説明

流体研磨方法

【課題】使用開始直後の急速な初期磨耗を生じない噴孔形状が成形される、流体研磨方法の提供。
【解決手段】噴孔55および弁座部56を有するノズルボデー51と、弁座部56へ着座自在な着座部を有するノズルニードルと、を構成に有する噴射ノズルの、ノズルボデー51の噴孔55を、研磨流体により研磨加工する流体研磨方法であって、着座部と略同一形状のダミー着座部66を有するダミーニードル6を、ノズルボデー51に挿入した状態で、流体研磨を行うことを特徴とする。研磨流体が、弁座部56とダミー着座部66とにより形成されるダミー流路10を通過することで、噴孔55に流れ込む研磨流体の流れの状態は、噴射ノズルの実使用時における流体の流れの状態に近いものとなり、使用開始直後の噴孔55周辺の急速な初期磨耗を、流体研磨により再現することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細孔の研磨加工に採用されるのに適した流体研磨方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の燃料噴射装置における燃料の噴孔は、機械加工や放電加工等による穿設工程と、スラリー(砥粒を含んだ潤滑油)を用いる流体研磨工程とによって成形されている。仕上げ加工として、流体研磨が施されることで、噴孔内面や角部が研磨され、流量合わせと噴霧到達距離の向上とがなされる。(特許文献1参照)
【特許文献1】特開2005−177916号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このような従来の流体研磨法により得られる燃料噴射装置において、使用開始直後に、燃料に含まれる砂異物により噴孔内面や角部が削られ、同一の噴射信号入力に対する噴射量が増加する問題がある。
【0004】
しかし、この使用開始直後に観られる急速な初期磨耗は、一定の使用時間の経過と共に終息し、噴射量の増加は飽和する(図5参照)。これは、従来の流体研磨後の噴孔の形状と、燃料に混入する砂異物によって磨耗して成形される噴孔の形状とに差異があり、使用開始直後に特定箇所のみが急速に削られることにより引き起こされているものであると考えられる。
【0005】
研磨時間を延長した場合では、噴孔の径が拡大されて流量が増えるのみであり、使用開始直後の流量の増加を抑止することができないことからも、従来の流体研磨後の噴孔の形状と、磨耗により成形される噴孔の形状とに差異があるということは裏付けられる。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、使用開始直後の急速な初期磨耗を生じない噴孔形状が成形される、流体研磨方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明では、噴孔および弁座部を有するノズルボデーと、弁座部へ着座自在な着座部を有するノズルニードルと、を構成に有する噴射ノズルの、ノズルボデーの噴孔を、研磨流体により研磨加工する流体研磨方法であって、着座部と略同一形状のダミー着座部を有するダミーニードルを、ノズルボデーに挿入した状態で、流体研磨を行うことを特徴とする。
【0008】
噴射ノズルは、ノズルボデーに形成される弁座部と、ノズルニードルに形成される着座部とが着座自在な構成であり、噴射ノズルに供給される流体は、着座部が弁座部から離れた開弁状態において、着座部と弁座部とにより形成される流路を通過し、噴孔に流れ込む構造である。この発明によれば、ノズルニードルに挿入および支持されているダミーニードルには、ノズルニードルに形成される着座部と略同一形状のダミー着座部が形成されており、この構成により、流体研磨時には、噴射ノズルの実使用時における開弁状態と略同一形状の流路が形成される。研磨流体が、弁座部とダミー着座部とにより形成される流路を通過することで、噴孔に流れ込む研磨流体の流れの状態は、ダミーニードルを使用しない場合と比較して、噴射ノズルの実使用時における流体の流れの状態に近いものとなる。噴孔に研磨流体が、噴射ノズルの実使用時における流体の流れに近い状態で流れ込むことにより、使用開始直後の急速な初期磨耗を生じない噴孔形状が成形される、流体研磨方法を提供することが可能となる。
【0009】
請求項2に記載の発明では、ダミーニードルのダミー着座部を、ノズルボデーの弁座部に当接しない状態で流体研磨を行うことを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、ダミーニードルのダミー着座部と、ノズルボデーの弁座部とが当接しない。この構成により、ダミー着座部が弁座部に研磨流体を押し付け、弁座部を損傷させること無く、噴射ノズルの実使用時における流体の流れの状態を再現することができる。
【0011】
請求項3に記載の発明では、ノズルボデーは、ノズルニードルを摺動自在に保持する摺動部を有し、ダミーニードルを、摺動部で支持する状態で流体研磨を行うことを特徴とする。
【0012】
この発明によれば、ノズルボデーの摺動部は、ノズルニードルを、その摺動方向以外へ動くことを規制し、ノズルボデーの弁座部とノズルニードルの着座部とが高い同軸性および保持性を獲得している。ダミーニードルを、摺動部を用いて支持することにより、ダミー着座部と弁座部との同軸性を高めることが可能となり、弁座部とダミー着座部とにより形成される流路形状は、より噴射ノズルの実使用時における開弁状態と近い流路形状をなす。且つその保持性が高いことで、研磨流体の流れによる力に影響され、流路形状が変形することが抑止される。この構成により、噴孔に流れ込む研磨流体の流れの状態は、噴射ノズルの実使用時における流体の流れの状態により近いものとなり、使用開始直後の急速な初期磨耗を生じない噴孔形状が成形される、流体研磨方法を提供することが可能となる。
【0013】
請求項4に記載の発明では、ノズルボデーは、噴射ノズルの実使用時に流体を噴孔へ供給する供給路を有し、研磨流体を供給路より供給して流体研磨を行うことを特徴とする。
【0014】
この発明によれば、研磨流体を、実使用時において流体を噴孔へ供給する供給路から流入させることにより、噴孔に流れ込む研磨流体の流れの状態を、実使用時における流体の流れの状態により近いものとすることができる。これにより、使用開始直後の急速な初期磨耗を生じない噴孔形状が成形される、流体研磨方法を提供することが可能となる。
【0015】
請求項5に記載の発明では、ノズルボデーの噴孔周辺部と比して、耐磨耗性が高いダミー着座部を有するダミーニードルを、ノズルボデーに挿入した状態で、流体研磨を行うことを特徴とする。
【0016】
この発明によれば、ダミー着座部の耐摩耗性が、噴孔周辺部と比較して高いことから、複数個のノズルボデーの研磨加工に繰り返し使用することが可能であり、且つ繰り返しの使用でも、ダミー着座部の形状は維持され、弁座部と協働して、噴射ノズルの実使用時における開弁状態と略同一形状の流路を形成することができる。これにより、低コストを実現しつつ、噴孔に流れ込む研磨流体の流れの状態を、実使用時における流体の流れの状態により近いものとすることができ、使用開始直後の急速な初期磨耗を生じない噴孔形状が成形される、流体研磨方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明による流体研磨方法を、燃料噴射装置における噴孔の流体研磨方法に適用した場合を例に、図面に基づいて説明する。ここで、燃料噴射装置は、請求項に記載の噴射ノズルに相当する。
【0018】
図1は、本発明の第1実施形態による流体研磨方法に用いる流体研磨装置100の全体構成を示す概略図である。図2は、流体研磨加工の被加工物である燃料噴射装置のノズルボデー51のセット状態を示す断面図である。
【0019】
まず、本発明の第1実施形態による流体研磨方法において、被加工物となるノズルボデー51について、図2に基づいて説明する。
【0020】
図2に示すように、ノズルボデー51は、略円筒形状であり、例えば高速度鋼(SKH材)等の高温においても軟化を生じない材料からなる部材である。ノズルボデー51の上面側(図2の上方側)中心軸位置には、先端側(図2の下方側)に向け、ノズルボデー51の中心軸に沿い、燃料噴射装置のノズルニードル(図示しない)が挿入される挿入口52が形成される。
【0021】
挿入口52の開口面52a側の内周面には、開口面52aから挿入口52の中央部付近に亘り(開口面52aと隣接する面取り部は除く)、前述したノズルニードルが摺動自在に嵌め込まれる摺動部53が形成され、この摺動部53は、高精度に加工されている。挿入口52の中央部には、軸方向と垂直な断面積が一旦拡大するよう空間が形成され、開口面52aの側方から、挿入口52中央部の前述した空間の内周面へ向け、燃料供給路54(請求項4に記載の流体の供給路)が形成される。
【0022】
挿入口52の先端付近の内面には、ノズルニードル先端に形成される着座部が当接自在な弁座部56が形成される。ノズルニードルが摺動自在な構成であることから、着座部と弁座部56とにより、燃料噴射装置の燃料噴射を行う弁部が構成される。
【0023】
挿入口52の弁座部56のさらに先端には、サック部58が形成され、サック部58から、ノズルボデー51の外面側に向け、噴孔55が形成される。噴孔55は放電加工等により穿設され、その直径はφ0.2mm程度である。尚、噴孔55の数および配置、ならびに噴孔55の直径は限定されるものではない。
【0024】
次に、本発明の第1実施形態による流体研磨方法に用いる流体研磨装置100の全体構成を、図1および図2に基づいて説明する。
【0025】
本発明の第1実施形態による流体研磨装置100は、図1に示すように、スラリー供給部3と、制御部2と、前述したノズルボデー51がセットされる加工部4と、により構成される。
【0026】
図1に示すように、スラリー供給部3は、研磨剤(砥粒)とオイルとを攪拌・混合し、スラリー7を生成する為の攪拌装置33を備える。攪拌装置33は、研磨剤とオイルとを収容するスラリータンク33bと、それらを攪拌するアクチュエータ33aとをその構成に有する。第1スラリー供給管36aは、一端がスラリータンク33bに接続され、他端はスラリー供給装置31側に接続される。また、第1スラリー供給管36aには、第1制御弁34aが設けられる。
【0027】
スラリー供給装置31は、アクチュエータ31aと、該アクチュエータ31aにより駆動され、加工部4側へとスラリー7を圧送する往復式ポンプ31bを備える。往復式ポンプ31bは、シリンダ31dと、該シリンダ31d内を往復自在なピストン31cにより、流体を圧送可能な構成をなす。また、前述した第1スラリー供給管36aのスラリー供給装置31側は、シリンダ31dと接続される。
【0028】
第2スラリー供給管36bは、上流側となる一端が往復式ポンプ31bのシリンダ31dに接続され、下流側となる他端が加工部4側へと接続される。第2スラリー供給管36bは、その両端部にそれぞれ制御弁34b、44が設けられ、さらに、制御弁34bの下流側および制御弁44の上流側に、それぞれ圧力センサ35、45が設置される。
【0029】
加工部4を構成する加工装置40は、前述した被加工物であるノズルボデー51を設置する台座41と、一端が前述した第2スラリー供給管36bの下流側へと接続され、他端がノズルボデー51側へと接続され、ノズルボデー51へスラリー7を供給する供給口42とを備える。ここで、第2スラリー供給管36bの下流側端部に設けられる第3制御弁44および圧力センサ45は、加工部4の構成に含む。台座41には開口部41aが形成され、開口部41aの周縁部上方にノズルボデー51のフランジ部51aが設置される。
【0030】
また、ノズルボデー51の重力方向には、研磨加工後に排出されたスラリー7を回収するためのスラリー回収部47が設けられる。スラリー回収部47とスラリータンク33bとは、スラリー7を濾過するためのフィルタ48a、およびアクチュエータ38cにより駆動される回収ポンプ38bを備える、スラリー回収管48により接続される。
【0031】
制御部2は、圧力センサ35,45からの圧力信号が入力され、その圧力信号を増幅する信号増幅器21と、アナログである圧力信号を、デジタル信号に変換するA/D変換器22と、圧力信号から流体研磨装置100を制御する制御装置23と、により構成される。制御装置23は、制御プログラムを備えるコンピュータ等であり、より具体的には、プログラマブルロジックコントローラを用い、圧力センサ35,45からの圧力信号を受信して、その圧力値を処理、演算し、第1〜第3制御弁34a、34b、44の開閉や、スラリー供給装置31のアクチュエータ31aおよび各アクチュエータ33a、48cの駆動を制御する。
【0032】
尚、制御装置23は、パソコン等の既知の構成であっても良い。また、第1〜第3制御弁34a、34b、44は、本発明の第1実施形態による流体研磨方法を用いた流体研磨装置100においては、電磁ソレノイドを備える、電磁・油圧パイロット弁とし、また、第1制御弁34aのみ、通常時(制御装置23からの信号入力が無い状態)において、弁が全閉となり、第2および第3制御弁34b、44は、通常時、弁が全開とする。ただし、弁の種類および、通常時の弁の開閉の設定を特に限定するものではない。
【0033】
次に、前述した構成における、流体研磨装置100の作動について説明する。
【0034】
制御装置23の制御により、スラリー供給装置31のアクチュエータ31aを作動させると、往復式ポンプ31bのシリンダ31d内をピストン31cが下死点側へ移動し、スラリータンク33bより、第1スラリー供給管36aを通して、スラリー7がシリンダ31d内に吸引される。この際、制御装置23からの制御により、第1制御弁34aおよび第2制御弁34bの電磁ソレノイドがそれぞれ駆動され、第1制御弁34aは開放状態に、第2制御弁34bは閉鎖状態にされる。加えて、アクチュエータ33aが駆動され、スラリータンク33b内に貯蔵される研磨材と、オイルとが攪拌・混合され、流体研磨加工に使用可能な状態とされる。
【0035】
ピストン31cがシリンダ31d内で下死点に達し、シリンダ31d内にスラリー7が充填されると、制御装置23からの制御により、第1制御弁34aおよび第2制御弁34bの電磁ソレノイドの駆動が終了され、第1制御弁34aは閉鎖状態に、第2制御弁34bが開放状態にされる。このとき、第3制御弁44も、電磁ソレノイドは駆動されず、開放状態にある。下死点に達したピストン31cが移動方向を変え、シリンダ31d内を上死点側に移動するのに伴い、シリンダ31d内に充填されたスラリー7は、ピストン31cにより加圧され、第2スラリー供給管36bを通して、加工部4側へと圧送される。
【0036】
加工部4へと圧送されるスラリー7は、加工装置40内で供給口42を通過し、ノズルボデー51の噴孔55へ供給される。スラリー7は、噴孔55を研磨し、排出され、スラリー回収部47により回収される。回収された使用後のスラリー7は、アクチュエータ48cによって駆動される回収ポンプ48bによって吸い上げられ、スラリー回収管48を通り、スラリータンク33b側へ戻される。このとき、スラリー7が含有する、ノズルボデー51の研磨により生じた微細な加工屑は、フィルタ48aにより濾過される。
【0037】
前述した加工工程において、制御部2は、各圧力センサ35、45からの入力信号を基に、第2制御弁34bおよび第3制御弁44の弁開度と、スラリー供給装置31のアクチュエータ31aの駆動を制御し、ノズルボデー51に供給されるスラリー7の供給圧力と加圧時間とを所望の値に設定可能な構成とされる。さらに、各圧力センサ35、45に替えて、流量センサ等を用いてもよく、センサの種類や検出位置は、設定される加工条件に応じて適宜変更してよい。
【0038】
このような構成とすることにより、研磨中の特定の検出箇所におけるスラリー7の供給圧力又は流量を一定とするように、制御弁34bおよび44の弁開度、ならびにアクチュエータ31aの駆動を制御することが可能である。さらに、研磨工程を複数のステップより構成し、スラリー7の供給圧力(又は流量)と、負荷時間とを段階的に設定し、流体研磨を行ってもよい。また、加工時に噴孔55の径が拡大することにより生じる、スラリー7の供給圧力の漸減の補正等も可能である。
【0039】
続いて、前述した流体研磨装置100の特徴的構成と、被加工物であるノズルボデー51のセット状態について、図2に基づいて説明する。
【0040】
図2に示すように、ノズルボデー51の挿入口52には、ダミーニードル6が挿入された状態で流体研磨が施される。ダミーニードル6は、略円柱形状であり、耐摩耗性に非常に優れるセラッミクや、表面に窒化チタン等の高耐磨耗性被膜が形成された金属等からなる。ダミーニードル6の一端には、ノズルニードルに形成される着座部と同一形状のダミー着座部66が形成される。ここで、このダミー着座部66が形成される側の一端を先端側、他端を根元側とする。
【0041】
ダミーニードル6の中央部から根元側の端部に亘る外周面は、ノズルボデー51の摺動部53と嵌め合わされる、嵌め合い部65である。摺動部53と嵌め合い部65は、同一径に形成され、嵌め合わされた状態において、ダミーニードル6は、周方向の動きが強固に規制される構成となる。
【0042】
ノズルボデー51の摺動部53が、高精度に形成されていることから、ダミーニードル6が摺動部53により周方向の位置決めをされることで、弁座部56とダミー着座部66とが高い同軸性を獲得する構成である。加えて、摺動部53が、挿入口52の開口面52a付近から中央部付近まで形成されることから、ダミーニードル6が高い支持剛性を獲得する構成である。
【0043】
図2に示すように、ダミーニードル6の根元側の端部には、ヘッド部67が形成される。ヘッド部67は、挿入された状態において、挿入口52の開口面52a周縁部と当接し、ダミーニードル6の軸方向先端側への動きを規制する。ダミーニードル6は、この構成により、弁座部56とダミー着座部66とが当接しない位置関係とし、さらに、弁座部56とダミー着座部66の軸方向の隙間、即ち開弁のストローク量は、燃料噴射装置の実使用時における弁の全開状態を再現するよう、軸方向の長さが設定される。
【0044】
図2に示すように、ノズルボデー51の開口面52a側には、固定部材57が設置される。固定部材57は、固定具(図示しない)により、加工装置40又は台座41へ固定され、固定部材57とノズルボデー51とは、相対運動ができない構成とされる。固定部材57には、ダミーニードル6のヘッド部67と相対する位置に凹部57bが、ノズルボデー51の燃料供給路54と相対する位置に開口部57aが、それぞれ形成される。
【0045】
凹部57bの深さは、ダミーニードル6のヘッド部67の高さよりもごく僅か小さく形成され、固定部材57がノズルボデー51に固定された状態で、ヘッド部67を開口面52aの周縁に付勢し、ダミーニードル6の摺動方向(軸方向)の動きを規制する構成となる。
【0046】
ここで、ヘッド部67と開口面52aとの間に、ごく薄いワッシャ(図示しない)等を、ヘッド部67と凹部57bの底部との間に、前述したワッシャの厚さに対応する、ごく薄いプレート(図示しない)等を挟むことで、弁座部56とダミー着座部66とのストローク量を調整可能な構成とし、個々のノズルボデー51の開口面52aから弁座部56間のばらつきの補正や、再現する弁の開度を調整可能な構成としてもよい。この場合、凹部57bの深さは、ヘッド部67の高さと、ワッシャの厚さと、プレートの厚さとの合計よりもごく僅か小さく形成し、ヘッド部67のノズルボデー51への付勢作用を獲得するよう構成する。
【0047】
開口部57aは、ノズルボデー51に形成される燃料供給路54の上流側と相対する位置に形成され、第2スラリー供給管36bと一端が接続される供給口42の他端が、開口部57aを貫通して、燃料供給路54の開口部へ挿入される構成である。
【0048】
次に、前述した状態にセットされるノズルボデー51の流体研磨方法と、その作用・効果について、図2および図5に基づいて説明する。図5は、従来の流体研磨方法が施された燃料噴射装置の、使用後の経過時間と噴射量変化率との関係を示す図である。
【0049】
スラリー供給部3より、加圧・圧送されるスラリー7は、供給口42と燃料供給路54とを通り、挿入口52から弁座部56およびダミー着座部66によって形成されるダミー流路10を通過し、噴孔55が穿設されるサック部58へ流入する。前述したように、ダミー着座部66は、ノズルニードルに形成される着座部と同一形状であることから、弁座部56とダミー着座部66により形成されるダミー流路10は、実使用時の燃料噴射時において燃料が通過する、弁座部56と着座部によって形成される流路の形状を再現したものとなる。
【0050】
図5に示す、従来のダミーニードル6を挿入しない状態での流体研磨方法では、燃料噴射装置の使用開始直後の一定期間は、同一の噴射制御信号に対し、実際に噴射される燃料量が急速に増加する(図5の範囲A)、初期磨耗の傾向が観られる。そして、初期磨耗が終息すると、噴射される燃料量の増加が、緩やかな一定の勾配に安定する(図5の範囲B)。
【0051】
所望の噴射制御信号に対して、燃料噴射装置が実際に噴射する燃料量が増加すると、内燃機関の燃焼室内に過剰な量の燃料が供給され、炭化水素等の有害物質の発生を引き起こし、また、内燃機関の故障を誘発する危険性も生じさせる。
【0052】
従来のダミーニードル6を挿入しない状態での流体研磨方法において、図5に示すような傾向を示す要因は、スラリー7の流れの状態が、実使用時の燃料の流れの状態を再現しないことに拠る。流体研磨時のスラリー7の流れの状態と、燃料の流れの状態とが異なることで、流体研磨によって成形される噴孔55の形状と、燃料が含有する砂異物により生じる磨耗後の噴孔55の形状とに差異が生じるためである。
【0053】
より詳細には、従来の流体研磨方法で成形される噴孔55には、高圧の燃料が、流体研磨時のスラリー7とは異なる流れの状態で流入する。噴孔55に流入する燃料が含有する砂異物は、噴孔入口55aおよび噴孔内面55bの特定箇所に急速な磨耗を生じさせる。これにより、噴孔55の形状が、燃料が流れ易い形状へと変化し、噴射される燃料量が急速に増加する傾向を示す(図5の範囲A)。この初期磨耗により、燃料流れに倣った噴孔55形状が成形されると、この形状を維持したまま、徐々に噴孔55の径が拡大するのみとなり、経過時間に対する噴射量の変化が一定値に収束し、緩やかな勾配を示す(図5の範囲B)。
【0054】
前述した初期磨耗は、従来の流体研磨の研磨時間を延長した場合でも同様に生じる。研磨時間の延長は、噴孔55の径を拡大させるのみであり、初期磨耗後の噴孔入口55aおよび噴孔内面55bの形状を再現するものではない。また、噴孔55の径に関わらず、初期磨耗による燃料噴射量の増加を示す。
【0055】
本発明の第1実施形態による流体研磨方法では、スラリー7は、噴孔55の上流側において、弁座部56とダミー着座部66とにより形成されるダミー流路10を通過する。これにより、従来の流体研磨方法と比較して、実使用時の燃料に近似する流れが形成される。噴孔55に流入するスラリー7の流れの状態は、実使用時の燃料の流れの状態と近似するものとなり、燃料が含有する砂異物が、使用直後に急速に磨耗させる噴孔入口55aおよび噴孔内面55bの特定箇所を、スラリー7によって研磨することができ、燃料流れに倣った噴孔55形状が成形される。
【0056】
本発明の第1実施形態による流体研磨方法により成形される噴孔55は、初期磨耗後の噴孔55の形状を再現していることから、図5に示す従来の研磨方法において生じる、使用開始直後の、噴射燃料量の急速な増加を示すことが無く、均一な噴孔55の径の拡大による、緩やかな噴射燃料量の増加のみを示すものとなる。
【0057】
このようにして、使用開始直後の急速な初期磨耗を生じない噴孔55の形状が成形される、流体研磨方法を提供することが可能となる。
【0058】
また、前述したように、ダミーニードル6のダミー着座部66を、ノズルボデー51の弁座部56へ当接させない状態で流体研磨することにより、弁座部56にスラリー7が押し付けられ、弁座部56を損傷させることがない。
【0059】
また、図2に示すように、ダミーニードル6は、ヘッド部67がノズルボデー51と固定部材57とにより挟持されていることから、摺動軸方向の支持剛性が高い。さらに、ダミーニードル6は、ノズルボデー51に形成される摺動部53により、周方向に位置決めされているため、摺動軸と垂直な平面方向への支持剛性も高い。このように、ダミーニードル6は、全方向への支持剛性が非常に高く、スラリー7の供給圧力によって、想定外の振れ等を生じることがない。よって、研磨中の圧力変化に対しても、ダミー着座部66と弁座部56とは、安定してダミー流路10の形状を保持することができる。
【0060】
このようにして、ダミー流路10の形状が安定保持されることで、スラリー7の流れの状態は、燃料と近似する流れの状態をなし、燃料流れに倣った噴孔55形状をより確実に成形することができる。
【0061】
さらに、図2に示すように、スラリー7は、実使用時に燃料が供給される燃料供給路54から、挿入口52へ供給される構成である。この構成により、スラリー7は、燃料と同一の経路でダミー流路10へ流入し、噴孔55へ流入する。よって、スラリー7の流れの状態と、実使用の燃料の流れの状態とが、より近似した状態になる。噴孔55に流入するスラリー7の流れの状態が、より燃料の流れの状態と近似したものとなることから、初期磨耗後の噴孔55の形状をより正確に再現可能となる。これにより、使用開始直後の初期磨耗を生じない噴孔55形状を成形することができる流体研磨方法を提供することが可能となる。
【0062】
また、前述したように、ダミーニードル6は、ノズルボデー51と比較して、耐摩耗性に優れる材料からなる。これにより、スラリー7によって噴孔入口55aおよび噴孔内面55bが研磨されても、ダミー着座部66は、その形状を維持する。こんため、複数のノズルボデー51に形成される噴孔55の研磨加工に、同一のダミーニードル6を連続して使用可能となり、コスト低減が図れる。
【0063】
このとき、より耐磨耗性に優れるダミー着座部66は、スラリー7の研磨作用による形状の変化が抑制される構成であることから、複数のノズルボデー51の弁座部56と共に、常に正確な形状のダミー流路10を形成することが可能となる。よって、噴孔55に流入するスラリー7の流れの状態が、より燃料の流れの状態と近似したものとなることから、初期磨耗後の噴孔55の形状を複数のノズルボデー51に対して再現可能となる。これにより、使用開始直後の初期磨耗を生じない噴孔55形状を成形することができる流体研磨方法を低コストで提供することが可能となる。
【0064】
以上、本発明の第1実施形態による流体研磨方法について説明したが、本発明は、被加工物であるノズルボデー51の形状を限定するものではない。
【0065】
図3に、本発明の第1実施形態による流体研磨方法を、図2とは異なる先端形状の燃料噴射装置の噴孔55に適用した場合の、加工時のノズルボデー501のセット状態を示す。
【0066】
図2に示すノズルボデー51の挿入口52の先端部には、容積のあるサック部58が形成され、サック部58に噴孔55が穿設されるのに対し、図3に示すノズルボデー501に形成されるサック部508の容積は微小であり、噴孔55の穿設位置も異なる。
【0067】
この場合、ノズルボデー501の形状に対応するノズルニードルに形成される着座部と同一形状のダミー着座部66aが形成されるダミーニードル6aを挿入した状態で流体研磨を実施する。スラリー7が、弁座部56とダミー着座部66aとにより形成されるダミー流路10aを通過することにより、実使用時における燃料の流れの状態が、スラリー7の流れに再現させることが可能となる。
【0068】
このように、本発明はノズルボデー51の形状に制限されることが無く、ノズルボデー51の形状に対応したダミー着座部66が形成されるダミーニードル6を用いることにより、実使用時の燃料の流れの状態と近似する、スラリー7の流れを再現することが可能であり、燃料が含有する砂異物による噴孔55の初期磨耗後の形状を、加工時に得ることができる。これにより、使用開始直後の初期磨耗を生じない噴孔55の形状が成形される、流体研磨方法を提供することが可能となる。
【0069】
<第2実施形態>
以下に、本発明の第2実施形態による流体研磨方法に用いる流体研磨装置について説明する。
【0070】
前述した、本発明の第1実施形態による流体研磨方法に用いる流体研磨装置100に対して、加工部4内におけるノズルボデー51へのスラリー7の供給経路と、ダミーニードル610の支持方法が異なる。尚、前述した実施形態と同一の構成要素には同一の符号を付して説明を省略し、異なる構成および特徴について説明する。
【0071】
以下に、本発明の第2実施形態による流体研磨方法の用いる流体研磨装置の主要な変更箇所の構造および作用・効果について、図4に基づいて説明する。
【0072】
図4に示すように、被加工物であるノズルボデー51は、第1実施形態と同一である。ノズルボデー51の開口面52aが形成される上面側には、固定部材517が固定される。固定部材517は、固定具(図示しない)により、加工装置40又は台座41へ固定され、固定部材57とノズルボデー51とは、相対運動ができない構成とされる。固定部材517は、ノズルボデー51の開口部52aと相対する位置に、開口部517aが形成され、開口部517aの内面には、ダミーニードル610のヘッド部617が圧入される。
【0073】
ヘッド部617が開口部517aへ圧入固定されることにより、ダミーニードル先端に形成されるダミー着座部66の位置決めがなされる。ダミー着座部66の弁座部56への同軸性を獲得するため、開口部517aの内周面と、ヘッド部617の外周面とは高精度に加工されることが望ましい。さらに、スラリー7の供給圧力によって、ダミーニードル610の先端側が振れを生じないため、ヘッド部617の軸方向長さを最大限に確保することで支持を強固なものとし、先端部の支持剛性を高めることが望ましい。
【0074】
尚、前述した同軸性と支持剛性が確保可能であれば、ヘッド部617の固定部材517への固定方法は限定するものではなく、複数のピン等で外部から固定する方法や、ストッパー等を形成する方法も採用可能である。
【0075】
図4に示すように、固定部材517の開口部517aは、ノズルボデー51へのスラリー7の供給口42でもある。ダミーニードル610のヘッド部617の外周面には、スラリー供給溝617aが形成され、供給口42より供給されるスラリー7は、スラリー供給溝617aを通過し、挿入口52に流入する。このスラリー供給溝617aは、前述したダミーニードル610の固定が不確実にならない限り、複数であってもよく、また、溝の断面形状も限定しない。さらに、外周面を螺旋状に旋回する形状であってもよい。
【0076】
スラリー供給溝617aを通り、挿入口52に流入したスラリー7は、弁座部56とダミー着座部66とにより形成されるダミー流路10を通過することで、実使用時の燃料の流れと近似する流れの状態をなし、噴孔55へ流入する。実使用時と近似した状態のスラリー7の流れにより、燃料が含有する砂異物により生じる噴孔入口55aおよび噴孔内面55bの初期磨耗後の形状を、流体研磨によって再現することができ、使用開始直後の初期磨耗を生じない噴孔55の形状が成形される、流体研磨方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の第1実施形態による流体研磨方法に用いる流体研磨装置の概略を示す全体構成図である。
【図2】本発明の第1実施形態による流体研磨方法を、燃料噴射装置の噴孔に適用した場合の、加工時のノズルボデーのセット状態を示す断面図である。
【図3】本発明の第1実施形態による流体研磨方法を、図2とは異なる先端形状の燃料噴射装置の噴孔に適用した場合の、加工時のノズルボデーのセット状態を示す断面図である。
【図4】本発明の第2実施形態による流体研磨方法を、燃料噴射装置の噴孔に適用した場合の、加工時のノズルボデーのセット状態を示す断面図である。
【図5】従来の流体研磨方法が施された燃料噴射装置の、使用後の経過時間と噴射量変化率との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0078】
2 制御部、21 信号増幅器、22 A/D変換器、23 制御装置、3 スラリー供給部、31 スラリー供給装置、31a アクチュエータ、31b 往復式ポンプ、31c ピストン、31d シリンダ、33 攪拌装置、33a アクチュエータ、33b スラリータンク、34a 第1制御弁、34b 第2制御弁、35 圧力センサ、36a 第1スラリー供給管、36b 第2スラリー供給管、38b 回収ポンプ、38c アクチュエータ、4 加工部、40 加工装置、41 台座、41a 開口部、42 供給口、44 第3制御弁、45 圧力センサ、47 スラリー回収部、48 スラリー回収管、48a フィルタ、51、501 ノズルボデー、51a フランジ部、52 挿入口、52a 開口面、53 摺動部、54 燃料供給路(流体の供給路)、55 噴孔、55a 噴孔入口、55b 噴孔内面、56 弁座部、57、517 固定部材、57a、517a 開口部、57b 凹部、58、508 サック部、6、6a、610 ダミーニードル、65 嵌め合い部、66、66a ダミー着座部、67、617 ヘッド部、617a スラリー供給路、7 スラリー(研磨流体)、10、10a ダミー流路、100 流体研磨装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
噴孔および弁座部を有するノズルボデーと、
前記弁座部へ着座自在な着座部を有するノズルニードルと、を構成に有する噴射ノズルの、前記ノズルボデーの前記噴孔を、研磨流体により研磨加工する流体研磨方法であって、
前記着座部と略同一形状のダミー着座部を有するダミーニードルを、前記ノズルボデーに挿入した状態で、流体研磨を行うことを特徴とする流体研磨方法。
【請求項2】
前記ダミーニードルの前記ダミー着座部を、前記ノズルボデーの前記弁座部に当接しない状態で流体研磨を行うことを特徴とする請求項1に記載の流体研磨方法。
【請求項3】
前記ノズルボデーは、前記ノズルニードルを摺動自在に保持する摺動部を有し、
前記ダミーニードルを、前記摺動部で支持する状態で流体研磨を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の流体研磨方法。
【請求項4】
前記ノズルボデーは、前記噴射ノズルの実使用時に流体を噴孔へ供給する供給路を有し、
前記研磨流体を前記供給路より供給して流体研磨を行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に流体研磨方法。
【請求項5】
前記ノズルボデーの前記噴孔周辺部と比して、耐磨耗性が高い前記ダミー着座部を有する前記ダミーニードルを、前記ノズルボデーに挿入した状態で、流体研磨を行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に流体研磨方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−226507(P2009−226507A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−72338(P2008−72338)
【出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】