浮遊物質解析方法、浮遊物質解析システム、浮遊砂濃度の解析方法、浮遊砂濃度の解析システム
【課題】光学的に測定される濁度を用いることなく、測定される超音波減衰率の値から、試料としての液体中の粒径別濃度、ひいては粒径別濃度の総和(濃度)を求め得る浮遊物質解析方法を提案する。
【解決手段】水温と周波数スペクトルの計測データ(複数組の周波数とスペクトルの計測値)から超音波減衰率α(fj)を計算し、偏回帰係数βijと超音波減衰率α(fj)から粒径別濃度ciを計算し、粒径別濃度ciから試料液体の濃度Cを計算し、濃度Cと超音波減衰率α(fj)から単位濃度減衰率λ(fj)を計算し、偏回帰係数βijと単位濃度減衰率λ(fj)から相対粒子量を計算する。透明度が極めて劣る液体においても、浮遊物質の粒度、粒径に基づく固有の減衰率を考慮した粒径別濃度の総和(濃度)、相対粒子量、さらに、容積(体積)濃度が計測可能となる。
【解決手段】水温と周波数スペクトルの計測データ(複数組の周波数とスペクトルの計測値)から超音波減衰率α(fj)を計算し、偏回帰係数βijと超音波減衰率α(fj)から粒径別濃度ciを計算し、粒径別濃度ciから試料液体の濃度Cを計算し、濃度Cと超音波減衰率α(fj)から単位濃度減衰率λ(fj)を計算し、偏回帰係数βijと単位濃度減衰率λ(fj)から相対粒子量を計算する。透明度が極めて劣る液体においても、浮遊物質の粒度、粒径に基づく固有の減衰率を考慮した粒径別濃度の総和(濃度)、相対粒子量、さらに、容積(体積)濃度が計測可能となる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体中の浮遊物質を解析するための浮遊物質解析方法及び浮遊物質解析システム並びに浮遊砂濃度の解析方法、浮遊砂濃度の解析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ダム、河川その他の水系において、水質管理その他の目的で、浮遊物質の濃度測定が行われている。このような濃度測定は、浮遊物質が高濃度になった場合においても、正確に行う必要があり、このような測定を実現するために、超音波を用いた測定が用いられつつある。超音波測定に用いる装置としては、例えば、超音波を試料液体に照射して、通過したパルスに対応する電気信号から浮遊物質の濃度を算出するものがある。この測定装置は、パルスの送信部と受信部を共通化するとともに、パルスを受信部側へ反射させる反射体を設けることによって、測定効率を向上させることができる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかし、上述のような測定装置では、粒度が一定の浮遊物質の濃度は正確に測定することができるが、浮遊物質の粒度が変化する場合は、濃度を正しく推測することが困難である。これは、水系によって浮遊物質の種類、形状、粒度等の特性が異なるため、同じ超音波減衰率を示していても浮遊物質の粒径分布が異なると濃度が変化するためである。水系のうち、特にダムにおいては、浮遊物質が沈降・堆積するため、ダムの堆積土砂対策を効果的に実施するためには、ダムに流入する浮遊物質量およびダムから流出する浮遊物質量を正確かつ迅速に把握する必要がある。
【0004】
そこで、浮遊物質の粒度を反映した試料液体の濃度測定を行うことのできる浮遊物質解析方法を提供することが求められており、例えば、超音波減衰率と予め光工学的に測定した散乱光式濁度の関係から浮遊物質の相対粒子量と散乱光濁度の積を目的変数、各周波数に対応する超音波減衰率を説明変数とする重回帰モデルを求めることとし、超音波振動子を用いた濃度測定値に基づき、浮遊物質の粒度、粒径に基づく固有の減衰率を考慮した水の濁度(濃度)を計測する浮遊物質解析方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−271348号公報
【特許文献2】特開2009−025027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述した背景技術に鑑み、光学的に測定される濁度を用いることなく、測定される超音波減衰率の値から、試料としての液体中の粒径別濃度、ひいては粒径別濃度の総和(濃度)を求め得る浮遊物質解析方法を提案し、加えて、求められた粒径別濃度の総和(濃度)と超音波減衰率を用いて相対粒子量の算出を可能とし、さらに、求められる粒径別濃度の総和(濃度)を土粒子の密度で除し、濃度を容積表示とすることによって、例えば河川の水系ごとに土粒子の密度が異なる場合においても、河川の浮遊物質の容積(体積)濃度を測定することを可能とする浮遊物質解析方法を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の浮遊物質解析方法のうち請求項1に係るものは、以下の工程からなることを特徴とする。
(1)試料液体に照射する超音波の周波数を系統的に変化させ、各周波数の減衰率α(f)を測定し、媒体である試料液体に由来する減衰と粒子に由来する減衰からなる測定値を下記数式1のように表し、
【数1】
(ここで、αmedium(f)は周波数がfのときの媒体に由来する超音波減衰率、αmono(f,
D)は周波数がfで、粒径Dを持つ単分散粒子に由来する超音波減衰率、g(D)は粒径がDからD+dDの間にある粒子の質量百分率(以下相対粒子量という)である。)
(2)水温を測定し、水温によって違いがある各周波数帯の基準スペクトルの計測値を水温の関数として下記数式2で求め、
【数2】
(ここで、M0(fj)は水温tにおける周波数fjの基準スペクトルの計測値、tは計測時の水温[℃]、aj、bj、cj、djは周波数fjの基準スペクトル算定の定数である。但し、基準スペクトルとは、媒質が水だけの場合の試料液体の周波数スペクトルをいい、
【数3】
ここで、
α(fj)は周波数fjの超音波減衰率(dB/MHz)、fjは周波数(MHz)、M0(fj)は周波数fjの基準スペクトルの計測値、M(fj)は周波数fjの懸濁液の周波数スペクトルの計測値である。)
(3)前記工程(1)で得た計測時の水温および周波数スペクトルの計測値と基準水温t0時の基準スペクトルの計測値との比である水温補正係数τ(fj)を用いて、数式4、5により、水温に基づく補正を行い、基準水温下での超音波減衰率を求め、
【数4】
【数5】
(ここで、α(fj)は周波数fjの超音波減衰率[dB/MHz]、fjは周波数[MHz]、M0(fj)t=t0は数式2によって算出する基準水温t0時の周波数fjの基準スペクトルの計測値、M0(fj)t=t:数式2によって算出する水温t時の周波数fjの基準スペクトルの計測値、M(fj)t=tは水温t時の周波数fjの懸濁液の周波数スペクトルの計測値、τ(fj)は周波数fjの水温補正係数、t0は基準水温[℃]、tは計測時の水温[℃]である。)
(4)各周波数帯の下記数式6で表わされる濃度換算率を検証し(濃度換算率λ(fj)は、数式6中の超音波減衰率を濃度に換算するための率、すなわち単位濃度の超音波減衰率であり、単位濃度減衰率という。)、
【数6】
(ここで、α(fj)は周波数fjの超音波減衰率[dB/MHz]、Cは濃度[mg/リットル]、λ(fj)は周波数fjにおける濃度換算率(単位濃度減衰率)である。)
(5)各粒径階の相対粒子量g(Di)を目的変数、前記数式6で算出した単位濃度減衰率λ(fj)を説明変数とする重回帰モデルを適用した変換手順として、
【数7】
【数8】
(ここで、g(Di)は粒径階Diの相対粒子量(%)、fjは周波数[MHz]、βijは偏回帰係数、λ(fj)は周波数fjの単位濃度減衰率、mは粒径階の分割数、nは周波数fjの数、εは残差である。)を実行し、
(6)前記数式8にそれぞれ前記数式6と前記数式7を代入して濃度Cについて整理して下記数式9を得、
【数9】
超音波減衰率α(fj)の関数として前記試料液体の濃度Cを重回帰分析により求める。なおこの数式9の2行目の式では、左辺の{ }内に本来は数式7に示した残差+εが現れるべきであるが、この残差εは小さいものとして無視し、記載を省略した。
【0008】
請求項2に係るものは、請求項1の浮遊物質解析方法において、
粒径別の濃度を示す前記数式9中の
【数10】
を下記数式11として示し、
【数11】
(ここで、ciは粒径階Diの濃度[mg/リットル]、α(fj)は周波数fjの超音波減衰率[dB/MHz]、βijは偏回帰係数、nは周波数fjの数である。)
これにより前記試料液体中の浮遊物質の粒径別の濃度を求めることを特徴とする。
【0009】
請求項3に係るものは、請求項2の浮遊物質解析方法において、
前記数式9に前記数式11を代入して下記数式12を得て、
【数12】
(ここで、Cは濃度[mg/リットル]、ciは粒径階Diの濃度[mg/リットル]、mは粒径階の分割数である。)
減衰率を考慮した相対粒子量を測定可能とし、
試料液体の濃度を、粒径別濃度の総和として求めることを特徴とする。
【0010】
請求項4に係るものは、請求項3の浮遊物質解析方法において、試料液体の濃度Cと超音波減衰率α(fj)から前記数式6を用いて単位濃度減衰率λ(fj)を算定し、相対粒子量g(Di)は前記数式7の重回帰モデルの偏回帰係数と単位濃度減衰率λ(fj)を用い、
【数13】
(ここで、g(Di)は粒径階Diの相対粒子量(%)、fjは周波数[MHz]、βijは偏回帰係数、λ(fj)は周波数fjの単位濃度減衰率、mは粒径階の分割数、nは周波数fjの数である。)
により相対粒子量を求めることを特徴とする。
【0011】
請求項5に係る浮遊砂濃度の解析方法は、請求項1から3のいずれかの浮遊物質解析方法を用い、河床変動計算において浮流砂の濃度を求める浮遊砂濃度の解析方法であって、
(1)前記浮流砂の濃度を、容積表示で下記数式14のように表示し、
【数14】
(ここで、流量をQ[m3/s]、その流量中の浮流砂量をQs[m3/s]である。)
(2)土粒子の密度をρ[mg/cm3]として、重量表示の濃度Cwと容積表示の濃度Cvolとの関係を下記数式15で表し、
【数15】
上記数式6に示す単位濃度減衰率λ(fj)を計算する際に、上記数式15を用いて濃度を容積表示の濃度Cvolとして解析することによって、前記数式12で算出される濃度Cを無次元量である容積表示の濃度Cvolとすることを特徴とする。
【0012】
請求項6に係る浮遊物質解析システムは、請求項1から4のいずれかの浮遊物質解析方法を用い、液体中の浮遊物質を解析することを特徴とする。
【0013】
請求項7に係る浮遊砂濃度の解析システムは、請求項5の浮遊砂濃度の解析方法を用い、河床変動計算において浮流砂の濃度を求めることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、粒状物が高濃度に混ざり、透明度が極めて劣る液体においても、浮遊物質の粒度、粒径に基づく固有の減衰率を考慮した粒径別濃度の総和(濃度)、相対粒子量、さらに、容積(体積)濃度が計測可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る浮遊物質解析方法の実施に用いる解析システムのブロック図
【図2】超音波式濃度計測装置(検出部)を示す図
【図3】プラノコンケーブ形超音波振動子の一例を示す図
【図4】試験用試料の粒度分布を示す図
【図5】水の周波数スペクトル(基準スペクトル)
【図6】水温が基準スペクトルに与える影響を示す図
【図7】周波数スペクトル計測結果を示す図
【図8】減衰スペクトルの計算結果を示す図
【図9】補正後のSS濃度と減衰率αの関係を示す図
【図10】単位濃度減衰スペクトル(濃度換算率)を示す図
【図11】計測手順のフロー図
【図12】粒径別濃度計測結果を示す図
【図13】濃度計測結果を示す図
【図14】相対粒子量の計測結果を示す図
【図15】粒度分布(相対粒子量)の計測結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の計測方法は、試料液体である懸濁液中の濃度と粒度分布(相対粒子量)の計測を実施し、超音波振動子から放射される、例えば約1〜10MHzの周波数帯の多数の超音波減衰率から、粒径別濃度、濃度、粒度分布(相対粒子量)を同時に計測する。
【0017】
まず本発明に係る浮遊物質解析方法の測定原理、すなわち粒度分布の測定原理について説明する。
微粒子が実用に供される場合、粒子濃度が高くて光を透過しないような分散系が多い。そのため、レーザなどの光を用いた手法では測定できない。そのため、注意深く試料を希釈するなど測定前に煩雑な作業を行う必要がある。また、希釈することで分散系の状態変化をもたらす可能性もあり、希薄系における粒度分布が必ずしも濃厚状態の粒度分布を示していないことも指摘されてきた。超音波減衰分光法(ultrasonic attenuation spectroscopy)や電気音響効果法(electrokinetic sonic amplitude)は、これまでの粒度分布測定法とは全く異なった測定原理に基づく方法で、この方法では光の代わりに超音波や交流電場を用いる。そのため、光が透過できないような粒子濃度が非常に高い懸濁液でも粒度分析が可能である。
【0018】
超音波を懸濁液に照射すると、粒子が溶媒に対して相対運動を起こすが、その運動に由来する音響エネルギーの減衰率を、発信した音響エネルギーに対して測定し、それを種々の減衰機構に関するECAH理論により解析して粒度分布関数に変換する。実際の測定では、照射する超音波の周波数を系統的に変化させ、各周波数の減衰率α(f)を測定する(本明細書において、ある周波数に対する減衰率変化を示す曲線を減衰スペクトルと呼ぶ)。その測定値は、媒体に由来する減衰と粒子に由来する減衰からなり、下記数式16のように表される。
【数16】
ここで、αmedium(f)は周波数がfのときの媒体に由来する超音波減衰率、αmono(f,
D)は周波数がfで、粒径Dを持つ単分散粒子に由来する超音波減衰率、g(D)は粒径がDからD+dDの間にある粒子の質量百分率(以下相対粒子量という)である。g(D)は基本的には対数正規分布を想定している。粒度分布関数への変換手順は、粒度分布関数g(D)を種々変化させ、数式16の右辺第2項を計算させ、周波数の全領域にわたり測定された超音波減衰率に最もよく値が一致したときの分布関数を、測定した系の粒度分布関数として採用する。このような超音波減衰スペクトルの粒度分布依存性を利用して粒度分布を測定する方法を超音波減衰分光法という。
【0019】
次に超音波による濃度測定は、超音波が懸濁液中を通過する際に、その中に存在する粒子や媒質によって音響エネルギーの損失を生じるので、各濃度に対する周波数スペクトルの超音波減衰率が固体の微粒子では濃度に関係して増加するという測定原理に基づいて測定する。なお、減衰率については媒質が水だけの場合を0として各濃度における減衰割合を表す。
【実施例1】
【0020】
以下本発明に係る浮遊物質解析方法の実施例を図面を参照して説明する。
【0021】
まず本実施例で用い得る計測装置について説明する。
浮遊物質解析方法の実施に用いる解析システム10は、図1に示すように、超音波減衰率測定装置11と、例えばパーソナルコンピュータを用いて構成した粒度測定装置12、制御部13、粒度解析装置14からなる解析装置30から構成することができる。パーソナルコンピュータは、そのCPU(Central Processing Unit)を制御部13として、また書き換え可能なRAM等の内部メモリーや、ハードディスクその他の外部記憶装置を記憶部15として用いることができる。なお、パーソナルコンピュータを用いる場合には、入力手段(例えばキーボード、マウス)、及び出力手段(例えばモニター、プリンタ)も備えることが好ましく、例えば入力手段によって各装置の動作を制御する指示信号を入力し、測定条件や測定結果を出力手段に出力することができるようにすることが好ましい。また、試料液体の水温測定のために、温度計等の温度測定手段(不図示)を用いる。なお解析装置30と温度測定手段とが測定データの送受信が有線あるいは無線で通信できない構成であれば、上述した入力手段による入力で代用できる。
【0022】
超音波減衰率測定装置11では、超音波減衰率測定のための検出部に、図2に示すようなプラノコンケーブ形超音波振動子20(以下、単に振動子20と記載する場合もある)と反射板21を用い、浮遊物質を含む試料液体に対して超音波パルス波(Ultrasonic pulse wave)を照射し、試料液体通過後の反射超音波パルス波から得た反射パルス信号を得る。
【0023】
プラノコンケーブ形超音波振動子20は、平凹面(プラノコンケーブ)を形成するため、例えば、図3(A)に示すような直径φ20mmの市販の円形チタン酸鉛製振動子の一面を、図3(B)に示すように曲率半径r=30mmで凹面状に加工し、その加工面と裏面に電極をつける。また、このプラノコンケーブ形振動子20の焦点に反射板21を置き、放射した広帯域超音波パルス波のエコー波を同一の振動子20で受波して超音波減衰率を計測する。図3(B)に示すように、振動子20の厚さが連続的に変化しているため、例えば1〜10MHz帯の広い周波数帯域の超音波の放射が可能であり、さらに超音波放射面が凹面であるために集束した超音波の放射も可能である。そのため、振動子にインパルス電圧を印加するとリンギングの少ない広帯域の集束した超音波を放射できる。このような超音波減衰率測定装置11を試料液体に対して使用するには、例えばプラノコンケーブ形超音波振動子20を試料液体を入れる容器内部の一方側に配置でき、容器内部の他方側に反射板21を配置できるようにサイズ等を構成する。
【0024】
粒度測定装置12は、例えば、パルス発生部、エコーパルス収録・FFT(Fast Fourier transform)処理部、及びデータ送受信部を備え、パルス発生部は、制御部13の制御の下で、振動子20に励振パルス信号を送り、エコーパルス収録・FFT処理部は、反射板21が反射し、振動子20が受波した反射パルス波(超音波エコー)に対応する反射パルス信号を取込んで所定のデータに変換する。さらに、エコーパルス収録・FFT処理部は、変換された所定のデータを基に浮遊物質濃度、及び超音波減衰率を測定する。エコーパルス収録・FFT処理部における処理結果はデータ送受信部を介して制御部13に出力し、記憶部15に記憶させる。そのため、振動子20から放射される広帯域の超音波の周波数スペクトルの減衰特性から、浮遊物質の濃度をリアルタイムで測定することができる。なお解析システム10としては、反射パルス信号をデジタル化して表示するデジダルオシロスコープ等を備えるようにするとよい。
【0025】
粒度解析装置14は、記憶部15に保存された測定結果に基づいて試料液体に含まれる浮遊物質(Suspended Solid)の粒度を解析するものであって、解析プログラムが記憶されたメモリー部(不図示)と、解析プログラムを実行する演算部(不図示)を備える。これらのメモリー部及び演算部としては、例えばパーソナルコンピュータの記憶装置及びCPUを用いることができるので、記憶部15と制御部13とで兼用できる場合もある。すなわち、粒度解析装置14の演算部の機能を制御部13に、粒度解析装置14のメモリー部の機能を記憶部15に持たせることによって粒度解析を行うことができる。
【0026】
粒度解析について説明する。
本実施例装置では、プラノコンケーブ形超音波振動子20を用いた上述のような検出部(センサー)から微粒子を含み懸濁液となっている試料液体中に放射される広帯域性の超音波のエコー波の超音波減衰率から微粒子の濃度を計測する。振動子20には、広帯域の励振パルス波として矩形状のインパルス電圧を粒度測定装置12のパルス発生部から印加する。矩形のインパルス電圧は、例えば、振動子の基本厚み共振周波数(1〜10MHz)において基準水温(20℃)時の基準スペクトルの計測値の最大値が1.0mVとなるパルス幅80ns、5Vp−pとする。
【0027】
そして、振動子20から放射された超音波パルス波が試料液体中を伝搬し、反射板21で反射して戻ってきたエコーパルス波形を取り込み、A/D変換した後、その波形の周波数スペクトルを分析した値が計測値となる。
【0028】
次に本願発明者等が実際に行った計測の手順について説明する。ただし、下記の物質、数値等は試験を行った例のものであって、本発明がこれらの物質や数値に関して限定されることはない。
【0029】
まず、湿潤状態の約120gの試料を6リットルの蒸留水を入れた計測容器に入れ、懸濁液である試料液体をポンプで撹拌しながら上述のような超音波減衰率の計測を実施した。併せて水温と散乱光式濁度を測定した。計測が終わった6リットルの懸濁液から2リットルを採水して、SS濃度測定と粒度分析を行った。SS濃度測定はJIS−K0102に基づく。またSS濃度は1試料について各2回の測定を行い、平均値を算出した。粒度分布はレーザ回折式粒度分析装置(例えば株式会社島津製作所製SALD−3000J)を使用して測定した。測定はそれぞれ2回行い、その平均値を採用した。次に試料液体に蒸留水2リットルを加えて6リットルの懸濁液とし濃度を2/3に希釈して、同様の計測を行った。試料液体の希釈は合計10回行い、全試料で同様の計測試験を行った。
【0030】
上述の試験で用いた試験用微粒子の精製について説明する。
試験用微粒子は、滝調整池(福島県南会津郡只見町)において採取した堆積土砂を水洗いしながらフルイによって分級して湿潤状態で精製したものを用いた。また、分級に使用したフルイは106μm、75μm、53μm、38μmおよび25μmの5種類である。試験用微粒子の粒度分布を図4に示す。図4に示す「−25−01」は粒径が25μmのフルイを通過した微粒子の第1回目の試験結果を表す。同様に「38−25−01」は38μmのフルイを通過して25μmのフルイに残留した微粒子の第1回の測定結果を表す。これは、図4(A)〜(E)の全ての図に関して同様である。
【0031】
次に基準スペクトルについて説明する。
まず超音波減衰率について説明すると、超音波減衰率α(fj)は、各周波数において媒質が水だけの場合を0として各濃度における減衰割合を下記数式17より求めたものである。ここで、媒質が水だけの場合の周波数スペクトルを以降「基準スペクトル」という。
【数17】
ここで、
α(fj):周波数fjの超音波減衰率[dB/MHz]
fj:周波数[MHz]
M0(fj):周波数fjの基準スペクトルの計測値
M(fj):周波数fjの懸濁液の周波数スペクトルの計測値
である。
【0032】
上述した基準スペクトルは水温によって変化する特性がある。蒸留水10リットルを入れた恒温水槽に上述した超音波減衰率測定装置11の検出部を入れて水温を変化させて基準スペクトルを計測した結果を図5に示す。この図の横軸は周波数、縦軸は基準スペクトルの計測値を示す。水温が上昇するにしたがって基準スペクトルの計測値は大きくなることから、基準水温を設定して、基準水温時の基準スペクトルの計測値の最大値が1.0mVとなるように計測値を調整する。
【0033】
次に、周波数毎に基準スペクトルの計測結果を整理すると図6のようになる。図6の横軸は水温、縦軸は各周波数に対応する基準スペクトルの計測値を示す。各周波数帯の基準スペクトルの計測値は水温の関数として下記数式18で表わすことができる。
【数18】
ここで、
M0(fj):水温tにおける周波数fjの基準スペクトルの計測値
t:計測時の水温 [℃]
aj、bj、cj、dj:周波数fjの基準スペクトル算定の定数
である。
【0034】
したがって、各周波数帯において水温と基準スペクトルの計測値との関係を解析して数式18で表される定数を定めておき、周波数スペクトルの計測時に併せて水温を測定することによって、数式17を用いて水温から各周波数帯の基準スペクトルの計測値を求めることができる。
【0035】
次に計測試験結果例について説明する。
超音波減衰率測定装置11による周波数スペクトルの計測結果を図7に示す。図7の横軸は周波数、縦軸は周波数スペクトルの計測値を示す。使用した計測装置(SSH100)の1回の測定データは0〜12.5MHzの周波数帯において1024の周波数に対応した周波数スペクトルの計測データが得られる。周波数スペクトルの最大値は周波数が5.5MHz付近にある。今回実施した計測試験では希釈法を採用しており、測定回数が多くなるにしたがって濃度が薄くなるため減衰が小さくなり、周波数スペクトルの計測値が増大する。
【0036】
超音波減衰率の水温補正について説明する。既述のように基準スペクトルの計測値は水温によって変動する。そのため、数式17の超音波減衰率は水温補正が必要になる。水温補正は、計測時の水温および周波数スペクトルの計測値と基準水温t0時の基準スペクトルの計測値との比である水温補正係数τ(fj)を用いて下記数式19、数式20により行う。
【数19】
【数20】
ここで、
α(fj):周波数fjの超音波減衰率 [dB/MHz]
fj:周波数[MHz]
M0(fj)t=t0:数式18によって算出する基準水温t0時の周波数fjの基準スペクトルの計測値
M0(fj)t=t:数式18によって算出する水温t時の周波数fjの基準スペクトルの計測値
M(fj)t=t:水温t時の周波数fjの懸濁液の周波数スペクトルの計測値
τ(fj):周波数fjの水温補正係数
t0:基準水温[℃]
t:計測時の水温[℃]
である。
【0037】
図7に示す周波数スペクトルの計測値から数式19および数式20を用いて算出した超音波減衰率を図8に示す。横軸は周波数、縦軸は数式19で表される超音波減衰率を示す。この曲線を減衰スペクトルという。図8に見られるように、超音波減衰スペクトルの計測値は濃度のみならず粒度分布にも依存する。例えば周波数が8.0MHz帯の減衰率は粒径が大きくなるにしたがって増加する傾向を示す。一方、周波数が3.0MHz帯の減衰率は、粒径が大きくなるにしたがって減少する傾向を示す。
【0038】
SS濃度(平均値)と超音波減衰率α(f=8.0MHz)との関係を図9に示す。横軸は超音波減衰率α(fj)、縦軸はSS濃度を示す。SS濃度の計測値は、濃度の計測値と周波数f=8.0MHzにおける減衰率から、最小二乗法により平均濃度換算率を求め、この平均濃度換算率に超音波減衰率α(fj)を乗じて濃度を補正した。図9は、この補正後のSS濃度と減衰率αの関係を示してある。
【0039】
次に各周波数帯の濃度換算率を検証する。濃度換算率λ(fj)は、下記数式21で表わされる。式中の濃度換算率は、超音波減衰率を濃度に換算するための率として定義した。濃度換算率は換言すれば単位濃度の超音波減衰率であり、以降、単位濃度減衰率と再定義する。
【数21】
ここで、
α(fj):周波数fjの超音波減衰率[dB/MHz]
C:濃度[mg/リットル]
λ(fj):周波数fjにおける濃度換算率(単位濃度減衰率)
【0040】
単位濃度減衰率λ(fj)を図10に示す。横軸は周波数、縦軸は数式21で表される単位濃度減衰率λ(fj)を示す。数式21で用いたSS濃度Cは、先に補正した濃度とした。粒度分布が一定の場合には測定原理として超音波減衰率は濃度に比例することから、各周波数における単位濃度減衰率λ(fj)は一定値となる。しかしながら、図10に示すように、一部の試料において単位濃度減衰率にバラツキが見られる。このバラツキが濃度、粒度分布(相対粒子量)の計測精度を低下させる原因となる。
【0041】
次に超音波減衰分光法による濃度計測を説明する。
超音波減衰分光法による粒度分布の測定原理は既に述べたとおりである。すなわち、超音波減衰率と相対粒子量との関係は数式16で表される。単位濃度減衰スペクトル(濃度換算率)を粒度分布関数へ変換する手順を簡略化するため、超音波減衰スペクトルの粒度分布依存性を利用して粒度分布を計測する一つの方法として、各粒径階の相対粒子量g(Di)を目的変数、数式21で算出した単位濃度減衰率λ(fj)を説明変数とする重回帰モデル(数式22)を適用した変換手順を実行する。
【数22】
【数23】
ここで、
g(Di):粒径階Diの相対粒子量[%]
fj:周波数[MHz]
βij:偏回帰係数
λ(fj):周波数fjの単位濃度減衰率
m:粒径階の分割数
n:周波数fjの数
ε:残差
である。
【0042】
次に、数式23にそれぞれ数式21と数式22を代入して濃度Cについて
整理すると、下記数式24が得られる。
【数24】
【0043】
数式24は濃度Cの算定式となる。すなわち、数式22に示す偏回帰係数βijが既知であれば、濃度Cは数式24により超音波減衰率α(fj)の関数として求めることができる。超音波減衰率α(fj)は数式19を用いて計測時の水温と周波数スペクトルの計測値から算出する。また数式22のβij(偏回帰係数)は、粒度分布の異なる微粒子を用いて計測試験を行い、超音波減衰率α(fj)と相対粒子量g(Di)の計測データから重回帰分析により求めることができる。
【0044】
本願発明者等は、濃度が未知数であることから散乱光式濁度計の測定値を用いて粒度分布(相対粒子量)を測定し、また、相対粒子量から濃度換算率λ(fj)を推定する方法を提案した(特許文献2)が、その後の研究により、重回帰モデルに数式22を採用することにより、数式24を用いて超音波減衰率α(fj)の関数として濃度Cを計測することを明らかにした。
【0045】
また、数式24の括弧内の数式25
【数25】
は粒径別の濃度を示しており、この粒径別濃度は下記数式26として示すことができる。
【数26】
ここで、
ci:粒径階Diの濃度[mg/リットル]
α(fj):周波数fjの超音波減衰率[dB/MHz]
βij:偏回帰係数
n:周波数fjの数
である。
【0046】
数式24に数式26を代入すると下記数式27が得られる。試料液体(懸濁液)の濃度は、粒径別濃度の総和として数式27により求めることができる。
【数27】
ここで、
C:濃度[mg/リットル]
ci:粒径階Diの濃度[mg/リットル]
m:粒径階の分割数
である。
【0047】
次に、濃度Cと超音波減衰率α(fj)から数式21を用いて単位濃度減衰率λ(fj)を算定し、相対粒子量g(Di)は数式22の重回帰モデルの偏回帰係数と単位濃度減衰率λ(fj)を用いて数式28により求めることができる。
【数28】
ここで、
g(Di):粒径階Diの相対粒子量(%)
fj:周波数[MHz]
βij:偏回帰係数
λ(fj):周波数fjの単位濃度減衰率
m:粒径階の分割数
n:周波数fjの数
である。
【0048】
次に重回帰モデルの決定について説明する。
重回帰モデル(数式22)の偏回帰係数βijは、図10に示す各微粒子の3回、全15の計測データを用いて重回帰分析により算出する。また、周波数2.0〜9.0MHzの帯域で超音波減衰率α(fj)が安定しており、重回帰モデルの説明変数は、3.0〜9.0MHzの周波数帯において0.5MHz間隔で13の周波数に対応する超音波減衰率α(fj)を用いる。
【0049】
次に本実施例における濃度と粒度分析の計測手順について図11を参照しつつ説明する。
まず計測開始に伴って試料液体について概略図11に示すような工程(以下、ステップという)を実施する。すなわち、まず上述のような超音波エコー測定ステップを実施する(ステップ1)。次にやはり上述のような水温補正を行い(ステップ2)、周波数解析を行い(ステップ3)、粒度別濃度を測定し(ステップ4)、粒度別濃度の総和を算出し(ステップ5)、単位濃度減衷率を算出し(ステップ6)、相対粒子量を算出し(ステップ7)、そして容積表示の濃度を算出する(ステップ8)。
【0050】
具体的には、計測手順は、
(1)まず、水温と周波数スペクトルの計測データ(1024組の周波数とスペクトルの計測値)から数式19および数式20によって超音波減衰率α(fj)を計算し、
(2)前項の手順で決定した偏回帰係数βijと超音波減衰率α(fj)から数式26によって粒径別濃度ciを計算し、
(3)粒径別濃度ciから数式27によって濃度Cを計算し、
(4)濃度Cと超音波減衰率α(fj)から数式21により単位濃度減衰率λ(fj)を計算し、
(5)偏回帰係数βijと単位濃度減衰率λ(fj)から数式28により相対粒子量を計算する、
というものになる。
【0051】
ここで粒径別濃度計測について説明する。
前記の計測手順(1)および(2)に基づき算出した粒径別濃度ciの計測値を図12に示す。横軸は周波数f=8.0MHzの平均濃度換算率と減衰率を用いて補正した濃度とレーザ粒度分析装置で測定した相対粒子量の積を示す。縦軸は数式26から算出した粒径別濃度を示す。本計測試験では、図12から明らかなように1,000mg/リットル未満の粒径別濃度は極端に計測精度が悪くなっているが、1,000〜10,000mg/リットルの範囲では計測値はレーザ回折式粒度分布測定装置の測定値とほぼ一致する。
【0052】
次に、上記計測手順(3)に基づく濃度の計測値を図13に示す。横軸は周波数f=8.0MHzの平均濃度換算率と減衰率を用いて補正した濃度を示す。縦軸は本計測装置による濃度の計測値を示す。ところで、今回採用した希釈法は、計測後のSS濃度と粒度分布を測定出来る利点はあるが、計測の過程において懸濁液濃度を均一に保つことが非常に難しく、結果として正確な濃度を測定することが難しいという欠点がある。今回の計測試験ではSS濃度の測定値を採用するのではなく、平均濃度換算率を用いて測定した濃度を補正した。この補正後の濃度と計測値の誤差は最大で±5%程度と推定される(図13参照)。
【0053】
粒度分析について説明する。上述した計測手順(4)および(5)に基づき計測した相対粒子量の計測結果を図14に示す。横軸はレーザ回折式粒度分析装置で計測した相対粒子量、縦軸は数式28から求めた相対粒子量の計測値を示す。今回使用した計測装置によって計測した粒度分布(相対粒子量)はレーザ回折式粒度分析装置の測定値と比較して5%以内の誤差となっている。また、各々の微粒子の相対粒子量の計測結果を図15に示す。特定の粒径の相対粒子量の計測値がレーザ回折式粒度分析装置の計測値との誤差がやや大きいが、全体として非常に良く一致することがわかる。なお、図15に示す計測値は各試料の最も濃度の高い懸濁液の相対粒子量の計測値を示す。高濃度の懸濁液を希釈することなく粒度分析を行うことができる。
【0054】
本実施例の計測性能について説明する。
使用した計測装置は、超音波による濃度計測の原理と粒度分析の計測原理を利用するとともに、広帯域性の超音波を放射できるプラノコンケーブ形超音波振動子を計測装置の検出部に採用して1〜10MHzの周波数帯の複数の超音波減衰率から、濃度と相対粒子量を同時に計測するものである。実施した計測試験の結果、超音波式濃度計測装置は、微粒子の濃度と相対粒子量が同時に計測できることを検証することができた。また、本計測装置は、高濃度の懸濁液の計測に非常に適していることも明らかになった。微粒子の粒径が1〜100μmオーダーの場合、濃度の計測範囲は図12および図13に見られるように本計測装置の仕様で最大10,000mg/リットルまで十分計測可能と考えられる。
【実施例2】
【0055】
水系ごとに異なる石灰質、粘土質など土粒子の特性を考慮した値としての「容積表示の濃度」(いわゆる容積濃度)も求めることができる実施例を説明する。
【0056】
まず、容積表示の濃度(Concentration)について説明する。
水の単位体積中に含まれる砂の数(容積または重さ)を濃度(Concentration)と呼びCで表す。SS濃度は[mg/リットル]の単位で表される濃度であり、SS濃度の測定方法はJIS−K0102に規定されている。河川、湖沼の環境基準項目や、下水・排水の放流水基準においてはSS濃度が用いられている。
【0057】
JIS−K0102に定めた測定方法において測定したSSは重量濃度であるが、河川における土砂の移動を検討する場合、土砂量(体積)を評価する必要があることから、河床変動解析等においては容積表示の濃度が用いられる。すなわち、河床変動計算において浮流砂の濃度は、容積表示で下記数式29のように表示される。
【数29】
(ここで、流量をQ[m3/s]、その流量中の浮流砂量をQs[m3/s]である。)
【0058】
また、土粒子の密度をρ[mg/cm3]とすると、重量表示の濃度Cwと容積表示の濃度Cvolとの関係は下記数式30で表される。なお、土粒子の密度試験はJIS−A1202に定められている。
【数30】
上記数式21に示す単位濃度減衰率λ(fj)を計算する際に、上記数式29を用いて濃度を容積表示の濃度Cvolとして解析することによって、結果的に前記数式11で算出される濃度は容積表示の濃度(無次元量)となる。これは、原理的には、超音波式濃度計測装置は、重量表示の濃度ではなく、容積表示の濃度を計測する装置であると考えられるためであり、濃度を容積表示とすることによって、土粒子の密度の違いに関係なく、濃度の計測が可能となる。
【0059】
本発明について以上のように実施例を参照しつつ説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、改良の目的または本発明の思想の範囲内において改良または変更が可能である。特に測定、計測対象が上述したものに限定されることはなく、種々の液体に対して本発明は採用できる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本願発明は、河川の濁り具合を超音波振動子に基づき測定し、当該河川の浮遊物質(SS)の粒度を考慮したデータ値に基づき、提案された関係式で解析して測定でき、浮遊物質(SS)の粒度を配慮した河川の真の汚れ具合を把握することができる。光学的に測定される濁度の値を参考とする必要が無く、粒状物が高濃度に混じった水の「粒径別濃度の総和(濃度)」、「相対粒子量」、さらに「容積(体積)濃度」の計測を極めて簡便に実施でき、したがって、現在環境問題や社会問題となっている砂浜や河川における砂の浸食、ダムの寿命低下(土砂のダム湖における湖底堆積)、砂防ダムでの堆積土砂の取り除きや運搬に伴うエネルギーロス、などの諸問題をなくすため、川上から河口までの河川の複数ポイントに関して本発明に係る解析を実施することにより、目的に沿って土砂を上流から下流まで効率的に流すことが可能となる。また台風や上流での工事などにより、河口から海に土砂が流出し、海の珊瑚を死滅させたり、海洋汚染することがないように河川をコントロール(水門の開閉等)する際に有用なものとなり得る。
【符号の説明】
【0061】
11:超音波減衰率測定装置
12:粒度測定装置
13:制御部
14:粒度解析装置
15:記憶部
20:プラノコンケーブ形超音波振動子
21:反射板
30:解析システム
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体中の浮遊物質を解析するための浮遊物質解析方法及び浮遊物質解析システム並びに浮遊砂濃度の解析方法、浮遊砂濃度の解析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ダム、河川その他の水系において、水質管理その他の目的で、浮遊物質の濃度測定が行われている。このような濃度測定は、浮遊物質が高濃度になった場合においても、正確に行う必要があり、このような測定を実現するために、超音波を用いた測定が用いられつつある。超音波測定に用いる装置としては、例えば、超音波を試料液体に照射して、通過したパルスに対応する電気信号から浮遊物質の濃度を算出するものがある。この測定装置は、パルスの送信部と受信部を共通化するとともに、パルスを受信部側へ反射させる反射体を設けることによって、測定効率を向上させることができる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかし、上述のような測定装置では、粒度が一定の浮遊物質の濃度は正確に測定することができるが、浮遊物質の粒度が変化する場合は、濃度を正しく推測することが困難である。これは、水系によって浮遊物質の種類、形状、粒度等の特性が異なるため、同じ超音波減衰率を示していても浮遊物質の粒径分布が異なると濃度が変化するためである。水系のうち、特にダムにおいては、浮遊物質が沈降・堆積するため、ダムの堆積土砂対策を効果的に実施するためには、ダムに流入する浮遊物質量およびダムから流出する浮遊物質量を正確かつ迅速に把握する必要がある。
【0004】
そこで、浮遊物質の粒度を反映した試料液体の濃度測定を行うことのできる浮遊物質解析方法を提供することが求められており、例えば、超音波減衰率と予め光工学的に測定した散乱光式濁度の関係から浮遊物質の相対粒子量と散乱光濁度の積を目的変数、各周波数に対応する超音波減衰率を説明変数とする重回帰モデルを求めることとし、超音波振動子を用いた濃度測定値に基づき、浮遊物質の粒度、粒径に基づく固有の減衰率を考慮した水の濁度(濃度)を計測する浮遊物質解析方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−271348号公報
【特許文献2】特開2009−025027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述した背景技術に鑑み、光学的に測定される濁度を用いることなく、測定される超音波減衰率の値から、試料としての液体中の粒径別濃度、ひいては粒径別濃度の総和(濃度)を求め得る浮遊物質解析方法を提案し、加えて、求められた粒径別濃度の総和(濃度)と超音波減衰率を用いて相対粒子量の算出を可能とし、さらに、求められる粒径別濃度の総和(濃度)を土粒子の密度で除し、濃度を容積表示とすることによって、例えば河川の水系ごとに土粒子の密度が異なる場合においても、河川の浮遊物質の容積(体積)濃度を測定することを可能とする浮遊物質解析方法を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の浮遊物質解析方法のうち請求項1に係るものは、以下の工程からなることを特徴とする。
(1)試料液体に照射する超音波の周波数を系統的に変化させ、各周波数の減衰率α(f)を測定し、媒体である試料液体に由来する減衰と粒子に由来する減衰からなる測定値を下記数式1のように表し、
【数1】
(ここで、αmedium(f)は周波数がfのときの媒体に由来する超音波減衰率、αmono(f,
D)は周波数がfで、粒径Dを持つ単分散粒子に由来する超音波減衰率、g(D)は粒径がDからD+dDの間にある粒子の質量百分率(以下相対粒子量という)である。)
(2)水温を測定し、水温によって違いがある各周波数帯の基準スペクトルの計測値を水温の関数として下記数式2で求め、
【数2】
(ここで、M0(fj)は水温tにおける周波数fjの基準スペクトルの計測値、tは計測時の水温[℃]、aj、bj、cj、djは周波数fjの基準スペクトル算定の定数である。但し、基準スペクトルとは、媒質が水だけの場合の試料液体の周波数スペクトルをいい、
【数3】
ここで、
α(fj)は周波数fjの超音波減衰率(dB/MHz)、fjは周波数(MHz)、M0(fj)は周波数fjの基準スペクトルの計測値、M(fj)は周波数fjの懸濁液の周波数スペクトルの計測値である。)
(3)前記工程(1)で得た計測時の水温および周波数スペクトルの計測値と基準水温t0時の基準スペクトルの計測値との比である水温補正係数τ(fj)を用いて、数式4、5により、水温に基づく補正を行い、基準水温下での超音波減衰率を求め、
【数4】
【数5】
(ここで、α(fj)は周波数fjの超音波減衰率[dB/MHz]、fjは周波数[MHz]、M0(fj)t=t0は数式2によって算出する基準水温t0時の周波数fjの基準スペクトルの計測値、M0(fj)t=t:数式2によって算出する水温t時の周波数fjの基準スペクトルの計測値、M(fj)t=tは水温t時の周波数fjの懸濁液の周波数スペクトルの計測値、τ(fj)は周波数fjの水温補正係数、t0は基準水温[℃]、tは計測時の水温[℃]である。)
(4)各周波数帯の下記数式6で表わされる濃度換算率を検証し(濃度換算率λ(fj)は、数式6中の超音波減衰率を濃度に換算するための率、すなわち単位濃度の超音波減衰率であり、単位濃度減衰率という。)、
【数6】
(ここで、α(fj)は周波数fjの超音波減衰率[dB/MHz]、Cは濃度[mg/リットル]、λ(fj)は周波数fjにおける濃度換算率(単位濃度減衰率)である。)
(5)各粒径階の相対粒子量g(Di)を目的変数、前記数式6で算出した単位濃度減衰率λ(fj)を説明変数とする重回帰モデルを適用した変換手順として、
【数7】
【数8】
(ここで、g(Di)は粒径階Diの相対粒子量(%)、fjは周波数[MHz]、βijは偏回帰係数、λ(fj)は周波数fjの単位濃度減衰率、mは粒径階の分割数、nは周波数fjの数、εは残差である。)を実行し、
(6)前記数式8にそれぞれ前記数式6と前記数式7を代入して濃度Cについて整理して下記数式9を得、
【数9】
超音波減衰率α(fj)の関数として前記試料液体の濃度Cを重回帰分析により求める。なおこの数式9の2行目の式では、左辺の{ }内に本来は数式7に示した残差+εが現れるべきであるが、この残差εは小さいものとして無視し、記載を省略した。
【0008】
請求項2に係るものは、請求項1の浮遊物質解析方法において、
粒径別の濃度を示す前記数式9中の
【数10】
を下記数式11として示し、
【数11】
(ここで、ciは粒径階Diの濃度[mg/リットル]、α(fj)は周波数fjの超音波減衰率[dB/MHz]、βijは偏回帰係数、nは周波数fjの数である。)
これにより前記試料液体中の浮遊物質の粒径別の濃度を求めることを特徴とする。
【0009】
請求項3に係るものは、請求項2の浮遊物質解析方法において、
前記数式9に前記数式11を代入して下記数式12を得て、
【数12】
(ここで、Cは濃度[mg/リットル]、ciは粒径階Diの濃度[mg/リットル]、mは粒径階の分割数である。)
減衰率を考慮した相対粒子量を測定可能とし、
試料液体の濃度を、粒径別濃度の総和として求めることを特徴とする。
【0010】
請求項4に係るものは、請求項3の浮遊物質解析方法において、試料液体の濃度Cと超音波減衰率α(fj)から前記数式6を用いて単位濃度減衰率λ(fj)を算定し、相対粒子量g(Di)は前記数式7の重回帰モデルの偏回帰係数と単位濃度減衰率λ(fj)を用い、
【数13】
(ここで、g(Di)は粒径階Diの相対粒子量(%)、fjは周波数[MHz]、βijは偏回帰係数、λ(fj)は周波数fjの単位濃度減衰率、mは粒径階の分割数、nは周波数fjの数である。)
により相対粒子量を求めることを特徴とする。
【0011】
請求項5に係る浮遊砂濃度の解析方法は、請求項1から3のいずれかの浮遊物質解析方法を用い、河床変動計算において浮流砂の濃度を求める浮遊砂濃度の解析方法であって、
(1)前記浮流砂の濃度を、容積表示で下記数式14のように表示し、
【数14】
(ここで、流量をQ[m3/s]、その流量中の浮流砂量をQs[m3/s]である。)
(2)土粒子の密度をρ[mg/cm3]として、重量表示の濃度Cwと容積表示の濃度Cvolとの関係を下記数式15で表し、
【数15】
上記数式6に示す単位濃度減衰率λ(fj)を計算する際に、上記数式15を用いて濃度を容積表示の濃度Cvolとして解析することによって、前記数式12で算出される濃度Cを無次元量である容積表示の濃度Cvolとすることを特徴とする。
【0012】
請求項6に係る浮遊物質解析システムは、請求項1から4のいずれかの浮遊物質解析方法を用い、液体中の浮遊物質を解析することを特徴とする。
【0013】
請求項7に係る浮遊砂濃度の解析システムは、請求項5の浮遊砂濃度の解析方法を用い、河床変動計算において浮流砂の濃度を求めることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、粒状物が高濃度に混ざり、透明度が極めて劣る液体においても、浮遊物質の粒度、粒径に基づく固有の減衰率を考慮した粒径別濃度の総和(濃度)、相対粒子量、さらに、容積(体積)濃度が計測可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る浮遊物質解析方法の実施に用いる解析システムのブロック図
【図2】超音波式濃度計測装置(検出部)を示す図
【図3】プラノコンケーブ形超音波振動子の一例を示す図
【図4】試験用試料の粒度分布を示す図
【図5】水の周波数スペクトル(基準スペクトル)
【図6】水温が基準スペクトルに与える影響を示す図
【図7】周波数スペクトル計測結果を示す図
【図8】減衰スペクトルの計算結果を示す図
【図9】補正後のSS濃度と減衰率αの関係を示す図
【図10】単位濃度減衰スペクトル(濃度換算率)を示す図
【図11】計測手順のフロー図
【図12】粒径別濃度計測結果を示す図
【図13】濃度計測結果を示す図
【図14】相対粒子量の計測結果を示す図
【図15】粒度分布(相対粒子量)の計測結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の計測方法は、試料液体である懸濁液中の濃度と粒度分布(相対粒子量)の計測を実施し、超音波振動子から放射される、例えば約1〜10MHzの周波数帯の多数の超音波減衰率から、粒径別濃度、濃度、粒度分布(相対粒子量)を同時に計測する。
【0017】
まず本発明に係る浮遊物質解析方法の測定原理、すなわち粒度分布の測定原理について説明する。
微粒子が実用に供される場合、粒子濃度が高くて光を透過しないような分散系が多い。そのため、レーザなどの光を用いた手法では測定できない。そのため、注意深く試料を希釈するなど測定前に煩雑な作業を行う必要がある。また、希釈することで分散系の状態変化をもたらす可能性もあり、希薄系における粒度分布が必ずしも濃厚状態の粒度分布を示していないことも指摘されてきた。超音波減衰分光法(ultrasonic attenuation spectroscopy)や電気音響効果法(electrokinetic sonic amplitude)は、これまでの粒度分布測定法とは全く異なった測定原理に基づく方法で、この方法では光の代わりに超音波や交流電場を用いる。そのため、光が透過できないような粒子濃度が非常に高い懸濁液でも粒度分析が可能である。
【0018】
超音波を懸濁液に照射すると、粒子が溶媒に対して相対運動を起こすが、その運動に由来する音響エネルギーの減衰率を、発信した音響エネルギーに対して測定し、それを種々の減衰機構に関するECAH理論により解析して粒度分布関数に変換する。実際の測定では、照射する超音波の周波数を系統的に変化させ、各周波数の減衰率α(f)を測定する(本明細書において、ある周波数に対する減衰率変化を示す曲線を減衰スペクトルと呼ぶ)。その測定値は、媒体に由来する減衰と粒子に由来する減衰からなり、下記数式16のように表される。
【数16】
ここで、αmedium(f)は周波数がfのときの媒体に由来する超音波減衰率、αmono(f,
D)は周波数がfで、粒径Dを持つ単分散粒子に由来する超音波減衰率、g(D)は粒径がDからD+dDの間にある粒子の質量百分率(以下相対粒子量という)である。g(D)は基本的には対数正規分布を想定している。粒度分布関数への変換手順は、粒度分布関数g(D)を種々変化させ、数式16の右辺第2項を計算させ、周波数の全領域にわたり測定された超音波減衰率に最もよく値が一致したときの分布関数を、測定した系の粒度分布関数として採用する。このような超音波減衰スペクトルの粒度分布依存性を利用して粒度分布を測定する方法を超音波減衰分光法という。
【0019】
次に超音波による濃度測定は、超音波が懸濁液中を通過する際に、その中に存在する粒子や媒質によって音響エネルギーの損失を生じるので、各濃度に対する周波数スペクトルの超音波減衰率が固体の微粒子では濃度に関係して増加するという測定原理に基づいて測定する。なお、減衰率については媒質が水だけの場合を0として各濃度における減衰割合を表す。
【実施例1】
【0020】
以下本発明に係る浮遊物質解析方法の実施例を図面を参照して説明する。
【0021】
まず本実施例で用い得る計測装置について説明する。
浮遊物質解析方法の実施に用いる解析システム10は、図1に示すように、超音波減衰率測定装置11と、例えばパーソナルコンピュータを用いて構成した粒度測定装置12、制御部13、粒度解析装置14からなる解析装置30から構成することができる。パーソナルコンピュータは、そのCPU(Central Processing Unit)を制御部13として、また書き換え可能なRAM等の内部メモリーや、ハードディスクその他の外部記憶装置を記憶部15として用いることができる。なお、パーソナルコンピュータを用いる場合には、入力手段(例えばキーボード、マウス)、及び出力手段(例えばモニター、プリンタ)も備えることが好ましく、例えば入力手段によって各装置の動作を制御する指示信号を入力し、測定条件や測定結果を出力手段に出力することができるようにすることが好ましい。また、試料液体の水温測定のために、温度計等の温度測定手段(不図示)を用いる。なお解析装置30と温度測定手段とが測定データの送受信が有線あるいは無線で通信できない構成であれば、上述した入力手段による入力で代用できる。
【0022】
超音波減衰率測定装置11では、超音波減衰率測定のための検出部に、図2に示すようなプラノコンケーブ形超音波振動子20(以下、単に振動子20と記載する場合もある)と反射板21を用い、浮遊物質を含む試料液体に対して超音波パルス波(Ultrasonic pulse wave)を照射し、試料液体通過後の反射超音波パルス波から得た反射パルス信号を得る。
【0023】
プラノコンケーブ形超音波振動子20は、平凹面(プラノコンケーブ)を形成するため、例えば、図3(A)に示すような直径φ20mmの市販の円形チタン酸鉛製振動子の一面を、図3(B)に示すように曲率半径r=30mmで凹面状に加工し、その加工面と裏面に電極をつける。また、このプラノコンケーブ形振動子20の焦点に反射板21を置き、放射した広帯域超音波パルス波のエコー波を同一の振動子20で受波して超音波減衰率を計測する。図3(B)に示すように、振動子20の厚さが連続的に変化しているため、例えば1〜10MHz帯の広い周波数帯域の超音波の放射が可能であり、さらに超音波放射面が凹面であるために集束した超音波の放射も可能である。そのため、振動子にインパルス電圧を印加するとリンギングの少ない広帯域の集束した超音波を放射できる。このような超音波減衰率測定装置11を試料液体に対して使用するには、例えばプラノコンケーブ形超音波振動子20を試料液体を入れる容器内部の一方側に配置でき、容器内部の他方側に反射板21を配置できるようにサイズ等を構成する。
【0024】
粒度測定装置12は、例えば、パルス発生部、エコーパルス収録・FFT(Fast Fourier transform)処理部、及びデータ送受信部を備え、パルス発生部は、制御部13の制御の下で、振動子20に励振パルス信号を送り、エコーパルス収録・FFT処理部は、反射板21が反射し、振動子20が受波した反射パルス波(超音波エコー)に対応する反射パルス信号を取込んで所定のデータに変換する。さらに、エコーパルス収録・FFT処理部は、変換された所定のデータを基に浮遊物質濃度、及び超音波減衰率を測定する。エコーパルス収録・FFT処理部における処理結果はデータ送受信部を介して制御部13に出力し、記憶部15に記憶させる。そのため、振動子20から放射される広帯域の超音波の周波数スペクトルの減衰特性から、浮遊物質の濃度をリアルタイムで測定することができる。なお解析システム10としては、反射パルス信号をデジタル化して表示するデジダルオシロスコープ等を備えるようにするとよい。
【0025】
粒度解析装置14は、記憶部15に保存された測定結果に基づいて試料液体に含まれる浮遊物質(Suspended Solid)の粒度を解析するものであって、解析プログラムが記憶されたメモリー部(不図示)と、解析プログラムを実行する演算部(不図示)を備える。これらのメモリー部及び演算部としては、例えばパーソナルコンピュータの記憶装置及びCPUを用いることができるので、記憶部15と制御部13とで兼用できる場合もある。すなわち、粒度解析装置14の演算部の機能を制御部13に、粒度解析装置14のメモリー部の機能を記憶部15に持たせることによって粒度解析を行うことができる。
【0026】
粒度解析について説明する。
本実施例装置では、プラノコンケーブ形超音波振動子20を用いた上述のような検出部(センサー)から微粒子を含み懸濁液となっている試料液体中に放射される広帯域性の超音波のエコー波の超音波減衰率から微粒子の濃度を計測する。振動子20には、広帯域の励振パルス波として矩形状のインパルス電圧を粒度測定装置12のパルス発生部から印加する。矩形のインパルス電圧は、例えば、振動子の基本厚み共振周波数(1〜10MHz)において基準水温(20℃)時の基準スペクトルの計測値の最大値が1.0mVとなるパルス幅80ns、5Vp−pとする。
【0027】
そして、振動子20から放射された超音波パルス波が試料液体中を伝搬し、反射板21で反射して戻ってきたエコーパルス波形を取り込み、A/D変換した後、その波形の周波数スペクトルを分析した値が計測値となる。
【0028】
次に本願発明者等が実際に行った計測の手順について説明する。ただし、下記の物質、数値等は試験を行った例のものであって、本発明がこれらの物質や数値に関して限定されることはない。
【0029】
まず、湿潤状態の約120gの試料を6リットルの蒸留水を入れた計測容器に入れ、懸濁液である試料液体をポンプで撹拌しながら上述のような超音波減衰率の計測を実施した。併せて水温と散乱光式濁度を測定した。計測が終わった6リットルの懸濁液から2リットルを採水して、SS濃度測定と粒度分析を行った。SS濃度測定はJIS−K0102に基づく。またSS濃度は1試料について各2回の測定を行い、平均値を算出した。粒度分布はレーザ回折式粒度分析装置(例えば株式会社島津製作所製SALD−3000J)を使用して測定した。測定はそれぞれ2回行い、その平均値を採用した。次に試料液体に蒸留水2リットルを加えて6リットルの懸濁液とし濃度を2/3に希釈して、同様の計測を行った。試料液体の希釈は合計10回行い、全試料で同様の計測試験を行った。
【0030】
上述の試験で用いた試験用微粒子の精製について説明する。
試験用微粒子は、滝調整池(福島県南会津郡只見町)において採取した堆積土砂を水洗いしながらフルイによって分級して湿潤状態で精製したものを用いた。また、分級に使用したフルイは106μm、75μm、53μm、38μmおよび25μmの5種類である。試験用微粒子の粒度分布を図4に示す。図4に示す「−25−01」は粒径が25μmのフルイを通過した微粒子の第1回目の試験結果を表す。同様に「38−25−01」は38μmのフルイを通過して25μmのフルイに残留した微粒子の第1回の測定結果を表す。これは、図4(A)〜(E)の全ての図に関して同様である。
【0031】
次に基準スペクトルについて説明する。
まず超音波減衰率について説明すると、超音波減衰率α(fj)は、各周波数において媒質が水だけの場合を0として各濃度における減衰割合を下記数式17より求めたものである。ここで、媒質が水だけの場合の周波数スペクトルを以降「基準スペクトル」という。
【数17】
ここで、
α(fj):周波数fjの超音波減衰率[dB/MHz]
fj:周波数[MHz]
M0(fj):周波数fjの基準スペクトルの計測値
M(fj):周波数fjの懸濁液の周波数スペクトルの計測値
である。
【0032】
上述した基準スペクトルは水温によって変化する特性がある。蒸留水10リットルを入れた恒温水槽に上述した超音波減衰率測定装置11の検出部を入れて水温を変化させて基準スペクトルを計測した結果を図5に示す。この図の横軸は周波数、縦軸は基準スペクトルの計測値を示す。水温が上昇するにしたがって基準スペクトルの計測値は大きくなることから、基準水温を設定して、基準水温時の基準スペクトルの計測値の最大値が1.0mVとなるように計測値を調整する。
【0033】
次に、周波数毎に基準スペクトルの計測結果を整理すると図6のようになる。図6の横軸は水温、縦軸は各周波数に対応する基準スペクトルの計測値を示す。各周波数帯の基準スペクトルの計測値は水温の関数として下記数式18で表わすことができる。
【数18】
ここで、
M0(fj):水温tにおける周波数fjの基準スペクトルの計測値
t:計測時の水温 [℃]
aj、bj、cj、dj:周波数fjの基準スペクトル算定の定数
である。
【0034】
したがって、各周波数帯において水温と基準スペクトルの計測値との関係を解析して数式18で表される定数を定めておき、周波数スペクトルの計測時に併せて水温を測定することによって、数式17を用いて水温から各周波数帯の基準スペクトルの計測値を求めることができる。
【0035】
次に計測試験結果例について説明する。
超音波減衰率測定装置11による周波数スペクトルの計測結果を図7に示す。図7の横軸は周波数、縦軸は周波数スペクトルの計測値を示す。使用した計測装置(SSH100)の1回の測定データは0〜12.5MHzの周波数帯において1024の周波数に対応した周波数スペクトルの計測データが得られる。周波数スペクトルの最大値は周波数が5.5MHz付近にある。今回実施した計測試験では希釈法を採用しており、測定回数が多くなるにしたがって濃度が薄くなるため減衰が小さくなり、周波数スペクトルの計測値が増大する。
【0036】
超音波減衰率の水温補正について説明する。既述のように基準スペクトルの計測値は水温によって変動する。そのため、数式17の超音波減衰率は水温補正が必要になる。水温補正は、計測時の水温および周波数スペクトルの計測値と基準水温t0時の基準スペクトルの計測値との比である水温補正係数τ(fj)を用いて下記数式19、数式20により行う。
【数19】
【数20】
ここで、
α(fj):周波数fjの超音波減衰率 [dB/MHz]
fj:周波数[MHz]
M0(fj)t=t0:数式18によって算出する基準水温t0時の周波数fjの基準スペクトルの計測値
M0(fj)t=t:数式18によって算出する水温t時の周波数fjの基準スペクトルの計測値
M(fj)t=t:水温t時の周波数fjの懸濁液の周波数スペクトルの計測値
τ(fj):周波数fjの水温補正係数
t0:基準水温[℃]
t:計測時の水温[℃]
である。
【0037】
図7に示す周波数スペクトルの計測値から数式19および数式20を用いて算出した超音波減衰率を図8に示す。横軸は周波数、縦軸は数式19で表される超音波減衰率を示す。この曲線を減衰スペクトルという。図8に見られるように、超音波減衰スペクトルの計測値は濃度のみならず粒度分布にも依存する。例えば周波数が8.0MHz帯の減衰率は粒径が大きくなるにしたがって増加する傾向を示す。一方、周波数が3.0MHz帯の減衰率は、粒径が大きくなるにしたがって減少する傾向を示す。
【0038】
SS濃度(平均値)と超音波減衰率α(f=8.0MHz)との関係を図9に示す。横軸は超音波減衰率α(fj)、縦軸はSS濃度を示す。SS濃度の計測値は、濃度の計測値と周波数f=8.0MHzにおける減衰率から、最小二乗法により平均濃度換算率を求め、この平均濃度換算率に超音波減衰率α(fj)を乗じて濃度を補正した。図9は、この補正後のSS濃度と減衰率αの関係を示してある。
【0039】
次に各周波数帯の濃度換算率を検証する。濃度換算率λ(fj)は、下記数式21で表わされる。式中の濃度換算率は、超音波減衰率を濃度に換算するための率として定義した。濃度換算率は換言すれば単位濃度の超音波減衰率であり、以降、単位濃度減衰率と再定義する。
【数21】
ここで、
α(fj):周波数fjの超音波減衰率[dB/MHz]
C:濃度[mg/リットル]
λ(fj):周波数fjにおける濃度換算率(単位濃度減衰率)
【0040】
単位濃度減衰率λ(fj)を図10に示す。横軸は周波数、縦軸は数式21で表される単位濃度減衰率λ(fj)を示す。数式21で用いたSS濃度Cは、先に補正した濃度とした。粒度分布が一定の場合には測定原理として超音波減衰率は濃度に比例することから、各周波数における単位濃度減衰率λ(fj)は一定値となる。しかしながら、図10に示すように、一部の試料において単位濃度減衰率にバラツキが見られる。このバラツキが濃度、粒度分布(相対粒子量)の計測精度を低下させる原因となる。
【0041】
次に超音波減衰分光法による濃度計測を説明する。
超音波減衰分光法による粒度分布の測定原理は既に述べたとおりである。すなわち、超音波減衰率と相対粒子量との関係は数式16で表される。単位濃度減衰スペクトル(濃度換算率)を粒度分布関数へ変換する手順を簡略化するため、超音波減衰スペクトルの粒度分布依存性を利用して粒度分布を計測する一つの方法として、各粒径階の相対粒子量g(Di)を目的変数、数式21で算出した単位濃度減衰率λ(fj)を説明変数とする重回帰モデル(数式22)を適用した変換手順を実行する。
【数22】
【数23】
ここで、
g(Di):粒径階Diの相対粒子量[%]
fj:周波数[MHz]
βij:偏回帰係数
λ(fj):周波数fjの単位濃度減衰率
m:粒径階の分割数
n:周波数fjの数
ε:残差
である。
【0042】
次に、数式23にそれぞれ数式21と数式22を代入して濃度Cについて
整理すると、下記数式24が得られる。
【数24】
【0043】
数式24は濃度Cの算定式となる。すなわち、数式22に示す偏回帰係数βijが既知であれば、濃度Cは数式24により超音波減衰率α(fj)の関数として求めることができる。超音波減衰率α(fj)は数式19を用いて計測時の水温と周波数スペクトルの計測値から算出する。また数式22のβij(偏回帰係数)は、粒度分布の異なる微粒子を用いて計測試験を行い、超音波減衰率α(fj)と相対粒子量g(Di)の計測データから重回帰分析により求めることができる。
【0044】
本願発明者等は、濃度が未知数であることから散乱光式濁度計の測定値を用いて粒度分布(相対粒子量)を測定し、また、相対粒子量から濃度換算率λ(fj)を推定する方法を提案した(特許文献2)が、その後の研究により、重回帰モデルに数式22を採用することにより、数式24を用いて超音波減衰率α(fj)の関数として濃度Cを計測することを明らかにした。
【0045】
また、数式24の括弧内の数式25
【数25】
は粒径別の濃度を示しており、この粒径別濃度は下記数式26として示すことができる。
【数26】
ここで、
ci:粒径階Diの濃度[mg/リットル]
α(fj):周波数fjの超音波減衰率[dB/MHz]
βij:偏回帰係数
n:周波数fjの数
である。
【0046】
数式24に数式26を代入すると下記数式27が得られる。試料液体(懸濁液)の濃度は、粒径別濃度の総和として数式27により求めることができる。
【数27】
ここで、
C:濃度[mg/リットル]
ci:粒径階Diの濃度[mg/リットル]
m:粒径階の分割数
である。
【0047】
次に、濃度Cと超音波減衰率α(fj)から数式21を用いて単位濃度減衰率λ(fj)を算定し、相対粒子量g(Di)は数式22の重回帰モデルの偏回帰係数と単位濃度減衰率λ(fj)を用いて数式28により求めることができる。
【数28】
ここで、
g(Di):粒径階Diの相対粒子量(%)
fj:周波数[MHz]
βij:偏回帰係数
λ(fj):周波数fjの単位濃度減衰率
m:粒径階の分割数
n:周波数fjの数
である。
【0048】
次に重回帰モデルの決定について説明する。
重回帰モデル(数式22)の偏回帰係数βijは、図10に示す各微粒子の3回、全15の計測データを用いて重回帰分析により算出する。また、周波数2.0〜9.0MHzの帯域で超音波減衰率α(fj)が安定しており、重回帰モデルの説明変数は、3.0〜9.0MHzの周波数帯において0.5MHz間隔で13の周波数に対応する超音波減衰率α(fj)を用いる。
【0049】
次に本実施例における濃度と粒度分析の計測手順について図11を参照しつつ説明する。
まず計測開始に伴って試料液体について概略図11に示すような工程(以下、ステップという)を実施する。すなわち、まず上述のような超音波エコー測定ステップを実施する(ステップ1)。次にやはり上述のような水温補正を行い(ステップ2)、周波数解析を行い(ステップ3)、粒度別濃度を測定し(ステップ4)、粒度別濃度の総和を算出し(ステップ5)、単位濃度減衷率を算出し(ステップ6)、相対粒子量を算出し(ステップ7)、そして容積表示の濃度を算出する(ステップ8)。
【0050】
具体的には、計測手順は、
(1)まず、水温と周波数スペクトルの計測データ(1024組の周波数とスペクトルの計測値)から数式19および数式20によって超音波減衰率α(fj)を計算し、
(2)前項の手順で決定した偏回帰係数βijと超音波減衰率α(fj)から数式26によって粒径別濃度ciを計算し、
(3)粒径別濃度ciから数式27によって濃度Cを計算し、
(4)濃度Cと超音波減衰率α(fj)から数式21により単位濃度減衰率λ(fj)を計算し、
(5)偏回帰係数βijと単位濃度減衰率λ(fj)から数式28により相対粒子量を計算する、
というものになる。
【0051】
ここで粒径別濃度計測について説明する。
前記の計測手順(1)および(2)に基づき算出した粒径別濃度ciの計測値を図12に示す。横軸は周波数f=8.0MHzの平均濃度換算率と減衰率を用いて補正した濃度とレーザ粒度分析装置で測定した相対粒子量の積を示す。縦軸は数式26から算出した粒径別濃度を示す。本計測試験では、図12から明らかなように1,000mg/リットル未満の粒径別濃度は極端に計測精度が悪くなっているが、1,000〜10,000mg/リットルの範囲では計測値はレーザ回折式粒度分布測定装置の測定値とほぼ一致する。
【0052】
次に、上記計測手順(3)に基づく濃度の計測値を図13に示す。横軸は周波数f=8.0MHzの平均濃度換算率と減衰率を用いて補正した濃度を示す。縦軸は本計測装置による濃度の計測値を示す。ところで、今回採用した希釈法は、計測後のSS濃度と粒度分布を測定出来る利点はあるが、計測の過程において懸濁液濃度を均一に保つことが非常に難しく、結果として正確な濃度を測定することが難しいという欠点がある。今回の計測試験ではSS濃度の測定値を採用するのではなく、平均濃度換算率を用いて測定した濃度を補正した。この補正後の濃度と計測値の誤差は最大で±5%程度と推定される(図13参照)。
【0053】
粒度分析について説明する。上述した計測手順(4)および(5)に基づき計測した相対粒子量の計測結果を図14に示す。横軸はレーザ回折式粒度分析装置で計測した相対粒子量、縦軸は数式28から求めた相対粒子量の計測値を示す。今回使用した計測装置によって計測した粒度分布(相対粒子量)はレーザ回折式粒度分析装置の測定値と比較して5%以内の誤差となっている。また、各々の微粒子の相対粒子量の計測結果を図15に示す。特定の粒径の相対粒子量の計測値がレーザ回折式粒度分析装置の計測値との誤差がやや大きいが、全体として非常に良く一致することがわかる。なお、図15に示す計測値は各試料の最も濃度の高い懸濁液の相対粒子量の計測値を示す。高濃度の懸濁液を希釈することなく粒度分析を行うことができる。
【0054】
本実施例の計測性能について説明する。
使用した計測装置は、超音波による濃度計測の原理と粒度分析の計測原理を利用するとともに、広帯域性の超音波を放射できるプラノコンケーブ形超音波振動子を計測装置の検出部に採用して1〜10MHzの周波数帯の複数の超音波減衰率から、濃度と相対粒子量を同時に計測するものである。実施した計測試験の結果、超音波式濃度計測装置は、微粒子の濃度と相対粒子量が同時に計測できることを検証することができた。また、本計測装置は、高濃度の懸濁液の計測に非常に適していることも明らかになった。微粒子の粒径が1〜100μmオーダーの場合、濃度の計測範囲は図12および図13に見られるように本計測装置の仕様で最大10,000mg/リットルまで十分計測可能と考えられる。
【実施例2】
【0055】
水系ごとに異なる石灰質、粘土質など土粒子の特性を考慮した値としての「容積表示の濃度」(いわゆる容積濃度)も求めることができる実施例を説明する。
【0056】
まず、容積表示の濃度(Concentration)について説明する。
水の単位体積中に含まれる砂の数(容積または重さ)を濃度(Concentration)と呼びCで表す。SS濃度は[mg/リットル]の単位で表される濃度であり、SS濃度の測定方法はJIS−K0102に規定されている。河川、湖沼の環境基準項目や、下水・排水の放流水基準においてはSS濃度が用いられている。
【0057】
JIS−K0102に定めた測定方法において測定したSSは重量濃度であるが、河川における土砂の移動を検討する場合、土砂量(体積)を評価する必要があることから、河床変動解析等においては容積表示の濃度が用いられる。すなわち、河床変動計算において浮流砂の濃度は、容積表示で下記数式29のように表示される。
【数29】
(ここで、流量をQ[m3/s]、その流量中の浮流砂量をQs[m3/s]である。)
【0058】
また、土粒子の密度をρ[mg/cm3]とすると、重量表示の濃度Cwと容積表示の濃度Cvolとの関係は下記数式30で表される。なお、土粒子の密度試験はJIS−A1202に定められている。
【数30】
上記数式21に示す単位濃度減衰率λ(fj)を計算する際に、上記数式29を用いて濃度を容積表示の濃度Cvolとして解析することによって、結果的に前記数式11で算出される濃度は容積表示の濃度(無次元量)となる。これは、原理的には、超音波式濃度計測装置は、重量表示の濃度ではなく、容積表示の濃度を計測する装置であると考えられるためであり、濃度を容積表示とすることによって、土粒子の密度の違いに関係なく、濃度の計測が可能となる。
【0059】
本発明について以上のように実施例を参照しつつ説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、改良の目的または本発明の思想の範囲内において改良または変更が可能である。特に測定、計測対象が上述したものに限定されることはなく、種々の液体に対して本発明は採用できる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本願発明は、河川の濁り具合を超音波振動子に基づき測定し、当該河川の浮遊物質(SS)の粒度を考慮したデータ値に基づき、提案された関係式で解析して測定でき、浮遊物質(SS)の粒度を配慮した河川の真の汚れ具合を把握することができる。光学的に測定される濁度の値を参考とする必要が無く、粒状物が高濃度に混じった水の「粒径別濃度の総和(濃度)」、「相対粒子量」、さらに「容積(体積)濃度」の計測を極めて簡便に実施でき、したがって、現在環境問題や社会問題となっている砂浜や河川における砂の浸食、ダムの寿命低下(土砂のダム湖における湖底堆積)、砂防ダムでの堆積土砂の取り除きや運搬に伴うエネルギーロス、などの諸問題をなくすため、川上から河口までの河川の複数ポイントに関して本発明に係る解析を実施することにより、目的に沿って土砂を上流から下流まで効率的に流すことが可能となる。また台風や上流での工事などにより、河口から海に土砂が流出し、海の珊瑚を死滅させたり、海洋汚染することがないように河川をコントロール(水門の開閉等)する際に有用なものとなり得る。
【符号の説明】
【0061】
11:超音波減衰率測定装置
12:粒度測定装置
13:制御部
14:粒度解析装置
15:記憶部
20:プラノコンケーブ形超音波振動子
21:反射板
30:解析システム
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程からなる浮遊物質解析方法。
(1)試料液体に照射する超音波の周波数を系統的に変化させ、各周波数の減衰率α(f)を測定し、媒体である試料液体に由来する減衰と粒子に由来する減衰からなる測定値を下記数式1のように表し、
【数1】
(ここで、αmedium(f)は周波数がfのときの媒体に由来する超音波減衰率、αmono(f,
D)は周波数がfで、粒径Dを持つ単分散粒子に由来する超音波減衰率、g(D)は粒径がDからD+dDの間にある粒子の質量百分率(以下相対粒子量という)である。)
(2)水温を測定し、水温によって違いがある各周波数帯の基準スペクトルの計測値を水温の関数として下記数式2で求め、
【数2】
(ここで、M0(fj)は水温tにおける周波数fjの基準スペクトルの計測値、tは計測時の水温[℃]、aj、bj、cj、djは周波数fjの基準スペクトル算定の定数である。但し、基準スペクトルとは、媒質が水だけの場合の試料液体の周波数スペクトルをいい、
【数3】
ここで、
α(fj)は周波数fjの超音波減衰率[dB/MHz]、fjは周波数[MHz]、M0(fj)は周波数fjの基準スペクトルの計測値、M(fj)は周波数fjの懸濁液の周波数スペクトルの計測値である。)
(3)前記工程(1)で得た計測時の水温および周波数スペクトルの計測値と基準水温t0時の基準スペクトルの計測値との比である水温補正係数τ(fj)を用いて、数式4、5により、水温に基づく補正を行い、基準水温下での超音波減衰率を求め、
【数4】
【数5】
(ここで、α(fj)は周波数fjの超音波減衰率[dB/MHz]、fjは周波数[MHz]、M0(fj)t=t0は数式2によって算出する基準水温t0時の周波数fjの基準スペクトルの計測値、M0(fj)t=t:数式2によって算出する水温t時の周波数fjの基準スペクトルの計測値、M(fj)t=tは水温t時の周波数fjの懸濁液の周波数スペクトルの計測値、τ(fj)は周波数fjの水温補正係数、t0は基準水温[℃]、tは計測時の水温[℃]である。)
(4)各周波数帯の下記数式6で表わされる濃度換算率を検証し(濃度換算率λ(fj)は、数式6中の超音波減衰率を濃度に換算するための率、すなわち単位濃度の超音波減衰率であり、単位濃度減衰率という。)、
【数6】
(ここで、α(fj)は周波数fjの超音波減衰率[dB/MHz]、Cは濃度[mg/リットル]、λ(fj)は周波数fjにおける濃度換算率(単位濃度減衰率)である。)
(5)各粒径階の相対粒子量g(Di)を目的変数、前記数式6で算出した単位濃度減衰率λ(fj)を説明変数とする重回帰モデルを適用した変換手順として、
【数7】
【数8】
(ここで、g(Di)は粒径階Diの相対粒子量[%]、fjは周波数[MHz]、βijは偏回帰係数、λ(fj)は周波数fjの単位濃度減衰率、mは粒径階の分割数、nは周波数fjの数、εは残差である。)を実行し、
(6)前記数式8にそれぞれ前記数式6と前記数式7を代入して濃度Cについて整理して下記数式9を得、
【数9】
超音波減衰率α(fj)の関数として前記試料液体の濃度Cを重回帰分析により求める。
【請求項2】
請求項1の浮遊物質解析方法において、
粒径別の濃度を示す前記数式9中の
【数10】
を用いて下記数式11として示し、
【数11】
(ここで、ciは粒径階Diの濃度[mg/リットル]、α(fj)は周波数fjの超音波減衰率[dB/MHz]、βijは偏回帰係数、nは周波数fjの数である。)
これにより前記試料液体中の浮遊物質の粒径別の濃度を求めることを特徴とする浮遊物質解析方法。
【請求項3】
請求項2の浮遊物質解析方法において、
前記数式9に前記数式11を代入して下記数式12を得て、
【数12】
(ここで、Cは濃度[mg/リットル]、ciは粒径階Diの濃度[mg/リットル]、mは粒径階の分割数である。)
減衰率を考慮した相対粒子量を測定可能とし、
試料液体の濃度を、粒径別濃度の総和として求めることを特徴とする浮遊物質解析方法。
【請求項4】
請求項3の浮遊物質解析方法において、
試料液体の濃度Cと超音波減衰率α(fj)から前記数式6を用いて単位濃度減衰率λ(fj)を算定し、
相対粒子量g(Di)は前記数式7の重回帰モデルの偏回帰係数と単位濃度減衰率λ(fj)を用い、
【数13】
(ここで、g(Di)は粒径階Diの相対粒子量[%]、fjは周波数[MHz]、βijは偏回帰係数、λ(fj)は周波数fjの単位濃度減衰率、mは粒径階の分割数、nは周波数fjの数である。)
により相対粒子量を求めることを特徴とする浮遊物質解析方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかの浮遊物質解析方法を用い、河床変動計算において浮流砂の濃度を求める浮遊砂濃度の解析方法であって、
(1)前記浮流砂の濃度を、容積表示で下記数式14のように表示し、
【数14】
(ここで、流量をQ[m3/s]、その流量中の浮流砂量をQs[m3/s]である。)
(2)土粒子の密度をρ[mg/cm3]として、重量表示の濃度Cwと容積表示の濃度Cvolとの関係を下記数式15で表し、
【数15】
上記数式6に示す単位濃度減衰率λ(fj)を計算する際に、上記数式14を用いて濃度Cを容積表示の濃度Cvolとして解析することによって、前記数式12で算出される濃度Cを無次元量である容積表示の濃度Cvolとすることを特徴とする浮遊砂濃度の解析方法。
【請求項6】
請求項1から4のいずれかの浮遊物質解析方法を用い、液体中の浮遊物質を解析することを特徴とする浮遊物質解析システム。
【請求項7】
請求項5の浮遊砂濃度の解析方法を用い、河床変動計算において浮流砂の濃度を求めることを特徴とする浮遊砂濃度の解析システム。
【請求項1】
以下の工程からなる浮遊物質解析方法。
(1)試料液体に照射する超音波の周波数を系統的に変化させ、各周波数の減衰率α(f)を測定し、媒体である試料液体に由来する減衰と粒子に由来する減衰からなる測定値を下記数式1のように表し、
【数1】
(ここで、αmedium(f)は周波数がfのときの媒体に由来する超音波減衰率、αmono(f,
D)は周波数がfで、粒径Dを持つ単分散粒子に由来する超音波減衰率、g(D)は粒径がDからD+dDの間にある粒子の質量百分率(以下相対粒子量という)である。)
(2)水温を測定し、水温によって違いがある各周波数帯の基準スペクトルの計測値を水温の関数として下記数式2で求め、
【数2】
(ここで、M0(fj)は水温tにおける周波数fjの基準スペクトルの計測値、tは計測時の水温[℃]、aj、bj、cj、djは周波数fjの基準スペクトル算定の定数である。但し、基準スペクトルとは、媒質が水だけの場合の試料液体の周波数スペクトルをいい、
【数3】
ここで、
α(fj)は周波数fjの超音波減衰率[dB/MHz]、fjは周波数[MHz]、M0(fj)は周波数fjの基準スペクトルの計測値、M(fj)は周波数fjの懸濁液の周波数スペクトルの計測値である。)
(3)前記工程(1)で得た計測時の水温および周波数スペクトルの計測値と基準水温t0時の基準スペクトルの計測値との比である水温補正係数τ(fj)を用いて、数式4、5により、水温に基づく補正を行い、基準水温下での超音波減衰率を求め、
【数4】
【数5】
(ここで、α(fj)は周波数fjの超音波減衰率[dB/MHz]、fjは周波数[MHz]、M0(fj)t=t0は数式2によって算出する基準水温t0時の周波数fjの基準スペクトルの計測値、M0(fj)t=t:数式2によって算出する水温t時の周波数fjの基準スペクトルの計測値、M(fj)t=tは水温t時の周波数fjの懸濁液の周波数スペクトルの計測値、τ(fj)は周波数fjの水温補正係数、t0は基準水温[℃]、tは計測時の水温[℃]である。)
(4)各周波数帯の下記数式6で表わされる濃度換算率を検証し(濃度換算率λ(fj)は、数式6中の超音波減衰率を濃度に換算するための率、すなわち単位濃度の超音波減衰率であり、単位濃度減衰率という。)、
【数6】
(ここで、α(fj)は周波数fjの超音波減衰率[dB/MHz]、Cは濃度[mg/リットル]、λ(fj)は周波数fjにおける濃度換算率(単位濃度減衰率)である。)
(5)各粒径階の相対粒子量g(Di)を目的変数、前記数式6で算出した単位濃度減衰率λ(fj)を説明変数とする重回帰モデルを適用した変換手順として、
【数7】
【数8】
(ここで、g(Di)は粒径階Diの相対粒子量[%]、fjは周波数[MHz]、βijは偏回帰係数、λ(fj)は周波数fjの単位濃度減衰率、mは粒径階の分割数、nは周波数fjの数、εは残差である。)を実行し、
(6)前記数式8にそれぞれ前記数式6と前記数式7を代入して濃度Cについて整理して下記数式9を得、
【数9】
超音波減衰率α(fj)の関数として前記試料液体の濃度Cを重回帰分析により求める。
【請求項2】
請求項1の浮遊物質解析方法において、
粒径別の濃度を示す前記数式9中の
【数10】
を用いて下記数式11として示し、
【数11】
(ここで、ciは粒径階Diの濃度[mg/リットル]、α(fj)は周波数fjの超音波減衰率[dB/MHz]、βijは偏回帰係数、nは周波数fjの数である。)
これにより前記試料液体中の浮遊物質の粒径別の濃度を求めることを特徴とする浮遊物質解析方法。
【請求項3】
請求項2の浮遊物質解析方法において、
前記数式9に前記数式11を代入して下記数式12を得て、
【数12】
(ここで、Cは濃度[mg/リットル]、ciは粒径階Diの濃度[mg/リットル]、mは粒径階の分割数である。)
減衰率を考慮した相対粒子量を測定可能とし、
試料液体の濃度を、粒径別濃度の総和として求めることを特徴とする浮遊物質解析方法。
【請求項4】
請求項3の浮遊物質解析方法において、
試料液体の濃度Cと超音波減衰率α(fj)から前記数式6を用いて単位濃度減衰率λ(fj)を算定し、
相対粒子量g(Di)は前記数式7の重回帰モデルの偏回帰係数と単位濃度減衰率λ(fj)を用い、
【数13】
(ここで、g(Di)は粒径階Diの相対粒子量[%]、fjは周波数[MHz]、βijは偏回帰係数、λ(fj)は周波数fjの単位濃度減衰率、mは粒径階の分割数、nは周波数fjの数である。)
により相対粒子量を求めることを特徴とする浮遊物質解析方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかの浮遊物質解析方法を用い、河床変動計算において浮流砂の濃度を求める浮遊砂濃度の解析方法であって、
(1)前記浮流砂の濃度を、容積表示で下記数式14のように表示し、
【数14】
(ここで、流量をQ[m3/s]、その流量中の浮流砂量をQs[m3/s]である。)
(2)土粒子の密度をρ[mg/cm3]として、重量表示の濃度Cwと容積表示の濃度Cvolとの関係を下記数式15で表し、
【数15】
上記数式6に示す単位濃度減衰率λ(fj)を計算する際に、上記数式14を用いて濃度Cを容積表示の濃度Cvolとして解析することによって、前記数式12で算出される濃度Cを無次元量である容積表示の濃度Cvolとすることを特徴とする浮遊砂濃度の解析方法。
【請求項6】
請求項1から4のいずれかの浮遊物質解析方法を用い、液体中の浮遊物質を解析することを特徴とする浮遊物質解析システム。
【請求項7】
請求項5の浮遊砂濃度の解析方法を用い、河床変動計算において浮流砂の濃度を求めることを特徴とする浮遊砂濃度の解析システム。
【図11】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2010−261719(P2010−261719A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−110230(P2009−110230)
【出願日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(000217686)電源開発株式会社 (207)
【出願人】(507240417)北斗理研株式会社 (2)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(000217686)電源開発株式会社 (207)
【出願人】(507240417)北斗理研株式会社 (2)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】
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