説明

流体封入式防振装置

【課題】高周波数側にチューニングされた第2のオリフィス通路の連通と遮断を、打音の発生を抑えつつ、安定して切替え可能とした、新規な構造の流体封入式防振装置を提供すること。
【解決手段】外周部分を仕切部材36で支持された可動ゴム膜60の中央部分に筒状部66が突出形成されており、筒状部66の内孔68を利用して第2のオリフィス通路76が形成されていると共に、筒状部66の軸方向端部には軸方向外側に向かって次第に薄肉となる緩衝当接部70が設けられている。仕切部材36における可動ゴム膜60との対向面には、可動ゴム膜60の弾性変形に際して緩衝当接部70が全周に亘って当接する当接面78が、仕切部材36と可動ゴム膜60との対向面方向に対して所定の傾斜角度で形成されており、緩衝当接部70が当接面78に斜め方向から当接することで内孔68が仕切部材36で覆蓋されて第2のオリフィス通路76が遮断されるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車のエンジンマウント等に適用される流体封入式防振装置に関するものであって、特に入力振動の振幅に応じて防振特性を自動的に切り替える構造を備えた流体封入式防振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、振動伝達系を構成する部材間に介装されて、それら部材を相互に防振連結する防振装置が知られており、その一種として、流体の流動作用を利用して防振効果の向上を図った流体封入式防振装置も知られている。流体封入式防振装置は、一般的に、第1の取付部材と第2の取付部材が本体ゴム弾性体によって連結されていると共に、第2の取付部材によって支持された仕切部材の両側にそれぞれ非圧縮性流体を充填された受圧室と平衡室が形成されており、更にそれら受圧室と平衡室を相互に連通するオリフィス通路が形成された構造を有している。例えば、特許文献1(特開平10−122294号公報)に記載されているのが、それである。
【0003】
ところで、流体封入式防振装置では、オリフィス通路がチューニングされた周波数の振動入力時に、流体の流動作用に基づく防振効果が有効に発揮される一方で、オリフィス通路のチューニング周波数よりも高周波数の振動入力時には、反共振によるオリフィス通路の実質的な遮断が生じて、著しい高動ばね化とそれに伴う防振性能の低下が問題となる。
【0004】
そこで、特許文献1では、第1のオリフィス通路以外に、受圧室と平衡室を連通する第2のオリフィス通路(特許文献1中の第3オリフィス)が設けられている。そして、第2のオリフィス通路のチューニング周波数が第1のオリフィス通路よりも高周波数に設定されていると共に、第2のオリフィス通路の連通状態と遮断状態を入力振動の振幅に応じて切り替える可動板が設けられている。
【0005】
しかしながら、このような可動板による第2のオリフィス通路の切替構造では、大振幅振動の入力時に第2のオリフィス通路を遮断する際、可動板が仕切部材に対して広い面積で打ち当たることから、当接初期の衝撃力が大きくなって、打音の発生が問題になるおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−122294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題は、高周波数側にチューニングされた第2のオリフィス通路の連通状態と遮断状態を、打音の発生を抑えつつ、安定して切り替えることを可能とした、新規な構造の流体封入式防振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明の第1の態様は、第1の取付部材と第2の取付部材が本体ゴム弾性体によって連結されて、該第2の取付部材で支持される仕切部材を挟んだ両側に受圧室と平衡室が形成されており、それら受圧室と平衡室にそれぞれ非圧縮性流体が封入されていると共に、それら受圧室と平衡室を相互に連通する第1のオリフィス通路と第2のオリフィス通路が形成されて、該第2のオリフィス通路が該第1のオリフィス通路よりも高周波数にチューニングされていると共に、該第2のオリフィス通路の連通状態と遮断状態が可動ゴム膜によって切替可能とされている流体封入式防振装置において、前記可動ゴム膜の外周部分が前記仕切部材で支持されていると共に、該可動ゴム膜の中央部分に筒状部が突出形成されており、該筒状部の内孔を利用して前記第2のオリフィス通路が形成されていると共に、該筒状部の軸方向端部には軸方向外側に向かって次第に薄肉となる緩衝当接部が設けられている一方、該仕切部材における該可動ゴム膜との対向面には、該可動ゴム膜の弾性変形に際して該筒状部の該緩衝当接部が全周に亘って当接する当接面が、該仕切部材と該可動ゴム膜との対向面方向に対して所定の傾斜角度で形成されており、該筒状部の該緩衝当接部が該当接面に対して斜め方向から当接することによって該筒状部の該内孔が該仕切部材で覆蓋されて該第2のオリフィス通路が遮断されるようになっていることを特徴とする。
【0009】
このような第1の態様に従う構造の流体封入式防振装置によれば、仕切部材の当接面に当接する筒状部の軸方向端部に、軸方向外側に向かって薄肉となる緩衝当接突部が設けられていることにより、可動ゴム膜の弾性変形による筒状部の仕切部材への当接に際して、衝撃が緩和されて打音が低減される。
【0010】
また、当接面が仕切部材における可動ゴム膜との対向面に対して所定の傾斜角度で形成されていると共に、緩衝当接部が当接面に対して斜め方向から当接するようになっていることから、緩衝当接部と当接面の当接時の衝撃がより有利に緩和されて、打音の発生が防止される。
【0011】
また、本発明の第2の態様は、第1の態様に記載された流体封入式防振装置において、前記当接面が、前記緩衝当接部の当接力が大きくなるに従って該緩衝当接部の当接位置が該当接面の傾斜方向に滑動変位する滑り当接面とされているものである。
【0012】
第2の態様によれば、当接面が滑り当接面とされて、緩衝当接部の当接面への当接位置が、当接面の傾斜方向に滑動変位するようになっていることから、緩衝当接部と当接面の当接力の増大が抑えられて、当接時の打音が低減される。更に、緩衝当接部の変形量が抑えられることから、当接面への当接側に向かって次第に薄肉となる緩衝当接部の耐久性も確保される。
【0013】
本発明の第3の態様は、第1又は第2の態様に記載された流体封入式防振装置において、前記可動ゴム膜の外周縁部に環状の厚肉支持部が設けられて、該厚肉支持部が前記仕切部材で膜厚方向に挟持されていると共に、該厚肉支持部と前記筒状部を連結する板状の連結部がそれら厚肉支持部および筒状部と一体形成されているものである。
【0014】
第3の態様によれば、可動ゴム膜において仕切部材で挟持される部分が厚肉とされていることから、充分な支持力で且つ優れた耐久性を持って可動ゴム膜が仕切部材に取り付けられる。また、仕切部材によって挟持される環状の厚肉支持部と筒状部が板状の連結部によって連結されていることから、厚肉支持部において強固に支持されていながら、受圧室と平衡室の相対的な圧力差に基づいた連結部の変形によって筒状部が容易に変位するようになっている。それ故、可動ゴム膜が仕切部材に対してずれる等の不具合を生じることなく、目的とする第2のオリフィス通路の切替作動が安定して実現される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、筒状部の軸方向端部に次第に薄くなる緩衝当接部が設けられており、可動ゴム膜の弾性変形によって緩衝当接部が仕切部材に当接するようになっていることから、当接初期の当接面積が抑えられて当接時の衝撃が緩和されることで打音が低減される。しかも、緩衝当接部は、仕切部材の当接面に対して斜め方向から当接するようになっていることから、当接時の衝撃が一層軽減されて、打音の発生が効果的に防止される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の1実施形態としてのエンジンマウントを示す縦断面図。
【図2】図1に示されたエンジンマウントにおける第2のオリフィス通路の切替え作動を説明する要部拡大縦断面図であって、(a)が静置状態および高周波小振幅振動の入力状態を、(b)が低周波大振幅振動の入力によって受圧室に正圧が及ぼされた状態を、(c)が低周波大振幅振動の入力によって受圧室に負圧が及ぼされた状態を、それぞれ示す。
【図3】図2の(b)における要部を拡大して示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0018】
図1には、本発明に従う構造とされた流体封入式防振装置の1実施形態として、自動車用のエンジンマウント10が示されている。エンジンマウント10は、第1の取付部材12と第2の取付部材14が本体ゴム弾性体16によって弾性的に連結された構造を有しており、第1の取付部材12が図示しないパワーユニットに取り付けられると共に、第2の取付部材14が同じく図示しない車両ボデーに取り付けられることにより、パワーユニットが車両ボデーに防振連結されるようになっている。
【0019】
より詳細には、第1の取付部材12は、鉄やアルミニウム合金等で形成された高剛性の部材であって、略円柱形状とされている。また、第1の取付部材12の上端には、外周側に向かって突出するフランジ部18が全周に亘って形成されている。更に、第1の取付部材12の中心軸上には、上方に開口するボルト孔20が所定の深さで形成されており、その内周面にねじ山が刻設されている。
【0020】
第2の取付部材14は、第1の取付部材12と同様に高剛性の部材であって、薄肉大径の略円筒形状とされている。また、第2の取付部材14の中間部分には段差22が設けられており、段差22を挟んで上側が大径筒部24とされていると共に、下側が小径筒部26とされている。
【0021】
そして、第1の取付部材12と第2の取付部材14は、第1の取付部材12の下端部が第2の取付部材14の上側開口部に差し入れられた状態で同一中心軸上に配設されており、本体ゴム弾性体16によって弾性連結されている。本体ゴム弾性体16は、厚肉の略円錐台形状とされており、その小径側端部に第1の取付部材12が差し込まれて加硫接着されていると共に、大径側端部の外周面に第2の取付部材14の大径筒部24の内周面全体および小径筒部26の内周面の上端部が重ね合わされて加硫接着されている。なお、本体ゴム弾性体16は、第1の取付部材12および第2の取付部材14を備えた一体加硫成形品として形成されている。
【0022】
また、本体ゴム弾性体16には、大径凹所28が形成されている。大径凹所28は、本体ゴム弾性体16の下面に開口する凹所であって、開口部付近が略一定の直径を有する円筒状とされていると共に、上底部が逆向きの略すり鉢状とされて、上方に向かって次第に縮径している。
【0023】
さらに、本体ゴム弾性体16の外周端部から下方に向かってシールゴム層30が延び出している。シールゴム層30は、薄肉大径の略円筒形状を有しており、本体ゴム弾性体16と一体形成されている。そして、シールゴム層30の外周面が第2の取付部材14の小径筒部26の内周面に加硫接着されており、第2の取付部材14の内周面が略全体に亘ってゴム弾性体で被覆されている。
【0024】
また、第2の取付部材14の下端部には、可撓性膜32が取り付けられている。可撓性膜32は、薄肉のゴム弾性体で形成されており、略円板形状とされていると共に、軸方向に充分な弛みを有している。更に、可撓性膜32の外周側には環状の固定部材34が配設されており、可撓性膜32に対して全周に亘って加硫接着されている。そして、可撓性膜32は、第2の取付部材14の下端部に挿入されており、第2の取付部材14に縮径加工が施されて固定部材34がシールゴム層30を介して第2の取付部材14に嵌着されることによって、第2の取付部材14に固定されている。
【0025】
このようにして可撓性膜32が第2の取付部材14に取り付けられることで、第2の取付部材14の内周側には、本体ゴム弾性体16と可撓性膜32の対向面間に外部から密閉されて非圧縮性流体を封入された流体封入領域が形成されている。なお、流体封入領域に封入される非圧縮性流体は、特に限定されるものではないが、例えば、水やアルキレングリコール,ポリアルキレングリコール,シリコーン油、或いはそれらの混合物が採用される。特に、後述する流体の流動作用に基づく防振効果を効率的に得るためには、0.1Pa・s以下の低粘性流体が望ましい。
【0026】
また、流体封入領域には、仕切部材36が配設されている。仕切部材36は、仕切部材本体38に蓋部材40を重ね合わせた構造を有している。仕切部材本体38は、略円板形状を有しており、中央部分には上方に開口する収容凹所42が形成されている。更に、仕切部材本体38の外周部分には、周方向に延びて外周面に開口する周溝44が形成されている。
【0027】
更にまた、仕切部材本体38における収容凹所42の底部には、上方に開口して周方向環状に延びる下側環状凹溝46が形成されており、仕切部材本体38における下側環状凹溝46の形成部分が部分的に下側へ突出している。また、仕切部材本体38における下側環状凹溝46を外周側に外れた部分には、周方向で断続的に複数の下側連通孔48が貫通形成されている。
【0028】
仕切部材本体38には、蓋部材40が上方から重ね合わされている。蓋部材40は、薄肉の略円板形状を有している。なお、仕切部材本体38および蓋部材40は、鉄やアルミニウム合金等で形成された高剛性の部材とされている。
【0029】
さらに、蓋部材40の径方向中間には、下方に開口して周方向環状に延びる上側環状凹溝50が形成されており、蓋部材40における上側環状凹溝50の形成部分が部分的に上側へ突出している。また、蓋部材40における上側環状凹溝50を外周側に外れた部分には、周方向で断続的に複数の上側連通孔52が貫通形成されている。
【0030】
このような構造とされた仕切部材本体38と蓋部材40を含んで仕切部材36が形成されている。そして、仕切部材36は、本体ゴム弾性体16と可撓性膜32の対向面間に配設されて、第2の取付部材14によって支持されている。即ち、仕切部材36が第2の取付部材14に挿入された後、下方から可撓性膜32が挿入されて、それら仕切部材36と可撓性膜32が第2の取付部材14を八方絞り等によって縮径加工することにより第2の取付部材14に対して嵌着固定される。
【0031】
このように仕切部材36が第2の取付部材14に固定されることにより、流体封入領域は軸直角方向に広がる仕切部材36によって上下に二分されている。これにより、仕切部材36よりも上側には、壁部の一部を本体ゴム弾性体16で構成されて、振動入力時に圧力変動が惹起される受圧室54が形成されている。一方、仕切部材36よりも下側には、壁部の一部を可撓性膜32で構成されて、可撓性膜32の変形によって容積変化を許容される平衡室56が形成されている。なお、受圧室54および平衡室56には、それぞれ流体封入領域に封入された非圧縮性流体が封入されている。
【0032】
また、仕切部材36の外周部分に形成された周溝44は、その外周側の開口部が第2の取付部材14によって流体密に覆蓋されており、所定の長さで延びるトンネル状の流路が形成されている。更に、周溝44を利用して形成された上記トンネル状流路の一方の端部が図示しない連通孔を通じて受圧室54に連通されていると共に、他方の端部が図示しない連通孔を通じて平衡室56に連通されている。これにより、受圧室54と平衡室56を相互に連通する第1のオリフィス通路58が、周溝44を利用して形成されている。なお、第1のオリフィス通路58は、通路断面積(A)と通路長(L)の比(A/L)によって設定されるチューニング周波数が、エンジンシェイクに相当する10Hz程度の低周波数に設定されている。
【0033】
また、蓋部材40が仕切部材本体38に対して上方から重ね合わされることにより、仕切部材本体38の収容凹所42の開口部が蓋部材40で覆蓋されて、仕切部材本体38と蓋部材40の間に収容空所59が形成されている。なお、仕切部材本体38に形成された下側環状凹溝46と、蓋部材40に形成された上側環状凹溝50は、何れも収容空所59内に開口しており、収容空所59の一部を構成している。更に、収容空所59は、上側環状凹溝50および上側連通孔52を通じて受圧室54に連通されていると共に、下側環状凹溝46および下側連通孔48を通じて平衡室56に連通されている。
【0034】
この収容空所59には、可動ゴム膜60が収容配置されている。可動ゴム膜60は、その径方向中間部分に略円環板形状の連結部62を有していると共に、その外周縁部に環状乃至は略円筒形状の厚肉支持部64を有しており、連結部62の外周側において厚肉支持部64が上下両側に突出するように一体形成されている。
【0035】
また、可動ゴム膜60の中央部分には、筒状部66が設けられている。筒状部66は、軸方向上下に延びる略円筒形状とされて、上下方向に貫通する内孔68を有しており、連結部62の内周側において厚肉支持部64よりも小さい突出高さで上下両側に突出している。要するに、可動ゴム膜60は、それぞれ略円筒形状とされた厚肉支持部64と筒状部66が径方向に所定距離を隔てて同軸的に設けられていると共に、それら厚肉支持部64と筒状部66が軸方向中央に一体形成された略円環板形状の連結部62によって相互に連結されている。
【0036】
さらに、筒状部66の内周面は、縦断面において略円弧形状を呈する湾曲面とされており、軸方向外側に向かって次第に拡径するテーパ状とされている。更にまた、筒状部66の外周面は、縦断面において上下に直線的に延びている。これらによって、筒状部66の全体が軸方向外側に向かって次第に薄肉となっており、筒状部66の軸方向両端部には軸方向外側に向かって次第に薄肉となる緩衝当接部70が一体的に設けられている。なお、本実施形態では、緩衝当接部70が、筒状部66に一体で設けられているが、例えば、筒状とされた可動ゴム膜の内周縁部の軸方向両端部に、より緩衝性能に優れた材料で形成された別体の緩衝当接部を後固着して、緩衝当接部を備えた筒状部を形成することも可能である。更に、本実施形態では、筒状部66の全体の厚さ寸法が軸方向で漸次変化していることによって、筒状部66の軸方向両端部に緩衝当接部70が形成されているが、緩衝当接部は先端側に向かって狭幅とされていれば、その内外周面が筒状部の内外周面に対して段差を成していても良い。
【0037】
このような構造とされた可動ゴム膜60は、仕切部材36の収容空所59に収容配置されている。より詳細には、可動ゴム膜60は、仕切部材本体38の収容凹所42に嵌め込まれて、外周縁部の厚肉支持部64が仕切部材本体38における収容凹所42の底面と蓋部材40の下面との間で膜厚方向に挟持されることにより、仕切部材36によって支持されている。なお、仕切部材36と可動ゴム膜60の対向方向とは、収容空所59の上下面において後述する当接面78を外れた外周部分が可動ゴム膜60の連結部62と対向する方向、換言すれば、振動入力時に可動ゴム膜60の筒状部66が変位する方向であって、マウント軸方向である図1中の上下方向をいう。また、可動ゴム膜60には、その上面に対して上側連通孔52を通じて受圧室54の圧力が及ぼされていると共に、その下面に対して下側連通孔48を通じて平衡室56の圧力が及ぼされている。
【0038】
そして、可動ゴム膜60の連結部62および筒状部66が仕切部材36から離隔して収容空所59内に配置されることによって、可動ゴム膜60を挟んだ板厚方向両側が筒状部66の内孔68を通じて相互に連通されている。これにより、受圧室54と平衡室56を相互に連通する第2のオリフィス通路76が、上下の連通孔52,48と、収容空所59と、可動ゴム膜60の筒状部66の内孔68とを利用して、形成されている。なお、第2のオリフィス通路76は、第1のオリフィス通路58よりも高周波数にチューニングされており、チューニング周波数が走行こもり音に相当する50Hz以上の高周波数に設定されている。
【0039】
また、上下の環状凹溝50,46の外周面によって、一対の当接面78,78が形成されている。当接面78は、軸方向上下に延びる円筒状の湾曲面であって、仕切部材36における可動ゴム膜60との対向面(収容空所59の上下面)に設けられている。更に、当接面78は、仕切部材36における可動ゴム膜60との対向面方向(環状凹溝50,46よりも内周側に位置する収容空所59の上下面の広がる方向であって、ここでは軸直角方向)に対して、所定の傾斜角度(ここでは略90度)で形成されている。また、当接面78は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂でコーティング処理されること等により、摩擦係数が小さい滑り当接面とされていることが望ましい。
【0040】
なお、上側連通孔52と下側連通孔48は、当接面78,78よりも外周側に形成されており、収容空所59が当接面78,78よりも外周側において受圧室54および平衡室56に連通されていると共に、当接面78,78よりも内周側において受圧室54および平衡室56に連通されることなくそれら両室54,56から隔てられている。
【0041】
このような当接面78には、可動ゴム膜60の弾性変形に際して、筒状部66に設けられた緩衝当接部70が斜め方向から全周に亘って当接するようになっており、これによって、筒状部66の内孔68が仕切部材36によって閉塞されるようになっている。そして、筒状部66の内孔68の閉塞と開放が可動ゴム膜60によって切り替えられることにより、第2のオリフィス通路76の連通状態と遮断状態が切り替えられるようになっている。
【0042】
なお、筒状部66は、その内周面が仕切部材36に接触することなく離隔した状態で変位するようにされており、仕切部材36への最初の当接部位が緩衝当接部70とされている。また、本実施形態の筒状部66は、全体が軸方向外側に向かって次第に大径とされていることから、筒状部66の軸方向端面が環状凹溝50,46の内周側の角部に接触するのも回避されて、緩衝当接部70の当接面78への当接が安定して実現される。
【0043】
また、緩衝当接部70が当接面78に対して斜め方向から当接するようにされていると共に、当接面78の摩擦係数の小さい滑り当接面とされていることにより、緩衝当接部70の当接力が大きくなるに従って、緩衝当接部70の当接位置が軸方向外側に滑動変位するようになっている。
【0044】
このような構造を有するエンジンマウント10は、第1の取付部材12が図示しないパワーユニットに対してボルトで固定されると共に、第2の取付部材14が図示しない車両ボデーに対してブラケット部材を介して固定されることにより、車両に装着されて、それらパワーユニットと車両ボデーを防振連結するようになっている。なお、車両装着状態においても、振動の非入力時には、図2(a)に示されているように、可動ゴム膜60の筒状部66は、収容空所59の壁部から離隔して位置しており、筒状部66の内孔68が連通状態とされている。
【0045】
かかる車両への装着状態において、エンジンシェイクに相当する低周波大振幅振動が入力されると、第1のオリフィス通路58を通じて流体が積極的に流動せしめられて、流体の共振作用等の流動作用に基づいて目的とする防振効果(高減衰効果)が発揮される。
【0046】
その際、第2のオリフィス通路76は、可動ゴム膜60によって遮断されるようになっている。より詳細には、低周波大振幅振動が入力されて、受圧室54の圧力が平衡室56の圧力に対して相対的に大きくなると、可動ゴム膜60の中央部分を構成する筒状部66は、圧力差に基づく連結部62の弾性変形によって、下側に向かって拡径変形しながら、下方に変位する。これにより、図2の(b)に示されているように、筒状部66の緩衝当接部70が、仕切部材本体38の当接面78に対して全周に亘って当接する。その結果、筒状部66の内孔68が仕切部材本体38によって閉塞されて、第2のオリフィス通路76が遮断状態とされる。
【0047】
一方、受圧室54の圧力が平衡室56の圧力に対して相対的に小さくなると、筒状部66は、上側に向かって次第に大径となるように弾性変形しながら、上方に変位する。これにより、図2の(c)に示されているように、筒状部66の緩衝当接部70が蓋部材40の当接面78に対して全周に亘って当接する。そして、緩衝当接部70が当接面78に当接することにより、筒状部66の内孔68が蓋部材40によって閉塞されて、第2のオリフィス通路76が遮断状態とされる。
【0048】
以上のようにして、第1のオリフィス通路58がチューニングされた周波数域の振動(エンジンシェイク等)入力時には、第2のオリフィス通路76が遮断されて、第1のオリフィス通路58を通じての流体流動量が効率的に確保されるようになっている。
【0049】
また、可動ゴム膜60の緩衝当接部70は、仕切部材36の当接面78に対して、斜め方向から当接するようにされている。即ち、図3に示されているように、緩衝当接部70の当接面78に対する当接方向は、当接面78に対して、縦断面において所定の角度:θだけ傾斜している。これにより、緩衝当接部70の当接面78に対する当接力が大きくなるに従って、緩衝当接部70の当接面78への当接位置が軸方向外側に滑動変位するようになっている。特に、本実施形態において、当接面78は、低摩擦係数で緩衝当接部70の当接位置が傾斜に沿って滑動変位し易くされた滑り当接面とされている。なお、θは、0度<θ<180度で且つθ≠90度に設定されており、本実施形態では、0度<θ<90度の範囲で任意の角度に設定されている。
【0050】
そこにおいて、筒状部66において仕切部材36の当接面78に当接する軸方向端部が、軸方向外側に向かって次第に薄肉となる緩衝当接部70とされていることによって、筒状部66の仕切部材36に対する初期の当接面積が小さくされていると共に、筒状部66の変位に伴って当接面積が徐々に増すようになっている。それ故、可動ゴム膜60と仕切部材36が緩衝的に当接して、当接による打音を抑えることができる。
【0051】
さらに、本実施形態では、緩衝当接部70の先端が充分に狭幅とされており、緩衝当接部70が当接面78に対して環状に略線当たりするようになっている。これにより、初期の当接面積の低減による打音の防止効果がより有効に発揮されるようになっている。
【0052】
しかも、緩衝当接部70は、基端側(軸方向内側)に向かって次第に厚肉とされて、形状安定性が充分に確保されていることから、大振幅振動の入力下であっても、第2のオリフィス通路76を遮断状態に安定して保持することが可能である。
【0053】
また、緩衝当接部70は、当接面78に対して斜め方向から当接するようになっており、緩衝当接部70の当接面78への当接位置が軸方向で滑動変位するようになっている。これにより、緩衝当接部70と当接面78の当接力が著しく大きくなるのを防いで、打音の低減効果を得ることができると共に、緩衝当接部70の耐久性の低下を防ぐことができる。
【0054】
特に、当接面78の摩擦係数が小さく設定されており、緩衝当接部70の当接面78に対する当接力が大きくなることで、緩衝当接部70の当接面78への当接位置が軸方向外側に容易に滑動変位するようにされている。それ故、緩衝当接部70の当接面78への当接力が抑えられて、打音の低減や耐久性の向上がより効果的に実現される。しかも、当接面78の摩擦係数が小さくされていることによって、スティックスリップによる異音の発生も抑えられる。
【0055】
さらに、可動ゴム膜60において仕切部材36に当接する部分が、柔軟なチューブ状の筒状部66とされており、筒状部66自体の弾性変形に基づいた緩衝作用によっても、当接時の打音が低減されている。
【0056】
また、可動ゴム膜60は、外周縁部に設けられた厚肉支持部64が仕切部材本体38と蓋部材40の間で上下に挟持されることによって、仕切部材36に取り付けられている。このように、可動ゴム膜60において仕切部材36に支持される部分が厚肉とされていることにより、可動ゴム膜60を大きな力で挟み込んで充分な支持力を確保することで、第2のオリフィス通路76の連通状態と遮断状態を優れた信頼性で切り替えることができると共に、可動ゴム膜60の耐久性も併せて確保される。更に、上下方向に変位する筒状部66が、厚肉支持部64に対して円環板形状の連結部62によって連結されていることから、可動ゴム膜60では、厚肉支持部64において仕切部材36に確実に支持されつつ、筒状部66の変位が連結部62の剪断変形によって充分に許容される。
【0057】
一方、走行こもり音に相当する高周波小振幅振動の入力時には、図2の(a)に示されているように、可動ゴム膜60の筒状部66が一対の当接面78,78の何れからも離隔して、筒状部66の内孔68が開放されることから、第2のオリフィス通路76が連通状態とされる。これにより、第2のオリフィス通路76を通じて受圧室54と平衡室56の間で流体が流動させられて、流体の流動作用に基づいて目的とする防振効果(低動ばね効果)が発揮される。
【0058】
なお、高周波小振幅振動の入力時には、入力振動の周波数よりも低周波数にチューニングされた第1のオリフィス通路58は、反共振的な作用によって実質的に目詰まりして遮断されており、第2のオリフィス通路76を通じて流動する流体の量が充分に確保されて、目的とする防振効果が効率的に発揮される。
【0059】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、緩衝当接部70の先端は、必ずしも尖った角でなくても良く、縦断面で円弧状に丸められて環状に延びる湾曲面や、所定の幅をもって環状に伸びる平面で構成されていても良い。更に、緩衝当接部70の角度(緩衝当接部70の内周面と外周面が縦断面において成す角の大きさ)も、特に限定されるものではなく、要求される緩衝性能と耐久性能を考慮して適当に設定される。
【0060】
また、筒状部66の内周面は、必ずしも縦断面において湾曲していなくても良く、軸方向に延びる円筒面や軸方向外側に向かって拡径する円錐面等、縦断面において直線的に延びる面によって構成されていても良い。
【0061】
また、仕切部材36の当接面78は、仕切部材36と可動ゴム膜60の対向方向に対して傾斜していると共に、緩衝当接部70が斜め方向から当接するようになっていれば良く、その傾斜角度は特に限定されるものではない。具体的には、仕切部材36と可動ゴム膜60の対向方向に対する当接面78の傾斜角度は、実施形態に示されている0度に限定されるものではなく、当接面78の傾斜角度が90度ではないことと、緩衝当接部70の当接面78への当接角度:θが0度および90度ではないこととを満たせば、任意の角度に設定され得る。
【0062】
また、前記実施形態では、筒状部66の上下何れの側への変位に際しても、筒状部66の内孔68が閉塞されて第2のオリフィス通路76が遮断されるようになっていたが、何れか一方の側でのみ第2のオリフィス通路76が遮断される構造も採用され得る。具体的には、例えば、蓋部材が平板形状とされると共に、上側連通孔が蓋部材の中央部分に形成される一方、上側の当接面が廃されて、下側の当接面のみが形成されると共に、筒状部および緩衝当接部が連結部の内周端部から下方にのみ突出するように形成される。このような構造であっても、低周波大振幅振動の入力時には、受圧室に正圧が作用することで第2のオリフィス通路が遮断されて、第1のオリフィス通路による防振効果が有効に発揮される。しかも、筒状部の内孔が上側連通孔を通じて受圧室に常時連通されていることから、受圧室に大きな負圧が及ぼされても、その負圧が第2のオリフィス通路を通じての流体流動によって可及的速やかに解消されて、キャビテーションに起因する異音の発生を防ぐことができる。
【0063】
本発明は、自動車用の流体封入式防振装置にのみ適用されるものではなく、自動二輪車や産業用車両,鉄道用車両等に用いられる流体封入式防振装置にも好適に適用され得る。また、本発明に従う構造の流体封入式防振装置は、エンジンマウント以外にも、ボデーマウントやサブフレームマウント,デフマウント等としても、採用され得る。
【符号の説明】
【0064】
10:エンジンマウント(流体封入式防振装置)、12:第1の取付部材、14:第2の取付部材、16:本体ゴム弾性体、36:仕切部材、54:受圧室、56:平衡室、58:第1のオリフィス通路、62:連結部、64:厚肉支持部、66:筒状部、68:内孔、70:緩衝当接部、76:第2のオリフィス通路、78:当接面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の取付部材と第2の取付部材が本体ゴム弾性体によって連結されて、該第2の取付部材で支持される仕切部材を挟んだ両側に受圧室と平衡室が形成されており、それら受圧室と平衡室にそれぞれ非圧縮性流体が封入されていると共に、それら受圧室と平衡室を相互に連通する第1のオリフィス通路と第2のオリフィス通路が形成されて、該第2のオリフィス通路が該第1のオリフィス通路よりも高周波数にチューニングされていると共に、該第2のオリフィス通路の連通状態と遮断状態が可動ゴム膜によって切替可能とされている流体封入式防振装置において、
前記可動ゴム膜の外周部分が前記仕切部材で支持されていると共に、該可動ゴム膜の中央部分に筒状部が突出形成されており、該筒状部の内孔を利用して前記第2のオリフィス通路が形成されていると共に、該筒状部の軸方向端部には軸方向外側に向かって次第に薄肉となる緩衝当接部が設けられている一方、
該仕切部材における該可動ゴム膜との対向面には、該可動ゴム膜の弾性変形に際して該筒状部の該緩衝当接部が全周に亘って当接する当接面が、該仕切部材と該可動ゴム膜との対向面方向に対して所定の傾斜角度で形成されており、
該筒状部の該緩衝当接部が該当接面に対して斜め方向から当接することによって該筒状部の該内孔が該仕切部材で覆蓋されて該第2のオリフィス通路が遮断されるようになっていることを特徴とする流体封入式防振装置。
【請求項2】
前記当接面が、前記緩衝当接部の当接力が大きくなるに従って該緩衝当接部の当接位置が該当接面の傾斜方向に滑動変位する滑り当接面とされている請求項1に記載の流体封入式防振装置。
【請求項3】
前記可動ゴム膜の外周縁部に環状の厚肉支持部が設けられて、該厚肉支持部が前記仕切部材で膜厚方向に挟持されていると共に、該厚肉支持部と前記筒状部を連結する板状の連結部がそれら厚肉支持部および筒状部と一体形成されている請求項1又は2に記載の流体封入式防振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−172737(P2012−172737A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−33893(P2011−33893)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】