説明

浸窒焼入れ方法、浸窒焼入れ用ヒーター、および浸窒焼入れ装置

【課題】ヒーター表面でのアンモニアガスの分解量を一定にして、炉内の残留アンモニア濃度を安定させ、浸窒焼入れ部品の品質を向上することができる浸窒焼入れ方法、浸窒焼入れ用ヒーター、浸窒焼入れ装置を提供する。
【解決手段】鉄または鉄合金にて構成されるワーク11をアンモニアが供給される熱処理炉1内に設置し、金属部材にて構成され熱処理炉1内雰囲気に接触するように配置されるヒーター13により前記熱処理炉1内を加熱することで、前記ワーク11に窒素を浸透拡散させるとともに焼入れを行う浸窒焼入れ方法であって、前記ヒーター13の表面における酸化膜の形成範囲を調整することにより、ヒーター13表面でのアンモニアの分解度合いを制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄または鉄合金にて構成されるワークをアンモニアが供給される炉内に設置し、金属部材にて構成され炉内雰囲気に接触するように配置されるヒーターにより前記炉内を加熱し、その後焼入れ処理を行うことで、前記ワークに窒素を浸透拡散させるとともに焼入れを行う浸窒焼入れ方法、浸窒焼入れ用ヒーター、および浸窒焼入れ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、鉄や鉄合金にて構成されるワークの表面に窒素を浸透拡散させるとともに焼入れ処理を施して、ワークの表面に硬化層を形成した浸窒焼入れ品を得ることが行われている。
このような浸窒焼入れ品としては、例えば特許文献1に記載されるようなものがある。
つまり、特許文献1には、浸窒焼入れが行われ、表層に窒素をより多く含有する層を設けたリング状の鋼材が記載されている。
【0003】
また、前記浸窒焼入れ品を得るための浸窒焼入れ処理は、例えば、鉄や鉄合金にて構成されたワークを密閉された炉内に設置し、炉内をヒーターにより加熱して浸窒温度に昇温させた後、この浸窒温度を維持しつつ前記炉内にアンモニアガスを導入して浸窒処理し、前記ワークに表面から窒素を浸透拡散させたうえで、前記ワークを炉内から取り出し、急冷して焼入れを行うことにより行われている。
【0004】
この場合、浸窒焼入れ処理に用いられるヒーターは、炉内雰囲気に接触するように設けられている。
また、前記ヒーターとしては、その耐熱性や耐食性の観点から、インコネル(INCONEL:登録商標)にて構成されるヒーターが用いられることが多いが、ヒーターを構成するインコネルは、ニッケルを母材とし、クロムや鉄等を含有する合金である。
【0005】
ここで、前記炉内においては、供給されたアンモニアガスは図6に示すように窒素と水素とに分解するが、そのほとんどはヒーター表面にて分解が進行する。
つまり、ヒーター表面は高温に加熱されており、ヒーターとして用いられるインコネルの主成分であるニッケル(Ni)がアンモニアの分解に対して触媒として作用してヒーター表面での分解が促進されるため、アンモニアガスの多くがヒーター表面で分解することとなる。
【0006】
一方、ヒーター表面においては、インコネルの構成成分であるクロム(Cr)や、不純物として含まれる微量のチタン(Ti)やアルミニウム(Al)が酸化膜を形成するが、酸化膜が形成された部分ではアンモニアガスのニッケルとの接触が阻止され、アンモニアの分解が抑制されることとなる。
【0007】
また、浸窒焼入れ処理時には、炉内にはアンモニアガスや窒素ガスが供給されているが、炉内に微量に含まれている酸素によりヒーター表面への酸化膜の形成が進行したり、ワークを炉内へ設置するときや炉内から取り出すときの扉開閉時に炉内に侵入する酸素によりヒーター表面への酸化膜の形成が進行したりして、ヒーターの表面状態が変化する。
このようにヒーター表面の酸化が制御されることなく繰り返されることで、ヒーター表面に形成される酸化膜の面積が変化し、ヒーター表面における酸化膜形成範囲が不安定となる。
【0008】
このように、ヒーター表面の酸化状態が変化する、即ちヒーター表面に形成される酸化膜の面積が変化すると、アンモニアガスが接触できるヒーター表面の面積が変わるため、アンモニアガスの分解量が大きく変化することとなる。
この結果、炉内の残留アンモニア濃度が変化し、得られた浸窒焼入れ品における浸窒状態にばらつきが生じて、浸窒焼入れ品の品質が変化してしまうこととなる。
【特許文献1】特開昭63−303132号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明では、ヒーター表面でのアンモニアガスの分解量を一定にして、炉内の残留アンモニア濃度を安定させ、浸窒焼入れ品の品質を向上することができる浸窒焼入れ方法、浸窒焼入れ用ヒーター、および浸窒焼入れ装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する浸窒焼入れ方法、浸窒焼入れ用ヒーター、および浸窒焼入れ装置は、以下の特徴を有する。
即ち、請求項1記載の如く、鉄または鉄合金にて構成されるワークをアンモニアが供給される炉内に設置し、金属部材にて構成され炉内雰囲気に接触するように配置されるヒーターにより前記炉内を加熱し、その後焼入れ処理を行うことで、前記ワークに窒素を浸透拡散させるとともに焼入れを行う浸窒焼入れ方法であって、前記ヒーターの表面における酸化膜の形成範囲を調整することにより、ヒーター表面でのアンモニアの分解度合いを制御する。
【0011】
また、請求項2記載の如く、前記ヒーターの表面における酸化膜の形成範囲の調整は、ヒーター表面に形成されている酸化膜を所定期間毎に除去することにより行う。
【0012】
また、請求項3記載の如く、前記ヒーターの表面における酸化膜の形成範囲の調整は、所定期間毎にヒーター表面に酸化膜を形成することにより行う。
【0013】
また、請求項4記載の如く、アンモニアが供給される炉内に設置され鉄または鉄合金にて構成されたワークを加熱して、前記ワークに窒素を浸透拡散させるとともに焼入れを行うための浸窒焼入れ用ヒーターであって、炉内雰囲気に接触するように配置され、ヒーター表面でのアンモニアの分解度合いを制御するために、ヒーターの表面における酸化膜の形成範囲の調整がなされる。
【0014】
また、請求項5記載の如く、前記ヒーターの表面における酸化膜の形成範囲の調整が、ヒーター表面に形成されている酸化膜を所定期間毎に除去することにより行われる。
【0015】
また、請求項6記載の如く、前記ヒーターの表面における酸化膜の形成範囲の調整が、所定期間毎にヒーター表面に酸化膜を形成することにより行われる。
【0016】
また、請求項7記載の如く、浸窒焼入れ装置は、請求項4〜6の何れか一項に記載の前記ヒーターを備える。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、熱処理炉内におけるヒーター表面でのアンモニアガスの分解量を一定にして、熱処理炉内の残留アンモニア濃度を安定させ、浸窒焼入れ品の品質を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、本発明を実施するための形態を、添付の図面を用いて説明する。
【0019】
図1に示す熱処理炉1は、鉄または鉄合金にて構成されるワーク11の表面に窒素を浸透拡散させるとともに焼入れを施す浸窒焼入処理を行うための浸窒焼入れ装置を構成するものである。
前記熱処理炉1は、前室1aと、前記前室1aに連続して配置される加熱室1bと、前記前室1aの下方に配置される焼入れ油槽1cとを備えている。
【0020】
前室1aと外部との間には第一開閉扉15aが設けられ、前室1aと加熱室1bとの間には第二開閉扉15bが設けられている。
また、加熱室1b内には加熱室1b内を加熱するためのヒーター13と、加熱室1b内の雰囲気を攪拌するためのファン14と、加熱室1b内にアンモニアガスおよび窒素ガスをそれぞれ供給するためのガス供給管3a・3bとが設けられている。
さらに前記焼入れ油槽1c内には、焼入れ時にワーク11を急冷するための油が貯溜されている。
【0021】
このように構成される熱処理炉1によりワーク11の浸窒焼入れ処理が行われるが、浸窒焼入れ処理を行う際には、まずトレイなどに載置されたワークを前室1a内に搬送する。
前室1aにワーク11を搬送した後、前記第一開閉扉15aおよび第二開閉扉15bを閉じて前室1a内を真空引きし、その後前室1a内に窒素ガスを充填する。
【0022】
次に、前記第二開閉扉15bを開いてワーク11を前室1aから加熱室1b内に搬送する。
加熱室1b内にワーク11が搬送された後、前記ヒーター13により加熱室1b内の雰囲気を加熱することによりワーク11の加熱を行う。この場合、前記ファン14により加熱室1b内の雰囲気を攪拌することで、加熱室1b内における各箇所の温度、雰囲気を一定にしている。
ヒーター13によりワーク11を加熱した後、加熱状態を維持しながら、前記ガス供給管3a・3bから加熱室1b内に所定流量のアンモニアガスおよび窒素ガスを供給する。
【0023】
つまり、加熱室1bでのワーク11への浸窒処理は、アンモニアガスおよび窒素ガスの雰囲気下で行われる。
また、加熱室1bにてワーク11へ浸窒処理を行うときには加熱室1b内の雰囲気をヒーター13により所定の温度に加熱するが、前記ヒーター13による加熱は、加熱室1b内の温度が所定の時間だけ所定の温度に維持されるように、熱処理炉1に接続される制御装置2により制御される。
【0024】
なお、ワーク11に対する浸窒処理を行うときには、加熱室1bのヒーター13による加熱は、例えばワーク11の温度が600〜800℃程度となるように行われる。
また、前記制御装置2は、前記ファン14の運転や熱処理炉1内におけるワーク11の搬送や、第一開閉扉15aおよび第二開閉扉15bの開閉や、加熱室1b内へのアンモニアガスや窒素ガスの供給などの制御も行う。
【0025】
加熱室1bでのワーク11の加熱が完了すると、前記第二開閉扉15bを開いてワーク11を前記焼入れ油槽1cへ搬送し、該焼入れ油槽1c内の油にワーク11を浸漬して急冷する。
これにより、ワーク11の焼入れが行われ、浸窒焼入れ品が得られる。
【0026】
前記加熱室1b内に設けられるヒーター13は、その表面が熱処理炉1内の雰囲気に接触するように設けられている。
前記ヒーター13は、例えば加熱室1b内における側面の一箇所または複数箇所に配置されている。
【0027】
また前記ヒーター13としては、その耐熱性や耐食性の観点から、インコネル(INCONEL:登録商標)にて構成されるヒーターが用いられている。
なお、ヒーター13を構成するインコネルは、ニッケルを母材とし、クロムや鉄等を含有する合金であり、不純物としてチタンやアルミニウム等が混入している場合がある。
【0028】
浸窒処理時においては、加熱される前記熱処理炉1内に供給されたアンモニアガスは図6に示すように窒素と水素とに分解するが、そのほとんどは前記ヒーター13の表面にて分解が進行する。
【0029】
この場合、ヒーター13として用いられるインコネルの主成分であるニッケル(Ni)は、アンモニアの分解に対して触媒として作用するため、前記熱処理炉1内に供給されたアンモニアガスの分解がヒーター13表面で促進されることとなる。
【0030】
一方、ヒーター13表面においては、インコネルの構成成分であるクロム(Cr)や、不純物として含まれる微量のチタン(Ti)やアルミニウム(Al)が酸化膜を形成するが、酸化膜が形成された部分ではアンモニアガスのニッケルとの接触が阻止され、アンモニアの分解が抑制されることとなる。
【0031】
従って、図2に示すように、ヒーター13表面に酸化膜が形成されていない状態では、熱処理炉1内のアンモニアガスがヒーター13表面の広範囲にわたって接触することができ、図4の上側の式に示すように、ニッケル(Ni)との接触によりアンモニアの分解が促進される。
アンモニアの分解が促進されることにより、熱処理炉1内の残留アンモニア濃度が低下することとなる。
【0032】
なお、アンモニアの分解を促進する触媒としての作用はニッケル(Ni)において顕著であるが、他の金属においてもアンモニアの分解を促進する触媒としての作用を有している。
また、本例ではヒーター13としてインコネルにて構成されるヒーターを用いたが、そのほかにもSUSなどの他の金属部材にて構成されるヒーターを用いることが可能である。
【0033】
また、図3に示すように、ヒーター13表面の広範囲に酸化膜が形成されている状態では、熱処理炉1内のアンモニアガスのヒーター13表面への接触(ニッケルとの接触)が阻害されて、図4の下側の式に示すように、アンモニアの分解が抑制される。
アンモニアの分解が抑制されることにより、熱処理炉1内の残留アンモニア濃度が上昇することとなる。
【0034】
このように、ヒーター13表面の酸化膜形成範囲(酸化膜が形成される面積)によりアンモニア分解の進行度合いが変化するため、ヒーター13表面の酸化膜形成範囲を調整することにより、ヒーター13表面でのアンモニアの分解度合いを制御し、熱処理炉1内の残留アンモニア濃度を所望の値に調節することが可能である。
【0035】
そこで、本例の浸窒焼入れ方法においては、前記ヒーター13の表面における酸化膜の形成範囲の大きさを調整して、ヒーター13表面に形成される酸化膜の面積を一定にすることにより、ヒーター13表面でのアンモニアの分解度合いを制御して、熱処理炉1内の残留アンモニア濃度を一定に保持し、浸窒焼入れにより得られる浸窒焼入れ品の、表面の硬度や硬化深さなどといった浸窒状態のばらつきを抑えて、浸窒焼入れ品の品質の向上を図るようにしている。
【0036】
ヒーター13の表面における酸化膜の形成範囲の調整は、例えばヒーター13表面に既に形成されている酸化膜を所定期間毎に除去して、所定の形成範囲に揃えることにより行うことができる。
【0037】
この場合、酸化膜を除去するタイミングとしては、例えば浸窒焼入れ処理を行う毎に、つまり各回の浸窒焼入れ処理を行う前のタイミングで、または各回の浸窒焼入れ処理が終了したタイミングで酸化膜を除去することができる。
【0038】
また、酸化膜の除去は、熱処理炉1内の雰囲気を還元雰囲気にしたり真空にしたりすることで行うことができる。
さらに、酸化膜の除去は、ヒーター13の表面に形成されている酸化膜の一部を除去するように行ったり、形成されている酸化膜の全部を除去するように行ったりすることができる。
【0039】
このように、ヒーター13の表面に形成される酸化膜を除去して、酸化膜がヒーター13表面における所定の大きさの面積に形成されている状態に調整することで、熱処理炉1内の残留アンモニア濃度を安定させて、浸窒焼入れ処理により得られた浸窒焼入れ品の品質を向上することができる。
【0040】
また、ヒーター13の表面における酸化膜の形成範囲の調整は、例えば所定期間毎にヒーター13表面に酸化膜を形成して、ヒーター13表面における酸化膜の形成範囲を所定の範囲に揃えることにより行うことができる。
【0041】
この場合、酸化膜を形成するタイミングとしては、例えば浸窒焼入れ処理を行う毎に、つまり各回の浸窒焼入れ処理を行う前のタイミングで、または各回の浸窒焼入れ処理が終了したタイミングで酸化膜を形成することができる。
【0042】
また、酸化膜の形成は、熱処理炉1内に大気または酸素を含むガスを導入して、導入した大気またはガスの酸素によりヒーター13表面を酸化させることで行うことができる。
【0043】
このように、ヒーター13の表面に形成されている酸化膜を除去したり、ヒーター13の表面に酸化膜を形成したりして、ヒーター13の表面に形成される酸化膜の範囲の調整を行うことで、ヒーター13表面でのアンモニアガスの分解量を一定にして、熱処理炉1内の残留アンモニア濃度を安定させ、浸窒焼入れ品の品質を向上することが可能となっている。
【0044】
つまり、浸窒焼入れ装置を構成する熱処理炉1においては、ヒーター13表面でのアンモニアの分解度合いを制御して熱処理炉1内の残留アンモニア濃度を安定させ、浸窒焼入れ品の品質を向上するために、ヒーター13の表面における酸化膜の形成範囲の調整がなされている。
【0045】
次に、本浸窒焼入れ方法によりヒーター13の表面における酸化膜の形成範囲の調整を行う場合の例として、例えば実際にヒーター13の表面を酸化させて、該表面に酸化膜を形成した後に浸窒焼入れ処理を行った場合の残留アンモニア濃度、および実際にヒーター13の表面を還元して、該表面に形成されていた酸化膜を除去した後に浸窒焼入れ処理を行った場合の残留アンモニア濃度について説明する。
【0046】
まず、第一実施例では、浸窒焼入れ処理を行う前に、熱処理炉1内の雰囲気を800℃に加熱するとともに、1m/hrの窒素および0.1m/hrの空気を導入ガスとして熱処理炉1内に導入してヒーター13の表面を酸化させて、該表面に酸化膜を形成した後に浸窒焼入れ処理を行い、そのときの残留アンモニア濃度を測定した。
この場合の、浸窒焼入れ処理は、熱処理炉1内雰囲気の加熱温度を800℃とし、熱処理炉1内への導入ガスを1m/hrの窒素および1.7m/hrのアンモニアとして行った。
【0047】
また、第二実施例では、浸窒焼入れ処理を行う前に、熱処理炉1内の雰囲気を930℃に加熱するとともに、1m/hrの窒素および1.7m/hrのアンモニアを導入ガスとして熱処理炉1内に導入してヒーター13の表面を還元して、該表面に形成されていた酸化膜を除去した後に浸窒焼入れ処理を行い、そのときの残留アンモニア濃度を測定した。
この場合の、浸窒焼入れ処理は、熱処理炉1内雰囲気の加熱温度を800℃とし、熱処理炉1内への導入ガスを1m/hrの窒素および1.7m/hrのアンモニアとして行った。
【0048】
さらに、比較例として、ヒーター13表面の酸化・還元を特に行わず、ヒーター13の表面における酸化膜の形成範囲を調整せずに浸窒焼入れ処理を行い、そのときの残留アンモニア濃度を測定した。
【0049】
このようにして測定した第一実施例、第二実施例、および比較例についての残留アンモニア濃度を図5に示す。
図5によれば、測定を複数回の浸窒焼入れ処理について行った場合の残留アンモニア濃度のばらつきは、比較例の残留アンモニア濃度のばらつきRcが最も大きく第一実施例および第二実施例の残留アンモニア濃度のばらつきR1・R2は、それぞれ比較例のばらつきRcよりも大幅に小さくなっている。
また、第二実施例の残留アンモニア濃度のばらつきR2は、第一実施例の残留アンモニア濃度のばらつきR1よりも小さくなっている。
【0050】
例えば、第一実施例のばらつきR1は比較例のばらつきRcの1/3程度以下となっており、第二実施例のばらつきR2は比較例のばらつきRcの1/7程度以下となっており、第二実施例のばらつきR2は第一実施例のばらつきR1の半分程度以下となっている。
【0051】
このように、浸窒焼入れ処理を行う前にヒーター13表面を酸化させることによりヒーター13の表面における酸化膜の形成範囲を調整した第一実施例、および浸窒焼入れ処理を行う前にヒーター13表面を還元することによりヒーター13の表面における酸化膜の形成範囲を調整した第二実施例の残留アンモニア濃度のばらつきR1・R2は、酸化膜の形成範囲の調整を行わなかった比較例の残留アンモニア濃度のばらつきRcに比べて大幅に小さくなっており、安定していることがわかる。
【0052】
特に、酸化膜形成範囲の調整を行った場合でも、ヒーター13の表面を酸化する実施例1の条件で酸化膜形成範囲の調整を行った場合のばらつきR1に比べて、ヒーター13の表面を還元する実施例2の条件で酸化膜形成範囲の調整を行った場合のばらつきR2の方が小さく、安定している。
但し、実施例1の場合は、浸窒焼入れ処理時における熱処理炉1内の残留アンモニア濃度が実施例2の場合に比べて高くなるため、同一品質の浸窒焼入れ品を得るために浸窒焼入れ処理時に必要となる導入ガス量が、実施例2の場合よりも少なくて済む。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】熱処理炉を示す概略図である。
【図2】ヒーター表面に酸化膜が形成されていない状態における、ヒーター表面でのアンモニアの分解の様子を示す模式図である。
【図3】ヒーター表面の広範囲に酸化膜が形成されている状態における、ヒーター表面でのアンモニアの分解の様子を示す模式図である。
【図4】ヒーター表面に酸化膜が形成されていない状態でのアンモニアの分解反応式および酸化膜が形成されている状態でのアンモニアの分解反応式を示す図である。
【図5】ヒーターの表面における酸化膜の形成範囲の調整を行った場合の残留アンモニア濃度と、ヒーターの表面における酸化膜形成範囲の調整を行わなかった場合の残留アンモニア濃度とを比較した様子を示す図である。
【図6】熱処理炉内における一般的なアンモニアの分解反応式を示す図である。
【符号の説明】
【0054】
1 熱処理炉
2 制御装置
3 ガス供給管
11 ワーク
12 治具
13 ヒーター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄または鉄合金にて構成されるワークをアンモニアが供給される炉内に設置し、金属部材にて構成され炉内雰囲気に接触するように配置されるヒーターにより前記炉内を加熱し、その後焼入れ処理を行うことで、前記ワークに窒素を浸透拡散させるとともに焼入れを行う浸窒焼入れ方法であって、
前記ヒーターの表面における酸化膜の形成範囲を調整することにより、ヒーター表面でのアンモニアの分解度合いを制御する、
ことを特徴とする浸窒焼入れ方法。
【請求項2】
前記ヒーターの表面における酸化膜の形成範囲の調整は、
ヒーター表面に形成されている酸化膜を所定期間毎に除去することにより行う、
ことを特徴とする請求項1に記載の浸窒焼入れ方法。
【請求項3】
前記ヒーターの表面における酸化膜の形成範囲の調整は、
所定期間毎にヒーター表面に酸化膜を形成することにより行う、
ことを特徴とする請求項1に記載の浸窒焼入れ方法。
【請求項4】
アンモニアが供給される炉内に設置され鉄または鉄合金にて構成されたワークを加熱して、前記ワークに窒素を浸透拡散させるとともに焼入れを行うための浸窒焼入れ用ヒーターであって、
炉内雰囲気に接触するように配置され、
ヒーター表面でのアンモニアの分解度合いを制御するために、ヒーターの表面における酸化膜の形成範囲の調整がなされる、
ことを特徴とする浸窒焼入れ用ヒーター。
【請求項5】
前記ヒーターの表面における酸化膜の形成範囲の調整が、
ヒーター表面に形成されている酸化膜を所定期間毎に除去することにより行われる、
ことを特徴とする請求項4に記載の浸窒焼入れ用ヒーター。
【請求項6】
前記ヒーターの表面における酸化膜の形成範囲の調整が、
所定期間毎にヒーター表面に酸化膜を形成することにより行われる、
ことを特徴とする請求項5に記載の浸窒焼入れ用ヒーター。
【請求項7】
請求項4〜6の何れか一項に記載の前記ヒーターを備える、
ことを特徴とする浸窒焼入れ装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−299122(P2009−299122A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−154204(P2008−154204)
【出願日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(591080531)株式会社日本テクノ (9)
【Fターム(参考)】