ及び液晶ディスプレイ等、画像表示装置全般に適用することが可能である。
【0120】
なお、画像表示装置は、投写型に限定されるものでは無く、直接表示画像を観る液晶テレビや液晶ディスプレイ等の液晶表示装置であってもよい。
【0121】
以上の説明は本発明の好適な実施の形態の例証であり、本発明の範囲はこれに限定されることはない。
【0122】
本実施の形態によれば、特殊なストイキオメトリック組成ではなく、従来から生産されているモル分率0.485〜0.49(コングルエント組成)のマグネシウム添加ニオブ酸リチウムやマグネシウム添加タンタル酸リチウムを使用した場合においても、高効率な波長変換素子を安定して得ることができる。
【0123】
ここで、モル分率0.485〜0.49(コングルエント組成)のマグネシウム添加ニオブ酸リチウム単結晶基板であることが望ましい。
【0124】
上記実施の形態では、波長変換素子の製造方法及び波長変換素子、レーザ光源装置、画像表示装置という名称を用いたが、これは説明の便宜上であり、光機能素子の製造方法、光半導体素子、表示装置、液晶装置等であってもよい。
【0125】
さらに、上記波長変換素子の製造方法を構成する各工程、例えば熱処理の種類・方法などは前述した実施の形態に限られない。
【産業上の利用可能性】
【0126】
本発明の波長変換素子、レーザ光源装置、画像表示装置及び波長変換素子の製造方法は、周期分極反転構造を形成した波長変換素子及びその製造方法の全般に適用することができる。本発明の波長変換素子及び波長変換素子の製造方法は、従来から使用されているコングルエント組成のマグネシウム添加タンタル酸リチウム単結晶を使用し、分極反転構造の形成過程を制御することが容易となる。その結果、高い変換効率を有する波長変換素子が安定して生産でき、高効率な波長変換素子を提供することができる。かかる波長変換素子は、波長変換レーザ光源として有用である。
【符号の説明】
【0127】
100,100A 波長変換素子
101 モル分率0.485〜0.49(コングルエント組成)のマグネシウム添加ニオブ酸リチウム単結晶基板(MgLN基板)
102 分極反転部(分極反転層)
103 周期電極
104 対向電極
200 分極反転形成装置
201 直流電流源
202 印加電圧モニタ
203 波形生成器
204 アンプ
300 波長変換効率評価光学系
301 基本波光源
303 パワーメータ
304 ビームスプリッタ
305 集光レンズ
307 緑色光モニタ用パワーメータ
400 画像表示装置
402 緑色レーザ光源装置
403 赤色レーザ光源装置
404 青色レーザ光源装置
405 空間光変調器
406 偏光ビームスプリッタ
407 リレー光学系
408 投射光学系
411〜413 コリメータレンズ
414,415 第1及び第2のダイクロイックミラー
416 拡散板
417 フィールドレンズ
431 半導体レーザ
432 FACレンズ
433 ロッドレンズ
434 固体レーザ素子
436 凹面ミラー
437 ガラスカバー
451 携帯型情報処理装置
456 光学エンジンユニット
457 制御ユニット


【特許請求の範囲】
【請求項1】
コングルエント組成のマグネシウム添加ニオブ酸リチウム単結晶基板に分極反転構造を形成する波長変換素子の製造方法であって、
前記基板の+z面に周期電極を、−z面に対向電極を形成する工程と、
前記電極を形成した後に熱処理を行う熱処理工程と、
前記熱処理後、前記周期電極と前記対向電極間にパルス状の電界を印加する電界印加工程と、
を有する波長変換素子の製造方法。
【請求項2】
前記熱処理工程では、
前記周期電極及び前記対向電極を除去することなく熱処理を行い、
前記電界印加工程では、
前記熱処理後に、前記周期電極及び前記対向電極を用いて電界を印加し、
さらに、前記電界印加による分極反転構造の形成後に、前記周期電極及び前記対向電極を除去する工程を有する、
請求項1記載の波長変換素子の製造方法。
【請求項3】
前記熱処理工程では、
前記熱処理温度が、160℃〜250℃の範囲である、
請求項1記載の波長変換素子の製造方法。
【請求項4】
前記電界印加工程では、
前記基板を100℃以上に保持した状態で、前記周期電極と前記対向電極間にパルス状の電界を印加する、
請求項1記載の波長変換素子の製造方法。
【請求項5】
前記電界印加工程では、
前記熱処理中において、前記基板間に印加される電圧をモニタする、
請求項1記載の波長変換素子の製造方法。
【請求項6】
前記電界印加工程では、
前記印加電圧の値が、1.9kV〜3.5kVの範囲である、
請求項1記載の波長変換素子の製造方法。
【請求項7】
前記電界印加工程では、
前記印加電圧の値が、2.5kV〜3.5kVの範囲であることを検知して、前記電界印加工程を終了する、
請求項1記載の波長変換素子の製造方法。
【請求項8】
前記電界印加前の、前記基板の+z面と−z面間の体積抵抗率が、前記基板温度が100℃以上のとき、6.5MΩ・cm以上である、
請求項1記載の波長変換素子の製造方法。
【請求項9】
前記コングルエント組成は、モル分率0.485〜0.49である、
請求項1記載の波長変換素子の製造方法。
【請求項10】
コングルエント組成のマグネシウム添加ニオブ酸リチウム単結晶基板に分極反転構造が形成された波長変換素子であって、
前記基板の+z面と−z面間の体積抵抗率が、前記基板温度100℃以上のとき、9〜5MΩ・cmの範囲である、
波長変換素子。
【請求項11】
熱処理後の前記基板に対して、電界印加により形成された前記分極反転構造を有する、
請求項10記載の波長変換素子。
【請求項12】
請求項10記載の波長変換素子を備える、レーザ光源装置。
【請求項13】
請求項12記載のレーザ光源装置を備える、画像表示装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−88479(P2013−88479A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−226078(P2011−226078)
【出願日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】