説明

流体力発電装置

【課題】一方のプロペラが他方のプロペラのブレーキとなることによる軸動力の損失を抑制し、発電効率を向上できる流体力発電装置を提供すること。
【解決手段】本体4の両端に回転方向が異なる第1プロペラ5及び第2プロペラ6が配設され、第1回転軸7及び第2回転軸8がそれぞれ連結される。第1回転軸7の動力は第1ワンウェイクラッチ20により第1要素41(差動装置40)に伝達され、第2回転軸8の動力は第2ワンウェイクラッチ30により第2要素42(差動装置40)に伝達される。第1プロペラ5の回転数が小さくなり、第1回転軸7の回転数が第1要素41の回転数より相対的に小さくなった場合には、第1ワンウェイクラッチ20により第1要素41から第1回転軸7へ動力の伝達が遮断される。第1プロペラ5が回転数の大きな第2プロペラ6のブレーキになることが防止され、軸動力の損失を抑制でき、発電効率を向上できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は流体力発電装置に関し、特に、一方のプロペラが他方のプロペラのブレーキとなることによる軸動力の損失を抑制し、発電効率を向上できる流体力発電装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、海流、潮流、河川等のエネルギーや風力等を発電に利用する流体力発電装置が知られている。その流体力発電装置の一種に、プロペラの軸方向に流体を流すプロペラ型の発電装置がある。プロペラ型の発電装置は、プロペラの回転数が増加するにつれ、その回転反力が大きくなる。その回転反力に抗するだけの強度が、プロペラを支持する本体に必要なため、本体は堅牢でなければならず、本体の構造が複雑化し質量が大きくなる。また、プロペラの回転数が増加するにつれ、プロペラの風切り音が大きくなる。
【0003】
それを解決するため、例えば、流体の流れの上流側に配設される第1プロペラと、その第1プロペラの下流側に配設され第1プロペラの回転方向と逆方向に回転される第2プロペラと、第1プロペラ及び第2プロペラによる軸動力を電力に変換する発電機とを備える流体力発電装置が開示されている(特許文献1)。特許文献1に開示される技術では、第1プロペラと第2プロペラとが互いに逆回転するので、第1プロペラ及び第2プロペラに生じる回転反力が相殺され抑制される。これにより本体の構造を簡素化できる。さらに、第1プロペラと第2プロペラとが互いに逆回転することにより、風切り音も抑制できる。
【0004】
また特許文献1には、第1プロペラ及び第2プロペラを、かさ歯車による反転連結装置で連結し、第1プロペラ及び第2プロペラによる軸動力を電力に変換する効率を向上させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−194918号公報
【特許文献2】特表2003−505647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら特許文献1に開示される技術では、流体の流速が、第1プロペラ及び第2プロペラの両方にとって理想的な条件の場合に効率が向上するが、第1プロペラ又は第2プロペラのいずれかに適切でない条件の場合には、かえって発電の効率が低下する。即ち、流速が一方のプロペラに適切でない条件の場合、その一方のプロペラの回転数が低下する。回転数が低下した一方のプロペラは、反転連結装置を介して他方のプロペラの軸動力によって強制的に回転される。しかし、一方のプロペラの流体による回転推進力は小さいため、一方のプロペラが他方のプロペラのブレーキとなる。さらに、一方のプロペラがブレーキとなった他方のプロペラは回転数が低下するため、他方のプロペラの回転推進力も小さくなる。これにより他方のプロペラも失速する。以上のように、一方のプロペラが他方のプロペラのブレーキとなり、軸動力に損失が生じる。
【0007】
潮流や風等の流体は流速が変動するという特徴があるため、第1プロペラ及び第2プロペラの両方にとって理想的な条件となる時間は長く続かない。また、上流の第1プロペラの回転により流体の流れが変化し、第2プロペラに対する流体の条件が変化する。そのため軸動力の損失が生じ、長期的にみると設計通りの発電効率に達しないという問題があった。この問題は、特許文献2の段落0007〜0010にも指摘されている。
【0008】
本発明は、上述した問題を解決するためになされたものであり、一方のプロペラが他方のプロペラのブレーキとなることによる軸動力の損失を抑制し、発電効率を向上できる流体力発電装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0009】
この目的を達成するために請求項1記載の流体力発電装置によれば、流体の流れ方向と軸方向を一致させて配設される本体の一端に第1プロペラが配設され、第1プロペラの回転方向と逆方向に回転される第2プロペラが本体の他端に配設される。その第2プロペラ及び第1プロペラに第2回転軸および第1回転軸がそれぞれ連結される。第1回転軸の動力は第1ワンウェイクラッチにより差動装置の第1要素に伝達され、第2回転軸の動力は第2ワンウェイクラッチにより差動装置の第2要素に伝達される。そうすると、第2要素および第1要素に係合する第3要素が回転される。また、第1プロペラ及び第2プロペラの回転エネルギーは発電機により電力に変換される。
【0010】
ここで、第1プロペラの回転数が小さくなり、第1回転軸の回転数が第1要素の回転数より相対的に小さくなった場合には、第1ワンウェイクラッチにより第1要素から第1回転軸へ動力の伝達が遮断される。そのため、回転数の小さな第1プロペラが回転数の大きな第2プロペラのブレーキになることが防止される。
【0011】
また、第2プロペラの回転数が小さくなり、第2回転軸の回転数が第2要素の回転数より相対的に小さくなった場合には、第2ワンウェイクラッチにより第2要素から第2回転軸へ動力の伝達が遮断される。そのため、回転数の小さな第2プロペラが回転数の大きな第1プロペラのブレーキになることが防止される。これにより、一方のプロペラが他方のプロペラのブレーキとなることによる軸動力の損失を抑制できる。その結果、第1プロペラ及び第2プロペラの回転エネルギーによる発電効率を向上できる効果がある。
【0012】
請求項2記載の流体力発電装置によれば、第3要素に一端が連結されると共に、本体の軸直角方向に他端側が延設される出力軸により、本体の外部に配設される発電機に軸動力が伝達される。出力軸の他端側に連結される回転子が出力軸と一体に回転され、その回転子と所定間隔をあけて配設される固定子との間で発電される。
【0013】
以上のように本体の外部に発電機を設けることで、本体に発電機を内設することを省略できる。本体は、軸方向に流体が通過する位置(例えば高所や水中)に設ける必要があるので、本体に発電機が内設されている場合、発電機の保守・点検が困難である。これに対し、本体の外部に発電機を設けることにより、流体が通過する位置と無関係(例えば低所や水上)に発電機を設けることができ、請求項1の効果に加え、発電機のメンテナンス性を向上できる効果がある。
【0014】
また、第1プロペラ及び第2プロペラの軸動力を別々に電力に変換する場合、第1プロペラ及び第2プロペラは互いに逆方向に回転し回転数も異なるので、第1プロペラ及び第2プロペラによって得られる電力は周波数が異なる。そのため周波数変換装置等の付帯装置が必要となる。これに対し、互いに逆方向に回転する第1要素および第2要素に係合する第3要素の回転方向は常に一方向である。その第3要素に連結される出力軸の軸動力を電力に変換するので、周波数調整装置等の付帯装置を省略することができ、請求項1の効果に加え、装置を簡素化できる効果がある。
【0015】
請求項3記載の流体力発電装置によれば、一対のウォームホイールにより構成される第1要素および第2要素と、ウォームにより構成される第3要素とが係合するので、請求項1又は2の効果に加え、回転駆動に伴う騒音を抑制できる効果がある。
【0016】
請求項4記載の流体力発電装置によれば、ウォームホイールは、ウォームを挟んで対向する一対の円盤と、その一対の円盤の対向面にウォーム側を向いて突設されると共に突設中心の回りを回転可能に構成される球状のローラピンとを備えている。ローラピンは、ウォームの外周面に沿って螺旋状に形成されるウォーム溝に係合されるので、すべり摩擦による損失を少なくすることができ、伝達効率を向上できる。差動装置における損失が少なくなるので、請求項3の効果に加え、発電効率をさらに向上できる効果がある。
【0017】
また、ウォーム溝は断面円弧状に形成されているので、ウォーム溝に係合される球状のローラピンとのバックラッシを小さくできる。これにより、差動装置で発生する振動や騒音を抑制することができ、請求項3の効果に加え、回転駆動に伴う騒音をさらに小さくできる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】(a)は第1実施の形態における流体力発電装置の側面図であり、(b)は流体力発電装置の動力伝達機構を模式的に示すスケルトン図である。
【図2】動力伝達装置の軸方向断面図である。
【図3】(a)は図2のIIIa−IIIa線における差動装置の断面図であり、(b)は図3(a)のIIIb−IIIb線における差動装置の断面図である。
【図4】(a)は第2実施の形態における流体力発電装置の動力伝達機構を模式的に示すスケルトン図であり、(b)は第3実施の形態における流体力発電装置の動力伝達機構を模式的に示すスケルトン図である。
【図5】第4実施の形態における流体力発電装置の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好ましい実施の形態について添付図面を参照して説明する。図1(a)は第1実施の形態における流体力発電装置1の側面図である。第1実施の形態では、流体力発電装置1は風力発電装置として構成されている。流体力発電装置1は、大地に埋設された基台2に支柱3が設置され、支柱3の上部にヨー駆動装置3aを介して略水平に本体(ナセル)4が配設されている。本体4を支柱3の上部に配設することで、風力を有効に受けることができる。また、ヨー駆動装置3aは水平方向に回動可能に構成されているので、ヨー駆動装置3aにより風向きの変動に対して本体4の向きを変えることができる。
【0020】
第1プロペラ5及び第2プロペラ6は、風力を回転動力に変換するための部材であり、本体4の一端および他端に配設されており、ハブ5a,6aと、風力を受けてハブ5a,6aを回転させるブレード5b,6bとを備えている。第1プロペラ5及び第2プロペラ6は、第1プロペラ5が風上(上流)、第2プロペラ6が風下(下流)に位置するように本体4を向けたとき、上流側(又は下流側)から見て第1プロペラ5及び第2プロペラ6の回転方向が逆方向となるように設計されている。
【0021】
次に図1(b)を参照して、流体力発電装置1の動力伝達機構について説明する。図1(b)は流体力発電装置1の動力伝達機構を模式的に示すスケルトン図である。なお、図1(b)に示す右向きの矢印は、風の向きである。図1(b)に示すように、第1プロペラ5のハブ5aは第1回転軸7に、第2プロペラ6のハブ6aは第2回転軸8に連結されており、第1回転軸7及び第2回転軸8は動力伝達装置10に接続されている。動力伝達装置10は、第1回転軸7及び第2回転軸8の動力の切換えを行うための装置であり、第1ワンウェイクラッチ20、第2ワンウェイクラッチ30及び差動装置40が内蔵され、本体4に内設されている。
【0022】
第1ワンウェイクラッチ20は、第1回転軸7の動力を差動装置40に伝達する一方、差動装置40から第1回転軸7へ動力の伝達を遮断するための装置であり、第1回転軸7の外周に所定間隔をあけて配設される円環状の第1回転部材21と、第1回転軸7の外周面と第1回転部材21の内周面との間の円周方向に配設される複数の第1スプラグ22とを備えている。第1スプラグ22が第1回転軸7及び第1回転部材21に係合することにより動力が伝達され、第1回転軸7及び第1回転部材21と第1スプラグ22との係合が解除されることにより動力の伝達が遮断される。
【0023】
第2ワンウェイクラッチ30は、第2回転軸8の動力を差動装置40に伝達する一方、差動装置40から第2回転軸8へ動力の伝達を遮断するための装置であり、第2回転軸8の外周に所定間隔をあけて配設される円環状の第2回転部材31と、第2回転軸8の外周面と第2回転部材31の内周面との間の円周方向に配設される複数の第2スプラグ32とを備えている。第2スプラグ32が第2回転軸8及び第2回転部材31に係合することにより動力が伝達され、第2回転軸8及び第2回転部材31と第2スプラグ32との係合が解除されることにより動力の伝達が遮断される。
【0024】
差動装置40は、第1回転軸7及び第2回転軸8を反転連結するための装置であり、第1回転軸7の動力が入力される第1要素41と、第2回転軸8の動力が入力される第2要素44と、第2要素44及び第1要素41と係合し回転される第3要素47とを備えている。第1要素41は第1回転部材21と一体に回転可能に構成されており、第2要素44は第2回転部材31と一体に回転可能に構成されている。第3要素47は、出力軸9の一端が連結されている。出力軸9は、本体4の軸直角方向に回転動力を出力するための部材であり、他端側が発電機50に延設されている。
【0025】
発電機50は、出力軸9の軸動力を電力に変換するための装置であり、出力軸9と一体に回転される回転子51と、その回転子51と所定間隔をあけて配設され電力が生じる固定子52とを備えている。回転子51は永久磁石または電磁石を備えて構成され、固定子52はコイルを備えて構成されている。本実施の形態では、発電機50(交流機)は本体4の外部に配設されている。発電機50が本体4の外部に配設されるので、基台2(図1(a)参照)に近い支柱3の低所(地上)に発電機50を設けることができる。これにより発電機50の保守・点検を容易にすることができ、発電機50のメンテナンス性を向上できる。
【0026】
また、第1プロペラ5及び第2プロペラ6の軸動力を別々に電力に変換する場合、第1プロペラ5及び第2プロペラ6は互いに逆方向に回転し回転数も異なるので、第1プロペラ5及び第2プロペラ6によって得られる電力は周波数が異なる。そのため周波数変換装置等の付帯装置が必要となる。これに対し流体力発電装置1によれば、互いに逆方向に回転する第1要素41及び第2要素44に係合する第3要素47の回転方向を常に一方向にできる。その第3要素47に連結される出力軸9の軸動力を電力に変換することで、周波数調整装置等の付帯装置を省略することができ、装置を簡素化できる。なお、出力軸9を増速する増速機を設けることも可能である。
【0027】
また、本体4に発電機が内設されていないので、本体4を軽量化できる。流体力発電装置1を建設するときには、支柱3を立設した後、支柱3の上部に本体4を持ち上げる作業が必要であるが、本体4を軽量化できるので、流体力発電装置1を建設する作業を容易化できる。
【0028】
また、風力で回転する第1プロペラ5及び第2プロペラ6は低回転(機種や大きさによるが概ね10〜50回転/分)である。増速機(図示せず)により増速したとしても、発電機50は低回転・高トルクのものが適している。しかし、一般に低回転・高トルクの発電機50は重量が大きいという問題がある。流体力発電装置1によれば、本体4に発電機を内設する必要がないため、発電機50の重量を考慮することなく、最適な発電機50を選択できる。そのため低回転・高トルクの発電機50を低所(地上)に設けることができ、発電の出力を増大できる。
【0029】
また、上記のように動力伝達装置1は、第1回転軸7と差動装置40との間が第1ワンウェイクラッチ20により連結され、第2回転軸8と差動装置40との間が第2ワンウェイクラッチ30により連結されている。これにより、第1回転軸7の動力は第1ワンウェイクラッチ20により差動装置40の第1要素41に伝達され、第2回転軸8の動力は第2ワンウェイクラッチ30により差動装置40の第2要素44に伝達される。そうすると、第2要素44及び第1要素41に係合する第3要素47が回転され、出力軸9が回転されることで、第1プロペラ5及び第2プロペラ6の回転エネルギーは発電機50により電力に変換される。
【0030】
一方、第1プロペラ5の回転数が小さくなり、第1回転軸7の回転数が第1要素41の回転数より相対的に小さくなった場合には、第1ワンウェイクラッチ20により第1要素41から第1回転軸7へ動力の伝達が遮断される。そのため、回転数の小さな第1プロペラ5が回転数の大きな第2プロペラ6のブレーキになることが防止される。
【0031】
また、第2プロペラ6の回転数が小さくなり、第2回転軸8の回転数が第2要素44の回転数より相対的に小さくなった場合には、第2ワンウェイクラッチ30により第2要素44から第2回転軸8へ動力の伝達が遮断される。そのため、回転数の小さな第2プロペラ6が回転数の大きな第1プロペラ5のブレーキになることが防止される。これにより、第1プロペラ5又は第2プロペラ6の一方が、第1プロペラ5又は第2プロペラ6の他方のブレーキとなることによる軸動力の損失を抑制できる。その結果、第1プロペラ5及び第2プロペラ6の回転エネルギーによる発電効率を向上できる。
【0032】
さらに、第1プロペラ5と第2プロペラ6とが互いに逆回転するので、第1プロペラ5及び第2プロペラ6に生じる回転反力が相殺され抑制される。これにより本体4の構造を簡素化できる。第1プロペラ5と第2プロペラ6とが互いに逆回転することにより、第1プロペラ5及び第2プロペラ6に生じる風切り音も抑制できる。
【0033】
次に図2を参照して、本体4に内設される動力伝達装置10の構造について説明する。図2は動力伝達装置10の軸方向断面図である。図2に示すように、第1回転軸7及び第2回転軸8は同一の軸心O上に位置し、動力伝達装置10の筐体10aに配設固定されたベアリング61,62により軸支される。第1回転軸7は、第2回転軸8の端面に形成された凹部に端部が遊挿されている。ベアリング63が第1回転軸7の外周面と第2回転軸8の内周面との間に配設され、ベアリング64が第1回転軸7及び第2回転軸7の当接面の間に配設されている。これにより第1回転軸7及び第2回転軸8はそれぞれ回転可能に筐体10aに支持される。
【0034】
第1要素41及び第2要素44は、第1回転軸7及び第2回転軸8の動力を第3要素47に伝達するための部材であり、本実施の形態では、ウォームホイール41,44により構成されている。ウォームホイール41,44は、出力軸9を挟んで対向する一対の円盤42,45と、円盤42,45の対向面に出力軸9側を向いて突設されるローラピン43,46とを備えている。
【0035】
円盤42,45は円環状に形成される部材であり、中心に第1回転軸7又は第2回転軸8が貫通される孔部42a,45aを有している。孔部42aの内周面と第1回転軸7の外周面との間にベアリング65が配設され、孔部45aの内周面と第2回転軸8の外周面との間にベアリング66が配設されている。また、円盤42,45と筐体10aの内面との間にベアリング67,68が配設されている。これにより円盤42,45は、第1回転軸7及び第2回転軸8に対して相対回転可能に支持される。また、円盤42,45の孔部42a,45aに第1回転軸7及び第2回転軸8が貫通されているので、動力伝達装置10の軸方向長さを小さくすることができる。
【0036】
第1回転部材21及び第2回転部材31は、第1回転軸7及び第2回転軸8との間で第1スプラグ22及び第2スプラグ32を係合するための円環状の部材であり、円盤42,45と一体に形成され、円盤42,45の対向面に出力軸9側を向いて突設されている。なお、第1回転部材21及び第2回転部材31は、ローラピン43,46より軸直角方向内側(軸心O側)に位置している。第1回転部材21及び第2回転部材31が円盤42,45と一体に形成されているので、動力伝達装置10をコンパクト化できる。
【0037】
第3要素47は、第1要素41及び第2要素44と係合し第1要素41及び第2要素44を反転連結するための部材である。本実施の形態では、出力軸9の先端に形設されたウォーム47により構成されている。出力軸9は、側面視して第1回転軸7及び第2回転軸8と直交し、ベアリング69により筐体10aに軸支されている。ウォームホイール41,44(第1要素及び第2要素)の回転によりウォーム47(第3要素)が回転され、出力軸9が回転される。ウォームホイール41,44とウォーム47との係合は、すべり摩擦が支配的なため、ウォーム47の回転駆動に伴う騒音を抑制できる。
【0038】
また、ウォームホイール41,44の歯数(ローラピン43,46の数)はウォーム47の歯数に対して大きく設定される。これにより、ウォームホイール41,44が回転駆動されると、ウォーム47が増速回転される。ウォーム47が増速回転されることで出力軸9の回転数、即ち回転子51の回転数を大きくできる。これにより発電機50の出力を増大できる。
【0039】
なお、ウォームギヤ(ウォームホイール41,44及びウォーム47)は、ウォーム47の回転によりウォームホイール41,44を回転(駆動)させるように用いるのが一般的であるが、設定によりウォームホイール41,44の回転によりウォーム47が回転(逆駆動)するようにできる。具体的には、ウォーム47のねじれ角が摩擦角より大きくなるように設定すれば良い。
【0040】
次に図3を参照して、ウォームホイール41,44及びウォーム47を備える差動装置40について詳細に説明する。図3(a)は図2のIIIa−IIIa線における差動装置40の断面図であり、図3(b)は図3(a)のIIIb−IIIb線における差動装置40の断面図である。
【0041】
なお図3(a)では、理解を容易にするため、孔部42aに貫通されて中心に位置する第1回転軸7及び第2回転軸8の図示、ウォームホイール44の図示を省略している。また図3(b)では、ウォームホイール44側の出力軸9の一部、ウォームホイール44の図示を省略している。
【0042】
図3(a)に示すように、ローラピン43は、孔部42aの内周および第1回転部材22の内周より直径の大きな同心円(中心は軸心O)上に位置し、円盤42に突設され、ウォーム47の外周面に沿って螺旋状に形成されるウォーム溝47aに係合される。
【0043】
図3(b)に示すように、ローラピン43は、軸部材43aと、軸部材43aの回りに回転可能に構成されるローラ部43cとを備えている。円盤42は同心円上に貫通孔42bが貫通形成されており、円盤42の対向面42c側から貫通孔42bに軸部材43aが嵌入される。軸部材43aは、長手方向の略中央の外周に鍔部43bが突設されているので、鍔部43bにより軸部材43aの嵌入深さが規制される。貫通孔42bに嵌入された軸部材43aは、貫通孔42bの内径より大径の締結部材により、円盤42の反対面側から固定される。これにより軸部材43aは円盤42に固定され、円盤42の対向面42cに突設される。
【0044】
ローラ部43cは、ベアリング43dにより軸部材43aに軸支される部材であり、外周面が球状に形成されている。ローラ部43cは軸部材43aを中心に回転する。軸部材43aにローラ部43cを装着しているので、万が一破損等が生じたときでも、軸部材43aやローラ部43cの交換を容易に行うことができ、メンテナンス性に優れる。
【0045】
ウォーム溝47aは、ローラ部43cが係合される部位であり、断面円弧状に形成されている。本実施の形態では、ウォーム溝47aは、断面がゴシックアーク状(半径が同じで中心が異なる2つの円弧が連結された形状)に形成されている。
【0046】
これにより、ウォーム47の外周面に沿って螺旋状に形成されるウォーム溝47aに、先端が球状のローラピン43(ローラ部43c)が係合されるので、すべり摩擦による損失を少なくすることができ、伝達効率を向上できる。差動装置40における損失を少なくできるので、発電効率をさらに向上できる。また、摩擦による発熱を少なくできると共に、摩擦を少なくできることで速度伝達比をさらに大きくできる。
【0047】
また、ウォーム溝47aは断面円弧状に形成されているので、ウォーム溝47aに係合される球状のローラピン43とのバックラッシを小さくできる。これにより、差動装置40で発生する振動や騒音を抑制することができ、回転駆動に伴う騒音をさらに小さくできる。特に、ウォーム溝47aは断面がゴシックアーク状に形成されているので、ウォームホイール41,44及びウォーム47の位置調整を容易にできると共に、より小さな力でウォーム47を回転させることができる。
【0048】
次に図4(a)及び図4(b)を参照して、第2実施の形態および第3実施の形態について説明する。第1実施の形態では、本体4の外部に発電機50が配設される場合について説明した。これに対し、第2実施の形態および第3実施の形態では、本体4に発電機(回転子51a,51b及び固定子52a,52b)が内設される場合について説明する。なお、第2実施の形態および第3実施の形態では、動力伝達装置110,210が本体4(図1(a)参照)に内設されるものとして説明し、第1実施の形態と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。まず、図4(a)を参照して、第2実施の形態について説明する。図4(a)は第2実施の形態における流体力発電装置101の動力伝達機構を模式的に示すスケルトン図である。
【0049】
流体力発電装置101は、回転子51a,51b及び固定子52a,52bが動力伝達装置110に内設されている。回転子51a,51bは、第1プロペラ5側、第2プロペラ6側の2箇所に配設されており、それぞれ第1回転部材21及び第1要素41、第2回転部材31及び第2要素44と一体に回転するように構成されている。固定子52a,52bは、それぞれの回転子51a,51bと所定間隔をあけて配設されている。第3要素47の回転数はエンコーダ70により検出されるので、差動装置40の動作を検出できる。
【0050】
以上のように構成される流体力発電装置101によれば、第1プロペラ5側、第2プロペラ6側の2箇所の回転子51a,51b及び固定子52a,52bにより発電を行うことができる。一方のプロペラ(説明の便宜のため、ここでは第1プロペラ5とする)の回転数が小さくなり、第1回転軸7の回転数が第1要素41の回転数より相対的に小さくなった場合には、第1ワンウェイクラッチ20により第1要素41から第1回転軸7へ動力の伝達が遮断される。そのため、回転数の小さな第1プロペラ5が回転数の大きな第2プロペラ6のブレーキになることが防止される。この場合であっても、第1要素41により回転子51aが回転されるので、2箇所の回転子51a,51b及び固定子52a,52bによる発電は継続して行われる。これにより発電効率が低下することが防止される。
【0051】
次に、図4(b)を参照して、第3実施の形態について説明する。図4(b)は第3実施の形態における流体力発電装置201の動力伝達機構を模式的に示すスケルトン図である。流体力発電装置201は、第1ワンウェイクラッチ220と、第2ワンウェイクラッチ230と、差動装置40とを備え、回転子51a,51b及び固定子52a,52bが動力伝達装置210に内設されている。
【0052】
第1ワンウェイクラッチ220は、第1回転軸7と一体に回転される円環状の第1回転部材221と、第1回転部材221の内側に第1回転軸7と同軸状に配設され第1要素41と一体に回転される第1伝達軸222と、第1伝達軸222の外周面と第1回転部材221の内周面との間の円周方向に配設される複数の第1スプラグ223とを備えている。第1スプラグ223が第1回転部材221及び第1伝達軸222に係合することにより動力が伝達され、第1回転部材221及び第1伝達軸222と第1スプラグ223との係合が解除されることにより動力の伝達が遮断される。
【0053】
第2ワンウェイクラッチ230は、第2回転軸8と一体に回転される円環状の第2回転部材321と、第2回転部材321の内側に第2回転軸8と同軸状に配設され第2要素44と一体に回転される第2伝達軸322と、第2伝達軸322の外周面と第2回転部材321の内周面との間の円周方向に配設される複数の第2スプラグ323とを備えている。第2スプラグ323が第2回転部材321及び第2伝達軸322に係合することにより動力が伝達され、第2回転部材321及び第2伝達軸322と第2スプラグ323との係合が解除されることにより動力の伝達が遮断される。
【0054】
回転子51a,51bは、第1プロペラ5側、第2プロペラ6側の2箇所に配設されており、それぞれ第1回転部材221、第2回転部材321と一体に回転するように構成されている。固定子52a,52bは、それぞれの回転子51a,51bと所定間隔をあけて配設されている。
【0055】
以上のように構成される流体力発電装置201によれば、第1プロペラ5側、第2プロペラ6側の2箇所の回転子51a,51b及び固定子52a,52bにより発電を行うことができる。一方のプロペラ(説明の便宜のため、ここでは第1プロペラ5とする)の回転数が小さくなり、第1回転軸7の回転数が第1要素41の回転数より相対的に小さくなった場合には、第1ワンウェイクラッチ220により第1要素41から第1回転軸7へ動力の伝達が遮断される。そのため、回転数の小さな第1プロペラ5が回転数の大きな第2プロペラ6のブレーキになることが防止される。この場合であっても、第1回転軸7及び第1回転部材221により回転子51aが回転されるので、2箇所の回転子51a,51b及び固定子52a,52bによる発電は継続して行われる。これにより発電効率が低下することが防止される。
【0056】
なお、第2実施の形態および第3実施の形態では、第1プロペラ5及び第2プロペラ6は互いに逆方向に回転し回転数も異なるので、第1プロペラ5側、第2プロペラ6側の2箇所の回転子51a,51b及び固定子52a,52bにより生じた電力の周波数を調整する周波数調整装置等の付帯装置が必要である。また、第1回転軸7及び第2回転軸8に増速機(図示せず)を設け、回転子51a,51bの回転数を増加させることができる。
【0057】
次に図5を参照して、第4実施の形態について説明する。第1実施の形態から第3実施の形態では、流体力発電装置1,101,201が風力発電装置として構成される場合について説明した。これに対し、第4実施の形態では、海流、潮流、河川等のエネルギーを発電に利用する流体力発電装置301について説明する。図5は第4実施の形態における流体力発電装置301の側面図である。なお、図5に示す右向きの矢印は、水流の向きである。
【0058】
流体力発電装置301は、支持部材(図示せず)により水面下に略水平に固設された円筒状の管体302と、その管体302の内側に中空状の支持部303により固定される円筒状の本体304とを備えている。管体302は両端が開口しており、水流が管体302の一方の開口から流入し、他方の開口から流出するように水面下に固設されている。
【0059】
第1プロペラ305及び第2プロペラ306は、水流のエネルギーを回転動力に変換するための部材であり、本体304の一端および他端に配設されており、ハブ305a,306aと、水流を受けてハブ305a,306aを回転させるブレード305b,306bとを備えている。第1プロペラ305及び第2プロペラ306は、上流側(又は下流側)から見て第1プロペラ305及び第2プロペラ306の回転方向が逆方向となるように設計されている。
【0060】
発電機307は、第1プロペラ305及び第2プロペラ306による軸動力を電力に変換するための装置であり、本体304の外部に配設されている。そのため、本体304の位置とは異なり、発電機307を水上や地上もしくは水深の浅いところに設けることができる。これにより発電機307の保守・点検を容易にすることができ、発電機307のメンテナンス性を向上できる。なお、第1プロペラ305及び第2プロペラ306により生じた動力を、支持部303を伝って発電機307に伝達する手段は、第1実施の形態と同様に、第3要素に連結した出力軸を延設すれば良いので、説明を省略する。
【0061】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。例えば、上記実施の形態で挙げた数値(例えば、各構成の数量や寸法等)は一例であり、他の数値を採用することは当然可能である。
【0062】
上記各実施の形態では、第1ワンウェイクラッチ20,220、第2ワンウェイクラッチ30,230がスプラグタイプの場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、他のワンウェイクラッチ、例えばローラタイプ、ラチェットタイプを採用することは当然可能である。
【0063】
上記各実施の形態では、ウォームホイール41,44(第1要素および第2要素)及びウォーム47(第3要素)を採用した差動装置40を用いる場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、他の差動装置を採用することは当然可能である。他の差動装置としては、例えば、ベベルギヤ、ハイポイドギヤ(登録商標)等を備えるものが挙げられる。
【0064】
上記各実施の形態では、ウォーム47の外周面に形成されたウォーム溝47aの断面形状が、ゴシックアーク状に形成された場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、断面円弧状の他の形状に形成することは当然可能である。他の形状としては、例えば、サーキュラーアーク状(単一円弧状)等が挙げられる。この場合も、ウォーム溝47aを断面円弧状に形成することで、ウォーム溝47aに係合される球状のローラピン43,46とのバックラッシを小さくできる効果を実現できる。
【符号の説明】
【0065】
1,101,201,301 流体力発電装置
4,304 本体
5,305 第1プロペラ
6,306 第2プロペラ
7 第1回転軸
8 第2回転軸
9 出力軸
20,220 第1ワンウェイクラッチ
30,230 第2ワンウェイクラッチ
40,140 差動装置
41 第1要素(ウォームホイール)
42,45 円盤
43,46 ローラピン
44 第2要素(ウォームホイール)
47 第3要素(ウォーム)
47a ウォーム溝
50,307 発電機
51 回転子
52 固定子
141 第1要素
144 第2要素
147 第3要素

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体の流れ方向と軸方向を一致させて配設される本体と、
その本体の一端に配設されると共に、流体により回転される第1プロペラと、
その第1プロペラの回転方向と逆方向に回転されると共に、前記本体の他端に配設される第2プロペラと、
その第2プロペラ及び前記第1プロペラにそれぞれ連結される第2回転軸および第1回転軸と、
その第1回転軸の動力が入力される第1要素と、前記第2回転軸の動力が入力される第2要素と、その第2要素および前記第1要素と係合し回転される第3要素とを有する差動装置と、
前記第1プロペラ及び前記第2プロペラの回転エネルギーを電力に変換する発電機とを備える流体力発電装置であって、
前記第1プロペラにより駆動される前記第1回転軸の動力を前記第1要素に伝達する一方、その第1要素から前記第1回転軸へ動力の伝達を遮断する第1ワンウェイクラッチと、
前記第2プロペラにより駆動される前記第2回転軸の動力を前記第2要素に伝達する一方、その第2要素から前記第2回転軸へ動力の伝達を遮断する第2ワンウェイクラッチとを備えていることを特徴とする流体力発電装置。
【請求項2】
前記第3要素に一端が連結されると共に、前記本体の軸直角方向に他端側が延設される出力軸を備え、
前記発電機は、前記本体の外部に配設されるものであり、前記出力軸の他端側に連結されると共に前記出力軸と一体に回転される回転子と、その回転子と所定間隔をあけて配設される固定子とを備えていることを特徴とする請求項1記載の流体力発電装置。
【請求項3】
前記第1要素および前記第2要素は一対のウォームホイールにより構成され、前記第3要素は前記ウォームホイールと係合可能なウォームにより構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の流体力発電装置。
【請求項4】
前記一対のウォームホイールは、
前記ウォームを挟んで対向する一対の円盤と、
その一対の円盤の対向面に前記ウォーム側を向いて突設されると共に、突設中心の回りを回転可能に構成される球状のローラピンとを備え、
前記ウォームは、
外周面に沿って螺旋状に形成され前記ローラピンが係合されるウォーム溝を備え、そのウォーム溝は断面円弧状に形成されていることを特徴とする請求項3記載の流体力発電装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−2354(P2013−2354A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−133946(P2011−133946)
【出願日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(000154347)株式会社ユニバンス (132)
【Fターム(参考)】