説明

活性エネルギー線硬化型被覆材組成物及び成形物

【課題】優れた平滑性を有する硬化膜の表面を有し、硬化膜と金属基材との付着性に優れ耐湿性に優れた成形物を提供できる、硬化性に優れた活性エネルギー線硬化型被覆材組成物、及びその硬化膜が積層された成形物を提供する。
【解決手段】ジブチルフマレ−ト単位及び水酸基含有単量体単位を含む、質量平均分子量が20,000〜40,000で水酸基価が40〜60mgKOH/gである共重合体(A)30〜60質量部、分子中に少なくとも1個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する(メタ)アクリレート(B)25〜69.9質量部及び光重合開始剤(C)0.1〜15質量部を含有し、共重合体(A)、(メタ)アクリレート(B)及び光重合開始剤(C)の合計量が100質量部である活性エネルギー線硬化型被覆材組成物及びそれから得られる成形物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は活性エネルギー線硬化型被覆材組成物及び成形物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、照明器具における光を反射させるための反射鏡又はリフレクター部品、携帯電話等の家電製品、化粧品容器等の加飾用途において、例えば、プラスチック成形品の表面のハードコート材、プラスチック成形品の表面に真空蒸着等による金属化処理を施す際に使用されるアンダーコート材及び金属化処理が施されたプラスチック成形品の表面を保護するためのトップコート材として活性エネルギー線硬化型被覆材組成物が生産性や省エネルギーの観点から広く使用されている。
【0003】
このような状況において、金属基材の薄肉成形等の成形技術が進歩し、携帯電話、デジタルカメラ等の各種用途において、プラスチック成形品の代わりにステンレス等を使用した強靭性に優れる薄肉の金属成形品を使用する検討が実施されている。
【0004】
金属基材の表面を加飾するための活性エネルギー線硬化型被覆材組成物としては、従来のプラスチック基材に使用されていたものでは活性エネルギー線硬化型被覆材組成物の硬化物と金属基材との付着性が低位であり使用することは難しい。
【0005】
上記問題を改善するために、例えば、特許文献1で提案されているような金属蒸着上塗り用光硬化型塗料組成物を使用することが考えられる。しかしながら、特許文献1で提案されているような金属蒸着上塗り用光硬化型塗料組成物では、得られる硬化物とステンレス等の金属基材との付着性は充分とはいえない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−169308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、硬化膜と金属基材との付着性に加えて、硬化膜の平滑性及び耐湿性に優れた成形物を提供できる、硬化性に優れた活性エネルギー線硬化型被覆材組成物、及びその硬化膜が積層された成形物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の要旨とするところは、ジブチルフマレ−ト単位及び水酸基含有単量体単位を含む、質量平均分子量が20,000〜40,000で水酸基価が40〜60mgKOH/gである共重合体(A)30〜60質量部、分子中に少なくとも1個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する(メタ)アクリレート(B)25〜69.9質量部及び光重合開始剤(C)0.1〜15質量部を含有し、共重合体(A)、(メタ)アクリレート(B)及び光重合開始剤(C)の合計量が100質量部である活性エネルギー線硬化型被覆材組成物(以下、「本被覆材組成物」という)を第1の発明とする。
【0009】
また、本発明の要旨とするところは、金属基材の表面に本被覆材組成物の硬化膜が積層された成形物を第2の発明とする。
【0010】
更に、本発明の要旨とするところは、金属基材の表面に本被覆材組成物の硬化膜が積層され、本被覆材組成物の硬化膜の表面に金属蒸着層が形成された構造を有する成形物を第3の発明とする。
【0011】
尚、本発明においては、「(メタ)アクリ」は「アクリ」及び「メタクリ」から選ばれる少なくとも1種を示す。
【発明の効果】
【0012】
本被覆材組成物は硬化性に優れ、本被覆材組成物の硬化膜の表面は優れた平滑性を有し、本被覆材組成物の硬化膜とステンレス等の金属基材との付着性に優れ、本被覆材組成物の硬化膜が金属基材の表面に積層された成形物は優れた耐湿性を有し、更には本被覆材組成物の硬化膜の表面に金属蒸着層を形成し、その上に更にトップコートを形成した場合でも、硬化膜と金属基材との付着性に優れることから、本被覆材組成物の硬化膜を積層した金属基材を種々の用途に好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】

共重合体(A)

本発明で使用される共重合体(A)はジブチルフマレ−ト単位及び水酸基含有単量体単位を含む共重合体である。また、共重合体(A)は必要に応じて他の単量体単位を有することができる。
【0014】
共重合体(A)の質量平均分子量は20,000〜40,000、好ましくは20,000〜30,000で、水酸基価は40〜60mgKOH/gである。
【0015】
尚、本発明において、質量平均分子量はGPC測定によるポリスチレン換算により得られるものである。
【0016】
また、水酸基価は、1gの重合体試料を過剰のアセチル化剤である無水酢酸によりアセチル化して得られる重合体のアセチル化物に結合している酢酸を中和するために要する水酸化カリウム−アルコール溶液の消費量から算出して得られる値をいう。
【0017】
共重合体(A)の質量平均分子量を20,000〜40,000とすることにより、本被覆材組成物を金属基材の表面に塗装した時に平滑性に優れた塗膜が得られ、塗膜のタレを抑制することができる。
【0018】
また、共重合体(A)の水酸基価を40〜60mgKOH/gとすることにより、本被覆材組成物の硬化膜と金属基材との付着性を良好とすることができ、金属基材の表面に本被覆材組成物の硬化膜が積層された成形物の耐湿性を良好とすることができる。
【0019】
水酸基含有単量体単位を構成するための原料である水酸基含有単量体としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート及び2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートのエチレンオキシド付加物、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートのプロピレンオキシド付加物、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートのε−カプロラクトン付加物、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートの有機ラクトン類付加物等の水酸基含有ビニル単量体が挙げられる。これらの中で2−ヒドロキシエチルメタアクリレートが本被覆材組成物の硬化膜と金属基材との付着性の観点から好ましい。
【0020】
水酸基含有単量体は1種を単独で又は2種以上を併用して使用することができる。
【0021】
他の単量体単位を構成するための原料である他の単量体はジブチルフマレ−ト及び水酸基含有単量体と共重合する単量体であり、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−ノニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、2−ジシクロペンテノキシエチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル;スチレン、α−メチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、ビニルトルエン等の芳香族ビニル単量体;N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド化合物;(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸等の不飽和カルボン酸及び(メタ)アクリロニトリル等の重合性不飽和ニトリルが挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を併用して使用することができる。
【0022】
共重合体(A)中のジブチルフマレート単位の含有量としては、金属基材への付着性の点で、30〜40質量%が好ましく、33〜37質量%がより好ましい。
【0023】
また、共重合体(A)中の水酸基含有単量体単位の含有量としては共重合体(A)の水酸基価が40〜60mgKOH/gとなる量である。
【0024】
共重合体(A)を得るための重合法としては、例えば、溶液重合法、塊状重合法及び乳化重合法が挙げられる。重合反応開始時の反応液中の共重合体(A)を構成するための原料である全単量体の濃度は30〜50質量%が好ましい。

(メタ)アクリレート(B)

本発明で使用される(メタ)アクリレート(B)は分子中に少なくとも1個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有するもので、活性エネルギー線により硬化可能な単量体又はオリゴマーが挙げられる。
【0025】
(メタ)アクリレート(B)としては、例えば、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、アルキル(メタ)アクリレート等のモノ(メタ)アクリレート又はポリ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0026】
モノ(メタ)アクリレートの具体例としては、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート及びベンジル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0027】
ポリ(メタ)アクリレートの具体例としては、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(プロピレングリコール繰返し単位数2〜15)ジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス(2−(メタ)アクリロキシエチル)イソシアヌレ−ト、ペンタエリスリト−ルテトラ(メタ)アクリレ−ト、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレ−ト、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレ−トや、イソホロンジイソシアネートとペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートとを反応させたウレタンヘキサ(メタ)アクリレート、ジシクロメタンジイソシアネートと2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとを反応させたウレタンジ(メタ)アクリレート等のウレタンポリ(メタ)アクリレートや、トリメチロ−ルエタンとコハク酸及び(メタ)アクリル酸とを反応させたポリエステル(メタ)アクリレート、トリメチロ−ルプロパンとコハク酸とエチレングリコ−ルと(メタ)アクリル酸とを反応させたポリエステル(メタ)アクリレート等のポリエステルポリ(メタ)アクリレートが挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を併用して使用することができる。
【0028】
(メタ)アクリレート(B)としては、本被覆材組成物の硬化膜の平滑性の点で、モノ(メタ)アクリレートとポリ(メタ)アクリレートとを組み合わせて使用することが好ましい。

光重合開始剤(C)

本発明で使用される光重合開始剤(C)としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインモノメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、アセトイン、ベンジル、ベンゾフェノン、p−メトキシベンゾフェノン、ジエトキシアセトフェノン、ベンジルジメチルケタール、2,2−ジエトキシアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、メチルフェニルグリオキシレート、エチルフェニルグリオキシレート、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2−エチルアントラキノン等のカルボニル化合物;テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド等の硫黄化合物;及び2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド等のアシルフォスフィンオキサイドが挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を併用して使用することができる。これらの中で、種々の波長を有するUVを広く吸収する点で、ベンゾフェノン及び1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンが好ましい。

本被覆材組成物

本被覆材組成物は共重合体(A)30〜60質量部、(メタ)アクリレート(B)25〜69.9質量部及び光重合開始剤(C)0.1〜15質量部を含有し、共重合体(A)、(メタ)アクリレート(B)及び光重合開始剤(C)の合計量は100質量部である。尚、以下、共重合体(A)、(メタ)アクリレート(B)及び光重合開始剤(C)から構成される成分を「樹脂分」という。
【0029】
本被覆材組成物中の共重合体(A)の含有量としては40〜50質量部が好ましい。共重合体(A)の含有量が30質量部以上で本被覆材組成物の硬化膜と金属基材との付着性が良好となる。また、共重合体(A)の含有量が60質量部以下で本被覆材組成物の硬化性が良好であり、本被覆材組成物の塗膜の平滑性が良好である。
【0030】
本被覆材組成物中の(メタ)アクリレート(B)の含有量としては35〜60質量部が好ましい。(メタ)アクリレート(B)の含有量が25質量部以上で本被覆材組成物の硬化性が良好となる。また、(メタ)アクリレート(B)の含有量が69.9質量部以下で本被覆材組成物の硬化膜と金属基材との付着性が良好となる。
【0031】
本被覆材組成物中の光重合開始剤(C)の含有量としては2〜10重量部が好ましい。光重合開始剤(C)の含有量が0.1質量部以上で本被覆材組成物の硬化性が良好となる。また、光重合開始剤(C)の含有量が15質量部以下で本被覆材組成物の硬化膜と金属基材との付着性が良好となる。
【0032】
本被覆材組成物には、必要に応じて4−ジメチルアミノ安息香酸メチル、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸アミル、4−ジメチルアミノアセトフェノン等の公知の光増感剤を添加することができる。
【0033】
本被覆材組成物には望ましい粘度に調整するために有機溶剤を配合することができる。
【0034】
有機溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系化合物;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、酢酸メトキシエチル等のエステル系化合物;ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジオキサン等のエーテル系化合物;トルエン、キシレン等の芳香族化合物;ペンタン、ヘキサン、石油ナフサ等の脂肪族化合物;イソプロピルアルコール、イソブタノール、n−ブタノール等のアルコール系化合物;及び1−メトキシプロパノール、1−メトキシプロパノールアセテート等のプロピレングリコール系化合物が挙げられる。
【0035】
有機溶剤は樹脂分等の溶解性を考慮して選ばれる。有機溶剤の配合量は、樹脂分等の組成や組成比によるので一概に言えないが、本被覆材組成物中の樹脂分と有機溶剤の合計量に対して55〜65質量%が好ましい。
【0036】
本被覆材組成物には、必要に応じてレベリング剤、消泡剤、沈降防止剤、潤滑剤、研磨剤、防錆剤、帯電防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、重合禁止剤、シランカップリング剤等の添加剤を配合することができる。
【0037】
更に、本被覆材組成物には、本発明の効果を妨げない範囲で、本被覆材組成物の硬化膜と金属基材との付着性の向上のためにアルキッド樹脂等の樹脂を配合することができる。
【0038】
本発明においては、本被覆材組成物を金属基材の表面に塗付して本被覆材組成物の塗膜を形成することができる。次いで得られた塗膜を活性エネルギー線で硬化することにより本被覆材組成物の硬化膜を金属基材の表面に積層した成形物を得ることができる。この場合、本被覆材組成物の硬化膜は金属基材の表面改質のためのコーティング層として機能する。
【0039】
また、本発明においては、本被覆材組成物の硬化膜を金属基材の表面に積層した成形物の本被覆材組成物の硬化膜の表面に金属蒸着層を形成した成形物を得ることができる。この場合、本被覆材組成物の硬化膜は金属蒸着層を形成する際のアンダーコート層として機能する。

金属基材

金属基材に使用される金属としては、例えば、ステンレス及びアルミニウムが挙げられる。
【0040】
また、金属基材の種類としては、例えば、電子機器や家電製品の筐体や部品が挙げられる。

硬化膜

本発明において、硬化膜は金属基材の表面に本被覆材組成物を塗付して得られる塗膜を硬化したものである。
【0041】
金属基材の表面に本被覆材組成物を塗付する方法としては、例えば、ハケ塗り法、スプレーコート法、ディップコート法、スピンコート法及びフローコート法が挙げられる。これらの中で、塗付作業性や、塗膜の平滑性及び均一性の点で、スプレーコート法及びフローコート法が好ましい。
【0042】
本被覆材組成物として前述の有機溶剤が配合されたものを使用する場合には、本被覆材組成物を硬化させる前に有機溶剤を揮発させておくことが好ましい。その際には、IRヒーター及び温風の少なくとも一方を使用して30〜70℃及び2〜8分の条件下で有機溶剤を揮発させることが好ましい。
【0043】
硬化膜の厚みとしては、平滑性、作業性及びUV硬化性の点で、3〜40μmが好ましい。
【0044】
本被覆材組成物の塗膜の硬化には活性エネルギー線が使用される。
【0045】
活性エネルギー線としては、例えば、紫外線及び電子線が挙げられる。
【0046】
活性エネルギー線による本被覆材組成物の硬化条件としては、例えば高圧水銀灯を用いた場合には、照射される紫外線エネルギー量としては500〜2,000mJ/cm2程度が好ましい。

成形物

本発明の成形物は金属基材の表面に本被覆材組成物の硬化膜が積層されたもの又は金属基材の表面に積層された本被覆材組成物の硬化膜の表面に金属蒸着層が形成された構造を有するものである。
【0047】
本被覆材組成物の硬化膜の表面に金属蒸着層を形成する際の金属としては、例えば、アルミニウム、錫及びインジウムが挙げられる。
【0048】
金属蒸着層の厚みは、厚いと金属感が得られやすく、薄いと輝度が向上する傾向があるので、20〜100nmが好ましい。
【0049】
本被覆材組成物の硬化膜の表面への金属蒸着層の形成には公知の方法を適用することができる。
【0050】
また、本発明においては、必要に応じて金属蒸着層の腐食防止を目的として、形成された金属蒸着層の表面に熱硬化型トップコート膜、紫外線硬化型トップコート膜、プラズマ重合膜等の各種保護膜を形成することができる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例及び比較例で本発明を詳しく説明する。尚、以下において「部」及び「%」は夫々「質量部」及び「質量%」を示す。また、実施例及び比較例における各種の評価は以下の方法で行った。
(1)硬化性
ステンレス製テストピース(金属基材)の表面に積層された活性エネルギー線硬化型被覆材組成物の塗膜の硬化状態を下記の基準で指触により評価し、活性エネルギー線硬化型被覆材組成物の硬化性を判断した。
〇:タックはなく、塗膜は完全に硬化。
△:ややタックあり。
×:タックがあり、塗膜は完全硬化していない。
【0052】
(2)平滑性
ステンレス製テストピースの表面に積層された活性エネルギー線硬化型被覆材組成物の硬化膜の表面の平滑性を以下の基準で目視評価した。
◎:表面が平滑であり、高光沢である。
〇:表面が平滑であるが、光沢が高くない。
△:表面にやや凹凸が有り、平滑ではない。
×:表面の凹凸が酷く平滑ではない。
【0053】
(3)付着性
ステンレス製テストピースの表面に活性エネルギー線硬化型被覆材組成物の硬化膜が積層された成形物、又はステンレス製テストピースの表面に積層された活性エネルギー線硬化型被覆材組成物の硬化膜の表面にアルミ蒸着層を形成し、更にトップコート層を積層して得られた成形物の表面に、カッターナイフで碁盤目状に1mm間隔でステンレス製テストピースに達するように切り込みを入れて、1mmの枡目を100個形成した。次いで、100個の枡目の上にセロハンテープを貼り付けた後にセロハンテープを急激に剥がし、活性エネルギー線硬化型被覆材組成物の硬化膜とステンレス製テストピースとの界面剥離の有無について観察し、以下の基準で付着性を判断した。
◎:100個の枡目の中で硬化膜の剥離なし。
〇:100個の枡目の中で硬化膜の剥離はないが、切り溝が一部かけている。

△:100個の枡目の中で1〜50個の升目が剥離した。
×:100個の枡目の中で51〜100個の枡目が剥離した。
−:硬化状態が不良であるため未評価。
【0054】
(4)耐湿性
ステンレス製テストピースの表面に活性エネルギー線硬化型被覆材組成物の硬化膜が積層された成形物、又はステンレス製テストピースの表面に積層された活性エネルギー線硬化型被覆材組成物の硬化膜の表面にアルミ蒸着層を形成し、更にトップコート層を積層して得られた成形物を50℃及び98%RHの雰囲気中に72時間放置したものをサンプルとして、サンプルの外観を下記の基準で評価すると共に、上記の(3)付着性と同様の付着性の評価を実施した。
<外観>
〇:異常なし。
△:硬化膜の一部に白化が認められる。
×:硬化膜の多くの箇所に白化が認められる。
【0055】
[合成例1]共重合体(A1)の作製
2Lの4つ口フラスコにトルエン300gとジブチルフマレート175g(全単量体の35%)を仕込み、内温が110℃になるように加温した。
【0056】
次いでフラスコ内を攪拌しながら内温を110℃に保ち、フラスコ内にスチレン200g(全単量体の40%)、2−ヒドロキシエチルメタクリレート125g(全単量体の25%)及び重合開始剤としてアゾビスイソブチルニトリル5gの単量体含有混合物を4時間で等速滴下した後に酢酸ブチル200gを投入した。
【0057】
その後、フラスコ内に1時間おきに毎回1gのアゾビスイソブチルニトリルを合計4回追加投入し、更に2時間攪拌して共重合体(A1)を得た。
【0058】
共重合体(A1)の質量平均分子量は2.5×10で、水酸基価は50mgKOH/gであった。
【0059】
[合成例2]共重合体(A2)の作製
2Lの4つ口フラスコにトルエン300g、n−ブチルアクリレート50g(全単量体の10%)、n−ブチルメタクリレート125g(全単量体の25%)を仕込み、内温が110℃になるように加温した。
【0060】
次いでフラスコ内を攪拌しながら内温を110℃に保ち、フラスコ内にメチルメタクリレート290g(全単量体の58%)、2−ヒドロキシエチルメタクリレート35g(全単量体の7%)及び重合開始剤としてアゾビスイソブチルニトリル5gの単量体含有混合物を4時間で等速滴下した後に酢酸ブチル200gを投入した。
【0061】
その後、フラスコ内に1時間おきに毎回1gのアゾビスイソブチルニトリルを合計4回追加投入し、更に2時間攪拌して共重合体(A2)を得た。
【0062】
共重合体(A2)の質量平均分子量は1.5×10で、水酸基価は30mgKOH/gであった。
【0063】
[合成例3]共重合体(A3)の重合
2Lの4つ口フラスコにトルエン300g、ジブチルフマレート50g(全単量体の10%)を仕込み、内温が110℃になるように加温した。
【0064】
次いでフラスコ内を攪拌しながら内温を110℃に保ち、フラスコ内にメチルメタクリレート250g(全単量体の50%)、2−ヒドロキシエチルメタクリレート165g(全単量体の33%)及び重合開始剤としてアゾビスイソブチルニトリル3gの単量体含有混合物を4時間で等速滴下した後に酢酸ブチル200gを投入した。
【0065】
その後、フラスコ内に1時間おきに毎回1gのアゾビスイソブチルニトリルを合計4回追加投入し、更に2時間攪拌して共重合体(A3)を得た。
【0066】
共重合体(A3)の質量平均分子量は4.2×10で、水酸基価は65mgKOH/gであった。
【0067】
[実施例1、2及び比較例1〜3]
表1に示す活性エネルギー線硬化型被覆材組成物の各成分をステンレス容器に計量し、約30分間全体が均一になるまで混合し、攪拌して活性エネルギー線硬化型被覆材組成物を調製した。
【0068】
次いで、縦9cm、横5cm及び厚さ3mmの長方形のステンレス製のテストピースに活性エネルギー線硬化型被覆材組成物の硬化膜の膜厚が約15μmになるように活性エネルギー線硬化型被覆材組成物をスプレー塗装した。
【0069】
スプレー塗装されたテストピースを温風乾燥器に入れ、60℃で3分間乾燥して有機溶剤を揮発させた。
【0070】
次いで、有機溶剤を揮発させたテストピースに、空気中で80w/cmの高圧水銀灯を用いて照射距離20〜25cm、照射時間8〜10秒で紫外線を照射して、テストピースの表面に活性エネルギー線硬化型被覆材組成物の硬化膜が積層された成形物を得た。このときの波長340〜380nmの積算光量は1,000mJ/cm2であった。得られた成形物についての評価結果を表1に示す。
【0071】
【表1】


表中の略号は以下の化合物を表わす。
DPHA:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(日本化薬(株)製、商品名:KAYARAD DPHA)
A−TMM−3L:ペンタエリスリトールペンタトリアクリレート(新中村化学工業(株)製、商品名:NKエステル A−TMM−3L)
THFA:テトラヒドロフルフリルアクリレート(大阪有機化学工業(株)製、商品名:ビスコート#150)
HCPK:1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバ・ジャパン(株)製、商品名:イルガーキュアー184)
BNP:ベンゾフェノン
【0072】
[実施例3、4及び比較例4〜5]
表1に示す活性エネルギー線硬化型被覆材組成物を使用して実施例1と同様にしてテストピースの表面に活性エネルギー線硬化型被覆材組成物の硬化膜が積層された成形物を得た。
【0073】
次いで、テストピースの表面に活性エネルギー線硬化型被覆材組成物の硬化膜が積層された成形物の活性エネルギー線硬化型被覆材組成物の硬化膜の表面に、真空蒸着法(真空度1.33×10−2Pa)によりアルミを蒸着させて、表面に0.08μmのアルミ蒸着膜を有する成形物を得た。
【0074】
更に、表面にアルミ蒸着膜を有する成形物のアルミ蒸着膜の表面に、下記のトップコート剤を、硬化後の膜厚が10μmとなるようにスプレー塗装した。
【0075】
次いで、得られた塗装物を温風乾燥器に入れ、60℃で5分間乾燥して有機溶剤を揮発させた。
【0076】
更に、有機溶剤を揮発させた塗装物に、空気中で80w/cmの高圧水銀灯を用いて照射距離20〜25cm、照射時間8〜10秒で紫外線を照射して、テストピースの表面に活性エネルギー線硬化型被覆材組成物の硬化膜、アルミ蒸着膜及びトップコート剤の硬化膜が順に積層された成形物を得た。このときの波長340〜380nmの積算光量は1,000mJ/cm2であった。得られた成形物についての評価結果を表1に示す。
【0077】
[トップコート剤の調製]
2Lの4つ口フラスコにトルエン500gを仕込み、内温が80℃になるように加温した。
【0078】
次いで、フラスコ内を攪拌しながら内温を80℃に保ち、フラスコ内にn−(n−ブトキシメチル)アクリルアミド150g(全単量体の30%)、メチルメタクリレート25g(全単量体の5%)、スチレン75g(全単量体の15%)、及びイソボルニルメタアクリレート250g(全単量体の50%)及び重合触媒としてアゾビスイソブチルニトリル1gを混合した単量体含有混合物を2時間で等速滴下した。その後フラスコ内に1時間おきに毎回0.2gのアゾビスイソブチルニトリルを合計4回追加投入し、更に6時間攪拌して質量平均分子量が1.8×10の共重合体を得た。
【0079】
この共重合体8部をトルエン8部に溶解した共重合体溶液16部、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(日本化薬(株)製、商品名:KAYARAD DPHA)36部、ペンタエリスリトールペンタトリアクリレート(新中村化学工業(株)製、商品名:NKエステル A−TMM−3L)23部、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート(第一工業製薬(株)製、商品名:ニューフロンティアHDDA)10部、ウレタンアクリレート(三菱レイヨン(株)製、商品名:UK−6055)23部、ベンゾフェノン5部、酢酸ブチル80部、キシレン50部及びトルエン50部を混合、攪拌してトップコート剤を調製した。
【0080】
表1の結果から明らかなように、本発明の活性エネルギー線硬化型被覆材組成物は硬化性に優れ、本発明の活性エネルギー線硬化型被覆材組成物の硬化膜はステンレス等の金属基材との付着性及び表面平滑性に優れ、ステンレス等の金属基材の表面に本発明の活性エネルギー線硬化型被覆材組成物の硬化膜が積層された成形物は耐湿性に優れている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジブチルフマレ−ト単位及び水酸基含有単量体単位を含む、質量平均分子量が20,000〜40,000で水酸基価が40〜60mgKOH/gである共重合体(A)30〜60質量部、分子中に少なくとも1個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する(メタ)アクリレート(B)25〜69.9質量部及び光重合開始剤(C)0.1〜15質量部を含有し、共重合体(A)、(メタ)アクリレート(B)及び光重合開始剤(C)の合計量が100質量部である活性エネルギー線硬化型被覆材組成物。
【請求項2】
活性エネルギー線硬化型被覆材組成物が金属蒸着用アンダーコート材に使用される請求項1に記載の活性エネルギー線硬化型被覆材組成物。
【請求項3】
金属基材の表面に請求項1に記載の活性エネルギー線硬化型被覆材組成物の硬化膜が積層された成形物。
【請求項4】
金属基材の表面に請求項1に記載の活性エネルギー線硬化型被覆材組成物の硬化膜が積層され、活性エネルギー線硬化型被覆材組成物の硬化膜の表面に金属蒸着層が形成された構造を有する成形物。

【公開番号】特開2011−246515(P2011−246515A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−118148(P2010−118148)
【出願日】平成22年5月24日(2010.5.24)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】