説明

洗浄及びコーティング剤並びに洗浄及びコーティング方法

【課題】優れた洗浄力を提供するとともに、洗浄と同時にコーティング処理を行う。
【解決手段】脂肪族チオールを水に乳化して又は有機溶媒に溶かして洗浄及びコーティング剤を作り、その洗浄及びコーティング剤を容器に入れそれに金属を浸漬し、その洗浄及びコーティング剤を金属表面から除去する。金属を浸漬した際に容器に振動を加えてもよい。脂肪族チオールは炭素数が16のものが最も望ましく、また、脂肪族チオールの含有量は約1.0〜10重量%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は洗浄及びコーティング剤並びに洗浄及びコーティング方法に関し、特に、金属表面の洗浄及びコーティング剤並びに洗浄及びコーティング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
【特許文献1】 特開平10−259486号
【特許文献2】 特開平11−302880号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
金属の表面には、酸化によってくすみが生じたり、指紋等の汚れが付着したりする。それを防ぐためにその表面に保護膜を形成することが多い。その保護膜を形成するにあたって、既に汚れた部分やくすんだ部分から油分などの汚れや酸化膜を除去するために酸によるエッチング処理が行われている。
【0004】
また、アルキルメルカプタンが金属に対し防錆性があり、そのため、それと界面活性剤とを含む金属処理剤によって金属材料に皮膜を形成することが知られている。
【0005】
しかし、上記の特許文献1及び2に関連して次のような問題がある。金属の表面をエッチング処理する場合には、汚れや酸化膜を除去する際に表面の金属をも浸食してしまうことがあり、また、浸食を抑えるために、エッチング処理の時間を短くすると、汚れや酸化膜の除去が適切に行われないことになる。また、金属の表面に汚れや酸化膜が残ったままでその表面に保護膜を形成すると、その保護膜の密着性が低く耐久性が劣る結果となる。また、従来から、金属表面から汚れや酸化膜を除去すると同時にその金属の表面に保護膜を形成するような金属表面の処理剤は知られていない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題に鑑み、本発明は、金属の表面を侵食することなく汚れや酸化膜の除去を適切に行うことができる洗浄及びコーティング剤並びに洗浄及びコーティング方法を提供することを目的とし、さらに、金属の表面の洗浄及び保護膜の形成を同時に行う洗浄及びコーティング剤並びに洗浄及びコーティング方法を提供することを目的とする。
【0007】
本発明の発明者等は、鋭意研究を重ねた結果、脂肪族チオールを水に乳化又は有機溶媒に溶解して得られた液が上記課題を解決することを見出し、本発明をするに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、脂肪族チオールを含有する洗浄及びコーティング剤であることを特徴とする。本発明に係る洗浄及びコーティング剤として、脂肪族チオールを水に乳化したもの又は脂肪族チオールを有機溶媒に溶かしたものを用いることができる。脂肪族チオールとしては、炭素数が12から18のものを用いることができるが、好ましくは、炭素数が14から16のものであり、最も好ましくは炭素数が16のものである。また、脂肪族チオールの含有量は約1.0〜10重量%である。有機溶媒として、フロン系溶剤、炭化水素系溶剤又はアルコール系溶剤を用いることができる。また、洗浄及びコーティング剤に、さらに、アスコルビン酸を加えてもよい。
【0009】
また、本発明に係る洗浄及びコーティング方法は、脂肪族チオールを水に乳化して洗浄及びコーティング剤を作る工程と、その洗浄及びコーティング剤を容器に入れそれに金属を浸漬する工程と、その洗浄及びコーティング剤を金属表面から除去する工程とを含むことを特徴とする。その洗浄及びコーティング剤を作る工程では、脂肪族チオールを有機溶媒に溶かして洗浄及びコーティング剤を作ってもよい。また、浸漬工程において容器に振動を加えてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、金属表面の汚れ等に対し優れた洗浄力を提供することができ、また、酸でエッチング処理した場合と異なり、金属の表面を侵食することがなく、また後処理にアルカリ処理を必要とせず、脂肪族チオールを水に乳化したものでは単に水洗い処理だけで、有機溶媒に溶かしたものでは有機溶媒で洗浄処理するだけで洗浄を終わらせることができる。また、洗浄と同時にコーティングを行うことができるため、金属の表面を空気に露出させることなくその表面にコーティングを行うことができ、その結果洗浄後コーティングまでの間に金属の表面を酸化させることがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は、本発明の実施例に係る金属表面の洗浄及びコーティング方法を説明するためのフローチャートである。その方法は、洗浄及びコーティング剤への浸漬工程10及び後処理工程11とからなる。
【0012】
洗浄及びコーティング剤への浸漬工程10では、脂肪族チオール(R−SH)を水に乳化したものを用いる。その脂肪族チオールとして炭素数が12から18のものを用いることができるが、洗浄効果やコーティング効果の観点から、好ましくは、炭素数が14から16のものであり、特に、炭素数が16のものを用いた場合に高い洗浄コーティング効果が発揮されたことが確認されている。
【0013】
また、洗浄及びコーティング剤における脂肪族チオールの含有量は、約1.0〜10重量%である。それは、それよりも含有量が少ない場合には洗浄効果があまり発揮されない場合があり、また、それよりも含有量が多い場合には、洗浄対象から洗浄剤を洗い流すことが困難となる場合があるからである。洗浄効果、洗い流しの困難性やコーティング効果の観点から、その含有量として好ましくは約2から5重量%であり、特に、約3重量%の含有量の場合が、洗浄効果に優れ、荒い流しが容易であり、また、均一のコーティングを達成できることが確認されている。
【0014】
脂肪族チオールは一種類でもよいが、複数のものを混合してもよい。
【0015】
また、洗浄及びコーティング剤に、さらに、アスコルビン酸を約0.1から5.0重量%程度加えてもよい。好ましくは、約0.2から2.0重量%である。アスコルビン酸を添加した場合には、洗浄時間を短縮することができ、また、酸化や変色したような汚れもきれいにおとすことができるようになる。コーティング効果に影響は与えない。
【0016】
図2に、本発明にかかる洗浄及びコーティング剤における脂肪族チオールの分子構造を示す。分子20の構造は、水に溶けてイオン解離する親水性のチオール基(極性基)20aと、鎖状炭化水素基である親油性のアルキル基(非極性炭化水素基)20bとからなる。
【0017】
浸漬工程10では、図3に示すように、洗浄及びコーティング剤21を容器20に入れ、その洗浄及びコーティング剤21に、たとえば、イヤリング22のような装飾品の全体を浸す。浸漬させる時間は任意であり、長時間浸漬させてもイヤリング22が侵食されたり、汚れが再付着することはない。
【0018】
イヤリング22は、U字状の本体部22Aと装飾部22Bとつまみ部22Cとからなる。つまみ部22Cのねじ部22Eが保持部22Dの内ねじと係合する。そのイヤリング22を耳たぶ(耳垂)に取り付ける際には、耳たぶを押圧部22Fと本体部22Aの耳たぶの接する部分22Gとの間に挿入してつまみ部22Cを回転する。つまみ部22Cが回転するとねじ部22Eが保持部22Dの内ねじとの係合によって押圧部22Fが図3に向かって左側に進行して耳たぶを耳たぶの接する部分22Gに押し付ける。
【0019】
イヤリング22のU字状の本体部22Aは、例えば、黄銅、ステンレススチール、チタン等の金属や貴金属等で形成されていたり、金や銀等のめっき処理がされていることがある。装飾部22Bやねじ山22Eの材質はそれと異なることが多いが、この洗浄及びコーティング剤21からはどの部分も侵食やくすみ等の悪影響を受けることはない。
【0020】
イヤリング22をその洗浄及びコーティング剤21に浸すだけで、十分に汚れや酸化膜をきれいに除去することができるが、容器に振動を加えるとそれらを除去する時間を比較的短くすることができる。
【0021】
図4(a)から図4(d)は、図1の浸漬工程においてイヤリング22の表面から汚れや酸化膜等の付着物が取り除かれる様子を説明するための図である。図4(a)から図4(d)には、図3に示すイヤリング22の耳たぶの接する部分22Gの一部を拡大して示す。なお、図4(a)から図4(d)に示す耳たぶの接する部分22Gの向きは、図3を左向きに90度回転させた場合の状態で見たイヤリング22の耳たぶの接する部分22Gの向きに対応する。その結果、図4(a)から図4(d)において、部分22Gの下方には、図3に示すイヤリングの球形状の装飾部22Bが位置することになる。
【0022】
図4(a)に示すように、イヤリング22の耳たぶの接する部分22Gの表面には、汚れや酸化膜(以下、酸化膜等40と記す。)が付着又は凝着している。
【0023】
図4(b)に示すように、そのイヤリング22を洗浄及びコーティング剤21に浸漬すると、脂肪族チオール(例えばヘキサメチルメルカプタン)の分子20の球形で表したチオール基20aが耳たぶの接する部分22Gの表面に付着している酸化膜等40に吸着し始める。このとき同時に、洗浄及びコーティング剤21が酸化膜等40に浸透し始める。また、脂肪族チオールの分子20のチオール基20aは、耳たぶの接する部分22Gの酸化膜等40に覆われていない表面にも付着し始め、これによって後述するコーティング層が形成されていく。
【0024】
図4(c)に示すように、酸化膜等40への洗浄及びコーティング剤21の浸透が進み、チオール基20aの吸着数が増えると、その酸化膜等40が耳たぶの接する部分22Gから剥がれるようになる。同時に、耳たぶの接する部分22Gの表面に付着する脂肪族チオールの分子20が増加してゆく。
【0025】
そして、図4(d)に示すように、酸化膜等40が耳たぶの接する部分22Gの表面からすべて剥がれると、その表面には、脂肪族チオールの分子20のチオール基20aが接するように整列した状態で吸着した状態になる。これにより、耳たぶの接する部分22Gからすべての酸化膜等40を取り除くことができると同時に、イヤリング22の表面全体にコーティング層41を形成することができる。
【0026】
このように、耳たぶの接する部分22Gからすべての酸化膜等40が取り除かれたときには、イヤリング22は洗浄及びコーティング剤21の中にあり、また、その部分22Gの表面にコーティング層41が形成されるまで、イヤリング22は洗浄及びコーティング剤21から取り出されることがないので、その表面に汚れが再付着したり酸化膜が形成されることがない。
【0027】
図5は、図4(d)に示す耳たぶの接する部分22Gの一部及びコーティング層41の一部の拡大図である。図5に示すように、拡大すると部分22Gの表面は必ずしも平坦ではないことがわかるが、コーティング層41はその平面に沿って形成される。
【0028】
コーティング層41では、脂肪族チオールの多数の分子20のチオール基20aが、イヤリング22の耳たぶの接する部分22Gの表面上に整列して吸着されている。このコーティング層41の厚みは、脂肪族チオールの一分子20の長さとほぼ同じ寸法、すなわち、約26Å(オングストローム)である。また、脂肪族チオールの一分子20の幅は約5Å(オングストローム)であり、この脂肪族チオールの多数の分子20がその幅方向に凝集してコーティング層41を形成する。このようなコーティング層41が形成されることにより、イヤリング22の表面の汚れの付着や酸化を効果的に防ぐことができる。
【0029】
この浸漬工程10の後に、図1に示すように後処理工程11が行われる。この後処理工程11では、イヤリング22が洗浄及びコーティング剤21から取り出されて水によるすすぎ処理等が施される。これにより、イヤリング22の表面に付着している余分な洗浄及びコーティング剤21が取り除かれる。洗浄剤として酸を用いていないのでこの後処理工程ではアルカリ処理を行う必要はない。
【0030】
上記の実施例に係る洗浄及びコーティング剤21として、脂肪族チオールを水に乳化したものを用いたが、水の代わりに有機溶媒に溶かしたものを用いてもよい。有機溶媒としては、HCFC−141b以外のフロン系溶剤(HFCフロン、HCFCフロン等)や、ヘキサン等の炭化水素系溶剤や、イソプロピルアルコール、エチルアルコール等のアルコール系溶剤を用いることができる。
【0031】
また、上記の後処理工程11では、イヤリング22の表面に付着している余分な洗浄及びコーティング剤21を取り除くために水によるすすぎ処理を行った実施例を説明したが、水によるすすぎ処理に代えて(又はそれとともに)、エアーによってイヤリング22の表面から洗浄及びコーティング剤21を吹き飛ばす処理を行ってもよい。
【0032】
上記の実施例ではイヤリング22の洗浄及びコーティングを行う例に基づいて本発明の説明を行ったが、本発明に係る洗浄及びコーティングの対象は金属類のすべてであり、その種類は問わず、例えば、指輪、ネックレス、ブレスレット等の宝石や貴金属等の装飾品や時計、メガネフレーム等にも適用できるものであり、また、半導体の回路基板の洗浄にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】 図1は、本発明の実施例に係る洗浄及びコーティング方法を示すフローチャートである。
【図2】 図2は、脂肪族チオールの分子構造を示す説明図である。
【図3】 図3は、図1の浸漬工程を説明するための図である。
【図4】 図4(a)〜(d)は、図1の浸漬工程を説明するための図である。
【図5】 図5は、イヤリングの表面の及びコーティング層の一部の拡大図である。
【符号の説明】
【0034】
20 容器
21 洗浄及びコーティング剤
22 イヤリング
20 脂肪族チオール
20a チオール基
20b アルキル基
40 酸化膜等
41 コーティング層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族チオールを水に乳化した金属表面の洗浄及びコーティング剤。
【請求項2】
脂肪族チオールを有機溶媒に溶かした金属表面の洗浄及びコーティング剤。
【請求項3】
請求項1又は2の洗浄及びコーティング剤において、前記脂肪族チオールの炭素数は、12から18である、洗浄及びコーティング剤。
【請求項4】
請求項1又は2の洗浄及びコーティング剤において、前記脂肪族チオールの炭素数は、14から16である、洗浄及びコーティング剤。
【請求項5】
請求項1又は2の洗浄及びコーティング剤において、前記脂肪族チオールの炭素数は16である、洗浄及びコーティング剤。
【請求項6】
請求項1又は2の洗浄及びコーティング剤において、前記脂肪族チオールの含有量は1.0〜10重量%である、洗浄及びコーティング剤。
【請求項7】
請求項2の洗浄及びコーティング剤において、前記有機溶媒は、フロン系溶剤、炭化水素系溶剤又はアルコール系溶剤である、洗浄及びコーティング剤。
【請求項8】
請求項1又は2の洗浄及びコーティング剤において、さらに、アスコルビン酸を含む、洗浄及びコーティング剤。
【請求項9】
脂肪族チオールを水に乳化して洗浄及びコーティング剤を作る工程と、その洗浄及びコーティング剤を容器に入れそれに金属を浸漬する工程と、その洗浄及びコーティング剤を金属表面から除去する工程とを含む、洗浄及びコーティング方法。
【請求項10】
脂肪族チオールを有機溶媒に溶かして洗浄及びコーティング剤を作る工程と、その洗浄及びコーティング剤を容器に入れそれに金属を浸漬する工程と、その洗浄及びコーティング剤を金属表面から除去する工程とを含む、洗浄及びコーティング方法。
【請求項11】
請求項9又は10の洗浄及びコーティング方法において、前記脂肪族チオールの炭素数は、12から18である、洗浄及びコーティング方法。
【請求項12】
請求項9又は10の洗浄及びコーティング方法において、前記脂肪族チオールの炭素数は、14から16である、洗浄及びコーティング方法。
【請求項13】
請求項9又は10の洗浄及びコーティング方法において、前記脂肪族チオールの炭素数は16である、洗浄及びコーティング方法。
【請求項14】
請求項9又は10の洗浄及びコーティング方法において、前記脂肪族チオールの含有量は1.0〜10重量%である、洗浄及びコーティング方法。
【請求項15】
請求項10の洗浄及びコーティング方法において、前記有機溶媒は、フロン系溶剤、炭化水素系溶剤又はアルコール系溶剤である、洗浄及びコーティング方法。
【請求項16】
請求項9又は10の洗浄及びコーティング方法において、前記洗浄及びコーティング剤を作る工程はさらにアスコルビン酸を加える工程を含む、洗浄及びコーティング方法。
【請求項17】
請求項9又は10の洗浄及びコーティング方法において、前記浸漬工程はさらに前記容器に振動を加える工程を含む、洗浄及びコーティング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−111957(P2006−111957A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−327065(P2004−327065)
【出願日】平成16年10月12日(2004.10.12)
【出願人】(501307343)日本ジョイント株式会社 (5)
【Fターム(参考)】