説明

液体吐出ヘッドおよび該ヘッドを用いた記録装置

【課題】駆動周波数を低くすることなくインクの再沸騰を解消し、ヘッドの発熱を抑え、周囲の発熱体とのクロストーク、ヘッドを構成する基板と天板の剥がれを解消する記録装置を提供する。
【解決手段】液体を加熱して発泡させ、発生気泡を利用して液体を吐出する液体吐出ヘッドにおいて、液体吐出口と、前記液体吐出口に連通して配置された液体を満たすための流路を形成した天板302と、表面に発熱体支持層304を形成した基板303と、前記発熱体支持層304上に配置される発熱体305と、前記発熱体305下部に位置する冷却部306を備え、前記基板303が隣接する発熱体305との間に断熱部307を有し、前記断熱部307は前記冷却部306を囲む前記液体で満たされるキャビティー308と前記キャビティー308を囲む熱伝導率が前記基板303よりも小さい断熱領域を有することを特徴とすることである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の発熱体がアレイ状に配置されるヒーター基板、該ヒーター基板を用いて流路内の液体を加熱して発泡させ、発生気泡を利用して液体を吐出する液体吐出ヘッド、及び記録装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から液体吐出装置は、微細加工、実験分析、画像形成等の様々な分野で応用されているが、ここではインクジェットによる記録方法を例にとって説明する。
【0003】
インク滴を吐出し、これを被記録媒体上に付着させて画像形成を行なうインクジェット記録方法は、高速記録が可能であり、また記録品位も高く、低騒音であるという利点を有している。さらに、この方法はカラー画像記録が容易であって、普通紙等にも記録でき、さらに装置を小型化し易いといった多くの優れた利点を有している。
【0004】
このようなインクジェット記録方法を用いる記録装置には、一般にインクを飛翔インク滴として吐出させるための吐出口と、この吐出口に連通するインク路と、このインク路の一部に設けられ、インク路内のインクに吐出のための吐出エネルギーを与えるエネルギー発生手段とを有する記録ヘッドが備えられる。例えば、特公昭61−59911号、特公昭61−59912号、特公昭61−59913号、特公昭61−59914号の各公報には、エネルギー発生手段として電気熱変換体を用い、電気パルス印加によってこれが発生する熱エネルギーをインクに作用させてインクを吐出させる方法が開示されている。
【0005】
上記各公報に開示されている記録方法は、熱エネルギーの作用を受けたインクに気泡が発生し、この気泡の急激な膨張に基づく作用力によって、記録ヘッド部先端の吐出口よりインクを吐出し、この吐出インク滴が被記録媒体に付着して画像形成を行なうものである。この方法によれば記録ヘッドにおける吐出口を高密度に配設することができるので、高解像度、高品質の画像を高速で記録することができ、この方法を用いた記録装置は、複写機、プリンタ、ファクシミリなどにおける情報出力手段として用いることができる。
【0006】
このインクジェット記録方式においては、上述のように電気熱変換体すなわち液体を加熱するための発熱体素子が必要であり、従来は図1に示すように薄膜抵抗体を流路内の壁面に設置し、該薄膜抵抗体の2辺に電気パルスを印加するための電極を接続したものが用いられていた。
【0007】
しかしながら、上記したように薄膜抵抗体を壁面に設置した場合は、該薄膜抵抗体で発生した熱エネルギーが、かなりの割合で支持基板101に散逸してしまう場合があった。この熱の支持基板101への散逸はヘッドの発熱を生じる。特にヘッドの高密度化又は高速化などヘッドが過度に使用される場合には、ヘッドの発熱は顕著である。この場合、駆動している抵抗体近傍の駆動していない抵抗体を有するヘッド内のインクが駆動している抵抗体から支持基板へ散逸した熱により暖められてしまうクロストークや、ヘッドを構成する支持基板101と支持基板に張り合わせて流路102および液体吐出口103を形成する天板106とが熱膨張率の違いから剥がれ、ヘッド寿命の低下が生じる。また流路内のインクが吐出前に予想されるものよりも暖められている場合、吐出されるインク液滴は予想されるものよりも大きくなり、プリントシート上に大きなインクスポットが生じ、プリント品質に明らかに悪影響を及ぼし、ヘッドが発熱する場合、流路内のインクは予め加熱されることになり、同様の悪影響を受けことになる。前記クロストークやインクを予め暖めてしまうことによるプリント品質の問題は駆動周波数を低い周波数にする、つまりヘッドが冷めるまで待って次の駆動信号を送ることで解消できるが駆動周波数に制限が生じる。この問題を解決するために特開平10-034926号公報には発熱体の一部と支持基板の間にキャビティを設け発熱体によって散逸された熱が支持基板に伝わりにくくしてヘッドの発熱を抑える装置が開示されている。
【特許文献1】特公昭61−59911号公報
【特許文献2】特公昭61−59912号公報
【特許文献3】特公昭61−59913号公報
【特許文献4】特公昭61−59914号公報
【特許文献5】特開平10−034926号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながらヘッドの発熱を抑えた上記従来技術では、以下に説明する問題点があった。図2に示す特開平10-034926号では発熱体201がシリコン基板で形成され柱202上に断熱層203を介して配置されており、発熱体201からの余剰熱をシリコン基板へ伝えることが可能な構造をより少なくし、さらに、キャビティ204による断熱効果によりヘッドの発熱の低減を目的とするものである。
【0009】
このように発熱体からの余剰熱をシリコン基板へ伝えることが可能な構造をより少なくした場合、発熱体が冷めにくくなり、インクの再沸騰を起こしやすくなり、それを避けるためには、駆動周波数を低くする必要がある。
【0010】
キャビティー204がインクに満たされている場合には、柱へ伝わった余剰熱がインクへ放熱されることにより発熱体の冷却を行うことが期待できるが、図2の構造では柱の根元部が同一シリコン基板内でつながっているため、キャビティーの形状によっては柱の根元部分から熱がシリコン基板全体へ伝わりヘッド全体が発熱する。このヘッドの発熱は、発熱体が高密度にアレイ状に配置される場合においては、駆動していないヘッド内のインクが暖められてしまうクロストークや、ヘッドを構成する支持基板と支持基板に張り合わせて流路および液体吐出口を形成する天板とが、熱膨張率の違いから剥がれ、ヘッド寿命の低下が生じる。
【0011】
従って上記従来例ではヘッドの発熱の低減について十分であるとは言えない。本発明は上記問題点に鑑みてなされたものである。本発明の目的は、
(1)駆動周波数を低くすることなくインクの再沸騰を解消する記録装置を提供することである
(2)ヘッドの発熱を抑え、周囲の発熱体とのクロストーク、ヘッドを構成する基板と天板の剥がれを解消する記録装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は上記課題を解決するため、流路内の液体を加熱して発泡させ、発生気泡を利用して液体を吐出する液体吐出ヘッド、記録装置を以下のように構成したことを特徴とするものである。
【0013】
すなわち、液体を加熱して発泡させ、発生気泡を利用して液体を吐出する液体吐出ヘッドにおいて、表面に発熱体支持層を形成した基板と、前記発熱体支持層上に配置される発熱体と、前記発熱体下部に位置する冷却部と、を備え、前記基板が隣接する発熱体との間に断熱部を有し、前記断熱部は前記冷却部を囲む前記液体で満たされるキャビティーと前記キャビティーを囲む熱伝導率が前記基板よりも小さい断熱領域を有することを特徴とする。
【0014】
また、前記冷却部が前記キャビティーを内で浮いた状態で前記発熱体支持層によって支持されることを特徴とする。
【0015】
また、前記冷却部がシリコンであることを特徴とする。
【0016】
また、前記冷却部がトレンチ構造であることを特徴とする。
【0017】
また、前記基板がシリコンであることを特徴とする。
【0018】
また、前記キャビティーの前記液体との接触面が(111)面であることを特徴とする。
【0019】
また、前記断熱領域が前記基板を陽極化成により多孔質化した多孔質領域であることを特徴とする。
【0020】
また、前記断熱領域が外気に露出した空隙であることを特徴とする。
【0021】
また、前記空隙の外気との接触面が(111)面であることを特徴とする。
【0022】
また、前記基板が前記発熱体支持層が表面に形成される第一基板と前記第一基板裏面に配置される第二基板の張合わせ構造であることを特徴とする。
【0023】
本発明の記録装置は、液体を加熱して発泡させ、発生気泡を利用して液体を吐出する液体吐出ヘッドにおいて、表面に発熱体支持層を形成した基板と、前記発熱体支持層上に配置される発熱体と、前記発熱体下部に位置する冷却部を備え、前記基板が隣接する発熱体との間に断熱部を有し、前記断熱部は前記冷却部を囲む前記液体で満たされるキャビティーと前記キャビティーを囲む熱伝導率が前記基板よりも小さい断熱領域を有することを特徴とする液体吐出ヘッドを有する記録装置である。
【0024】
また、本発明の記録装置は複数の液体吐出ヘッドを備え、各発熱体に電気信号を供給する手段を備えたことを特徴とする。
【0025】
本発明の液体吐出ヘッドは、発熱体で発生した余剰熱を発熱体下部の冷却部からキャビティー内を満たす液体へ放熱し、発熱体を冷却することにより駆動周波数を低くすることなく、インクの再沸騰を回避することが可能となる。またキャビティーを取り囲む断熱領域により冷却部及び、キャビティー内の液体へ放熱された余剰熱は基板全体へ伝わることがなく、発熱体が高密度にアレイ状に配置される場合においても、周囲の発熱体とのクロストークや、ヘッドを構成する天板と基板の熱膨張率の違いから生ずる剥がれを解消することができる。
【発明の効果】
【0026】
以上説明したように、本発明のヒーター基板を用いたインクジェット記録ヘッドでは、発熱体で発生した余剰熱を発熱体下部の冷却部からキャビティー内を満たす液体へ放熱し、発熱体を冷却することにより駆動周波数を低くすることなく、インクの再沸騰を回避することが可能となった。またキャビティーを取り囲む断熱領域により冷却部及び、キャビティーを満たす液体へ放熱された余剰熱は基板全体へ伝わることがなく、発熱体が高密度にアレイ状に配置される場合においても周囲の発熱体とのクロストークや、ヘッドを構成する天板と基板の熱膨張率の違いから生ずる天板のはがれを解消することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下に本発明の実施の形態を図3から図6によりインクジェット記録装置を例に説明する。
【0028】
図3は本発明の液体吐出ヘッドを複数有するインクジェット記録ヘッド(図中にはIJHと略称で記載)のひとつの液体吐出ヘッドの断面図である。液体吐出ヘッドは液体吐出口(不図示)と液体吐出口に連通して配置された液体をみたすための流路301が形成された天板302と基板303を張り合わせて形成する。基板303の表面には発熱体支持層304が設けられ、さらに発熱体支持層上には発熱体305が設けられている。この発熱体下部には冷却部306が設けられている。基板303には隣接する発熱体の間に断熱部307が設けられている。またこの断熱部307は冷却部306を囲む前記液体で満たされるキャビティー308と前記キャビティー308を囲む熱伝導率が前記基板303よりも小さい断熱領域309を設けてある。これにより発熱体で発生した余剰熱を発熱体下部の冷却部からキャビティー内を満たす液体へ放熱し、発熱体を冷却することにより駆動周波数を低くすることなく、インクの再沸騰を回避することが可能となる。またキャビティーを取り囲む断熱領域により冷却部及び、キャビティーを満たす液体へ放熱された余剰熱が基板全体へ伝わることを低減でき、発熱体が高密度にアレイ状に配置される場合においても、周囲の発熱体とのクロストークや、ヘッドを構成する天板と基板の熱膨張率の違いから生じる剥がれを低減することができる。また、冷却部の形状としては特に制限がなくキャビティー内に浮いた状態で発熱体支持層により支持されていても良い、好ましくは発熱体と液体に接触する面積が大きい形状とする。これにより発熱体の冷却効果の向上が可能となる。また、キャビティーは複数の基板を張合わせて形成してもよいが、より好ましくは、単一の基板内に形成する。
【0029】
図4はインクジェット記録ヘッドに供給されるインクを保持したインクタンク(図中にはITと略称で記載)とインクジェット記録ヘッドとが着脱分離可能に構成されたインクジェットカートリッジの構成を示す概観斜視図である。インクカートリッジは図4に示すように境界線Kの位置でインクタンクとインクジェット記録ヘッドとが分離可能である。インクカートリッジにはキャリッジに搭載されたときにキャリッジ(図中にはHCで記載)側から供給される電気信号を受けるための電極(不図示)が設けられており、この電気信号に応じて記録ヘッドの発熱体が駆動される。
【0030】
図5は本発明の液体吐出ヘッドを複数有するインクジェット記録ヘッドを搭載したインクジェット記録装置の一例を説明するための概観斜視図である。図5において、駆動モーター501の正逆回転に連動して駆動伝達ギア502〜503を介してリードスクリュー504が回転する。キャリッジはこのリードスクリュー504の螺旋溝505にたいして連結するピン(不図示)を有し、ガイドレール506に支持されて矢印a、b方向を往復移動する。キャリッジには、インクヘッドカートリッジが搭載されている。符号507は紙押さえ板であり、キャリッジの移動方向に沿って被記録媒体である記録用紙Pをプラテン508に対して押圧する。
【0031】
本発明の記録装置では、上記した液体吐出ヘッドを備えることにより、発熱体素子の耐久性が向上し発泡特性が安定するので、消費電力が低く抑え、記録品位を向上させることが可能となる。
【0032】
また、この記録装置内には、インクジェット記録ヘッドの発熱体を発熱させるための駆動信号を供給するための駆動信号供給手段を有している。図6は上述のインクジェット記録装置の制御回路の構成を示すブロック図である。符号601はインターフェイス、符号602はMPU、符号603はMPU602が実行する制御プログラムを格納するROM、符号604は各種データ(上記記録信号や記録ヘッドに供給される記録データ等)を保存しておくDRAMである。符号605は記録ヘッドに対する記録データの供給制御を行う(G. A.)であり、インターフェイス601、MPU602、RAM604間のデータ転送制御をも行う。
【0033】
符号606は記録ヘッドIJHを搬送するためのキャリアモーターであり、符号607は被記録媒体搬送のための搬送モーターである。符号608は記録ヘッドを駆動するためのヘッドドライバであり、609、610はそれぞれ搬送モータ607、キャリアモータ606を駆動するためのモータードライバである。上記制御構成の動作を説明すると、インターフェイス601に記録信号が入るとゲートアレイ605とMPU602との間で記録信号が記録を行うためのプリント用の記録データに変換される。そして、モータドライバ609、610が駆動されると共に、ヘッドドライバ608に送られた記録データにしたがった記録信号によって記録ヘッドが駆動され記録が行われる。
【0034】
本発明の記録装置では、上記した液体吐出ヘッドを複数配置することにより高速な記録が可能となり、さらに記録ヘッドの各発熱体に膜沸騰を生じさせる電気信号を供給する手段を備えることにより安定した記録を行うことが可能となる。
【0035】
以下、実施例を用いて本発明を、より詳細に説明する。なお、以下に示す実施例中の基板、天板、流路、発熱体、液体吐出口などの寸法や形状や材質、駆動条件などは一例であり、設計事項として任意に変更できるものである。
【0036】
(第一実施例)
本実施例では図7に示すインクジェット記録ヘッドを設計、製作した。本実施例の記録ヘッドは基板に結晶方位面が(100)のシリコン基板701を用いた。陽極化成によりシリコン基板701を多孔質化して断熱領域702を形成し、不純物を導入して導電性を持たせた厚さ1.0μmのpoly-Siを厚さ0.2μmの窒化シリコン膜からなる発熱体支持層703上に配置し、厚さ0.2μmの窒化シリコン膜からなる保護層を前記poly-Si上に成膜して発熱体704を形成し、前記発熱体の両端に電極(不図示)を形成し、KOHを用いた結晶異方性エッチングにより(111)面を含む結晶面で囲まれたキャビティー705および冷却部706を形成し、流路707となる溝を形成したガラス基板からなる天板708を前記ヒーター基板に張合わせ、液体供給口709及び液体吐出口710を形成したものである。
【0037】
この記録ヘッドに、C.I.フードブラック23.0重量%,ジエチレングリコール15.0重量%,N−メチル−2−ピロリドン5.0重量%,イオン交換水77.0重量%よりなる各配合成分を容器中で撹拌し、均一に混合溶解させた後、孔径0.45μmのポリフッ化エチレン系繊維製フィルタで濾過して得た粘度2.0cps(20℃)のインクを流路に供給し吐出を試みた。
【0038】
記録ヘッドの発熱体の加熱条件を、電圧9.0V,パルス幅2.5μsec,周波数3kHzの矩形パルスよりなる電気信号とし、吐出口よりインクを吐出させた。この状況をパルス光源と顕微鏡を用い観察した。すなわち、発熱体を加熱するための駆動パルスに同期し、かつ所定の遅延時間をおいてパルス光を発光させながら、発泡および消泡の状況、吐出したインクを観察した。天板側より、発泡の状況を観察したところ、インクの再沸騰はなく安定した繰り返し吐出が可能で、長時間の連続駆動を行っても、周囲ヒーターとのクロストーク、天板の剥がれはなかった。
【0039】
本発明の液体吐出ヘッドは、発熱体で発生した余剰熱を発熱体下部の冷却部からキャビティー内を満たす液体へ放熱し、発熱体を冷却することにより駆動周波数を低くすることなくインクの再沸騰を回避することが可能となった。またキャビティーを取り囲む断熱領域により冷却部及び、キャビティー内の液体へ放熱された余剰熱は基板全体へ伝わることがなく、発熱体が高密度にアレイ状に配置される場合においても周囲の発熱体とのクロストークや、ヘッドを構成する天板との熱膨張率の違いから生ずる天板のはがれを解消することができた
(第二実施例)
本実施例では図8に示すインクジェット記録ヘッドを設計、製作した。本実施例の記録ヘッドは、第一実施例の陽極化成により多孔質化されたシリコン基板をエッチングし除去して外気に露出した空隙を断熱領域801を形成したもので、その他の構成は第一実施例と同様である
この記録ヘッドに第一実施例と同様のインクを流路へ供給して吐出を試みた。
【0040】
記録ヘッドの発熱体の加熱条件を、電圧9.0V,パルス幅2.5μsec,周波数3kHzの矩形パルスよりなる電気信号とし、吐出口よりインクを吐出させた。この状況をパルス光源と顕微鏡を用い観察した。すなわち、発熱体を加熱するための駆動パルスに同期し、かつ所定の遅延時間をおいてパルス光を発光させながら、発泡および消泡の状況、吐出したインクを観察した。天板側より、発泡の状況を観察したところ、インクの再沸騰はなく安定した繰り返し吐出が可能で、長時間の連続駆動を行っても、周囲ヒーターとのクロストーク、天板の剥がれはなかった。
【0041】
本発明の液体吐出ヘッドは、発熱体で発生した余剰熱を発熱体下部の冷却部からキャビティー内を満たす液体へ放熱し、発熱体を冷却することにより駆動周波数を低くすることなくインクの再沸騰を回避することが可能となった。またキャビティーを取り囲む断熱領域により冷却部及び、キャビティー内の液体へ放熱された余剰熱は基板全体へ伝わることがなく、発熱体が高密度にアレイ状に配置される場合においても周囲の発熱体とのクロストークや、ヘッドを構成する天板との熱膨張率の違いから生ずる天板のはがれを解消することができた。
【0042】
(第三実施例)
本実施例では図9に示すインクジェット記録ヘッドを設計、製作した。本実施例の記録ヘッドは、基板にシリコン基板901、902を用いた。陽極化成によりシリコン基板901、902をそれぞれ多孔質化して断熱領域903、904を形成し、シリコン基板901表面に厚さ0.2μmの窒化シリコン膜からなる発熱体支持層905を形成し、その上に不純物を導入して導電性を持たせた厚さ1.0μmpoly-Si、保護膜の厚さ0.2μmの窒化シリコン膜を有する発熱体906を形成し、前記発熱体の両端に電極(不図示)を形成し、シリコン基板901を誘導結合型プラズマ反応性イオンエッチングにより冷却部907を形成し、シリコン基板902をシリコン基板901に張付けてキャビティー908を形成し、流路909となる溝を形成したガラス基板からなる天板910を前記シリコン基板901に張合わせ、液体供給口911及び液体吐出口912を形成したものである。
【0043】
この記録ヘッドに第一実施例と同様のインクを流路へ供給して吐出を試みた。
【0044】
記録ヘッドの発熱体の加熱条件を、電圧9.0V,パルス幅2.5μsec,周波数3kHzの矩形パルスよりなる電気信号とし、吐出口よりインクを吐出させた。この状況をパルス光源と顕微鏡を用い観察した。すなわち、発熱体を加熱するための駆動パルスに同期し、かつ所定の遅延時間をおいてパルス光を発光させながら、発泡および消泡の状況、吐出したインクを観察した。天板側より、発泡の状況を観察したところ、インクの再沸騰はなく安定した繰り返し吐出が可能で、長時間の連続駆動を行っても、周囲ヒーターとのクロストーク、天板の剥がれはなかった。
【0045】
本発明の液体吐出ヘッドは、発熱体で発生した余剰熱を発熱体下部の冷却部からキャビティー内を満たす液体へ放熱し、発熱体を冷却することにより駆動周波数を低くすることなくインクの再沸騰を回避することが可能となった。またキャビティーを取り囲む断熱領域により冷却部及び、キャビティー内の液体へ放熱された余剰熱は基板全体へ伝わることがなく、発熱体が高密度にアレイ状に配置される場合においても周囲の発熱体とのクロストークや、ヘッドを構成する天板との熱膨張率の違いから生ずる天板のはがれを解消することができた
(第四実施例)
本実施例では図10に示すインクジェット記録ヘッドを設計、製作した。本実施例の記録ヘッドは、第三実施例の冷却部の形状をトレンチ構造にしたもので、その他の構成は第一実施例と同様である
この記録ヘッドに第一実施例と同様のインクを流路へ供給して吐出を試みた。
【0046】
記録ヘッドの発熱体の加熱条件を、電圧9.0V,パルス幅2.5μsec,周波数3kHzの矩形パルスよりなる電気信号とし、吐出口よりインクを吐出させた。この状況をパルス光源と顕微鏡を用い観察した。すなわち、発熱体を加熱するための駆動パルスに同期し、かつ所定の遅延時間をおいてパルス光を発光させながら、発泡および消泡の状況、吐出したインクを観察した。天板側より、発泡の状況を観察したところ、インクの再沸騰はなく安定した繰り返し吐出が可能で、長時間の連続駆動を行っても、周囲ヒーターとのクロストーク、天板の剥がれはなかった。
【0047】
本発明の液体吐出ヘッドは、発熱体で発生した余剰熱を発熱体下部の冷却部からキャビティー内を満たす液体へ放熱し、発熱体を冷却することにより駆動周波数を低くすることなくインクの再沸騰を回避することが可能となった。またキャビティーを取り囲む断熱領域により冷却部及び、キャビティー内の液体へ放熱された余剰熱は基板全体へ伝わることがなく、発熱体が高密度にアレイ状に配置される場合においても周囲の発熱体とのクロストークや、ヘッドを構成する天板との熱膨張率の違いから生ずる天板のはがれを解消することができた。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】発熱体素子を壁面に設置したインクジェット記録ヘッドを示す図。
【図2】従来技術のインクジェット記録ヘッドを示す図。
【図3】本発明の液体吐出ヘッドの一実施形態を示す図。
【図4】本発明のインクジェットカートリッジの一実施形態を示す図。
【図5】本発明のインクジェット記録装置の一実施形態を示す図。
【図6】本発明のインクジェット記録装置の制御回路の一実施形態を示すブロック図。
【図7】本発明の第一実施例のインクジェット記録ヘッドを示す図。
【図8】本発明の第二実施例のインクジェット記録ヘッドを示す図。
【図9】本発明の第三実施例のインクジェット記録ヘッドを示す図。
【図10】本発明の第四実施例のインクジェット記録ヘッドを示す図。
【符号の説明】
【0049】
101 支持基板
102 流路
103 発熱体素子
104 流体供給口
105 液滴吐出口
106 天板
201 発熱体
202 シリコンで形成された柱
203 断熱層
204 キャビティー
301 流路
302 天板
303 ヒーター基板
304 発熱体支持層
305 支持基板
306 発熱体
307 断熱部
308 冷却部
309 断熱領域
310 キャビティー
IJC インクジェットカートリッジ
IT インクタンク
IJH インクジェット記録ヘッド
501 駆動モータ
502,503 駆動伝達ギア
504 リードスクリュー
505 螺旋溝
506 ガイドレール
507 紙押さえ板
508 プラテン
601 インターフェース
602 MPU
603 ROM
604 DRAM
605 G.A.
606 キャリアモータ
607 搬送モータ
608 ヘッドドライバ
609 モータドライバ
610 モータドライバ
701 シリコン基板
702 断熱領域
703 発熱体支持層
704 発熱体
705 キャビティー
706 冷却部
707 流路
708 天板
709 液体供給口
710 液体吐出口
801 断熱領域
901 シリコン基板
902 シリコン基板
903 断熱領域
904 断熱領域
905 発熱体支持層
906 発熱体
907 冷却部
908 キャビテイー
909 流路
910 天板
911 液体供給口
912 液体吐出口
1001 冷却部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を加熱して発泡させ、発生気泡を利用して液体を吐出する液体吐出ヘッドにおいて、液体吐出口と、前記液体吐出口に連通して配置された液体を満たすための流路を形成した天板と、表面に発熱体支持層を形成した基板と、前記発熱体支持層上に配置される発熱体と、前記発熱体下部に位置する冷却部と、を備え、前記基板が隣接する発熱体との間に断熱部を有し、前記断熱部は前記冷却部を囲む前記液体で満たされるキャビティーと前記キャビティーを囲む熱伝導率が前記基板よりも小さい断熱領域を有することを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記冷却部が前記キャビティー内壁面より浮いた状態で前記発熱体支持層によって支持されることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記冷却部がシリコンであることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記冷却部がトレンチ構造であることを特徴とする請求項2または3に記載の液体吐出ヘッド
【請求項5】
前記基板がシリコンであることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
前記キャビティーの前記液体との接触面が(111)面を含む結晶方位面であることを特徴とする請求項5に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
前記断熱領域が前記基板を陽極化成により多孔質化した多孔質領域であることを特徴とする請求項5に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項8】
前記断熱領域が外気に露出した空隙であることを特徴とした請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項9】
前記空隙の外気との接触面が(111)面であることを特徴とする請求項5または8に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項10】
前記基板が前記発熱体支持層が表面に形成される第一基板と前記第一基板裏面に配置される第二基板の張合わせ構造であることを特徴とする請求項2または4に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項11】
液体を加熱して発泡させ、発生した気泡を利用して液体を吐出するヘッドを有する記録装置において、請求項1から10のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドを有することを特徴とする記録装置。
【請求項12】
複数の液体吐出ヘッドを備え、各発熱体に電気信号を供給する手段を備えたことを特徴とする請求項11に記載の記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−194836(P2008−194836A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−29256(P2007−29256)
【出願日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】