説明

流体供給装置

【課題】流体供給チューブの不規則な動きを抑制しつつキャリッジの移動への負荷を低減する流体供給装置を提供する。
【解決手段】記録ヘッドが搭載され主走査方向に往復移動するキャリッジ8と、上記記録ヘッドにインクを供給するためのインク供給チューブ13と、上記インク供給チューブ13を支持するスチールベルト21とを備え、上記インク供給チューブ13とスチールベルト21は、重ねて配置された状態で、一端部がそれぞれキャリッジ8に接続されるとともに、それぞれU字状に湾曲されて他端部が装置本体の接続部14に接続され、上記スチールベルト21として、幅方向の断面を樋形の湾曲形状とするとともに長手方向の断面を直線形状とする第1の平衡状態と、この第1の平衡状態に外力が加わって、幅方向の断面を直線形状とするとともに長手方向の断面を全体としてリング状とする第2の平衡状態に弾性変形する薄板部材を用いた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体カートリッジ等から供給された流体を噴射する流体噴射装置に適用することができる流体供給装置に係るものであり、詳しくは流体供給チューブの不規則な動きを抑制しつつキャリッジの移動にかかる負荷を低減する流体供給装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液体カートリッジ等から供給された液体を液滴として噴射する液体噴射装置として代表的なインクジェット式の記録装置は、その本体に固定されたインクカートリッジより、インクチューブを介してインクジェットヘッドにインクが供給される。インクチューブは、記録ヘッドを搭載したキャリッジの走行路に面する装置本体の静止部に係止された後、他方がU字状にわん曲されてキャリッジに連結されている。記録ヘッドの印字幅が増えると、キャリッジのガイドレールに沿った移動量が大きくなり、インクチューブが不規則な動きをする。そのため、インクチューブをフラットケーブル(信号線)に止めることが行われていた。
【0003】
ところが、カラー印刷を行う場合、独立した各色のインクチューブを用意する必要がある。これらのインクチューブは複数本となるとくせのある不規則な動きをする。そのため、インクチューブをフラットケーブルで止めていても、インクチューブの不規則な動きを充分にガイドすることができず、キャリッジをガイドレールに沿って安定して移動させることが出来なかった。
【0004】
そこで、インクチューブの不規則な動きを抑制するものとして、断面がわん曲したスチールベルトをインクチューブに重ねて配置し、上記スチールベルトの一端をキャリッジ走行路に面する静止部に固定し、上記スチールベルトの他端をキャリッジに連結した記録装置が提案されている(下記の特許文献1)。
【特許文献1】特開平11−157288
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の記録装置では、インクチューブにスチールベルトを重ねて配置することにより、インクチューブの不規則な動きは抑制することができるが、U字状に湾曲させたスチールベルトが元の形状に戻ろうとする紙送り方向(キャリッジの操作方向に直交する方向である)の負荷が大きくなるという問題がある。このようなキャリッジの移動に対する負荷が大きくなると、キャリッジを起動するためのベルトの緊張力や引っ張り力も大きくしなければならない結果、キャリッジモータを大きくするとともにキャリッジ軸も太くするなどの必要が生じる。このため、装置が大型化し、パーツのコストも上がる上、消費電力も多くなり、小型化、低コスト化の面で不利益が生じていた。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、流体供給チューブの不規則な動きを抑制しつつキャリッジの移動にかかる負荷を低減する流体供給装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は、流体が供給されて機能する機能ヘッドが搭載されて主走査方向に往復移動するキャリッジと、上記機能ヘッドに流体を供給するための流体供給チューブと、上記流体供給チューブを支持するベルト部材とを備え、上記流体供給チューブとベルト部材は、重ねて配置された状態で、一端部がそれぞれキャリッジに接続されるとともに、それぞれU字状に湾曲されて他端部が装置本体の静止部に接続され、上記U字状の湾曲部が主走査方向の一方をU字状の開放部が主走査方向の他方を向くよう配置され、上記ベルト部材として、幅方向の断面を樋形の湾曲形状とするとともに長手方向の断面を直線形状とする第1の平衡状態と、この第1の平衡状態に外力が加わることにより、幅方向の断面を直線形状とするとともに長手方向の断面を全体としてリング状とする第2の平衡状態に変形し、上記第1の平衡状態と第2の平衡状態との間で相互に弾性変形しうる薄板部材を用いたことを要旨とする。
【0008】
すなわち、本発明は、上記ベルト部材として、第1の平衡状態に外力が加わることにより、幅方向の断面を直線形状とするとともに長手方向の断面を全体としてリング状とする第2の平衡状態に変形する薄板部材を用いたため、ベルト部材がU字状に湾曲された状態で、U字状の湾曲部は第2の平衡状態のリング状の湾曲を維持し、U字状の直線部は第1の平衡状態の帯状を維持する。このため、U字状を復元する方向への負荷がほとんどかからず、流体供給チューブの不規則な動きを抑制するとともに、キャリッジの移動に対する負荷を大幅に抑制できる。したがって、キャリッジを起動するためのベルトの緊張力や引っ張り力を小さく抑え、キャリッジモータを小型のものとしキャリッジ軸も細くすることができる。このため、装置を小型化し、パーツのコストも低減できる上、消費電力も少なくなり、小型化、低コスト化の面で有利である。
【0009】
本発明において、上記第2の平衡状態におけるリング状の湾曲半径と、装置に取り付けられたときのU字状の湾曲半径とが、実質的に等しくなるよう設定されている場合には、ベルト部材がU字状に湾曲された状態で、U字状を復元する方向への負荷が極めて小さくなる。このため、キャリッジの移動に対する負荷を大幅に抑制でき、装置を小型化し、パーツのコストも低減できる上、消費電力も少なくなる。
【0010】
本発明において、上記第1の平衡状態における幅方向の湾曲半径と、装置に取り付けられたときのU字状の湾曲半径とが、実質的に等しくなるよう設定されている場合には、第1の平衡状態に外力が加わって第2の平衡状態に弾性変形したときの湾曲半径がU字状の湾曲半径と実質的に等しくなることから、ベルト部材がU字状に湾曲された状態で、U字状を復元する方向への負荷が極めて小さくなる。このため、キャリッジの移動に対する負荷を大幅に抑制でき、装置を小型化し、パーツのコストも低減できる上、消費電力も少なくなる。
【0011】
本発明において、上記第2の平衡状態におけるリング状の湾曲半径と、上記第1の平衡状態における幅方向の湾曲半径とが、実質的に等しくなるよう設定されている場合には、第1の平衡状態に外力が加わって第2の平衡状態に弾性変形したときの湾曲半径がU字状の湾曲半径と実質的に等しくなることから、ベルト部材がU字状に湾曲された状態で、U字状を復元する方向への負荷が実質的にほとんど0になる。このため、キャリッジの移動に対する負荷を大幅に抑制でき、装置を小型化し、パーツのコストも低減できる上、消費電力も少なくなる。
【0012】
本発明において、上記ベルト部材は、第1の平衡状態の湾曲形状の凸面側を内側にして第2の平衡状態のリング状に弾性変形する場合には、スムーズな弾性変形および安定した平衡状態の維持が可能となり、ベルト部材がU字状に湾曲された状態で、U字状を復元する方向への負荷が実質的にほとんど0になる。このため、キャリッジの移動に対する負荷を大幅に抑制でき、装置を小型化し、パーツのコストも低減できる上、消費電力も少なくなる。
【0013】
本発明において、上記静止部はキャリッジ移動領域に対面する領域に設けられている場合には、流体供給チューブおよびベルト部材の長さが比較的短くてキャリッジ移動領域の全域をカバーできるため、構造的な無駄が少ない。
【0014】
本発明において、上記静止部はキャリッジ移動領域のほぼ中央部に対応する部分に設けられている場合には、流体供給チューブおよびベルト部材の長さが最も短くてキャリッジ移動領域の全域をカバーできるため、構造的な無駄がない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
つぎに、本発明の実施の形態を詳しく説明する。
【0016】
図1は、本発明の流体供給装置を液体噴射装置としてのインクジェット式記録装置に適用した構造の一例を示す図である。
【0017】
図1に示すように、液体噴射装置としてのプリンタ1は、略直方形状のフレーム2を備えている。フレーム2の背面には給紙トレイ3が設けられ、前面には排紙トレイ4が設けられている。上記排紙トレイ4は、図示しない外装ケースに対してヒンジ構造により折り畳み収容可能となっている。
【0018】
フレーム2内には、後述する各種の装置が取り付けられている。その内部の中央位置には、その長手方向にプラテン6が配設され、プラテン6上には、紙送り機構によって、給紙トレイ3から外装ケース内に挿入された記録用紙(いずれも図示しない)が給送されるようになっている。そして、この給送された記録用紙は、排紙トレイ4から外装ケース外へ排出されるようになっている。
【0019】
フレーム2内には、プラテン6と平行となるように、ガイド部材7が架設されている。ガイド部材7には、同ガイド部材7に沿って移動可能なキャリッジ8が、プラテン6と対面するように挿通され支持されている。また、フレーム2には、キャリッジモータ17が取着され、このキャリッジモータ17には、一対のプーリに掛け装されたタイミングベルト5を介してキャリッジ8が駆動連結されている。そして、キャリッジ8は、キャリッジモータ17の駆動によって、ガイド部材7に案内されプラテン6と平行(主走査方向)に往復移動する。本発明では、キャリッジ8が上記往復移動する領域をキャリッジ移動領域という。
【0020】
キャリッジ8の下面(プラテン6と対面する面)には、流体が供給されて機能する機能ヘッド(この例では供給された流体としての液体を噴射する液体噴射ヘッド)としての図示しない記録ヘッドが設けられている。記録ヘッドは、プラテン6上に給送される記録用紙に対面する図示しないノズル形成面を有している。ノズル形成面には、1列あたりn個(nは自然数)のノズルからなるノズル列(いずれも図示せず)が4列形成されている。キャリッジ8上には、図示しない圧力調整手段としてのバルブユニットが搭載されており、バルブユニットは、一時貯留した液体としてのインクを、圧力を調整した状態で前記記録ヘッドへと供給するようになっている。
【0021】
なお、本実施形態においては、バルブユニットは、1つあたり1種類のインクを圧力調整した状態で、個別に記録ヘッドへと供給しうるダンパー部材として機能するようになっている。そして、本実施形態においては、バルブユニットは計4つ設けられており、4つのインクの色(ブラック、イエロー、マゼンタ、シアン)に対応している。
【0022】
そして、外装ケース内に設けられたインク供給部16は、蛇腹ポンプ等の加圧ポンプ15から供給される加圧空気に応じて、流路形成部材12及びインク供給チューブ13の各流路を介して、記録ヘッドの各ノズルに対応するインクを供給するようになっている。即ち、本実施形態のプリンタ1は、いわゆるオフキャリッジタイプであって、記録ヘッドの対応する各ノズルには、ブラック、シアン、マゼンタ、イエローのインクがそれぞれ供給されるようになっている。そして、プリンタ1は、キャリッジ8をガイド部材7に沿って移動させるとともに、液体貯留手段としてのインク供給部16から供給されるインクを記録ヘッドの各ノズルから吐出させて記録用紙に記録を行うようになっている。
【0023】
ここで、上記記録ヘッドに供給されるインクは、記録ヘッドにインクを供給するための流体供給チューブとしてのインク供給チューブ13によって供給されるようになっている。上記インク供給チューブ13は、一端部が上記キャリッジ8に接続されて他端部が装置本体の静止部である接続部14に接続され、インクを貯留する液体貯留手段のインクを記録ヘッドに供給するための液体供給路として機能する。
【0024】
図1において、符号18は、キャリッジ8の移動領域内の記録領域を外れる領域に設けられ、装置の休止中に記録ヘッドのノズル形成面をキャッピングしてノズルの乾燥を防止するとともに、図示しない吸引ポンプによる負圧をノズルに与えてインクを強制的に排出してノズルの目詰まり等を回復するためのキャッピング装置18である。同じく符号19は、吸引後にインクで濡れたノズル形成面を払拭するためのワイピング装置19である。
【0025】
つぎに、上記キャリッジ8に搭載された記録ヘッドにインクを供給するための流体供給機構について詳しく説明する。
【0026】
図2(A)は上記流体供給機構の要部を示す平面図、図2(B)は上記流体供給機構のA−A断面図である。
【0027】
この流体供給機構は、上記インク供給チューブ13を支持するベルト部材としてのスチールベルト21と、上記記録ヘッドに対してインク吐出等の電気信号を送信するためのフレキシブルケーブル23とを備えている。
【0028】
図2(A)に示すように、上記インク供給チューブ13は、一端部がキャリッジ8に接続されるとともに、U字状に湾曲されて他端部が装置本体の静止部である接続部14に接続されている。そして、上記U字状の湾曲部が主走査方向の一方をU字状の開放部が主走査方向の他方を向くよう配置されている。
【0029】
この状態で、ガイド部材7に沿って主走査方向に往復移動するキャリッジ8の移動に追随し、上記インク供給チューブ13の上記U字状の湾曲部が移動するように構成されている。
【0030】
ここで、上記静止部としての接続部14は、キャリッジ8の移動領域に対面する領域に設けられるとともに、キャリッジ8の移動領域のほぼ中央部に対応する部分に設けるのが好ましい。
【0031】
そして、上記スチールベルト21は、インク供給チューブ13と所定の間隔を隔てて平衡に配置され、スチールベルト21とインク供給チューブ13が重ねて配置されている。上記スチールベルト21は、インク供給チューブ13と同様に、一端部がキャリッジ8に接続されるとともに、U字状に湾曲されて他端部が装置本体の静止部である接続部14に接続されている。そして、上記U字状の湾曲部が主走査方向の一方をU字状の開放部が主走査方向の他方を向くよう配置されている。
【0032】
すなわち、上記インク供給チューブ13とスチールベルト21は、重ねて配置された状態で、一端部がそれぞれキャリッジ8に接続されるとともに、それぞれU字状に湾曲されて他端部が装置本体の静止部である接続部14に接続されている。そして、上記U字状の湾曲部が主走査方向の一方をU字状の開放部が主走査方向の他方を向くよう配置されている。
【0033】
また、上記フレキシブルケーブル23は、インク供給チューブ13と所定の間隔を隔てて平衡に配置され、スチールベルト21とインク供給チューブ13およびフレキシブルケーブルが重ねて配置されている。上記スチールベルト21は、インク供給チューブ13およびスチールベルト21と同様に、一端部がキャリッジ8に接続されるとともに、U字状に湾曲されて他端部が装置本体の静止部である接続部14に接続されている。そして、上記U字状の湾曲部が主走査方向の一方をU字状の開放部が主走査方向の他方を向くよう配置されている。
【0034】
この例では、インク供給チューブ13を挟んで、U字状の外側にスチールベルト21が配置され、U字状の内側にフレキシブルケーブル23が配置されている。そして、上記スチールベルト21、インク供給チューブ13、フレキシブルケーブル23は、それぞれ複数の保持部材22に保持されている。
【0035】
図2(B)に示すように、上記保持部材22は、上下方向に延びている本体部分22aを備え、この本体部分22aには4個のチューブ保持溝22bが形成されている。各チューブ保持溝22bは同一の側から各インク供給チューブ13を嵌め込み可能な略円形断面の溝であり、一定の間隔で形成されている。上記チューブ保持溝22bへのインク供給チューブ13の嵌合状態は、キャリッジ8の往復移動によるU字状の湾曲部の移動等による外力で、若干インク供給チューブ13の長手方向に嵌合部がスライド移動するのを許容する状態である。
【0036】
上記保持部材22は、上端部と下端部のチューブ保持溝22bを形成する壁部分を溝開口側に向けて突出させることにより、ベルト保持部22cが形成されている。上記両ベルト保持部22cの内側面には、対面するようにベルト嵌合溝22dが形成され、上記両ベルト嵌合溝22dに、スチールベルト21の幅方向の両端部が嵌合されるようになっている。上記ベルト嵌合溝22dへのスチールベルト21の嵌合状態は、キャリッジ8の往復移動によるU字状の湾曲部の移動等による外力で、若干スチールベルト21の長手方向に嵌合部がスライド移動するのを許容する状態である。
【0037】
上記保持部材22は、本体部分22aにおけるチューブ保持溝22bの開口側とは反対側の上下端部を上記ベルト保持部22cの突出方向とは反対側に突出させることにより、ケーブル保持部22eが形成されている。上記ケーブル保持部22eの先端には、内側に突出した抜け止め22fが形成されている。上記ケーブル保持部22eの間の空間にフレキシブルケーブル23が保持されるようになっている。このフレキシブルケーブル23の保持状態は、キャリッジ8の往復移動によるU字状の湾曲部の移動等による外力で、若干フレキシブルケーブル23の長手方向に保持部がスライド移動するのを許容する状態である。
【0038】
上記構成の保持部材22のチューブ保持溝22bに各インク供給チューブ13を嵌め込んだ後に、ベルト保持部22cのベルト嵌合溝22dにスチールベルト21を嵌合する。これにより、各インク供給チューブ13は上下方向に一定の間隔で整列された状態に束ねられ、スチールベルト21の内側の表面に沿って配列された状態に保持される。さらに、ケーブル保持部22eにフレキシブルケーブル23を保持させることにより、各インク供給チューブ13の内側にフレキシブルケーブル23が保持される。
【0039】
そして、上記U字状に湾曲して相互に重ねて配置されたフレキシブルケーブル23、インク供給チューブ13、スチールベルト21の長手方向の複数箇所(例えば図では6箇所である)に上記保持部材22を配置することにより、スチールベルト21とインク供給チューブ13およびフレキシブルケーブル23が互いに長手方向に沿って相対移動可能に連結され、スチールベルト21によりインク供給チューブ13およびフレキシブルケーブル23が支持されている。
【0040】
この状態で、各インク供給チューブ13は、スチールベルト21の上下の縁端よりも内側に配置されている。したがって、これらの上側あるいは下側に配置されているインクジェットプリンタの各部分にインク供給チューブ13が当たることが無い。
【0041】
つぎに、上記スチールベルト21について詳しく説明する。
【0042】
図3は、上記スチールベルト21を示す斜視図である。
【0043】
図3に示すように、上記スチールベルト21は、炭素鋼からなるばね材であり、幅方向の断面を樋形の湾曲形状とするとともに長手方向の断面を直線形状とする第1の平衡状態(図示の実線の状態)と、この第1の平衡状態に外力が加わることにより、幅方向の断面を直線形状とするとともに長手方向の断面を全体としてリング状とする第2の平衡状態(図示の鎖線の状態)に変形する。そして、上記第1の平衡状態と第2の平衡状態との間で相互に弾性変形しうる薄板上の部材である。
【0044】
また、この例では、上記スチールベルト21は、第1の平衡状態の湾曲形状の凸面側を内側にして第2の平衡状態のリング状に弾性変形するように構成されている。
【0045】
このようなスチールベルト21は、いわゆるコンベックス・コンストン部材といい、例えば、腕章やリストバンドの芯材等として利用されているものである。コンベックス部材はいわゆるコンベックスルールに代表されるような雨樋上の形状をした長尺薄板のバネ材をいい、コンストン部材は、長尺の薄板が長手方向に丸まって巻回されたバネ材をいうが、本発明のスチールベルト21に用いられるコンベックス・コンストン部材は、コンベックス部材とコンストン部材の両者の特性を併せ持った長尺薄板である。すなわち、幅方向に雨樋状で長手方向に直線状の第1の平衡状態で形状を安定的に保持し、この第1の平衡状態で表面を叩くなどして外力を加えると、幅方向には平らとなって長手方向に丸まり、全体としてリング状を呈する第2の平衡状態で形状を安定的に保持する。また、第2の平衡状態のリング状を手で広げて直線状体にすると、再び第1の平衡状態で形状を安定的に保持する。
【0046】
図4〜図6は、上記スチールベルト21の作用を説明する図である。図4(A)は第1の平衡状態における幅方向の断面を示し、図4(B)は同じく第1の平衡状態における長手方向の断面を示す。図5(A)は第2の平衡状態における幅方向の断面を示し、図5(B)は同じく第2の平衡状態における長手方向の断面を示す。図6は、装置に取り付けたときのU字状に湾曲した状態を示す。
【0047】
図4(A)(B)に示すように、第1の平衡状態における幅方向の断面は、樋形の湾曲形状であり、その湾曲半径Rは、装置に取り付けられたときのU字状の湾曲半径Rと、実質的に等しくなるよう設定されている。
【0048】
図5(A)(B)に示すように、第2の平衡状態における長手方向の断面は、全体としてリング状であり、その湾曲半径Rは、装置に取り付けられたときのU字状の湾曲半径Rと、実質的に等しくなるよう設定されている。全長は、第2の平衡状態のリング状の円周長よりも長く設定されるので、全体としてリング状とは、最小半径の円弧の外側に順次ほぼ隙間なく重なるように丸まって巻回された状態をいう。そして、本発明のスチールベルト21では、第1の平衡状態において、長手方向のどの位置で雨樋状の湾曲状態を平らにしても、長手方向に丸まる湾曲半径Rは、装置に取り付けられたときのU字状の湾曲半径Rと、実質的に等しくなるよう設定されている。
【0049】
したがって、上記第2の平衡状態におけるリング状の湾曲半径Rと、上記第1の平衡状態における幅方向の湾曲半径Rとも、実質的に等しくなるよう設定されている。
【0050】
上記した構成において、キャリッジ8がガイド部材7に沿って往復方向に移動すると、スチールベルト21、インク供給チューブ13およびフレキシブルケーブル23は、それぞれのU字状の湾曲部の位置を変化させながら、キャリッジ8の移動に追随して移動する。キャリッジ8の移動時、互いに重なって連結されるインク供給チューブ13とスチールベルト21間、およびインク供給チューブ13とフレキシブルケーブル23間は、長手方向に相対移動しながら、キャリッジ8の動きに追随する運動が行われる。
【0051】
以上の構成により、本実施形態は、ベルト部材として、第1の平衡状態に外力が加わることにより、幅方向の断面を直線形状とするとともに長手方向の断面を全体としてリング状とする第2の平衡状態に変形する薄板部材のスチールベルト21を用いたため、スチールベルト21がU字状に湾曲された状態で、U字状の湾曲部は第2の平衡状態のリング状の湾曲を維持し、U字状の直線部は第1の平衡状態の帯状を維持する。このため、U字状を復元する方向への負荷がほとんどかからず、インク供給チューブ13の不規則な動きを抑制するとともに、キャリッジ8の移動に対する負荷を大幅に抑制できる。したがって、キャリッジ8を起動するためのタイミングベルト5の緊張力や引っ張り力を小さく抑え、キャリッジモータ17を小型のものとしキャリッジ軸であるガイド部材7も細くすることができる。このため、装置を小型化し、パーツのコストも低減できる上、消費電力も少なくなり、小型化、低コスト化の面で有利である。
【0052】
また、上記第2の平衡状態におけるリング状の湾曲半径Rと、装置に取り付けられたときのU字状の湾曲半径Rとが、実質的に等しくなるよう設定されているため、スチールベルト21がU字状に湾曲された状態で、U字状を復元する方向への負荷が実質的にほとんど0になる。このため、キャリッジ8の移動に対する負荷を大幅に抑制でき、装置を小型化し、パーツのコストも低減できる上、消費電力も少なくなる。
【0053】
また、上記第1の平衡状態における幅方向の湾曲半径Rと、装置に取り付けられたときのU字状の湾曲半径Rとが、実質的に等しくなるよう設定されているため、第1の平衡状態に外力が加わって第2の平衡状態に弾性変形したときの湾曲半径RがU字状の湾曲半径Rと実質的に等しくなることから、スチールベルト21がU字状に湾曲された状態で、U字状を復元する方向への負荷が実質的にほとんど0になる。このため、キャリッジ8の移動に対する負荷を大幅に抑制でき、装置を小型化し、パーツのコストも低減できる上、消費電力も少なくなる。
【0054】
また、上記第2の平衡状態におけるリング状の湾曲半径Rと、上記第1の平衡状態における幅方向の湾曲半径Rとが、実質的に等しくなるよう設定されているため、第1の平衡状態に外力が加わって第2の平衡状態に弾性変形したときの湾曲半径RがU字状の湾曲半径Rと実質的に等しくなることから、スチールベルト21がU字状に湾曲された状態で、U字状を復元する方向への負荷が極めて小さくなる。このため、キャリッジ8の移動に対する負荷を大幅に抑制でき、装置を小型化し、パーツのコストも低減できる上、消費電力も少なくなる。
【0055】
また、上記スチールベルト21は、第1の平衡状態の湾曲形状の凸面側を内側にして第2の平衡状態のリング状に弾性変形するため、スムーズな弾性変形および安定した平衡状態の維持が可能となり、図6がU字状に湾曲された状態で、U字状を復元する方向への負荷が極めて小さくなる。このため、キャリッジ8の移動に対する負荷を大幅に抑制でき、装置を小型化し、パーツのコストも低減できる上、消費電力も少なくなる。
【0056】
また、上記静止部としての接続部14はキャリッジ8の移動領域に対面する領域に設けられているため、インク供給チューブ13およびスチールベルト21の長さが比較的短くてキャリッジ移動領域の全域をカバーできるため、構造的な無駄が少ない。
【0057】
また、上記静止部としての接続部14はキャリッジ8の移動領域のほぼ中央部に対応する部分に設けられているため、インク供給チューブ13およびスチールベルト21の長さが最も短くてキャリッジ移動領域の全域をカバーできるため、構造的な無駄がない。
【0058】
図7および図8は、本発明の第2の実施形態を示す。
【0059】
この例では、スチールベルト21がU字状の最も内側に配置され、そのU字状の外側にインク供給チューブ13が配置され、さらにその外側にフレキシブルケーブル23が配置された例を示している。
【0060】
図において、符号32はインクジェットプリンタのガイドレール32であり、プリンタの機体(図示省略)に架設されている。ガイドレール32には、キャリッジ8が移動可能に取り付けられ、該キャリッジ8には、インクジェットヘッド(図示省略)が取り付けられている。ガイドレール32に沿ったカーソル走行路の一方には、接続部14(図示していない)によって、合成樹脂製の4本の並列状に並べられたインク供給チューブ13と、フレキシブルケーブル23の各々の一方が定位置に保持されている。インク供給チューブ13の他方とフレキシブルケーブル23の他方は、取付金具28によってキャリッジ8に固定されている。
【0061】
前記インク供給チューブ13及びフレキシブルケーブル23は、キャリッジ8のガイドレール32に沿った移動に追随し得るように、中間部がU字状にわん曲されてキャリッジ8に連結されている。符号34は前記カーソル走行路内のインク供給チューブ13の長さと略同一の長さの長尺帯状のチューブガイド34であり、弾性のある帯状の合成樹脂フィルムにスポンジが貼着された2層構造に構成されている。前記チューブガイド34には、所定の間隔おきに合成樹脂製のバンドから成るチューブ止め具36と、ベルト止め具38が設けられている。
【0062】
前記チューブガイド34は、スポンジ面がインク供給チューブ13の内側の並列面に、全長にわたって接するように当接配置され、チューブ止め具36によって、インク供給チューブ13にこれに対して動くことができるように連結されている。チューブガイド34の一端はフリー状態で接続部14に当接し或いはこれに連結し、他端は、取付金具28に当接或いは連結されている。スチールベルト21は、チューブガイド34の内側のフィルム面の全長に接するように配置され、一端部が前記接続部14に固定され、他端部が、取付金具28によってキャリッジ8に固定されている。チューブガイド34は、ベルト止め具38によってスチールベルト21に、これに対して長手方向に動くことができるように連結されている。
【0063】
この例でも、上述したものと同様のコンベックス・コンストン部材としての弾性変形および形状保持特性を示すスチールベルト21が用いられており、上記実施の形態と同様の作用効果を奏する。
【0064】
なお、本発明は、上記各実施形態に限定するものではなく、下記のような変形例を包含する趣旨である。
【0065】
上述した各説明では、ベルト部材の材質としてスチール製のものを例示したが、これに限定するものではなく、上述したコンベックス・コンストン部材としての弾性変形および形状保持特性を示すものであれば、スチール製に限定するものではない。
【0066】
また、上述した各説明では、インク供給チューブ13として断面円形のチューブを例示したが、これに限定するものではなく、断面多角形状のチューブを適用することもできるし、帯状の可撓性部材の表面に長手方向に沿って延びる流路となる溝を形成し、上記溝形成面を可撓性シートで蓋をしてインク供給路を形成したインク供給部材を用いてもよい。
【0067】
また、上記第1の実施形態はスチールベルト21の内側にインク供給チューブ13を配置し、その内側にフレキシブルケーブル23を配置したものを説明し、第2の実施形態では、スチールベルト21の外側にインク供給チューブ13を配置し、その外側にフレキシブルケーブル23を配置したものを説明したが、これに限定するものではなく、スチールベルト21でインク供給チューブ13やフレキシブルケーブル23を支持するのであれば、スチールベルト21、インク供給チューブ13、フレキシブルケーブル23の配置を限定するものではない。
【0068】
上述した説明は、インク供給チューブ13として4色のインクを供給するものを例にあげて説明したが、これに限定するものではなく、3色以下のインクを供給するインク供給チューブ13や、5色以上のインクを供給するインク供給チューブ13に対しても適用することができる。
【0069】
また、上述した説明は、略U字状に湾曲されたインク供給チューブ13の湾曲部がホームポジション側である場合を例にあげて説明したが、本発明は、インク供給チューブ13の湾曲部がホームポジションと反対側であるものに適用することもできる。
【0070】
また、上述した説明は、接続部14が装置本体の前面側(排紙側)に、キャリッジ移動領域が装置本体の背面側(給紙側)に配置され、インク供給チューブ13が、開放端の一端が装置の背面側に、開放端の他端側が装置本体の前面側に配置されたU字状を呈している例をあげて説明したが、これに限定するものではない。すなわち、接続部14が装置の背面側でキャリッジ8が装置の前面側に配置され、インク供給チューブ13が略U字状を呈しているものに適用することもできる。また、開放端の一端が装置の上面側に、開放端の他端側が装置本体の下面側に配置されたU字状を呈したものに適用することも可能である。
【0071】
また、上述した説明のように、本実施形態は、液体を貯留する液体貯留手段の液体を記録ヘッドに供給するための液体供給路としてのインク供給チューブ13の支持構造であるとともに、上記記録ヘッドに対して電気信号等を供給するためのフレキシブルプリント回路板やフレキシブルプリント配線板等のフレキシブルケーブル23の支持構造でもある。したがって、上記スチールベルト21で支持しうるものとしては、一端部が上記キャリッジ8に接続されて他端部が装置本体の静止部に接続されたものであれば、各種のものに適用できる趣旨である。
【0072】
したがって、上述した支持構造を、上述したオフキャリッジタイプの記録装置だけでなく、インクカートリッジがキャリッジに搭載されたオンキャリッジタイプの記録装置にも適用できる。この場合でも、フレキシブルケーブルが筐体ケース等に干渉するのを防止してその損傷を防止し、上述した作用効果と同様の作用効果を得ることができる。
【0073】
本発明は、流体噴射装置に適用可能であり、その代表例としては、画像記録用のインクジェット式記録ヘッドを備えたインクジェット式記録装置がある。その他の流体噴射装置としては、例えば液晶ディスプレー等のカラーフィルタ製造に用いられる色材噴射ヘッドを備えた装置、有機ELディスプレー、面発光ディスプレー(FED)等の電極形成に用いられる電極材(導電ペースト)噴射ヘッドを備えた装置、バイオチップ製造に用いられる生体有機物噴射ヘッドを備えた装置、精密ピペットとしての試料噴射ヘッドを備えた装置等があげられる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明が適用される記録装置の一例を示す平面図である。
【図2】本発明のインク供給機構を示す平面図および断面図である。
【図3】スチールプレートを示す斜視図である。
【図4】上記スチールプレートの第1平衡状態を説明する図である。
【図5】上記スチールプレートの第2平衡状態を説明する図である。
【図6】上記スチールプレートの作用を説明する図である。
【図7】本発明のインク供給機構の第2例を示す平面図および断面図である。
【符号の説明】
【0075】
1 プリンタ,2 フレーム,3 給紙トレイ,4 排紙トレイ,5 タイミングベルト,6 プラテン,7 ガイド部材,8 キャリッジ,12 流路形成部材,13 インク供給チューブ,14 接続部,15 加圧ポンプ,16 インク供給部,17 キャリッジモータ,18 キャッピング装置,19 ワイピング装置,21 スチールベルト,22 保持部材,22a 本体部分,22b チューブ保持溝,22c ベルト保持部,22d ベルト嵌合溝,22e ケーブル保持部,22f 抜け止め,23 フレキシブルケーブル,28 取付金具,32 ガイドレール,34 チューブガイド,36 チューブ止め具,38 ベルト止め具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体が供給されて機能する機能ヘッドが搭載されて主走査方向に往復移動するキャリッジと、上記機能ヘッドに流体を供給するための流体供給チューブと、上記流体供給チューブを支持するベルト部材とを備え、
上記流体供給チューブとベルト部材は、重ねて配置された状態で、一端部がそれぞれキャリッジに接続されるとともに、それぞれU字状に湾曲されて他端部が装置本体の静止部に接続され、上記U字状の湾曲部が主走査方向の一方をU字状の開放部が主走査方向の他方を向くよう配置され、
上記ベルト部材として、幅方向の断面を樋形の湾曲形状とするとともに長手方向の断面を直線形状とする第1の平衡状態と、この第1の平衡状態に外力が加わることにより、幅方向の断面を直線形状とするとともに長手方向の断面を全体としてリング状とする第2の平衡状態に変形し、上記第1の平衡状態と第2の平衡状態との間で相互に弾性変形しうる薄板部材を用いたことを特徴とする流体供給装置。
【請求項2】
上記第2の平衡状態におけるリング状の湾曲半径と、装置に取り付けられたときのU字状の湾曲半径とが、実質的に等しくなるよう設定されている請求項1記載の流体供給装置。
【請求項3】
上記第1の平衡状態における幅方向の湾曲半径と、装置に取り付けられたときのU字状の湾曲半径とが、実質的に等しくなるよう設定されている請求項1または2記載の流体供給装置。
【請求項4】
上記第2の平衡状態におけるリング状の湾曲半径と、上記第1の平衡状態における幅方向の湾曲半径とが、実質的に等しくなるよう設定されている請求項1〜3のいずれか一項に記載の流体供給装置。
【請求項5】
上記ベルト部材は、第1の平衡状態の湾曲形状の凸面側を内側にして第2の平衡状態のリング状に弾性変形する請求項1〜4のいずれか一項に記載の流体供給装置。
【請求項6】
上記静止部はキャリッジ移動領域に対面する領域に設けられている請求項1〜5のいずれか一項に記載の流体供給装置。
【請求項7】
上記静止部はキャリッジ移動領域のほぼ中央部に対応する部分に設けられている請求項1〜6のいずれか一項に記載の流体供給装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−149647(P2008−149647A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−342307(P2006−342307)
【出願日】平成18年12月20日(2006.12.20)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】