説明

流体動圧軸受

【課題】 軸受に設けられる表面構造をより簡単かつ低コストに製作することができる流体動圧軸受を提供する。
【解決手段】 本発明は、互いに付属する軸受面の間に軸受流体が充填された軸受間隙を形成する、互いに相対的に回転可能な少なくとも二つの軸受構成部品を備える流体動圧軸受に関する。上記軸受構成部品が相対回転したときに軸受間隙の内部に流体力学上の圧力を生成する、軸受流体に対して作用する表面構造が設けられている。
本発明によれば、軸受間隙の内部に配置されたフィルムが上記表面構造の支持体として設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は流体動圧軸受に係り、特に、そのような軸受の内部において流体力学上の圧力を生成する構造の配置及び構成に関する。
【背景技術】
【0002】
流体動圧軸受は、相互に付属する軸受面の間に、例えば空気やベアリングオイル等の軸受流体が充填された軸受間隙を形成する、互いに相対的に回転可能な少なくとも二つの軸受構成部品を備えているのが通常である。軸受面に付属し、軸受流体に対して作用する表面構造が設けられており、この表面構造は、軸受構成部品が相対的に回転又は並進したときに、軸受間隙の内部に流体力学上の圧力を生成する。
【0003】
流体動圧軸受では、表面構造(いわゆる溝削り(グルービング))が個々の構成部品又は複数の構成部品に刻設されるのが通常である。軸受構成主要部品(軸受パートナー)の対応する軸受面に配置されたこのような構造は、支持構造又はポンプ構造としての役割を担う。例えばラジアル軸受の場合には、放物線や魚骨の形をした構造が知られており、スラスト軸受の場合には、螺旋形や円形に配置された魚骨形の構造が知られている。
【0004】
流体動圧軸受のこのような構造は、現在、例えば電気化学的方法によって軸受構成部品に刻設されている。軸受構造を製作する公知の方法は、高いコストがかかる。その上、特定のポンプ作用が必要とされるときに、構造の形態は、一方の回転方向への軸受の動作しか可能にしない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の課題は、軸受に設けられる表面構造をより簡単かつ低コストに製作することができる流体動圧軸受を提供することである。この課題設定をさらに発展させて、双方の回転方向において軸受の等価な動作を可能とするように、表面構造を構成することができるのが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題は、本発明によれば、独立請求項の構成要件によって解決される。
【0007】
本発明の有利な発展例及び有利な構成要件は、従属請求項に記載されている。
【0008】
本発明に係る流体動圧軸受では、軸受間隙の内部、即ち、それぞれの軸受構成主要部品(軸受パートナー)の間に配置された薄いフィルムが、表面構造の支持体として設けられる。換言すると、フィルムが構造支持体としての役割を果たす。軸受面には、いかなる構造もないのが好ましい。追加のフィルム構成部品により、表面構造の製作及びそれに伴う軸受の製作を簡素化することができ、より高い精度(公差補償)を実現することができる。例えば、型押、打抜き、射出成形又は熱方式によってフィルムに構造を刻設することが可能である。
【0009】
構造化されたフィルム状の軸受構成部品は、軸受間隙の内部において自由に動けるように配置されるのが好ましい。この場合、それぞれの軸受面においてフィルムの対応する面が対向する。
【0010】
本発明の有利な実施の形態においては、フィルムのそれぞれの面が異なる表面構造を有していることが意図され、特にフィルムのそれぞれの面が、同じ種類ではあるが他方の面に対して鏡像のように逆に配置された表面構造を有していることが意図される。フィルムの内面及び外面、又は、上面及び下面における異なる構造化によって、双方の回転方向に動作することができる流体動圧軸受を製造することができる。その都度、圧力を生成している方の構造(フィルムの面)が、フィルムを他方の軸受構成主要部品(軸受パートナー)に押し付け、この他方の軸受構成主要部品(軸受パートナー)は、フィルムに対して相対速度が発生している限り、負圧を追加的に生成する。このような設計をラジアル軸受に適用したとき、フィルムは、小さな直径差や異なる熱膨張を補償することができる程度に弾性的なものである。例えば、フィルムにあるスリットによって、長さ補償も意図されていてもよい。
【0011】
本発明に係る構造支持体としてのフィルムは、ラジアル軸受にもスラスト軸受にも適用することができる。従って、このフィルムは、円環状かつ円筒状に構成されるか、又は、円形若しくは円環状に構成されているものとするとよい。
【0012】
フィルムの好ましい材料としては、プラスチックや金属が考慮の対象となる。
【0013】
上述したように構造化されたフィルムを備える本発明に係る軸受は、特に、ハードディスク駆動装置の記憶ディスクを駆動するのに用いられるスピンドルモータにおいて利用することができる。
【0014】
本発明に係るフィルムのさらに別の利点は、フィルムの適当な素材を選ぶことによって、流体動圧軸受の始動特性又は減摩特性を改善することができるという点にある。さらに、この軸受は、より高い緩衝作用を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1は、本発明に係る構造化されたフィルムを備えるラジアル軸受の模式図を示している。このラジアル軸受は、回転軸6を中心として回転可能に軸受ブッシュ2に軸支されたシャフト1を備えている。両方の軸受構成部品1,2の間には、軸受流体、特にベアリングオイル又は空気により充填された軸受間隙4が設けられている。軸受間隙には、例えば図3に図示するような、円筒状の構造化されたフィルム3が挿入されている。この柔軟なフィルム3は、例えば放物線の形に構成され得る、対応する表面構造5を両方の面に備えており、フィルム3の一方の面の表面構造は、フィルム3の他方の面の表面構造に対して反対向きに延在している。軸受ブッシュ2の内部においてシャフト1が回転すると、構成部品1,2とフィルム3との間の相対運動により、及び、フィルム3の上にある表面構造5のポンプ作用により、軸受流体に流体力学上の圧力が生成され、それによりフィルムは、回転方向や表面構造5の向きに応じて例えば軸受ブッシュ2に押し付けられ、軸受間隙4がフィルム3とシャフト1との間に形成される。そして、シャフト1の回転方向が反転すると、流体力学上の圧力は逆向きに作用し、その結果、フィルム3は、この場合にはシャフト1に押し付けられ、軸受間隙4がフィルム3と軸受ブッシュ2との間に形成される(図示せず)。
【0016】
図2は、本発明に係る構造化されたフィルムを備えるスラスト軸受の模式図を示している。このスラスト軸受は、回転軸6を中心として回転可能に軸受ブッシュ12に軸支されたシャフト11を備えている。圧力円板14がシャフト11と堅固に結合され、軸受ブッシュ12とカバープレート13とにより形成される切欠きに収容されている。シャフト11、軸受ブッシュ12、カバープレート13及び圧力円板14の間に、軸受流体により充填された軸受間隙16が形成されている。圧力円板14の端面の領域には、図4に詳細に示すような、構造化された二つのフィルム15が軸受間隙に挿入されている。フィルム15は、両方の面に表面構造17を備えている。
【0017】
シャフト11を圧力円板14と共に回転させると、フィルム15の表面構造17に基づいて軸受間隙16に流体力学上の圧力が発生し、この圧力が上側のフィルム15を例えば軸受ブッシュ12に押し付けると共に、下側のフィルム15をカバープレート13に押し付ける。シャフト11又は圧力円板14の回転方向を変えると、表面構造17は反対方向に作用し、即ち、構造化されたフィルム15は、圧力円板14の端面に押し付けられる(図示せず)。フィルム15の表面構造17は、例えば、螺旋状又は魚骨状に構成されている。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る構造化されたフィルムを備えるラジアル軸受を示す模式図である。
【図2】本発明に係る構造化されたフィルムを備えるスラスト軸受を示す模式図である。
【図3】双方の回転方向のための外側構造及び内側構造を備える、図1に示す流体動圧ラジアル軸受用の構造化された構成部品(フィルム)である。
【図4】双方の回転方向のための構造を備える、図2に示す流体動圧スラスト軸受用の構造化された構成部品(フィルム)である。
【符号の説明】
【0019】
1 シャフト
2 軸受ブッシュ
3 構造化されたフィルム
4 軸受間隙
5 表面構造
6 回転軸
11 シャフト
12 軸受ブッシュ
13 カバープレート
14 圧力円板
15 構造化されたフィルム
16 軸受間隙
17 表面構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに付属する軸受面の間に軸受流体が充填された軸受間隙(4;16)を形成する、互いに相対的に回転可能な少なくとも二つの軸受構成部品(1,2;11,12,13,14)を備える流体動圧軸受であって、前記軸受構成部品が相対回転したときに前記軸受間隙の内部に流体力学上の圧力を生成する、前記軸受流体に対して作用する表面構造(5;17)が設けられている形式の流体動圧軸受において、
前記軸受間隙の内部に配置されたフィルム(3;15)が、前記表面構造(5;17)の支持体として設けられていることを特徴とする流体動圧軸受。
【請求項2】
前記フィルム(3;15)は、前記軸受間隙(4;16)の内部において自由に動くように配置されていることを特徴とする請求項1に記載の流体動圧軸受。
【請求項3】
前記軸受構成部品(1,2;11,12,13,14)のそれぞれの軸受面に前記フィルム(3;15)の対応する面が対向していることを特徴とする請求項1又は2に記載の流体動圧軸受。
【請求項4】
前記フィルム(3;15)のそれぞれの面は、異なる前記表面構造(5;17)を有していることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の流体動圧軸受。
【請求項5】
前記フィルム(3;15)のそれぞれの面は、同じ種類ではあるが他方の面に対して鏡像のように逆に配置された前記表面構造(5;17)を有していることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の流体動圧軸受。
【請求項6】
前記軸受は、ラジアル軸受であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の流体動圧軸受。
【請求項7】
前記軸受は、スラスト軸受であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の流体動圧軸受。
【請求項8】
前記フィルム(3)は、円環状かつ円筒状に構成されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の流体動圧軸受。
【請求項9】
前記フィルム(15)は、円形(円環状)に構成されていることを特徴とする請求項1乃至5及び7のいずれか一項に記載の流体動圧軸受。
【請求項10】
前記フィルム(3;15)は、プラスチックにより形成されていることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一項に記載の流体動圧軸受。
【請求項11】
前記フィルム(3;15)は、金属により形成されていることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一項に記載の流体動圧軸受。
【請求項12】
前記表面構造(5;17)は、打抜き、型押、射出成形又は熱方式によって前記フィルムに刻設されていることを特徴とする請求項1乃至11のいずれか一項に記載の流体動圧軸受。
【請求項13】
流体動圧軸受の互いに相対的に可動な軸受構成部品の互いに付属する軸受面(1,2;11,12,13,14)の間の軸受間隙(4;16)に挿入するためのフィルム(3;15)において、
前記軸受構成部品が相対回転したときにポンプ作用を発揮して前記軸受間隙(4;16)の内部に流体力学上の圧力を生成する表面構造(5;17)が、表面に設けられていることを特徴とするフィルム。
【請求項14】
金属又はプラスチックにより形成されていることを特徴とする請求項13に記載のフィルム。
【請求項15】
それぞれの面に、異なる前記表面構造(5;17)を有していることを特徴とする請求項13又は14に記載のフィルム。
【請求項16】
それぞれの面に、同じ種類ではあるが他方の面に対して鏡像のように逆に配置された前記表面構造(5;17)を有していることを特徴とする請求項13又は14に記載のフィルム。
【請求項17】
前記フィルム(3)は、円環状かつ円筒状に構成されていることを特徴とする請求項13乃至16のいずれか一項に記載のフィルム。
【請求項18】
前記フィルム(15)は、円形(円環状)に構成されていることを特徴とする請求項13乃至16のいずれか一項に記載のフィルム。
【請求項19】
前記表面構造(5;17)は、打抜き、型押、射出成形又は熱方式によって前記フィルムに刻設されていることを特徴とする請求項13乃至18のいずれか一項に記載のフィルム。
【請求項20】
請求項1乃至19のいずれか一項に記載の軸受とフィルムとを備えることを特徴とするスピンドルモータ。
【請求項21】
請求項20に記載のスピンドルモータを備えることを特徴とするハードディスク駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−84023(P2006−84023A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−258202(P2005−258202)
【出願日】平成17年9月6日(2005.9.6)
【出願人】(000114215)ミネベア株式会社 (846)
【Fターム(参考)】