説明

流体動圧軸受装置及びこれを備えた軸流ファンモータ

【課題】軸部材の回転時に軸部材に軸方向の推力が加わる流体動圧軸受装置において、高速回転時においても軸部材のフランジ部とこれに対向する部材との接触を防止する。
【解決手段】軸部材2の回転時に軸部材2に下向きの推力Fが加わる場合、軸部材2のフランジ部2bを下向きに支持する第2のスラスト軸受部T2の支持力F2を、軸部材2のフランジ部2bを上向きに支持する第1のスラスト軸受部T1の支持力F1よりも小さくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラジアル軸受隙間及びスラスト軸受隙間に生じる潤滑流体の圧力により、軸部材を相対回転自在に支持する流体動圧軸受装置、及びこれを備えた軸流ファンモータに関する。
【背景技術】
【0002】
流体動圧軸受装置は、例えば、HDDのスピンドルモータ用や各種ファンモータ用として好適に使用されている。例えば特許文献1に示されている流体動圧軸受装置100は、図8に示すように、軸部102a及びフランジ部102bを有する軸部材102と、内周に軸部102aが挿入された軸受スリーブ108と、内周に軸受スリーブ108が固定された筒状のハウジング107と、ハウジング107の一端開口部を閉塞するスラストブッシュ110とを備える。軸部材102が回転すると、軸部102aの外周面102a1と軸受スリーブ108の内周面108aとの間にラジアル軸受隙間が形成され、このラジアル軸受隙間に生じる油膜の圧力で軸部材102をラジアル方向に支持するラジアル軸受部R1’,R2’が構成される。これと同時に、軸受スリーブ108の一端面108cとフランジ部102bの一端面102b1との間、及び、スラストブッシュ110の端面110aとフランジ部102bの他端面102b2との間にそれぞれスラスト軸受隙間が形成され、各スラスト軸受隙間に生じる油膜の圧力で軸部材102をスラスト方向に支持するスラスト軸受部T1’,T2’が構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−83323号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、上記の流体動圧軸受装置100をHDDのスピンドルモータに組み込んだ場合、軸部材102には、搭載されるディスクの重さが軸部材102に加わり、軸部材102が下向きに押し付けられる。軸部材102が回転すると、下側のスラスト軸受部T2の支持力F2’により軸部材102が上向きに支持される。このとき、ディスクの重さにより軸部材102を下向きに押し付ける力は、軸部材102の回転速度が速くなっても変わらないため、軸部材102は、一旦浮上支持されたら、回転が停止したり外力が加わったりしない限り浮上支持され続ける。
【0005】
一方、上記の流体動圧軸受装置100を軸流ファンモータに組み込んだ場合、軸部材102の回転に伴って軸部材102に軸方向の推力が加わる。図8では、例えば軸部材102に下向きの推力F’が加わる場合を示す。このとき、軸部材102の回転速度の上昇に伴って軸部材102に加わる軸方向の推力F’が大きくなり、軸部材102が下方に押し込まれる。この推力F’に対して、下側のスラスト軸受部T2’の支持力F2’により軸部材102を上向きに支持するが、軸部材102が10000r/min以上で高速回転すると、軸方向の推力F’が非常に大きくなるため、スラスト軸受部T2’の支持力F2’で支持することができなくなる恐れがある。
【0006】
また、軸部材102は、推力F’だけでなく、上側のスラスト軸受部T1’の支持力F1’でさらに下方に押し込まれる。特に、10000r/min以上の高速回転になると、上側のスラスト軸受部T1’の支持力F1’が大きくなって、軸部材102を下向きに押し付ける力が無視できなくなる。このような軸部材102を下向き押し付ける支持力F1’と推力F’との合計量が、下側のスラスト軸受部T2’の支持力F2’よりも大きくなると、軸部材102とスラストブッシュ110とが接触する恐れがある。
【0007】
さらに、図8の軸受スリーブ108の内周面108aには軸方向非対称な形状の動圧溝が形成され、この動圧溝によりラジアル軸受隙間の潤滑油が下方に押し込まれる。この動圧溝による潤滑油の下向きの押し込み力F3’により、軸部材102がさらに下方に押し込まれ、軸部材102とスラストブッシュ110とが接触する恐れが高くなる。
【0008】
以上のような不具合は、図8のように軸部材102に下向きの推力F’が加わる場合だけでなく、軸部材102に上向きの推力が加わる場合にも同様に生じる。また、軸部材102が回転する場合だけでなく、軸部材102を固定して軸受スリーブ108側を回転させる場合にも同様の不具合が生じる。
【0009】
本発明が解決すべき課題は、軸部材の相対回転に伴って軸部材に軸方向の相対的な推力が加わる流体動圧軸受装置において、高速回転時においても軸部材のフランジ部とこれにスラスト方向で対向する部材との接触を防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するためになされた本発明は、軸部及びフランジ部を有する軸部材と、内周に軸部が挿入されたスリーブ部、及び、スリーブ部の一端開口部を閉塞する底部を有する軸受部材と、軸部の外周面とスリーブ部の内周面との間のラジアル軸受隙間に生じる潤滑流体の動圧作用で軸部材をラジアル方向に相対支持するラジアル軸受部と、スリーブ部の一端面とフランジ部の一端面との間のスラスト軸受隙間、及び、底部の端面とフランジ部の他端面との間のスラスト軸受隙間に生じる潤滑流体の動圧作用で軸部材をスラスト方向に相対支持する2つのスラスト軸受部とを備え、軸部材と軸受部材とが10000r/min以上で相対回転する流体動圧軸受装置において、軸部材が、相対回転に伴って軸方向一方に向けて相対的な推力を受けるものであって、2つのスラスト軸受部のうち、軸部材を軸方向一方に向けて相対的に押し込む一方のスラスト軸受部の支持力を、軸部材を軸方向他方に向けて相対的に押し込む他方のスラスト軸受部の支持力よりも小さくしたことを特徴とする。
【0011】
このように、本発明に係る流体動圧軸受装置では、軸方向一方、すなわち、相対回転に伴って加わる推力と同じ方向に向けて軸部材を押し込む一方のスラスト軸受部の支持力を敢えて低く設定する。これにより、軸部材のフランジ部を、スラスト方向で対向する部材(底部又はスリーブ部)に押し付ける方向の力が低減されるため、10000r/min以上の高速で軸部材が相対回転した場合でも、軸部材のフランジ部とこれに対向する部材との接触を防止することができる。
【0012】
上記の流体動圧軸受装置では、例えば、2つのスラスト軸受部に、スラスト軸受隙間に満たされた潤滑流体に動圧作用を発生させるスラスト動圧発生部を設け、一方のスラスト軸受部のスラスト動圧発生部の面積を、他方のスラスト軸受部のスラスト動圧発生部の面積よりも小さくすることができる。
【0013】
例えば、上記の推力が、スリーブ部の一端面とフランジ部の一端面とを接近させる方向に生じる場合は、上記の推力と同じ方向に軸部材を押し込む一方のスラスト軸受部のスラスト軸受隙間は、底部の端面とフランジ部の他端面との間に形成される。
【0014】
ラジアル軸受部に、ラジアル軸受隙間に満たされた潤滑流体に動圧作用を発生させるラジアル動圧発生部を設け、このラジアル動圧発生部を、潤滑流体を軸方向他方、すなわち上記の推力と反対側に向けて押し込むものとすれば、軸部材のフランジ部が対向する部材と接触する事態をより確実に防止できる。
【0015】
軸部材が停止したときに、他方のスラスト軸受隙間が0となるようにすれば、軸部材の低速回転時(例えばモータの起動直後あるいは停止直前)に、相対的に支持力が大きい他方のスラスト軸受部で軸部材を支持することができるため、軸部材のフランジ部をこれに対向する部材に対して早期に浮上させることができる。
【0016】
上記の流体動圧軸受装置は、例えば、軸方向に気流を発生させる軸流ファンモータに組み込むことができる。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明によれば、軸部材の相対回転に伴って軸部材に軸方向の相対的な推力が加わる流体動圧軸受装置において、10000r/min以上の高速回転時においても軸部材のフランジ部とこれに対向する部材との接触を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係る流体動圧軸受装置が組み込まれた軸流ファンモータの断面図である。
【図2】上記流体動圧軸受装置の断面図である。
【図3】上記流体動圧軸受装置の軸受スリーブの断面図である。
【図4】上記軸受スリーブの上面図である。
【図5】上記流体動圧軸受装置のスラストブッシュの下面図である。
【図6】他の実施形態に係る流体動圧軸受装置の断面図である。
【図7】他の実施形態に係る流体動圧軸受装置の断面図である。
【図8】従来の流体動圧軸受装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0020】
図1に、本発明の一実施形態に係る流体動圧軸受装置1が組み込まれた軸流ファンモータを示す。このファンモータは、軸部材2を回転自在に支持する流体動圧軸受装置1と、流体動圧軸受装置1の固定側(軸受部材11)に取り付けられたケーシング6と、流体動圧軸受装置1の回転側(軸部材2)に取り付けられたロータ3と、半径方向のギャップを介して対向させたステータコイル4およびマグネット5とを備えている。ステータコイル4はケーシング6に取り付けられ、マグネット5はロータ3に取り付けられる。ロータ3には、複数のファン3aが一体に設けられる。ステータコイル4に通電すると、ステータコイル4とマグネット5との間の電磁力でマグネット5及びロータ3が回転し、ファン3aにより軸方向の気流が発生する。本実施形態では、図中上側に気流が発生する場合を示す(矢印参照)。このファンモータは、ロータ3が10000r/min以上で高速回転するものであり、例えば医療機器などに組み込まれるターボファンとして用いられる。尚、本実施形態では、ファンモータが図1に示す状態、すなわち軸受部材11から軸部材2が突出する方向を下向きにした状態で使用される場合を示す。
【0021】
流体動圧軸受装置1は、図2に示すように、軸部材2と軸受部材11とで構成される。軸受部材11は、内周に軸部材2が挿入されたスリーブ部11aと、スリーブ部11aの上端開口部を閉塞する底部11bとを有する。本実施形態では、焼結金属製の軸受スリーブ8と、内周面に軸受スリーブ8が固定された筒状のハウジング7とでスリーブ部11aが構成され、ハウジング7の上端開口部を閉塞するスラストブッシュ10で底部11bが構成される。また、本実施形態では、軸受部材11の下端開口部に、潤滑流体(本実施形態では潤滑油)の外部への漏れ出しを防止するシール部9が設けられ、図示例ではシール部9とハウジング7が一体形成されている。
【0022】
軸部材2は、軸部2aと、軸部2aの上端に設けられたフランジ部2bとを備え、例えばステンレス鋼等の溶製材を切削加工することにより一体形成される。軸部2aは、円筒面状のラジアル軸受面2a1と、下方へ向けて漸次縮径したテーパ面2a2とを有する。図示例では、ラジアル軸受面2a1が軸方向に離隔した2箇所に設けられ、これらの軸方向間に、ラジアル軸受面2a1よりも小径な逃げ部2a3が設けられる。軸部2aのラジアル軸受面2a1及び逃げ部2a3は軸受スリーブ8の内周面8aと径方向に対向し、テーパ面2a2はシール部9の内周面9aと径方向に対向する。
【0023】
軸受スリーブ8は、銅又は鉄あるいはこれらの双方を主成分とする焼結金属で略円筒状に形成される。軸受スリーブ8の内周面8aには、ラジアル軸受隙間に面するラジアル軸受面が設けられ、本実施形態では図3に示すように、内周面8aの軸方向に離隔した2箇所にラジアル軸受面A1,A2が設けられる。ラジアル軸受面A1,A2には、それぞれラジアル軸受隙間の潤滑油に動圧作用を発生させるラジアル動圧発生部が形成される。図示例では、複数のヘリングボーン形状の動圧溝8a1と、動圧溝8a1の円周方向間に設けられた丘部8a2と、ラジアル軸受面A1,A2の軸方向略中央部に設けられた円筒部8a3とで、ラジアル動圧発生部が構成される。丘部8a2と円筒部8a3とは同一円筒面上に連続して設けられる(図3にクロスハッチングで示す)。図示例では、下側のラジアル軸受面A1の動圧溝8a1及び丘部8a2が軸方向非対称に形成されており、具体的には、円筒部8a3より下側領域の軸方向寸法X1が、円筒部8a3より上側領域の軸方向寸法X2よりも大きくなっている(X1>X2)。上側のラジアル軸受面A2の動圧溝8a1及び丘部8a2は軸方向対称に形成されている。
【0024】
軸受スリーブ8の上側端面8cには、スラスト軸受隙間に面するスラスト軸受面が形成される。このスラスト軸受面には、スラスト軸受隙間に満たされた潤滑油に動圧作用を発生させるスラスト動圧発生部が形成される。本実施形態では、図4に示すように、ポンプインタイプのスパイラル形状の動圧溝8c1と、動圧溝8c1の円周方向間に設けられた丘部8c2と、丘部8c2の内径端を環状に連結する平坦な環状部8c3とで、スラスト動圧発生部が構成される。丘部8c2と環状部8c3とは同一平面上に連続して設けられる(図4にクロスハッチングで示す)。図示例では、スラスト動圧発生部が、軸受スリーブ8の上側端面8cの全面、すなわち内周チャンファと外周チャンファの間の全域に形成される。
【0025】
軸受スリーブ8の外周面8dには、軸方向全長にわたって軸方向溝8d1が形成される(図3参照)。軸方向溝8d1の本数は任意であり、本実施形態では例えば3本の軸方向溝8d1が円周方向等間隔に配される(図4参照)。
【0026】
ハウジング7は、図2に示すように、金属の機械加工や樹脂の射出成形で略円筒状に形成される。ハウジング7の内周面7aには、軸受スリーブ8の外周面8dが隙間接着、圧入、圧入接着(接着材介在下での圧入)などの手段で固定される。
【0027】
ハウジング7の下端部には、シール部9が一体に設けられる。シール部9の内周面9aは円筒面状に形成され、軸部2aの外周面に設けられたテーパ面2a2と径方向に対向し、これらの間に上方へ向けて径方向寸法を漸次縮小した断面楔形のシール空間Sが形成される。このシール空間Sの毛細管力により、潤滑油が軸受部材11の閉塞側(図中上側)に引き込まれ、これにより油の漏れ出しが防止される。本実施形態では、軸部2a側にテーパ面2a2を形成しているため、シール空間Sは遠心力シールとしても機能する。シール部9で密封された軸受部材11の内部空間に充満した潤滑油の油面は、常にシール空間Sの範囲内に維持される。すなわち、シール空間Sは、潤滑油の体積変化を吸収できる容積を有する。
【0028】
スラストブッシュ10は、金属のプレス加工や樹脂の射出成形で略円盤状に形成され、ハウジング7の内周面7aの上端部に隙間接着、圧入、圧入接着などの手段で固定される。スラストブッシュ10の下側端面10aには、スラスト軸受隙間に面するスラスト軸受面が形成される。このスラスト軸受面には、スラスト軸受隙間に満たされた潤滑油に動圧作用を発生させるためのスラスト動圧発生部が形成される。本実施形態では、図5に示すように、ポンプインタイプのスパイラル形状の動圧溝10a1と、動圧溝10a1の円周方向間に設けられた丘部10a2と、丘部10a2の内径端を環状に連結する平坦な環状部10a3とで、スラスト動圧発生部が構成される。丘部10a2と環状部10a3とは同一平面上に連続して設けられる(図5にクロスハッチングで示す)。環状部10a3の内径側には、一段下がった逃げ部10a4が設けられる。
【0029】
スラストブッシュ10の下側端面10aに設けられたスラスト動圧発生部の面積(図5に示す例では、丘部10a2の外径端と環状部10a3の内径端との間の環状領域の面積)は、図4に示す軸受スリーブ8の上側端面8cに設けられたスラスト動圧発生部の面積(図4に示す例では、丘部8a2の外径端と環状部8a3の内径端との間の環状領域の面積)よりも小さく設定される。図示例では、スラストブッシュ10のスラスト動圧発生部の外径寸法r21及び内径寸法r22(図5参照)が、それぞれ、軸受スリーブ8のスラスト動圧発生部の外径寸法r11及び内径寸法r12(図4参照)よりも小さく設定される(r21<r11、r22<r12)。
【0030】
上記の部材を組み立てた後、軸受スリーブ8の内部気孔を含めたハウジング7の内部の空間に潤滑油を充満させることにより、図2に示す流体動圧軸受装置1が完成する。このとき、油面はシール空間Sの内部に保持される。
【0031】
軸部材2が回転すると、軸受スリーブ8の内周面8aのラジアル軸受面A1,A2と軸部2aのラジアル軸受面2a1との間にラジアル軸受隙間が形成される。そして、ラジアル軸受面A1,A2に形成されたラジアル動圧発生部(動圧溝8a1)により、ラジアル軸受隙間に形成された油膜の圧力が高められ、この圧力(動圧作用)により軸部材2をラジアル方向に回転自在に非接触支持するラジアル軸受部R1,R2が構成される。
【0032】
これと同時に、フランジ部2bの下側端面2b1と軸受スリーブ8の上側端面8cとの間にスラスト軸受隙間が形成され、このスラスト軸受隙間の油膜の圧力が軸受スリーブ8の上側端面8cのスラスト動圧発生部により高められ、この圧力(動圧作用)により軸部材2を浮上支持する第1のスラスト軸受部T1が構成される。さらに、フランジ部2bの上側端面2b2とスラストブッシュ10の下側端面10aとの間にスラスト軸受隙間が形成され、このスラスト軸受隙間の油膜の圧力がスラストブッシュ10の下側端面10aのスラスト動圧発生部により高められ、この圧力(動圧作用)により軸部材2を下向きに支持する第2のスラスト軸受部T2が構成される。
【0033】
また、軸部材2が回転すると、ファン3aが回転して上向きの気流を発生させ(図1参照)、この反作用によりロータ3及び軸部材2が軸方向下向きの推力Fを受ける(図2参照)。軸部材2は、10000r/min以上、速いときは30000r/min以上(最大40000r/min)の高速で回転するため、ファン3aによる風量も大きくなり、これにより下向きの推力Fも大きくなる。従って、軸部材2を下向きに押し込む力(推力F及び第2スラスト軸受部T2の支持力F2)が、軸部材2を上向きに押し込む力(第1スラスト軸受部T2の支持力F1)よりも大きくなると、フランジ部2bの下側端面2b1が高速回転しながら軸受スリーブ8の上側端面8cと接触する恐れがある。
【0034】
本発明では、第2のスラスト軸受部T2の支持力F2を敢えて小さくすることで、軸部材2を下向きに押し付ける力を低減し、軸部材2のフランジ部2bと軸受スリーブ8の上側端面8cとの接触を防止している。具体的には、第2のスラスト軸受部T2の支持力F2(図2参照)を、第1のスラスト軸受部T1の支持力F1よりも小さく設定している(F1>F2)。本実施形態では、スラストブッシュ10に形成されたスラスト動圧発生部(動圧溝10a1、丘部10a2、及び環状部10a3、図4参照)の面積を、軸受スリーブ8に形成されたスラスト動圧発生部(動圧溝8c1、丘部0c2、及び環状部8c3、図5参照)の面積よりも小さくしている。さらに、本実施形態では、軸受スリーブ8の上側端面8c及びスラストブッシュ10の下側端面10aに形成されるスラスト動圧発生部が何れもポンプインタイプであり、且つ、内径端に環状部8c3,10a3が設けられるため、両スラスト軸受部T1,T2のスラスト軸受隙間に形成された油膜の圧力は環状部8c3,10a3で最大となる。従って、図示のように、第2スラスト軸受部T2の支持力F2が最大となる環状部10a3の径を、第1スラスト軸受部T1の支持力F1が最大となる環状部8c3の径よりも小さくすることで、上述のスラスト動圧発生部の面積の差と相俟って、第2のスラスト軸受部T2の支持力F2が第1のスラスト軸受部T1の支持力F1よりも小さくなる。
【0035】
図2に示すように、軸受スリーブ8は内孔を有する円筒状であるため、軸受スリーブ8の上側端面8cの面積は、内孔の分だけスラストブッシュ10の下側端面10aの面積よりも小さくなる。このため、スラストブッシュ10の下側端面10aの全面、及び、軸受スリーブ8の上側端面8cの全面にそれぞれスラスト動圧発生部を形成すると、前者の面積が後者の面積よりも大きくなる。本発明では、軸部材2の高速回転時に推力Fが加わったときのスラスト方向の支持力のバランスを考慮し、スラストブッシュ10の下側端面10aに形成されるスラスト動圧発生部の面積を敢えて小さくし、第2のスラスト軸受部T2による支持力F2が第1のスラスト軸受部T1の支持力F1よりも小さくなるようにした。
【0036】
また、上記のように、ラジアル動圧発生部及びスラスト動圧発生部により軸受部材11の内部の潤滑油を流動させることにより、軸受部材11の内部に局部的な負圧が発生する恐れがある。本実施形態では、図2に示すように、軸受スリーブ8の外周面8dに軸方向溝8d1を形成することにより、フランジ部2bの外径側の空間Q1とシール空間Sとを連通して、この空間Q1を常に大気圧に維持している。そして、軸受スリーブ8の上側端面8cに形成されたポンプインタイプの動圧溝8c1により、フランジ部2bの外径側の空間Q1から潤滑油が内径側に押し込まれ、これにより軸受スリーブ8の上側端面8cの内周チャンファが面する空間Q2における負圧が防止される。また、スラストブッシュ10の下側端面10aに形成されたポンプインタイプの動圧溝10a1により、フランジ部2bの外径側の空間Q1から潤滑油が内径側に押し込まれ、これによりスラストブッシュ10の逃げ部10a4が面する空間Q3における負圧が防止される。さらに、図3に示すように、軸受スリーブ8の内周面8aに形成された下側のラジアル軸受面A1のラジアル動圧発生部(動圧溝8a1)が軸方向非対称な形状であるため、第1のラジアル軸受部R1のラジアル軸受隙間に満たされた潤滑油が上方に押し込まれ、軸部2aの逃げ部2a3が面する空間Q4における負圧の発生が防止される。
【0037】
このとき、下側のラジアル軸受面A1のラジアル動圧発生部によりラジアル軸受隙間の潤滑油が上側に押し込まれ、これにより軸部材2が上向きの支持力F3を受ける(図2参照)。軸部材2が高速で回転すると、この上向きの支持力F3が大きくなって下向きの推力Fに対抗し、軸部材2のフランジ部2bの下側端面2b1と軸受スリーブ8の上側端面8cとの接触をより確実に防止できる。
【0038】
また、軸部材2の停止時には、フランジ部2bの下側端面2b1と軸受スリーブ8の上側端面8cとが当接し、第1スラスト軸受部T1のスラスト軸受隙間が0となる。この状態からモータを起動して軸部材2を回転させると、第1スラスト軸受部T1の支持力F1により軸部材2が浮上される。このとき、相対的に支持力の大きい第1スラスト軸受部T1によりモータ起動時の軸部材2の浮上を受け持つことにより、軸部材2を早期に浮上させてフランジ部2bと軸受スリーブ8との接触摺動を極力防止することができる。
【0039】
本発明は上記の実施形態に限られない。以下、本発明の他の実施形態を説明するが、上記実施形態と同様の機能を有する箇所には、同一の符号を付して重複説明を省略する。
【0040】
上記の実施形態では、図1に示す軸流ファンモータを、軸受部材11の開口側を下側、閉塞側を上側として使用した場合を示したが、これに限らず、この軸流ファンモータを上下反転させて使用してもよい。この場合、ロータ3の重力により、軸部材2に下向きの力、すなわち、回転に伴って軸部材2に加わる上向きの推力Fと反対向きの力が加わるため、フランジ部2bを軸受スリーブ8に押し付ける向きの力が低減される。
【0041】
また、上記の実施形態では、ハウジング7とシール部9が一体形成されているが、これに限らず、例えば図6に示すように、ハウジング7とシール部9とを別体に形成してもよい。また、上記の実施形態では、ハウジング7とスラストブッシュ10が別体に形成されているが、これに限らず、例えば図6に示すように、ハウジング7とスラストブッシュ10を一体形成してもよい。
【0042】
また、上記の実施形態では、軸部2aの外周面のテーパ面2a2とシール部9の円筒面状内周面9aとの間に断面楔形のシール空間Sを形成しているが、これに限らず、例えば図7に示すように、シール部9の内周面9aを下方に向けて漸次拡径したテーパ面とすると共に、これに対向する軸部2aの外周面を円筒面とし、これらの間に断面楔形のシール空間Sを形成してもよい。
【0043】
また、上記の実施形態では、軸部2aのラジアル軸受面2a1に形成されるラジアル動圧発生部としてヘリングボーン形状の動圧溝8a1を示したが、これに限らず、例えばスパイラル形状の動圧溝や、軸方向溝、あるいは多円弧面で、ラジアル動圧発生部を構成してもよい。また、上記の実施形態では、軸受スリーブ8の内周面8aの軸方向に離隔した2箇所にラジアル動圧発生部を形成した場合を示したが、これに限らず、ラジアル動圧発生部を1箇所のみに形成したり、2箇所のラジアル動圧発生部を軸方向で連続させたりしてもよい。また、上記の実施形態では、上側のラジアル軸受面A1のラジアル動圧発生部を軸方向非対称な形状とし、ラジアル軸受隙間の潤滑油を上向きに押し込む場合を示したが、このような潤滑油の押し込みが必要なければ、上側のラジアル軸受面A1のラジアル動圧発生部を軸方向対称な形状としてもよい。
【0044】
また、上記の実施形態では、フランジ部2bに形成されるスラスト動圧発生部としてスパイラル形状の動圧溝を示したが、これに限らず、例えばヘリングボーン形状の動圧溝を採用してもよい。
【0045】
また、上記の実施形態では、軸受スリーブ8の内周面8a、上側端面8c、及び、スラストブッシュ10の下側端面10aに動圧発生部が形成されているが、これらの面と軸受隙間を介して対向する軸部2aの外周面(ラジアル軸受面2a1)、フランジ部2bの下側端面2b1及び上側端面2b2に動圧発生部を形成してもよい。
【0046】
また、上記の実施形態では、潤滑流体が潤滑油である場合を示しているが、これに限らず、例えば磁性流体や空気等の流体を使用することも可能である。
【0047】
また、上記の実施形態では軸部材2を回転させているが、これに限らず、軸部材2を固定し、軸受部材11を回転させる軸固定タイプとしてもよい。この場合、軸受部材11にロータ3(ファン3a)が取り付けられる。
【符号の説明】
【0048】
1 流体動圧軸受装置
2 軸部材
2a 軸部
2b フランジ部
3 ロータ
4 ステータコイル
5 マグネット
6 ケーシング
7 ハウジング
8 軸受スリーブ
9 シール部
10 スラストブッシュ
11 軸受部材
11a スリーブ部
11b 底部
A1,A2 ラジアル軸受面
R1,R2 ラジアル軸受部
T1,T2 スラスト軸受部
S シール空間
F 推力
F1 第1スラスト軸受部による支持力
F2 第2スラスト軸受部による支持力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸部及びフランジ部を有する軸部材と、内周に前記軸部が挿入されたスリーブ部、及び、前記スリーブ部の一端開口部を閉塞する底部を有する軸受部材と、前記軸部の外周面と前記スリーブ部の内周面との間のラジアル軸受隙間に生じる潤滑流体の動圧作用で前記軸部材をラジアル方向に相対支持するラジアル軸受部と、前記スリーブ部の一端面と前記フランジ部の一端面との間のスラスト軸受隙間、及び、前記底部の端面と前記フランジ部の他端面との間のスラスト軸受隙間に生じる潤滑流体の動圧作用で前記軸部材をスラスト方向に相対支持する2つのスラスト軸受部とを備え、前記軸部材と前記軸受部材が10000r/min以上で相対回転する流体動圧軸受装置において、
前記軸部材が、相対回転に伴って軸方向一方に向けて相対的な推力を受けるものであって、前記2つのスラスト軸受部のうち、前記軸部材を軸方向一方に向けて相対的に押し込む一方のスラスト軸受部の支持力を、前記軸部材を軸方向他方に向けて相対的に押し込む他方のスラスト軸受部の支持力よりも小さくしたことを特徴とする流体動圧軸受装置。
【請求項2】
前記2つのスラスト軸受部に、前記スラスト軸受隙間に満たされた潤滑流体に動圧作用を発生させるスラスト動圧発生部を設け、前記一方のスラスト軸受部のスラスト動圧発生部の面積を、前記他方のスラスト軸受部のスラスト動圧発生部の面積よりも小さくした請求項1記載の流体動圧軸受装置。
【請求項3】
前記推力が、前記スリーブ部の一端面と前記フランジ部の一端面とを接近させる方向に生じ、前記一方のスラスト軸受部のスラスト軸受隙間が、前記底部の端面と前記フランジ部の他端面との間に形成された請求項1又は2記載の流体動圧軸受装置。
【請求項4】
前記ラジアル軸受部に、前記ラジアル軸受隙間に満たされた潤滑流体に動圧作用を発生させるラジアル動圧発生部を設け、該ラジアル動圧発生部が、潤滑流体を軸方向他方に向けて押し込むものである請求項1〜3の何れかに記載の流体動圧軸受装置。
【請求項5】
軸部材の停止時に、前記他方のスラスト軸受部のスラスト軸受隙間が0となる請求項1〜4の何れかに記載の流体動圧軸受装置。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載の流体動圧軸受装置を有し、軸方向に気流を発生させる軸流ファンモータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−197858(P2012−197858A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−62311(P2011−62311)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】