説明

液体吐出ヘッドのクリーニング方法および液体吐出装置

【課題】無駄な液体の消費を抑制しながら確実に吐出不良を解消できる液体吐出ヘッドのクリーニング方法を提案すること。
【解決手段】インクジェットプリンター1のクリーニング制御手段は、所定のタイミングでノズルチェックを行い、1つでも不良ノズルが検出されると、少ないインク量で確実に目詰まりを解消するためのクリーニングを行う。このため、CL経過時間を計時するタイマーの計時値、および、累積キャップ開放時間(累積印刷時間)を計時するタイマーの計時値を検出し、TCLテーブルを用いてクリーニング強度を決定する。具体的には、CL経過時間≧T1、および、累積キャップ開放時間≧T2の少なくともいずれかを満たす場合には、インク吐出量1gの強いインク吸引動作を行う。一方、CL経過時間<T1、且つ、累積キャップ開放時間<T2の場合には、インク吐出量0.15gの微弱なインク吸引動作を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットヘッドなどの液体吐出ヘッドにおける液体吐出ノズルの吐出不良を解消するためのクリーニング方法に関し、特に、クリーニングの際のインクの吐出量を削減可能なクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット式の印刷ヘッドを有するプリンターにおいては、印刷ヘッドのインク吐出用ノズルが、ノズル内に残っているインクの増粘や紙粉などの付着によって目詰まりしたり、あるいは気泡の混入によって正常にインクを吐出できなくなる場合がある。このような吐出不良が起きると印刷品位が低下するため、定期的にあるいは所定のタイミングでノズルの吐出不良の有無を検査し、この検査結果に基づき、吐出不良を解消するためのクリーニングを行うものがある。特許文献1には、この種のインクジェットプリンターが開示されている。
【0003】
特許文献1のプリンターは、クリーニング実行指令が入力された場合には、まず、吐出不良状態のノズルを検出する処理を行う。そして、吐出不良状態のノズル(以下、不良ノズルという)が1つでも検出された場合にはクリーニングを実行する。このとき、実行するクリーニングの内容を、検出された不良ノズル数、および、プリンターが予め設定した不良ノズル多発条件を満たした状態であるか否かに基づいて決定する。不良ノズル多発条件とは、ノズルの目詰まりや気泡の混入が発生している可能性が高い状態か否かを判定するための条件である。このようにすると、インクジェットヘッドの状態に応じてクリーニングの強度を決定することができるため、効率的なクリーニングを行うことができる。
【0004】
特許文献1では、プリンターに一定以上の衝撃が加わったことを検出した場合(衝撃検出フラグセット時)や、プリンターの開閉カバーを閉じるカバークローズ動作が行われた場合(カバークローズフラグセット時)に、不良ノズル多発条件に該当すると判断する。また、直近のインク吐出動作(印刷処理あるいはクリーニング処理)からの経過時間が所定の長さ以上となった場合(タイマーAIDフラグセット時)や、クリーニングの実行タイミングとなったにも拘わらず、何らかの理由によってクリーニングの実行が保留された場合(AID保留フラグセット時)には、不良ノズル多発条件に該当すると判断する。更に、プリンターが起動してから1度もクリーニングが行われていない場合(起動フラグセット時)にも、不良ノズル多発条件に該当すると判断する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−208420公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のプリンターは、吸引用のポンプモータに接続されたヘッドキャップを備えており、クリーニングの実行時には、このヘッドキャップを印刷ヘッドのノズル面を封鎖する位置に移動させてポンプモータを作動させ、インクを吸引する。従って、クリーニングを行っていない期間であっても、印刷動作を行わない待機期間中にはこの吸引用ヘッドキャップでノズル面を密閉し、ノズル内のインクの水分の蒸発を抑制してインクの増粘を抑制することができる。
【0007】
ここで、吸引用のヘッドキャップ内にはインク吸収材などが配置されている。ヘッドキャップに向けて吐出されたインクは、インク吸収材などに吸収されてキャップ内に溜まる。ヘッドキャップがキャッピングを行わない状態(キャップ開放状態)で長時間放置されると、キャップ内に溜まった吐出済みインクが外気に長時間さらされることになり、吐出済みインクからの水分の蒸発が進む。印刷ヘッドから吐出されるインクには保湿成分が含まれるため、キャップ内の吐出済みインクから水分が奪われると、その後にキャッピングを行ったときに、ノズル内のインクに含まれる水分が、吐出済みインク中の保湿成分によってキャップ側に奪われてしまう。つまり、ヘッドキャップの開放時間が長いと、キャッピングによってかえってノズル内のインクの増粘が促進され、増粘に起因する目詰まりが発生しやすい状況となる場合がある。
【0008】
本願出願人は、不良ノズルが発生したとき、その原因がノズル内のインクの増粘であった場合には、強力なクリーニング(インク吐出量の多いクリーニング)を行わないと吐出不良を解消できないという知見を得た。一方、吐出不良の原因が紙粉の付着などの増粘以外の原因であった場合には、微弱なクリーニング(インク吐出量の少ないクリーニング)でも吐出不良を解消できるという知見を得た。そして、この知見に基づき、吐出不良の原因が増粘であるか否かを判断し、この判断結果に基づいてクリーニングの強度を決定すれば、微弱なクリーニングで済む場合にまで強力なクリーニングを行わないようにすることができ、少ないインク消費量でノズルを回復させることができるとの着想を得た。
【0009】
特許文献1では、各種の不良ノズル多発条件を想定してこれに基づいてクリーニング強度を決定しているものの、キャッピング中に吐出済みインク中の保湿成分によって水分が奪われてインクの増粘が進むという事態については想定していなかった。また、特許文献1では、インクの増粘と他の吐出不良の発生原因とを同等に扱っており、インクの増粘による吐出不良の場合と他の原因による吐出不良の場合とで、吐出不良の解消に要するインク量が異なることを考慮していなかった。
【0010】
本発明の課題は、この点に鑑みて、不良ノズルの発生時には、その発生原因がノズル内の液体の増粘によるものか否かを考慮してクリーニング強度を決定することにより、不必要に強いクリーニングの実行を抑制して無駄な液体の消費を抑制しながら、確実に吐出不良を解消できる液体吐出ヘッドのクリーニング方法および液体吐出装置を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明は、液体吐出動作を行わないときにはキャッピング部材によりノズル面をキャッピングするように構成された液体吐出ヘッドのクリーニング方法であって、
前記液体吐出ヘッドの各ノズルにおける吐出不良の有無を検査し、
吐出不良状態のノズルが予め設定された基準数以上検出された場合には、前記ノズルを吐出不良状態から回復させるためのクリーニングを行い、
当該クリーニングの内容を、直近のクリーニングからの経過時間、および、直近のクリーニング以降の前記キャッピング部材の外気への開放時間を累積した累積キャップ開放時間に基づいて決定することを特徴としている。
【0012】
本発明は、このような構成により、ノズルの吐出不良が検出されたときに行うクリーニングの内容を、ノズル内で液体の増粘が起こっているか否かに基づいて決定できる。すなわち、増粘が確実に解消されたと推定される時点からの経過時間(直近のクリーニングからの経過時間)、および、キャッピング部材内に溜まった吐出済みインク中の水分が過度に奪われ、吐出済みインク中の保湿成分によって逆にノズル内の増粘を促進するような状態となっているか否か(直近のクリーニング以降のキャッピング部材の外気への開放時間の累積値)に基づいてクリーニングの内容を決定できる。このように、キャップ側の保湿成分に起因する増粘までも考慮することにより、増粘の有無を従来よりも正確に推定でき、増粘の有無に基づいてクリーニングの内容(液体の吐出量)を決定できる。例えば、吐出不良の原因が増粘であると推定されるときには、その回復に必要な強いクリーニングを行い、吐出不良の原因が増粘でないと推定されるときには、弱いクリーニングのみで吐出不良を回復させることができる。よって、従来よりも効率的にクリーニングを行うことができ、不必要に強いクリーニングを行うことなく確実に吐出不良を回復させることができる。
【0013】
この場合に、前記累積キャップ開放時間を、直近のクリーニング以降に前記液体吐出ヘッドが液体吐出動作を行った時間を累積した累積吐出時間に基づいて把握することができる。液体吐出動作の際には液体吐出ヘッドをキャッピングしていないことは確実であるため、キャップ内の保湿剤が外気と接触している時間は、液体吐出動作の時間を累積した時間と同一、あるいは、これ以上となる。従って、累積吐出時間に基づき、累積キャップ開放時間を把握することができる。
【0014】
本発明において、予め、強および弱の2段階のクリーニング強度を設定しておき、前記経過時間が予め設定した基準経過時間以上であるか、もしくは、前記累積吐出時間が予め設定した基準累積時間以上であった場合には、前記クリーニング強度を強に設定して前記クリーニングを行い、前記経過時間が前記基準経過時間未満であり、且つ、前記累積吐出時間が前記基準累積時間未満であった場合には、前記クリーニング強度を弱に設定して前記クリーニングを行うように構成することができる。このようにすると、吐出不良の原因が増粘ではないと保証できる時間領域を設定して、その範囲ではクリーニング強度を弱にすることができるため、吐出不良ノズル数が多い場合においても、弱いクリーニングで吐出不良を回復させることができる。
【0015】
このとき、前記クリーニング強度を強に設定した場合には、各ノズルからの液体の吐出量の多い前記クリーニングを行い、前記クリーニング強度を弱に設定した場合には、各ノズルからの液体の吐出量の少ない前記クリーニングを行う構成にすることができる。このような構成では、従来よりも少ない液体消費量で有効なクリーニングを行うことができ、少ない液体消費量で、確実に吐出不良を回復させることができる。
【0016】
ここで、前記液体吐出ヘッドがインクジェットヘッドである場合には、前記累積吐出時間として、直近のクリーニング以降に前記インクジェットヘッドが印刷動作を行った時間を累積した累積印刷時間を用いることができる。
【0017】
また、前記クリーニングとして、前記キャッピング部材により前記液体吐出ヘッドのノズル面の周囲に密閉空間を形成し、当該密閉空間を減圧することにより各ノズル内の液体を吸引して前記キャッピング部材内に吐出させる吸引動作を行うことができる。この場合には、吸引動作の強度を制御して所望の量の液体を吐出させることができる。従って、増粘の有無に応じた強度のクリーニングを行うことができ、少ない液体消費量で確実に吐出不良を回復させることができる。
【0018】
次に、本発明の液体吐出装置は、
液体吐出ヘッドと、
液体吐出動作を行わないときに前記液体吐出ヘッドをキャッピングすると共に、前記液体吐出ヘッドのメンテナンス時に前記液体吐出ヘッドから吐出されたインクを受けるキャッピング部材と、
前記液体吐出ヘッドの各ノズルにおける吐出不良の有無を検査するためのノズルチェック手段と、
前記液体吐出ヘッドのノズルを吐出不良状態から回復させるためのクリーニングを行うクリーニング手段とを有し、
上記のクリーニング方法によって前記液体吐出ヘッドのクリーニングを行うことを特徴としている。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ノズルの吐出不良が検出されたときに行うクリーニングの内容を、ノズル内で液体の増粘が起こっているか否かに着目して決定できる。すなわち、増粘が確実に解消されたと推定される時点からの経過時間(直近のクリーニングからの経過時間)、および、キャッピング部材内に溜まった吐出済みインク中の水分が過度に奪われ、吐出済みインク中の保湿成分によって逆にノズル内の増粘を促進するような状態となっているか否か(直近のクリーニング以降のキャッピング部材の外気への開放時間の累積値)に基づいてクリーニングの内容を決定できる。このように、キャップ側の保湿成分に起因する増粘までも考慮することにより、増粘の有無を従来よりも正確に推定でき、増粘の有無に基づいてクリーニングの内容(液体の吐出量)を決定できる。よって、従来よりも効率的にクリーニングを行うことができ、不必要に強いクリーニングを行うことなく確実に吐出不良を回復させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本実施形態のインクジェットプリンターの主要部分を示す概略斜視図である。
【図2】ヘッドメンテナンスユニットを示す斜視図である。
【図3】ヘッドキャップおよびインクジェットヘッドが正対している状態を示す部分断面図である。
【図4】クリーニング強度の設定に用いるTCLテーブルの説明図である。
【図5】ノズルチェックおよびクリーニングの実行処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、図面を参照して、本発明の液体吐出装置の実施の形態であるインクジェットプリンターおよびインクジェットヘッドのクリーニング方法を説明する。
【0022】
(インクジェットプリンターの全体構成)
図1はインクジェットプリンターの主要部分を示す概略斜視図である。インクジェットプリンター1(液体吐出装置)は、複数種類のカラーインクを用いて記録紙にカラー印刷を行うものであり、全体として直方体形状をしたプリンターケース2を備えている。プリンターケース2の前面中央部分には記録紙排出口3が形成され、記録紙排出口3の下部には記録紙排出ガイド4及び開閉蓋5が取り付けられている。開閉蓋5の左側には、プリンター前後方向に延びる縦長の長方形断面のインクカートリッジ装着部6が設けられ、このインクカートリッジ装着部6にインクカートリッジ7が装着されている。不図示のボタンを操作すると、ロックが解除されてインクカートリッジ7がばね力によって前方に押し出され、インクカートリッジ7を引き抜くことが可能となっている。
【0023】
プリンターケース2の内部には、プリンター機構部10が配置されている。プリンター機構部10における記録紙排出口3の後方には、印刷領域を規定しているプラテン11がプリンター幅方向に架け渡されており、このプラテン11の上側には、インクジェットヘッド12(液体吐出ヘッド)およびこれを搭載したキャリッジ13が配置されている。インクジェットヘッド12は、シアン、マゼンタ、イエローおよびブラックの4色のインクのそれぞれが供給されるヘッド内流路と、このヘッド内流路から供給された各色のインクを吐出するためのノズルを備えている。インクジェットヘッド12は、各ノズルが開口するノズル面12a(図3参照)がプラテン11の側を向くように配置されている。インクジェットヘッド12の各ヘッド内流路は、プリンター機構部10の後方に配置された可撓性インクチューブ14a〜14dを介して、インクカートリッジ7の側に連通している。
【0024】
キャリッジ13は、プリンター幅方向に架け渡したキャリッジガイド軸13aに沿って、プラテン11から右側に外れた図1において実線で示すホームポジションHPから、プラテン11の左側に外れた図1において想像線で示すアウェイポジションAPまでの間を往復移動する。インクジェットプリンター1は、不図示の記録紙搬送機構によって記録紙をプラテン11の表面に沿って搬送し、この搬送動作と連動してキャリッジ13を走査しながら記録紙に向けてインクジェットヘッド12のノズルからインクを吐出することにより、記録紙への印刷を行う。
【0025】
インクカートリッジ7から供給されるインクは、保湿剤(保湿成分)および水分を含有している。保湿剤としては、グリセリンやジエチレングリコール等の多価アルコール類が用いられる。多価アルコール類は、吸湿性を有するため、インクに含有させることで、インクノズル内でのインクの増粘を抑制してノズルの目詰まりを抑制することができる。インクにおける水分と保湿剤の含有量は、例えば、水分が55〜70%程度、保湿剤が15〜20%程度とすることができる。また、これらの含有量は、インクの色によっても異なる。例えば、マゼンダインクは、4色のインクの中で、水分および保湿剤の含有量が最も少ないインクである。
【0026】
(ヘッドメンテナンスユニット)
図2はヘッドメンテナンスユニットを示す斜視図である。ヘッドメンテナンスユニット20(ノズルチェック手段/クリーニング手段)は、キャリッジ13のホームポジションHPの下側の部位に配置されている。ヘッドメンテナンスユニット20は、全体としてプリンター前後方向に細長い直方体形状をしたユニットケース21を備えている。このユニットケース21の前側部分の上端に、インクジェットヘッド12のノズル面12aをキャッピングするためのヘッドキャップ22(キャッピング部材)が配置されている。ヘッドキャップ22の下側にはヘッドキャップ昇降機構(図示せず)が組み込まれている。
【0027】
図3はヘッドキャップおよびインクジェットヘッドが正対している状態を示す部分断面図である。この図に示すように、ヘッドキャップ22は上方に開口した矩形断面のものである。キャリッジ13がホームポジションHPにある状態でヘッドキャップ22を上昇させると、インクジェットヘッド12のノズル面12aがヘッドキャップ22により下側からキャッピングされた状態となる。
【0028】
ヘッドキャップ22の底部にはインク吸収材23が保持されている。ヘッドキャップ22によりノズル面12aを封止すると、インク吸収材23がヘッドキャップ22内に吐出されたインクを吸収する。また、ヘッドキャップ22の底部には、インク吸収材23と電気的に導通するように導電材24が取り付けられている。導電材24を流れた電気信号は配線などによって取り出され、インクジェットプリンター1の制御部に入力される。ヘッドキャップ22と対峙しているノズル面12aの各ノズルから帯電したインクを吐出すると、吐出された各インク液滴がインク吸収材23に着弾する際に生じる電流変化の信号を取り出すことができる。ノズルからインクを吐出させたにも関わらず、この信号が所定の閾値以下の場合、ノズルの吐出不良と判断することができる。
【0029】
このように、導電材24を流れた電気信号に基づいてノズル面12aにおける不良ノズルの位置および数を検出するノズルチェックを行うときには、インク吸収材23とノズル面12aとの隙間が所定の寸法になるようにヘッドキャップ22を位置決めし、この状態で、インクジェットヘッド12とヘッドキャップ22が所定のしきい値以上の電位差になるように電圧を印加した状態で行う。これにより、インク液滴の吐出状態を精度良く検査することができる。
【0030】
ヘッドキャップ22には、チューブポンプ25(図2参照)および廃インクチューブ26(図2参照)が接続されている。チューブポンプ25は、ユニットケース21の後側の部分に組み込まれている。ヘッドキャップ22内に吐出あるいは吸引された廃インクは、インク吸収材23に保持される。この廃インクは、チューブポンプ25を駆動することにより、廃インクチューブ26を通ってインクカートリッジ装着部6に装着されているインクカートリッジ7内の廃インク収納部に回収される。
【0031】
ヘッドメンテナンスユニット20は、吐出不良ノズルを解消させるためのクリーニング動作として、ヘッドキャップ22によりノズル面12aをキャッピングした状態において印刷とは無関係にインク液滴を吐出させるフラッシングを行うことができる。また、この状態でチューブポンプを駆動することにより、キャッピングされたノズル面12aの各ノズルからインクを吸引して排出させるインク吸引動作を行うことができる。
【0032】
(制御系)
インクジェットプリンター1の制御系は、CPUおよびROM、RAMなどの記憶領域を備えた制御部を中心に構成されている。制御部はホスト装置などと接続されており、ホスト装置から受信する印刷データやコマンドに基づいてインクジェットプリンター1の各部を制御する。制御部は、受信した印刷データに基づいて不図示の記録紙搬送機構を駆動して、プラテン11の表面に沿って記録紙を搬送する。そして、この搬送動作と連動してキャリッジ駆動機構13bを駆動してキャリッジ13を走査しながら記録紙に向けてインクジェットヘッド12からインクを吐出することにより、記録紙への印刷を行う。そして、印刷終了後は、キャリッジ13をホームポジションHPに移動させて待機させる。このとき、制御部は、ヘッドキャップ22を上昇させ、インクジェットヘッド12をキャッピングした状態で待機させる。
【0033】
制御部はクリーニング制御手段を備えており、クリーニング制御手段は、クリーニング動作として、上記のインク吸引動作を行うようにプリンター機構部10の各部を制御する。また、クリーニング制御手段は、クリーニング動作として、インク吸引動作とフラッシングのどちらか、あるいは両方を適宜組み合わせて行うように、プリンター機構部10の各部を制御することもできる。
【0034】
クリーニング制御手段は、クリーニングコマンドを受信すると、当該コマンドにおいて指定されている内容のクリーニングを実行する。あるいは、予め設定したクリーニング実施条件を満たした場合に、実施条件に対応する内容のクリーニングを実行する。クリーニング制御手段は、予め設定された様々な強度でクリーニングを実行することができる。例えば、インク吸引動作を行う場合には、チューブポンプ25のモーターの回転数や回転時間を制御することにより、クリーニングの強度(吸引によるインクの吐出量)を制御する。また、フラッシング動作を行う場合には、吐出させるインク量を制御することにより、クリーニングの強度を制御する。
【0035】
クリーニング制御手段は、直近に行ったクリーニングからの経過時間(以下、CL経過時間という)を計るための計時手段を備えている。例えば、クリーニングを行う毎に計時値がリセットされるタイマーにより、任意のタイミングでCL経過時間を把握する。また、クリーニング制御手段は、ヘッドメンテナンスユニット20のヘッドキャップ22が、直近に行ったクリーニング以後に、ノズル面12aをキャッピングしない状態(開放状態)で放置された時間を累積した値(累積キャップ開放時間)を計るためのタイマーなどの計時手段を備えている。クリーニング制御手段は、これらのCL経過時間および累積キャップ開放時間に基づき、クリーニング強度の設定を行う。
【0036】
ここで、インクジェットプリンター1では、印刷中は必ずヘッドキャップ22が開放状態となっていることを考慮すると、累積キャップ開放時間は、インクジェットヘッド12が印刷動作(インク吐出動作/液体吐出動作)を行った時間を累積した値(累積印刷時間/累積吐出時間)と一致するか、もしくは、少なくとも累積印刷時間以上の値となる。本実施形態では、インクジェットヘッド12の印刷動作中のみタイマーの計時値を進めるように構成すると共に、このタイマーをクリーニングを行う毎にリセットすることにより、印刷動作を行った時間の累積値である累積印刷時間を把握する。そして、この累積印刷時間を累積キャップ開放時間として処理する。なお、印刷中以外にキャップを開放することが想定される場合には、この印刷中以外の開放時間を累積印刷時間に加えた時間を算出し、これを累積キャップ開放時間として処理することもできる。
【0037】
(クリーニング方法)
クリーニング制御手段は、上述したヘッドメンテナンスユニット20を用いて、不良ノズルの位置および数を検出するノズルチェックを行った場合に、この結果に基づいてクリーニングの要否を判断する。本実施形態では、ノズルチェックにおいて吐出不良ノズルが1つでも検出された場合にはクリーニングが必要であると判断し、クリーニングを実行する。このとき、実行するクリーニングの強度を、図4に示すタイマークリーニングテーブル(以下、TCLテーブルという)に基づいて設定する。
【0038】
図4はクリーニング強度の設定に用いるTCLテーブルの説明図である。インクジェットプリンター1の制御部における所定の記憶領域には、このTCLテーブルが記憶されている。TCLテーブルの横軸は、上述したCL経過時間(直近に行ったクリーニングから現時点(ノズルチェックの実行時点)までの経過時間)である。また、TCLテーブルの縦軸は、上述した累積キャップ開放時間(直近に行ったクリーニング以降に、ヘッドキャップ22がノズル面12aをキャッピングしない状態(開放状態)で放置された時間)である。TCLテーブルには、これらのCL経過時間および累積キャップ開放時間の2つの指標値の組み合わせに応じて、クリーニング強度を「強」に設定するための強領域R1、および、クリーニング強度を「弱」に設定するための弱領域R2が設定されている。
【0039】
TCLテーブルにおける強領域R1は、CL経過時間≧T1(基準経過時間)、および、累積キャップ開放時間≧T2(基準累積時間)、の少なくともいずれかの条件式を満たす領域である。また、弱領域R2は、CL経過時間<T1、且つ、累積キャップ開放時間<T2の両方の条件式を満たす領域である。T1、T2の値は実験等によって予め設定しておくことができる。
【0040】
T1(基準経過時間)は、インクの吐出を行わない状態が続いたときに、吐出不良を引き起こすほどの増粘状態が発生しないと保証できる最長の経過時間である。本実施形態では、クリーニングを行うと確実に増粘が解消されるように構成しているため、直近のクリーニングからの経過時間であるCL経過時間がT1以上のときは、ノズルの吐出不良の原因は増粘である可能性が高いと判断できる。一方、CL経過時間がT1未満のときは、ノズルの吐出不良の原因は、少なくとも長時間クリーニングを行っていないことに起因する増粘によるものではないと判断できる。
【0041】
一方、T2(基準累積時間)は、ヘッドキャップ22内の吐出済みインクが、キャッピング時にノズル内のインクから水分を奪って増粘させるほどには乾燥していないと保証できる最長の累積キャップ開放時間である。従って、累積キャップ開放時間がT2以上のときは、ノズルの吐出不良の原因は増粘である可能性が高いと判断できる。一方、累積キャップ開放時間がT2未満のときは、ノズルの吐出不良の原因は、少なくともヘッドキャップ22内の吐出済みインクに含有される保湿成分に起因する増粘によるものではないと判断できる。
【0042】
インクジェットプリンター1の制御部における所定の記憶領域には、上記の「強」「弱」の2段階のクリーニング強度に対応するクリーニング手段(ヘッドメンテナンスユニット20等)の制御値が記憶されている。本実施形態では、クリーニング強度を「強」にした場合には、インクの吐出量が1gとなるようなインク吸引動作を行う。このクリーニング強度は、増粘に起因する吐出不良を確実に解消できる最小限の強度である。一方、クリーニング強度を「弱」にした場合には、インクの吐出量が0.15gとなるようなインク吸引動作を行う。このクリーニング強度は、増粘以外の要因(紙粉の付着など)に起因する吐出不良を確実に解消できる最小限の強度である。
【0043】
図5は、ノズルチェックおよびクリーニングの実行処理のフローチャートである。インクジェットプリンター1の制御部は、タイマーで設定されたタイミングや、インクジェットプリンター1が予め設定されたノズルチェックを実行すべき状態になったタイミング、あるいは、ホスト装置からノズルチェック実行コマンドを受信したタイミングなどの各種のタイミングで、このフローチャートの処理を開始する。
【0044】
クリーニング制御手段は、まず、ステップS1において、インクジェットヘッド12のノズルチェックを実行する。具体的には、上述したように、ノズル面12aをヘッドキャップ22で封止して各ノズルから所定量のインクを吐出し、インク液滴の着弾時の電流変化に基づき、正常にインクを吐出できない不良ノズルの有無を検査する。
【0045】
次に、クリーニング制御手段は、ステップS2において、ノズルチェックにおいて不良ノズルが検出されたか否かを判定する。不良ノズルが1つでも検出された場合には、ステップS3に進む。一方、不良ノズルが1つも検出されない場合には、この時点で処理を終了する。
【0046】
続いて、クリーニング制御手段は、ステップS3において、TCLテーブルを用いて、実行するクリーニングの強度を決定する。具体的には、CL経過時間を計時するタイマーの計時値を検出し、検出した計時値(CL経過時間)とT1との比較判定を行う。また、累積キャップ開放時間と同一の値として扱う累積印刷時間を計時するタイマーの計時値を検出し、検出した計時値(累積キャップ開放時間)とT2との比較判定を行う。そして、クリーニング制御手段は、CL経過時間≧T1、および、累積キャップ開放時間(累積印刷時間)≧T2、の少なくともいずれかの条件式を満たす場合にはステップS4に進む。一方、その他の場合、すなわち、CL経過時間<T1、且つ、累積キャップ開放時間(累積印刷時間)<T2の両方の条件式を満たす場合には、ステップS5に進む。
【0047】
ステップS4に進んだ場合には、クリーニング制御手段は、クリーニング強度を「強」に設定してクリーニングを実行する。具体的には、ノズル面12aをヘッドキャップ22で封止してチューブポンプ25を駆動し、インクの吐出量が1gとなるような強いインク吸引動作を行う。そして、クリーニングが終了すると、ステップS6に進む。一方、ステップS5に進んだ場合には、クリーニング制御手段は、クリーニング強度を「弱」に設定してクリーニングを実行する。具体的には、ノズル面12aをヘッドキャップ22で封止してチューブポンプ25を駆動し、インクの吐出量が0.15gとなるような微弱なインク吸引動作を行う。そして、クリーニングが終了すると、ステップS6に進む。そして、ステップS6では、CL経過時間を計時するタイマーおよび累積キャップ開放時間(累積印刷時間)を計時するタイマーをリセットする。そして、クリーニングを終了する。
【0048】
以上のように、本実施形態では、不良ノズルが1つでも検出されたときにクリーニング行い、確実に不良ノズルを回復させるためのクリーニングを行う。そのために、実行するクリーニングの内容を、ノズル内で液体の増粘が起こっているか否かに着目して決定する。すなわち、増粘が確実に解消されたと推定される時点からの経過時間であるCL経過時間、および、キャッピング部材内の吐出済みインクの状態に対応する指標値である累積キャップ開放時間に基づいて増粘の有無を正確に推定する。そして、この推定結果に基づいて、増粘が発生していないと保証できる状態(TCLテーブルの弱領域R2)のときには、少ない量のインクを吐出する微弱なクリーニングを行う。また、増粘が発生していないと保証できない状態(TCLテーブルの強領域R1)のときには、多量のインクを吐出する強いクリーニングを行う。これにより、増粘による目詰まりを確実に解消しながら、増粘によらない目詰まりを不必要にインク吐出量の多いクリーニングを行わずに解消することができる。つまり、少ないインク消費量で有効なクリーニングを行い、無駄なインク消費を行うことなく確実に吐出不良を回復させることができる。
【0049】
(改変例)
上記実施形態では、弱領域R2に該当する状態のときは微弱なインク吸引動作を行い、強領域R1に該当する状態のときは強力なインク吸引動作を行っていたが、強領域R1および弱領域R2で行うクリーニングの内容は、このようなものに限定されない。例えば、強領域R1では強いインク吸引動作を実行し、弱領域R2ではインク吐出量の少ないフラッシングを行っても良い。また、各領域で、インク吸引動作とフラッシングを適宜組み合わせて行っても良い。
【0050】
(他の実施形態)
上記実施形態は、本発明をインクジェットプリンター1のクリーニング方法に適用した例であったが、本発明は、インク以外の液体を吐出する他の液体吐出装置における液体吐出ヘッドのクリーニング方法にも適用できる。例えば、試薬溶液や液状の試料などを液体吐出ヘッドから吐出するための液体吐出装置、液状塗料や液状材料を液体吐出ヘッドから吐出して印刷により塗布するための液体吐出装置、などにも適用可能である。
【符号の説明】
【0051】
1…インクジェットプリンター(液体吐出装置)、2…プリンターケース、3…記録紙排出口、4…記録紙排出ガイド、5…開閉蓋、6…インクカートリッジ装着部、7…インクカートリッジ、10…プリンター機構部、11…プラテン、12…インクジェットヘッド(液体吐出ヘッド)、12a…ノズル面、13…キャリッジ、13a…キャリッジガイド軸、13b…キャリッジ駆動機構、14a〜14d…可撓性インクチューブ、20…ヘッドメンテナンスユニット(ノズルチェック手段/クリーニング手段)、21…ユニットケース、22…ヘッドキャップ(キャッピング部材)、23…インク吸収材、24…導電材、25…インク吸収材、25…チューブポンプ、26…廃インクチューブ、AP…アウェイポジション、HP…ホームポジション、R1…強領域、R2…弱領域


【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体吐出動作を行わないときにはキャッピング部材によりノズル面をキャッピングするように構成された液体吐出ヘッドのクリーニング方法であって、
前記液体吐出ヘッドの各ノズルにおける吐出不良の有無を検査し、
吐出不良状態のノズルが予め設定された基準数以上検出された場合には、前記ノズルを吐出不良状態から回復させるためのクリーニングを行い、
当該クリーニングの内容を、直近のクリーニングからの経過時間、および、直近のクリーニング以降の前記キャッピング部材の外気への開放時間を累積した累積キャップ開放時間に基づいて決定することを特徴とする液体吐出ヘッドのクリーニング方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記累積キャップ開放時間を、直近のクリーニング以降に前記液体吐出ヘッドが液体吐出動作を行った時間を累積した累積吐出時間に基づいて把握することを特徴とする液体吐出ヘッドのクリーニング方法。
【請求項3】
請求項2において、
予め、強および弱の2段階のクリーニング強度を設定しておき、
前記経過時間が予め設定した基準経過時間以上であるか、もしくは、前記累積吐出時間が予め設定した基準累積時間以上であった場合には、前記クリーニング強度を強に設定して前記クリーニングを行い、
前記経過時間が前記基準経過時間未満であり、且つ、前記累積吐出時間が前記基準累積時間未満であった場合には、前記クリーニング強度を弱に設定して前記クリーニングを行うことを特徴とする液体吐出ヘッドのクリーニング方法。
【請求項4】
請求項3において、
前記クリーニング強度を強に設定した場合には、各ノズルからの液体の吐出量の多い前記クリーニングを行い、
前記クリーニング強度を弱に設定した場合には、各ノズルからの液体の吐出量の少ない前記クリーニングを行うことを特徴とする液体吐出ヘッドのクリーニング方法。
【請求項5】
請求項2ないし4のいずれかの項において、
前記液体吐出ヘッドはインクジェットヘッドであり、
前記累積吐出時間は、直近のクリーニング以降に前記インクジェットヘッドが印刷動作を行った時間を累積した累積印刷時間であることを特徴とする液体吐出ヘッドのクリーニング方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかの項において、
前記クリーニングとして、前記キャッピング部材により前記液体吐出ヘッドのノズル面の周囲に密閉空間を形成し、当該密閉空間を減圧することにより各ノズル内の液体を吸引して前記キャッピング部材内に吐出させる吸引動作を行うことを特徴とする液体吐出ヘッドのクリーニング方法。
【請求項7】
液体吐出ヘッドと、
液体吐出動作を行わないときに前記液体吐出ヘッドをキャッピングすると共に、前記液体吐出ヘッドのメンテナンス時に前記液体吐出ヘッドから吐出されたインクを受けるキャッピング部材と、
前記液体吐出ヘッドの各ノズルにおける吐出不良の有無を検査するためのノズルチェック手段と、
前記液体吐出ヘッドのノズルを吐出不良状態から回復させるためのクリーニングを行うクリーニング手段とを有し、
請求項1ないし6のいずれかの項に記載のクリーニング方法によって前記液体吐出ヘッドのクリーニングを行うことを特徴とする液体吐出装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−96367(P2012−96367A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−243300(P2010−243300)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】