説明

洗浄剤発生・分配装置

本発明は、電気化学的装置(10)及び、その場で使用する塩素酸ナトリウム(NaOCl)(34)または塩素酸(HOCl)等の洗浄剤、殺菌剤および抗菌剤を製造する方法に関する。本発明の製造方法は、海水、低純度非軟水またはNaCl系塩溶液(26)からNaOClを製造することに使用できる。HOClはHCl溶液と水から製造できる。NaOCl(34)は、電解セル(11)において、NASICON型材料を基にした膜であるナトリウムイオン伝導セラミック膜(12)を使用して製造される。HOClは、電解セルにおいて、アニオン伝導膜を使用して製造される。洗浄剤、殺菌剤および抗菌剤は要求に応じて発生させ、一般家庭内、工業的および水処理などの応用分野において使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2005年12月20日出願の米国仮出願第60/753,191号の優先権を主張して出願された米国一部継続出願第11/613,857号に基づき、その全体が、参照により本願に包含される。本発明は、更に、2007年7月13日出願の米国仮出願第60/949,802号の優先権を主張しており、その全体が、参照により本願に包含される。
【0002】
本発明は、使用時に洗浄剤、殺菌剤、抗菌剤などを発生・分配する装置に関する。
【背景技術】
【0003】
家庭電化製品(例えば、食器洗い機、洗濯機など)は、殺菌剤、漂白剤、増白剤、脱臭剤などの洗浄剤を必要とする。共通表面は、しばしば洗浄、殺菌などが必要となる。電化製品やその表面が洗浄剤、殺菌剤、抗菌剤などを必要とした際にそれらが発生し、供給されるような装置が提供されることが望まれている。
【0004】
ある方法では、塩素ガスを冷水酸化ナトリウム溶液に吸収させることにより以下の反応が誘導され、次亜塩素酸ナトリウムが生成する。
【0005】
2NaOH+Cl⇔NaCl+NaOCl+H
【0006】
このシステムに供給される水酸化ナトリウム及び塩素薬剤は、塩素アルカリプロセスによって商業的に製造されたものであってもよい。この反応に使用するために、一般的には原料薬剤を分離する必要もなく、それ故、NaOClは、アノードとカソードとの間に隔壁やバリアー等を使用することなく、塩化ナトリウム溶液を電解セルすることにより、工業環境において製造してもよい。このプロセスにおいて、塩素酸ナトリウムの形成を防止するために、反応溶液は一般的に40℃未満の温度に維持される。その結果、商業的に製造された次亜塩素酸ナトリウム溶液は、一般的に、主たる副生物として塩化ナトリウムを相当量含有する。
【0007】
次亜塩素酸(塩素酸(I)として知られている)は、化学式HClOとして表される弱酸である。HClOは、漂白材、酸化剤、脱臭剤、殺菌剤などに使用される。洗浄や清掃分野における食品への使用について、HClOは米国FDA(食品医薬品局)に認可されている。更に、HClOは洗浄剤および殺菌剤として人間の皮膚に使用することも認可されている。更に、創傷治癒を促進するという報告もある。水に塩素を添加することにより、塩素酸と塩酸(HCl)が生成する。
【0008】
Cl+HO→HOCl+HCl
【0009】
塩素酸アニオン(OCl)及び水素イオン(H)の急速な平衡状態形成により、塩素酸を純粋な形で単離することは出来ない。
【0010】
HOCl⇔OCl+H
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本分野において、要求に応じて塩素酸ナトリウム(NaOCl)及び塩素酸(HOCl)を発生させる装置や方法の提供が望まれている。他の従来技術における方法では水酸化ナトリウムや塩素ガス等の毒性の極めて高い原料の貯蔵および輸送が必要である。本発明において、電気化学的プロセスを採用して塩素酸ナトリウム及び塩素酸を製造することにより、上記問題点を解決している。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、要求に応じて使用時(POU)に洗浄剤、殺菌剤または抗菌剤を発生させ供給する電気化学的装置および方法に関するものである。本発明は、特に家庭における、工業におけるそして水処理における機器で使用することに適している。一般的な食卓塩(NaCl)、海水、ある製造品からの製造廃液または他の供給源量と、中程度の電力と適切な装置を使用することにより、塩素酸ナトリウム(NaOCl)又は塩素酸(HOCl)を必要に応じて発生させることが出来る。これらの化合物(NaOCl、HOCl)は、洗浄剤、殺菌剤または抗菌剤として供給できる。これらは、染み抜きとしての漂白剤の機能を有していてもよい。これらの化合物を形成する他の方法は、水酸化ナトリウムや塩素ガス等の毒性の極めて高い原料の貯蔵および輸送が必要である。HOClは長期保存が出来るほど安定なものではないため、これらの化合物を使用時に適切な濃度で発生できることは極めて優れている。
【0013】
ある実施態様において、洗浄剤、殺菌剤または抗菌剤(これらをまとめて洗浄剤として参照される)は、洗濯機、食器洗い機、たわし、床ブラシ、モップ、便器器具、皮膚パッチ、その他洗浄剤が投与されることが必要な装置などの種々の装置において発生させられ、使用される。
【0014】
塩素酸ナトリウム(NaOCl)は、ナトリウムイオン超伝導(以下、「NaSICON」と略す)膜などのナトリウムイオン伝導セラミック膜を使用した電解プロセスを使用することにより効率的に発生できる。ナトリウムイオン伝導セラミック膜を使用した塩素酸ナトリウム製造のための電解プロセスは、米国特許出願公開第2007/0138020A1号明細書に記載されており、参照により本発明に引用する。このプロセスにおいて、ナトリウムは塩化ナトリウム溶液(3重量%未満の濃度)から抽出される。抽出されたナトリウムは膜の他の側において水と反応し、pH7〜8の水酸化ナトリウム(NaOH)希薄溶液を形成する。水酸化ナトリウムは次に塩素と反応して塩素酸ナトリウムを形成する。
【0015】
塩素酸(HOCl)は、アニオン伝導膜を使用し、電解プロセスによって製造される。このプロセスにおいて、塩素イオンは、希塩酸などの塩素イオン含有溶液から抽出される。抽出された塩素イオンは、膜の他の側において水と反応し、塩素酸と塩酸とからなる溶液を形成する。
【0016】
ある実施態様において洗浄剤発生器は電解セルである。電解セルは、洗浄剤を製造する方法によって種々の構成を取ることが出来る。ある実施態様において、カチオン膜はある種のカチオンのみを選択できるような膜を利用する。電解セルの電極に電圧を印加すると、そのカチオンは膜を横切る。他の実施態様において、塩素イオンのようなアニオンを透過するアニオン膜を使用する。
【0017】
洗浄剤供給機は、洗浄剤使用時によって種々の構成を取ることが出来る。そのような構成の例示としては、特に制限されず、洗濯機、食器洗い機、たわし、床ブラシ、モップ、便器器具、皮膚パッチなどの個人用または家庭用器具、水処理装置などの工業的装置、病院、ホテル、学校、海洋船などにおける公共の消毒装置、洗浄剤、殺菌剤、抗菌剤などが使用されるような器具などが挙げられる。
【0018】
本発明の他の要旨および長所は、添付図面の記載および本発明の詳細な説明により明らかになる。本発明の他の要旨および長所は、更に、添付図面、記載および特許請求の範囲により一層明らかになり、以下の本発明の実践によっても習得されるであろう。
【0019】
上記の本発明の他の要旨および長所を容易に理解するために、上述の簡単な本発明の記載よりさらに詳しい説明が、添付の図面に記載された特定の実施態様によって参照される。これらの図面は本発明の代表的な実施態様にと考えるべきであり、本発明の要旨がこれらに限定されると考えるべきではない。本発明は、添付の図面を使用して更なる特異性や詳細が記載され説明される。
【発明の効果】
【0020】
本発明の使用時(POU)に洗浄剤、殺菌剤または抗菌剤を発生させ供給する電気化学的装置は、一般的な食卓塩(NaCl)、海水、ある製造品からの製造廃液または他の供給源量と、中程度の電力と適切な装置を使用することにより、塩素酸ナトリウム(NaOCl)又は塩素酸(HOCl)を必要に応じて発生させることが出来る。これらの化合物(NaOCl、HOCl)は、洗浄剤、殺菌剤または抗菌剤として供給できる。これらの化合物は長期保存が出来るほど安定なものではないため、水酸化ナトリウムや塩素ガス等の毒性の極めて高い原料の貯蔵および輸送が必要であるが、本発明の装置はこれらの化合物を使用時に適切な濃度で発生できるため、極めて優れている。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、本発明に従った塩素酸ナトリウムを製造するために使用される洗浄剤発生器の一実施態様の概略図である。
【図2】図2は、本発明に従った塩素酸を製造するために使用される洗浄剤発生器の一実施態様の概略図である。
【図3】図3は、本発明に従った洗浄剤分散装置の一実施態様の概略図である。
【図4】図4は、洗濯機に適用した洗浄剤分散装置の一実施態様の概略図である。
【図5】図5は、皮膚用局所パッチ、たわし、床ブラシ又はモップとして使用時に洗浄剤を発生・分配させる装置の説明図である。
【図6】図6は、皮膚用局所パッチ、たわし、床ブラシ又はモップとして使用時に洗浄剤を発生・分配させる装置の他の説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下の記載を通じて、同様の部材には同様の参照番号が付された図面を参照することによって本発明の実施態様は良い理解が得られるであろう。図面に一般的に記載されて図示されている本発明の構成要素は、種々の幅広い異なる構成に配置および設計されることが出来ることは容易に理解される。それ故、図1〜6に示されている使用時に洗浄剤、殺菌剤および抗菌剤の電気化学的発生・分配する装置の実施態様のより詳細な記載は、本発明の要旨を限定するものではなく、本発明の好ましい実施態様の代表例にすぎない。
【0023】
以下の膜の例に関する記載で使用される「実質的に水不透過」という語は、少量の水を膜は通してもよいが本発明の効果を損なうような量の水を通さないということを意味する。以下の膜の例に関する記載で使用される「本質的に水不透過」という語は、水を膜は全く通さないか、或いは通したとしても検知できない量であることを意味する。本明細書の他の部分においては、「実質的」および「本質的」という語は、同様の強調語として使用される。
【0024】
図1は、塩素酸ナトリウムを製造するために使用される洗浄剤発生器10の概略を示す。洗浄剤発生器10は、電解セル11から成り、電解セル11はナトリウムイオン伝導セラミック膜12を使用して電気化学セル10を陽極液室14と陰極液室16の2室に分割する。電気化学的に活性なアノード18は陽極液室14内に配置され酸化反応を行う。電気化学的に活性なカソード20は陰極液室16内に配置され還元反応を行う。ナトリウムイオン伝導セラミック膜12は、電位差24の影響下で陽極液室14から陰極液室16に選択的にナトリウムイオン22を透過させるが、それぞれの室から他の室側への水の輸送を防止する。
【0025】
電解セル11は、供給器27から陽極液室14に塩化ナトリウム水溶液26を供給することにより作動する。塩化ナトリウム水溶液26は、天然の海水や塩水を含む如何なる供給源のものであってもよい。塩化ナトリウム溶液は、水に塩化ナトリウムを含む塩を溶解して調製してもよい。水は脱イオン水のような純粋なものでなくてもよく、水道水や如何なる供給源の純粋でない水であってもよい。水溶液中の塩化ナトリウム濃度は溶液の重量に対し、約0.1〜26重量%、好ましくは約3〜26重量%である。
【0026】
水28は供給器29から陰極液室16に供給される。少なくとも初期段階において、水28はナトリウムイオンを含み、不飽和の水酸化ナトリウム水溶液を形成している。水酸化ナトリウムの濃度は、溶液の重量に対し約0.1〜50重量%である。ある実施態様において、水28は水酸化ナトリウムの希薄溶液を含む。作動中、ナトリウムイオンの供給源は、陽極液室14から陰極液室16にナトリウムイオン伝導セラミック膜12を介して透過するナトリウムイオン22によって供給されていてもよい。
【0027】
アノード18は種々の材料から形成されていてもよく、その材料については米国特許出願公開第2007/0138020号明細書に記載されており、参照により本発明に引用される。ある実施態様において、アノード18は、先端金属酸化物に被覆されたチタンから形成されてもよい。カソード20もまた種々の材料から形成されていてもよく、その材料については米国特許出願公開第2007/0138020号明細書に記載されている。ある実施態様において、カソード20は、ニッケル/ステンレススチールから形成されてもよい。電位差24の影響下で、電気化学的反応がアノード18とカソード20において生じる。アノード18において塩素イオンを塩素ガスに酸化する反応が生じ、カソード20において水素ガス30と水酸化イオンが形成される水の還元反応が生じる。
【0028】
電極における反応としては、ナトリウムイオン22が陽極液室14から陰極液室16にナトリウムイオン伝導セラミック膜12を介して透過する。もし、プロトン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン等のナトリウムイオン以外のイオンが存在する場合、ナトリウムイオンと比較したイオン径の違いや電気的中性が強いられることによる電解質12よって、それらのイオンは陰極液室16に移動することが防止される。この理由により、ナトリウム流量効率はある実施態様において約95〜100%に達する。輸送されたナトリウムイオン22は、カソード20において水の還元により生じた水酸化イオンと結合して水酸化ナトリウム水溶液を形成する。この水酸化ナトリウム溶液32の一部がセルの陽極液室14に輸送され、陽極液のpHを調整し、塩素酸ナトリウム溶液を製造する。塩素酸ナトリウム溶液は陽極液室14からその場または使用時に回収される。ここで、「使用時に」という語は、洗浄剤発生器に近接して配置される個人的、商業的または工業的プロセスにおいて製造した洗浄液の使用を意味する。そのため、コストのかかる洗浄剤の貯蔵や輸送施設を必要としない。
【0029】
電気化学的セル11における電気化学反応を以下にまとめて示す。
【0030】
アノード/陽極液室においては次の反応となる。
【0031】
2Cl→Cl+2e
【0032】
Cl+HO→HOCl+HCl
【0033】
HOCl+HCl+2NaOH→NaOCl+NaCl+2H
【0034】
カソード/陰極液室においては次の反応となる。
【0035】
2HO+2e→2OH+H
【0036】
2Na+2OH→2NaOH
【0037】
総合的には以下の式となる。
【0038】
2NaCl+HO→2NaOCl+NaCl+H
【0039】
陽極液がカルシウム、マグネシウム又は他の沈殿性カチオンを含むような不純の塩化ナトリウム溶液を使用する場合、陽極液のpH制御が特に重要となる。そのような不純の塩化ナトリウム溶液は、特にこれらに限定されるわけではないが、海水、塩水、工業プロセス流、塩化ナトリウムを含む塩溶液などが挙げられる。このような塩溶液は純粋、又は不純な塩あるいは純粋または不純な水から調製されてもよい。陽極液室14内の溶液のpHは好ましくは14未満であり、より好ましくは7〜12である。pHが約8より大きいと、カルシウムやマグネシウムが沈殿するため、不純な塩化ナトリウム溶液を使用して作動させる場合はpHを約8未満にすることが好ましい。純粋な塩化ナトリウム溶液を使用する場合は、陽極液のpHをより高くしてもよい。pHの制御により、アノードにおける沈殿反応、カルシウム及びマグネシウム水酸化物の形成などを防ぐことが出来、塩素酸ナトリウムの透明溶液を製造できる。
【0040】
ナトリウムイオン伝導セラミック膜12は、電解中にカルシウムやマグネシウムイオンの陰極液室16への拡散を防止することが好ましい。それにより、陰極液室16におけるカルシウムやマグネシウムの沈殿を防止できる。対照的に、Nafion(登録商標)膜などの有機膜は、それ自身では沈殿を防止できず、NaSICON膜とは異なっており、陰極液室16へのカルシウムやマグネシウムイオンの拡散を完全に防止できないため、陰極液室16だけでなく膜の空隙においてもカルシウムやマグネシウムの沈殿が生じ、徐々に膜の効率が損なわれる。この欠点により、有機膜は、塩素酸ナトリウム発生での使用において、塩化ナトリウムのみを含有する塩溶液を供給するという制限を受ける。
【0041】
電気化学的セル11で必要とされる一定電流下での電圧は、陽極液(塩化ナトリウム溶液)の濃度、陰極液(水酸化ナトリウム溶液)の濃度、膜厚、膜の伝導度、与えられた塩素酸ナトリウムの製造量のために必要な電解セルの電力消費を検知するような局所的な物質移動条件などによって決められる。
【0042】
図2に、塩素酸(HClO)を製造することに使用される洗浄剤発生器50を示す。洗浄剤発生器50は電解セル51から成り、当該電解セル51はアニオン(陰イオン)伝導性膜52を使用して陽極液室54と陰極液室56の2室に分けられている。電気化学的に活性なアノード58が陽極液室54内に配置されて酸化反応が行われ、電気化学的に活性なカソード60が陰極液室56内に配置されて還元反応が行われる。アニオン伝導性膜52は、電位差64の影響下で、陰極液室56から陽極液室54に選択的に塩素イオン62を輸送する。
【0043】
電解セル51は、供給器67から陰極液室56に希薄塩酸(HCl)溶液66を供給することによって作動する。使用する水は純粋な脱イオン水でなくてもよく、水道水や他の供給源からの純粋でない水であってもよい。
【0044】
水68は、供給器69から陽極液室54に供給される。作動中、アノードで反応して塩素を形成する塩素イオン源としては、陰極液室56から陽極液室54にアニオン伝導性膜52を介して輸送された塩素イオンにより供給されてもよい。
【0045】
アノード58及びカソード60は、米国特許出願公開第2007/0138020号明細書に記載されているような種々の材料から形成されていてもよい。電位差64の影響下、電気化学反応がアノード58及びカソード60において起こる。塩素イオンから塩素ガスへの酸化反応がアノード58で起こり、水から水素ガス70及び水酸化イオンへの還元反応がカソード60で起こる。
【0046】
反応が電極で起こる際、塩素イオン62は陰極液室56からアニオン伝導性膜52を透過して陽極液室54に介して輸送される。輸送された塩素イオン62はアノード58において反応して塩素を形成し、塩素は水と反応して塩素酸溶液72を形成する。塩素酸溶液72は、上述の器具や装置でその場で使用時に陽極液室54に分配される。
【0047】
電気化学的セル51における電気化学反応を以下にまとめて示す。
【0048】
アノード/陽極液室においては次の反応となる。
【0049】
2Cl→Cl+2e
【0050】
Cl+HO→HOCl+HCl
【0051】
カソード/陰極液室においては次の反応となる。
【0052】
2H+2e→H
【0053】
総合的には以下の式となる。
【0054】
2HCl+HO→HOCl+HCl+H
【0055】
HOClの形成を促進するのには、陽極液のpH制御が重要である。陽極液室54内の溶液のpHは好ましくは11未満であり、より好ましくは5〜11、特に好ましくは6〜8である。pHが5より小さいと、HOClの形成よりもHClの形成が優勢となる。
【0056】
ここで使用されるアニオン伝導性膜52は、塩素アニオン(Cl)を透過しカチオンは透過しない選択透過性を有する膜として定義される。アニオン伝導性膜は強塩基性であっても中程度の塩基性であっても弱塩基性であってもよく、例えば第4級または第3級アンモニウム基から成っていてもよい。アニオン伝導性膜は、電解雰囲気下で安定であり、アニオンが透過する抵抗が低いことが必要である。
【0057】
アニオン伝導性膜は、市販のアニオン交換膜であってもよい。アニオン交換膜の例としては、Tokuyama Neosepta社製「AMH」やAsahi Glass Selemion社製「AMV」等のポリスチレン−ポリジビニルベンゼン系ポリマー材料や、Pall Raipore社製品やSolvay Morgane社製品などのペルフルオロ系放射線グラフト材料なども使用できる。
【0058】
洗浄剤発生器は連続モードで運転してもバッチモードで運転してもよい。本発明の方法および装置のある実施態様において、洗浄剤発生器は連続モードで運転される。連続モードにおいては、電解セルは初期状態において陽極液および陰極液で満たされており、運転中は、セルの運転を止めることなく、追加溶液を供給し、生成物、副生物および/または希釈された溶液をセルから除去する。反応溶液は、陽極液室および陰極液室に連続的に供給してもよく、又、断続的、すなわち、片方または両方の室内が空にならないように、必要量の溶液に応じて及び/又はセル中の溶液濃度を所定濃度に維持するように溶液流を開始または停止してもよい。同様に、陽極液室および陰極液室から溶液を除去することも、連続的に行っても断続的に行ってもよい。
【0059】
洗浄剤発生器からの溶液の追加および/または除去の制御は、適切な方法によって行えばよい。そのような手段としては、1人以上の人間の操作による手動操作、センサー、電気バルブ、実験用ロボットなどを使用し、コンピューターまたはアナログ制御下で作動させる自動操作などが挙げられる。自動操作の場合、タイマー、センサー出力または他の手段に基づくコンピューターや電子制御器からの信号に従い、バルブや栓を開閉してもよい。自動制御システムの例(特にこれに限定されないが)を図3に概略的に示し、以下で説明する。手動操作および自動操作の組合せもまた採用できる。定常状態を維持するように単位時間当りに追加または除去するそれぞれの溶液は、定常状態流を維持するように試験的に決定されてもよい。
【0060】
図3に洗浄剤発生装置100の説明図(これに限定されるわけではない)を示す。上述の図1及び図2で示されている種類の洗浄剤発生器110を使用してもよい。洗浄剤発生器110は本技術分野で公知の電気化学的セルであってもよい。洗浄剤発生器110は陽極液室にアノードを有し、陰極液室にカソードを有するように構成されている。それぞれの室内の原料の量や濃度は、選択透過膜の種類と共に、放出される所望の洗浄剤を基にして決定される。装置に電力を供給し、電気化学的セルは洗浄剤を発生させ、分配器112によって分配される。分配器112は種々の配管であってもよく、公知の流体操作システムに従った洗浄剤の放出を制御するための種々のバルブやポンプと連結して使用されていてもよい。
【0061】
コントローラー114は、タイミング回路モジュール116、供給原料検知器モジュール118、電源モジュール120及び/又はpH検知器モジュール122を有していてもよい。これらのモジュールはソフトウェア、ハードウェア、ファームウェア、命令コード等を有していてもよい。コントローラー114は、十分な洗浄剤が製造されているかどうか、pH、温度、内容、濃度などの洗浄剤の特定のパラメーターが適合しているかどうか等を決定してもよい。コントローラー114は、洗浄剤を利用する装置と共に作動するか否かに係わらず、いつ洗浄剤を分配するかを決定してもよい。コントローラーは、電源を制御し、電気化学的セルに印加する電流を可変することにより、発生する洗浄剤の量や速度を制御してもよい。洗浄剤が発生した際、1つ以上の供給器が、電気化学的セルの陰極液室または陽極液室の1つ以上に再供給を行ってもよい、補充を行うために、コントローラーは電気化学的セルのそれぞれの室内のレベルを検知してもよく、また、供給器や貯蔵器のレベルを検知してもよい。装置100は、使用者に装置の状態についてを知らせるために、音声または映像出力(図示せず)を有していてもよい。装置の状態としては、洗浄剤が発生しているかどうか、分配されるかどうか又はいつ分配されるか、pH、濃度、温度警告、供給原料のレベル等が挙げられる。また、コントローラーは、使用者に、セルへの塩溶液の補充の必要性を知らせてもよい。
【0062】
図4は、洗浄剤を洗濯機126に分配する際のコントローラー114による制御の例(これに限定されるわけではない)を示す。図4は洗濯機について示し、説明しているが、洗濯機を使用する代りに他の機械に置換えてもよい。使用者は洗濯機126を作動させると、電気化学的セル(EC)から成る洗浄剤発生器110が所望の洗浄剤を製造できるように適切な内容物を有しているかどうかをコントローラー114が検知する。電気化学的セルが適切な内容物を有していない場合、コントローラーは自動的に各室を所望の原料によって満たされるように制御する。ある実施態様において、その内容物は塩であり、またHCl溶液128である。他の実施態様において、供給原料は粉末状であっても固体状であってもよく、電気化学的セル中の適切な溶液を調製するため装置は洗濯機からの水を利用してもよく、またそれは電気化学的セル中に貯蔵される前にそのような供給原料を利用してもよい。洗濯機126から電気的または他の信号を受けたコントローラーは、電気化学的セルに電圧を印加し、洗浄剤を発生させる。予め設定された時間において洗浄剤は洗濯機126に放出される。洗浄剤が漂白剤の場合、コントローラー114は、衣服へのダメージや脱色を避けて適切な洗浄効果を達成するために、特定のすすぎまたは充填サイクルまで待ってもよい。未使用の洗浄剤、原料または副生物は電気化学的セルから除去されてもよい。水素ガスなどのガス状副生物は電気化学的セルから排気されてもよい。原料供給源は電気化学的セルに再補充を行う。図4に示すように、コントローラー114は、洗濯機126、洗浄剤発生器110、バルブ及びセンサー、分配器112供給器、原料供給源128などの装置の種々の構成要素と連結していてもよい。
【0063】
図4に示す装置から示唆される一つの応用として、装置の一部としてNaOClを発生し洗濯機に漂白剤を供給する。この実施態様において、電気制御システムがNaOClの溶液(5重量%未満)を発生させ、洗濯のサイクルの適当な時間に洗浄水にこの溶液を導入する。NaOClの濃度は温度、繊維、撹拌などの選択によって種々決定することが出来る。塩素酸ナトリウムを徐々に導入して繊維へのダメージを防止できる。
【0064】
第2の応用として(これに限定されないが)、装置の一部としてNaOClを発生し食器洗い器に消毒剤を供給する。この実施態様において、電気制御システムが食器洗いの最終段階でNaOClの溶液(〜0.5重量%)を発生させ、食器が十分に殺菌されたことを確実にする。
【0065】
第3の応用として(これに限定されないが)、必要に応じて船上でNaOClを発生し、殺菌剤を発生させる。この実施態様において、船が海洋上にあれば海水を供給できる。これは、航海中の船舶において発生する伝染性の細菌がまん延することを抑制する効果がある。明らかなように、発生器は、洗濯機、食器洗い器、逆浸透システム等の数多くの船舶の備品に導入できる。
【0066】
図5は、皮膚用局所パッチ、たわし(洗いブラシ)、床ブラシ又はモップとして使用時に洗浄剤を発生・分配させる装置の説明図である。図5に示す洗浄剤発生器210は図1に示す装置と類似の構成要素であり、塩素酸ナトリウムを製造するために使用されてもよい。洗浄剤発生器210は、電解セルセルから成り、当該電解セルはナトリウムイオン伝導セラミック膜212を使用して陽極液室214と陰極液室216の2室に分離されている。電気化学的に活性なアノード218が陽極液室214に配置されて酸化反応を行い、電気化学的に活性なカソード220が陰極液室216に配置されて還元反応を行う。ナトリウムイオン伝導セラミック膜212は、電位差224の影響下で、陽極液室214から陰極液室216にナトリウムイオンを選択的に輸送し、何れかの室から他方の室への水の移動を防止する。作動pHを制御するため、1つ以上のNaHCO等の公知の緩衝剤が陽極液室214に含まれていることが好ましい。
【0067】
洗浄剤発生器210は、陽極液室214から装置の外部に洗浄剤を透過・放出できる多孔性膜226を有する。多孔性膜は洗浄面として構成されていてもよい。洗浄剤発生器にハンドル部分を加えることによって、洗いブラシや床ブラシとして使用できるように構成されていることが好ましい。また、洗浄剤発生器は薄い可撓性膜と共に構成され、適切な皮膚用接着剤が付与された皮膚用局所パッチとして構成されていてもよい。
【0068】
洗浄剤発生器210は、一度限りのバッチ使用として構成されていてもよく、又、連続使用や繰返し使用のため、陽極液室および陰極液室の再補充が可能な様に構成されていてもよい。
【0069】
図6は、図5に示した実施態様と類似の皮膚用局所パッチ、たわし、床ブラシ又はモップとして使用時に洗浄剤を発生・分配させる装置の他の説明図である。図6に示す洗浄剤発生器210は、図2に示す装置と類似の構成要素であり、塩素酸を製造するのに使用してもよい。HClは、混合酸化剤流として塩素酸と同時に製造されてもよい。洗浄剤発生器250は、電解セルから成り、当該電解セルはナトリウムイオン伝導セラミック膜252を使用して陽極液室254と陰極液室256の2室に分離されている。電気化学的に活性なアノード258が陽極液室254に配置されて酸化反応を行い、電気化学的に活性なカソード260が陰極液室256に配置されて還元反応を行う。ナトリウムイオン伝導セラミック膜252は、電位差264の影響下で、陽極液室254から陰極液室256にナトリウムイオンを選択的に輸送し、何れかの室から他方の室への水の移動を防止する。作動pHを制御し、HOClの形成を促進するため、1つ以上の公知の緩衝剤が陽極液室254に含まれていることが好ましい。
【0070】
洗浄剤発生器250は、陽極液室254から装置の外部に塩素酸洗浄剤を透過・放出できる多孔性膜266を有する。多孔性膜は洗浄面として構成されていてもよい。洗浄剤発生器にハンドル部分を加えることによって、洗いブラシや床ブラシとして使用できるように構成されていることが好ましい。また、洗浄剤発生器は薄い可撓性膜と共に構成され、適切な皮膚用接着剤が付与された皮膚用局所パッチとして構成されていてもよい。
【0071】
洗浄剤発生器250は、一度限りのバッチ使用として構成されていてもよく、又、連続使用や繰返し使用のため、陽極液室および陰極液室の再補充が可能な様に構成されていてもよい。
【実施例】
【0072】
以下の実施例(これに限定されるものではない)は、本発明の要旨に従った特定の実施態様の構成および使用について説明したものである。これらの実施態様は本質的に例示であり、本発明の要旨がこれらに限定されるものではない。
【0073】
実施例1:
漂白剤(NaOCl)を洗濯機に供給する装置を調製した。洗濯機の容量は約10ガロンである。代表的な洗濯サイクルにおいて添加される漂白剤の量は、5重量%のNaOCl溶液50mlであり、これは100%漂白剤2.5gに相当する。洗濯機内の漂白剤の濃度は10ガロンの水に対して漂白剤約0.07重量%である。洗濯機内が5分で満たされるなら、洗濯サイクルを通じて0.007重量%の漂白剤量となるように、洗浄剤発生器がNaOClを製造するように作動させる。この製造速度で作動させるためには、洗浄剤発生器が、約100cmの容積を有し且つ活性電極面積が100cmを有する上記の種類の電解セルから成る。陽極液のNaClの水中の濃度は18重量%以上で、陰極液のNaOHの水中の濃度は9.5重量%以上である。20アンペア、12ボルトで作動し、セルは、5分間で5重量%のNaOCl溶液50mlを製造し、洗濯機における要求を満足する。
【0074】
上記より、本発明はその場で使用できる、塩素酸ナトリウムや塩素酸などの洗浄剤、殺菌剤、抗菌剤などの電気化学的発生器および分配器を提供できる。その場で使用する洗浄剤を発生・分配する本発明の装置は、塩素酸ナトリウムや塩素酸を必要に応じて製造する上述の電解セルと、装置の作動を効果的に制御するコントローラーから成る。洗浄剤は、要求に応じて発生させ、一般家庭内、工業的および水処理などの応用分野において使用できる。洗浄剤は、洗濯機、食器洗い器、洗いブラシ、床ブラシ、モップ、便器器具、皮膚用局所パッチ、たわし、果物や野菜の洗浄装置、洗浄剤の投与が必要とされる応用分野などの種々の装置に使用できる。
【0075】
本発明の特定の実施態様を記載・例示したが、本発明の要旨を逸脱しない範囲において数多くの変更が可能であり、本発明の権利範囲は、ここに添付の特許請求の範囲によって限定されるべきものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)陽極液を有する陽極液室中に配置されるアノードと、陰極液を有する陰極液室中に配置されるカソードと、洗浄剤排出口とから成る洗浄剤を発生させる電解セルと、(2)電解セルに電流を供給するための電源と、(3)上記電解セルと上記電源とを電気的に接続し、洗浄剤の発生速度および量を調節するためのコントローラーとから成る使用時に洗浄剤を発生・分配する装置。
【請求項2】
電解セルが、NaOClを発生し、ナトリウムイオン伝導セラミック膜を有する請求項1に記載の装置。
【請求項3】
電解セルが、HOClを発生し、塩素イオン伝導膜を有する請求項1に記載の装置。
【請求項4】
更に、陽極液室または陰極液室の1つ以上に陽極液または陰極液を再供給するための供給機を有する請求項1に記載の装置。
【請求項5】
コントローラーが、陽極液室中の陽極液の必要量または陰極液室中の陰極液の必要量を決定するための1つ以上のセンサーを有する請求項1に記載の装置。
【請求項6】
コントローラーが供給機に接続されており、陽極液室または陰極液室の1つ以上に、陽極液室中の陽極液の必要量または、陰極液室中の陰極液の必要量を再供給する請求項1に記載の装置。
【請求項7】
コントローラーが、十分な量の洗浄剤が製造されているかどうかを決定するための1つ以上のセンサーを有する請求項1に記載の装置。
【請求項8】
コントローラーが、製造される洗浄剤量が要求される洗浄剤量を満足しているかどうかを決定するための1つ以上のセンサーを有する請求項1に記載の装置。
【請求項9】
陽極液室が、多孔質膜を有しており、多孔質膜の内部表面は陽極液室で製造された洗浄剤と接触し、多孔質膜の外部表面は、陽極液室内で製造された洗浄剤が多孔質膜を介して外部表面において直接使用される構成である請求項1に記載の装置。
【請求項10】
装置がたわし又は床ブラシとして構成されている請求項1に記載の装置。
【請求項11】
装置が、可撓性膜と皮膚接着剤とから成る皮膚用局所パッチとして構成されている請求項1に記載の装置。
【請求項12】
電解セルがHOClを発生し、塩素イオン伝導膜から成る請求項1に記載の装置。
【請求項13】
コントローラーが洗浄剤排出口と接続されており、器具へ直接放出される洗浄剤の量を制御する請求項1に記載の装置。
【請求項14】
(1)陽極液を有する陽極液室中に配置されるアノードと、陰極液を有する陰極液室中に配置されるカソードと、洗浄剤排出口とから成る洗浄剤を発生させる電解セルと、(2)電解セルに電流を供給するための電源と、(3)陽極液室または陰極液室の1つ以上に陽極液または陰極液を再供給するための供給機と、(4)上記電解セルと、上記電源と、上記供給機と、複数のセンサーとを電気的に接続するコントローラーとから成る使用時に洗浄剤を発生・供給する装置であって、コントローラーが洗浄剤の発生速度および量を調節でき、コントローラーが陽極液室中の陽極液の必要量または陰極液室中の陰極液の必要量を決定でき、コントローラーが、陽極液室または陰極液室の1つ以上に、陽極液室中の陽極液の必要量または、陰極液室中の陰極液の必要量を再供給することが出来るように構成されていることを特徴とする使用時に洗浄剤を発生・分配する装置。
【請求項15】
コントローラーが、十分な量の洗浄剤が製造されているかどうかを決定する1つ以上のセンサーを有する請求項14に記載の装置。
【請求項16】
コントローラーが、製造された洗浄剤が洗浄剤の必要量を満足しているかどうかを決定する1つ以上のセンサーを有する請求項14に記載の装置。
【請求項17】
コントローラーが洗浄剤排出口と接続されており、器具へ直接放出される洗浄剤の量を制御する請求項14に記載の装置。
【請求項18】
電解セルが、NaOClを発生し、ナトリウムイオン伝導セラミック膜を有する請求項14に記載の装置。
【請求項19】
電解セルが、NaOClを発生し、NaSICONナトリウムイオン伝導セラミック膜を有する請求項14に記載の装置。
【請求項20】
電解セルが、HOClを発生し、塩素イオン伝導膜を有する請求項14に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2010−533570(P2010−533570A)
【公表日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−516073(P2010−516073)
【出願日】平成20年7月14日(2008.7.14)
【国際出願番号】PCT/US2008/008623
【国際公開番号】WO2009/011841
【国際公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【出願人】(508011511)セラマテック・インク (29)
【Fターム(参考)】