説明

液体吐出ヘッドおよび該液体吐出ヘッドを備えた画像形成装置

【課題】長期に亘り充分な接着性とインク吐出性を有する液体吐出ヘッド及び画像形成装置を提供する。
【解決手段】液滴を吐出する吐出口を有するノズル板と、前記吐出口が連通する個別液室を有する流路板と、を備え、前記ノズル板と前記流路板とは、エポキシ接着剤が硬化して接合されてなり、アミド系有機溶剤と、水と、を含むインクを吐出し、前記アミド系有機溶剤量は、前記インク中に20重量%以上含有されてなり、且つ、N−メチルピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、及び下記構造式(1)で示される化合物のいずれか1以上を含み、前記エポキシ接着剤は、(A)水酸基を有しないエポキシ樹脂モノマーと、(B)アミン系硬化剤と、を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長期に亘り充分な接着性とインク吐出性を有する液体吐出ヘッドおよび該液体吐出ヘッドを備えた画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、プリンタ、ファクシミリ、複写装置、プロッタ等の画像記録装置(画像形成装置)として用いるインクジェット記録装置において使用するインクジェットヘッドは、インク滴を吐出するノズルと、このノズルが連通する液室(加圧室、吐出室、圧力室、加圧液室等とも称される。)と、この液室内のインクを加圧する圧力発生手段(駆動手段、或いはエネルギー発生手段)とを備えて、圧力発生手段を駆動することで液室内インクを加圧してノズルからインク滴を吐出させるものである。
【0003】
従来、インクジェットヘッドとしては、圧電素子を用いて液室の壁面を形成する振動板を変形させてインク滴を吐出させるようにしたもの(特許文献1:特公平2−51734号公報参照)、或いは、発熱抵抗体を用いて液室内でインクを加熱して気泡を発生させることによる圧力でインク滴を吐出させるようにしたもの(特許文献2:特公昭61−59911号公報参照)、液室の壁面を形成する振動板と電極とを平行に配置し、振動板と電極との間に発生させる静電力によって振動板を変形させることでインク滴を吐出させるようにしたもの(特許文献3:特開平6−71882号公報等参照)などが知られている。
【0004】
ところで、インクジェットヘッドは、液室、この液室にインクを供給する流体抵抗部、流体抵抗部を介して液室に供給するための共通インク液室、インク滴を吐出するためのノズル孔或いはノズル溝などの各種流路を形成する必要があり、例えば、液室などの流路を形成するための流路基板(液室基板)とノズルを有するノズル板などの部材を接合してヘッドが形成される。
従来、インクジェットヘッドを構成する部材の接合には湿式の接着剤、フィルム接着剤などの接着剤接合が一般的であるが、この他、シリコン基板を液室基板やノズル板に用いた場合には直接接合や金属材料を介した共晶接合、あるいは金属材料を用いた場合には陽極接合なども行われている。
インクジェットヘッドは接着部の端部がインクに曝されており、またインク吐出の圧力が部材間にかかる。これらの吐出サイクルは数kHzであり、高周波の圧力変動を受ける部材のため接着部の劣化が進みやすい。そのため一般的な接着より耐液性が求められる。
【0005】
ところで、一般的に2つの部材の接合を行う場合には、部品精度を保ち、信頼性の高い接合を実現しなければならないという要請がある。ところが、インクジェットヘッドにおいては、接合される部位はインクと接触する部位が多く、このインクとの接触は、接合剤自体を劣化させたり、接合界面に浸透し、剥離を生じさせたりと信頼性に関して大きな問題を引き起こすことになる。
そのため接着剤は使用されるインクに対して耐性を持ち、かつ接合界面への浸透乖離を極力抑えて充分な接合強度を持つものが望まれているが、すべてのインクに対して優位な接着剤は存在しておらず、特定のインクに対する低劣化な接着剤の選定も極めて困難であった。
【0006】
近年、家庭用インクジェットプリンタや産業用インクジェットプロッタが普及したため水系インクや油系インクを吐出する機会が増えており、これらのインクに対応する接着剤も見出されている。
しかし最近は紙媒体への印字におけるカールの抑制や非吸収性フィルム媒体への印字のためのインクが開発されており、従来の水系インクや油系インクとは異なる特性を有している。
すなわち特許文献4(特開2005−220296号公報)に示されるようにカール抑制インクはインク中の水分を押さえ溶剤を増やした組成を示しており、従来の水系インクのように水の特性が強く出たものではなく水溶性有機溶媒の特性がより強く表れたインクとなっている。また特許文献5(特許4277898号公報)に示されるような非吸収性フィルム媒体への印字インクは、メチルピロリドンのような溶解性の高い溶媒を多く添加するインクとなっており、従来の水性インクに比べて有機物への攻撃性が高くなっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これらのインクの特徴は水を伴ったインクでありながら有機溶媒の特性が強く出ているインクのため、従来の水系インクより有機構造体への浸透性が増している点が従来の水系インクと異なっている。そのため水系インクに用いていた接着剤を用いると接着剤にインクが浸透しやすく、また界面への水分の浸透が有るため、金属や酸化膜の様に接着表面が親水性であるものの接着強度を著しく低下させるという課題がある。
そこで本発明は、以上の従来技術における問題に鑑みてなされたものであり、長期に亘り充分な接着性とインク吐出性を有する液体吐出ヘッドおよび該液体吐出ヘッドを備えた画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明に係る液体吐出ヘッドおよび該液体吐出ヘッドを備えた画像形成装置は、具体的には以下の技術的特徴を有する。
【0009】
本発明は、液滴を吐出する吐出口を有するノズル板と、前記吐出口が連通する個別液室を有する流路板と、を備え、前記ノズル板及び前記流路板は、表面に酸化膜を有する薄板であり、前記ノズル板と前記流路板とは、エポキシ接着剤が硬化して接合されてなり、アミド系有機溶剤と、水と、を含むインクを吐出し、前記アミド系有機溶剤量は、前記インク中に20重量%以上含有されてなり、且つ、N−メチルピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、及び下記構造式(1)で示される化合物のいずれか1以上を含み、前記エポキシ接着剤は、(A)水酸基を有しないエポキシ樹脂モノマーと、(B)アミン系硬化剤と、を含有することを特徴とする液体吐出ヘッドである。
【0010】
【化1】

【0011】
また、本発明は、液体吐出ヘッドを備えて画像を形成する画像形成装置であって、前記液体吐出ヘッドは、上記記載の液体吐出ヘッドであることを特徴とする画像形成装置である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、長期に亘り充分な接着性とインク吐出性を有する液体吐出ヘッドおよび該液体吐出ヘッドを備えた画像形成装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る液体吐出ヘッドの一実施の形態における分解斜視図である。
【図2】本発明に係る液体吐出ヘッドの一実施の形態における構成を示す断面図であ
【図3】図2のA−A線上の断面図である。
【図4】本発明に係る液体吐出ヘッドを搭載した画像形成装置の一例を示す斜視説明図である。
【図5】同画像形成装置の機構部の側面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明に係る液体吐出ヘッドおよび該液体吐出ヘッドを備えた画像形成装置についてさらに詳細に説明する。
尚、以下に述べる実施の形態は、本発明の好適な実施の形態であるから技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は以下の説明において本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。
【0015】
<接着剤に関して>
インクを構成する成分としての親水性有機溶剤や水分が、接着剤や接着界面に浸透することで剥離を促進し接着強度を低下させる原因となっている。そのためインクの接着剤への浸透を抑えることが重要となる。インクの浸透を抑制するには硬化後の構造面からは接着剤の密度を向上させ接着剤の膨潤を押さえ込むことと、化学面からはインクと合い交えない組成とし浸透を防ぐ事が必要となる。
【0016】
エポキシ樹脂は金属接着剤としてもよく用いられる材料である。このような金属接着剤として用いられるようなエポキシ樹脂には水酸基を持つモノマーを硬化させた接着剤があり、エポキシ樹脂の持つ水酸基と金属表面の酸化膜につく水酸基の間に働く水素結合の力で非常に強い接着力を持っている。
しかしながら前記のような水酸基をもつエポキシ樹脂は、インクジェットヘッドに用いるとヘッド内のインクから透湿した水により水素結合が切れて、接合界面の密着性が徐々に低下してしまう。それでもエポキシ接着剤は複数のエポキシ基が3次元架橋を行うことで接着するため、他の接着剤に比べて架橋密度が高く膨潤しにくいことから、従来の水系インクに対して比較的効果的な接着剤として用いられてきた。しかしながら、カールの抑制インクや非吸収性フィルム媒体用のインクのような親水性有機溶剤が多いインクでは、従来のエポキシ接着剤では強度低下を抑制できないという問題があった。
【0017】
そこで、本発明に係る液体吐出ヘッドは、液滴を吐出する吐出口を有するノズル板と、前記吐出口が連通する個別液室を有する流路板と、を備え、前記ノズル板と前記流路板とは、エポキシ接着剤が硬化して接合されてなり、アミド系有機溶剤と、水と、を含むインクを吐出し、前記アミド系有機溶剤量は、前記インク中に20重量%以上含有されてなり、且つ、N−メチルピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、及び下記構造式(1)で示される化合物のいずれか1以上を含み、前記エポキシ接着剤は、(A)水酸基を有しないエポキシ樹脂モノマーと、(B)アミン系硬化剤と、を含有することを特徴とする。
【0018】
【化2】

【0019】
<エポキシ接着剤>
即ち、本発明に係る液体吐出ヘッドに用いられるエポキシ接着剤は、前記(A)及び(B)を含有する処方とした。
水酸基を有しないエポキシ樹脂モノマーが硬化したエポキシ樹脂は吸湿による性能の劣化が比較的緩やかとなる。この理由は以下のように考えられる。
水酸基間で働く水素結合は物理的な結合力は強いものの、化学的には水による反応で容易に加水分解してしまう性質のものである。これに対して、水酸基を有しないエポキシ樹脂モノマーが硬化したエポキシ樹脂は、エポキシ基が開環してできる水酸基以外には水酸基を有しないため、硬化物は比較的水酸基の濃度の低い樹脂となり、水素結合もでき難い。したがって、水酸基を有しないエポキシ樹脂モノマーが硬化したエポキシ樹脂は、結合力の変化もし難い。
【0020】
ここでインクジェットヘッドは、内部が常にインクまたは充填液で濡れた環境に晒される製造物である。このため、接着剤は常に湿度100%の環境に置かれることになる。したがって前記のように水酸基を有しないエポキシ樹脂モノマーを成分とする接着剤を用いることがより有益であることは明らかである。
【0021】
≪(A)エポキシ樹脂モノマー:主剤≫
エポキシ接着剤を構成するエポキシ樹脂モノマーについては、水酸基を有しないエポキシ樹脂モノマーを用い、エポキシ基を有する多官能化合物を使用することで、三次元架橋を構成した硬化物が得られる。
【0022】
三次元架橋は多いほど膨潤を抑制する反面、樹脂は剛直になる。また架橋点には水酸基があるため、架橋点密度は大きすぎても接液性が悪くなる。
インクジェットヘッドは通常箔板を接着して作られる。強度は接着面に対して垂直方向のベクトルに対して求められる。
そこで、2官能、あるいは分子量に対して比較的官能基数が小さいエポキシ樹脂がインクジェットヘッドに用いる接着剤のエポキシ樹脂モノマーとしてより望ましい。
また上述のとおり、主剤に用いるエポキシ樹脂モノマーとして水酸基を有しないエポキシ樹脂モノマーを選択すると、硬化樹脂の吸湿性が低く、強度劣化を起こしにくいエポキシ接着剤とすることができる。
【0023】
水酸基を有しないエポキシ樹脂モノマーとしては例えば、ビフェニル型エポキシ、フェノールノボラック型エポキシ、クレゾールノボラック型エポキシ、DCPD型(ジシクロペンタジエン型)エポキシ、ナフタレン型エポキシといった材料が挙げられる。これらの中でも、DCPD型エポキシ、及びナフタレン型エポキシは特にモノマーの立体障害が小さく、硬化樹脂で分子間の隙間が小さくなることから、より強度低下を起こし難く好ましい。
【0024】
エポキシ樹脂モノマーは常温で液体であっても良いが、常温で固体のエポキシ樹脂がモノマーより好ましい。固体のエポキシ樹脂モノマーを用いた場合、真空乾燥して溶媒を揮発させる、あるいは短時間加熱して半硬化の状態にすることで、エポキシ接着剤をタック性レスの状態にすることが出来る。
【0025】
インクジェットヘッドを構成する部材は必ずしも平坦では無く、液室やノズルを作る加工工程を経て歪みを生じる。このような歪みを持った部材でも加圧によって矯正しながら接着を行うと平坦に接着することができる。しかし、矯正を行ったときに接着剤界面の上を部材が滑るため、タック性が有ると接着剤を引きずってしまい、はみだしが大きくなってしまう不具合を生じる。
そこで、本発明ではエポキシ接着剤をタック性レスの状態とすることで接着剤の引きずりを防止できるため好ましい。
【0026】
インクジェットヘッドを構成する部材にはSiO、TiOのような酸化膜層を表面に形成しても良い。
この酸化膜の上にさらにシランカップリング剤層を形成する、あるいはエポキシ接着剤にシランカップリング剤を混合することで、界面の密着性が強化でき、エポキシ接着剤の耐インク性が向上する。酸化膜層は大気中の水分を元に水酸基を界面に形成する。この水酸基とシランカップリング剤のシラノール基が脱水縮合して強固に結合する。このため耐インク性が向上する。
ただし、シランカップリング剤をエポキシ接着剤に混合する場合は、過度に添加すると、シランカップリング剤がエポキシと結合する反応基を分子鎖の片末端にしか持たないため、硬化樹脂の分子鎖長が短くなり、弾性が減るため、結合強度の低下を招く。このため、エポキシ接着剤におけるシランカップリング剤の配合量の適量はエポキシ樹脂の分子量にもよるが、10重量%未満に止めることが好ましい。
【0027】
≪(B)アミン系硬化剤≫
アミン系硬化剤で結合した接着剤は、強度低下しにくい。理由として、以下のように考えられるが、本発明はこれに限定されるものではない。
アミン系硬化剤は結合時にエポキシ基が開環してアミド結合を作るが、前記アミド結合でできる水酸基はアルコール性水酸基と比べ電気吸引性が弱く、水素結合を作りにくい。
【0028】
アミン系硬化剤は分子量によって反応性が異なるが、一般に分子鎖が長い硬化剤ほど反応性が良く、短い硬化剤ほど反応性は低い。
【0029】
分子鎖が長いアミン系硬化剤としては脂肪族アミン、および芳香族アミン等が挙げられる。これらを用いた場合、低温で硬化することができる。また、分子鎖が長いアミン系硬化剤は分子鎖が長いため、硬化樹脂に弾性を付与でき、高い接着力を得ることができる。ただし、分子鎖が長いアミン系硬化剤は高い反応性ゆえに、用いた場合、接着剤のライフタイムが短くなる側面もある。
【0030】
一方、分子量の低い(分子鎖が短い)アミン系硬化剤であるジシアンジアミドを用いた場合、エポキシ樹脂モノマーと混合後も比較的ライフタイムが長いため、一液硬化型接着剤のように扱える。このため、分子鎖が短いアミン系硬化剤は使用に当って取り回しが良い利点が有る。ただし、分子鎖が短いアミン系硬化剤は高温にしないと硬化反応が進まないため、部材の熱膨張差を原因とした接合ズレなどを生じやすい接着剤となってしまう。
【0031】
どのようなアミン系硬化剤を用いれば良いかは、採用する接合工法やプロセス、必要な接合強度、接合する部材の熱膨張率差、撥水剤の耐熱性等、接合する部材の都合に合せて選択することが望ましい。
【0032】
本発明に用いられるアミン系硬化剤としては、変性脂肪族ポリアミン、脂肪族ポリアミン、変性脂環式ポリアミン、脂環式ポリアミン、芳香族ポリアミン、ポリアミノアミド等の1級アミン類、2級アミン類等が挙げられる。
代表的なポリアミンとして、鎖状脂肪族ポリアミン、例えばエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ヘキサメチレンジアミン、ポリオキシプロピレンジアミン、ポリオキシプロピレントリアミンなど、環状脂肪族アミン、例えばメンセンジアミン、イソホロンジアミン、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ジアミノジシクロヘキシルメタン、ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン、N−アミノメチルピペラジン、ノルボルネンジアミンなど、芳香環含有脂肪族アミン、例えばキシレンジアミンなど、芳香族アミン、例えばフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、ジエチルトルエンジアミン、変性脂肪族ポリアミン、例えばポリエチレンポリアミン、ポリオキシアルキレンポリアミンなどが挙げられる。
【0033】
≪溶剤≫
エポキシ接着剤としては無溶剤で有って良いが、希釈溶剤で希釈した方が上述したシランカップリング剤を用いる場合にこのシランカップリング剤の表面濃縮が起こりやすく望ましい。また、エポキシ接着剤にシランカップリング剤を用いない場合であっても、インクジェットヘッドに用いる接着剤としては、振動板の弾性への影響を小さくする、あるいはノズル孔を接着剤で塞がないためにはみ出し量を極僅かとする必要が有るが、希釈溶剤で希釈された状態であれば、凸版印刷やスプレー塗布等の工法で塗りムラを極小さく、且つ均一に薄く接着剤を塗布することができるため、希釈溶剤で希釈することが好ましい。
希釈溶剤としては、エポキシ基と反応性がある活性水素のある溶剤よりも、活性水素のない溶剤の方が接着剤の保存性の面から好ましいが、部材への濡れ性や乾燥速度、粘度等の面から自由に選択することが可能である。
また、希釈溶剤としては、完全に溶解した状態ではなく分散した状態とするものであっても、乾燥時に接着剤層が形成されるならば問題なく使用可能である。
【0034】
溶剤の乾燥に関しては室温や、反応しない範囲での加温も可能である。また、溶剤の乾燥に関しては減圧乾燥を行うことも可能であり、減圧乾燥を行うことで高沸点の溶剤を使用してもエポキシ樹脂を反応させずに乾燥させることは可能である。
乾燥させたエポキシ接着剤にタック性を持たせなくするためには、常温で固体のエポキシ樹脂モノマーを一定量エポキシ接着剤に含んでいる必要が有る。
使用可能な溶剤はエポキシ樹脂モノマー、硬化剤、その他添加剤に応じて自由に選択することができるが、硬化反応を安定的に進めるためにも不純物が管理された溶剤が望ましい。
【0035】
≪その他≫
本発明に用いられるエポキシ接着剤は、上述のとおり水酸基を有しないエポキシ樹脂とアミン系硬化剤を混合したものを用いる。
また、本発明に用いられるエポキシ接着剤には上記のエポキシ樹脂モノマーや硬化剤、溶剤以外に、副資材としてカップリング剤、フィラーやウレタン、その他のバインダー樹脂、粘度調整剤などを含んでもよい。カップリング剤としてはシランカップリング剤等が挙げられる。フィラーとしてはシリカやアルミナのような無機粒子で有っても、メラミン樹脂やアクリル樹脂の樹脂微粒子で有っても良い。また粘度調整剤として高級脂肪酸アマイドなどを添加して、接着剤の塗工に適した粘度に調整することも可能である。また塗膜に泡による塗布斑が発生しないために抑泡剤や消泡剤を添加しても良い。
【0036】
<工法に関して>
本発明のインクジェットヘッドは構成の詳細については後述するが、箔板を積層して作成する。本発明に用いられるエポキシ接着剤は、界面が多くインクに触れる積層面に塗布しても充分な接液性を保って、充分な強度を維持して接着することができるため、インクに触れるいずれの箇所であっても利用することができる。
【0037】
ヘッドの組立工法として、例えば、基準と成る同孔径の穴があいた部材にエポキシ接着剤を塗布した後、冶具に立てたピンに前記基準となる穴を貫通させて、アライメントを合せておき、そのまま加熱して接着剤を硬化させて部材を接合しても良い。
【0038】
近年のインクジェットヘッドの高精細化の要求に伴い、接着剤はより薄く塗布して、はみ出しや流れ出しを少なくすることが求められている事から、塗布量を微小にコントロールすることができるスプレー塗布が好ましい。ただし、接着剤の塗布方法としては他に転写印刷、静電塗装といった方法もあり、本発明は塗布方法により何ら限定されるものではない。
【0039】
エポキシ接着剤の乾燥は真空乾燥と加熱乾燥では、シランカップリング剤を用いる場合は真空乾燥がより望ましい。
理由の一つ目として加熱乾燥ほど硬化剤の反応が進まないことが挙げられる。貼り合せの前に接着剤の硬化が進んでいないこと、また、反応が進んでおらずより低粘度であることからシランカップリング剤モノマーが接合界面に濃縮し易いことが接着硬化後、より高い接液性を維持する作用を示す。
理由の二つ目として加熱乾燥では分子量の小さいシランカップリング剤モノマーが蒸発し易いこと、が挙げられる。接合時、シランカップリング剤が表面により高濃度に存在している方がエポキシ接着剤の接液性が高くなると考えられる。
【0040】
また上記のエポキシ接着剤を使用する際には、タック性がない、あるいは少ない状態に出来る接着剤の方が、部材接着を精密に微調整してから接着することが可能となるためを望ましい。真空乾燥で前記状態を得るにはエポキシ接着剤の樹脂成分として少なくとも50%以上、望ましくは70%以上の割合で固体の材料を含んでいることが望ましい。
【0041】
本発明におけるエポキシ接着剤は、接着工法の過程において、加湿放置工程を設けることが望ましい。
例えば、エポキシ接着剤の塗布後、真空乾燥や加熱により十分に溶媒を飛ばした後、直ちに、数十分間、湿度75%〜100%RHほどの高湿度下に加湿放置する。このとき湿度と時間をコントロールし、定めた湿度、時間で放置することが肝要である。
【0042】
<インクに関して>
本発明に用いられるインクジェット用インクは、アミド系有機溶剤と水とを含み、前記アミド系有機溶剤は、インク全体の20重量%以上配合されてなる。
また、アミド系有機溶剤は水溶性であることが好ましく、以下において水溶性アミド化合物とも称する。
さらに、本発明に用いられるインクジェット用インクは、前述のほか、界面活性剤及び着色剤を含有することが好ましく、更に必要に応じてその他の成分を含有してなる。
【0043】
・アミド系有機溶剤
本発明に用いられるインクジェット用インクとして、水溶性有機溶剤としてのアミド系有機溶剤(水溶性アミド化合物)を含有し、必要に応じて下記に記載する水溶性有機溶剤を混合して用いることができる。
水溶性アミド化合物は多くの有機化合物や無機塩を溶解することが可能な極性溶媒となっており、水から有機溶剤へ幅広く混合することが可能である。そのためメディアに対する濡れ性や溶解性、他の成分の混和安定性などを向上させる効果が得られる。
このような水溶性アミド化合物としては、例えば環状アミド化合物として、2−ピロリドン(bp250℃)、N−メチル−2−ピロリドン(bp202℃)、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(bp226℃)、ε−カプロラクタム(bp270℃)など、非環状アミド化合物として、ホルムアミド(bp210℃)、N−メチルホルムアミド(bp199−201℃)、N,N−ジメチルホルムアミド(bp153℃)、N,N−ジエチルホルムアミド(bp176−177℃)、N,N−ジメチルアセトアミド(bp165℃)などが挙げられる。
また非環状アミド化合物の一種である下記構造式(1)で示されるアミド化合物も含まれる。
【0044】
【化3】

【0045】
上記構造式(1)のアミド化合物は、アルキル基の長さによって親水性が異なっており、水や有機溶媒への混和性が異なってくる。
【0046】
本発明では、以上列記したアミド系有機溶剤の中でも、N−メチルピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、及び前記構造式(1)で示される化合物(3−メトキシ−N,N−ジメチルプロパンアミド)のいずれか1以上を含むことが特に好ましい。
【0047】
これらのアミド系有機溶剤は何れも溶解性が高く、従来の接着剤に対しても溶解性が高いためインクへの添加量を増やすことが困難であった。そのため、積層型インクジェットヘッドのような接着剤を用いているインクジェットヘッドでは、使用するインクへのアミド系有機溶剤の添加量は10重量%以下であり、多量の添加は積層間の接着剤を攻撃してしまい充分な強度が得られない問題点があった。
【0048】
本発明の液体吐出ヘッドの場合、上述のエポキシ接着剤を用いるため、前記インクジェット用インク中におけるアミド系有機溶剤の含有量は、20重量%以上添加することが可能となる。
このようなアミド系有機溶剤の添加量は、印字画像のベタ均一性の面から20重量%以上が好ましく、60重量%を超えると、紙面上での乾燥性に劣り更に普通紙上の文字品位が低下することがあるため60重量%以下が好ましい。
特に好ましくは、アミド系有機溶剤が、インク中において添加される量が40重量%以上である。
【0049】
また、上記アミド系有機溶剤と混合して使用される水溶性有機溶剤としては、温度23℃、相対湿度80%環境中の平衡水分量が30wt%以上である多価アルコールを少なくとも1種類以上を含み、例えば前記のように、平衡水分量及び沸点がかなり高い湿潤剤A(湿潤剤Aは、温度23℃、相対湿度80%環境中の平衡水分量が30wt%以上、沸点が250℃以上のもの。湿潤剤Aの平衡水分量は、40wt%以上であることが好ましい)、および、平衡水分量は高いが沸点が比較低い湿潤剤B(湿潤剤Bは、23℃、80%での平衡水分量が30wt%以上で、沸点が140℃〜250℃のもの)を含有することが好ましい。
【0050】
該多価アルコール中、常圧で沸点250℃を越える湿潤剤Aとしては、1,2,3−ブタントリオール(bp175℃/33hPa、38wt%)、1,2,4−ブタントリオール(bp190−191℃/24hPa、41wt%)、グリセリン(bp290℃、49wt%)、ジグリセリン(bp270℃/20hPa、38wt%)、トリエチレングリコール(bp285℃、39wt%)、テトラエチレングリコール(bp324−330℃、37wt%)等が挙げられ、沸点140〜250℃の湿潤剤Bとしてはジエチレングリコール(bp245℃、43wt%)、1,3−ブタンジオール(bp203−204℃、35wt%)等が挙げられる。
【0051】
これら湿潤剤A、湿潤剤Bは、いずれも、温度23℃、相対湿度80%環境中の平衡水分量が30wt%以上の吸湿性が高い材料である。ただし、湿潤剤Bは、湿潤剤Aよりも、蒸発性が比較的高いことも事実である。特に好ましくはグリセリン、1,3−ブタンジオールからなる群から選択されたものが挙げられる。
【0052】
湿潤剤Aと湿潤剤Bの組合せを用いる場合、湿潤剤Aと湿潤剤Bとの含有量比B/A(質量比)は、他の添加剤の種類や量にも少なからず依存するので、一概に云えないが、例えば10/90〜90/10の範囲であることが好ましい。
【0053】
本発明における、平衡水分量は、塩化カリウム/塩化ナトリウム飽和水溶液を用いデシケーター内の温湿度を温度23±1℃、相対湿度80±3%に保ち、このデシケーター内に各水溶性有機溶剤を1gずつ秤量したシャーレを保管し、飽和する水分量を求めたものである。
【0054】
飽和水分量(%)=(有機溶剤に吸収した水分量/有機溶剤+有機溶剤に吸収した水分量)×100
【0055】
上記多価アルコールを水溶性有機溶剤全体の50wt%以上用いた場合が吐出安定性確保やインク吐出装置の維持装置での廃インク固着防止に優れている。
【0056】
またインクには、上記湿潤剤A、B以外にも、必要に応じて湿潤剤A、Bの一部に代えて、または湿潤剤A、Bに加えて、その余の有機溶剤を併用することができる。
【0057】
併用可能な有機溶剤としては、多価アルコール類、多価アルコールアルキルエーテル類、多価アルコールアリールエーテル類、アミン類、含硫黄化合物類、プロピレンカーボネート、炭酸エチレン、その他の水溶性有機溶剤が含まれる。
【0058】
前記多価アルコール類としては、例えば、ジプロピレングリコール(bp232℃)、1,5−ペンタンジオール(bp242℃)、3−メチル−1,3−ブタンジオール(bp203℃)、プロピレングリコール(bp187℃)、2−メチル−2,4−ペンタンジオール(bp197℃)、エチレングリコール(bp196−198℃)、トリプロピレングリコール(bp267℃)、ヘキシレングリコール(bp197℃)、ポリエチレングリコール(粘調液体0固体)、ポリプロピレングリコール(bp187℃)、1,6−ヘキサンジオール(bp253−260℃)、1,2,6−ヘキサントリオール(bp178℃)、トリメチロールエタン(固体、mp199−201℃)、トリメチロールプロパン(固体、mp61℃)などが挙げられる。
【0059】
前記多価アルコールアルキルエーテル類としては、例えば、エチレングリコールモノエチルエーテル(bp135℃)、エチレングリコールモノブチルエーテル(bp171℃)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(bp194℃)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(bp197℃)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(bp231℃)、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル(bp229℃)、プロピレングリコールモノエチルエーテル(bp132℃)などが挙げられる。
【0060】
前記多価アルコールアリールエーテル類としては、例えば、エチレングリコールモノフェニルエーテル(bp237℃)、エチレングリコールモノベンジルエーテルなどが挙げられる。
【0061】
前記アミン類としては、例えば、モノエタノールアミン(bp170℃)、ジエタノールアミン(bp268℃)、トリエタノールアミン(bp360℃)、N,N−ジメチルモノエタノールアミン(bp139℃)、N−メチルジエタノールアミン(bp243℃)、N−メチルエタノールアミン(bp159℃)、N−フェニルエタノールアミン(bp282−287℃)、3−アミノプロピルジエチルアミン(bp169℃)などが挙げられる。
【0062】
前記含硫黄化合物類としては、例えば、ジメチルスルホキシド(bp139℃)、スルホラン(bp285℃)、チオジグリコール(bp282℃)などが挙げられる。
【0063】
その他の固体湿潤剤としては、糖類などが好ましい。
該糖類の例としては、単糖類、二糖類、オリゴ糖類(三糖類、四糖類を含む)、多糖類、などが挙げられる。具体的には、グルコース、マンノース、フルクトース、リボース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、マルトース、セロビオース、ラクトース、スクロース、トレハロース、マルトトリオース、などが挙げられる。
ここで、多糖類とは広義の糖を意味し、α−シクロデキストリン、セルロースなど自然界に広く存在する物質を含む意味に用いることとする。
また、これらの糖類の誘導体としては、前記した糖類の還元糖(例えば、糖アルコール(一般式:HOCH(CHOH)nCHOH(ただし、nは2〜5の整数を表す)で表わされる。)、酸化糖(例えば、アルドン酸、ウロン酸など)、アミノ酸、チオ酸などが挙げられる。
【0064】
これらの中でも、糖アルコールが好ましく、具体例としてはマルチトール、ソルビットなどが挙げられる。
【0065】
・着色剤
着色剤については、耐候性の面から主として顔料が用いられるが、色調調整の目的で耐候性を劣化させない範囲内で同時に染料を含有しても構わない。
【0066】
無機顔料としては、酸化チタン及び酸化鉄、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、バリウムイエロー、カドミウムレッド、クロムイエローに加え、コンタクト法、ファーネス法、サーマル法などの公知の方法によって製造されたカーボンブラックを使用することができる。
【0067】
有機顔料としては、アゾ顔料(アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料などを含む)、多環式顔料(例えば、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、インジゴ顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフラロン顔料など)、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレートなど)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラックなどを使用できる。これらの顔料のうち、特に、水と親和性の良いものが好ましく用いられる。
【0068】
これら顔料のうち、好ましい形態としては、顔料の表面に少なくとも1種の親水基が直接もしくは他の原子団を介して結合するように表面改質されたものである。そのためには、顔料の表面に、ある特定の官能基(スルホン基やカルボキシル基等の官能基)を化学的に結合させるか、あるいはまた、次亜ハロゲン酸および/またはその塩を用いて湿式酸化処理するなどの方法が用いられる。なかでも好ましい形態は、顔料の表面にカルボキシル基が結合され、水中に分散されている形態である。これも顔料が表面改質されカルボキシル基が結合しているために、分散安定性が向上するばかりではなく、高品位な印字品質が得られるとともに、印字後の記録媒体の耐水性がより向上する。
【0069】
またこの形態のインクは乾燥後の再分散性に優れるため、長期間印字を休止し、インクジェットヘッドのノズル付近のインクの水分が蒸発した場合も目詰まりを起こさず簡単なクリーニング動作で容易に良好な印字が行えるようになる。またこの自己分散型の顔料は、後述する界面活性剤及び浸透剤と組み合わせた時に、特に相乗効果が大きく、より信頼性の高い、高品位な画像を得ることが可能となる。
上記形態の顔料に加え、ポリマー微粒子に顔料を含有させたポリマーエマルジョンを使用することも可能である。顔料を含有させたポリマーエマルジョンとは、ポリマー微粒子中に顔料を封入したもの、及び/またはポリマー微粒子の表面に顔料を吸着させたものである。この場合、全ての顔料が封入及び/または吸着している必要はなく、本発明の効果が損なわれない範囲で該顔料がエマルジョン中に分散にしていてもよい。ポリマーエマルジョンを形成するポリマーとしてはビニル系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、及びポリウレタン系ポリマー等が挙げられるが、特に好ましく用いられるポリマーはビニル系ポリマー及びポリエステル系ポリマーであり、特開2000−53897号公報、2001−139849号公報に開示されているポリマーを引用することができる。
【0070】
本発明では顔料のみでなく、水溶性染料を併用することも可能であり、特に好ましいものは、酸性染料及び直接性染料である。
【0071】
インク中の着色剤の添加量は、1〜15重量%程度が好ましく、より好ましくは3〜12重量%程度である。
【0072】
・界面活性剤
界面活性剤としてはアニオン系界面活性剤またはノニオン系界面活性剤、両性界面活性剤が用いられる。色材の種類や湿潤剤、水溶性有機溶剤の組合せによって、分散安定性を損なわない界面活性剤を選択する。
【0073】
アニオン性界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、琥珀酸エステルスルホン酸塩、ラウリル酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェートの塩などが挙げられる。
【0074】
非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミドなどが挙げられる。
【0075】
両性界面活性剤としては、例えばラウリルアミノプロピオン酸塩、ラウリルジメチルベタイン、ステアリルジメチルベタイン、ラウリルジヒドロキシエチルベタインなどが挙げられる。具体例として以下に挙げるものが好適に使用されるが、これらに限定されるわけではない。ラウリルジメチルアミンオキシド、ミリスチルジメチルアミンオキシド、ステアリルジメチルアミンオキシド、ジヒドロキシエチルラウリルアミンオキシド、ポリオキシエチレンヤシ油アルキルジメチルアミンオキシド、ジメチルアルキル(ヤシ)ベタイン、ジメチルラウリルベタイン等が挙げられる。
【0076】
このような界面活性剤は日光ケミカルズ(株)、日本エマルジョン(株)、日本触媒(株)、東邦化学(株)、花王(株)、アデカ(株)、ライオン(株)、青木油脂(株)、三洋化成(株)などの界面活性剤メーカより容易に入手できる。
【0077】
またアセチレングリコール系界面活性剤は、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オールなどのアセチレングリコール系(例えばエアープロダクツ社(米国)のサーフィノール104、82、465、485あるいはTGなど)をもちいることができるが、特にサーフィノール465、104やTGが良好な印字品質を示す。
【0078】
フッ素系界面活性剤としては、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルリン酸エステル、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、パーフルオロアルキルベタイン、パーフルオロアルキルアミンオキサイド化合物、パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマーおよびこの硫酸エステル塩、フッ素系脂肪族系ポリマーエステルが挙げられる。
【0079】
このようなフッ素系界面活性剤として市販されているものを挙げると、サーフロンS−111、S−112、S−113、S121、S131、S132、S−141、S−145(旭硝子社製)、フルラードFC−93、FC−95、FC−98、FC−129、FC−135、FC−170C、FC−430、FC−431、FC−4430(住友スリーエム社製)、FT−110、250、251、400S(ネオス社製)、ゾニールFS−62、FSA、FSE、FSJ、FSP、TBS、UR、FSO、FSO−100、FSN N、FSN−100、FS−300、FSK(DUPONT社製)、ポリフォックスPF−136A、PF−156A、PF−151N(OMNOVA社製)などがあり、メーカより容易に入手できる。
【0080】
前記界面活性剤は、これらに限定されるものではなく、単独で用いても、複数のものを混合して用いてもよい。単独では記録液(インク)中で容易に溶解しない場合も、混合することで可溶化され、安定に存在することができる。
【0081】
界面活性剤総量として浸透性の効果を発揮するためには0.01〜5重量%含有していることが望ましい。界面活性剤総量が0.01重量%未満では添加した効果は無く、5.0重量%より多い添加では記録媒体への浸透性が必要以上に高くなり、画像濃度の低下や裏抜けの発生といった問題が発生する。多くの物性の普通紙に対応するためにも0.5〜2重量%がより好ましい。
【0082】
・浸透剤
浸透剤としては、20℃の水に対する溶解度が0.2重量%以上5.0重量%未満のポリオールの少なくとも1種を含有することが望ましい。
【0083】
このようなポリオールのうち、脂肪族ジオールとしては、2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、3,3−ジメチル−1,2−ブタンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、2,4−ジメチル−2,4−ペンタンジオール、2,5−ジメチル−2,5−ヘキサンジオール、5−ヘキセン−1,2−ジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールなどが、具体例として挙げられる。
これらのなかで最も望ましいものは2−エチル−1,3−ヘキサンジオール及び/または2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールである。
【0084】
その他の併用できる浸透剤としては、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノアリルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールクロロフェニルエーテル等の多価アルコールのアルキル及びアリールエーテル類、エタノール等の低級アルコール類などが挙げられるが、インク中に溶解し、所望の物性に調整できるものであれば、これらに限らない。
【0085】
浸透剤として水への溶解度が低いものであっても、前述のアミド化合物にて可溶化されてインクから析出しないものであれば、浸透剤として利用可能である。従来のインクではアミド化合物の添加量が少なかったため可溶化効果が少なかったが、本発明ではインクにアミド化合物を多く添加できるため、従来では使用できなかった難溶性有機物も添加することができる。そのため浸透が困難であった印刷用コート紙などにも浸透させることが可能となる。
【0086】
浸透剤の添加量としては0.1〜4.0重量%の範囲が望ましい。添加量が0.1重量%よりも少ないと、速乾性が得られず滲んだ画像となる。逆に添加量が4.0重量%よりも多いと着色剤の分散安定性が損なわれ、ノズルが目詰まりしやすくなったり、また記録媒体への浸透性が必要以上に高くなり、画像濃度の低下や裏抜けの発生といった問題が発生する。
【0087】
・水分散性樹脂
水分散性樹脂としては、縮合系合成樹脂(ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエーテル樹脂、珪素樹脂など)や付加系合成樹脂(ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリビニルエステル系樹脂、ポリアクリル酸系樹脂、不飽和カルボン酸系樹脂など)、天然高分子(セルロース類、ロジン類、天然ゴムなど)を用いることができ、樹脂はホモポリマーとして使用されても良く、またコポリマーして使用して複合系樹脂として用いても良く、単相構造型及びコアシェル型、パワーフィード型エマルジョンの何れのものも使用できる。水分散性樹脂としては、樹脂自身に親水基を持ち自己分散性を持つもの、樹脂自身は分散性を持たず界面活性剤や親水基をもつ樹脂にて分散性を付与したものが使用できる。特にポリエステル樹脂やポリウレタン樹脂のアイオノマーや不飽和単量体の乳化および懸濁重合によって得られた樹脂粒子のエマルジョンが最適である。不飽和単量体の乳化重合の場合、不飽和単量体、重合開始剤、及び界面活性剤、連鎖移動剤、キレート剤、PH調整剤などを添加した水にて反応を行い樹脂エマルジョンを得るため、容易に水分散性樹脂を得ることができ、樹脂構成を容易に替えやすいため目的の性質を作りやすい。使用可能な不飽和単量体としては不飽和カルボン酸類、(メタ)アクリル酸エステル単量体類、(メタ)アクリル酸アミド単量体類、芳香族ビニル単量体類、ビニルシアン化合物単量体類、ビニル単量体類、アリル化合物単量体類、オレフィン単量体類、ジエン単量体類、不飽和炭素を持つオリゴマー類などを単独および複数組み合わせて用いることができる。これらの単量体を組み合わせることで柔軟に性質を改質することが可能であり、オリゴマー型重合開始剤を用いて重合反応、グラフト反応を行うことで樹脂の特性を改質することもできる。
【0088】
不飽和単量体を単独および複数組み合わせて用い、重合開始剤にて樹脂化することで柔軟に水分散性樹脂の性質を改質することが可能である。またこのような水分散性樹脂は強アルカリ性、強酸性下では分散破壊や加水分解などの分子鎖の断裂が引き起こされるため、PHは4〜12が望ましい。特に水分散着色剤との混和性からPHが6〜11が好ましく、PHが7〜9がより好ましい。
【0089】
水分散性樹脂の粒径は分散液の粘度と関係しており、組成が同じものでは粒径が小さくなるほど同一固形分での粘度が大きくなる。インク化した時に過剰な高粘度にならないためにも水分散性樹脂の平均粒子径は50nm以上が望ましい。また粒径が数十μmになるとインクジェットヘッドのノズル口より大きくなるため使用できない。ノズル口より小さくとも粒子径の大きな粒子がインク中に存在すると吐出性を悪化させることは知られている。インク吐出性を阻害させないために平均粒子径が500nm以下が望ましく、150nm以下が好ましい。
【0090】
水分散性樹脂は水分散着色剤を紙面に定着させる働きを持ち、常温で被膜化して色材の定着性を向上させることが望まれている。そのためには最低造膜温度(MFT)が常温以下であることが好ましく20℃以下であることが望ましい。しかしガラス転移点が−40℃以下になると樹脂皮膜の粘稠性が強くなり印字物にタックが生じるため、ガラス転移点が−30℃以上の水分散性樹脂であることが望ましい。
【0091】
−その他の成分−
その他インクに添加する添加剤としては、防腐紡黴剤やPH調整剤、キレート剤、防錆剤などが含まれるが、これらに限定されるものではない。
前記その他の成分としては、特に制限はなく、必要に応じて適宜選択することができ、例えば、pH調整剤、防腐防黴剤、キレート剤、防錆剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、酸素吸収剤、光安定化剤、消泡剤などが挙げられる。
【0092】
・pH調整剤
pH調整剤としては、調合される記録液に悪影響をおよぼさずにpHを所望の値に調整できるものであれば、任意の物質を使用することができる。
pH調整剤としては、調合される記録用インクに悪影響を及ぼさずにpHを7〜11に調整できるものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、アルコールアミン類、アルカリ金属元素の水酸化物、アンモニウムの水酸化物、ホスホニウム水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩、などが挙げられる。
前記pHが7未満及び11を超えるとインクジェットのヘッドやインク供給ユニットを溶かし出す量が大きく、インクの変質や漏洩、吐出不良などの不具合が生じることがある。
【0093】
前記アルコールアミン類としては、例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、2−アミノ−2−エチル−1,3プロパンジオール等が挙げられる。
【0094】
前記アルカリ金属元素の水酸化物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが挙げられる。
【0095】
前記アンモニウムの水酸化物としては、例えば、水酸化アンモニウム、第4級アンモニウム水酸化物、第4級ホスホニウム水酸化物などが挙げられる。
前記アルカリ金属の炭酸塩としては、例えば、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等が挙げられる。
【0096】
・防腐防黴剤
防腐防黴剤としては、例えば、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウム、安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、等が挙げられる。
【0097】
・キレート剤
キレート剤としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、ウラミル二酢酸ナトリウム等がある。
【0098】
・防錆剤
防錆剤としては、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、チオジグリコール酸アンモン、ジイソプロピルアンモニウムニトライト、四硝酸ペンタエリスリトール、ジシクロヘキシルアンモニウムニトライトなどが挙げられる。
【0099】
・酸化防止剤
酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤(ヒンダードフェノール系酸化防止剤を含む)、アミン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、などが挙げられる。
【0100】
・紫外線吸収剤
紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、サリチレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、ニッケル錯塩系紫外線吸収剤、などが挙げられる。
【0101】
・消泡剤
消泡剤としては、シリコーン消泡剤、ポリエーテル消泡剤、脂肪酸エステル消泡剤などが挙げられる。また一般的な消泡剤を併用し、破泡効果を高める観点から無機微粒子を多量に含有するものを使用する場合、該消泡剤を用いた前記記録用インクが、粒径が0.5μm以上の粗大粒子を3.0×10(個/5μl)以下含み、かつ粒径が1μm以上5μm未満の粒子の前記粗大粒子における量が1個数%以下である必要があることから、前記無機微粒子を必要に応じて適宜除去等すればよい。
【0102】
・インクについて
本発明に用いられるインクは、着色剤、水溶性有機溶剤(湿潤剤、アミド系有機溶剤)、界面活性剤、浸透剤、水分散性樹脂及び水、更に必要に応じて他の成分を水性媒体中に分散又は溶解し、更に必要に応じて攪拌混合して製造する。
【0103】
前記分散は、例えば、サンドミル、ホモジナイザー、ボールミル、ペイントシェイカー、超音波分散機等により行うことができ、攪拌混合は通常の攪拌羽を用いた攪拌機、マグネチックスターラー、高速の分散機等で行うことができる。
【0104】
本発明に用いられるインクの物性としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、粘度、表面張力等が以下の範囲であることが好ましい。
【0105】
前記インクの25℃での粘度は3〜20mPa・sが好ましい。
前記インク粘度が3mPa・s以上とすることによって、印字濃度や文字品位を向上させる効果が得られる。一方、インク粘度を20mPa・s以下に抑えることで、吐出性を確保することができる。ここで、前記粘度は、例えば、粘度計(RL−550、東機産業株式会社製)を使用して、25℃で測定することができる。
【0106】
前記インクの表面張力としては、25℃で、35mN/m以下が好ましく、32mN/m以下がより好ましい。前記表面張力が、35mN/mを超えると、記録用メディア上のインクのレベリングが起こり難く、乾燥時間の長時間化を招くことがある。
【0107】
本発明に用いられるインクの着色としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックなどが挙げられる。
これらの着色を2種以上併用したインクセットを使用して記録を行うと、多色画像を形成することができ、全色併用したインクセットを使用して記録を行うと、フルカラー画像を形成することができる。
【0108】
本発明に用いられるインクは、インクジェットヘッドとして、インク流路内のインクを加圧する圧力発生手段として圧電素子を用いてインク流路の壁面を形成する振動板を変形させてインク流路内容積を変化させてインク滴を吐出させるいわゆるピエゾ型のもの(特開平2−51734号公報参照)、あるいは、発熱抵抗体を用いてインク流路内でインクを加熱して気泡を発生させるいわゆるサーマル型のもの(特開昭61−59911号公報参照)、インク流路の壁面を形成する振動板と電極とを対向配置し、振動板と電極との間に発生させる静電力によって振動板を変形させることで,インク流路内容積を変化させてインク滴を吐出させる静電型のもの(特開平6−71882号公報参照)などのいずれのインクジェットヘッドを搭載するプリンタにも良好に使用できる。
【0109】
本発明に用いられるインクは、インクジェット記録用インク、万年筆、ボールペン、マジックペン、サインペンなどの各種分野において好適に使用することができるが、特に、インクジェット記録方式による画像形成装置(プリンタ等)において好適に使用することができ、例えば、印字又は印字前後に被記録用紙及び前記記録用インクを50〜200℃で加熱し、印字定着を促進する機能を有するプリンタ等に使用することもでき、以下の本発明のインクメディアセット、インクカートリッジ、インクジェット記録方法、インクジェット記録装置、及びインク記録物に特に好適に使用することができる。
【0110】
<液体吐出ヘッド(インクジェットヘッド)>
本発明の液体吐出ヘッドは図1、図2、及び図3に示すように箔板を積層した構造であっても良い。
本発明によれば、エポキシ接着剤に十分な接液性が備わっているため、液室を一体構成では無く、エポキシ接着剤を使って積層された構成を採用できる。積層構造とすることで、容易にヘッドを構成することが可能で有る。
【0111】
以下、本発明に係る液体吐出ヘッドの一実施の形態における構成を図1、図2及び図3を参照しながら詳細に説明する。なお、以下に述べる実施の形態は、本発明の好適な実施の形態であるから技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は以下の説明において本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。
図1、図2及び図3はオンデマンド型ヘッド部の詳細を示す図で、図1はヘッド部の分解斜視図、図2はヘッド部の組立後の断面図、図3は図2A−A線上の断面図である。
【0112】
これらの図において符号71はオリフィス(ノズル、吐出口)、72はオリフィスプレート(ノズル板)、73は圧力室(個別液室)、74は圧力室プレート(流路板)、75はリストリクタ、76はリストリクタプレート、77はダイヤフラム、78はフィルタ、79はダイヤフレームプレート、80は穴部、81はサポートプレート、82は共通液通路、83はハウジング、84は接着剤、85は圧電アクチュエータ、86は圧電振動子、87は外部電極、88は導電性接着剤、89は支持基板、90は個別電極、91は共通電極、92はスルーホール、93は液導入パイプである。
本発明では、少なくともこのノズル板72と流路板74とが、上述のエポキシ接着剤が硬化して接合されてなる。
【0113】
このオンデマンド型のヘッド部は図1に示すように、オリフィスプレート72、圧力室プレート74、リストリクタプレート76、ダイヤフレームプレート79、サポートプレート81、ハウジング83、圧電アクチュエータ85などから構成されている。
【0114】
一列に多数のオリフィス71を形成したオリフィスプレート72は、ニッケル材の電鋳加工法、ステンレス鋼材などの精密プレス加工法またはレーザ加工法などによって製作される。圧力室プレート74には、前記オリフィス71に対応した個数の圧力室73が形成され、前記オリフィス71と連通している。リストリクタプレート76は図2に示すように共通液通路82と前記圧力室73を連通し、圧力室73への液流入量を制御するリストリクタ75が形成されている。圧力室プレート74とリストリクタプレート76は、ステンレス鋼材のエッチング加工法またはニッケル材の電鋳加工法などによって製作される。
【0115】
ダイヤフレームプレート79には圧電振動子86の圧力を効率良く圧力室73に伝達するためのダイヤフラム77と、共通液通路82からリストリクタ75に流入する液中のゴミなどを除くフィルタ78が形成されている。ダイヤフレームプレート79は、ステンレス鋼材のエッチング加工法またはニッケル材の電鋳加工法などによって製作される。
【0116】
サポートプレート81はダイヤフラム77と圧電振動子86を接着剤84で固定するとき、ダイヤフラム77の振動系固定端の位置を規制し、かつ接着個所からはみ出した接着剤がダイヤフラム77の上で広がるのを規制する穴部80が形成されている。サポートプレート81は、ステンレス鋼材のエッチング加工法またはニッケル材の電鋳加工法などによって製作される。金属または合成樹脂で製作されるハウジング83には共通液通路82が設けられており、この共通液通路82にヘッド接続管93が接続されている。
【0117】
塗布液供給管20あるいはヘッド接続管93から供給された塗布液は、ヘッドの共通液通路82の途中でフィルタ78を通過して、リストリクタ75、圧力室73、オリフィス71へと順に流れる。個別電極90と共通電極91との間に所定のパルス電圧を印加することにより圧電振動子86が伸縮し、パルス電圧の印加を止めると圧電振動子86は伸縮前の状態に戻る。このような圧電振動子86の変形により圧力室73内の塗布液に瞬間的に圧力が加わり、オリフィス71からインクが液滴となって吐出される。
【0118】
<画像形成装置>
次に、本発明に係る液体吐出ヘッドであるインクジェットヘッドを搭載した画像形成装置であるインクジェット記録装置の一例について図4及び図5を参照して説明する。
なお、図4は同記録装置の斜視説明図、図5は同記録装置の機構部の側面説明図である。
【0119】
このインクジェット記録装置は、記録装置本体111の内部に主走査方向に移動可能なキャリッジ123、キャリッジ123に搭載した本発明に係るインクジェットヘッドからなる記録ヘッド、記録ヘッドへインクを供給するインクカートリッジ125等で構成される印字機構部112等を収納し、装置本体111の下方部には前方側から多数枚の用紙113を積載可能な給紙カセット(或いは給紙トレイでもよい。)114を抜き差し自在に装着することができ、また、用紙113を手差しで給紙するための手差しトレイ115を開倒することができ、給紙カセット114或いは手差しトレイ115から給送される用紙113を取り込み、印字機構部112によって所要の画像を記録した後、後面側に装着された排紙トレイ116に排紙する。
【0120】
印字機構部112は、図示しない左右の側板に横架したガイド部材である主ガイドロッド121と従ガイドロッド122とでキャリッジ123を主走査方向に摺動自在に保持し、このキャリッジ123にはイエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(Bk)の各色のインク滴を吐出する本発明に係る液体吐出ヘッドであるインクジェットヘッドからなるヘッド124を複数のインク吐出口を主走査方向と交叉する方向に配列し、インク滴吐出方向を下方に向けて装着している。
また、キャリッジ123にはヘッド124に各色のインクを供給するための各インクカートリッジ125を交換可能に装着している。
【0121】
インクカートリッジ125は上方に大気と連通する大気口、下方にはインクジェットヘッドへインクを供給する供給口を、内部にはインクが充填された多孔質体を有しており、多孔質体の毛管力によりインクジェットヘッドへ供給されるインクをわずかな負圧に維持している。
また、記録ヘッドとしてここでは各色のヘッド124を用いているが、各色のインク滴を吐出するノズルを有する1個のヘッドでもよい。
【0122】
ここで、キャリッジ123は後方側(用紙搬送方向下流側)を主ガイドロッド121に摺動自在に嵌装し、前方側(用紙搬送方向上流側)を従ガイドロッド122に摺動自在に載置している。
そして、このキャリッジ123を主走査方向に移動走査するため、主走査モータ127で回転駆動される駆動プーリ128と従動プーリ129との間にタイミングベルト130を張装し、このタイミングベルト130をキャリッジ123に固定しており、主走査モータ127の正逆回転によりキャリッジ123が往復駆動される。
【0123】
一方、給紙カセット114にセットした用紙113をヘッド124の下方側に搬送するために、給紙カセット114から用紙113を分離給装する給紙ローラ131及びフリクションパッド132と、用紙113を案内するガイド部材133と、給紙された用紙113を反転させて搬送する搬送ローラ134と、この搬送ローラ134の周面に押し付けられる搬送コロ135及び搬送ローラ134からの用紙113の送り出し角度を規定する先端コロ136とを設けている。
搬送ローラ134は副走査モータ137によってギヤ列を介して回転駆動される。
【0124】
そして、キャリッジ123の主走査方向の移動範囲に対応して搬送ローラ134から送り出された用紙113を記録ヘッド124の下方側で案内する用紙ガイド部材である印写受け部材139を設けている。
この印写受け部材139の用紙搬送方向下流側には、用紙113を排紙方向へ送り出すために回転駆動される搬送コロ141、拍車142を設け、さらに用紙113を排紙トレイ116に送り出す排紙ローラ143及び拍車144と、排紙経路を形成するガイド部材145,146とを配設している。
【0125】
記録時には、キャリッジ123を移動させながら画像信号に応じて記録ヘッド124を駆動することにより、停止している用紙113にインクを吐出して1行分を記録し、用紙113を所定量搬送後次の行の記録を行う。
記録終了信号または、用紙113の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了させ用紙113を排紙する。
【0126】
また、キャリッジ123の移動方向右端側の記録領域を外れた位置には、ヘッド124の吐出不良を回復するための回復装置147を配置している。
回復装置147はキャップ手段と吸引手段とクリーニング手段を有している。
【0127】
キャリッジ123は印字待機中にはこの回復装置147側に移動されてキャッピング手段でヘッド124をキャッピングされ、吐出口部を湿潤状態に保つことによりインク乾燥による吐出不良を防止する。
また、記録途中などに記録と関係しないインクを吐出することにより、全ての吐出口のインク粘度を一定にし、安定した吐出性能を維持する。
【0128】
吐出不良が発生した場合等には、キャッピング手段でヘッド124の吐出口(ノズル)を密封し、チューブを通して吸引手段で吐出口からインクとともに気泡等を吸い出し、吐出口面に付着したインクやゴミ等はクリーニング手段(不図示)により除去され吐出不良が回復される。
また、吸引されたインクは、本体下部に設置された廃インク溜(不図示)に排出され、廃インク溜内部のインク吸収体に吸収保持される。
【0129】
このように、このインクジェット記録装置においては本発明に係る液体吐出ヘッドであるインクジェットヘッドを搭載しているので、コストの低減を図ることができる。
なお、上記実施形態においては、本発明に係る液体吐出ヘッドをインクジェットヘッドに適用したが、インク以外の液体の滴、例えば、パターニング用の液体レジストを吐出する液体吐出ヘッド、遺伝子分析試料を吐出する液体吐出ヘッドなどにも適用することできる。
【0130】
また、上記実施形態では、振動板を有する電気機械変換素子を駆動手段に用いたヘッドで説明したが、その他の静電型ヘッド、サーマル型ヘッド(ただし、振動板はない。)にも適用することができる。
【実施例】
【0131】
以下にエポキシ接着剤及びインクジェットインク、インクジェットヘッドについて説明する。以下において、「部」と「%」は重量基準である。
なお、得られたインクジェットヘッド製造用エポキシ樹脂組成物は後述する試験で評価した。
【0132】
(インクジェットインクの製造例)
ポリマー溶液Aの調整
機械式攪拌機、温度計、窒素ガス導入管、還流管及び滴下ロートを備えた1Lのフラスコ内を充分に窒素ガス置換した後、スチレン11.2g、アクリル酸2.8g、ラウリルメタクリレート12.0g、ポリエチレングリコールメタクリレート4.0g、スチレンマクロマー4.0g及びメルカプトエタノール0.4gを混合し、65℃に昇温した。次にスチレン100.8g、アクリル酸25.2g、ラウリルメタクリレート108.0g、ポリエチレングリコールメタクリレート36.0g、ヒドロキシルエチルメタクリレート60.0g、スチレンマクロマー36.0g、メルカプトエタノール3.6g、アゾビスメチルバレロニトリル2.4g及びメチルエチルケトン18gの混合溶液を2.5時間かけて、フラスコ内に滴下した。滴下後、アゾビスメチルバレロニトリル0.8g及びメチルエチルケトン18gの混合溶液を0.5時間かけて、フラスコ内に滴下した。65℃で1時間熟成した後、アゾビスメチルバレロニトリル0.8gを添加し、更に1時間熟成した。反応終了後、フラスコ内にメチルエチルケトン364gを添加し、濃度が50%のポリマー溶液800gを得た。
【0133】
顔料樹脂分散液の調整
ジョンクリル679(BASF製、分子量7000、酸価200)を7.7g、トリエタノールアミン22.5g、2−プロパノール0.8gと水331gと攪拌し溶解した均一な状態とする。そこにC.I..ピグメントブルー15:3を155gを撹拌しながら混合して、ビーズミルにて顔料を2時間分散する。純水483gを添加して超遠心分離機で粗大粒子を除去して、顔料分15.5%の青色顔料分散液を得た。
【0134】
インクの製造は以下の手順で行ったが、これに限定されるものではない。まず湿潤剤、浸透剤、界面活性剤、水を混合し一時間攪拌を行い均一に混合する。この混合液に対して色材、消泡剤を添加し、一時間攪拌する。この分散液を0.8μmセルロースアセテートメンブランフィルターにて加圧濾過し、粗大粒子やごみを除去して評価に用いるインクを得た。
インク組成は表1に示す。上記方法で調合し、評価用インクAとした。
【0135】
【表1】

【0136】
(エポキシ接着剤の製造例)
下記表2の処方に従い、実施例1、比較例1〜3のエポキシ接着剤を作製した。
なお、表2中の水酸基を有しないエポキシ樹脂モノマーであるDIC製 HP−7200HHは、常温固体である。また、表2中のjERキュアDICY15はアミン系硬化剤、キュアゾール2PZはイミダゾール系硬化剤である。
【0137】
【表2】

【0138】
(エポキシ接着剤評価方法)
なお、接着条件等は各実施例、比較例に記載した。
(i)初期接着性:剥離強度試験で行った。
剥離強度試験:幅140μm、長さ2000μmのスリットを150dpiピッチで形成し、このスリット群が4列に配列して、スリット位置が42.3μmずつずれて配置された、幅19mm、厚み40μmの圧延SUS304板(接着面積率は64.7%)に、接着面に対してエポキシ接着剤を乾燥膜厚で0.6μmになるように塗布し、溶剤を真空乾燥させ、85%RHに保った密閉空間に20分放置した後、SUS304の幅19mm、厚み50μmの圧延SUS平板と重ね合わせて240cN・mで加圧しつつ加熱して接着したサンプルを卓上型材料試験機((株)オリエンテック製、テンシロンSTA−1150)にて90°方向剥離強度測定5mm/minの速度で5mm剥離させたときの平均剥離強度を測定した。
○:2N以上、△:1.5Nより大きく2N未満、×:1.5N以下とした。
【0139】
(ii)接着信頼性:上記(i)と同様にして作成した接合サンプルについて、耐インク試験(インク浸漬;評価インクA,60℃、2週間)を実施後、剥離強度試験を行った。
初期剥離強度と比較し、剥離強度低下率を求めた。
初期接着性:○:2N以上、△:1.5Nより大きく2N未満、×:1.5N以下とした。
接着信頼性:○:低下率5%以下、△:低下率5%より大きく10%未満、×:低下率10%以上1.5N以下とした。
【0140】
(インクジェットヘッド吐出評価)
インクジェットヘッドに関しては、上記説明に準じたインクジェットヘッドを実施例のエポキシ接着剤を用いて流路板とノズルプレートを接合させ、評価用のインクジェットヘッドとした。作成したインクジェットヘッドは、表1及び表2に示すインクと接着剤の組合せに応じて評価を行った。インクジェットヘッドの評価を以下に示す。
【0141】
(a)インク充填性:インクジェットヘッドに対して、ヘッドにインクを供給できるように配管し、ノズル面側から50kPa、1分間吸引後、ヘッド面をメンテナンスし適切な負圧を形成して吐出させたときの、吐出率(吐出ノズル数/全ノズル数×100)を評価した。吐出率が98%以上を○、吐出率が90%以上を△、吐出率が90%未満を×とした。
【0142】
(b)耐インク信頼性:インクを充填したインクジェットヘッドを、60℃、3ヶ月間放置し、放置後の吐出速度の状態を評価した。全ノズルの吐出速度が放置前の平均に対して±10%未満を満たす場合を○、それ以上の場合を×とした。
【0143】
以上の評価の結果を、下記表3に示す。
【0144】
【表3】

【0145】
上記表3に示す結果から明らかなように、実施例1では、長期に亘り充分な接着性とインク吐出性を有することがわかった。
【符号の説明】
【0146】
71 オリフィス
72 オリフィスプレート
73 圧力室
74 圧力室プレート
75 リストリクタ
76 リストリクタプレート
77 ダイヤフラム
78 フィルタ
79 ダイヤフレームプレート
80 穴部
81 サポートプレート
82 共通液通路
83 ハウジング
84 接着剤
85 圧電アクチュエータ
86 圧電振動子
87 外部電極
88 導電性接着剤
89 支持基板
90 個別電極
91 共通電極
92 スルーホール
93 液導入パイプ
111 記録装置本体
112 印字機構部
113 用紙
114 給紙カセット
115 手差しトレイ
116 排紙トレイ
121 主ガイドロッド
122 従ガイドロッド
123 キャリッジ
124 ヘッド
125 インクカートリッジ
127 主走査モータ
128 駆動プーリ
129 従動プーリ
130 タイミングベルト
131 給紙ローラ
132 フリクションパッド
133 ガイド部材
134 搬送ローラ
135 搬送コロ
136 先端コロ
137 副走査モータ
139 印写受け部材
141 搬送コロ
142 拍車
143 排紙ローラ
144 拍車
145,146 ガイド部材
147 回復装置
【先行技術文献】
【特許文献】
【0147】
【特許文献1】特公平2−51734号公報
【特許文献2】特公昭61−59911号公報
【特許文献3】特開平6−71882号公報
【特許文献4】特開2005−220296号公報
【特許文献5】特許4277898号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴を吐出する吐出口を有するノズル板と、前記吐出口が連通する個別液室を有する流路板と、を備え、
前記ノズル板と前記流路板とは、エポキシ接着剤が硬化して接合されてなり、
アミド系有機溶剤と、水と、を含むインクを吐出し、
前記アミド系有機溶剤量は、前記インク中に20重量%以上含有されてなり、且つ、N−メチルピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、及び下記構造式(1)で示される化合物のいずれか1以上を含み、
前記エポキシ接着剤は、(A)水酸基を有しないエポキシ樹脂モノマーと、(B)アミン系硬化剤と、を含有することを特徴とする液体吐出ヘッド。
【化1】

【請求項2】
前記アミド系有機溶剤は、前記インク中に40重量%以上含有されてなることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
液体吐出ヘッドを備えて画像を形成する画像形成装置であって、
前記液体吐出ヘッドは、請求項1または2に記載の液体吐出ヘッドであることを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−232418(P2012−232418A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−100561(P2011−100561)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】