説明

流体噴射装置および流体噴射ヘッドのメンテナンス方法

【課題】複数の密閉室があるにも拘わらずチューブの個数を低減可能な吸引機構を備える流体噴射装置および流体噴射ヘッドのメンテナンス方法を提供すること。
【解決手段】ノズル開口23bから流体を噴射可能な流体噴射ヘッド23と、流体噴射ヘッド23のノズル開口23b側を封止すると共に、複数の連通孔48を有するキャップ部材41と、複数の連通孔48のいずれかと連通して、ノズル開口23bの封止時に当該ノズル開口23bから流体を吸引する吸引手段30,45と、流体噴射ヘッド23を移動させると共に、当該流体噴射ヘッド23の移動に伴って吸引手段30,45を移動させる駆動力を与える駆動手段27と、吸引手段30,45が連通する連通孔48を複数の連通孔48から選択するように駆動手段27の駆動を制御する制御手段50と、を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体噴射装置および流体噴射ヘッドのメンテナンス方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット式のプリンターは、一般的には、印刷ヘッドのノズル形成面を封止するキャップユニットを具備している。かかるキャップユニットには、複数の凹部(ノズル形成面とキャップ部材とが密着する際に密閉室となる部分)を備えるものが存在する(特許文献1〜4参照)。複数の凹部は、それぞれ吸引ポンプと連通しているが、これら複数の凹部は、キャップ部材を複数備える、またはキャップ部材の内部を区切ることにより形成される。
【0003】
そして、キャップ部材が印刷ヘッドのノズル形成面に密着した後に、選択吸引切替弁を作動させるか、またはキャップ部材と吸引ポンプとの間に存在するチューブを押し潰すかの状態で、吸引ポンプを作動させる。すると、選択された密閉室の内部に負圧を及ぼさせることが可能となり、選択された印刷ヘッドのノズルからインクを吸引することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−347689号公報
【特許文献2】特開2004−358792号公報
【特許文献3】特開2005−329693号公報
【特許文献4】特開2008−23888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述の特許文献1〜4のように、選択吸引切替弁を作動させるか、またはキャップ部材と吸引ポンプとの間に存在するチューブを押し潰す等の手段を採用する場合、それぞれの密閉室と連通するチューブを複数設ける必要がある。また、チューブのみならず、選択吸引切替弁、またはチューブを押し潰す手段を採用する場合、それらの機構もそれぞれ設ける必要がある。
【0006】
しかしながら、これらの機構を、複数の密閉室の個数だけ設ける場合、その分だけ部品点数が増えてしまい、コストが増えるという問題がある。
【0007】
本発明は上記の事情にもとづきなされたもので、その目的とするところは、複数の密閉室があるにも拘わらずチューブの個数を低減可能な吸引機構を備える流体噴射装置および流体噴射ヘッドのメンテナンス方法を提供しよう、とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の流体噴射装置の第1の側面は、ノズル開口から流体を噴射可能な流体噴射ヘッドと、流体噴射ヘッドのノズル開口側を封止すると共に、複数の連通孔を有するキャップ部材と、複数の連通孔のいずれかと連通して、ノズル開口の封止時に当該ノズル開口から流体を吸引する吸引手段と、流体噴射ヘッドを移動させると共に、当該流体噴射ヘッドの移動に伴って吸引手段を移動させる駆動力を与える駆動手段と、吸引手段が連通する連通孔を複数の連通孔から選択するように駆動手段の駆動を制御する制御手段と、を具備するものである。
【0009】
また、本発明の他の側面は、上述の発明において、吸引手段は、複数の連通孔のいずれかと連通する連通チューブと、この連通チューブを介して連通孔に吸引力を与える吸引ポンプと、を備えることが好ましい。
【0010】
さらに、本発明の他の側面は、上述の発明において、連通チューブのうち複数の連通孔と突き合わされる先端部分には封止部材が取り付けられていて、この封止部材によって連通チューブと突き合わされる連通孔以外の連通孔を封止することが好ましい。
【0011】
また、本発明の他の側面は、上述の発明において、流体噴射ヘッドの移動方向における現在位置を検出するための位置検出手段を具備すると共に、制御手段は、位置検出手段から出力される出力信号が入力されると共に、この出力信号に基づいて駆動手段の駆動を制御することが好ましい。
【0012】
さらに、本発明の他の側面は、上述の発明において、キャップ部材は、キャップ支持部により支持されていて、連通チューブは、付勢手段を介してキャップ支持部に連結されて当該キャップ支持部の一端側に向かう付勢力が与えられると共に、連通チューブは、キャップ部材およびキャップ支持部が駆動手段の駆動によって移動する際に、ストッパーに当接することにより、その移動が規制されて、複数の連通孔のうち突き合わされる連通孔が選択されることが好ましい。
【0013】
また、本発明の他の側面は、ノズル開口から流体を噴射可能な流体噴射ヘッドのノズル開口側をキャップ部材で封止し、このノズル開口の封止時に吸引手段によって当該ノズル開口から流体を吸引する流体噴射ヘッドのメンテナンス方法であって、流体噴射ヘッドを移動させると共に、当該流体噴射ヘッドの移動に伴って吸引手段を移動させる駆動力を与える駆動ステップと、吸引手段が連通する連通孔を、キャップ部材に形成されている複数の連通孔から選択するように駆動ステップでの駆動を制御する制御ステップと、を具備するものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施の形態に係るプリンターの構成を示す斜視図である。
【図2】印刷ヘッドを下方から見た状態を示す斜視図である。
【図3】キャッピング機構の概略構成を説明するための断面図である。
【図4】印刷ヘッド及びキャップ部材が第1位置に到達した状態を示す図である。
【図5】印刷ヘッド及びキャップ部材が第2位置に到達した状態を示す図である。
【図6】印刷ヘッド及びキャップ部材が第3位置に到達した状態を示す図である。
【図7】図1のプリンターの制御部を中心とした概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施の形態に係る、流体噴射装置としてのプリンター10および流体噴射ヘッドのメンテナンス方法について、図1から図7に基づいて説明する。
【0016】
<プリンター10の概略構成>
図1は、本発明の実施の形態に係る流体噴射装置としてのインクジェットプリンター(以下、単にプリンターと言う。)10の全体的な概略の構成を示す斜視図である。
【0017】
図1に示すように、プリンター10は、シャーシ20を有しており、このシャーシ20により、キャリッジ21がキャリッジ軸22を介して摺動自在に支持されている。このキャリッジ21には、流体噴射ヘッドとしての印刷ヘッド23が取り付けられている。また、キャリッジ21には、ブラック、イエロー、シアン、マゼンタ等のインクを貯留するインクカートリッジ24が搭載されていて、このインクカートリッジ24から、印刷ヘッド23に向けてインクが供給される。また、シャーシ20には、キャリッジ軸22に平行な状態で左右に掛け渡されるタイミングベルト25が設けられている。
【0018】
タイミングベルト25は、アイドルプーリー26aと駆動プーリー26bとに掛け渡され、駆動プーリー26bがキャリッジモーター(CRモーター;駆動手段に対応)27により往復回転させられることで左右に往復回転する。キャリッジ21は、タイミングベルト25の一部に結合され、タイミングベルト25の左右方向への往復回転と共に左右方向に往復移動可能となっている。タイミングベルト25の下方には、紙送りモーター28により回転させられ、用紙等の印刷媒体Pを搬送するための搬送ローラー(図示省略)が配設されている。また、印刷ヘッド23の下方には、搬送ローラーの回転により上流側から下流側に向かって搬送される印刷媒体Pの下側を支持するプラテン29が配設されている。
【0019】
図2、図3等に示すように、印刷ヘッド23の印刷媒体Pと対向する面であるノズル形成面23aには、インク(流体に対応)の噴射が行われるノズル開口23bが形成されている。また、ノズル開口23bが一列に並ぶことにより、印刷ヘッド23には、ノズル列23cが存在している。ノズル列23cは、インクカートリッジ24の色数分だけまたはそれ以上設けられている。そして、印刷ヘッド23はキャリッジ21と共に左右方向(主走査方向)に往復移動しながら、プラテン(図示省略)により上流側から下流側に向かって搬送される印刷媒体Pに対してインクを噴射し、コンピューター60等から送られる画像データ等に基づく所望の画像を印刷媒体Pに対して記録する。なお、印刷ヘッド23が印刷媒体Pに記録を行う際の印刷ヘッド23の左右方向への往復移動は、印刷媒体Pの左右幅よりも広く設けられている記録領域S1(図1参照)の範囲内で行われる。
【0020】
一方、記録処理を実行している間にノズル形成面23aがインク等で汚れたとき、あるいは、一定量の記録を行う毎に、印刷ヘッド23は、記録領域S1の右側に設定される非記録領域S2に移動させられる。非記録領域S2には、後述するようなキャッピング機構40が設けられている。なお、非記録領域S2は、プリンター10が記録処理を行わないときの印刷ヘッド23の待機位置ともなっている。
【0021】
図3に示すように、プリンター10は、吸引ポンプ30を備えている。吸引ポンプ30は、後述する連通チューブ45bの中途部に接続されている。一方、この連通チューブ45bの他端側は、廃液タンク31に接続されている。そのため、吸引ポンプ30が作動すると、後述する密閉室46の内部に負圧を及ぼすことが可能となると共に、ノズル開口23bからインクを廃液タンク31に向けて排出することが可能となる。なお、上述の吸引ポンプ30は、吸引手段の構成要素の一部である。
【0022】
また、図7に示すように、プリンター10は、リニアエンコーダー32を具備している。リニアエンコーダー32は、黒色の印刷部分と光を透過する透明部分とからなるラインパターンが繰り返されるリニアスケール32a(図1参照)と、リニアスケール32aに向けて光を出力すると共に、該リニアスケール32aから反射される光を、電気的な信号(エンコーダ信号)に変換して制御部50に送信するリニアセンサ32bとを有している。なお、リニアエンコーダー32の他に、紙送り量を検出するためのロータリーエンコーダーも具備しているが、このロータリーエンコーダーは、ロータリースケールを具備する以外は、同様の構成であるため、その説明は省略する。
【0023】
<キャッピング機構について>
続いて、本実施の形態における、キャッピング機構40について、図3等に基づいて説明する。
【0024】
キャッピング機構40は、キャップ部材41と、キャップ支持部42と、カム機構43と、ストッパー44と、選択チューブ部材45と、を具備している。これらのうち、キャップ部材41は、図3等に示すように、複数(図3では2つ)の凹部(凹部461,462)を有している。すなわち、キャップ部材41は、封止壁47によって平面方向(プリンター10の設置面に対して水平な方向)の周囲が囲まれると共に上面が開放して設けられている。また、封止壁47の上面は、プリンター10の設置面に対して平行かつ面一となるように設けられている。
【0025】
なお、封止壁47は、ノズル列23cに対して平行または垂直となるように設けられている。それにより、ノズル形成面23aに存在するノズル列23cを、2組に分けることが可能となっている。
【0026】
また、図3等に示すように、キャップ部材41には、連通孔48が形成されている。連通孔48は、キャップ部材41がノズル形成面23aに密着している状態で形成される密閉室46(封止壁47とノズル形成面23aとによって覆われる空間)を、キャップ部材41の下方側から外部へと連通させるための貫通している孔部分である。この連通孔48は、本実施の形態では、図3において左側に存在する凹部461に連通している連通孔48aと、図3において右側に存在する凹部462に連通している連通孔48bと、凹部461,462の両方に連通している連通孔48cの3つが存在している。しかしながら、連通孔48の個数は、3つに限られず、連通孔48a,48bに対して、少なくとも上述の3パターンの連通孔(連通孔48a,48b,48c)が存在していれば、3つ以上連通孔が存在していても良い。
【0027】
上述のキャップ部材41は、キャップ支持部42により支持されている。キャップ支持部42は、アーム状に形成されていて、当該アーム状のキャップ支持部42の両端側でキャップ部材41を支持している。なお、キャップ部材41とキャップ支持部42との間の取り付けは、キャップ部材41が比較的自由に動くように為されている。しかしながら、キャップ支持部42に対して、キャップ部材41が固定的に設けられる構成を採用しても良い。
【0028】
このキャップ支持部42には、ヘッド係止部42aが設けられている。ヘッド係止部42aは、その上方側が印刷ヘッド23に衝突する部分である(図4〜図6参照)。かかる衝突を実現するため、ヘッド係止部42aは、図3〜図6に示すように、キャップ支持部42のうちX1側の端部から上方に向かい、例えば略L字状を為すように延伸している。なお、ヘッド係止部42aの上方側または所定の部位が印刷ヘッド23に衝突する構成であれば、当該ヘッド係止部42aの形状は、略L字状に限られず、種々の形状を採用することが可能である。
【0029】
また、キャップ支持部42には、カムフォロア43aが取り付けられている。このカムフォロア43aは、カム43bに対して摺動することによって、上下方向(プリンター10の設置面から離間する方向)への移動を可能としている。また、カム43bは、シャーシ20の主走査方向に沿ってカムフォロア43aが進行するように取り付けられている。このカム43bは、第1の高さ位置43b1を有すると共に、この第1の高さ位置43b1から端部側(X1側)に向かうにつれて、高さ位置が一段高くなる第2の高さ位置43b2を有している。すなわち、カムフォロア43aがカム43bに沿って、記録領域S1から非記録領域S2に向かうと、カムフォロア43aは、第1の高さ位置43b1から第2の高さ位置43b2へと移行する。なお、カムフォロア43aとカム43bとで、カム機構43が構成される。
【0030】
シャーシ20には、カム43bの他に、ストッパー44が取り付けられている。ストッパー44は、後述する連通チューブ45bの当接部45cに当接し、その当接後に選択チューブ部材45が非記録領域S2の端部(X1側)に向かう移動を阻止するための部分である。すなわち、選択チューブ部材45がストッパー44に当接する場合、その当接以後、選択チューブ部材45はX1側に向かう移動が阻止される。それにより、選択チューブ部材45が連通する連通孔48を切り替えることが可能となっている。
【0031】
また、キャッピング機構40は、上述のキャップ部材41およびキャップ支持部42とは別個独立して移動可能な選択チューブ部材45を備えている。選択チューブ部材45は、封止部材45aと連通チューブ45bとを備えている。これらのうち、連通チューブ45bは、いずれか1つの連通孔48と連通することを可能としている。そして、連通チューブ45bと連通している連通孔48以外の連通孔48は、封止部材45aによって封止される。そのため、吸引ポンプ30が作動すると、連通チューブ45bが連通している連通孔48を介して、密閉室46(凹部461,462とノズル形成面23aとで囲まれる空間)の内部を真空吸引することを可能としている。
【0032】
ここで、連通チューブ45bは、例えば弾性を有するエラストマーを材質として形成されていて、また封止部材45aの材質も連通チューブ45bと同様である。なお、本実施の形態では、封止部材45aは、その中央側が若干窪んでいる形状に形成されていて、ノズル形成面23aへ封止部材45aが当接した際の封止性を良好としている。
【0033】
なお、以下の説明では、凹部は、凹部461と凹部462の2つが存在することから、密閉室46を区別する必要がある場合、密閉室46a、密閉室46bと区別して述べることとする。また、選択チューブ部材45は、吸引ポンプ30と共に、吸引手段の構成要素の一部に対応する。
【0034】
ここで、選択チューブ部材45が具備する連通チューブ45bの中途部分には、当接部45cが存在している。当接部45cは、上述したストッパー44に当接する部分であり、当接部45cとストッパー44とが当接した後には、選択チューブ部材45は、後述する引っ張りバネ49(付勢手段に対応)の付勢力に抗する状態となり、当該選択チューブ部材45のX1側に向かう進行が阻止される。そのため、ストッパー44は、シャーシ20に対して固定的に設けられている。
【0035】
上述の選択チューブ部材45には、引っ張りバネ49の一端側が連結されている。この引っ張りバネ49の他端側は、キャップ支持部42のうち、X1側の端部に連結されている。そのため、連通チューブ45bの当接部45cがストッパー44に当接しない状態においては、引っ張りバネ49の連結により、選択チューブ部材45は、キャップ支持部42およびキャップ部材41と共にX1側に向かう移動を可能としている。一方、連通チューブ45bの当接部45cがストッパー44に当接する状態となると、選択チューブ部材45は、それ以上X1側に向かって進行できなくなる。しかしながら、ヘッド係止部42aは、印刷ヘッド23に対して当接しているため、キャップ支持部42およびキャップ部材41のX11側に向かう進行は阻止されない。
【0036】
<制御部の構成>
また、図7に示すように、プリンター10には、制御部50が設けられている。この制御部50は、制御手段に対応していて、不図示のCPU、メモリ(ROM、RAM、不揮発性メモリ等)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、バス、タイマ、インターフェース等を有している。
【0037】
また、この制御部50には、リニアセンサ32bを始めとする各種センサからの信号が入力されると共に、これらのセンサからの信号に基づいて、制御部50は、CRモーター27、紙送りモーター28、印刷ヘッド23および吸引ポンプ30等の駆動を司る。
【0038】
また、上述のメモリの中のデータ、およびプログラムがCPUで実行され、制御部50の各構成が協働することにより、機能的には、図7のブロック図に示すような構成が実現される。この図7に示すように、制御部50は、主制御部51、ヘッド制御部52、CRモーター制御部53、ポンプ制御部54、ヘッド駆動回路55、CRモーター駆動回路56、ポンプ駆動回路57等を具備している。
【0039】
これらのうち、主制御部51は、プリンター10の全体の制御を司る部分であり、プリンター10に接続されるコンピューター60側からの指令、またはプリンター10の操作パネル等からの指令等が入力されると共に、メモリに記憶されている不図示のメンテナンステーブルを読み込む。そして、このメンテナンステーブルを参照して、フラッシング動作や印刷ヘッド23の吸引レベルに応じた、いずれかの吸収動作(メンテナンス動作)を選定する。
【0040】
なお、メンテナンステーブルにおいては、フラッシング動作のレベルも、複数存在するように構成していても良い。
【0041】
また、ヘッド制御部52は、主制御部51からの指令に基づいて、ヘッド駆動回路55を介して印刷ヘッド23を駆動させ、インク滴を噴射させる。ここで、ヘッド制御部52が主制御部51から受信する指令には、印刷データに基づく印字動作の指令と、上述のメンテナンステーブルに基づくメンテナンス動作の一種である、フラッシング動作の指令とが存在する。
【0042】
CRモーター制御部53は、主制御部51からの指令に基づいて、CRモーター駆動回路56を介してCRモーター27を駆動させる。なお、CRモーター制御部53は、印字を行う場合には、印刷ヘッド23の動作に連動させてCRモーター27を駆動させる。また、CRモーター制御部53は、フラッシング動作、または吸引ポンプ30の駆動によるクリーニング動作を行う場合には、それらの動作に先立ってCRモーター27を駆動させ、キャリッジ21をキャッピング機構40側に移動させる。
【0043】
ポンプ制御部54は、主制御部51からの指令に基づいて、印刷ヘッド23がキャップ部材41で封止されている状態において、ポンプ駆動回路57を介して吸引ポンプ30を制御駆動させ、所定のクリーニングを実行する。
【0044】
また、ヘッド駆動回路55は、ヘッド制御部52からの指令に応じて所定の電圧を生成し、その電圧を印刷ヘッド23内のピエゾ素子に印加する。また、CRモーター駆動回路56は、CRモーター制御部53からの指令に応じて所定の電圧を生成し、その電圧をCRモーター27に印加する。また、ポンプ駆動回路57は、ポンプ制御部54からの指令に応じて所定の電圧を生成し、その電圧を吸引ポンプ30に印加する。
【0045】
なお、この制御部50は、インターフェース58を介して、コンピューター60に接続されていて、印刷データ等の各種のデータを送受信可能としている。また、このコンピューター60が、上述の制御部50と同等の機能を備えるように構成しても良い。
【0046】
<動作>
以上のような構成を有するプリンター10の動作について、以下に説明する。プリンター10の電源オン時、所定の印刷時間枚数が経過した場合、または印刷開始・電源オンから所定の時間が経過した場合、メンテナンス動作の一種である、吸引ポンプ30の作動によるクリーニング動作が実行される。このクリーニング動作を実行する場合、キャリッジ21(印刷ヘッド23)を非記録領域S2へ移動させる必要がある。そのため、制御部50の指令によりCRモーター27を駆動させ、キャリッジ21(印刷ヘッド23)を、X1側に向かって移動させる。
【0047】
なお、この移動に際しては、CRモーター制御部53は、リニアセンサ32bから出力されるエンコーダ信号をカウントすることにより移動距離を算出し、連通孔48cと連通チューブ45bとが連通するようにキャリッジ21(印刷ヘッド23)を移動させた位置である第1位置(図4参照)、連通孔48bと連通チューブ45bとが連通するようにキャリッジ21(印刷ヘッド23)を移動させた位置である第2位置(図5参照)、および連通孔48aと連通チューブ45bとが連通するようにキャリッジ21(印刷ヘッド23)を移動させた位置である第3位置(図6参照)に到達したか否かを判断する。
【0048】
すなわち、主制御部51から、第1位置、第2位置、第3位置のいずれの位置にキャリッジ21(印刷ヘッド23)を位置させるかの指令(目標位置に関する指令)をCRモーター制御部53が受け取ると、CRモーター制御部53は、リニアセンサ32bから出力されるエンコーダ信号をカウントすることにより、目標位置に到達したか否かを判定する。
【0049】
そのため、主制御部51が第1位置を目標位置とする指令を発し、CRモーター制御部53がCRモーター27の駆動を制御すると、キャリッジ21(印刷ヘッド23)は、最終的には目標位置である第1位置に到達して停止する(図4参照)。この第1位置にキャリッジ21(印刷ヘッド23)が位置した場合、連通孔48cと連通チューブ45bとが連通し、密閉室46bの内部を真空吸引することが可能となる。この状態が図4に示されている。なお、図4に示す状態(第1位置に到達した状態)のとき、当接部45cは、ストッパー44に当接していない。
【0050】
ここで、連通孔48cと連通チューブ45bとが連通する状態となる場合、封止部材45aは連通孔48a,48bを覆うように、ノズル形成面23aに接触する。そのため、吸引ポンプ30が作動すると、ノズル形成面23aと封止部材45aとの間の窪み部分に存在する僅かな空気が連通孔48a,48bから吸引されるが、直ぐにほとんど空気が存在しない状態となり、封止部材45aが連通孔48a,48bを確実に塞ぐ状態となる。
【0051】
このような連通孔48に対する封止部材45aによる封止は、第2位置、第3位置にキャリッジ21(印刷ヘッド23)が位置する状態においても、同様に実現される。すなわち、キャリッジ21(印刷ヘッド23)が、図5に示すような第2位置に存在する状態では、連通孔48bと連通チューブ45bとが連通する一方、封止部材45aが連通孔48a,48cを確実に塞ぐ状態となる。また、キャリッジ21(印刷ヘッド23)が図6に示すような第3位置に存在する状態では、連通孔48aと連通チューブ45bとが連通する一方、封止部材45aが連通孔48b,48cを確実に塞ぐ状態となる。
【0052】
なお、キャリッジ21(印刷ヘッド23)がX1側に向かって移動させられると、カムフォロア43aは、カム43bの第1の高さ位置43b1を通過し、高さ位置が一段高くなる第2の高さ位置43b2へと移行し、密閉室46が形成される。この移行によりキャップ部材41の高さが高くなることにより、キャップ部材41はノズル形成面23aに密着する。なお、最終的な目標位置に到達する前にキャップ部材41の高さ位置が一段高くなってキャップ部材41がノズル形成面23aに密着するのは、第2位置および第3位置に向かってキャリッジ21(印刷ヘッド23)が移動する場合においても同様である。
【0053】
また、主制御部51が第2位置を目標とする指令を発し、CRモーター制御部53がCRモーター27の駆動を制御すると、キャリッジ21(印刷ヘッド23)は、目標位置である第2位置に向かって移動させられる。ここで、キャリッジ21(印刷ヘッド23)が第1位置に到達してもなお、第2位置に向かって移動すると、当接部45cがストッパー44に当接する。その当接状態に至っても、キャリッジ21(印刷ヘッド23)が、第2位置に向かって進行すると、選択チューブ部材45は、当接部45cがストッパー44に衝突しているため、引っ張りバネ49の付勢力が作用するにも拘わらず、これ以上第2位置に向かって移動することができない。従って、選択チューブ部材45は移動しないが、キャリッジ21(印刷ヘッド23)と共に、キャップ部材41およびキャップ支持部42が第2位置に向かって移動する。
【0054】
そして、キャリッジ21(印刷ヘッド23)は、最終的には目標位置である第2位置に到達して停止する(図5参照)。このとき、キャップ部材41およびキャップ支持部42も、第2位置に対応する位置に到達して停止する。この第2位置にキャリッジ21(印刷ヘッド23)が位置した場合、連通孔48bと連通チューブ45bとが連通し、密閉室46aの内部と密閉室46bの内部の両方を真空吸引することが可能となる。
【0055】
さらに、主制御部51が第3位置を目標とする指令を発し、CRモーター制御部53がCRモーター27の駆動を制御すると、キャリッジ21(印刷ヘッド23)は、目標位置である第3位置に向かって移動させられる。なお、第3位置に向かう動作は、基本的には第2位置に向かう動作と同様となっており、その詳細については省略する。
【0056】
そして、キャリッジ21(印刷ヘッド23)は、最終的には目標位置である第3位置に到達して停止する(図6参照)。このとき、キャップ部材41およびキャップ支持部42も、第3位置に対応する位置に到達して停止する。この第3位置にキャリッジ21(印刷ヘッド23)が位置した場合、連通孔48aと連通チューブ45bとが連通し、密閉室46aの内部を真空吸引することが可能となる。この状態が図6に示されている。
【0057】
以上のようにして、キャリッジ21(印刷ヘッド23)の移動によって、選択チューブ部材45(連通チューブ45b)が連通する連通孔48を、連通孔48a、連通孔48bまたは連通孔48cのうちから選択することができる。
【0058】
そして、いずれか1つの連通孔48と選択チューブ部材45(連通チューブ45b)が連通する状態とした後に、吸引ポンプ30を作動させることで、連通している連通孔48に対応するノズル列23c(ノズル開口23b)からインク等を吸引し、ノズルの目詰まりの解消、増粘したインクの除去といった、クリーニング動作を実行することが可能となる。
【0059】
<効果>
以上のような構成のプリンター10によれば、CRモーター27の駆動によりキャップ部材41を移動させることで、連通チューブ45bと連通する連通孔48を、連通孔48a,48b,48cの中から選択することが可能となる。このため、それぞれの密閉室46a,46bと連通する連通チューブを複数設ける必要がなくなる。また、従来のように、連通チューブを複数設けずに済むのみならず、その連通チューブに対して従来必要とされていた選択吸引切替弁、または連通チューブを押し潰す手段等の機構も設ける必要がない。そのため、コストの低減が可能となる。
【0060】
また、本実施の形態では、制御部50でのCRモーター27の制御により、連通チューブ45bが連通する連通孔48を選択することができる。そのため、機構的に複雑ではなく、簡易な構成とすることが可能である。
【0061】
さらに、本実施の形態では、連通チューブ45bを備えている。そのため、簡易な構成とすることが可能であると共に、柔軟性を持たせた状態で連通孔48と連通可能となる。また、本実施の形態では、選択チューブ部材45は、封止部材45aを備えている。それにより、連通チューブ45bと連通している連通孔48以外の連通孔48は、封止部材45aによって封止されるので、吸引ポンプ30が作動すると、連通チューブ45bが連通している連通孔48を介して、密閉室46の内部を良好に真空吸引することが可能となる。
【0062】
また、本実施の形態では、プリンター10はリニアエンコーダー32を備えていて、制御部50には、リニアセンサー32bからの出力信号が入力される。そのため、CRモーター27の停止位置を、第1位置、第2位置または第3位置のいずれかに、正確に停止させることが可能となり、連通孔48と連通チューブ45bとを精度良く連通させることが可能となる。
【0063】
さらに、本実施の形態では、連通チューブ45bの当接部45cは、キャップ部材41およびキャップ支持部42がCRモーター27の駆動によってX1側に移動する際に、ストッパー44に当接する。そのような構成を採用することにより、キャップ部材41およびキャップ支持部42がX1側に向かって移動する際に、選択チューブ部材45の移動を規制することができ、複数の連通孔48のうちから連通チューブ45bと連通させる連通孔48を良好に選択することが可能となる。
【0064】
<変形例>
以上、本発明の一実施の形態について述べたが、本発明は、これら以外にも、種々変形可能である。以下、それについて述べる。
【0065】
上述の実施の形態では、密閉室46が2つ存在する場合について説明しているが、密閉室は2つに限られず、3つ以上存在していても良い。また、上述の実施の形態では、1つのキャップ部材41の内部に、密閉室46が複数(上述の実施の形態では2つ)形成される場合について説明している。しかしながら、複数のキャップ部材を備え、それぞれのキャップ部材に1つまたはそれ以上の密閉室が存在する構成を採用しても良い。
【0066】
また、上述の実施の形態では、キャリッジ21(印刷ヘッド23)が、主走査方向に沿って移動するタイプのプリンター10について説明している。しかしながら、プリンター10は、そのような印刷ヘッド23が走査する走査型のものには限られず、印刷媒体Pと同等かそれよりも長い長さ寸法を有する長尺状のラインヘッドを備えるタイプに、本発明を適用するようにしても良い。
【0067】
ここで、ラインヘッドに本発明を適用する場合、キャリッジ21(印刷ヘッド23)の移動によるタイプではなく、選択チューブ部材45がラインヘッドの長手方向(または端手方向)に沿って走査するタイプであることが好ましい。また、ラインヘッドに本発明を適用する場合、密閉室46の個数は、上述の実施の形態で説明したもの(2つ)よりも、はるかに多くなる。
【0068】
また、上述の実施の形態においては、2つの密閉室46に対して、連通孔48が3つ存在している場合について説明している。しかしながら、密閉室の個数と連通孔の個数とは、この関係(密閉室の個数をNとすると、連通孔の個数が2N−1個となる関係)に限られるものではない。1つの密閉室46に対して、複数の連通孔が形成されているような構成を採用しても良い。
【0069】
また、上述の各実施の形態における流体噴射装置としてのプリンター10は、プリンター単独の機能を有する構成のみならず、スキャナ装置やコピー装置のような、複合的な機器の一部であっても良い。さらに、上述の実施の形態においては、インクジェット方式のプリンター10に関して説明している。しかしながら、プリンター10としては、流体を噴射可能なものであれば、インクジェット方式のプリンターには限られない。例えば、ジェルジェット方式のプリンター、トナー方式のプリンター、ドットインパクト方式のプリンター等、種々のプリンターに対して、本発明を適用することが可能である。
【0070】
また、上述の実施の形態では、流体噴射装置を、インクジェット式のプリンター10に具体化しているが、液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ及び面発光ディスプレイの製造などに用いられる電極材や色材(画素材料)などの材料を分散または溶解のかたちで含む流体を噴射する液状体噴射装置、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する流体噴射装置、精密ピペットとして用いられ試料となる流体を噴射する流体噴射装置であってもよい。
【0071】
さらに、時計やカメラ等の精密機械にピンポイントで潤滑油を噴射する流体噴射装置、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために紫外線硬化樹脂等の透明樹脂液を基板上に噴射する流体噴射装置、基板などをエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を噴射する流体噴射装置、ゲル(例えば物理ゲル)などの流状体を噴射する流状体噴射装置であってもよい。そして、これらのうちいずれか一種の流体噴射装置に本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0072】
10…プリンター、20…紙送り機構、21…キャリッジ、23…印刷ヘッド(流体噴射ヘッドに対応)、27…CRモーター(駆動手段に対応)、30…吸引ポンプ(吸引手段の一部に対応)、40…キャッピング機構(流体噴射ヘッドに対応)、41…キャップ部材、42…キャップ支持部、43…カム機構、43a…カムフォロア、43b…カム、44…ストッパー、45…選択チューブ部材(吸引手段の一部に対応)、45a…封止部材、45b…連通チューブ、46,46A,46B…密閉室、47…封止壁、48,48a,48b,48c…連通孔、49…引っ張りバネ(付勢手段に対応)、50…制御部(制御手段に対応)、51…主制御部、52…ヘッド制御部、53…CRモーター制御部、54…ポンプ制御部、60…コンピューター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズル開口から流体を噴射可能な流体噴射ヘッドと、
上記流体噴射ヘッドのノズル開口側を封止すると共に、複数の連通孔を有するキャップ部材と、
複数の上記連通孔のいずれかと連通して、上記ノズル開口の封止時に当該ノズル開口から上記流体を吸引する吸引手段と、
上記流体噴射ヘッドを移動させると共に、当該流体噴射ヘッドの移動に伴って上記吸引手段を移動させる駆動力を与える駆動手段と、
上記吸引手段が連通する上記連通孔を複数の上記連通孔から選択するように上記駆動手段の駆動を制御する制御手段と、
を具備することを特徴とする流体噴射装置。
【請求項2】
請求項1記載の流体噴射装置において、
前記吸引手段は、複数の前記連通孔のいずれかと連通する連通チューブと、この連通チューブを介して前記連通孔に吸引力を与える吸引ポンプと、
を備えることを特徴とする流体噴射装置。
【請求項3】
請求項2記載の流体噴射装置において、
前記連通チューブのうち複数の前記連通孔と突き合わされる先端部分には封止部材が取り付けられていて、この封止部材によって前記連通チューブと突き合わされる前記連通孔以外の連通孔を封止する、
ことを特徴とする流体噴射装置。
【請求項4】
請求項2または3記載の流体噴射装置において、
前記流体噴射ヘッドの移動方向における現在位置を検出するための位置検出手段を具備すると共に、
前記制御手段は、上記位置検出手段から出力される出力信号が入力されると共に、この出力信号に基づいて前記駆動手段の駆動を制御する、
ことを特徴とする流体噴射装置。
【請求項5】
請求項2から4のいずれか1項に記載の流体噴射装置において、
前記キャップ部材は、キャップ支持部により支持されていて、
前記連通チューブは、付勢手段を介して上記キャップ支持部に連結されて当該キャップ支持部の一端側に向かう付勢力が与えられると共に、
前記連通チューブは、前記キャップ部材および上記キャップ支持部が前記駆動手段の駆動によって移動する際に、ストッパーに当接することにより、その移動が規制されて、複数の前記連通孔のうち突き合わされる前記連通孔が選択される、
ことを特徴とする流体噴射装置。
【請求項6】
ノズル開口から流体を噴射可能な流体噴射ヘッドのノズル開口側をキャップ部材で封止し、このノズル開口の封止時に吸引手段によって当該ノズル開口から上記流体を吸引する流体噴射ヘッドのメンテナンス方法であって、
上記流体噴射ヘッドを移動させると共に、当該流体噴射ヘッドの移動に伴って上記吸引手段を移動させる駆動力を与える駆動ステップと、
上記吸引手段が連通する上記連通孔を、上記キャップ部材に形成されている複数の上記連通孔から選択するように上記駆動ステップでの駆動を制御する制御ステップと、
を具備することを特徴とする流体噴射ヘッドのメンテナンス方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−208256(P2010−208256A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−59050(P2009−59050)
【出願日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】