説明

活性のある溶解性の翻訳後修飾されたニューレグリン−アイソフォーム

本発明は、認知に関連した神経学的疾病、特に精神分裂病、アルツハイマー病及びパーキンソン病における薬物療法としての翻訳後ニューレグリン−1修飾を提示する溶解性ニューレグリン−1アイソフォームを参照する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の詳細な説明
本発明は、認知に関連した神経学的状態、例えば精神分裂病、アルツハイマー病及びパーキンソン病における薬物療法としての、翻訳後ニューレグリン−1修飾又はスプライス変異体を提示する、生理学的溶液中に溶解性のニューレグリン−1アイソフォームを参照する。
【0002】
背景技術
ニューレグリン(NRG)は、シナプス性シグナリングの鍵となる制御因子として出現した。この膜貫通型タンパク質は、4個の遺伝子(NRG−1、−2、−3、及び−4)によりコードされ、この多様性は更に代替的RNAスプライスング及びプロモーターの使用により増加され、特にタンパク質加水分解性プロセッシングなどの翻訳後修飾により増加され、これは膜結合ホロタンパク質からの溶解性アイソフォームの放出を引き起こす。更に、リン酸化及びグリコシル化の証拠が存在する(Buonanno and Fischbach 2001)。これらは、異なる細胞外ドメインにより特徴付けられ、かつ、ErbBレセプターチロシンキナーゼのリガンドであり、これは、神経炎症及び遺伝子転写に対する下流の暗示的意味合いを有する(Holbro and Hynes 2004)。特にNRG−1の溶解性アイソフォームは、NRGの膜貫通型形態から、電気的刺激の間のタンパク質加水分解性開裂を通じて産生され、引き続き活性依存性シナプス性調節因子として分泌される(Ozaki et al. 2004)。
【0003】
NRG−1の切断されたアイソフォーム、恐らくβ−1は、この全体の膜タンパク質のN末端の細胞外ドメイン(ECD)を含有し、これは学習及び記憶に関連していることが見出されている(Schillo et al. 2005a; WO03/014156)。機能的研究は、NRG−1が直接的にNMDAレセプターサブユニット成分を制御することを実証した(Ozaki et al. 1997; Eilam et al. 1998)。更に、この種のNRG−1断片が神経保護特性をin vivoで抗アポトーシス性作用により有することが示されている(Xu et al. 2005A; Xu et al. 2005B; Xu et al. 2004)。
【0004】
極めて最近、NRG−1が、NMDAレセプターのNRG依存性制御(Schrattenholz and Soskic 2006)及び引き続く下流の現象、例えば興奮毒性、神経炎症及びアポトーシスのために中心的な役割をヒトの神経学的疾病において有することが明らかになった(要約のために図1を参照のこと)。これらは、NRG−1が重要な役割を、筋萎縮性側索硬化症、アルツハイマー病及びパーキンソン病から卒中及び精神分裂病にわたる範囲の状態において果たすことを示している(Britsch 2007)。
【0005】
NRG−1のこの根本的な重要性は、神経保護及び認知関連学習及び記憶におけるポジティブな役割の他に、NRG−1が、種々の障害の後に、種々の特定の脳領域及び細胞種における、神経組織の再生における決定的な神経栄養性因子を提示することを示唆する。明らかに、これは神経関連回路の統合性の維持及び修復のための決定的な因子である:神経保護及び機能損失後の正しい再生における役割、また同様に活性に依存した神経的可塑性の形成における。
【0006】
ニューレグリン−1βにおける興味は更に、Kastin et al., 2004が、ニューレグリン1βがこの血液脳関門を横断できることを示した時に、顕著に助長された。これにより、ニューレグリン1βの治療的使用のための展望が開かれた。
【0007】
最近の研究は、神経保護における幅の広い適用を証明した。独立して、2つの刊行物においてニューレグリン1がBACE(β−セクレターゼ、β−アミロイド変換酵素)の基質でもあることを示し、これはニューレグリン−1のアルツハイマー病における関連性を示唆する(Glabe 2006; Schubert 2006)。
【0008】
更に、シュワン細胞においてニューレグリン1が3−ヒドロキシ−3−メチルグルタリル−補酵素−Aレダクターゼ、シュワン細胞におけるコレステロールの生合成のための速度制限酵素、の転写を増加させることが見出された(Pertusa et al. 2007)。これは、ミエリン鞘が影響を受ける全ての状態、例えば精神分裂病及び多発性硬化症、又はいわゆる「コレステロールリッチなラフト」が関与する認知関連機能のための広範囲にわたる示唆を有する(Schrattenholz and Soskic 2006)。軸索を取り囲むシュワン細胞は、NRG−1レセプターErbB2/ErbB3及び溶解性のNRG1α及びβを生理学的条件下で発現する。除神経に引き続き、成熟したシュワン細胞は軸索との接触を離れ、その形態を変化し、NRG1βの発現を停止し、NRG1α及びErbB2/ErbB3発現を上方制御する(Geuna et al.2007; Karoutzou et al. 2007)。
【0009】
加えて、遺伝的疫学的研究は、ニューレグリン1の精神分裂病及びアルツハイマー病、特にその精神病性形態への明らかな関与を示す(Farmer et al., 2007)。
【0010】
いくつかの最近の遺伝学的集団分析は、特定のNRG−1−SNP’sがアルツハイマー及び精神分裂病に関連することを示す(Go et al. 2005;Scolnick et al. 2006;Ross et al. 2006;Meeks et al. 2006;Farmer et al. 2007)。これらの知見の示唆するものは、図1に示した機能性NRG含有複合体の他のタンパク質に関連する(ErbBレセプター:(Benzel et al. 2007;Thomson et al. 2007;Hahn et al. 2006))。多発性硬化症におけるNRG1のための示唆もある(Esper et al. 2006)。
【0011】
NRG1リスクアレルと精神分裂病との間の関連の分子機構が、アルファ7サブタイプのニコチン性アセチルコリンレセプターの下方制御を含む可能性があることを暗示する結果がある(Mathew et al. 2007)。
【0012】
本発明によれば、組み換え溶解性ニューレグリン1βアイソフォームが、学習及び記憶、精神分裂病、アルツハイマー病及びパーキンソン病のための動物モデルにおいて、医薬的有効性を示すことが見出された。i.v.投与後に、ニューレグリン1βアイソフォームは、対照医薬品の濃度に比較して顕著により低い濃度で活性があった。
【0013】
このように、本発明の第1の観点は、神経学的状態、特に認知に関連した神経学的状態の治療のための医薬品の製造のための組み換え溶解性ニューレグリン−1アイソフォームの使用である。
【0014】
本発明の更なる観点は、(i)組み換え溶解性ニューレグリン1アイソフォーム及び(ii)特に神経学的状態、特に認知に関連した神経学的状態の治療のための更なる医薬品を含有する医薬組成物又はキットである。
【0015】
本発明のまた更なる観点は、医薬品の製造のための記憶及び認知促進のための組み換え溶解性ニューレグリン1アイソフォームの使用である。
【0016】
また更なる本発明の観点は、医薬的有効量で組み換え溶解性ニューレグリン−1アイソフォームをこれを必要とする被験体に投与することを含む神経学的状態の治療方法である。
【0017】
また更なる本発明の観点は、医薬的有効量で組み換え溶解性ニューレグリン−1アイソフォームをこれを必要とする被験体に投与することを含む記憶及び認知の促進の治療方法である。
【0018】
また更なる本発明の観点は、組み換え溶解性ニューレグリン1アイソフォームの更なる医薬品と一緒での共投与である。
【0019】
本発明によれば、溶解性ニューレグリン1アイソフォームは、神経学的状態、特に状態、例えば精神疾患、例えば精神分裂病、双極性障害及びうつ病、神経変性性疾患、例えばパーキンソン病、アルツハイマー病、多発性硬化症(MS)又は筋萎縮性側索硬化症(ALS)、てんかん又は神経学的損傷、例えば卒中、外傷性脳損傷及び脊髄損傷の治療のために有効であることが見出された。有利であるのは、精神分裂病、特に精神分裂病の認知に関連した観点、パーキンソン病及びアルツハイマー病の治療である。さらに、本発明は、記憶及び認知促進のための、特に神経学的状態、例えばアルツハイマー病及び精神分裂病に関連した記憶及び認知喪失を減少及び/又は抑制するための組み換え溶解性ニューレグリン−1アイソフォームの使用にも関する。
【0020】
組み換え溶解性ニューレグリン−1アイソフォームは有利にはヒトのニューレグリン−1アイソフォームであり、すなわち、天然に生じるヒトのニューレグリン1−アイソフォームの1次アミノ酸配列又は少なくとも90%、有利には少なくとも95%、最も有利には少なくとも98%の同一性を組み換えアイソフォームの全長に対して有する配列を含有する組み換えアイソフォームである。
【0021】
本発明の溶解性組み換えニューレグリン−1アイソフォームは有利には、相応するニューレグリン−1の細胞外ドメインの少なくとも一部、例えばヒトのニューレグリン、例えばヒトのニューレグリン−1βの細胞外ドメインの少なくとも一部を含有する。
【0022】
本発明の組み換え溶解性ニューレグリンアイソフォームは有利には、250アミノ酸までの、例えば150〜250アミノ酸の長さを有する。ニューレグリンアイソフォームの分子量は有利には、約15〜約35KD、有利には約25〜約32KDであり、例えばこれはSDSポリアクリルアミド電気泳動(PAGE)により測定される。組み換え溶解性ニューレグリン−1アイソフォーム、特に組み換えニューレグリン−1βアイソフォームは、約4〜約9.5、有利には約4〜約6の等電点(pl)を有する。このアイソフォームは、修飾していないアミノ酸配列からなる修飾していないポリペプチド又は修飾ポリペプチドであってよく、その際この修飾は、リン酸化、グリコシル化、メチル化、ミリスチル化、酸化及びこの任意の組み合わせから選択されてよい。特に有利な一実施態様において、ニューレグリン−1アイソフォームは、少なくとも1のリン酸化したアミノ酸残基を含有する。更に、本発明は、非相同的(heterologous)残基、例えばポリ(アルキレンオキシド)残基、特にポリエチレングリコール残基に対するコンジュゲーションを包含する。
【0023】
この組み換え溶解性アイソフォームは、標的とされる組織、例えば神経系、特に中枢神経系、例えば脳及び/又は脊髄中への有効な配送を達成する任意の経路により投与されてよい。ニューレグリンアイソフォームの医薬的に有効な濃度が、全身投与によって達成されてよいことが見出された。例えば、このアイソフォームは、注射又は注入、例えば静脈性注射により投与されてよい。このアイソフォームは有利には、0.1〜5000ng/kgの処置すべき被験体の体重の量で、特に2〜1000ng/kgの処置すべき被験体の体重の量で、より有利には3〜600ng/kgの処置すべき被験体の体重の量で、処置すべき状態の種類及び深刻度に依存して投与される。本発明の他の一実施態様においては、この溶解性アイソフォームは、局所的に投与されてもよく、例えば、中枢神経系への、例えば脊髄への及び/又は脳中への直接的な投与によって投与されてもよい。i.p.又はs.c.注射又は吸入装置による500μg/kgのより高い用量での投与も考慮されてよい。有利には、処置すべき被験体は、哺乳類、有利にはヒトの患者である。
【0024】
この溶解性の組み換えニューレグリン−1アイソフォームは、独立薬物療法として、すなわち、単剤療法として又は共薬物療法として、すなわち、更なる医薬品、特に神経学的状態の治療に適している更なる医薬品との組み合わせにおいて投与されてよい。 更なる医薬品の例は、カテコールアミン代謝に作用する化合物、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤、MAO−B−又はCOMT−阻害剤、メマンチン型チャネル遮断剤、ドーパミン又はセロトニンレセプターアゴニスト又はアンタゴニスト、カテコールアミン又はセロトニン再取り込み阻害剤又は任意の種類の抗精神病薬、例えばクロザピン又はオランザピン又はガバペンチン様薬剤であり、とりわけアルツハイマー病及びパーキンソン病、精神分裂病、双極性障害、うつ病又はその他の神経学的状態の治療におけるものである。更なる医薬品の付加的な例は、神経保護剤、例えばPARP1阻害剤、例えばWO 2006/008118及びWO 2006/008119中に開示されているものであり、これは本願明細書により参照により組み込まれる。
【0025】
したがって、本発明の一実施態様は、本願明細書に開示されたとおりの組み換え溶解性ニューレグリン−1アイソフォームと、精神学的疾病、例えば精神分裂病、双極性障害及びうつ病の治療のための医薬品、例えばオランザピン又はクロザピンとの組み合わせを参照する。更なる一実施態様は、組み換え溶解性ニューレグリン−1アイソフォーム及び神経変性疾患、例えばパーキンソン病、アルツハイマー病、MS又はALSの治療のための医薬品との組み合わせを参照する。また更なる実施態様は、組み換え溶解性ニューレグリン−1アイソフォーム及び神経学的損傷、例えば卒中、外傷性脳損傷又は脊髄損傷の治療のための医薬品の組み合わせを参照する。
【0026】
この組み合わせ療法は、医薬組成物又はキットの形態にある組み換え溶解性ニューレグリン−1アイソフォーム及び更なる医薬品の共投与により実施されてよく、その際、この個々の医薬品は、別個に又は共通の投与により投与される。
【0027】
ニューレグリン−1アイソフォームは、ニューレグリン−1タイプI、タイプII、タイプIII、タイプIV、タイプV、又はタイプVIアイソフォーム、有利にはニューレグリン−1βアイソフォーム、ニューレグリン−1αアイソフォーム、又は、知覚及び運動神経由来因子(SMDF)アイソフォーム、特にニューレグリン−1β、より有利にはヒトのニューレグリン−1βアイソフォームであってよい。
【0028】
ニューレグリン−1βアイソフォームは、血液脳関門を通じて能動的に輸送される。i.v./i.p.注射後の脳中のニューレグリン−1βの傑出したバイオアベイラビリティは、実施例中に示されるとおり、NRG1βの治療的適用に向けての道を開く。
【0029】
抗アポトーシス性の、ミエリン安定性の抗炎症性特性の組み合わせにおいて、BACEとのその直接的な相互作用と一緒になって、卒中、アルツハイマー、MS及び精神分裂病及び他の神経学的状態の治療における機会を開く。
【0030】
上で概要を示したとおり、本出願は、修飾されていない及び修飾されているニューレグリン−1アイソフォーム、特にニューレグリン−1βアイソフォームの使用を包含する。後翻訳修飾、例えばタンパク質加水分解性プロセッシング、リン酸化及びグリコシル化が、ニューレグリン−1、特にその細胞外ドメインの特定のアミノ酸残基で生じる証拠がある。特に、ニューレグリン−1の溶解性断片の放出は、報告されている(Buonanno and Fischbach 2001 ;Fischbach 2007)。可能性のある酸化も同様に報告されている(Nadri et al. 2007)。
【0031】
本発明者らは、好ましい生理学的に活性のあるニューレグリン−1βアイソフォームが、ニューレグリン−1βの細胞外ドメイン又はその部分であって、翻訳後修飾されているものを含有することの証拠を得た。有利には、このアイソフォームは、リン酸化により修飾されていて、その際、1、2、3又はそれより多いアミノ酸側鎖残基、特にOH基を有する側鎖残基、例えばTyr、Ser又はThrがリン酸化されている。有利なリン酸化部位は、アミノ酸位置79〜82、133〜136及び/又は158〜161(Falquet et al., 2002による命名法)に存在する。更に有利なリン酸化部位は、アミノ酸12〜14、30〜32及び/又は85〜87に存在する。更なる可能性のある修飾部位は、アミド化部位、有利には位置22〜25及び/又は30〜33にあるアミド化部位、位置150〜153、156〜159及び/又は204〜207にあるグリコシル化部位、及び、ミリスチル化部位、有利には位置94〜99、149〜154、168〜173、175〜180及び/又は202〜207にあるミリスチル化部位であり、これはFalquet et al. 2002による命名法による。
【0032】
以下においては、本出願による実験データの関連性が、好ましい医薬的適応症に関して説明される。
【0033】
精神分裂病
精神分裂病は、症状、例えば幻聴、障害された思考及び妄想、意欲消失、快感消失、鈍化された情動及び無関心を伴う深刻かつ不能化にする精神障害である。疫学的、臨床的、神経心理学的かつ神経生理学的研究は、脳の発達における異常性及び進行する神経可塑性が、前記疾患の病原論において重要な役割を果たすことについての実質的な証拠を提供している(Arnold et al. 2005)。
【0034】
精神分裂病は、ドーパミン作動性の神経伝達の疾患を含むと考えられるが、しかしながら、グルタミン酸作動性神経伝達によるドーパミン作動性の系の調節が重要な役割を果たすように見える。この観点は、グルタミン酸作動性の系に対して機能的な作用を有するニューレグリン−及びジスビンジン遺伝子の遺伝的な知見により支持される(Muller and Schwarz 2006)。ますます明らかになったのは、精神分裂病に寄与する遺伝子(neuregulinsを含む)を含むようである幾つかの領域が、双極性情動障害にも関連することであり、知見は最近の一対のデータにより支持される(Farmer et al. 2007;Owen et al. 2007)。
【0035】
ニューレグリン−1は、神経細胞移動、軸索誘導及びミエリン化に対する作用を有する精神病感受性遺伝子であり、これは精神分裂病及び双極性障害における異常な解剖学的及び機能的連結性の知見を有効に説明できる可能性がある(Mclntosh et al. 2007)。
【0036】
ニューレグリン1の精神分裂病への遺伝学的連結のますます増加する一連の証拠が存在する(レビュー:Farmer et al., 2007)。ニューレグリン−1によるグルタマート、GABA及びニコチン性神経伝達の促進(Fischbach 2007;Woo et al. 2007;Li et al. 2007)は、この文脈において関連し、脳炎症を有する掛かり合いも同様である(Hanninen et al. 2007)。
【0037】
3−ヒドロキシ−3−メチルグルタリル−補酵素A−レダクターゼの制御、コレステロール生合成のための速度制限酵素(Pertusa et al. 2007)(ミエリン化にとって重要である)は、この状態において同様に掛かり合いを有すると推定される。
【0038】
精神分裂病、双極性疾患及びうつ病に共通の遺伝子的危険因子の中で、NRG1が傑出した役割を果たすという事実は、この精神病において示唆される遺伝子、例えばNRG−1が結局症状によるよりむしろ生物学に依存した分類のための基礎を提供する可能性があってよく、かつ、これらの複雑な脳疾患のための新規の治療戦略を生じることについて示唆を提起している(Blackwood et al. 2007;Bertram et al. 2007)。
【0039】
本出願のこの実験的なデータは、精神分裂病の実験モデルにおける溶解性組み換えニューレグリン−1βアイソフォームの投与の有効性を実証する。
【0040】
アルツハイマー病
本発明者らによる初期の研究は、ニューレグリン1βがアルツハイマー患者の脳の海馬の死後の切片において、年齢適合対照に比較して減少していること(Sommer et al., 2004)を、ニューレグリン1の溶解性の断片と放射状迷路試験における学習能力との明白な正の相関と一緒に示した(Sommer et al., 2004)。
【0041】
シナプス性変化に依存した活性におけるNRG−1の役割(Xie et al. 2006;Kwon et al. 2005;Rimer et al. 2005;Bao et al. 2004;Yang et al. 2005)が、学習及び記憶のために重要であることを実証する数々の報告が存在する(Ozaki et al. 1997;Ozaki et al. 2004;Golub et al. 2004;Schillo et al. 2005b)。以下示すとおり、細胞外ドメインを含有するNRG1β断片は、行動的な動物モデルにおいて学習と明らかに関連していた。アルツハイマー患者の海馬領域(短期間記憶形成を担う)の死後の脳スライスにおいて、年齢適合した対照に比較してタンパク質の減少した発現を示すことは、明らかにいまだ健康な神経細胞の領域において、記憶に関連したシナプス性活性の非存在を実証できた。
【0042】
極めて最近の発見(Hu et al. 2006;Glabe 2006;Schubert 2006)は、BACE1(=βセクレターゼ)によりNRG1がプロセッシングされることを示し、この酵素はアルツハイマー病を有する人の脳中でアミロイドβの凝集物の産生を助けるものであり、これは、アルツハイマー病への関連、NRG1の神経栄養性特性に関するミエリン形成における同時発生する役割を説明する(Hu et al., 2006;Glabe 2006; Schubert 2006)。酵素、BACE1(ベータ位置アミロイド前駆体タンパク質を開裂する酵素1)は、より大きな前駆体からアミロイドβを開裂することが要求される。(BACE1媒介した開裂後に、プレセリニン含有複合体γセクレターゼは、最終的な開裂を生じ、アミロイドβを放出する。
【0043】
セクレターゼによるNRGの開裂は、神経のミエリン化にとって決定的である。アミロイド前駆体タンパク質とちょうど同じように、ニューレグリン1もまたβセクレターゼにより開裂される。βセクレターゼによるニューレグリン1のタンパク質加水分解的開裂は、シュワン細胞による末梢神経ミエリン化にとって決定的である。βセクレターゼを標的とする薬剤は、末梢神経発達及び機能に作用することができる。
【0044】
この初期の観察は、BACE1もミエリン化のために要求されるようであることを見出したHaass(Willem et al. 2006)のグループにより為された。末端神経ミエリン化は生涯の初期に生じ、したがってどのようにBACE1阻害がより高齢の動物に作用する可能性があるかは明らかでない。BACE1もまた中心神経系のミエリン化において役割を有することについて示唆がある。BACE−1を欠失しているトランスジェニック動物は、末梢神経においてミエリン欠陥を有していた。
【0045】
神経変性及びアルツハイマー病の関連においても、ニューレグリン1によるグルタマート、GABA及びニコチン性神経伝達の促進の最近の発見は関連する(Fischbach 2007;Woo et al. 2007;Li et al. 2007)。
【0046】
本出願のこの実験データは、アルツハイマー病の実験モデルにおける溶解性組み換えニューレグリン1βアイソフォームの投与の有効性を実証する。
【0047】
卒中、外傷性脳損傷
USにおける独立した外部研究による一連の卒中に関連したin vivo実験は、自体で抗アポトーシス性であるニューレグリン1の神経保護を実証する(Xu et al., 2004, 2005 and 2006; Guo et al., 2006)。
【0048】
NRG−1は、中脳動脈閉塞(通常の卒中モデル)後の神経ダメージを減少し、神経学的結果を改善する(Xu et al. 2005b;Xu et al. 2004;Xu et al. 2006;Guo et al. 2006)。
【0049】
虚血/再灌流による脳損傷を減弱させることにおける組み換えヒトNRG−1の治療的有効性及び機構についての同じ研究において、NRGが抗アポトーシス性であることが見出された。NRG−1(3.0ng/kg)を中脳動脈閉塞(MCAO)の10分前に血管内に適用し、引き続き90分間の局所脳虚血及び24時間の再灌流をした。
【0050】
本発明のデータは、組み換えの溶解性ニューレグリン−1アイソフォームの低濃度での投与が、顕著な薬理学的作用を有すること、したがって卒中及び外傷性脳損傷のモデルにおいて有効であるようであることを実証する。
【0051】
以下においては、本出願は以下に示す図面及び実施例によりより詳細に説明される。
【0052】
図1:ニューレグリン1についての様々な総説及び数多くの研究論文は、神経変性疾患、神経学的疾病また同様に生理学的機能において中心的であると考えられる機構の上流の制御性原則としてのNRG1の鍵となる機能的位置を示す。
【0053】
NRGは、機能性複合体の鍵となる部分であり、少なくともニューレグリン(NRG)、レセプターチロシンキナーゼ(ErbBレセプター)、へパランスルファートプロテオグリカン(HSPG)及びNMDAレセプター(NMDAR)からなり、これは一過的にかつ活性に依存してコレステロール(CHO)リッチな膜マイクロドメイン中に一緒になって組み立てられる。特に、カルシウムシグナリングの形成は、翻訳後修飾によるシナプス下足場タンパク質との相互作用のために重要である(PSD−95、特定のリン酸化されたドメイン、例えばパートナータンパク質上のPDZ又はSHドメインとの相互作用による)。このPSD95複合体は、直接的に炎症促進性酵素、例えば酸化窒素合成酵素(NOS、iNOSが誘導性であり、nNOSは神経性である)及びCox−2(シクロオキシゲナーゼ−2)を制御し、これは関連するが、必ずしも下流でない機構との複雑な関係においてその作用を促進し、前記機構はNAD+依存性酵素、例えばPARP−1(ポリADPリボースポリメラーゼ)及びSir−2(シルツイン−2)を伴う;PARGは、ポリ(ADPリボース)グリコヒドロラーゼであり、PARP−1に対する相補的かつアンタゴニスト性の酵素であり、HDACはヒストンジアセチラーゼであり、Sir−2を含む一般的な酵素クラスである。MPTPは、ミトコンドリア透過性遷移孔を意味する。DRP−2は、ジヒドロピリミジナーゼ関連タンパク質2である。また他の重要な膜タンパク質、例えば特定の二コチン性アセチルコリンレセプター(nAChRα7)、GABAAレセプター(GABAAR)アミロイド前駆体タンパク質(APP)及びプロテアーゼ(PS)は、脂質ラフトにおいて一過的に組織化され、かつ、様々な機能的特性をこの通常のリン脂質(PL)の環境の外側で必要とし、詳細は、(Schratten holz and Soskic 2006)中にある。
【0054】
図2:モリス水迷路(Morris water maze)中の学習実験の要約:ニューレグリン1β(NRG−1βECD)の溶解性細胞外ドメインの一日量3ng/kg(i.v.)で処置した動物は、ビヒクル処理動物に比較して学習が顕著により良好であった;IAE:内部領域入場;IAEF内部領域入場頻度;TS:内部領域中で過ごした時間;DT:内部領域中で移動した距離。
【0055】
図3:NRG−1βECDによるアンフェタミン誘発された活動過剰の減少、精神分裂病のために広く許容されているモデル。濃度は15〜600ng/kg(アンフェタミン適用15分前のi.v.注射)にわたった。ハロペリドール0.125mg/kgの正の対照を含めた。
【0056】
ハロペリドールが他の非典型的及び典型的な抗精神病薬と同様に通常は活動を対照レベルより下に減少させる一方で(ここではveh/vehと記した点線で示した、青で横断、赤で立ち上がり(rear))、NRG−1β−ECD減少は漸近的に活動の対照レベルに近づくが、更なる減少は生じない。NRG−1β−ECDの低い有効濃度及び好ましくない作用(ビヒクル対照レベル未満の活動の減少)の非存在は、このモデルにおける傑出した特性である。この作用は、p<0.05で有意である。
【0057】
図4:モリス水迷路中での脳のアミロイドーシス及びアルツハイマー病のAPPPSマウスモデルを用いた学習実験の要約:i.p.のNRG−1β−ECDの一日量200ng/kg処置した動物は、ビヒクル処理動物に比較して学習が顕著により良好であった;IAE:内部領域入場;IAEF内部領域入場頻度;TS:内部領域中で過ごした時間;DT:内部領域中で移動した距離。
【0058】
図5:ドーパミン及びその代謝産物のHPLC定量化:アスタリスクで標識した縦欄は高度に有意である。
【0059】
【表1】

【0060】
図6:MAO−B及びCOMTによるドーパミンの代謝
【0061】
図7:MPTP暴露は、黒質におけるドーパミン作動性ニューロンの顕著な損失を生じる(aMPTP、p=0.0005;及びcMPTP、p=0.0075)。20ng/kgのNRG−1β−ECDのip適用は、反転(aNR−MPTP;p=0.57、すなわち、ビヒクル対照から相違しない)又は明白な又は顕著なMPTP障害の改善を生じる(cNR−MPTP;p=0.0097);慢性モデル(20ng/kgのNRG−1β−ECDの5日間毎日のip適用)においては、ドーパミン作動性ニューロンの数の顕著な作用もある(cNR:p=0.0002)。
【0062】
【表2】

【0063】
図8:ニューレグリン−1βについて染色したAPPPSマウスの脳タンパク質の2Dウェスタンブロットの2個の代表画像は、それぞれの、処理しかつ良好な学習動物(上)及び未処理の劣った学習能力を有する動物(下)を示す。上方部分における数は、2Dゲルのpl値である。
【0064】
図9:ウェスタンブロット実験は、アルツハイマー患者及び対照からの死後の皮質材料における余剰のNRG−1β−ECD断片を比較する。
【0065】
図10:2D−PAGEは、約5〜5.5のpl及び約25〜32kDの分子量を有するNRG−1β−ECDの酸性アイソフォームは、この実験においてアルツハイマー病の患者の脳において明白に減少していることを示す。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】図1は、ニューレグリン1についての、神経変性疾患、神経学的疾病また同様に生理学的機能において中心的であると考えられる機構の上流の制御性原則としてのNRG1の鍵となる機能的位置を示す図である。
【図2】図2は、モリス水迷路(Morris water maze)中の学習実験の要約を示す図である。
【図3】図3は、NRG−1βECDによるアンフェタミン誘発された活動過剰の減少を示す図である。
【図4】図4は、モリス水迷路中での脳のアミロイドーシス及びアルツハイマー病のAPPPSマウスモデルを用いた学習実験の要約を示す図である。
【図5】図5は、ドーパミン及びその代謝産物のHPLC定量化を示す図である。
【図6】図6は、MAO−B及びCOMTによるドーパミンの代謝を示す図である。
【図7】図7は、MPTP暴露は、黒質におけるドーパミン作動性ニューロンの顕著な損失を生じることを示す図である。
【図8】図8は、ニューレグリン−1βについて染色したAPPPSマウスの脳タンパク質の2Dウェスタンブロットの2個の代表画像を示す図である。
【図9】図9は、ウェスタンブロット実験により、アルツハイマー患者及び対照からの死後の皮質材料における余剰のNRG−1β−ECD断片を比較する図である。
【図10】図10は、約5〜5.5のpl及び約25〜32kDの分子量を有するNRG−1β−ECDの酸性アイソフォームは、この実験においてアルツハイマー病の患者の脳において明白に減少していることを示す図である。
【図11】図11は、実験のセットアップを示す図である。
【図12】図12は、動物の経路記録からコンピューター計算されるべきパラメーターの定義のための区域を示す図である。
【0067】
実施例
一般:
以下の全実験においては、ニューレグリン−1βの断片を使用しており、これは、ヒトのnrg−1遺伝子の全転写産物の細胞外ドメイン(ECD)のみを含有する。これは、リン酸化及び/又はグリコシル化状態に依存して約25〜32kDの分子量及び約5〜9.5の等電点を有した。
【0068】
ニューレグリン−1アイソフォームの生理学的に活性のある形態は、約5.5のplを有する。この生理学的に活性のある形態は、約5.5のplを有する(この実験のほとんどは、市販の、大腸菌(E.coli)中で産生されるアイソフォームを用いて実施され、これは26kDの分子量及び約9.0のplを有する)。
【0069】
このアイソフォームは、R & D Systems, Inc.から購入された(カタログ番号377-HB-CF)、NRG−1βの最初の245アミノ酸からなる組み換え溶解性ヒトのNRG−1β断片である。以下においてはNRG−1β−ECDと名付けられる。この活性のあるアイソフォームは約9.0のplを有する。
【0070】
我々は、8kDを有するNRG−1βの相応する断片も試験し、これはR&D Systemsから購入された(カタログ番号396-HB)EGFドメインのみを含有する。この断片は、in vitroでもまた同様にin vivoでも神経保護性であるようであるが、発癌性に関する憂慮を惹起するより高度な増殖特性のために、詳細には調査しなかった。
【0071】
実施例1
初期の毒物学的データは、NRG1β(ECD)が急性毒物学及びin vitro突然変異性試験において不利な作用を有しないことを示す。
・ラットにおいて急性の静脈性毒性は存在しなかった:全ての動物は研究期間の終わりまで生存した。研究の経過の間に臨床徴候は観察されなかった。動物の体重は、この株及び年齢について一般的に記録される範囲内にあった。屍検では顕微鏡的知見は記録されなかった。14日間の期間にわたり観察された、メスのラットへの単一静脈投与後のNRGβ1(ECD)の中央致死量は:LD50(メスのラット):5000ng/kg体重より多い。
・用量レベル50、200及び600ng/kg体重/dでの7日間の期間にわたるニューレグリンの毎日の静脈投与は、いかなる未成熟な死も生じなかった。臨床徴候は観察されなかった。この処置は、餌消費及び体重発育に作用しなかった。この無影響レベル(NOEL)を600ng/kg体重/dで確立した。
・細胞系L5178Yを使用した、OECD Guideline for the Testing of Chemicals, No. 476 "In vitro Mammalian Cell Gene Mutation Test"によるマウスリンパ腫チミジンキナーゼ遺伝子座(locus)アッセイにおいて、NRG1B(ECD)は非突然変異誘発性であった。
・OECD Guideline for the Testing of Chemicals, No. 473によるチャイニーズハムスターV79細胞中での染色体異常試験において、NRG1β(ECD)は構造的な染色体異常を誘発しなかった。
【0072】
更に、有効性に関して実施されたこの動物実験のいずれにおいても(この幾つかのものは毎日のiv適用を用いて数ヶ月継続する)、NRG1β(ECD)の不利な作用は全く観察しなかった。
【0073】
以下に説明する様々な動物モデルにおけるNRG1β(ECD)の適用は、静脈(iv)又は腹腔内(ip)注射のいずれかにより行われた;濃度は3〜600ng/kgの範囲にわたった。
【0074】
実施例2
学習及び記憶:NRG−1β−ECD適用あり及び無しでの空間学習
方法:
モリス水迷路は、空間学習を評価する。これは、動物を水で満たしたプール中で泳がせ、かつ、この表面のすぐ下に沈められた救助足場(rescue platform)を見つけさせる。この足場が迷路の壁から離れて配置され、かつ、動物が位置の推定を可能にする水表面から可視できる参照点を有し、但し、これが連想学習を可能にするために標的に十分近すぎないことが必須である。動物は、足場を介した場合にのみ救助がくるように訓練され、これは足場を見いだせない全ての動物は足場に案内され、かつ、このセットアップから取り除かれる前に休息させることを意味する。したがって、マウスにとって最も重要な参照点の1つは、人間の操作者である。
【0075】
実験は、ネズミの空間想起に関連した2つの鍵となるパラメーターの決定を目的とする:
・マウスがこの足場を配置し直す(relocate)ことを学習する速度、
・短期間でこの情報を保持する能力(訓練期間内又はオーバーナイト)。
【0076】
動物
この研究をAPP/PSマウス(Meyer-Luehmann et al. 2006;Radde et al. 2006)の2つの群を用いて実施し、このうちの一方をNRG−1β−ECDの毎日の用量により処置し、かつ、もう一方は対照として偽処置されている。それぞれの群は、最初の実験系列の開始時に9週齢の8匹の雄からなる。
【0077】
この最初の実験系列は、42週に8匹の処理したマウス及び8匹の未処理マウスの2つのサブグループで開始し、15日間にわたり持続するものである。更なる同一の実験の系列は、6、12等の週間後に実施されるものである。
【0078】
第2の一対のサブグループ(8匹の処理及び8匹の未処理の9週齢の雄)については、同じ系列の実験を48週に開始し、この結果このサブグループの実験はこの最初のサブグループの1つのちょうど6週間遅れである。
【0079】
装置
この処理及び未処理APP/PSマウスの学習適性を、円形のモリス水迷路を用いて評価し、これはマウスを消耗させることなく探索空間を提供するために十分大きい必要がある。最大限に注意を払うべきは、全ての実験を通じて実験のセットアップの各詳細を可能な限り変動しないように維持することである。
【0080】
この現在の研究においては、120cmの直径のプールを使用し、これは実験室中で常に同一の向きを有して正確に再現可能な位置に配置されている。プール中の固定された位置で、白色の半透明な円形の、15、10又は5cmの直径の足場を配置し、これは水面のちょうど下へと延び(この結果この足場はマウスに見えない)、かつ、動物がよじ上れるように配置されている−これは水から出て休息するための唯一の手段である。よじ登りを評価するために、足場は金網グリップで被覆されている(図11参照)。
【0081】
以下説明するとおりに救助手順を検査試験において実施するために、足場に、直接的な操作者の介入なしに自動的に昇降可能にする機構を備える。このようにして、その高さに依存して、足場は水泳中のネズミにとってアクセス可能であるか又は「オンデマンド足場」(Buresova et al. 1985)ではない。
【0082】
足場配置は環状に形成された、それぞれ〜40cm及び〜80cmの内側直径及び外側直径を有するプールの同心状の領域中に常に配置されりる。4つの四分円は、足場がこのうちの1の中心領域を占めるように定義される(標的四分円)。足場サイズ及び位置についての更なる詳細については以下を参照のこと。
【0083】
足場位置がこの実験の全系列を通じて正確に同じになることを確かにするために、ソケットをプール床に固く添え、この上に足場は最小限の空間的許容性でもって取り付けられることができる。足場の上部には、その中心に、水から突出する(隣接する)手がかりのための他の取り付けが存在し、これは、ビデオ録画で良好に可視可能であり、同様のことはプール中の水泳するマウスについても当てはまる。足場位置の確認のために、短いビデオ録画が動物なしではあるが足場中へとはめ込まれた手がかりありで行われるものであり、これは足場又はビデオカメラがいずれにせよ操作される場合にはいつでも当てはまる。
【0084】
水は、低脂肪乳粉末を用いて不透明にしてある。水温は、出口の探索を促すために十分冷たいことが望ましいが、動物が苦しんだり又は消耗するほど冷たくはない。適正な妥協策として、水温はそれぞれの実験の開始時にモニターされ、かつ、温水又は氷片でもって18℃に調節される。個々の試験の間に温度を必要に応じて再適合させる。
【0085】
(異なる単純な幾何学的形状及び異なる色彩、高さ〜20cmの)4つの遠位の手がかりを、プールの側面の〜20cm上方に取り付け、各四分円中に1つである。注意すべきであるのは、全ての実験を通じてこの正確に同じ配置中に手がかりが配置されていることである。全体のプールを白色の半透明のカーテンにより囲む。照明は薄暗くかつ散乱的である。
【0086】
ビデオカメラをプール中心の上のちょうど垂直な位置に固く取り付け、この結果プールは完全にビデオ画像を満たす。ビデオ録画を少なくともPAL解像度でとる(720×576ピクセル、1秒間あたり25フレーム)。ビデオを自動追跡システムにより評価し、この結果時間に伴う動物の運動の欠点のない検出が可能になる。
【0087】
スティック上に取り付けられた特殊な装置を用いてマウスを水中に配置し、この結果これらは半透明なカーテン製の小屋に入る操作者なしにプールの縁にそって正確に定義されたスポットで水で湿潤されることができる。
【0088】
実験的設計
各セッションにおいて、マウスを予め定義された部位でプール中に配置し、60秒間水泳させる。動物の運動路をビデオ追跡システムにより記録し、パラメーターをコンピューター計算し、ここから動物の学習適性に関する結論が導き出される(最も明らかであるのは、マウスがこの足場に最初にぶつかるまでの時間=「逃走潜時」;更なる詳細については以下参照のこと)。マウスが足場の発見に成功すると、短期間(〜15s)そこに休息させたままにする。さもなければ、水泳60秒後、マウスを操作者により足場に案内し、〜15秒間休息させる。その後、操作者により持ち上げ、優しく乾燥させ、その小屋に戻すか又は次の水泳のために準備させる。
【0089】
実験のそれぞれの日に、マウスにつき1の試験を早朝に実施する。それぞれの試験は2つの連続的な水泳からなり、これは2つの異なる四分円から発生するが、標的四分円からでない。正確な水でぬらす部位(及び適用可能である場合には常に足場部位)は、それぞれの日のそれぞれの水泳についてランダムに割り当てられ、しかしながらこの日の間の個々のマウスの間で相違しない。
【0090】
マウスが水泳の回数を極めて緩慢に学習することが分かった場合には1回の試験について又は1日につき複数の試験について増加してよい(逆も同じである)。さらに、多くのマウス株において若い動物は極めて迅速に学習し、このため訓練の4又は5日後に、逃走潜時は数秒間のみ一定のままであり、これは処理動物においても未処理動物においても等しく事実である。しかしながら、統計学的評価については、訓練日数にわたる逃走潜時の曲線が飽和せずむしろ単調に減少する場合に有利である。したがって、解決すべき問題が訓練の進行に伴いより困難になる実験的設計を使用する:予め定義された日に足場をより小さいものと置き換え、その一方でこの足場の中心座標は同じままである。足場が交換される場合又はその時は、実験のそれぞれの系列について独立して決定されてよく、かつ、先立つ系列の結果に依存すべきである。
【0091】
実験のそれぞれの系列においてマウスに3つの異なる種類の課題を課す:
・合図された配置ナビゲーション。プラットフォームを手がかりでマークし、マウスを足場を見つけるまで泳がせる。この手順は連想的学習を試験し、マウスを可能な限り類似している学習適性である2つの実験群にわけるのに役立つ。更に、第2の及び更なる系列の実験において、合図された場所ナビゲーションは、先行する系列における足場の位置の薄れていく想起を支持する。
・隠された足場獲得訓練。足場はマウスに可視可能でなく、かつ、先行する水泳の間に同じ配置に位置される。この課題は、隠された足場の正確な配置を想起することについてのてマウスの進歩をモニターすることを可能にする(「空間的学習」)。
・検査試験実験。この課題において、オンデマンド足場を表面下に最大限低下させ、マウスをこれを自由に探索させながら泳がせる。検査試験実験は、動物の絶対的な想起を評価し、これは、この文脈においては、足場配置に関する信念、忍耐又は確信とも解釈されることができる。実験を解釈するための慣用的アプローチとは、足場の固く固定された場所を有する動物が、限定された場所においてより忍耐強く探索し、したがって足場の隣の区域においてより時間を費やすであろうことである。
・検査試験実験において、足場を見出すことについての不能性が足場区域へと泳ぐための刺激を減少させる可能性があるという危険が存在する。これらのいらだちを可能な限り小さく維持するために、ヒトの救助の調節は同じに維持されなくてはならず、この結果、足場の非存在にもかかわらず幾ばくかの空間的な不変性が存在する。したがって、水泳60s後足場を表面のちょうど下におろし、このマウスをここに操作者により案内し、この装置から取り出される前に〜15sにわたり休息させる。
検査試験実験の全ての日に、ただ一回の水泳が実施される。
【0092】
各試験の約60分間前に、マウスを毎日NRG−1β−ECD5ng/kg(黒色の6マウスの血清中に懸濁され、マウスにつき20μlの容量においてi.v.で提供)又はビヒクル20μlでそれぞれi.v.で処理した。
【0093】
第1の系列の実験の1日目に、全てのマウスは研究において偽処理のみを受けた。この後でマウスをニューレグリン及び対照群に割り当て、この結果逃走潜時の分布が両者のグループで適合する。
【0094】
それぞれの系列の実験において、以下の年代記を添付する:
1日目.10cmの大きさ及び各水泳毎に変化する位置の足場を用いた合図された足場探索。
2日目.10cmの大きさ及び各水泳毎に変化する位置の足場を用いた合図された足場探索。
3日目.10cmの大きさ及び各水泳毎に変化する位置の足場を用いた合図された足場探索。
4日目.10cmの大きさ及び3日目の最後のものと同じ位置の足場を用いた合図された足場探索。
5日目.15cmの大きさ及び同じ位置の足場を用いた隠された足場探索。
6日目.15cmの大きさ及び同じ位置の足場を用いた隠された足場探索。
7日目.15cmの大きさ及び同じ位置の足場を用いた隠された足場探索。
8日目.10cmの大きさ及び同じ位置の足場を用いた隠された足場探索。
9日目.検査試験実験。
10日目.10cmの大きさ及び同じ位置の足場を用いた隠された足場探索。
11日目.10cmの大きさ及び同じ位置の足場を用いた隠された足場探索。
12日目.5cmの大きさ及び同じ位置の足場を用いた隠された足場探索。
13日目.5cmの大きさ及び同じ位置の足場を用いた隠された足場探索。
14日目.5cmの大きさ及び同じ位置の足場を用いた隠された足場探索。
15日目.検査試験実験。
【0095】
存在する足場なしにマウスを数日間自由に泳がせることにより、先行するセットの実験から足場の位置の反学習を助力することが必要であってよい。
【0096】
学習速度を各訓練/試験セッションをモニターし、かつ、足場を見出すことにおける動物の成功また同様に、足場がある中心領域近辺において探索すべき側から移動して遠ざかるためのプールの側面を回避することからの探索戦略の進化に注意することにより評価する。
【0097】
測定されたパラメーター
動物のビデオ記録から、それぞれのマウスの動き経路を抽出し、x、yの系列及び時間軸として更なるプロセス処理のためエクスポートする。
【0098】
信頼してそれぞれの経路の開始点を同定できるよう、かつ、追跡エラーを回避するように、注意しなくてはならない。同時に、パラメーターの数をコンピューター計算し、ここから動物の学習適性に関する結論が導かれることができる(以下参照のこと)。パラメーター記録は60秒後又はマウスが足場を見出した場合に維持する(いずれかより早く起こった方)。
【0099】
動物の経路記録からコンピューター計算されるべきパラメーターの定義のために以下の区域が定義される(図12参照のこと):
評価を可能な限り柔軟に維持するために、5.5〜30cmの直径の4つの同心標的区域(足場に関して中心にある)を利用する。
【0100】
動物の経路記録からコンピューター計算されるパラメーターは次のものを含む:
・移動した全距離
・全体的な平均速度
・プール中心への入場の回数
・プール中心中での時間
・プール中心への最初の入場への潜時
・最初の入場からプール中心へと移動した距離
・内部領域への入場の回数
・内部領域中での時間
・内部領域中で移動した距離
・内部領域への最初の入場への潜時
・内部領域への最初の入口へ及び各標的区域1〜4及び標的四分円のために移動した距離
・区域への入場の回数
・区域中での時間
・区域中に移動した距離
・区域に最初に入場するための潜時
・区域に最初に入場するために移動した距離
・経路の開始から区域の最も近い点への距離
・区域の外側の場合の区域からの平均距離
・区域の外側の場合の区域からの最小距離
・区域の外側の場合の区域からの最小距離への時間
・区域に近づく時間
・区域から更に離れる時間
・区域にむかって移動する時間
・区域から離れて移動する時間
・区域へのヘッド(head)入場の回数
・区域中でのヘッドの時間
・ヘッドが区域中で移動した距離
・区域へのヘッドの最初の入場の潜時
・区域の外側の場合の区域からのヘッドの平均距離
・区域の外側の場合の区域からのヘッドの最小距離
・最初のヘッディングエラー
・平均のヘッディングエラー
・区域から出る回数。
【0101】
実験それぞれの日のために、処理および未処理の群中の学習進展のパラメーターの読み取りを、相互に統計学的に比較する。
【0102】
個々のマウスの経路記録を試験する場合に、ヒトの観察者は、足場を配置することについての動物の主張(assertiveness)の妥当に現実的な認知をすることができるようになり、これは測定されたパラメーター値において完全には反映されていない。したがって、経路記録をも手動で検査し、足場位置の動物の想起を評価した。
【0103】
結果:
一日量3ng/kgのNRG−1β−ECDでi.v.で訓練の30分前に処理したこれらの動物は、ビヒクル処理群に比較して学習関連パラメーターにおいて顕著により良好であった。
【0104】
ニューレグリンは改善された学習のみでなく、しかしながら処理された動物は、より発達した探索戦略も有した。より多くの処理動物は、プールの内側領域に入り(11vs.7、p=0.019)、内側領域への入場はより頻繁に生じ(2.17vs.0.92回、p=0.02)、内側領域中を移動して費やした時間及び距離はより長かった(6.51vs.2.13s、p=0.09及び0.64m vs.0.25m、p=0.031、それぞれ)。
【0105】
モリス水迷路中での学習実験の結果を図2に要約する。
【0106】
実施例3
精神分裂病:ラット中でアンフェタミン誘発された活動過剰
方法:
抗精神病及び抗パーキンソン病活性を検出する方法は、Costall et al. 1978により説明された方法にならい、そしてBoissier and Simon 1966により説明されたものに類似する活動メーターを使用する。
【0107】
アンフェタミンはこの試験状況において活動過剰を誘発する。活動過剰は、辺縁系レベルでのドーパミン作動系に作用する典型的かつ非定型の(atypical)向精神病薬により拮抗され、かつ、抗パーキンソン薬により強化される。
【0108】
ラットにd−アンフェタミン(3mg/kg i.p.)を注射し、すぐさま活動メーター中に配置する。
【0109】
この活動メーターは、12個のカバー付きプレキシガラスケージ(40×25×25cm)からなり、暗くしたキャビネット内に含まれる。それぞれのケージは、それぞれのケージの末端で、床の3cm上に2つのフォトセル組立を備え、これは、ケージの一端からもう一端へとそれぞれの動物(ケージにつき一匹)による動きの数を測定するためである。2つの更なるフォトセル組立を、立ち上がり(rearing)を記録するために床上20cmに配置する。活動及び立ち上がりのためのスコアを、10分間の間隔でコンピューターにより記録し、30分間の期間にわたり蓄積した。
【0110】
15匹のラットを一群につき研究した。この試験を盲検的に実施した。この試験物質を、8の用量で評価し、アンフェタミンの15分前にi.v.投与し、ビヒクル対照群と比較する。実験は、アンフェタミンで未処理の対照群も含んだ。同じ実験状況で投与したハロペリドール(0.125mg/kg i.v.)を参照物質して使用した。この実験はしたがって16群を含んだ。
【0111】
データを対応のないスチューデントのt試験を用いて処理群と適当な対照とを比較することにより分析した。
【0112】
結果:
図3に示されるとおり、NRG−1β−ECDは用量依存的にアンフェタミンにより誘発された過剰活動を精神分裂病のための動物モデル中で抑制した。著しく、この実験はNRG−1β−ECDの傑出した特性を明らかにする:
・図3中に示される作用は、実験の第2の半分(20〜40分)において最強である。最初の20分間においてはより小さな作用のみが見出されることができ、これはこのタンパク質の更なるプロセッシングへと作用点を遅延させた。
・ここで使用したNRG−1β−ECDの有効濃度は、典型的な対照神経遮断薬、例えばハロペリドール(125μg/kg)について使用したものよりも約200〜1000倍より低い。
・ハロペリドール、クロザピン、オランザピンその他とは対照的に、NRG−1β−ECDはビヒクル対照レベル未満に試験動物の活動を減少させないので、不利な作用は観察されない。
【0113】
実施例4
精神分裂病:プレパルス阻害
NRG1ノックアウトを有する齧歯類は、顕著に損なわれたプレパルス阻害(PPI)を示し、これはNRG1を精神分裂病につなげる。動物モデル中の精神病の広く使用される代理測定、PPIは、精神分裂病エンドフェノタイプと考えられる。精神分裂病及び健康な対照集団の両者において、広範なジェノタイピング後に、PPIに対して、NRG1(rs3924999)上に配置されている非同義単一ヌクレオチド多形のミスセンス突然変異の神経生理学的作用があることが報告された(Hong et al. 2007)。PPIに対するNRG−1β−ECDの作用を試験した。これまでの結果は以下のように要約されてよい:
この作用は、115dBで、統計学的有意には達せず、観察されなかったが、105dBで、NRG−1β−ECDは、PPIの再確立に対して一般的な傾向を示した(+26%、+23%及び+36%、150、300及び600ng/kg、それぞれ)。これは150又は300ng/kgで刺激の非存在において自発的な動きに対する作用を有しなかったが、600ng/kgで刺激の非存在において自発的な動きを顕著に減少させた(−20%及び−29%、平均及びピーク強度に対して、それぞれ、p<0.05、これはアリピラゾールに類似である)。NRG−1β−ECDは、プレパルス単独に対する反応に対して作用を有しなかった。
【0114】
これまでの結果は、150〜300ng/kgの用量範囲にわたるPropsy100についてのアポモルフィン誘発されたPPI欠失及び自発運動また同様にPPIの再確立に対する傾向の減少に対する顕著な作用の非存在を示唆し、これはラットにおけるプレパルス抑制(PPI)試験における600ng/kg i.v.でのものである(アポモルフィンにより誘発される欠失)。
【0115】
この実験系列において、参照物質、アリピプラゾールは、弱いが顕著な活性を3mg/kg i.p.で有したが、同じ試験において10mg/kg i.p.では有しなかった。
【0116】
一緒になってかつ使用した条件下で、NRG−1β−ECDは、約600ng/kgのより高い濃度でPPIに作用するようである。これらの結果は、意外なことに、精神分裂病における有力な候補遺伝子の1つとして(NRG1)を示唆する最近の神経生物学的研究の新規の理解を開く。
【0117】
実施例5
アルツハイマー病のための動物モデル(APPPS dtマウス)における学習及び記憶
通常マウスについて上述したとおりのモリス水迷路セットアップにおけるニューレグリン1β(NRG−1β−ECD)の溶解性細胞外ドメインの適用あり又はなしでの学習及び記憶を試験する動物実験を、大脳アミロイドーシスについてのダブルトランスジェニックマウスモデルに繰り返した(APPPSマウス(Meyer-Luehmann et al. 2006;Radde et al. 2006))。
【0118】
ここでも、一日量のNRG−1β−ECD(ここでは200ng/kg i.p.を適用)で訓練の30分前に処理したこれら動物は、ビヒクル処理群に比較して学習関連パラメーターにおいて顕著により良好であった。
【0119】
ニューレグリンは改善された学習のみでなく、しかしながら処理された動物は、より進んだ探索戦略をも発達させた:より多くの処理された動物は、プールの内側領域に入り(12vs.7、p=0.009)、内側領域への入場はより頻繁に生じ(2.0vs.0.7回、p=0.03)、内側領域中を移動して費やした時間及び距離はより長かった(5.3vs.2.1s、p=0.09及び0.7m vs.0.3m、p=0.025、それぞれ)。
【0120】
大脳アミロイドーシス及びアルツハイマー病のAPPPSマウスモデルを用いたモリス水迷路中での学習実験の結果を図4にまとめる。
【0121】
実施例6:
パーキンソン病のニューレグリン1−βMPTPマウスモデル
方法:
10週齢の雄のC57Bl/6マウスをパーキンソン病のためのMPTP(1−メチル−4−フェニル−1,2,3,6−テトラヒドロピリジン)モデルにおいて使用した。
【0122】
10週齢の雄のC57BI6マウス(N=10、1群につき)の脳組織を、NaCl(対照)又はMPTP(急性及び亜慢性モデル)を用いた処理後の異なる時間(0、1、3、7、21日)に切開した(黒質、線条体、皮質)。この方法は、刊行された手順に従う(Hoglinger et al. 2007;Hoglinger et al. 2004)。
【0123】
【表3】

【0124】
MPTPを粉末として0.9%のNaCl中に溶解させ、腹腔内注射した(急性適用:4×20mg/kg、それぞれ2時間の間隔で;慢性適用:5×30mg/kg、それぞれ24時間の間隔で)。これらの注射は約10秒間かかり、動物を頸部脱臼により定義された時間点(表参照)に屠殺した。この手順は、刊行されたプロトコルに従う(Hoglinger et al. 2007;Hoglinger et al. 2004;Liberatore et al. 1999;Przedborski and Vila 2003; Vila and Przedborski 2003)。
【0125】
最後のMPTP投与0日後:線条体のドーパミン作動性神経の損失
最後のMPTP投与1日後:マイクログリア活性化の開始
最後のMPTP投与3日後:最大限のマイクログリア活性化
最後のMPTP投与7日後:最大限のアストロサイト活性化
最後のMPTP投与21日後:最大限の細胞死。
【0126】
Alzet Mini pumpを介したNRG−1β−ECD及び対照ペプチドの大脳注入21日後に、MPTP処理(急性又は慢性)が引き続き、中間脳のドーパミン作動性ニューロンの組織学的定量化を立体解析学的原理により実施した。線条体中のドーパミン及びその代謝産物の生化学的定量化をHPLCにより実施する。手順は、刊行されたプロトコルに従う(Hoglinger er et al. 2007;Hoglinger et al. 2004)。
【0127】
【表4】

【0128】
結果:
図5に示されるとおり、ドーパミン及びその代謝産物のHPLC測定の結果は、MPTP傷害(insult)の間にこのパーキンソン病のためのモデルにおいて、NRG−1β−ECDの投与の明白な作用を明らかにする。
【0129】
この作用は、非典型的である:ドーパミンレベルに対する顕著な作用が、MPTP傷害の間もNRG−1β−ECD投与の急性又は慢性対照中にも存在しない一方で、DOPAC及びHVAの濃度に対する著しくかつ明白な作用が存在する。NRG−1β−ECDの慢性的投与は、MPTP傷害の非存在におけるこの代謝産物の明白かつ顕著な減少を生じ、その一方でこの急性の様式においてわずかな減少のみが観察される。MPTP傷害の慢性状態の間に、NRG−1β−ECDは、ホモバニリン酸(HVA)の顕著な増加を生じ、MPTP傷害の非存在においてより一層明白な効果である。
【0130】
これらの結果は、慢性的NRG−1β−ECD投与及び/又はCOMT上方制御の間のMAO−Bの下方制御により解釈されることができる。適用された条件下でドーパミン作動性ニューロンの生存に対する巨大なかつ顕著な有利な作用が観察された。NRG−1β−ECDはこのモデルにおいて高度に神経保護性でもある。この系列の実験の間にip注射をすると、この明らかな有効性は、NRG−1β−ECDが血液脳関門を通過することにおいて高度に効率的であることも再度証明する。
【0131】
図6は、NRG−1β−ECD投与により作用されるように見える代謝スキームを示す:ドーパミンはMAO−BによりDOPACへと、そしてCOMTにより3−MTへと変換される;ホモバニリン酸は引き続き両者の代謝産物からCOMTによりDOPACから、そしてMAO−Bにより3−MTから産生される;NRG−1β−ECD投与は、両方の酵素の活性を明らかに制御する。
【0132】
より一層重要であり、かつ、図7に示されるとおり、パーキンソン病のMPTPモデルにおいては、NRG−1β−ECDの明白かつ顕著な神経保護性の作用が存在し、これは中間脳のドーパミン作動性ニューロンの組織学的定量化により明らかになる。この組織学的方法は、その他にも説明されている(Liberatore et al., 1999, Przedborski & Vila, 2003; Vila & Przedborski, 2003; Hoglinger et al., 2004; Hoeglinger et al., 2007)。
【0133】
一緒にすると、パーキンソン病のMPTP動物モデルにおける意外にも明白かつ利益のある神経保護作用が存在する。この作用は、極めて低濃度のNRG−1β−ECDの腹腔内投与(例えば20ng/kg)が、有効性を達成するために十分であり、したがってNRG−1β−ECDが脳血液関門を通過することを再度証明する。ドーパミン代謝産物に対する複雑な作用(HPLC結果;図5)も、MAO−B及びCOMTのNRG−1β及びNRG−1β−ECDによる制御を指摘する。
【0134】
実施例7
有効成分(active principle)としてのNRG−1β−ECDの酸性翻訳後アイソフォームの同定
学習及び記憶においてNRG−1β−ECDの特定の翻訳後酸性アイソフォームが活性のある形態であるという証拠を刊行した(Schillo et al. 2005a)。ここでは、同様のパターンがアルツハイマー病の動物モデル及びアルツハイマー病及びパーキンソン病患者からの死後の脳組織において観察されることを示す。我々は、この酸性アイソフォームが有効成分であることを結論づける。
【0135】
方法:
ウェスタンブロット染色のために以下の抗体を使用した:抗NRG1−ECD、ウサギポリクローナル(sc-28916 ロット:I 2905 Santa Cruz; H-210)
ニューレグリン−1(H−210)は、ヒト由来のニューレグリン−1アイソフォームHRG−αのN末端細胞外ドメイン内のアミノ酸21−230マッピングに対して産生されたウサギポリクローナル抗体である。ニューレグリン−1(H−210)は、マウス、ラット及びヒト由来のニューレグリン−1アイソフォームHRG−α、HRG−α1A、HRG−α2B、HRG−α3、HRG−β1、HRG−β2、HRG−β3(GGF)、GGF2及びSMDFのウェスタンブロット(開始希釈1:200、希釈範囲1:100〜1:1000)、免疫沈降[全タンパク質100〜500μgにつき1〜2μg(細胞溶解物1ml)]及び免疫蛍光(開始希釈1:500、希釈範囲1:50〜1:500)による検出のために推奨される。
【0136】
二次抗体は次のものであった:
抗ヤギ、HRP
sc-2922ロット:C 1405 Santa Cruz
抗ウサギ、HRP
sc-2054ロット:C 2005 Santa Cruz。
【0137】
免疫染色の次に、MALDI−TOF及びQ−TOF質量分析をNRG−1β−ECDを確認するために実施した。
【0138】
いまや、大脳アミロイド形成及びアルツハイマー病のAPPPSマウスモデルにおいて極めて類似のパターンを図8に示すとおり見出す。この特定の酸性のアイソフォームのNRG−1β−ECDの濃度は、約pl5.0で、同時により良好な学習者である処理されたAPPPSマウスにおいて顕著により高い。
【0139】
図8には、それぞれの、処理された良好な学習動物(上)及び劣った学習能力を有する非処理動物(下)の代表的な画像が示される。
【0140】
図9は、それぞれ9人のアルツハイマー患者及び年齢適合させた対照からの死後の皮質材料を用いたウェスタンブロット実験の結果を示す。NRG−1β−ECD断片が、アルツハイマーの場合に豊富さが顕著により少ないことを明白に示す。内部対照として、NRG−12の豊富さを測定し、これは疾病に関連する記憶喪失により作用を受けないように見える。
【0141】
この特定のアルツハイマー病及び記憶に関連したNRG−1β−ECDのアイソフォームの更なる検査を、図9について使用した同じ死後のヒトの脳材料の2次元ゲル(2D−PAGE)のウェスタンブロットにより行い、これは、図10に示される代表的な例により示されるとおりに、確かに、アルツハイマー状態において減少しているNRG−1β−ECDの酸性のアイソフォームであることを明らかにする。
【0142】
結論
我々はここで初めて、nrg−1遺伝子の転写産物の翻訳後修飾、特にタンパク質加水分解的開裂により産生された切断された形態であって、MW15〜35、pl4〜10を有するNRG−1βの細胞外ドメインを含有するもののin vivo作用の機能的な証拠を提示する;より特異的には、我々は、精神分裂病のための動物モデルにおける抗精神病薬活性を、5〜600ng/kg(i.v.)の濃度で、ことによるとMAO−B及びCOMTの制御に基づいて見出した。100〜1000倍より高い濃度で使用される対照神経遮断薬とは対照的に、不利な作用は観察されなかった。
【0143】
さらに、我々は3〜300ng/kg(i.v.)の濃度でのパーキンソン病のMPTPモデルにおける神経保護作用を見出した。
【0144】
さらに、我々は、学習及び大脳アミロイドーシス及びアルツハイマー病のためのそれぞれの動物モデルにおける記憶及び学習(モリス水迷路)に対する有利な作用を見出した。
【0145】
現在使用されている多くの非典型的な抗精神病薬の副作用を考慮すると(Haddad and Sharma 2007)、我々はSMDF、NRG−1α、特にNRG−1のEGFドメインを有する溶解性NRG−1−ECD断片は、精神分裂病、双極性障害及びうつ病の治療のための独立の又は共薬物療法として使用されてよいことを結論付ける。
【0146】
これは、ある意味で、中枢神経系の他の疾病において使用されてもよく、例えば神経変性疾患、例えばアルツハイマー病及びパーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症、卒中、外傷性の脳及び脊髄損傷である。
【0147】
溶解性NRG−1−ECDタンパク質は、神経シグナルトランスダクション、特にグルタミン酸シグナリング及び興奮毒性を媒介するシグナルトランスダクションにおける中心的な役割のためにこれらの極めて広範な作用を有し、これは前述した全ての適応症において中心的な役割を果たす(Schrattenholz and Soskic 2006)。
【0148】

【0149】

【0150】

【0151】

【0152】

【0153】

【0154】

【0155】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経学的状態の治療のための医薬品の製造のための組み換え溶解性ニューレグリン−1アイソフォームの使用。
【請求項2】
精神分裂病、特に精神分裂病の認知に関連した観点、双極性障害及びうつ病、パーキンソン病、アルツハイマー病、てんかん、MS、ALS、卒中、外傷性脳損傷及び脊髄損傷の治療のための請求項1記載の使用。
【請求項3】
ニューレグリン−1アイソフォームが組み換え溶解性ヒトニューレグリン−1アイソフォームである請求項1又は2記載の使用。
【請求項4】
ニューレグリン−1アイソフォームが、ニューレグリン−1βアイソフォーム、ニューレグリン−1αアイソフォーム又はSMDSアイソフォームである請求項1から3までのいずれか1項記載の使用。
【請求項5】
ニューレグリン−1アイソフォームがニューレグリン−1βアイソフォームである請求項4記載の使用。
【請求項6】
ニューレグリン−1アイソフォームがこの細胞外ドメインの少なくとも一部を含有する請求項1から5までのいずれか1項記載の使用。
【請求項7】
ニューレグリン−1アイソフォームがSDS−PAGEにより測定して約15〜約35KDの分子量を有する請求項1から6までのいずれか1項記載の使用。
【請求項8】
ニューレグリン−1アイソフォームが約4〜約10、有利には約4〜約6の等電点(pl)を有する請求項1から7までのいずれか1項記載の使用。
【請求項9】
ニューレグリン−1アイソフォームが修飾したポリペプチドであり、その際この修飾がリン酸化、グリコシル化、メチル化、ミリスチル化、酸化及びこの任意の組み合わせから選択される請求項1から8までのいずれか1項記載の使用。
【請求項10】
更なる医薬品との組み合わせにおける請求項1から9までのいずれか1項記載の使用。
【請求項11】
更なる医薬品が神経学的状態の治療のための医薬品である請求項10記載の使用。
【請求項12】
更なる医薬品が、カテコールアミン代謝に作用する化合物、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤、MAO−B−又はCOMT−阻害剤、メマンチン型チャネル遮断剤、ドーパミン又はセロトニンレセプターアゴニスト又はアンタゴニスト、カテコールアミン又はセロトニン再取り込み阻害剤又は任意の種類の抗精神病薬、例えばクロザピン又はオランザピン又はガバペンチン様薬剤であってアルツハイマー病及びパーキンソン病、精神分裂病、双極性障害、うつ病又はその他の神経学的状態の治療におけるものから選択される、請求項11記載の使用。
【請求項13】
更なる医薬品が、精神病性疾患、例えば精神分裂病、双極性障害及びうつ病の治療のための医薬品、例えばオランザピン又はクロザピンである請求項10又は11記載の使用。
【請求項14】
更なる医薬品がパーキンソン病の治療のための医薬品である請求項10又は11記載の使用。
【請求項15】
更なる医薬品がアルツハイマー病の治療のための医薬品である請求項10又は11記載の使用。
【請求項16】
更なる医薬品が多発性硬化症(MS)の治療のための医薬品である請求項10又は11記載の使用。
【請求項17】
更なる医薬品が筋萎縮性側索硬化症(ALS)の治療のための医薬品である請求項10又は11記載の使用。
【請求項18】
更なる医薬品がてんかんの治療のための医薬品である請求項10又は11記載の使用。
【請求項19】
更なる医薬品が卒中の治療のための医薬品である請求項10又は11記載の使用。
【請求項20】
更なる医薬品が外傷性脳損傷の治療のための医薬品である請求項10又は11記載の使用。
【請求項21】
更なる医薬品が脊髄損傷の治療のための医薬品である請求項10又は11記載の使用。
【請求項22】
(i)組み換え溶解性ニューレグリン−1アイソフォーム、及び
(ii)更なる医薬品、特に神経学的状態の治療のための更なる医薬品
を含有する医薬組成物又はキット。
【請求項23】
記憶及び認知促進のための医薬品の製造のための組み換え溶解性ニューレグリン−1アイソフォームの使用。
【請求項24】
神経学的状態、例えばアルツハイマー病に関連した記憶及び認知喪失を減少化及び/又は抑制するための請求項21記載の使用。
【請求項25】
ニューレグリン−1アイソフォームが請求項1から9までのいずれか1項に定義されているとおりである請求項21又は22記載の使用。
【請求項26】
医薬的有効量で組み換え溶解性ニューレグリン−1アイソフォームをこれを必要とする被験体に投与することを含む神経学的状態の治療方法。
【請求項27】
医薬的有効量で組み換え溶解性ニューレグリン−1アイソフォームをこれを必要とする被験体に投与することを含む記憶及び認知の促進方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2011−503134(P2011−503134A)
【公表日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−533509(P2010−533509)
【出願日】平成20年11月17日(2008.11.17)
【国際出願番号】PCT/EP2008/009715
【国際公開番号】WO2009/062750
【国際公開日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(508362608)プロテオシス アクチエンゲゼルシャフト (4)
【氏名又は名称原語表記】ProteoSys AG
【住所又は居所原語表記】Carl−Zeiss−Strasse 51, D−55129 Mainz, Germany
【Fターム(参考)】