説明

流体封入式防振装置

【課題】入力される振動の振幅が変化した場合であっても、オリフィス通路のチューニング周波数の変化を軽減乃至は回避して、目的とする防振効果を有効に発揮することが出来る、新規な構造の流体封入式防振装置を提供することを、目的とする。
【解決手段】複数の弾性壁68が、オリフィス通路56内において、オリフィス通路56の通路方向適当な間隔をあけて位置せしめられていると共に、複数の弾性壁68のそれぞれが、オリフィス通路56の壁面との間に隙間70が形成された状態で、オリフィス通路56の通路方向に対する直交方向に広がるように突出せしめられており、更に、複数の弾性壁68のそれぞれにおいて、オリフィス通路56の通路方向での弾性変形が許容されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部に封入された非圧縮性流体の流動作用に基づいて防振効果を得るようにした流体封入式防振装置に係り、例えば、自動車用のエンジンマウント等として好適に採用される流体封入式防振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、振動伝達系を構成する部材間に介装される防振連結体乃至は防振支持体として、第一の取付部材と第二の取付部材を本体ゴム弾性体で連結した防振装置が各種分野に広く採用されており、その一種として、第一の取付部材と第二の取付部材を本体ゴム弾性体で連結すると共に、本体ゴム弾性体で壁部の一部が構成されて非圧縮性流体が封入された受圧室と可撓性膜で壁部の一部が構成されて非圧縮性流体が封入された平衡室を形成し、更に、これら受圧室と平衡室を相互に連通するオリフィス通路を形成した流体封入式防振装置が知られている。
【0003】
このような流体封入式防振装置においては、封入した非圧縮性流体の共振作用等の流動作用を利用した防振効果を得ることが出来るのであり、本体ゴム弾性体の防振作用だけでは得られない程の低動ばね効果や高減衰効果をチューニング周波数域で容易に得ることが出来ることから、例えば、特定の周波数域で高度な防振性能が要求される自動車用のエンジンマウントやボデーマウント等への適用が検討されている。
【0004】
ところで、上述の如き流体封入式防振装置においては、オリフィス通路のチューニング周波数が、入力される振動の振幅に影響されることが知られている。なお、かかるチューニング周波数の振幅依存性は、振幅が変化することによって受圧室の壁ばねやオリフィス通路を通じた流体流動量が変化すること等に起因するものと考えられる。
【0005】
そこにおいて、入力される振動の振幅が変化した場合、その振動に固有の周波数も、振幅の変化によって多少は変化するが、それよりもオリフィス通路のチューニング周波数のほうが大きく変化してしまい、その結果、目的とする制振効果が有効に発揮されないおそれがある。
【0006】
そこで、このような問題を解決するために、特許文献1において、受圧室と副液室を連通するオリフィス通路の長さ方向中間部分に一つの弾性膜体を突設し、かかる弾性膜体の先端側がオリフィス内の液体の流れ方向に沿って変形し得るようにした液体封入式防振装置が提案されている。
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の液体封入式防振装置では、弾性膜体の弾性変形に基づいてオリフィス通路のチューニング周波数を十分に広い範囲で変化させることが極めて困難であった。特に、自動車用の防振装置において問題となる、入力振動の振幅変化に起因するオリフィス通路のチューニング周波数の変化を解消し得る程の効果は、かかる特許文献1に記載の弾性膜体を用いた液体封入式防振装置において得ることが出来なかったのである。
【0008】
【特許文献1】特開平10−132014号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここにおいて、本発明は、上述の如き事情を背景として為されたものであって、その解決課題とするところは、入力される振動の振幅が変化した場合であっても、オリフィス通路のチューニング周波数の変化を軽減乃至は回避して、目的とする防振効果を得ることの出来る、新規な構造の流体封入式防振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。
【0011】
本発明は、防振連結される一方の部材に取り付けられる第一の取付部材と防振連結される他方の部材に取り付けられる第二の取付部材を本体ゴム弾性体で連結し、壁部の一部が本体ゴム弾性体で構成されて非圧縮性流体が封入された受圧室と壁部の一部が可撓性膜で構成されて非圧縮性流体が封入された平衡室を形成すると共に、これら受圧室と平衡室を相互に連通するオリフィス通路を形成した流体封入式防振装置において、オリフィス通路の通路方向の全長に亘って延びる状態でオリフィス通路の壁部に固定されるベース部分に対して、ベース部分が延びる長さ方向での投影においてベース部分の長さ方向に対する直交方向に広がると共に、ベース部分の長さ方向での投影面積がオリフィス通路の通路方向に対する直交方向での断面積よりも小さくされており、更に、ベース部分の長さ方向での弾性変形が許容されている弾性壁が、ベース部分の長さ方向の全長に亘って適当な間隔をあけて複数設けられている流路狭窄部材を、ベース部分においてオリフィス通路の壁部に固定することにより、複数の弾性壁が、オリフィス通路内において、オリフィス通路の通路方向で適当な間隔をあけて位置せしめられていると共に、複数の弾性壁のそれぞれが、オリフィス通路の壁面との間に隙間が形成された状態で、オリフィス通路の通路方向に対する直交方向に広がるように突出せしめられており、更に、複数の弾性壁のそれぞれにおいて、オリフィス通路の通路方向での弾性変形が許容されていることを、特徴とする。
【0012】
このような本発明に従う構造とされた流体封入式防振装置においては、オリフィス通路を流体が流動せしめられる際に、弾性壁が堰として作用することとなる。しかも、かかる弾性壁がオリフィス通路の通路方向で複数設けられていることから、弾性壁と弾性壁の間では、弾性壁の基端部分において滞留領域が発現する。その結果、オリフィス通路の実質的な通路断面積が、オリフィス通路の本来の通路断面積から弾性壁のオリフィス通路の通路方向での投影面積を除いた分に略相当する大きさとされる。
【0013】
ここにおいて、各弾性壁は、オリフィス通路の通路方向での弾性変形が許容されており、オリフィス通路を流動せしめられる流体圧によってオリフィス通路方向に湾曲状に倒れるようにして弾性変形せしめられる。その際、オリフィス通路の流体流動は、入力振動の周波数に対応した周期で往復流動せしめられることとなり、入力振動の周波数が略同じであれば入力振動の振幅が大きくなるのに応じて流量と圧力変化が大きくなる。それ故、入力振動の振幅の大小に対応して、弾性壁の弾性変形量が異ならせられる。
【0014】
従って、本発明の流体封入式防振装置においては、入力される振動の振幅が変化した場合に、弾性壁の弾性変形量の大きさが変化し、その分だけオリフィス通路の実質的な通路断面積が異ならされるのであり、その結果、オリフィス通路のチューニング周波数が変化する。特に、入力振動の振幅が大きくなる程、弾性壁の弾性変形量が大きくされて、オリフィス通路の実質的な通路断面積が大きくなる。それ故、例えば入力振動の振幅が大きくなった場合には、オリフィス通路の通路断面積が実質的に大きくなることで、従来から問題となっていたオリフィスチューニング周波数の振幅依存性に起因する低周波側への移行の軽減乃至は解消が図られ得ることとなる。その結果、入力振動の振幅が変化した場合でも、オリフィス通路を流動せしめられる流体の共振作用に基づく優れた防振効果が安定して有効に発揮され得るのである。
【0015】
特に、本発明においては、複数の弾性壁がベース部分に設けられた一体構造とされていることから、ベース部分をオリフィス通路の通路内面等に対して接着等で固着することにより、オリフィス部材と別材料で形成される弾性壁の複数個を、優れた作業性をもって容易に製造し、取り扱い、組み付けることが出来るのであり、量産性とコスト性能の向上も達成され得るのである。
【0016】
また、本発明においては、第一の取付部材を筒状の第二の取付部材の一方の開口側に離隔配置して第一の取付部材と第二の取付部材を本体ゴム弾性体で連結すると共に、第二の取付部材の他方の開口側を可撓性膜で覆蓋する一方、本体ゴム弾性体と可撓性膜の対向面間に仕切部材を配設して第二の取付部材で支持せしめることにより、仕切部材を挟んだ一方の側に本体ゴム弾性体で壁部の一部が構成されて非圧縮性流体が封入された受圧室を形成すると共に、仕切部材を挟んだ他方の側に可撓性膜で壁部の一部が構成されて非圧縮性流体が封入された平衡室を形成し、更に、受圧室と平衡室を連通するオリフィス通路を仕切部材の外周部分において周方向に延びるように形成すると共に、オリフィス通路の内側周壁部に対して流路狭窄部材のベース部分を固定することが望ましい。
【0017】
このような構成を採用すれば、仕切部材の外周部分を周方向に延びるように形成されたオリフィス通路の内側周壁部に流路狭窄部材のベース部分が固定されるようになっていることから、ベース部分が長手平板形状乃至は長手帯板形状を呈する流路狭窄部材を採用し、かかる流路狭窄部材のベース部分をオリフィス通路の内側周壁部に沿って湾曲させた状態で固定することにより、複数の弾性壁をオリフィス通路内に所期の状態で位置せしめることが可能となる。その結果、流路狭窄部材の形状を簡単にすることが出来ると共に、流路狭窄部材のオリフィス通路の壁部への固定作業を極めて簡単に行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0019】
先ず、図1及び図2には、本発明の一実施形態の流体封入式防振装置としての自動車用のエンジンマウント10が示されている。このエンジンマウント10は、第一の取付部材としての第一の取付金具12と第二の取付部材としての第二の取付金具14が本体ゴム弾性体16で連結された構造とされており、図示はされていないが、第一の取付金具12がパワーユニット側に取り付けられる一方、第二の取付金具14が車両ボデー側に取り付けられることにより、パワーユニットを車両ボデーに対して防振支持せしめるようになっている。なお、以下の説明において、上下方向とは、原則として、装着状態下で略鉛直方向とされて主たる振動の入力方向となる図1中の上下方向をいう。
【0020】
より詳細には、第一の取付金具12は、略円柱形状を有しており、軸方向上端部には、径方向外方に広がるフランジ部18が一体形成されている。また、第一の取付金具12の中心軸上には、上方に開口するボルト穴20が形成されている。そして、このボルト穴20に螺着される固定ボルト(図示せず)によって、第一の取付金具12がパワーユニット側に固定されるようになっている。
【0021】
一方、第二の取付金具14は、上側筒金具22と下側筒金具24によって構成されている。上側筒金具22は、大径の略円筒形状を呈しており、軸方向下端の開口部には、径方向外方に広がるかしめ部26が形成されている。一方、下側筒金具24は、軸方向下方に向かって次第に小径化する大径のテーパ筒形状とされており、大径側開口部には、径方向外方に広がるフランジ部28が一体形成されている一方、小径側開口部には、径方向内方に向かって延び出した後で軸方向下方に向かって延び出す環状支持部30が一体形成されている。
【0022】
また、下側筒金具24の軸方向下方の開口部には、薄肉のゴム膜で形成された可撓性膜としてのダイヤフラム32が配設されており、かかるダイヤフラム32の外周縁部が、環状支持部30に対して加硫接着されている。これにより、下側筒金具24の軸方向下方の開口がダイヤフラム32によって流体密に閉塞されている。なお、下側筒金具24には、その内外周面を略全体に亘って覆うシールゴム34が、ダイヤフラム32と一体形成されて、加硫接着されている。また、下側筒金具24の環状支持部30には、径方向内方に突出する円環形状のオリフィス底壁ゴム36が、ダイヤフラム32と一体形成されて加硫接着されている。
【0023】
このような構造とされた下側筒金具24は、上側筒金具22の軸方向下側に重ね合わされて、下側筒金具24のフランジ部28が上側筒金具22のかしめ部26に対してシールゴム34を挟んで流体密にかしめ固定されることで、上側筒金具22に固定されるようになっており、その結果、全体として大径の略円筒形状を呈する第二の取付金具14が構成されている。
【0024】
そして、このような構造とされた第二の取付金具14の略中心軸上で開口部側に離隔して、第一の取付金具12が対向配置されるようになっており、このように配置された第一の取付金具12と第二の取付金具14の間には、本体ゴム弾性体16が介装されている。
【0025】
この本体ゴム弾性体16は、全体として円錐台形状を呈していると共に、その大径側端面には、軸方向下方に向かって開口する大径の凹所38が形成されている。そして、本体ゴム弾性体16の小径側端面に第一の取付金具12が加硫接着されている一方、大径側端部外周面に対して第二の取付金具14を構成する上側筒金具22が加硫接着されて、第一の取付金具12と第二の取付金具14を構成する上側筒金具22が本体ゴム弾性体16で連結されている。
【0026】
なお、第一の取付金具12は、本体ゴム弾性体16の小径側端面から差し込まれた状態で、軸方向上端面を除く略全面が本体ゴム弾性体16に加硫接着されている。一方、上側筒金具22は、本体ゴム弾性体16の大径側端部外周面に外挿された状態で、かしめ部26を除く内周面の略全面が本体ゴム弾性体16に加硫接着されている。
【0027】
そして、上述の如く、第二の取付金具14が、その軸方向上側の開口が本体ゴム弾性体16で流体密に閉塞されると共に、その軸方向下側の開口がダイヤフラム32で流体密に閉塞されることにより、かかる第二の取付金具14の中空内部には、本体ゴム弾性体16とダイヤフラム32の対向面間において、非圧縮性流体が封入された流体室40が形成されている。なお、流体室40の封入流体としては、後述するオリフィス通路56を通じての流体の共振作用に基づく防振効果を有効に得るために、水やアルキレングリコール,ポリアルキレングリコール,シリコーン油等の0.1Pa・s以下の粘度を有する低粘性流体が好適に採用される。
【0028】
さらに、かかる流体室40には、仕切部材42が収容配置されている。この仕切部材42は、略円環形状の支持板金具44の中央穴に所定厚さのゴム弾性板46が配設されて、かかるゴム弾性板46の外周縁部が支持板金具44に加硫接着された一体加硫成形品によって構成されている。そこにおいて、支持板金具44は、円環板形状の横板部48と、かかる横板部48の内周縁部から軸方向下方に延びる円筒形状の竪板部50とを有しており、全体として逆L字形断面を有する回転体形状とされている。そして、この竪板部50に対して、厚肉円板形状のゴム弾性板46の外周縁部が加硫接着されており、それによって、支持板金具44の中央穴が、ゴム弾性板46で流体密に閉塞されている。特に、本実施形態では、ゴム弾性板46の外周縁部が、軸方向下方に向かって斜めに延びる略テーパ形状とされており、上面からの作用圧力に対するばね剛性が大きく調節設定されている。
【0029】
そして、かかる仕切部材42は、流体室40の軸方向中間部分において軸直角方向に広がる状態で収容配置されており、支持板金具44の横板部48の外周縁部が、上側筒金具22のかしめ部26によって、下側筒金具24のフランジ部28と共に、第二の取付金具14に対して流体密にかしめ固定されている。これにより、流体室40が、仕切部材42によって流体密に二分されており、その結果、仕切部材42の上側には、壁部の一部が本体ゴム弾性体16で構成されて、振動入力時に本体ゴム弾性体16の弾性変形に伴う圧力変化が生ぜしめられる受圧室52が形成されている一方、仕切部材42の下側には、壁部の一部がダイヤフラム32で構成されて、ダイヤフラム32の変形に基づいて容積変化が容易に許容される平衡室54が形成されている。
【0030】
また、上述の如く仕切部材42が第二の取付金具14によって支持された状態で、仕切部材42における支持板金具44の竪板部50の軸方向下端が下側筒金具24のオリフィス底壁ゴム36に対して圧接されている。これにより、下側筒金具24と支持板金具44によって画成されて、下側筒金具24の内周面と支持板金具44の外周面に沿って周方向に延びる環状のオリフィス通路56が形成されている。
【0031】
また、支持板金具44の竪板部50の外周面には、周上の1箇所において、径方向外方に突出して下側筒金具24に圧接されることにより、オリフィス通路56を流体密に遮断する遮断壁ゴム58が加硫接着されている。そして、この遮断壁ゴム58を挟んだ周方向両側において、オリフィス通路56を受圧室52に連通する第一の連通孔60と、オリフィス通路56を平衡室54に連通する第二の連通孔62が形成されている。これにより、オリフィス通路56が、周方向で略一周の長さをもって受圧室52と平衡室54を相互に連通するようにされている。
【0032】
そこにおいて、オリフィス通路56内には、流路狭窄部材64が配設されている。この流路狭窄部材64は、従来から公知のゴム材料によって形成されており、図3及び図4に単体図が示されているように、一定の厚さ寸法を有する長手平板形状のベース部分66に対して、複数の弾性壁68が厚さ方向一方の面から突出するように一体形成された構造とされている。これら複数の弾性壁68は、それぞれ、ベース部分66の長手方向での投影面積がオリフィス通路56の通路断面積よりも小さくされており、特に本実施形態では、各弾性壁68が互いに同じ形状とされていると共に、各弾性壁68のベース部分66の長手方向での投影面が、オリフィス通路56の通路断面に対応した形状とされている。因みに、本実施形態では、各弾性壁68におけるベース部分66の長手方向での投影面が、ベース部分66の幅方向一方から他方へと行くに従って次第に高さ寸法が大きくなる四角形状とされている。即ち、本実施形態では、各弾性壁68の突出端面は、ベース部分66の幅方向一方から他方に向かって上る傾斜面とされているのである。
【0033】
また、本実施形態では、各弾性壁68の壁厚寸法(ベース部分66の長手方向での寸法)が、幅方向の全長に亘って、基端側から突出端側まで略一定とされている。更に、本実施形態の弾性壁68は、幅方向の全長に亘って、基端側から突出端側へと真っ直ぐ突出している。更にまた、本実施形態の弾性壁68は、厚さ方向(図3の左右方向)の両面が、それぞれ、ベース部分66の厚さ方向一方の面に対して直交する方向に広がっている。即ち、本実施形態では、平板形状とされた弾性壁68が、ベース部分66の長手方向に対して直交する方向に突出形成されて、その厚さ方向両面が、それぞれ、ベース部分66の厚さ方向一方の面に対して直交する方向に広がっているのである。そして、複数の弾性壁68は、それぞれ、厚さ方向での弾性変形が許容されている。
【0034】
さらに、本実施形態では、複数の弾性壁68が、ベース部分66の長手方向の全長に亘って、ベース部分66の長手方向に適当な間隔をあけて並ぶように位置せしめられており、特に本実施形態では、複数の弾性壁68が、ベース部分66の長手方向の全長に亘って、ベース部分66の長手方向に等間隔に並ぶように位置せしめられている。そこにおいて、ベース部分66の長手方向で隣り合う二つの弾性壁68の離隔距離は、適宜設定変更されるものである。
【0035】
このような構造とされた流路狭窄部材64は、ベース部分66の厚さ方向他方の面が支持板金具44の竪板部50の外周面に接着剤で固定されることによって、オリフィス通路56内に配設されるようになっており、それによって、ベース部分66がオリフィス通路56の通路方向の全長に亘って延びる状態でオリフィス通路56の内周側壁部を構成する支持板金具44の竪板部50に固定されるようになっているのである。
【0036】
そして、上述の如く流路狭窄部材64がオリフィス通路56内に配設されることにより、複数の弾性壁68が、オリフィス通路56内でオリフィス通路56の略全長に亘って、等間隔に位置せしめられるようになっている。
【0037】
また、上述の如く流路狭窄部材64がオリフィス通路56内に配設された状態では、各弾性壁68の突出端面や幅方向両端面とオリフィス通路56の内面との間に隙間70が形成されており、それによって、オリフィス通路56内での流体の流動がかかる隙間70を通じて許容されるようになっている。即ち、弾性壁68が突設された位置において流体の流動が許容されている領域のオリフィス通路56の通路方向での投影面積(オリフィス通路56の実質的な通路断面積)は、オリフィス通路56の本来の通路断面積から弾性壁68のオリフィス通路56の通路方向での投影面積とベース部分66のオリフィス通路56の通路方向での投影面積を除いた大きさとされているのである。そして、上述の如く、複数の弾性壁68が、オリフィス通路56内でオリフィス通路56の略全長に亘って、等間隔に位置せしめられていることにより、オリフィス通路56の実質的な通路断面積が、オリフィス通路56の通路方向の全長に亘って、オリフィス通路56の本来の通路断面積から弾性壁68のオリフィス通路56の通路方向での投影面積とベース部分66のオリフィス通路56の通路方向での投影面積を除いた大きさとなっている。なお、上述の説明から明らかなように、本実施形態では、ベース部分66がオリフィス通路56の内周側壁部を構成する支持板金具44の竪板部50に固定された状態で、弾性壁68のベース部分66の長さ方向での投影面積が、オリフィス通路56の通路方向に対する直交方向での断面積(オリフィス通路56の本来の通路断面積)からベース部分66の長手方向に直交する方向での断面積を除いた大きさよりも小さくされているのである。
【0038】
更にまた、上述の如く流路狭窄部材64がオリフィス通路56内に配設された状態で、各弾性壁68は、オリフィス通路56の内周側が固定端とされている一方、オリフィス通路56の外周側が自由端とされた片持ち支持状態で、オリフィス通路56の通路方向に対する直交方向に広がるようにして、オリフィス通路56内に配設されており、その結果、各弾性壁68のオリフィス通路56の通路方向での弾性変形が許容されているのである。
【0039】
このような構造とされたエンジンマウント10においては、第一の取付金具12と第二の取付金具14の間への振動入力時に、受圧室52と平衡室54の間に生ぜしめられる相対的な圧力差に基づいて、これら両室52,54の間でオリフィス通路56を通じての流体流動が生ぜしめられるようになっており、この流体流動の共振作用に基づいて、有効な防振効果が発揮されるようになっている。
【0040】
なお、流体の共振作用に基づいて発揮される防振効果は、オリフィス通路56の通路長さとオリフィス通路56の実質的な通路断面積の比を調節することによってチューニングすることが可能であり、本実施形態では、エンジンシェイク振動に対する減衰効果が発揮されるように、オリフィス通路56の通路長さとオリフィス通路56の実質的な通路断面積の比が設定されている。
【0041】
また、オリフィス通路56のチューニング周波数域よりも高周波数域では、オリフィス通路56の流通抵抗が著しく大きくなって、オリフィス通路56が実質的に閉塞されるが、このような場合には、ゴム弾性板46の弾性変形に基づいて受圧室52の圧力変化が吸収されることから、著しい高動ばね化が回避されて、高周波数域の振動に対しても、良好な防振効果が発揮され得るようになっている。
【0042】
ところで、上述の如き構造とされたエンジンマウント10においては、車両速度や路面の凹凸等が異なることによって、振幅の異なるエンジンシェイク振動が入力されることがある。
【0043】
そこにおいて、入力される振動の振幅が大きくなって、受圧室52の壁ばねや流体の流動状態等が変化すると、オリフィス通路56のチューニング周波数は、予め設定されていた周波数よりも低周波側へシフトする。
【0044】
しかしながら、上述の如き構造とされたエンジンマウント10においては、入力される振動の振幅が大きくなって、受圧室52の壁ばねや流体の流動状態等が変化すると、オリフィス通路56内に配設された複数の弾性壁68のそれぞれが、オリフィス通路56内を流れる流体によって弾性変形せしめられることにより、オリフィス通路56の実質的な通路断面積が大きくされて、オリフィス通路56のチューニング周波数が高周波側にシフトする。
【0045】
すなわち、上述の如き構造とされたエンジンマウント10においては、入力される振動の振幅が大きくなることに起因するオリフィス通路56のチューニング周波数の低周波側へのシフトが、入力される振動の振幅が大きくなった際にオリフィス通路56の実質的な通路断面積が大きくなることに起因するオリフィス通路56のチューニング周波数の高周波側へのシフトによって相殺されるようになっているのであり、その結果、オリフィス通路56のチューニング周波数が予め設定された周波数域に維持されるようになっているのである。
【0046】
従って、上述の如き構造とされたエンジンマウント10においては、入力される振動の振幅が変化した場合であっても、オリフィス通路56のチューニング周波数の変化を軽減乃至は回避して、目的とする防振効果を発揮することが出来るようになっているのである。
【0047】
特に本実施形態では、長手平板形状を呈するベース部分66に対して平板状の弾性壁68を長手方向に等間隔に複数設けた流路狭窄部材64が採用されており、かかる流路狭窄部材64のベース部分66が厚さ方向に湾曲せしめられて支持板金具44の竪板部50の外周面に重ねあわされた状態で固定されることによって、オリフィス通路56内に複数の弾性壁68が配設されるようになっていることから、オリフィス通路56内への複数の弾性壁68の配設作業を簡単にすることが可能となる。
【0048】
また、本実施形態では、流路狭窄部材64のベース部分66が支持板金具44の竪板部50の外周面に固定されるようになっていることから、ベース部分66を長手平板形状にすることが可能となり、その結果、流路狭窄部材64の形状を簡単にすることが可能となる。
【0049】
因みに、本実施形態のエンジンマウント10の減衰係数と周波数の関係について、加振振幅(入力振動の振幅)を異ならせて測定した結果を、図5に示す。なお、加振振幅は、±0.2mm,±0.5mm,±0.75mm,±1.0mmの4通りで測定した。
【0050】
図5の測定結果からも、本実施形態のエンジンマウント10は、加振振幅が異なった場合であっても、オリフィス通路のチューニング周波数が殆ど変化していないことが認められる。即ち、オリフィス通路のチューニング周波数は、減衰係数のピーク周波数として確認できるのであり、図5に示されているように、何れの振幅の振動振動入力時においても、減衰係数のピーク周波数は、略一定周波数:aに維持されている。
【0051】
以上、本発明の一実施形態について詳述してきたが、これはあくまでも例示であって、本発明は、かかる実施形態における具体的な記載によって、何等、限定的に解釈されるものではない。以下に、他の実施形態の幾つかを具体的に例示するが、理解を容易にするために、以下の各図において、前記実施形態と同様な構造とされた部材及び部位については、図中に前記実施形態と同一の符号を付しておく。
【0052】
例えば、図6に示されているように、オリフィス通路56の側壁部72の外面に流路狭窄部材64を重ね合わせるように組み付けることも可能である。具体的には、オリフィス通路56の側壁部72に対して、弾性壁68に対応する形状の挿通孔74を複数形成し、側壁部72の外面(即ち、オリフィス通路56と反対の面)から各弾性壁68を各挿通孔74を通じてオリフィス通路56内に突出するように挿し通すことによって装着する。このような装着態様では、流路狭窄部材64のベース部分66を、オリフィス通路56の側壁部72の外面に対して重ね合わせて固着することが出来る。従って、オリフィス通路56内の狭い領域に流路狭窄部材64を貼り付ける場合に比して、流路狭窄部材64の組み付け作業が容易となる。また、流路狭窄部材64がオリフィス通路56の外に配設されることから、流路狭窄部材64によるオリフィス通路56の不必要な狭窄も回避される。更に、ベース部分66に対して流体が直接に干渉しないことから、流路狭窄部材64のオリフィス部材からの剥離が軽減されるという利点もある。なお、図6に示された構成においては、ベース部分66がオリフィス通路56の側壁部72の外面に重ね合わされて固着されており、各弾性壁68が各挿通孔74を通じてオリフィス通路56内に突出していることから、弾性壁68のベース部分66の長さ方向での投影面積は、側壁部72の断面積を除いた部分、即ち、弾性壁68においてオリフィス通路56内に位置せしめられている部分が、オリフィス通路56の通路方向に対する直交方向での断面積(オリフィス通路56の本来の通路断面積)よりも小さくされていれば良い。
【0053】
また、突出方向で弾性壁68の厚さ寸法が変化するようになっていても良い。具体的には、例えば図7に示されているように、高さ方向で次第に薄肉とすることにより、弾性壁68の基端部の耐久性を向上したり、作用する流体圧の大きさと弾性変形量を非線形的に設定すること等が可能となる。
【0054】
更にまた、突出方向で弾性壁68を、ストレートでなく、適当な形状に湾曲等させても良い。例えば図8に示されているように、オリフィス通路の一方の側に湾曲する断面形状を採用することにより、受圧室から平衡室に向けて流動する流体による弾性壁68の弾性変形特性と、それと反対側への弾性変形特性とを、異ならせるようにチューニングすること等も可能である。
【0055】
また、弾性壁は、オリフィス通路の天井面側や底面側、更には、外周面側から、或いはそれらのうちの複数の側から突出していても良い。
【0056】
さらに、オリフィス通路は、直線的に延びる形状であっても良いし、蛇行したり湾曲したり折り返したりするように延びる、各種形状が採用され得る。
【0057】
また、本発明は、第一の取付部材としてのインナ軸部材と、インナ軸部材の外周側に離隔して外挿状態で配設される第二の取付部材としてのアウタ筒部材とを、インナ軸部材とアウタ筒部材の軸直角方向での対向面間に配された本体ゴム弾性体によって弾性的に連結した筒形マウントに対しても、勿論、適用可能である。
【0058】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて、種々なる変更,修正,改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の一実施形態のエンジンマウントを示す縦断面図。
【図2】図1におけるII−II断面図。
【図3】図1のエンジンマウントに採用されている流路狭窄部材を示す平面図。
【図4】図3のIV−IV断面図。
【図5】減衰係数と周波数の関係を示すグラフ。
【図6】本発明において採用可能な流路狭窄部材の取付状態を説明するための断面図。
【図7】本発明において採用可能な弾性壁の別の形状を説明するための側面図。
【図8】本発明において採用可能な弾性壁の更に別の形状を説明するための側面図。
【符号の説明】
【0060】
10:エンジンマウント,12:第一の取付金具,14:第二の取付金具,16:本体ゴム弾性体,32:ダイヤフラム,52:受圧室,54:平衡室,56:オリフィス通路,64:流路狭窄部材,66:ベース部分,68:弾性壁,70:隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
防振連結される一方の部材に取り付けられる第一の取付部材と防振連結される他方の部材に取り付けられる第二の取付部材を本体ゴム弾性体で連結し、壁部の一部が該本体ゴム弾性体で構成されて非圧縮性流体が封入された受圧室と壁部の一部が可撓性膜で構成されて非圧縮性流体が封入された平衡室を形成すると共に、これら受圧室と平衡室を相互に連通するオリフィス通路を形成した流体封入式防振装置において、
前記オリフィス通路の通路方向の全長に亘って延びる状態で該オリフィス通路の壁部に固定されるベース部分に対して、該ベース部分が延びる長さ方向での投影において該ベース部分の長さ方向に対する直交方向に広がると共に、該ベース部分の長さ方向での投影面積が該オリフィス通路の通路方向に対する直交方向での断面積よりも小さくされており、更に、該ベース部分の長さ方向での弾性変形が許容されている弾性壁が、該ベース部分の長さ方向の全長に亘って適当な間隔をあけて複数設けられている流路狭窄部材を、該ベース部分において該オリフィス通路の壁部に固定することにより、複数の該弾性壁が、該オリフィス通路内において、該オリフィス通路の通路方向で適当な間隔をあけて位置せしめられていると共に、複数の該弾性壁のそれぞれが、該オリフィス通路の壁面との間に隙間が形成された状態で、該オリフィス通路の通路方向に対する直交方向に広がるように突出せしめられており、更に、複数の該弾性壁のそれぞれにおいて、該オリフィス通路の通路方向での弾性変形が許容されていることを特徴とする流体封入式防振装置。
【請求項2】
前記第一の取付部材を筒状の前記第二の取付部材の一方の開口側に離隔配置して該第一の取付部材と該第二の取付部材を前記本体ゴム弾性体で連結すると共に、該第二の取付部材の他方の開口側を前記可撓性膜で覆蓋する一方、該本体ゴム弾性体と該可撓性膜の対向面間に仕切部材を配設して該第二の取付部材で支持せしめることにより、該仕切部材を挟んだ一方の側に該本体ゴム弾性体で壁部の一部が構成されて非圧縮性流体が封入された前記受圧室を形成すると共に、該仕切部材を挟んだ他方の側に該可撓性膜で壁部の一部が構成されて非圧縮性流体が封入された前記平衡室を形成し、更に、該受圧室と該平衡室を連通する前記オリフィス通路を該仕切部材の外周部分において周方向に延びるように形成すると共に、該オリフィス通路の内側周壁部に対して前記流路狭窄部材の前記ベース部分を固定した請求項1に記載の流体封入式防振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−223838(P2008−223838A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−60972(P2007−60972)
【出願日】平成19年3月9日(2007.3.9)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】