説明

消臭剤組成物

【課題】 低コストで消臭作用に優れ、かつ、着色変化が僅少な新規の消臭剤組成物を提供すること。
【解決手段】 (A)レモンバーム抽出物又はローズバッツ抽出物と(B)ペルオキシダーゼを含有する。(A)成分に対する(B)成分の配合量は、(B)成分/(A)成分(重量比)として0.001〜1が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レモンバーム抽出物又はローズバッツ抽出物を含有する消臭剤組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
口臭はメチルメルカプタンをはじめとする揮発性硫黄化合物が主な原因であり、多くの人に不快感を与える。従来から、口臭を除去するため、種々の消臭剤が開発・提案されている。これらの中でも、人体への安全性を考慮したものとして、植物抽出物を利用した消臭剤が種々提案されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0003】
しかし、上記消臭剤は消臭力が弱く効果が不十分であったり、上記消臭剤を食品中に多量に配合すると、風味や色調に悪影響を与える等の問題点があった。
【0004】
そこで、消臭力が強く、安全に使用できるものとして、特定の植物抽出物とフェノール性化合物を酸化する酵素とを併用した消臭剤(特許文献3参照)が提案されている。
【0005】
【特許文献1】特開昭57−204278号公報
【特許文献2】特開昭61−240960号公報
【特許文献3】特開平10−212221号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献3に記載の消臭剤は、ある程度の消臭作用を示すものの、植物抽出物に対する酵素の使用量が多く、コスト的に十分満足できるものとはいえない上、本発明者らの検討によれば、酸化酵素及びフェノール性化合物を併用した場合、消臭反応前後における着色変化が大きく、食品の添加原料としての使用は躊躇される。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、低コストで消臭作用に優れ、かつ、着色変化が僅少な新規の消臭剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、植物抽出物のうち、レモンバーム抽出物及びローズバッツ抽出物に着目し、レモンバーム抽出物又はローズバッツ抽出物とペルオキシダーゼとを併用すると、レモンバーム抽出物又はローズバッツ抽出物に対してペルオキシダーゼを極少量しか含まない場合でも、優れた消臭作用を発揮すると共に、消臭反応前後において着色変化がほとんど起こらないことを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
〔1〕 (A)レモンバーム抽出物又はローズバッツ抽出物と(B)ペルオキシダーゼを含有することを特徴とする消臭剤組成物、
〔2〕 (B)成分/(A)成分(重量比)が0.001〜1である、前記〔1〕記載の消臭剤組成物、
〔3〕 前記〔1〕又は〔2〕記載の消臭剤組成物を含有する食品、
〔4〕 消臭剤組成物を0.0001〜10重量%含有する前記〔3〕記載の食品、
〔5〕 食品がチューインガム、キャンディー、錠菓、グミキャンディー又はフィルム状食品である、前記〔3〕又は〔4〕記載の食品。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、低コストで消臭作用に優れ、かつ、着色変化が僅少な新規の消臭剤組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、(A)レモンバーム抽出物又はローズバッツ抽出物と(B)ペルオキシダーゼを含有する点に特徴がある。
【0012】
レモンバームはシソ科の多年生草本であり、通常、地上部全草を乾燥して粉砕したものが抽出原料として用いられる。ローズバッツはバラ科ローズの花びらであり、通常、開花前のつぼみを乾燥して粉砕したものが抽出原料として用いられる。本発明の(A)成分は、上記抽出原料を、抽出溶剤を用いて抽出することによって製造することができる。
【0013】
抽出溶剤としては極性溶剤が好ましく、例えば、水、低級脂肪族アルコール、又はこれらの混合物を挙げることができる。低級脂肪族アルコールとしては、例えば、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、1,3−ブチレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、イソプレングリコール等が挙げられる。上記のうち、水が特に好ましい。抽出溶剤として含水の低級脂肪族アルコールを用いる場合、それに含まれるアルコール量は10〜90重量%とすることができる。
【0014】
抽出溶剤としての水は特に限定されず、例えば、純水、水道水、井戸水又はこれらにイオン交換、膜処理、ろ過、加熱殺菌、蒸留、pH調製等の各種処理を施したものを使用することができる。
【0015】
抽出条件は抽出原料の性質に応じて適宜種々の方法を採ることができる。一例としては、上記抽出原料に、3〜20倍の極性溶剤を加え、含浸若しくは撹拌を行い、抽出を行う方法が挙げられる。抽出時間は30分〜1日が好ましく、抽出温度は室温〜100℃が好ましい。
【0016】
抽出操作は1回でもよいが、抽出後に回収した抽出原料残渣にさらに極性溶剤を添加し、抽出操作を再度行うことができる。複数回の抽出操作で得られた抽出液は一つの抽出液として合わせることもできるし、いずれかの抽出液を当該エキスとして使用することもできる。
【0017】
(A)成分の形態は特に限定されず、例えば、抽出液そのものの他、抽出液の希釈液、濃縮液、凍結乾燥品又は分画若しくは精製処理工程を経た精製物等が挙げられる。
【0018】
なお、抽出原料は、極性溶剤で抽出する前に、非極性溶剤(例えば、ヘキサン、ベンゼン、トルエン等)を添加し、脂溶性成分を非極性溶剤に溶解し、除去してもよい。
【0019】
(A)成分は、さらに機能性を高めるために、例えば、活性炭処理、吸着樹脂処理、イオン交換樹脂処理等の精製処理を単独で又は適宜組み合わせて行うことができる。また、抽出物の取り扱いを容易にするため、製剤化等の加工処理を施すことができる。
【0020】
ペルオキシダーゼは、アブラナ科セイヨウワサビ(Armoracia rusticana)、アブラナ科ダイコン(Rahpauns acanthiformis)若しくはキュウリ科キュウリ(Cucumis sativus)より搾汁したもの、又は糸状菌(Alternaria,Aspergillus oryzae,Coprinus cinereus,Oidiodendron)若しくは細菌(Bacillus)の培養液より、冷時〜室温時水で抽出して得られたもの、若しくは冷時〜室温時濃縮、精製を行ったものである。本発明の(B)成分のペルオキシダーゼは、入手が容易なことから、市販品を用いることが好ましい。
【0021】
上述した(A)成分又は(B)成分単独では優れた消臭効果を発揮せず、両者を併用することで優れた消臭効果が発揮される。このような優れた消臭効果は、(A)成分に対して(B)成分を極少量配合することで達成される。具体的には、(A)成分に対する(B)成分の配合量は、(B)成分/(A)成分(重量比)として0.001〜1が好ましく、0.001〜0.1がさらに好ましく、0.001〜0.01が特に好ましい。(B)成分/(A)成分(重量比)が0.001未満の場合、消臭作用が弱くなる。一方、(B)成分/(A)成分(重量比)が1を越えると、コストが高くなり好ましくない。
【0022】
本発明の消臭剤組成物には、虫歯の予防等を目的とする場合、(A)成分の他にグルコシルトランスフェラーゼ阻害剤、プラーク形成阻害剤、う蝕や歯周病などを発生させる口腔内病原性細菌に対する抗菌剤、抗炎症剤又は他の消臭剤を含有させることができる。
【0023】
グルコシルトランスフェラーゼ阻害剤、プラーク形成阻害剤としては、例えば、ウラジロガシ、エゾウコギ、ゴオウ、ロクジョウ、ジオウ、ウコン、シンイ、コウカ、ゴマ、キジツ、カンゾウ、ゲンチアナ、センナ、センブリ、芍薬、柿、ケンポナシ、ビワ、マイカイ、ハマナス、タマリンド、オレンジ、ユーカリ、ナツメ、ブドウ種子、ブドウ葉などの各種抽出物を挙げることができる。
【0024】
前記口腔内病原性細菌に対する抗菌剤としては、例えば、塩化セチルピリジニウム、トリクロサン、塩化ベンズアルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化ココホスファチジル−ジモニウム、トリクロロカルバニド、ジンクピリチオン、イソプロピルメチルフェノール、アップルフェノン、ヒノキチオール、ポリリジン、緑茶抽出物、カテキン、桑白皮抽出物、イチョウ葉抽出物、チモール、サリチル酸メチル、オイゲノール、1,8−シオネール、メントール等を挙げることができる。
【0025】
抗炎症剤としては、例えば、アセンヤク、ウラジロガシ、オウゴン、甘草、サイコ、サンザシ、シソ、芍薬、桑白皮、キョウニン、タイソウ、チョウジ、トウニン、ナツメグ、メース、タイム、ボタンピ、アズレン、アラントイン、グリチルリチン、トラネキサム酸等を挙げることができる。
【0026】
他の消臭剤としては、例えば、ケイヒ、クローブ、ナツメグ、メース、タイム、シソ、イチョウ葉、柿葉、ウーロン茶、銅クロロフィリンナトリウム、マルトール等を挙げることができる。
【0027】
本発明の消臭剤組成物には、上記の任意成分の他、用途に応じて、例えば、界面活性剤、粘結剤、湿潤剤、甘味剤、保存剤、香料、色素等の公知の添加剤を含有させることができる。界面活性剤としては、例えば、ショ糖脂肪酸エステル等を挙げることができる。粘結剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、カラギーナン、アラビアガム等を挙げることができる。湿潤剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、ソルビトール、グリセリン、プロピレングリコール等を挙げることができる。甘味剤としては、例えば、サッカリン、ステビオシド、グリチルリチン、ソーマチン、アスパルテーム、アセスルファムK、スクラロース等を挙げることができる。保存剤としては、例えば、デヒドロ酢酸、安息香酸、パラベン類等を挙げることができる。香料としては、例えば、メントール、メントン、カルボン、オイゲノール、チモール、アネトール、ハッカ油、ペパーミント油、スペアミント油、ユーカリ油、ジンジャー油、アニス油等を挙げることができる。
【0028】
本発明の消臭剤組成物は悪臭を除去することができるが、悪臭物質としては、例えば口臭の原因となるメチルメルカプタンが挙げられる。
【0029】
本発明の消臭剤組成物は、通常、食品の添加原料として配合される。食品の種類は特に限定されないが、例えば、菓子類(例えば、チューインガム、(グミ)キャンディー、錠菓等)、フィルム状食品等を例示することができる。食品への添加量は、摂取したときの放出速度、溶解濃度、嗜好性に応じて適宜変更され得るが、通常は、食品中に(A)成分を0.0001〜10重量%含有させており、好ましくは0.005〜1重量%含有させる。
【実施例】
【0030】
以下、試験例などにより本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらによりなんら限定されるものではない。
【0031】
1.消臭剤成分の調製例
消臭試験及び着色試験で使用する消臭剤成分の調製例を以下に示す。
【0032】
(1)レモンバーム抽出物の製造例
レモンバーム地上部全草の乾燥粉砕物50gを300gの蒸留水に加え、2時間加熱還流した。得られた抽出混合物を室温下で放置・冷却後、ろ過を行い、抽出液と残渣に分けた。残渣に300gの蒸留水を加え、上記と同条件で加熱還流、冷却及びろ過操作を行った。得られた抽出液と先に得られた抽出液とを一つに合わせた後、減圧下にて濃縮し、約2.0gのレモンバーム抽出物を得た。
【0033】
(2)ローズバッツ抽出物の製造例
抽出原料にローズの開花前のつぼみの乾燥粉砕物を用いた以外は、上記「(1)レモンバーム抽出物の製造例」と同様の方法で、約1.7gのローズバッツ抽出物を得た。
【0034】
(3)ゲットウ抽出物の製造例
ゲットウ葉の乾燥粉砕物40gを400gの含水エタノール(含水率70%(v/v))に加え、2時間加熱還流した。得られた抽出混合物を室温下で放置・冷却後、ろ過を行い、抽出液と残渣に分けた。残渣に400gの含水エタノール(含水率70%(v/v))を加え、上記と同条件で加熱還流、冷却及びろ過操作を行った。得られた抽出液と先に得られた抽出液とを一つに合わせた後、減圧下にて濃縮し、約2.4gのゲットウ抽出物を得た。
【0035】
(4)スターフルーツ抽出物の製造例
スターフルーツ乾燥葉粉砕物50gを500gの含水エタノール(含水率70%(v/v))に加え、2時間加熱還流した。得られた抽出混合物を室温下で放置・冷却後、ろ過を行い、抽出液と残渣に分けた。残渣に500gの含水エタノール(含水率70%(v/v))を加え、上記と同条件で加熱還流、冷却及びろ過操作を行った。得られた抽出液と先に得られた抽出液とを一つに合わせた後、減圧下にて濃縮し、約1.9gのスターフルーツ抽出物を得た。
【0036】
その他、ブドウ種子抽出物はキッコーマン(株)製の市販品(商品名:グラヴィノール)を、茶抽出物は太陽化学(株)製の市販品(商品名:サンフェノン)を、クランベリー抽出物はキッコーマン(株)製の市販品(商品名:クランベリーパウダー)を、モウソウチク抽出物はタケックス(株)製の市販品(商品名:タケフォニン)を使用した。
【0037】
上記の各抽出物に対してペルオキシダーゼを配合して消臭剤組成物を製造するにあたり、各抽出物に対するペルオキシダーゼの配合量は、ペルオキシダーゼ/抽出物(重量比)で0.001とした。なお、ペルオキシダーゼは、オリエンタル酵母社製の西洋ワサビ由来のもの(比活性:450U/mg)を用いた。
【0038】
2.消臭試験及び着色試験
口臭の代表的な悪臭成分であるメチルメルカプタンに対して消臭試験を行った。口腔内の状態を模擬するため、密閉可能な100ml容積のバイアル瓶中で、表1に示す消臭剤を、0.1Mリン酸緩衝液(pH7.2)20mlに対し、0.01%(w/v)になるように溶解あるいは分散させ、次いで100ppmのメチルメルカプタン溶液0.1mlを添加して直ちに密閉した。続いて、密閉後のバイアル瓶を37℃で30分間保温した後、北川式検知管(メルカプタン類、No.130U)でバイアル瓶内のガスを50ml吸引してメチルメルカプタン濃度を測定した。また、対照として、消臭剤を用いないこと以外は上記と同様の方法でメチルメルカプタン濃度を測定した。結果は、下記の計算式により消臭率で示した。さらに、消臭反応前後の各消臭剤の着色変化を、下記に示す判断基準により目視判定した(対照はペルオキシダーゼ無添加)。結果を表1に示す。
【0039】
消臭率(%)=(C−S)/C ×100
C:対照のメチルメルカプタン濃度
S:消臭剤添加のメチルメルカプタン濃度
【0040】
<着色性の判断基準>
◎:色の変化が全くない
○:色の変化がほとんど見られない
△:少し変色する
×:強く変色する
【0041】
【表1】

【0042】
表1より、試験区4,6,8,10,12,14,16及び18のいずれの消臭剤においても、ペルオキシダーゼの添加により消臭率の増加が観察されたが、中でも本発明品(レモンバーム抽出物又はローズバッツ抽出物を含有する消臭剤組成物(試験区4,6))は、ペルオキシダーゼ添加による消臭率の増加が顕著であり、他と比較してもかなり高い消臭効果を示した。また、本発明品は、消臭反応前後でほとんど着色変化が無く、この点は特に食品の添加原料としての優位性を示す。
【0043】
以上より、本発明に係る消臭剤組成物が主として食品の添加原料として配合されることを考慮すると、消臭作用と着色性の両面において優れた効果を発揮する(A)レモンバーム抽出物又はローズバッツ抽出物と(B)ペルオキシダーゼを含有する本発明の消臭剤組成物が、表1中の他の抽出物とペルオキシダーゼを含有する消臭剤組成物と比較して極めて優れていることが明らかとなった。
【0044】
3.チューインガムの製造例
下記配合例1〜2にしたがってチューインガムを製造し、後述するように、得られたチューインガムを食したときの風味及びテクスチャーを検討するために供した。
【0045】
<配合例1>(本発明品)
レモンバーム抽出物 0.01g
ペルオキシダーゼ 0.0001g
ガムベース 35g
炭酸カルシウム 2g
マルチトール 55g
キシリトール 5g
ガム用香料 1g
【0046】
<配合例2>(対照品)
レモンバーム抽出物 0.01g
ガムベース 35g
炭酸カルシウム 2g
マルチトール 55g
キシリトール 5g
ガム用香料 1g
【0047】
4.風味とテクスチャー
配合例1及び配合例2のチューインガムを調香に従事するパネラー6名でチューインガムの内容及び試供タイミングを知らせずに4回試食した結果、配合例1のチューインガムは配合例2とほぼ同じ風味及びテクスチャーを示した。このことから、ペルオキシダーゼを添加することによる食品への影響は全くないことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、低コストで消臭作用に優れ、かつ、着色変化が僅少な新規の消臭剤組成物として広く利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)レモンバーム抽出物又はローズバッツ抽出物と(B)ペルオキシダーゼを含有することを特徴とする消臭剤組成物。
【請求項2】
(B)成分/(A)成分(重量比)が0.001〜1である、請求項1記載の消臭剤組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載の消臭剤組成物を含有する食品。
【請求項4】
消臭剤組成物を0.0001〜10重量%含有する請求項3記載の食品。
【請求項5】
食品がチューインガム、キャンディー、錠菓、グミキャンディー又はフィルム状食品である、請求項3又は4記載の食品。

【公開番号】特開2008−131866(P2008−131866A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−318506(P2006−318506)
【出願日】平成18年11月27日(2006.11.27)
【出願人】(000208086)大洋香料株式会社 (34)
【Fターム(参考)】