説明

浮体構造物作業システム、浮体構造物、作業船及び浮体構造物作業方法

【課題】安定した状態で浮体構造物の設置や保守等の作業を行うことができる浮体構造物作業システム、浮体構造物、作業船及び浮体構造物作業方法を提供する。
【解決手段】浮体構造物作業システム1は、浮遊型の浮体構造物2と、浮体構造物2の少なくとも設置又は保守を行うための作業船3と、を有し、浮体構造物2は、浮遊時に周面が喫水線に曝される柱状のコラム部4と、コラム部4の下部に配置されたバラスト部5と、コラム部4の中間部に配置されたフランジ部6と、を有し、作業船3は、フランジ部6に係止可能な把持部7を有し、作業船3は、浮体構造物2を昇降させる昇降手段を有し、浮遊状態の浮体構造物2のフランジ部6に、作業船3の把持部7を係止させた状態で、浮体構造物2及び作業船3を昇降させることによって、浮体構造物2を作業船3に固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浮体構造物作業システム、浮体構造物、作業船及び浮体構造物作業方法に関し、特に、安定した状態で浮体構造物の設置や保守等の作業を行うことができる浮体構造物作業システム、浮体構造物、作業船及び浮体構造物作業方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、洋上風力発電用の浮体構造物として、スパー型等の浮遊型の浮体構造物が提案されている。かかる浮体構造物に設置される風力発電装置は、例えば、マストとナセルとブレードとから構成される。また、スパー型の浮体構造物は、例えば、円柱形状の浮体物とバラストとから構成され、バラストの重量によって海上に直立した浮体物を係留索で係留したものである(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【0003】
例えば、特許文献1には、上下の蓋体と、これらの間に連続的に設置された筒形のプレキャストコンクリートブロックとがPC鋼材で接合されてなる中空の下部浮体と、該下部浮体にPC鋼材で接合された、上記プレキャストコンクリートブロックよりも小径なプレキャストコンクリートブロックと上蓋とからなる中空の上部浮体と、上記下部浮体の下面に連結鋼管を介して接合されたバラストタンクとから構成された洋上風力発電用のスパー型浮体構造が記載されている。
【0004】
ところで、特許文献1に記載されたような浮体構造物では、浮体構造物の設置や保守等の作業を行う際、波浪や風等によって、浮体構造物が揺動し、作業が困難になるという問題があった。そこで、従来は、作業船が、浮体構造物の揺動が少なくなる場所まで曳航してから、浮体構造物の設置や保守等の作業を行っていた。
【0005】
例えば、特許文献2の背景技術の欄には、スパー型浮体への洋上風力発電装置の設置方法として、スパー型浮体を横倒しにした状態で設置地点に曳航し、スパー型浮体内にバラスト水を注入して直立させ、アンカーに接続した係留索をスパー型浮体に繋ぎ、支柱、ナセル及びブレードをスパー型浮体に取り付ける方法が記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、連結部材で適宜間隔をもって繋がれた二艘の船体間に円筒状のスパー型浮体を横倒し状態で格納する格納部が形成され、前記連結部材の前部には、回転して直立したスパー型浮体を収納する収納部が切欠形成され、該収納部の両側の船体にはスパー型浮体を固定するワイヤーを巻き取るウインチが設置され、船体には自動位置保持装置が設置された双胴船の船体間における格納部に、円筒状のスパー型浮体を横倒し状態で格納し、前記双胴船をスパー型浮体の設置地点まで曳航して双胴船から複数のアンカーを吊り降ろした後、スパー型浮体を前側を中心に回転させて直立させ、該スパー型浮体に支柱、ナセルおよびブレードを取り付けた後、スパー型浮体にアンカーを係留索で接続する洋上風力発電装置の設置方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−248792号公報
【特許文献2】特開2009−13829号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2に記載の洋上風力発電装置の設置方法では、スパー型浮体の曳航、回転及び直立を行うことのできる専用の双胴船を建造しなければならず、コストが嵩むという問題があった。また、洋上風力発電装置や浮体の保守等の作業を行う際に、浮遊(直立)した状態で作業を行うことが困難であり、スパー型浮体を回転させて静穏海域まで曳航する必要があり、作業効率が悪いという問題があった。
【0009】
本発明は、上述した問題点に鑑み創案されたものであり、安定した状態で浮体構造物の設置や保守等の作業を行うことができる浮体構造物作業システム、浮体構造物、作業船及び浮体構造物作業方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、浮遊型の浮体構造物と、該浮体構造物の少なくとも設置又は保守を行うための作業船と、を有する浮体構造物作業システムであって、前記浮体構造物は、浮遊時に周面が喫水線に曝される柱状のコラム部と、該コラム部の下部に配置されたバラスト部と、前記コラム部の中間部に配置されたフランジ部と、を有し、前記作業船は、前記フランジ部に係止可能な把持部を有し、前記浮体構造物又は前記作業船は、前記浮体構造物又は前記作業船を昇降させる昇降手段を有し、浮遊状態の前記浮体構造物の前記フランジ部に、前記作業船の前記把持部を係止させた状態で、前記浮体構造物又は前記作業船を昇降させることによって、前記浮体構造物を前記作業船に固定する、ことを特徴とする浮体構造物作業システムが提供される。
【0011】
前記昇降手段は、例えば、前記浮体構造物の前記バラスト部に設けられたバラスト調整手段、前記作業船に設けられたバラスト調整手段又は前記把持部を前記作業船と共に昇降させるジャッキである。
【0012】
前記コラム部は、前記バラスト部よりも細く形成されていてもよい。また、前記バラスト部は、注排水可能なバラストタンクを有し、該バラストタンクは、前記昇降手段の昇降に対応させて注排水されてもよい。また、前記作業船は、前記バラストタンクの注排水を制御する制御装置と、前記浮体構造物の姿勢を監視する監視装置と、を有していてもよい。
【0013】
前記把持部は、前記コラム部の半周面に対応した凹部を備えた爪部を有し、前記作業船の船首部に配置されていてもよい。また、前記把持部は、前記浮体構造物と接触する箇所に配置された弾性体又は前記フランジ部の水平方向の移動を拘束する支持部材を有していてもよい。
【0014】
前記フランジ部は、着脱可能に構成されていてもよい。また、前記浮体構造物は、例えば、スパー型浮体である。また、前記浮体構造物は、前記コラム部の上部に設置された、風力発電装置、風況観測装置、太陽光発電装置、照明装置又は無線通信装置を有していてもよい。
【0015】
また、本発明によれば、浮遊型の浮体構造物であって、浮遊時に周面が喫水線に曝される柱状のコラム部と、該コラム部の下部に配置されたバラスト部と、前記コラム部の中間部に配置されたフランジ部と、を有し、前記フランジ部が浮遊状態の前記浮体構造物を作業船に対して固定するための係止部を構成する、ことを特徴とする浮体構造物が提供される。
【0016】
前記コラム部は、前記バラスト部よりも細く形成されていてもよい。また、前記バラスト部は、注排水可能なバラストタンクを有していてもよい。また、前記フランジ部は、着脱可能に構成されていてもよい。また、前記浮体構造物は、例えば、スパー型浮体である。また、前記浮体構造物は、前記コラム部の上部に設置された、風力発電装置、風況観測装置、太陽光発電装置、照明装置又は無線通信装置を有していてもよい。
【0017】
また、本発明によれば、浮遊型の浮体構造物の少なくとも設置又は保守を行うための作業船であって、前記浮体構造物に係止可能な把持部と、該把持部の水面からの高さを調整可能な昇降手段と、を有し、前記昇降手段によって前記把持部を水面に対して上昇させ、
浮遊状態の前記浮体構造物を前記把持部に固定する、ことを特徴とする作業船が提供される。
【0018】
前記昇降手段は、例えば、前記把持部を前記作業船と共に昇降させるバラスト調整手段又はジャッキである。
【0019】
前記浮体構造物は、注排水可能なバラストタンクを有し、前記作業船は、前記バラストタンクの注排水を制御する制御装置と、前記浮体構造物の姿勢を監視する監視装置と、を有していてもよい。
【0020】
前記浮体構造物は、浮遊時に周面が喫水線に曝される柱状のコラム部を有し、前記把持部は、前記コラム部の半周面に対応した凹部を備えた爪部を有し、前記作業船の船首部に配置されていてもよい。
【0021】
前記把持部は、前記浮体構造物と接触する箇所に配置された弾性体又は前記浮体構造物の水平方向の移動を拘束する支持部材を有していてもよい。
【0022】
また、本発明によれば、浮遊型の浮体構造物に対して少なくとも設置又は保守を含む作業を水上で行うための浮体構造物作業方法であって、前記浮体構造物の一部に作業船を係止させる係止工程と、前記浮体構造物又は前記作業船を昇降させることによって前記浮体構造物を前記作業船に固定する固定工程と、前記浮体構造物に対して前記作業を行う作業工程と、を有する、ことを特徴とする浮体構造物作業方法が提供される。
【0023】
さらに、前記浮体構造物又は前記作業船を昇降させることによって前記浮体構造物と前記作業船との固定状態を解除する解除工程と、前記作業船を前記浮体構造物から引き離すことによって前記浮体構造物と前記作業船との係止状態を解除する離脱工程と、を有していてもよい。
【発明の効果】
【0024】
上述した本発明に係る浮体構造物作業システム、浮体構造物、作業船及び浮体構造物作業方法によれば、浮遊状態の浮体構造物に作業船の把持部を係止させ、浮体構造物又は作業船を昇降させることによって、把持部に浮体構造物の重量を負荷し、浮体構造物と作業船とが相対移動し難くなるようにすることができ、作業船に浮体構造物を固定することができる。したがって、浮遊状態の浮体構造物であっても、移動させることなく浮遊位置において、安定した状態で浮体構造物の設置や保守等の作業を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第一実施形態に係る浮体構造物作業システムの全体構成図であり、(a)は側面図、(b)は平面図、である。
【図2】図1に示した作業船の説明図であり、(a)は把持部の拡大図、(b)は図2(a)におけるB矢視図、(c)は概略断面図、を示している。
【図3】図1に示した浮体構造物作業システムの制御を説明するための概略構成図である。
【図4】図1に示した浮体構造物作業システムを用いた浮体構造物作業方法を説明するための図であり、(a)は作業前の状態、(b)は係止工程、(c)は固定工程、を示している。
【図5】図1に示した浮体構造物作業システムを用いた浮体構造物作業方法を説明するための図であり、(a)は作業工程、(b)は解除工程及び離脱工程、を示している。
【図6】本発明の第二実施形態に係る浮体構造物作業システムを示す図であり、(a)はフランジ部の取り付け前、(b)はフランジ部の取り付け時、(c)はフランジ部の取り付け後、を示している。
【図7】本発明の他の実施形態に係る浮体構造物作業システムを示す図であり、(a)は第三実施形態、(b)は第四実施形態、である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の第一実施形態に係る浮体構造物作業システムについて、図1乃至図3を用いて説明する。ここで、図1は、本発明の第一実施形態に係る浮体構造物作業システムの全体構成図であり、(a)は側面図、(b)は平面図、である。図2は、図1に示した作業船の説明図であり、(a)は把持部の拡大図、(b)は図2(a)におけるB矢視図、(c)は概略断面図、を示している。図3は、図1に示した浮体構造物作業システムの制御を説明するための概略構成図である。
【0027】
本発明の第一実施形態に係る浮体構造物作業システム1は、図1〜図3に示したように、浮遊型の浮体構造物2と、浮体構造物2の少なくとも設置又は保守を行うための作業船3と、を有し、浮体構造物2は、浮遊時に周面が喫水線に曝される柱状のコラム部4と、コラム部4の下部に配置されたバラスト部5と、コラム部4の中間部に配置されたフランジ部6と、を有し、作業船3は、フランジ部6に係止可能な把持部7を有し、作業船3は、浮体構造物2を昇降させる昇降手段8を有し、浮遊状態の浮体構造物2のフランジ部6に、作業船3の把持部7を係止させた状態で、浮体構造物2及び作業船3を昇降させることによって、浮体構造物2を作業船3に固定するものである。
【0028】
前記浮体構造物2は、浮遊型の浮体構造物であって、コラム部4とバラスト部5とフランジ部6とを有し、フランジ部6が浮遊状態の浮体構造物2を作業船3に対して固定するための係止部を構成している。かかる浮体構造物2は、例えば、スパー型浮体である。コラム部4の上部には、例えば、風力発電装置9が配置される。かかる浮体構造物2は、一般に、バラスト部5の重量とコラム部4の浮力とによって水上及び水中に直立し、係留索10で係留される。なお、浮体構造物2は、スパー型浮体に限定されるものではなく、セミサブ型、バージ型、テンションレグ型等の他の浮遊型の浮体構造物であってもよい。
【0029】
前記コラム部4は、浮体構造物2に対して浮力を与える部分であるとともに、喫水に曝される部分であるため、一般に、中空円筒形状を有する。また、コラム部4は、バラスト部5よりも細い形状となっている。このように、コラム部4をバラスト部5よりも細くすることにより、波や潮流からの外力を軽減し、動揺性能の向上や係留力の低減することができる。
【0030】
前記バラスト部5は、浮体構造物2の浮力を調整する部分である。具体的には、バラスト部5は、注排水可能なバラストタンク51を有し、バラストタンク51は、昇降手段8の昇降に対応させて注排水される。バラストタンク51は、図3に示したように、例えば、ポンプ52等によって注排水される。かかるバラストタンク51は、バラストタンク51に注排水される分量を調整することによって、浮体構造物2に負荷する重量を調整することができる。また、バラスト部5は、浮体構造物2が直立した場合に底部に位置し、一定の重量を浮体構造物2に負荷する固定バラスト53を有する。浮体構造物2は、かかるバラスト部5によって喫水や姿勢が制御される。
【0031】
前記フランジ部6は、コラム部4の中間部に配置され、作業船3に対して浮遊状態の浮体構造物2を支持する係止部を構成する。かかるフランジ部6は、コラム部4の径よりも拡径した部分であり、フランジ部6の下面に作業船3の把持部7が接触できるように構成されている。また、フランジ部6は、例えば、浮体構造物2の浮遊状態において、喫水よりも高い位置に配置されるように形成される。かかる高さにフランジ部6を形成することにより、浮遊状態においてフランジ部6を没水し難くすることができ、フランジ部6に把持部7を係止させる際の視認性がよく、作業性を向上させることができる。なお、フランジ部6の拡径幅や厚さは、浮体構造物2の重量、作業内容、作業船3の大きさ、把持部7の強度等の条件によって適宜設定される。
【0032】
風力発電装置9は、例えば、支柱91とナセル92とブレード93とを有する。支柱91は、フランジ部6の上に立設され、ナセル92及びブレード93を支持する。ナセル92は、内部に、図示しない発電機を有し、ブレード93の回転によって電力を発生させる。ブレード93は、風力によって回転駆動する。風力発電装置9は、フランジ部6よりも上方のコラム部4や浮体構造物2の上部に形成されたプラットホームに立設されてもよい。なお、風力発電装置9は、浮体構造物2の上部に設置された上部構造物の一例であり、風向計や風速計等の風況観測装置、太陽光発電装置、照明装置、無線通信装置等が設置されていてもよい。
【0033】
前記作業船3は、浮遊型の浮体構造物2の設置や保守等の作業を行うための船舶であって、把持部7と昇降手段8と、を有し、昇降手段8によって把持部7を水面に対して上昇させ、浮遊状態の浮体構造物2を把持部7に固定するものである。すなわち、作業船3は、浮体構造物2を浮遊状態で支持可能に構成されている。かかる作業船3は、フランジ部6に係止可能な把持部7の他に、船上に配置されたクレーン31や浮体構造物2の設置や保守等の作業を行うための資材を戴置するための戴置スペース32等を有する。なお、作業船3の主機等の駆動装置については、図を省略している。
【0034】
前記把持部7は、浮体構造物2のフランジ部6を支持する部分である。かかる把持部7は、例えば、図1及び図2(a)に示すように、コラム部4の半周面に対応した凹部を備えた爪部71を有し、作業船3の船首部に配置される。また、把持部7は、図2(a)に示すように、浮体構造物2と接触する箇所に配置された弾性体72と、フランジ部6の水平方向の移動を拘束する支持部材73と、を有していてもよい。弾性体72は、コラム部4及びフランジ部6との間における滑り止め及び緩衝材を構成する。また、弾性体72は、爪部71の上面の全体に配置するようにしてもよい。支持部材73は、図2(b)に示すように、爪部71の上に、コラム部4の周面に接する平面を構成すように立設されたフランジ部6の滑り止めであり、背面に補強部材74が任意に配置される。
【0035】
また、把持部7(爪部71)の構成は、図示したものに限定されるものではなく、作業船3に対して回動可能に配置されていてもよいし、伸縮可能に構成されていてもよいし、爪部71が開閉可能に構成されていてもよい。また、把持部7の形状も図示したものに限定されるものではなく、浮体構造物2に係止可能かつ支持可能な構造及び強度を有するものであればよい。
【0036】
前記昇降手段8は、浮体構造物2に係止した作業船3を昇降させる手段であり、同時に浮体構造物2も昇降させる。かかる昇降手段8は、例えば、図2(c)に示すように、作業船3に設けられたバラスト調整手段33である。バラスト調整手段33は、作業船3内に設置されたバラストタンク34と、バラストタンク34を注排水するポンプ35と、を有する。バラスト調整手段33は、ポンプ35を用いてバラストタンク34内の水量を調整することによって、作業船3の喫水を調整し、作業船3と共に把持部7を昇降させる。したがって、把持部7に係止された浮体構造物2も同時に昇降される。
【0037】
作業船3は、図3に示すように、浮体構造物2のバラストタンク51の注排水を制御する制御装置36と、浮体構造物2の姿勢を監視する監視装置37と、を有していてもよい。また、制御装置36は、作業船3のバラストタンク34の注排水も制御する。具体的には、制御装置36は、無線又は有線でポンプ52,35を制御することによって、バラストタンク51,34の注排水を行う。また、浮体構造物2は、自身の姿勢(傾き)を検出するセンサ11を有する。監視装置37は、無線又は有線でセンサ11より浮体構造物2の姿勢を示すデータを受信し、作業者に情報を提供する。また、監視装置37は、浮体構造物2の姿勢を示すデータを制御装置36に送信し、制御装置36は、受信したデータに基づいてバラストタンク34,51の注排水を制御するようにフィードバック制御を行うようにしてもよい。
【0038】
次に、上述した浮体構造物作業システム1を用いた浮体構造物作業方法について、図4及び図5を参照しつつ説明する。ここで、図4は、図1に示した浮体構造物作業システムを用いた浮体構造物作業方法を説明するための図であり、(a)は作業前の状態、(b)は係止工程、(c)は固定工程、を示している。また、図5は、図1に示した浮体構造物作業システムを用いた浮体構造物作業方法を説明するための図であり、(a)は作業工程、(b)は解除工程及び離脱工程、を示している。
【0039】
本発明に係る浮体構造物作業方法は、図4及び図5に示すように、浮遊型の浮体構造物2に対して少なくとも設置又は保守を含む作業を水上で行うための浮体構造物作業方法であって、浮体構造物2の一部に作業船3を係止させる係止工程と、浮体構造物2及び作業船3を上昇させることによって浮体構造物2を作業船3に固定する固定工程と、浮体構造物2に対して設置や保守等の作業を行う作業工程と、を有する。また、かかる浮体構造物作業方法は、図5に示したように、浮体構造物2及び作業船3を降下させることによって浮体構造物2と作業船3との固定状態を解除する解除工程と、作業船3を浮体構造物2から引き離すことによって浮体構造物2と作業船3との係止状態を解除する離脱工程と、を有していてもよい。なお、以下の説明では、浮体構造物2の上部に風力発電装置9を設置する場合の作業について説明する。
【0040】
図4(a)に示すように、作業開始前は、風力発電装置9が設置されていない浮体構造物2が浮遊状態に配置されている。浮体構造物2は浮遊型であり、設置場所まで作業船3又は他の曳船により寝かした状態で曳航され、設置場所においてバラスト調整することにより、中立され係留される。また、作業船3には、風力発電装置9を構成する支柱91、ナセル92、ブレード93等が載置されている。
【0041】
前記係止工程は、図4(b)に示すように、浮体構造物2に作業船3を係止させる工程である。具体的には、作業船3を浮体構造物2に近付けて、作業船3の把持部7を浮体構造物2のコラム部4に係止する。
【0042】
前記固定工程は、図4(c)に示すように、作業船3を上昇させて浮体構造物2を作業船3に固定する工程である。具体的には、作業船3のバラストタンク34(図2(c)参照)から排水を行うことによって作業船3の喫水を上げて、把持部7を介してフランジ部6を持ち上げる。そして、浮体構造物2の重量を把持部7で受け止めることによって、浮体構造物2と作業船とを固定し、相対移動し難くなるようにしている。このとき、図3に示した制御装置36や監視装置37を利用して、浮体構造物2の位置がずれたり回転したりしないように、浮体構造物2のバラストタンク51や作業船3のバラストタンク34を制御するようにしてもよい。
【0043】
前記作業工程は、図5(a)に示すように、浮体構造物2の上部に風力発電装置9を設置する工程である。具体的には、作業船3に固定された浮体構造物2のフランジ部6の上部に、クレーン31等を使用して、支柱91、ナセル92、ブレード93等を順次設置する。このとき、浮体構造物2が作業船3に支持及び固定されていることから、浮体構造物2の浮遊位置において、浮体構造物2と作業船3との相対移動を抑制することができ、作業船3のクレーン31等の設備を使用する場合であっても、位置決めを容易に行うことができ、安定した状態で据付作業を行うことができる。また、作業船3から浮体構造物2への作業員の移動や部品等の搬送等も安全かつ円滑に行うことができる。
【0044】
前記解除工程は、図5(b)に示すように、作業船3の把持部7と浮体構造物2のフランジ部6との固定を解除する工程である。具体的には、作業船3のバラストタンク34(図2(c)参照)に注水を行うことによって作業船3の喫水を下げて、把持部7で受けていた浮体構造物2の重量を解放して、浮体構造物2を浮遊状態に移行させる。このとき、図3に示した制御装置36や監視装置37を利用して、浮体構造物2が倒れないように、浮体構造物2のバラストタンク51や作業船3のバラストタンク34を制御するようにしてもよい。
【0045】
前記離脱工程は、図5(b)に示すように、作業船3を浮体構造物2から離隔する工程である。具体的には、作業船3を浮体構造物2から遠ざけていって、作業船3の把持部7から浮体構造物2のコラム部4を離脱させる。
【0046】
また、図5(b)に示したように設置された風力発電装置9の保守等を行う場合には、図4(b)に示した係止工程及び図4(c)に示した固定工程と同様の手順により、風力発電装置9を備えた浮体構造物2を作業船3に固定し、浮体構造物2と作業船3との相対移動を抑制してから、保守等の所望の作業を行うようにすればよい。
【0047】
上述した第一実施形態に係る浮体構造物作業システム及び浮体構造物作業方法によれば、浮遊状態の浮体構造物2に作業船3の把持部7を係止させ、浮体構造物2及び作業船3を上昇させることによって、把持部7に浮体構造物2の重量を負荷し、浮体構造物2と作業船3とが相対移動し難くなるようにすることができ、作業船3に浮体構造物2を固定することができる。したがって、浮遊状態の浮体構造物2であっても、移動させることなく浮遊位置において、安定した状態で浮体構造物2の設置や保守等の作業を容易に行うことができる。
【0048】
次に、本発明の他の実施形態に係る浮体構造物作業システム1について説明する。ここで、図6は、本発明の第二実施形態に係る浮体構造物作業システムを示す図であり、(a)はフランジ部の取り付け前、(b)はフランジ部の取り付け時、(c)はフランジ部の取り付け後、を示している。また、図7は、本発明の他の実施形態に係る浮体構造物作業システムを示す図であり、(a)は第三実施形態、(b)は第四実施形態、である。なお、第一実施形態と同じ構成部品については、同じ符号を付して重複した説明を省略する。
【0049】
図6に示した第二実施形態は、既存の浮体構造物2にフランジ部6を取り付けるようにしたものである。すなわち、フランジ部6は、着脱可能であってもよく、図6(a)に示したように、フランジ部6を有していない浮体構造物2に対して、図6(b)に示したように、フランジ部6を取り付けることによって、作業船3に浮体構造物2を固定できるようにすることができる。フランジ部6は、例えば、図6(c)に示すように、二つの半部品6a,6bにより構成されており、これらの半部品6a,6bを組み立てながらコラム部4に接続するようにしてもよい。
【0050】
図7(a)に示した第三実施形態は、昇降手段8を、把持部7を作業船3と共に昇降させるジャッキ14に変更したものである。具体的には、ジャッキ14は、海底に着底して配置されており、図示しないモータによって作業船3を昇降させることによって喫水を調整できるように構成されている。
【0051】
図7(b)に示した第四実施形態は、作業船3を昇降させる代わりに、浮体構造物2のバラストを調整することにより、浮体構造物2を作業船3に固定するようにしたものである。具体的には、係止工程において浮体構造物2に作業船3の把持部7を係止させた状態で、浮体構造物2のバラストタンク51に注水して浮体構造物2の重量を増加させて下降させる(喫水を下げる)ことによって、フランジ部6を把持部7に押し付けて浮体構造物2を作業船3に固定する。このとき、図3に示した制御装置36や監視装置37を利用して、浮体構造物2が倒れないように、浮体構造物2のバラストタンク51や作業船3のバラストタンク34を制御するようにしてもよい。
【0052】
本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0053】
1 浮体構造物作業システム
2 浮体構造物
3 作業船
4 コラム部
5 バラスト部
6 フランジ部
7 把持部
8 昇降手段
9 風力発電装置
14 ジャッキ
33 バラスト調整手段
34 バラストタンク
36 制御装置
37 監視装置
71 爪部
72 弾性体
73 支持部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
浮遊型の浮体構造物と、該浮体構造物の少なくとも設置又は保守を行うための作業船と、を有する浮体構造物作業システムであって、
前記浮体構造物は、浮遊時に周面が喫水線に曝される柱状のコラム部と、該コラム部の下部に配置されたバラスト部と、前記コラム部の中間部に配置されたフランジ部と、を有し、
前記作業船は、前記フランジ部に係止可能な把持部を有し、
前記浮体構造物又は前記作業船は、前記浮体構造物又は前記作業船を昇降させる昇降手段を有し、
浮遊状態の前記浮体構造物の前記フランジ部に、前記作業船の前記把持部を係止させた状態で、前記浮体構造物又は前記作業船を昇降させることによって、前記浮体構造物を前記作業船に固定する、ことを特徴とする浮体構造物作業システム。
【請求項2】
前記昇降手段は、前記浮体構造物の前記バラスト部に設けられたバラスト調整手段、前記作業船に設けられたバラスト調整手段又は前記把持部を前記作業船と共に昇降させるジャッキである、ことを特徴とする請求項1に記載の浮体構造物作業システム。
【請求項3】
前記コラム部は、前記バラスト部よりも細く形成されている、ことを特徴とする請求項1に記載の浮体構造物作業システム。
【請求項4】
前記バラスト部は、注排水可能なバラストタンクを有し、該バラストタンクは、前記昇降手段の昇降に対応させて注排水される、ことを特徴とする請求項1に記載の浮体構造物作業システム。
【請求項5】
前記作業船は、前記バラストタンクの注排水を制御する制御装置と、前記浮体構造物の姿勢を監視する監視装置と、を有する、ことを特徴とする請求項4に記載の浮体構造物作業システム。
【請求項6】
前記把持部は、前記コラム部の半周面に対応した凹部を備えた爪部を有し、前記作業船の船首部に配置されている、ことを特徴とする請求項1に記載の浮体構造物作業システム。
【請求項7】
前記把持部は、前記浮体構造物と接触する箇所に配置された弾性体又は前記フランジ部の水平方向の移動を拘束する支持部材を有する、ことを特徴とする請求項1に記載の浮体構造物作業システム。
【請求項8】
前記フランジ部は、着脱可能に構成されている、ことを特徴とする請求項1に記載の浮体構造物作業システム。
【請求項9】
前記浮体構造物は、スパー型浮体である、ことを特徴とする請求項1に記載の浮体構造物作業システム。
【請求項10】
前記浮体構造物は、前記コラム部の上部に設置された、風力発電装置、風況観測装置、太陽光発電装置、照明装置又は無線通信装置を有する、ことを特徴とする請求項1に記載の浮体構造物作業システム。
【請求項11】
浮遊型の浮体構造物であって、
浮遊時に周面が喫水線に曝される柱状のコラム部と、
該コラム部の下部に配置されたバラスト部と、
前記コラム部の中間部に配置されたフランジ部と、を有し、
前記フランジ部が浮遊状態の前記浮体構造物を作業船に対して固定するための係止部を構成する、ことを特徴とする浮体構造物。
【請求項12】
前記コラム部は、前記バラスト部よりも細く形成されている、ことを特徴とする請求項11に記載の浮体構造物。
【請求項13】
前記バラスト部は、注排水可能なバラストタンクを有する、ことを特徴とする請求項11に記載の浮体構造物。
【請求項14】
前記フランジ部は、着脱可能に構成されている、ことを特徴とする請求項11に記載の浮体構造物。
【請求項15】
前記浮体構造物は、スパー型浮体である、ことを特徴とする請求項11に記載の浮体構造物。
【請求項16】
前記浮体構造物は、前記コラム部の上部に設置された、風力発電装置、風況観測装置、太陽光発電装置、照明装置又は無線通信装置を有する、ことを特徴とする請求項11に記載の浮体構造物。
【請求項17】
浮遊型の浮体構造物の少なくとも設置又は保守を行うための作業船であって、
前記浮体構造物に係止可能な把持部と、
該把持部の水面からの高さを調整可能な昇降手段と、を有し、
前記昇降手段によって前記把持部を水面に対して上昇させ、浮遊状態の前記浮体構造物を前記把持部に固定する、ことを特徴とする作業船。
【請求項18】
前記昇降手段は、前記把持部を前記作業船と共に昇降させるバラスト調整手段又はジャッキである、ことを特徴とする請求項17に記載の作業船。
【請求項19】
前記浮体構造物は、注排水可能なバラストタンクを有し、前記作業船は、前記バラストタンクの注排水を制御する制御装置と、前記浮体構造物の姿勢を監視する監視装置と、を有する、ことを特徴とする請求項17に記載の作業船。
【請求項20】
前記浮体構造物は、浮遊時に周面が喫水線に曝される柱状のコラム部を有し、前記把持部は、前記コラム部の半周面に対応した凹部を備えた爪部を有し、前記作業船の船首部に配置されている、ことを特徴とする請求項17に記載の作業船。
【請求項21】
前記把持部は、前記浮体構造物と接触する箇所に配置された弾性体又は前記浮体構造物の水平方向の移動を拘束する支持部材を有する、ことを特徴とする請求項17に記載の作業船。
【請求項22】
浮遊型の浮体構造物に対して少なくとも設置又は保守を含む作業を水上で行うための浮体構造物作業方法であって、
前記浮体構造物の一部に作業船を係止させる係止工程と、
前記浮体構造物又は前記作業船を昇降させることによって前記浮体構造物を前記作業船に固定する固定工程と、
前記浮体構造物に対して前記作業を行う作業工程と、を有する、ことを特徴とする浮体構造物作業方法。
【請求項23】
前記浮体構造物又は前記作業船を昇降させることによって前記浮体構造物と前記作業船との固定状態を解除する解除工程と、前記作業船を前記浮体構造物から引き離すことによって前記浮体構造物と前記作業船との係止状態を解除する離脱工程と、を有する、ことを特徴とする請求項22に記載の浮体構造物作業方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−25272(P2012−25272A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−165889(P2010−165889)
【出願日】平成22年7月23日(2010.7.23)
【出願人】(502422351)株式会社アイ・エイチ・アイ マリンユナイテッド (159)
【Fターム(参考)】