説明

液体吐出ヘッドおよび液体吐出装置

【課題】超音波溶着時における耐性に優れると共に、液体の導入時における圧力損失を低減することができる液体吐出ヘッド、および液体吐出装置を提供すること。
【解決手段】ケース30の上面には、上方に向かって円筒状に突き出た突起部41とフランジ部43とを有するインク導入部材40が設けられている。インク導入部材40は、突起部41の端部において、中央に大きく形成された導入孔42と、導入孔42の外縁から導入孔42の内側に傾斜するように延出する延出部46とを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット式記録装置、ディスプレー製造装置、電極形成装置、あるいは、バイオチップ製造装置などの液体吐出装置、およびこれらの液体吐出装置に搭載される液体吐出ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液体吐出装置として、紙への印刷に適したインクジェットプリンタが広く知られており、一般的には、印刷用紙に対して往復動するキャリッジに、液体(液滴)の吐出のための微小なノズルが設けられた液体吐出ヘッドが搭載された構成である。例えば、特許文献1に掲げる液体吐出ヘッドには、外部のインクカートリッジの導出部に結合されてインクを導入するインク供給針(液体導入部材)が設けられている。
【0003】
上述のインク供給針は、円錐状に形成された尖端部の周面に複数の導入孔が形成された中空針上の部材である。尖端部の周面は、インクカートリッジの導出口に挿入される際においてガイドとしての役割を果たし、また、導入孔を通じてインクカートリッジからインクを導入することができる。
【0004】
【特許文献1】特開平10−193646号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
インク供給針の導入孔は、インクを導入する際に圧力損失(流動抵抗)を生じる箇所となるため、圧力損失低減の観点からはその内径をある程度大きくすることが好ましい。しかしながら、導入孔の径を広げると隣接する導入孔間の隔壁が薄くなってしまい、これにより、インク供給針を液体吐出ヘッドの基体(ケース)に超音波溶着する際に、導入孔間の隔壁が破壊されてしまうことがある。
【0006】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたもので、超音波溶着時における耐性に優れると共に、液体の導入時における圧力損失を低減することができる液体吐出ヘッド、および液体吐出装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、液状体を導入するための液体導入部材と基体とが、溶着により接合されてなる液体吐出ヘッドであって、前記液体導入部材の端部に形成された導入孔と、前記導入孔の外縁から当該導入孔の内側に傾斜して延出する延出部と、を備えることを特徴とする。
【0008】
この発明の液体吐出ヘッドによれば、従来技術に係る構造のような隔壁部分を導入孔周りに有していないので、超音波溶着時における耐性に優れている。また、導入孔は、液体導入部材の端部の中央に十分大きく設けることができるため、液体の導入時において大きな圧力損失を生じることがない。また、導入孔の外縁から内側に傾斜して延出する延出部は、液体導入部材が外部の液体供給手段の導出部に挿入される際にガイドとしての役割を果たすことができる。
【0009】
また好ましくは、前記液体吐出ヘッドにおいて、前記延出部を前記導入孔の中心に対して略等方的な配置で複数備えることを特徴とする。
さらに好ましくは、前記延出部を3つないし4つ備えることを特徴とする。
【0010】
この発明の液体吐出ヘッドによれば、液体導入部材が液体供給手段の導出部に挿入される際に、液体導入部材が複数の位置において偏りなくガイドされる。この場合において、延出部の数が少なすぎるとガイド位置の偏りが生じ、また延出部の数が多すぎると延出部が小さくなって強度の低下を招いてしまうため、延出部は3つないし4つ設けられていることが好ましい。
【0011】
また好ましくは、前記延出部の先端の形状が丸みを有することを特徴とする。
この発明の液体吐出ヘッドによれば、延出部の先端への超音波エネルギーの集中が抑えられるので、超音波振動に対する耐性に優れている。
【0012】
本発明の液体吐出装置は、前記液体吐出ヘッドを備えることを特徴とする。
【0013】
この発明の液体吐出装置によれば、従来技術に係る構造のような隔壁部分を導入孔周りに有していないので、超音波溶着時における耐性に優れている。また、導入孔は、液体導入部材の端部の中央に十分大きく設けることができるため、液体の導入時において大きな圧力損失を生じることがない。また、導入孔の外縁から内側に傾斜して延出する延出部は、液体導入部材が外部の液体供給手段の導出部に挿入される際にガイドとしての役割を果たすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。
なお、以下に述べる実施の形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの形態に限られるものではない。また、以下の説明で参照する図では、図示の便宜上、部材ないし部分の縦横の縮尺を実際のものとは異なるように表す場合がある。
【0015】
(液体吐出装置の構成について)
まずは、図1を参照して液体吐出装置の構成について説明する。
図1は、液体吐出装置の外観構成を表す概略平面図である。
【0016】
図1において、液体吐出装置としてのプリンタ1は、スチール板等で形成されたガイドフレーム2と、用紙(図示せず)を支持するためのプラテン3と、プラテン3に対向する一面に微小なノズルを有する液体吐出ヘッド10と、液体吐出ヘッド10のノズルメンテナンスを行うためのメンテナンスユニット4とを備えている。液体吐出ヘッド10は、キャリッジ5に搭載されて、駆動ベルト6によって、図の左右方向に往復移動(走査)される。
【0017】
液体吐出ヘッド10には、液体としての4色の着色インク(インク)が、それぞれインクカートリッジ11a〜11dから、供給管12a〜12dおよび圧力調整ユニット13a〜13dを通じて供給される。そして、キャリッジ5の走査および用紙(図示せず)の搬送に同期して液体吐出ヘッド10のノズル毎の吐出制御が行われ、プラテン3上において用紙(図示せず)のカラー印刷が行われる。
【0018】
メンテナンスユニット4は、液体吐出ヘッド10のノズルの形成面に密着してノズルの開口を封止(キャッピング)するキャップ7と、ゴム等で形成された板状部材であるワイパブレード8とを備えている。キャップ7は、ノズルを保護する役割を果たすほか、連通するポンプ(図示せず)を駆動してノズルからインクを吸引するいわゆる吸引動作(回復動作)を行う際にも用いられる。また、ワイパブレード8は、ノズルの形成面に付着したインクを払拭するいわゆるワイピング動作に用いられる。
【0019】
インクカートリッジ11a〜11dは、気密性のプラスチックケース内に可撓性のインク容器を備えた構成である。そして、加圧ポンプユニット14から通気管15a〜15dを通じて送られる加圧空気により、インクを加圧して供給する。加圧されたインクは液体吐出ヘッド10にマウントされた圧力調整ユニット13a〜13dによって減圧され、負圧(大気圧より低い圧力)下で液体吐出ヘッド10に供給される。
【0020】
(液体吐出ヘッドの構成について)
次に、図2、図3、図4を参照して液体吐出ヘッドの構成について説明する。
図2は、液体吐出ヘッドの全体構成を示す図である。図3は、インク導入部材の周辺構造を示す断面図である。図4は、インク導入部材の構造を示す平面図である。
【0021】
液体吐出ヘッド10は、圧力調整ユニット13a〜13d(図1参照)をマウント可能なようにガイド用のリブや凹部(部分的に図示を省略)が形成された基体としてのケース30を備えている。また、ケース30の下部には、インクを吐出するための吐出部16と、吐出に係る制御回路を有する電気回路部17が設けられている。
【0022】
吐出部16は、一面に所定の配列で形成されたノズル20と、ノズル20の個々と連通するキャビティ22と、対応するインク種ごとにキャビティ22にインクを供給するリザーバ23を備えている。キャビティ22の天蓋部24は可撓性膜25により移動可能となっており、天蓋部24と接合された圧電素子26の駆動により、インクがノズル20から吐出される。
【0023】
ケース30の上面には、圧力調整ユニット13a〜13dと結合してインクを導入するための、液体導入部材としてのインク導入部材40が設けられている。インク導入部材40は、上方に向かって円筒状に突き出た突起部41と、ケース30側において裾を広げたフランジ部43を有しており、フランジ部43において、その外周面がガイド部31により規定された状態でケース30と超音波溶着(融着)されている。フランジ部43の下面には、超音波溶着する際の作用部としての溶着突起44(図3では、溶着により押し潰された状態)が形成されている。
【0024】
突起部41の端部には、中央において大きく形成された導入孔42と、導入孔42の外縁から導入孔42の内側に傾斜するように延出した延出部46が設けられている。図示のように、延出部46は導入孔42の中心に対して等方的な配置で4つ設けられており、また、延出部46の先端46aは丸みのある形状となっている。
【0025】
突起部41の端部は、従来技術に係る構造のような隔壁部分を導入孔42周りに有していないので、超音波溶着時における耐性に優れている。さらに、延出部46の先端46aを丸みのある形状とすることで、超音波振動のエネルギーが先端46aに集中しにくいように配慮されている。これにより、超音波溶着の際において、延出部46の破壊が好適に抑えられるようになっている。
【0026】
インク導入部材40は、内部に導入流路45を有しており、導入流路45の一端は導入孔42に連通し、他端側は拡幅されて、フィルタ50を挟んでケース30側の供給流路32と連通している。導入孔42を通じて導入されたインクは、導入流路45、フィルタ50、供給流路32を通じて吐出部16に供給される。
【0027】
尚、上述したケース30およびインク導入部材40の材料には、成型や溶着に適した材料であるPPE(PolyPhenylene Ether)等の樹脂や、樹脂にガラス素材等を混ぜ込んだ混合材料などが用いられている。
【0028】
フィルタ50は、金属線をメッシュ状に編みこんでなる部材であり、供給流路32の連通口の形成面に溶着されている。フィルタ50は、導入流路45から供給流路32へと供給されるインクに含まれる異物等をトラップする役割を果たすものである。尚、導入流路45および供給流路32のフィルタ50側が拡幅されているのは、フィルタ50の有効面積を大きくして通過に係るインクの流動抵抗(損失水頭)を低減するための配慮である。
【0029】
(液体吐出ヘッドと圧力調整ユニットとの結合について)
次に、図5を参照して、液体吐出ヘッドと圧力調整ユニットとの結合について説明する。
図5は、インク導出部とインク導入部材との結合の過程を示す図である。
【0030】
圧力調整ユニット13a〜13d(図1参照)の下部には、図5に示すように、インクLを導出するためのインク導出部60が設けられている。インク導出部60は、インクを導出するための導出流路61と、導出流路61の一部を閉塞可能なボール弁62と、インク導入部材40との接続部分をシールするためのOリング63とを備えている。
【0031】
図5(a)に示す状態では、ボール弁62は導出流路61を閉塞しており、また、Oリング63の内径は、インク導入部材40の突起部41の外径よりもわずかに小さくなっている。図示のように、インク導入部材40の突起部41がインク導出部60に挿入される際には、導入孔42の外縁から内側に傾斜して形成されている延出部46は、導出流路61の開口部61aやOリング63の内面との間で突起部41の挿入位置をガイドする役割を果たす。
【0032】
延出部46が挿入位置のガイドの役割を果たす場合において、延出部46の先端46aは丸みを有する形状となっているため、導出流路61の開口部61aやOリング63が傷つけられることはない。また、延出部46は導入孔42の中心に対して等方的な配置で複数(この実施形態では4つ)設けられているため、突起部41は、複数の位置において偏りなくガイドされる。
【0033】
図5(b)に示すように、インク導入部材40がインク導出部60にさらに挿入された場合においては、Oリング63が突起部41の周面に密着して、接続部分がシールされる。また、突起部41の端部に形成された延出部46がボール弁62を押し上げて、導出流路61が開いた状態となる。
【0034】
延出部46は導入孔42の外縁から延出して形成されているため、図示のようにボール弁62を押し上げた状態にあっても、導入孔42全体がボール弁62によって閉塞されることはなく、導入孔42を通じてインクLを導入することができる。また、導入孔42は、突起部41の端部の中央において十分大きく形成することができるため、インクLの導入の際に大きな圧力損失(流動抵抗)を伴うこともない。また、本実施形態のインク導入部材40は、導入孔42により上方が大きく開放された構造となっているため、導入流路45(図3参照)内において局所的に気泡が滞留することがなく、このような気泡が印刷動作中にノズルへ流出して吐出不良を引き起こす虞もない。
【0035】
(変形例)
次に、図6を参照して、変形例について、先の実施形態との相違点を中心に説明する。
図6は、変形例に係るインク導入部材の構造を示す平面図である。
【0036】
図6に示すように、この変形例に係るインク導入部材40の延出部46は、導入孔42の中心に対して等方的な配置で3つ設けられており、また、延出部46は先の実施形態よりも大きく形成されている。この変形例のように、本発明に係る延出部の数や形状は実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を違えない範囲で様々な態様とすることができる。
【0037】
本発明は上述の実施形態に限定されない。
例えば、本発明は、インクカートリッジを直接キャリッジ(液体吐出ヘッド)にマウントして印刷を行ういわゆるオンキャリッジタイプのプリンタや、工業用途において各種機能液を基板等にパターン化して配置するのに用いる描画装置にも適用することができる。
また、インク導入部材と結合されるインク導出部の構造として、ボール弁を有しない態様などを採用することもできる。
また、実施形態の構成はこれらを適宜組み合わせたり、省略したり、図示しない他の構成と組み合わせたりすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】液体吐出装置の外観構成を表す概略平面図。
【図2】液体吐出ヘッドの全体構成を示す図。
【図3】インク導入部材の周辺構造を示す断面図。
【図4】インク導入部材の構造を示す平面図。
【図5】(a),(b)は、インク導出部とインク導入部材との結合の過程を示す図。
【図6】変形例に係るインク導入部材の構造を示す平面図。
【符号の説明】
【0039】
1…液体吐出装置としてのプリンタ、10…液体吐出ヘッド、13a〜13d…圧力調整ユニット、30…基体としてのケース、32…供給流路、40…液体導入部材としてのインク導入部材、41…突起部、42…導入孔、43…フランジ部、44…溶着突起、45…導入流路、46…延出部、46a…先端、50…フィルタ、60…インク導出部、61…導出流路、61a…開口部、62…ボール弁、63…Oリング、L…インク。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状体を導入するための液体導入部材と基体とが、溶着により接合されてなる液体吐出ヘッドであって、
前記液体導入部材の端部に形成された導入孔と、
前記導入孔の外縁から当該導入孔の内側に傾斜して延出する延出部と、を備えることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記延出部を、前記導入孔の中心に対して略等方的な配置で複数備えることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記延出部を3つないし4つ備えることを特徴とする請求項2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記延出部の先端の形状が丸みを有することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッドを搭載する液体吐出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−313702(P2007−313702A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−143738(P2006−143738)
【出願日】平成18年5月24日(2006.5.24)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】