波長選択スイッチ
【課題】空間光変調器を用いた波長選択スイッチにおいて、所望の位相シフト関数を再現すること。
【解決手段】本実施例の波長選択スイッチでは、入射信号光及び回折信号光と空間位相変調器であるLCOSとの位置関係は、LCOSのピクセル面の直交する2方向のうちの一方の方向は、LCOSへ入射する入力信号光の波長分散方向に一致するように配置され、他方の方向のみが回折信号光の回折方向となっている。この場合、チャネル帯域は、線分散と無関係となるため、帯域の制限から決まるスポットサイズの上限は制限されないことになる。一方で式(20)で表されるスポットサイズの下限は、スポットサイズに対して位相変調関数が粗すぎて、空間位相変調器上に集光されたガウシアンビームが高い周波数成分をもった変調関数を感じてしまうことに起因しており、線分散とは無関係に生じるため本実施例においても適用される。
【解決手段】本実施例の波長選択スイッチでは、入射信号光及び回折信号光と空間位相変調器であるLCOSとの位置関係は、LCOSのピクセル面の直交する2方向のうちの一方の方向は、LCOSへ入射する入力信号光の波長分散方向に一致するように配置され、他方の方向のみが回折信号光の回折方向となっている。この場合、チャネル帯域は、線分散と無関係となるため、帯域の制限から決まるスポットサイズの上限は制限されないことになる。一方で式(20)で表されるスポットサイズの下限は、スポットサイズに対して位相変調関数が粗すぎて、空間位相変調器上に集光されたガウシアンビームが高い周波数成分をもった変調関数を感じてしまうことに起因しており、線分散とは無関係に生じるため本実施例においても適用される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長選択スイッチに関し、より詳細には、光通信システムに応用可能な波長選択スイッチに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光通信の大容量化が進展しているが、伝送容量は波長分割多重(WDM: Wavelength Division Multiplexing)方式により増大する一方であり、ノードにおける経路切換機能のスループットの増大が強く求められている。従来、そのような経路切換は、伝送されてきた光信号を電気信号に変換した後に電気スイッチにより行う方法が主流であったが、高速で広帯域であるという光信号の特徴を生かして、光スイッチ等を用いて光信号のままアド・ドロップ等を行うROADM(Reconfigurable Optical Add/Drop Multiplexer)システムが導入されている。具体的には、ネットワークをリング型として各ノードで光信号のアド・ドロップを行うとともに、その必要がないものは光信号のまま通過させるため、ノード装置が小型で低消費電力化するという利点がある。それらROADMの将来的な展開に必要なデバイスとして、波長選択スイッチモジュールが求められており、バルク回折格子と空間位相変調器を用いた波長選択スイッチが提案されている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】G. Baxter et al., “Highly programmable wavelength selective switch based on liquid crystal on silicon switching element,” OFC2005, OTuF2.
【非特許文献2】Finisar DWP 100 WAVELENGTH SELECTIVE SWITCH PRODUCT BRIEF.
【非特許文献3】西原、小山「光波電子工学」、pp. 72-75、コロナ社、1978年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、位相付与素子がピクセル化した空間位相変調器は、位相付与素子が有限の幅を持つため、適切な大きさで空間位相変調器上に位相シフト関数を再現する必要がある。また、空間位相変調器上に集光された信号光のスポットサイズについては、その大きさが小さすぎるとオーバーラップする位相付与素子の数が少なくなり、位相シフト関数を感じることができなくなる。反対に、空間位相変調器上に集光された信号光のスポットサイズが大きすぎても、位相シフト関数がぼやけてしまい、適切な位相シフトを信号光に与えることができなくなる。
【0005】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、空間光変調器を用いた波長選択スイッチにおいて、所望の位相シフト関数を再現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的を達成するために、本発明の第1の態様は、複数波長の信号光が波長多重された波長多重信号光を、波長毎に分波する分光手段と、光に対して位相シフトを与える、幅Xでピクセル化された位相付与素子を複数有する空間位相変調器と、前記分光手段により分波された波長毎の信号光を、前記空間位相変調器に集光させる光学的手段とを備える波長選択スイッチであって、前記空間位相変調器の位相付与素子面の直交する第1及び第2の方向は、前記第1の方向が波長分散方向であり、前記第2の方向が回折方向であって、前記空間位相変調器上に集光された信号光の電界の空間的広がりがガウス分布ビームのスポットサイズwにより規定され、前記スポットサイズwの範囲が次式で制限されていることを特徴とする。
【0007】
【数1】
ここで、n1(XT,N)、n2(XT,N)及びn3(XT,N)は、それぞれ所望のクロストーク値XT及びチャネル帯域内の位相付与素子数Nに依存する第1、第2及び第3の下限係数である。
【0008】
また、本発明の第2の態様は、第1の態様において、前記第1から第3の下限係数が、
【0009】
【数2】
【0010】
であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の第3の態様は、第1又は第2の態様において、w/X≧0.68を満たすことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の第4の態様は、第1の態様において、前記第1の方向は波長分散方向及び回折方向で、前記第2の方向は回折方向であり、前記スポットサイズwの範囲が次式で制限されていることを特徴とする。
【0013】
【数3】
【0014】
ここで、B0は前記波長多重信号光の周波数間隔Bは分散補償値が所望の値から許容範囲内になる帯域、m1(XT,N)、m2(XT,N)及びm3(XT,N)は、それぞれ所望のクロストーク値XT及びチャネル帯域内の位相付与素子数Nに依存する第1、第2及び第3の上限係数である。
【0015】
また、本発明の第5の態様は、第4の態様において、前記第1から第3の上限係数は、それぞれクロストーク値XTにのみ依存し、前記第1から第3の上限係数は、クロストーク値XTに対して指数で依存する係数であることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の第6の態様は、第4又は第5の態様において、前記第1から第3の下限係数は、
【0017】
【数4】
【0018】
であり、前記第1から第3の上限係数は、所望のクロストーク値XTに対して、±5%の誤差がある係数により、次式で表されることを特徴とする。
【0019】
【数5】
【0020】
また、本発明の第7の態様は、第6の態様において、w/X≧0.68を満たすことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、空間位相変調器上に所望の回折角を得る位相シフト関数を再現する際に、位相シフト関数の離散化の影響による関数の歪みを抑制し、広い帯域で所望の回折光を得られるという利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】サンプリングされた位相シフト関数が位相付与素子の幅で一定値を取ることを説明する概念図である。
【図2】空間位相変調器上に集光されるガウス分布ビームの振幅を説明する概念図である。
【図3】位相シフト関数、ゼロ次ホールダ、ガウス分布の光ビームの空間周波数スペクトル例を示す図である。
【図4】再現される位相シフト関数の例を示す図である。
【図5】再現される位相シフト関数の例を示す図である。
【図6】正弦波的な位相誤差がある位相面における回折を説明する図である。
【図7】様々な位相シフト関数のサンプリング数におけるスポットサイズとクロストーク値との関係を示す図である。
【図8】所望の許容クロストーク値を与える正規化スポットサイズw/Xの正規化帯域B/B0依存性を示す図である。
【図9】様々なチャネル帯域内の位相付与素子数Nに対する、所望の許容クロストーク値を与える正規化スポットサイズw/Xの正規化帯域B/B0依存性を示す図である。
【図10】本発明の第1の実施例の波長選択スイッチを示すブロック図である。
【図11】本発明の第1の実施例の波長選択スイッチにおいて、空間位相変調器と入出力信号光の向きとの関係を示す図である。
【図12】本発明の第2の実施例の波長選択スイッチにおいて、空間位相変調器と入出力信号光の向きとの関係を示す図である。
【図13】第1の実施例の波長選択スイッチのクロストーク値を示す図である(ピクセル幅2μm)。
【図14】第1の実施例の波長選択スイッチのクロストーク値を示す図である(ピクセル幅5μm)。
【図15】第1の実施例の波長選択スイッチのクロストーク値を示す図である(ピクセル幅10μm)。
【図16】第1の実施例の波長選択スイッチのクロストーク値を示す図である(ピクセル幅10μm、1つの信号光のピクセル数100)。
【図17】第1の実施例の波長選択スイッチのクロストーク値を示す図である(ピクセル幅5μm、1つの信号光のピクセル数10)。
【図18】第2の実施例の波長選択スイッチのクロストーク値を示す図である(ピクセル幅2μm、1つの信号光のピクセル数100)。
【図19】第2の実施例の波長選択スイッチのクロストーク値を示す図である(ピクセル幅5μm、1つの信号光のピクセル数100)。
【図20】第2の実施例の波長選択スイッチのクロストーク値を示す図である(ピクセル幅10μm、1つの信号光のピクセル数100)。
【図21】第2の実施例の波長選択スイッチのクロストーク値を示す図である(ピクセル幅5μm、1つの信号光のピクセル数10)。
【図22】第2の実施例の波長選択スイッチのクロストーク値を示す図である(ピクセル幅5μm、1つの信号光のピクセル数1000)。
【図23】第2の実施例の波長選択スイッチのスポットサイズと帯域との関係を示す図である(1つの信号光のピクセル数100、正規化スポットサイズ10)。
【図24】第2の実施例の波長選択スイッチのスポットサイズと帯域との関係を示す図である(1つの信号光のピクセル数100、正規化スポットサイズ5)。
【図25】第2の実施例の波長選択スイッチのスポットサイズと帯域との関係を示す図である(1つの信号光のピクセル数100、正規化スポットサイズ1.5)。
【図26】第2の実施例の波長選択スイッチのスポットサイズと帯域との関係を示す図である(1つの信号光のピクセル数10、正規化スポットサイズ1)。
【図27】第2の実施例の波長選択スイッチのスポットサイズと帯域との関係を示す図である(1つの信号光のピクセル数10、正規化スポットサイズ0.5)。
【図28】第2の実施例の波長選択スイッチのスポットサイズと帯域との関係を示す図である(1つの信号光のピクセル数10、正規化スポットサイズ0.15)。
【図29】第2の実施例の波長選択スイッチのスポットサイズと帯域との関係を示す図である(1つの信号光のピクセル数1000、正規化スポットサイズ100)。
【図30】第2の実施例の波長選択スイッチのスポットサイズと帯域との関係を示す図である(1つの信号光のピクセル数1000、正規化スポットサイズ50)。
【図31】第2の実施例の波長選択スイッチのスポットサイズと帯域との関係を示す図である(1つの信号光のピクセル数1000、正規化スポットサイズ15)。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。まず、本発明に係る波長選択スイッチの原理について説明し、その次に、実施例を説明する。
【0024】
(本発明に係る波長選択スイッチの原理)
本発明に係る波長選択スイッチは、複数波長の信号光が波長多重された波長多重信号光を、波長毎に分波する分光手段と、光に対して位相シフトを与える、幅Xでピクセル化された位相付与素子を複数有する空間位相変調器と、当該分光手段により分波された波長毎の信号光を、当該空間位相変調器に集光させる光学的手段とを備える波長選択スイッチであり、空間位相変調器に集光される波長毎の信号光のスポットサイズwを制限していることを主要な特徴とする。以下に、どのようにスポットサイズwの制限を行うのかについて説明する。
【0025】
空間位相変調器で信号光の向きを変化させるためには、空間位相変調器上に、線形(直線)の位相シフト関数、または鋸状の位相シフト関数を形成し、主としてゼロ次回折の方向に信号光を回折させることになる。鋸状の位相シフト関数は直線の位相シフト関数をある位相値で折り返した関数として扱うことができ、ゼロ次回折の方向は同じであるため、直線の位相シフト関数と鋸状の位相シフト関数は等価な関係にある。そこで、以下では直線の位相シフト関数について述べる。
【0026】
空間位相変調器上の複数のピクセル化した位相付与素子で位相シフト関数を作ることで、その位相シフト関数は離散化関数となる。すなわち、幅Xを有する位相付与素子で直線の位相シフト関数ψ(x)=αx(xは2次元空間位相変調器の直交する2方向のうち一方の方向の位置を表す変数、αは位相シフト関数である直線の傾きに関わる定数)を作ることは、ψ(x)が一定間隔Xでサンプリングされることになる。ここで、正規化位置変数x’=x/Xを導入し、正規化位相シフト関数ψ(x’)=x’を定義すると、
【0027】
【数6】
【0028】
と書ける。ψ(x)を周期Xでサンプリングすることは、ψ(x’)を周期1でサンプリングすることと等価である。ψ(x’)を周期1でサンプリングした関数ψs(x’)は、
【0029】
【数7】
【0030】
と書ける。本式中において、nは整数、δ(x’)はデルタ関数であり、
【0031】
【数8】
【0032】
は正規化位相シフト関数である。ここで、位相シフト関数の範囲、すなわち、分波された後の波長多重信号光の中の1つの信号光が、空間位相変調器上へ集光される2次元ビームの直交する2方向のうち、一方の方向における集光の範囲を|x|≦x0とし、x>0及びx<0の範囲にあるサンプル点の数をそれぞれN+及びN-とすると、
【0033】
【数9】
【0034】
となる。全サンプル数Nはx=0のサンプル点も加えて、N=N++N-+1である。ψs(x’)のフーリエ変換は、
【0035】
【数10】
【0036】
ここで、ξは1/Xで正規化された空間角周波数である。(8)式は正数k=1,・・・Nを用いて次にように書き換えられる。Nが奇数のとき、
【0037】
【数11】
【0038】
Nが偶数のとき、
【0039】
【数12】
【0040】
ここで、s=e-jξと定義している。ξ=0のときはs=1となるので、自然数の和から、Nが奇数のとき、
【0041】
【数13】
【0042】
Nが偶数のとき
【0043】
【数14】
となる。
【0044】
さらに、位相付与素子の有限幅内の位相は一定であるため、サンプリングされた位相シフト関数ψ(x’)の様子は図1の実線で示すような関数形となる(同図では点線でψ(x’)を示している。)。これはすなわち、ψ(x)をゼロ次ホールダでサンプリングしたことと等価である。サンプリング周期のゼロ次ホールダのフーリエ変換H0(ξ)は、
【0045】
【数15】
【0046】
となり、その振幅は
【0047】
【数16】
【0048】
となる(ここではsinc(x)=sin(x)/xの定義を使用)。このため、位相シフト関数のスペクトルには|H0(ξ)|の効果も影響することになる。
【0049】
一方、空間位相変調器上に集光されたビームスポットのスペクトルも位相シフト関数のスペクトルに影響を与える。空間位相変調器上にスポットサイズwで集光されたガウス分布のビームの振幅(図2)は
【0050】
【数17】
【0051】
と表すことができる。g(x’)のフーリエ変換G(ξ)は、
【0052】
【数18】
【0053】
となる。
【0054】
図3は、位相シフト関数、ゼロ次ホールダ、ガウス分布ビームのフーリエ変換、すなわち空間スペクトルの一例として、N=31、w/X=3のときの各振幅スペクトル示す。位相シフト関数の振幅スペクトル|Φ(ξ)|を細い線、ゼロ次ホールダの振幅スペクトル|H0(ξ)|を点線、ガウス分布ビームの振幅スペクトルG(ξ)を一点鎖線で示している。また、実線は、サンプリング及びゼロ次ホールドされた位相シフト関数の振幅スペクトル|Φ(ξ)×H0(ξ)|を示している。空間位相変調器上に1次関数を再現するためには、位相シフト関数の振幅スペクトルは|ξ|>πでゼロでなければない。また、|ξ|≦πにおいても|Φ(ξ)|の形状を保つ必要がある。図3から、ガウス分布ビームはフィルタとして働き、位相シフト関数の振幅スペクトルの|ξ|>πの高周波成分を減衰させる効果が期待される。ただし、ガウス分布ビームのスペクトル幅はスポットサイズwに依存して変化するため、位相シフト関数の振幅スペクトルの|ξ|>πの高周波成分を十分に減衰し、且つ、|ξ|≦πの周波数成分をできるだけ減衰させないためにはスポットサイズ範囲が制限される。
【0055】
ガウス分布ビームのフィルタ効果で高周波成分を減衰した後のスペクトルを逆フーリエ変換することにより、空間位相変調器上に再現される位相シフト関数が得られる。一例として、図4及び5にそれぞれN=31、w/X=3、X=10μm及びN=31、w/X=0.4、X=10μmのときの空間位相変調器上に再現される位相シフト関数を示す。両図において、○点は位相シフト関数のサンプリング点を示しており、実線は空間位相変調器上に再現された位相シフト関数を示している。w/X=3のときは、再現された位相シフト関数は元の位相シフト関数に良く一致するが、帯域の端に行くにしたがって歪みが生じている。一方、w/X=0.4のときは、再現された位相シフト関数は位置に対し正弦波的に振動していることが分かる。したがって、スポットサイズが大きすぎると、帯域の端の方では正しい方向に回折が得られず、帯域は狭窄化することになり、小さすぎると、スポットサイズに対して位相変調関数が粗すぎることになり、空間位相変調器上に集光されたガウシアンビームが高い周波数成分をもった変調関数を感じてしまうため、正弦波的な位相シフト関数に性質が現れることになる。
【0056】
正規化位相シフト関数の傾きが1からずれた場合、回折方向が本来の方向からずれるため、この光が他の信号光へのクロストークとなる。正規化位相シフト関数の傾きが1からずれる程度とクロストークとの関係は以下のように考えることができる。図6に示すように、振幅A0の入射光が、位相シフト関数が微小な振幅a、周期cの正弦波的な位相誤差がある回折面で回折されたときにファイバと信号光の結合面であるx2面における回折光の振幅分布U(x2)は、
【0057】
【数19】
【0058】
となる(非特許文献3参照)。ここで、Jm(a)はm次のベッセル関数である。式(17)は、回折光がu=±2πm/c(m=0、1、2、・・・)に現れ、それぞれの振幅はm次のベッセル関数Jm(a)に比例することを示している。クロストーク値が小さい領域(例えば−40dBなど)を考えているため、a≦1として扱うことができる。この場合、Jm(a)>Jm+1(a)であるため、クロストーク光としては1次のベッセル関数を考えれば十分である。ここで、複数波長の信号光それぞれの光パワーが等しいとすると、上述の正弦波的な位相誤差がないときに所望の方向にある光ファイバに結合する光パワーは式(17)の各回折光パワーの和で表されるため、信号光パワーは
【0059】
【数20】
【0060】
に比例することになる。したがって、1次回折光によるクロストークは、
【0061】
【数21】
【0062】
となる。式(18)から正弦波的な位相誤差によるクロストークがXT(dB)以下となる条件は
【0063】
【数22】
【0064】
から
【0065】
【数23】
【0066】
となる。式(19)で表される条件を満足する位相シフト関数の範囲から帯域を見積もることができる。
【0067】
以下に、式(19)により求めた帯域の例を示す。
【0068】
図7は、様々な位相シフト関数のサンプリング数、すわなち、1つの信号光に位相シフトを与える位相付与素子数Nにおけるスポットサイズとクロストーク値との関係を示す図である。同図において、縦軸はスポットサイズを位相付与素子数で除して正規化している。同図から明らかなように、正規化スポットサイズとクロストーク値の関係はNにはほとんど依存しない。また、正規化スポットサイズとクロストーク値の関係は近似的に2次関数で表され、
【0069】
【数24】
【0070】
と表すことができる。また、正規化スポットサイズが小さくなるにつれてクロストーク値は大きくなるので、式(20)が所望クロストーク値に対するスポットサイズの下限を与えることになる。式(20)の各係数(以下「下限係数」とも呼ぶ。)は、これら曲線の平均のフィッティングにより
【0071】
【数25】
【0072】
が得られる。
【0073】
図8は、周波数間隔B0で多重化された波長多重信号において、各信号周波数グリッドの幅B0の周波数領域(以後、「チャネル帯域」とする)が、回折格子による回折と集光レンズによる集光により、空間位相変調器上に再現される幅の中に含まれる位相付与素子数がN=100のときの、クロストーク−40dB以下を与える正規化スポットサイズw/Xの正規化帯域B/B0依存性を示す図である。ここで、Bは許容クロストーク値以下となる帯域であり、「信号周波数グリッド」とは、TTC標準JT−G694.1で使用される意味で用いている。ただし、「信号周波数グリッド」はTTC標準JT−G694.1に示されたものに完全に一致する必要はなく、グリッド間が不等周波数間隔でも構わない。また、図9は、位相付与素子数N=20、50、100、200について、許容クロストーク値−40dB以下の正規化スポットサイズw/Xの正規化帯域B/B0のw/X依存性を示す図である。両図においてB/B0が大きくなるとグラフが途切れているのは、各クロストーク値及びNにおいてそれぞれその帯域を実現するスポットサイズがないことを意味している。所望の帯域(正規化帯域)を確保するための正規化スポットサイズの上限は、所望の帯域Bによって異なると共に許容クロストーク値及びチャネル帯域内の位相付与素子数に依存して変化する。図8から、正規化スポットサイズは正規化帯域に対してほぼ2次関数の依存性があり、その係数は許容クロストーク値によって異なることがわかる。また、図9から、正規化帯域が一定の場合、正規化スポットサイズはチャネル帯域にほぼ比例して増加することがわかる。したがって、正規化スポットサイズは以下の式で表すことができる。
【0074】
【数26】
【0075】
ここで、m1(XT,N)、m2(XT,N)及びm3(XT,N)は、許容クロストーク値及び位相付与素子数に対して変化する係数(以下「上限係数」とも呼ぶ。)である。
【0076】
複数の許容クロストーク値XT、及び位相付与素子数Nについてw/X−B/B0曲線を求め、そのフィッティング係数から式(22)の係数m1(XT,N)、m2(XT,N)及びm3(XT,N)を得ることができる。具体的には、クロストーク値XT=−30、−40、−50、−60dB、及び位相付与素子数N=20、50、100、200についてw/X−B/B0曲線を求めると、m1(XT,N)、m2(XT,N)及びm3(XT,N)は、それぞれ許容クロストーク値XTにのみ依存する表式に簡略化することが可能であること、並びに、m1(XT,N)、m2(XT,N)及びm3(XT,N)は、許容クロストーク値XTに対して指数関数の依存性でよく表すことが可能であることがわかり、
【0077】
【数27】
【0078】
が得られる。
【0079】
以上から、式(20)〜(23)により所望の帯域を確保するのに必要なスポットサイズの下限及び上限が決まる。
【0080】
(第1の実施例)
図10は、本発明の波長選択スイッチの第1の実施例を示す模式図である。入出力ファイバ1から出力される光は、ミラー2で反射され、レンズ3を透過して回折格子4へ入射される。回折格子4へ入射した光は、波長に応じた出射角度で反射され、再びレンズ3を透過した後、ミラー2で反射され、空間位相変調器5に入射する。空間位相変調器5に入射した光は、再現された位相シフト関数に依存する方向に回折され、再度、ミラー2、レンズ3、回折格子4を通る経路を経て入出力ファイバアレイ1のうちの所望のファイバに入力する。入力ファイバ(入ポート)数は、出力ファイバ(出力ポート)数は9である。入出力ファイバのアレイは1列となっている。回折格子及びミラー、レンズは波長域1524.11nmから1570.42nmの信号光をスイッチできるように調整されている。本実施例では、空間位相変調器としてLCOS(Liquid Crystal On Silicon)を使用しており、位相付与素子(ピクセル)幅X及び一つの信号光のピクセル数Nの異なる、複数のLCOSについて波長選択スイッチを用いて本発明の効果を確認した。
【0081】
本実施例の波長選択スイッチでは、入射信号光及び回折信号光と空間位相変調器であるLCOSとの位置関係は、図11に示すように、LCOSのピクセル面の直交する2方向のうちの一方の方向(以下「第1の方向」とも呼ぶ。)は、LCOSへ入射する入力信号光の波長分散方向に一致するように配置され、他方の方向(以下「第2の方向」とも呼ぶ。)のみが回折信号光の回折方向となっている。すなわち、図11において信号光の回折方向は点線で示した線上を通ることになる。この場合、波長多重信号の一波長信号光の周波数領域B0が空間位相変調器上に再現される範囲は、線分散と無関係となるため、帯域の制限から決まるスポットサイズの上限は制限されないことになる。一方でスポットサイズの下限は、スポットサイズに対して位相変調関数が粗すぎて、空間位相変調器上に集光されたガウシアンビームが高い周波数成分をもった変調関数を感じてしまうことに起因しており、線分散とは無関係に生じるため本実施例においても適用される。したがって、本実施例の波長選択スイッチにおけるLCOS上の回折信号光のビームスポットサイズの範囲は、式(20)を満足する値以上となる。
【0082】
図13、14及び15に、それぞれピクセル幅2、5及び10μmのLCOSを用いた波長選択スイッチのクロストーク値を示す。1つの信号光のピクセル数は100である。これらの図において○印、□印、△印はそれぞれ入力ポートから入力した信号光を出力ポート1、5、9番のポートへ出力させたときのクロストーク値を示している。信号光波長は1550.12nmである。これらの図から、w/X=0.68が許容クロストーク値−40dB(波長選択スイッチの許容クロストークは、非特許文献2にあるように典型的には−40dB以下である。)を得るための境界値となっており、図7に示す結果と一致していることがわかる。
【0083】
また、図16及び17は、ピクセル幅5μmのLCOSを使用した場合に、1つの信号光のピクセル数がそれぞれN=10、1000となるように回折格子、ミラー、レンズを選択して配置した波長選択スイッチのクロストークを示している。これらの図も図13〜15と同様に、○印、□印、△印はそれぞれ入力ポートから入力した信号光を出力ポート1、5、9番のポートへ出力させたときのクロストーク値を示しており、信号光波長は1550.12nmである。図16、図17及び図14から、1つの信号光のピクセル数が異なる場合も、w/X=0.68が許容クロストーク値−40dBを得るための境界値となっていることがわかる。
【0084】
なお、図13〜17では図が見づらくなるために波長1550.12nmの信号光について、出力ポート1、5、9番への出力時のクロストークのみしか描画していないが、その他の波長の信号光や、その他の出力ポートへ信号光を出力させたときにも同様にクロストーク値はw/X=0.67では−40dB以上、w/X=0.68では−40dB以下となり、w/X=0.68が許容クロストーク値−40dBを得るための境界値であることが確認できている。
【0085】
ミラー、レンズ、回折格子と空間位相変調器の距離は、ファイバ出射される信号光電界の空間的広がり(スポットサイズ)の伝搬距離による広がり方の違いに依存(これはファイバの開口率によって決まる。)するものであり、本発明で規定するビームスポットサイズの範囲になるようにこれら光学的手段、及び分光手段と空間位相変調器が設置されていればよい。したがって、図10で示した本実施例の波長選択スイッチの構成は本発明の波長選択スイッチの一例を示したものであって、空間位相変調器の位相付与素子面の直交する一方の方向が波長分散方向であり、他方の方向が回折方向であれば、ミラー、レンズ、回折格子の配置はこれに限るものではなく、また必要に応じて本図に示していない光素子が配置されていても本発明の効果には影響はない。
【0086】
(第2の実施例)
第2の実施例の波長選択スイッチの構成は、第1の実施例とほぼ同様であるが、入力ファイバ(入ポート)数は、出力ファイバ(出力ポート)数は43であり、入出力ファイバ(入出力ポート)数が大きいため、入出力ファイバのアレイは複数列となっている。そのため、第2の実施例において入射信号光及び回折信号光と空間位相変調器であるLCOSとの位置関係は、図12に示すように、LCOSのピクセル面の直交する2方向のうちの第1の方向は、LCOSへ入射する入力信号光の波長分散方向に一致するように配置され、この方向並びに他方の第2の方向の両方向が回折信号光の回折方向となっている。すなわち、図12において信号光の回折方向は点線で示した面内にあることになる。この場合、波長多重信号の一波長信号光がLCOS上で占有する帯域であるチャネル帯域は線分散と関係づけられるため、帯域の制限から決まるスポットサイズは上限が規定されることになり、その上限は式(22)を満足する値となる。また、スポットサイズの下限については、第1の実施形態の波長選択スイッチと同様に式(20)を満足する値となる。
【0087】
図18、19、20に、それぞれピクセル幅2、5、10μmのLCOSを用いた波長選択スイッチのクロストーク値を示す。1つの信号光のピクセル数は100である。これらの図において○印、□印、△印はそれぞれ入力ポートから入力した信号光を出力ポート1、22、43番のポートへ出力させたときのクロストーク値を示している。信号光波長は1550.12nmである。これらの図から、第1の実施例と同様に、w/X=0.68が許容クロストーク値−40dBを得るための境界値となっており、図7に示す結果と一致していることがわかる。
【0088】
また、図21及び22は、ピクセル幅5μmのLCOSを使用した場合に、1つの信号光のピクセル数がそれぞれN=10、1000となるように回折格子、ミラー、レンズを選択して配置した波長選択スイッチのクロストークを示している。これらの図も図18〜20と同様に、○印、□印、△印はそれぞれ入力ポートから入力した信号光を出力ポート1、22、43番のポートへ出力させたときのクロストーク値を示しており、信号光波長は1550.12nmである。図21、図22及び図19から、1つの信号光のピクセル数が異なる場合も、w/X=0.68が許容クロストーク値−40dBを得るための境界値となっていることがわかる。
【0089】
なお、図18〜図22では図が見づらくなるために波長1550.12nmの信号光について、出力ポート1、22、43番への出力時のクロストークのみしか描画していないが、その他の波長の信号光や、その他の出力ポートへ信号光を出力させたときにも同様にクロストーク値はw/X=0.67では−40dB以上、w/X=0.68では−40B以下となり、w/X=0.68が許容クロストーク値−40dBを得るための境界値であることも第1の実施例と同様に確認できている。
【0090】
図23、図24、図25に式(22)及び式(23)から得られるスポットサイズの上限と、本実施例の波長選択スイッチの帯域を重ねて示している。これらの図において、実線は式(22)及び式(23)から得られる曲線、2本の点線はそれぞれw/Xが実線の+5%と−5%の曲線を示している。また、黒丸印、黒四角印、黒三角印はそれぞれピクセル幅2、5、10μmのLCOSを使用したときの波長選択スイッチの帯域を示しており、各波長選択スイッチでは、w/Xが10、5、1.5となるスポットサイズでLCOS上に信号光ビームが焦点を結ぶように選択されたレンズ及びミラーの位置が調整されてある。1つの信号光のピクセル数は100、信号光波長は1550.12nmであり、出力ポート1番への出力について示している。本実施例の波長選択スイッチの正規化スポットサイズに対する帯域の各点は式(22)及び式(23)でNを固定して得られる曲線の±5%以内にあり、式(22)及び式(23)が所望帯域を確保するためのスポットサイズ上限値を与えることが確認できている。
【0091】
図26〜28及び図29〜31に、それぞれ1つの信号光のピクセル数10及び1000となるように回折格子、ミラー、レンズを選択・配置した波長選択スイッチの帯域を示している。これらの図では、図23〜25と同様に、信号光波長は1550.12nmであり、出力ポート1番への出力について示している。図23、図26、図29の組合せ、図24、図27、図30の組合せ、及び図25、図28、図31の組合せからそれぞれ波長選択スイッチの正規化スポットサイズは、1つの信号光のピクセル数に比例することが確認できている。したがって、図23〜31を総合すると、本実施例の波長選択スイッチの正規化スポットサイズに対する帯域の各点は式(22)及び式(23)から得られる曲線の±5%以内にあり、式(22)及び式(23)が所望帯域を確保するためのスポットサイズ上限値を与えることが確認できている。
【0092】
なお、図23〜31では図が見づらくなるために波長1550.12nmの信号光について、出力ポート1番への出力時のクロストークのみしか描画していないが、その他の波長の信号光や、その他の出力ポートへ信号光を出力させたときにも同様に帯域は式(22)及び式(23)から得られる曲線の±5%の範囲内にあることが確かめられている。
【符号の説明】
【0093】
1 入出力ファイバ
2 ミラー
3 レンズ
4 回折格子
5 空間位相変調器
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長選択スイッチに関し、より詳細には、光通信システムに応用可能な波長選択スイッチに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光通信の大容量化が進展しているが、伝送容量は波長分割多重(WDM: Wavelength Division Multiplexing)方式により増大する一方であり、ノードにおける経路切換機能のスループットの増大が強く求められている。従来、そのような経路切換は、伝送されてきた光信号を電気信号に変換した後に電気スイッチにより行う方法が主流であったが、高速で広帯域であるという光信号の特徴を生かして、光スイッチ等を用いて光信号のままアド・ドロップ等を行うROADM(Reconfigurable Optical Add/Drop Multiplexer)システムが導入されている。具体的には、ネットワークをリング型として各ノードで光信号のアド・ドロップを行うとともに、その必要がないものは光信号のまま通過させるため、ノード装置が小型で低消費電力化するという利点がある。それらROADMの将来的な展開に必要なデバイスとして、波長選択スイッチモジュールが求められており、バルク回折格子と空間位相変調器を用いた波長選択スイッチが提案されている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】G. Baxter et al., “Highly programmable wavelength selective switch based on liquid crystal on silicon switching element,” OFC2005, OTuF2.
【非特許文献2】Finisar DWP 100 WAVELENGTH SELECTIVE SWITCH PRODUCT BRIEF.
【非特許文献3】西原、小山「光波電子工学」、pp. 72-75、コロナ社、1978年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、位相付与素子がピクセル化した空間位相変調器は、位相付与素子が有限の幅を持つため、適切な大きさで空間位相変調器上に位相シフト関数を再現する必要がある。また、空間位相変調器上に集光された信号光のスポットサイズについては、その大きさが小さすぎるとオーバーラップする位相付与素子の数が少なくなり、位相シフト関数を感じることができなくなる。反対に、空間位相変調器上に集光された信号光のスポットサイズが大きすぎても、位相シフト関数がぼやけてしまい、適切な位相シフトを信号光に与えることができなくなる。
【0005】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、空間光変調器を用いた波長選択スイッチにおいて、所望の位相シフト関数を再現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的を達成するために、本発明の第1の態様は、複数波長の信号光が波長多重された波長多重信号光を、波長毎に分波する分光手段と、光に対して位相シフトを与える、幅Xでピクセル化された位相付与素子を複数有する空間位相変調器と、前記分光手段により分波された波長毎の信号光を、前記空間位相変調器に集光させる光学的手段とを備える波長選択スイッチであって、前記空間位相変調器の位相付与素子面の直交する第1及び第2の方向は、前記第1の方向が波長分散方向であり、前記第2の方向が回折方向であって、前記空間位相変調器上に集光された信号光の電界の空間的広がりがガウス分布ビームのスポットサイズwにより規定され、前記スポットサイズwの範囲が次式で制限されていることを特徴とする。
【0007】
【数1】
ここで、n1(XT,N)、n2(XT,N)及びn3(XT,N)は、それぞれ所望のクロストーク値XT及びチャネル帯域内の位相付与素子数Nに依存する第1、第2及び第3の下限係数である。
【0008】
また、本発明の第2の態様は、第1の態様において、前記第1から第3の下限係数が、
【0009】
【数2】
【0010】
であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の第3の態様は、第1又は第2の態様において、w/X≧0.68を満たすことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の第4の態様は、第1の態様において、前記第1の方向は波長分散方向及び回折方向で、前記第2の方向は回折方向であり、前記スポットサイズwの範囲が次式で制限されていることを特徴とする。
【0013】
【数3】
【0014】
ここで、B0は前記波長多重信号光の周波数間隔Bは分散補償値が所望の値から許容範囲内になる帯域、m1(XT,N)、m2(XT,N)及びm3(XT,N)は、それぞれ所望のクロストーク値XT及びチャネル帯域内の位相付与素子数Nに依存する第1、第2及び第3の上限係数である。
【0015】
また、本発明の第5の態様は、第4の態様において、前記第1から第3の上限係数は、それぞれクロストーク値XTにのみ依存し、前記第1から第3の上限係数は、クロストーク値XTに対して指数で依存する係数であることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の第6の態様は、第4又は第5の態様において、前記第1から第3の下限係数は、
【0017】
【数4】
【0018】
であり、前記第1から第3の上限係数は、所望のクロストーク値XTに対して、±5%の誤差がある係数により、次式で表されることを特徴とする。
【0019】
【数5】
【0020】
また、本発明の第7の態様は、第6の態様において、w/X≧0.68を満たすことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、空間位相変調器上に所望の回折角を得る位相シフト関数を再現する際に、位相シフト関数の離散化の影響による関数の歪みを抑制し、広い帯域で所望の回折光を得られるという利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】サンプリングされた位相シフト関数が位相付与素子の幅で一定値を取ることを説明する概念図である。
【図2】空間位相変調器上に集光されるガウス分布ビームの振幅を説明する概念図である。
【図3】位相シフト関数、ゼロ次ホールダ、ガウス分布の光ビームの空間周波数スペクトル例を示す図である。
【図4】再現される位相シフト関数の例を示す図である。
【図5】再現される位相シフト関数の例を示す図である。
【図6】正弦波的な位相誤差がある位相面における回折を説明する図である。
【図7】様々な位相シフト関数のサンプリング数におけるスポットサイズとクロストーク値との関係を示す図である。
【図8】所望の許容クロストーク値を与える正規化スポットサイズw/Xの正規化帯域B/B0依存性を示す図である。
【図9】様々なチャネル帯域内の位相付与素子数Nに対する、所望の許容クロストーク値を与える正規化スポットサイズw/Xの正規化帯域B/B0依存性を示す図である。
【図10】本発明の第1の実施例の波長選択スイッチを示すブロック図である。
【図11】本発明の第1の実施例の波長選択スイッチにおいて、空間位相変調器と入出力信号光の向きとの関係を示す図である。
【図12】本発明の第2の実施例の波長選択スイッチにおいて、空間位相変調器と入出力信号光の向きとの関係を示す図である。
【図13】第1の実施例の波長選択スイッチのクロストーク値を示す図である(ピクセル幅2μm)。
【図14】第1の実施例の波長選択スイッチのクロストーク値を示す図である(ピクセル幅5μm)。
【図15】第1の実施例の波長選択スイッチのクロストーク値を示す図である(ピクセル幅10μm)。
【図16】第1の実施例の波長選択スイッチのクロストーク値を示す図である(ピクセル幅10μm、1つの信号光のピクセル数100)。
【図17】第1の実施例の波長選択スイッチのクロストーク値を示す図である(ピクセル幅5μm、1つの信号光のピクセル数10)。
【図18】第2の実施例の波長選択スイッチのクロストーク値を示す図である(ピクセル幅2μm、1つの信号光のピクセル数100)。
【図19】第2の実施例の波長選択スイッチのクロストーク値を示す図である(ピクセル幅5μm、1つの信号光のピクセル数100)。
【図20】第2の実施例の波長選択スイッチのクロストーク値を示す図である(ピクセル幅10μm、1つの信号光のピクセル数100)。
【図21】第2の実施例の波長選択スイッチのクロストーク値を示す図である(ピクセル幅5μm、1つの信号光のピクセル数10)。
【図22】第2の実施例の波長選択スイッチのクロストーク値を示す図である(ピクセル幅5μm、1つの信号光のピクセル数1000)。
【図23】第2の実施例の波長選択スイッチのスポットサイズと帯域との関係を示す図である(1つの信号光のピクセル数100、正規化スポットサイズ10)。
【図24】第2の実施例の波長選択スイッチのスポットサイズと帯域との関係を示す図である(1つの信号光のピクセル数100、正規化スポットサイズ5)。
【図25】第2の実施例の波長選択スイッチのスポットサイズと帯域との関係を示す図である(1つの信号光のピクセル数100、正規化スポットサイズ1.5)。
【図26】第2の実施例の波長選択スイッチのスポットサイズと帯域との関係を示す図である(1つの信号光のピクセル数10、正規化スポットサイズ1)。
【図27】第2の実施例の波長選択スイッチのスポットサイズと帯域との関係を示す図である(1つの信号光のピクセル数10、正規化スポットサイズ0.5)。
【図28】第2の実施例の波長選択スイッチのスポットサイズと帯域との関係を示す図である(1つの信号光のピクセル数10、正規化スポットサイズ0.15)。
【図29】第2の実施例の波長選択スイッチのスポットサイズと帯域との関係を示す図である(1つの信号光のピクセル数1000、正規化スポットサイズ100)。
【図30】第2の実施例の波長選択スイッチのスポットサイズと帯域との関係を示す図である(1つの信号光のピクセル数1000、正規化スポットサイズ50)。
【図31】第2の実施例の波長選択スイッチのスポットサイズと帯域との関係を示す図である(1つの信号光のピクセル数1000、正規化スポットサイズ15)。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。まず、本発明に係る波長選択スイッチの原理について説明し、その次に、実施例を説明する。
【0024】
(本発明に係る波長選択スイッチの原理)
本発明に係る波長選択スイッチは、複数波長の信号光が波長多重された波長多重信号光を、波長毎に分波する分光手段と、光に対して位相シフトを与える、幅Xでピクセル化された位相付与素子を複数有する空間位相変調器と、当該分光手段により分波された波長毎の信号光を、当該空間位相変調器に集光させる光学的手段とを備える波長選択スイッチであり、空間位相変調器に集光される波長毎の信号光のスポットサイズwを制限していることを主要な特徴とする。以下に、どのようにスポットサイズwの制限を行うのかについて説明する。
【0025】
空間位相変調器で信号光の向きを変化させるためには、空間位相変調器上に、線形(直線)の位相シフト関数、または鋸状の位相シフト関数を形成し、主としてゼロ次回折の方向に信号光を回折させることになる。鋸状の位相シフト関数は直線の位相シフト関数をある位相値で折り返した関数として扱うことができ、ゼロ次回折の方向は同じであるため、直線の位相シフト関数と鋸状の位相シフト関数は等価な関係にある。そこで、以下では直線の位相シフト関数について述べる。
【0026】
空間位相変調器上の複数のピクセル化した位相付与素子で位相シフト関数を作ることで、その位相シフト関数は離散化関数となる。すなわち、幅Xを有する位相付与素子で直線の位相シフト関数ψ(x)=αx(xは2次元空間位相変調器の直交する2方向のうち一方の方向の位置を表す変数、αは位相シフト関数である直線の傾きに関わる定数)を作ることは、ψ(x)が一定間隔Xでサンプリングされることになる。ここで、正規化位置変数x’=x/Xを導入し、正規化位相シフト関数ψ(x’)=x’を定義すると、
【0027】
【数6】
【0028】
と書ける。ψ(x)を周期Xでサンプリングすることは、ψ(x’)を周期1でサンプリングすることと等価である。ψ(x’)を周期1でサンプリングした関数ψs(x’)は、
【0029】
【数7】
【0030】
と書ける。本式中において、nは整数、δ(x’)はデルタ関数であり、
【0031】
【数8】
【0032】
は正規化位相シフト関数である。ここで、位相シフト関数の範囲、すなわち、分波された後の波長多重信号光の中の1つの信号光が、空間位相変調器上へ集光される2次元ビームの直交する2方向のうち、一方の方向における集光の範囲を|x|≦x0とし、x>0及びx<0の範囲にあるサンプル点の数をそれぞれN+及びN-とすると、
【0033】
【数9】
【0034】
となる。全サンプル数Nはx=0のサンプル点も加えて、N=N++N-+1である。ψs(x’)のフーリエ変換は、
【0035】
【数10】
【0036】
ここで、ξは1/Xで正規化された空間角周波数である。(8)式は正数k=1,・・・Nを用いて次にように書き換えられる。Nが奇数のとき、
【0037】
【数11】
【0038】
Nが偶数のとき、
【0039】
【数12】
【0040】
ここで、s=e-jξと定義している。ξ=0のときはs=1となるので、自然数の和から、Nが奇数のとき、
【0041】
【数13】
【0042】
Nが偶数のとき
【0043】
【数14】
となる。
【0044】
さらに、位相付与素子の有限幅内の位相は一定であるため、サンプリングされた位相シフト関数ψ(x’)の様子は図1の実線で示すような関数形となる(同図では点線でψ(x’)を示している。)。これはすなわち、ψ(x)をゼロ次ホールダでサンプリングしたことと等価である。サンプリング周期のゼロ次ホールダのフーリエ変換H0(ξ)は、
【0045】
【数15】
【0046】
となり、その振幅は
【0047】
【数16】
【0048】
となる(ここではsinc(x)=sin(x)/xの定義を使用)。このため、位相シフト関数のスペクトルには|H0(ξ)|の効果も影響することになる。
【0049】
一方、空間位相変調器上に集光されたビームスポットのスペクトルも位相シフト関数のスペクトルに影響を与える。空間位相変調器上にスポットサイズwで集光されたガウス分布のビームの振幅(図2)は
【0050】
【数17】
【0051】
と表すことができる。g(x’)のフーリエ変換G(ξ)は、
【0052】
【数18】
【0053】
となる。
【0054】
図3は、位相シフト関数、ゼロ次ホールダ、ガウス分布ビームのフーリエ変換、すなわち空間スペクトルの一例として、N=31、w/X=3のときの各振幅スペクトル示す。位相シフト関数の振幅スペクトル|Φ(ξ)|を細い線、ゼロ次ホールダの振幅スペクトル|H0(ξ)|を点線、ガウス分布ビームの振幅スペクトルG(ξ)を一点鎖線で示している。また、実線は、サンプリング及びゼロ次ホールドされた位相シフト関数の振幅スペクトル|Φ(ξ)×H0(ξ)|を示している。空間位相変調器上に1次関数を再現するためには、位相シフト関数の振幅スペクトルは|ξ|>πでゼロでなければない。また、|ξ|≦πにおいても|Φ(ξ)|の形状を保つ必要がある。図3から、ガウス分布ビームはフィルタとして働き、位相シフト関数の振幅スペクトルの|ξ|>πの高周波成分を減衰させる効果が期待される。ただし、ガウス分布ビームのスペクトル幅はスポットサイズwに依存して変化するため、位相シフト関数の振幅スペクトルの|ξ|>πの高周波成分を十分に減衰し、且つ、|ξ|≦πの周波数成分をできるだけ減衰させないためにはスポットサイズ範囲が制限される。
【0055】
ガウス分布ビームのフィルタ効果で高周波成分を減衰した後のスペクトルを逆フーリエ変換することにより、空間位相変調器上に再現される位相シフト関数が得られる。一例として、図4及び5にそれぞれN=31、w/X=3、X=10μm及びN=31、w/X=0.4、X=10μmのときの空間位相変調器上に再現される位相シフト関数を示す。両図において、○点は位相シフト関数のサンプリング点を示しており、実線は空間位相変調器上に再現された位相シフト関数を示している。w/X=3のときは、再現された位相シフト関数は元の位相シフト関数に良く一致するが、帯域の端に行くにしたがって歪みが生じている。一方、w/X=0.4のときは、再現された位相シフト関数は位置に対し正弦波的に振動していることが分かる。したがって、スポットサイズが大きすぎると、帯域の端の方では正しい方向に回折が得られず、帯域は狭窄化することになり、小さすぎると、スポットサイズに対して位相変調関数が粗すぎることになり、空間位相変調器上に集光されたガウシアンビームが高い周波数成分をもった変調関数を感じてしまうため、正弦波的な位相シフト関数に性質が現れることになる。
【0056】
正規化位相シフト関数の傾きが1からずれた場合、回折方向が本来の方向からずれるため、この光が他の信号光へのクロストークとなる。正規化位相シフト関数の傾きが1からずれる程度とクロストークとの関係は以下のように考えることができる。図6に示すように、振幅A0の入射光が、位相シフト関数が微小な振幅a、周期cの正弦波的な位相誤差がある回折面で回折されたときにファイバと信号光の結合面であるx2面における回折光の振幅分布U(x2)は、
【0057】
【数19】
【0058】
となる(非特許文献3参照)。ここで、Jm(a)はm次のベッセル関数である。式(17)は、回折光がu=±2πm/c(m=0、1、2、・・・)に現れ、それぞれの振幅はm次のベッセル関数Jm(a)に比例することを示している。クロストーク値が小さい領域(例えば−40dBなど)を考えているため、a≦1として扱うことができる。この場合、Jm(a)>Jm+1(a)であるため、クロストーク光としては1次のベッセル関数を考えれば十分である。ここで、複数波長の信号光それぞれの光パワーが等しいとすると、上述の正弦波的な位相誤差がないときに所望の方向にある光ファイバに結合する光パワーは式(17)の各回折光パワーの和で表されるため、信号光パワーは
【0059】
【数20】
【0060】
に比例することになる。したがって、1次回折光によるクロストークは、
【0061】
【数21】
【0062】
となる。式(18)から正弦波的な位相誤差によるクロストークがXT(dB)以下となる条件は
【0063】
【数22】
【0064】
から
【0065】
【数23】
【0066】
となる。式(19)で表される条件を満足する位相シフト関数の範囲から帯域を見積もることができる。
【0067】
以下に、式(19)により求めた帯域の例を示す。
【0068】
図7は、様々な位相シフト関数のサンプリング数、すわなち、1つの信号光に位相シフトを与える位相付与素子数Nにおけるスポットサイズとクロストーク値との関係を示す図である。同図において、縦軸はスポットサイズを位相付与素子数で除して正規化している。同図から明らかなように、正規化スポットサイズとクロストーク値の関係はNにはほとんど依存しない。また、正規化スポットサイズとクロストーク値の関係は近似的に2次関数で表され、
【0069】
【数24】
【0070】
と表すことができる。また、正規化スポットサイズが小さくなるにつれてクロストーク値は大きくなるので、式(20)が所望クロストーク値に対するスポットサイズの下限を与えることになる。式(20)の各係数(以下「下限係数」とも呼ぶ。)は、これら曲線の平均のフィッティングにより
【0071】
【数25】
【0072】
が得られる。
【0073】
図8は、周波数間隔B0で多重化された波長多重信号において、各信号周波数グリッドの幅B0の周波数領域(以後、「チャネル帯域」とする)が、回折格子による回折と集光レンズによる集光により、空間位相変調器上に再現される幅の中に含まれる位相付与素子数がN=100のときの、クロストーク−40dB以下を与える正規化スポットサイズw/Xの正規化帯域B/B0依存性を示す図である。ここで、Bは許容クロストーク値以下となる帯域であり、「信号周波数グリッド」とは、TTC標準JT−G694.1で使用される意味で用いている。ただし、「信号周波数グリッド」はTTC標準JT−G694.1に示されたものに完全に一致する必要はなく、グリッド間が不等周波数間隔でも構わない。また、図9は、位相付与素子数N=20、50、100、200について、許容クロストーク値−40dB以下の正規化スポットサイズw/Xの正規化帯域B/B0のw/X依存性を示す図である。両図においてB/B0が大きくなるとグラフが途切れているのは、各クロストーク値及びNにおいてそれぞれその帯域を実現するスポットサイズがないことを意味している。所望の帯域(正規化帯域)を確保するための正規化スポットサイズの上限は、所望の帯域Bによって異なると共に許容クロストーク値及びチャネル帯域内の位相付与素子数に依存して変化する。図8から、正規化スポットサイズは正規化帯域に対してほぼ2次関数の依存性があり、その係数は許容クロストーク値によって異なることがわかる。また、図9から、正規化帯域が一定の場合、正規化スポットサイズはチャネル帯域にほぼ比例して増加することがわかる。したがって、正規化スポットサイズは以下の式で表すことができる。
【0074】
【数26】
【0075】
ここで、m1(XT,N)、m2(XT,N)及びm3(XT,N)は、許容クロストーク値及び位相付与素子数に対して変化する係数(以下「上限係数」とも呼ぶ。)である。
【0076】
複数の許容クロストーク値XT、及び位相付与素子数Nについてw/X−B/B0曲線を求め、そのフィッティング係数から式(22)の係数m1(XT,N)、m2(XT,N)及びm3(XT,N)を得ることができる。具体的には、クロストーク値XT=−30、−40、−50、−60dB、及び位相付与素子数N=20、50、100、200についてw/X−B/B0曲線を求めると、m1(XT,N)、m2(XT,N)及びm3(XT,N)は、それぞれ許容クロストーク値XTにのみ依存する表式に簡略化することが可能であること、並びに、m1(XT,N)、m2(XT,N)及びm3(XT,N)は、許容クロストーク値XTに対して指数関数の依存性でよく表すことが可能であることがわかり、
【0077】
【数27】
【0078】
が得られる。
【0079】
以上から、式(20)〜(23)により所望の帯域を確保するのに必要なスポットサイズの下限及び上限が決まる。
【0080】
(第1の実施例)
図10は、本発明の波長選択スイッチの第1の実施例を示す模式図である。入出力ファイバ1から出力される光は、ミラー2で反射され、レンズ3を透過して回折格子4へ入射される。回折格子4へ入射した光は、波長に応じた出射角度で反射され、再びレンズ3を透過した後、ミラー2で反射され、空間位相変調器5に入射する。空間位相変調器5に入射した光は、再現された位相シフト関数に依存する方向に回折され、再度、ミラー2、レンズ3、回折格子4を通る経路を経て入出力ファイバアレイ1のうちの所望のファイバに入力する。入力ファイバ(入ポート)数は、出力ファイバ(出力ポート)数は9である。入出力ファイバのアレイは1列となっている。回折格子及びミラー、レンズは波長域1524.11nmから1570.42nmの信号光をスイッチできるように調整されている。本実施例では、空間位相変調器としてLCOS(Liquid Crystal On Silicon)を使用しており、位相付与素子(ピクセル)幅X及び一つの信号光のピクセル数Nの異なる、複数のLCOSについて波長選択スイッチを用いて本発明の効果を確認した。
【0081】
本実施例の波長選択スイッチでは、入射信号光及び回折信号光と空間位相変調器であるLCOSとの位置関係は、図11に示すように、LCOSのピクセル面の直交する2方向のうちの一方の方向(以下「第1の方向」とも呼ぶ。)は、LCOSへ入射する入力信号光の波長分散方向に一致するように配置され、他方の方向(以下「第2の方向」とも呼ぶ。)のみが回折信号光の回折方向となっている。すなわち、図11において信号光の回折方向は点線で示した線上を通ることになる。この場合、波長多重信号の一波長信号光の周波数領域B0が空間位相変調器上に再現される範囲は、線分散と無関係となるため、帯域の制限から決まるスポットサイズの上限は制限されないことになる。一方でスポットサイズの下限は、スポットサイズに対して位相変調関数が粗すぎて、空間位相変調器上に集光されたガウシアンビームが高い周波数成分をもった変調関数を感じてしまうことに起因しており、線分散とは無関係に生じるため本実施例においても適用される。したがって、本実施例の波長選択スイッチにおけるLCOS上の回折信号光のビームスポットサイズの範囲は、式(20)を満足する値以上となる。
【0082】
図13、14及び15に、それぞれピクセル幅2、5及び10μmのLCOSを用いた波長選択スイッチのクロストーク値を示す。1つの信号光のピクセル数は100である。これらの図において○印、□印、△印はそれぞれ入力ポートから入力した信号光を出力ポート1、5、9番のポートへ出力させたときのクロストーク値を示している。信号光波長は1550.12nmである。これらの図から、w/X=0.68が許容クロストーク値−40dB(波長選択スイッチの許容クロストークは、非特許文献2にあるように典型的には−40dB以下である。)を得るための境界値となっており、図7に示す結果と一致していることがわかる。
【0083】
また、図16及び17は、ピクセル幅5μmのLCOSを使用した場合に、1つの信号光のピクセル数がそれぞれN=10、1000となるように回折格子、ミラー、レンズを選択して配置した波長選択スイッチのクロストークを示している。これらの図も図13〜15と同様に、○印、□印、△印はそれぞれ入力ポートから入力した信号光を出力ポート1、5、9番のポートへ出力させたときのクロストーク値を示しており、信号光波長は1550.12nmである。図16、図17及び図14から、1つの信号光のピクセル数が異なる場合も、w/X=0.68が許容クロストーク値−40dBを得るための境界値となっていることがわかる。
【0084】
なお、図13〜17では図が見づらくなるために波長1550.12nmの信号光について、出力ポート1、5、9番への出力時のクロストークのみしか描画していないが、その他の波長の信号光や、その他の出力ポートへ信号光を出力させたときにも同様にクロストーク値はw/X=0.67では−40dB以上、w/X=0.68では−40dB以下となり、w/X=0.68が許容クロストーク値−40dBを得るための境界値であることが確認できている。
【0085】
ミラー、レンズ、回折格子と空間位相変調器の距離は、ファイバ出射される信号光電界の空間的広がり(スポットサイズ)の伝搬距離による広がり方の違いに依存(これはファイバの開口率によって決まる。)するものであり、本発明で規定するビームスポットサイズの範囲になるようにこれら光学的手段、及び分光手段と空間位相変調器が設置されていればよい。したがって、図10で示した本実施例の波長選択スイッチの構成は本発明の波長選択スイッチの一例を示したものであって、空間位相変調器の位相付与素子面の直交する一方の方向が波長分散方向であり、他方の方向が回折方向であれば、ミラー、レンズ、回折格子の配置はこれに限るものではなく、また必要に応じて本図に示していない光素子が配置されていても本発明の効果には影響はない。
【0086】
(第2の実施例)
第2の実施例の波長選択スイッチの構成は、第1の実施例とほぼ同様であるが、入力ファイバ(入ポート)数は、出力ファイバ(出力ポート)数は43であり、入出力ファイバ(入出力ポート)数が大きいため、入出力ファイバのアレイは複数列となっている。そのため、第2の実施例において入射信号光及び回折信号光と空間位相変調器であるLCOSとの位置関係は、図12に示すように、LCOSのピクセル面の直交する2方向のうちの第1の方向は、LCOSへ入射する入力信号光の波長分散方向に一致するように配置され、この方向並びに他方の第2の方向の両方向が回折信号光の回折方向となっている。すなわち、図12において信号光の回折方向は点線で示した面内にあることになる。この場合、波長多重信号の一波長信号光がLCOS上で占有する帯域であるチャネル帯域は線分散と関係づけられるため、帯域の制限から決まるスポットサイズは上限が規定されることになり、その上限は式(22)を満足する値となる。また、スポットサイズの下限については、第1の実施形態の波長選択スイッチと同様に式(20)を満足する値となる。
【0087】
図18、19、20に、それぞれピクセル幅2、5、10μmのLCOSを用いた波長選択スイッチのクロストーク値を示す。1つの信号光のピクセル数は100である。これらの図において○印、□印、△印はそれぞれ入力ポートから入力した信号光を出力ポート1、22、43番のポートへ出力させたときのクロストーク値を示している。信号光波長は1550.12nmである。これらの図から、第1の実施例と同様に、w/X=0.68が許容クロストーク値−40dBを得るための境界値となっており、図7に示す結果と一致していることがわかる。
【0088】
また、図21及び22は、ピクセル幅5μmのLCOSを使用した場合に、1つの信号光のピクセル数がそれぞれN=10、1000となるように回折格子、ミラー、レンズを選択して配置した波長選択スイッチのクロストークを示している。これらの図も図18〜20と同様に、○印、□印、△印はそれぞれ入力ポートから入力した信号光を出力ポート1、22、43番のポートへ出力させたときのクロストーク値を示しており、信号光波長は1550.12nmである。図21、図22及び図19から、1つの信号光のピクセル数が異なる場合も、w/X=0.68が許容クロストーク値−40dBを得るための境界値となっていることがわかる。
【0089】
なお、図18〜図22では図が見づらくなるために波長1550.12nmの信号光について、出力ポート1、22、43番への出力時のクロストークのみしか描画していないが、その他の波長の信号光や、その他の出力ポートへ信号光を出力させたときにも同様にクロストーク値はw/X=0.67では−40dB以上、w/X=0.68では−40B以下となり、w/X=0.68が許容クロストーク値−40dBを得るための境界値であることも第1の実施例と同様に確認できている。
【0090】
図23、図24、図25に式(22)及び式(23)から得られるスポットサイズの上限と、本実施例の波長選択スイッチの帯域を重ねて示している。これらの図において、実線は式(22)及び式(23)から得られる曲線、2本の点線はそれぞれw/Xが実線の+5%と−5%の曲線を示している。また、黒丸印、黒四角印、黒三角印はそれぞれピクセル幅2、5、10μmのLCOSを使用したときの波長選択スイッチの帯域を示しており、各波長選択スイッチでは、w/Xが10、5、1.5となるスポットサイズでLCOS上に信号光ビームが焦点を結ぶように選択されたレンズ及びミラーの位置が調整されてある。1つの信号光のピクセル数は100、信号光波長は1550.12nmであり、出力ポート1番への出力について示している。本実施例の波長選択スイッチの正規化スポットサイズに対する帯域の各点は式(22)及び式(23)でNを固定して得られる曲線の±5%以内にあり、式(22)及び式(23)が所望帯域を確保するためのスポットサイズ上限値を与えることが確認できている。
【0091】
図26〜28及び図29〜31に、それぞれ1つの信号光のピクセル数10及び1000となるように回折格子、ミラー、レンズを選択・配置した波長選択スイッチの帯域を示している。これらの図では、図23〜25と同様に、信号光波長は1550.12nmであり、出力ポート1番への出力について示している。図23、図26、図29の組合せ、図24、図27、図30の組合せ、及び図25、図28、図31の組合せからそれぞれ波長選択スイッチの正規化スポットサイズは、1つの信号光のピクセル数に比例することが確認できている。したがって、図23〜31を総合すると、本実施例の波長選択スイッチの正規化スポットサイズに対する帯域の各点は式(22)及び式(23)から得られる曲線の±5%以内にあり、式(22)及び式(23)が所望帯域を確保するためのスポットサイズ上限値を与えることが確認できている。
【0092】
なお、図23〜31では図が見づらくなるために波長1550.12nmの信号光について、出力ポート1番への出力時のクロストークのみしか描画していないが、その他の波長の信号光や、その他の出力ポートへ信号光を出力させたときにも同様に帯域は式(22)及び式(23)から得られる曲線の±5%の範囲内にあることが確かめられている。
【符号の説明】
【0093】
1 入出力ファイバ
2 ミラー
3 レンズ
4 回折格子
5 空間位相変調器
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数波長の信号光が波長多重された波長多重信号光を、波長毎に分波する分光手段と、
光に対して位相シフトを与える、幅Xでピクセル化された位相付与素子を複数有する空間位相変調器と、
前記分光手段により分波された波長毎の信号光を、前記空間位相変調器に集光させる光学的手段と
を備える波長選択スイッチであって、
前記空間位相変調器の位相付与素子面の直交する第1及び第2の方向は、前記第1の方向が波長分散方向であり、前記第2の方向が回折方向であって、
前記空間位相変調器上に集光された信号光の電界の空間的広がりがガウス分布ビームのスポットサイズwにより規定され、
前記スポットサイズwの範囲が次式で制限されていることを特徴とする波長選択スイッチ。
【数1】
ここで、n1(XT,N)、n2(XT,N)及びn3(XT,N)は、それぞれ所望のクロストーク値XT及びチャネル帯域内の位相付与素子数Nに依存する第1、第2及び第3の下限係数である。
【請求項2】
前記第1から第3の下限係数は、
【数2】
であることを特徴とする請求項1に記載の波長選択スイッチ。
【請求項3】
w/X≧0.68を満たすことを特徴とする請求項1又は2に記載の波長選択スイッチ。
【請求項4】
前記第1の方向は波長分散方向及び回折方向で、前記第2の方向は回折方向であり、
前記スポットサイズwの範囲が次式で制限されていることを特徴とする請求項1に記載の波長選択スイッチ。
【数3】
ここで、B0は前記波長多重信号光の周波数間隔Bは分散補償値が所望の値から許容範囲内になる帯域、m1(XT,N)、m2(XT,N)及びm3(XT,N)は、それぞれ所望のクロストーク値XT及びチャネル帯域内の位相付与素子数Nに依存する第1、第2及び第3の上限係数である。
【請求項5】
前記第1から第3の上限係数は、それぞれクロストーク値XTにのみ依存し、
前記第1から第3の上限係数は、クロストーク値XTに対して指数で依存する係数であることを特徴とする請求項4に記載の波長選択スイッチ。
【請求項6】
前記第1から第3の下限係数は、
【数4】
であり、
前記第1から第3の上限係数は、所望のクロストーク値XTに対して、±5%の誤差がある係数により、次式で表されることを特徴とする請求項4又は5に記載の波長選択スイッチ。
【数5】
【請求項7】
w/X≧0.68を満たすことを特徴とする請求項6に記載の波長選択スイッチ。
【請求項1】
複数波長の信号光が波長多重された波長多重信号光を、波長毎に分波する分光手段と、
光に対して位相シフトを与える、幅Xでピクセル化された位相付与素子を複数有する空間位相変調器と、
前記分光手段により分波された波長毎の信号光を、前記空間位相変調器に集光させる光学的手段と
を備える波長選択スイッチであって、
前記空間位相変調器の位相付与素子面の直交する第1及び第2の方向は、前記第1の方向が波長分散方向であり、前記第2の方向が回折方向であって、
前記空間位相変調器上に集光された信号光の電界の空間的広がりがガウス分布ビームのスポットサイズwにより規定され、
前記スポットサイズwの範囲が次式で制限されていることを特徴とする波長選択スイッチ。
【数1】
ここで、n1(XT,N)、n2(XT,N)及びn3(XT,N)は、それぞれ所望のクロストーク値XT及びチャネル帯域内の位相付与素子数Nに依存する第1、第2及び第3の下限係数である。
【請求項2】
前記第1から第3の下限係数は、
【数2】
であることを特徴とする請求項1に記載の波長選択スイッチ。
【請求項3】
w/X≧0.68を満たすことを特徴とする請求項1又は2に記載の波長選択スイッチ。
【請求項4】
前記第1の方向は波長分散方向及び回折方向で、前記第2の方向は回折方向であり、
前記スポットサイズwの範囲が次式で制限されていることを特徴とする請求項1に記載の波長選択スイッチ。
【数3】
ここで、B0は前記波長多重信号光の周波数間隔Bは分散補償値が所望の値から許容範囲内になる帯域、m1(XT,N)、m2(XT,N)及びm3(XT,N)は、それぞれ所望のクロストーク値XT及びチャネル帯域内の位相付与素子数Nに依存する第1、第2及び第3の上限係数である。
【請求項5】
前記第1から第3の上限係数は、それぞれクロストーク値XTにのみ依存し、
前記第1から第3の上限係数は、クロストーク値XTに対して指数で依存する係数であることを特徴とする請求項4に記載の波長選択スイッチ。
【請求項6】
前記第1から第3の下限係数は、
【数4】
であり、
前記第1から第3の上限係数は、所望のクロストーク値XTに対して、±5%の誤差がある係数により、次式で表されることを特徴とする請求項4又は5に記載の波長選択スイッチ。
【数5】
【請求項7】
w/X≧0.68を満たすことを特徴とする請求項6に記載の波長選択スイッチ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【公開番号】特開2012−230337(P2012−230337A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−100238(P2011−100238)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】
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