説明

流体ポンプ

【課題】 流体ポンプから発生される音をより低減させる技術を提供する。
【解決手段】 燃料ポンプは、インペラの回転によって、流体をポンプケーシング内に吸入するとともに前記ポンプケーシング外に吐出する。この燃料ポンプでは、インペラは、その外周縁にn個(nは2以上の整数)の羽根溝が形成されている。羽根溝間のピッチ角は不均一であるとともに、各ピッチ角には1個以上の角度が等しいピッチ角が存在する。羽根溝のピッチ角は、0.05≦(σ´/θの平均)≦0.30、0.15≦C´≦0.35を満たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では、流体ポンプから発生する音を低減する技術を開示する。
【背景技術】
【0002】
外周縁に複数の羽根溝が形成されたインペラを備える流体ポンプが知られている。この種の流体ポンプでは、インペラが回転することによって、ポンプケーシングの吸入口からポンプケーシング内に流体が吸入され、吸入された流体はポンプケーシング内の流体流路を流れる間に昇圧され、昇圧された流体がポンプケーシングの吐出口よりポンプケーシング外に吐出される。吐出口側の流体流路内の流体の圧力は吸入口側の流体流路内の流体の圧力より高いため、吐出口側の流体流路から吸入口側の流体流路に向かって流体が流れることを防止する必要がある。このため、ポンプケーシングにはインペラの外周縁に近接して吐出口側の流体流路と吸入口側の流体流路を隔離する隔壁が設けられている。従って、一定のピッチ角で形成されたインペラを備える流体ポンプでは、インペラが回転すると、羽根溝が隔壁を周期的に通過することとなる。その結果、インペラの回転数と羽根溝のピッチ角θで決定される周波数により、流体ポンプから大きな音が発生する。ここで、ピッチ角θとは、インペラを平面視したときに、インペラの回転中心と隣接する羽根溝の周方向の中心をそれぞれ結んだ2本の線分のなす角度をいう。上記した問題を解決するために、流体ポンプから発生する音を低減する技術が開発されている(例えば特許文献1)。
【0003】
特許文献1の流体ポンプは、羽根溝のピッチ角θが全て異なるインペラを備え、羽根溝のピッチ角θが所定の条件を満たすように形成されている。これによって、羽根が隔壁を通過する周期がばらつき、流体ポンプの音を低減できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−50990号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した特許文献1の技術でも、ある程度は騒音を低減できるものの、より騒音を低減することができる技術の実現が望まれている。本明細書は、流体ポンプから発生される音をより低減させる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者らは、流体ポンプから発生する音(音圧)を低減するため、鋭意検討した結果、流体ポンプから発生する音と、羽根溝内の流体の圧力変動には相関があることに気付き、流体ポンプから発生する音を低減させるためには、羽根溝内の流体の圧力変動のスペクトルピーク値を低減させることが有効であることを発見した。さらに、発明者らは、流体の圧力変動のスペクトルピーク値と相関の強い指標を見出し、見出した指標と、圧力変動のスペクトルピーク値との関係を検討することによって、圧力変動のスペクトルピーク値が低減される指標の範囲を特定した。
【0007】
本明細書が提供する技術は、インペラの回転によって、ポンプケーシング内に流体を吸入するとともに昇圧し、昇圧した流体をポンプケーシング外に吐出する流体ポンプである。この流体ポンプでは、インペラは、その外周縁にn個の羽根溝が形成されている。インペラを平面視したときに、インペラの回転中心とi番目(i=1〜nの整数)の羽根溝の周方向の中心を結んだ線分と、インペラの回転中心とi+1番目(但し、i+1=n+1となる場合はi+1=1)の羽根溝の周方向の中心とを結んだ線分とのなす角度をピッチ角θiとし、隣接するピッチ角の差をσi=θi+1−θiとしたときに、ピッチ角θiは不均一であるとともに、各ピッチ角θiには角度が等しい他のピッチ角θk(k=1〜nのいずれかの整数で、かつ、i以外の整数)が1個以上存在する。そして、0.05≦(σ´/θの平均)≦0.30、0.15≦C´≦0.35を満たす。但し、σ´、θの平均及びC´は以下に定義される。なお、羽根溝の番号は、複数の羽根溝のいずれか1個の羽根溝を1番目と設定し、インペラの回転方向又は反回転方向に並んでいる順番に、昇順で設定する。
【0008】
【数1】

【0009】
【数2】

【0010】
【数3】

【0011】
【数4】

【0012】
【数5】

【0013】
【数6】

【0014】
本発明者らは、(σ´/θの平均)及びC´が羽根溝内の流体の圧力変動のスペクトルピーク値と相関が強いことを見出した。そして、(σ´/θの平均)及びC´が上記した範囲を満たす場合に、従来技術と比較して、流体ポンプから発生する音を低減させることができることを見出した。また、上記したインペラの羽根溝の各ピッチ角θi(i=1〜n)には、角度が等しい1個以上の他のピッチ角θk(k=1〜nのいずれかの整数で、かつ、i以外の整数)が存在するように形成されている。ピッチ角θiが一個しかない場合は、インペラが回転すると、そのピッチ角θiによる圧力変動が発生し、そのピッチ角θiによる圧力変動が低減されない。すなわち、ピッチ角にθiによる音成分が低減されない。一方、角度が等しいピッチ角が複数ある場合、例えば、ピッチ角θiとピッチ角θkが同一の場合は、ピッチ角θiで形成された羽根溝が隔壁を通過することによって発生する音成分を、他のピッチ角θkで形成された羽根溝が隔壁を通過することによって発生する音成分によって減衰させることが可能となる。この条件と上記した(σ´/θの平均)及びC´の条件を満足させることにより、特定のピッチ角θiに起因する騒音を低減させることができる。
【0015】
このインペラは、0.1<(ピッチ角が等しいピッチ角の数)/n<0.5を満たすことが好ましい。この構成によれば、流体ポンプのポンプ効率を大幅に低下させることなく、流体ポンプから発生する音を低減させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本明細書が提供する技術によれば、流体ポンプから発生する音を低減することができる。例えば、本明細書が提供する流体ポンプは、自動車の燃料をエンジンに供給する燃料ポンプに好適に用いることができる。この流体ポンプは、静寂性が要求される自動車において、音を低減するために有用である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】燃料ポンプの縦断面図。
【図2】図1のII−II線断面図。
【図3】解析結果と実験結果との相関関係を示すグラフ。
【図4】(σ´/θの平均)及びC´と圧力変動のスペクトルピーク値との相関関係を示す等値線図。
【図5】ピッチ角が等しい羽根溝の数と圧力変動のスペクトルピーク値との相関関係を示す等値線図。
【図6】ピッチ角が等しい羽根溝の数とポンプ効率との相関関係を示す等値線図。
【図7】等ピッチインペラを備える燃料ポンプが発生する音圧の実験結果を示すグラフ。
【図8】不等ピッチインペラを備える燃料ポンプが発生する音圧の実験結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本明細書が提供する技術を具現化した実施例を図面を用いて説明する。本実施例の燃料ポンプは、自動車用の燃料ポンプであり、燃料タンク内で用いられ、自動車のエンジンへ燃料を供給するために利用される。図1に示すように、燃料ポンプ10は、モータ部12とポンプ部14を備えている。モータ部12とポンプ部14はハウジング16内に収容されて構成されている。モータ部12は回転子18を有している。回転子18は、シャフト20と、シャフト20に固定されている積層鉄芯22と、積層鉄芯22に巻かれている図示されていないコイルと、そのコイルの端部が接続されている整流子24を有している。シャフト20は、ハウジング16に対して、軸受26,28によって回転可能に支持されている。ハウジング16の内側には、回転子18を取囲むように、永久磁石30が固定されている。ハウジング16の上部に取り付けられたトップカバー32には、図示されない端子が設けられており、モータ部12に電気が供給される。ブラシ34と整流子24を介してコイルに通電すると、回転子18とシャフト20が回転する。
【0019】
ハウジング16の下部にはポンプ部14が収容されている。ポンプ部14は、略円板状のインペラ36を備えている。図2に示すように、インペラ36の中心には貫通孔39が設けられており、貫通孔39にはシャフト20が相対回転不能に係合している。このため、シャフト20が回転するとインペラ36も回転する。インペラ36の外周縁には、n個(n=41個)の羽根溝37が形成されている。図2において、羽根溝37(1)で示す羽根溝37は、1番目の羽根溝37を意味する。同様に、羽根溝37(2),37(n)で示す羽根溝37は、それぞれ、2番目、n(41)番目の羽根溝37を意味する。即ち、本実施例では、1番目の羽根溝37からインペラ36の回転方向(図の矢印60)に並ぶ順に昇順で順番が設定されている。n(41)個の羽根溝37は、インペラ36の外周縁に並んで配置され、インペラ36の外周縁を一巡している。隣接する2個の羽根溝37の間には、羽根37aが形成されている。即ち、インペラ36では、羽根溝37と同数の羽根37aが形成されている。n(41)個の羽根37aは、全て同一形状で形成されている。羽根溝37は、隣接する2個の羽根溝37間のピッチ角θが不均一となるように形成されている。ピッチ角θは、隣接する2個の羽根溝37において、各羽根溝37のインペラ36の外周縁に沿った中点からインペラ36の回転中心に直線を引いた場合の、2本の直線間の角度である。インペラ36では、i番目の羽根溝37とi+1番目(iは1〜nの整数、但しi=nの場合、i(n)+1=1)の羽根溝37とのピッチ角をθiとすると、i=1〜nのそれぞれにおいて、ピッチ角θi=θm(mは1以上の整数、かつ、m≠i)を満たすピッチ角θmが1個以上存在する。さらに、0.05≦(σ´/θの平均)≦0.30、及び、0.15≦C´≦0.35を満足している。但し、σ´、θの平均及びC´は、以下に定義される。
【0020】
【数1】

【0021】
【数2】

【0022】
【数3】

【0023】
【数4】

【0024】
【数5】

【0025】
【数6】

【0026】
ここで、σ´は、隣接するピッチ角の差σi=θi+1−θiの標準偏差を意味する。(σ´/θの平均)は、隣接するピッチ角のばらつきを評価する指標である。(σ´/θの平均)が大きいほど、隣接するピッチ角のばらつきが大きいことを示している。(σ´/θの平均)は、主に基本周波数((総羽根溝数)×(インペラの回転数))の音の大きさに寄与する。また、C´は、インペラの全周に亘るピッチ角のばらつきを評価する指標である。C´が0に近いほど、インペラの全周に亘るピッチ角のばらつきが大きいことを示している。C´は、主に基本周波数よりも低い周波数の音の大きさに寄与する。
【0027】
さらに、羽根溝37は、0.1<(ピッチ角が等しいピッチ角の数/総羽根溝数n(=41))<0.5を満足している。
【0028】
インペラ36を収容するポンプケーシングは、吐出側ケーシング38と吸入側ケーシング40とから構成される。吐出側ケーシング38には、インペラ36の外周縁に対向する領域に、溝38aが形成されている。溝38aは、インペラ36の外周面及び外周縁の上面に対向している。溝38aは、インペラ36の回転方向に沿って上流端から下流端まで伸びる略C字型に形成されている。吐出側ケーシング38には、溝38aの下流端から吐出側ケーシング38の上面に至る吐出口50が形成されている。吐出口50は、ポンプケーシングの内部と外部(モータ部12の内部空間)とを連通させている。
【0029】
吸入側ケーシング40には、インペラ36の外周縁に対向する領域に、溝40aが形成されている。溝40aは、その一部がインペラ36の外周縁の下面に対向し、インペラ36の外周側で溝38aと接続している。溝40aも溝38aと同様に、インペラ36の回転方向に沿って上流端から下流端まで伸びる略C字型に形成されている。吸入側ケーシング40には、吸入側ケーシング40の下面から溝40aの上流端に至る吸入口42が形成されている。吸入口42は、ポンプケーシングの内部と外部(燃料ポンプの外部)とを連通させている。羽根溝37、溝38a、溝40aによって、インペラ36の外周縁を覆うようにポンプ流路44が形成されている。
【0030】
ケーシング38,40には、吸入口42と吐出口50との間に、隔壁41が設けられている。隔壁41は、吐出口50側から吸入口42側に向かって燃料が流れることを防止するために設けられている。従って、隔壁41のインペラ36の外周縁に対向する面は、インペラ36の外周縁に対向するケーシング38,40のその他の面と比較して、インペラ36の外周縁との距離が近くされている。
【0031】
インペラ36がポンプケーシング38,40内で回転すると、燃料が吸入口42からポンプ部14内に吸引されてポンプ流路44に導入される。ポンプ流路44を流れるうちに昇圧された燃料は、吐出口50からモータ部12側に送り出される。モータ部12に送り出された燃料は、モータ部12を通過し、トップカバー32に形成されているポート48から外部に送り出される。
【0032】
燃料ポンプ10では、インペラ36の羽根溝37は、0.05≦(σ´/θの平均)≦0.30、及び、0.15≦C´≦0.35を満足している。このため、燃料ポンプ10では、羽根溝のピッチ角θが均一に形成されているインペラを備える燃料ポンプと比較して、発生する音が低減される。
【0033】
また、燃料ポンプ10では、インペラ36の羽根溝37は、0.1<(ピッチ角が等しいピッチ角の数/総羽根溝数n(=41))<0.5を満たす。このため、燃料ポンプ10では、羽根溝のピッチ角θが均一に形成されているインペラを備える燃料ポンプと比較して、発生する音が低減され、かつ、ポンプ効率の低減が抑制される。
【0034】
また、燃料ポンプ10では、ピッチ角θi=θkを満たすピッチ角θk(i≠k)が1個以上存在する。これにより、ピッチ角θiに対応する羽根溝37に起因して発生する音成分が、ピッチ角θkに対応する羽根溝37によって減衰される。これにより、ピッチ角θiに対応する羽根溝37に起因して発生する音を低減することができる。
【0035】
(羽根溝のピッチ角と燃料ポンプから発生する音との関係を検討する解析)
以下、本発明者らが行った解析結果について説明する。まず、羽根溝37のピッチ角θと、燃料ポンプ10から発生する音との関係を検討した解析結果について説明する。
【0036】
(羽根溝のピッチ角の配列の決定方法)
最初に、本解析で用いられるインペラ36の羽根溝37の配列をどのように決定したかを説明する。本解析では、インペラ36の羽根溝37の個数、最小ピッチ角θmin、最大ピッチ角θmax及びピッチ角の差分を決定し、ピッチ角ごとの個数を決定した。表1は、羽根溝37の個数が41個、θminが8.0度、θmaxが10.5度、かつ、ピッチ角の差分が0.5度と決定された場合に、決定された各ピッチ角θの個数の一例を示している。
【0037】
【表1】

【0038】
上記の方法によって、1万通りの組合せを決定した。続いて、ピッチ角の配列、即ち、個数が決定された各ピッチ角を、どのようにインペラ36に配列させるかを決定した。この方法によって、上記した1万通りの組合せのそれぞれについて、平均して10万通りのピッチ角の配列を決定した。即ち、本解析では、1万×10万通りのピッチ角の配列の異なるインペラ(以下では不等ピッチインペラと呼ぶ)36について、解析を行った。
【0039】
(解析方法)
本解析では、最初に、均一なピッチ角θ=7.5度で配列された羽根溝が形成されたインペラ(以下では等ピッチインペラと呼ぶ)36を備える燃料ポンプについてCAE解析を実施した。このCAE解析では、時間に対する燃料の圧力変動を算出した。燃料の圧力変動とは、インペラ36の羽根溝37が隔壁41の吐出口50側より吸入口42側に通過する際の、羽根溝37内の燃料圧力の経時変化を意味する。次いで、圧力変動の算出結果を利用して、決定されたピッチ角の配列に合わせて、各不等ピッチインペラ36における時間に対する燃料の圧力変動を算出した。具体的には、算出された圧力変動の経時変化を、配列されたピッチ角の大きさに合せて時間軸を調整し、不等ピッチインペラ36が1回転したときの圧力波形を算出した。
【0040】
続いて、ピッチ角の配列に合わせて算出された時間に対する燃料の圧力変動波形に対して、FFT(Fast Fourier Transform)解析を実行して、圧力変動をスペクトル分解し、圧力変動のスペクトルピーク値を算出した。
【0041】
(解析と実験との相関関係の検討)
次いで、実験結果(実製品での測定結果)と、その実験に用いたインペラに対して上記解析方法を実行した解析結果との相関関係について検討し、上記解析方法の有効性の確認を行った。ここでは、本解析で得られた燃料の圧力変動のスペクトルピーク値と、実験で得られた燃料ポンプ10から発生する音圧のスペクトルピーク値との相関関係を検討した。図3は、実験によって得られた音圧のスペクトルピーク値と、本解析によって得られた圧力変動のスペクトルピーク値との相関関係を示すグラフを示している。図3の横軸は本解析によって得られた圧力変動のスペクトルピーク値を示し、縦軸は実験によって得られた音圧のスペクトルピーク値を示している。図3のグラフから分かるように、実験で得られた音圧のスペクトルピーク値は、解析で得られた圧力変動のスペクトルピーク値に略比例していた。さらに、実験で得られた音圧のスペクトルピーク値と解析で得られた圧力変動のスペクトルピーク値との相関係数は、0.79であった。以上から、実験で得られた音圧のスペクトルピーク値と解析で得られた圧力変動のスペクトルピーク値とは、相関が強いことが分かり、上記解析方法の有効性が確認できた。また、以上の検討結果から、解析で得られる圧力変動のスペクトルピーク値が小さい方が、実製品において、燃料ポンプ10から発生する音が小さいことが分かった。
【0042】
(圧力変動に対する(σ´/θの平均)及びC´の検討)
次に、本解析によって得られた解析結果から、上記した(σ´/θの平均)及びC´と、燃料の圧力変動のスペクトルピーク値との相関関係を検討した。図4は、(σ´/θの平均)及びC´と圧力変動のスペクトルピーク値との関係を示す等値線図を示している。図4の横軸は(σ´/θの平均)を示し、縦軸はC´を示している。図4では、20log10(PI/PR)(但し、PRは上記した等ピッチインペラ36を備える燃料ポンプ10の圧力変動のスペクトルピーク値の解析結果(一定値)であり、PIは不等ピッチインペラ36を備える燃料ポンプ10の圧力変動のスペクトルピーク値の解析結果である)の値の等値線を示している。
【0043】
図4に示されるように、圧力変動のスペクトルピーク値は、(σ´/θの平均)及びC´に強い相関関係を有していることが分かった。さらに、0.05≦(σ´/θの平均)≦0.30かつ0.15≦C´≦0.35であれば、等ピッチインペラ36を備える燃料ポンプと比較して、圧力変動のスペクトルピーク値を低減できることが分かった。このことから、0.05≦(σ´/θの平均)≦0.30かつ0.15≦C´≦0.35であれば、燃料ポンプ10が発生する音を低減できることが分かった。図4より明らかなように、特に、0.20≦(σ´/θの平均)≦0.30かつ0.20≦C´≦0.30の場合、音を低減する効果が高くなっている。
【0044】
(圧力変動に対する等しいピッチ角の個数の検討)
続いて、本解析によって得られた解析結果から、等しいピッチ角の個数と、燃料の圧力変動のスペクトルピーク値との関係を検討した。ここでは、等しいピッチ角の個数をN個とし、Nの最小値をNmin、最大値をNmaxと定義した場合に、Nmin/n(但し、n=総羽根溝数)とNmax/nとを指標として、圧力変動のスペクトルピーク値を評価した。上記した表1を例にすると、ピッチ角θ=8度の場合、N=5個となる。同様に、ピッチ角8.5,9,9.5,10,10.5度の場合、それぞれ、N=6,8,10,6,4となる。この場合、Nmin=4となり、Nmax=10となる。図5は、Nmin/nとNmax/nとを指標として、燃料ポンプ10から発生する圧力変動のスペクトルピーク値との関係を示す等値線図を示している。図5の横軸はNmin/nを示し、縦軸はNmax/nを示している。図5では、図4と同様に、20・log10(PI/PR)の値の等値線を示している。なお、NminとNmaxとが同一であっても、ピッチ角の配列によって、圧力変動のスペクトルピーク値(=PI)が異なる場合があった。このため、20log10(PI/PR)は、NminとNmaxとが同一である場合の複数の圧力変動のピークスペクトル値の平均値を採用して、算出した。
【0045】
図5に示されるように、Nmax/n≦0.5の場合に、20・log10(PI/PR)の値が小さくなった。このことから、N/n≦0.5を満たすインペラ36を備える燃料ポンプ10であれば、等ピッチインペラ36を備える燃料ポンプ10と比較して、圧力変動のスペクトルピーク値を大きく低減できるということができる。即ち、本解析結果から、N/n≦0.5であれば、燃料ポンプ10が発生する音を低減できる。
【0046】
(ポンプ効率に対する等しいピッチ角の個数の検討)
続いて、本解析によって得られた解析結果から、等しいピッチ角の個数とポンプ効率との関係を検討した。ここでは、Nmin/nとNmax/nとを指標として、燃料ポンプ10のポンプ効率を評価した。図6は、Nmin/nとNmax/nとを指標として、燃料ポンプ10のポンプ効率の関係を示す等値線図を示す。図6の横軸はNmin/nを示し、縦軸はNmax/nを示している。図6では、(ηI/ηR)(但し、ηRは上記した等ピッチインペラ36を備える燃料ポンプ10のポンプ効率の解析結果(一定値)であり、ηIは不等ピッチインペラ36を備える燃料ポンプ10のポンプ効率の解析結果である)の値の等値線を示している。
【0047】
図6に示されるように、0.1<Nmin/nの場合に、20・log10(ηI/ηR)の値が比較的に大きいことがわかった。このことから、0.1≦N/nを満たすインペラ37を備える燃料ポンプ10であれば、等ピッチインペラ36を備える燃料ポンプ10と比較して、ポンプ効率が低下することを抑制することができるということができる。以上の結果から、0.1≦N/n≦0.5であれば、ポンプ効率の低下を抑制しながら、燃料ポンプが発生する音圧を低減できることがわかった。
【0048】
(等ピッチインペラを備える燃料ポンプと不等ピッチインペラを備える燃料ポンプの実製品での比較)
等ピッチインペラ36を備える燃料ポンプ10と、不等ピッチインペラ36を備える燃料ポンプ10とを用いて、実際に燃料ポンプ10が使用される回転数である3000〜9000rpmの中間の6000rpmでインペラ36を回転させた場合に、燃料ポンプ10から発生する音を比較する実験を実施した。
【0049】
本実験で準備した等ピッチインペラ36では、ピッチ角が7.5度であった。また、本実験で準備した不等ピッチインペラ36では、表2に示すピッチ角で羽根溝37が形成されていた。不等ピッチインペラ36の羽根溝37のピッチ角は、0.05≦(σ´/θの平均)≦0.30かつ0.15≦C´≦0.35を満足している。
【0050】
【表2】

【0051】
図7は、等ピッチインペラを備える燃料ポンプ10から発生する音の測定結果を示す。なお、等ピッチインペラ36を備える燃料ポンプ10については、5個の燃料ポンプ10を準備し、各燃料ポンプ10について測定を実施した。等ピッチインペラ36を備える5個の燃料ポンプ10の測定結果が含まれている。図8は、上記した表2のピッチ角で羽根溝37が形成されたインペラ36を備える燃料ポンプ10から発生する音の測定結果を示している。図7,8の横軸は音の周波数を示し、縦軸は音の大きさ(dB)を示している。図8の破線100は、等ピッチインペラ36を備える燃料ポンプ10から発生する音のピーク値を示している。図7,8から、不等ピッチインペラ36を備える燃料ポンプ10では、等ピッチインペラ36を備える燃料ポンプ10と比較して、発生する音の周波数が分散されており、音のピーク値は、小さくなっていた。このことから、不等ピッチインペラ36を備える燃料ポンプ10では、等ピッチインペラ36を備える燃料ポンプ10と比較して、発生する音が小さくなることがわかった。
【0052】
本解析結果から、燃料ポンプ10では、インペラ36の羽根溝37が0.05≦(σ´/θの平均)≦0.30、及び、0.15≦C´≦0.35を満たすことによって、燃料ポンプ10が発生する音を低減することができることが分かった。また、燃料ポンプ10では、インペラ36の羽根溝37が0.1<(ピッチ角が等しいピッチ角の数/総羽根溝数(=43))<0.5を満たすことによって、羽根溝のピッチ角θが均一に形成されているインペラ36を備える燃料ポンプ10と比較して、ポンプ効率の低減を抑制するとともに、燃料ポンプ10が発生する音を低減することができることが分かった。
【0053】
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。
例えば、本明細書が提供する技術は、燃料を吸入し吐出する燃料ポンプ以外に、様々な流体ポンプに適用することができる。
また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【0054】
本発明者らは、(σ´/θの平均)及びC´が羽根溝内の流体の圧力変動のスペクトルピーク値と相関が強いことを見出した。そして、(σ´/θの平均)及びC´が上記した範囲を満たす場合に、従来技術と比較して、流体ポンプから発生する音を低減させることができることを見出した。また、上記したインペラの羽根溝の各ピッチ角θi(i=1〜n)には、角度が等しい1個以上の他のピッチ角θk(k=1〜nのいずれかの整数で、かつ、i以外の整数)が存在するように形成されている。ピッチ角θiが一個しかない場合は、インペラが回転すると、そのピッチ角θiによる圧力変動が発生し、そのピッチ角θiによる圧力変動が低減されない。すなわち、ピッチ角にθiによる音成分が低減されない。一方、角度が等しいピッチ角が複数ある場合、例えば、ピッチ角θiとピッチ角θkが同一の場合は、ピッチ角θiで形成された羽根溝が隔壁を通過することによって発生する音成分を、他のピッチ角θkで形成された羽根溝が隔壁を通過することによって発生する音成分によって減衰させることが可能となる。この条件と上記した(σ´/θの平均)及びC´の条件を満足させることにより、特定のピッチ角θiに起因する騒音を低減させることができる。
【符号の説明】
【0055】
10:燃料ポンプ
12:モータ部
14:ポンプ部
36:インペラ
37:羽根溝
41:隔壁
42:吸入口
50:吐出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インペラの回転によって、ポンプケーシング内に流体を吸入するとともに昇圧し、昇圧した流体を前記ポンプケーシング外に吐出する流体ポンプであって、
前記インペラは、
その外周縁にn個の羽根溝が形成されており、
前記インペラを平面視したときに、前記インペラの回転中心とi番目(i=1〜nの整数)の前記羽根溝の周方向の中心を結んだ線分と、前記インペラの回転中心とi+1番目(但し、i+1=n+1となる場合はi+1=1)の前記羽根溝の周方向の中心とを結んだ線分とのなす角度をピッチ角θとし、隣接するピッチ角の差をσ=θi+1−θとしたときに、
前記ピッチ角θは不均一であるとともに、各ピッチ角θには角度が等しい他のピッチ角θ(k=1〜nのいずれかの整数で、かつ、i以外の整数)が1個以上存在し、
0.05≦(σ´/θの平均)≦0.30
0.15≦C´≦0.35
但し、
【数1】

【数2】

【数3】

【数4】

【数5】

【数6】

を満たす、流体ポンプ。
【請求項2】
0.1<(ピッチ角が等しいピッチ角の数)/n<0.5を満たす、請求項1に記載の流体ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図8】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−102551(P2011−102551A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−257629(P2009−257629)
【出願日】平成21年11月11日(2009.11.11)
【出願人】(000116574)愛三工業株式会社 (1,018)
【Fターム(参考)】